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薬剤耐性菌による院内感染対策について

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薬剤耐性菌による院内感染対策について
平成19年度 茨城県医療安全研修会
薬剤耐性菌による院内感染対策について
荒川 宜親
国立感染症研究所 細菌第二部
インフルエンザ菌
黄色ブドウ球菌
化膿連鎖球菌
腸球菌
大腸菌
ヒトの体は菌の塊
鼻 腔
黄色ブドウ球菌
表皮ブドウ球菌
ヘリコバクター・ピロリ
(チフス菌)
大腸菌、肺炎桿菌
セラチア
緑膿菌
アシネトバクター
エンテロバクター
腸球菌
化膿連鎖球菌
バチルス
クロストリジウム
医療安全の観点からの
院内感染対策の強化
医療費や法令の改定
平成18年3月の基本診療料の算定基準の改正
平成19年4月の医療法とその施行規則の改正
医療法施行規則
(昭和二十三年十一月五日厚生省令第五十号)
最終改正:平成一九年三月三〇日厚生労働省令第三九号
医療法施行規則を、次のように定める。
第一章 医療に関する選択の支援等(第一条—第一条の十)
第一章の二 医療の安全の確保(第一条の十一—第一条の十三)
第一章の三 病院、診療所及び助産所の開設(第一条の十四—第七条)
第二章 病院、診療所及び助産所の管理(第八条—第十五条)
第三章 病院、診療所及び助産所の構造設備(第十六条—第二十三条)
第四章 診療用放射線の防護
第一節 届出(第二十四条—第二十九条)
第二節 エックス線装置等の防護(第三十条—第三十条の三)
第三節 エックス線診療室等の構造設備(第三十条の四—第三十条の十二)
第四節 管理者の義務(第三十条の十三—第三十条の二十五)
第五節 限度(第三十条の二十六・第三十条の二十七)
第四章の二 医療計画(第三十条の二十八—第三十条の三十三)
第五章 医療法人(第三十条の三十四—第三十九条の二)
第六章 雑則(第四十条—第四十三条の三)
附則
第一章の二 医療の安全の確保
第一条の十一 病院等の管理者は、法第六条の十 の規定に基づき、次に掲げる安全管
理のための体制を確保しなければならない(ただし、第二号については、病院、患者を入院
させるための施設を有する診療所及び入所施設を有する助産所に限る。)。
一 医療に係る安全管理のための指針を整備すること。
二 医療に係る安全管理のための委員会を開催すること。
三 医療に係る安全管理のための職員研修を実施すること。
四 医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための
方策を講ずること。
2
病院等の管理者は、前項各号に掲げる体制の確保に当たつては、次に掲げる措置を
講じなければならない。
一
院内感染対策のための体制の確保に係る措置として次に掲げるもの(ただし、ロにつ
いては、病院、患者を入院させるための施設を有する診療所及び入所施設を有する助産所
に限る。)
イ 院内感染対策のための指針の策定
ロ 院内感染対策のための委員会の開催
ハ 従業者に対する院内感染対策のための研修の実施
ニ 当該病院等における感染症の発生状況の報告その他の院内感染対策の推進を目的と
した改善のための方策の実施
感染症法は院内感染対策のための法律では無い。
VREや多剤耐性緑膿菌などの保菌例は、報告義務は無い。
=院内感染対策の必要性は無い???
感染症法は院内感染対策のための法律では無い。
VREや多剤耐性緑膿菌の保菌例は、報告義務は無い。
=院内感染対策の必要性は無い?
