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博 士 学 位 申 請 論 文 - 学生サポート

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博 士 学 位 申 請 論 文 - 学生サポート
博 士 学 位 申 請 論 文
博士学位申請論文名
獣医師ストレスの人間科学的理解と効果的な対処に関する研
究
博士学位申請者氏名:
矢野
淳(やの
あつし)
印
○
(日本語訳)
(平成 25年 5 月
1
日 提出)
目次
第1章
第 1節
問題の所在 6
獣医師のストレス 6
1. ス ト レ ス フ ル な 獣 医 師 と い う 仕 事 6
2. 獣 医 師 の ス ト レ ス 研 究 6
第 2節
ストレスを生む構造 7
1. 獣 医 療 の 治 療 構 造 上 の 特 徴 7
2. 獣 医 療 の 方 法 論 7
3. 獣 医 療 の 対 象 7
4. ペ ッ ト の 家 族 化 8
5. ペ ッ ト 医 療 費 の 高 額 化 8
6. 動 物 病 院 の 規 模 9
7. 経 営 と し て の 動 物 病 院 9
8. 獣 医 療 行 為 の 不 確 定 性 9
第 3節
獣 医 師 の ス ト レ ス の 実 態 10
1. 実 態 調 査 1 0
2. 獣 医 師 が ス ト レ ス を 感 じ る ス ト レ ス 要 因 10
3. ス ト レ ス や 苦 痛 を 感 じ て い る こ と , ス ト レ ス へ の 対 応 に 対 す る 自 由 記 述 回 答 12
4. 飼 主 へ の ス ト レ ス と 否 定 的 感 情 や 認 識 の ギ ャ ッ プ を 感 じ る 獣 医 師 1 3
5. 情 動 焦 点 型 の コ ー ピ ン グ 1 3
第 4節
飼 主 か ら 生 じ る 獣 医 師 の ス ト レ ス 13
1. 飼 主 に 対 し て 生 じ る 否 定 的 感 情 や 認 識 の ギ ャ ッ プ 13
2. 飼 主 の 性 質 1 4
3. 対 人 援 助 職 と し て の 獣 医 師 1 5
4. 獣 医 師 の 抱 く 思 い ( 総 合 診 療 医 が 患 者 に 抱 く 否 定 的 感 情 か ら ) 1 5
5. 獣 医 師 の サ ポ ー ト 体 制 16
第 5節
本 論 文 の 目 的 16
第 6節
本 論 文 の 概 要 と 構 成 16
1. 本 論 文 の 概 要 1 7
2. 本 論 文 の 構 成 1 7
第 2章
人 間 科 学 的 方 法 論 で の 獣 医 師 ス ト レ ス 研 究 21
第 1節
人 間 科 学 的 ア プ ロ ー チ の 必 要 性 21
第 2節
医 療 従 事 者 の ス ト レ ス 研 究 と ス ト レ ス 理 論 21
1. 医 療 従 事 者 の ス ト レ ス 21
2. ス ト レ ス 理 論 2 1
(1) ス ト レ ス と は 2 1
(2) 心 理 的 ス ト レ ス 理 論 22
(3) ス ト レ ス 対 処 行 動 ( ス ト レ ス コ ー ピ ン グ ) 2 2
(4) 社 会 的 援 助 資 源 ( ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト ) 2 3
3. 医 療 従 事 者 の ス ト レ ス 研 究 2 3
2
(1) 燃 え 尽 き 症 候 群 ( バ ー ン ア ウ ト ) 2 3
(2) 感 情 労 働 2 3
4. 医 療 従 事 者 の ス ト レ ス 対 処 2 4
(1) プ ロ セ ス レ コ ー ド に よ る 看 護 場 面 の 再 構 成 法 と 異 和 感 の 対 自 化 24
(2) 看 護 場 面 の デ ィ ブ リ ー フ ィ ン グ や 申 し 渡 し カ ン フ ァ な ど の 第 3 者 に よ る 援 助 24
(3) 医 療 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 論 と し て の N B M と O SCE 2 5
第 3節
心 理 臨 床 の 視 点 か ら ~ ク ラ イ ア ン ト へ の 否 定 的 感 情 の 扱 い 26
1. 心 理 臨 床 の 視 点 2 6
2. 治 療 構 造 2 6
3. 治 療 者 の 自 己 一 致 27
4. ス ー パ ー ビ ジ ョ ン な ど の 第 3 者 に よ る 援 助 28
5. 認 知 の 変 容 2 8
(1) 態 度 変 容 と 葛 藤 の 調 整 28
(2) 心 理 的 リ ア ク タ ン ス 28
(3) 認 知 的 不 協 和 理 論 28
第 4節
人 間 科 学 の 定 義 29
第 5節
人 間 科 学 の 方 法 論 に 関 し て 29
1. 人 間 科 学 の “ 呪 ” 29
2. Hu sse rl の 現 象 学 的 思 考 法 と 関 心 相 関 性 30
3. 量 的 研 究 と 質 的 研 究 ~ 主 客 を め ぐ る 問 題 と 科 学 性 の 問 題 30
4. 心 理 統 計 学 に お け る 客 観 性 の 記 述 と 担 保 31
5. 構 造 仮 説 継 承 型 研 究 の 方 法 3 2
第 6節
人 間 科 学 的 ア プ ロ ー チ に よ る 獣 医 師 の ス ト レ ス 研 究 32
1. 本 論 文 の 人 間 科 学 的 視 点 3 2
2. 獣 医 師 の ス ト レ ス 研 究 に 対 す る 人 間 科 学 的 ア プ ロ ー チ の 可 能 性 と 方 法 33
第 7節
本 論 文 の 研 究 方 法 33
1. 構 造 構 成 主 義 的 人 間 科 学 の 方 法 論 33
2. 研 究 計 画 3 3
3. 研 究 方 法 論 か ら の 本 論 文 の 限 界 性 34
第 3章
第 1節
獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス の 実 態 調 査 36
獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス と そ の 対 処 36
1. 目 的 36
2. 方 法 36
3. 結 果 37
4. 考 察 47
5. 飼 主 と の 認 識 の ギ ャ ッ プ に 関 係 す る 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 と ス ト レ ス 50
6. 残 さ れ た 課 題 5 1
第 2 節
獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究①~犬猫の不妊手術に
対 す る 葛 藤 と 手 術 啓 発 が 誘 起 す る 認 知 的 不 協 和 52
1. 目 的 52
3
2. 方 法 53
3. 結 果 55
4. 考 察 62
5. 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ の 正 体 66
6. 残 さ れ た 課 題 67
第 3 節
獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究②~不治の病の治療に
対 す る 飼 主 の 期 待 に つ い て 68
1. 目 的 68
2. 方 法 69
3. 結 果 70
4. 考 察 76
5. 飼 主 を 理 解 で き て い な い 獣 医 師 77
6. 残 さ れ た 課 題 78
第 4 節
飼主の性格特性の把握への試み~防衛機制とコーピングの側面から
79
1. 目 的 80
2. 方 法 81
3. 結 果 82
4. 考 察 ; 「 対 人 資 源 利 用 コ ー ピ ン グ 」 が 低 く ,「 行 動 化 ・ 身 体 化 中 心 の 非 自 己 統 制 的
防 衛 」 が 高 い 動 物 飼 育 者 95
5. 無 意 識 の 衝 動 に つ な が っ た 感 情 的 動 機 , 対 人 資 源 の 代 償 95
6. 残 さ れ た 課 題 96
第 4章
第 1 節
獣 医 師 の ス ト レ ス へ の 対 処 方 略 98
獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ と 対 人 葛 藤 方 略 -ス ト
レ ス 反 応 , バ ー ン ア ウ ト と の 関 係 - 98
1. 目 的 98
2. 方 法 10 0
3. 結 果 10 3
4. 考 察 10 8
5. 獣 医 師 の ス ト レ ス を 軽 減 す る コ ー ピ ン グ 11 0
6. 残 さ れ た 課 題 11 2
第 2 節
獣 医 療 に お け る ナ ラ テ ィ ブ -社 会 構 成 主 義 か ら の 治 療 構 造 の 理 解 が 生
む 獣 医 師 ス ト レ ス の 減 少 の 試 み - 113
1. 目 的 : 獣 医 療 に ナ ラ テ ィ ブ を 生 か す 11 3
2. 方 法 お よ び 事 例 の 概 要 114
3. 事 例 の 経 過 1 15
4. 考 察 11 8
5. 獣 医 療 を 社 会 構 成 主 義 的 に メ タ 認 知 す る こ と 1 22
6. 残 さ れ た 課 題 12 4
第 5章
総 合 考 察 と 結 論 125
4
第 1節
獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス の 人 間 科 学 的 理 解 125
1. 獣 医 療 の 独 特 な 治 療 構 造 1 25
2. 飼 主 の ペ ッ ト の 飼 育 動 機 1 25
3. 獣 医 師 の 視 点 と 飼 主 の 視 点 か ら 生 じ る 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ 12 6
4. 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 か ら 生 じ る 獣 医 師 の ス ト レ ス 12 7
第 2節
獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス 対 処 の 人 間 科 学 的 理 解 131
1. 「 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 」 「 関 係 回 避 的 」 「 中 間 型 」 の コ ー ピ ン グ 13 1
2. 「 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 」 コ ー ピ ン グ の 特 徴 1 31
3. 「 関 係 回 避 的 」 コ ー ピ ン グ の 特 徴 13 1
4. 「 中 間 型 」 コ ー ピ ン グ の 特 徴 13 2
5. 効 果 的 な 獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス 対 処 方 法 13 2
第 3節
ま と め 135
第 4節
今 後 の 研 究 展 望 136
1 . 獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス に つ い て の メ タ 認 知 の 効 果 1 36
2 . 獣 医 師 ス ト レ ス の 詳 細 な 把 握 ( 人 間 科 学 的 手 法 の 展 開 ) 1 37
3. 獣 医 師 ス ト レ ス マ ネ ジ メ ン ト の た め の ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 1 37
文 献 138
資 料 1 50
5
第1章
第 1節
問題の所在
獣医師のストレス
1. ス ト レ ス フ ル な 獣 医 師 と い う 仕 事
小 動 物 臨 床 に 携 わ る 獣 医 師( 以 下 獣 医 師 )は ,様 々 な ス ト レ ス を 受 け る ( 表 1 -1)( 中 川 ,
200 9a ; 20 09 b; 2 00 9c; 200 9d; 20 09e ; 2 009 f ; 20 10a ; 2 010 b; 201 0 c; 2 010 d; 201 0e ; 20 1 0f)。
命を扱う重い責任を負い,最新の獣医療知識や技術を身に付ける努力を求められること,
多 様 な 価 値 観 の 飼 主 に 対 応 し な が ら ,と き に 動 物 が 死 亡 し そ の 努 力 が 報 わ れ な い こ と も あ
る 。ま た ,病 院経 営 に つ いて 利 益 と 飼 主 ペ ッ トの 利 便 性 を 追 及 す ると い う 葛 藤 を 抱 え なが
ら 忙 し い 診 療 業 務 を お こ な っ て い る 。一 人 か 二 人 の 少 人 数 の 獣 医 師 が 在 中 す る 診 療 施 設 が
ほ と ん ど の 業 界 ( 社 団 法 人 日 本 獣 医 師 会 , 2 00 7 ) で , と き に 飼 主 や ス タ ッ フ そ し て 獣 医 師
自身の感情をコントロールしながらおこなわなければいけない。ストレスに起因する獣医
師のうつや自殺率の高さ,燃え尽き症候群(バーンアウト)について問題視され始めてい
る ( Pl att , Haw to n, S imk in , & M ell an by ,2 012 ; 中 川 , 20 12 ) 。
表1-1 獣 医 療 現 場
に お け る ス ト レ要
ス因(中 川,2 0 1 )2
命を扱う責 任の重さ: ミ ス が許さ れ ず、思い責 任が課せ ら れ る
判 断や意 向だ け で な 、ク
く ラ イ ア ン ト価
の値
多 様な価 値 観へ の対 応: 治 療の選 択に関し て は、獣 医 師と し て の
観、倫 理 観、宗 教 観などに合わせる必要がある。獣医師が行わなければならないこと
と、やりたいことの間にギャップが生じる。
ず 癒と い う目 標を達 成で き な い こ と が あ。患
る 者の死が頻 繁
達 成 感の得に く さ: 努 力し た に も か か わ ら、治
に起こ る と精 神 的に打ち の め さ れ 。
る
動 物や悲しむ家族であるため、相手に対する配慮が不可
感 情の コ ン ト ロ ー (ル
感情労働
) : 援 助の対 象が弱っ て い る
欠。家族の激しい悲嘆を目の当たりにし、援助することが求められるうえ、獣医師自身
の悲しみへの対処も必要
、ス ム ー ズ な
人間関係
を保つ た め
人間関係
: 複 数の専 門 職が関わ っ て成り立つ仕 事で あ る た め
の配 慮が不 可 欠
並 々な ら ぬ努 力を要する。機器操作など医療補
学 術 的な進 歩・技 術 革 新
: 最 先 端の知 識や技 術を維 持す る に は
助業務が複雑で習熟が困難
の経 営 理 念
との違い(利益を追求してよいのかという葛藤)が生じる。獣医師
病院経営
: 会社組織
としてのスキルアップと経営手腕の両立、従業員とのチームワーク、運営をしていくう
えでの法律上の責任、事故や災害への対処、地域住民との関係が求められる。
か ら救 急 外 来
ま で の診 療が求め ら れ る
。
地 域 医と し て の
役 割: 動 物 種、専 門を問わ ず、予 防 注 射
2. 獣 医 師 の ス ト レ ス 研 究
こ の よう な 獣 医 師 の ス ト レス に 対 し て ,日 本 での 研 究 は ほ と ん ど 認め ら れ な い が ,欧米
で は 獣 医 師 の ス ト レ ス 関 連 の 多 数 の 報 告 が あ る ( Pla tt ,
H aw to n,
Si m kin ,
&
Mel la nby ,2 012 )。 ス ト レ ス や う つ に よ る 獣 医 師 の 自 殺 率 が 他 の 職 業 よ り 高 い こ と は い く つ
か 報 告 さ れ (K inl en ,1 983 ;B lai r & Ha ye s, 1 980 ;M ijj er & B ea um o nt, 19 95) , ス ト レ ス マ ネ
ジ メ ン ト の 整 備 の 必 要 性 が 叫 ば れ て い る ( Ano n, 200 0; Mel la nb y , 20 05) 。 ア メ リ カ ア ラ バ
マ 州 の 調 査 で 66 % の 獣 医 師 が 臨 床 的 に う つ 病 と 認 め ら れ る が 32 % は 適 切 な 対 応 を 受 け て お
ら ず , ま た , 獣 医 師 と い う 職 業 選 択 が 正 し く な か っ た と す る 獣 医 師 が お り ( 男 性 7% , 女
性 1 5 % ), 4 % は 今 の 仕 事 に お い て 幸 福 で な い と し て い る ( Sk ip pe r & Wil li ams ,2 01 2) 。 全 米
6
の 調 査 に よ る と 10 0 0 人 の 獣 医 師 の 半 分 が バ ー ン ア ウ ト の 兆 候 を 示 し た と い う 結 果 が あ る
(El ki ns & E lk ins , 1 9 87) 。 ア メ リ カ テ キ サ ス の 女 性 の 獣 医 師 の 3 分 の 2 が 初 期 の バ ー ン ア
ウ ト 徴 候 を 示 し , 男 性 獣 医 師 に 比 し て 高 か っ た と い う 報 告 が あ る ( Elk in s & Ke ar ne y ,1 99 2)。
ベ ル ギ ー の 獣 医 師 の 調 査 に お い て , 対 象 者 21 6 人 の う ち 1 5. 6 %の 獣 医 師 が バ ー ン ア ウ ト の
傾 向 が あ っ た こ と が 報 告 さ れ て い る ( Ha ns ez, Sc hin s & R oll in , 200 8 ) 。 獣 医 師 の ス ト レ ッ
サ ー と し て ク ラ イ ア ン ト と の 人 間 関 係 (E lk ins & K ea rne y,1 99 2;H an sez ,S ch in s &
Rol li n,2 00 8;G ar dn er & Hi ni, 20 06 ;Me eh an & B ra dle y, 20 07) , 獣 医 療 マ ネ ジ メ ン ト ( El kin s
& K ea rn ey, 19 92 ;Ka hn & N utt er ,20 05 ) , 長 時 間 労 働 (El ki ns & K ear ne y,1 99 2; G ard ne r &
Hin i, 200 6) な ど が 報 告 さ れ て い る 。 獣 医 師 は コ ー ピ ン グ と し て 一 般 と 比 べ る と 仕 事 場 と 家
庭 の サ ポ ー ト に 頼 る 傾 向 が あ り (Ka hn & N utt er ,20 05 ), 専 門 的 な 機 関 以 外 の 社 会 資 源 を コ
ー ピ ン グ サ ポ ー ト と し て 用 い て い た ( Ga rd ner & Hi ni ,20 06 ) と い う 報 告 が あ る 。
欧米の研究においてもストレスやそれに起因するうつやバーンアウトの実態について
の 報 告 は 存 在 す る も の の ,獣 医 師 の ス ト レ ス が 生 じ る メ カ ニ ズ ム や そ の ス ト レ ス 解 消 に 言
及する研究は見当たらない。
第 2節
ストレスを生む構造
1. 獣 医 療 の 治 療 構 造 上 の 特 徴
命を扱い失敗が許されないプレッシャー,飼主の多様な価値観への対応,努力が報われ
ない不確定性,病院経営上のお金がかかわる不安など獣医師のストレスは,獣医療の治療
構造の特徴に付随していることが想像される。獣医療の治療構造の特徴を ,獣医療の方法
論,対象,ニーズと制限,評価に分けて叙述する。
2. 獣 医 療 の 方 法 論
獣 医 学 は 主 に 自 然 科 学 で あ る 西 洋 医 学 を も と に 発 展 し て き て い る ( 矢 野 , 200 9 )。 す な
わ ち ,演繹的 ,帰納的論理と実証事実から導き出された現象理解に基づき診断治療がおこ
なわれ研究が進んできた。この傾向の恩恵として ,近年獣医学の目覚ましい技術発展 があ
る 。 CT や MR I, 抗 が ん 剤 治 療 な ど , 人 間 の 医 療 ( 人 医 療 ) 並 み の 医 療 サ ー ビ ス を 受 け る こ
と が 可 能 に な っ て き た 。 し か し , 獣 医 療 過 誤 に よ る 訴 訟 問 題 ( 佐 藤 ら , 200 8 ), ペ ッ ト の
殺 処 分 や 虐 待( 地 球 生 物 会 議 A L I V E ,20 10; 福 岡 市 ,20 03 ),ペ ッ ト ロ ス 症 候 群( 新 島 ,
200 6; 木 村 ら , 2 00 9 ) な ど 社 会 や 人 間 心 理 が 関 わ る 動 物 の 問 題 が ク ロ ー ズ ア ッ プ さ れ て い
る 。先 ほ ど の 獣 医 師 の ス ト レ ス も 含 め ,人 間 の 心 理 が 関 わ る ペ ッ ト 問 題 が 生 じ 始 め て い る 。
獣医療の問題に対応するために学際的な研究の広がりが必要であるが,これらの問題にア
プローチしている獣医学研究は少ない。
3. 獣 医 療 の 対 象
人 医 療 と 獣 医 療 の 治 療 構 造 の 相 違 を 示 し な が ら 検 討 し て み る( 治 療 対 象 が 動 物 と 人 間 で
あ る 違 い 以 外 の 治 療 構 造 の 相 違 に つ い て の 検 討 で あ る )。
人医療と獣医療の治療構造で決定的に異なるのは,動物病院の診察室には,診断・治療
をおこなう獣医師,被治療対象であるペット,そして治療を依頼しその契約を執り行うペ
7
ットの飼主の3者が存在するということである。そして治療希望と治療決定権が治療主体
の ペ ッ ト で は な く 客 体 の 飼 主 に あ る と い う と こ ろ で あ る ( 図 1- 1) 。 動 物 病 院 を 病 気 の 治 療
で訪れるペットは,飼主のペットへの思いや関係性が反映して来院するが,来院の動機は
ペットの意志ではなく飼主の意志である。また,治療する側の獣医師はその職業選択の理
由 か ら ,動 物 に 対 す る 特 別 な 思 い を 持 つ こ と が あ る 。治 療 は 治 療 主 体 で あ る 動 物 で は な く ,
客体である獣医師と飼主の間で交わされる治療契約に基づいて行われてゆく。そして治療
の最終決定権は原則として飼主が有している。獣医師は単純に動物を診察すればよいわけ
でなく,飼主とコミュニケーションしながら飼主のニーズや価値観や経済力に基づき動物
を治療しなければならない。
図 1 -1
獣医師-飼主-ペットの 3 者が存在する独特な獣医療治療関係構造
4. ペ ッ ト の 家 族 化
現 在 日 本 の 犬 猫 の 飼 育 頭 数 は , 210 0 万 頭 ( 犬 1 150 万 頭 , 猫 9 70 万 ) と 言 わ れ て い る ( 一
般 社 団 法 人 ペ ッ ト フ ー ド 協 会 ,2 013 )。 20 1 3年 の 日 本 1 2歳 未 満 の 人 口 が 11 96 .9 万 人 で あ る こ
と か ら も , 日 本 の 子 供 の 数 よ り 犬 猫 の 方 が 多 い 計 算 に な る ( 総 務 省 統 計 局 ,20 13 ) 。 犬 猫 な
どの人間の伴侶や仲間として飼われるペットは経済目的で飼育される家畜と異なること
か ら 近 年 コ ン パ ニ オ ン ・ ア ニ マ ル ( Co mp an ion An im al; C A) と も 称 さ れ る 。 家 族 の 一 員 , 癒
し の 対 象 , と き に そ れ 以 上 の 存 在 と し て 飼 育 さ れ る ペ ッ ト は ,“ 心 の す き ま ”“ 心 の 傷 ” を
埋 め る 唯 一 無 二 の 存 在 ( 香 山 , 200 8 ) と し て 飼 主 に よ っ て 認 識 さ れ て い る 。
5. ペ ッ ト 医 療 費 の 高 額 化
ペットの家族化が進み,人間と同様の生活をすることで,人間のような生活習慣病や高
齢 に よ る 病 気 に 罹 患 す る ペ ッ ト が 増 加 し , 動 物 の 治 療 費 に 対 し て 年 間 5万 円 を 超 え る 出 費
を し た 飼 主 の 割 合 が 2 008 年 9.6 % , 20 09 年 1 7 .6% , 2 01 0 年 29 .2 %と 増 加 し て お り , 動 物 医 療 の
高 度 化 に 伴 う 治 療 費 の 高 額 化 が 進 ん で い る ( ペ ッ ト の 保 険 an ic om 損 保 ,2 01 0) 。 ペ ッ ト の 数
や治療費の高額化から見ても,獣医師は治療行為において飼主の多様な要望に応えること
8
を要求され,多大なプレッシャーの中業務を遂行していることが想像される。
統計が示す通り獣医療は飼主の経済的事情から影響を受ける。獣医療は原則自由診療で
あり,その施術の質が飼主の経済的事情から影響を受けるためである。新島は,生命維持
の費用を賄いきれない飼主が安楽死を選択するか否かで生じる葛藤がペットロスと関連す
る こ と を 報 告 し て い る ( 新 島 , 20 06) 。そ の 中 で「 ペ ッ ト 用 の 医 療 機 器 を 使 わ な い 飼 主 は ひ ど
い 飼 主 み た い じ ゃ な い で す か 。」と い う 飼 主 の 語 り を 紹 介 し て い る 。新 島 の 指 摘 は 獣 医 療 の
高度化に伴う治療選択肢の増加,高額化と経済的困難性が飼主に対して新しい心理的葛藤
を引き起こしていることを示唆している。また,経済的な影響で治療ができない動物が存
在することは,職業選択の動機から動物に対して特別な思いを抱く獣医師にとって無力感
につながること,また病院経営上の問題につながることも想像され,獣医師側にも心理的
葛藤を引き起こす可能性が想像される。
6. 動 物 病 院 の 規 模
社 団 法 人 日 本 獣 医 師 会 ( 20 07) の 小 動 物 臨 床 職 域 の 現 状 に よ る と 先 進 的 な 小 動 物 医 療 に
取り組み,紹介診療を行う施設であっても常勤の獣医師が 3 人以下の診療施設が約半数を
占め,規模の大きな動物病院も存在する一方ほとんどの病院の事業所規模は大きくない。
このことから,飼主の多様な要望に対してスタッフ数がそれほど十分でない動物病院が多
く存在し,獣医師や病院スタッフに労働上や心理的に過酷な負担が存在することが想像さ
れ る 。動 物 看 護 師 の 労 働 状 況 と メ ン タ ル ヘ ル ス の 現 状 に つ い て の 調 査 で ,4 6. 8% は う つ 病 の
可能性があり,ワークライフバランスの未達成,人間関係での苦労,労働条件に関する不
満 等 の 問 題 を 抱 え 業 務 に 就 く 動 物 看 護 師 の 姿 が 報 告 さ れ て い る ( 木 村 , 20 11) こ と か ら も 獣
医療従事者の労働条件が過酷であることを物語っている。
7. 経 営 と し て の 動 物 病 院
藤 原 ( 200 9) は , リ ー マ ン シ ョ ッ ク か ら 始 ま っ た 世 界 同 時 不 況 の 影 響 に よ り , 経 営 的 に 伸
びている動物病院とそうでない病院の 2 極化が進んでいることを指摘している。ペット飼
育頭数の伸び悩み,不景気による節約志向から,飼主は動物病院に専門性や独自性を要求
す る 傾 向 が 認 め ら れ ,高 度 獣 医 療 ,エ キ ゾ チ ッ ク ア ニ マ ル 等 の 多 様 な ペ ッ ト の 診 療 ニ ー ズ ,
24 時 間 診 療 ,接 遇 力 の 強 化 ,低 価 格 な 診 療 を 期 待 す る 傾 向 を 指 摘 し て い る 。こ の よ う な 現
状に対応するため,動物病院は従業員に過酷な負担を課すこと,経営的な競争力を強制さ
れることなど,経営的なストレスを受けていることも想像される。
8. 獣 医 療 行 為 の 不 確 定 性
医療行為は,その行為の性質上施術すれば必ず良くなるというものではなく,必ず“治
療効果の不確定性”の問題がある。このため,エビデンスべイスドメディスン(証拠に基
づいた治療)やインフォームドコンセント(クライアントに対する説明と同意)の重要性
が叫ばれている。人医療は非営利業として健康保険制度や税制の優遇を受けながら経営が
行われているが,もともと目に見えず不確定性がある治療行為という商品を競争原理の中
で販売するという獣医療の経営は,人医療の経営と異なる難しさが存在することは想像で
きる。
9
第 3節
獣医師のストレスの実態
1. 実 態 調 査
日本では,獣医師のストレスやバーンアウト研究の報告はほとんど認められないため,
本節で小規模な調査結果を提示し,日本の獣医師の心理的ストレスの実態を示す。 獣医師
はどのようなことに対してストレスを感じているのか,どのような対処行動をとっている
のか調査した。
201 X 年 , A 県 で 小 動 物 病 院 を 開 設 し て い る 獣 医 師 ら を 含 む 獣 医 師 16 名 に 対 し て 質 問 紙
を 用 いて 調 査 を 行 っ た 。回 答 は自 由 で あ る こ と ,アン ケ ー ト 結 果 は個 人 情 報 保 護 の 観 点か
ら 本 人が 特 定 さ れ な い よ うに 配 慮 し ,研 究 に のみ 使 用 す る こ と を 説明 の 上 行 っ た 。質 問項
目 は , 中 川 の 報 告 ( 中 川 , 200 9a ; 中 川 , 20 09b ) に お い て 獣 医 師 が ス ト レ ス を 感 じ て い る と
さ れ る ス ト レ ス 要 因 11 項 目 ( ① 命 を 扱 う 責 任 の 重 さ ② 多 様 な 価 値 観 へ の 対 応 ③ 達 成 感 の
得にくさ④人を援助する仕事の負担,感情のコントロール〈感情労働〉⑤人間関係⑥学術
的 な 進歩・技 術 革 新 ⑦ 病 院経 営 ⑧ 地 域 医 と し ての 役 割 ⑨ 時 間 的 拘 束⑩ 身 体 的 負 担 ⑪ サ ポー
ト資源の少なさ )に 対 し てス ト レ ス を 感 じ る かを ,はいまたはいいえの 2 件法で回答する
質問,この①~⑪の中でどのストレス要因に対して一番ストレスを感じるかを問う質問,
治療対象であるペット動物と飼主と病院スタッフの 3 対象に対してどのくらいストレスを
感 じ る か を ,4 と て も 感 じ る か ら 1 ま っ た く 感 じ な い の 4 件 法 で 回 答 す る 質 問 を 実 施 し た 。
動物,飼主,病院スタッフにどのくらいストレスを感じるか回答する質問に対しては,そ
れ ぞ れ の 対 象 に 対 す る 平 均 値 を 測 定 し , 一 元 配 置 の 分 散 分 析 と t uk ey の 多 重 比 較 に よ っ て
平 均 値の 差 を 検 定 し た 。ま た「 貴 方が 通 常 の 業務 に お い て ス ト レ スや 苦 痛 を 感 じ る こ とが
あ れ ば 自 由 に 記 載 し て く だ さ い 。」「 貴 方 は 通 常 の 業 務 に お け る ス ト レ ス や 苦 痛 を 解 消 す る
た め に 何 か し て い る こ と は あ り ま す か 。 あ れ ば 自 由 に 記 載 し て く だ さ い 。」 と い う 2 つ の
自 由 記 述 回 答 形 式 の 質 問 を 行 っ た 。 ス ト レ ス 解 消 に 対 す る 回 答 は , Fo lk man n et a l の コ ー
ピ ン グ 方 略 理 論 ( Fo lk man n
et al ,19 80 ; F olk ma nn
e t al ,1 985 ; Fo lkm an n
et al ,1 988 )
を も と に ,問 題 解 決 型 ま た は 情 動 焦 点 型 の ど ち ら に 分 類 さ れ る か 評 定 者( 著 者 を 含 ま な い ,
臨 床 心 理 学 系 大 学 院 に 所 属 し 臨 床 心 理 士 の 資 格 を 有 す る 大 学 院 生 3 人 )に 評 価 を 受 け 分 類
し た 。 16 名 中 1 4 名 の 獣 医 師 か ら 回 答 を 受 け , 調 査 協 力 者 と し た( 男 性 13 名 女 性 1 名 ; 30
代 1 名 40 代 6 名 50 代 4 名 60 代 3 名 )。 調 査 協 力 者 が 1 4 名 と 少 な い た め , こ の こ と を 考
慮 す る 必 要 が あ る が ,結 果 を も と に 獣 医 師 が ど の よ う な こ と に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ て い
るかどのようなコーピングを行っているか評価した。
2. 獣 医 師 が ス ト レ ス を 感 じ る ス ト レ ス 要 因
ストレス要因①~⑪すべてにおいて半分以上の獣医師がストレスを感じると回答した。
特に①命を扱う責任の重さ ,②多様な価値観への対応 ,③達成感の得にくさについてスト
レ ス を 感 じ る と 回 答 し た 獣 医 師 は 80% 以 上 だ っ た ( 図 1 -2 )。
10
図1-2 獣医師がストレスを感じるとしたストレス要因
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90 100
①命を扱う責任の重さ
②多様な価値観への対応
③達成感の得にくさ
④感情労働
⑤人間関係
⑥学術的な進歩・技術革新
⑦病院経営
⑧地域医としての役割
⑨時間的拘束
⑩身体的負担
⑪サポート資源の少なさ
ストレスを感じると回答した人数(%)
こ の中 で 一 番 ス ト レ ス を感 じ る と し た ス ト レス 要 因 は,② 多 様 な価 値 観 へ の 対 応 で あり ,
回 答 し た 獣 医 師 が 5 名 で 最 多 だ っ た ( 図 1 -3) 。 次 に ① 命 を 扱 う 責 任 の 重 さ に 対 し て 一 番 ス
ト レ ス を 感 じ る と 回 答 し た 獣 医 師 が 3 名 だ っ た ( 図 1 -3 )。
図1-3 獣医師が一番ストレスを感じるとしたストレス要因
0
1
2
3
4
5
6
①命を扱う責任の重さ
②多様な価値観への対応
③達成感の得にくさ
④感情労働
⑤人間関係
⑥学術的な進歩・技術革新
⑦病院経営
⑧地域医としての役割
⑨時間的拘束
⑩身体的負担
⑪サポート資源の少なさ
一番ストレスを感じると回答した人数
ペ ッ ト , 飼 主 , 病 院 ス タ ッ フ に ど れ く ら い ス ト レ ス を 感 じ る か 示 し た 結 果 が 図 1 -4 で あ
る 。回 答 の 平 均 値 は ,治 療 対 象 で あ る ペ ッ ト 2. 57( 標 準 偏 差〈 SD〉=.8 5) ,飼 主 3 .29 (S D =. 61) ,
病 院 ス タ ッ フ 2.2 1( SD =.5 8) で あ り ,獣 医 師 は 飼 主 ,ペ ッ ト ,病 院 ス タ ッ フ の 順 で ス ト レ ス
を 感 じ て い た 。 ま た 3 つ の 平 均 値 に 対 す る 一 元 配 置 の 分 散 分 析 に お い て , F( 2 ,39 ) =8. 72
(p< .0 1) ,tu ke y の 多 重 比 較 の 検 定 に お い て ,飼 主 ‐ ペ ッ ト 間 ,ペ ッ ト ‐ ス タ ッ フ 間 に お い
て 5%水 準 で 有 意 だ っ た た め 3 つ の 平 均 値 に 差 が あ る こ と が 示 さ れ た 。
11
図1-4 獣医師がストレスを感じる対象
4
は4 ストレスをとても
感じる~1 まったく感
じないにおける回答
の平均値を示す 棒
線は±1 S.D.
3.5
3.29
3
2.5
2.57
2.21
2
1.5
1
ペット
飼主
スタッフ
3. ス ト レ ス や 苦 痛 を 感 じ て い る こ と , ス ト レ ス へ の 対 応 に 対 す る 自 由 記 述 回 答
ストレスや苦痛を感じていることに対して得られた記述回答を箇条書きにて示す。
・診療がたてこむ。難しい病気を診察するとき。
・業務すべてにおいてストレスを感じる。暇な時は経営のストレス。忙しいときは診療の
ストレス。
・ほとんど自分の時間がない。
・オーナーの年齢(若い人)にギャップがあり ,相手の気持ちが測り兼ねることにストレ
スを感じる。
・良かれと思ってやっていることが必ずしも伝わっていない。
・訴訟が一般化している中で物わかりの悪い ,一般論が通じない飼主 と 話すときに理解さ
せること。治療の成功のためであり,自己の満足のためでもあるが大変。
・スキルアップと経営手腕の両立。有能なスタッフの確保。
・飼主の獣医師に対する不信感。
次にストレスの解消法に対して得られた記述回答を箇条書きにて示す。
・一人の時間を作る。アルコール。
・趣味を充実させる。でも実際には特になし。
・外出。
・忘れる。
・日常を忘れて温泉に行きます。
・オフの日は自分の楽しいことを行う。仲間の獣医師,看護師,妻などに話をする(愚痴
を 言 う )。
・悶々と忘れるまで日々を送る。
・運動。飲み会。
・自分の時間を作る。
このストレス解消法について,3 人の評定者は,獣医師の自由記述の内容全てにおいて
12
情動焦点型コーピングに分類されるとした。
4. 飼 主 へ の ス ト レ ス と 否 定 的 感 情 や 認 識 の ギ ャ ッ プ を 感 じ る 獣 医 師
獣 医 師 は 中 川 が 指 摘 す る ス ト レ ス 要 因 ( 中 川 , 2 00 9a; 中 川 , 20 09c ) ほ と ん ど に 対 し て ス
ト レ スを 感 じ て い る こ と が 示 さ れ た 。一 番 ス トレ ス を 感 じ る と 答 えた 項 目 は ,多 様 な 価値
観への対応であり,また獣医師は,飼主,ペット,病院スタッフの順にストレスを感じる
対 象 と し て い た 。こ の こ と か ら 飼 主 の 多 様 な 価 値 観 へ の 対 応 に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ て い
る獣医師が多いことが示唆された。
獣医師のストレスは,自由記述回答を見ると「 診療がたてこむ。難しい病気を診察する
と き 。」「 ほ と ん ど 自 分 の 時 間 が な い 。」 な ど の 時 間 的 拘 束 や 身 体 的 負 担 ,「 オ ー ナ ー の 年 齢
( 若 い 人 ) に ギ ャ ッ プ が あ り , 相 手 の 気 持 ち が 測 り 兼 ね る 」「 訴 訟 が 一 般 化 し て い る 中 で
物 わ か り の 悪 い , 一 般 論 が 通 じ な い 飼 主 と 話 す と き に 理 解 さ せ る 」「 飼 主 の 獣 医 師 に 対 す
る 不 信感 」な ど の 飼 主 と の関 係 で 生 じ る ス ト レス ,病 院 経 営 上 の スト レ ス に 対 し て 述 べら
れ て いた 。こ れ ら は 飼 主 に対 し て 否 定 的 な 感 情や 認 識 の ギ ャ ッ プ を感 じ て い る こ と ,飼主
の性質に対してストレスを感じていることをうかがわせる記述であった。
5. 情 動 焦 点 型 の コ ー ピ ン グ
自 由 記 述 回 答 の 評 価 か ら 獣 医 師 は ス ト レ ス コ ー ピ ン グ と し て ,情 動 焦 点 型 コ ー ピ ン グ を
取 る 傾向 が 示 さ れ た 。教 示 が「 通 常の 業 務 に おけ る ス ト レ ス や 苦 痛を 解 消 す る た め に 何か
し て い る こ と は あ り ま す か 。」 と 抽 象 的 な た め , 情 動 焦 点 型 の コ ー ピ ン グ の み の 回 答 と な
っ た 可能 性 も あ る 。し か し 全 般 的 な ス ト レ ッ サー に お い て ,問 題 焦点 型 コ ー ピ ン グ は 適応
状 態 を , 情 動 焦 点 型 コ ー ピ ン グ は ス ト レ ス 反 応 を 高 め る 特 徴 を も つ と さ れ る た め ( Pen le y
et a l,2 00 2; Fol km an
e t al ,2 00 4) , 獣 医 師 の コ ー ピ ン グ は 適 応 的 と は 言 え な い か も し れ
ない。
第 4節
飼主から生じる獣医師のストレス
1. 飼 主 に 対 し て 生 じ る 否 定 的 感 情 や 認 識 の ギ ャ ッ プ
第 3 節で示すように,多くのストレス要因に獣医師はストレスを感じており,特に飼主
との関係でストレスを感じていることが明らかとなった。飼主に対して不信感を向けられ
否定的感情を抱く記述,飼主との認識のギャップを感じる記述 ,飼主の性質にストレスを
感じる記述があった。第 2 節で整理した,獣医療の特徴として獣医療における治療希望者
が客体である飼主であること,家族それ以上の存在としてペットが飼育されていること,
ペットの治療の質が経営に関連し“お金”から影響を受けること,獣医療従事者の労働環
境が過酷であることなども関連し,獣医師に負担を強いている可能性がある。
こ こ で 一 つ の 獣 医 療 で の 獣 医 師 の 葛 藤 場 面 と し て 矢 野 (2 009 ) の 獣 医 療 事 例 を 引 用 す る 。
下 痢 や 嘔 吐 な ど の 消 化 器 症 状 で 来 院 し た ペ ッ ト の 病 気 の 原 因 が ,検 査 の 結 果 飼 主 の 不 適 切
な飼養管理(人の食べ物の多給など)にあると獣医師が診断した場合 ,獣医師は飼主に対
す る 否 定 的 感 情 を も つ こ と が あ る 。動 物 を 助 け る た め に 獣 医 師 に な っ て い る に も か か わ ら
ず ,病 気 の 原 因 と な っ て い る 飼 主 の た め に 不 本 意 な 治 療 業 務 を お こ な わ な け れ ば な ら な い
13
か ら であ る 。し か も 飼 主 には ま っ た く 悪 意 が なく ,む し ろ 動 物 に 良か れ と 思 い 不 適 切 な飼
養管理を行っていることが喜劇的な悲劇である。飼主はペットが喜ぶから ,ペットのこと
を 考 えて 飼 主 な り の 動 機 によ っ て そ れ を 与 え てい る の で あ る 。人 医 療 にお い て ,例 え ば糖
尿 病 患 者 が 食 事 指 導 を 守 ら ず に 症 状 を 悪 化 さ せ た 場 合 ,医 師 は 患 者 に 対 す る 否 定 的 感 情 を
抱 く こ と が 考 え ら れ る が ,最 終 的 に は 患 者 自 身 が 自 己 決 定 に 基 づ き 判 断 し た こ と で あ る た
め そ の感 情 の 処 理 は 難 し くな い か も し れ な い 。獣 医療 の 場 合 ,獣 医 師 はそ の 職 業 選 択 の動
機 か ら 動 物 に 対 す る 思 い が あ り ,ペ ッ ト の 病 気 を 作 り 出 す と も 考 え ら れ る こ の 飼 主 に 強 い
否 定 的感 情 を 持 つ こ と が あり ,しかも治療の選択権が飼主に帰属し ,最終的に獣医師は動
物にとって適切に対応できないためにその感情の処理が見出せないところもある。獣医師
は治療対象としてペットを認識し飼い方で病気になったペットに対しこころを痛めてい
る の だ が ,飼 主 は 家 族 の 一 員 の ○ ○ ち ゃ ん と し て ペ ッ ト を 認 識 し て い る か ら 人 間 と 同 じ も
の を 食 べ る の は 当 た り 前 と い う ,獣 医 師 と 飼 主 で の 動 物 に 対 す る 認 識 の ギ ャ ッ プ が 存 在 し
て い ると も 言 い 換 え る こ とが で き る 。こ の 例 で生 じ た 獣 医 師 の ス トレ ス は , 第 2 節 で 論じ
た獣医療のストレスを生む構造が相互に絡み合っていることが考えられ,人間の医師には
ない,獣医師独特のストレスを獣医師は感じているのかもしれない。
2. 飼 主 の 性 質
矢 野 ( 200 9) の 事 例 と 本 章 第 3 節 で 獣 医 師 が 飼 主 に 否 定 的 感 情 や 認 識 の ギ ャ ッ プ を 感 じ て
い る 可 能 性 に 言 及 し た が ,こ れ は 獣 医 師 の ス ト レ ス が 飼 主 特 有 の 性 質 が 関 与 す る こ と も 示
唆する。
ペットが人間にもたらす効果について,主に生理的効果,心理的効果,社会的効果があ
るといわれている。生理的効果として,ペット飼育は,血圧を低減し,心疾患罹患後の生
存 率 を 高 め る 等 の 報 告 が あ る ( Fr ied ma nn et al, 1 980 ; A nd er s on et al , 1 997 ) 。 心 理 的
効 果 と し て , 動 物 介 在 活 動 や 動 物 介 在 療 法 の 多 く の 報 告 が あ る ( 岩 本 ら , 200 1) 。 社 会 的 効
果 と し て , パ ー ト ナ ー と し て 孤 独 感 を 低 減 す る 効 果 ( Za sl of f et a l, 1 994 ) や 社 会 的 潤 滑
剤 (M ugf or d et al, 1 975 ) や ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト ( 種 市 , 20 00 ) と し て 働 く 効 果 な ど が 報 告
さ れ てい る 。こ れ ら の 効 果は ペ ッ ト を 所 有 す るこ と だ け で は な く ,ペ ット と の 愛 着 の 深さ
が 関 連 す る と い う 見 方 も な さ れ て い る ( Ga rri ty e t al , 1 989 ) 。 ペ ッ ト が 人 に 与 え る 効 果
は,おおむね肯定的な結果報告が多い。
同 様 に ペ ッ ト を 飼 育 す る 飼 主 の 性 質 に つ い て 研 究 さ れ て い る が ,明 確 な 結 論 に は 至 っ て
い な い (G un te r,1 99 9) 。 飼 主 の 性 質 は , 飼 主 の ラ イ フ サ イ ク ル 段 階 , 婚 姻 状 況 , 同 居 し て
い る 子 供 の 数 , 年 齢 , 都 市 に 居 住 か 否 か , 年 収 ( A lbe rt et a l,1 98 7 ) や ペ ッ ト へ の 愛 着
( A lb ert et al ,1 98 7; 種 市 , 200 3;安 藤 ,2 003 ;金 児 ,20 03 ),飼 育 ペ ッ ト の 種 類 (Gu nt er ,1 999 )
な ど の様 々 な 要 因 が 影 響 する と 考 え ら れ て お り ,測定 が 難 し い た めで あ る 。 そ の よ う な中
で も ペ ッ ト に 特 別 な 意 味 を 見 出 し ,ペ ッ ト な し で い る の が 嫌 な 性 質 の 人 が い る の は 事 実 で ,
飼 主 は 自 分 の 生 活 の ギ ャ ッ プ や 社 会 的 能 力 の 不 完 全 さ に 悩 み ,そ れ を 自 分 と は 違 う 種 の 動
物との情緒的な関係によって埋めることを選択した人だとみなされる傾向があることも
指 摘 さ れ て い る ( Gu nt er, 19 99) 。
ペットの飼育者とそうでない人のパーソナリティの違いはほとんどないと言われてい
る (Gu nt er ,19 99 ) 。 し か し ペ ッ ト に 入 れ 込 ん で い る 飼 主 , 愛 着 が 強 い 飼 主 は よ り 内 向 的 で
14
自 尊 心 が 低 い 傾 向 ( Jo hns on e t al ,1 991 ) , 高 齢 の 飼 主 で は 自 尊 心 が 低 く , 援 助 や 支 え , 気
に か け ら れ て い る 感 覚 を 強 く 求 め る 依 存 的 傾 向 (K id d et al, 1 981 ) が あ る こ と が 報 告 さ れ
ており,ペットとの愛着と飼主の性質の関連について指摘されている。日本では,ペット
に 強 い 愛 着 を も つ 飼 主 は 主 観 的 幸 福 感 が 低 い こ と ( 金 児 , 20 06 ) , 飼 主 が 神 経 症 的 な 傾 向 が
強 く , ス ト レ ッ サ ー に 敏 感 な こ と ( 太 田 ら ,20 05 ) が 報 告 さ れ て い る 。 動 物 病 院 は ペ ッ ト と
の 愛 着 が 強 い 飼 主 が 利 用 す る と 考 え ら れ る た め ,動 物 病 院 に 訪 れ る 飼 主 に は こ の 傾 向 が あ
ることも想像される。
飼 主 は ペ ッ ト を 飼 っ て い な い 人 か ら ど う 見 ら れ て い る か と い う と ,日 本 で は 飼 主 が 非 飼
主 か ら ネ ガ テ ィ ブ な イ メ ー ジ を 持 た れ て い る こ と を 指 摘 し て い る ( 金 児 , 20 03 ) 。 ペ ッ ト が
飼 い に く い 住 宅 事 情 や ペ ッ ト の し つ け や 管 理 の 甘 さ ,マ ナ ー の 悪 さ が 関 連 し て い る と み ら
れ る ( 総 理 府 広 報 室 ,2 000 ) が , 社 会 的 潤 滑 油 と し て の ペ ッ ト の 恩 恵 を 飼 主 が 十 分 に 受 け る
に は 飼 主 の マ ナ ー の 向 上 が 必 要 で あ る こ と を 指 摘 し て い る ( 金 児 , 20 03) 。
3. 対 人 援 助 職 と し て の 獣 医 師
獣医師は,ペットを治療するという側面に付随し,飼主を援助する対人援助職である側
面も持つ。対人援助職である医師や看護師や臨床心理士などにおいて,医療従事者がクラ
イアント(患者)に対して抱く否定的感情や認識のギャップが起因するストレスについて
様々な研究がされている。とくに患者のベッドサイドに近い看護師において,患者に抱く
否定的感情やストレスについての研究が進んでいる。研究において現象から仮説を導き出
す 質 的 研 究 法 な ど の 人 間 科 学 的 な 手 法 ( 高 橋 , 20 07) を 用 い ,ス ト レ ス 対 処 に お い て 心 理 学 や
社会学の知見を応用した人間科学的な研究報告も認められる。 西洋医学などの自然科学を
もとに発展してきた獣医学研究において,対人援助職としての獣医師のストレスに焦点を
置いた研究は認められない。このような人間心理が関連する問題の研究のためには,自然
科学と社会科学などを包括する学際的な研究方法によるアプローチが必要と考えられる。
4. 獣 医 師 の 抱 く 思 い ( 総 合 診 療 医 が 患 者 に 抱 く 否 定 的 感 情 か ら )
山 上 ら (2 009 ) は , 総 合 診 療 医 が 患 者 と の 関 わ り の 中 で 抱 く 否 定 的 感 情 に つ い て 次 の よ う
に報告している。医師が患者に否定的感情を抱く状況は,医師と患者の間で価値観が異な
る時,医師が介入すべき問題の境界があいまいな時,患者の期待に応えられない時に分類
されるとしている。患者に対して生じた否定的感情に対して医師は,人間関係維持のため
否定的感情は表出しない,また医師は患者に否定的感情を表出してはいけない,そして否
定的感情は診療に影響すると考えている。否定的感情が生じたとき医者は,医学の限界と
認識したり,患者の行動に対する諦めを感じたり,患者の脱人格化を行ったり,求められ
る役割を演じたり,患者の発言を医師の文脈で再解釈したりといったその感情を 回避する
ための行動をとる。もしくは否定的感情について患者の言動を理解し患者への共感を図っ
たり,今後の診療への反省として生かしたり,患者との関係構築へ利用するといった否定
的 感 情 の 受 容 を 行 っ て 対 処 し て い る 。 山 上 ら ( 200 9) が 指 摘 す る , 医 師 の 患 者 に 抱 く 否 定 的
感情に焦点を当てた研究はほとんど認めらず,医師においてこの感情がストレスになって
いるのかは明らかでない。獣医療の治療構造の特殊性から同一とは言えないまでも,この
感情は本章第 3 節で指摘した獣医師が抱く飼主への否定的感情に類似するものと考えられ
15
る 。第 3 節 3 .の 自 由 記 述 回 答 か ら す る と ,獣 医 師 の 飼 主 に 抱 く 否 定 的 感 情 は ,怒 り や 不 快
な ど の ニ ュ ア ン ス を よ り 多 く 含 む よ う に 見 受 け ら れ る 。 山 上 ら ( 20 09) は , 言 語 デ ー タ を 意
味により分析する質的研究法により,総合診療医の否定的感情について分析している が,
獣医師の飼主に対する否定的感情や認識のギャップについて調査するためには,これに類
似する方法を採用することが必要と考えられる。
5. 獣 医 師 の サ ポ ー ト 体 制
医 師 や 看 護 師 の バ ー ン ア ウ ト は ,個 人 要 因 よ り 環 境 要 因( 過 重 労 働 ,仕 事 の 裁 量 の 欠 如 ,
仕事に対する低い社会的支援,自立性の欠如,時間的切迫,患者との直接的接触の多さ
(St an sfe ld
e t al ,1 999 ; I mai
et al ,2 00 4) と 職 場 環 境 の 人 間 関 係 (Le it er et a l,1 988 )
に 起 因 す る と さ れ , プ ロ セ ス レ コ ー ド に よ る 看 護 場 面 の 再 構 成 法 と 異 和 感 の 対 自 化 (宮
本 ,20 03 ) や 看 護 場 面 の デ ィ ブ リ ー フ ィ ン グ ( 中 島 ,2 01 1 ) な ど , 医 療 従 事 者 は ソ ー シ ャ ル
サ ポ ー ト を 利 用 し た ス ト レ ス マ ネ ジ メ ン ト が 体 系 化 さ れ つ つ あ る 。獣 医 師 は 一 般 と 比 べ る
と 仕 事 場 と 家 庭 の サ ポ ー ト に 頼 る 傾 向 が あ り ( Kah n & N utt er , 200 5) , 専 門 的 な 機 関 以 外 の
ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト を 利 用 す る ( G ar dne r & Hi ni, 20 06 ) と い う 報 告 や , 小 規 模 診 療 施 設 が
ほ と ん ど で あ る こ と ( 社 団 法 人 日 本 獣 医 師 会 , 20 07 ) 等 か ら , ス ト レ ス に お け る 十 分 な サ ポ
ートや環境整備が難しい側面があることが考えられる。
第 5節
本論文の目的
本章第 1 節では,欧米において獣医師ストレスの研究は認められ,獣医師がストレスフ
ルな業務を執り行っていること,しかし,獣医師のストレスが生まれるメカニズムまで言
及する研究は認められないことを示した。本章第 2 節で獣医師のストレスを生む構造につ
いて言及した。本章第 3 節で,獣医師は中川の指摘する多くの要因に対してストレスを感
じていることを示した。特に獣医師は飼主との関係でストレスを感じ,飼主に対して否定
的感情や認識のギャップを抱き,生じたストレスは情動焦点型に対処している実態があっ
た。
本 論 文 で は , 獣 医 師 が 飼 主 に 対 し て 抱 く ス ト レ ス に 焦 点 を あ て 、〈 獣 医 師 が 抱 く 飼 主 に
対 す る ス ト レ ス の 実 態 と そ の 効 果 的 な 対 処 〉 の 構 造 化 仮 説 (第 2 章 で 説 明 す る )を 導 く 研 究
を行う。
しかしながら本章で指摘するように,獣医学にはこのような人間の心理を扱う方法論が
な い 。こ の た め 学 際 的 な 人 間 科 学 の 研 究 方 法 論 に よ っ て 本 論 文 は す す め ら れ る 必 要 が あ る 。
第 2 章では,先行研究として第 2 章第 2 節で獣医師に共通する対人援助サービスを執り
行う医療従事者のストレスの研究について,第 2 章第 3 節でクライアントへの否定的感情
への対処に治療的意味を見出す臨床心理士の視点について言及した上で,獣医師の飼主に
対するストレス研究の人間科学的アプローチの方法論について論じる。
第 6節
本論文の概要と構成
1. 本 論 文 の 概 要
16
〈獣医師が抱く飼主に対するストレスの実態とその効果的な対処〉の構造化仮説を導く
ための概要を説明する。
第 3 章にて獣医師の飼主に対するストレスの実態の構造化仮説構築を目指す。第 3 章第
1 節の研究にて,獣医師への質問紙調査により飼主へのストレスとその対処の実態を質的
研究法により整理した。第 3 章第 1 節の研究で提示された〈獣医師の飼主に対するストレ
スは,飼主への否定的感情と認識のギャップに起因する〉を受け,第 3 章第 2 節と第 3 節
では,獣医師と飼主の認識のギャップに焦点を当て,その構造を明らかにする研究を行っ
た。第 3 章第 4 節の研究では,第 3 章第 1 節の研究で提示されたストレス状況である「飼
主の性質」を受け,飼主の性質を明らかにする研究を行った。
第 4 章では,第 3 章第 1 節の研究で提示された仮説〈獣医師にとって問題解決的なコー
ピングが飼主との関係改善を志向する飼主とのコミュニケ―ションに限られ,これが成功
しない場合問題回避型のコーピングを用いている〉とする仮説を受け,獣医師の効果的な
コ ー ピ ン グ に つ い て 調 査 す る 研 究 を 行 っ た 。第 4 章 第 1 節 の 研 究 で は , 獣 医 師 の 唯 一 の 問 題
解決的コーピングである飼主とのコミュニケーションの方法を探るため, 対人葛藤方略と
対人ストレスコーピングとストレス反応やバーンアウトとの関係から獣医師の効果的なコ
ー ピ ン グ に つ い て 知 見 を え た 。第 4 章 第 1 節 の 研 究 で は , ナ ラ テ ィ ブ・べ イ ス ド・メ デ ィ ス
ンの観点から,社会構成主義的な治療構造の理解が飼主に対するストレスを軽減した獣医
療事例を紹介した。
第 5 章にて,獣医師の飼主に対するストレスの実態とその効果的な対処について総合的
に考察し,本論文のまとめと今後の研究展望について論じた。
2. 本 論 文 の 構 成
部章ごとに明らかにしたい仮説,研究方法について説明する。
・第 1 章
問題の所在
獣 医 師 の ス ト レ ス ,特 に 飼 主 へ の ス ト レ ス の 存 在 と そ の 先 行 研 究 の 少 な さ や 研 究 方 法 論
の 問 題 に つ い て 説 明 し ,実 態 調 査 か ら 本 論 文 で は 獣 医 師 の ス ト レ ス の う ち 飼 主 に 対 す る ス
ト レ スに 注 目 す る こ と に つい て 論 じ た 。本 論 文の 目 的 で あ る「 獣 医 師 が抱 く 飼 主 に 対 する
ス ト レ ス の 実 態 と そ の 効 果 的 な 対 処 」を 明 ら か に す る 目 的 と そ の 構 成 と 概 要 に つ い て 説 明
した。
・第 2 章
獣医師ストレス研究への人間科学的アプローチの必要性
人 間 の 医 療 従 事 者 の ス ト レ ス や そ の 対 応 ,臨 床 心 理 士 の ク ラ イ ア ン ト へ の 否 定 的 感 情 の
取扱いについての実態・研究について論述し,獣 医師ストレスを研究するにあたり,学際
的な方法論として構造構成主義に根差した人間科学的アプローチが必要であることを説
明した。
・第 3 章
獣医師の飼主に対するストレスの実態
・第 1 節
獣医師の飼主に対するストレスとその対処
獣 医 師 へ の 質 問 紙 調 査 結 果 を KJ 法 で 分 析 す る こ と に よ っ て , 飼 主 へ の ス ト レ ス と そ の
対 処 の 実 態 を 調 査 し た 。飼 主 へ の 否 定 的 感 情 や 認 識 の ギ ャ ッ プ が 起 因 す る 飼 主 へ の ス ト レ
ス が 存 在 す る こ と ,飼 主 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 以 外 に は 問 題 解 決 的 に ス ト レ ス コ ー ピ ン グ
が で き な い 実 態 、ス ト レ ス 状 況 と し て 飼 主 の 性 質 な ど を 挙 げ て い る こ と な ど の 仮 説 を 提 示
17
した。
・第 2 節
獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究①~犬猫の不妊去勢手術に対する
葛藤と手術啓発が誘起する認知的不協和
第 3 章 第 1 節 で 明 ら か と な っ た 飼 主 と の 認 識 の ギ ャ ッ プ の 実 態 仮 説 か ら ,そ の 1 事 象 を
示 す 研 究 で あ る 。犬 猫 の 不 妊 手 術 に ま つ わ る 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ を 明 ら か に し ,
