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横川ダムにおける貯水池内樹木伐採範囲の検討について 横川ダム工事

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横川ダムにおける貯水池内樹木伐採範囲の検討について 横川ダム工事
横川ダムにおける貯水池内樹木伐採範囲の検討について
横川ダム工事事務所
調査設計課長
中谷
正勝
調査係長
原田
研哉
調査係
○高村
裕一
1.はじめに
横 川 ダ ム は 、 荒 川 水 系 左 支 川 横 川 に 建 設 中 の 堤 高 72.5m 、 提 頂 長 約 280m 、 堤 体 積 24
万 ㎥ の 重 力 式 コ ン ク リ ー ト ダ ム で 常 時 満 水 位 と 洪 水 期 制 限 水 位 の 差 が 約 13m あ る ダ ム で
ある。ダム湖岸において夏季に出現する裸地は、土壌の不安定化や景観、さらに自然環境
保全の面からダム管理上の課題となっており、各地のダムで緑化や植生回復の努力が続け
られてきた。しかし、一度裸地化した法面の緑化には困難な点が多く、近年建設されたダ
ムでは試験湛水時の既存植生の維持という観点から、常時満水位以上については樹林を伐
採せず保残するという検討が行われている。
横 川 ダ ム で は 、 平 成 20 年 4 月 か ら の 供 用 開 始 を 前 に 平 成 19 年 秋 か ら 試 験 湛 水 を 予 定 し
ている。樹林は一度伐採されるとその再生に数十年を要するため、樹林地の保全と樹木伐
採 を 最 小 限 に 止 め る こ と は 環 境 保 全 上 ば か り で な く 経 済 的 に も 有 効 で あ る と 考 え る 。一 方 、
水没による樹木の枯死、波浪等による倒落流木化等貯水池内の篩いは施設の管理、水質の
保全上別途の問題となる。そこで、当ダムでは常時満水位以下についてもできるだけ多く
の既存樹木を保残すべく、貯水池内樹木の伐採範囲について検討を行った。
2.伐採範囲検討のフロー
横川ダムでは、伐採木及び流木の処理
伐採木及び立木の処理計画
貯水池内樹木取扱の基本的考え方
計画を検討した。先例に従い、貯水池内
樹木取扱いの基本的考え方として、まず
・常時満水位~サーチャージ水位:伐採対象外
常時満水位以下の樹木を伐採対象とし、
・常時満水位以下:伐採対象とする
常時満水位~サーチャージ水位の樹木は
・ただし、常時満水位以下でも耐冠水性の大きい樹
伐採対象外とすることとしている。ただ
木は伐採しない
し、常時満水位以下の樹木であっても耐
冠水性の大きい樹木は景観、斜面保護、
貯水池内樹木伐採範囲の検討
環境保全等の対策を目的として伐採しな
冠水条件の整理
い点について今後の課題となった。今回
の伐採範囲検討は、これを受けてのもの
である。
冠水条件による樹木への影響予測
貯水池内樹木伐採範囲検討のフローを
図-1に示す。検討に際しては、まず、
伐採範囲の検討
試験湛水や供用後の貯水池運用計画に基
づき、冠水条件を整理した。次に、貯水
図-1
貯水池内樹木伐採範囲検討のフロー
池周辺の植生や樹木の耐冠水性に関する知見をもとに、冠水条件によって樹木が受ける影
響を予測し、貯水池内樹木伐採範囲を検討した。
3.検討結果
3.1 冠 水 条 件 の 整 理
試験湛水計画や貯水池運用計画をも
とに整理した横川ダムの冠水条件は、
表 - 1 に 示 す と お り で あ る 。 平 成 19
年秋から実施される試験湛水では、常
時 満 水 位 ( 259.6m ) を 越 え る の は 11
月 15 日 以 降 で 15 日 間 以 内 の 予 定 で あ
る 。 ま た 、 サ ー チ ャ ー ジ 水 位 ( 263.3
m )以 上 は 計 画 規 模 の 洪 水 が き て も 、1