しかし院内感染対策は必要
課長通知
医 療 法
薬剤耐性菌/院内感染対策に関連する各種通知等
a)「バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する院内感染防止対策について
(健医感発第51号 平成9年4月23日)」
b)「バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する院内感染防止対策について」
(政医第151号 平成9年4月30日)
c)「バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する院内感染防止対策の徹底について
(医薬安発第83号 平成10年7月31日)」
d)「バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する院内感染防止対策の徹底について」
(政医第291号 平成10年8月21日)
e)「バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する 院内感染防止対策の徹底について」
(政医第222号 平成11年8月4日)
f)「セラチアによる院内感染防止対策の徹底等について」
(医薬安第88号 平成12年7月4日)
g)「セラチアによる院内感染防止対策の徹底等について」
(医薬安第127号 平成12年10月27日)
h)「エンテロバクター菌による院内感染防止対策の徹底等について」
(医薬安第129号 平成13年9月4日)」
i)「セラチアによる院内感染防止対策の再徹底について」
(医薬安第0121001号 平成14年1月21日)
j) 「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について」
(医政発第0201004号 平成17年2月1日)
k) 「多剤耐性緑膿菌(MDRP)を始めとする院内感染防止対策の徹底について」
(厚生労働省医政局指導課 事務連絡 平成18 年7 月6 日 )
感染症患者への適正な治療の実施
感染症の発生動向の監視、感染症の蔓延の防止
バイオテロ対策
病原体の適正な取り扱いと管理
感染症法
MRSA, VRSA, VRE
PRSP, MDRPの感染症の動向の監視
院内感染対策の強化
基本診療料
医 療 法
通知、事務連絡
全ての病原体に対する対策
適正な医療の提供
医療における安全の確保
院内感染対策の充実
薬剤耐性菌が問題となる背景
患者側の要因
高度医療、先端医療の推進
感染防御能力の低下
した患者の増加
高齢者、慢性疾患患者の増加
薬剤耐性菌
菌側の要因
旺盛な増殖力と適応能力
多剤耐性菌、高度耐
性菌の増加
抗菌薬の開発の停滞
新規抗菌薬開発には高いコスト
がかかる
新規抗菌薬開発の滞り
感染症法に基づくMRSA感染症患者の届け出件数(
定点 )
件/年
20000
10000
0
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
H18
年度
感染症法に基づくVRE感染症患者の届け出件数(全数)
件/年
70
60
50
40
30
20
10
0
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
年度
件/年
感染症法に基づく PRSP 感染症患者の届け出件数(定点
)
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
0
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
年度
感染症法に基づ く薬剤耐性緑膿菌 感染症患者の届け出件数( 定点 )
件/年
800
700
600
500
400
300
0
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
年度
あらゆる種類の菌種における薬剤耐性の進行
● 院内感染菌
MRSA, PRSP, VRE, 緑膿菌・ブドウ糖非発酵菌, 肺炎桿菌, --● 伝染病起因菌
赤痢菌, コレラ菌, ペスト菌, ジフテリア菌, 百日咳菌, --● 食中毒起因菌
病原大腸菌, サルモネラ, キャンピロバクター, --● 性感染症起因菌
淋菌, --● 抗酸菌
非結核性抗酸菌, 多剤耐性結核菌(MDR-TB), M. leprae, --● その他
H. pylori , インフルエンザ菌,
M. catarrhalis , ---
細菌の大まかな分類
グラム陽性菌
球菌:肺炎球菌、ブドウ球菌、A群連鎖球菌
腸球菌など
細胞壁:ペプチドグリカン(PG)
桿菌:バチルス属(セレウス菌、炭疽菌など)
クロストリジウム属(破傷風菌、ボツリヌス菌)
コリネバクテリウム属(ジフテリア菌)など
グラム陰性菌
球菌:髄膜炎菌、淋菌など
細胞壁:PG+リポ多糖膜
桿菌:腸内細菌科
大腸菌、肺炎桿菌、サルモネラ、
赤痢菌、ペスト菌、コレラ菌
セラチア、エンテロバクターなど多数
ブドウ糖非発酵菌
緑膿菌、アシネトバクター
シュードモナス・セパシアなど
細菌の危険度
日常生活的(食中毒、市中感染症など)
グラム陰性菌
>
グラム陽性菌
黄色ブドウ球菌
肺炎球菌
サルモネラ、病原大腸菌
カンピロバクター
ビブリオ属
日常診療的(院内感染症、術後感染症など)
グラム陰性菌
緑膿菌(含MDRP)