そ の メ カ ニ ズ ム に つ い て 言 及 し た 。 獣 医 師 は 理 性 的 に , 一 般 の 人 は 感 情 的 -理 性 的 に 不 妊
手 術 を と ら え て お り ,そ の 施 術 に 対 し て 一 般 の 人 は 葛 藤 を 持 つ こ と が 明 ら か と な っ た 。不
妊 手 術 の 施 術 を 巡 る 一 般 の 人 の 調 査 か ら ,ペ ッ ト の 飼 育 が 無 意 識 の 衝 動 に 繋 が っ た 感 情 的
な動機であるとする仮説を生成した。
・第 3 節
獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究②~不治の病の治療に対する飼主
の期待について
第 3 章 第 1 節 で 明 ら か と な っ た 飼 主 と の 認 識 の ギ ャ ッ プ の 実 態 仮 説 か ら ,も う ひ と つ の
1 事 象 を 示 す 研 究 で あ る 。不 治 の 病 を 治 療 す る た め 高 度 な 獣 医 療 発 展 さ せ て き た 獣 医 師 と ,
不治の病の時獣医師の人間性と適切な説明を望み苦痛を取り除く治療のみを期待する飼
主の認識のギャップを示した。獣医療・動物よりの理性的視点と家族・飼主よりの感情的
視点が生むギャップであることを示す。
・第 4 節
飼主の性格特性の把握への試み~防衛機制とコーピングの側面から
第 3 章 第 1 節 ス ト レ ス 状 況 の 『 飼 主 の 性 質 』, 第 2 節 感 情 的 な 飼 育 動 機 を 有 す る 飼 主 と
いう関心相関性から,飼主の性質を把握することが必要と考えられた。攻撃的,神経質,
わ が ま ま と 獣 医 師 に 認 知 さ れ る こ と か ら ,飼 主 の 性 質 の う ち 防 衛 機 制 と コ ー ピ ン グ 方 略 に
注 目 し ,ペ ッ ト 飼 育 と 防 衛 機 制 や コ ー ピ ン グ 方 略 の 関 係 を 明 ら か に す る た め の 質 問 紙 調 査
を実施し,量的研究法によって「飼主の防衛機制とコーピング方略」を明らかにした。本
節 の 結 果 か ら ,〈 ペ ッ ト 飼 育 は , 無 意 識 の 衝 動 に つ な が っ た 感 情 的 な 動 機 で あ る 〉 こ と や
〈ペット飼育は,対人資源コーピングの代償となっている〉ことが明らかとなり,このこ
と が 獣 医 師 と の 認 識 の ギ ャ ッ プ の 発 生 や ,獣 医 師 の 否 定 的 感 情 の 発 生 に つ な が っ て い る こ
とが考察された。
・第 4 章
獣医師のストレスへの対処方略
第 3 章 で ,獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る 否 定 的 感 情 や 認 識 の ギ ャ ッ プ が 獣 医 師 の ス ト レ ス の 原
因 と な っ て い る こ と ,ス ト レ ス 対 処 法 が 問 題 解 決 型 で は 飼 主 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 限
られ,その他は回避的・情動焦点的に行われていることも示された。このことを踏まえ,
第 4 章では獣医師はどのように飼主へのストレスに対処することが効果的かについて構造
化仮説を生成した。
・第 1 節
獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ と 対 人 葛 藤 方 略 -ス ト レ ス 反 応
とバーンアウトとの関係獣 医 師 が 問 題 解 決 的 に ス ト レ ス 対 処 で き る 方 法 ,飼 主 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン で ど の よ
う な 方法 が 効 果 的 な の か を調 査 す る た め に ,獣 医 師の 対 人 ス ト レ スコ ー ピ ン グ ,対 人 葛藤
方略,ストレス反応,バーンアウトを測定できる質問紙調査を実施した。飼主とのコミュ
ニ ケ ー シ ョ ン に お い て「 獣 医 師 の 効 果 的 な ス ト レ ス 対 処 の 方 法 」に つ い て 仮 説 を 生 成 し た 。
・第 2 節
獣 医 療 に お け る ナ ラ テ ィ ブ -社 会 構 成 主 義 か ら の 治 療 構 造 の 理 解 が 生 む 獣 医 師
ストレスの軽減の試み-
18
ストレス軽減を見込める効果的な飼主とのコミュニケーションの方法論の一つとして,
獣 医 療 N BM を 評 価 し た 事 例 研 究 を 行 っ た 。 獣 医 療 の 治 療 構 造 を 社 会 構 成 主 義 的 に 理 解 す る
治 療 者 の 態 度 に よ っ て ,治 療 者 自 身 の ス ト レ ス の 軽 減 が 認 め ら れ た 事 例 研 究 を 通 し て ,
「獣
医 療 N BM は 獣 医 師 の ス ト レ ス を 軽 減 す る 可 能 性 が あ る 。」 と い う 仮 説 を 生 成 し た 。
・第 5 章
総合考察と結論
本 論 文 で 得 ら れ た 知 見 を も と に「 獣 医 師 が 抱 く 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス の 実 態 と そ の 効 果
的な対処」に対する構造化仮説をまとめた。最後に本論文のまとめと今後の展望や問題点
について指摘した。
図 1 -5 に 第 3 章 と 第 4 章 の 概 要 と 構 成 を 示 す 。 第 3 章 第 1 節 で 提 示 さ れ た 獣 医 師 と 飼 主
の 認 識 の ギ ャ ッ プ と い う 関 心 を 出 発 点 と し て ,第 3 章 と 第 4 章 で 研 究 を 進 行 す る 上 で 注 目
し た 関 心 と そ れ に 相 関 し て 各 節 ご と に 構 造 化 仮 説 を 生 成 し て ゆ く 手 順 を 図 1-5 に よ っ て 明
示する。
19
第3章
第1節
獣医師の飼主に対するストレスの実態調査
獣医師の飼主に対するストレスとその対処
獣医師の飼主ストレスとその対処の実態を質的研究法により整理
ストレス状況『飼主の性質』
『獣医師基準における飼主の無理解』『病院経営上の問題』『獣医療の難しさ』
ストレス対処『問題解決的・関係志向的』
『関係回避的』『中間型』
獣医師ストレスを生む飼主への否定的感情が飼主との認識のギャップに関連
第 2 節 獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究①~犬猫の
獣医師と飼主の認識のギャップ
不妊去勢手術に対する葛藤と手術啓発が誘起する認知的不協和
犬猫の不妊手術にまつわる獣医師と飼主の認識のギャップについて整理
理性的に対応する獣医師と感情的な葛藤や認知的不協和を誘起される飼主
獣医師のストレス対処の実態を解明
第 3 節 獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究②~不治の
病の治療に対する飼主の期待
不治の病の治療にまつわる獣医師と飼主の認識のギャップについて整理
感情的なケアを期待する飼主視点と高度獣医療を志向する理性的な獣医師視点
飼主の性質・獣医師基準における
第 4 節 飼主の性格特性の把握への試み~防衛機制とコーピング
飼主の無理解
の側面から
第 1 節のストレス状況『飼主の性質』を受けて、質問紙調査を実施
理性的な獣医師と感情的な飼主
ペット飼育は無意識の衝動に繋がった感情的な動機
ペット飼育は、対人資源利用コーピングの代償
第4章
獣医師のストレスへの対処方略
『問題解決的・関係志向的』・『関
第 1 節 獣医師の飼主に対する対人ストレスコーピングと対人葛藤
係回避的』・『中間型』コーピング
方略-ストレス反応とバーンアウトとの関係獣医師の飼主ストレスの効果的なコーピングを質問紙調査
第 2 節 獣医療におけるナラティブ-社会構成主義からの治療構造
の理解が生む獣医師ストレスの減少の試み社会構成主義的な治療構造の理解が獣医師のストレスを軽減させた事例研究
獣医療現象を社会構成主義的に俯瞰(メタ認知)することの有効性
Husserl の現象学的思考法と研究者の関心(
で明示)に相関的に構造仮説継承型研究を進行。
研究法や課題を明示することで科学性を担保し、《獣医師が抱く飼主に対するストレスの実態とその効
果的な対処》についての構造化仮説を生成する。
図 1-5 第 3 章と第 4 章の概要と構成
20
第 2章
第 1節
人間科学的方法論での獣医師ストレス研究
人間科学的アプローチの必要性
第 1 章で 論 述 し て き た と おり ,獣 医 師 は 業 務 上飼 主 か ら ス ト レ ス を抱 い て い る 。 自 然科
学 で あ る 西 洋 医 学 を も と に 発 展 し て き た 獣 医 学 の 方 法 論 だ け で は ,獣 医 師 の ス ト レ ス と い
う 人 間の 心 の 問 題 を 明 ら かに す る こ と は 難 し い。対 人 援助 職 で あ る 医 療 従 事 者 や 臨 床 心理
士 は ,そ のス ト レ ス を 明 らか に し 対 処 す る た めに ,自 然 科 学 に 基 づく 量 的 研 究 や 社 会 学な
ど で 用 い ら れ る 質 的 研 究 を 駆 使 し 問 題 を 把 握 し 対 応 し て い る 。獣 医 師 の ス ト レ ス の よ う な
人 間 の 心 の 問 題 も 同 様 に 学 際 的 な 人 間 科 学 的 方 法 論 で 研 究 さ れ る 必 要 が あ る 。そ の た め に
本 論 文 の 目 的 で あ る〈 獣 医 師 が 抱 く 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス の 実 態 と そ の 効 果 的 な 対 処 〉の
構 造 化 仮 説 を 導 く た め の 人 間 科 学 的 方 法 論 を 明 示 す る 必 要 が あ る 。本 論 文 で 採 用 す る 人 間
科 学 的 方 法 論 を 論 じ る 前 に ,医 療 従 事 者 の ス ト レ ス 研 究 や 臨 床 心 理 士 の 抱 く 否 定 的 感 情 の
対 応 に つ い て の 研 究 や 考 え 方 に つ い て の 先 行 研 究 に つ い て 論 じ ,獣 医 師 の ス ト レ ス 研 究 に
おいて人間科学的アプローチが必要であることとその課題について本章で整理する。
第 2節
医療従事者のストレス研究とストレス理論
1. 医 療 従 事 者 の ス ト レ ス
獣医療に共通点が多いと考えられる人間の医療従事者に対するストレスはどのように
研究されているだろうか。医療従事者は,職場のストレッサーとして職務量の多さ・職務
の質的困難さ・クライアントとの関係・職場の人間関係を抱え,これらが医療従事者の精
神 的 健 康 を 阻 害 し て い る こ と が 指 摘 さ れ て い る ( 森 本 , 20 06 ) 。 ま た , コ ー ピ ン グ 方 略 の あ
り よ う は ,個 人 内 要 因 と し て 対 人 援 助 サ ー ビ ス 場 面 に お い て ス ト レ ス 反 応 を 緩 和 す る こ と
に 影 響 を 及 ぼ す こ と が 明 ら か と な っ て い る ( 森 本 , 200 6 ) 。 医 療 従 事 者 の よ う な 対 人 援 助 職
に お い て ,職 場 の 人 間 関 係 は ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト と 対 人 援 助 サ ー ビ ス の 職 務 特 徴 で あ る 協
働 と の 間 に 関 連 性 が あ り ,職 場 ス ト レ ス の 軽 減 に 対 し て ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト や 協 働 状 況 の
改 善 が 従 事 者 の 精 神 的 健 康 維 持 に 効 果 が あ る こ と が 示 さ れ て い る ( 森 本 , 20 06 ) 。 心 理 的 ス
ト レ ス理 論 と バ ー ン ア ウ トの 関 係 を 踏 ま え ,医 師 や看 護 師 の バ ー ンア ウ ト は ,個 人 要 因よ
り 環 境 要 因( 過 重 労 働 ,仕 事 の 裁 量 の 欠 如 ,仕 事 に 対 す る 低 い 社 会 的 支 援 ,自 立 性 の 欠 如 ,
時 間 的 切 迫 , 患 者 と の 直 接 的 接 触 の 多 さ ( Sta ns fel d
et al, 19 99; Im ai
e t al ,20 04 ) と 職
場 環 境 の 人 間 関 係 (L eit er e t al ,1 98 8 ) に 起 因 す る と さ れ , ス ト レ ス マ ネ ー ジ メ ン ト の
整 備 が 進 ん で い る ( 河 野 , 20 03) 。
2. ス ト レ ス 理 論
(1) ス ト レ ス と は
ス ト レ ス と は も と も と 「 あ る 力 に 対 す る 応 力 」 を 示 す , 力 学 上 の 言 葉 で あ っ た が ,「 何
ら か の刺 激 に よ っ て 生 体 に生 じ た 歪 み の 状 態 」と して ,生 体 や 人 間に 対 し て 現 在 日 常 的に
使 用 さ れ る よ う に な っ た 。ス ト レ ス の 原 因 は ス ト レ ッ サ ー と 呼 ば れ ,物 理 的 ス ト レ ッ サ ー ,
21
化 学 的ス ト レ ッ サ ー ,生 物 学 的ス ト レ ッ サ ー など が あ る が ,今 回 研究 の 関 心 か ら 医 療 従事
者に生じる心理的ストレッサーを中心に述べる。すべてのストレッサーに対する反応は,
生物学的に脳下垂体・副腎皮質系(コルチゾール)が主役を演じ,生物学的恒常性を維持
する機能を賦活化し,生物学的・心理的反応にストレス状態への適応を促そうとする。ス
トレッサーの強度や持続時間によっては,脳海馬の委縮を引き起こすなどの結果により,
急 性 ス ト レ ス 障 害 (Ac ut e S tr ess D iso rde r; ASD ) や 心 的 外 傷 後 ス ト レ ス 障 害 (Po st
Tra um ati c Str es s Di sor de r;P TS D) , う つ の 原 因 と な る と 考 え ら れ て い る 。
(2) 心 理 的 ス ト レ ス 理 論
心 理 的 ス ト レ ス 理 解 の 中 心 的 な 役 割 を 担 う L aza ru s & F ol kma n(1 98 4) の 心 理 的 ス ト レ ス
理 論 に よ れ ば , 個 人 の 心 理 的 ス ト レ ス 過 程 は ,「 ス ト レ ス を 生 む 出 来 事 ( ス ト レ ッ サ ー )
→ 認 知 的 評 価 ( ス ト レ ッ サ ー が 脅 威 的 か , 対 処 可 能 か ) → ス ト レ ス 対 処 行 動 (コ ー ピ ン
グ )・ 社 会 的 援 助 資 源 ( ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト ) の 利 用 → ス ト レ ス 反 応 ( ス ト レ ン )」 と い う
流 れ に よ っ て 説 明 さ れ ,ス ト レ ッ サ ー へ の 対 応 が 精 神 的 健 康 に 影 響 を 及 ぼ す と さ れ て い る
(La za rus ,1 993 ;L az ar us, 19 99; La zar us & F olk ma n, 1 98 7;L az ar us , A ve ril l, & Op to n, 1 970 ;
Laz ar us & DeL on gi s, 198 3) 。
(3) ス ト レ ス 対 処 行 動 ( ス ト レ ス コ ー ピ ン グ )
ス ト レ ス を 感 じ た と き , 人 は ス ト レ ス に 対 処 す る 行 動 を と る ( コ ー ピ ン グ )。 こ の コ ー
ピ ン グ に つ い て は F ol kma nn et al が 提 唱 す る 問 題 焦 点 型 ( ス ト レ ス 原 因 の 除 去 を 目 指 す )
と 情 動焦 点 型( ス ト レ ス に起 因 す る 不 快 な 感 情の 解 消 を 目 指 す )の コ ーピ ン グ 方 略 理 論が
有 名 で あ る (Fo lk ma nn
e t al ,1 98 0; F ol km ann
et a l, 198 5; Fo lkm an n
et al, 19 88) 。 問
題 -情 動 焦 点 型 対 処 の ほ か , ス ト レ ッ サ ー へ の 距 離 に よ っ て 接 近 -回 避 型 コ ー ピ ン グ , コ ー
ピ ン グ の 方 略 と し て 認 知 -行 動 コ ー ピ ン グ な ど の い く つ か の 基 本 次 元 が 提 唱 さ れ て お り
(Fo lk man n
et al ,1 9 88) , こ の 3 つ の 次 元 の 組 み 合 わ せ で で き る 8 つ の 尺 度 か ら コ ー ピ ン
グ 方 略 を 測 定 す る コ ー ピ ン グ 測 定 尺 度 (T ri -ax ia l Co pi ng Sca le 24 - it em v er sion :
TAC -2 4; 以 下 TAC )( 神 村 ら , 19 95 )も 開 発 さ れ て い る 。
加 藤 (2 00 0) は , 人 間 関 係 で 生 じ る ス ト レ ス ( 対 人 ス ト レ ッ サ ー ) へ の コ ー ピ ン グ に 対 し
て ,全 般 的な ス ト レ ス コ ーピ ン グ と 区 別 す る 必要 が あ る と し ,対 人 ス トレ ス コ ー ピ ン グと
い う 考え 方 を 提 唱 し て い る 。対人 ス ト レ ス コ ーピ ン グ を 測 定 す る ため に ,関 係 焦 点 型 対処
と し て 概 念 化 し た 3 つ の コ ー ピ ン グ 分 類 で あ る ポ ジ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ( 積 極 的 に 対 人
関 係 を 改 善 し ,よ り 良 い 関 係 を 築 こ う と す る コ ー ピ ン グ ),ネ ガ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ( 対
人 関 係 を 放 棄 ・ 崩 壊 す る こ と で 行 う コ ー ピ ン グ ), 解 決 先 送 り コ ー ピ ン グ ( ス ト レ ス フ ル
な 関 係を 問 題 と せ ず ,時 間 が 解決 す る の を 待 つよ う な コ ー ピ ン グ )か らコ ー ピ ン グ 効 果を
測定している。全般的なストレッサーにおいて,問題焦点型コーピングは適応状態を,情
動 焦 点 型 コ ー ピ ン グ は ス ト レ ス 反 応 を 高 め る 特 徴 を も つ と さ れ る ( Pen le y
Fol km an
et a l, 200 2;
e t a l, 20 04 ) が , 対 人 ス ト レ ッ サ ー に 対 し て F ol kma n n ら の コ ー ピ ン グ 方 略 が 効
果 的 で あ る と す る 一 貫 し た 成 績 は な い ( 加 藤 , 20 08 ) 。 対 人 ス ト レ ッ サ ー は 自 分 自 身 で コ ン
ト ロ ール す る こ と が 困 難 と認 知 さ れ や す く ,感 情 コン ト ロ ー ル や ,ス トレ ス フ ル な 状 況か
ら の 回 避 と い っ た コ ー ピ ン グ 方 略 を 選 択 し が ち で あ る こ と ( Pa rk
22
e t al ,2 00 4) , 最 も 遭 遇
頻 度 が高 く ,身 近 で 避 け るこ と が で き ず ,慢 性 化 しや す い 性 質 を 持つ こ と が 関 与 す る こと
か ら , Fo lk man n et a l が 提 唱 す る 問 題 - 情 動 焦 点 型 の コ ー ピ ン グ 方 略 理 論 で は 対 人 ス ト レ
ス コ ー ピ ン グ は 説 明 で き な い と し て い る ( 加 藤 , 200 8) 。
コ ー ピ ン グ に つ い て は , 精 神 分 析 学 (F re u d S, 18 94; Fr eu d A, 19 36) の 定 義 す る 防 衛 機 制
と の 関 連 に つ い て も 検 討 さ れ て い る 。 F re ud A ( 193 6) は ,“ 不 安 や 罪 悪 感 か ら 自 我 を 保 護
す る た め に 苦 痛 を 伴 う 考 え を 無 意 識 的 に 隠 し て し ま う ”防 衛 機 制 と い う 自 我 機 能 を 概 念 化
した。現在,防衛機制という概念は,心理的ストレスへの対処行動として行われるストレ
ス コ ー ピ ン グ と い う 概 念 に 組 み 込 ま れ ( Kl ine ,1 993 ) , 防 衛 機 制 と コ ー ピ ン グ は ス ト レ ス へ
の 対 処方 略 と い う 点 で 共 通し て い る が ,防 衛 機制 は 無 意 識 的 で あ り ,コー ピ ン グ は 意 識的
で あ る と こ ろ に 違 い が あ る と 指 摘 さ れ て い る ( Cra me r, 19 98 ) 。
(4) 社 会 的 援 助 資 源 ( ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト )
ソーシャルサポートとは「他者に対して与えられる援助」では あるが,現時点で研究上
明 確 な定 義 づ け は な さ れ てい な い 。ソ ー シ ャ ルサ ポ ー ト は ,自 尊 心の 回 復 へ の 援 助 や 親密
性 な ど情 緒 的 サ ポ ー ト ,助 言 や情 報 な ど の 査 定的 サ ポ ー ト ,物 質 や介 護 な ど 具 体 的 援 助で
あ る 道具 的 サ ポ ー ト の 3 つに 大 ま か に 分 類 さ れる 。ソ ー シ ャ ル サ ポー ト の 効 果 は ,誰 によ
っ て 提供 さ れ る の か ,受 け 手 がど の 程 度 サ ポ ート を 必 要 と し て い るの か ,ス ト レ ッ サ ーの
強 度 や 人 間 関 係 の 質 に よ っ て 影 響 を 受 け る 。こ の た め よ り 具 体 的 に 何 が 有 効 な サ ポ ー ト に
な る か と い う 問 題 に 対 し て 明 確 な 回 答 が 得 ら れ て い る わ け で な く ,ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 研
究 の 評 価 が 難 し い 現 状 が あ る ( 浦 , 19 92 )。
3. 医 療 従 事 者 の ス ト レ ス 研 究
(1) 燃 え 尽 き 症 候 群 ( バ ー ン ア ウ ト )
医 師 や看 護 師 な ど 対 人 援 助職 に お い て ,ス ト レス に 起 因 す る バ ー ンア ウ ト( 燃 え 尽 き症
候 群 ) が 問 題 視 さ れ て い る ( 田 尾 ら ,1 99 6; F re ud enb e rge r , 197 4) 。 Ma sla ch e t
al( 19 76; 19 81 ) は , バ ー ン ア ウ ト は “ あ る 施 設 の 中 で 協 働 関 係 に あ る 個 人 に お こ る 情 緒 的
消 耗 感( 仕 事 を 通 じ て ,情 緒 的 に 力 を 出 し 尽 く し ,消 耗 し て し ま っ た 状 態 ),脱 人 格 化( サ
ー ビ ス 相 手 に 対 す る 無 情 で 非 人 間 的 な 対 応 ), 個 人 的 達 成 感 の 低 下 ( 職 務 に 関 わ る 有 能 感
や 達 成 感 の 低 下 ) か ら な る 症 候 群 ” と 定 義 し た 。 La zar us ら の 心 理 的 ス ト レ ス 理 論 か ら の
理解では,バーンアウトは環境要因(過重労働や役割葛藤)と個人要因(パーソナリティ
や 経 験 )か ら 生 じ た ス ト レ ッ サ ー に 対 す る コ ー ピ ン グ の 失 敗 に よ る 慢 性 的 な ス ト レ ン の ひ
と つ に 相 当 す る ( Ma sl ach , 197 6; 久 保 ,1 99 8) 。
(2) 感 情 労 働
看 護 師 は 夜 勤 等 に よ っ て 業 務 量 が 多 く 肉 体 的 に 過 酷 な 業 務 で あ る こ と ,女 性 の 現 場 で あ
る こ と か ら 出 産 を 機 に 身 体 的 理 由 か ら 離 職 す る ケ ー ス が あ る が ,近 年 そ れ に 加 え 精 神 的 健
康 を 理 由 に 離 職 す る ケ ー ス が 増 え て い る ( 松 本 ・ 臼 井 ,20 12 ) 。
Hoc hs chi ld (19 89 ) は , 看 護 師 や 客 室 乗 務 員 を は じ め と す る す べ て の 対 人 援 助 職 は , 明 る
く親切で,安全な場所でケアされていると他者に感じてもらえるような外見を保つため,
23
感 情 を 出 し た り 抑 え た り す る こ と を 要 求 さ れ る と し て ,こ の よ う な 労 働 を 感 情 労 働 と 名 付
け た 。感 情労 働 者 は ,業 務 の 中で 自 身 の 感 情 を規 範 に よ っ て 抑 圧 し表 現 し な く て は な らず
疲 弊 す る こ と が あ る 。 た と え ば ,「 白 衣 の 天 使 」 と し て 看 護 師 は 社 会 的 に 「 や さ し さ 」 を
強いられることが一つの例である。
宮 本( 2 008 )は ,看 護 師 が 感 情 労 働 に よ っ て 社 会 的( 外 的 )だ け で な く 自 身 の 持 つ 規 範 ・
慣 習( 内 的 )か ら 疲 弊 す る 可 能 性 に 触 れ な が ら ,自 身 の 感 情 の 異 和 感 に 気 づ き ( 自 己 一 致 ) ,
率 直 に 適 切 に 表 現 す る 重 要 性 に つ い て ふ れ て い る 。感 情 労 働 者 の 自 己 一 致 し た 適 切 な 感 情
表現は,ストレスの軽減だけでなく業務の質を向上させる可能性を示唆している。
4. 医 療 従 事 者 の ス ト レ ス 対 処
(1) プ ロ セ ス レ コ ー ド に よ る 看 護 場 面 の 再 構 成 法 と 異 和 感 の 対 自 化
宮 本 ( 200 3) は , 看 護 師 が 臨 床 現 場 で 経 験 す る 否 定 的 感 情 へ の 対 応 と し て , プ ロ セ ス レ コ
ー ド に よ る 看 護 場 面 の 再 構 成 法 と 異 和 感 の 対 自 化 を 提 案 し て い る 。プ ロ セ ス レ コ ー ド と は
よりよい看護実践に生かすため看護師と患者のやりとりを看護師が記録したもので,
Pep la u(1 95 2) が 提 案 し た 方 法 で あ る 。 O rl and o( 1 977 ) や Wi ed e nba ch( 196 9, 19 72 ) に よ っ
て,看護師が見たこと聞いたこと,看護師が感じたこと考えたこと,看護師の言ったこと
行 っ た こ と の 3 分 類 で 記 入 す る 簡 潔 な 方 法 に 改 良 さ れ ,ス ー パ ー バ イ ザ ー と と も に 看 護 師
の内面の現象を振り返り自己評価して看護場面に生かしてゆく看護教育的な方法に発展
し て い る 。 Orl an do は そ の 際 , 看 護 師 の 内 面 に 生 じ た 反 応 と 一 致 す る 率 直 で 患 者 に 対 し て
適切に表現された看護師の患者への表現が患者の精神的成長を促す可能性について示唆
していた。宮本は,これに加え看護場面で生じる看護師のもつ「何かしっくりこない」と
い う 感じ で あ る 異 和 感 を 記 録 し ,信 頼 で き る 相手 に 語 り ,体 験 を 分か ち 合 っ て も ら う こと
により,異和感の解消をはかりながら,自分自身や相手の心理,そして両者の相互作用の
特 徴 に つ い て 解 き 明 か す た め の 「 異 和 感 の 対 自 化 」 と い う 方 法 を 開 発 し た 。「 患 者 に や さ
し く なけ れ ば な ら な い 」な ど 暗黙 の 規 範 が あ る看 護 師 の 世 界 で は ,看 護自 身 の 気 持 ち を抑
制 す る 傾 向 が 起 こ り や す い が , Orl an do や 宮 本 は , 率 直 で 適 切 な 「 自 己 一 致 し た 看 護 師 の
反 応 と 表 現 」 が 患 者 成 長 す る こ と を 援 助 す る こ と に つ な が る と し ,「 看 護 師 の 自 己 一 致 」
を 実 現 し た り ,看 護 師 を エ ン パ ワ メ ン ト す る 方 法 と し て 指 導 教 官 と と も に 行 う プ ロ セ ス レ
コードによる看護場面の再構成法と異和感の対自化を奨励している。
(2) 看 護 場 面 の デ ィ ブ リ ー フ ィ ン グ や 申 し 渡 し カ ン フ ァ な ど の 第 3 者 に よ る 援 助
看 護 領域 に お い て 事 例 を 振り 返 り ,フ ァ シ リ テー タ ー を 介 し ,守 ら れた 集 団 の 中 で 率直
に 感 想 を 述 べ る デ ィ ブ リ ー フ ィ ン グ が 行 わ れ て い る ( 中 島 ,20 11 )。「 つ ら か っ た 経 験 , 悲
し か った 経 験 を グ ル ー プ に話 し 聞 い て も ら う 」デ ィブ リ ー フ ィ ン グは ,ト レ ー ニ ン グ され
た フ ァシ リ テ ー タ ー の も とで ,手 順 に 沿 い ,グ ル ープ 内 の 積 極 的 傾聴 の 姿 勢 と 秘 密 厳 守の
ル ー ル を 守 り 執 り 行 わ れ る と ,心 理 的 ス ト レ ス 反 応 の 軽 減 に 効 果 が あ る こ と が 認 め ら れ て
い る 。看 護領 域 に お い て も効 果 的 な デ ィ ブ リ ーフ ィ ン グ( 看 護 師 にお け る 申 し 渡 し や ピア
サ ポ ート の 方 法 の 確 立 )の 方 法は 発 展 途 上 に ある よ う で あ る が ,獣 医 療域 の ス ト レ ス への
介 入 法と し て 期 待 で き る と考 え ら れ る 。ま た ,看 護領 域 で は 第 3 者に よ る 治 療 者 の 援 助と
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し て ,看 護師 領 域 の 申 し 渡し や 医 療 の ケ ー ス カン フ ァ レ ン ス な ど が存 在 す る 。事 業 所 規模
の小さい獣医療においてスーパーバイザーやファシリテーターを立てることが難しい側
面も考えられる。
(3) 医 療 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 論 と し て の N B M と O SCE
近 年 人 医 療 で は ,人 間 の 関 係 す る 現 象 を 論 理 だ け で は 把 握 す る こ と が で き な い と す る 反
省 か ら , N ar ra tiv e B ase d M edi ci ne (NB M, 物 語 に 基 づ く 医 療 , ナ ラ テ ィ ブ ・ べ イ ス ド ・ メ
デ ィ ス ン )( G re enh al gh , 19 98 ) や Ob jec ti ve S tr uc tur ed Cl in ic al E xa mi nat io n ( OS CE , 客
観 的 臨 床 能 力 試 験 , オ ス キ ー )( Fe ath er ら ,19 99)な ど 病 気 を 人 間 全 体 と し て 捉 え る 研 究 ・
学習方法が注目されている。
NBM や OS CE は ,学 問 と し て の 医 学 と 実 際 の 診 療 場 面 の 現 象 の 乖 離 を 埋 め る 医 療 コ ミ ュ ニ
ケーション論として注目されている。西洋医学をもとに発展してきた近代医学の特徴は,
疾 患 を臓 器 組 織 ご と に 分 類し 理 解 す る こ と で 治療 方 法 を 開 発 し て きた 。こ の た め ,患 者そ
の も の と 患 者 の 持 つ 疾 患 を 分 離 し ,疾 患 を 取 り 除 く こ と に よ り 患 者 を 治 療 す る 傾 向 を 増 長
さ せ て し ま っ た 。こ の 傾 向 は 医 療 現 場 に お い て 患 者 が 人 間 的 に 疎 外 さ れ る 傾 向 を 生 み 出 し ,
医 療 に お け る 患 者 の 満 足 度 を 著 し く 低 下 さ せ て し ま っ て い る 。同 時 に 医 療 従 事 者 は 医 学 と
医 療 現 場 で 実 際 に お こ る こ と の 現 象 の 乖 離 に 悩 ま さ れ る こ と に な り ,医 療 従 事 者 の 専 門 職
としての達成感・充実感を低下させる一因になっていることが指摘されている。
心 理 療 法 の ナ ラ テ ィ ブ セ ラ ピ ー ( M ic he l &
D av id , 19 9 0 ) の 理 論 的 根 拠 を 基 に 提 唱 さ
れ た N BM は ,被 治 療 者 な ら び に 治 療 者 が 持 つ 考 え・認 識・価 値 観・感 情 等 を ナ ラ テ ィ ブ( 物
語り)と捉え,被治療者の病気というナラティブ(ドミナントストーリー)を,治療者と
の 共 同作 業 に よ っ て ,被 治 療 者に と っ て 望 ま しい 新 し い ナ ラ テ ィ ブ( オル タ ナ テ ィ ブ スト
ー リ ー ) に 書 き 換 え る こ と を 目 指 す 。 NBM は , 治 療 者 と 被 治 療 者 の ナ ラ テ ィ ブ を 社 会 構 成
主 義 の 視 点 か ら 捉 え る こ と に 本 質 を も つ 。 社 会 構 成 主 義 は , B erg er と Lu ck ma nn の 議 論
( 1 96 6 ) か ら 発 生 し た , ポ ス ト モ ダ ニ ズ ム 社 会 学 の 現 象 理 論 で あ る 。 社 会 構 成 主 義 は , 現
実 が 社会 的 に 構 成 さ れ る とい う こ と を 主 張 す る 。すな わ ち ,個 人 の現 実 認 知 は 言 語 化 され
た記憶の集積として構築されたものであり,言語(テクスト)を用いた他者との交流の中
から生じた意味や概念や理解(ディスコース)から生じるとする考えである。社会構成主
義 に よれ ば ,主 観 と 客 観 双方 か ら 確 認 さ れ る 普遍 的 真 実 の 存 在 は 仮 定 出 来 ず ,究 極 に 全て
の 人 が一 致 し う る 真 理 と 呼べ る 現 実 は 存 在 し ない 。ナ ラ テ ィ ブ セ ラピ ー は ,そ の 現 実 認識
に お い て 社 会 構 成 主 義 の 認 識 論 を 据 え て お り( 高 橋 ら , 20 01 ),NB M や ナ ラ テ ィ ブ セ ラ ピ ー
におけるナラティブは,社会構成主義におけるディスコースに相当する。
斎 藤 ( 200 3 ) は ,“ 医 療 で の 治 療 構 造 を 社 会 構 成 主 義 の 原 則 に 基 づ き 理 解 す る と き , 治
療者は,幾通りもある「被治療者というテクスト」の読者であり,幾通りもある「被治療
者 の 持 つ 意 味( デ ィ ス コ ー ス )」の 著 述 者 で あ る ”と 述 べ て い る 。NBM を 実 践 す る 治 療 者 は ,
自 身 の ナ ラ テ ィ ブ( 病 の 医 学 的 認 識 や 社 会 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ や パ ー ソ ナ リ テ ィ 等 の 治 療
者の現実)と被治療者のナラティブ(病を抱えている現実や個人的な事情や体験)が,治
療 的 交流 の 中 に 存 在 す る こと を 理 解 し ,ど ち らも 普 遍 的 真 実 で は ない が ,そ の 人 に と って
現 実 であ る こ と を 受 け 入 れる 必 要 が あ る 。ま た 被 治療 者 の 現 実 世 界を 尊 重 す る た め ,クラ
イアントセンタード(患者中心)で全人的な姿勢からの医療の実践が可能となる。
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O SC E は , 医 学 部 , 歯 学 部 , 6 年 制 薬 学 部 の 学 生 が 臨 床 実 習 を 行 う 臨 床 能 力 を 身 に 着 け て
い る か を 試 す 実 技 試 験 で あ る 。19 7 5 年 に 英 国 で 提 唱 さ れ て か ら 現 在 世 界 数 十 か 国 で 導 入 さ
れている。一般診察技術の他,医療面接の実技試験を含み,医療におけるコミュニケーシ
ョ ン ス キ ル の 取 得 の 第 一 歩 と し て 導 入 す る 医 科 大 学 も 多 い 。従 来 よ り 我 が 国 の 医 師 が 患 者
さんと接する能力の基本的技能の教育が不十分であることが問題となっていたことが背
景 と な り , OSC E の よ う な 診 療 参 加 型 実 習 が 導 入 さ れ て き て い る 。
第 3節
心理臨床の視点から~クライアントへの否定的感情の扱い
1. 心 理 臨 床 の 視 点
第 1 章第 3 節で獣医師が飼主に対して否定的感情や認識のギャップがある可能性を指摘
した。カウンセリングなど心理面接において,臨床心理士(セラピスト)がクライアント
を援助するため,セラピストはクライアントへの否定的感情を自覚し,開かれている必要
があると考えられている。セラピストはクライアントへの否定的感情や認識のギャップを
どのように扱うのであろうか。
Rog er s(1 95 7) の い う 治 療 的 効 果 を 出 す セ ラ ピ ス ト の 3 条 件 と し て の 純 粋 性 ( 自 己 一
致 ; ge nui ne nes s ), ク ラ イ ア ン ト へ の 無 条 件 の 肯 定 的 配 慮 ( 受 容 ; un con di tio na l po sit iv e
reg ar d), 共 感 的 理 解 (em pa thy ) は , ク ラ イ ア ン ト へ の 否 定 的 感 情 を 治 療 的 に 取 り 扱 う 上 で
の セ ラ ピ ス ト の 基 本 的 態 度 と し て 重 視 さ れ て い る ( 河 合 , 19 70 )。 ま た , F reu d ( 1 91 2) は ,
クライアントへの否定的感情をクライアントからの感情転移による逆転移感情と位置づけ,
その感情の適切な取扱いが治療的効果を示すことを指摘した。つまり,心理臨床において
臨床心理士がクライアントに抱く否定的感情や認識のギャップに気づき対処することは,
治療的介入の糸口になることを示している。
2. 治 療 構 造
カ ウ ン セ リ ン グ を 何 時 か ら 何 分 間 行 う の か ,部 屋 は ど こ で 行 う の か ,ど の よ う な や り 方
で 行 う の か ,料 金 は ど う す る の か な ど セ ラ ピ ス ト と ク ラ イ ア ン ト が ど の よ う な 形 で 交 流 す
るかという交流交渉の様式は治療構造と呼ばれ,心理臨床において基本的な概念である。
精 神 分 析 学 の 祖 で あ る Fre ud (1 919 ) は , 治 療 構 造 の 重 要 性 に つ い て ふ れ て い る 。 小 此 木
(19 81 )は , 治 療 構 造 の 機 能 を 詳 細 に 検 討 し , 治 療 構 造 を 一 定 に 保 つ こ と は ク ラ イ ア ン ト に
と っ て 対 象 恒 常 性 の 獲 得 を 促 進 す る 機 能 が ,セ ラ ピ ス ト に と っ て 治 療 場 面 で 起 こ る 現 象 の
理 解 を 容 易 に す る 機 能 が 生 じ る こ と を 説 明 し た 。つ ま り セ ラ ピ ス ト ‐ ク ラ イ ア ン ト を 支 え
る コ ン テ ナ ー と し て の 機 能 ,転 移 ‐ 逆 転 移 の 発 生 を 促 し そ の 認 識 と 分 析 を 可 能 に す る 機 能 ,
境 界 を明 瞭 に す る 機 能 ,移 行 対象 と し て の 機 能が 働 き ,セ ラ ピ ス ト‐ ク ラ イ ア ン ト を 保護
す る 働 き も 生 じ る 。心 理 臨 床 に お い て セ ラ ピ ス ト に 生 じ る ク ラ イ ア ン ト に 対 す る 否 定 的 感
情である転移‐逆転移感情を,心理臨床のセラピストは守られた治療構造の中で認識し,
セ ラ ピー に 適 切 に 還 元 す るこ と が 可 能 に な る 。治 療者 が“ ク ラ イ アン ト か ら の 逆 転 移 に気
づき,その自分を受け入れ,クライアントへの否定的感情が正当な反応としての感情か,
セ ラ ピ ス ト の 逆 転 移 感 情 か を 把 握 す る ( 岡 村 , 199 9)” 助 け に な る 可 能 性 が あ り , 自 己 一 致
へ の 一 歩 , 足 掛 か り に な る 可 能 性 が あ る 。 し か し , 構 造 に と ら わ れ す ぎ る と “( 治 療 者 - ク
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ライアントの)動きとの相関関係をキャッチするセンスがどんどん退化してアホになる
( 神 田 橋 ,1 995 )”弊 害 が あ る 。治 療 構 造 の 効 果 と 弊 害 は ,意 識 さ れ 利 用 さ れ る 必 要 が あ る 。
3. 治 療 者 の 自 己 一 致
臨床心理士において自己一致はクライアントへの治療的関わりとして重要視されてい
る 。自 己 一 致 は 臨 床 心 理 学 の パ ー ソ ン セ ン タ ー ド ア プ ロ ー チ を 提 唱 し た Ro ge rs( 19 57 ) が 示
し た 概 念 で あ る 。Ro ge rs( 19 57) は ,治 療 的 効 果 を 出 す セ ラ ピ ス ト の 3 条 件 と し て 純 粋 性( 自
己 一 致 ; ge nui ne ne ss ), ク ラ イ ア ン ト へ の 無 条 件 の 肯 定 的 配 慮 ( 受 容 ;un co nd i tio na l
pos it ive r ega rd ), 共 感 的 理 解 (em pa th y) を 挙 げ て い る 。 こ の 3 条 件 は 心 理 カ ウ ン セ ラ ー
の基本的態度としてどの心理療法学派でも重視するセラピストの基本的態度である(河
合 , 19 70)。 こ の 中 で 純 粋 性 ( 自 己 一 致 ) と は セ ラ ピ ス ト の 体 験 と 自 己 概 念 が 一 致 し て い る
こ と ,自 身に も ク ラ イ ア ント に も 開 か れ て い る状 態 を 指 す 。こ れ は逆 説 的 に 説 明 す る と体
験と自己概念の不一致(自己不一致)に充分に気付き,そのことを適切にクライアントに
表 明 で き る セ ラ ピ ス ト の 態 度 と い う こ と も で き る ( 岡 村 ,19 99 )。 つ ま り 否 定 的 な 感 情 や 認
識 の ギ ャ ッ プ が ク ラ イ ア ン ト と の 間 で 生 じ た と き ,適 切 な 方 法 と タ イ ミ ン グ で そ れ を ク ラ
イ ア ン ト に 表 現 す る と い う こ と で あ る 。セ ラ ピ ス ト が 自 己 不 一 致 か ら 自 己 一 致 を 目 指 す こ
と に つ い て ,セ ラ ピ ス ト の 逆 転 移( t ra nsf er enc e; Fr eud ,1 912 ) に 言 及 し な が ら 岡 村( 19 99 )
は 次 の よ う に 説 明 し て い る 。ま ず 出 発 点 は セ ラ ピ ス ト が ク ラ イ ア ン ト か ら の 逆 転 移 に 気 づ
き ,そ の 自分 を 受 け 入 れ ると こ ろ か ら 始 ま る 。ク ライ ア ン ト へ の 否定 的 感 情 が 正 当 な 反応
と し ての 感 情 か ,セ ラ ピ スト の 逆 転 移 感 情 か を把 握 す る 必 要 が あ る 。その 感 情 表 明 を クラ
イアントに行う必要があるのはセラピストのクライアントに対する無条件の肯定的配慮
と 共 感 的 理 解 の 妨 げ に な る 時 で あ る と し て い る 。 羽 間 (1 997 ) は , 非 行 心 理 臨 床 に お い て ,
ク ラ イ ア ン ト の 対 象 関 係 ( K le in, 19 4 6 ) が 分 裂 ( s pl it ti ng ) し て い る と き セ ラ ピ ス ト も
分裂(自己不一致)を体験するとし,非行臨床では規範(社会的善悪)の問題が絡むため
セ ラ ピ ス ト の 動 き が 不 自 由 に な り ,gu ilt - fre e に ク ラ イ ア ン ト を 理 解 し た い と い う 思 い と
規 範 をめ ぐ る 自 ら の 価 値 観と の 分 裂( 自 己 不 一致 )を セ ラ ピ ス ト が保 持 し た ま ま に 居 るこ
と が ,R oge rs の セ ラ ピ ス ト の 3 条 件 を 具 現 す る た め に 必 要 だ と し て い る 。こ の 分 裂 の 保 持
は ,セ ラ ピス ト の 純 粋 性 にお け る 大 き な 問 題 あり ,セ ラ ピ ス ト に とっ て 自 分 の 健 康 感 を揺
る が す ほ ど 厳 し い も の と し て い る 。 河 合 ( 197 0) は , 純 粋 性 に つ い て 次 の よ う に 説 明 し て い
る 。「 死 に た い 」 と い う ク ラ イ ア ン ト に , セ ラ ピ ス ト の 純 粋 性 に 従 え ば 死 ん で も ら っ て は
困るので「死ぬのはいけません」といいたいが,無条件の肯定的配慮を行えば「死にたい
の で す ね 」と 言 わ ね ば な ら な い が 一 体 ど う し た ら い い の か と い う 質 問 に 対 し て 河 合 は ,そ
う い う ふ た つ の も の が あ る の を す る の が カ ウ ン セ リ ン グ で あ る と い っ て い る 。死 に た い 気
持 ち の 円 を 描 く た と え 話 を 用 い ,ク ラ イ ア ン ト の 死 に た い 気 持 ち の 円 と セ ラ ピ ス ト の 死 ぬ
のを止めたい気持ちの円を描けたとするとその二つをひとつにしてそのちょうど重心の
あたりをめがけて言葉をたたきこむといいと考えていると説明している。
セ ラ ピ ス ト の 自 己 一 致 は Ro gers 学 派 だ け で な く 各 心 理 学 派 か ら も 基 本 条 件 と し て 認 め
ら れ て い る と お り ,セ ラ ピ ー を 成 立 さ せ る う え で 非 常 に 重 要 な 条 件 で あ る が ,岡 村・羽 間 ・
河合の 3 者が指摘するようにセラピストの自己不一致への対応はセラピストにとって大き
な 苦 悩 を 伴 う 一 編 通 り に は ゆ か な い 重 大 な 仕 事 と 認 識 さ れ て お り ,専 門 家 の 臨 床 心 理 士 に
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とっても大きな問題(ストレス)と考えられている。
4. ス ー パ ー ビ ジ ョ ン な ど の 第 3 者 に よ る 援 助
心理臨床においてセラピストが自分の担当事例についてスーパーバイザー(指導者)に
報告し,適切な方向付けを得るための指導を受けることをスーパービジョンという(弘
中 , 19 99)。 優 秀 な セ ラ ピ ス ト で あ っ て も 心 理 臨 床 の 中 で ク ラ イ ア ン ト と の 関 係 な ど を 対 象
化しにくくなることがあるので,第 3 者に問題の整理を援助してもらうことが望まれる。
スーパーバイザーが多人数である事例検討をグループスーパービジョンという。事例を詳
細に把握するために事例のスーパービジョンを実施しているが,否 定的感情や自己不一致
の対象化に効果がある。セラピストの自己一致の問題にしても,臨床心理士がクライアン
ト か ら 受 け る 否 定 的 感 情 は 自 身 一 人 で 抱 え る こ と は 困 難 で あ る た め ,心 理 臨 床 で は ソ ー シ
ャルサポートとしてスーパービジョンのシステムを採用している側面もある。
5. 認 知 の 変 容
社 会心 理 学 は ,人 間 心 理か ら 生 じ る 現 象 を 説明 し よ う と す る 学 問で あ る 。獣 医 師 に 生じ
る 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 や 認 識 の ギ ャ ッ プ と い う 現 象 に つ い て の 説 明 は ,社 会 心 理 学 に お け
る態度変容や説得における抵抗の現象から説明される可能性がある。
(1) 態 度 変 容 と 葛 藤 の 調 整
他 者 が 働 き か け を 行 い そ の 人 の 態 度 を 変 え よ う と す る こ と を 説 得 と い う 。獣 医 師 に よ る
飼 主 の治 療 の 説 明 は ,説 得 と いう 側 面 も あ り ,特 に説 得 に 対 し て 飼主 が 抵 抗 す る 場 合 獣医
師 の スト レ ス 原 因 と な っ てい る 可 能 性 も あ ろ う 。説得 は 送 り 手 に 関す る 要 因 ,受 け 手 に関
する要因,メッセージの内容・提示方法に関する要因,説得状況に関する要因などが成否
に 関 連す る と 考 え ら れ て いる 。説 得 へ の 抵 抗 や態 度 不 変 容 に 関 係 する 要 因 と し て ,心 理的
リアクタンスや認知的不協和理論などがある。
(2) 心 理 的 リ ア ク タ ン ス
人は自分の自由が脅かされたと感じたとき,その自由を回復しようと動機づけられる。
Bre hm (19 66 ) は ,そ の よ う な 自 由 の 回 復 へ と 動 機 づ け ら れ た 状 態 を 心 理 的 リ ア ク タ ン ス と し
た。社会心理学では説得への抵抗について心理的リアクタンスによって説明されている
( 原 , 199 7)。 説 得 的 メ ッ セ ー ジ が 高 圧 的 で 有 無 を 言 わ せ な い よ う な 内 容 で あ る と , 受 け て
はそのメッセージに反対する自由を奪われていると知覚し,この自由への脅威によって心
理的リアクタンスが喚起され,自由への回復を求めてメッセージに抵抗を示すと考えられ
ている。
(3) 認 知 的 不 協 和 理 論
人 の 態 度 変 容 を 説 明 す る 理 論 と し て 認 知 的 斉 合 性 理 論 が あ る ( 原 ,1 99 7)。 認 知 的 斉 合 性
の前提は,
「 人 は 認 知 の 一 貫 性 を 保 と う と す る 」と い う こ と で あ る 。つ ま り 人 は 矛 盾 し た 認
知を持つと不快感を覚える。そして,その不快感を解消するために相互に一貫するように
(つまり認知的斉合性を保つように)認知内容を変化させる。この認知的斉合性理論の一
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つ に 認 知 的 不 協 和 理 論 ( Fe sti ng er, 19 57 ) が あ る 。 認 知 的 不 協 和 理 論 の 中 で , 人 が 自 分 の 態
度と一貫しない行動を行ってしまったときにその人の認知体系に生じる不協和が起因する
不快感を解消するために①関連する認知要素の重要性を減少する②情報に新しい認知要素
を付加する③不協和な要素の一方または両方を変える等の不快感を低減する認知操作反応
を起こすと説明した。このうち③の方法は,態度変容に関連するとしている。
第 4節
人間科学の定義
医 療 従 事 者 の ス ト レ ス の 研 究 や 臨 床 心 理 士 の 否 定 的 感 情 の 扱 い は ,様 々 な 学 際 的 な 研 究
か ら 解 明 さ れ て き て い る 。獣 医 師 の ス ト レ ス の 問 題 も 学 際 的 研 究 に よ っ て 扱 わ れ る べ き で
ある。人間の問題にこたえようとするこのような学際的な研究に対応するため,近年,全
国的に人間科学部をもつ大学が認められるようになった。
人間科学とは「人間とは何か」という問題に科学的に研究し,何らかの意味と解釈を得
ようとする学際的,総合的科学である。元来からの科学の分類は,自然科学(人間以外の
物 質 ・ 生 物 な ど の 科 学 ), 社 会 科 学 ( 人 間 社 会 の 科 学 ), 人 文 科 学 ( 人 間 の 文 化 の 科 学 ) で
あ り ,人 間 そ の も の を 対 象 と す る 科 学 が な か っ た こ と か ら ,2 0 世 紀 初 頭 か ら 欧 州 を 中 心 に
注目されるようになってきた。関連学問として教育学,心理学,看護学,社会福祉学,哲
学,体育学などがある。
人間科学は,これまで個別に専門化・細分化に邁進してきた科学の限界と反省から,人
間存在を総合的に理解するための科学が求められ,生まれてきたという成立背景がある
( 柿 崎 ,1 99 2; 菅 村 ・ 春 木 , 200 1)。 科 学 の 総 合 性 ・ 全 体 性 実 現 の 理 念 の も と , 様 々 な 学 問 領
域が集積し大学に学部を創設するに至っている。
し か し な が ら , 人 間 科 学 に は 課 題 も 指 摘 さ れ て い る 。 養 老 ( 20 02 ) は , 著 書 「 人 間 科 学 」
の 中 で ,“ 人 間 科 学 は 統 一 さ れ た 学 で な く 複 数 分 野 の 専 門 家 の 集 合 ” で あ り “ 異 分 野 の 人
た ち が 集 ま る こ と に よ る 相 互 刺 激 ” と い う 長 所 を 持 つ 反 面 ,“ 総 合 性 を 欠 く ” 短 所 を 持 つ
こ と を 指 摘 し て い る 。“ 専 門 分 野 は , そ の 分 野 の 前 提 を 当 然 と し て 受 け 入 れ た と こ ろ に 成
立 す る ” た め ,“ 前 提 を 問 う こ と は 専 門 分 野 に 入 ら な い ”。“ 前 提 を 考 え な け れ ば ,( 人 間 科
学という)総論はできない”が,日本の研究者は専門分野で業績を上げようとするため,
評 価 し て も ら う た め に 研 究 者 の 顔 は 専 門 分 野 に し か 向 か ず ,“「 人 間 科 学 」 と い う 総 論 は ,
実 質 的に 不 要 ”と な っ て いる 。こ の た め 人 間 科学 が 総 合 性 を 欠 く 結果 と な っ て い る こ とを
指摘している。
第 5節
人間科学の方法論に関して
1. 人 間 科 学 の “ 呪 ”
西 條 ( 200 5) は , 総 合 性 ・ 全 体 性 を 志 向 す る 人 間 科 学 が , そ の 機 能 的 特 長 を 生 か せ な い 構
造を“呪”と見立て,次の 3 つの視点から“人間科学総論が必要”としている。
3 つの人間科学の呪の 1 つは「人間の科学」の呪として,人間科学が人間的事象の「曖
昧 な 側 面 ( 文 化 人 類 学 や 心 理 学 な ど の 主 観 や 意 味 を 扱 う ソ フ ト サ イ エ ン ス )」 と 「 確 実 な
側 面 ( 自 然 科 学 な ど の 客 観 や 普 遍 性 を 扱 う ハ ー ド サ イ エ ン ス )」 と い っ た 両 側 面 を 包 括 す
29
る 総 合 性 を 有 す る と 同 時 に ,「 科 学 」 を 標 榜 す る た め に 両 側 面 の 学 閥 か ら の 深 刻 な 信 念 対
立を生んでいることと指摘している。
2 つ目は「人間のための科学」の呪である。従来の科学の飛躍的進歩は人間の幸福を増
大させた反面,自然破壊や公害,医療問題などの不幸も増大させた反面がある。このため
人間科学では「人間のための科学」を志向するわけであるが,この根底には何が人間のた
め に な る の か と い う 「 価 値 」 の 問 題 が 潜 ん で い る と 指 摘 す る 。「 人 間 の た め の 科 学 」 と い
う テ ー ゼ が 「 応 用 性 」「 実 践 性 」 と い う 価 値 を 重 ん じ る 「 応 用 人 間 科 学 」 の 潮 流 を 生 ん で
はいるが,一見役に立ちそうもない「一般基礎研究」の価値ははたして人間科学において
軽いのだろうか。この「応用人間科学」と「一般基礎研究 」に生じる信念対立が 2 つ目の
呪と指摘する。
3 つ 目 は 「 人 間 に よ る 科 学 」 の 呪 で あ る 。 養 老 (2 00 2) が 指 摘 す る よ う に , 専 門 分 野 は そ
の前提を受け入れたところで成立するが,専門分野によってその前提(関心やルール)は
異なる。人間科学では,前提の違いへの共通認識がいまだ不確実であるため,研究者が自
身 に とっ て 的 外 れ な 批 判 を受 け る と 不 快 が 生 じ ,不毛 な 対 立 図 式 を深 め る か ,遠 ざ け て相
互 不 干 渉 に 陥 る よ う な 信 念 対 立 が 生 じ る 可 能 性 が あ る 。研 究 者 が 暗 黙 裡 に 自 分 の 分 野 の ル
ールが唯一正しいルールであるという信念に依拠していることがあるのである。
2. Hu sse rl の 現 象 学 的 思 考 法 と 関 心 相 関 性
西 條 ( 200 5) は こ の よ う な 人 間 科 学 の 呪 の 解 消 に 向 け て , 次 世 代 の 人 間 科 学 の 総 論 と し て ,
主 観 ‐ 客 観 問 題 の 解 明 を 志 向 し た Hus se rl (19 54 )が 提 唱 す る 現 象 学 と 竹 田 (19 95 ) が 提 唱 す
る関心相関性に依拠した構造構成主義を提唱した。
Hus se rl の 現 象 学 的 思 考 法 と し て 「 判 断 中 止 ( エ ポ ケ ー ) 」 と 「 現 象 学 的 還 元 」 が あ る 。
「 判 断 中 止 」 と は , た と え ば 「 A こ そ 正 し い 学 問 だ 」「 B こ そ 正 し い 学 問 だ 」 と い う 信 念 を
括弧に入れて戦略的に判断中止し置いておくことをいう。そのうえで「A こそ正しい学問
だ」
「 B こ そ 正 し い 学 問 だ 」と い う 確 信 が そ れ ぞ れ の 研 究 者 に ど う し て 生 じ て き た の だ ろ う
か と い う こ と を 問 う て ゆ く こ と を「 現 象 学 的 還 元 」と い う 。
「 判 断 停 止 」と「 現 象 学 的 還 元 」
か ら な る 現 象 学 的 思 考 法 は , 主 客 の 対 立 や 認 識 問 題 , 養 老 ( 20 02) の 言 う と こ ろ の “ 専 門 分
野の前提”を解明する目的のための方法論的観念論として人間科学の対立を解消 するため
に利用できると西條は主張している。
ま た , 関 心 相 関 性 と い う 概 念 は 竹 田 ( 19 95 )に 依 れ ば 「 身 体 ・ 欲 望 ・ 関 心 相 関 性 」 と い わ
れるもので,
「 存 在 ・ 意 味 ・ 価 値 は 主 体 の 身 体 ・ 欲 望 ・ 関 心 と 相 関 的 に 規 定 さ れ る 」と い う
原 理 で あ る 。こ の こ と を た と え で ,
「 水 た ま り 」も 死 に そ う な ほ ど の ど が 渇 い て い た ら そ の
人にとって「飲料水」という存在(価値)になることもあることを挙げて西條は説明して
いる。関心相関性は①自他の関心を対象化する認識装置として②研究評価機能として③信
念対立解消機能として④世界観の相互承認機能として⑤目的の相互 了解・関心の相互構成
機 能 と し て ⑥「 方 法 の 自 己 目 的 化 」回 避 機 能 と し て ⑦「 バ カ の 壁 ( 養 老 , 200 2) 」解 消 機 能 と
して人間科学の総合性・全体性実現に貢献することが期待されると西條は説明している。
3.