日程度しか冠水することはなく、常時
満水位~サーチャージ水位間も高位は
試験湛水時に冠水する以外はほとんど
冠水しないと考えられる。
表-1 横川ダムにおける冠水条件
区分
サーチャージ水位
(EL.263.3m)以上
冠水条件
計画規模以上の洪水発生時に冠水す
るが、通常は冠水しない。
計画規模の洪水発生時と試験湛水時
常時満水位(EL.259.6 (11月15日以降、15日間以内の予
m)~サーチャージ水位 定)に冠水する。
通常は冠水しない。
常時満水位-2m
(EL.257.6m)~常時満 4月~5月に14日間程度冠水する。
水位
12月~5月に冠水するほか、6月1日~
15日と10月~11月の2ヶ月間に水位が
洪水期制限水位
上下する。
(EL.246.3m)~常時満
冠水日数は常時満水位-2m付近で180
水位-2m
日間程度、-5mで200日間程度、-10
mで240日間程度と考えられる。
洪水期制限水位以下
常に冠水する。
常 時 満 水 位 以 下 で は 、 12 月 ~ 3 月 の
4 ヶ 月 間 は 利 水 の た め の 運 用 で あ る 常 時 満 水 位 -2m( 257.6m )周 辺 で 推 移 す る 。融 雪 期 で
あ る 4 月 ~ 5 月 の 2 ヶ 月 間 に は 最 大 で 257.6m ま で 貯 水 し オ リ フ ィ ス ゲ ー ト か ら 越 流 す る 状
態 と な る が 、 257.6m を 越 え る の は 14 日 間 程 度 と 予 測 し て い る 。 し た が っ て 、 常 時 満 水 位
-2m ~ 常 時 満 水 位 間 は 4 月 ~ 5 月 の 14 日 間 以 外 、 冠 水 す る こ と が 少 な い と 考 え ら れ る 。
洪 水 期 と そ の 前 後 と な る 6 月 ~ 11 月 に つ い て は 、6 月 1 日 ~ 15 日 に か け て 制 限 水 位( 246.3
m ) ま で 低 下 さ せ 、 6 月 16 日 ~ 9 月 30 日 ま で 維 持 さ れ る 。 そ し て 、 10 月 ~ 11 月 の 2 ヶ 月
間 を か け て 257.6m ま で 上 昇 さ せ る 計 画 で あ る 。 洪 水 期 制 限 水 位 ~ 常 時 満 水 位 -2m 間 の 冠
水 日 数 は 標 高 に 応 じ て 異 な り 、 冬 期 中 心 に 常 時 満 水 位 -2m 付 近 で は 180 日 間 程 度 、 -5m で
200 日 間 程 度 、 -10m で 230 日 間 程 度 と 考 え ら れ る 。
なお、洪水期制限水位以下は年間を通して冠水する区間である。
3.2 冠 水 条 件 に よ る 樹 木 へ の 影 響 予 測
冠水条件が樹木に与える影響を予測した結果を、表-2に示す。サーチャージ水位以上
では冠水の影響はほとんどなく、樹木は生存できると予測される。
常 時 満 水 位 ~ サ ー チ ャ ー ジ 水 位 間 で は 、試 験 湛 水 時 に 15 日 間 程 度 、ま た 、常 時 満 水 位 -2
m ~ 常 時 満 水 位 間 で は 4 月 ~ 5 月 に 14 日 間 程 度 の 冠 水 が あ る 。い ず れ の 場 合 も 冠 水 す る 時
期は植物の生長期であるため樹木への影響が懸念されるが、この時期の冠水の影響につい
て 三 春 ダ ム で は 、冠 水 日 数 が 30 日 程 度 ま で の 斜 面 で は 樹 木 へ の 影 響 は な く 樹 林 が 維 持 さ れ
た と 報 告 し て い る 。ま た 、早 池 峰 ダ ム で は 、枯 死・衰 弱 木 は 概 ね 冠 水 日 数 が 30 日 以 上 の 範
囲に集中する傾向がみられたと報告している。このことから、植物の生長期であっても冠
