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第6章 フィールドを知ろう(pdf形式:1232KB)

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第6章 フィールドを知ろう(pdf形式:1232KB)
第6章 フィールドを知ろう
6.1.
海底地形を熟知しよう
25m
20m
水深が 2∼3m 程度と浅く、比較的
フラットな岩棚が汀潮線から 20
11
3
10m
6
7
2
5
上部には小型紅藻類が繁茂し、
所々にスガモパッチが分布する。
9
秋にはたくさんのクジメ雄がな
わばりをはる。岩棚の斜面にはマ
1
4
5m
13
∼30m 沖まで広がっている。岩棚
10
15m
8
① 前浜(通称、クジメのシマ):
臼尻水産
臼尻
実験所
実験所
14
コンブ・ワカメ・スジメなどの大
型褐藻類が生い茂り、それよりす
こし深いところではアカモクの
15
海中林が広がる。春から初夏は、
シワイカナゴの雄がここになわ
12
ばりをはる。
② 起点の砂地:ダイビングスロー
プからまっすぐ降りた場所には、
③ヤセカジカ牧場跡地または⑤
ヌメリ広場につながる2本のラインの起点がある。比較的目の荒い砂地で、所々に礫石が転が
っている。冬季から春季にかけてはケウルシグサで覆われ、ギンポ類稚魚の良い隠れ家となる
が、その時期を過ぎると、カレイ類、アイナメの天国となる。
③ 養殖筏下(通称、ヤセカジカ牧場跡地):ヤセカジカ類の野外飼育ケージが設置されていた
場所である。ヤセカジカ類のほか、カレイ、アイナメ、ギンポ類など、たくさんの魚類がいる。
特に大型ババガレイに出会う確率が高い。しかし、ロープや土俵など養殖資材が沈んでいるた
め、深く中に立ち入らない方がよい。養殖資材とその付着生物は、魚類生態研究者にとっては、
未調査のハビタットで何が出てくるか楽しみであるが、周囲への注意を欠きやすいダイバーは
控えた方がよい。秋から初冬にかけては、アミメハギ、スズメダイ、キュウセンなどの季節回
遊魚(死滅回遊魚)がたむろする。
④ なんちゃってアマモ場:アマモ場というにはちょっと頼りない感じ。ヒメイカはここで採れ
る。時々コマイの若い衆がたむろっている。あちこちからの波は全てココに収束するのか、海
中に投げ捨てられた空き缶、ゴム手、フロートの墓場。
⑤ ヌメリ広場:カモメドームより手前は古くからある堤防で、コンブ類がびっしりと付着して
いる。ここの前の砂地には、セトヌメリがたくさんいる(ここにメチャ多い!)。そしてたい
そう貧弱なアマモパッチもみられる。
⑥ 消波ブロック帯(通称、アイナメ団地):カモメドームの建設とともに築かれた堤防で、根
固め用に礫石が大きな網袋に入って沈められており、その上に消波ブロックが積まれている。
36
この網袋、いろんな魚に産卵床として使われているようだ。代表選手はアイナメ、ケムシカジ
カ。また、網袋より西側には投石帯が続き、ニジカジカ、ナガヅカの新たな繁殖場になってい
ることが最近わかった。しかし、危険なポイントのひとつである。消波ブロックは崩れ落ちる
こともある、ということを忘れずに、接近する際も常に「逃げる準備」を持っていることが肝
要。ブロックの裏側には決して行かないこと。また、このポイントは、波立ちやすく、水面移
動が難しそうな日は、潜水をやめる勇気が必要。特に、北西の季節風が吹く季節は(主に秋)、
潜水中に海況が急変することが普通であることも念頭に入れておこう。
⑦ ニジカジカの岩場:大きなゴロタ石が積み重なって、比較的急で複雑な斜面を形成している。
大きな岩が積み重なって出来た隙間などに、春にはニジカジカのなわばりが形成される。他に
もエゾメバル(ガヤ)、ドンコ、ミズダコなどが岩の隙間に隠れている。さらに北に進むと、
大規模なアカモクの海中林が広がっている。
⑧ 小定置かき網(通称、サチコの寝室):岩礁と砂地の境界から、岩礁に直交するように小定
置網のかき網が張られている。斜路から北へ北へと進んでいった時に、そろそろこの辺で引き
返そうかな、といういい指標となる。斜面上部の岩裏にはイソバテング(地方名でサチコ)の
産卵床となるミケーレネンチャクカイメンが貼りついている。また、かき網の下に転がってい
る礫石の上にはコオリカジカの仲間がよく見られる。
⑨ 弁天海峡:斜面が切り立っていて、水深がある。そのため漁船が頻繁にここを行き来する。
1999 年 10 月 31 日に、アクアラング部員が漁船に轢かれる大事故が起こったのもこのポイン
ト。このあたりの斜面にはアイナメのなわばりなんかもあるが、絶対に浮上しないこと。また、
事故の教訓として、BC、ドライスーツの給排気バルブのメンテを怠るな!