量的研究と質的研究~主客をめぐる問題と科学性の問題
人 間 科 学 を 扱 う 研 究 法 と し て 量 的 研 究 法 と 質 的 研 究 法 が あ る 。獣 医 学 や 医 学 で そ の 因 果
30
関 係 を 説 明 す る た め 行 わ れ て き た 研 究 法 が 量 的 研 究 法 で あ る 。仮 説 検 証 や 予 測 に お い て 用
いられ,再現性や客観性を重視する。従来から存在する古典的科学の手法にのっとり,統
計的な分析によって測定 可能な結果を生み出すことができる。これに対し,近年,看護学
や 社 会学 ,心 理 学 な ど で 隆盛 の 認 め ら れ る 研 究法 が 質 的 研 究 法 で ある 。現 象 や 人 間 の 営み
の意味を探求し,理解し,理論を生成するために用いられ,意味や仮説生成を重視する。
データとして,質問紙や面接で得られた記述,観察された現象の記録を用い,真実性や信
憑 性 に よ っ て 妥 当 性 が 評 価 さ れ る 。量 的 研 究 で 測 定 が 難 し い 現 象 の 理 解 の た め に 用 い ら れ
る研究法である。
一般に質的研究は仮説検証,事象の一般化,比較,全体の分布や傾向把握に不向きであ
り,仮説生成に向く。量的研究はこれと正反対の性向を持つ。また,質的研究は研究され
る 事 象や 対 象 の 内 的 視 点 を重 視 し ,意 味 と 文 脈を 解 釈 す る こ と を 重視 す る が ,量 的 研 究は
客観性と再現性を重視する。
質 的 研 究 と 量 的 研 究 に は ,実 証 主 義 的 パ ラ ダ イ ム と 解 釈 的 立 場 に 立 つ パ ラ ダ イ ム の 学 派
の 間 で 論 争 が あ る 。前 者 が 普 遍 的 法 則 に 信 頼 を 置 く 自 然 科 学 の 立 場 で 客 観 性 に 重 き を 置 く
が ,後 者 は 哲 学 や 人 類 学 の よ う に 人 間 に 関 す る 学 問 と し て 主 観 的 現 実 を 重 視 す る 立 場 を と
る 。 主 観 -客 観 の 厳 密 な 定 義 が 不 可 能 な こ と , 人 間 の 経 験 が 絶 対 的 な も の で な く , 相 対 的
に 評 価 さ れ る こ と な ど の 議 論 も あ り ,こ れ ら の 視 点 の 差 異 を 認 識 し な が ら 補 完 的 に 研 究 方
法 を 検 討 す る 見 方 が 看 護 学 や 心 理 学 で は 採 ら れ 始 め て い る ( Hol lo way et al ,1 996 ; 西
條 , 20 07; 高 橋 , 20 07 )。
質的研究は主観的,間主観的な解釈を尊重するが客観的な外部世界とのずれが問題視さ
れる。自然科学の研究に多い量的研究は,この客観的な外部世界を数字によって扱うのに
は優れているが,人間が関与する不確実な現実の社会問題などを規定することができず,
このような問題を解消することに役立たないことがある。構造構成主義は現象を関心相関
的に捉えることを出発点とするため,客観的な外部実在を前提とせず,客観からの乖離は
本 質 的 な 問 題 に な ら な い と 西 條 (20 07 ) は 主 張 し て い る 。 し か し そ れ だ け で は 「 な ん で も よ
い」ことになるから,科学性が失われる危険性がある。科学性とは,再現可能性,予測可
能性,再現可能性を持って現象を説明できるということだが,従来の科学では条件統制に
よってこれを実現していた。構造構成主義をメタ理論とする人間科学では,人間的事象を
構造化することと条件統制ではなく条件開示によって広義の科学性を満たすという方法を
とる。つまり人間事象の構造化に至る軌跡を誰にでもわ かるように研究に明示することに
より人間科学研究の科学性を担保することが必要となる。
4. 心 理 統 計 学 に お け る 客 観 性 の 記 述 と 担 保
西 條 は 荘 島 (20 04 ) を 受 け て 次 の よ う に 述 べ て い る 。
統計はともすると客観的であると誤解され,それによって得られる知見も客観的な真実
であるととられる危険性があるが,本来統計は「模型」のようなものであり,現実の「現
象」を条件にて抽出しているに過ぎない。統計モデルは「現象の形を数式という基本構造
で確定させた上で,少数のパラメタ(母数)の動きでもって現象の豊かさを表現しようと
す る 試 み 」で あ る が ,パ ラ メ タ を 挙 げ き る こ と は ,人 間 の 認 識 の 限 界 に よ り 不 可 能 で あ り ,
仮に挙げきったとしてもその時数学的にそのモデルを解くことができなくなる。また,ど
31
うしても現象の混沌とした部分は捨象している。よって心理統計は,関心相関的に統計ツ
ールを選択することにより心理現象を多元的に構造化する理論的枠組みと,人間科学で使
用する上では捉える必要がある。ここで問題になるのは心理統計の方法選択における恣意
性 の 問 題 で あ る 。「 自 身 の 都 合 の 良 い 統 計 モ デ ル を あ な た が 選 ん で い る の で は な い か 」「 多
くのモデルが想定される中でそのモデルが最も妥当といえる保証はあるのか」といった批
判である。構造構成主義的人間科学において,客観的な外部実在は前提とされないため,
統計の完全な客観性をはじめから認めていないことから,研究利用した統計モデルにおけ
る関心相関性とその軌跡を明示することと,その統計モデルの適合度や現象に寄り添った
精緻な議論によって,研究の妥当性はチェックされ,その恣意性について評価されるべき
だとしている。
5. 構 造 仮 説 継 承 型 研 究 の 方 法
斎 藤 ( 200 3) は , 著 書 「 ナ ラ テ ィ ブ べ イ ス ド メ デ ィ ス ン の 実 践 」 の 中 で , 近 代 医 学 は 生 物
科学的な医学を推進するあまり,人間を全体として捉えることがおろそかになり,臨床現
場では患者や医療従事者の中に不満や葛藤が生じる結果になっていることを指摘し,社会
構成主義や構造構成主義的な視点を医療に還元する必要性を説いている。医療に生物科学
的視点だけでなく,学際的な人間科学的視点を組み入れる必要性とも言い換えることがで
きるだろう。このような人間科学的医学の研究実践について,斎藤は「一般的な臨床の知
とは何か」という問いを立て,臨床現場で患者や医療従事者が一度きりしか体験しない現
象から「一般的な臨床の知」を構造化する方法とし て構造仮説継承型研究法を提案してい
る。これは,一つの事例から得られた厚い記述データを構造化の軌跡を記述しながら分析
し構造化仮説を生成することによって一つの研究は成立してくるが,臨床の知を洗練する
ために構造化仮説は他の新事例の厚い記述データとの連続比較される必要があり,そのよ
うな過程を経て検証・改良・精緻化・発展した構造化仮説を縦列的に生成しようとする研
究方法である。構造仮説継承型研究法のような人間科学的医学研究法で導き出された結論
は,常に発展途上であり,継承者の自他を問わず「臨床の知」を鍛え上げてゆく必要があ
る。
第 6節
人間科学的アプローチによる獣医師のストレス研究
1. 本 論 文 の 人 間 科 学 的 視 点
「人間とは何か」という問題を科学的に研究し,何らかの意味と解釈を得ようとする学
際的,総合的科学である人間科学は,上記のように“異分野の人たちが集まることによる
相互刺激”を生んではいるが,本来人間科学が志向した人間をとりまく上での総合性・全
体性を実現できているとは言い難い。そこで獣医師のストレスを扱う本論文では,西條
(20 05 )の い う Hus se r l の 現 象 学 と 関 心 相 関 性 に 依 拠 し た 構 造 構 成 主 義 を メ タ 理 論 と し て 構
造仮説継承型研究でアプローチすることを志向する。 つまり本論文は,獣医学,心理学,
現 象 学 ,社 会 学 ,医 学 ,看 護 学 な ど 様 々 な 見 地 を 含 有 す べ く ,研 究 者 の 関 心 相 関 性 と H us serl
現象学的思考法(判断停止と還元)から問題を定義・検討し,質的研究法や量的研究法を
駆使し問題事象を明らかにする研究原理を貫くこととする。
32
この研究原理によって,人間科学に存在する質的研究と量的研究の主客を巡る問題と科
学性の問題,心理統計学における客観性の問題を乗り越え,構造仮説継承型研究方法に信
頼性と妥当性を担保することを目指す。
2. 獣 医 師 の ス ト レ ス 研 究 に 対 す る 人 間 科 学 的 ア プ ロ ー チ の 可 能 性 と 方 法
獣 医 学 は 斎 藤 ( 20 03 ) が 指 摘 す る こ と と 同 様 に , 生 物 科 学 的 側 面 を 主 体 に 発 展 し て き た 経
緯を持つ。生体を臓器や器官,組織と分類し,疾病を臓器別に認知把握し,研究すること
で高度に発展してきている。その過程で先に示した通り人間が関係する問題が生じ,その
一つとして獣医師のストレスの問題がある。欧米においてストレスやそれに伴ううつやバ
ーンアウトの実態についての報告があるが,日本では獣医師のストレスについての研究す
ら認められない。欧米の先行研究においても獣医 師のストレスがなぜ生じているのか,ど
の よ う に す れ ば 対 処 で き る の か を 実 証 を 交 え て 示 し た 研 究 は 認 め ら れ な い 。 矢 野 ( 200 9)が
指摘するように,獣医師と飼主では認識のギャップが存在し,それが飼主への否定的感情
につながり獣医師の心理的ストレスの一因となっていることも考えられる。
獣医師のストレスの原因やそのストレスはどのように対処できるのかを調査するため
に,構造構成主義的な人間科学の手法によって構造化仮説を生成する必要があると考えら
れる。本論文では,第 1 章から導き出されるように,獣医師のストレスの中でも飼主に対
するストレスに焦点を当てた。獣医師の重大なストレス要因と考えられる飼主に対して,
獣医師がどのようなストレスを感じ,どのように対処しているのか,その実態がどうして
生じ,どのようにすればストレスが軽減されるのかを明らかにすることを目指す。量的研
究と質的研究によって導き出された結果を,構造仮説継承型研究法によって精査すること
で 実 践 に 利 用 可 能 な 「 臨 床 の 知 」 ( 中 村 ,1 992 ) と し て 構 造 化 で き る と 考 え る 。
第 7節
本論文の研究方法
1. 構 造 構 成 主 義 的 人 間 科 学 の 方 法 論
本論文は構造構成主義的人間科学の方法論を用い構造化仮説の生成を目指す方法論を
採用する。すなわち,質的研究と量的研究の主客をめぐる問題と科学性の問題,心理統計
学 に お け る 客 観 性 の 問 題 は , Hu sse rl 現 象 学 と 関 心 相 関 性 の メ タ 原 理 か ら , そ の 研 究 手 法
を用いた理由や研究時に統制されている条件と分析から結論に至る軌跡を明示すること,
研究結果の適合度や現象に即した精密な考察を表記することで仮説理論の精緻化を目指
し た 。記 述デ ー タ 等 を 用 いた 質 的 研 究 法 と 数 値デ ー タ を 用 い た 量 的研 究 法 を ,必 要 性 と妥
当性により選択し,使用した。また,構造仮説継承型研究の手法に準じて,新しいデータ
や 異 なる 研 究 法 や 視 点 を 用い た 研 究 を 継 承 的 に行 う こ と に よ り ,構 造 化仮 説 を 検 証 ,説明
する形の論文形式とした。
本論文で明らかにする構造化仮説は≪獣医師が抱く飼主に対するストレスの実態とそ
の効果的な対処≫に対する仮説である。
2. 研 究 計 画
33
獣医師が飼主に対してストレスを感じている可能性は,第 1 章第 3 節の実態調査や欧米
の 先 行 研 究 (El ki ns & Ke ar ney ,1 992 ;H an se z,S ch ins & Ro ll in ,2 008 ;G ard ne r &
Hin i, 200 6; Mee ha n & Bra dl ey, 20 07) か ら 高 い 確 率 で 存 在 し て い る 。 ま た , そ の ス ト レ ス の
対処で利用されるコーピングは情動焦点型が中心であり,社会資源を利用しない(利用で
きない)貧弱なものである可能性が考えられる。どちらにしても獣医師の飼主に対するス
トレスとその対処についての実態をさらに調査することから 本論文を展開する。第 3 章で
獣医師の飼主に対するストレスの実態を調査するための研究を,第 4 章で獣医師のストレ
スへの対処方略についての研究を示し,第 5 章を総合考察と結論とし,まとめと今後の研
究展望について論じる構成をとった。獣医師の飼主に対するストレスとその対処について
の 実 態 調 査 で 得 ら れ た 仮 説 を , Hus se rl 現 象 学 と 関 心 相 関 性 か ら 得 ら れ た 研 究 者 の 関 心 に
従 っ た 継 承 研 究 に よ っ て 構 造 化 す る 手 法 で 研 究 を 進 め る 。第 3 章 ,第 4 章 の 各 章 各 節 で は ,
その節の目的を論じたのち,研究の方法,結果,考察を行い,構造主義的人間科学の手法
で導き出されたその節の結論(仮説)とそこから生じた次節以降の研究に続く関心相関的
問題点に言及し,残された課題について述べる形で,構造仮説継承型に研究をすすめた。
なお、研究関心である≪獣医師が抱く飼主に対するストレスの実態とその効果的な対処≫
に対して導き出された第 3 章,第 4 章の各章各節の仮説は〈〉で表記した。獣医師の飼主
に対するストレスとその対処について一定の結論を得たところで 第 5 章総合考察と結論と
して研究結果をまとめた。
3. 研 究 方 法 論 か ら の 本 論 文 の 限 界 性
本論文は構造構成主義的人間科学の方法論をメタ理論として採用している。これは,本
論文の先行研究が少なく,探索的・試験的に論を展開せざるを得ないためである。このた
め,他分野の先行研究を参考にしながら,研究者の関心相関性をもとに,質的研究法や量
的研究法を駆使しながら研究を展開している。このことは,研究の恣意性・妥当性・信頼
性の問題を孕む。第 3 章,第 4 章の研究において,方法を明確に記載し,研究における残
さ れ た 課 題 に 触 れ る こ と で ,科 学 性 を 担 保 す る よ う に し た が ,
「獣医師の飼主に対するスト
レス」という現象の全部の要素を抜粋し検討できているかどうかは 本論文だけでは確認す
ることができない。
ま た ,以下 の 問 題 で 本 研 究は 今 後 の 継 承 研 究 によ っ て ,さ ら に 信 頼性 と 妥 当 性 を 深 める
努力をする必要がある。本研究の質的研究では質的データを,飼主と獣医師から収集し,
分 析 協 力 者 で あ る 第 3 者 を 介 し て デ ー タ 分 析 を す る こ と で ,現 象 学 的 還 元 を 行 っ て い る と
い う 意 味 で は 妥 当 性 が あ る 。 ま た , 第 3,4 ,5, 7 章 の 内 容 は , 他 雑 誌 に 掲 載 さ れ , 第 3 者 の
評 価 を 受 け た 結 論 で あ る と い う 意 味 に お い て 妥 当 性 が あ る 。し か し 仮 説 を 構 造 化 す る 際 の
情報の取捨選択は,筆者の関心相関性と質的データの記述や文脈によって行われており,
そ の 妥 当 性 は 今 後 の 他 者 に よ る 継 承 研 究 に 委 ね ら れ て い る 。た と え ば 第 5 章 第 4 節 今 後 の
研 究 展 望 で 示 し た 「 獣 医 師 ス ト レ ス の メ タ 認 知 効 果 」 な ど は 、 A BA 型 に デ ザ イ ン さ れ た 研
究で実証することで,本研究の信頼性と妥当性は深められると考えられる。
本研究の母集団は,獣医師,飼主においては数量や無作為抽出性に課題がある。飼主は
飼育動物や動物への愛着度によって動物への思い入れに差があり,このことは獣医師の飼
主に対するストレスに影響を及ぼすことが想像される。継承研究においてこのことを考慮
34
したデータ収集や分析が必要となると考えられる。 本論文の構造構成主義をメタ理論とし
た 方 法 論 の 性 質 上 ,本 論 文 で 得 ら れ る 結 論 は ,20 13 年 現 在 の 現 状 に お い て は 通 用 す る も の
であると考えられるが,今後恒久的に当てはまる真理真実ではないということに触れてお
く。そして,本論文の結論は,今後の継承研究で精査・拡充されることによって磨かれて
ゆく必要がある「獣医師のストレス研究のスタートライン」という認知で取り扱われるべ
きである。
35
第 3 章第 3 章
第 1節
獣医師の飼主に対するストレスの実態調査
獣医師の飼主に対するストレスとその対処
1. 目 的
第 1 章 第 3 節 の 獣 医 師 の ス ト レ ス の 実 態 調 査 で は ,① 獣 医 師 は 多 様 な ス ト レ ス の も と 業
務 を お こ な っ て い る こ と ,② 命 を 扱 う 責 任 の 重 さ や 多 様 な 飼 主 の 価 値 観 に 対 応 す る こ と が
特に強いストレスとなっていること,③ストレスの対象は主に飼主に対してであること,
④飼主に対する否定的感情や認識のギャップが獣医師に存在する可能性⑤獣医療業務で
生じるストレスへのコーピングは主に情動中心型コーピングでその方略が適応的である
と 言 えな い こ と が 示 さ れ た 。つま り 獣 医 師 は ,飼 主に 対 し て ス ト レス を 抱 え て い る こ と が
明らかとなった。このため,第 3 章第 1 節では,獣医師の飼主に対するストレスとその対
処の実態を調査することを目的とする。
獣 医 師 ス ト レ ッ サ ー の う ち ,ク ラ イ ア ン ト と の 人 間 関 係 ,す な わ ち 飼 主 に 対 す る ス ト レ
スに焦点を当て ,飼主に対してどのようなストレスを感じたことがあるか ,またそのスト
レ ス を ど の よ う に 解 消 し た か を 問 う 自 由 記 述 式 の 質 問 紙 調 査 を 獣 医 師 に 対 し て 行 い ,そ の
回 答 を KJ 法 で 解 析 し た 。 こ の 結 果 を も と に 獣 医 師 の 抱 く 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス と そ の 対
処について仮説を生成し,次節の継承的研究の方向を決定した。
2. 方 法
201 X 年 1 2 月 に A 県 獣 医 師 会 に 在 籍 し B 市 内 で 小 動 物 臨 床 に 携 わ る 獣 医 師 11 1 名 を 対 象
に , 郵 送 並 び に 直 接 に 質 問 紙 調 査 を 行 い , 回 答 者 を 調 査 協 力 者 と し た 。「 あ な た は 飼 主 に
対 し て ス ト レ ス を 感 じ た こ と が あ り ま す か 。(
ある
・
ない
)あるとお答えされた
方 は ,飼主に対してどのようなストレスを感じたことがありますか?また ,そのストレス
を ど の よ う に 解 消 し ま し た か ? 自 由 に 記 載 し て く だ さ い 。」 と い う 質 問 に 対 し , 質 問 紙 へ
の 回 答 は 自 由 で あ る こ と ,質 問 紙 の 結 果 は 研 究 に の み 用 い る こ と ,個 人 情 報 の 保 護 に つ い
て 十 分配 慮 す る こ と を 説 明し 執 り 行 わ れ た。使 用 し た 質問 紙 調 査 票は 巻 末 に 資 料 1 と し て
添付した。
自 由 記 述 式 の 回 答 は , KJ 法 に て 質 的 に 検 討 し た 。 調 査 協 力 者 は 番 号 で 識 別 し た 。
KJ 法 は 以 下 の 手 順 で 行 っ た 。恣 意 的 ,主 観 的 な デ ー タ 解 析 に 陥 る の を 避 け る た め , 臨 床 心
理 学 系 の 大 学 教 員 1 名 と 臨 床 心 理 学 を 専 攻 す る 大 学 院 生 2 名 が KJ 法 の デ ー タ 解 析 に 協 力
し た 。 論 文 筆 頭 著 者 は KJ 法 実 施 の 準 備 進 行 役 と 結 果 の と り ま と め 役 し て 加 わ っ た 。 KJ 法
は ,カ ー ド 化 ,テ キ ス ト 化 ,カ テ ゴ リ ー 化 ,図 示 化 ,文 章 化 解 釈 の 順 に 分 析 し た 。 KJ 法 の 具 体
的 方 法 を 示 す 。 質 問 C で 得 た 自 由 記 述 回 答 を ,調 査 協 力 者 ご と に 切 り 出 し て 表 記 し た カ ー
ド を 作 成 し ,カ ー ド の 数 を 計 測 し た 。論 文 筆 頭 著 者 が K J 法 の 実 施 方 法 と K J 法 の 目 的 が「 獣
医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス を 明 ら か に す る こ と 」 で あ る こ と を KJ 法 解 析 者 へ 説 明 し た
後 ,テ キ ス ト 化 ,カ テ ゴ リ ー 化 ,図 示 化 ,文 章 化 解 釈 を 実 施 し た 。 KJ 法 解 析 者 の 合 議 の も と ,
カ ー ド に 書 か れ た 内 容 を 一 つ の 意 味 を 持 つ テ キ ス ト に 分 解 し ( テ キ ス ト 化 ) ,そ の テ キ ス
ト 数 を 計 測 し た 。 次 の ス テ ッ プ と し て 全 テ キ ス ト を 読 め る よ う に 適 当 に 配 置 し ,先 入 観 や
仮 説 に と ら わ れ な い よ う に 配 慮 し な が ら , KJ 法 解 析 者 の 合 議 の 上 , テ キ ス ト 同 士 の 関 連 性
36
を 考 え な が ら 小 グ ル ー プ を 作 り ,見 出 し を 付 け て 一 つ の カ テ ゴ リ ー と し た ( カ テ ゴ リ ー 化 )。
こ れ を 繰 り 返 し 小 グ ル ー プ の カ テ ゴ リ ー 作 成 が 飽 和 状 態 に 達 し た 後 ,カ テ ゴ リ ー ご と の 関
係 を 考 え な が ら グ ル ー プ を 作 成 し 見 出 し を つ け 新 た な カ テ ゴ リ ー を 作 成 し た 。こ の 見 出 し
付 け と カ テ ゴ リ ー 化 を 繰 り 返 し ,カ テ ゴ リ ー 小 ,カ テ ゴ リ ー 中 ,カ テ ゴ リ ー 大 ,カ テ ゴ リ ー
特 大 を 作 成 し , KJ 法 解 析 者 の 合 議 の 上 カ テ ゴ リ ー の 関 連 性 を 図 に 示 し た( 図 示 化 )。図 示 す
る 際 カ テ ゴ リ ー の 見 出 し の 最 後 に そ の カ テ ゴ リ ー に 含 ま れ る テ キ ス ト 数 を 明 示 し た( KJ 法
は 質 的 研 究 法 の た め ,テ キ ス ト 数 量 の 量 的 比 較 の 意 味 は な く ,読 者 が デ ー タ を 読 解 す る 上
の 目 安 と し て 明 示 し た )。 テ キ ス ト 化 , カ テ ゴ リ ー 化 ,図 示 化 の 結 果 を 踏 ま え KJ 法 解 析 者 の
合 議 の も と 図 示 化 結 果 を 文 章 と し て ま と め た 文 章 化 解 釈 を 行 っ た 。K J 法 結 果 は 論 文 筆 頭 著
者 に よ っ て 清 書 さ れ た 後 , 後 日 KJ 法 解 析 者 参 加 の 会 議 に よ っ て 再 度 検 証 し , 「 獣 医 師 の 飼
主 に 対 す る ス ト レ ス と そ の 対 処 」 の 仮 説 生 成 に 用 い た 。 本 節 中 で 分 類 さ れ た KJ 法 の カ テ
ゴリーは本文中において『』で,獣医師の回答を抜き出したテキストは「」で表記した。
3. 結 果
111 名 中 47 名 の 獣 医 師 か ら 回 答 を 回 収 し た 。回 答 の あ っ た 4 7 名 中 4 5 名( 95 .7 % )が 飼
主 に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ た こ と が あ る と 回 答 し た 。4 7 名 の 回 答 は 2 27 の テ キ ス ト に 分 解
さ れ た 。 カ テ ゴ リ ー 特 大 は ,『 ス ト レ ス 状 況 』,『 ス ト レ ス 対 処 』 に 分 け ら れ , そ の カ テ ゴ
リーに含まれないカテゴリー大『ストレスに対する考え方』に分類された。カテゴリー化
(表 2- 1『 ス ト レ ス 状 況 』1, 表 2 -2『 ス ト レ ス 状 況 』2, 表 2- 3『 ス ト レ ス に 対 す る 考 え 方 』,
表 2 -4『 ス ト レ ス 対 処 』 1 , 表 2- 5『 ス ト レ ス 対 処 』 2) と 図 示 化 ( 図 2-1『 ス ト レ ス 状 況 』 ,
図 2- 2『 ス ト レ ス に 対 す る 考 え 方 』 , 図 2-3 『 ス ト レ ス 対 処 』) と 文 章 化 ( 表 2- 6 ) の 結 果
を 示 す 。『 ス ト レ ス 状 況 』 の テ キ ス ト 数 は ,『 飼 主 の 性 質 』 2 6 ,『 獣 医 師 基 準 に お け る 飼 主
の 無 理 解 』 32,『 病 院 経 営 上 の 問 題 』 1 8,『 獣 医 療 の 難 し さ 』 1 9 の 9 5 テ キ ス ト で 構 成 さ れ
た 。『 ス ト レ ス に 対 す る 考 え 方 』 の テ キ ス ト 数 は ,『 ス ト レ ス な し 』 2,『 獣 医 療 に は ス ト レ
ス が あ る 』 10,『 飼 主 の 生 』 1,『 ス ト レ ス は 獣 医 師 の 生 』 3 の 26 テ キ ス ト で 構 成 さ れ た 。
『 ス ト レ ス 対 処 』 の テ キ ス ト 数 は ,『 回 避 的 ス ト レ ス 対 処 』 5 7 ,『 中 間 型 』 2 7 ,『 問 題 解 決
的 ス ト レ ス 対 処 』 28 の 112 テ キ ス ト で 構 成 さ れ た 。
37
攻撃的な飼主⑪
神経質な飼主⑧
身勝手な飼主⑦
攻撃的な飼主⑦
神経質な飼主①
飼主のわがまま①
無理な要求④
獣医師への不信④
飼主の不機嫌な態度④
獣医師が正しいのにクレーム③
飼主に占有される動物の命②
飼主の性質 26
獣医師基準における
飼主の無理解 32
病院経営上の問題
18
獣医療ハードの限界⑤
治療への非協力的姿勢⑬
時間外診療①
電話での診療対応③
ペース乱される①
飼主が治療に協力しない(動物愛護的に
どうか?)③
思い込みの激しい飼主③
来院数減少への不安⑤
飼主が説明を勝手に理解しない⑦
来院数減少①
飼主の理解力の問題⑲
自院への批判、評判④
何を考えているかわからない飼主⑥
お金から影響を受ける獣医療⑧
家族で治療方針がわかれる②
何度も同じ説明、同じことをする③
飼主の経済力と要求のアンバランス④
飼主が説明を理解できない⑧
金銭的なこと④
獣医療の難しさ 19
インフォームドコンセントの
むずかしさ
難しさ⑬
治療行為の不確定性⑤
獣医師と飼主の
獣医師のやりたい治療の同意が
得られない⑤
獣医師が説明をうまくできず
理解させられない⑧
価値観の違い①
獣医師と飼主の
価値観の違い①
症状の悪化②
間違えられないプレッシャー①
「病院の責任」という不安①
期待どおりにならない①
テクストのみ:カテゴリー小に分類;テクスト:カテゴリー中に分類;点線枠、2 重線枠テクスト:カテゴリ大以上に分類
テキスト数はテキストの最後に丸囲み数字で表した。
図 2-1 「ストレス状況」 KJ 法による分析の図示化
38
飼主のせい①
ストレスなし②
飼主へのストレス
飼主のわがままを受け入れ
なし②
るのはよくない①
獣医療にはストレスがある⑩
ストレスは獣医師のせい③
獣医療には必ずストレスがある⑦
飼主の希望どおりならクレームは
獣医療スタッフのストレス①
ない①
不愉快な気持ち②
飼主とのストレスは獣医師のせい②
その他の感想⑤
ストレスに対する考え方
26
テクストのみ:カテゴリー小に分類;テクスト:カテゴリー中に分類;点線枠、2 重線枠テクスト:カテゴリ大以上に分類
テキスト数はテキストの最後に丸囲み数字で表した。
図 2-2 「ストレスに対する考え方」 KJ 法による分析の図示化
39
あきらめ・諦観⑮
何もしない②
いろんな人がいる②
どうしようもない③
割り切る⑤
あきらめる③
忘却・解決先送り⑥
寝る②
時間が解決④
仕事から距離を置く⑩
関係回避的
飲酒・食事②
仕事(病院)から離れる③
趣味⑤
飼主から距離を置く⑪
治療にのみ専念③ 深くかかわらない⑥
来なくなりストレス解消②
感情抑制コントロール⑮
相手にしない③
誠意をつくす①
気にしない④
気持ちを抑える③
「できる人間」だと思い込む④
ソーシャルサポートの利用⑨
他機関や獣医師を紹介④
人に不満を共感してもらう⑤
問題を俯瞰する①
問題を俯瞰する①
中間型
飼主に必ずしも同調しない①
必ずしも同調しない①
治療の枠組みの設定⑥
獣医師の限界範囲を設定③
飼主に選択させる③
飼主の受容と共感⑩
飼主の気持ちを理解しようとする⑤
飼主を否定せず受容⑤
問題解決をはかる⑧
問題解決的・
反省する④
関係志向的
原因を追究して問題解決をはかる④
飼主との充分なコミュニケーション⑳
飼主との意思疎通をはかる⑦
繰り返し(量的に)説明⑧
他の方法で(質的に)説明⑤
テクストのみ:カテゴリー小に分類;テクスト:カテゴリー中に分類;点線枠、2 重線枠テクスト:カテゴリ大以上に分類
テキスト数はテキストの最後に丸囲み数字で表した。
図 2-3 「ストレス対処」 KJ 法による分析の図示化
40
41
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の性質
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
飼主の無理解(獣医師の基準における)
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
カテゴリー大
飼主の性質
ストレス状況
カテゴリー特大
カテゴリー中
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
飼主の理解力の問題
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
治療への非協力的姿勢
神経質な飼主
神経質な飼主
神経質な飼主
神経質な飼主
神経質な飼主
神経質な飼主
神経質な飼主
神経質な飼主
身勝手な飼主
身勝手な飼主
身勝手な飼主
身勝手な飼主
身勝手な飼主
身勝手な飼主
身勝手な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
表2-1 「獣医師の飼主に対するストレス」に対する自由記述回答のkj法テキスト化(「ストレス状況」1)
カテゴリー小
何を考えているかわからない飼主
何を考えているかわからない飼主
何を考えているかわからない飼主
何を考えているかわからない飼主
何を考えているかわからない飼主
何を考えているかわからない飼主
飼主が説明を理解できない
飼主が説明を理解できない
飼主が説明を理解できない
飼主が説明を理解できない
飼主が説明を理解できない
飼主が説明を理解できない
飼主が説明を理解できない
飼主が説明を理解できない
何度も同じ説明、同じことをする
何度も同じ説明、同じことをする
何度も同じ説明、同じことをする
家族で治療方針がわかれる
家族で治療方針がわかれる
飼主が説明を勝手に理解しない
飼主が説明を勝手に理解しない
飼主が説明を勝手に理解しない
飼主が説明を勝手に理解しない
飼主が説明を勝手に理解しない
飼主が説明を勝手に理解しない
飼主が説明を勝手に理解しない
思い込みの激しい飼主
思い込みの激しい飼主
思い込みの激しい飼主
飼主が治療に協力しない(動物愛護的にどうか?)
飼主が治療に協力しない(動物愛護的にどうか?)
飼主が治療に協力しない(動物愛護的にどうか?)
獣医師が正しいことをしたのにクレーム
獣医師が正しいことをしたのにクレーム
獣医師が正しいことをしたのにクレーム
獣医師への不信
獣医師への不信
獣医師への不信
獣医師への不信
神経質な飼主
飼主に占有される動物の命
飼主に占有される動物の命
無理な要求
無理な要求
無理な要求
無理な要求
飼主のわがまま
飼主の不機嫌な態度
飼主の不機嫌な態度
飼主の不機嫌な態度
飼主の不機嫌な態度
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
攻撃的な飼主
56-1
39-3
39-2
39-1
18-3
18-2
55-1
38-1
34-1
29-2
25-1
18-1
17-1
8-4
43-1
33-2
33-1
40-1
23-1
51-2
46-2
45-1
38-2
27-1
8-3
6-1
53-1
39-5
34-2
44-5
33-8
29-4
53-2
40-3
3
49-1
32-2
17-3
15-1
39-4
44-4
44-3
44-1
40-2
29-5
16-3
29-6
49-2
38-3
9-4
9-3
39-6
21-6
17-4
16-1
9-2
9-1
6-3
サンプル
テキスト
一度だけ日本語の通じにくい外国の飼主様に対応したことがあり、コミュニケーションをとることができず、こちらの意図が伝わらずストレスを感じた。
話を理解できているかの反応がないなど)。
(主訴があいまい、
ストレスを感じるとき→何がしたいのかがわからない飼主さん
話さない。
飼主がどう思っているのか、理解しているのか、何を考えているのか、わからない。
何度も同じ質問をされる。
説明をあまりに理解できないオーナー。
病気の解説などどんなに平易に話してもその理解度が著しく低い。
一度受け入れてもらっても、理解が足りず継続して治療できず
飼主の誤解、
飼主に理解力がない。
理解力にかけ何度も同じことを聞く→
説明してもわからない飼主に対しては何も話したくなくなる。
何度同じ指導をしてもちっとも言うことを聞かず、毎回同じ結果となってしまう。→
また同じ説明をする面倒くささと
治療計画を立て説明を行ったにも拘らず、実行せず再三説明を求める。→
家族の方が個別に話を聞きに来院し、最初からの説明を求められる。
ご家族の中で意見が別れ、意思疎通ができていない→
都合の良いように曲解する。→
自分で結論を持っていて合致するかのみを見極めているのみと感じる場合は何をやってもうまくいかないものと
一方的に話をし、こちらの話を聞いているようで理解しておらず、後から話の相違が出てきた。
説明を都合よくしか解釈しないオーナー。
人の話を聞いていない、
こちらの話を聞かないで自分の話だけをする。
自分で診断して獣医師の意見を聞こうとしない→
思い込みと偏った意見でこちらの一挙手一投足すべて否定してくる飼主。
(インターネットなどの間違った知識を根拠もなく信じているなど)。
本人なりの固定観念にとらわれ、こちらの提示する情報を素直に受け入れられない。
人と違い治療を受けさせなくても処罰はないので、飼主が治療を希望しなければどうしようもないのがストレスになります。
治療に協力しない飼主。→
死亡することが明白なのに、飼主が看取ってくれず、病院で最期まで看取るとき
説明したうえで、治療的診断により投薬しても後から聞いていないと言われ、全て紙面で説明し、サインをいただこうとすると「優しさがない、冷たい」と言われてし
まう。
具体例として雌の腎不全で尿量をモニターしたいため尿カテの設置を試みようとしたところ、「痛がるのでやめてください。この子はおしっこがたまれば自分で出来
ます。」と言われました。
当方が正しいことをしたと思っているのにそれに対してクレームを言ってきたこと
自分のことをまったく信用していないので、
不信感がある等でストレスを感じます。
最適な治療を選んだつもりが、他院で言われたことに全幅の信頼を置き、
こちらの知識・技量を試そうとされたことがあります。
神経質な飼主さん
その飼い主には動物というのはその程度のものなんだろうと思うようにしている。
そのような飼主は動物の命より自分自身から動物を取り上げられることによるストレスのほうが重要なのだと思う。
動物を病院へ入院させるとストレスになりませんかという問いにストレスを感じる。
過度の権利を主張する(時間外、往診など)。
(夜でも何かあったら駆けつけるので、ずっとそばで見ていてほしいと要求されるとき)など、
無理な要求→
飼主のわがままを受け入れないといけないときに強くストレスを感じます。
態度が冷たく返事が返ってこない人がいた。
(訂正すると怒り出す。不機嫌になる。)→
弁護士連れてきた→
にらみ、
怖い人(見た目、話し方など)。
動物の処置に対し、一方的に時間がかかりすぎると怒り出した人がいた。
怒って来院される。→
高圧的な態度→
攻撃的な行動(脅し様)、
怒鳴り散らす。
自分勝手な人や不当に威嚇的な人→
42
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
病院の経営上の問題
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
獣医療の難しさ
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
ストレス状況
カテゴリー大
病院の経営上の問題
ストレス状況
カテゴリー特大
カテゴリー中
治療行為の不確定性
治療行為の不確定性
治療行為の不確定性
治療行為の不確定性
治療行為の不確定性
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
インフォームドコンセントの難しさ
価値観の違い
お金から影響を受ける獣医療
お金から影響を受ける獣医療
お金から影響を受ける獣医療
お金から影響を受ける獣医療
お金から影響を受ける獣医療
お金から影響を受ける獣医療
お金から影響を受ける獣医療
お金から影響を受ける獣医療
来院数減少への不安
来院数減少への不安
来院数減少への不安
来院数減少への不安
来院数減少への不安
獣医療ハードの限界
獣医療ハードの限界
獣医療ハードの限界
獣医療ハードの限界
獣医療ハードの限界
表2-2 「獣医師の飼主に対するストレス」に対する自由記述回答のkj法テキスト化(「ストレス状況」2)
カテゴリー小
期待どおりにならない
「病院の責任」という不安
間違えられないプレッシャー
症状の悪化
症状の悪化
獣医師のやりたい治療の同意が得られない
獣医師のやりたい治療の同意が得られない
獣医師のやりたい治療の同意が得られない
獣医師のやりたい治療の同意が得られない
獣医師のやりたい治療の同意が得られない
獣医師が説明をうまくできず理解させられない
獣医師が説明をうまくできず理解させられない
獣医師が説明をうまくできず理解させられない
獣医師が説明をうまくできず理解させられない
獣医師が説明をうまくできず理解させられない
獣医師が説明をうまくできず理解させられない
獣医師が説明をうまくできず理解させられない
獣医師が説明をうまくできず理解させられない
獣医師と飼主の価値観の違い
金銭的なこと
金銭的なこと
金銭的なこと
金銭的なこと
飼主の経済力と要求のアンバランス
飼主の経済力と要求のアンバランス
飼主の経済力と要求のアンバランス
飼主の経済力と要求のアンバランス
当院への批判、評判
当院への批判、評判
当院への批判、評判
当院への批判、評判
来院数減少
ペース乱される
電話での診療対応
電話での診療対応
電話での診療対応
時間外診療
32-1
33-9
33-3
29-3
7-1
52-5
41-1
37-1
29-1
27-2
55-2
54-1
52-1
51-1
50-1
41-3
33-4
18-4
13-1
54-3
34-5
21-2
21-1
31-2
31-1
21-4
21-3
52-3
33-6
33-5
25-2
33-7
48-2
41-5
8-2
8-1
48-1
サンプル
テキスト
期待通りにならない、
すべて病院の責任とされるのではないか。(という不安)
間違えてはいけないプレッシャーと
病状が悪くなったとき。
爪切り時に出血させかなり強いクレームをうけた。
自分のしたい治療をさせてもらえない時→
獣医師が望んだ治療に同意が得られないとき→
先生もご経験のことと思いますが、自分のアドバイス等を真剣に受け取っていただけないことが多々ありますが、
自分が提案した治療プランを受け入れてもらえないとき。
指示に従わない人。
話してもわかってもらえない。
症例の病気の説明しても理解してもらえない→
こちらの説明をなかなか理解してもらえない→
自分の話をちゃんと理解してくれない。
インホームドがうまくいっていないと感じたとき。
うまく説明が伝わらない時→
説明不足ではないか。(という不安)
→自分の説明を理解されずもどかしい。
治療方針の価値観の違いにストレスを感じたが
診断のための検査をしてもらえない(金額的に?)→
支払い踏み倒しに対しては相当のストレスになるが、
支払いを滞る。
金銭的なこと。
気持ち先行している飼主との考えの違いにストレスを感じた。
動物に対する思い入れと飼主の行動や生活の生計がバランスがとれず、
支払いをしてくださらなければこれ以上出来ないと話し、激怒された。ののしられたが、
ツケを要求して診療を強要する飼主。
あることないことを他で言いふらされたとき→
ほかの飼主に対して本院は診断治療に間違いが多いような印象を与える。
治療期間を要する飼主が待合室で他の飼主になかなか治らないと話している。→
他院の別の主張による当院への批判など→
来院が減るのではないかと考える。
自分のペースを乱されるのが嫌
何度も電話で聞かれるとき→
(診察しなければわからないと基本的に思っているので)。
電話で症状を詳しく話をするのを聞くことが苦痛に感じる
自宅兼病院のため、診察時間外の対応をせざるを得ない時ストレスを感じる=
43
カテゴリー特大
ストレスなし
獣医療にはストレスがある
獣医療にはストレスがある
獣医療にはストレスがある
獣医療にはストレスがある
獣医療にはストレスがある
獣医療にはストレスがある
獣医療にはストレスがある
獣医療にはストレスがある
獣医療にはストレスがある
獣医療にはストレスがある
ストレスは獣医師のせい
ストレスは獣医師のせい
ストレスは獣医師のせい
飼主のせい
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
ストレスに対する考え方
カテゴリー中
ストレスなし
ストレスに対する考え方
カテゴリー大
表2-3 「獣医師の飼主に対するストレス」に対する自由記述回答のkj法テキスト化(「ストレスに対する考え方」他)
カテゴリー小
29-7
35-5
35-6
36-1
36-2
36-3
獣医師の感想・その他
獣医師の感想・その他
獣医師の感想・その他
獣医師の感想・その他
獣医師の感想・その他
20-4
20-2
20-1
15-3
15-2
44-6
32-6
28
20-5
14-2
14-1
2-4
2-1
20-3
7-3
サンプル
飼主のわがままを受け入れるのはよくない
飼主とのストレスは獣医師のせい
飼主とのストレスは獣医師のせい
飼主の希望通りならクレームはない
不愉快な気持ち
不愉快な気持ち
獣医療スタッフのストレス
獣医療には必ずストレスがある
獣医療には必ずストレスがある
獣医療には必ずストレスがある
獣医療には必ずストレスがある
獣医療には必ずストレスがある
獣医療には必ずストレスがある
獣医療には必ずストレスがある
飼主へのストレスなし
飼主へのストレスなし
テキスト
直感でしるしをつけたので、再度質問を受けた場合、これとは違う答えになろうと感じた。
ストレスという言葉の意味を考えた。
こんな獣医さんも出てきたと感心した。
飲みながら気楽に話せればもっといいですけどね。
でもこのアンケートに答えることも少しストレスがかかりました。
(わがままを)受け入れると治療は成功しない。
飼主さんとのストレスはそのほとんどが自分の診療レベルに起因していますので、
飼主さんとのトラブルは必ず自分の対応に問題があると考えています。
飼主さんの希望通りの治療ができておればクレームになるはずがありませんので、
動物の身になって考えることはできませんでした。
非常に不愉快な気持ちになり、
ストレスを感じているのは獣医だけではないと思います。このアンケートを見てスタッフが獣医だけストレスを感じですねと言っていました。
病気の予防以外の仕事はなんらかしらのストレスをいつも感じております
たくさんあります。
開業している間はなくなることはないと思います。
飼主さん、診療、雑務、生活すべてがストレスですが、
生きていることがストレスだと思います。
なので常にストレスを抱えているのが現状です。
病気の動物をもつ飼主と接することは、大なり小なりストレスを感じます。
飼主さんそのものに対してストレスを感じることはほとんどありません。
その後同じクレームは受けていないので成功していると思っている。
44
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
回避的ストレス対処
ストレス対処
カテゴリー大
回避的ストレス対処
ストレス対処
カテゴリー特大
カテゴリー中
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
感情抑制コントロール
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
飼主から距離を置く
仕事から距離をおく
仕事から距離をおく
仕事から距離をおく
仕事から距離をおく
仕事から距離をおく
仕事から距離をおく
仕事から距離をおく
仕事から距離をおく
仕事から距離をおく
仕事から距離をおく
忘却・解決先送り
忘却・解決先送り
忘却・解決先送り
忘却・解決先送り
忘却・解決先送り
忘却・解決先送り
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
あきらめ・諦観
表2-4 「獣医師の飼主に対するストレス」に対する自由記述回答のkj法テキスト化(「ストレス対処」1)
カテゴリー小
誠意をつくす
「できる人間」だと思い込む
「できる人間」だと思い込む
「できる人間」だと思い込む
「できる人間」だと思い込む
相手にしない
相手にしない
相手にしない
気にしない
気にしない
気にしない
気にしない
気持ちを抑える
気持ちを抑える
気持ちを抑える
深くかかわらない
深くかかわらない
深くかかわらない
深くかかわらない
深くかかわらない
深くかかわらない
来なくなりストレス解消
来なくなりストレス解消
治療にのみ専念
治療にのみ専念
治療にのみ専念
趣味
趣味
趣味
趣味
趣味
仕事(病院)から離れる
仕事(病院)から離れる
仕事(病院)から離れる
飲酒・食事
飲酒・食事
寝る
寝る
時間が解決
時間が解決
時間が解決
時間が解決
割り切る
割り切る
割り切る
割り切る
割り切る
いろんな人がいる
いろんな人がいる
あきらめる
あきらめる
あきらめる
どうしょうもない
どうしょうもない
どうしょうもない
何もしない
何もしない
11
29-14
29-13
29-12
29-11
47
25-5
6-4
50-7
38-4
37-2
14-3
35-3
29-9
4-4
49-7
49-6
49-5
49-4
29-16
21-7
21-5
15-5
48-4
27-3
16-2
55-3
48-5
35-4
29-10
4-1
39-9
25-8
8-5
48-3
25-7
39-10
9-6
39-8
26
9-5
2-3
41-6
39-11
34-6
34-4
13-3
35-1
27-4
52-4
41-2
29-15
46-3
32-3
2-2
32-5
32-4
サンプル
テキスト
クレーマーに対して誠意を尽くすだけです。
治療がうまくいかないのは自分のせいでないはずと思う。
できる人間だと思ってくれている人がいると思うと、自信につながる。
できる人間だと思い、
仕事以外に成績が明確になることをする(馬術競技会に出る)ことで、自分自身を評価し、
相手にしないよう心がけた
最近は無視するようにした。
適当に相手をしてまともに相手をしないようにする。
あまり考えすぎずに切り替えるようにし、プライベートに持ち込まない。
連日診察するわけではないので終わったことは気にしない。
とにかく一切気にしないようにしています。
意に介さないように努めています。
気持ちを抑えます。
そういう人もいるんだと自分自身を納得させる。
あまり悩まないように努力した。
相手が心を開いてくれているのがわかれば、相手のことを考えてみようという気持ちにになるが、そうでない時に無理して入り込もうとしない。
嫌われている人に対して好きになってもらおうという努力はしない。
看護士さんとの方が仲良く心開くときもあるので、看護士さんに聞いてもらったりもして自分で直接聞くのをひかえた。
自分しかいない時は、必要最低限のこと以外しゃべっていない。
初診時に私とは合わないストレスを感じる人だと思うと、最初からあまり深く関わらないようにしてストレスを最小限にする努力をする。
危ない人格と判断し、あまりかかわらないようにしている。
それからはほとんど来なくなった。
相手が来なくなったことがストレスの解消でした。
②診察の質を応急的なもののみに下げる。→
きちんと治らんよと話しをして、それ以上特別には何か追加はしない。
治療のみに専念する。
ストレスは自分の好きなことをして忘れることが多い。
自己満足的ストレス解消法③診察後趣味に没頭する
ストレス解放のためまた気分転換のため自分の趣味で気分を落ち着かせます。
週に1度は必ず100%病院(仕事)を忘れるようにする。(馬に乗りに行ってます。何があっても必ず。
自分のプライベートな時間を充実させ、
距離を置く。
出かけたりすること。
病院を離れて外出し、天神に行く。
①夜ならば診察後アルコールを入れ忘れる。
ストレス解消は食べたり、
よく寝る(疲れているとこっちも忍耐力がなくなるので)。
すぐ寝るようにした。
時間を置く。
新しいストレスや不安が生じていくうちに古いものが徐々に薄れてゆく
時間が過ぎると忘れるようにした。
時が解決するのを待つのみです。
仕方ないと割り切る
自分に近しい人ではないので、まあどうでもよいかと割り切る。
適当なところで割り切るしかない。
提供したサービスに対する報酬(費用)が支払われれば、それで良しと割り切る。
(こんなもんだと割り切って)
世の中には色々な考えを持った人がいる。
すべての人がまともな人ということはないと思う。
こんな人もいるんだなあとあきらめる。
あきらめる。
愛馬のご飯代のためと思って何事もあきらめて頑張る。
【何をやってもどうしようもないと)経験的に考えています。
正直どうしようもないので、
その解消法は特にない。
積極的のことも特にしません。
気が楽になるまで何もしません。
45
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
中間型
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
問題解決的ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
ストレス対処
カテゴリー大
中間型
ストレス対処
カテゴリー特大
カテゴリー中
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
飼主との充分なコミュニケーション
問題解決をはかる
問題解決をはかる
問題解決をはかる
問題解決をはかる
問題解決をはかる
問題解決をはかる
問題解決をはかる
問題解決をはかる
飼主の受容と共感
飼主の受容と共感
飼主の受容と共感
飼主の受容と共感
飼主の受容と共感
飼主の受容と共感
飼主の受容と共感
飼主の受容と共感
飼主の受容と共感
飼主の受容と共感
治療の枠組みの設定
治療の枠組みの設定
治療の枠組みの設定
治療の枠組みの設定
治療の枠組みの設定
治療の枠組みの設定
飼主に必ずしも同調しない
問題を俯瞰する
ソーシャルサポートの利用
ソーシャルサポートの利用
ソーシャルサポートの利用
ソーシャルサポートの利用
ソーシャルサポートの利用
ソーシャルサポートの利用
ソーシャルサポートの利用
ソーシャルサポートの利用
ソーシャルサポートの利用
表2-5 「獣医師の飼主に対するストレス」に対する自由記述回答のkj法テキスト化(「ストレス対処」2)
カテゴリー小
他の方法で(質的に)説明
他の方法で(質的に)説明
他の方法で(質的に)説明
他の方法で(質的に)説明
他の方法で(質的に)説明
繰り返し(量的に)説明
繰り返し(量的に)説明
繰り返し(量的に)説明
繰り返し(量的に)説明
繰り返し(量的に)説明
繰り返し(量的に)説明
繰り返し(量的に)説明
繰り返し(量的に)説明
飼主との意思疎通をはかる
飼主との意思疎通をはかる
飼主との意思疎通をはかる
飼主との意思疎通をはかる
飼主との意思疎通をはかる
飼主との意思疎通をはかる
飼主との意思疎通をはかる
原因を追究して問題解決をはかる
原因を追究して問題解決をはかる
原因を追究して問題解決をはかる
原因を追究して問題解決をはかる
反省する
反省する
反省する
反省する
飼主の気持ちを理解しようとする
飼主の気持ちを理解しようとする
飼主の気持ちを理解しようとする
飼主の気持ちを理解しようとする
飼主の気持ちを理解しようとする
飼主を否定せず受容
飼主を否定せず受容
飼主を否定せず受容
飼主を否定せず受容
飼主を否定せず受容
飼主に選択させる
飼主に選択させる
飼主に選択させる
獣医師の限界範囲を設定
獣医師の限界範囲を設定
獣医師の限界範囲を設定
必ずしも同調しない
問題を俯瞰する
人に不満を共感してもらう
人に不満を共感してもらう
人に不満を共感してもらう
人に不満を共感してもらう
人に不満を共感してもらう
他機関や他獣医師を紹介
他機関や他獣医師を紹介
他機関や他獣医師を紹介
他機関や他獣医師を紹介
53-3
45-2
25-4
18-5
6-2
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20-7
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25-6
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17-5
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29-8
50-4
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48-7
48-6
9-7
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46-1
15-4
サンプル
テキスト
BUNは200mg/dl近く、意識障害も出ていたので、尿量モニターの重要性を可能な限りわかりやすく説明し、飼主の気になる痛みに関しては鎮痛剤(ブプレ
ノルフィン)の投与を行いました。何とか納得してくれた様子で実際に継時的に尿の産生を目視できる利便性を体験させました。
文章にして飼主に渡すようにしてトラブルを少なくするようにした。
聞く耳を持たない人の場合、手紙を書いてでもわかってもらおうとも考えますが、
→図や写真を使って時間を掛けて丁寧に説明する。
基本的な話からしていき、気づく(理解してもらう)ようにする。
理解してもらうため再説明する。
とにかく繰り返し話をするようにする。
特に解消法はなく、何度でも同じ指導を繰り返している。
解消した方法→忍耐の限界まで話してみる。
一人一人に説明し家族内での意見調整をした。
何度も話して理解してもらう。
何度でも説明
しっかり話し込むと理解してもらえることもあり、
日本語のできる方が来院していただけるようにお願いした。
また持論ですが「誤解は必然、理解は偶然」と考えながら診察に当たっています。
そのとき、その場ではストレスを感じますが、飼主とのコミュニケーションが最大のストレス解消法であると思います。
どうしたら説得できるか考える。
伝えるよう努力するが、
調整がつくまではストレスを感じるが、意思統一ができればストレスはなくなった。
あえてしっかりはっきりと話すようにする。
そのうえで問題解決を目指すようにする。
ストレスの解消法は目の前の出来事にしっかり向かい合うことです。
また、原因が解消されねばストレスは解消されません。
出来ない事、わからない事をできるだけきちんと伝えてごまかさない事がストレスを避ける方法だと思います。
自分の説明力不足を反省する。
反省する。
自分が悪かったことはできるだけ反省する。
今後の糧にすることで乗り切った。
先の例では意識障害が出ているのに正常な随意排尿なんてできないと強く主張してしまいました。飼主も気を悪くしたと思います。
対立者→協力者になれるとかなり気持ちも楽になる。
何を望んでいるか目的に対して共感する
ただ、自分の成長のため、相手の気持ちを理解はしてみるようにしています。
飼主の気持ちを聞き出す。
それから飼主をなるべく否定しないことも重要なのではないでしょうか。
一度相手の意見主張に対し受容的な態度をとり、
誠心誠意説明してもわかってもらえない方には頑として当方の言い分だけを言い切るのではなく時には身を引くことも用意しておくべきと思い
そういう考えもありますねと流す。
なるべく受け入れるようにしている
飼主に選択させる
ストレスがかかるが、入院して治療するか、ストレスはかからないが家で経過を見て不十分な治療または治療をしないか選んでもらう。
我々の提供するものに対して、それをどう利用、活用するかは、当然本人次第なのでそれ以上は求めない。
ここまでという自分なりの尺度をもち、気持ちが楽になりました。
解消法はまず10時間までは一つの病気に対し一人のオーナーに対し説明するリミットを自分で設け、そこまでは誠心誠意できる限り頑張って何でもできること
をするが、それを超えてもわかりあえない理解和解が難しい時は「私には無理」とはっきり言う。
自分ができる範囲の内容を明確に飼主に伝える。
(必ずしも同調するわけではない。)
職業が違っていても現在の社会の中での問題点を冷静に見ることが以前よりできるようになった。
同僚や家族、友人に話をするだけで多少のストレスなら解消されていると思う。
ストレスがかかったことに共感同意してもらうことでストレス解消。
④スタッフと話し合い共感を得る。→
子供と遊んでハグした。
多方面の考えを持つ友人を増やすことで
診察をお断りしてその飼い主様の言語に対応できる病院を紹介した。
他の獣医師の時は楽しそうにしゃべっていたので、できる限りほかの人に診てもらっていた。
何件も病院を回ってきて猜疑心の強い飼主に対してあまりかかわらないように、たとえば大学などが満足できるのではないかと勧めた。
対応としてはセカンドオピニオン、サードオピニオンを得てもらうよう対応しました。
表2-6 獣医師の飼主に対するストレスの実態についてのKJ法文章化
「ストレス状況」「ストレスに対する考え方」「ストレスへの対処」の3つの特大カ
テゴリーに分類された。
Ⅰ 「ストレス状況」カテゴリー
1)「飼主の性質」が関連するストレス
①「攻撃的な飼主」
②「身勝手な飼主」
③「神経質な飼主」
2)「獣医師基準における飼主の無理解」が関連するストレス
①「治療への非協力的姿勢」
②「飼主の理解力の問題」
3)「病院経営上の問題」が関連するストレス
①「獣医療ハードの問題」
②「来院数減少への不安」
③「お金から影響を受ける獣医療」
4)「獣医療の難しさ」が関連するストレス
①「インフォームドコンセントの難しさ」
②「獣医師と飼主の価値観の違い」
③「治療行為の不確定性」
Ⅱ 「ストレスに対する考え方」カテゴリー
1)「ストレスあり」⇔「獣医療にはストレスがある」
2)「飼主のせい」⇔「ストレスは獣医師のせい」
3)「その他の感想」
Ⅲ 「ストレス対処」カテゴリー
1)「回避的ストレス対処」
①「あきらめ・諦観」
②「忘却・解決先送り」
③「仕事から距離を置く」
④「飼主から距離を置く」
⑤「感情抑制コントロール」
2)「中間型」
①「ソーシャルサポートの利用」
②「問題を俯瞰する」
③「飼主に必ずしも同調しない」
④「治療の枠組みの設定」
3)「問題解決的ストレス対処」
①「飼主の受容と共感」
②「問題解決をはかる」
③「飼主との充分なコミュニケーション」
46
4. 考 察
(1) ス ト レ ス 状 況
質 問 に 回 答 し た 獣 医 師 の 9 5 % 以 上 が 飼 主 に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ て い た 。獣 医 師 が 抱 え
る ス ト レ ス は 『 飼 主 の 性 質 』,『 獣 医 師 基 準 に お け る 飼 主 の 無 理 解 』,『 病 院 経 営 上 の 問 題 』,
『獣医療の難しさ』の4つの特大カテゴリーに分類された。テキストを検証すると「怒っ
て 来 院 さ れ る ( 表 2- 1, 『 飼 主 の 性 質 』, サ ン プ ル No .17 -4 )」「 説 明 し て も わ か ら な い 飼 主
に 対 し て は 何 も 話 し た く な く な る ( 表 2 - 1, 『 獣 医 師 基 準 に お け る 飼 主 の 無 理 解 』, サ ン プ
ル N o. 8- 4)」
「 あ る こ と な い こ と を 他 で 言 い ふ ら さ れ た と き( 表 2 -2 ,『 病 院 経 営 上 の 問 題 』,
サ ン プ ル No .5 2-3 )」「 す べ て 病 院 の 責 任 と さ れ る の で は な い か と い う 不 安 ( 表 2- 2,『 獣 医
療 の 難 し さ カ テ ゴ リ ー 』, サ ン プ ル No .3 3 -9)」 に 代 表 さ れ る よ う に , ど の カ テ ゴ リ ー も そ
の こ とに よ っ て 生 じ て い る“ 飼主 に 対 し て 獣 医師 が 抱 く 否 定 的 感 情 ”がス ト レ ス の 要 因で
あ る こ と が 示 唆 さ れ る 。 獣 医 師 が 飼 主 に 感 じ る 否 定 的 感 情 は 『 攻 撃 的 な 飼 主 』『 飼 主 の 不
機 嫌 な 態 度 』『 わ が ま ま 』『 無 理 な 要 求 』 な ど , 飼 主 と の 関 係 が 決 裂 す る 可 能 性 が あ る ほ ど
の 強 さ が あ り ,獣 医 師 が 飼 主 に 対 し て 恐 怖 や 怒 り や 憎 悪 に 近 い 否 定 的 感 情 を 抱 く こ と が あ
る こ と を 示 し て い る 。 山 上 ら ( 200 9) は , 総 合 診 療 医 が 患 者 に 抱 く 否 定 的 感 情 に つ い て 医 師
は 患 者に そ の 否 定 的 感 情 を表 出 し な い ,表 出 して は い け な い と し てい る 。医 師 の 語 り にも
“ 患 者 さ ん に は 怒 れ な い ね 。 そ れ は 理 屈 で な く ”“ 怒 っ て も い い 結 果 は 生 ま れ な い ”( 山 上
ら , 20 09) な ど 感 情 表 現 を 抑 制 す る 語 り が あ る 。 こ れ は , 獣 医 師 の 場 合 で も 『 あ き ら め ・ 諦
観 』『 感 情 抑 制 コ ン ト ロ ー ル 』 と し て 認 め ら れ る 。 山 上 ら (2 009 ) は , 総 合 診 療 医 が 患 者 に
対 し て 恐 怖 や 怒 り や 憎 悪 を 抱 い て い る 文 脈 を 持 つ こ と を 指 摘 し て い な い の で ,恐 怖 や 怒 り