表-2 横川ダムにおける冠水条件と影響予測
水 が 14~ 15 日 間 程 度 と さ れ る 当 ダ
ムでは影響が小さいものと考えられ、
冠水条件と影響予測
区分
条件1- 計画規模以上の洪水発生時に冠水する
サーチャージ水
が、通常は冠水しない。
位(EL.263.3
予測1- 冠水の影響はほとんどないと考えられ
さ れ る 。た だ し 、4 月 ~ 5 月 の 冠 水 は m)以上
るため、樹木は生存できる。
毎年繰り返されるため、これがどの
条件1- 計画規模の洪水発生時と試験湛水時
(11月15日以降、15日間以内の予定)
ような影響を及ぼすのか懸念される。
に冠水する。
常時満水位
洪 水 期 制 限 水 位 ~ 常 時 満 水 位 -2m (EL.259.6m) 条件2- 通常は冠水しない。
間 は 、 12 月 ~ 5 月 の 6 ヶ 月 間 の 冠 水 ~サーチャージ 予測1- 試験湛水時に冠水する期間は植物の生
育期であるが短期間であり、その影響
水位
は小さいと考えられるため、樹木の生
と 6 月 1 日 ~ 15 日 及 び 10 月 ~ 11 月
育は十分可能である。
樹木の生育は十分可能であると予測
の水位変動により、標高に応じて冠
水 日 数 が 異 な る 。こ の 期 間 の う ち 12
条件1- 4月~5月に14日間程度冠水する。
予測1- 冬期及び冠水する時期は植物の生育期
であるが短期間であり、その影響は小
(EL.257.6m)
さいと考えられるため、樹木の生育は
~常時満水位
十分可能である。
月 ~ 3 月 の 4 ヶ 月 間 ( 120 日 間 程 度 ) 常時満水位-2m
は落葉植物の休眠期に当たるためこ
れを除き、植物の生長期に冠水する
日 数 を 求 め る と 常 時 満 水 位 -2m 付 近
で 60 日 間 程 度 、-5m で 80 日 間 程 度 、
-10m で は 110 日 間 程 度 と 考 え ら れ
る。このように、三春ダムや早池峰
ダムで影響がないとされた冠水日数
30 日 を 大 き く 上 回 っ て い る が 、樹 木
予測2- 毎年繰り返される冠水がどのような影
響を及ぼすのか懸念される。
条件1- 12月~5月の6ヶ月間(180日間程度)冠
水する。
条件2- 出水以外に6月1日~15日及び10月~11
月の2ヶ月間で水位が上下する。
洪水期制限水位 予測1- 植物の生育期における冠水日数は、常
(EL.246.3m)
時満水位-2mで60日間程度、-5mで80
~常時満水位-2
日間程度、-10mでは110日間程度と考
m
えられる。
の耐冠水性は樹種や冠水する部位に
よっても異なることが知られており、
冠水の影響は標高とそこに生育する
樹木の種類や樹高によって様々なケ
予測2- 冠水の影響は、標高とそこに生育する
樹木の種類、樹高によって様々なケー
スがある。
条件1- 常に冠水する。
洪水期制限水位
以下
予測1- 樹木の生育は難しい。
ースがあるものと予測される。
3.3 貯 水 池 内 樹 木 伐 採 範 囲 の 検 討
冠水条件による影響予測をもとに、貯水池内樹木の伐採範囲を検討した結果を図-2に
示す。伐採範囲についてはまず、以下のように設定した。
① 冠 水 の 影 響 が 少 な い 常 時 満 水 位 259.6m 以 上 は 、 伐 採 対 象 外 と す る 。
② 257.6m ~ 259.6m 間 も 冠 水 の 影 響 が 比 較 的 少 な い た め 、 伐 採 対 象 外 と す る 。
③ し た が っ て 、 伐 採 範 囲 は 257.6m 以 下 で あ る 。
次 に 、 伐 採 範 囲 と し て 設 定 し た 257.6m 以 下 の 区 間 に つ い て 、 標 高 と 樹 種 、 樹 高 を 考 慮
