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2. 経営力の強化に向けた知的財産取組事例

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2. 経営力の強化に向けた知的財産取組事例
2. 経営力の強化に向けた知的財産取組事例
事例1:知的財産の見える化による営業力強化
Ⅰ.支援先企業のご紹介(-困ったときの白石さん-)
株式会社白石ゴム製作所は、昭和 52 年 1 月、札幌市白石区にて創業したゴム製品の製造加工メ
ーカーです。創業以来、他社製品の定期点検や修理などの現場工事を中心に事業展開し、次第に
ロット(製造時の製造数単位)の小さな製品の開発を開始しました。
また同社では、
「融雪ヒーターマット」や「超高性能ゴムマット」などの製品において、産学官
共同研究による開発実績を有するほか、ゴム以外の製品も農薬メーカーとの共同研究で「自走式
農薬散布ラジコンボート」を開発し、北海道新技術助成制度に採択されています。
一方、同社社長の千葉氏は、会社経営の傍ら、当局(北海道経済産業局)委託事業「中小企業
応援センター」において「ものづくりアドバイザー」としても活動されています。
このように多方面で活躍される千葉社長のモノづくりにかける熱意は次の言葉から窺うことが
できます。
「“困ったときの白石さん”というイメージが業界に定着することを望んでいる」
定期点検や修理などの現場工事で培った高い技術力を持つ同社は、小さな現場に活かせる技術
に徹するという方針を掲げ、発注先との信頼関係を大切にしています。
【企業概要】
企業名
:株式会社白石ゴム製作所
代表者
:代表取締役 千葉 武雄
所在地
:北海道札幌市白石区北郷 4 条 4-20-17
事業内容:ゴム製品の製造・加工、新製品開発の試作品
開発業務、上記に係る現場工事一式
資本金
:4,000 万円
従業員数:27 名
URL
:http://www.rubber.co.jp/
【補足:自走式農薬散布ラジコンボート】
自走式農薬散布ラジコンボート「ラジボー 」は、無線操作
で水田の水面上を滑走しながら、水稲除草剤などの液体を散
布するラジコンボートです。
リモコンで船底から水中に散布する方式を採用しているた
め、空中に飛散せず、人と環境に配慮した製品です。
【ラジボー 】
3
Ⅱ.知財に対する当初の意識(-当社に知的財産と言えるものはないだろう-)
同社は創業以来、機械製品の定期点検や修理を 24 時間体制で対応しています。
30 年以上に亘るこれら現場工事の経験は、高い技術力として蓄積し、発注先から「シロイシさ
ん」と慕われ強い信頼を得ています。また、千葉社長は、創業前にはゴム製品メーカーの大手販
売会社に勤め、トップ営業マンとして表彰される程の営業力を持っています。このように同社は
高い技術力と社長の強い営業力を持ちながら、千葉社長は、他社製品を修理し、ロットの小さな
製品を開発し続けている 同社に、
「知的財産」と言えるものはないだろうと考えていました。すな
わち、
「知的財産」とは、特許出願を頻繁に行っているような大手企業が保有している財産であり、
規模の小さな会社にはあまり縁のない財産(法制度)として考えていたのです。
Ⅲ.支援チームの着眼点(-技術力と営業力は当社の知的財産である-)
支援チームでは、お客様に信頼されている技術力と、千葉社長を中心とした独特の営業力とは、
同社に潜在する「知的財産」だと考えました。そして、今後同社の事業が一層発展するためには、
潜在している「知的財産」を社内で共有できるよう見える化を図るとともに、その「知的財産」
を防衛し、営業力の強化に活かすことが重要だと考え、検討を開始しました。
同社は、「ラジボー 」の技術を応用し、新たなマーケットの開拓を考えており、支援チームは
ビジネスとして成立する可能性の高いビジネスモデル、マーケットを開拓する上で予想される技
術や情報の流出に対する防衛策について検討しました。また、同社は創業以来、千葉社長による
独特の営業力に基づいた業務受注の機会にも恵まれてきました。一方、同社は、現場工事を経験
した技術者を営業担当者に抜擢するという方針を掲げているものの、営業に馴染めず辞めてしま
うという状況が 5 年ほど続き、営業担当者を増やせないでいました。このため、今後、更に同社
の事業が発展するためには、会社を組織化して千葉社長に属人化した営業手法を共有化し営業体
制を強化することが必要だと考えました。そこで、支援チームは、他社からの知的財産の「防衛」
と「営業力強化」を図る上で課題となる点について整理し、改善策を提案しました。
【経営課題と改善提案】
同社の経営課題と支援チームが提案した改善策は以下のとおりです。
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経営課題
改善提案
・農薬メーカーと共同で開発した「自走式農薬散布
ラジコンボート」の技術を応用し、新たなマーケ
ットを開拓したいと考えている
【提案事項1】
・他社と連携したビジネスモデルで
新たなマーケットを開拓するとと
もに、連携前にビジネスモデルを特
許出願することによって抜け駆け
を防止
・社長の人脈をこれまで社員に伝授してこなかった
・現場工事を経験した技術者を営業担当者に抜擢す
るという方針があるが、営業に馴れずに辞めてし