セラチア
大腸菌、肺炎桿菌
アシネトバクター
>
グラム陽性菌
MRSA
PRSP
VRE
MEDLINE検索の結果
2007/8/28
aureus
aeruginosa
nosocomial infection
4,042
nosocomial outbreak
220
109
multidrug-resistance
1,077
796
416
216
1,003
216
invasive infection
septic shock
blood stream infection
lethal infection
>
70
290
2,249
49
<
307
緑膿菌のようなグラム陰性桿菌の方が致死的な結果を招く事が
多く、より危険と考えられる。
グラム陰性桿菌の危険性
エンドトキシン(内毒素)を産生する
ため、血中に侵入すると、発熱、血
圧低下を引き起こし、ショックから
多臓器不全に陥ると死亡する危険
性が高い。
エンドトキシンは、細胞壁に存在す
る糖脂質であり、熱に安定。ただし、
経口的に少量摂取しても、殆ど無
害。
エンドトキシンとエンテロトキシン
エンドトキシン:リポ多糖体(LPS)(内毒素)
エンテロトキシン:多くは蛋白(外毒素)
黄色ブドウ球菌(A〜H型毒素)
病原大腸菌(LTとST)
ウエルシュ菌
クロストリジウム・ディフィシル(A毒素)
など
外毒素には、その他、百日咳毒素、ジフテリア毒素、
ボツリヌス毒素、破傷風毒素など様々な物がある。
「感染」と「感染症」
「感染」と「感染症」という言葉の意味を正しく理解していないと、医療関係者の間であって
も、往々にして話が混乱したり、誤解を生じる場合があります。
細菌やウイルスなどの何らかの病原体が、「人にとり付くこと」を「感染」といい、それらに
よって病気が発症(発病)した状態を「感染症」といいます。
そこで、病原体による病気(感染症)を発症し治癒するまでの段階は、次のように分けら
れます。
死亡
病原体にとり付かれること(感染)→潜伏期間→病気の発症(感染症) →治癒
無症状(不顕性感染)
つまり、「感染」は、単に「病原体にとり付かれたこと」を意味するだけで、発病したか否か
は、その言葉の意味には、通常は含まれていません。
言い換えるならば、「感染者」という言葉は、「病原体にとり付かれた人」と言う意味で、病
気(感染症)を発症していない状態の人も含みます。
例としては、百日咳菌が感染しても、もともと抗体を持っていたり、ワクチンを受けていれ
ば、それによる感染症である百日咳を発症しない事から、「感染」と「感染症」の意味の違
いが分かっていただけるものと思います。
問題(日本語テスト)
「感染」と「罹患」
太郎君がMRSAに感染した。
MRSAが太郎君に感染した。
インフルエンザに太郎君が罹患した。
太郎君に赤痢菌が罹患した。
「感染」と「罹患」
× 太郎君がMRSAに感染した。
○ MRSAが太郎君に感染した。
○ インフルエンザに太郎君が罹患した。
× 太郎君に赤痢菌が罹患した。
感染:主語は病原体、目的語は人
罹患:主語は人、目的語は感染症名
菌の名前
サルモネラ菌
赤痢菌
セラチア菌
破傷風菌
菌の名前
× サルモネラ菌
○ 赤痢菌
× セラチア菌
○ 破傷風菌
菌の名前の付け方
○ 感染症名+菌
赤痢 菌
破傷風 菌
ペスト 菌
サルモネラやセラチアは感染症名では
なく、菌の属名であるため、「菌」を付けて
はいけない。
ただし、サルモネラ属菌は正しい。
例:クラミジア菌とは、通常言わないのと同じです。
慣例的な菌の名前
大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、
肺炎球菌などは、慣例的に受け入
れられている。
また、菌種名に菌をつける事も容認
されている。
ボツリヌス菌 (Clostridium botulinum)
セレウス菌 (Bacillus cereus)
セパシア菌 (Burkholderia cepacia)
細菌学各論
グラム陽性菌
Bacillus :環境中に広く分布
cereus 芽胞を形成する為、消毒や熱に抵抗
(セレウス菌) 飲み込んでも敗血症にはならない
組織内に侵入してもあまり増えない
デンプン質の多い食品で増殖
黄色ブ菌: 人の体表面に広く分布
各種の毒素を産生する
飲み込んでも敗血症にはならない
どのような食品でも増殖
生体組織内に侵入して増える
人から離れ環境中ではあまり増えない
細菌学各論
グラム陽性菌
腸球菌:
動物の腸管に生息
乳酸を産生し、概して善玉菌
E. faeciumは、多剤耐性の傾向
飲み込んでも敗血症にはならない
肺炎球菌: 人の気道や消化管に常在
飲み込んでも敗血症にはならない
ペニシリン耐性株や多剤耐性株が増加
小児の中耳炎、高齢者の肺炎など
人から離れて環境中では増えない
細菌学各論
グラム陽性菌
クロストリジウム・ディフィシル:
豚など動物の腸管にも生息
腸管毒素、細胞毒素を産生
芽胞を形成し熱や消毒に抵抗
病院内で抗菌薬関連性下痢症の原因
偽膜性大腸炎を引き起こす
欧米では強毒型が出現
カナダでは、市販の挽肉から芽胞が検出
米国 National Hospital Discharge Survey (NHDS)
を基にした短期入院型の病院におけるCDAD症例
数増加に関する報告
(McDonald LC, et al. 2006. Emerg Infect Dis 12:409-15.)