や 憎 悪に 近 い 否 定 的 感 情 を獣 医 師 が 抱 く こ と は ,獣医 師 に 特 有 で ある 可 能 性 が あ る 。矢野
(20 09 )や 第 1 章 第 2 節 3 . 獣 医 療 の 対 象 で 指 摘 さ れ る よ う に ,獣 医 療 は 客 体 で あ る 飼 主 に 治
療 の 決 定 権 が あ る た め ,『 飼 主 の 無 理 解 ( 獣 医 師 基 準 に よ る )』 に 翻 弄 さ れ る ペ ッ ト を 考 え
生じる否定的感情であるかもしれない。
『飼主の性質』は,攻撃的,神経質,身勝手という飼主の自己本位な性質に対して獣医
師 が 抱 く 否 定 的 な 感 情 が ス ト レ ス に 起 因 し て い る こ と が テ キ ス ト か ら う か が わ れ る 。『 獣
医師基準における飼主の無理解』は,飼主の治療への非協力的姿勢,飼主の理解力の問題
の 中 カテ ゴ リ ー に 分 け ら れ ,飼主 の 性 質 に も 起因 す る こ と が 考 え られ る も の の ,獣 医 師側
の(動物愛護的にどうか,思い込みが激しい,説明を勝手に理解しない,飼主が聞いてい
な い )等 の 獣 医 師 の 価 値 基 準 を 当 て は め た 飼 主 へ の 評 価 に よ っ て 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 が 発
生 し て い る こ と が テ キ ス ト か ら う か が わ れ る 。こ の 際 飼 主 と 獣 医 師 の 間 で 生 じ て い る 事 象
は 同 じで あ っ て も ,双 方 の主 観 が 経 験 し て い るこ と は 異 な っ て い て ,飼主 と 獣 医 師 の 間に
認 識 のギ ャ ッ プ が 生 じ て いる こ と が テ キ ス ト から 伺 わ れ る( た と えば「 本 人 な り の 固 定観
念 に と ら わ れ ,こ ち ら の 提 示 す る 情 報 を 素 直 に 受 け 入 れ ら れ な い( 表 2- 1,『 思 い 込 み が 激
し い 』 , サ ン プ ル No . 34- 2)」)。 飼 主 の 主 観 は 固 定 観 念 が 正 し い と 考 え , 獣 医 師 の 主 観 は 提
示 す る 情 報 が 正 し い と 考 え る 認 識 の ギ ャ ッ プ が 生 じ て い る 。「 自 分 で 診 断 し て 獣 医 師 の 意
見 を 聞 こ う と し な い ( 表 2 -1 ,『 飼 主 が 説 明 を 勝 手 に 理 解 し な い 』 , サ ン プ ル N o.6 -1 )」「 説
明 し て も わ か ら な い 飼 主 ( 表 2-1 ,『 飼 主 が 説 明 を 理 解 で き な い 』 , サ ン プ ル No .8- 4) 」 も 獣
医 師 基 準 の 飼 主 理 解 の た め に 獣 医 師 と 飼 主 の 間 に 認 識 の ギ ャ ッ プ が 生 じ ,飼 主 へ の 否 定 的
47
感 情 に 関 係 し て い る と 考 え ら れ る 。『 病 院 経 営 上 の 問 題 』 は , 時 間 外 診 療 , 電 話 で の 対 応
など獣医療ハード上生じる肉体的・精神的・病院経営的ストレスによって生じる飼主への
否 定 的感 情 ,来 院 数 の 減 少へ の 不 安 ,治 療 が 飼主 の 経 済 力 か ら 制 限を 受 け る こ と が 起 因す
る 獣 医 師 の や る せ な さ が ス ト レ ス と な っ て い る こ と が 伺 わ れ る 。『 獣 医 療 の 難 し さ 』 は ,
飼 主 へ説 明 す る こ と の 難 しさ や ,獣 医 師 の 思 う治 療 を 行 え な い こ とへ の 歯 が ゆ さ ,治 療行
為 が 思 い 通 り に な ら な い 不 確 定 性 へ の プ レ ッ シ ャ ー ,飼 主 と の 価 値 観 の 違 い な ど が 獣 医 師
に葛藤を生じさせるために生じる飼主への否定的感情が伺われる。
このように考えると獣医師のストレスは,獣医師と飼主の認識のギャップによって飼主
に対する否定的感情が引き起こされることに関係することが考えられる。
(2) ス ト レ ス 対 処
特 大 カ テ ゴ リ ー 『 ス ト レ ス 対 処 』 は ,『 関 係 回 避 的 』『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』『 中 間
型 』の 大 カ テ ゴ リ ー で 構 成 さ れ た 。
『 関 係 回 避 的 』は『 諦 め ・ 諦 観 』,『 忘 却 ・ 解 決 先 送 り 』,
『 仕 事 か ら 距 離 を 置 く 』,『 飼 主 か ら 距 離 を 置 く 』,『 感 情 抑 制 コ ン ト ロ ー ル 』 の 各 中 カ テ ゴ
リ ー に よ っ て 構 成 さ れ た 。『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 は ,『 飼 主 の 受 容 と 共 感 』『 問 題 解
決 を は か る 』『 飼 主 と の 充 分 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 』 の 各 中 カ テ ゴ リ ー に よ っ て 構 成 さ れ
た 。『 中 間 型 』 は ,『 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 利 用 』『 問 題 を 俯 瞰 す る 』『 飼 主 に 必 ず し も 同 調
し な い 』『 治 療 の 枠 組 み の 設 定 』 に よ っ て 構 成 さ れ た 。 F ol km an n ら (1 980 ) が 提 唱 す る 問 題
焦 点 型 と 情 動 焦 点 型 の コ ー ピ ン グ 方 略 理 論 に 基 づ い て 分 類 す れ ば ,『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志
向的』は問題焦点型に『関係回避的』は情動焦点型に分類されると考えられる。
次に『ストレス状況』の中の 4 つのカテゴリーごとにそのストレス状況に対処する方略
に つ い て ,Fo lk ma nn ら ( 19 80) が 提 唱 す る 問 題 焦 点 型 と 情 動 焦 点 型 の コ ー ピ ン グ 方 略 理 論 に
基 づ い て 検 証 す る 。『 飼 主 の 性 質 』 に よ る ス ト レ ス 状 況 は , そ の 原 因 が 飼 主 に 帰 属 す る た
め ,獣 医 師の 工 夫 や 努 力 によ っ て 解 決 で き な い 。よっ て お も に 情 動焦 点 型 に よ っ て コ ーピ
ン グ さ れ る と 考 え ら れ る 。『 獣 医 師 基 準 に お け る 飼 主 の 無 理 解 』 に よ る ス ト レ ス 状 況 は ,
飼 主 の理 解 を 深 め る コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ン 等 に“ 獣 医師 と 飼 主 の 認 識の ギ ャ ッ プ ”を 解 消す
る よ う に 努 め れ ば 解 決 で き る 場 合 と で き な い 場 合 が 考 え ら れ ,問 題 焦 点 型 ま た は 情 動 焦 点
型 に コ ー ピ ン グ さ れ る と 考 え ら れ る 。『 病 院 経 営 上 の 問 題 』 に よ る ス ト レ ス 状 況 は , 業 務
構 造 上 の 問 題 で 獣 医 師 側 の 努 力 で 解 決 で き る 場 合 と で き な い 場 合 が あ り ,問 題 焦 点 型 ま た
は 情 動 焦 点 型 に コ ー ピ ン グ さ れ る と 考 え ら れ る 。『 獣 医 療 の 難 し さ 』 に よ る ス ト レ ス 状 況
は ,業 務 上 の 不 確 定 性 や 対 人 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 難 し さ に 起 因 し て い る た め 治 療 技 術 や
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 技 術 の 向 上 等 ,獣 医 師 の 努 力 で 解 決 で き る 場 合 と で き な い 場 合 が あ り ,
問 題 焦 点 型 ま た は 情 動 焦 点 型 に コ ー ピ ン グ さ れ る と 考 え ら れ る 。こ の よ う に ,Fol k man n ら
(19 80 )の ス ト レ ス コ ー ピ ン グ 方 略 理 論 に 基 づ い て 獣 医 師 が 抱 え る 『 ス ト レ ス 状 況 』 に 対 す
るコーピング方略を検討すると,獣医師の努力で問題解決できることは制限されており,
獣 医 師 の ス ト レ ス 対 処 に お い て 問 題 焦 点 型 ス ト レ ス 対 処 は ,限 界 が あ る こ と が う か が え る 。
この事実を示すように,今回の研究で獣医師がとっている,問題焦点型ストレスコーピ
ン グ と 考 え ら れ る 『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 は ,『 飼 主 と の 充 分 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 』
『 問 題 解 決 を は か る 』『 飼 主 の 受 容 と 共 感 』 な ど 飼 主 と の 関 係 を 改 善 す る 試 み と し て の み
カ テ ゴ リ ー 化 さ れ た 。『 飼 主 と の 充 分 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 』 は 飼 主 と 積 極 的 に 関 係 し 量
的 , 質 的 な 説 明 に よ っ て ,『 飼 主 と の 意 思 疎 通 を は か る 』 コ ー ピ ン グ で あ り , 飼 主 と の 認
48
識 の ギ ャ ッ プ を 埋 め る こ と で ス ト レ ス を 解 消 す る 効 果 が あ る と 考 え ら れ る 。『 飼 主 の 受 容
と共感』は『飼主を否定せず受容』と『飼主の気持ちを理解しようとする』のカテゴリー
か ら な り ,飼 主 の 自 由 意 思 の 尊 重 で 獣 医 師 の 認 識 の ギ ャ ッ プ を 埋 め 獣 医 師 が 抱 く 飼 主 へ の
否 定 的 感 情 を 減 じ よ う と す る 獣 医 師 の 試 み で あ る 。『 問 題 解 決 を は か る 』 は 問 題 の 原 因 を
追究し反省して問題解決をはかる試みである。
対人ストレッサーにおける問題焦点型のコーピングは,ストレスを軽減するために効果
的 と は 必 ず し も 考 え ら れ て い な い ( 加 藤 ,2 008 ) 。 対 人 ス ト レ ッ サ ー は 他 の ス ト レ ッ サ ー と
比 較 し て , 自 分 自 身 だ け で で コ ン ト ロ ー ル す る こ と が 困 難 で (Pa rk
et al, 20 04 ) , こ の
コ ー ピ ン グ は 必 ず し も 成 功 す る と は 言 え ず ,問 題 を 取 り 除 く こ と 難 し い こ と が あ る た め で
あ る 。ま た ,人に 気 を 遣 った り す る こ と も 新 たな ス ト レ ス を 生 じ させ る こ と に な る こ とも
考 え ら れ る 。 よ っ て ,『 飼 主 と の 充 分 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 』『 飼 主 の 受 容 と 共 感 』 な ど の
『問題解決的・関係志向的』コーピングは,ストレスの軽減に寄与する場合と寄与しない
場 合 が あ る と 考 え ら れ る 。 飼 主 と の 関 係 改 善 に よ る 方 略 以 外 は ,『 あ き ら め ・ 諦 観 』,『 忘
却 ・ 解 決 先 送 り 』,『 仕 事 か ら 距 離 を 置 く 』,『 飼 主 か ら 距 離 を 置 く 』,『 感 情 抑 制 コ ン ト ロ ー
ル』などの情動焦点型ストレスコーピングによって,獣医師は『関係回避的』に対処する
か,一定の距離と時間を置く『中間型』の方略によってコーピングしている。つまり獣 医
師 が 抱 く 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス は ,飼 主 と の 関 係 改 善 に よ っ て 問 題 解 決 的 に コ ー ピ ン グ 出
来 な い場 合 は ,回 避 的 に ,情 動焦 点 的 に コ ー ピン グ す る し か な い 性質 で あ る こ と が 示 唆さ
れる。
ストレス対処において関係回避的と問題解決的の『中間型』と考えられる『ソーシャル
サ ポ ー ト の 利 用 』,『 問 題 を 俯 瞰 す る 』,『 飼 主 に 必 ず し も 同 調 し な い 』,『 治 療 の 枠 組 み の 設
定 』 の 対 処 法 を 取 る 獣 医 師 が 存 在 し た 。 各 カ テ ゴ リ ー の テ キ ス ト の 詳 細 を 検 証 す る 。『 ソ
ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 利 用 』 は 『 他 機 関 や 他 獣 医 師 を 紹 介 』『 人 に 不 満 を 共 感 し て も ら う 』
の カ テ ゴ リ ー を 含 み ,他 の 人 や 機 関 を 利 用 し ス ト レ ス を 情 動 焦 点 型 に 対 処 し よ う と す る 方
略 で あ る 。『 問 題 を 俯 瞰 す る 』 は , 他 職 業 と の 交 流 か ら 冷 静 に 社 会 の 問 題 点 を 俯 瞰 的 に 評
価 す るこ と に よ る コ ー ピ ング 方 略 で あ り ,ス ト レ ス問 題 へ の 気 づ き・把握 に よ っ て ス トレ
ス を 軽 減 さ せ よ う と す る 方 略 で あ る 。ス ト レ ス 軽 減 の た め の 効 果 的 な 内 省 と も い え る 。
『飼
主に必ずしも同調しない』は,獣医師自身の価値感は変えずに,しかしながら飼主は否定
し な いと い っ た 獣 医 師 の 姿勢 で あ る 。自 分 の あり よ う も 否 定 せ ず ,飼 主の あ り よ う も 否定
し な い 姿 勢 に よ っ て 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 が 生 じ る こ と を 避 け て い る と も い え る 。『 治 療 の
枠 組 み の 設 定 』 は ,『 獣 医 師 の 限 界 範 囲 の 設 定 』『 飼 主 に 選 択 さ せ る 』 を 含 む 。『 獣 医 師 の
限 界 範 囲 の 設 定 』 は 臨 床 心 理 面 接 に お け る 治 療 構 造 論 ( 小 此 木 , 19 81 ) に 通 じ る 概 念 で ,
治 療 構 造 ( 特 に 時 間 ) を 設 定 す る こ と で 治 療 者 -ク ラ イ ア ン ト 間 で 生 じ る 転 移 -逆 転 移 感 情
の認識とその分析を可能にする機能や境界を明確にし治療者とクライアントを保護する
機 能 が 働 く と 考 え ら れ , 獣 医 師 が 飼 主 と 適 切 な 距 離 を と る 助 け に な る と 考 え ら れ る 。『 飼
主 に 選択 さ せ る 』は ,飼 主 の 自由 意 思 を 尊 重 する こ と で 獣 医 師 と 飼主 の 境 界 を 設 定 す るこ
とでストレスを軽減しているともいえる。
『中間型』は獣医師と飼主との適切な距離間を図り,ストレス軽減を試みているという
見 方 で は 飼 主 と の 関 係 と い う 次 元 に お い て『 回 避 型 』と『 問 題 解 決 型 』の 中 間 で あ る 。
『忘
却 ・ 解 決 先 送 り 』『 仕 事 か ら 距 離 を 置 く 』『 飼 主 か ら 距 離 を 置 く 』 カ テ ゴ リ ー の よ う に 完 全
49
に飼主との距離を置いてしまうこともせず,あわよくば『問題解決的』にストレスを対処
できればという獣医師のストレス対処である。
『 問 題 解 決 型 』『 回 避 型 』『 中 間 型 』 の ス ト レ ス 対 処 を , 飼 主 と の 関 係 と 獣 医 師 内 面 の 視
点 で 考 え て み る 。飼 主 と の 関 係 に 焦 点 を あ て て『 ス ト レ ス 対 処 』の テ キ ス ト を 評 価 す る と ,
獣 医 師 の 内 面 で は , 飼 主 と の 関 係 を 維 持 し た い 気 持 ち (「 対 立 者 → 協 力 者 に な れ る と か な
り 気 持 ち も 楽 に な る ( 表 2- 5,『 反 省 す る 』,No .5 0-6 )」)と 飼 主 が 理 解 で き ず 関 係 を 崩 壊 し
た い 気 持 ち ( 表 2- 4,『 深 く か か わ ら な い 』 ; 表 2 -4 ,『 相 手 に し な い 』 の テ キ ス ト な ど ) の 両
価 的 な 2 つ の 分 裂 し た 感 情が 存 在 す る こ と が 示唆 さ れ る 。そ し て ,こ の分 裂 し た 両 価 的な
感 情 を獣 医 師 が 処 理 で き ない 場 合 ,獣 医 師 の 混乱・葛 藤 が 獣 医 師 に生 じ 否 定 的 感 情 に つな
がっていることが想像される 。この分裂した両価的な感情は,精神分析学の転移・逆転移
感 情 の 概 念 で と ら え る と ,飼 主 と の 認 識 の ギ ャ ッ プ な ど も 関 連 し た 飼 主 の 分 裂 し た 感 情 が
獣 医 師 に 逆 転 移 し て い る と 捉 え る こ と も で き る 。動 物 病 院 に 連 れ て き て い る に も か か わ ら
ず『 飼 主 が 治 療 に 協 力 し な い 』と か 治 療 行 為 な の に 飼 主 が「 痛 が る の で や め て く だ さ い (表
2-1 , 『 獣 医 師 が 正 し い こ と を し た の に ク レ ー ム 』 , N o. 53- 2) 」 と い う テ キ ス ト か ら , 飼 主
の 分 裂 し た 両 価 的 な 感 情 が 獣 医 師 に 逆 転 移 感 情 と し て 生 じ て い る と 十 分 考 え ら れ る 。こ の
獣 医 師 に 生 じ た 逆 転 移 感 情 を 飼 主 と の 関 係 を 忘 却 し 距 離 を 置 き ,獣 医 師 内 面 の 分 裂 を 回 避
する(自己一致する)コーピングが『関係回避的』と考えられ,飼主へ積極的に関係する
ことによって獣医師や飼主内部の分裂した両価的な感情を改善し否定的感情や認識のギ
ャップを取り除くコーピングが『問題解決的・関係志向的』と考えられる。このように獣
医師の内面の両価的な分裂した両価的な感情は飼主との認識のギャップに関連して獣医
師に否定的感情を生み,飼主に対するストレスを生じさせていると考えられる。
加 藤 (20 00 ) は , 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ を 関 係 焦 点 型 に 分 類 す る ポ ジ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ
ング,ネガティブ関係コーピング,解決先送りコーピングの尺度を開発した。関係焦点型
対処とは,社会的関係の成立,維持,崩壊を目的とした対人調節機能に関するコーピング
で あ り ,対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ を 説 明 す る に あ た り 問 題 焦 点 型 や 情 動 焦 点 型 対 処 と は 異
な る 次 元 の コ ー ピ ン グ と し て 概 念 化 す る 必 要 を 説 き ,関 係 焦 点 型 対 処 と い う 概 念 を 提 唱 し
た ( 加 藤 , 20 08) 。 こ の 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ の 理 論 か ら 説 明 す る と ,『 問 題 解 決 的 ・ 関 係
志 向 的 』は飼 主 と の 関 係 で生 じ る ス ト レ ス を 問題 焦 点 型 に 対 処 す るに は 限 界 が あ り ,獣医
師の内面分裂を解消する可能性もあるが,多大な労力を獣医師に課し,疲弊し,飼主との
関 係 の 決 裂 を 生 む 可 能 性 も 併 せ 持 つ と 考 え ら れ る 。『 中 間 型 』 は 逆 転 移 感 情 か ら 距 離 を 置
き つ つ ,しか し 飼 主 と の 関係 は 断 ち 切 ら な い コー ピ ン グ で あ る 。関 係 焦点 型 対 処 の 観 点か
ら捉えると『中間型』は逆転移感情から獣医師の内面が分裂することを,逆転移感情から
の 距 離 を あ る 程 度 置 く こ と で 阻 止 し な が ら ,あ る 程 度 の 問 題 解 決 型 に 対 処 す る こ と に よ っ
て自己の統合性(自己一致)を維持しようとする獣医師の営みと捉えることができ,解決
先送りコーピングに相当するものかもしれない。自身の内面の 分裂(逆転移感情)に気づ
きながら飼主に適切に対応しようとする獣医師の態度と考えると,
『 中 間 型 』は 第 2 章 第 3
節 で 触 れ た“ セ ラ ピ ス ト の 純 粋 性( 自 己 一 致 )の 問 題( 河 合 ,1 97 0;岡 村 , 199 9; 羽 間 1 99 7)”
へ対処しようとする獣医師の姿と捉えることもできるかもしれない。
5. 飼 主 と の 認 識 の ギ ャ ッ プ に 関 係 す る 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 と ス ト レ ス
50
本論文の目的である獣医師が抱く飼主に対するストレスの実態とその効果的な対処に
ついて本節で明らかになった仮説を整理する。
飼 主 に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ る 獣 医 師 が 95. 7% に 及 ぶ と い う 本 節 の 結 果 か ら < 獣 医 師 は ,
飼主に対してストレスを抱く〉は,支持された。
『ストレス状況』として『飼主の性質』『獣医師基準における飼主の無理解』『病院経
営上の問題』『獣医療の難しさ』が分類され,〈獣医師は,飼主との関係が決裂するほど
の恐怖や怒りや憎悪に近い否定的感情を持つことがあり,獣医師のストレスの要因であ
る〉ことが明らかとなった。そして〈獣医師の抱く飼主への否定的感情は獣医師と飼主の
認識のギャップに関係する〉ことがわかった。
〈獣医師の『ストレス対処』は,問題焦点型でのコーピングが『飼主との充分なコミュ
ニケーション』『飼主の受容と共感』など飼主との関係改善を志向する『問題解決的・関
係志向的』に限られ,これが成功しない場合,情動焦点型の『関係回避的』や『中間型』
を用いるしかない〉ことが認められた。
獣医師の〈『ストレス対処』の中に関係焦点型である問題先送りコーピングに近い『中
間 型 』に 分 類 さ れ る コ ー ピ ン グ が 存 在 し ,完 全 に 飼 主 と の 距 離 を 置 い て し ま う こ と も せ ず ,
あわよくば「問題解決的」にストレスを対処できればというストレス対処がある〉ことが
わかった。
飼 主 と の 関 係 と 獣 医 師 の 内 面 の 視 点 で 獣 医 師 の ス ト レ ス を 捉 え る と ,〈 獣 医 師 に 生 じ る
飼 主 に 対 す る 否 定 的 感 情 は ,獣 医 師 内 面 の 飼 主 と の 関 係 を 維 持 し た い 気 持 ち と 飼 主 が 理 解
できず関係を崩壊したい気持ちという両価的な分裂した感情に対応できない場合に生じ
る獣医師の混乱・葛藤から生じ,飼主との認識のギャップが関連する〉ことがテキストか
ら伺われた。これは,飼主の分裂した感情への逆転移感情かもしれない。
本 節で ,獣 医 師 の 飼 主 に対 す る ス ト レ ス が ,獣 医師 と 飼 主 の 認 識の ギ ャ ッ プ か ら 生 じる
否 定 的 感 情 と 関 係 す る こ と は 明 ら か に な っ た が ,獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ が ど の よ
うなものかははっきりしていない。よって,本章第 2 節,第 3 節によって獣医師と飼主の
認 識 の ギ ャ ッ プ の 実 態 を 調 査 す る 研 究 を 行 っ た 。獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ の 性 質 を
理 解 す る こ と は ,ギ ャ ッ プ に よ り 生 じ た 飼 主 に 対 す る 否 定 的 感 情 を 軽 減 し 獣 医 師 の ス ト レ
スを減弱させる効果的な対処を明らかにすることに貢献すると考えられる。
ま た ,飼 主 と の 関 係 が 決 裂 す る ほ ど の 恐 怖 や 怒 り や 憎 悪 に 近 い 否 定 的 感 情 を 獣 医 師 が 持
つ 背 景 に は ,動 物 病 院 の 経 営 や 治 療 構 造 の 問 題 な ど 様 々 な 要 因 が あ る こ と が 本 節 結 果 か ら
も想像されるが,本節で指摘された『飼主の性質』は大きく関与していることが考えられ
る。そこで本章第 4 節で,飼主の性質の実態を調査する研究を行った。
6. 残 さ れ た 課 題
本 研 究 は サ ン プ ル 数 が 47 名 と そ れ ほ ど 大 き く な い こ と は 考 慮 さ れ て 評 価 さ れ る 必 要
が あ る 。本 研 究 は 獣 医 師 に よ る 自 由 返 答 で 行 っ た た め 返 答 率 は そ れ ほ ど 高 い も の で は な か
っ た 。 本 研 究 は 記 述 デ ー タ を 用 い た 質 的 研 究 に 相 当 し ,意 味 を 仮 説 的 に 生 成 す る 研 究 で あ
る た め ,質 的 研 究 の 手 法 に の っ と り 継 続 し た 実 証 研 究 に よ り 理 論 的 飽 和 に 至 っ て い る か 検
証される必要がある。
51
第 2節
獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究①~犬猫の不妊手術に対
する葛藤と手術啓発が誘起する認知的不協和
1. 目 的
第 3 章 第 1 節 で 構 造 化 さ れた 仮 説〈 獣 医 師 は ,飼主 と の 関 係 が 決 裂す る ほ ど の 恐 怖 や怒
りや憎悪に近い否定的感情を持つことがあり,獣医師のストレスの要因である〉〈獣医師
の 抱 く 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 は 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ に 関 係 す る 〉を う け ,第 2 節 ,
第 3 節では,獣医師と飼主の認識のギャップの実態について調査する。 本節では,飼主と
の認識のギャップが生じる具体的な場面「犬猫の不妊去勢手術に対する認識のギャップ」
を 検 証 す る 。「 相 手 の 気 持 ち が 測 り 兼 ね る こ と に ス ト レ ス を 感 じ る 」「 良 か れ と 思 っ て や っ
て い る こ と が 必 ず し も 伝 わ っ て い な い 」( 第 1 章 第 3 節 3. ス ト レ ス や 苦 痛 を 感 じ て い る こ
と , ス ト レ ス へ の 対 応 に 対 す る 自 由 記 述 回 答 か ら ),「 人 の 話 を 聞 い て い な い ( 飼 主 )」「 飼
主 が ど う 思 っ て い る の か , 理 解 し て い る の か , 何 を 考 え て い る の か , わ か ら な い 」( 第 3
章 第 1 節 , 表 2- 1, 『 飼 主 の 無 理 解 ( 獣 医 師 基 準 に お け る )』, サ ン プ ル N o. 27- 1 , N o.1 8- 2)
などの獣医師の表現 か ら ,飼主との認識のギャップがどのようなものか ,獣 医 師 は 理解で
きていないことを示している。獣医師と飼主の認識のギャップがどのような性質を帯び,
認 識 の ギ ャ ッ プ が 生 じ る 背 景 と し て ど の よ う な こ と が 考 え ら れ る の か を ,具 体 的 な 事 象 を
分析し本節と第 3 節で整理することを目的とする。
本 節 では ,犬 猫 の 不 妊 去 勢手 術 に 対 す る 獣 医 師と 飼 主 の 認 識 の ギ ャッ プ に 注 目 し た 。獣
医 療 での 犬 猫 の 不 妊 去 勢 手術( 以 下 手 術 )は 動 物 病院 で 最 も 一 般 的に 行 わ れ て い る 外 科手
術 で ある 。殺 処 分 さ れ る 動物 を 減 ら す と い う 社会 的 意 義 ,性 ホ ル モン 関 連 疾 病 の 予 防 とい
う予防獣医学的意義 ,問題行動の軽減という動物行動学的意義から ,手術が必要と考える
獣医師,飼主は多い。
し か し , 手 術 の 実 施 率 は 必 ず し も 高 く な い 。 平 成 2 0 年 度 の 犬 猫 の 殺 処 分 頭 数 は 年 間 28
万 頭 を 超 え ( 地 球 生 物 会 議 AL IV E , 20 10 ) 大 き な 社 会 問 題 で あ る 。 特 に ペ ッ ト の 不 妊 手 術
の 普 及 が 進 ま ず 無 計 画 な 繁 殖 で 生 ま れ た 犬 猫 の 処 分 数 が 多 い 。内 閣 府 の 世 論 調 査( 20 03),
福 岡 市 ( 2 00 3) に よ る と , 経 済 的 な 理 由 と 手 術 に 対 す る 認 識 の 低 さ が 手 術 の 普 及 を 妨 げ て
いることに繋がっている。
こ う した 背 景 か ら 福 岡 県 獣医 師 会 で は 手 術 啓 発を 積 極 的 に 行 っ て いる 。し か し ,獣 医師
で あ る 筆 者 が 動 物 病 院 で 手 術 の 必 要 性 を 説 明 し て も 手 術 に 抵 抗 を 示 す 飼 主 が い る 。手 術 に
対 し て 飼 主 は 様 々 な 感 情 を 持 ち ,手 術 実 施 の 決 定 に 飼 主 の 気 持 ち が 関 連 す る こ と を 感 じ 取
る こ と が あ る 。 犬 猫 は 家 族 も し く は そ れ 以 上 の 存 在 に な り ( 香 山 , 2 00 8 ), 経 済 的 理 由 や
認識の低さ以外の理由によっても飼主は手術に抵抗を示すことが想像される。
家族として犬猫を飼う一般人と殺処分数減少を考える獣医師の間で手術に対する認識
の ギ ャ ッ プ が 存 在 し ,こ の こ と が 必 ず し も 手 術 の 普 及 率 が 高 く な ら な い こ と に 関 連 し て い
る の で は な い か と 推 察 さ れ る 。獣 医 師 と 一 般 の 人 の 間 で 手 術 に 対 し て ど の よ う な 認 識 の ギ
ャ ッ プ が あ る の か ,ま た そ の ギ ャ ッ プ は 埋 め る こ と が で き る の か に 対 し て 関 心 相 関 的 な 疑
問 を 抱 い た 。こ の こ と を 明 ら か に す る こ と で 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ の 実 態 を 明 ら
かにすることに試みた。
本節では,獣医師と大学院生に「手術に賛成ですか?」という質問紙調査を実施し ,得
52
ら れ た 手 術 に 対 す る 賛 否 と そ の 理 由 に つ い て の 記 述 デ ー タ を KJ 法 ( 川 喜 田 , 19 67 ) に よ
っ て 質 的 に 分 析 す る こ と に よ っ て ,こ の 獣 医 師 と 一 般 人 の 認 識 の ギ ャ ッ プ を 検 討 し た 。ま
た ,犬 猫 の 過 剰 繁 殖 対 策 の 手 術 啓 発 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 再 度 大 学 院 生 に 実 施 し た 質 問 紙
検 査 の 記 述 デ ー タ を KJ 法 で 質 的 に 分 析 し , 大 学 院 生 の 賛 否 や 文 脈 に ど の よ う な 変 容 が 起
こ る か を 調 査 し す る こ と に よ っ て ,獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ の 性 質 や 背 景 に つ い て
考察した。
2. 方 法
以 下 (1 ) か ら (3 ) の 方 法 で 質 問 紙 調 査 を 行 い , ( 4) の 方 法 で K J 法 分 析 を 行 っ た 。 調 査 に 参
加 し た 獣 医 師 と 大 学 院 生 の 属 性 を 表 3-1 で 示 す 。
表3-1 獣医師と大学院生の属性
獣医師
大学院生
調査実施日
2007年1月~3月
2007年5月
調査対象人数
10名中7名回答
19名中19名回答
男女比(男:女)
7名(5:2)
19名(6:13)
年齢
30代~60代
20代~50代
所属
福岡県で小動物病院を 臨床心理学を専攻して
開業している獣医師
いるA大大学院生
(1) 獣 医 師 へ の 質 問 紙 調 査
「手術に賛成ですか」という質問紙調査を獣医師に実施し ,その賛否と理由を自由回答
した記述データを得た。
(2) 大 学 院 生 へ の 質 問 紙 調 査
1
( 1) と 同 様 の 質 問 紙 調 査 を 大 学 院 生 に 実 施 し , そ の 賛 否 と 理 由 を 自 由 回 答 し た 記 述 デ ー
タを得た。
(3) 大 学 院 生 へ の 質 問 紙 調 査
2
( 2) の 質 問 紙 調 査 実 施 直 後 , ス ラ イ ド を 用 い た 手 術 啓 発 の プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン を 2 . と
同 様 の 大 学 院 生 1 9 名 に 実 施 し た 。そ の 後 2 . と 同 様 の 質 問 紙 調 査 を 実 施 し ,そ の 賛 否 と 理
由 を 自 由 回 答 し た 記 述 デ ー タ を 得 た ( 大 学 院 生 1 9 名 中 1 9 名 が 回 答 )。 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ
ン は 福 岡 県 獣 医 師 会 繁 殖 制 限 マ ニ ュ ア ル ( 20 04) に な ら い 作 成 し た 。 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン
内 容 の 概 要 を 表 3-2 に 示 す 。
53
表3-2 プレゼンテーションの内容
・福岡県獣医師会繁殖制限マニュアル(2004)にならい,パワーポイントスライドを用いて作成し
実施した。
・プレゼンテーションには次の①~④の内容を挿入した。
①福岡県は犬猫の殺処分頭数が例年全国1位もしくは上位であること
②手術は,無計画な動物繁殖を防止し殺処分動物を減らすという社会的な意義,性ホルモンが関
係する病気を予防できるという予防獣医学的な意義,動物の問題行動を軽減させるという動物行
動学的な意義から推奨されること
③手術は,動物愛護に関する法律によって推奨されていること
④「ペットは,嗜好品であること(つまり,環境的経済的な状況を整備しないと飼えない事)」「犬猫
は家畜で野生動物ではなく,人間社会の中でしか生きることができないこと」「無計画な繁殖により
近親交配で生まれた神経症状を呈する子猫の映像」などの情報
54
(4) 記 述 デ ー タ の K J 法 に よ る 質 的 分 析
(1) , (2) , (3) で 得 ら れ た デ ー タ を そ れ ぞ れ KJ 法 に よ っ て 分 析 し た 。 K J 法 に よ る 分 析
は,恣意的,主観的なデータ解析に陥るのを避けるため,結果が出る過程すべてにおいて
指導教員 2 名と臨床心理学を専攻する大学院生 5 名によって集団スーパーヴィジョンを継
続 し て 受 け た 。K J 法 分 析 は ,大 学 院 生 と 獣 医 師 の 認 識 の 違 い ,プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 の 大
学 院 生 の 変 化 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し , 1 ) 獣 医 師 の 記 述 回 答 , 2 )大 学 院 生 の 賛 成 の
記 述 回 答 ,3) 大 学 院 生 の 反 対 の 記 述 回 答 ,4) 大 学 院 生 の プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 の 記 述 回 答 ,
に分けて行った。それぞれテクスト化,図示化,文章化解釈の結果を得た。なお,賛否に
無 回 答 だ っ た 大 学 院 生 Q は , そ の 記 述 内 容 か ら 反 対 の 記 述 回 答 に 含 め て KJ 法 を 行 っ た 。
得 ら れ た 記 述 デ ー タ は テ ク ス ト 化 さ れ そ の 数 を 計 測 し た 。1) か ら 4 ) の 各 分 析 に お い て テ ク
スト数の比率を(テクスト数/回答者数)で算出した。テクストの関連を考えながら小グ
ル ー プ を 作 り ,見 出 し 付 け が な さ れ た 。グ ル ー プ 化 と 見 出 し 付 け を 繰 り 返 し ,中 グ ル ー プ ,
大グループを作成し,グループの関連性を図示化した。テクスト化 ,図示化結果を踏まえ
文章化解釈を行った。得られた結果をふまえ考察を行った。
3. 結 果
(1) 獣 医 師 へ の 質 問 紙 調 査
質 問 紙 調 査 に 回 答 し た 7 名 の う ち 全 員 が 賛 成 と 回 答 し た ( 表 3 -3)。
(2) 大 学 院 生 へ の 質 問 紙 調 査
1
質 問 紙 調 査 に 回 答 し た 19 名 の う ち 1 5 名 が 賛 成 , 3 名 が 反 対 と 回 答 し , 1 名 が 無 回 答 だ
っ た ( 表 3- 3)。
(3) 大 学 院 生 へ の 質 問 紙 調 査
2
プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 , 質 問 紙 調 査 に 回 答 し た 19 名 の う ち 1 5 名 が 賛 成 , 3 名 が 反 対 と
回 答 し , 1 名 が 無 回 答 だ っ た ( 表 3 -3 )。 反 対 し た 3 名 と 無 回 答 の 1 名 は 2. の 調 査 と 同 一
人物であった。
表3-3 手術への賛否の結果
賛成
反対
無回答
獣医師
7
0
0
大学院生
15
3
1
プレゼンテーション後の大学院生
15
3
1
55
(4) 記 述 デ ー タ の K J 法 に よ る 質 的 分 析
紙 面 の 関 係 上 テ ク ス ト 化 結 果 は 分 析 4 ) の 一 部 ( 表 3 -8 )の み を 掲 載 す る 。
1) 獣 医 師 の 記 述 回 答
図 示 化 は 図 3- 1 と し て , 文 章 化 解 釈 は 表 3 -4 と し て 表 記 し た 。 テ ク ス ト 化 結 果 は 割 愛 す
る 。 記 述 デ ー タ か ら 抽 出 さ れ た テ ク ス ト 数 は 16 で , テ ク ス ト 数 の 比 率 ( テ ク ス ト 数 16/
回 答 者 数 7 ) は 2 .2 9 だ っ た 。
社会のため
迷惑防止
動物を増やさない
発情の迷惑防止
不幸な動物を増やさない
野犬防止
望まない動物を増やさない
過剰に増やさない
動物のため
動物の健康のため
寿命が長くなる
病気予防のため
動物のストレスを避ける
遺伝疾患の防止
図 3-1 獣医師の手術賛成理由のKJ法図示化
表3-4 獣医師の手術賛成理由のKJ法文章化
・すべての獣医師が手術に賛成と答え,その文脈に反対をうかが
わせるものはない。
・大グループは「社会のため」,「動物のため」
・大グループ「社会のため」には,中グループ「迷惑防止」,「動物
を増やさない」
・大グループ「動物のため」には,中グループ「動物の健康のた
め」
・大学院生の結果と比べて理性的理由の文脈のみで単純なグ
ループに分けられた。
56
2) 大 学 院 生 の 賛 成 の 記 述 回 答
図 示 化 は 図 3- 2 と し て , 文 章 化 解 釈 は 表 3 -5 と し て 表 記 し た 。 テ ク ス ト 化 結 果 は 割 愛 す
る 。 記 述 デ ー タ か ら 抽 出 さ れ た テ ク ス ト 数 は 62 で , テ ク ス ト 数 の 比 率 ( テ ク ス ト 数 62/
回 答 者 数 15 ) は 4. 13 だ っ た 。
人間社会で飼う上の理性的理由
増えて殺されるのを防ぐ
飼う人間としての責任
人間がコントロール
責任持てれ
しなければならない
増えると処分されるから
飼主の責任
生まれてくるのを防ぐ
ばしなくて
も良い
妊娠を防ぐ
仕方がない
雄が寄ってくるのを防げないから
捨てられるのを防ぐ
悩んでいる
条例化されている
やむをえない
良く考える必要がある
飼主としての個人的・感情的理由
これまでの経験から
飼主(人間)の都合でする・しない
個人的経験から賛成
室内飼いが楽
動物の性格が変わるので反対
だからする
自然の摂理に反している
個人的経験から反対
飼主の都合
でする
飼主の都合でやるものではない
動物と飼主の
メリットから
動物の立場で可哀相だから
手術しないと愛情が
健康面を考えて賛成
動物が可哀相
注がれなくて可哀相
だから反対
動物と人間の
関係が深まる
動物が可哀相だから賛成
:手術に賛成と回答しながら手術に反対または迷っている文脈を含む見出し
図 3-2 大学院生のプレゼンテーション前の手術賛成理由のKJ法図示化
57
表3-5 大学院生のプレゼンテーション前の手術賛成理由のKJ法文章化
・大グループは,「人間社会で飼う上の理性的理由」,「飼主としての個人的,感情的理由」
・大グループ「人間社会で飼う上の理性的理由」には,中グループ「飼う人間としての責任」,「増えて殺
されるのを防ぐ」,「仕方がない」があり,それぞれ図示化に示す小グループで構成
・大グループ「飼主としての個人的,感情的理由」には,中グループ「これまでの経験から」,「動物の立
場で可哀相だから」,「動物と飼主のメリットから」,「飼主の都合でする・しない」があり,それぞれ図示
化に示す小グループで構成
・手術に賛成と回答しているにもかかわらず,「責任を持てればしなくても良い」,「悩んでいる」,「やむ
をえない」,「良く考える必要がある」,「個人的な経験から反対」,「動物の性格が変わるので反対」,
「自然の摂理に反している」,「飼主の都合でやるものではない」,「動物が可哀相だから反対」などの手
術に反対する文脈や迷っている文脈の小グループがある
・「飼う人間としての責任」「増えて殺されるのを防ぐため」手術は「仕方がない」とする文脈がある
・大学院生の分析結果のほうが獣医師より見出しやテクストが多く複雑なグループに分けられた
3) 大 学 院 生 の 反 対 の 記 述 回 答
図 示 化 は 図 3- 3 と し て , 文 章 化 解 釈 は 表 3 -6 と し て 表 記 し た 。 テ ク ス ト 化 結 果 は 割 愛 す
る 。 記 述 デ ー タ か ら 抽 出 さ れ た テ ク ス ト 数 は 20 で , テ ク ス ト 数 の 比 率 ( テ ク ス ト 数 20/
回 答 者 数 4) は 5 だ っ た 。
飼主個人の立場から
周りに迷惑
発情期は大変で心配
増えるから必要
手術を決めかねる
かわいいだけ
どちらかに決め
手術について
命の責任につい
では飼えない
るのは難しい
考えている
て考えている
動物中心に考えて
自然のままがよい
自然のまま
動物の立場から
かわいそう
動物の想い
:手術に反対と回答しながら手術に賛成または迷っている文脈を含む見出し
図 3-3 大学院生のプレゼンテーション前の手術反対理由のKJ法図示化
58
表3-6 大学院生のプレゼンテーション前の手術反対理由のKJ法文章化
・大グループは,「飼主個人の立場から」,「動物中心に考えて」
・大グループ「飼主個人の立場から」には,中グループ「周りに迷惑」,「手術を
決めかねる」があり,それぞれ図に示す小グループで構成
・大グループ「動物中心に考えて」には,中グループ「動物の立場から」,「自然
のままがよい」があり,それぞれ図に示す小グループで構成
・手術に反対と回答しているにもかかわらず,「周りに迷惑」,「発情期は大変で
心配」,「増えるから必要」,「手術を決めかねる」,「かわいいだけでは飼えな
い」,「どちらかに決めるのは難しい」,「手術について考えている」,「命の責任
について考えている」等,手術に賛成する文脈や迷っている文脈の見出しがあ
る
・大グループ「飼主個人の立場から」は反対だが賛成の文脈も含まれるが,「動
物中心に考えて」は賛成の文脈は含まれていない
・大学院生の分析結果は,獣医師より見出しやテクストが多く複雑なグループ
に分けられた
4) 大 学 院 生 の プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 の 記 述 回 答
図 示 化 は 図 3- 4 と し て , 文 章 化 解 釈 は 表 3 -7 と し て 表 記 し た 。 手 術 に 反 対 も し く は 無 回
答 の 学 生 を 含 む テ ク ス ト 化 結 果 の 一 部 抜 粋 を 表 3 -8 と し て 表 記 し た 。 記 述 デ ー タ か ら 抽 出
さ れ た テ ク ス ト 数 は 11 1 で , テ ク ス ト 数 の 比 率 ( テ ク ス ト 数 111 / 回 答 者 数 1 9 ) は 5. 84
だった。
表3-7 大学院生のプレゼンテーション後の質問紙記述回答のKJ法文章化
・大グループは,「理性的意見」,「感情的意見」,「プレゼンテーションに対する意見」
・大グループ「理性的意見」には,中グループ「手術の社会的必要性の見地から」,「手術は人間の
勝手」,「動物の生命倫理について考えている」,「飼主の責任の見地から」,「自然な生き物の状
態について考えている」があり,それぞれ図示化に示す小グループで構成
・大グループ「感情的意見」には,中グループ「自分のペットに対しての考え方」,「手術について可
哀相」,「事実を知っての驚き・感情の変化」,「動物の立場からの考え方」があり,それぞれ図示化
に示す小グループで構成
・大グループ「プレゼンテーションに対する意見」には,中グループ「手術のメリット・デメリットの理
解」,「プレゼン後の意見の変化について」があり,それぞれ図示化に示す小グループで構成
・大グループ「理性的意見」,「感情的意見」の両方にまたがって分類される,または両方に関係す
るとされた中グループ「獣医師と飼主の乖離」,「動物の立場からの考え方」があった。
・プレゼンテーション後の質問紙回答の記述は,プレゼン前よりも文脈が複雑になり,テクスト数が
増加した。意見を明確に説明しようとする文脈が多く認められた。
・大グループ「理性的意見」,「感情的意見」両グループに,手術に賛成,反対両者の態度の大学
院生を含む小グループがあった。
・プレゼンテーションの前後で,大学院生I,J,Kの手術反対の態度は変容しなかった。手術賛成
の態度も変容しなかった。
59
手術の社会的必要性の見地から
犬猫を飼うのは人間性を試す行為
福岡県民の意識が知りたい
手術が必要な場合がある
手術は人間の勝手
矛盾を犬猫に押し付けている
互いの幸せに努力と工夫が必要
手術の必要性が認知される必要がある
自分の意見を他者に押し付ける可能性
法整備など社会全体で考える必要がある
手術のメリットは人間の後付けの論理
動物の生命倫理について考えている
動物の生命倫理を考えた
飼育は人間のエゴ
飼主の責任の見地から
倫理観・宗教観・価値観の問題
障害でも受け入れるしかない
問題に直面しないので
自分には責任がない
自然な生き物の状態について考えている
飼主は動物の命に責任
犬猫が自然のままで飼え
飼われている動物は
ないことは知っていた
自然のままではない
を持たなければならない
自分は責任を持っ
森林も人工管理されている
犬猫は人間社会に生まれたから幸せ
殺処分頭数が多いことは知っていた
人の中でしか飼えない犬猫
動物の立場からの考え方
動物は論理的判断は出来ない
理性的意見
獣医師と飼主のギャップ
普通の人と獣医師のギャップ
感情的意見
自分のペットに対しての考え方
飼う資格があるのか考えている
て飼っている
犬猫の発情のストレスは想像以上かもしれない
動物は本能的に飼主の愛情を感じている
手術について可哀相
手術をしないのは可哀相
犬が苦しまないようにしたい
事実を知っての驚き・感情の変化
手術をするのは可哀相
犬猫が飼われないと生き
福岡県がワースト1
自分のペットには手術をしない
られないとは知らなかった
ということに驚いた
話を聞いても手術とはならない
プレゼンで考えさせられた
内容が辛かった
私はペットと同一化している
処分の事実を聞いてびっくりした 怖さを感じた
プレゼンテーションに対する意見
手術のメリット・デメリットの理解
メリットが判った
手術費用は安い
デメリットについて聞きたかった
:手術に賛成と回答した人だけの小見出し
プレゼン後の意見の変化について
賛成とも反対とも答えるのが難しい
賛成の意見が変わらなかった
反対の意見が変わらなかった
反対の意見が賛成に変わった
:手術に反対と回答した人だけの小見出し
:両者が混在している小見出し
図 3-4 大学院生のプレゼンテーション後の質問紙記述回答のKJ法図示化
60
表3-8 大学院生のプレゼンテーション後の質問紙記述回答のKJ法テクスト化(一部抜粋)
大グループ
中グループ
小グループ
被験者
賛否
賛成 反対 無回答
反対 反対 反対 反対 反対 反対 反対 賛成 無回答
反対 賛成 基本的にかわりませんでした
怖さを感じた
A K Q I J J K I J I E Q I A 手術について可哀相
手術をするのは可哀相
E 賛成 目の前の手術に対するストレス、傷、痛み、完全な身体でなくなる
こと、人間の身勝手など感情にとらわれるのは仕方がない。
手術について可哀相
手術をしないのは可哀相
私はペットと同一化している
自分のペットに対しての考え方
飼う資格があるのか考えている
自分のペットに対しての考え方
犬が苦しまないようにしたい
自分のペットに対しての考え方
自分のペットには手術をしない
自分のペットに対しての考え方
自分のペットには手術をしない
自分のペットに対しての考え方
話を聞いても手術とはならない
自分のペットに対しての考え方
話を聞いても手術とはならない
手術は人間の勝手
自分の意見を他者に押し付ける可能性
飼主の責任についての見地から
自分は責任を持って飼っている
獣医師と飼主とのギャップ
普通の人と獣医師のギャップ
飼主の責任についての見地から
飼主は動物の命に責任を持たなければならない
飼主の責任についての見地から
問題に直面しないので自分に責任がない
飼主の責任についての見地から
問題に直面しないので自分に責任がない
飼主の責任についての見地から
問題に直面しないので自分に責任がない
飼主の責任についての見地から
問題に直面しないので自分に責任がない
動物の生命倫理について考えている
障害でも受け入れるしかない
動物の生命倫理について考えている
倫理観・宗教観・価値観の問題
動物の生命倫理について考えている
動物の生命倫理を考えた
動物の生命倫理について考えている
動物の生命倫理を考えた
手術の社会的必要性の見地から
手術が必要な場合がある
手術の社会的必要性の見地から
手術が必要な場合がある
手術の社会的必要性の見地から
手術の必要性が認知される必要がある
手術の社会的必要性の見地から
法整備など社会全体で考える必要がある
手術の社会的必要性の見地から
法整備など社会全体で考える必要がある
手術の社会的必要性の見地から
法整備など社会全体で考える必要がある
手術の社会的必要性の見地から
法整備など社会全体で考える必要がある
手術の社会的必要性の見地から
法整備など社会全体で考える必要がある
手術の社会的必要性の見地から
法整備など社会全体で考える必要がある
I J Q K E E J K A J E K A A I I I A K K E E E A E I J J J J I Q 反対 反対 無回答
反対 賛成 賛成 反対 反対 賛成 反対 賛成 反対 賛成 賛成 反対 反対 反対 賛成 反対 反対 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 反対 反対 反対 反対 反対 反対 無回答
手術されないでいるのはかわいそうかもしれない
自分のペットに対しての考え方
プレゼン後の意見の変化について
賛成の意見が変わらなかった
プレゼン後の意見の変化について
反対の意見が賛成に変わった
プレゼン後の意見の変化について
反対の意見が賛成に変わった
プレゼン後の意見の変化について
賛成とも反対とも答えるのが難しい
プレゼン後の意見の変化について
賛成とも反対とも答えるのが難しい
プレゼン後の意見の変化について
賛成とも反対とも答えるのが難しい
プレゼン後の意見の変化について
賛成とも反対とも答えるのが難しい
プレゼン後の意見の変化について
反対の意見が変わらなかった
プレゼン後の意見の変化について
反対の意見が変わらなかった
手術のメリット・デメリットの理解
メリットがわかった
手術のメリット・デメリットの理解
メリットがわかった
手術のメリット・デメリットの理解
デメリットについて聞きたかった
事実を知っての驚き・感情の変化
怖さを感じた
事実を知っての驚き・感情の変化
自然な生き物の状態について考えている 犬猫が自然のままで飼えないことは知っていた 殺処分頭数が多いことは知っていた
自然な生き物の状態について考えている 飼われている動物は自然のままではない
飼われている動物は自然のままではない
自然な生き物の状態について考えている 飼われている動物は自然のままではない
飼われている動物は自然のままではない
61
テクスト
40万頭の動物が殺されていると考えるとさんせいのほうがよいかも
「ペットを嗜好品」として捕らえるならば、賛成になるのかもしれない
何がいいことなのか分からない
動物という大枠だけでは答えるのがむずかしい
動物は飼っている動物と野生動物がいて答えられない
賛成とも反対ともいいかねる
手術をさせようとする気持ちにはなれない
気持ちに変化はない
メリットが分かった
健康、予防、ストレス軽減はわかる
手術のメリットだけでなく、しなくてよいメリットも聞いて考えたかった
人間で人口制限を人為的にするのは怖い
少し怖さを感じた
私は自分の動物達に同一化している
本当にペットを飼う資格があるのか考えていく必要がある
ただペットといつまでも幸せに暮らしたい
自分のペットに手術する必要はない
自分のペットにメスを入れるのは感情的に踏み切れない
手術のメリットデメリットを聞いていてあえてしないことを選択した
健康面、行動面のメリットがあると聞いてもすぐに手術とはならない
自分の意見を他者に押し付けてしまう危険性がある
自分の飼う動物は、定期的に動物病院でチェックしている
人間は感情的な生き物なので、プロの獣医師とギャップがある
動物を飼うことは命の責任を果たすことが前提条件にある
ペットを飼ったことがない
距離を持ってプレゼン聞いていた
私に責任がない
問題に直面する機会が少ないので無責任でいる
病気であろうが、障害があろうが、受け入れるしかない
倫理観、宗教観に関わってくる問題
プレゼン前には人間の中絶や生命倫理を考えたから
手術をすることは動物の大事な部分にメスを入れることになる
飼い主、ペット環境を考えるとやむをえない
手術が必要な場合がある
手術の必要性を広める
法整備が求められる。
法整備を進める必要がある
犬猫の繁殖は深刻な問題だ
福岡県は犬を飼いたい人に提供するソースが少ない
友達も古賀市の譲渡会ぐらいしかなかったといっていた
月1回の譲渡会では殺処分を減らすのには不十分
殺処分される動物が多いことは知っていた
飼われている動物は自然のままではない
あるがままに動物の思うように生きることは厳しいというか無理
4. 考 察
(1) 大 学 院 生 の 両 価 的 な 感 情 と 葛 藤
大 学 院 生 の KJ 法 結 果 は 賛 成 , 反 対 と す る 両 結 果 に お い て , 正 反 対 の 文 脈 の テ ク ス ト が
認 め ら れ た( 図 3 -2 ,図 3 - 3 の グ レ ー の 見 出 し )。こ れ は 大 学 院 生 が 手 術 に 対 し て 賛 否 を 決
めかねる葛藤を持つことを示している。獣医師には,このことが認められなかった。
(2) 獣 医 師 の 理 性 的 理 由 , 大 学 院 生 の 理 性 的 理 由 と 個 人 的 ・ 感 情 的 理 由
図 3-1 の 結 果 か ら , 獣 医 師 の 賛 成 理 由 は , 社 会 的 意 義 , 予 防 獣 医 学 的 意 義 か ら な る 理 性
的 理 由の み で あ っ た 。獣 医 師 は ,職業 上 の 立 場か ら か 社 会 や 動 物 のた め に 有 用 な 手 術 に理
性 的 に 賛 成 し て い る 。 図 3- 2 の 結 果 か ら 大 学 院 生 の 賛 成 理 由 は , 社 会 的 意 義 の 理 性 的 理 由
と 飼 主 と し て の 個 人 的 ・ 感 情 的 理 由 で あ っ た 。 図 3 -3 の 結 果 か ら 大 学 院 生 の 反 対 理 由 は 個
人 的 ,動 物中 心 に 考 え た 場合 の 理 由 で あ り 情 緒的 な 文 脈 を 含 む も のが 多 か っ た 。大 学 院生
は ,人間社会で生活するうえで手術は必要だと理性的に考えながら ,自然の摂理に反する
手術を人間の都合で行うことは可哀相であると感じている。
言い換えれば,獣医師は頭で理性的に手術への態度表明をしているが ,大学院生は,頭
で 理 性的 に 考 え た 理 由 と 心で 個 人 的・感 情 的 に感 じ た 理 由 の 葛 藤 の中 で 態 度 表 明 し て いる 。
こ の 認 識 の 相 違 は ,獣 医 師 と 一 般 人 の 手 術 に 対 す る 認 識 の ギ ャ ッ プ に 関 連 す る と 考 え ら れ
る。
(3) プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 の 大 学 院 生 の 認 知 的 不 協 和 と そ の 低 減 反 応
1) 葛 藤 へ の 直 面 化 に よ る 認 知 的 不 協 和 ( テ ク ス ト 数 の 増 加 と 文 脈 の 複 雑 化 , 感 情 表 現 の 増
加から)
プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 の 大 学 院 生 の 記 述 回 答 は ,文 脈 が 複 雑 に な り ,テ ク ス ト 数 が 増 加
し た ( テ ク ス ト 数 の 比 率 が 4 .13 ~ 5 か ら 5 .84 へ )。 驚 き や 辛 さ や 恐 怖 な ど の 感 情 表 現 も 増
加 し た ( 図 3- 4)。
プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 ,大 学 院 生 は「 事 実 を 知 っ て の 驚 き・感 情 の 変 化 」が あ り ,怖 い ,
辛 い , び っ く り し た と い う 感 情 を 語 り ,「 手 術 の 社 会 的 必 要 性 の 見 地 か ら 」「 法 整 備 な ど 社
会 全 体 で 考 え る 必 要 が あ る 」 と 考 え ,「 自 分 の ペ ッ ト に は 手 術 は し な い 」 と 考 え ,「 自 然 な
生 き 物 の 状 態 」 や 「 動 物 の 生 命 倫 理 に つ い て 」 考 え ,「 問 題 に 直 面 し な い の で 自 分 に は 責
任 が な い 」「 手 術 は 人 間 の 勝 手 」 と し て い る 。
こ の よ う な テ ク ス ト 数 の 増 加 や 文 脈 の 複 雑 化 は ,プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン に よ っ て 大 学 院 生
が 理 性 と 感 情 に よ っ て 生 じ て い る 自 身 の 葛 藤 に 直 面 さ せ ら れ ,認 知 的 不 協 和 が 発 生 し ,そ
の 低 減 反 応 が 生 じ た た め と 考 え ら れ る ( F est in ge r , 1 95 7 )。“ 手 術 賛 成 ” と “ 手 術 反 対 ”
と い う 葛 藤 に“ 手 術 の 有 用 性 ”の 情 報 が 与 え ら れ た た め 認 知 的 不 協 和 と 心 理 的 不 快 が 増 し ,
そ れ を 低 減 し よ う と テ ク ス ト を 増 加 さ せ た と 考 え ら れ る( 図 3 -5)。大 学 院 生 は ,認 知 的 不
協 和 を 低 減 す る た め に ,認 知 の 一 方 を 変 化 さ せ る( 大 学 院 生 K ,Q「 賛 成 の 方 が い い か も 」),
不 協 和 な 認 知 要 素 の 持 つ 重 要 性 を 低 下 さ せ る ( 大 学 院 生 A「 距 離 を 持 っ て プ レ ゼ ン を 聞 い
た 」,大 学 院 生 Q「 し な く て 良 い メ リ ッ ト も 聞 い て 考 え た か っ た 」),新 た な 協 和 的 認 知 要 素
を 付 け 加 え る ( 大 学 院 生 E「 法 整 備 を 進 め る 必 要 が あ る 」, 大 学 院 生 I「 障 害 が あ っ て も 受
62
け 入 れ る し か な い 」) な ど の 対 処 を 行 っ て い る ( Br oc k&B al lo un , 1 96 7)。
専門家である獣医師(筆者)が,根拠を示して“手術の有用性”について説明したにも
かかわらず,大学院生の有する手術に対する葛藤が解消しなかったことは注目に値する。
む し ろ葛 藤 に 直 面 化 し ,認 知 的不 協 和 と 低 減 反応 に よ る 混 乱 が 生 じて い る 。獣 医 師 が 根拠
を示して飼主に手術を勧めることは ,手術への葛藤に対して直面を促し ,認知的不協和を
引 き 起 こ す 可 能 性 が あ る 。獣 医 師 は こ の 認 知 的 不 協 和 と そ の 低 減 反 応 が 飼 主 に 生 じ る 可 能
性があることを理解しながら手術を啓発する必要がある。
プレゼンテーション刺激
手
術
は
有
用
手
術
に
反
対
認
知
的
不
協
和
発
生
!