まうという状況が5年ほど続いている
【提案事項2】
・知的財産・資産の見える化による
営業力強化
Ⅳ.支援チームの提案(-知的財産の防衛と営業力強化-)
【提案事項1:知的財産の防衛】
まず、同社の主力製品となっている、水田に除草剤を散布するために開発された、遠隔操作に
よるラジコンボートの技術を応用したビジネスモデルを検討しました。このビジネスモデルは、
一社完結が困難なモデルであるため、他社と連携する必要があります。しかし、他社へ技術や情
報が流出する可能性があるため、連携する前に特許出願を完了させるよう提案しました。
特許制度には、
“国内優先権”といわれる制度があります。この制度は、一度出願した発明に対
し、1 年以内であればその発明を改良し、最初の発明と改良発明とを併せた新たな特許として出
願(いわば差し替え)することができるという内容です。つまり、具体化前のアイデアであって
も、1 年以内に再度出願すれば先願権が認められ、最初に出願した時点から当該アイデアを防衛
することができます。この制度を活用することで連携する他社が抜け駆けをしようとしても、特
許が成立すれば勝手な事業化を止めることができ、結果として抜け駆けを防止する効果がありま
す。
■国内優先権の主なメリット
特許出願A
内容:基本発明
優先期間:1年間
【主なメリット】
・内容Aの先願権確保
特許出願B
内容:改良発明
・内容の見直しによる訂正、補充、拡大が可能
・競合企業やパートナーの抜け駆けを防止する
【提案事項2:営業力強化】
また、営業力の強化を図る上では、千葉社長に属人化した営業力を社員へ伝授し、組織のノウ
ハウとして確立させる必要があります。千葉社長は、トップ営業マンの時代から現在に至るまで、
多種多様な人脈を築いてきました。千葉社長個人の人脈は、同社にとって重要な知的財産(知的
資産)であり、これを会社の財産として残すことは、会社の発展(または事業承継)にとって有
益なものと考えました。そこで、支援チームは社長の人脈を会社の資産として残す方法として、
「社長の『人脈マップ』
」の作成を提案しました。
「社長の『人脈マップ』」とは、社長の築いてき
た人脈を人物関連図の形で図式化したものであり、いわば、社長が築いてきた知的資産を社内で
共有できるよう見える化したものです。これを作成すれば、社長が築いてきた知的財産を分かり
やすい形で会社内部に残せます。すなわち、一身専属的な財産である「人脈」を継承するツール
として社員も理解し、活用しやすくなります。金融機関などの外部に対しても、色々な効果が期
待できます。
さらに、営業力強化のためのツールについても提案しました。同社は、『 @rubber.co.jp 』の
ドメインをいち早く取得し、ホームページを作成しています。ドメイン名を強調する名刺、会社
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案内を作成することで、
「ゴムといえば白石」というイメージづくりに用い、知的財産としてのド
メイン名を役立てていくことが考えられます。
また、会社案内も有効な営業ツールと捉え、同社の「技術力」、「提案力」、「人物写真」、「取引
先等のコメント」、「キャッチフレーズ」の要素を加えたり、TPOに合わせた加除式とするなど
顧客に合わせてカスタマイズすることを提案しました。
さらに、これまで同社では、OBが同社の技術力を口コミしてくれ、そこから受注するケース
がありました。そこで、OBを外部の営業マンと位置づけ、かつて同社に在社していた者(ここ
ではインターン学生を含む)を組織した白石OB会の結成を提案しました。
Ⅴ.提案を受けての支援企業の動き
支援チームからの提案を受け、千葉社長はラジコンボートの技術を応用したビジネスモデル
を検討し、特許出願を完了しました。また、社長の人脈マップや会社案内の改訂を進めるとと
もに、職務発明制度に沿った勤務規則や営業秘密管理規程などを整備し、営業体制の強化に努
めています。
「知的財産」は大手企業だけのものと考える中小企業は少なくありません。しかし、企業規
模の大きさに関わらず、自社がお客様から選ばれている理由の中に自社の「知的財産」が必ず
発見できます。今回の支援は、中小企業が知財を発見し、経営に活かす上で参考となる事例だ
ったと思います。
千葉社長からのコメント
的場チーム長からのコメント
少量多品種の製品を「知財
と捉える」と言う考え方がと
ても感動でした。
私共の製作する少ない物
は「特許費用が出ない」と考
えておりましたので今回の支援事業は今後の経
営に大きな光と従業員のモチベーションを上げ
る事が出来そうです。支援の内容を実行し、更
にお客様の目と耳に触れる企業を目指す決意で
おります。ありがとうございました。
社の内外を問わず周りの人の成長に気を配り
続ける社長様の姿が、社風を作っている根幹で
あろうと感じました。
そうした社風は知的財産である、と私が断言
することから始め、その財産を見易く使い易く
することが今回の私たちのミッションであろ
う、と捉えて活動してきたつもりですが、如何
だったでしょうか。
企業ヒアリングの模様
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事例2:海外展開を見据えた知的財産戦略
Ⅰ.支援先企業のご紹介(-海外展開を見据えるバイオマテックジャパン-)