①
① 退院時記録に診断名としてCDADが記録された症例
退院時記録に診断名としてCDADが記録された症例
②
② 1996年:
1996年: 82,000症例
82,000症例 →
→ 2003年:
2003年: 178,000症例*
178,000症例*
1996年:
1996年: 31症例/10万人→
31症例/10万人→ 2003年:
2003年: 61症例/10万人
61症例/10万人
③
③ 退院時記録に診断名としてCDADが記録された症例の退院数に対する割合
退院時記録に診断名としてCDADが記録された症例の退院数に対する割合
1996年:
1996年: 0.10%
0.10% →
→ 2003年:
2003年: 0.38%
0.38%
④
④ 1996年から2003年までの8年間における全記録における年齢別の退院時記録に診
1996年から2003年までの8年間における全記録における年齢別の退院時記録に診
断名としてCDADが記録された症例
断名としてCDADが記録された症例
ア.
ア. 65歳以上:
65歳以上: 228症例/10万人
228症例/10万人
イ.
イ. 45歳-64歳:
45歳-64歳: 40症例/10万人
40症例/10万人
ウ.
ウ. 15歳-45歳:
15歳-45歳: 11症例/10万人
11症例/10万人
エ.
エ. 15歳未満:
15歳未満: 9症例/10万人
9症例/10万人
** メチシリン耐性
メチシリン耐性 Staphylococcus
Staphylococcus aureus
aureus (MRSA)感染症の1999年から2000年
(MRSA)感染症の1999年から2000年
にかけての年間症例数は、米国short-stay
にかけての年間症例数は、米国short-stay hospital退院時記録からの報告で
hospital退院時記録からの報告で
120,000症例と報告されている。
120,000症例と報告されている。
カナダ、ケベックにおけるCDAD症例数の増加に関する報告
(Pepin, J, L. et al. 2004. CMAJ 171:466-72.)
①
① CDAD症例数の増加
CDAD症例数の増加
1991年:
1991年: 35.6症例/10万人→
35.6症例/10万人→ 2003年:
2003年: 56.3症例/10万人
56.3症例/10万人
②
② 65歳以上の高齢者におけるCDAD症例数の増加
65歳以上の高齢者におけるCDAD症例数の増加
1991年:
1991年: 102.0人/10万人
102.0人/10万人 →
→ 2003年:
2003年: 866.5
866.5 /10万人
/10万人
③
③ 合併症(巨大結腸、消化管破裂、緊急腸切除が必要、ショック)が認められた症例
合併症(巨大結腸、消化管破裂、緊急腸切除が必要、ショック)が認められた症例
の増加
の増加
1991年-1992年:7.1%
1991年-1992年:7.1% →
→ 2003年:18.2%
2003年:18.2%
④
④ CDADと診断されてから30日以内に死亡した症例の増加
CDADと診断されてから30日以内に死亡した症例の増加
1991年-1992年:4.7%
1991年-1992年:4.7% →
→ 2003年:13.8%
2003年:13.8%
近年、食品媒
介性病原体と
しての視点か
らも、警戒され
ている。
細菌学各論
グラム陰性菌(腸内細菌科)
大腸菌や 動物の腸管に生息
肺炎桿菌: 血流中に入らねば無害
一部に耐性株が出現
飲み込んでも敗血症にはならない
セラチア: 人の消化管に多少とも常在
飲み込んでも敗血症にはならない
多剤耐性株が存在
室温程度でも良く増える
昆虫に病原性を示す
細菌学各論
グラム陰性菌(腸内細菌科)
サルモネラ:動物や家畜の腸管に生息
主たる食中毒起因菌
DT104など多剤耐性株が出現
腸管粘膜に侵入する
チフス菌などは菌血症を引き起こす
赤痢菌:
人の消化管には常在しない
腸管粘膜に侵入する
通常、敗血症にはならない
ペットなどからも感染する事がある
細菌学各論
グラム陰性菌(ブドウ糖非発酵菌)
緑膿菌:
動物の腸管に生息
植物の表面にも付着している
血流中に入らねば無害
一部に多剤耐性株が出現
飲み込んでも敗血症にはならない
人体から離れて環境中でも生育する
アシネトバクター:人の消化管にも生息
飲み込んでも敗血症にはならない
一部に多剤耐性株が存在
欧米では、人工呼吸器関連肺炎が増加
水分と若干の栄養があれば生育する
細菌学各論
グラム陰性菌(ブドウ糖非発酵菌)
シュードモナス・ 血流中に入らねば無害
フルオレスセンス:一部に多剤耐性株が出現
(蛍光菌)
飲み込んでも敗血症にはならない
シュードモナス・ 水分と少しの栄養分で増殖する
プチダ
冷蔵庫内(4℃)でも増殖する
バークホルデリア・
セパシア: 飲み込んでも敗血症にはならない
一部に多剤耐性株が存在
クロルヘキシジンに抵抗性を示す
水分と微量の栄養があれば生育する
問題
セラチアやアシネトバクターによる敗血
症が多発した場合
調査結果
ネブライザー(加湿器)から当該菌が検出された。
その評価や解釈は?