手
術
に
賛
成
葛藤への直面化
図 3-5 プレゼンテーション後の大学院生の認知的不協和とその低減反応
63
認知的不協和の低減反応
・テクスト数の増加や複雑化
「社会的必要性の見地から」
「法整備必要」
「自分のペットにはしない」
「自然な生き物の状態」
「生命倫理の問題」
「自分に責任なし」
「手術は人間の勝手」
・感情表現の増加
「事実を知って驚き」
2) 個 人 の “ ペ ッ ト に 対 す る 物 語 ” の 影 響 ( 反 対 態 度 の 不 変 容 か ら )
手 術 反 対 と し た 大 学 院 生 I , J , K は ,“ 手 術 は 有 用 ” と す る プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン に よ っ
て 手 術反 対 の 態 度 が 変 容 しな か っ た 。手 術 へ の賛 否 を 記 載 し な か った 大 学 院 生 Q も ,プレ
ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 も 賛 否 に 対 す る 回 答 を し な か っ た 。テ ク ス ト の 内 容 か ら ,大 学 院 生 I ,J,
K, Q は 「 賛 成 と も 反 対 と も 言 い か ね る 」 葛 藤 を 持 ち な が ら ,「 手 術 を さ せ よ う と い う 気 持
ち に は な れ な い 」 と し ,「 人 為 的 人 口 制 限 の 恐 怖 」「 大 事 な 部 分 に メ ス を 入 れ る 」「 動 物 達
に 同 一 化 し て い る 」「 た だ ペ ッ ト と い つ ま で も 幸 せ に 暮 ら し た い 」「 病 気 で も 受 け 入 れ る し
かない」
「 し な く て も 良 い メ リ ッ ト を 聞 き た か っ た 」と い う こ と を 語 っ て い る 。こ れ は ,
“手
術は有用”という情報の価値を低下させ“手術反対”という個人心情の価値を維持しよう
と す る認 知 的 不 協 和 低 減 目的 の テ ク ス ト で あ ると い え る 。不 協 和 低減 の 目 的 は 「 大 事 な部
分 に メ ス を 入 れ る 」「 動 物 達 に 同 一 化 し て い る 」「 た だ ペ ッ ト と い つ ま で も 幸 せ に 暮 ら し た
い 」等 の テ ク ス ト 内 容 か ら 個 人 の“ ペ ッ ト に 対 す る 物 語 ”が 影 響 し て い る こ と が う か が え ,
態 度 不 変 容 に 大 き な 影 響 を 与 え て い る と 考 え ら れ る 。“ 手 術 は 有 用 ” と い う 情 報 は , 手 術
への理性的理解を進ませると テ ク ス ト か ら も 考えられるが ,個人的・感情的 心情を変化さ
せ る ほ ど に 理 解 を 深 め な い と 考 え る こ と も 出 来 る ( 図 3-6 )。
ま た , 大 学 院 生 I, J, K は , プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン が 引 き 起 こ し た 認 知 的 不 協 和 が 起 因 す
る 心 理的 不 快 を 解 消 す る ため の 対 処 を 行 っ た とも 考 え ら れ る 。こ の た め ,手術 反 対 の 大学
院 生 の 語 る テ ク ス ト は 精 神 分 析 学 上 の 葛 藤 に 対 す る 防 衛 機 制 ( F re ud , 1 894 )( 大 学 院 生 I
「 手 術 を さ せ よ う と す る 気 持 ち に な れ な い 」,大 学 院 生 K「 す ぐ に 手 術 と は な ら な い 」と 否
認 )や ス ト レ ス 理 論 に お け る ス ト レ ス に 対 す る コ ー ピ ン グ( 対 処 行 動 )
( La za rus &F ol km ann ,
198 4)( 大 学 院 生 I 「 私 に は 責 任 が な い 」 と 情 動 焦 点 型 コ ー ピ ン グ ), 心 理 的 リ ア ク タ ン ス
( B re hm , 1 966 )( 大 学 院 生 J 「 メ リ ッ ト , デ メ リ ッ ト を 聞 い て あ え て し な い こ と を 選 択 し
た 」) な ど の 心 理 学 的 現 象 と し て 説 明 す る こ と も で き る ( 図 3 -6 )。
64
大学院生 I,J,K
防衛機制
コーピング
心理的リアクタンス
手
術
は
有
用
プレゼンテーション刺激
手
術
に
反
対
手
術
に
賛
成
手術反対
手
術
に
反
対
る ペ
物 ッ
語 ト
に
対
す
手
術
に
賛
成
手
術
に
反
対
認知不協和
認知的不協和発生
手
術
は
有
用
手
術
に
賛
成
手術反対
“ペットに対する物語”
による不協和の低減
図 3-6 手術反対の大学院生の“ペットに対する物語”による認知的不協和の低減
65
このように個人の“ペットに対する物語”は ,手術への態度決定に重要な役割を果すこ
とが想像される。また,獣医師の手術啓発は,飼主の“ペットに対する物語”の変容には
繋がらず,個人的・感情的心情を変化させるほど理解を深めることが期待できない。手術
の 個 人 的 ・ 感 情 的 な 理 解 を 深 め る に は ,“ ペ ッ ト に 対 す る 物 語 ”, 防 衛 機 制 , コ ー ピ ン グ ,
心理的リアクタンスを取り扱うことの出来る手術啓発方法論が必要と考えられる。
5. 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ の 正 体
本節では,第 3 章第 1 節にて得られた〈獣医師の抱く飼主への否定的感情は獣医師と飼
主の認識のギャップに関係する〉を 受 け て ,犬猫の不妊手術への獣医師と飼主の認識のギ
ャップについて検証した。手術に対して獣医師は理性的理由から ,大学院生は理性的理由
と 個 人的・感 情 的 理 由 か ら態 度 表 明 を 行 っ て いる 。こ の 態 度 の 決 定に 対 し て 獣 医 師 で は認
め ら れ な い 両 価 的 な 葛 藤 が 大 学 院 生 で 生 じ て い た 。手 術 の 有 用 性 を 示 す プ レ ゼ ン テ ー シ ョ
ン は ,大学院生がこの葛藤への直面化することを促し ,認知的不協和とその低減反応によ
る心理的不快解消の反応が認められた。また,手術反対の態度をとっていた大学院生は,
この認知的不協和とその低減反応によりプレゼンテーション後態度変容が認められなか
っ た 。 こ れ ら の こ と か ら 本 節 で ,〈 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ が 存 在 す る 〉,〈 ペ ッ ト
へ の 獣 医 師 の 理 性 的 な 認 識 と 飼 主 の 理 性 的 ・ 感 情 的 な 認 識 に よ る ギ ャ ッ プ 〉,〈 獣 医 師 の 理
性 的 説 得 は 飼 主 に 認 知 的 不 協 和 と そ の 低 減 反 応 を 引 き 起 こ す 可 能 性 が あ る 〉,〈 飼 主 の 個 人
的・感情的な“ペットに対する物語”は,獣医師の理性的説得によって変容しない 〉が導
き出された。
第 1 章 第 3 節 ,第 3 章 第 1 節 で ,〈 獣 医 師 の 抱 く 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 は 獣 医 師 と 飼 主 の
認 識 の ギ ャ ッ プ に 関 係 す る 〉 こ と が 示 さ れ た 。 本 節 の 結 果 か ら ,〈 獣 医 師 の 理 性 的 説 得 は
飼 主 に 認 知 的 不 協 和 と そ の 低 減 反 応 を 引 き 起 こ す 可 能 性 が あ る 〉 た め ,〈 獣 医 師 と 飼 主 の
認 識 の ギ ャ ッ プ は 解 消 さ れ な い こ と が あ る 〉 性 質 を 有 す る と 考 え ら れ る 。〈 ペ ッ ト へ の 獣
医師の理性的な認識と飼主の理性的・感情的な認識によるギャップ〉は,飼主がペットに
対して個人的・感情的な“ペットに対する物語”を有し ,獣医師の理性的説得で変容しに
く い 性 質 が あ る こ と を 獣 医 師 が 認 知 し て お ら ず ,獣 医 師 が 飼 主 の 説 得 に 失 敗 す る た め に 飼
主への否定的感情として獣医師に認知される状況があることが想像される。
あ ら た め て 第 3 章 第 1 節 『 飼 主 の 性 質 』『 飼 主 の 無 理 解 ( 獣 医 師 基 準 に お け る )』 に 分 類
さ れ た テ キ ス ト ( 表 2 -1) に お け る 飼 主 に 否 定 的 感 情 を 持 つ 文 脈 を 持 つ テ キ ス ト を 評 価 す る
と ,ペ ッ ト の た め に 獣 医 師 と し て 理 性 的 に 正 し い 情 報 や 治 療 を 提 供 し て も 感 情 的 な 飼 主 の
判 断 に よ っ て 成 功 し な い こ と で ,獣 医 師 に 恐 怖 や 怒 り や 憎 悪 に 近 い 否 定 的 感 情 を 生 む こ と
が 伺 わ れ る 。恐 怖 に つ い て は ,
「 怒 鳴 り 散 ら す 。(表 2 -1 ,『 攻 撃 的 な 飼 主 』,サ ン プ ル No .9- 1) 」
な ど の テ キ ス ト が 象 徴 し ,診 察 室 で 飼 主 の 感 情 の 爆 発 が 獣 医 師 に 向 け ら れ る こ と が あ る よ
う で あ る 。 怒 り に つ い て は 「 過 度 の 権 利 を 主 張 す る ( 表 2-1 , 『 無 理 な 要 求 』 , サ ン プ ル
No. 40 -2 ) 」 な ど の 飼 主 の 身 勝 手 さ ,「 そ の よ う な 飼 主 は 動 物 の 命 よ り 自 分 自 身 か ら 動 物 を
取 り 上 げ ら れ る こ と に よ る ス ト レ ス の 方 が 重 要 ( 表 2-1 , 『 飼 主 に 占 有 さ れ る 動 物 の 命 』 ,
サ ン プ ル No .4 4-3 ) 」 な ど の 動 物 愛 護 上 の ペ ッ ト へ の 悲 哀 を 含 む 感 情 ,「 自 分 の こ と を ま っ
た く 信 用 し て い な い の で ( 表 2 -1, 『 獣 医 師 へ の 不 信 』 , サ ン プ ル No .4 9- 1) 」 な ど の 獣 医 師
に 向 け ら れ る 不 信 感 が 診 察 室 で 存 在 す る よ う で あ る 。 憎 悪 に つ い て は ,『 飼 主 の わ が ま ま 』
66
『 治 療 へ の 非 協 力 的 姿 勢 』『 飼 主 の 理 解 力 の 問 題 』 か ら 飼 主 に よ っ て 治 療 が う ま く い か な
い事実の ために生じているようである。第 3 章第 1 節と本章を合わせて考えると,恐怖や
怒りや憎悪に近い否定的感情は,①『インフォームドコンセントの難しさ』や『 治療行為
の不確定性』という『獣医療の難しさ』を獣医師が抱え ること②〈獣医師の理性的説得は
飼 主 に 認 知 的 不 協 和 と そ の 低 減 反 応 を 引 き 起 こ す 可 能 性 が あ る 〉こ と ③ 獣 医 師 の 説 得 が う
まくいかないことと飼主を受け入れられないために〈獣医師内で処理出来ない葛藤が発
生〉していることにより生じていることが考えられる。
6. 残 さ れ た 課 題
本 節 は , 記 述 デ ー タ を KJ 法 に よ っ て 質 的 に 検 討 し , 仮 説 を 生 成 す る こ と を 目 的 と す る
質 的 研究 で あ る 。導 き 出 され た 結 論 は 仮 説 で あっ て ,継 承 さ れ た 研究 に よ っ て 理 論 的 飽和
を 目 指 さ れ な け れ ば な ら な い 。サ ン プ ル が 獣 医 師 7 名 大 学 院 生 1 9 名 に 限 ら れ て い る こ と ,
性差・年齢差を含めた統計的な検討がなされていないことから ,実際の飼主を含め広範囲
の サ ン プ ル を 用 い た 追 加 研 究 で の 検 証 が 必 要 で あ る 。プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 の 大 学 院 生 の
変 化 は そ の 方 法 に 影 響 を 受 け た こ と も 考 え ら れ ,啓 発 方 法 の 検 討 や 啓 発 後 の 心 理 学 的 反 応
の さ ら な る 検 証 が 有 効 な 啓 発 方 法 の 開 発 の た め 必 要 で あ る 。今 回 大 学 院 生 の 動 物 飼 育 の 有
無については不問とし調査している。動物飼育の有無によって“ペットに対する物語”の
影響は異なると考えられ,このことについての追加調査は必要と考えられる。
〈獣医師の理性的説得は飼主に認知的不協和とその低減反応を引き起こす可能性があ
る 〉,〈 飼 主 の 個 人 的 ・ 感 情 的 な “ ペ ッ ト に 対 す る 物 語 ” は , 獣 医 師 の 理 性 的 説 得 に よ っ て
変 容 しな い 〉と い う こ と から ,獣 医 師 の 説 得 によ っ て 飼 主 の 態 度 変容 を 引 き 起 こ す こ とは
容 易 で な い 。し か し 犬 猫 の 殺 処 分 頭 数 を 減 ら す よ う 手 術 を 啓 発 す る こ と は 獣 医 師 に 社 会 的
に 要 望さ れ て い る 。こ の よう な 背 景 か ら ,獣 医 師 によ る 飼 主 に 対 して の 手 術 の 説 得 の 効果
的な方法について継承的に研究されるべきである。説得には,①送り手の要因(信憑性,
魅力,勢力)②受け手の要因(自尊感情,攻撃性,不安傾向など)③メッセージの内容要
因(一面的メッセージか二面的メッセージかなど)が影響することが指摘されている
( Hov la nd e t al ,1 95 3 )。 こ の こ と を 鑑 み る と , 送 り 手 要 因 と し て 獣 医 師 の パ ー ソ ナ リ テ
ィ や コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ス キ ル ,受 け 手 要 因 と し て 飼 主 の パ ー ソ ナ リ テ ィ や 生 活 状 況 ,内
容 要 因 と し て 手 術 啓 発 の 情 報 と し て 手 術 の 有 効 性 論 証 の 強 化 ,メ リ ッ ト だ け で な く デ メ リ
ット情報の開示(手術死亡率や合併症)などが手術啓発の成否に影響すると考えられ ,検
証が必要である。
67
第 3 節
獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究②~不治の病の治療に対
する飼主の期待について
1. 目 的
第 3 章 第 1 節 で 構 造 化 さ れた 仮 説〈 獣 医 師 は ,飼主 と の 関 係 が 決 裂す る ほ ど の 恐 怖 や怒
り や 憎悪 に 近 い 否 定 的 感 情を 持 つ こ と が あ り,獣 医 師の ス ト レ ス の要 因 で あ る〉〈獣 医 師
の抱く飼主への否定的感情は獣医師と飼主の認識のギャップに関係する〉を う け ,本 節で
は ,飼 主 との 認 識 の ギ ャ ップ が 生 じ る 具 体 的 な場 面「 不 治 の 病 の 治療 に 対 す る 飼 い 主 の期
待 」 を 検 証 す る 。 近 年 , 獣 医 療 は 高 度 に 発 展 し , C T や M RI , が ん の 化 学 療 法 や 放 射 線 治 療
など人間の医療並みのサービスを提供できるようになった。そのため今まで難しかった
「 不 治の 病 の ペ ッ ト の 治 療 」が可 能 に な り ,完 全 治癒 や あ る 程 度 の寛 解 状 態 を 実 現 で きる
よ う に な っ た 。し か し 獣 医 臨 床 現 場 に 携 わ る 者 か ら 見 て い る と ペ ッ ト が 家 族 同 様 に 飼 育 さ
れ る よ う に な っ た 昨 今 ,こ の よ う な 高 度 獣 医 療 の 施 術 を 積 極 的 に 希 望 す る 飼 主 は 存 在 す る
一 方 ,施術を薦めても希望しない飼主も 多いように感じられる 。獣医師と飼主の間に認識
のギャップが存在することが想像される。
平 成 19 年 の 日 本 獣 医 師 会 の 調 査 で は , 民 間 動 物 診 療 施 設 に お け る 高 度 獣 医 療 等 の 紹 介
診 療 は 行 わ れ て い る も の の 実 数 は 少 な い こ と が 報 告 さ れ て い る (社 団 法 人 日 本 獣 医 師
会 , 20 07) 。 高 度 獣 医 療 を 希 望 し な い 理 由 と し て C T や MR I 実 施 の た め に 全 身 麻 酔 を 必 要 と
するなど人医療にないリスクがあることや高額の医療費などその施術に伴う避けられな
い 負 の 側 面 が 原 因 と 考 え ら れ る 。ま た 日 本 に お い て 不 治 の 病 の ペ ッ ト に 対 し て 安 楽 死 を 実
施 す る こ と へ の 賛 否 が 約 半 数 ず つ と い う 報 告 も あ り ( 杉 田 , 20 0 9) , 治 療 よ り 安 楽 死 を 選 択
したい希望が関連している可能性もあるが,実態を調査した研究はない。
新 島 は ,生 命 維 持 の 費 用 を 賄 い き れ な い 飼 主 が 安 楽 死 を 選 択 す る か 否 か で 生 じ る 葛 藤 が
ペ ッ ト ロ ス と 関 連 す る こ と を 報 告 し て い る ( 新 島 , 200 6 ) 。 そ の 中 で 「 ペ ッ ト 用 の 医 療 機 器
を 使 わ な い 飼 主 は ひ ど い 飼 主 み た い じ ゃ な い で す か 。」 と い う 飼 主 の 語 り を 紹 介 し て い る 。
新 島 の 指 摘 は 獣 医 療 の 高 度 化 に 伴 う 治 療 選 択 肢 の 増 加 ,高 額 化 と 経 済 的 困 難 性 が 飼 主 に 対
して新しい心理的葛藤を引き起こしていることを示唆している。
獣 医 療 の 高 度 化 は ,獣 医 療 の 高 額 化 や 獣 医 師 の 知 的 好 奇 心 な ど の 獣 医 師 側 の 理 由 で 発 展
してきている側面があることも考えられる。不治の病のペットに対する高度な獣医療は,
本 当 に 飼 主 に 必 要 と さ れ て い る の だ ろ う か 。そ し て 飼 主 は ど の よ う な こ と を 期 待 し て い る
の だ ろう か 。こ の 内 容 を 明ら か に す る こ と は ,獣 医師 と の 認 識 の ギャ ッ プ を 明 ら か に する
こ と に つ な が り ,獣 医 師 が 発 展 し た 獣 医 療 技 術 を 飼 主 に と っ て さ ら に 有 益 に 提 供 す る た め
に不可欠と考えられる。
論 理 性 と 客 観 性 か ら 真 実 を 求 め る 近 代 科 学 の 手 法 を 用 い て ,飼 主 の 希 望 や 期 待 な ど 人 間
の 心 理 や 感 情 に 基 づ く 現 象 を 明 ら か に す る こ と は 難 し い ( 河 合 ,20 01 ; 中 村 ,1 99 2)。 こ の た
め記述や語りなどのテキストデータを用いてその現象の意味を解明し仮説を生成できる
質 的 研 究 法 が 臨 床 心 理 学 や 看 護 学 に お い て 採 用 さ れ て い る ( 高 橋 , 20 07 )。 そ の 質 的 研 究 の
手 法 と し て テ キ ス ト デ ー タ か ら 意 味 を 抽 出 す る KJ 法 (川 喜 田 ,1967; 山 浦 ,2008) が あ る 。
KJ 法 は 文 章 や 会 話 な ど の 質 的 デ ー タ を テ キ ス ト と し て 分 割 し た カ ー ド を 用 い て 多 人 数
で 解 析し ,そ の 中 か ら 意 味を 抽 出 す る デ ー タ 分析 法 で あ る 。問 題 の創 造 的 な 解 決 の た めに
68
用 い ら れ , 人 間 の 心 理 現 象 な ど を 把 握 で き る ( 高 下 , 200 3) 。
今回,
「 不 治 の 病 の ペ ッ ト の 治 療 に 対 す る 飼 主 の 希 望 」の 実 態 を 調 査 す る た め ,1 動 物 病
院 を 訪 れ た 飼 主 に 択 一 選 択 式 と 自 由 記 述 式 の 質 問 紙 調 査 を 実 施 し た 。択 一 選 択 式 の 質 問 紙
結 果 を 量 的 に 分 析 す る こ と と 合 わ せ て 自 由 記 述 式 の 質 問 紙 結 果 を KJ 法 で 質 的 に 分 析 し ,
飼主の希望 の 実 態 を導き出す試みを行った。その結果を踏まえ ,獣医師と飼主の認識のギ
ャ ッ プ ,現 実 に 即 し た 高 度 獣 医 療 の ニ ー ズ と 質 的 研 究 の 獣 医 療 へ の 応 用 性 に つ い て 考 察 し
た。
2. 方 法
201 0 年 1 月 か ら 3 月 の 2 ヶ 月 間 に A 動 物 病 院 に 来 院 し た 飼 主 の う ち 質 問 紙 調 査 に 対 し 同
意 を 得 ら れ た 13 9 名 に 質 問 紙 を 実 施 し た 。 質 問 内 容 を 表 4- 1 に 示 す 。 質 問 紙 へ の 回 答 は 自
由であること ,年齢と性別は不問で匿名にて実施すること ,質問紙の 結 果 は 研 究 に のみ用
いること,個人情報の保護について十分配慮することを説明し執り行われた。
択 一 選 択 式 質 問 の A と B に つ い て の 回 答 は 設 問 ご と に 量 的 に 集 計 し た 。自 由 記 述 式 質 問
C の 回 答 に つ い て KJ 法 に て 質 的 に 検 討 し た 。 調 査 協 力 者 は 番 号 で 識 別 し た 。
恣 意 的 ,主 観 的 な デ ー タ 解 析 に 陥 る の を 避 け る た め ,KJ 法 の デ ー タ 解 析 に は 臨 床 心 理 学
系 の 大 学 教 員 2 名 と 臨 床 心 理 学 を 専 攻 す る 大 学 院 生 5 名 が 研 究 協 力 者 と し て 参 加 し た 。論
文 筆 頭 著 者 は KJ 法 実 施 の 準 備 進 行 役 と 結 果 の と り ま と め 役 し て 加 わ り , デ ー タ 解 析 に 介
在 し な い よ う に 配 慮 し た 。KJ 法 は ,カ ー ド 化 ,テ キ ス ト 化 ,カ テ ゴ リ ー 化 ,図 示 化 ,文 章
化 解 釈 の 順 に 分 析 し た 。K J 法 の 具 体 的 方 法 を 示 す 。質 問 C か ら 得 た 自 由 記 述 回 答 か ら 調 査
協 力 者 ご と に 切 り 出 し た カ ー ド を 作 成 し , カ ー ド の 数 を 計 測 し た 。 論 文 筆 頭 著 者 が KJ 法
の 実 施 方 法 と KJ 法 の 目 的 が 「 不 治 の 病 の ペ ッ ト の 治 療 で 飼 主 が 獣 医 師 に 期 待 す る こ と を
明らかにすること」であることを研究協力者へ説明した後,テキスト化,カテゴリー化,
図示化,文章化解釈を実施した。研究協力者の合議のもと ,カードに書かれた内容を一つ
の 意 味 を 持 つ テ キ ス ト に 分 解 し ( テ キ ス ト 化 ; た と え ば 調 査 協 力 者 97 番 の カ ー ド 《 治 ら
ないと診断を下した後,そのペットにとって一番良いと思われる方法(治療)をきちんと
教えて欲しい》は《治らないと診断を下した後》と《そのペットにとって一番良いと思わ
れ る 方 法 ( 治 療 ) を き ち ん と 教 え て 欲 し い 》 と い う 2 つ の テ キ ス ト に 分 解 さ れ た ), そ の
テ キ ス ト 数 を 計 測 し た 。次 の ス テ ッ プ と し て 全 テ キ ス ト を 読 め る よ う に 適 当 に 配 置 し ,先
入観や仮説にとらわれないように配慮しながら ,研究協力者の合議の上 ,テ キ ス ト 同 士の
関 連 性を 考 え な が ら 小 グ ルー プ を 作 り ,見 出 しを 付 け て 一 つ の カ テゴ リ ー と し た( カ テゴ
リー化;たとえばテキスト《そのペットにとって一番良いと思われる方法(治療)をきち
んと教えて欲しい》はテキスト《説明をしっかりとしていただきたい》などとグループを
作 り 『 治 療 法 の 適 切 な 説 明 』 と い う 見 出 し の カ テ ゴ リ ー 小 と し た )。 こ れ を 繰 り 返 し 小 グ
ル ー プ の カ テ ゴ リ ー 作 成 が 飽 和 状 態 に 達 し た 後 ,カ テ ゴ リ ー ご と の 関 係 を 考 え な が ら グ ル
ー プ を 作 成 し 見 出 し を つ け 新 た な カ テ ゴ リ ー を 作 成 し た( た と え ば『 治 療 法 の 適 切 な 説 明 』
は ,『 治 ら な い と い う 診 断 を 下 す 』 な ど と と も に 【 適 切 な 説 明 を 受 け た い 】 と い う カ テ ゴ
リ ー 中 に 分 類 さ れ た )。 こ の 見 出 し 付 け と カ テ ゴ リ ー 化 を 繰 り 返 し , カ テ ゴ リ ー 小 , カ テ
ゴリー中,カテゴリー大,カテゴリー特大を作成し,研究協力者の合議の上カテゴリーの
関 連 性 を 図 に 示 し た ( 図 示 化 )。 図 示 す る 際 カ テ ゴ リ ー の 見 出 し の 最 後 に そ の カ テ ゴ リ ー
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に 含 ま れ る テ キ ス ト 数 を 明 示 し た( K J 法 は 質 的 研 究 法 の た め ,テ キ ス ト 数 量 の 量 的 比 較 の
意 味 は な く , 読 者 が デ ー タ を 読 解 す る 上 の 目 安 と し て 明 示 し た )。 テ キ ス ト 化 , カ テ ゴ リ
ー 化 ,図 示 化 の 結 果 を 踏 ま え 研 究 協 力 者 の 合 議 の も と 文 章 化 解 釈 を 行 っ た 。K J 法 結 果 は 論
文筆頭著者によって 清書された後 ,後日研究協力者参加の会議によって再度検証し ,飼主
の不治の病の治療に対する希望の実態仮説生成に用いた。
表4-1 質問内容
ペットが当院の診察で、治らない可能性のある病気(ガンなど)と仮診断され、効果的な治療を行うには追加検査が必要と
説明をうけました。このあとあなたはペットにどのような検査と治療を希望されますか?
A 追加検査について、一つだけ○をつけてお答えください
①専門的な機関(大学病院など)で検査(CTやMRIを含めた検査)をして治療の可能性を探ってもらいたい
②当院で外注できる追加検査をして治療の可能性を探ってもらいたい(専門的な機関には連れて行きたくない)
③治らない病気と仮診断されたらこれ以上の検査はしてもらいたくない
B 追加検査で治らない病気(ガン)と診断されました。治療について希望されるものを一つだけ○をつけてお答えください。
①これ以上の治療はしたくない
②苦しみを取り除く治療(鎮痛剤の投与など)だけしてもらいたい
③苦しい思いをさせないようにやむをえず安楽死を選択したい
④生活の質をあげるため、最新の獣医学知見に基づいた治療(抗がん剤、放射線治療など)をしてもらいたい
C 治らないと診断された病気のペットの治療についてあなたが獣医師に期待することがあれば自由に記載してください
3. 結 果
質 問 紙 を 実 施 し た 1 3 9 人 中 11 0 人 か ら 回 答 用 紙 を 回 収 し , 研 究 に 供 し た 。 そ の う ち 質 問
A に 対 し て 10 5 人 , 質 問 B に 対 し て 10 6 人 , 質 問 C に 対 し て 5 2 人 か ら 回 答 を 得 た 。
(1) 質 問 A へ の 回 答 ( 不 治 の 病 に 対 す る 追 加 検 査 に つ い て )
追加検査を行いたいか否かを問う質問 A に対して選択肢②当院で外注できる検査のみ,
専 門 機 関 は 希 望 せ ず を 選 択 し た 人 は 4 8. 2% (53 /1 10 人 ) で 一 番 多 か っ た 。 不 治 の 病 に 対 す る
検 査 を 積 極 的 に 希 望 す る と 考 え ら れ る 選 択 肢 ① を 選 択 し た 人 は 23 .6 %( 26/ 110 人 ) だ っ た 。
ま た ,仮 診 断 の 段 階 で 治 療 や 検 査 を 諦 め る と 考 え ら れ る 選 択 肢 ③ を 選 択 し た 人 は 選 択 肢 ①
を 選 択 し た 人 と 同 数 の 2 3. 6% (26 /1 10 人 ) だ っ た 。 ( 図 4 -1)
(2) 質 問 B へ の 回 答 ( 不 治 の 病 に 対 す る 治 療 に つ い て )
不治の病の治療に対する希望を問う質問 B に対して選択肢②苦しみを取り除く治療を希
望 す る を 選 択 し た 人 が 最 多 で 76 .4 %(8 4/ 11 0 人 ) だ っ た 。 最 新 の 獣 医 学 知 見 に 基 づ い た 治 療
を 希 望 す る 人 は 9. 1% (10 /1 10 人 ) だ っ た 。 治 療 を 望 ま な い 人 , 安 楽 死 を 希 望 す る 人 は そ れ
ぞ れ 5 .5 %(6 /1 10 人 ) だ っ た 。 ( 図 4 -2)
70
無回答
5人/約4.5%
③治らないと仮
診断なら追加検
査を希望せず
26人/約23.6%
①専門的な機関
で検査して治療
の可能性を探る
26人/約23.6%
②当院で外注で
きる検査のみ、
専門機関は希望
せず
53人/約48.2%
図4-1 質問A「不治の病に対する検査の希望」への回答(n=110)
④最新の獣医学
知見に基づいた
治療をしたい
10人/約9.1%
無回答
4人/約3.6%
①これ以上治療
したくない
6人/約5.5%
③安楽死を選択
したい
6人/約5.5%
②苦しみを取り
除く治療だけし
てもらいたい
84人/約76.4%
図4-2 質問B「不治の病の治療の希望」への回答(n=110)
71
(3) 質 問 C へ の 回 答 の K J 法 ( 不 治 の 病 に 対 す る 治 療 に つ い て 獣 医 師 に 期 待 す る こ と )
KJ 法 分 析 結 果 に お い て テ キ ス ト 化 ( 一 部 抜 粋 ) は 表 4- 2 , 図 示 化 は 図 4 -3 , 文 章 化 解 釈
は 表 4 -3 と な っ た 。自 由 記 述 回 答 5 2 個 を 細 分 化 し 得 ら れ た テ キ ス ト 数 は 全 部 で 77 だ っ た 。
そ の う ち カ テ ゴ リ ー の「 獣 医 師 の 資 質 に 期 待 」 に 17,「 治 療 プ ロ セ ス に 期 待 」 に 5 6 の テ キ
ス ト を 含 ん で い た 。 テ キ ス ト 数 10 以 上 を 含 む カ テ ゴ リ ー は , カ テ ゴ リ ー 特 大 で 「 治 療 プ
ロ セ ス に 期 待 」, カ テ ゴ リ ー 大 で 「 獣 医 師 の 資 質 に 期 待 」,「 治 療 に つ い て ( 完 治 → 延 命 →
疼 痛 排 除 )」, カ テ ゴ リ ー 中 で 「 適 切 な 説 明 を 受 け た い 」,「 痛 み と 苦 し み を 取 り 除 い て 欲 し
い 」 だ っ た ( 図 4 - 3 の 太 字 斜 体 )。
72
73
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
治療プロセスへの期待
カテゴリー特大
飼主の気持ちを優先
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
適切な説明を受けたい
安心できる治療を受けたい
完治を目指して治療して欲しい
完治を目指して治療して欲しい
完治は無理でも治療して欲しい
完治は無理でも治療して欲しい
完治は無理でも治療して欲しい
完治は無理でも治療して欲しい
完治は無理でも治療して欲しい
完治は無理でも治療して欲しい
完治は無理でも治療して欲しい
完治は無理でも治療して欲しい
完治は無理でも治療して欲しい
延命治療して欲しい
延命治療して欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
痛みと苦しみを取り除いて欲しい
ありのままの流れの中で
ありのままの流れの中で
ありのままの流れの中で
ありのままの流れの中で
ありのままの流れの中で
ありのままの流れの中で
ありのままの流れの中で
治療して欲しくない
獣医師の資質への期待
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
事実と診断と治療の説明
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
治療について(完治→延命→疼痛排除)
飼主の気持ちを優先
獣医師の資質への期待
カテゴリー中
お世話になった獣医師への期待
お世話になった獣医師への期待
お世話になった獣医師への期待
お世話になった獣医師への期待
獣医師の人間性に期待
獣医師の人間性に期待
獣医師の人間性に期待
獣医師の人間性に期待
獣医師の人間性に期待
飼主の気持ちを優先
飼主の気持ちを優先
飼主の気持ちを優先
飼主の気持ちを優先
飼主の気持ちを優先
飼主の気持ちを優先
カテゴリー大
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
獣医師の資質への期待
表4-2 質問Cに対する自由記述回答のkj法テキスト化
カテゴリー小
飼主の気持ちを大切にして欲しい
事実の説明
事実の説明
治らないという診断を下す
治らないという診断を下す
治療法の適切な説明
治療法の適切な説明
治療法の適切な説明
治療法の適切な説明
治療法の適切な説明
治療法の適切な説明
治療法の適切な説明
治療法の適切な説明
治療法の適切な説明
あやふやな説明の経験
安心できる治療
最後まで諦めないで治療して欲しい
最後まで諦めないで治療して欲しい
最善の方法で治療して欲しい
最善の方法で治療して欲しい
最善の方法で治療して欲しい
最善の方法で治療して欲しい
最善の方法で治療して欲しい
最善の方法で治療して欲しい
最善の方法で治療して欲しい
最善の方法で治療して欲しい
負担少なく治療して欲しい
延命治療して欲しい
延命治療して欲しい
痛みを取って欲しい
痛みを取って欲しい
痛みを取って欲しい
痛みを取って欲しい
痛みを取って欲しい
痛みを取って欲しい
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
ペットを苦しめたくない
最後まで幸せに
最後まで幸せに
見守る
見守る
見守る
自然の流れ・法則に従う
自然の流れ・法則に従う
不要な検査・治療はしたくない
今はわからない
今はわからない
今はわからない
経済的な不安
飼主の気持ちを大切にして欲しい
先生に任せます
先生の一生懸命な姿勢
先生の一生懸命な姿勢
同じ先生に診て欲しい
一緒に頑張って欲しい
一緒に頑張って欲しい
事務的に対応して欲しくない
ペットや飼主と向き合って欲しい
相談に乗ってもらいたい
飼主に思いやりを持って接して欲しい
飼主に思いやりを持って接して欲しい
飼主に思いやりを持って接して欲しい
飼主の心情・願望
飼主の心情・願望
飼主の心情・願望
46-1
33-1
78
5-1
97-1
2
5-2
37
57-2
71
72
84
97-2
108-3
5-3
109-3
55
67
30-2
33-2
35
44-2
81
88-2
99
105-3
70
59-2
108-2
15
57-1
66-2
76
83-1
105-1
7
44-1
59-1
61
62
65
83-2
86
88-1
91-1
105-2
108-1
109-1
110
33-3
77
10
53
73
47
66-1
57-4
39
43
48
21-2
4
6
102
103-2
91-2
103-1
30-1
46-2
41
21-3
18
20
83-3
21-1
57-3
109-2
サンプル
テキスト
すべて先生にお任せします。
一生懸命に治療してくださる姿を見れば私は納得します。
頑張って治療してくれる。
他の病院にはかかりたくないため先生に最期まで診てもらいたい。
一緒に頑張ってくれる。
先生と一緒に
事務的に対応して欲しくない。
ペットや飼主としっかり向き合って話を聞いてもらいたい。
どうすればよいか相談に乗ってもらいたい。
真剣に思いやりを持って関わって欲しい。
優しく接してもらいたい。
確実に迎えるであろう死の悲しみに対する飼育者の精神的な支え
ペットは家族同様大切に思っているが、
最期まで家で看たい、
看ているこっちまでつらいから。
安楽死を選択した場合ですが、緩和治療をしてあげた方がペットのためであろうと飼主の意思を尊重し無理に勧めないでほし
い
まず飼主の心情を察して欲しい。
今までずいぶんお世話になっていますし、今後も人間のときと同じように適切な情報
事実をきちんと伝えて欲しい。
適切な診断
治らないと診断を下した後、
治療の有無に関係なくアドバイスしていただけること
適切な説明
飼主は動揺して何も見えなくなると思うので、その都度一番いい方法をアドバイスして欲しい。
薬のアドバイス、
説明をしっかりとしていただきたい。
詳しい説明をしていただきたい。
わかりやすい説明と治療期間。
そのペットにとって一番良いと思われる方法(治療)をきちんと教えて欲しい。
獣医師の考えるベストは納得のいくように話して欲しい。
過去にあやふやな説明をうけたので。
今できる動物にとっての静かで安心できる環境作り
諦めることなく信念を以って治療にあたっていただきたい。
最期まで治してもらう努力を期待します。
ペットにとって最良の方法をとってもらいたい。
と適切なケアをしてもらいたい。
治らなくても最善を尽くして生きたいと思います。
その時々のベストである治療を望みます。
出来る限りのことをしてほしい。
最善の方法を教えて欲しい。
獣医師の言うことを信じるしかありませんので最善を尽くしていただきたいです。
一緒にいられるように最適のことをやれるように。
一番ペットに負担が少ないように治療をして欲しいです。
延命治療してほしい。
しかし少しでも長く生きられるような治療を示して欲しい。
痛みをとってやる
痛みを取り除く、
痛みを取り除いてほしい。
可能な限りの苦痛の軽減。
痛み
できるだけ痛くなく
本人が苦しまないようにしてほしい。
やはり、苦しみを取り除くことか、
苦しまないように
苦しまないようにターミナルケアを期待します。
苦しみを取り除く治療だけで充分です。
痛みなど苦しい思いだけはさせたくない。
苦しみをできるだけ取り除いていただけるよう
最期は苦しまないように逝って欲しいです。
愛猫が苦しまない
苦しむことだけは取り除いた治療を。
苦しくなく
そのペットが最も苦しまないような、
とりあえず苦痛とペットが感じていることを取り除いてもらいたい。
できるだけ苦しまないように残った時間を過ごさせたい。
心のこもった対応はきっと動物たちの最期のときを幸せに過ごさせることに繋がると思います。
ペットが楽しく生活できるようにして欲しいです。
犬の気持ちになって最期まで見守ってほしい。
最期まで暖かく見守って診察にあたって欲しい。
静かに見守る。
動物はいずれ寿命を全うするわけなので自然の法則に従う。
自然でいさせてあげたいので
不要な検査治療はしたくない。
今はわからない。
状況状態で治療方法の考え方が変わると思うのでわからない。
?
経済的なこともあるし、
表4-3 質問CのKJ法文章化解釈
飼主は、不治の病のペットの治療について、獣医師に以下の期待をしている。
①獣医師の資質への期待である。これは治療技術に対するものではなく、世話に
なった獣医師への期待、人間性や飼主の気持ちを優先して欲しいとする期待であ
る。
②治療プロセスへの期待である。病気の事実、診断、治療への適切な説明を希望
し、安心できる治療につなげたいと考えている。
③治らなくても完治を目指してほしい、完治は無理でも最善の方法で治療をと考え
る飼主もいるが、大部分は痛みと苦しみを取り除いて欲しいと考えている。
④ありのままにするのが良いのではないか、経済的に不安であるなどの葛藤を抱え
ながら治療について考えている。
74
お世話になった
獣医師の人間性に期待⑤
獣医師への期待④
飼主への気持ちを優先⑧
一緒に頑張って欲しい②
先生に任せます①
事務的に対応して欲しくない①
思いやりをもって接して③
先生の一生懸命な姿勢②
ペットや飼主と向き合ってほしい①
飼主の心情・願望③
同じ先生に診て欲しい①
相談にのってもらいたい①
飼主の気持ちを大切にして②
獣医師の資質への期待 17
治療プロセスへの期待 56
適切な説明を受けたい⑭
事実の説明②
完治を目指して治療②
治らないという診断を下す②
治療法の適切な説明⑨
最後まで諦めないで②
あやふやな説明の経験①
完治は無理でも治療⑨
安心できる治療
最善の方法で治療⑧
をうけたい①
負担少なく治療①
安心できる治療①
延命治療②
ありのままの流れの中で⑦
延命治療②
最後まで幸せに②
痛みと苦しみを取り除いて⑳
見守る③
自然の流れ・法則に従う②
痛みをとって⑥
苦しめたくない⑭
治療して欲しくない①
葛藤
不要な治療はしたくない①
葛藤
今はわからない③
経済的な不安①
今はわからない③
経済的不安①
テクストのみ:カテゴリー小に分類;テクスト:カテゴリー中に分類;点線枠、2 重線枠テクスト:カテゴリ大以上に分類
テキスト数はテキストの最後に丸囲み数字で表した。太字斜体はテクスト数が10以上のカテゴリーを示す。
図 4-3 質問 C に対する自由記述回答の KJ 法による分析の図示化
75
治
療
に
つ
い
て
(
完
治
→
延
命
→
疼
痛
排
除
)
33
4. 考 察
不 治 の 病 に 対 す る 検 査 の 希 望 を 問 う 質 問 A に 対 し て ,専 門 的 な 機 関 で 検 査 し て 治 療 の 可
能性を探ると回答した積極的に高度獣医療の検査を希望する人の数は全体の約 4 分の1だ
っ た 。選 択肢 ① と ② を 合 わせ た 追 加 検 査 を 希 望す る 人 は 約 4 分 の 3 で あ っ た 。治 ら な い可
能 性 が あ る と 仮 診 断 さ れ た だ け で ,そ れ 以 上 の 検 査 を 希 望 し な い 人 が 全 体 の 約 4 分 の 1 存
在した。
不 治の 病 の 治 療 の 希 望 を問 う 質 問 B に 対 し て ,選択 肢 ④ の「 最 新 の 獣医 学 知 見 に 基 づい
た 治 療 」 を 希 望 す る 人 は , 全 体 の 1 0 分 の 1 に 満 た な か っ た 。 8 割 近 く の 人 は「 苦 し み を 取
り 除 く 治 療 だ け 」 望 ん で い た 。 質 問 A, B で は , 飼 主 の 最 上 位 の 希 望 を 聴 取 す る た め 択 一
選 択 式 で 回 答 を 受 け た 。こ の た め 重 複 回 答 が で き ず 飼 主 が 2 つ 以 上 を 選 択 し た い 意 向 や 選
択 肢 以 外 の 希 望 を 汲 み 取 れ て い な い 可 能 性 を 考 慮 し つ つ 結 果 を 評 価 す る 必 要 が あ る 。ま た ,
具体的な病気の治療に対する質問ではないことや仮想の状況に対しての回答であったこ
と か ら , 実 情 と の 比 較 は で き な い 。 し か し な が ら 質 問 A, B の 結 果 か ら 高 度 な 獣 医 療 に 対
して強い希望をもつ飼主はかならずしも多くはないことが示唆された。
不 治 の 病 の 治 療 に 対 す る 獣 医 師 へ の 期 待 を 問 う 質 問 C へ の KJ 法 分 析 結 果 に お い て , 全
テ キ ス ト 77 の う ち 「 獣 医 師 の 資 質 に 期 待 」 に 17 ,「 治 療 プ ロ セ ス に 期 待 」 に 5 6 の テ キ ス
ト を 含 ん で い た 。 そ の ほ か テ キ ス ト 数 1 0 以 上 を 含 む カ テ ゴ リ ー は ,「 治 療 に つ い て ( 完 治
→ 延 命 → 疼 痛 排 除 )」,「 適 切 な 説 明 を 受 け た い 」,「 痛 み と 苦 し み を 取 り 除 い て 欲 し い 」 だ
っ た 。 KJ 法 の 結 果 は , 飼 主 は 獣 医 師 に ,「 人 間 性 」 や 飼 主 を 優 先 に 「 思 い や る 気 持 ち 」 な
どの治療技術以外の資質を期待していること ,また「苦痛を取り除く」治療を希望し,治
療 に つ い て 「 適 切 な 説 明 」 を 期 待 し て い る こ と を 示 し て い る 。 ま た ,「 経 済 的 な 不 安 」 や
「 あ り の ま ま の 流 れ 」に 任 せ た い 心 情 な ど か ら 治 療 に 対 し て 葛 藤 が あ る こ と も 伺 わ れ ,
「今
はわからない」と態度を保留する姿勢や「治療してほしくない」とする姿勢も見受けられ
た。人医療の患者満足度の調査において ,医師の説明のわかりやすさや思いやり ,話を十
分 に 聞 く 態 度 が 患 者 満 足 度 を 高 め ( Cl ea ry et al, 1 988 ; H al l et a l, 19 88; 今 井 ら , 200 1;
恩 田 ら ,2 00 4; 田 久 ,1 994 ; 長 谷 川 ら ,1 99 3; 前 田 ら , 200 3) , 医 師 の 技 能 よ り も 影 響 を 及 ぼ
す と い う 報 告 が あ り ( 今 中 ら ,1 99 3),「 獣 医 師 の 人 間 性 等 の 資 質 」 や 「 適 切 な 説 明 を 受 け た
い」を不治の病のペットの飼主が希望する点と共通し,興味深い。また,杉田は,飼主は
不 治 の 病 の ペ ッ ト の 安 楽 死 の 是 非 に つ い て 迷 う 回 答 を し ,賛 否 両 論 を 含 む 中 庸 的 な 意 見 を
も つ こ と を 指 摘 し て い る ( 杉 田 , 200 9) が , 本 K J 法 の 結 果 に お い て も 同 様 に 飼 主 の 迷 い ( 葛
藤)を含む文脈が示された。
質 問 A,B の 結 果 と 質 問 C の KJ 法 分 析 結 果 か ら 飼 主 の 不 治 の 病 の 治 療 に 対 す る 希 望 の 実
態 仮 説 を 総 合 的 に 考 察 す る と ,〈 飼 主 は 獣 医 師 に 対 し て 必 ず し も 最 新 の 獣 医 学 知 見 に 基 づ
い た 治 療 を 期 待 し て い る わ け で は な く ,獣 医 師 の 人 間 性 等 の 資 質 と 治 療 プ ロ セ ス の 適 切 な
説明によって対応してもらうことを期待している〉と仮説される。飼主は,病気の事実,
診断,治療への適切な説明を希望し,安心できる治療につなげたいと考えている。治らな
く て も 完 治 を 目 指 し て ほ し い ,完 治 は 無 理 で も 最 善 の 方 法 で 治 療 を と 考 え る 飼 主 も い る が ,
大部分は「痛みと苦しみを取り除いて」欲しいと考えている。また,ありのままにするの
が よ い の で は な い か ,経 済 的 に 不 安 で あ る な ど の 葛 藤 を 抱 え な が ら 治 療 に つ い て 考 え て い
る。
76
5. 飼 主 を 理 解 で き て い な い 獣 医 師
本 節 は ,不 治 の 病 に 対 す る 飼 主 の 高 度 獣 医 療 の 希 望 は そ れ ほ ど 多 く は な い こ と ,基 本 的
に 飼 主 は 動 物 の 苦 痛 を 取 り 除 い て も ら い た い こ と ,そ の 時 獣 医 師 の 人 間 性 や 治 療 プ ロ セ ス
の適切な説明を飼主は期待することを 明らかにした。獣医師に対して「飼主が不治の病の
治 療 に何 を 期 待 す る の か 」を 質問 す る 調 査 を 行っ て い な い た め ,状 況 から の 類 推 で は ある
が ,高 度 獣 医 療 隆 盛 の 担 い 手 が 獣 医 師 で あ る こ と か ら ,
「高度獣医療に対する飼主の希望」
を信じる獣医師と高度獣医療ではなく獣医師の人間性や適切な説明を期待する飼主の認
識 の 違 い が 認 め ら れ る ( 図 4-4 ) 。 飼 主 は 感 情 的 に リ ス ク が あ る 高 額 の 獣 医 療 を 望 む よ り ,
苦 痛 だ け を 取 り 除 く 治 療 を 選 択 し た い 希 望 が あ り ,獣 医 師 に は 獣 医 学 的 に よ り 良 い こ と を
理 性 的 に 提 供 し た い 思 惑 が あ る こ と が 想 像 さ れ る 。こ の こ と か ら 第 3 章 第 2 節 で 仮 説 さ れ
た 〈 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ が 存 在 す る 〉,〈 ペ ッ ト へ の 獣 医 師 の 理 性 的 な 認 識 と 飼
主の理性的・感情的な認識によるギャップ〉は本節によっても支持される。
本 節 から 飼 主 は 獣 医 師 が「 良か れ と 思 っ て や って い る( 第 1 章 第 3 節 3 ス ト レ ス や 苦痛
を 感 じ て い る こ と , ス ト レ ス へ の 対 応 に 対 す る 自 由 記 述 回 答 か ら )」 治 療 そ の も の よ り 獣
医師の人間性や適切な説明を期待している 。飼主は,獣医師から『飼主が説明を勝手に理
解しない』
『身勝手な飼主』
『 何 を 考 え て い る か わ か ら な い 飼 主 』と 感 じ ら れ る こ と も あ り ,
感 情 的 に 獣 医 師 に 対 し て 神 経 質 に な っ た り ,説 明 を う ま く 理 解 で き な か っ た り す る の か も
し れ な い 。 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ や 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 が 存 在 す る の は ,〈 獣 医
師が飼主の感情をうまく理解できていないことに起因する〉ことも考えられる。
獣 医 師 の ス ト レ ス が 飼 主 と の 認 識 の ギ ャ ッ プ や 否 定 的 感 情 に 起 因 す る と す れ ば ,飼 主 の
性質を獣医師が理解すればストレスの軽減につなげられると考えられる。すなわち, 第 3
章 第 2 節 で 仮 説 さ れ た 〈 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ が 存 在 す る 〉〈 ペ ッ ト へ の 獣 医 師
の 理 性 的 な 認 識 と 飼 主 の 理 性 的 ・ 感 情 的 な 認 識 に よ る ギ ャ ッ プ 〉〈 獣 医 師 の 理 性 的 説 得 は
飼 主 に 認 知 的 不 協 和 と そ の 低 減 反 応 を 引 き 起 こ す 可 能 性 が あ る 〉〈 飼 主 の 個 人 的 ・ 感 情 的
な “ ペ ッ ト に 対 す る 物 語 ” は , 獣 医 師 の 理 性 的 説 得 に よ っ て 変 容 し な い 〉, 本 節 で 仮 説 さ
れ た〈 飼 主 は 獣 医 師 に 対 し て 必 ず し も 最 新 の 獣 医 学 知 見 に 基 づ い た 治 療 を 期 待 し て い る わ
け で は な く ,獣 医 師 の 人 間 性 等 の 資 質 と 治 療 プ ロ セ ス の 適 切 な 説 明 に よ っ て 対 応 し て も ら
うことを期待 し て い る 〉という飼主の 性質を獣医師がメタ認知することは ,飼主との認識
のギャップを埋め ,飼主への否定的感情を軽減する 助 け に な る と考えられる。飼 主 が それ
ほ ど 望 ま な い の に な ぜ 高 度 獣 医 療 の 研 究 が 隆 盛 を 迎 え て い る か は 明 ら か で は な い が ,獣 医
師 の 飼 主 ス ト レ ス を 軽 減 す る た め に は ,獣 医 師 は 飼 主 の 気 持 ち を 汲 み 取 る 裁 量 と 自 分 自 身
を表現するコミュニケーションスキルが要求されることが想像される。
飼 主 の 性 質 の 認 知 を さ ら に 深 め る た め に は ,飼 主 の パ ー ソ ナ リ テ ィ 特 性 を 明 ら か に 出 来
る と 有効 で あ る と 考 え ら れる 。な ぜ 飼 主 は ペ ット を 飼 育 し て い る のか と い う こ と は ,飼主
の パ ー ソ ナ リ テ ィ 特 性 か ら 様 々 な 方 法 で 研 究 さ れ て い る ( G un ter , 199 9) 。 第 3 章 第 2 節
において不妊手術に反対する大学院生に不妊手術の有用性のプレゼンテーションを行う
と 認 知 的 不 協 和 の 軽 減 反 応 が 生 じ ,そ の 際 に 精 神 分 析 学 上 の 防 衛 機 制 や ス ト レ ス 理 論 上 の
ス ト レ ス コ ー ピ ン グ 反 応 ,心 理 的 リ ア ク タ ン ス が 関 係 し て い る 可 能 性 に つ い て ふ れ た 。よ
っ て 飼 主 の 防 衛 機 制 と コ ー ピ ン グ の 方 略 傾 向 が 明 ら か に な れ ば ,飼 主 の 気 持 ち を 汲 み 取 る
獣 医 療の 実 現 に 繋 げ ら れ る可 能 性 が あ る 。こ の 点 に着 目 し ,パ ー ソナ リ テ ィ 特 性 を 明 らか
77
にする研究第 3 章第 4 節を実施した。
獣医療の難しさ
獣医師
飼主の飼育動機
・経営としての獣医療
飼主
・無意識の衝動につながった感情的な動機
・ペットは家族・ソーシャルサポート
・個人的なペットに対する物語
・獣医療の不確定性
・インフォームドコンセントの難しさ
理性的
理性的・感情的
不治の病のペットに対する認識のギャップ
ペットの医療情報を知りたい
より良い結果や治療を志向するため
理性的に高度獣医療の提供を志向
不安を取り除きたい
高度獣医療ではなく、獣医師の人間
性と適切な説明、ペットの苦痛緩和
を志向
図 4-4 不治の病の治療に対する獣医師と飼主の認識のギャップ
6. 残 さ れ た 課 題
本 研 究 は 記 述 デ ー タ を 用 い た 質 的 研 究 に 相 当 し ,意 味 を 仮 説 的 に 生 成 す る 研 究 で あ る た
め ,質 的 研 究 の 手 法 に の っ と り 継 続 し た 実 証 研 究 に よ り 理 論 的 飽 和 に 至 っ て い る か 検 証 さ
れ る 必 要 が あ る ( 河 合 ,20 01 ; 高 橋 ,2 00 7; H oll ow ay e t a l, 200 0) 。 よ っ て 飼 主 ニ ー ズ に 合
う 高 度 獣 医 療 の あ り 方 を 明 ら か に す る た め に は ,今 回 明 ら か に な っ た 飼 主 心 理 の 実 態 仮 説
をもとに理論的飽和を目指す量的・質的な追試を行う必要がある。
今 回 , 択 一 選 択 式 質 問 A, B に よ っ て 高 度 な 獣 医 療 を 望 む 飼 主 が そ れ ほ ど 多 く な い こ と
が 明 ら か に な っ た が ,な ぜ 飼 主 が 高 度 獣 医 療 を 望 ま な い か と い う そ の 原 因 は 明 ら か に 出 来
て い な い 。 質 問 C の KJ 法 分 析 に よ っ て , 不 治 の 病 の ペ ッ ト を 飼 育 す る 飼 主 は , 完 治 を 目
指す治療よりも獣医師の人間性や適切な説明によって安心を得たいことを優先すること,
経済的な不安があること ,ありのままの流れで最期を見届けたい希望があること ,不治の
病 の 時 は 苦 痛 だ け 取 り 除 い て ほ し い 希 望 が あ る こ と 等 が そ の 原 因 と 考 え ら れ る 。ま た ペ ッ
ト へ の 愛 着 が ペ ッ ト ロ ス や 安 楽 死 へ の 考 え 方 に 影 響 す る た め ( 杉 田 , 200 9; 新 島 ,2 00 6), ペ
ッ ト へ の 愛 着 度 が 不 治 の 病 の 治 療 へ の 希 望 に 影 響 す る こ と が 考 え ら れ る 。こ れ ら の こ と を
踏まえ追試が必要である。
さ ら に ,飼 主 が 不 治 の 病 の ペ ッ ト の 治 療 に お い て 獣 医 師 の 人 間 性 等 の 資 質 や 治 療 プ ロ セ
78
ス の 適 切 な 説 明 を 期 待 し て い る が ,こ の こ と が ど の よ う に す れ ば 実 現 で き る の か 明 ら か に
す る た め の 追 試 が 必 要 で あ る 。人 医 療 に お い て 医 師 と 患 者 の 認 識 の ギ ャ ッ プ に つ い て の 報
告 が あ る ( 塚 原 , 20 09 ) が , 獣 医 師 の 有 す る 高 度 獣 医 療 に 対 す る 認 識 や 期 待 に つ い て 調 査 す
る こ と は , 飼 主 と 獣 医 師 の 認 識 の ず れ ( 矢 野 , 20 11 ) を 調 整 し , 飼 主 に よ り 有 益 な 獣 医 療 サ
ー ビ スの 提 供 に つ な が る と考 え ら れ る 。ま た ,飼 主ニ ー ズ に 合 っ た イ ン フ ォ ー ム ド コ ンセ
ントやコミュニケーションなどいわゆる獣医療面接の具体的な方法についての研究も少
な く ( 矢 野 , 201 0; 木 村 , 20 09; M ann in g, 20 08) , 今 後 継 続 的 な 議 論 と 調 査 が 必 要 で あ る 。
本 研 究 の 結 果 を さ ら に 一 般 化 す る た め に ,不 治 の 病 の ペ ッ ト の 検 査 と 治 療 の 希 望 を さ ら
に精緻・細分化して測定できる質問紙を開発すること ,サンプル規模や多様性(性別,年
齢 , 飼 育 動 物 種 , 飼 育 世 帯 情 報 [信 仰 宗 教 , 世 帯 収 入 , 世 帯 構 成 人 数 ] 等 の 質 問 項 目 ) を 増
や す こ と ( 杉 田 , 20 09 ) , 研 究 対 象 者 の 一 般 化 ( 動 物 病 院 来 院 者 以 外 の デ ー タ の 採 取 ) を 行
う こ と に よ っ て 統 計 的 に デ ー タ を 再 検 証 す る 必 要 が あ る 。ま た 質 問 紙 調 査 だ け で な く 面 接
調査を行うことでより深い意見の集積ができ意味を汲み取れる可能性がある。
本 研 究 が 示 す 通 り ,人 間 心 理 が 関 係 す る 現 象 を 選 択 式 質 問 紙 に よ っ て 量 的 に の み 評 価 す
る よ り も ,K J 法 を 用 い て 評 価 す る こ と が そ の 現 象 の 様 々 な 意 味 を 汲 み 取 る こ と に つ な が っ
た 。 獣 医 療 に お け る 質 的 研 究 の 報 告 数 は 少 な い ( 矢 野 ,2 01 1; 小 倉 , 201 0- 11; J as on
et
al, 20 08; 木 村 ら ,2 00 9) が , 看 護 学 ( 中 野 , 2 008 )・ 歯 学 ( 山 本 , 20 1 0)・ 心 理 学 ( 岡 本 , 20 0 7)に
お い て 報 告 さ れ て い る KJ 法 と い う 質 的 研 究 法 が 人 間 心 理 が 関 係 す る 獣 医 療 問 題 の 意 味 を
明らかにし,創造的な解決に導く方法として有効である可能性を本研究は示唆した。
79
第 4節
飼主の性格特性の把握への試み~防衛機制とコーピングの側面から
1. 目 的
第 3 章 第 1 節 で は ,『 飼 主 の 性 質 』『 飼 主 の 無 理 解 ( 獣 医 師 基 準 に お け る )』 が 獣 医 師 の
『 ス ト レ ス 状 況 』 と し て 導 き 出 さ れ た 。 第 3 章 第 2 節 で は ,〈 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ
ッ プ が 存 在 す る 〉,〈 ペ ッ ト へ の 獣 医 師 の 理 性 的 な 認 識 と 飼 主 の 理 性 的 ・ 感 情 的 な 認 識 に よ
る ギ ャ ッ プ 〉,〈 獣 医 師 の 理 性 的 説 得 は 飼 主 に 認 知 的 不 協 和 と そ の 低 減 反 応 を 引 き 起 こ す 可
能 性 が あ る 〉,〈 飼 主 の 個 人 的 ・ 感 情 的 な “ ペ ッ ト に 対 す る 物 語 ” は , 獣 医 師 の 理 性 的 説 得
に よ っ て 変 容 し な い 〉 が 導 き 出 さ れ た 。 第 4 章 第 3 節 で は ,〈 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ
ッ プ が 存 在 す る 〉 の は ,〈 獣 医 師 が 飼 主 の 感 情 を う ま く 理 解 で き て い な い こ と に 起 因 す る 〉
が 導 き 出 さ れ た 。 第 3 章 第 3 節 ま で に 導 き 出 さ れ た 仮 説 を 受 け ,「 飼 主 の 性 質 を 獣 医 師 が
メタ認知することは ,飼主との認識のギャップを埋め ,飼主への否定的感情を軽減する 助
けになる」と考えられた。第 3 章第 2 節で,不妊手術に反対する大学院生に不妊手術の有
用 性 の プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン を 行 う と 認 知 的 不 協 和 の 軽 減 反 応 が 生 じ ,そ の 際 に 精 神 分 析 学
上 の 防 衛 機 制 や ス ト レ ス 理 論 上 の ス ト レ ス コ ー ピ ン グ 反 応 ,心 理 的 リ ア ク タ ン ス が 関 係 し
ている可能性についてふれた。こ の た め ,本 節 では飼主の防衛機制とコーピングを調査す
る研究を実施した。
人 間 に よ る 動 物 飼 育 歴 は 一 万 年 を 超 え る が ,人 間 と 動 物 の 関 係 (Hu ma n-A ni mal Bo nd;HAB )
が 科 学 的 に 研 究 さ れ 始 め た の は 197 0 年 代 か ら で あ る 。HA B 研 究 は ,動 物 飼 育 が 人 に 精 神 的 ,
身 体 的 な 様 々 な 効 果 を 与 え る こ と を 明 ら か に し て き た 。序 章 で 述 べ た と お り ペ ッ ト が 人 間
にもたらす効果は,主に生理的効果,心理的効果,社会的効果があるといわれている。こ
れ ら の 効 果 は ペ ッ ト を 所 有 す る こ と だ け で は な く ,ペ ッ ト と の 愛 着 の 深 さ が 関 連 す る と い
う 見 方 も な さ れ て い る (G arr it y et al, 1 989 ) 。 ペ ッ ト が 人 に 与 え る 効 果 は , お お む ね 肯
定的な結果報告が多い。
飼主のパーソナリティ特性について研究されているが,明確な結論には至っていない。
性別,年齢,ライフスタイル,経済状況,飼育動物種,ペットへの愛着度などの様々な要
因 の 影 響 を 受 け る た め と 考 え ら れ て い る ( Gun te r B, 1 99 9) 。 ペ ッ ト の 飼 主 と そ う で な い 人
の パ ー ソ ナ リ テ ィ の 違 い は ほ と ん ど な い と 言 わ れ て い る ( Gu nt er B, 199 9) が , ペ ッ ト と の
愛 着 度 と 飼 主 の 性 質 の 関 連 性 を 示 す こ と は い く つ か 報 告 さ れ て い る ( Joh ns on e t a l,1 99 1
金 児 , 20 06 ;太 田 ら ,2 005 ) 。
本 節 で は , 飼 主 の パ ー ソ ナ リ テ ィ 特 性 を 把 握 す る た め に , 精 神 分 析 学 (F r eud
S,1 89 4;F re ud A,1 93 6) の 視 点 か ら 防 衛 機 制 の 方 略 に , ス ト レ ス コ ー ピ ン グ 理 論 ( Fo lk man et
al, 19 80) の 視 点 か ら ス ト レ ス コ ー ピ ン グ の 方 略 に 視 点 を 当 て 調 査 し た 。 F re ud A ( 1 936 ) は ,
“ 不 安 や 罪 悪 感 か ら 自 我 を 保 護 す る た め に 苦 痛 を 伴 う 考 え を 無 意 識 的 に 隠 し て し ま う ”防
衛機制という自我機能を概念化した。現在,防衛機制という概念は,心理的ストレスへの
対 処 行 動 と し て 行 わ れ る ス ト レ ス コ ー ピ ン グ と い う 概 念 に 組 み 込 ま れ (K lin e, 19 93 ) , 防 衛
機 制 と コ ー ピ ン グ は ス ト レ ス へ の 対 処 方 略 と い う 点 で 共 通 し て い る が ,防 衛 機 制 は 無 意 識
的 で あ り , コ ー ピ ン グ は 意 識 的 で あ る と こ ろ に 違 い が あ る と 指 摘 さ れ て い る (C ra mer ,
199 8) 。 ペ ッ ト が 与 え る 生 理 的 ・ 心 理 的 ・ 社 会 的 効 果 や 自 尊 心 が 低 い ・ 主 観 的 幸 福 感 が 低
い・神 経 症 的 な傾 向 が 強 い等 の 飼 主 の パ ー ソ ナリ テ ィ の 先 行 研 究 を総 合 的 に 防 衛 機 制 とコ
80
ー ピ ン グ の 概 念 か ら と ら え る と ,動 物 飼 育 は 飼 主 に と っ て 社 会 生 活 を 平 穏 に 営 む た め の 防
衛 機 制 や コ ー ピ ン グ の 一 形 態 で あ る こ と が 仮 定 さ れ る 。飼 主 の 防 衛 機 制 や コ ー ピ ン グ 方 略
は,性別,年齢,収入や家族構成などの生活環境,ペットの種類や愛着度,飼育期間など
様 々 な 要 因 に 影 響 を 受 け る 可 能 性 が 考 え ら れ る ( 中 西 , 19 98 ; 神 村 ら , 19 9 5 ; 金 児 ,
200 3, 200 6 ; Gu nt er B , 199 9) た め , 今 回 の 研 究 で は 年 齢 , 生 活 環 境 が 制 御 さ れ た 集 団 と 仮
定される大学生を調査対象とした。大学生に対して 動物飼育の有無,性別,防衛機制測定
尺 度 ( Def en se St yl e Q ues ti onn ai re : D SQ -4 2; 以 下 DSQ )( 中 西 , 1 998 ) , コ ー ピ ン グ 測 定 尺
度 ( Tr i-a xi al Co pi ng Sc al e 2 4 - ite m ve rs ion : TAC -2 4; 以 下 T AC) ( 神 村 ら , 1 99 5) を 問 う
質 問 紙調 査 を 行 い ,動 物 飼育 の 有 無 で の 統 計 的な 差 と 関 連 を 測 定 した 。得 ら れ た 結 果 を踏
まえて飼主のパーソナリティ特性について考察した。
2. 方 法
(1) 調 査 対 象 者
質 問 紙 調 査 は A 大 学 に 所 属 す る 学 生 1 7 0 名 を 対 象 と し た 。2 01 0 年 1 月 か ら 3 月 の 間 に 調
査は行った。調査への参加は自由であること,結果は授業の成績とは無関係で,研究目的
以外では使用しないことを口頭で伝えたうえで,実施した。
(2) 質 問 紙 調 査 と 使 用 尺 度
動 物 飼 育 の 有 無 ,性 別 , DS Q ,T AC に つ い て 問 う 質 問 紙 調 査 を 同 時 実 施 し た 。DS Q は A n dre w
et al (1 99 3 ) が 開 発 し た 邦 訳 版 (中 西 , 19 98) を 使 用 し た 。 2 項 目 の 虚 偽 尺 度 を 除 く と , 20
種 類 の 防 衛 機 制 を 測 定 で き , そ れ ぞ れ 2 項 目 全 40 項 目 の 質 問 紙 で あ る 。 項 目 内 容 が ど の
程 度 自 分 に 当 て は ま る か , 9 件 法 (1- 9 点 ) で 回 答 す る 。 2 0 の 防 衛 機 制 は 内 的 妥 当 性 の 検 討
によって,未熟な防衛,神経症的な防衛,成熟した防衛の 3 つに分類されている。未熟な
防衛は投影,受動攻撃,行動化,隔離,価値下げ,自閉的空想,否認,置き換え,解離,
分 裂 , 合 理 化 , 身 体 化 の 12 の 防 衛 機 制 か ら , 神 経 症 的 な 防 衛 は , 打 ち 消 し , エ セ 愛 他 主
義,理想化,反動形成の 4 つ防衛機制から,成熟した防衛は,昇華,ユーモア,予測,抑
制 の 4 つ の 防 衛 機 制 か ら 構 成 さ れ る 。 神 村 ら ( 199 5) が 作 成 し た T A C は , コ ー ピ ン グ の 分 類
次 元 と し て 「 接 近 ― 回 避 」 軸 ,「 問 題 焦 点 ― 情 動 焦 点 」 軸 ,「 認 知 的 ― 行 動 的 」 軸 の 3 つ の
軸を設定し,この 3 軸の組み合わせでできる 8 つの下位尺度を測定できる質問紙である。
測 定 で き る 8 下 位 尺 度 は 情 報 収 集 ( 接 近 ,問 題 焦 点 ,行 動 ) ,放 棄 ・ 諦 め ( 回 避 ,問 題 焦 点 ,
認 知 ), 肯 定 的 解 釈 (接 近 , 情 動 焦 点 , 認 知 ), 計 画 立 案 (接 近 , 問 題 焦 点 , 認 知 ), 回 避 的
思 考 (回 避 , 情 動 焦 点 , 認 知 ), 気 晴 ら し (回 避 , 情 動 焦 点 , 行 動 ), カ タ ル シ ス (接 近 , 情
動 焦 点 , 行 動 ), 責 任 転 嫁 (回 避 , 問 題 焦 点 , 行 動 )で あ る 。 そ れ ぞ れ の 下 位 尺 度 が 3 項 目
で 測 定 さ れ , 全 2 4 の 質 問 項 目 が あ る 。「 精 神 的 に つ ら い 状 況 に 遭 遇 し た と き に , そ の 場 を
乗り越え,落ち着くために,あなたは普段からどのように考え,どのように行動するよう
に し て い ま す か 」 と の 教 示 に , 各 項 目 へ の 当 て は ま り 程 度 に よ っ て 5 件 法 (1 - 5 点 )で 回 答
する。使用した質問紙調査票は巻末に資料 2 として添付した。
(3) 統 計 学 的 解 析
81
DS Q と T A C は 尺 度 検 討 の た め 因 子 分 析 を 行 い , 下 位 尺 度 を 求 め た 。 下 位 尺 度 得 点 総 和 平
均値の差を,性別と動物飼育の有無において t 検定によって検定した。また,性別による
平 均 値の 差 は ,動 物 飼 育 の有 無 の 結 果 に 影 響 する 予 想 の も と ,性 別 と 動物 飼 育 の 有 無 にお
け る 2 要 因 分 散 分 析 を 行 い ,その 交 互 作 用 と 主効 果 を 検 定 し た 。つ づ いて 動 物 飼 育 の 有無
を 従 属 変 数 ,各 下 位 尺 度 の 平 均 値 と 性 別 を 独 立 変 数 と し 多 重 ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 に よ
っ て 各 独 立 変 数 の 動 物 飼 育 へ の 有 無 へ の 影 響 度 合 い を 解 析 し た 。動 物 飼 育 の 有 無 に お い て
変数1が飼育あり,変数 0 が飼育なしとして,性別においては変数 1 が男性,2 が女性で
解 析 し た 。分 析 ソ フ ト と し て S PSS (V ers io n1 0.0 ) を 使 用 し ,有 意 確 率 の 基 準 を .0 5 と し た 。
3. 結 果
(1) 調 査 対 象 者
調 査 対 象 者 1 70 名 の う ち , 回 答 態 度 に 問 題 が あ る も の ( す べ て の 項 目 に 同 一 得 点 で 回 答
し て い る な ど ) , DS Q 虚 偽 尺 度 で 5 以 下 が 2 つ 以 上 あ る も の , 欠 損 値 が あ る も の を 除 い た
13 9 名 ( 男 5 9 名 女 8 0 名 , 動 物 飼 育 経 験 あ り 97 名 飼 育 経 験 な し 42 名 )を 研 究 に 用 い た 。 動
物 飼 育経 験 あ り は ,現 在 飼育 し て い る も の ,今 は 飼育 し て い な い が飼 育 し た こ と が あ るも
の を 含 ん で い る 。 男 性 の う ち 飼 育 経 験 あ り は 38 名 , 女 性 の う ち 飼 育 経 験 あ り は 59 名 だ っ
た。
(2) 下 位 尺 度 検 討
1) DS Q
DSQ の 虚 偽 尺 度 ( 項 目 5,1 5) を 除 い た 全 4 0 項 目 に 対 し , 因 子 分 析 ( 主 因 子 解 , プ ロ マ ッ ク
ス 回 転 ) を 行 っ た 。 質 問 項 目 8 (.6 5) , 1 0( .8 2) , 2 0(. 81 )で フ ロ ア 効 果 を 認 め た 。 固 有 値 の
減 衰 状 況 (4 .8, 3. 1, 2. 7,2 .2 ,2. 0, 1.7 ,1 .6 ・ ・ ・ ) か ら , ス ク リ ー プ ロ ッ ト 基 準 お よ び 解 釈
可 能 性 に よ り 3 因 子 構 造 が 妥 当 と 判 断 し た 。 こ の 際 , 共 通 性 が 0.1 以 下 で 因 子 負 荷 量 の 低
か っ た 質 問 項 目 2 ,6 ,7 ,8, 20 ,21 ,2 3,2 4, 30 ,4 2 を 除 去 し た ( 表 5- 1) 。第 1 因 子 は ,And re w s et
al( 19 93) に よ っ て 未 熟 な 防 衛 と さ れ る 項 目 群 か ら 主 に 構 成 さ れ た 。隔 離 ,価 値 下 げ ,否 認 ,
解離,投影,置き換え,自閉的空想など極端な思考が特徴的であり「極端思考による未熟
な 防 衛 」 と 名 づ け た 。 因 子 負 荷 量 の 順 に 質 問 項 目 39 ,1 1,9 ,1 0, 14, 33 ,31 ,1 9,3 6 の 9 項 目 で
測 定 さ れ る ( 表 5- 2) 。 第 2 因 子 は 未 熟 な 防 衛 と 神 経 症 的 な 防 衛 と 昇 華 が 混 在 し , 行 動 化 や
身体化,置き換え,エセ愛他主義,受動攻撃など自己が統制されていない防衛機制が特徴
的で「行動化・身体化中心の非自己統制的防衛」と名づけた。因子負荷量の順に質問項目
35, 12 ,3, 13 ,29 ,3 4, 41 ,16 ,2 6,1 ,3 8,2 5, 22 の 1 3 項 目 で 測 定 さ れ る ( 表 5- 3) 。 第 3 因 子 は 合
理 化 と成 熟 し た 防 衛 か ら 構成 さ れ 自 己 統 制 的 であ り「 成 熟 し た 自 己統 制 的 防 衛 」と 名 づけ
た 。 因 子 負 荷 量 の 順 に 質 問 項 目 4, 32, 37 ,2 8,2 7, 40, 18 ,1 7 の 8 項 目 で 測 定 さ れ る ( 表 5 - 4 ) 。
α 係 数 は 「 極 端 思 考 に よ る 未 熟 な 防 衛 」 ( α = .7 5),「 行 動 化 ・ 身 体 化 中 心 の 非 自 己 統 制 的
防 衛 」 ( α = .72 ),「 成 熟 し た 自 己 統 制 的 防 衛 」 ( α = .6 9) と な り , あ る 程 度 の 内 的 一 貫 性 が
示された。
82
表5-1 DSQの因子分析における除去項目(虚偽尺度含め12項目)
Andrew
et al.の防 Andrew et al.の
防衛スタイル
衛分類*
Ⅲ
質問
番号
質問項目
抑制
2
問題を処理する時間ができる時まで、その問題を考えないようにしておける。
虚偽尺度
5
時々今日すべきことを明日まで引き伸ばす。
Ⅲ
ユーモア
6
自分の失敗を笑いに変えることが容易にできる。
Ⅰ
投影
7
人に利用されることが多い。
Ⅱ
反動形成
8
もし誰かが私を襲ってお金を盗んだとしても、罰せられるより犯人がそのお金で助かることを望む。
虚偽尺度
15
私がいつでも本当のことを言うとは限らない。
Ⅰ
否認
20
私は何も恐れない。
Ⅰ
分裂
21
ある時には自分が天使であると思い、ある時には悪魔であると思う。
Ⅱ
理想化
23
知っている誰かが自分の守り神のようだといつも感じている。
Ⅰ
分裂
24
私の知っているかぎりでは、人は善か悪のいずれかである。
Ⅱ
反動形成
30
当然怒りを感じるべき人に対して、自分がとても親切であることにしばしば気がつく。
Ⅱ
打消し
42
もし攻撃的な考えをもったら、それを打ち消すために何かをする必要性を感じる。
*Ⅰは未熟な防衛、Ⅱは神経症的な防衛、Ⅲは成熟した防衛を示す。質問番号の小さい順に記載した。
表5-2 DSQの因子分析における第1因子「極端思考による未熟な防衛」の構成質問項目(9項目)
Andrew et
al.の防衛
分類*
Andrew et al.の 質問
防衛スタイル 番号
質問項目
Ⅰ
隔離 39
激しい感情を引き起こすような状況においても、何も感じないことがしばしばある。
Ⅰ
価値下げ 11
うぬぼれている人の鼻をへし折る能力は私の誇りだ。
Ⅰ
否認 9
不愉快な事実を、それがまるで存在しないかのように無視する傾向がある、と人から言われる。
Ⅰ
解離
10
自分がまるで不死身であるかのように危険を無視する。
Ⅰ
価値下げ
14
とても内気な人間だ。
Ⅰ
置き換え
33
医者は私のどこが悪いのか、けっして本当にはわからない。
Ⅰ
投影
31
人生において自分が不当な扱いを受けていると確信している。
Ⅰ
自閉的空想
19
現実の生活においてよりも空想において物事をやり遂げる。
Ⅰ
隔離
36
しばしば自分の感情を見せないと人から言われる。
*Ⅰは未熟な防衛、Ⅱは神経症的な防衛、Ⅲは成熟した防衛を示す。因子負荷の高かった質問項目から順番に記載した。
83
表5-3 DSQの因子分析における第2因子「行動化・身体化中心の非自己統制的防衛」の構成質問項目(13項目)
Andrew et
al.の防衛
分類*
Andrew et al.の防
衛スタイル
質問
番号
Ⅰ
置き換え
35
落ち込んでいたり不安な時には、食べることで気分が良くなる。
Ⅰ
行動化
12
何かに悩まされている時には、しばしば衝動的に行動する。
質問項目
Ⅲ
昇華
3
不安を抑えるために何か建設的かつ創造的なことをする(例えば描画や工作)。
Ⅰ
身体化
13
物事がうまくいかない時には、体の具合が悪くなる。
Ⅰ
身体化
29
好きでないことをしなければならない時には頭が痛くなる。
Ⅱ
打消し
34
自分の権利のために戦った後で、その主張について謝る傾向がある。
Ⅱ
エセ愛他主義
41
もし危機にあったら、同じ問題を抱えている人を捜し出すだろう。
Ⅰ
自閉的空想
16
実生活でよりも空想上で満足を得る事が多い。
Ⅱ
理想化
26
何でもすることができて、絶対的に公平かつ公正である人が知人にいる。
Ⅱ
エセ愛他主義
1
私は他人を助けることで満足を得る。もし助ける機会を取り上げられたら、気分が沈むだろう。
Ⅰ
受動攻撃
38
たとえどれだけ不平を言っても、けっして満足のいくような回答を得られない。
Ⅰ
受動攻撃
25
もし上司が私をいらいらさせたら、仕事でわざとミスしたり、ゆっくりやったりして仕返しをする。
Ⅰ
行動化
22
傷つけられると、あからさまに攻撃的になる。
*Ⅰは未熟な防衛、Ⅱは神経症的な防衛、Ⅲは成熟した防衛を示す。因子負荷の高かった質問項目から順番に記載した。
表5-4 DSQの因子分析における第3因子「成熟した自己統制的防衛」の構成質問項目(8項目)
Andrew et
al.の防衛
分類*
Andrew et al.