バイオマテックジャパン株式会社は、平成 18 年 5 月、釧路市内にて創業したバイオベンチャー
企業です。同社社長の工藤氏は、創業前、サケの軟骨(氷頭)からプロテオグリカンを抽出する
技術「発明の名称:プロテオグリカンの製造方法」を財団法人釧路根室圏産業技術振興センター
と共同開発し、量産化に成功しています。また、プロテオグリカンの薬理作用を応用した細胞組
織促進剤、HA合成促進剤等の研究開発のほか、サケの軟骨からコラーゲンの抽出も行っています。
プロテオグリカンの用途としては、
「化粧品原料」
「医薬品・人工臓器等の一次原料」
「機能性食
品・サプリメント原料」
「研究用試薬等」が期待されています。
こうして世界でも類を見ないプロテオグリカンの量産化に取り組む同社において、工藤社長の
チャレンジ精神は次の思いに凝縮されています。
「質の高い当社のプロテオグリカンを世界中に広めたい」
この信念のもと、同社では海外展開を見据え、既に国際特許出願し複数の国において特許を取
得しています。
【企業概要】
企業名
:バイオマテックジャパン株式会社
代表者
:代表取締役
所在地
:北海道釧路市新野 24-1056(釧白工業団地)
工藤 義昭
事業内容:動物・植物由来の蛋白質、脂質、糖質及び
それら複合体の生産及び販売
資本金
:6,000 万円
従業員数:12 名
URL
:http://www.biomatecjapan.com/
【補足:プロテオグリカンとは】
プロテオグリカンは、コラーゲンやヒアルロン酸とともに
精製・濃縮
軟骨を形成する重要な成分であり、非常に高い保湿性を有し、
軟骨にクッション性を与えています。高齢者に多い「変形性
抽出
関節症」は加齢によるプロテオグリカンの減少、再生能力の
減退が原因であると考えられています。肌の保水効果を高め
【プロテオグリカン】
【鮭鼻軟骨】
る化粧品やさまざまな生理機能を持つ医薬品原料として注目
されていますが、同社が開発するまで効果的な抽出方法はな
(氷頭)
【鮭頭】
く、量産化が困難な状況にありました。
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Ⅱ.知財に対する当初の意識(-有利に進める海外展開の方法と認知度の向上-)
同社が開発する以前にも鮭からプロテオグリカンを抽出する技術は既に存在していましたが、
抽出量が少なく生産性が低いという問題がありました。そのような状況の中、同社が共同開発に
よって量産化に成功したことにより、同社の「プロテオグリカンの製造方法」は業界から注目を
集めるようになりました。
既にいくつかの国の企業から引き合いがきており、同社はこの機会を逃さず世界市場に主力の
コンドロイチン硫酸型プロテオグリカンを広めたいと考えています。
一方、これまで海外企業との取引実績はなく、取引を進めるにあたりどのような点に注意すべ
きか、取引を有利に進めるための方法とはどのようなものか知識を深めておく必要がありました。
また、同時に一層の市場拡大を図ることを考えると、プロテオグリカンの認知度を高めること
こそが最大の経営課題だと感じていました。
プロテオグリカンの認知度を高めることでプロテオグリカン市場における同社のシェアも高ま
ると考えていたのです。
Ⅲ.支援チームの着眼点(-戦略的な事業展開が大事-)
支援チームでは、海外を含めた市場で同社が有利に営業を進め、市場でのポジションを確立し、
シェアを高めていくためにはどのように事業を進めていくべきかに着眼し検討を開始しました。
同社のプロテオグリカンを抽出する技術は、抽出量と質において優位性がある素晴らしい技術
ですが、一般的に特許の価値だけでビジネスが成功し続けることは難しく、永続的に企業が発展
するには戦略的に商品開発を進め、営業を展開することが重要になります。
そこで、支援チームは、同社へのヒアリングを通じて、自社と競合他社が保有するそれぞれの
特許の内容について認識を深め、戦略的な事業を展開する上で課題となる点について整理し、改
善策を提案しました。
【経営課題と改善提案】
同社の経営課題と支援チームが提案した改善策は以下のとおりです。
経営課題
改善提案
・特許権「プロテオグリカンの製造方法」は工藤社
長と釧路工業技術センターが保有しており、同社
は両者から許諾を受けて製造している
【提案事項1】
・安定した権利関係を構築するため
に特許権の一部を同社に譲渡
【提案事項2】
・戦略的に営業するためのタイムス
ケジュールとパテントマップの作
成
・認知度を高めるための広報戦略、
オープンクローズ戦略の策定
【提案事項3】
・営業秘密管理のための社内規則の
確立と広報原稿の作成
・世界的にも優位性のある特許権を持っているもの
の、戦略性のある営業活動を実施していない
・市場におけるプロテオグリカンの認知度が低い
・営業秘密の管理については重要性を認識している
ものの、管理のための社内規程等が整備不十分で
ある
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Ⅳ.支援チームの提案(-特許権持ち分の再整理と戦略的な事業展開-)
【提案事項1:特許権持ち分の再整理】
まず、特許権「プロテオグリカンの製造方法」の持分※についてヒアリングすると、財団法人
釧路根室圏産業技術振興センターと工藤社長が半分ずつ保有し、バイオマテックジャパン社(以
