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メディカル翻訳の文書 メディカル翻訳の特長
この講座を受講される皆さんは、医薬品や医療機器、医学・薬学関連のいわゆるメディカル文書の翻訳に メディカル翻訳の文書 取り組もうと思われている方がほとんどでしょう。 こうしたメディカル翻訳は、「実務翻訳」という分野に属し、この「実務翻訳」は翻訳業界全体の仕事量の 約90%を占めるといわれています。実務翻訳はまた、 「産業翻訳」 、 「技術翻訳」あるいは「ビジネス翻訳」 ともいわれ、テクニカルな分野で必要とされる翻訳で、特徴はその分野の専門知識が求められることです。 メディカル翻訳の分野で扱われる文書には以下のようなものがあります。 診療カルテや医学・薬学論文 (国内外の)新薬開発に関する文書 (国内外の)承認申請に関する文書 メディカル翻訳の特長 (国内外の)規制当局から出された公的資料 企業や医療施設と取りかわす契約書 医療機器のマニュアル かつての医学界の共通言語はドイツ語でしたが、現在では英語が主流で、最先端の医療情報、新しい病気 社内手順書 の概念、種々の判定基準や治療法、規制やガイドラインなどが極めて短時間の間に英文でわが国に入ってき 宣伝用のパンフレット ます。医学英語は、文章は極めて単純で、文法的には中学卒業レベルで十分通用する場合が大半です。そし このようにその分野は多岐に渡っています。そして、その半数以上が「新薬開発」および「承認申請」に て、英語の特徴は「難しい内容を簡単な文章で表現することです」― Simple is best!―。英語圏の人々 関連する文書です。 は難しい内容を簡単・明瞭な文章で書かれている文書を高く評価します。また、読者は「筆者は…というこ とを言いたいのだろうな∼」などと筆者の思惑を推察するような親切なことはしてくれません。読者が読ん メディカル翻訳をめざそうとするなら、上記のようなメディカル翻訳の需要の中心である文書が、いつ・ で理解できないような文章は、自分の能力や知識が足りないのではなく、筆者の文章の表現能力が足りない 誰によって作成され、対象読者は誰で、何の目的で作成された文書なのかというようなメディカルの専門知 のだ!と判断します。ただし、個々の単語が独特な医学用語ですので、見た目は難解な文章に見えてしまう 識の背景をよく理解しておく必要があります。また、対象読者が患者やその保護者などの一般の人の場合 のです。 は、「である」調の文章よりも「ですます」調の文章で、できるだけ専門用語を使わない文章が好まれるで 一方、日本語の医学関連の文章の特徴は、難解な漢文調の長文が好まれ、読者が多少理解できないような しょう。逆に、医薬品や医療機器の承認のための審査を行っている厚生労働省の審査官が読者の場合は「で 表現を含んでいる文章が高尚と(誤解)されていて、一般人でも容易に理解できるような文章は低レベルだ すます」調の文章よりも「である」調の文章で、簡潔・明瞭で、適切な専門用語を使った文章が望ましいで とされる傾向があります。また日本文では、筆者は時として自分の考えや結論を明示せず、読者に「筆者は しょう。メディカル翻訳をする上で課題となるのは、医学の基本知識の習得と独特の医学・薬学用語とそれ …ということが言いたいのだろうな∼」などと筆者の思惑を推察させる文章が好まれます。このように、文 ぞれの文書に合った特徴的な表現法の習得です。 章に対する文化が日本と英語圏の国々とでは極めて異なります。 翻訳とは、ある文化のもとで書かれた文章を別の文化のもとで育った読者に理解できるように書き換える メディカル翻訳者をめざす方々には特に、日ごろから新しい情報や知識を習得しようとする姿勢が不可欠 ことです。単に日本語の単語を英語に置き換えれば英訳になるとか、英語の単語を日本語に置き換えれば和 です。かつては、翻訳を依頼するクライアントが外国語を理解できないので、翻訳を委託発注していたの 訳になるとかという単純なものではありません。まして「実務翻訳」では、翻訳した文章を読者が正確に理 で、その当時のクライアントにとっては翻訳文がすべてで、原文に戻って確認するなどということはありま 解したうえで、筆者が望む行動や決断を起こした時に、初めて文書としての目的が達成されるのです。たと せんでした。ところが現在は、翻訳を依頼したクライアントの多くは英語を長年勉強していて、時間さえあ えば、医薬品の承認申請資料としての翻訳文は、審査を行っている厚生労働省の審査官が理解できるだけで れば自分でも英文を理解することができる能力があるのですが、時間がないために翻訳を発注している場合 はなく、その後に承認の可否を判断できる文章である必要があります。 が多くなっています。従って、翻訳文に疑問が生じると、原文に戻って確認することができてしまうので す。その意味で、メディカル翻訳に、英語力と専門知識が必要であるのはいうまでもありませんが、翻訳依 6 ところで、最近 「治験」 という言葉や「治験翻訳」の講座などをよく目にすることがあるのではないで 頼するクライアントに負けないくらいの知識を自分自身で磨いておくことも重要です。 しょうか。