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不全穿通枝結紮術による下肢静脈瘤硬化療法の治療効果の改善

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不全穿通枝結紮術による下肢静脈瘤硬化療法の治療効果の改善
不全穿通枝結紮術による下肢静脈瘤硬化療法の治療効果の改善
芳賀 佳之 羽鳥 信郎 瓜生田曜造
志水 正史 吉津 博 田中 勧
要 旨: 不全穿通枝の結紫が下肢静脈瘤硬化療法の治療効果に及ぼす影響を検討した.
1994年4月∼1995年10月に防衛医科大学校第2外科において硬化療法を行った下肢静脈
瘤症例中,大伏在静脈起始部に逆流を認めるsaphenous
typeの73症例(男女比22
: 51,
年齢54.1±8.8歳)を対象とした.硬化療法には1%ポリドカノールを使用し,全例硬化療
法に先立って静脈結紫手術を施行した.
1994年10月以前(前期)は大伏在静脈高位結紫術
のみを施行したが,それ以降(後期)は不全穿通枝に対し結紫術を同時施行した.
治癒までに要した硬化療法回数は,前期群28例で4.6±2.2回,後期群45例では1.8±0.9
回で,後期群で有意に少なかった(pく0.001).前期群中7例では硬化療法が奏効せず,不
全穿通枝結紫術を追加施行した.後期群中に追加手術を要した症例はなかった(前期vs.後
期:p<0.05).再手術例を除いた前期群21例でも硬化療法回数は4.0±1.9回で後期群に比
べ有意に頻回であった(p<0.001).
高位結禁術に不全穿通枝結禁術を加えることによりsaphenous
typeの病変に対する硬
化療法回数は有意に減少した.不全穿通枝結物術は硬化療法の治療効果を改善し,下肢静
脈瘤の治療期間を短縮すると考えられた.(日血外会誌6:55-59,
1997)
索引用語:下肢静脈瘤,硬化療法,高位結紮術,不全穿通枝
うな手術を施行すれば最も患者の負担を減らし静脈瘤
はじめに
に対する治療硬化を高めうるかについては現状では統
下肢静脈瘤に対して本邦では従来ストリッピング手
一された見解が得られていない.
術が行われることが多かったが,近年いくつかの硬化
本稿では自験例をもとに,高位結紫術単独を施行し
剤を用いた硬化療法が行われるようになり,外来治療
た場合,高位結禁術と不全穿通枝結紫術の両方を行っ
として一般化しつつある.しかし硬化療法単独での静
た場合について,硬化療法の治療効果を比較し,不全
脈瘤の治療効果は明らかにストリッピング手術に劣っ
穿通枝結紫術の有効性について検証した.
ており1・2),硬化療法に並行して高位結紫術などの補助
対象および方法
的な手術療法を施行することの必要性が示唆されてい
る3・4).その一方で硬化療法の補助的手段としてどのよ
1994年4月から1995年10月の期間に防衛医科大
学校病院第2外科外来において硬化療法を施行し,同
防衛医科大学校第2外科(Tel
: 0429-95-1650)
期間内に治療を終了した下肢静脈瘤の患者は103例で
〒359 所沢市並木3-2
受付:1996年9月20日
あった.このうちweb
受理:1997年1月27日
脈系の病変など大伏在静脈本幹に病変の存在しない
55
type, reticulartype, 小伏在静
日血外会誌 6巻1号
56
表1 前期群,後期群症例の比較
前期 後期
1994.4.∼1994.9.
年齢(歳)
1994.10.∼1995.10.
28
症例数
全体
73
45
51.9±7.1
54.1±8.8
55.5±9.5
男女比
11 : 17
11:34
22:51
追加手術
7*
0
7
フォローアップ(月)
15.9±2.0**
9.5±3.0
12.0±4.1
(*pく0.05,
**pく0.001)
6 5 4 3 2 1 0
一回垣嘸¥S
30症例を除外し,ドップラー聴診器で大伏在静脈起始
部の血液逆流音を聴取したsaphenous
象とした.対象症例の男女比は22
type 73 例を対
: 51, 平均年齢
54.1±8.8歳であった.硬化療法を施行した患肢は延べ
97肢で右50肢,左47肢であった.
これらsaphenous
type病変の全症例に対して硬化
療法施行前に静脈結紫術を行った.
1994年4∼9月の
期間には患側の大伏在静脈高位結紫術のみを施行し,
1994年10月以降は高位結紫に加え不全穿通枝に対し
前期群
(n=28)
後期群
(n=45)
ても結紫術を施行した.DoddあるいはBoyd穿通枝に
6 5 4 3 2 1 0
蕪回垣載孝一
おいてドップラー聴診器で4秒以上の逆流音を聴取と
した場合,不全穿通枝として結紫術の適応とした.手
術はすべて外来において施行し,入院治療は行わなか
った.