下「BMJ社」という)は同センターと工藤社長より許諾を受けてプロテオグリカンの製造を行っ
ているという状況が明らかになりました。
つまり、現時点での取引は個人と取引先企業との契約という状態です。個人の信用度は企業と
比べると低く、一定以上の規模の企業や国と契約する際、相手が個人だと警戒され、契約に時間
がかかる、または先に進まない可能性があります。
そこで支援チームは、下図のとおり特許権の一部をBMJ社へ譲渡すべきと提案しました。
※持分:共有関係において各共有者が共有物について持つ権利、またはその割合
■特許権持分の現状と今後
【現状】
【今後】
■特許権者
工藤義昭氏
工藤義昭氏
(財)釧路根室圏産業
技術振興センター
(財)釧路根室圏産業
技術振興センター
BMJ社
実施権の許諾
BMJ社
安定した取引
現状取引
国内外の取引相手
【提案事項2:戦略的な事業展開】
また、戦略的な営業を展開する上では、事業毎にタイムスケジュールを立てることが重要にな
ります。タイムスケジュールの作成担当者を決め、事業毎に「いつまでに」「誰が」「何をするの
か」関係者で相談しながら営業計画を立てることと同時に、今後の事業方針についてはパテント
マップを参考にしながら計画することを提案しました。パテントマップとは、特許公報、公開特
許公報などの特許情報を目的に応じて抽出、加工し、視覚的に理解できるように図表化したもの
です。当該マップを作成することで、特許出願が集中している部分と希薄な部分とが把握でき、
自社製品の競合状況の把握や今後の進出分野を選択することが可能となることから、製品開発を
検討する際、非常に有効です。
一方、プロテオグリカンの認知度向上に向けては、広報戦略として検討対象国の企業との契約
が締結できた時点で、その契約実績を最大限活用し、ニュースリリース、記者発表を実施するな
どし、大々的で有効なPRを実施することを提案しました。さらに、自社製品の認知度を向上させ
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るためには、製品のネーミング について取引相手の記憶に残りやすく、製品の特性が伝わるよう
な短くてセンスの良い名前を付けることが重要です。文字数については、日本人の感性に合う奇
数(5 字、7 字など)が望ましいといえます。
海外からの引き合いが増え、海外取引の増加が予想される同社では、同社の「プロテオグリカ
ンの製造方法」を世界標準にすることを狙っています。国際標準化を図るためには内容をオープ
ンにする技術とクローズにする技術を戦略的に使い分けていくことが重要になります。
提案事項3:営業秘密管理
同時にこれまで培ったノウハウの漏洩については、細心の注意をはらう必要があります。支援
チームは、従業員との秘密保持契約を引き続き行うほか、就業規則にて営業秘密管理の規則を明
確にすることを提案しました。また、社長が自社をマスメディア等へ広報する場合には、ノウハ
ウとそうではない技術を選別し、事前に原稿を用意し説明することでノウハウの漏洩を防ぐとい
った工夫について提案しました。
Ⅴ.提案を受けての支援企業の動き
支援チームからの提案を受け、工藤社長はBMJ社へ自身が保有する特許権の一部を譲渡す
ることを決め、財団法人釧路根室圏産業技術振興センターと相談し、同センターはBMJ社に
対する特許権の一部譲渡について承諾しました。
また、タイムスケジュールやパテントマップの作成を日常業務の中に取り入れ、戦略的な事
業展開を実施しはじめました。
最近になって海外からの引き合いが急激に増え始めた同社に対し、社長ご自身のコメントに
あるように絶妙なタイミングでの支援となりました。優位性のある特許権を持ち、海外展開を
見据えた知財戦略を備えた同社の今後の活躍が楽しみです。
工藤社長からのコメント
吉田チーム長からのコメント
今般先生方のご助言によ
り、会社として特許権を持つ
ことができたことが最大の
収穫でした。また会社として
知財を持っていることが重
要なことではなく、それをどうビジネスに活か
してゆくかが大切なのだ、ということを明確に
アドバイス頂いたことも大きな収穫でした。 社
内の知財に対する意識も大きく変わりました。
最近急激に海外からの引き合いが多くなり、絶
妙のタイミングでご指導受けられたことに感謝
致しております。
バイオマテックジャパン㈱(BMJ社)は、
サケの軟骨(氷頭)からプロテオグリカン(P
G原料)を抽出するプラントを建設し、良質な
PG原料を効率的に量産化できています。PG
原料の量産化技術に関しては、日本及び諸外国
に特許権(出願中を含む)を確立していますの
で、BMJ社を特許権の共有者とすることを強
く勧めました。PG原料は幅広い用途があり、
外国特許権も活用すべきです。
企業ヒアリングの模様
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事例3:知的財産のブランド戦略と秘密管理
Ⅰ.支援先企業のご紹介(-知財の権利化に積極的なスリービー-)
株式会社スリービーは昭和 60 年 4 月、空知郡南幌町元町にて創業した食品メーカーです。
同社は、
“だしの王様”といわれるほど旨み豊かでありながら、北海道の短い夏のわずかな間に
しか採れず希少な存在であった 「たもぎ茸」の人工栽培技術の開発を、北海道立旭川林産試験場
との共同研究により成功させ、平成 17 年に「エルムマッシュ 291」として品種登録しています。