セラチアやアシネトバクターによる敗血
症が多発した場合
調査結果
ネブライザー(加湿器)から当該菌が検出された。
その評価や解釈は?
ネブライザーから菌が飛散し、患者が吸入して敗血症
になった?
セラチアやアシネトバクターによる敗血
症が多発した場合
調査結果
ネブライザー(加湿器)から当該菌が検出された。
その評価や解釈は?
×
ネブライザーから菌が飛散し、患者が吸入して敗血症
になった。
セラチアやアシネトバクターによる
敗血症が多発した場合
調査結果
ネブライザー(加湿器)から当該菌が検出された。
その評価や解釈は?
×
ネブライザーから菌が飛散して患者が吸入し敗血症に
なった。
正しい評価や解釈
ネブライザーが汚染する程、その病室・病棟は、当該
○ 菌により広く汚染されていた。
セラチアやアシネトバクターによる
敗血症が多発した場合
調査の結果
当該菌を保菌している人が発見された。
対応は?
セラチアやアシネトバクターが便や咽頭から分離され
た患者さんは隔離する?
セラチアやアシネトバクターによる
敗血症が多発した場合
調査の結果
当該菌を保菌している人の扱い。
対応は?
セラチアやアシネトバクターが便や咽頭から分離され
× た患者さんは隔離する?
正しい指導や対応
○
セラチアやアシネトバクターの便培養は不要。
当該菌が便や咽頭から分離された患者さんの隔離は、通
常は不要(病室病棟の衛生管理の徹底と予防策の励行、
徹底)
ただし、カルバペネム耐性株などの場合は、隔離も考える。
薬剤耐性菌とは
通常は有効性が期待される抗菌薬に対
し、耐性を獲得した細菌
例:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)
多剤耐性緑膿菌(MDRP)
ただし、
バンコマイシンに耐性を示す大腸菌
ペニシリンに耐性を示す肺炎桿菌
ピラジナミドに耐性を示すBCG菌
などは、耐性菌とは呼ばない。
抗菌薬とは
細菌の増殖を抑制したり、菌を殺したり
する物質で、感染症の治療に用いられる
医薬品(消毒薬は、器物、体表面など)
◆抗生物質
放線菌、真菌、その他の細菌などが産生する抗
菌性物質(最近は、化学的に修飾や改変される
物が多い。)
◆合成抗菌薬(化学療法剤)
人工的に化学合成された抗菌性物質
抗菌性物質
抗菌薬
抗生物質
消毒薬(剤)
殺菌剤
抗菌化学療法剤
β-ラクタム薬
キノロン薬
アミノ配糖体
オキサゾリジノン系薬
ペニシリン
セファロスポリン
セファマイシン
カルバペネム
カナマイシン
ゲンタマイシン
ストレプトマイシン
マクロライド
エリスロマイシン
アジスロマイシン
クラリスロマイシン
テリスロマイシン
ナリジクス酸
レボフロキサシン
シプロフロキサシン
ガチフロキサシン
リネゾリド
サルファ剤
スルファメトキサゾール
スルファジアジン
スルファドキシン
ダプソン(ジアミノジフェニルスルホン)
テトラサイクリン
ピラジナミド
クロラムフェニコール
サルバルサン(最初の化学療法剤:ヒ素化合物)
耐性菌は、なぜ問題なのか?