硬化療法には1%ポリカドールを用い,患肢あたり
1∼5m/を使用した.薬剤注入後,弾性包帯による圧迫
を48ないし72時間行い,硬化療法の間隔は2週間以
上あけることとした.
統計解析
追加手術例を除く前期群 後期群
(n=21) (n=45)
データは平均値±標準偏差で表示した.平均値の群
図1 静脈瘤完治までに要した1症例あたりの硬化
間比較にはunpaired
療法回数
をpく0.05とした.発生頻度の群間比較にはchi
a(上):前期群(1994年4月∼1994年9月)全体と後期群
square testを用い,p<0.05を有意とした.
Student's t-testを用い,有意水準
(1994年10月∼1995年10月)との比較.前期群では4.6±
2.2回,後期群では,
結 果
1.8±0.9回で,前期群で有意に多かっ
●● ●
・
た(p<0.001).
不全穿通枝結紫術を導入した1994年10月を境とし,
b(下):7例の追加手術例を除いた前期群の残り21例と後
期群との比較.前期群での硬化療法回数は4.0±1.9回でや
それ以前の1994年4月∼1994年9月(前期)に治療さ
はり後期群に比べ有意に多かった(pく0.001).
れた患者は28例,
56
1994年10月∼1995年10月(後期)
-
1997年2月
芳賀ほか:穿通枝結飴術による硬化療法の改善
57
a b
図2
大伏在静脈の高位結紫術,
DoddおよびBoyd穿通枝の結紫術を施行した典型
例の術前(a)および術後7日目(b)の状態.穿通枝結紫部周辺では病変は血
栓化し,静脈瘤は縮小している.この症例は手術後l回の硬化療法を行っただ
けで静脈瘤は消失した.
に治療された患者は45例であった.平均年齢は前期群
図la). 7例の追加手術例では術前に4∼7回の硬化療
51.9±7.1歳,後期群55.5±9.5歳,男女比は前期群11:
法回数が奏効せず,結果的に症例あたりの回数が増加
17,後期群H:34であった.平均年齢,男女比ともに
した.しかし追加手術例を除いても前期群の残り21例
有意差はない(表1).フォローアップ期間は前期15.9
での硬化療法回数は4.0±1.9回であり,やはり後期群
±2.0ヵ月,
に比べ有意に多く(p<0.001,図lb).高位結紫術と不
9.5±3.0ヵ月で前期群で有意に長かった
(Pく0.001).後期群中10例では不全穿通枝が認められ
全穿通枝結紫術を同時に施行することにより硬化療法
ず,高位結紫術のみを行った.前期群中7例では不全
の治療効果が著しく改善することが示唆された.
穿通枝からの逆流が強く4回以上の硬化療法が奏効し
大伏在静脈の高位結紫術,不全穿通枝の結紫術を施
なかったため,不全穿通枝結紫術を追加施行した.後
行すると術後約1週間で穿通枝結紫部周辺の静脈瘤は
期群中には追加手術を要した症例はなく,追加手術症
血栓化し,著明に縮小し(図2a,
例は前期群に有意に多かった(p<0.05).これら7例で
では通残する病変に対し術後に1∼2回の硬化療法を
は追加手術後1∼2回の硬化療法を施行することで静
施行しただけで静脈瘤は消失した.
脈瘤は全例消失した.合併症として73例中1例に軽度
高位結紫術後,4∼7回の硬化療法が奏効しない症例
の創感染がみられたが重大な合併症はなかった.
に対しても不全穿通枝結紫術を追加施行することで硬
前期および後期群で完治までに要したI症例あたり
化療法の治療硬化が増強された(図3a,
の硬化療法回数を比較すると,前期群では4.6±2.2回,
後1∼2回の硬化療法により静脈瘤は速やかに血栓化
後期群では1.8±0.9回であり,後期群で有意に少ない
して閉塞した.
回数の硬化療法で静脈瘤が消失した(p<0.001,
57
b).こうした典型例
b).追加手術
日血外会誌 6巻1号
58
a b
図3
高位結紫術後5回の硬化療法が奏効せず,
Boyd穿通枝の結紫術を追加した症
例の再手術前(a)および術直後(b)の状態.静脈瘤は術直後から縮小し,再手術
後に硬化療法を1回追加しただけで完全に血栓化し,1ヵ月後には消失した.
いなど有利な点がある反面,治療効果が劣り,再発率
考 察
が高いとされ6),皮膚の色素沈着がしばしば問題とさ
硬化療法はストリッピング手術に替わる下肢静脈瘤
れる.著者らも色素沈着をできるだけ抑えるため,治
の治療法として近年本邦においても広く行われるよう
療効果はやや落ちるがポリドカノール濃度を1%以下
になった.しかし硬化療法単独での治療効果はストリ
とする方針をとっている.高位結紫術および不全穿通
ッピング手術に劣ると考えられ1・2),高位結紫術などの
枝結紫術の併用はこうした硬化療法の利点を保ち,弱
手術が併用されることが多い3・4).穿通枝結紫術による
点を補って下肢静脈瘤に対する治療効果を向上させる
治療効果の改善について必ずしも一定した見解がある
有効な手段であると示唆され,外来での下肢静脈瘤治
わけではないが,一般に高位結紫による大伏在静脈本
療に積極的に応用されるべきものであると考えられた.