生産から加工・出荷・製品までトータルにシステム化しており、創業以来、全国の「財団法人
学校給食会」1 道 2 府 35 県に「たもぎ茸水煮」を納入している実績は「食歴の安心」の証として
高く評価され、農林水産大臣賞を受賞しています。
今後の知的財産経営について、石田社長の思いは次の言葉に反映されています。
「戦略的・自立的な知的財産経営の取り組みに力を入れていきたい」
この意思のもと、同社は特許 2 件、特許出願中 2 件、商標 7 件を保有し、知財の権利化に積極
的に取り組んでいます。
【企業概要】
企業名
:株式会社スリービー
代表者
:代表取締役 会長 吉成 篤四郎
代表取締役 社長
所在地
石田 真己
:北海道空知郡南幌町元町 1 丁目 1 番 1 号
事業内容:生茸生産販売、レトルト加工製品製造販売、
有効成分の抽出販売
資本金
:1,000 万円
従業員数:45 名
URL
:http://www.three-b.co.jp/
【補足:たもぎ茸とは】
たもぎ茸は、北海道の道東、道北地方で採れる黄金色のヒ
ラタケ科食用キノコです。森の中に自生するが、短い夏のわ
ずかな間にしか採れないことから「幻のキノコ」と呼ばれて
いました。
「だしの王様」と呼ばれるほど旨み成分を豊富に含
むほか、免疫力をサポートする「βグルカン」や、皮膚の保
湿効果やアトピー性皮膚炎の抑制効果などがある「セラミド」
が多く含まれ、近年注目されている食用キノコです。
【たもぎ茸】
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Ⅱ.知財に対する当初の意識(-知的財産の付加価値を高めたい-)
同社は、たもぎ茸を平成 20 年度で 293 トン生産し、北海道内 86%、全国 70%のシェアを占める
トップシェア企業であり、自社敷地内に生産工場を設置しています。
また、食用キノコの人工栽培は種菌メーカーから菌を購入することが一般的ですが、同社では
菌から開発し、
「生茸生産販売」
「レトルト加工製品製造販売」
「有効成分の抽出販売」を主な事業
として展開しています。
キノコの栽培は装置産業であり、大きな設備投資が必要です。また、栽培するにあたり温湿度
管理等を徹底する必要があり、原油価格が高騰すれば光熱費が年間数千万円程度上がります。
キノコの生産量を変化させずに売上を伸ばすためには、製品の付加価値を高める必要があると
感じています。
Ⅲ.支援チームの着眼点(-知的財産のブランド戦略と営業秘密管理体制が重要-)
支援チームでは、知的財産の付加価値を高めるためには、具体的にどのようなことから進めて
いくべきかに着眼し検討を開始しました。
同社は、「『食』を通じて、人々の健康や地域社会に貢献できる商品作りを行い、社会から必要
とされる企業になろう」という企業理念のもと、旨み成分を豊富に含み、皮膚の保湿効果やアト
ピー性皮膚炎の抑制効果がある「セラミド」を多く含むたもぎ茸の人工栽培の技術を有していま
す。
一方で、
「たもぎ茸」の機能性の高さについては市場から十分に認知されているとは言えず、今
後は商品の積極的なブランディング戦略に取り組む必要があります。
また、たもぎ茸の人工栽培の技術は知的財産であり同社の強みでもあるため、営業秘密として
管理する必要があります。
そこで、支援チームは知的財産の「ブランド戦略」と「営業秘密管理体制」について、同社へ
のヒアリングを重ね、戦略的な事業を展開する上で課題となる点について整理し、改善策を提案
しました。
【経営課題と改善提案】
同社の経営課題と支援チームが提案した改善策は以下のとおりです。
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経営課題
改善提案
・キノコの栽培は装置産業であり、栽培には大きな
設備投資が必要である
・キノコの生産量を変化させずに売上を伸ばすため
には、製品の付加価値を高める必要がある
【提案事項1】
・販売単価を上げるためのブランド
戦略の実施
・営業秘密の管理については重要性を認識してお
り、更なる強化を目指している
【提案事項2】
・営業秘密区分の整理と適切な管理
方法
Ⅳ.支援チームの提案(-ブランド戦略と営業秘密の管理-)
提案事項1:ブランド戦略
まず、たもぎ茸とその由来のサプリメント等の製品について、商標権、意匠権をもってのブラ
ンド戦略の重要性と方法について提案をしました。商品、サービスについては、出所、品質、広
告、宣伝の識別性による社会的な認知度の向上、そして信頼性の獲得が重要となります。ブラン
ド戦略によって、同社の企業理念が周知され、ステイタスが確立され、消費者(ユーザー)に安
心感、信頼感をもたらすことになります。
また、ブランド戦略においては意匠も重要な役割を果たします。例えば包装パッケージそのも
のが意匠権として登録することが可能であり、形状とともに色彩(色調)もブランド構築の重要
な要因です。この点において、たもぎ茸の黄金色は大変に特徴があるため、この色調の戦略化が
望まれます。今後はあらゆる手段(パンフレット、リーフレット、ホームページ、パッケージ、
キャラクター等)において考慮し、ブランドとしてパッケージそのものの意匠権の取得も積極的
に考慮するべきです。
提案事項2:営業秘密の管理
次に営業秘密の管理に関する提案を行いました。たもぎ茸の人工栽培、抽出、そして機能性サ