◇ダイオキシンなどの毒物は自己増殖しない。時
間が経てば、拡散、分解しやがて消滅する。
◆病原体は、我々の生活圏や体内にも広く生息
しており、自己増殖し、拡散した先でも増殖し、患
者さんの間で伝播して生き続ける。一時的に減
少しても、状況によりまた復活して新たな耐性を
獲得し、増殖と拡散を永続的に繰り返す。
なぜ、セラチアや緑膿菌の多剤耐性株は恐いのか?
1.グラム陰性桿菌であるため、エンドトキシンを産
血液中に入ると致死的(ショック、多臓器
不全を誘発)
2.効果が期待できる抗菌薬が少ない。
3.腸管内に保菌していても無症状
4.耐性遺伝子が、他の株、菌種に伝播拡散する。
5.点滴等で、目に見えない程の汚染(105 CFU/ml)
であっても、致命的になる場合がある。
生し、
常在菌
非常在菌(要対策)
黄色ブドウ球菌 ──→ メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
(MRSA)
腸球菌
──→ バンコマイシン耐性腸球菌
(VRE)
セラチア
──→ 多剤耐性セラチア
緑膿菌
──→ 多剤耐性緑膿菌
大腸菌
──→ 多剤耐性大腸菌
国内施設で問題視されている主な院内感染症の原因となる耐性菌
(耐性)菌名
特 徴
MRSA
わが国の病院施設に広く定着、一部で市中感染も
VRE
わが国の病院施設では未だ稀だが一部で多発
ペニシリン耐性肺炎球菌
市中感染症起因菌としても問題、高齢者施設で要注意
クロストリジウム・デフィシル 芽胞を作るため通常の消毒に抵抗、海外で問題視
バチルス・セレウス
芽胞を作るため通常の消毒に抵抗、食中毒も起す。
セラチア
多剤耐性セラチアが散見的に出現、一部で同時多発
大腸菌/肺炎桿菌
第三世代セファロスポリン耐性株が徐々に増加
ター
セファマイシン耐性株が散見される
緑膿菌
蛍光菌、プチダ
アシネトバクター
セパシア
多剤耐性緑膿菌が一部施設で院内感染、死亡者の発生
多剤耐性菌が一部施設で院内感染、4℃で生育
多剤耐性株が一部施設で増加、人口呼吸器の汚染
多剤耐性株が一部施設で増加、消毒薬抵抗性
結核菌
院内感染とともに、職員への感染も問題となっている
エンテロバ
院内感染対策における
MVPとは?
M:MRSA
V:VRE
P:Pseudomonas
VREやMDRPは、
今の日本の医療環境では、
分離されたり、広がってはいけ
ない耐性菌
早期検出、保菌者の範囲の
正確な把握とそれに基づいた
伝播防止対策の徹底
対策の要点
日常的な管理/責任/監視体制
早期発見/検出
感染原、感染経路の特定
伝播防止策の励行/徹底
抗菌薬の使用方法
教育訓練/対策の評価
対策の要点
病院管理者/院長の指導力
院内感染対策委員会の活動
ICTの実効ある活動
職員の気概/余裕のある勤務
MRSA:標準/接触予防策の徹底
VRE:上記+便/オムツ交換
MDRP:上記+尿/湿潤環境
VREやMDRPは、
今の日本の医療環境では、
分離されたり、広がってはいけ
ない耐性菌
早期検出、保菌者の範囲の
正確な把握とそれに基づいた
伝播防止対策の徹底
問題
入院患者さんにバンコマイシンを投与すれ
ば、その患者さんが腸内に持っている腸球
菌が、やがてVREに変化するので、 VRE
の出現は、やむを得ない。
○ or ×
耐性菌自然発生説
バンコマイシン
培養
腸球菌
VREに
変化
耐性菌自然発生説
バンコマイシン
腸球菌
VRE
×
耐性菌自然発生説
ストレプトマイシン
しかし
結核菌
○
ストマイ耐性
結核菌
主な薬剤耐性化メカニズム
抗菌薬
膜の親水性・疎水性、
荷電状態の変化
OmpF等
ポリン蛋白
ポリン蛋白の数・種類
や透過孔の性状の変化
テトラサイクリン
汲み出し蛋白など
薬剤排出機構
D2 ポリン等
修飾不活化
修飾酵素
アセチル化
酵素など
分解酵素
(注)
染色体
DNA
分解不活化
阻害できない
阻 害
(抗菌薬により標的蛋
白が不活化される)
本文