⑩ 北側斜面(通称、磯焼けの坂):比較的急な斜面が長く続く。植生は比較的単調で、アナメ
の単純群落が形成されている。ビーチダイブでここまでくるときは、バディーと「戻り」の打
ち合わせをきっちりして、スクーターを使うことが望ましい
⑪ 魚礁帯(通称、アナキストの桃源郷):コンクリート製の人工魚礁が点在している。魚礁の
表面にはアミコケムシ、キタコブコケムシ、フトトクサコケムシなどのコケムシ類がはびこり、
オニカジカ、イセルス類、オコゼカジカ、アツモリウオなど、カジカ類の重要な産卵基質とな
っている。また、秋のアイナメの繁殖期には、そのなわばりに別種の卵塊が高頻度で見つかる
ことから、臼尻周辺におけるアイナメ類無政府地帯の一つに指定されている。ここは臼尻で最
深のダイビングポイントで、その水深は 20∼25 メートルもある。そのため、ここをメイン調
査地とする研究は、大学院在籍中は禁止とされている。ディープダイビングの講習を受けたア
ドバンス以上のライセンス者とバディーを組んだボートダイビングが条件。残圧 30 で戻れる
人も、80 を切ったら浮上開始。
⑫ 赤灯台横(通称、ヒメイカの宿)
:比較的粒子の細かい砂地にアマモがたくさん生えており、
秋から冬はヒメイカが出現する。湾口に近くなると泥場になり、初夏はアイカジカ型の稚魚が
多く出現する。ヌメリはいないが、地引き網でヤギウオがよくとれた。また 6 月にはシラウオ
も群れている。
⑬ 漁港外平磯(通称、スジアイナメの平原):浅場ではものすごい密度のスガモの大群落が広
がっている。絡まってうまく泳げないぐらい。秋にはスジアイナメの大繁殖場となる。深場で
は⑩の魚礁帯に沈められている魚礁よりはひとまわりかふたまわりくらい小さい魚礁がまば
37
らに点在している。ここの魚礁の表面にはコケムシではなく、普通に海藻が生えている。ギン
ポ類、マゾイの住処。春にはホンダワラ類の巨大海中林が形成され、シワイカナゴの繁殖場と
なる。
⑭ 東側岩棚(通称、ヒバの森):西側に比べるとスガモが多い。フラットな岩棚上部はそれほ
ど広くなく、すぐに水深が落ち始め延々となだらかな斜面が続く。時々切り立った大きな根が
出現し、地形は西側に比べ複雑。しかし、ノコギリハケサキヒバが優占し、海藻相は貧弱な気
がする。うねることが多いので、面倒がらず、エントリー・エギジット用の手摺りを忘れずに
取り付けること。
⑮ 東側砂地(通称、バケヌメリの砂原):西側の砂地に比べ砂の粒子が細かい。西側に比べ、
ヒトデも魚類も少なく大型生物相が貧弱だが、冬を除きドロクダムシが高密度で分布する。バ
ケヌメリはここに多い。ヒラメ、イシガレイの未成魚も時々みられる。
6.2.
1.)