プリメントへの応用においては、技術的にはノウハウ、秘密保全が決定的な重要性を有している
と判断されます。特許と秘密管理は企業成長のための戦略的両論として欠くことができません。
営業秘密とは「自社の強みとなる知的財産」のことであり、
「①製品等を完成させるための技術・
ノウハウ」、
「②営業活動に関する情報」、「③顧客情報」などが挙げられます。
■営業秘密の内容
①製品等を完成させるための技術・ノウハウ
ⅵ.有力販売先情報
ⅰ.研究開発情報(技術開発・試験記録等)
ⅶ.販売協力先(代理店、FC 等)情報
ⅱ.製造プロセス、段取りに関する情報
ⅷ.競合先(分析)情報(動向、販売価格等)
ⅲ.製品仕様書(構造、成分内訳等、規格書) ⅸ.市場動向、トレンド(分析)情報
ⅳ.工場設備情報・レイアウト情報
③顧客情報
ⅴ.製造協力先・下請事業者の情報
ⅰ.顧客との打合せ資料
②営業活動に関する情報
ⅱ.顧客から受け取る各種資料及び情報
ⅰ.仕入先の品目、数量、価格情報
ⅲ.顧客との各種契約情報及び契約内容
ⅱ.販売先の品目、数量、価格情報
ⅳ.顧客企業(個人)情報リスト、担当者情報
ⅲ.製品、商品、サービスに対する利益額(率)
ⅴ.顧客からのクレーム資料
ⅳ.営業日誌(訪問履歴、報告書等)
ⅵ.顧客別の製品・商品・サービス販売(提供)
情報及び履歴
ⅴ.セールス資料(見積書、プレゼン資料等) ⅶ.顧客の経営計画情報等
経済産業省「営業秘密管理指針」改訂を参考に作成
また、営業秘密は、主に次表に挙げる5つの方法で管理する必要があります。これらの管理方
法を適切に取り入れることは、独創的な技術や商品、サービスを展開しようとする同社にとって
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は、自由競争での大企業やグローバル市場への対抗手段として、また今後の成長のためにも必須
の要件だと言えます。
■実施することが望ましい営業秘密管理方法
内容
①秘密指定
・取り扱う情報の内容に基づき、「極秘」「厳秘」「秘」等に区分し指定する。
②アクセス権者の指定
・情報の機密性を確保するため、情報のアクセス権者を任命し、社内には文書等でア
クセス権者の氏名等を周知する。
③物的・技術的管理
・情報媒体へ秘密指定(「極秘」「厳秘」「秘」)を表示するほか、当該媒体は入退室管
理された施設へ保管することが望ましい。
・電子情報については、アクセスに用いるパスワードを設定するほか、当該情報が保
存されるパソコンについてはインターネット接続しない。
④人的管理
・就業規則にて営業秘密を管理する際の規則を明確にする。また、採用時と退職時
には秘密保持義務の誓約書を締結する。
⑤組織的管理
・代表者自らが基本方針を策定し、社内へ周知する。また、責任者を選任し育成する
ほか、定期的に内部監査、必要時に外部監査を受ける。
経済産業省「営業秘密管理指針」改訂版を参考に作成
Ⅴ.提案を受けての支援企業の動き
機能性サプリメントの領域では、特許権としての広い権利範囲を確保することは一般的に容
易ではなく、中核(コア)となる特許出願を戦略的に行うことが重要です。
支援チームからの提案を受け、同社は「企業経営における知的財産戦略の位置づけ」と「営
業秘密の管理体制」の整備を進めるとともに、中核となる知財の権利化に向けた特許出願の準
備を進めています。
石田社長からのコメント
西澤チーム長からのコメント
弊社は特許 2 件、特許出願
中 2 件、商標 7 件と知財の権
利化については経営資源を積
極的に投下し、知財戦略的企
業経営の視点を持っているつ
もりでいましたが、明らかになったことは、
「知
的財産戦略の経営戦略における位置づけ不明確
と管理・運営体制の未整備」という経営課題で
した。本事業支援でご提言いただきました、
「戦
略的・自立的な知的財産経営に取り組み」強い
競争力を持つ企業経営実現に邁進いたします。
北海道の特色のある「たもぎ茸」をブランド
としての成長可能性は大きいと思います。
特許、営業秘密、そしてブランド戦略への行
程を大胆に、かつ着実に進めることが望まれま
す。
大いに期待しています。
企業ヒアリングの模様
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事例4:知的財産群をベースとした事業戦略の展開
Ⅰ.支援先企業のご紹介(-フォローアップ支援企業-)
株式会社昭和冷凍プラントは、「平成 20 年度地域における知財戦略策定支援人材育成事業」に
おける支援先企業であり、本年度は一昨年度に実施した支援のフォローアップとなります。
同社は、昭和 57 年 1 月大手冷凍設備会社の倒産を機に、釧路出張所長の現代表者により設立さ
れました。当初は、漁船の冷凍設備を主体に製作施工を行っていましたが、取り巻く水産情勢の
変化もあり、陸上での冷凍設備へと業容転換を図ってきたもので、現在は水産加工業者を主体と
し、窒素ガスを封入した氷(窒素氷)を中核とした事業展開で成長を遂げています。
窒素氷の製氷システムの研究・開発は、平成 19 年北海道経済産業局の「ものづくり地域貢献賞」
を受賞、平成 20 年経済産業省・中小企業庁の「元気なモノ作り中小企業 300 社」に認定されるな
ど、高く評価されています。
優れた技術を発明した若山社長の今後の抱負は次の言葉に凝縮されています。