管の逆流防止とともに大腿部の不全穿通枝を外科的に
結 論
遮断することが重要であると考えられる5).
自験例では高位結紫手術だけを併用した場合に比較
Saphenous type の下肢静脈瘤に対し高位結紫術と不
し,不全穿通枝結紫術を加えることで硬化療法の治療
全穿通枝結紫術を併用することで硬化療法の施行回数
効果の有意な改善がみられ,静脈瘤治療における不全
を有意に減少させ得た.不全穿通枝結紫術を積極的に
穿通枝遮断の重要性が強く示唆された.
施行することは下肢静脈瘤硬化療法の治療効果を改善
硬化療法はストリッピング手術に比べて患者の身体
し,下肢静脈瘤の治療期間を短縮させると考えられた.
的な負担が軽く,あらゆる種類の静脈瘤に応用可能で
本論文の主旨は第23回日本血管外科学会総会(1995年5月
あるばかりでなく,伏在神経麻蝉などの合併症が少な
58
1997年2月
芳賀ほか:穿通枝結紫術による硬化療法の改善
目,12日,熊本市)に於いて発表した.
428,1981.
4)
文 献
1) Hobbs,
treatment
1976.
2)
H.:The
Jackson,
treatment
Munn,
et
value
of
different
forms
5) Koyano,
of
J. B., Macbeth,
W.
6)
saphenous
Masafumi
Shimizu,
Department
Key
Haga,
words:
saphenous
ligation of incompetent
Hiroshi
suggested
and
Susumu
Tanaka
patients with saphenous-type
September,
perforators vein was simultaneously
sessions needed
1.8+ 0.9 (p<
varicose vein in the long
additional
solution was used as the sclerosing
1994 (early period) underwent
performed
the number
that combination
1994
(late period),
to treat the lesions was 4.6±2.2 in the early period that
perforator ligation. No
of sclerotherapy
cases in the late period needed
was
additional
those who
underwent
sessions was 4.0±1.9, which is stillsignificantly higher
0.001).
demonstrated
of sclerotherapy
that ligation of incompetent
sessions needed
of ligation of incompetent
and shorten treatment
(Jpn. J. Vase. Surg., 6: 55-59,
high ligation
with high ligation.
vs. the early period). In the 21 cases in the early period, excluding
(p<
retrospectively
0.001). In 7 patients treated during the early period sclerotherapy
results of the present study
sclerotherapy
Yoshizu
Uriuda,
years). A 1 % of polidocanol
April, 1994 through
operation, the number
significantly reduce
Hatori, Yozo
veins prior to sclerotherapy. In the cases treated after October,
than that in the late period
The
Perforator Veins
of Surgery II, National Defense Medical College
age=54±9
inefficient and thus underwent
additional
treatment of varicose veins.
April, 1994 and October, 1995 were retrogradely examined
of sclerotherapy
in the late period was
Eklof, B.:Modern
Varicose vein, Sclerotherapy, High ligation, Perforator
vein treated between
agent. The cases treated from
varicose veins of the lower
Sclerotherapy of Varicose Veins
Nobuo
The results of sclerotherapy in 73 consecutive
: 51, mean
S.:Selective strip-
Brit.
J. Surg・,75 : 297-298, 1988・
Efficacy of Compression
Yoshiyuki
(p<0.05
J.
extremities.
Surgery, 103 : 615-619, 1988.
A. A. G.
by Ligation of Incompetent
operation
vein. Am.
ping operation based on Doppler ultrasonic
veins. Brit. J. Surg・, 66:
strip or not to strip the long
The number
K. and Sakaguchi,
jfinding
f or primary
Improved
of the long
greater saphenous
Surg・,168 : 311-315, 1994.
S. R., Morton,
(male : female=22
trialof stripping versus high ligation
theincompetent
A varicose vein trial.Brit. J. Surg・,68 : 426-
saphenous
Kitslaar, P. J. E. H. M.:
combined with sclerotherapy in the treatment of
in the
1979.
al.: To
vein?
sclerotherapy
veins. ΛΓch. Surg・, 109 :
for varicose
182-184,
3)
and
of varicose
793-796,
Rutgers, P. H. and
Randomized
J・ TパSurgery
59
for treatment
perforator
veins could
of varicose veins. It is thus
valve perforator veins will improved
the efficacy of
periods to the benefit of the patients with varicose veins.
1997)
59
Fly UP