PBP2' 等
(標的蛋白)
標的蛋白(部位)
の変化
( 不活化されない )
ペリプラズム
(注) β-ラクタマーゼによるペニシリンなどの
分解不活化はペリプラズムで起こる
抗菌薬を使えば一定の頻度で
自然に発生する耐性菌
(抗菌薬の標的になっている分子の変異)
ニューキノロン耐性緑膿菌
リネゾリド耐性腸球菌や黄色ブ菌
ペニシリン耐性インフルエンザ菌
ストレプトマイシン耐性結核菌
などなど多数
対 策(発生させない、蔓延させない)
◎耐性菌の出現の早期検出
◎抗菌薬の適正使用
○接触感染予防策などの徹底
抗菌薬をいくら使っても、
自然に発生することはない耐性菌
(他の菌から耐性遺伝子を獲得する。施設外から侵入)
VRE、MRSAなど
カルバペネム高度耐性肺炎桿菌
マクロライド高度耐性肺炎球菌
アミノグリコシド高度耐性緑膿菌
などなど多数
対 策(侵入を見落とさない、蔓延させない)
◎耐性菌の出現の早期検出
○抗菌薬の適正使用
◎接触感染予防策などの徹底
自然に発生しない耐性
外部から耐性遺伝子を獲得する
抗菌薬を使えば発生する耐性
内在性の遺伝子が変異して耐性遺伝子になる
薬をいくら使っても、耐性菌は出現しない。
耐性遺伝子は伝達性plasmid等により獲得
薬を使えば必ず一定の頻度で耐性菌が出現。
以下の各種の耐性遺伝子
β-ラクタマーゼ
ペニシリナーゼ
セファロスポリナーゼ
メタロ-β-ラクタマーゼ
アミノグリコシド修飾酵素
アミノグリコシド リン酸化酵素
アミノグリコシド アデニリル化酵素
アミノグリコシド アセチル化酵素
16S rRNAメチル化酵素
ストマイ耐性
16S rRNAの変異
リファンピシン耐性
RNAポリメラーゼBサブユニット遺伝子の変異
イソニアジド耐性 katG, ihnA
ニューキノロン耐性 gyrA, parC
ダプソン耐性 folP1 & folP2
エリスロマイシンエラスターゼ
23S rRNAメチル化酵素
MLS耐性
マクロライド耐性
23S rRNAの変異
テトラサイクリン排出ポンプ
クロラムフェニコールアセチル化酵素
サルファ剤耐性ジヒドロ葉酸還元酵素
リネゾリド耐性
23S rRNAの変異
薬剤耐性遺伝子を媒介する伝達性プラスミドの例
薬剤耐性の伝達(二階層性)
耐性遺伝子の菌株間の伝達(ミクロ)
耐性菌
普通の菌
耐性菌
耐性菌
接合
普通の菌
耐性菌の患者間
の伝達(マクロ)
耐性菌
接触感染
( MRSA,VRE,多剤耐性緑膿菌など)
(百日咳・インフルエンザ
など)
飛沫感染
空気感染
(結核・はしかなど)
接触感染
薬剤耐性菌の発生源
耐性菌
病院環境
他施設
から侵入
増殖・伝播
耐性菌
抗菌薬
増殖・伝播
通常菌
耐性菌
抗菌薬
抗菌薬
耐性菌
耐性菌
耐性菌
耐性菌
耐性菌
耐性菌
問題
数株の耐性菌についてPFGEを行なった
ところ、明らかにパターンが異なる2種類
の株が確認された。
その解釈として
この医療施設には、由来の異なる2つの
別々の耐性株が存在し、各々感染症を引
き起こした。
○ or ×
○
MRSAや結核菌の場合
×
VREやMDRPの場合
同一医療施設から分離されたMDRPのPFGEパターンの例
M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 M 1 11 12 13 14 15 16 17 M
M:分子量マーカー
使用制限酵素:Spe I
436.5kb→
PFGEは、比較
的大きなゲノム
DNA鎖(数メガ
〜数十メガベー
スペア程度)を
制限酵素で切断
し、その切断片
の大きさや種類
などを観察する
ことで、ゲノムの
近似性を比較解
析する試験法の
一つです。
339.5kb→
242.5kb→
145.5kb→
48.5kb→
レーン1 〜 16は、同じ遺伝的な背景を持つ近縁の株で、レーン17は異なる遺伝系
列に属する株と考えられる。しかし、同一のアウトブレーク関連株である可能性は