「『窒素氷』で食の安心安全を全国に発信していきたい」
食の安心安全を窒素氷で実現したいという信念のもと、産地から消費地までの全流通過程に対
する営業を積極的に展開しています。
【企業概要】
企業名
:株式会社昭和冷凍プラント
代表者
:代表取締役 若山 敏次
所在地
:北海道釧路市南浜町 8 番 6 号
事業内容:陸上・船舶冷凍冷蔵設備、製氷冷房設備、
一般工業用各種冷却装置、
各種圧力容器熱交換器、一般産業用機器、設計・制作・施工
資本金
:1,500 万円
従業員数:10 名
URL
:http://www.showareitou.jp/
【補足:窒素氷とは】
窒素ガスを封入した酸素を含まない氷で、鮮魚の保管や輸
送の際に起こる酸化を抑制し、魚介類の鮮度低下を防ぎます。
窒素氷を発泡スチロール箱詰めに使えば、魚介類をより新
鮮な状態のまま遠隔の消費地へ届けることが可能であり、窒
素氷製氷システムの導入企業は販路拡大やブランド化を目指
しています。
【窒素氷】
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Ⅱ.知財に対する前回支援後の変化(-知財担当者の任命-)
前回の支援前は、従業員 9 名のほとんどが現場でのプラントの建設及びその保守や点検整備に
携わる技術系職員であり、内部管理体制は、十分とは言えないものでした。
そこで、前回の支援では知的財産権の管理及び知的財産の情報管理について、事務系職員が一
週間に数時間は必ず特許庁の特許電子図書館の検索を行い、インターネット上で同社の特許に関
する用語を入力し同社の特許に対する侵害がないかを注意深く管理し、その結果を社長に対し報
告することなどを提案し、同社は現在も提案内容を受け入れ、実施していました。
知財管理の変化については社長自らが知財に対する重要性を認識したことが大きく、従業員の
うちの一人を知財担当に任命し、現場での作業を減らし知的財産権の管理及び知的財産の情報管
理に時間を費やすようにしました。当該知財担当者によって作成された「窒素氷に関するより詳
細なパンフレット」は、今後の窒素氷の広告に役立つことが期待されています。また権利侵害に
ついてもインターネット上で明らかに同社の特許に侵害している技術を発見するなど、知財担当
者の人材育成についても一定の効果が現れてきています。
以上のように、前回の支援前と比べると飛躍的に改善されていると言えます。
Ⅲ.支援チームの着眼点(-知的財産の価値の把握が大事-)
支援チームは、知的財産の重要性を認識し知財担当者を任命した同社が、さらなる成長を図る
ために今後どのようなことに取り組むべきか検討し、フォローアップ支援を開始しました。
前回支援後、同社が開発した窒素氷は、メディアに取り上げられる機会が増えたものの、窒素
氷の価値について一般的に浸透しているとは言い難く、一層の事業拡大を図るには、鮮魚の鮮度
革命につながる氷である点を広く事業者および消費者に浸透させることが重要です。
支援チームは、本フォローアップ支援において、窒素氷の価値を評価するとともに、窒素氷が
その特徴を鮮魚流通に関わる事業者や消費者に認知されるための営業展開の方法について検討し
ました。
【経営課題と改善提案】
同社の経営課題と支援チームが提案した改善策は以下のとおりです。
経営課題
・特許と事業の価値を把握し、営業に活かしたいと
考えている
・魚の鮮度を保つために漁の時点から消費者の手元
まで氷が使用されており、同社としては一連の流
通過程で使用される氷に窒素氷が代わって使用
されることを望んでいる
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改善提案
【提案事項1】
・営業力強化のための特許と事業の
価値評価の把握
【提案事項2】
・鮮魚流通に関わる事業者および消
費者に対する窒素氷の浸透に向け
た効果的な方法
・商標を活用したシールを漁業流通
のプロセス毎に使用
Ⅳ.支援チームの提案(-知的財産の価値評価と営業力の強化-)
提案事項1:知的財産の価値評価
経営力強化の一環として、特許の価値評価について提案しました。適切な特許や事業の価値評価
は、販路拡大を目指す企業にとって有効です。特許の価値を評価する上で指標とした評価項目と
結果は以下のとおりです。
評価項目
①
②
③
④
⑤
権利自体の評価(特許
権利化状況+権利の存
続期間)
発明の技術的性格
代替技術との技術優位
性
事業規模
特許の事業への寄与度
評価結果のまとめ
本発明は、漁業において重要な課題である「漁獲物の鮮度保持」に効果を発揮
するものであり、大気中に多く存在する窒素ガスを用いて酸化抑制等の作用を示
すことから安全性が高く、操作も比較的簡単であるため、現場に容易に受け入れ
られる要素を持っていると考えられる。今後の代替技術出現については推測する
ことは難しいが、現在、周辺技術の権利化が検討されており、これらが達成され
ることで本発明技術の優位性を更に強化することが可能である。事業規模につい
ては、冷凍機を小型化するとともに低価格化についても検討し、10t 未満の漁船
に積載することをより容易にすることができれば、更なる市場の拡大が見込まれ
る。昭和冷凍プラント社の新規事業の基盤を形成している本発明は、様々な面で
優位性を持っており、須貝チーム長がこれまでに行った知的財産に関する評価結
果(約2千件)のなかでも、最高のランクに位置する評価結果となった。