海況の特徴を知っておこう
風向きと海況
臼尻では海況が悪くなる風は 2 種類ある。太平洋側から吹く東風と噴火湾側から吹く北風だ。
北
風
東風
北風が吹くと、弁天岬の西側が崩れる。この
一方東風が吹くときは、弁天岬の東側の波
手の風は秋に吹くことが多く、気温もぐっと下
が高くなるが、西側は比較的穏やかだったり
がる。このときはあまりうねりを伴わず、風が
する。しかし、この風は太平洋側からのうね
やめば波も収まることが多い。実験所の談話室
りを引き連れてくるので、波が高くなり易
の窓から水平線近くを双眼鏡で見て、水平線に
く、また風がやんでもうねりは残るので一度
白波が立っているようであれば、その波が沿岸
崩れると長引くことが多い。
にやってくるのは時間の問題。
38
2.)
潮汐と海況
臼尻では、潮汐によって短時間で海況ががらっと変わる。特に東風が吹いていて、太平洋側
からのうねりが大きい時は、最も注意が必要である。干潮時、弁天岬が消波体となって、東側
からのうねりは西側には影響を及ぼさないことが多い。それで油断して潜ると大変なことにな
る。だんだん潮位が増してきて、うねりが岬を越えられるようになった瞬間、西側の海況が急
変する。岬の北をまわってきたうねりと、岬を越えてきたうねりが重なり、非常に大きな三角
波を作る。この三角波がだんだんと成長して岸に押し寄せるため、エギジットの際に岩に衝突
しかねない状況になる。東側がうねっているときは、たとえ西側が穏やかであっても、潮汐表
をよく確認し、だんだん満ちる時間帯であるときは慎重に判断する必要がある。
潮が満ちると・・・
3.)
アラートカレンダー
季節ごとの海況や天気の特徴を知っておこう。
季節
月
冬
1
2
3
春
4
5
ゴッコ漁
ブルーミング
濃霧
刺し網注意!
透明度悪し!
視界悪し!
うかうかして
いると引っ掛
かるぞ
水中での位置確
認をしっかりと
船との接触
注意!
6
夏
7
8
9
秋
10
冬
12
11
台風の影響
北風
うねり注意!
大荒れ注意!
突然の強風!
南東の風が吹きうね
りが続く。表面水温
が一気に低下!
天気図で台風の
進路をよく確認
西風→北風
天気が非常に
変わりやすい
オホーツク海高気圧
ゴッコ漁
タコ注意
干潮注意
(午前中はエントリーが大変)
海藻注意
(ものをなくすと見つからない)
(℃)
20
海藻さらば
(なくしたものが見つかる)
《臼尻の水温》
短い夏
15
ウエットで潜れる
かも知れない一瞬
の夏
極寒!
10
保温はしっかりと
厳冬期
5
■ 表面
▲ 10m深
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
(月)
12
(S50∼H17 定点観測)
39
6.3.
海況を予測しよう
1.)
潮汐表を使いこなせ
その日の満潮と干潮の時刻・潮位を知っておくことは、潜水計画を立てる上で非常に重要だ。
臼尻では一般に満潮時の方が海況は悪くなるが、満潮時の方が浅場の調査が行いやすいという
メリットもある。また潮の流れの速さも潮汐によって変わってくる。潮汐表を見て「いつ潜っ
たらいいのか」
「今はどうやって潜ったらいいのか」を考えられるようになったら、一人前だ!
☆潮汐表の見方
教官室に入ってすぐ右手(先生のパソコンのすぐ右隣)の壁にかかっている、
「○○○○年 北
海道の暦と潮汐(Ⅰ)道央道南」(気象技研コンサルタント発行)を見よう。
①観測地点
②平均潮位
③日付
④月齢
⑤潮汐
①観測地点:臼尻の潮汐は「森」で見よう。「函館」ではない!