の防衛スタイ
ル
質問
番号
Ⅰ
合理化
4
やる事には何でも、正当な理由を見つけることができる。
Ⅲ
予測
32
困難な状況に出会うことが分かった時には、その内容を予測し対策を立てる。
Ⅲ
予測
37
悲しい出来事が事前に予測できたなら、それにもっとうまく対応することができる。
Ⅲ
ユーモア
28
苦しい状況でも、そのおもしろい側面を見つけることができる。
Ⅲ
抑制
27
自分の活動の妨げになるような感情を私は抑え続けることができる。
Ⅲ
昇華
40
手近な仕事に集中することで、気分が沈んだり不安になったりすることを避けられる。
Ⅰ
合理化
18
物事がうまくいかない時にはもっともな理由がある。
Ⅰ
解離
17
問題なく人生をやり過ごせるような特別な才能をもっている。
質問項目
*Ⅰは未熟な防衛、Ⅱは神経症的な防衛、Ⅲは成熟した防衛を示す。因子負荷の高かった質問項目から順番に記載した。
84
2) TA C
TAC の 全 24 項 目 に 対 し , 因 子 分 析 ( 主 因 子 解 , プ ロ マ ッ ク ス 回 転 ) を 行 っ た 。 項 目 2 4 (.9 5)
で フ ロ ア 効 果 を 認 め た 。 項 目 固 有 値 の 減 衰 状 況 ( 5.3 ,3 .2, 2. 2, 2.0 ,1 .3, 1. 0,0 .9 ・ ・ ・ ) か
ら ,ス ク リー プ ロ ッ ト 基 準お よ び 解 釈 可 能 性 によ り 4 因 子 構 造 が 妥当 と 判 断 し た 。第 1 因
子 は , 神 村 ら (1 99 5) が 分 類 し た カ タ ル シ ス , 情 報 収 集 , 気 晴 ら し 肯 定 的 解 釈 の 項 目 か ら 構
成 さ れる 因 子 で あ り ,人 と の 関係 の 中 で お こ なう コ ー ピ ン グ が ほ とん ど で あ り「 対 人 資源
利 用 コ ー ピ ン グ 」 と 名 づ け た 。 因 子 負 荷 量 の 順 に 質 問 項 目 18 ,2, 10 ,6, 20 ,9, 22 ,1 2, 17 の 9
項 目 で 測 定 さ れ る ( 表 5- 5) 。 第 2 因 子 は , 計 画 立 案 , 情 報 収 集 の 項 目 か ら 構 成 さ れ 「 問 題
解 決 コ ー ピ ン グ 」 と 名 づ け た 。 因 子 負 荷 量 の 順 に 質 問 項 目 5, 13, 21 ,1 4 の 4 項 目 で 測 定 さ
れ る ( 表 5- 6) 。 第 3 因 子 は , 放 棄 ・ 諦 め , 責 任 転 嫁 の 項 目 か ら 構 成 さ れ 「 問 題 回 避 コ ー ピ
ン グ 」と 名 づ け た 。因 子 負 荷 量 の 順 に 質 問 項 目 1 5, 8,2 3, 24, 16 , 7 の 6 項 目 で 測 定 さ れ る ( 表
5-7 )。 第 4 因 子 は , 回 避 的 思 考 , 気 晴 ら し , 肯 定 的 解 釈 の 項 目 か ら 構 成 さ れ 「 思 考 停 止 コ
ー ピ ン グ 」と 名 づ け た 。因 子 負 荷 量 の 順 に 質 問 項 目 3 ,11 ,1 9,4 , 1 の 5 項 目 で 測 定 さ れ る ( 表
5-8 )。 α 係 数 は 「 対 人 資 源 利 用 コ ー ピ ン グ 」 (α =. 84 ),「 問 題 解 決 コ ー ピ ン グ 」 (α =.7 9) ,
「 問 題 回 避 コ ー ピ ン グ 」 ( α = .73 ) ,「 思 考 停 止 コ ー ピ ン グ 」 ( α =.6 3) と な り , あ る 程 度 の
内 的 一 貫 性 が 確 認 さ れ た 。D SQ ,T A C か ら 抽 出 さ れ た 各 因 子 間 の 単 相 関 分 析 結 果 を 表 5 - 9 に
示す。
85
表5-5 TACの因子分析における第1因子「対人資源利用コーピング」
の構成質問項目(9項目)
神村らが分類し
た下位尺度
質問
番号
カタルシス
18
誰かに愚痴をこぼして気持ちをはらす
カタルシス
2
誰かに話を聞いてもらい気を静めようとする
カタルシス
10
誰かに話を聞いてもらって冷静さを取り戻す
情報収集
6
力のある人に教えを受けて解決しようとする
気晴らし
20
友だちとお酒を飲んだり好物を食べたりする
肯定的解釈
9
今後はよいこともあるだろうと考える
情報収集
22
既に経験した人から話を聞いて参考にする
気晴らし
12
買い物や賭け事、おしゃべりなどで時間をつぶす
肯定的解釈
17
悪い面ばかりでなくよい面を見つけていく
質問項目
因子負荷の高かった質問項目から順番に記載した。
表5-6 TACの因子分析における第2因子「問題解決コーピング」の構成質
問項目(4項目)
神村らが分類し
た下位尺度
質問
番号
計画立案
5
原因を検討しどのようにしていくべきか考える
計画立案
13
どのような対策をとるべきか綿密に考える
計画立案
21
過ぎたことの反省をふまえて次にすべきことを考える
情報収集
14
詳しい人から自分に必要な情報を収集する
質問項目
因子負荷の高かった質問項目から順番に記載した。
86
表5-7 TACの因子分析における第3因子「問題回避コーピング」の構
成質問項目(6項目)
神村らが分類し
た下位尺度
質問
番号
放棄・諦め
15
自分では手に負えないと考え放棄する
責任転嫁
8
自分は悪くないと言い逃れをする
放棄・諦め
23
対処できない問題だと考え、あきらめる
責任転嫁
24
口からでまかせを言って逃げ出す
責任転嫁
16
責任を他の人に押しつける
放棄・諦め
7
どうすることもできないと解決を後延ばしにする
質問項目
因子負荷の高かった質問項目から順番に記載した。
表5-8 TACの因子分析における第4因子「思考停止コーピング」
の構成質問項目(5項目)
神村らが分類し
た下位尺度
質問
番号
回避的思考
3
嫌なことを頭に浮かべないようにする
回避的思考
11
そのことをあまり考えないようにする
回避的思考
19
無理にでも忘れるようにする
気晴らし
4
スポーツや旅行などを楽しむ
肯定的解釈
1
悪いことばかりでないと楽観的に考える
質問項目
因子負荷の高かった質問項目から順番に記載した。
87
表5-9 DSQ、TACの下位尺度間の単相関(N =139)
変数
1
DSQ-42
1.極端思考による未熟な防衛
―
2
.34
2.行動化・身体化中心の非自
己統制的防衛
3
**
―
3.成熟した自己統制的防衛
4
5
7
-.08
.45
**
-.13
.11
.06
.34
**
.03
-.03
.39**
-.21*
.21*
―
.31**
-.12
.24*
0.10
-.46
.06
―
**
6
TAC-24
4.対人資源利用コーピング
5.問題解決コーピング
―
6.問題回避コーピング
-.28
―
7.思考停止コーピング
**
-.01
.12
―
*p <.05,**p <.01
88
(3) 性 別・動 物 飼 育 の 有 無 に お け る DS Q と T AC の 下 位 尺 度 得 点 総 和 平 均 値 の 差 ( t 検 定 )( 表
5-1 0 , 表 5- 11 )
動物飼育の有無において有意差は認めなか ったが,飼育経験ありで「行動化・身体化中
心 の 非 自 己 統 制 的 防 衛 」 で p =. 0 5 で 高 く ,「 対 人 資 源 利 用 コ ー ピ ン グ 」 で p =.0 5 で 低 か っ
た 。 性 別 で は , 男 性 で 「 極 端 思 考 に よ る 未 熟 な 防 衛 」「 成 熟 し た 自 己 統 制 的 防 衛 」 が 有 意
に高く,女性で「対人資源利用コーピング」が有意に高かった。
89
表5-10 動物飼育の有無および性別のDSQの下位尺度における平均値の差(t検定)(N =139)
DSQ-42の下位尺度
行動化・身体化中
極端思考による未
成熟した自己統制
心の非自己統制的
熟な防衛
的防衛機制
防衛
動物飼育の有無
飼育経験あり(N =97) Mean(S.D.)
4.06(1.36)
4.98(1.04)
5.10(1.24)
飼育経験なし(N =42) Mean(S.D.)
3.76(1.21)
4.61(1.04)
4.95(0.94)
ns
ns(ただしp =.05)
ns
t値
性別
男性(N =59)
Mean(S.D.)
4.54(1.34)
4.85(1.09)
5.46(1.05)
女性(N =80)
Mean(S.D.)
3.56(1.15)
4.88(1.03)
4.75(1.15)
t (137)=4.64,p <.01
ns
t (137)=3.70,p <.01
t値
表5-11 動物飼育の有無および性別のTACの下位尺度における平均値の差(t検定)(N =139)
TAC-24の下位尺度
対人資源利用
コーピング
問題解決コーピン 問題回避コーピン 思考停止コーピン
グ
グ
グ
動物飼育の有無
飼育経験あり(N =97) Mean(S.D.)
3.59(0.79)
3.57(0.81)
2.45(0.68)
3.14(0.73)
飼育経験なし(N =42) Mean(S.D.)
3.81(0.52)
3.59(0.74)
2.45(0.64)
3.04(0.66)
ns(ただしp =.05)
ns
ns
ns
t値
性別
男性(N =59)
Mean(S.D.)
3.37(0.79)
3.62(0.82)
2.46(0.68)
2.98(0.73)
女性(N =80)
Mean(S.D.)
3.87(0.60)
3.55(0.76)
2.45(0.66)
3.20(0.68)
t (137)=4.03,p <.01
ns
ns
ns
t値
90
(4) 動 物 飼 育 の 有 無 と 性 別 の D SQ と TAC の 下 位 尺 度 得 点 総 和 平 均 値 に お け る 2×2 の 二 要 因
分 散 分 析 ( 表 5 -12 , 5- 13)
DSQ に お い て 交 互 作 用 は 認 め な か っ た 。 動 物 飼 育 あ り に お け る 主 効 果 で 有 意 差 は 認 め な
か っ た 。性 別 に お け る 主 効 果 は ,
「極端思考による未熟な防衛」
「成熟した自己統制的防衛」
において男性が有意に高かった。
TAC に お い て 交 互 作 用 は 認 め な か っ た 。 動 物 飼 育 の 有 無 に お け る 主 効 果 で , 飼 育 あ り に お
け る 「 対 人 資 源 利 用 コ ー ピ ン グ 」 で 有 意 に 低 か っ た 。 性 別 に お け る 主 効 果 は ,「 対 人 資 源
利 用 コ ー ピ ン グ 」「 思 考 停 止 コ ー ピ ン グ 」 に お い て 女 性 が 有 意 に 高 か っ た 。
91
表5-12 動物飼育の有無と性別のDSQ下位尺度の平均値における2×2の二要因分散分析(N =139)
動物飼
育の有
無
極端思考による未熟 行動化・身体化中心 成熟した自己統制的
な防衛
の非自己統制的防衛 防衛機制
性別
男 Mean(S.D.)
[N =38]
女 Mean(S.D.)
[N =59]
男 Mean(S.D.)
[N =21]
女 Mean(S.D.)
[N =21]
飼育経
験あり
飼育経
験なし
4.69(1.43)
4.95(1.03)
5.56(1.10)
3.66(1.16)
5.01(1.06)
4.80(1.25)
4.26(1.13)
4.68(1.20)
5.27(0.97)
3.26(1.09)
4.53(0.88)
4.62(0.81)
ns
ns
ns
ns
ns
ns
F (1,135)=19.71,p <.01
ns
F (1,135)=11.67,p <.01
交互作用
動物飼育の有無
主効果
性別
表5-13 動物飼育の有無と性別のTAC下位尺度の平均値における2×2の二要因分散分析(N =139)
動物飼
育の有
無
飼育経
験あり
飼育経
験なし
性別
男 Mean(S.D.)
[N =38]
女 Mean(S.D.)
[N =59]
男 Mean(S.D.)
[N =21]
女 Mean(S.D.)
[N =21]
対人資源利用コーピ
ング
問題解決コーピング
問題回避コーピング
思考停止コーピング
3.22(0.90)
3.62(0.87)
2.46(0.70)
3.09(0.76)
3.82(0.62)
3.55(0.77)
2.45(0.67)
3.17(0.71)
3.64(0.45)
3.62(0.76)
2.47(0.66)
2.78(0.65)
3.98(0.54)
3.56(0.75)
2.43(0.63)
3.30(0.58)
ns
ns
ns
ns
動物飼育の有無
F (1,135)=5.24,p <.05
ns
ns
ns
性別
F (1,135)=14.08,p <.01
ns
ns
F (1,135)=5.15,p <.05
交互作用
主効果
92
(5) D SQ と T A C の 下 位 尺 度 得 点 総 和 平 均 値 と 性 別 の 動 物 飼 育 の 有 無 に 対 す る 影 響 の 度 合 い
(多 重 ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 )
事 前 に 変 数 の 散 布 図 を 観 察 し ,著 し く 直 線 関 係 を 示 す 変 数 が 存 在 し な い こ と を 確 認 し た 。
有 意 確 率 ( p )が .0 5 以 下 の 独 立 変 数 結 果 の み 表 5 -1 4 に 示 す 。偏 回 帰 係 数 が 0 以 上 の 従 属 変
数は動物飼育の有りに対して正の影響を,0 以下の変数は負の影響を示す従属変数である
こ と を示 す 。オ ッ ズ 比 は ,独 立変 数 で あ る 動 物飼 育 の 有 が 起 こ る 確率 と 無 が 起 こ る 確 率の
比 で あ る た め ,オ ッ ズ 比 が 1 以 上 で は そ の 従 属 変 数 が 比 率 に 応 じ 動 物 飼 育 あ り に 正 の 影 響
を , 1 以 下 で は 負 の 影 響 を 与 え る こ と を 示 す 。 従 属 変 数 の 性 別 に 対 し て , 男 性 は 1, 女 性
は 2 を与 え て い る た め ,偏 回 帰係 数 が 0 以 上 ,オ ッズ 比 が 1 以 上 は女 性 で あ る こ と が 動物
飼育ありに対して比率に応じた正の影響を与えることを示す。分析によって「行動化・身
体 化 中 心 の 非 自 己 統 制 的 防 衛 」 (偏 回 帰 係 数 = .4 34 , オ ッ ズ 比 1 .54 4) ,「 対 人 資 源 利 用 コ ー
ピ ン グ 」 ( 偏 回 帰 係 数 =- .7 81 , オ ッ ズ 比 .4 58) , 性 別 ( 偏 回 帰 係 数 = .8 28 , オ ッ ズ 比 2 .28 8)
が検出された。よって動物飼育の有無は「行動化・身体化中心の非自己統制的防衛」と女
性 で あ る こ と か ら 正 の 影 響 を ,「 対 人 資 源 利 用 コ ー ピ ン グ 」 か ら 負 の 影 響 を 受 け る こ と が
明らかになった。
93
表5-14 動物飼育の有無を従属変数、DSQとTACの各下位尺度の平均値および性別を
独立変数とした尤度比による変数減少法を用いた多重ロジスティック回帰分析(N =139)
偏回帰係数
有意確率
(p )
オッズ比
オッズ比の95%信頼区間
下限
上限
行動化・身体化中心の
非自己統制的防衛
.434
.023
1.544
1.061
2.248
対人資源利用コーピン
グ
-.781
.015
.458
.244
.859
性別
.828
.047
2.288
1.010
5.184
定数
.364
.784
モデルχ 2検定
p <.01
ホスマー・レメショウの
検定
p =.197
実測値に対して予測値が±3S.D. を超える外れ値の存在なし
94
4. 考 察 ; 「 対 人 資 源 利 用 コ ー ピ ン グ 」が 低 く ,
「 行 動 化・身 体 化 中 心 の 非 自 己 統 制 的 防 衛 」
が高い動物飼育者
結 果 から 大 学 生 の 動 物 飼 育者 は 非 飼 育 者 に 比 べ行 動 化・身 体 化 中 心の 非 自 己 統 制 的 防衛
が 高 く ,対人 資 源 を コ ー ピン グ と し て 利 用 し にく い 傾 向 と ,男 性 より 女 性 が ペ ッ ト を 飼育
す る 傾向 が あ る こ と が 明 らか に な っ た 。こ の 結果 は ,動 物 飼 育 が 飼主 の 防 衛 機 制 と コ ーピ
ングの方略の一つとなっている可能性を示唆している。
心 理 臨 床 に お け る 行 動 化 や 身 体 化 は ,無 意 識 の 葛 藤 や 衝 動 を 言 語 化 で き な い た め に 生 じ
る 行 動 ・ 身 体 表 現 と 定 義 さ れ ( 中 村 , 19 99 ), 時 に 攻 撃 的 で 治 療 妨 害 的 に 働 き , 心 理 療 法 を
中 断 させ る ほ ど の エ ネ ル ギー を 持 つ 。ま た ,ス ト レス コ ー ピ ン グ 方略 と し て 対 人 資 源 を利
用 し な い と い う こ と は ,社 会 資 源 を ス ト レ ス 解 消 の た め 利 用 し づ ら い 性 格 特 性 や 環 境 要 因
が想像され,コーピング方略としては貧弱であることが想像される。
Her zog ら ( 1 99 1 ) は , 動 物 に 対 す る 男 女 の 行 動 や 考 え 方 の 違 い に つ い て 報 告 し て い る 。
こ の 中 で 男 性 は 女 性 に 比 べ て 動 物 の 関 心 が 低 い と さ れ て い る が ,女 性 の 学 生 の 方 が ペ ッ ト
飼 育 し て い た 本 研 究 結 果 を 支 持 す る 。女 性 は 愛 育 的 で 思 い や り を 持 つ よ う に 社 会 化 さ れ て
い る の に 対 し ,男 性 は 女 性 に 比 べ て 感 情 的 に な ら な い よ う に 条 件 づ け ら れ て い る と い う こ
とから説明されている。
し か し な が ら ,動 物 飼 育 が「 行 動 化・身 体 化 中 心 の 非 自 己 統 制 的 防 衛 」を 高 く し た り「 対
人資源利用コーピング」を低くしたりするのか,また,飼育しようとする人の傾向がそう
なのかは今回の研究で明らかに出来なかった。条件を統制した追試が必要と考えられる。
5. 無 意 識 の 衝 動 に つ な が っ た 感 情 的 動 機 , 対 人 資 源 の 代 償
本 節 に よ っ て ,〈 飼 主 は 「 行 動 化 ・ 身 体 化 中 心 の 非 自 己 統 制 的 防 衛 」 が 高 く ,「 対 人 資 源
利用コーピング」が低い傾向を有する〉ことが明らかとなった。行動化・身体化中心の非
自 己 統 制 的 防 衛 」 が 高 い こ と か ら ,〈 ペ ッ ト 飼 育 は , 無 意 識 の 衝 動 に つ な が っ た 感 情 的 な
動 機 で あ る 〉 可 能 性 が あ る 。 ま た ,「 対 人 資 源 利 用 コ ー ピ ン グ 」 が 低 い こ と か ら , 飼 主 は
社会資源をストレスコーピングに利用しづらい環境もしくは性格要因をもつことが示唆
され,飼主にとって〈ペット飼育は,対人資源コーピングの代償となっている〉可能性も
あ り , そ の た め 飼 主 は “ 心 の す き ま ”“ 心 の 傷 ” を 埋 め る 唯 一 無 二 の 存 在 ( 香 山 , 2 008 )
と し てペ ッ ト を 認 識 し て いる 可 能 性 が あ る。こ う 考 え ると 病 気 の ペッ ト を 携 え て 動 物 病院
を 訪 れ る 飼 主 が ,自 身 の 重 要 な ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト で あ る ペ ッ ト が 病 気 の た め に 不 安 に な
り,非自己統制的な性質のため攻撃的,神経質,身勝手という性質が顕在し,獣医師にそ
のように認識されることがあることは説明できる。そして裏を返せば,攻撃的,神経質,
身 勝 手が 顕 在 し て し ま う〈 獣 医師 に と っ て ス トレ ス の 多 い 飼 主 は ,感情的な危機の状態に
ある〉ことも推察される。
飼 主 の こ の 防 衛 機 制 と コ ー ピ ン グ の 傾 向 や 感 情 の 危 機 を 認 知 し て お く こ と は ,獣 医 師 の
適 切 な 飼 主 へ の 対 応 に 繋 げ る こ と が で き ,獣 医 師 の ス ト レ ス を 軽 減 す る こ と に 繋 げ ら れ る
か も し れ な い 。〈 飼 主 の 個 人 的 ・ 感 情 的 な “ ペ ッ ト に 対 す る 物 語 ” は , 獣 医 師 の 理 性 的 説
得 に よ っ て 変 容 し な い 〉( 第 3 章 第 2 節 ),〈 飼 主 は 獣 医 師 に 対 し て 必 ず し も 最 新 の 獣 医 学
知 見 に基 づ い た 治 療 を 期 待し て い る わ け で は なく ,獣 医師 の 人 間 性 等 の 資 質 と 治 療 プ ロセ
ス の 適 切 な 説 明 に よ っ て 対 応 し て も ら う こ と を 期 待 し て い る 〉 (第 3 章 第 3 節 )と 合 わ せ ,
95
〈 飼 主 は「 行 動 化 ・ 身 体 化 中 心 の 非 自 己 統 制 的 防 衛 」が 高 く ,
「対人資源利用コーピング」
が低い傾向を有する〉という〈飼主の性質を獣医師がメタ認知することは,飼主との認識
のギャップを埋め,飼主への否定的感情を軽減する助けになる〉と考えられる。
6. 残 さ れ た 課 題
DS Q に 関 し て 邦 訳 版 の 因 子 妥 当 性 を 検 討 し た 研 究 で 未 成 熟 ・ 神 経 症 的 ・ 成 熟 と い う 3 因
子 構 造 を 否 定 す る 結 果 が 出 て い る こ と ( Ha yas hi et al ,2 00 4) か ら , 本 研 究 で は D S Q と T AC
に お い て 再 度 因 子 検 討 を 行 っ た 。 下 位 尺 度 の 因 子 数 (DS Q で 3 つ , T AC で 4 つ )は 先 行 研 究
と 同 様 な 傾 向 で 検 出 さ れ た こ と (吉 住 ら , 200 8) , ま た 下 位 尺 度 間 の 単 相 関 ( 表 9) に お い て
未 熟 な防 衛 機 制 で あ る「 極 端 思考 に よ る 未 熟 な防 衛 」が 同 じ く 比 較的 未 熟 な 防 衛 機 制 であ
る「行動化・身体化中心の非自己統制的防衛」や問題の解決にならない「問題回避コーピ
ング」などと正の相関があり,社会性を必要とする「対人資源利用コーピング」と負の相
関 が ある な ど ,信 頼 性 や 構成 概 念 妥 当 性 は あ る程 度 確 保 さ れ て い ると 考 え ら れ る 。大 学生
へ の 施 行 の た め ,年 齢 に よ る デ ー タ へ の 影 響 は お お む ね 統 制 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。性
差 に よ る 動 物 に 対 す る 態 度 の 差 は , 先 行 研 究 で 認 め ら れ て お り ( Ke lle rt et al ,1 98 7; 金 児 ,
200 6) , 性 別 に よ る 平 均 値 の 差 は , 動 物 飼 育 の 有 無 の 結 果 に 影 響 す る 予 想 の も と 二 要 因 の
分 散 分 析 を 実 施 し た 。 D SQ , T AC と も に 性 別 と 動 物 飼 育 の 有 無 に お け る 交 互 作 用 は 認 め ず ,
動 物 飼 育 の 有 無 と 性 別 は そ れ ぞ れ 独 自 に 本 研 究 結 果 に 影 響 し て い る こ と が 観 測 さ れ た 。動
物 飼 育 の 有 無 に 対 す る 性 別 , DS Q と TA C の 結 果 の 多 重 的 な 影 響 を 評 価 す る た め 多 重 ロ ジ ス
テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 を 行 っ た が ,こ の 統 計 手 法 は お も に 変 数 か ら の 予 想 を 行 う た め に 使 用 さ
れる手法であり,今回の研究への妥当性は議論が必要である。
大 学 生 に 行 っ た DS Q や TA C に 対 し て 動 物 飼 育 の 有 無 と 性 別 だ け で 統 計 学 的 に あ る 程 度 の
差 異 が 測 定 さ れ た こ と は ,測 定 要 因 を さ ら に 制 御 す る こ と で も う 少 し 詳 し く 飼 主 の 防 衛 機
制 と コ ー ピ ン グ の 方 略 に つ い て 理 解 す る こ と が で き る か も し れ な い 。本 研 究 で は ペ ッ ト へ
の 愛 着 に 対 す る 影 響 を 測 定 し て い な い 。犬 に 対 す る 愛 着 度 が 飼 主 の 身 体 的 精 神 的 健 康 度 に
正 の 影 響 を 与 え る こ と ( 杉 田 , 200 3) , ペ ッ ト 喪 失 時 の 悲 嘆 反 応 で あ る ペ ッ ト ロ ス が ペ ッ ト
と の 愛 着 度 に 関 係 し て い る こ と (新 島 , 20 06) , ペ ッ ト へ の 愛 着 が 強 い 人 ほ ど 主 観 的 幸 福 感
が 低 い こ と や 飼 主 は ペ ッ ト に 愛 情 を 注 ぐ こ と で 情 緒 的 な サ ポ ー ト を 得 て い る 一 方 ,周 囲 の
他 者 と 良 好 か つ 深 い 関 係 を 結 ぶ 機 会 を 犠 牲 に し て い る ( 金 児 , 200 6) と い う 指 摘 は , ペ ッ ト
への愛着度と飼主の防衛機制とコーピングの方略が関連していることが想像される。ペッ
トへの愛着度は,飼育する動物種,飼育期間,性別,一人暮らしか否か,同居の子供がい
る か 否 か , 飼 主 の 年 齢 か ら 影 響 を う け る ( Gun te r B, 199 9 ; 杉 田 , 20 05 ) た め , ペ ッ ト と の
愛着度を関連づけた飼主の防衛機制とコーピングの方略の再調査は必要であると考えら
れる。
有 意 差 の あ る デ ー タ も あ る が 統 計 学 的 差 異 は 小 さ い こ と ,防 衛 機 制 と コ ー ピ ン グ 方 略 に
影 響 を 与 え る 要 因 が 動 物 飼 育 以 外 に 多 岐 に わ た る と 想 像 さ れ る こ と ,特 に 動 物 種 や 飼 育 期
間やペットへの愛着度等の影響要因が測定できていないことを充分考慮して本研究の結
果を解釈しなければならない。
D SQ に 関 し て , 防 衛 機 制 は 無 意 識 の 機 能 な の で 自 己 申 告 制 の 質 問 紙 で は 測 定 で き な い と
い う 意 見 が あ る (Sj ob ack ,1 991 ) こ と か ら 結 果 の 解 釈 は 慎 重 に 行 わ れ な け れ ば な ら な い 。
96
TAC に 関 し て も , 虚 偽 尺 度 が な い 等 の 質 問 紙 上 の 弱 点 を 考 慮 し て デ ー タ は 検 討 さ れ な け れ
ばならない。
97
第 4章
獣医師のストレスへの対処方略
第 3 章に お い て ,獣医師のストレスの実態 ,とくに飼主に対するストレスの実態につい
て 人 間科 学 的 に 整 理 し た 。そ こで 次 の よ う な こと が 明 ら か と な っ た 。獣医 療 は そ の 独 特な
治 療 構 造 と 飼 主 の 飼 育 動 機 な ど が 関 係 し ,獣 医 師 に は 獣 医 療 の 特 有 の 難 し さ や プ レ ッ シ ャ
ーが存在し,飼主には特徴的な性質と獣医療への期待が存在する。このことが関連し ,獣
医 師 と 飼 主 の 間 に は 治 療 や ペ ッ ト の 認 識 に お け る ギ ャ ッ プ が 存 在 す る 。こ の 認 識 の ギ ャ ッ
プ か ら 獣 医 師 の 中 に 恐 怖 や 怒 り や 憎 悪 に 近 い 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 が 獣 医 師 に 生 ま れ ,飼 主
に対するストレスに繋がっている。飼主との認識のギャップは ,飼主の“個人的・感情的
な ペ ッ ト に 対 す る 物 語 ”が 関 連 し ,獣 医 師 の 説 得 に よ っ て 解 消 で き な い こ と が あ る 。ま た ,
獣 医 師 は 飼 主 と の 関 係 を 維 持 し た い と 思 う 気 持 ち ,飼 主 と の 関 係 を 回 避 し た い と い う 気 持
ち と いう ,獣 医 師 内 面 の 分裂 し た 両 価 的 感 情 を持 ち 葛 藤 し て い る 。獣 医師 内 で 処 理 で きな
い葛藤が発生するとき,また,獣医師が飼主の感情を理解できないとき,飼主への否定的
感情が生じ獣医師の飼主ストレスに繋がっている。
第 4 章で は ,第 3 章 までに得られた仮説を踏まえ,獣医師の効果的な対処について人間
科学的手法を用いて検討する。
第 1 節
獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ と 対 人 葛 藤 方 略 -ス ト レ
ス反応,バーンアウトとの関係1. 目 的
第 3 章 第 1 節 で 獣 医 師 が 飼 主 に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。獣
医 師 は 『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』『 関 係 回 避 的 』 と そ の 『 中 間 型 』 の ス ト レ ス 対 処 に よ
っ て コ ー ピ ン グ し て い た 。本 章 で は 獣 医 師 の 飼 主 か ら の 対 人 ス ト レ ッ サ ー に 対 す る 効 果 的
な ス ト レ ス 対 処 法 は ど の よ う な 対 処 で あ る か を 明 ら か に す る た め に ,獣 医 師 の 飼 主 に 対 す
る対人ストレスコーピング ,対人葛藤方略と獣医師のストレス反応 ,バーンアウトの関係
を調査した。
Laz ar us ら の 心 理 的 ス ト レ ス 理 論 (La za ru s , 199 3; La zar us ,1 99 9; Laz ar us
e t a l,1 98 4;
Laz ar us et a l ,1 98 7 ; L az ar us et a l, 19 7 0; La za rus e t al ,1 9 83) の 中 で , 個 人 の 心 理 的
ス ト レ ス 過 程 は ,「 ス ト レ ス を 生 む 出 来 事 ( ス ト レ ッ サ ー ) → 認 知 的 評 価 ( ス ト レ ッ サ ー
が 脅 威 的 か , 対 処 可 能 か ) → ス ト レ ス 対 処 行 動 (コ ー ピ ン グ )・ 社 会 的 援 助 資 源 ( ソ ー シ
ャ ル サ ポ ー ト )の 利 用 → ス ト レ ス 反 応( ス ト レ ン )」と い う 一 連 の 流 れ に よ っ て 説 明 さ れ ,
ス ト レ ッ サ ー へ の 対 応 が 精 神 的 健 康 に 影 響 を 及 ぼ す と さ れ る (L az aru s ,1 993 ;
Laz ar us ,1 99 9; L aza r us
e t al, 19 84 ; Laz a rus e t al , 19 87 ; Laz a rus e t al ,1 970 ; La za rus
et al ,19 83 ) 。
医 師 や 看 護 師 な ど 対 人 援 助 職 で 問 題 に な る バ ー ン ア ウ ト ( 田 尾 ら ,19 96 ;
Fre ud enb er ger ,1 97 4) は ,L aza ru s ら の 心 理 的 ス ト レ ス 理 論 か ら の 理 解 で は ,環 境 要 因( 過
重労働や役割葛藤)と個人要因(パーソナリティや経験)から生じたストレッサーに対す
る コ ー ピ ン グ の 失 敗 に よ る 慢 性 的 な ス ト レ ン の ひ と つ に 相 当 す る ( Mas la ch , 19 76 ; 久
保 , 19 98) 。 こ の よ う な 心 理 的 ス ト レ ス 理 論 と バ ー ン ア ウ ト の 関 係 を 踏 ま え , 医 師 や 看 護 師
98
のバーンアウトは,個人要因より環境要因(過重労働,仕事の裁量の欠如,仕事に対する
低 い 社 会 的 支 援 , 自 立 性 の 欠 如 , 時 間 的 切 迫 , 患 者 と の 直 接 的 接 触 の 多 さ ( St an sf eld
al, 19 99; Im ai
et
e t a l ,20 04 ) と 職 場 環 境 の 人 間 関 係 ( Lei te r e t al, 198 8 ) に 起 因 す る と さ
れ , ス ト レ ス マ ネ ー ジ メ ン ト の 整 備 が 進 ん で い る ( 河 野 ,2 00 3) 。
ス ト レ ス 軽 減 の た め の コ ー ピ ン グ 方 略 モ デ ル と し て F ol kma n n ら の 問 題 焦 点 型 と 情 動 焦
点 型 の コ ー ピ ン グ 分 類 が 有 名 で あ る (F ol kma nn
Fol km ann
et al ,1 98 0; Fol km an n
e t a l, 1 985 ;
e t a l,1 98 8) 。 全 般 的 な ス ト レ ッ サ ー に お い て , 問 題 焦 点 型 コ ー ピ ン グ は 適 応
状 態 を , 情 動 焦 点 型 コ ー ピ ン グ は ス ト レ ス 反 応 を 高 め る 特 徴 を も つ と さ れ る (P en l ey
al, 20 02; Fo lkm an
et
e t al ,20 04) が , 人 間 関 係 に よ っ て 生 じ る ス ト レ ッ サ ー ( 対 人 ス ト レ
ッ サ ー ) に 対 し て Fo lkm ann ら の コ ー ピ ン グ 方 略 が 効 果 的 で あ る と す る 一 貫 し た 成 績 は な
い ( 加 藤 , 200 8 ) 。 対 人 ス ト レ ッ サ ー は 自 分 自 身 で コ ン ト ロ ー ル す る こ と が 困 難 と 認 知 さ れ
や す く ,感情コントロールや ,ストレスフルな状況からの回避といったコーピング方略を
選 択 し が ち で あ る こ と ( Pa rk
e t a l,2 00 4 ) , 最 も 遭 遇 頻 度 が 高 く , 身 近 で 避 け る こ と が で
き ず , 慢 性 化 し や す い 性 質 を 持 つ こ と が 関 与 す る た め と 考 え ら れ て い る ( 加 藤 , 20 0 8) 。 加
藤 は ,対人ストレッサーへのコーピングに対して ,全般的なストレスコーピングと区別し
て 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ と い う 考 え 方 を 示 し ,関 係 焦 点 型 対 処 と し て 概 念 化 し た 3 つ の
コーピング分類であるポジティブ関係コーピング ,ネガティブ関係コーピング ,解決先送
り コ ー ピ ン グ を 提 唱 し , コ ー ピ ン グ 効 果 を 測 定 し て い る ( 加 藤 ,20 00 )。
ま た 人は 人 間 関 係 の 中 で 葛藤 を 生 じ ,そ の 葛 藤を 何 と か 解 消 し よ うと 対 処 す る 。対 人葛
藤は,
“ 個 人 の 行 動 ,感 情 ,思 考 の 過 程 が 他 者 に よ っ て 妨 害 さ れ て い る 状 態 ”(K el ley ,19 87)
と定義され,その葛藤を何とかしようとする対人葛藤方略は“対人葛藤状況において ,葛
藤 解 決 を 目 的 と し ,方 略 行 使 者 が 葛 藤 相 手 に 対 し て 何 ら か の 影 響 力 を 行 使 し よ う と し た 状
態 ”( 加 藤 ,20 03 )と 定 義 さ れ る 。対 人 葛 藤 方 略 は ,B la ke ら が 提 唱 し た 二 重 関 心 モ デ ル ( dua l
con ce rn mo del ) が 支 持 さ れ て い る ( Bl ak e et al ,1 97 0) 。 こ れ を 元 に Ra him ら は , 方 略 行
使 者 の 関 心 の 自 己 志 向 性 と 他 者 志 向 性 に よ っ て 葛 藤 方 略 を 統 合 ス タ イ ル ( i nte gr a tin g; 高
自己志向,高他者志向。方略行使者と葛藤相手の両者が受け入れられるように交渉し ,問
題 を 解 決 す る ス タ イ ル ), 回 避 ス タ イ ル ( avo id ing ; 低 自 己 志 向 , 低 他 者 志 向 。 直 接 的 な 葛
藤 を 避 け よ う と す る ス タ イ ル ), 強 制 ( 支 配 ) ス タ イ ル ( fo rc i ng ; 高 自 己 志 向 , 低 他 者 志
向 。 葛 藤 相 手 の 利 益 を 犠 牲 に し て も 行 使 者 の 要 求 や 意 見 を 通 そ う と す る ス タ イ ル ), 自 己
譲 歩 ( 服 従 ) ス タ イ ル ( yi eld in g; 低 自 己 志 向 , 高 他 者 志 向 。 葛 藤 相 手 の 要 求 や 意 見 に 従
う ス タ イ ル ), 相 互 妥 協 ス タ イ ル ( com pr om isi ng ; 中 自 己 志 向 , 中 他 者 志 向 。 行 使 者 と 葛 藤
相 手 の 両 者 が 相 互 に 要 求 や 意 見 を 譲 歩 し 合 い ,お 互 い に 受 け 入 れ ら れ る 結 果 を 得 よ う と す
る ス タ イ ル ) の 2 次 元 5 ス タ イ ル の 対 人 葛 藤 方 略 に 分 類 し た ( Rah im
e t al, 19 79 ) 。 対 人
葛 藤 方 略 ス タ イ ル の あ り 方 は ,行 使 者 の ス ト レ ス 反 応 や コ ー ピ ン グ に 影 響 を 与 え る こ と が
報 告 さ れ て い る ( 加 藤 ,20 03 ; J an sse n
e t al, 19 96; R ahi m ,1 98 3; 加 藤 , 20 07) 。
欧 米 の 獣 医 師 の ス ト レ ス と バ ー ン ア ウ ト に つ い て 多 数 の 報 告 が あ る (P la tt et a l , 201 2) 。
ス ト レ ス や う つ に よ り 獣 医 師 の 自 殺 率 が 他 の 職 業 よ り 高 い こ と が 報 告 さ れ ( Ki nl en ,19 83 ;
Bla ir et a l, 198 0; M ijj er et a l, 199 5; S kip pe r e t al ,20 12 ) , 獣 医 師 の ス ト レ ス マ ネ ジ
メ ン ト の 整 備 の 必 要 性 が 叫 ば れ て い る ( An on , 200 0; Me lla nb y ,20 05 ) 。 多 く の 獣 医 師 が バ
ー ン ア ウ ト 兆 候 を 示 し て い た と い う 報 告 も あ る (E lk ins e t al ,19 87 ; E lk ins e t al, 19 92 ;
99
Han se z et a l, 20 08) 。 獣 医 師 の コ ー ピ ン グ は , 一 般 と 比 べ る と 仕 事 場 と 家 庭 の サ ポ ー ト
に 頼 る 傾 向 が あ る こ と ( Ka hn e t a l ,2 00 5 ), 専 門 的 な 機 関 以 外 の ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト を コ
ー ピ ン グ と し て 用 い る ( Ga rdn er e t al ,2 0 06) と の 報 告 が あ る 。 ス ト レ ッ サ ー と し て は , 獣
医 療 マ ネ ジ メ ン ト (E l kin s e t al ,19 92 ; K a hn
et a l,2 00 5) , 長 時 間 労 働 (El ki ns et al,
199 2; Ga rd ner e t a l ,20 06 ) , ク ラ イ ア ン ト と の 人 間 関 係 ( El ki ns et al ,1 992 ; Han s ez et
al, 20 08; G ard ne r et al, 20 06; M eeh an e t a l,2 00 7) が 報 告 さ れ て い る 。 一 方 , 日 本 で は ,
獣 医 師 の ス ト レ ス と バ ー ン ア ウ ト 研 究 は , 中 川 の 報 告 ( 20 09 a; 200 9c ) を 除 き ほ と ん ど 認 め
られない。
先 行 研 究 (El ki ns et al ,19 92 ; Han se z e t al ,20 08 ; Gar dn er e t a l,2 00 6; Me eh an e t
al, 20 07) と 第 3 章 か ら , 本 研 究 で は 獣 医 師 の ス ト レ ッ サ ー の う ち 飼 主 が 関 係 す る 対 人 ス ト
レッサーに注目し ,尺度検討された質問紙を用い獣医師に対して調査を行った。獣医師の
対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ や 対 人 葛 藤 方 略 と ,獣 医 師 の ス ト レ ス 反 応 や バ ー ン ア ウ ト と の 関
連 を 調 査 す る こ と で ,獣 医 師 の ど の よ う な コ ー ピ ン グ が ス ト レ ス を 軽 減 す る こ と に つ な が
る の か検 討 し た 。ま た ,ス ト レス 反 応 や バ ー ンア ウ ト の 傾 向 が 高 い獣 医 師 は ど の よ う な対
人 ス トレ ス コ ー ピ ン グ や 対人 葛 藤 方 略 を 用 い るの か を 調 査 し た 。調 査 結果 を 踏 ま え ,獣医
師の飼主に対する対人ストレスコーピングと対人葛藤の方略と今後の獣医師のストレス
マネジメントについて考察した。
2. 方 法
(1) 手 続 き と 調 査 協 力 者
201 X 年 1 2 月 に A 県 獣 医 師 会 に 在 籍 し B 市 内 で 小 動 物 臨 床 に 携 わ る 獣 医 師 11 1 名 を 対 象
に,郵送並びに直接に質問紙調査を行い ,回答者を調査協力者とした。調査は個人情報保
護 の 観 点 か ら 個 人 が 特 定 さ れ な い よ う に 配 慮 し ,結 果 は 学 術 目 的 に の み 使 用 す る こ と を 説
明の上執り行われた。使用した質問紙調査票は巻末に資料 1 として添付した。
(2) 質 問 紙 調 査
「 あ な た は 飼 主 に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ た こ と が あ り ま す か 。」 と い う 質 問 に 対 し , あ
るまたはないの 2 件法で回答させた後,次の質問紙調査を行った。
(3) ス ト レ ス 反 応 : 看 護 婦 用 ス ト レ ス 反 応 尺 度 短 縮 版 ( S RS N- 27 )
ス ト レ ス 反 応 を 測 定 す る た め に , 尾 関 ら ( 19 90) の ス ト レ ス 自 己 評 価 尺 度 の 中 の ス ト レ ス
反 応 尺 度 を も と に 看 護 師 向 け に 作 成 さ れ た S RSN -4 8 短 縮 版 で あ る SR SN -2 7( 山 口 ら ,20 01)
を 用 い た 。 SR SN- 2 7 は , 情 動 的 反 応 ( 抑 う つ , 怒 り , 不 安 の 3 下 位 尺 度 ), 認 知 ・ 行 動 的 反
応 ( 情 緒 的 混 乱 , 引 き こ も り の 2 下 位 尺 度 ), 身 体 的 反 応 ( 身 体 的 疲 労 感 , 自 律 神 経 亢 進
の 2 下 位 尺 度 ) か ら な る , 合 計 3 領 域 , 7 下 位 尺 度 , 27 項 目 で 構 成 さ れ , 心 理 的 ス ト レ ス
反応を測定できる。よくあてはまる,あてはまる,すこしあてはまる,あてはまらないの
4 件 法 に よ っ て 評 定 さ せ 各 得 点 を 3- 0 点 と し , 得 点 が 高 い ほ ど ス ト レ ス 反 応 が 高 い 。 全 得
点総計の平均を【ストレス反応】得点として分析に使用した。尾関らのストレス反応尺度
が 精 神 的 健 康 度 の 指 標 に 使 用 さ れ て い る こ と ( 加 藤 , 20 00 ) , 日 本 の 獣 医 師 に 対 し て 開 発 さ
100
れたストレス反応尺度が存在せず医療従事者の看護師用を転用することが妥当と考えた
こ と か ら SR SN -2 7 を 使 用 し た 。
『 下 の 記 述 は 最 近( 1 か 月 以 内 )の あ な た の 状 態 に 当 て は ま
り ま す か 。』 の 教 示 の あ と に 回 答 さ せ た 。
(4) バ ー ン ア ウ ト : 日 本 版 バ ー ン ア ウ ト 尺 度
日 本 版 バ ー ン ア ウ ト 尺 度 は , Ma sla ch ら の M as la ch Bu rn out I nve nt ory (M BI) ( Ma sl ach e t
al, 19 96) を 元 に 久 保 ら が 作 成 し た ( 田 尾 ,1 987 ; 久 保 , 199 8) 。情 緒 的 消 耗 感( 5 項 目 ;「 こ ん
な 仕 事 , も う や め た い と 思 う こ と が あ る 」「 体 も 気 持 ち も 疲 れ は て た と 思 う こ と が あ る 」
な ど の 質 問 項 目 ), 脱 人 格 化 ( 6 項 目 ;「 同 僚 や 患 者 と 何 も 話 し た く な く な る こ と が あ る 」
「 自 分 の 仕 事 が つ ま ら な く 思 え て し か た の な い こ と が あ る 」 な ど の 質 問 項 目 ), 個 人 的 達
成 感 ( 6 項 目 ;「 こ の 仕 事 は 私 の 性 分 に 合 っ て い る と 思 う こ と が あ る 」「 わ れ な が ら , 仕 事
を う ま く や り 終 え た と 思 う こ と が あ る 」 な ど の 質 問 項 目 ) の 3 下 位 尺 度 17 項 目 を 測 定 で
き,いつもある,しばしばある,時々ある,まれにある,ないの 5 件法によって評定させ
各 得 点 を 5-1 点 と し ,【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 脱 人 格 化 】 に つ い て 得 点 が 高 い ほ ど バ ー ン ア ウ
ト の 程 度 が 高 い 。 個 人 的 達 成 感 に つ い て は 6 か ら 得 点 を 引 き 逆 転 得 点 と し ,【 個 人 的 達 成
感 の 低 下 】 得 点 と し た 。【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 脱 人 格 化 】,【 個 人 的 達 成 感 の 低 下 】 の 各 下 位
尺 度 の 得 点 総 計 の 平 均 を バ ー ン ア ウ ト 得 点 と し て 分 析 に 使 用 し た 。多 く の バ ー ン ア ウ ト 研
究 に お い て MB I が 使 用 さ れ て い る こ と ( Ma sla ch e t al ,1 996 ) , 妥 当 性 ・ 信 頼 性 が 検 討 さ れ
て い る こ と (久 保 ,2 00 7) か ら 日 本 版 バ ー ン ア ウ ト 尺 度 を 使 用 し た 。『 あ な た は 最 近 6 か 月 ぐ
ら い の あ い だ に , 次 の よ う な こ と を ど の 程 度 経 験 し ま し た か 。」 の 教 示 の あ と に 回 答 さ せ
た。
(5) 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ : 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ 尺 度 ( I nte rp ers ona l
Str es s-C op ing I nv en tor y; IS I )
ISI
は , L az aru s
ら の ス ト レ ス コ ー ピ ン グ 尺 度
Way s
of
Co pin g
Que st ion na ire (W CQ )( Fol km an n e t a l,1 98 0; F ol km ann et al ,1 985 ) の 信 頼 性 と 妥 当 性 の
問 題 か ら , 対 人 ス ト レ ス イ ベ ン ト に 対 す る コ ー ピ ン グ の 尺 度 と し て 加 藤 (20 00 ) が 作 成 し た 。
ポ ジ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ( 16 項 目 ;「 自 分 の こ と を 見 つ め 直 し た 」
「相手の気持ちになっ
て 考 え て み た 」「 人 間 と し て 成 長 し た と 思 っ た 」「 積 極 的 に 話 を す る よ う に し た 」 な ど 積 極
的 に 対 人 関 係 を 改 善 し , よ り 良 い 関 係 を 築 こ う と す る 質 問 項 目 ), ネ ガ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ
ン グ ( 10 項 目 ;「 か か わ り 合 わ な い よ う に し た 」「 無 視 す る よ う に し た 」「 相 手 と 適 度 な 距
離 を 保 つ よ う に し た 」 な ど 対 人 ス ト レ ス の 関 係 を 放 棄 ・ 崩 壊 す る 質 問 項 目 ), 解 決 先 送 り
コ ー ピ ン グ ( 8 項 目 ;「 あ ま り 考 え な い よ う に し た 」「 何 も せ ず , 自 然 の 成 り 行 き に 任 せ た 」
「 何 とか な る と 思 っ た 」な ど スト レ ス フ ル な 関係 を 問 題 と せ ず ,時 間 が解 決 す る の を 待つ
よ う な 質 問 項 目 ) の 3 下 位 尺 度 34 項 目 を 測 定 で き , よ く あ て は ま る , あ て は ま る , す こ
し あ て は ま る , あ て は ま ら な い の 4 件 法 に よ っ て 評 定 さ せ 各 得 点 を 3 -0 点 と し , 得 点 が 高
い ほ ど 各 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ 得 点 が 高 い 。各 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ 下 位 尺 度 の 得 点
総 計 の 平 均 (【 ポ ジ テ ィ ブ 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解 決 先 送 り 】) を 分 析 に 使 用 し た 。 獣 医 師 ‐
飼主間の対人ストレスに対するコーピングの測定 を 目 的 と す る こ と ,妥当性・信頼性が検
討 さ れ て い る こ と ( 加 藤 , 20 00; 加 藤 ,2 00 3; 加 藤 ,20 07 ; 加 藤 2 0 05) か ら I SI を 使 用 し た 。
101
『 今 ま で 飼 主 と の 人 間 関 係 で 生 じ る ス ト レ ス を 経 験 し た こ と が あ る と 思 い ま す 。人 間 関 係
で 生 じ る ス ト レ ス と は ,た と え ば「 け ん か を し た 」,
「 誤 解 さ れ た 」,
「何を話していいのか,
わ か ら な か っ た 」,「 自 分 の こ と を , ど の よ う に 思 っ て い る の か 気 に な っ た 」,「 自 慢 話 や ,
愚 痴 を 聞 か さ れ た 」,「 嫌 い な 人 と 話 を し た 」 な ど の 経 験 に よ っ て , 緊 張 し た り , 不 快 感 を
感 じ た り し た こ と を 言 い ま す 。あ な た が 実 際 に 経 験 し た 飼 主 と の 人 間 関 係 で 生 じ た ス ト レ
ス に 対 し て , 普 段 ど の よ う に 考 え た り , 行 動 し た り し ま し た か 。』 の 教 示 の あ と に 回 答 さ
せた。
(6) 対 人 葛 藤 方 略 : 対 人 葛 藤 方 略 ス タ イ ル 尺 度 ( Ha nd lin g I nte rp er son al Co nfl ic t
Inv en tor y; HI CI )
HIC I は , Rah im ら (1 9 79) の 対 人 葛 藤 方 略 の 分 類 で あ る ,統 合 ス タ イ ル( 4 項 目 ;「 お 互 い
に 満 足 す る よ う な 結 論 を 見 つ け 出 そ う と す る 」「 最 良 の 結 果 が 得 ら れ る よ う に お 互 い の 考
え 理 解 す る 」な ど の 質 問 項 目 ), 回 避 ス タ イ ル( 4 項 目 ;「 相 手 と の 衝 突 を 避 け よ う と す る 」
「 お 互 い の 意 見 の 相 違 に 直 面 し な い よ う に す る 」な ど の 質 問 項 目 ),強 制 ス タ イ ル( 4 項 目;
「 自 分 の 意 見 を 通 そ う と す る 」「 自 分 に と っ て 有 利 な 結 果 を 得 よ う と す る 」 な ど の 質 問 項
目 ), 自 己 譲 歩 ス タ イ ル ( 4 項 目 ;「 飼 主 の 要 求 に 従 う 」「 飼 主 の 考 え を 認 め る 」 な ど の 質 問
項 目 ),相 互 妥 協 ス タ イ ル( 4 項 目 ;「 お 互 い の 妥 協 点 を 探 そ う と す る 」「 お 互 い の 意 見 を 水
に 流 す よ う 主 張 す る 」な ど の 質 問 項 目 )の 5 ス タ イ ル を 測 定 す る た め に ,D UTC H( Jan ss e n et
al, 19 96) , ROC I- II (R ahi m , 198 3) を も と に 加 藤 ( 200 3) が 作 成 し た 。 各 葛 藤 方 略 ス タ イ ル を
下 位 尺 度 と し ,5 下 位 尺 度 20 項 目 を 測 定 で き る 。よ く あ て は ま る ,あ て は ま る ,少 し あ て
は ま る , あ て は ま ら な い の 4 件 法 に よ っ て 評 定 さ せ , 各 得 点 を 3-0 点 と し , 得 点 が 高 い ほ
ど 対 人 葛 藤 方 略 ス タ イ ル 得 点 が 高 い 。各 対 人 葛 藤 方 略 ス タ イ ル 下 位 尺 度 の 得 点 総 計 の 平 均
(【 統 合 】,【 回 避 】,【 強 制 】,【 自 己 譲 歩 】,【 相 互 妥 協 】) を 分 析 に 使 用 し た 。 HIC I は , 飼 主