特許権等の経済的価値評価については、数多くの手法が開発されていますが、評価要素として
のデータ・パラメーターの把握が困難なものや計算に膨大な労力と時間を要するものが多いとい
えます。そこで、今回はより実務での使用に適していると思われる以下の手法で評価を実施し、
いずれも当該企業は、高い価値評価結果が得られました。
評価手法
①
実施料率をベースとし
た経済価値評価
実施料率によるこの方式は、技術導入契約等の実施許諾契約において採用され
る実施料率を適用するもので、各種データの統計処理により数値間の比較が容易
であるという特徴を有し、説得性もある。市場流通例の多い不動産業界ではよく
用いられているもので、下記の式で表すことができる。
【現在価値=Σ{(Sn×r)×1/(1+ί)n}】
<Sn=各年度売上高(百万円)、n=期間※1、
・r=実施料率(%)
、ί=割引率(%)
※2>
② フリーキャッシュフロ
当該知的財産権・特許権が今後 n 年間にわたって創出すると予想されるキャッ
ーをベースとした経済 シュフロー(CF※3)を現在価値に換算し評価する方法で、下記の式で表すこと
的価値評価
ができる。
【現在価値=Σ{CFn/(1+i )n}】<CF=キャッシュフロー(百万円)>
※1 期間 :当該技術・特許等の存続期間・経済的耐用年数や減衰性(権利の安定性、技術の停滞・陳腐化)等も
考慮に入れて検討する。
※2 割引率:割引率を構成する要素としては、金利及びマーケットリスク等がある。実務的には当該技術・特許等
の特性を考慮しながら、ある推定数値(例えば 10%)を適用する。
※3CF :キャッシュフローの略。キャッシュフローとは会社が稼いだお金から会社が活動するのに必要
なお金を差し引いた、余剰資金のことであり、企業財務の健全性を示す指標の一つ。
提案事項2:営業力の強化
また、営業力の強化策として 鮮魚流通に関わる事業者および消費者へ窒素氷を浸透させる方法
について提案しました。方法としては、メディアの取材も引き続き受け続けて露出を継続的に行
うとともに、ホームページやブログ等も活用し、窒素氷の効果と必要性を科学的データに基づき
分かりやすく伝えていくことが重要です。さらに、真の鮮度保持物流を達成するためには産地から
消費地まで全ての流通過程において、窒素氷システムによる物流網が構築されなければなりませ
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ん。このような全ての流通過程において窒素氷を導入することを考えると、まず取り扱い魚種の
高付加価値化を進める必要がある漁協単位での売り込みや製品に付加価値をつけたい大手の水産
加工会社へのシステム提案が有望です。鮮魚流通プロセスでは、A船上→B港・魚揚場→C鮮魚
卸→D発泡詰め→E小売店頭→F消費者といった流れをたどります。各プロセスでは製氷工場か
ら買った窒素氷を使う場合と、製氷機械そのものを取り付けて使う場合とがありますが、それぞ
れのプロセスで機械の形状や性能も変わってくるため、それに応じた製品ラインの開発が必要で
あり、顧客の内容に応じた柔軟な提案が求められます。
また、この他に、新たな経営資源を多量に投入することなく利益の増大が図れることなどから、
中小・ベンチャー企業の有効な事業戦略としてライセンス戦略も考えられます。同社は、本発明
に用いる窒素ガス封入氷や、処理した魚介類に対して使用することを目的とした商標登録出願を
併せて行っており、本技術を独占的に実施している現況において、これらの標章をシールに印刷
したものを販売し、上記A~Eのどのプロセスで窒素氷が使われたかを示す等も検討の余地があ
ります。
Ⅴ.提案を受けての支援企業の動き
同社は、支援終了後の昨年 12 月、静岡県沼津市の設備会社と窒素氷に関する事業全般のライ
センス契約を締結し、当該設備会社は窒素氷の製造施設や販売など関連事業を静岡、神奈川、
愛知で独占営業する計画で、既に沼津魚市場が導入を検討しています。また窒素氷の評判を聞
きつけた国内や諸外国の企業からの問合せが多くなっており、同社は着々と道外への販路開拓
を計画し、実施しています。前回支援後から知財の重要性を認識され知財担当者を専任した同
社は、特許の価値評価を営業に活用し、知財を経営に活かす取り組みを実行しています。
若山社長からのコメント
須貝チーム長からのコメント
今回は平成20年度の知
財戦略支援のフォローアッ
プという事で再度支援事業
を行っていただき、さらに特
許の価値評価までしていた
だき感謝しております。今後は「窒素氷」をよ
り消費者に浸透させるため、商標などを効果的
に使用し、また周辺技術の再構築に取り組み特
許網をさらに確立していき、
「窒素氷」で食の安
心安全を全国に発信していきたいと思います。
同社は、報告書にも述べられているように、
前回支援から大きく成長し、また今後もさらな
る躍進が期待される企業です。今回このような
企業を支援できたことに大きな満足感を覚えま
す。若山社長をはじめ企業の皆様には数々のご
配慮とご協力をいただいたことに改めて感謝い
たします。また、経済産業局、事務局の皆様も
含めて、支援各メンバーの熱心な議論とアドバ
イスにも心から感謝いたします。
企業ヒアリングの模様
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