「治験」 とは、ヒトを対象とした 「臨床試験」 のなかでも、薬事法上の製造販売、承認申請のため またこの講座は、メディカル入門者向け講座とはいえ、医学・薬学に関する翻訳の技術を習得する前に、 の臨床試験のことです。翻訳需要の中で最も大きな需要があるとされていますが、メディカル翻訳の一部に 製薬会社の担当者にも劣らないくらいの、翻訳する上で必要な背景知識と関連メディカル英語の習得を目的 すぎません。ですから、これから学習することになる「新薬の開発」と 「承認申請」 関連の流れや仕組みを とした講座です。もちろん、本講座ですべての知識をあますところなく習得することはできませんが、製薬 あらかじめよく理解しておくことで、「治験」 がどこに位置しているか、治験翻訳がどのような流れで翻訳の 会社担当者にも役立つ知識を自分自身で磨いていくきっかけとなるように構成されていますので、これから 需要となるかなどもわかるようになるでしょう。 じっくりと取り組んでいきましょう。 7 本講座の構成 本講座は、以下の3編から構成されています。 学習のテーマ 実務翻訳に属するメディカル翻訳をめざす方々は、翻訳技術の習得とともに、専門分野の背景知識を充実 させることが不可欠です。メディカル翻訳の専門的な背景知識として特に必要なのが、上述したように以下 第1編(テキスト1&2):医薬品や医療機器の開発、薬事法など承認申請関連で知っておきたいこと メディカル翻訳(日⇔英)の需要の多くは、医薬品や医療機器の新製品開発関連あるいはそれらの承 認申請関連の文書です。正確で明快な翻訳を行うには、まず第1に、翻訳原稿が何に関する文書で、誰が 何のために作成し、誰が読者となるのかを把握しておく必要があります。それらの点を踏まえて、医薬 の3つのテーマなのです。 ① 医薬品や医療機器の開発、薬事法など承認申請関連の知識 ② 医学統計関連の知識 ③ 遺伝子・がん関連の知識 品とは何か?治験と臨床試験はどう違うのか?毒性試験は何をするのか?薬価とは?ICHとは?など基本 的なことを明らかにしたうえで、医薬品や医療機器の開発・承認申請がどのような手順と方法で行われ、 誰がどのように関与してくるのかを理解していきます。テキストの中で詳細に解説していきますので、 今は何のことかわからなくても大丈夫です。 第2編(テキスト3):医学統計関連で知っておきたいこと 本講座では、これらの情報を可能な限り平易な日本語で解説するとともに、重要な用語には代表的な英語 も併記しています。また、セクションごとに随時、 「演習問題」を設けていますので、受講生の皆さんの理解 を助長できる構成になっています。 繰り返しになりますが、各Lessonでは、メディカル翻訳を学ぶ前に知っておくべき重要な背景知識を取 りあげていますが、それらの知識は、最近注目されているメディカル分野の中でも特に需要が高い翻訳分野 メディカル文書では必ずといってよいほどに何らかの統計解析に関連する文章が含まれています。翻 訳者養成校などで長年翻訳講座を担当してきましたが、絶対的に人気の高いコースは「医学統計入門」 だという印象を持っています。医薬品や医療機器の開発・承認では、新薬が既存品と比べて優れている ことは何か?副作用はどの程度か?有効性はどのくらいか?品質は安定しているのか?などの比較が必 要となってきます。新薬と既存品を比較した膨大な数のデータから、優れている点、同等な点、劣って いる点などを科学的に明らかにするために医学統計(生物統計)の手法が使われます。平均値や標準偏 とも密接に関連している知識ですので、しっかりと理解しておく必要があります。 また、本講座は特に文系出身の方や、理系でも医学・薬学以外の方、すでにメディカル翻訳の学習をされ ている方にとっても極めて有用な講座内容となっています。メディカルライティングに興味を持っている方 や、医療英語に関わる方にも役立つでしょう。 それでは、メディカル翻訳の中でも需要が最も多く、かつ重要な内容を網羅した各Lessonを、これから、 早速皆さんと一緒に学んでいきましょう。 差、95%信頼区間、t検定、P値、有意差、などの用語はメディカル文書に頻繁に登場します。本講座で は、翻訳者として知っておきたい医学統計関連の情報を入門者にもわかりやすいように解説しています。 第3編(テキスト4):遺伝子・がん関連で知っておきたいこと 医学統計と並んで最近のメディカル文書では必ずといってよいほど登場するのが、遺伝子に関連した 文章です。2003年にはヒトの遺伝子がすべて解明されましたし、2012年のノーベル生理学・医学賞 を受賞した山中教授のiPS細胞にも遺伝子組み換え技術が応用されています。また、人によって薬の効果 が異なること、成人病に罹りやすい人とそうでない人がいること、副作用の出方なども遺伝子に起因し ているのです。さらに、遺伝子の突然変異が原因で発病するといわれている「がん(癌)」は現代社会で 最も危惧されている疾患で、新薬の開発も盛んに行われています。遺伝子はどこにあるのか?DNAとは 何か?突然変異はどうして起こるのか?遺伝子組み換えとは?再生医療とは?など基本的なことを明ら かにして、翻訳者として知っておきたい遺伝子やがん関連の情報を入門者にもわかりやすいように解説 しています。 8 9