否定できない。(解説は次頁)
PFGE: pulsed-field gel electrophoresisの略
患者B
2
患者Aの
MDRP
患者C
1
接
触
感
染
3
患者D
染色体
DNA
接合
伝達
患者Dの別
の緑膿菌
4
患者E
5
多剤耐性に関与する
伝達性plasmid
M: 分子量マーカー
レーン1 〜 5は上の図の菌株
PFGE解析結果
M
患者Dの持つ
別の緑膿菌に
plasmidが伝達
して別のMDRP
が新たに出現
1
2
3
4
5
M
株1〜5は同じ、アウ
トブレーク関連株で
あるにもかかわらず、
株4のパターンが異
なり判定の解釈が難
しくなります。
このような場合には、
plasmidの詳しい解
析が必要になります。
多剤耐性菌の蔓延や院内感染症が発生する背景
1.医療職員が少ない、多忙、繁忙
2.医療環境の限界(病室が狭い、大部屋、洗浄設備が無い)
3.抗菌薬に対する過信、感染症治療に関する無理解
4.「出来高払い制」の下では、院内感染は医療経営に貢献
5.易感染者の増加(高齢者、慢性疾患、高度医療)
6.様々な耐性菌の出現とそれらの急激な変化
7.院内感染対策に関する知識の更新の不徹底
8.院内感染対策に関する病院管理者の無理解、無関心
チェックポイント(VREによる院内感染症患者の発生時)
1.VRE保菌者、感染症患者の早期発見のための日常的体制と発見後の初動体制
2.VRE感染症患者について、感染法に基づいての行政への届け出手続き
3.VRE対策の根幹となるVRE感染患者および保菌者調査実施状況
4.VRE感染症患者の発生とともにVRE保菌者が多発した原因を解明する過程
5.VREの拡散防止策(多くは接触感染予防策)の改善と徹底
6.職員(出入りの委託業者従業員を含む)教育、講習等
7.VRE感染症患者、保菌患者、患者家族、入院患者全般への説明
8.検査機関との意思疎通、連携
9.地域や病院グループ内の専門家との連携、協力
10.内部、外部調査委員会の設置と要因分析
11.地方行政および感染研FETPとの関係
12.マスコミへの対応
13.その他、マニュアルの整備や改定など
最近、新たに問題視されている薬剤耐性
1.plasmid 性のquinolone 耐性(qnr) (Lancet, 1998)
2.広域β-ラクタム耐性を付与するβ-ラクタマーゼ (AAC, 多数)
3.E. faecium, S. aureus におけるlinezolid耐性 (Lancet, 2001)
4.vanB陽性のClostridium spp. (Lancet, 2001; JAC, 2005)
5.vanAを持つMRSA(VRSA) (MMWR, 2002; Lancet 2003)
6.16S rRNA メチレース(rmtA, rmtB, armA)(Lancet, AAC, 2003)
7.マクロライド耐性マイコプラズマ (AAC, 2004)
などなど
今後の動向が気掛かりな薬剤耐性
8.G陽性、G陰性菌双方における消毒薬、殺菌剤抵抗性
9.S. aureusのムピロシン耐性、アルベカシン耐性
10.肺炎球菌の多剤耐性化
11.薬剤排出機構の獲得による多剤耐性
12.サルモネラ、O157等の多剤耐性(CMY-, CTX-M-産生)
13.淋菌など性感染症起因菌の多剤耐性化
14.H. pyloriにおける多剤、薬剤耐性の進行
15.H. influenzae のESBL産生株の出現
16.結核菌における多剤耐性の進行( MDR-TB→XDR-TB)
薬剤に耐性や抵抗性を獲得した病原
体や媒介生物の出現と蔓延は、人類
が直面する脅威の一つである。
1.多剤耐性細菌(多剤耐性結核菌を含む)
2.抗ウイルス剤耐性ウイルス(HIV, influ V)
3.抗マラリア薬耐性マラリア
4.殺虫剤抵抗性の蚊や蠅等衛生昆虫
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