②平均潮位:潮位が高いのか低いのかは、この潮位を基準にしよう
③日付
④月齢:満月○、新月●のときに干満差が最も大きく(大潮)、半月○○の時に最も小さい(小潮)
。
⑤潮汐:満潮、干潮の時間やそのときの潮位が書かれている。
例)2 月 13 日(満月)のときの潮汐は?(上の図の青で囲った部分)
13 日
月齢
13
13
月
○
満潮
干潮
時刻
cm
時刻
cm
時刻
cm
時刻
cm
05:28
134
14:41
149
08:41
84
21:26
16
潮の満ち引きは、通常 1 日2サイクル起こる。
134−92.6
=+41.4(cm)
平均:92.6cm
潮位︵ cm
︶
+56.4(cm)
8:41
5:28
21:53
時刻(時)
14:41
−76.6(cm)
84−92.6
=−8.6(cm)
40
干潮時(低潮)から満潮時(高潮)にかけて海面が徐々に上昇している状態を「上げ潮」、
逆に高潮から低潮にかけて海面が徐々に下降している状態を「下げ潮」という。
上の例では、だいたい午前中は上げ潮、午後は下げ潮、ということになる。
満潮時・干潮時の前後は、海面はほとんど動かず、潮の流れが止まる「停潮」となる。
☆便利なウェブサイト
海釣り総合サイト「釣りの窓口」
http://www.saltwater.jp/tide/
このサイトでは、なんと!ピンポイントで臼尻の潮汐情報が得られる。
北海道→臼尻と画面上の地図をクリックしていくと・・・
さらに特定の日を(例にならって 2 月 13 日)
をクリックしてみると・・・
一時間ごとの潮位や日の出・日の入時刻、
なんと、もうグラフになった形で表示してくれる!
月齢なども詳しくチェックできる!
2.)
天気図を使いこなせ
天気図とは各地点で観測した気温、
風向、気圧などの項目を記号で表し
て地図に書き込んだ図のこと。天気
図には気圧配置や前線の位置などが
書き込まれるので、天気の変化を予
想するのに非常に役にたつ。
☆天気図の見方
●「高」
、「H」は高気圧、「低」、「L」
は低気圧をあらわす。
●図中の線は等圧線と呼び、気圧の等
しい地点を結んだもの。線が密になっ
ているほど風が強い
●数字は気圧(単位:hPa)
。
41
天気図記号と矢羽
矢羽を使って風力・風向を表す
・北東の風(風力 4)
・天気は曇
・気温 18℃
・気圧 1007hPa
気圧と風向き
高気圧周辺では、
時計の回転と同じ方向に風が吹き出す。
低気圧周辺では、
時計の回転と反対方向に風が吹き込む。
前線
●寒冷前線
寒冷前線が通過すると、風向きが南から北西に急変し、
気温が下がる。
●温暖前線
温暖前線が通過すると、冷たい空気から暖かい空気に切
り替わるので、気温が上がり天候が回復する。また風向
も南東から南西に変わる。
☆天気判断の指針
・天気は西から東へと進む。
・停滞している前線や移動の遅い前線の上には低気圧ができやすい。
・二つ玉低気圧(低気圧が二つ並んでいること)は合併して大低気圧になりやすい。
・西から東へと進んでいる低気圧は少しずつ北へ曲がる。
・移動性高気圧が南方を通ると天気は良くなる。
・気圧の谷:2つの高気圧部に挟まれた低圧部のことを気圧の谷という。気圧の谷は前線を伴う
ことが多く、また気圧の谷が低気圧の近くに来ると、この低気圧は発達し易くなる。気圧の谷
が東西方向に伸びている場合は風が弱く天気が安定する。
42
☆特徴的な天気図と臼尻の海況
①
②
③
太平洋側に発達した低気圧がある
台風が通過する場合・・・
場合・・・
①日本海通過型:強風でも、海はそれほど荒
臼尻は大荒れ、特に東側がひどくなる。
れない。
しかも、うねりはしばらく続く
②太平洋通過型:大荒れ。そして長引く。
③南方通過型:忘れた頃に荒れてくる。
等高線が縦に密に走っている場合・・・
北東に高気圧が張り出している場合・・・
北西の風が吹き荒れる。弁天島の西側が
無風状態でもうねりが続く。弁天島の東側が荒
荒れやすい。気温もぐっと下がる。
れやすい。このまま低気圧が北上すると、うね
(冬型の気圧配置、西高東低型)
りが強まり、沿岸湧昇流により、水温が一気に
低下する。霧がかかり、透明度も悪くなる。6
月から7月にかけて多い。
(オホーツク海高気圧の張り出し)
43
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