か ら 受 け る 獣 医 師 の 対 人 葛 藤 方 略 を 測 定 で き る こ と が 期 待 さ れ る こ と ,妥 当 性 と 信 頼 性 の
検 討 が な さ れ て い る こ と ( 加 藤 , 200 3) , IS I と の 相 関 が 測 定 さ れ て い る こ と ( 加 藤 ,2 007 ) か
ら 分 析 に 使 用 し た 。『“ あ な た の 行 動 や 願 望 な ど が 他 者 に よ っ て 妨 害 さ れ た 状 態 ” を “ 対 人
葛 藤 ”と 定義 し ま す 。獣 医 療 にお い て 対 人 葛 藤を 飼 主 と の 間 で 感 じた 経 験 が あ る と 思 いま
す 。 た と え ば 「 飼 主 と 意 見 や 立 場 が 一 致 し な い 」「 飼 主 と 対 立 し た 」 な ど の 経 験 で す 。 飼
主 と の 間 で 経 験 し た 対 人 葛 藤 を 解 決 す る た め に ,あ な た は 飼 主 に 対 し て 具 体 的 に ど の よ う
な 行 動 を と り ま し た か 。』 と い う 教 示 の 後 に 回 答 さ せ た 。 こ の 際 , 質 問 項 目 中 に あ る 「 友
人」を「飼主」と置き換えて調査を行った。
(7) 分 析
調 査 協 力 者 の 性 別 , 年 代 , 臨 床 経 験 年 数 ,【 ス ト レ ス 反 応 】,【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 脱 人 格
化 】,【 個 人 的 達 成 感 の 低 下 】,【 ポ ジ テ ィ ブ 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解 決 先 送 り 】,【 統 合 】,【 回
避 】,
【 強 制 】,
【 自 己 譲 歩 】,
【 相 互 妥 協 】の 平 均 値 ,標 準 偏 差 ,相 関 係 数 を 計 測 し た 。Laz aru s
ら の 心 理 的 ス ト レ ス 理 論 に 基 づ く と ,コ ー ピ ン グ や 対 人 葛 藤 方 略 が ス ト レ ス 反 応 や バ ー ン
アウトに影響することが仮定されるため,
【 ス ト レ ス 反 応 】,
【 情 緒 的 消 耗 感 】,
【 脱 人 格 化 】,
【 個 人 的 達 成 感 の 低 下 】を 従 属 変 数 ,
【 ポ ジ テ ィ ブ 】,
【 ネ ガ テ ィ ブ 】,
【 解 決 先 送 り 】と【 統
合 】,【 回 避 】,【 強 制 】,【 自 己 譲 歩 】,【 相 互 妥 協 】 を 独 立 変 数 と し た 強 制 投 入 法 に よ る 重 回
102
帰分析を実施し,ストレス反応,バーンアウトと対人ストレスコーピング,対人葛藤方略
の 因 果 関 係 を 測 定 し た 。 尺 度 作 成 の 経 緯 か ら I SI , HI CI は 個 別 の 概 念 を 基 礎 に 作 成 さ れ て
い る た め , 重 回 帰 分 析 は ,【 ポ ジ テ ィ ブ 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解 決 先 送 り 】 を 独 立 変 数 と す
る 分 析 【 統 合 】,【 回 避 】,【 強 制 】,【 自 己 譲 歩 】,【 相 互 妥 協 】 を 独 立 変 数 と す る 分 析 に 分 け
て 実 施 し た 。ス ト レ ス 反 応 と バ ー ン ア ウ ト を 引 き 起 こ す 獣 医 師 の コ ー ピ ン グ や 対 人 葛 藤 方
略 の 差 異 を 測 定 す る た め ,【 ス ト レ ス 反 応 】 と 【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 脱 人 格 化 】,【 個 人 的 達
成 感 の 低 下 】 に お い て , 平 均 + 1 標 準 偏 差 ( S D) 以 上 に 含 ま れ る 標 本 を 高 値 群 と し て , 高
値 群 と そ れ 以 外 の 群 間 で の 性 別 ,年 代 ,臨 床 経 験 年 数 ,
【 ス ト レ ス 反 応 】,
【 情 緒 的 消 耗 感 】,
【 脱 人 格 化 】,【 個 人 的 達 成 感 の 低 下 】,【 ポ ジ テ ィ ブ 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解 決 先 送 り 】,【 統
合 】,【 回 避 】,【 強 制 】,【 自 己 譲 歩 】,【 相 互 妥 協 】 の 平 均 の 差 を 対 応 の な い t 検 定 に よ っ て
検 定 し た 。 統 計 処 理 に は I BM SP SS St at is tic s ver si on 21 を 用 い た 。
3. 結 果
調 査 実 施 か ら 2 週 間 後 ま で に 返 信 回 答 し た 56 名 ( 表 6- 1, 図 6-1 ; 男 性 46 名 女 性 9 名
不 明 1 名 ) を 調 査 協 力 者 と し た ( 回 答 率 50. 5% ; 5 6/ 11 1 名 )。 な お , こ の 中 に 欠 損 値 の あ
る 回 答 は 認 め ら れ な か っ た 。「 あ な た は 飼 主 に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ た こ と が あ り ま す か 。」
と い う 質 問 に 対 し ,あ る と 回 答 し た 人 が 9 1.1 %( 51/ 56 名 ),な い と 回 答 し た 人 が 8 .9 %( 5/5 6
名 )だ っ た 。
表6-1 調査協力者の性別 と年代 のクロス集計表
年代
不明 20代 30代 40代 50代 60代 70代
性別
合計
合計
男性
0
3
14
10
11
6
2
46
女性
0
0
7
1
1
0
0
9
不明
1
0
0
0
0
0
0
1
1
3
21
11
12
6
2
56
103
6
男性
5
女性
不明
人数(n=56)
4
3
2
1
0
0
5
10
14
17
20
25
29
40
臨床経験(年数)
図6-1
性別と臨床経験の分布
(1) 各 変 数 の 平 均 値 , 標 準 偏 差 , 相 関 係 数
性 別 は ,【 個 人 達 成 感 の 低 下 】 と 正 の 相 関 が あ り , 女 性 で あ る こ と が 獣 医 師 の 個 人 的 達
成 感 を 低 下 さ せ る こ と に 関 連 し て い た 。 年 齢 は ,【 自 己 譲 歩 】 と 正 の 相 関 が あ っ た 。 臨 床
経 験 は ,【 強 制 】 と 正 の 相 関 が あ っ た 。
【 ス ト レ ス 反 応 】 は ,【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 脱 人 格 化 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 回 避 】,【 強 制 】,
【 相 互 妥 協 】と 正 の 相 関 が あ っ た 。
【 情 緒 的 消 耗 感 】は ,
【 ス ト レ ス 反 応 】,
【 脱 人 格 化 】,
【ネ
ガ テ ィ ブ 】 と 正 の 相 関 が あ っ た 。【 脱 人 格 化 】 は ,【 ス ト レ ス 反 応 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解 決
先 送 り 】,【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 強 制 】,【 相 互 妥 協 】 と 正 の 相 関 が あ っ た 。【 個 人 達 成 感 の 低
下 】は ,性 別 と 正 の 相 関 ,
【 ポ ジ テ ィ ブ 】,
【 統 合 】,
【 解 決 先 送 り 】と 負 の 相 関 が あ っ た 。
【ポ
ジ テ ィ ブ 】 は ,【 解 決 先 送 り 】,【 統 合 】,【 回 避 】,【 強 制 】,【 相 互 妥 協 】 と 正 の 相 関 ,【 個 人
達 成 感 の 低 下 】と 負 の 相 関 が あ っ た 。
【 ネ ガ テ ィ ブ 】は ,
【 ス ト レ ス 反 応 】,
【 情 緒 的 消 耗 感 】,
【 脱 人 格 化 】,【 解 決 先 送 り 】,【 相 互 妥 協 】 と 正 の 相 関 が あ っ た 。【 解 決 先 送 り 】 は ,【 脱 人
格 化 】,【 ポ ジ テ ィ ブ 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 統 合 】,【 回 避 】,【 相 互 妥 協 】 と 正 の 相 関 ,【 個 人
達 成 感 の 低 下 】 と 負 の 相 関 が あ っ た 。【 統 合 】 は ,【 相 互 妥 協 】,【 ポ ジ テ ィ ブ 】,【 解 決 先 送
り 】と 正 の 相 関 ,
【 個 人 達 成 感 の 低 下 】と 負 の 相 関 が あ っ た 。
【 回 避 】は ,
【 ス ト レ ス 反 応 】,
【 ポ ジ テ ィ ブ 】,【 解 決 先 送 り 】,【 自 己 譲 歩 】 と 正 の 相 関 が あ っ た 。【 強 制 】 は , 臨 床 経 験 ,
【 ス ト レ ス 反 応 】,【 脱 人 格 化 】,【 ポ ジ テ ィ ブ 】,【 相 互 妥 協 】 と 正 の 相 関 ,【 自 己 譲 歩 】 と
負 の 相 関 が あ っ た 。【 自 己 譲 歩 】 は , 年 齢 ,【 回 避 】 と 正 の 相 関 ,【 強 制 】 と 負 の 相 関 が あ
っ た 【 相 互 妥 協 】 は ,【 ス ト レ ス 反 応 】,【 脱 人 格 化 】,【 ポ ジ テ ィ ブ 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解
決 先 送 り 】,【 統 合 】,【 強 制 】 と 正 の 相 関 が あ っ た 。( 表 6- 2 )
104
表6-2 獣医師の性別、年代、臨床経験とSRSN-27、日本版バーンアウト尺度、ISI、HICIの下位尺度間の平均値、標準偏差、相関係数(N=56)
変数
平均値 標準偏差
1
2
3
1.性別(1=男性、2=女性)
1.14
0.4
―
2.年代(2:20代~7:70代以上)
3.98
1.37
ns
―
3.臨床経験
17.4 11.57
ns
.90
―
0.49
0.39
ns
ns
ns
―
2.43
0.78
ns
ns
ns
.55**
ns
ns
.56
**
**
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
SRSN-27
4.SRSN-27総計平均
日本版バーンアウト尺度
5.情緒的消耗感平均
6.脱人格化平均
1.70
0.58
ns
*
―
.57**
―
2.87
0.74
.29
ns
ns
ns
ns
ns
8.ポジティブ関係コーピング平均
1.13
0.41
ns
ns
ns
ns
ns
ns
9.ネガティブ関係コーピング平均
0.78
0.39
ns
ns
ns
.45
7.個人的達成感の低下平均
―
ISI
10.解決先送りコーピング平均
**
*
.31
1.56
0.60
ns
ns
ns
ns
ns
1.71
0.65
ns
ns
ns
ns
ns
**
.53
-.29* ―
ns
**
ns
**
**
.42 -.35 .37
―
**
.47
―
HICI
11.統合スタイル平均
ns
-.34* .30**
ns
.28*
―
**
**
*
ns
ns
ns
.38
ns
.39
ns
―
.28* .33*
ns
.30*
ns
.34*
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
12.回避スタイル平均
2.00
0.62
ns
ns
13.強制スタイル平均
0.67
0.54
ns
ns
14.自己譲歩スタイル平均
1.71
0.67
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
15.相互妥協スタイル平均
1.21
0.61
ns
ns
ns
.29*
ns
.45**
ns
ns
.28
*p <.05,**p <.01 有意差の認められなかった相関係数はnsで示した。
105
.30* .29* .45** .62**
―
.53** -.29* ―
ns
.32*
ns
―
(2) 重 回 帰 分 析
【 ス ト レ ス 反 応 】,
【 情 緒 的 消 耗 感 】,
【 脱 人 格 化 】,
【 個 人 達 成 感 の 低 下 】を 従 属 変 数 ,I SI
の 下 位 尺 度 平 均 を 独 立 変 数 と し た 重 回 帰 分 析 に つ い て ,情 緒 的 消 耗 感 以 外 の 従 属 変 数 に お
い て 重 相 関 係 数 ( R), 重 決 定 係 数 ( R 2 ) は 有 意 だ っ た ( p< .0 1)。 標 準 偏 回 帰 係 数 ( β ) は ,
【 ス ト レ ス 反 応 】 に 関 し て ,【 ネ ガ テ ィ ブ 】 か ら 有 意 な 正 の 影 響 が 確 認 さ れ た ( β
=.4 3, p<. 01 )。
【 脱 人 格 化 】に 関 し て ,
【 ネ ガ テ ィ ブ 】か ら 有 意 な 正 の 影 響 が 確 認 さ れ た( β
=.4 2, p<. 01 )。【 個 人 達 成 感 の 低 下 】 に 関 し て ,【 解 決 先 送 り 】 か ら 有 意 な 不 の 影 響 が 確 認
さ れ た ( β =-. 40 ,p <. 01)( 表 6-3 )。
【 ス ト レ ス 反 応 】,
【 情 緒 的 消 耗 感 】,
【 脱 人 格 化 】,
【 個 人 達 成 感 の 低 下 】を 従 属 変 数 ,HIC I
の 下 位 尺 度 平 均 を 独 立 変 数 と し た 重 回 帰 分 析 に つ い て ,【 ス ト レ ス 反 応 】 と 【 脱 人 格 化 】
の 従 属 変 数 に お い て R, R 2 は 有 意 だ っ た ( p<. 01 )。 β は ,【 ス ト レ ス 反 応 】 に 関 し て ,【 強
制 】( β =.3 4, p< .0 5 ),【 相 互 妥 協 】( β =. 33, p< .0 5 ) か ら 有 意 な 正 の 影 響 ,【 統 合 】( β
=-. 33 ,p< .0 5 ) か ら 有 意 な 負 の 影 響 が 確 認 さ れ た 。【 脱 人 格 化 】 に 関 し て ,【 相 互 妥 協 】( β
=.4 7, p<. 01 ) か ら 有 意 な 正 の 影 響 が 確 認 さ れ た ( 表 6- 4)。
よ っ て ス ト レ ス 反 応 は ,ネ ガ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ ,強 制 ,相 互 妥 協 に 起 因 し て 高 ま り ,
統 合 に よ っ て 減 じ ,脱 人 格 化 は ,ネ ガ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ ,相 互 妥 協 に 起 因 し て 高 ま り ,
個人達成感は,解決先送りコーピングに起因して高まることが明らかとなった。
表6-3 ISIを独立変数、SRSN-27と日本版バーンアウト尺度を従属変数とした強制投入法による重回帰分析(N=56)
従属変数
日本版バーンアウト尺度
独立変数
SRSN-27
ISI
総計平均
情緒的消耗感
脱人格化
個人的達成感の低下
β
β
β
β
ポジティブ関係コーピング
.00ns
-.10ns
.06ns
-.19ns
ネガティブ関係コーピング
.43**
.32*
.42**
.24ns
解決先送りコーピング
重相関係数(R)
重決定係数(R2)
自由度調整済みR2
.04
ns
.45**
.20**
.16
ns
ns
**
.03
.25
-.40
.32ns
.11ns
.05
.56***
.32***
.28
.44**
.20**
.15
*p<.05,**p<.01,***p<.001,ns=有意差なし
106
表6-4 HICIを独立変数、SRSN-27と日本版バーンアウト尺度を従属変数とした強制投入法による重回帰分析(N=56)
従属変数
日本版バーンアウト尺度
独立変数
SRSN-27
HICI
総計平均
情緒的消耗感
脱人格化
個人的達成感の低下
β
β
β
β
統合スタイル
-.33*
-.13ns
-.15ns
-.31ns
回避スタイル
.23
-.09
.06
.07
強制スタイル
.34*
-.06ns
.22ns
-.01ns
自己譲歩スタイル
.06ns
-.13ns
.09ns
-.09ns
相互妥協スタイル
.33
重相関係数(R)
.53**
重決定係数(R2)
.28
.21
自由度調整済みR2
ns
*
**
ns
*
ns
**
ns
ns
.39
.47
-.07
.31ns
.51**
.35ns
ns
.10
.01
**
.26
.19
ns
.12
.03
*p<.05,**p<.01,ns=有意差なし
(3) 【 ス ト レ ス 反 応 】,【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 脱 人 格 化 】,【 個 人 達 成 感 の 低 下 】 の 高 値 群 と そ
れ以外の群間での平均値の差(t検定)
【 ス ト レ ス 反 応 】 の 高 値 群 ( N=1 1) に お い て 【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 脱 人 格 化 】,【 個 人 達 成
感 の 低 下 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解 決 先 送 り 】,【 回 避 】,【 強 制 】,【 相 互 妥 協 】 で 平 均 値 が 高 か
っ た ( 表 6-5 )。【 情 緒 的 消 耗 感 】 の 高 値 群 ( N=9 ) は 男 性 の み で あ り ,【 ス ト レ ス 反 応 】,【 脱 人
格 化 】,【 相 互 妥 協 】 で 平 均 値 が 高 か っ た ( 表 6 -6 )。【 脱 人 格 化 】 の 高 値 群 (N= 9) は 男 性 の み
で あ り ,【 ス ト レ ス 反 応 】,【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 ネ ガ テ ィ ブ 】 で 平 均 値 が 高 か っ た ( 表 6 -7) 。
【個人的達成感の低下】において高値群とそれ以外での変数の平均値の差はなかった。
よってストレス反応の高い獣医師は,ネガティブ関係,解決先送りコーピングを用い,
回避,強制,相互妥協の対人葛藤方略を用いる傾向が高く,情緒的消耗感と脱人格化のバ
ーンアウト傾向が高いこと ,情緒的消耗感の高い獣医師は ,相互妥協の対人葛藤方略を用
いる傾向が高く ,ストレス反応と脱人格化のバーンアウト傾向が高いこと ,脱人格化の高
い獣医師は ,ネガティブ関係コーピングを用いる傾向が高く ,ストレス反応と情緒的消耗
感のバーンアウト傾向が高いことが明らかになった。
107
表6-5 ストレス反応高値群とそれ以外におけるISI、HICI、SRSN-27、日本版バーンアウト尺度の下位尺度の平均値の差(t検定)(N=56)
ISIの下位尺度
ポジ
ティブ
ストレス反応
HICIの下位尺度
ネガティ 解決先
統合
ブ
送り
ストレス反応高値群 Mean
(N=11)
(SD)
1.38
1.05
(.54)
(.24)
(.62)
ストレス反応高値群 Mean
以外(N=45)
(SD)
1.06
.71
1.45
(.36)
(.39)
(.54)
(.68)
t値(自由度54)
ns
2.64
*
2.02
3.07
**
回避
1.81
SRSN-27 日本版バーンアウト尺度
総スト
個人的
自己譲 相互妥
情緒的 脱人格
レス反
達成感
歩
協
消耗感 化
応平均
の低下
強制
2.50
1.02
(.54)
(.42)
(.60)
1.68
1.88
.58
(.60)
(.50)
(.67)
ns
3.20
**
2.53
*
1.88
1.61
1.10
(.65)
(.45)
(.30)
1.66
1.12
.34
(.61)
(.24)
(.75)
ns
2.54
*
9.03
**
3.05
2.27
2.94
(.57)
(.68)
(1.08)
2.27
1.56
2.85
(.46)
(.64)
3.23
**
4.17
**
ns
※性別、年代、臨床経験についてストレス反応高値群とそれ以外の群での平均値の差は認められなかった。
*p<.05,**p<.01,ns=有意差なし
表6-6 情緒的消耗感高値群とそれ以外におけるISI、HICI、SRSN-27、日本版バーンアウト尺度の下位尺度の平均値の差(t検定)(N=56)
ISIの下位尺度
ポジ
ティブ
情緒的消耗感
HICIの下位尺度
ネガティ 解決先
統合
ブ
送り
回避
強制
SRSN-27 日本版バーンアウト尺度
総スト
個人的
自己譲 相互妥
情緒的 脱人格
レス反
達成感
歩
協
消耗感 化
応平均
の低下
情緒的消耗感高値群 Mean
(N=9)
(SD)
1.26
.86
1.78
1.81
2.06
.64
1.61
1.63
.77
3.60
2.24
2.75
(.49)
(.32)
(.67)
(.57)
(.63)
(.47)
(.44)
(.56)
(.35)
(.17)
(.77)
(.94)
情緒的消耗感高値群 Mean
以外(N=47)
(SD)
1.10
.77
1.52
1.69
1.99
.67
1.72
1.13
.44
2.20
1.60
2.89
(.40)
(.40)
(.58)
(.67)
(.62)
(.56)
(.71)
(.59)
(.38)
(.63)
(.48)
(.70)
ns
ns
ns
ns
ns
ns
ns
2.38*
2.4*
12.8**
3.32**
ns
t値(自由度54)
※高値群は男性のみ。年代、臨床経験について情緒的消耗感高値群とそれ以外での平均値の差は認められなかった。
*p<.05,**p<.01,ns=有意差なし
表6-7 脱人格化高値群とそれ以外におけるISI、HICI、SRSN-27、日本版バーンアウト尺度の下位尺度の平均値の差(t検定)(N=56)
ISIの下位尺度
脱人格化
ポジ
ティブ
HICIの下位尺度
ネガティ 解決先
統合
ブ
送り
回避
強制
SRSN-27 日本版バーンアウト尺度
総スト
個人的
自己譲 相互妥
情緒的 脱人格
レス反
達成感
歩
協
消耗感 化
応平均
の低下
脱人格化高値群 Mean
(N=7)
(SD)
1.33
1.20
2.13
1.96
2.36
.82
1.86
1.50
.80
3.06
2.79
2.69
(.59)
(.40)
(.99)
(.53)
(.45)
(.70)
(.64)
(.56)
(.36)
(.70)
(.59)
(1.00)
脱人格化高値群 Mean
以外(N=49)
(SD)
1.10
.72
1.48
1.67
1.95
.64
1.68
1.17
.45
2.33
1.55
2.89
(.38)
(.35)
(.48)
(.67)
(.63)
(.52)
(.67)
(.61)
(.38)
(.76)
(.38)
(.70)
ns
3.31**
ns
ns
ns
ns
ns
ns
2.28*
2.39*
7.54**
ns
t値(自由度54)
※高値群は男性のみ。年代、臨床経験について脱人格化高値群とそれ以外の群での平均値の差は認められなかった。
*p<.05,**p<.01,ns=有意差なし
4. 考 察
飼 主 に ス ト レ ス を 感 じ た こ と が あ る と 回 答 し た 獣 医 師 は 9 0% 以 上 に 上 り , 飼 主 が 獣 医 師
の対人ストレッサーになることが示唆された。
【 ス ト レ ス 反 応 】 と 【 情 緒 的 消 耗 感 】,【 脱 人 格 化 】 に は 正 の 相 関 が あ り , 獣 医 師 の ス ト
レ ス 反 応 と バ ー ン ア ウ ト の 関 連 が 示 唆 さ れ る 。久 保 は ,日 本 版 バ ー ン ア ウ ト 尺 度 に お い て ,
情 緒 的 消 耗 感 は ス ト レ ス 反 応 で あ る こ と ,脱 人 格 化 は ス ト レ ッ サ ー と 正 の 関 連 が 認 め ら れ
る こ と ,個人的達成感の低下はストレスを主たる原因と定義できないこと ,この尺度で測
108
定 さ れ る バ ー ン ア ウ ト は ス ト レ ス 反 応 そ の も の で は な く ,ス ト レ ッ サ ー 以 外 の 要 因 も 介 在
す る こ と を 報 告 し て い る ( 久 保 , 19 98 ) 。 ま た , 情 緒 的 消 耗 感 は , Le ite r e t al (19 88 ) の モ
デ ル に お い て バ ー ン ア ウ ト の 最 初 の 段 階 に 位 置 づ け ら れ ,脱 人 格 化 の 前 段 階 で あ る と さ れ
て い る ( 松 本 ら , 20 12 ) 。 ス ト レ ス 反 応 と バ ー ン ア ウ ト 下 位 尺 度 で あ る 個 人 的 達 成 感 の 低 下
以 外 の 情 緒 的 消 耗 感 と 脱 人 格 化 に つ い て 相 関 が あ っ た と す る 本 研 究 結 果 は ,先 行 研 究 に 一
致し,本研究の妥当性を裏付けている。
〈【 ネ ガ テ ィ ブ 】 が 獣 医 師 の 【 ス ト レ ス 反 応 】 と 【 脱 人 格 化 】 を 高 め ,【 強 制 】 は 【 ス ト
レ ス 反 応 】を 高 め ,
【 相 互 妥 協 】は【 ス ト レ ス 反 応 】と【 脱 人 格 化 】を 高 め ,
【 統 合 】は【 ス
トレス反応】を減じるという重回帰分析の結果と【ストレス反応】が高い獣医師は ,そう
で な い 獣 医 師 よ り も 【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解 決 先 送 り 】,【 回 避 】,【 強 制 】,【 相 互 妥 協 】 を 飼 主
に 用 い る と い う t 検 定 の 結 果 か ら ,獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ や 対 人
葛藤方略のあり方が ,獣医師のストレス反応とバーンアウトに影響を及ぼす 〉こ とが示さ
れた。
加 藤 は ,ネ ガ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ が ス ト レ ス 反 応 を 強 め ,解 決 先 送 り コ ー ピ ン グ が ス
ト レ ス 反 応 を 低 下 さ せ る こ と ( 加 藤 , 20 00 ) , 統 合 は 精 神 的 健 康 度 に 正 の 影 響 を , 回 避 , 強
制 は 負 の 影 響 を 与 え る こ と ( 加 藤 , 20 03 ) , ポ ジ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ は , 強 制 を 除 く , 統
合,回避,自己譲歩,相互妥協と正の相関があり ,ネガティブ関係コーピングは強制と正
の 相 関 が あ り , 解 決 先 送 り コ ー ピ ン グ は 統 合 , 相 互 妥 協 と 正 の 相 関 あ る こ と ( 加 藤 ,20 07 )
を 報 告 し て い る 。 D e s ivi ly a et al( 20 05 ) は , 医 療 チ ー ム の 対 人 葛 藤 方 略 に お い て , 統 合
は医療従事者の肯定的感情に ,強制は肯定的または否定的感情に ,回避は否定的感情に関
連 し て い た と し て い る 。 D ier en doc k et a l (20 02 ) が , バ ー ン ア ウ ト 尺 度 MB I- GS( Sc ha ufe li
et a l, 199 6) に よ っ て オ ラ ン ダ の 電 車 運 転 手 9 6 名 に 行 っ た バ ー ン ア ウ ト と 対 人 葛 藤 方 略 の
関係の調査では ,乱暴な乗客との間で生じたストレスに対する対人葛藤方略で ,強制は職
務効力感(個人的達成感)の低下や冷笑的態度(脱人格化)に,自己譲歩は冷笑的態度の
低下に関連すると報告さ れており ,概して強制はバーンアウトを強め ,自己譲歩は減じる
と 報 告 し て い る 。 R a h im( 20 02 ) は , 協 調 型 の 葛 藤 方 略 は 葛 藤 を 解 決 し や す く , 統 合 が 通 常
もっとも葛藤を減少させることを報告している。
こ こ に 挙 げ た 先 行 研 究 は ,総 じ て 本 研 究 で 明 ら か に な っ た 飼 主 へ の 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ
ングや対人葛藤方略のあり方が獣医師のストレス反応やバーンアウトに影響するという
本 研 究 結 果 を 支 持 し て い る 。 す な わ ち ,〈 ネ ガ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ , 回 避 ス タ イ ル , 強
制スタイルなどの飼主との人間関係を避け ,ぞんざいに扱う関わり方は ,獣医師のストレ
ス反応を高める傾向があり,また,飼主と獣医師自身を理解する,認めるような統合スタ
イ ル の 対 人 葛 藤 方 略 は ,ス ト レ ス 反 応 を 減 じ る 効 果 が あ る 〉と い う 本 研 究 結 果 を 支 持 す る 。
〈 相 互 妥 協 ス タ イ ル な ど お 互 い に 歩 み 寄 り を 見 せ ,妥 協 点 を 見 つ け よ う と す る 飼 主 と の
か か わ り 方 が 獣 医 師 の ス ト レ ス 反 応 や 情 緒 的 消 耗 感 を 高 め る 〉と い う 結 果 は ,R ah im( 200 2)
が 指 摘 す る よ う に ,相 互 妥 協 や 強 制 ス タ イ ル は 問 題 が 複 雑 で あ る 場 合 不 適 応 な 状 況 に な り
や す いこ と に 関 連 し て い るの か も し れ な い 。対 人 援助 職 従 事 者 は ,ク ライ ア ン ト の 共 感者
に な る こ と が 期 待 さ れ て い る ( La rso n e t al, 19 78 ) 。 大 き な 負 担 を 抱 え た ク ラ イ ア ン ト に
共感しすぎることは ,過度なストレスを経験することになり ,バーンアウトのリスクを高
め る た め , 対 人 援 助 職 従 事 者 は , 心 理 社 会 的 感 受 性 が 高 い 一 方 で 技 術 に 卓 越 し ( Le mka u e t
109
al, 19 87) , 知 的 に か つ 情 緒 的 に ク ラ イ ア ン ト と 接 す る 必 要 が あ る ( Rap op ort ,1 96 0 ) と 言 わ
れ ,Li ef et al (1 963 ) は 突 き 放 し た 関 心( d eta ch ed con ce rn )と い う 概 念 を 主 張 し て い る 。
方 法 で ふ れ た 質 問 項 目 の 他 に 「 お 互 い の 意 見 の 間 を 取 ろ う と す る 」「 お 互 い の 意 見 の 歩 み
よったところで取り決めようとする」で測定される【相互妥協】は ,お互いを理解しよう
とする質問項目で測定される【統合】とは異なり ,飼主の態度変化への期待と飼主の心へ
の侵入を獣医師に課すことが想像される。このため「クライアント への過度の共感」に近
似 す る 飼 主 心 理 へ の 期 待 や 侵 入 が 獣 医 師 に 生 じ ,ス ト レ ス 反 応 や 情 緒 的 消 耗 感 を 高 め る 結
果に繋がったのかもしれない。
こ れ ら を ふ ま え 総 合 的 に ま と め る と ,〈 獣 医 師 の ス ト レ ス 反 応 や バ ー ン ア ウ ト を 減 じ る
に は ,飼主とネガティブな人間関係を引き起こす方略を用いずに ,お互いを理解し認める
こ と ,し か し 飼 主 に 歩 み 寄 り ,妥 協 点 を 見 つ け よ う と す る 関 わ り 方 を 避 け る こ と が 効 果 的 〉
と考えられる。
加 藤 は , 解 決 先 送 り コ ー ピ ン グ が ス ト レ ス 反 応 を 低 下 さ せ る こ と ( 加 藤 , 20 00 ) , 統 合 ,
相 互 妥 協 と 正 の 相 関 あ る こ と ( 加 藤 , 20 07 ) を 報 告 し て い る 。 本 研 究 に お い て 解 決 先 送 り コ
ーピングが獣医師のストレス反応を低下させる効果は認められず ,脱人格化 ,個人的達成
感,統合,回避,相互妥協と正の相関があった。獣医師は診療において病気を診断し治療
す る 判断 を 迫 ら れ る が ,そ の 判断 を 先 送 り す るこ と は 通 常 む ず か しい と 考 え ら れ る 。加藤
は,解決先送りコーピングが,緊急性が低い場合,解決への自信がある場合に効果的に用
い ら れ る こ と を 示 し て い る ( 加 藤 , 20 08 ) 。 獣 医 師 の 診 療 場 面 は 緊 急 性 の 高 い 判 断 が 必 要 で
あ る こ と か ら ス ト レ ス 反 応 を 低 下 さ せ る 効 果 が 認 め ら れ ず ,脱 人 格 化 と の 相 関 が 認 め ら れ
た の かも し れ な い 。ま た ,個 人的 達 成 感 の 高 さは 獣 医 師 の 解 決 へ の自 信 度 に 関 連 す る こと
が想像されるため,解決先送りコーピングと正の相関が認められたのかもしれない。
今 回 の 研 究 結 果 は 獣 医 師 の ス ト レ ス マ ネ ジ メ ン ト 整 備 の 一 助 に な る 可 能 性 が あ る 。加 藤
は ,看護学生を対象とした実験で ,対人ストレスコーピングにおいて解決先送りコーピン
グ が 有効 性 で あ る こ と を 講義・ト レ ー ニ ン グ する 前 と 後 で 看 護 学 生の ス ト レ ス 反 応 が 低下
し た こ と を 報 告 し て い る ( 加 藤 , 20 05 ) 。 解 決 先 送 り コ ー ピ ン グ が 獣 医 師 の ス ト レ ス 反 応 や
バ ー ン ア ウ ト を 軽 減 す る 効 果 は 認 め ら れ な か っ た が ,飼 主 と の 関 わ り が 獣 医 師 の ス ト レ ス
を 生 む と い う 本 研 究 結 果 を 周 知 す る こ と が ,獣 医 師 の ス ト レ ス 軽 減 に つ な が る 可 能 性 が あ
る こ と を 加 藤 ( 20 05 ) の 先 行 研 究 は 示 し て い る 。 し か し な が ら 医 療 従 事 者 の バ ー ン ア ウ ト は ,
個人的要因より過重労働,仕事の裁量の欠如,仕事に対する低い社会的資源,自立性の欠
如 , 時 間 的 切 迫 , 患 者 と の 直 接 的 な 接 触 の 多 さ な ど の 環 境 要 因 に 関 連 し て い る ( St ans fe ld
et a l, 199 9; Im ai et al, 20 04; 井 奈 波 ら , 201 0) と さ れ て い る た め , 獣 医 師 の ス ト レ ス マ
ネジメント整備にはソーシャルサポートなど環境要因の影響の考慮も必要と考えられる
(中 川 , 2 00 9a; 20 09 b) 。
5. 獣 医 師 の ス ト レ ス を 軽 減 す る コ ー ピ ン グ
本節によって①飼主への対人ストレスコーピングや対人葛藤方略のあり方が獣医師の
ストレス反応やバーンアウトに影響すること,②重回帰分析で【ネガティブ】が獣医師の
【 ス ト レ ス 反 応 】と【 脱 人 格 化 】を 高 め ,
【 強 制 】は【 ス ト レ ス 反 応 】を 高 め ,
【相互妥協】
は 【 ス ト レ ス 反 応 】 と 【 脱 人 格 化 】 を 高 め ,【 統 合 】 は 【 ス ト レ ス 反 応 】 を 減 じ る と い う
110
結 果 ③ 【 ス ト レ ス 反 応 】 が 高 い 獣 医 師 は , そ う で な い 獣 医 師 よ り も 【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解 決
先 送 り 】,【 回 避 】,【 強 制 】,【 相 互 妥 協 】 を 飼 主 に 用 い る と い う t 検 定 の 結 果 だ っ た 。
第 3 章 第 1 節 で 検 出 し た カ テ ゴ リ ー『 ス ト レ ス 対 処 』は ,
『 問 題 解 決 的・関 係 志 向 的 』
『関
係 回 避 型 』『 中 間 型 』 の 3 大 カ テ ゴ リ ー に 分 類 さ れ た 。 こ の 3 つ の ス ト レ ス 対 処 は , 獣 医
師 が 有 す る 飼 主 と の 関 係 維 持 と 関 係 崩 壊 を 望 む よ う な 分 裂 し た 両 価 的 感 情 を ,飼 主 と 積 極
的 に 関 係 す る ( 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 」) ま た は 回 避 す る (「 関 係 回 避 型 」) ま た は 距 離
を と り つ つ 関 係 を 切 ら な い (「 中 間 型 」) な ど の 飼 主 と の 関 係 の 次 元 で 対 処 し て , 自 己 一 致
を維持しようとする獣医師の試みであった。
本 節 に お い て ,【 ネ ガ テ ィ ブ 】 は , 獣 医 師 の ス ト レ ス 反 応 や 脱 人 格 化 を 強 め る こ と が 示
さ れ た 。 ネ ガ テ ィ ブ 関 係 コ ー ピ ン グ は ,「 か か わ り 合 わ な い よ う に し た 」「 人 を 避 け た 」 と
い う 関 係 回 避 だ け で な く ,「 相 手 を 悪 者 に し た 」「 無 視 す る よ う に し た 」 な ど 関 係 を 崩 壊 さ
せ る コー ピ ン グ 方 略 か ら 測定 さ れ る 。こ の た め 第 3 章 第 1 節 で 示 され た 獣 医 師 の「 関 係回
避 型 」 に 近 い も の と 考 え ら れ る 。【 強 制 】 は , 獣 医 師 の や り 方 を 飼 主 に 押 し 付 け る よ う な
相 手 の 利 益 を 犠 牲 に し て で も 行 使 者 の 意 見 を 通 そ う と す る 対 人 葛 藤 方 略 で あ る 。第 3 章 に
あるように飼主に対して認知的不協和とその低減反応や心理的リアクタンスを引き起こ
す可能性が強いと考えられる対人方略である。第 3 章第 1 節『ストレス対処』カテゴリー
の 3 つ の 大 カ テ ゴ リ ー に は 分 類 で き な い (「 中 間 型 」 カ テ ゴ リ ー の 「 飼 主 に 必 ず し も 同 調
しない」は“必ずしも”の文脈がなければ近いのかもしれない)が,飼主との関係悪化を
引 き 起 こ す 可 能 性 が あ る た め ,飼 主 と の 関 係 を 志 向 す る こ と と 関 係 を 回 避 す る こ と の 分 裂
し た 感 情 を 有 す る 獣 医 師 に は ふ つ う は 選 択 さ れ 難 い 対 人 方 略 と 考 え ら れ る 。【 相 互 妥 協 】
は お 互 い の 「 意 見 の 間 を 取 ろ う と す る 」「 歩 み 寄 っ た と こ ろ で 取 り 決 め る 」「 妥 協 点 を 探 そ
うとする」などで測定され,他者志向性は中程度,自己志向性は中程度の対人葛藤スタイ
ル で あ る 。【 統 合 】 が 問 題 解 決 的 に 交 渉 す る 方 略 で あ る こ と に 対 し ,【 相 互 妥 協 】 は 要 求 や
意 見 を 譲 歩 し 合 い お 互 い の 納 得 で き る 結 果 を 引 き 出 そ う と す る 。こ の た め 飼 主 の 態 度 変 化
へ の 期待 と 飼 主 の 心 へ の 侵入 を 獣 医 師 に 課 す こと が 想 像 さ れ る 。こ の ため「 ク ラ イ ア ント
へ の 過度 の 共 感 」に 近 似 する 飼 主 心 理 へ の 期 待や 侵 入 が 獣 医 師 に 生じ る 可 能 性 が あ る 。第
3 章第 1 節『ストレス対処』カテゴリー内の『あきらめ・諦観』内の『割り切る』などは
獣医師側の妥協ともとらえられ,第 3 章第 1 節の『問題回避的』カテゴリーの一つに属す
る か も し れ な い 。【 統 合 】 は 「 お 互 い の 最 良 の 結 果 を 得 ら れ る よ う に , お 互 い の 考 え を 理
解 す る 。」 な ど お 互 い が 満 足 し 利 益 に な る よ う な 決 定 を す る 対 人 葛 藤 方 略 で あ り , 他 者 志
向性が高く,自己志向性も高いスタイルに分類される。葛藤相手と交渉し,問題を解決し
ようとする方略群である。第 3 章第 1 節『ストレス対処』カテゴリー内の『飼主の受容と
共 感 』『 飼 主 と の 充 分 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 』 は 飼 主 の 気 持 ち を 理 解 し よ う と し , 飼 主 を
否定しないコーピング方略からカテゴリ ー化されるため,この【統合】に近い対人方略と
みなせるかもしれない。本節の対人方略の下位尺度と第 3 章第 1 節『ストレス対処』カテ
ゴリーの関連性についてまとめると,
【ネガティブ】
【 相 互 妥 協 】は『 関 係 回 避 的 』に ,
【統
合 】 は 『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 に 関 連 し ,【 強 制 】 は 関 連 性 を 分 類 で き な か っ た 。 こ
の よ う に 考 え る と ,〈『 関 係 回 避 的 』 は ス ト レ ス 反 応 や バ ー ン ア ウ ト を 高 め る 可 能 性 ,『 問
題解決的・関係志向的』はストレス反応を減じる可能性がある〉かもしれないことが考え
られる。
111
6. 残 さ れ た 課 題
今 後 の 課 題 と し て , 本 研 究 が 獣 医 師 11 1 名 中 56 名 の 調 査 協 力 者 の 成 績 で あ る こ と を 考
慮し,大規模な調査によって検証されるべきである。獣医師への自由回答であったため,
回 答 率 が 低 か っ た こ と が 関 係 し て い る と 考 え ら れ る 。 ま た ,「 コ ー ピ ン グ ( 対 人 ス ト レ ス
コ ー ピ ン グ や 対 人 葛 藤 方 略 ) の 結 果 生 じ る ス ト レ ン ( ス ト レ ス 反 応 や バ ー ン ア ウ ト )」 と
い う 心 理 的 ス ト レ ス 理 論 仮 説 を も と に 本 研 究 は 分 析 し た が ,ス ト レ ス 反 応 や バ ー ン ア ウ ト
が , 獣 医 師 の コ ー ピ ン グ 行 動 の 選 択 に 影 響 し て い る 可 能 性 が あ る た め , 加 藤 (20 05 )の 実 施
し た 検 証 実 験 等 に よ っ て 本 研 究 結 果 は 検 証 さ れ な け れ ば な ら な い 。 本 節 5. に お け る 〈『 関
係 回 避 的 』 は ス ト レ ス 反 応 や バ ー ン ア ウ ト を 高 め る 可 能 性 ,『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』
はストレス反応を減じる可能性がある〉という仮説は ,追加調査によって検証されなけれ
ばならない。
112
第 2 節
獣 医 療 に お け る ナ ラ テ ィ ブ -社 会 構 成 主 義 か ら の 治 療 構 造 の 理 解 が 生 む
獣医師ストレスの減少の試み-
1. 目 的 : 獣 医 療 に ナ ラ テ ィ ブ を 生 か す
第 3 章 第 1 節 か ら ,〈 獣 医 師 に 生 じ る 飼 主 に 対 す る 否 定 的 感 情 は , 獣 医 師 内 面 の 飼 主 と
の関係を維持したい気持ちと飼主が理解できず関係を崩壊したい気持ちという両価的な
分 裂 した 感 情 に 対 応 で き ない 場 合 生 じ る 獣 医 師の 混 乱・葛 藤 か ら 生じ ,飼 主 と の 認 識 のギ
ャップが関連する〉こと,〈獣医師の『ストレス対処』は,問題焦点型でのコーピングが
『 飼 主と の 充 分 な コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン』『飼 主 の 受 容と 共 感 』な ど 飼 主 との 関 係 改 善 を志
向する『問題解決的・関係志向的』に限られ,これが成功しない場合,情動焦点型の『関
係 回 避 的 』や『 中 間 型 』を 用 い る し か な い 〉こ と が 認 め ら れ た 。第 3 章 第 2 節 と 3 節 か ら ,
飼 主 へ の 否 定 的 感 情 は ,獣 医 師 の 説 得 が う ま く い か な い こ と と 飼 主 を 受 け 入 れ ら れ な い た
めに〈獣医内師で処理出来ない葛藤が発生〉していることや〈獣医師が飼主の感情をうま
く理解できていないことに起因する〉ことが導き出された。
また,第 4 章第 1 節から〈獣医師のストレス反応やバーンアウトを減じるには,飼主と
ネ ガ ティ ブ な 人 間 関 係 を 引き 起 こ す 方 略 を 用 いず に ,お 互 い を 理 解し 認 め る こ と ,し かし
飼 主 に 歩 み 寄 り , 妥 協 点 を 見 つ け よ う と す る 関 わ り 方 を 避 け る こ と が 効 果 的 〉,〈『 関 係 回
避 的 』 は ス ト レ ス 反 応 や バ ー ン ア ウ ト を 高 め る 可 能 性 ,『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 は ス
トレス反応を減じる可能性がある〉かもしれないことが示唆された。このような結果は,
飼 主 と の 関 係 を 志 向 す る ス ト レ ス コ ー ピ ン グ に お い て ,『 飼 主 と の 充 分 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ
ョ ン 』『 飼 主 の 受 容 と 共 感 』 な ど の 方 略 が 獣 医 師 の ス ト レ ス を 軽 減 す る 効 果 が あ る と い う
結論が想像される。
近 年 ,人 医 療 で ,N BM と 呼 ば れ る 医 療 方 法 論 が 提 唱 さ れ て い る( Gr een ha lgh , et al ,1 99 8)。
NBM は , 学 問 と し て の 医 学 と 実 際 の 診 療 場 面 の 現 象 の 乖 離 を 埋 め る 可 能 性 が あ る と し て 注
目 さ れ て い る 。 心 理 療 法 の ナ ラ テ ィ ブ セ ラ ピ ー ( Mi ch el &
D avi d , 199 0 ) の 理 論 的 根 拠
を 基 に 提 唱 さ れ た NBM は , 被 治 療 者 な ら び に 治 療 者 が 持 つ 考 え ・ 認 識 ・ 価 値 観 ・ 感 情 等 を
ナ ラ テ ィ ブ( 物 語 り )と 捉 え ,被 治 療 者 の 病 気 と い う ナ ラ テ ィ ブ( ド ミ ナ ン ト ス ト ー リ ー )
を,治療者との共同作業によって,被治療者にとって望ましい新しいナラティブ(オルタ
ナティブストーリー)に書き換えることを目指す。
NBM は , 治 療 者 と 被 治 療 者 の ナ ラ テ ィ ブ を 社 会 構 成 主 義 の 視 点 か ら 捉 え る こ と に 本 質 を
も つ 。 社 会 構 成 主 義 は , Ber ge r と L uc kma nn の 議 論 ( 196 6) か ら 発 生 し た , ポ ス ト モ ダ ニ
ズ ム 社会 学 の 現 象 理 論 で ある 。社 会 構 成 主 義 は ,現実 が 社 会 的 に 構成 さ れ る と い う こ とを
主 張 する 。す な わ ち ,個 人 の 現実 認 知 は 言 語 化さ れ た 記 憶 の 集 積 とし て 構 築 さ れ た も ので
あり,言語(テクスト)を用いた他者との交流の中から生じた意味や概念や理解(ディス
コース)から生じるとする考えである。社会構成主義によれば,主観と客観双方から確認
さ れ る 普 遍 的 真 実 の 存 在 は 仮 定 出 来 ず ,究 極 に 全 て の 人 が 一 致 し う る 真 理 と 呼 べ る 現 実 は
存 在 しな い 。ナ ラ テ ィ ブ セラ ピ ー は ,そ の 現 実認 識 に お い て 社 会 構成 主 義 の 認 識 論 を 据え
て お り( 高 橋 ら , 2 00 1), NB M や ナ ラ テ ィ ブ セ ラ ピ ー に お け る ナ ラ テ ィ ブ は ,社 会 構 成 主 義
におけるディスコースに相当する。
斎 藤 ( 200 3 ) は ,“ 医 療 で の 治 療 構 造 を 社 会 構 成 主 義 の 原 則 に 基 づ き 理 解 す る と き , 治
113
療者は,幾通りもある「被治療者というテクスト」の読者であり,幾通りもある「被治療
者 の 持 つ 意 味( デ ィ ス コ ー ス )」の 著 述 者 で あ る ”と 述 べ て い る 。NBM を 実 践 す る 治 療 者 は ,
自 身 の ナ ラ テ ィ ブ( 病 の 医 学 的 認 識 や 社 会 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ や パ ー ソ ナ リ テ ィ 等 の 治 療
者の現実)と被治療者のナラティブ(病を抱えている現実や個人的な事情や体験)が,治
療 的 交流 の 中 に 存 在 す る こと を 理 解 し ,ど ち らも 普 遍 的 真 実 で は ない が ,そ の 人 に と って
現 実 であ る こ と を 受 け 入 れる 必 要 が あ る 。ま た 被 治療 者 の 現 実 世 界を 尊 重 す る た め ,クラ
イアントセンタード(患者中心)で全人的な姿勢からの医療の実践が可能となる。
社 会 構 成 主 義 に 根 ざ し た N BM は , 飼 主 と 獣 医 師 の 認 識 の ギ ャ ッ プ を 獣 医 療 に お け る 既 存
の 現 象と し て 獣 医 師 の 認 知と し て 汲 み い れ る こと が 可 能 と 考 え ら れ る 。ま た ,治 療 者 自身
と 他 者 の 間 に 生 じ る 葛 藤 を 治 療 者 自 身 が 既 存 の も の と し て 会 得 す る こ と で ,飼 主 に 生 じ る
ストレスの軽減に効果がある可能性が考えられる『飼主との充分なコミュニケーション』
『飼主の受容と共感』などのコーピングを ,飼主との関係を維持的にしかしある程度の距
離( 個 人 の現 実 認 識 を 尊 重す る と い う 意 味 に おい て )を 保 ち な が ら実 施 す る こ と が 獣 医師
にとって可能となると考えられる。そこで本節では,獣医師である筆者が経験した 1 獣医
療 事 例 を あ げ , N BM の 獣 医 師 の ス ト レ ス 軽 減 効 果 に つ い て 分 析 し た 。
2. 方 法 お よ び 事 例 の 概 要
(1) 方 法
筆者(獣医師)が体験した 1 獣医療事例を用い,飼主と筆者の語りとペットの病態の変
遷 を 提 示 し つ つ , 飼 主 と 筆 者 に 生 じ た ナ ラ テ ィ ブ を 検 証 し , 獣 医 療 へ の NB M 応 用 可 能 性 に
つ い て考 察 し よ う と す る 個性 記 述 的 で 探 索 発 見的 な 論 文 で あ る 。今 回 用い た 事 例 は ,水頭
症 で 急 死 し た 猫 を 飼 育 す る 30 代 か ら 40 代 の 女 性 の 飼 主 の 事 例 で あ る 。事 例 は 実 際 に 筆 者
が 診 察 し た 事 例 で ,個 人 情 報 保 護 や 倫 理 的 配 慮 の 観 点 か ら 事 例 は 研 究 に の み 使 用 す る 承 諾
を飼主から得ている。また,固有名詞を使用せず,事例の理解が損なわれない程度に割愛
して提示する。
飼 主 と筆 者 の 語 り は 診 療 の直 後 に 筆 者 が 筆 記 記録 し ,質 的 デ ー タ とし て 残 し た 。診 察 中筆
者 は 積 極 的 傾 聴 と 社 会 構 成 主 義 的 な 現 実 理 解 の 姿 勢 に 努 め な が ら ,動 物 の 獣 医 学 的 状 況 解
釈 を 客観 的 に 飼 主 に 伝 え るよ う 努 め た 。筆 者 がそ の 時 解 釈 し た こ と ,感じ た こ と に つ いて
合わせて筆記記録し質的データとして残した。飼主の語り,筆者の語り,筆者の解釈 につ
い て , NB M の 概 念 を も と に 考 察 し た 。
(2) 事 例 の 概 要
事例
水 頭 症 で 急 死 し た 猫 を 飼 育 す る 30 代 か ら 40 代 の 女 性 の 飼 主
飼主
30 代 か ら 40 代 の 女 性 。 同 世 代 の 夫 と 猫 と 生 活 し て い る 。 看 護 師 で 医 療 情 報 の 理 解
力が高い。
動物
未 避 妊 で 8 才 の メ イ ン ク ー ン と い う 品 種 の 猫 。完 全 室 内 飼 い で 4 年 前 ま で 予 防 接 種
を毎年実施。
獣医師
筆者。積極的傾聴と飼主の無条件の受容に基づく応答に努めた。飼主の語り(ナ
ラティブ)と筆者自身の感じ方(ナラティブ)の社会構成主義的な理解と尊重に努めた。
114
治療主訴
1 週間前に掃除機でびっくりしてからあまり動かない。
治療場所
筆者が開設する小動物病院
治療時期
200 8 年 9 月 1 4 日 か ら 1 8 日 の 5 日 間 。
治療転帰
初 診 時 か ら 5 日 目 に 斃 死 す る 転 帰 を 取 る 。 第 6 病 日 に 死 亡 後 MR I 検 査 に よ っ て
水頭症と小脳ヘルニアと診断。
事例の記載方法
診 察 開 始日 を 第 1 病 日 と し ,事 例の 経 過 を 記 載 した 。来 院 が 1 病 日 に数
回 に わ た る と き は ,【 午 前 】【 午 後 】 な ど と 表 記 し た 。 斎 藤 ら ( 2 003 ) に な ら い , 各 病 日 で
獣 医 学的 記 載 形 式 と ナ ラ ティ ブ の 記 載 形 式 に 分け て 表 記 し た 。獣 医 学 的記 載 形 式 は ,獣医
学的症状や診断治療の状況を理解が損なわれないよう注意しながら平易な言葉で記載し
た 。 ナ ラ テ ィ ブ の 記 載 形 式 は , 飼 主 の 発 言 は 「 」, 飼 主 の 様 子 は [ ], 筆 者 ( 獣 医 師 ) の 発
言 は 『 』, 筆 者 の 感 じ た こ と は 〈 〉 で 表 記 し た 。 筆 者 が 飼 主 の ナ ラ テ ィ ブ を 類 推 し , 慮 る
発言または考えを下線
で表記した。
3. 事 例 の 経 過
第 1 病日【午前】
獣医学的記載形式:1 週間前に掃除機でびっくりしてからあまり動かない。おしっこをし
た上に寝ている。食欲廃絶でやや過敏で震えがある。皮膚テント低下。股動脈圧触知可。