して、できるだけ多くの既存樹木を保残すべく検討を行った。
貯水池周辺の植生は落葉広葉樹の二次林であり、スギ植林が所々にみられる。伐採範囲
の 落 葉 広 葉 樹 林 は 小 径 木 か ら な り 、樹 高 は 5m ~ 10m 、低 木 林 で は 2m 程 度 の 所 が 多 い 。主
な 構 成 種 は ア カ シ デ 、ミ ズ ナ ラ 、コ ナ ラ 、ホ オ ノ キ 、ア カ イ タ ヤ 、ヤ マ モ ミ ジ な ど で あ る 。
スギは木材チップ等の用材として利用価値があるため伐採することとし、広葉樹を保残対
象 と し た 。保 残 木 の 選 定 に つ い て は 、
この区間に生育する樹木に対する冠
水影響は標高と樹種、樹高によって
様々であるため、平均的な樹木を想
定して次のように検討した。広葉樹
の 樹 高 を 7m と 仮 定 し 、 こ の 樹 木 が
生 育 可 能 な 状 態 を 、樹 冠 部( 4m と す
る)がほとんど冠水しない状態と仮
定した。つまり、樹木の地上から 3
mの部分は主に幹の呼吸量が少なく、
冠水の影響がほとんどないと予測し
図-2
貯水池内樹木伐採範囲
た 257.6m に 位 置 す れ ば 、 樹 冠 部 は 生 育 可 能 な 状 態 と な る 。 そ し て 、 こ の 時 の 根 元 の 標 高
を 求 め る と 257.6m よ り 3m 下 の 254.6m と な り 、し た が っ て 、こ の 標 高 よ り 上 に 生 育 す る
樹 高 7m 以 上 の 広 葉 樹 が 保 残 木 と な る 。な お 、樹 高 2m 以 内 の 低 木 は 枯 死 し て も 根 茎 が 地 山
の浸食防止に有効であると考え、保残することとした。
以上をまとめると、次のようである。
④ 254.6m ~ 257.6m 区 間 で は 、 次 の よ う に 選 択 的 伐 採 を 行 う 。
・ 樹 高 7m 以 上 の 広 葉 樹 及 び 概 ね 樹 高 2m 以 内 の 低 木 は 、 伐 採 し な い 。
・用材として利用価値のある針葉樹(スギ)は、伐採する。
・ 地 表 か ら 概 ね 2m 程 度 ま で の 根 曲 部 は 、 伐 採 し な い 。 こ の 部 分 と 根 系 が 土 壌 の 流
失を低減し、土壌を捕捉することで植生の侵入を促すとともに波浪の影響を低減
するものと考えられる。
⑤ 254.6m 以 下 の 区 間 は 、全 て の 樹 木 を 伐 採 す る 。た だ し 、地 表 か ら 概 ね 2m 程 度 ま で の
根曲部及び用材として不適切な部分は作業の安全性の確保のために伐採しない。
4.おわりに
試験湛水を前に、貯水池内樹木の保残を目的として伐採範囲を検討した。具体的な伐採
場所を決める際には、現地の生育種や樹高のほか地質や傾斜などの情報も勘案して選定す
る必要があり、今後実施する予定である。また、試験湛水前から供用後 5 年程度の期間を
対象にモニタリング調査を実施し、今後の資料とする予定である。
参考文献
浅 見 和 弘・伊 藤 尚 敬 ,2005.三 春 ダ ム に お け る 試 験 湛 水 に よ る 湖 岸 の 樹 林 へ の 影 響 .ダ ム 技 術
No.230,19-27
建 設 省 土 木 研 究 所 ,1998.湖 岸 緑 化 の 観 点 か ら の 湛 水 予 定 地 内 の 既 存 樹 木 の 処 理 に つ い て .
ダ ム 技 術 No.137,49-51
及 川 隆 ・ 菊 池 孝 ,2001. 早 池 峰 ダ ム の 試 験 湛 水 と 貯 水 池 内 樹 木 の 枯 死 状 況 . ダ ム 技 術
No.181,101-108
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