血液検査,腹部エコー,心エコーで著変認めず。甲状腺機能検査をオーダーする。調子の
悪 い 原 因 が 特 定 で き ず ,脱 水 改 善 を 意 図 し て 皮 下 点 滴 と ペ ニ シ リ ン 系 抗 生 物 質 を 注 射 す る 。
ナ ラ テ ィ ブ の 記 載 形 式 :『 調 子 の 悪 い 原 因 は つ か め て い ま せ ん が , 脱 水 が あ り そ う な の で
注 射 を し て お き ま す 。 悪 く な る よ う な ら , ま た 来 院 さ れ て く だ さ い 。』〈 医 療 情 報 と 治 療 内
容の説明をする〉
第 1 病日【午後】
獣医学的記載形式:状態が悪化し虚脱。意識はあるがうなって動けない。やや高血糖。脳
神 経 と心 筋 障 害 を 疑 う 血 液検 査 結 果 あ り 。コ リ ン エス テ ラ ー ゼ 検 査を オ ー ダ ー す る 。治療
への副作用,脳神経異常,中毒,循環不全を疑い,血管留置して点滴治療する。入院を勧
め る も 病 院 で 亡 く な る 可 能 性 に 飼 主 は 同 意 で き ず ,深 夜 に 退 院 。そ の 後 夜 間 動 物 病 院 受 診 。
夜 間 病 院 で も 脳 神 経 異 常 と 中 毒 を 疑 い 治 療 。夜 間 病 院 で 当 院 の 治 療 に 脳 圧 下 降 薬 の 注 射 を
追加した治療を行う。
ナ ラ テ ィ ブ の 記 載 形 式 :『 脳 神 経 の 異 常 , 中 毒 , ペ ニ シ リ ン シ ョ ッ ク な ど の 薬 物 の 影 響 ,
循 環 不 全 な ど の 可 能 性 が あ る と 思 い ま す が , M RI な ど の 検 査 を し な い と 原 因 を 特 定 で き な
い と 思 い ま す 。』〈 医 療 情 報 と 治 療 内 容 を 説 明 す る 〉
「 ペ ニ シ リ ン シ ョ ッ ク で こ ん な 状 態 に な り ま す か ? 」 [少 し 獣 医 師 を 責 め る よ う に ]
『 シ ョ ッ ク で あ れ ば 循 環 不 全 を 改 善 す る 治 療 に 反 応 す る は ず で す が ,良 く な っ て こ な い の
で 可 能 性 と し て 他 の こ と も 考 え て い か な け れ ば い け な い と 思 い ま す 。』〈 納 得 し つ つ も 急 激
な悪化を示した動物の状態に気持ちが整理できない様子なので獣医師としての私見を包
み隠さず説明〉
「 最 近 忙 し く て こ の 子 を 見 て い る 時 間 が 無 か っ た ん で す よ ね 」「 す ぐ 死 ん だ り し ま す か
115
ね ? 」[ 不 安 な 表 情 ]
〈 飼 主 の 動 物 ケ ア 不 全 に 対 す る 後 悔 と 死 亡 可 能 性 へ の 心 配 を 汲 み 取 る 〉『 そ う で す か 。 ご
心 配 だ と 思 い ま す が 死 亡 可 能 性 が 無 い と は い え ま せ ん 。』〈 飼 主 の 気 持 ち へ の 応 答 と 獣 医 師
としての私見の説明〉
第 2 病日【午後】
獣医学的記載形式:午前は少し良好,午後から虚脱状態になる。脳圧下降薬に反応がある
様 子 だ っ た の で 半 日 入 院 し 6 時 間 置 き に 注 射 。 MR I 検 査 を 勧 め る 。 夕 方 ま で 預 か り , 自 宅
に て 輸液 ポ ン プ で 脳 圧 下 降薬 注 射 を 指 示 。退 院 時 は少 し 顔 を 上 げ る様 子 だ っ た が ,夜 間再
び悪化し,夜間病院で脳圧下降薬注射を 2 回実施する。
ナ ラ テ ィ ブ の 記 載 形 式 :「 こ の 子 は 車 に 乗 っ た り し た こ と が な い ん で す 。 病 院 に い っ た り
き た り す る こ と で ス ト レ ス を 感 じ て い る の で は 。ス ト レ ス と か で 悪 く な る こ と は な い ん で
すか?」
〈 医 療 従 事 者 で 医 療 知 識 か ら の 説 明 に 理 論 的 に 納 得 さ れ て い た 様 子 な の に ,ス ト レ ス と い
う こ と を 持 ち 出 し て こ ら れ た の で 少 し 違 和 感 を も つ 。〉『 ス ト レ ス で 悪 く な る こ と が な い と
は 言 え ま せ ん が ,虚 脱 し て 横 臥 し て 歩 け な く な る よ う な 大 き な 異 常 が 精 神 的 な 問 題 で 起 こ
っ て く る こ と は 考 え に く い の で ,何 か 大 き な 異 常 が 体 の 中 に 起 こ っ て い る の で は と 思 っ て
います。胸部,心臓,肺,腹部エコー,血液検査でも大きな異常を捕まえきれていないの
で ,頭 の 異常 か 中 毒 か も しれ ま せ ん 。状 態 が 安定 し て 麻 酔 が か け られ る よ う な 状 態 に なっ
た ら M RI を 検 討 す る よ う に す る の が い い と 思 い ま す 。』〈 飼 主 の 語 り を 完 全 否 定 せ ず , 医 療
情 報 か ら の 獣 医 師 と し て の 私 見 と 治 療 方 針 の 明 確 化 を 行 う 。〉
『 最 近 忙 し く っ て ぜ ん ぜ ん こ の 子 に 構 っ て あ げ ら れ な か っ た ん で す 。呼 ぶ と 返 事 す る よ う
な穏やかな性格の子だったんです。調子が悪いのにもっと早く気づいてあげられていれ
ば・・。私が近づくとうーっとうなるんです。病院に連れまわされるのが嫌なのかなとも
見えるんです。どうして急にこうなってしまったのか,原因もわからないし・・。こうゆ
うことは良くあるんですか?』
〈 病 気前 の ケ ア 不 全 へ の 後悔 ,原 因 が わ か ら ず治 療 の 進 行 具 合 へ の不 安 ,猫 の 飼 主 へ の態
度 の 変 化 へ の 驚 き ,治 療 中 は な る べ く 一 緒 に い て あ げ た い 希 望 な ど か ら ス ト レ ス が 原 因 な
の で は と 言 う 気 持 ち が 出 て き て い る と 想 像 〉『 そ う で す か 。 こ う い う こ と は よ く あ る こ と
で は あり ま せ ん 。な る べ く病 院 と し て は 飼 主 さん の 希 望 に な る べ く添 え る よ う に ,夕 方ま
で 病 院で 預 か っ て 治 療 し ,輸 液ポ ン プ を 貸 し 出し ,持 続 点 滴 を 自 宅で 治 療 で き る よ う にし
ま し ょ う 。』〈 亡 く な る 可 能 性 も あ り , 不 安 が 強 く な っ て い る の で , 病 院 と し て の 出 来 う る
限りのことを提案〉
第 3 病日【午後】
獣医学的記載形式:午前は調子が良かったが夕方から虚脱状態。脳圧下降薬の注射。
ナ ラ テ ィ ブ の 記 載 形 式 :「 脳 圧 下 降 薬 の 注 射 の 後 , 状 態 が 戻 っ て も , 振 る え や 焦 点 が 合 わ
な い 感 じ が あ る し ,治 療 へ の 反 応 を 見 て も や っ ぱ り 脳 の 障 害 か も し れ な い と 思 っ て 。で も ,
ど う し て も っ と 早 く 気 づ い て 上 げ ら れ な か っ た ん だ ろ う 。脳 の 異 常 だ っ た ら も っ と 前 か ら
症 状 が出 る は ず だ し 。看 護 師 の試 験 勉 強 の と きも ず っ と 一 緒 に い てく れ て ,私 を 助 け てく
116
れたのに・。まだ 8 歳だからもっと長く一緒に入れたはずなのに。私のことがわからない
よ う な状 態 に な っ て し ま って 。実 は 一 週 間 前 粗相 を し て し ま っ た 時 ,頭を た た い て し まっ
た ん です 。そ れ が 悪 化 の 原因 だ っ た の か し ら 。病 院を 連 れ ま わ し てス ト レ ス を か け て 申し
訳 な い と 思 う ん で す 。」[ 涙 を こ ぼ す ]
〈 自 身の ケ ア の 不 十 分 さ ,病 気悪 化 の 現 実 を 受け 止 め ら れ な い 感 じ ,頭を た た い た こ とを
こ こ に き て 吐 露 し た と い う 自 責 の 念 と そ れ を 隠 し た か っ た 気 持 ち ,性 格 変 化 に よ っ て 飼 主
を 認 識で き な く な っ た 動 物へ の 哀 れ み の 念 ,ス ト レス を か け た く ない と 願 う 気 持 ち ,原因
がわからず気持ちにおさまりきれない感じなどの混乱した飼主の語りを遮らずに応答し
な が ら 傾 聴 す る 〉『 そ ん な こ と あ り ま せ ん 。 こ の 子 は 今 ま で の 生 活 の 中 で 飼 主 さ ん か ら い
っ ぱ い 幸 せ を も ら っ て 感 謝 し て い る と 思 い ま す よ 。飼 主 さ ん も 出 来 る 限 り の こ と を し て 上
げ ら れ て い る と 思 い ま す 』〈 飼 主 を 慰 労 〉
第 4 病日【午前】
獣医学的記載形式:午後まで預かって治療。治療へ反応し体を起こせる程に改善し退院。
甲状腺機能亢進陰性。
ナ ラ テ ィ ブ の 記 載 形 式 :「 病 気 の 原 因 は わ か ら な い が , 治 療 の や り 方 が わ か っ て き ま し た 」
[少しほっとしている]
〈 治 療 の や り 方 が わ か っ て め ど が 立 っ て き た の で ,少 し 落 ち 着 か れ た 〉
『 そ う で す か 。』
〈気
持ちを汲むように応答〉
第 5 病日
獣医学的記載形式:午前中に電話もらう。調子がいいということだったので,様子を見て
来 院 する と の こ と 。し か し午 後 6 時 に 飼 主 の 夫が 心 肺 停 止 状 態 の 猫を 抱 え て 来 院 。そ の後
遅れて飼主も来院した。蘇生処置をするも斃死した。
ナ ラ テ ィ ブ の 記 載 形 式 :「 今 朝 ま で 管 理 が 出 来 る よ う に な っ て き た の で , 助 け ら れ る と 思
っ た の に 。 ど う し て も 助 け て や ろ う と 思 っ た の に 。 何 で 死 ん で し ま っ た の 」[ 泣 か れ る 。
気 持 ち の ぶ つ け ど こ ろ が な い た め か ,昼 の 点 滴 の 管 理 を し て い た 夫 を 責 め る よ う な 語 り も
あ っ た 。]
〈 急 激 な 変 化 で の 動 物 の 死 亡 か ら 混 乱 し 飼 主 の 気 持 ち の 整 理 が 難 し い と 判 断 。死 因 が 明 ら
か に な る こ と で 飼 主 の 気 持 ち の 整 理 が つ く か も し れ な い と 考 え , 病 理 解 剖 や 死 亡 後 の M RI
検 査 を 提 案 す る 〉『 お 辛 い で し ょ う け ど , も し 原 因 を お 知 り に な り た い 場 合 , 病 理 解 剖 や
MRI を と る こ と で わ か る こ と が あ る か も し れ ま せ ん 。 希 望 さ れ れ ば ご 紹 介 し ま す の で , ご
連 絡 く だ さ い 。』
第 6 病日
獣 医 学 的 記 載 形 式 : 遺 体 の MR I 検 査 の 依 頼 が あ り , A 動 物 病 院 に て MR I 実 施 。 水 頭 症 と 小
脳ヘルニアの診断。コリンエステラーゼ検査陰性。
ナ ラ テ ィ ブ の 記 載 形 式:
「 切 り 刻 ま れ る の は ,ど う し て も 嫌 な の で 病 理 解 剖 は し た く な い 。
で も 原 因 が わ か ら な い ま ま 死 な せ て し ま う の は い や な の で , M RI で 検 査 し て も ら い た い 。」
と い う こ と で , M RI 検 査 の た め A 動 物 病 院 を 紹 介 。
117
検査後電話にて
「先生ありがとうございました。A 動物病院にいって本当に良かったです。原因がわかっ
たので,つかえたものが取れたように,気持ちがすっとしました。動物が亡くなったのは
悲しいけれど,原因が判らなかったら,私はずっと自分を責めたりして,あの子の死をも
っ と 引 き ず る と 思 い ま す 。 あ と , そ こ の 看 護 婦 さ ん と 忙 し か っ た だ ろ う け ど 30 分 も 話 し
込 ん でし ま っ て 。同 じ く らい の 年 齢 で 同 じ よ うな 境 遇 の 猫 を 飼 っ てい ら し た の で ,思 わず
言 葉 が あ ふ れ て き て い ろ い ろ な こ と を 話 し て し ま い ま し た 。生 前 の あ の 子 の こ と と か 。看
護 婦 さん に も“ 飼 主 さ ん をこ こ に 連 れ て き て くれ た の は ,あ の 子 が導 い て く れ た の か もし
れ ま せ ん 。こ の ま ま だ と 飼 主 さ ん が あ の 子 の 死 を 受 け 止 め ら れ な い ん じ ゃ な い か と 思 っ て
そ う した の か も し れ ま せ んよ 。急 に な く な っ たの も ,苦 し い 時 間 を最 小 限 し か 見 せ な いで
亡 く な っ た の も , 悲 し ま せ た く な か っ た か ら か も し れ ま せ ん よ 。” っ て 話 し て も ら っ て と
っ て も癒 さ れ ま し た 。動 物 が 亡く な っ た と き の話 っ て ,普 通 の 人 に聞 い て も ら え な い でし
ょ 。動 物 のこ と 判 っ て い る人 で な い と 話 す こ とも 出 来 な い じ ゃ な いで す か 。看 護 婦 さ んに
話 を 聞い て も ら っ て ,本 当 に あの 子 の 死 を 受 け止 め ら れ そ う な 気 がし て い ま す 。今 回 のこ
と た く さ ん の 獣 医 師 に 出 会 い ま し た が ,動 物 の た め に 何 と か し て あ げ よ う と み ん な 必 死 に
してもらって,とても感謝しています。クレーマーとか問題になっていて,私も医療従事
者 だ か ら 良 く わ か っ て い る け ど ,人 間 の 医 者 で も し て く れ な い よ う な 要 求 に 応 え て く れ た
の で と て も 感 謝 し て い ま す 。」
4. 考 察
(1) 事 例 に お け る 飼 主 と 獣 医 師 の ナ ラ テ ィ ブ
本 事 例 は 診 察 か ら わ ず か 5 日 で 急 死 す る 転 帰 を と っ た 猫 の 飼 主 の 事 例 で あ る 。 死 後 MRI
検 査 によ っ て 水 頭 症 と 小 脳ヘ ル ニ ア が 死 因 と 診断 さ れ た 。獣 医 師 であ る 筆 者 は ,第 1 病日
か ら 医療 過 誤( 薬 物 の 副 作用 )の 可 能 性 や 飼 主の 納 得 し つ つ も 取 り乱 し た 反 応 か ら 慎 重な
対 応 を迫 ら れ た 。筆 者 は ,診 察当 初 か ら 動 物 の病 態 か ら 判 断 で き るあ ら ゆ る 病 気 の 可 能性
を客観的に説明することと飼主の語りを積極的に傾聴し飼主の世界を社会構成主義的に
理 解 す る こ と に 努 め た 。飼 主 は 当 初 気 持 ち の 整 理 が 出 来 ず 取 り 乱 し た 様 子 で あ っ た が ,猫
の ケ アに 対 す る 後 悔 や 死 に対 す る 心 配 を 語 り 始め た 。第 2 病 日 か ら“ 病院 に 連 れ て く るス
ト レ ス ”に言 及 し ,飼 主 が医 療 従 事 者 に も か かわ ら ず 理 論 的 な 病 態説 明 が 理 解 し づ ら いこ
と に 筆 者 は 違 和 感 を も っ た 。“ 病 院 に 連 れ て く る ス ト レ ス が 悪 化 の 原 因 ” と い う 飼 主 の ナ
ラ テ ィ ブ を 受 け 入 れ つ つ ,“ 客 観 的 な 獣 医 学 的 病 態 評 価 と 治 療 方 針 ” と い う 筆 者 の ナ ラ テ
ィブを提示すると,飼主は病気前のケア不全への後悔,治療の進行具合への不安,猫の飼
主 自 身へ の 態 度 変 化 の 驚 き ,一緒 に い て あ げ たい 希 望 な ど の ナ ラ ティ ブ を 語 っ た 。筆 者は
飼 主 世 界 の 理 解 と 不 安 の 共 感 が 進 み ,獣 医 師 と し て 飼 主 の 希 望 に 沿 う 提 案 を お こ な う に い
た っ た 。 第 3 病 日 の 飼 主 の 語 り に は ,“ や っ ぱ り 脳 の 障 害 か も ” と い う 獣 医 師 の ナ ラ テ ィ
ブの理解が進んでいること,
“ 猫 を た た い て し ま っ た こ と ”を 吐 露 し て い る こ と な ど か ら ,
獣 医 師 へ の 不 信 感 や 抵 抗 感 が 薄 れ て き て い る 事 が 伺 わ れ る 。こ の こ と に 伴 い 自 責 の 念 や 猫
へ の 哀れ み や 心 配 が“ 看 護 師 の試 験 勉 強 の と きか ら 一 緒 だ っ た ”と い うエ ピ ソ ー ド と とも
118
に語られた。筆者は積極的傾聴に努め,飼主のナラティブをより理解し共感するに至り,
飼 主 へ の 慰 労 の 言 葉 に つ な が っ て い る 。第 4 病 日 に 猫 の 病 態 が 少 し 安 定 し 飼 主 は 落 ち 着 き
を 一 時的 に 取 り 戻 し た が ,第 5 病 日 に 急 変 し 猫は 斃 死 し て し ま う 。筆 者は 今 ま で の 飼 主世
界の社会構成主義的理解から猫の病気の原因を明らかにすることが飼主の自責の念や後
悔 を 和 ら げ る 可 能 性 が あ る と 考 え ,お 悔 や み の 念 を 示 し な が ら 病 理 解 剖 や 死 後 MRI を 提 案
し た 。 死 後 M RI が 猫 の 死 の 原 因 を 明 ら か に し た こ と と , A 動 物 病 院 の 看 護 婦 の 情 緒 的 な か
か わ り が 飼 主 の“ 猫 の 死 の 受 容 ”に つ な が り ,飼 主 か ら 感 謝 の 言 葉 を か け ら れ る に 至 っ た 。
当 初 ,獣 医 師 不 信 の 念 と 混 乱 し た 感 情 や 獣 医 学 的 病 態 事 実 の 説 明 が 入 り に く い と い う 飼
主 の ド ミ ナ ン ト ス ト ー リ ー の 理 解 が 筆 者 に は あ っ た が ,積 極 的 傾 聴 や 受 容 の 姿 勢 と 飼 主 の
社会構成主義的理解に努める姿勢が飼主と筆者双方のドミナントストーリーを変化させ,
最 終 的に 飼 主 と 筆 者 双 方 に受 け 入 れ る こ と の 出来 る“ 飼 主 の 猫 の 死の 受 容 ”と い う オ ルタ
ナ テ ィ ブ ス ト ー リ ー を 紡 ぎ だ す 結 果 に つ な が っ た 可 能 性 が あ る 。飼 主 と 筆 者 の ド ミ ナ ン ト
ス ト ー リ ー と オ ル タ ナ テ ィ ブ ス ト ー リ ー が 紡 ぎ だ さ れ る ま で の 経 緯 の 模 式 図 を 図 7 -1 に 示
す。
119
ドミナントストーリーから
獣医師不信
混乱した感情
獣医師の説
オルタナティブストーリーへ
明の理解
自責や不安
の表現
飼主
“飼主の猫の死
積極的傾聴
社会構成主義的理解
に努める姿勢
の受容”の物語
筆者
(獣医師)
飼主の世界や不
安の理解と受容
飼主ニードに沿
獣医学的病態
う提案
ドミナントストーリーから
オルタナティブストーリーへ
理解
飼主の理解
図 7 -1
飼主と筆者のドミナントストーリーとオルタナティブストーリーが紡ぎだされ
るまでの経緯
120
(2) 獣 医 師 の “ 獣 医 師 自 身 と 飼 主 の ナ ラ テ ィ ブ ” を 理 解 ・ 尊 重 す る 姿 勢
本 事 例 に お い て 筆 者 は ,積 極 的 傾 聴 の 姿 勢 と 社 会 構 成 主 義 的 な 飼 主 理 解 の 姿 勢 を 重 視 し
た 。 獣 医 師 で あ る 筆 者 は ,“ 獣 医 学 的 知 識 か ら 動 物 を 診 る ” と い う 専 門 家 と し て の ド ミ ナ
ン ト スト ー リ ー を 持 つ 。事 例 にお い て“ 医 療 従事 者 に か か わ ら ず 理論 的 説 明 を 理 解 せ ずに
ど う して ス ト レ ス を 持 ち 出し て き た の か ”と 筆 者 は違 和 感 を 持 っ た 。この 違 和 感 に は 筆者
の 専 門 家 と し て の ド ミ ナ ン ト ス ト ー リ ー が 影 響 し て い る と 考 え ,違 和 感 を 抱 え な が ら 積 極
的 傾 聴 の 姿 勢 を 崩 さ ず に 動 物 の 病 態 を 獣 医 学 的 事 実 か ら 説 明 す る こ と に 努 め た 。言 い 換 え
れ ば 専 門 家 と し て の ド ミ ナ ン ト ス ト ー リ ー を 抱 え な が ら ,飼 主 の ド ミ ナ ン ト ス ト ー リ ー を
理 解 ・ 尊 重 す る こ と に 努 め た 。 森 岡 ( 2 00 5) は , 心 理 療 法 の 関 係 性 維 持 に お け る セ ラ ピ ス
ト 自 身 の 姿 勢 を 問 う 力 に つ い て 言 及 し ,“ セ ラ ピ ス ト も 自 分 自 身 の 考 え 方 や 感 じ 方 を 素 直
に 受 け 取 り ,自 分 に 問 い 続 け る こ と が ク ラ イ エ ン ト の 自 分 の 力 を 生 み 出 す 関 係 性 を 作 り 維
持 す る原 動 力 に な る ”と し て いる 。今 回 の 事 例で の 筆 者 の 違 和 感 の扱 い は こ の こ と に 準じ
て い た と 考 え ら れ る が ,治 療 者 の 自 身 を 問 う 姿 勢 が 獣 医 師 不 信 か ら 始 ま っ た 治 療 関 係 が 良
好に維持される結果に繋がった要因かもしれない。
ま た ,“ 飼 主 の 猫 の 死 の 受 容 ” と い う オ ル タ ナ テ ィ ブ ス ト ー リ ー は , 飼 主 も 筆 者 も そ の 結
末 に 落 と し こ む こ と を 当 初 か ら 描 い た も の で は な か っ た 。事 例 に お け る 獣 医 療 が 進 む 中 で ,
偶 発 的 に 起 こ っ て き た 物 語 で あ る 。 M ic he l( 19 90 ) は , 治 療 的 な オ ル タ ナ テ ィ ブ ス ト ー リ
ーの創出にとって,ドミナントストーリーの外側に汲み残された生きられたはずの経験
( u ni que ou tc ome ; ユ ニ ー ク な 結 果 ) の 同 定 と 外 在 化 を 促 す こ と が 有 効 に 働 く こ と を 指 摘
し て い る 。 un iq ue out com e は 予 測 さ れ う る も の で は な い が , 人 に 人 生 の 再 著 述 を 促 す か か
わ り によ っ て 引 き 出 さ れ てく る と し て い る 。本 事 例に お い て“ 看 護 師 の試 験 勉 強 の と きも
ずっと一緒にいてくれて,私を助けてくれたのに”や“実は一週間前粗相をしてしまった
時,頭をたたいてしまったんです”などの飼主の発言は,筆者の予想を超えた飼主にとっ
て の こ の uni qu e o ut come を 同 定 ・ 外 在 化 し て い る 発 言 で あ っ た と 考 え ら れ る 。 治 療 者 で
あ る 筆 者 が 行 っ た 積 極 的 傾 聴 の 姿 勢 と 社 会 構 成 主 義 的 な 飼 主 理 解 の 姿 勢 が ,飼 主 の u ni qu e
out co me を 同 定 ・ 外 在 化 す る 活 動 を 促 し 得 た の か も し れ ず , 治 療 者 の こ の 姿 勢 が 飼 主 と 筆
者を本事例におけるオルタナティブストーリーの創出に導いた要因かもしれない。
斎 藤 ( 20 03 ) は , 一 般 医 療 に お け る N BM の 特 徴 と し て 表 7 -1 の 5 つ を 掲 げ て い る 。 N BM を
実 践 す る に あ た り 治 療 者 で あ る 獣 医 師 は ,自 身 の も つ 獣 医 学 的 知 識 を も ナ ラ テ ィ ブ と 捉 え ,
唯一無二のものではなく飼主とのかかわりの中で再構築されるという認識を持ち飼主と
の関係性を維持することやその姿勢から紡ぎ出される獣医師と飼主の物語が治療的なオ
ルタナティブストーリーを創出するという認識が必要だと考えられる。
121
表7-1 一般医療におけるNBMの特徴(Greenhalgh,2001;斎藤,2003)
(1)「患者の病い」と「病いに対する患者の対処行動」を,患者の人生と生活世界
における,より大きな物語りの中で展開する「物語り」であるとみなす。
(2)患者を,物語りの語り手として,また,物語りにおける対象ではなく「主体」
として尊重する。同時に自身の病いをどう定義し,それにどう対応し,それをどう形
作っていくかについての患者自身の役割を,最大限に重要視する。
(3)一つの問題や経験が複数の物語り(説明)を生み出すことを認め,「唯一の真
実の出来事」という概念は役に立たないことを認める。
(4)本質的に非線形的なアプローチである。すなわち,全ての物事を,先行する予
測可能な「一つの原因」に基づくものとは考えず,むしろ,複数の行動や文脈の複雑
な相互交流から浮かび上がってくるもの,と見なす。
(5)治療者と患者の間で取り交わされる(あるいは演じられる)対話を,治療の重
要な一部であるとみなす。
(3) 今 回 の 事 例 で N B M が 生 ん だ も の
本事例 に お い て 当 初 飼 主が 抱 い た“ 獣 医 師 不信 と 混 乱 し た 感 情 ”と いう 飼 主 の ド ミ ナン
ト ス トー リ ー は ,獣 医 師 の積 極 的 傾 聴 の 姿 勢 と社 会 構 成 主 義 的 な 飼主 理 解 の 姿 勢 ,獣 医師
自 身 の専 門 家 と し て の ド ミナ ン ト ス ト ー リ ー を感 じ る 姿 勢 に よ っ て ,飼主 と 獣 医 師 の“猫
の 死 の受 容 ”と い う オ ル タナ テ ィ ブ ス ト ー リ ーに 変 遷 し た 。こ の オル タ ナ テ ィ ブ ス ト ーリ
ー は ,猫 の死 と い う 獣 医 療結 果 と し て は 最 悪 の結 末 と い う ス ト ー リー だ け で な く ,飼 主の
自責の念や後悔を和らげ飼主から感謝の言葉を受けるストーリーとして飼主と獣医師に
厚 み と 意 味 を も た ら し た 物 語 と 評 価 で き る 。 N BM か ら 獣 医 療 を 評 価 す る と き , 動 物 を 治 療
す る とい う こ と は ひ と つ の意 味 で あ り 物 語 で ある 。そ れ だ け で な く ,獣医 療 に 飼 主 や 獣医
師のペットに対する思いや人生そのものまでの物語が含まれることを意味づけることが
で き る 。そし て ,飼 主 の 不全 状 態 に あ る ド ミ ナン ト ス ト ー リ ー を 飼主 と 獣 医 師 双 方 に 厚み
と 意 味 の あ る 物 語 に 紡 ぎ か え る こ と が NBM 獣 医 療 の ゴ ー ル と 考 え る こ と も 出 来 る だ ろ う 。
5. 獣 医 療 を 社 会 構 成 主 義 的 に メ タ 認 知 す る こ と
本事例において「第 1 病日から医療過誤(薬物の副作用)の可能性や飼主の納得しつつ
も取り乱した反応」や「獣医師への不信」が見受けられた飼主との対応は ,獣医師である
著 者 に強 い 心 理 的 ス ト レ スを 発 生 さ せ て い た 。し かし ,獣 医 師 の 積極 的 傾 聴 と 社 会 構 成主
義 的 な 現 象 理 解 は , 飼 主 の 「 獣 医 師 の 説 明 の 理 解 」 や 「 自 責 や 不 安 の 表 現 」 を 生 み ,「“ 飼
主の猫の死の受容”の物語」というオルタナティブストーリーを生んだ。そして ,当初獣
医 師 が 飼 主 に 抱 い た 「“ 医 療 従 事 者 に 関 わ ら ず 理 論 的 説 明 を 理 解 せ ず に ど う し て ス ト レ ス
を持ち出してきたのか”という筆者の違和感」などの獣医師のナラティブの変化も生み,
最 終 的 に 獣 医 師 側 も 納 得 で き る オ ル タ ナ テ ィ ブ ス ト ー リ ー を 生 ん で い る 。こ こ で 筆 者 の ス
トレスは主観的に減少していることを体験している。
第 3 章第 1 節『ストレス対処』の『問題解決的・関係志向的』内には『飼主の受容と共
感』
『飼主との充分なコミュニケーション』
『 問 題 解 決 を は か る 』の 中 カ テ ゴ リ ー が あ っ た 。
この中カテゴリーに含まれる,
『飼主の気持ちを理解しようとする』
『飼主を否定せず受容』
『 反 省 す る 』『 飼 主 と の 意 思 疎 通 を は か る 』 は , 表 7 - 1 の 一 般 医 療 に お け る NB M の 特 徴 で
122
あ る ,「 患 者 の 主 体 を 尊 重 」「 患 者 の 病 を 患 者 の 生 活 世 界 の 物 語 と み な す 」「 唯 一 の 真 実 の
出 来 事( 獣 医 師 内 の 真 実 )と い う 概 念 は 役 立 た な い こ と を 認 め る 」と い っ た 姿 勢 と 共 通 し ,
第 3 章 第 1 節 『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 は , NB M の 対 人 方 略 に 近 似 す る と 考 え ら れ る 。
た だ ,NB M は『 原 因 を 追 究 し て 問 題 解 決 を 図 る( 第 3 章 第 1 節『 問 題 解 決 的・関 係 志 向 的 』)』
という線型的な問題解決の概念だけではなく ,非線形的な ,複数の行動や文脈の複雑な相
互交流から問題解決方法は浮かび上がってくるという捉え方をする対人方略であるとこ
ろ が ,『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 カ テ ゴ リ ー と 異 な る と 考 え ら れ る 。 本 節 で は , 社 会 構
成 主 義 的 な 飼 主 と の 交 流 か ら ,「“ 飼 主 の 猫 の 死 の 受 容 ” の 物 語 」 が 飼 主 と 獣 医 師 に 創 造 さ
れ る 結 果 を 生 ん で い る こ と が ,獣 医 師 の ス ト レ ス を 軽 減 し た こ と に つ な が っ て い る の だ が ,
この結果は獣医師の意図したこと(獣医師の線型的なアプローチ)ではなかった。本節の
結果を第 3 章第 1 節のカテゴリーを用いて説明すると,
〈『 問 題 解 決 的・関 係 志 向 的 』な『 飼
主 の 受 容 と 共 感 』『 飼 主 と の 充 分 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 』 な ど の コ ー ピ ン グ は , 社 会 構 成
主義の観点から獣医師のストレスを軽減する可能性がある〉ことが示唆される。
第 4 章 第 1 節 に お い て【 統 合 】は【 ス ト レ ス 反 応 】を 減 じ る 結 果 で あ っ た 。
【 統 合 】は ,
お互いが満足し利益になるような決定をする対人葛藤方略であり ,他者志向が高く ,自己
志 向 も 高 い ス タ イ ル で あ っ た 。 こ れ は , 表 7- 1 の 「 患 者 の 主 体 を 尊 重 」「 対 話 を 治 療 の 重
要 な 一 部 と み な す 」 な ど の N BM の 特 徴 に 合 致 す る 。 本 章 の 事 例 で 獣 医 師 の ス ト レ ス を 軽 減
した効果は,このこととも関係するかもしれない。また ,社会構成主義的な獣医療現象の
理 解 は ,Gr ee nha lg h ら の 一 般 医 療 に お け る N B M の 特 徴 と 照 ら し 合 わ せ れ ば〈 飼 主 と ネ ガ
ティブな人間関係を引き起こす方略を用いずに ,お互いを理解し認めること ,しかし飼主
に歩み寄り ,妥協点を見つけようとする関わり方を避けること 〉と い う 第 4 章 第 1 節 の 結
論と同様な飼主対応を獣医師に実現させうるのかもしれない。
事 例 研 究 は ,獣 医 師 自 身 の ナ ラ テ ィ ブ と 飼 主 の ナ ラ テ ィ ブ を 社 会 構 成 主 義 的 に 尊 重 す る
獣 医 師 の 姿 勢 が 良 好 な 飼 主 -獣 医 師 の 治 療 関 係 構 築 を 助 け る 働 き を す る こ と を 示 し た 。 獣
医 師 の 社 会 構 成 主 義 的 獣 医 治 療 構 造 の 理 解 は ,「 飼 主 が 医 療 従 事 者 に も か か わ ら ず 理 論 的
な 病 態 説 明 が 理 解 し づ ら い こ と に 筆 者 は 違 和 感 」 を 持 っ た の ち ,「 違 和 感 を 抱 え な が ら 積
極 的 傾 聴 の 姿 勢 を 崩 さ ず に 動 物 の 病 態 を 獣 医 学 的 事 実 か ら 説 明 す る 」と い う 獣 医 師 の 態 度
を維持する助けとなっている。言い換えると,社会構成主義的な治療構造の理解は,獣医
師が飼主と獣医師の認識のギャップ(違和感)に気付く(メタ認知する)ことを促したと
もいえる。
この獣医師の姿勢は ,飼主のナラティブを獣医師が受容することにつながり ,獣医師の
ギャップを解消し,自己一致(ストレス軽減)に導く一定の働きがあった(獣医師不信と
理 論 的病 態 の 説 明 が 入 り にく い 飼 主 の ナ ラ テ ィブ は ,獣 医 師 と 飼 主双 方 が 受 容 可 能 な「猫
の 死 」 の オ ル タ ナ テ ィ ブ ス ト ー リ ー に 変 容 し た た め )。 つ ま り NB N は , 診 療 現 場 に お け る
獣 医 師 の 内 面 の 分 裂 を 解 消 し ,飼 主 の 多 様 な 価 値 観 に 対 応 す る こ と で 生 じ る 獣 医 師 ス ト レ
スを問題焦点型にコーピング出来る可能性がある。
今回の事例研究にて獣医師の〈 ス ト レ ス 軽 減 に寄与した要因は ,獣医師 が獣医療現象を
社 会 構 成 主 義 的 に 俯 瞰 ( メ タ 認 知 ) し た こ と 〉 が ま ず 挙 げ ら れ る 。「 唯 一 無 二 の 真 実 は 存
在 し な い 。」「 人 と の 相 互 交 流 の 中 で 新 し い 現 実 が 浮 か び 上 が る 。」 と い っ た NBM の 現 象 認
知 を 獣 医 師 が 持 つ こ と ,獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 ギ ャ ッ プ の 存 在 を 理 解 す る 努 力 が 獣 医 師 の 認
123
識を変容させる可能性があることを治療者である獣医師が有したことがギャップの解消
に寄与した可能性がある。
6. 残 さ れ た 課 題
本 研 究 は 一 事 例 に 対 す る 評 価 の た め , N BM が ス ト レ ス を 軽 減 す る 効 果 は 追 加 研 究 に よ っ
て 検 証 さ れ な け れ ば な ら な い 。 他 の NB M 事 例 を 検 討 す る こ と , 他 の 獣 医 師 へ の 面 接 調 査 な
ど で , NB M の ス ト レ ス 軽 減 効 果 な ど に つ い て 調 査 す る こ と , N BM に 基 づ く 治 療 構 造 の メ タ
認知がストレスを軽減することを対照実験によって測定することなどが有効性を検証す
るためには必要と考えられる。
本 節 で は ,社 会 構 造 主 義 的 な 治 療 構 造 の メ タ 認 知 に よ っ て ス ト レ ス 軽 減 効 果 が 認 め ら れ
たが,第 3 章第 2 節〈飼主の個人的・感情的な“ペットに対する物語”は,獣医師の理性
的説得によって変容しない〉ことから,飼主の態度は獣医師の努力(コミュニケーション
の 工 夫 )だけ で は 必 ず し も変 容 し な い と 考 え られ ,社 会 構 成 主 義 的な 治 療 構 造 の メ タ 認知
は必ずしも獣医師のストレス軽減につながらないことも考えられる。第 3 章第 3 節から飼
主 へ の 否 定 的 感 情 や 認 識 の ギ ャ ッ プ は〈 獣 医 師 が 飼 主 の 感 情 を う ま く 理 解 で き て い な い こ
と に 起因 す る 〉と 考 え ら れ ,獣医 師 が 飼 主 を 理解 す る 事 に は 限 界 があ る と も 考 え ら れ るた
め,本節でのストレス軽減効果はすべての事例に適応するものとも考えられない。今後、
NBM の ス ト レ ス 軽 減 効 果 が ど の よ う な 条 件 で 生 じ る の か 継 承 的 研 究 で 検 証 さ れ な け れ ば な
らない。
124
第 5章
総合考察と結論
日本の獣医師は,多様なストレスのもと業務を執り行っていた。その中で飼主の多様
な 価 値 観 に 対 応 す る こ と に ス ト レ ス を 感 じ て い る 獣 医 師 が 多 い こ と が 明 ら か と な っ た 。本
論 文 で は 飼 主 に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ て い る 獣 医 師 に 焦 点 を 当 て ,ス ト レ ス の 実 態 と そ の
対処について構造仮説継承型人間科学的研究法によって構造化された仮説を生成するこ
と を 目 的 に し た 。 本 章 で は ,そ の 仮 説 を 整 理 す る 。 第 5 章 第 1 節 に て 飼 主 ス ト レ ス が 発 生
する仮説を ,第 2 節 に て 飼主 ス ト レ ス へ の 効 果的 の 対 処 方 法 の 仮 説を 整 理 し た 。第 3 章で
導 き 出 さ れ た 仮 説 を 整 理 し た 表 を 表 8 - 1 か ら 表 8 -4 で , 第 4 章 で 導 き 出 さ れ た 仮 説 を 整 理
し た 表 を 表 9- 1 か ら 表 9- 2 で 提 示 す る 。 第 3 節 で ま と め , 第 4 節 で 今 後 の 研 究 展 望 , 第 5
節で研究方法の課題について論じる。
第 1節
獣医師の飼主に対するストレスの人間科学的理解
1. 獣 医 療 の 独 特 な 治 療 構 造
第 1 章 第 3 節 に お い て 命 を 扱 い 失 敗 が 許 さ れ な い プ レ ッ シ ャ ー ,飼 主 の 多 様 な 価 値 観 へ
の 対 応 ,努力が報われない不確定性 ,病院経営上のお金がかかわる不安などを感じている
ことを指摘した 。第 1 章 第 3 節 ,第 3 章 第 1 節で 示 す 通 り このうち飼主に対して多くの 獣
医 師 がス ト レ ス を 感 じ て いることが明らかになった 。第 1 章 第 2 節で 言 及 す る 通 り ,①獣
医療において治療希望と治療契約と治療決定は治療客体である飼主によって行われるこ
と ,② 治療行為に飼主の経済力や動物病院の経営事情の影響が反映されること ,③ 獣医療
行為の不確定性であること④小規模経営から関係する獣医師の少ないソーシャルサポー
トという独特な治療構造が存在する。飼主の気持ち,飼主の性質,飼主の経済力,動物病
院の規模・技術,お金儲けである獣医療,治療行為の不確定性,獣医療面接の難しさなど
か ら 獣 医 療 行 為 は 影 響 を 受 け ,こ の こ と が 獣 医 師 の ス ト レ ス に つ な が っ て く る 可 能 性 が あ
る 。 第 3 章 第 1 節 で , 獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る 『 ス ト レ ス 状 況 』 が 『 飼 主 の 性 質 』『 獣 医 師
基 準 に お け る 飼 主 の 無 理 解 』『 病 院 経 営 上 の 問 題 』『 獣 医 療 の 難 し さ 』 カ テ ゴ リ ー に 分 類 さ
れたことはこのことを裏付けている。
獣 医 師 は , そ の 職 業 選 択 か ら 動 物 に 対 す る 特 別 な 思 い が あ る 。 矢 野 ( 20 09 ) の 獣 医 療 葛
藤 場 面で「 動 物 を 助 け る ため に 獣 医 師 に な っ てい る に も か か わ ら ず ,病気 の 原 因 に な って
い る 飼 主 の た め に 不 本 意 な 治 療 業 務 を 行 わ な け れ ば な ら な い 」 こ と が あ る 。 ま た ,「 そ の
ような飼主は動物の命より自分自身から動物を取り上げられることによるストレスのほ
う が 重 要 な の だ と 思 う ( 表 2 -1 ,『 飼 主 に 占 有 さ れ る 動 物 の 命 』 , サ ン プ ル No .44 -3 )」 な ど
の獣医師の語りからも動物を動物愛護的に考えている獣医師の思いがうかがえる。
経 営の こ と ,治 療 の 不 確定 性 の こ と ,イ ン フォ ー ム ド コ ン セ ン トの 難 し さ な ど 様 々 なプ
レ ッ シ ャ ー を 感 じ な が ら 業 務 を 行 い ,『 獣 医 療 の 難 し さ 』 の 中 で 獣 医 師 は 働 い て い る 。
2. 飼 主 の ペ ッ ト の 飼 育 動 機
第 1 章 第 2 節 で 示 す 通 り ,現在 ペ ッ ト は 家族の一員 ,癒 し の 対 象, と き に そ れ 以 上 の存
在として飼育されるペットは,
“心のすきま”
“ 心 の 傷 ”を 埋 め る 唯 一 無 二 の 存 在( 香 山 ,20 08 )
125
と し て ,飼主に飼育されている。愛着を形成する対象として飼育されていることは多くの
先 行 研 究 が 支 持 し て い る ( Gun te r B, 1 99 9 )。 ま た , ペ ッ ト に 強 い 愛 着 を 抱 く 飼 主 は 内 向 的
で自尊心が低い傾向があること ,主観的幸福感が低いこと,神経症的な傾向が強く,スト
レッサーに敏感であることなどの先行研究がある。第 3 章 第 2 節 で ,飼主はペットに対し
て個人的・感情的な“ペットに対する物語”を有することが明らかとなり ,これは獣医師
の 理 性 的 説 得 で 生 じ る 認 知 的 不 協 和 の 低 減 の た め に 働 き ,獣 医 師 の 理 性 的 説 得 に よ る 飼 主
の 態 度不 変 容 に 関 与 し て いた 。ま た ,こ の 反 応は 心 理 的 リ ア ク タ ンス や 防 衛 機 制 な ど 無意
識 の 衝 動 に つ な が っ た 感 情 的 な 反 応 で あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。第 3 章 第 4 節 で は 飼 主 は
「 行 動 化 ・ 身 体 化 中 心 の 非 自 己 統 制 的 防 衛 」 が 高 く ,「 対 人 資 源 利 用 コ ー ピ ン グ 」 が 低 い
傾 向 が 明 ら か と な っ た 。こ の こ と は 飼 主 が 無 意 識 の 衝 動 に つ な が っ た 感 情 的 な 反 応 と し て
ペ ッ ト を 飼 育 し ,ペ ッ ト 飼 育 は ,対 人 資 源 コ ー ピ ン グ の 代 償 と な っ て い る こ と を 示 唆 し た 。
第 3 章 第 1 節 『 ス ト レ ス 状 況 』 の 『 飼 主 の 性 質 』 に お い て 『 攻 撃 的 な 飼 主 』『 神 経 質 な 飼
主 』『 身 勝 手 な 飼 主 』 に 獣 医 師 は ス ト レ ス を 感 じ る と し て い る こ と ,『 獣 医 師 基 準 に お け る
飼 主 の 無 理 解 』 内 の 『 思 い 込 み が 激 し い 』『 勝 手 に 理 解 す る 』『 何 を 考 え て い る か わ か ら な
い 』飼主という 文 脈 が 示 す獣 医 師 の 認 知 が あ るこ と は ,ペット飼育が無意識の衝動につな
がった感情的な動機にあることや飼主にとって唯一無二のソーシャルサポートとしての
飼 育 動機 が あ る こ と を 支 持し て い る 。第 3 章 第 3 節 で は ,不治 の 病 のペ ッ ト の 治 療 に お い
て,最新の治療ではなく,獣医師の人間性と治療の説明を期待することから,獣医療にて
飼主の感情に基づいたケアや対応が獣医師には期待されていた。
3. 獣 医 師 の 視 点 と 飼 主 の 視 点 か ら 生 じ る 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ
第 1 章 第 5 節 で 紹 介 し た 矢 野 (20 09 ) の 獣 医 療 事 例 は , 獣 医 師 と 飼 主 の 間 に ペ ッ ト に 対 す
る認識のギャップがあるのではないかという問題提示をしている。第 1 章第 3 節のストレ
ス を 感 じ て い る こ と に 対 す る 獣 医 師 の 自 由 記 述 回 答 に「 良 か れ と 思 っ て や っ て い る こ と が
必 ず し も 伝 わ っ て い な い 」「 物 わ か り の 悪 い , 一 般 論 が 通 じ な い 飼 主 と 話 す と き 」 等 の 記
述や,第 3 章第 1 節「ストレス状況」の「獣医師基準における飼主の無理解」カテゴリー
の「 飼 主 が 説 明 を 勝 手 に 理 解 し な い 」
「思い込みが激しい」
「何を考えているかわからない」
や 「 獣 医 療 の 難 し さ 」 カ テ ゴ リ ー の 「 獣 医 師 の や り た い 治 療 の 同 意 が 得 ら れ な い 」「 獣 医
師 と 飼 主 の 価 値 観 の 違 い 」 な ど は , 矢 野 ( 200 9) が 指 摘 し た 獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ
の存在を支持している。
第 3 章第 2 節
犬 猫 の 不 妊 去 勢 手 術 の 賛 否 に 対 す る 認 識 の ギ ャ ッ プ に お い て ,そ の 判 断
において飼主では感情的理由が関連すること,飼主が有する個人的・感情的な“ペットに
対 す る 物 語 ”が 獣 医 師 の 理 性 的 説 得 に 対 す る 認 知 的 不 協 和 の 低 減 反 応 を 引 き 起 こ し 飼 主 の
態 度 不変 容 に 関 連 し て い るこ と が 示 さ れ た 。こ の こと は ,獣 医 師 の理 性 的 説 得 で は 飼 主と
の認識のギャップを埋められないことを示唆している。
第 3 章第 3 節
飼 主 の 不 治 の 病 の ペ ッ ト の 治 療 の 期 待 に つ い て ,飼 主 は 必 ず し も 高 度 獣
医 療 の 施 術 を 希 望 せ ず ,獣 医 師 の 人 間 性 や 適 切 な 説 明 を 期 待 し て い る と い う 結 果 と な っ た 。
ここでも不治の病に対する治療について理性的に捉える獣医師と感情的に捉える飼主と
い う 認識 の ギ ャ ッ プ が 存 在す る と 示 唆 さ れ た。高 度 医 療化 を 邁 進 する 獣 医 師 が 存 在 す るこ
と と 合 わ せ て 考 え れ ば ,獣 医 師 が 飼 主 の 感 情 や 期 待 を う ま く 理 解 で き て い な い こ と も 考 え
126
られ,獣医師と飼主の認識とギャップを獣医師が理解していないことも考えられる。
4. 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 か ら 生 じ る 獣 医 師 の ス ト レ ス
第 1 章 第 3 節 の ス ト レ ス を 感 じ て い る こ と に 対 す る 獣 医 師 の 自 由 記 述 回 答 に「 良 か れ と
思 っ て や っ て い る こ と が 必 ず し も 伝 わ っ て い な い 」「 物 わ か り の 悪 い , 一 般 論 が 通 じ な い
飼主と話すとき」等の記述や第 3 章第 1 節「ストレス状況」の「飼主の性質」や「獣医師
基 準 に お け る 飼 主 の 無 理 解 」 カ テ ゴ リ ー の 「 飼 主 が 説 明 を 勝 手 に 理 解 し な い 」「 思 い 込 み
が 激 し い 」「 何 を 考 え て い る か わ か ら な い 」 や 「 獣 医 療 の 難 し さ 」 カ テ ゴ リ ー の 「 獣 医 師
のやりたい治療の同意が得られない」等の記述は ,獣医師と飼主の認識のギャップが,飼
主 へ の怒 り や 恐 怖 や 憎 悪 を伴 う 否 定 的 感 情 に つな が っ て い る こ と を示 唆 し て い る 。第 3 章
第 2 節は,飼主が有する個人的・感情的な“ペットに対する物語”が獣医師の理性的説得
に対する認知的不協和の低減反応を引き起こし飼主の態度不変容に関連していることを
示した。このことにより獣医師の説得は失敗に終わることがあることを指摘した。
獣 医 療 は , 独 特 な 治 療 構 造 に よ り , 治 療 客 体 で あ る 飼 主 と 治 療 契 約 を 結 び ,“ お 金 ” か
ら 影 響を 受 け ,治 療 行 為 自体 不 確 定 性 が 付 き まと う 。そ の た め 獣 医師 は 飼 主 と の 関 係 を維
持するために,飼主満足を挙げるためのサービスの質の向上に腐心しなければならない。
これは,治癒率の向上だったり,顧客満足度の向上だったりするが,このことを治療行為
の 不 確 定 性 の 中 で 実 現 し て ゆ か な け れ ば な ら な い 。「 間 違 え て は い け な い プ レ ッ シ ャ ー (第
3 章 第 1 節 , 表 2- 2, No .33 -3 テ キ ス ト ) 」
「 期 待 通 り に な ら な い ( 第 3 章 第 1 節 , 表 2- 2, No .32 -1
テ キ ス ト )」 と い う 治 療 構 造 の 制 限 の 中 で , 最 良 の 方 法 と 思 い 治 療 方 法 を 提 示 す る が 「 自
分 が 提 案 し た 治 療 プ ラ ン を 受 け 入 れ て も ら え な い ( 第 3 章 第 1 節 , 表 2- 2,N o. 29 -1 テ キ ス ト )」
こ と が生 じ る 。こ の よ う なと き ,獣 医 師 の 内 面に は 飼 主 と の 関 係 を維 持 し た い 気 持 ち と飼
主が理解できず関係を崩壊したい気持ちの両価的な 2 つの分裂した感情が生じると考えら
れる。この両価的な 2 つの分裂した感情は,獣医師に混乱・葛藤をもとにした不快感情を
生 じ さ せ る 。無 意 識 の 衝 動 が 関 連 し た 感 情 的 動 機 に よ っ て ペ ッ ト を 飼 育 し て い る 飼 主 側 か
ら考えると ,病気を告げられ混乱し ,苦痛を伴うかもしれない治療を判断しなければいけ
な い とい う ,第 3 章 の 不 妊手 術 の 賛 否 の 時 に 生じ て い る の に 似 た 両価 的 な 葛 藤( 治 療 をし
たくない。でも受けさせなければいけない)が 飼主内面に生じていると考えられる。臨床
心理学的にはこの飼主の両価的な葛藤が獣医師に逆転移感情として生じているとも考え
る こ と が で き る ( 河 合 , 19 70; 岡 村 , 19 99 ; 羽 間 , 199 7)。
説得の失敗や分裂した両価的な感情によって獣医師内で生じた葛藤が処理できない時,
ま た ,葛 藤 の も と と な っ た 飼 主 の 感 情 を 獣 医 師 が 理 解 で き な い と き に 獣 医 師 の 不 快 感 情 は
続 く ため ,飼 主 に 対 す る 恐怖 や 怒 り や 憎 悪 に 近い 否 定 的 感 情 を 誘 起す る 。こ れ が 獣 医 師が
飼 主 に 対 し て ス ト レ ス を 感 じ る メ カ ニ ズ ム で あ る と 仮 説 さ れ る ( 図 8 -1)。
127
獣医療の独特な治療構造
・治療客体である飼主と治療契約
・経営としての獣医療
・ペット医療の高額化
・少ないソーシャルサポート
飼主の飼育動機
・無意識の衝動につながった感情的な
動機
・ペットは家族・ソーシャルサポート
・ペットに対する物語
獣医師になった動機
・動物好き、動物愛護への思い
飼主の性質
・ペットへの愛着度と飼主の性質の
関係(内向性、自尊心↓、幸福感↓)
・非自己統制的防衛機制↑、対人資
源利用コーピング↓
獣医療の難しさ
・プレッシャー
・治療行為の不確定性
・飼主との価値観の違い
飼主の期待
・インフォームドコンセ
・飼主の感情に基づい
たケアや対応
ントの難しさ
獣医師
飼主
理性的
理性的・感情的
犬猫の不妊手術賛否について
不治の病の治療について
理性的
獣医師:理性的に賛成
獣医師:
“飼主は高度獣医療希望”とみなす
↕
↕
↕
感情的
飼主:感情的・理性的に葛藤
飼主:
“獣医師の人間性と適切な説明”希望
飼主の認知的不協和と低減反応
飼主の“個人的・感情的なペットに対する物語”が関連し、獣医師の理性
的説得では飼主の態度は変容しにくい。
獣医師内面の分裂した両価的感情(逆転移・自己不一致)
飼主との関係を維持したい ⇔ 飼主との関係を回避したい で葛藤
獣医師内で処理できない葛藤の発生!!
獣医師が飼主の感情を理解できない!!
飼主への否定的感情
飼主は無理解で非協力的
飼主は攻撃的・身勝手・神経質
図 8-1 獣医師の飼主に対するストレスが発生する状況
128
表8-1 第3章 第1節 獣医師の飼主に対するストレスとその対処 で導き出された仮説
獣医師は,飼主に対してストレスを抱く
獣医師は,飼主との関係が決裂するほどの恐怖や怒りや憎悪に近い否定的感情を持つことがあり,獣
医師のストレスの要因である
獣医師の抱く飼主への否定的感情は獣医師と飼主の認識のギャップに関係する
獣医師の『ストレス対処』は,問題焦点型でのコーピングが『飼主との充分なコミュニケーション』
『飼主の受容と共感』など飼主との関係改善を志向する『問題解決的・関係志向的』に限られ,これ
が成功しない場合,情動焦点型の『関係回避的』や『中間型』を用いるしかない
『ストレス対処』の中に関係焦点型である問題先送りコーピングに近い『中間型』に分類されるコー
ピングが存在し,完全に飼主との距離を置いてしまうこともせず,あわよくば「問題解決的」にスト
レスを対処できればという獣医師のストレス対処である
獣医師に生じる飼主に対する否定的感情は,獣医師内面の飼主との関係を維持したい気持ちと飼主が
理解できず関係を崩壊したい気持ちという両価的な分裂した感情に対応できない場合生じる獣医師の
混乱・葛藤から生じ,飼主との認識のギャップが関連する
表8-2 第3章 第2節 獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究①~犬猫の不妊手術に対する葛藤と手術啓発
が誘起する認知的不協和 で導き出された仮説
獣医師と飼主の認識のギャップが存在する
ペットへの獣医師の理性的な認識と飼主の理性的・感情的な認識によるギャップ
獣医師の抱く飼主への否定的感情は獣医師と飼主の認識のギャップに関係する
獣医師の理性的説得は飼主に認知的不協和とその低減反応を引き起こす可能性がある
飼主の個人的・感情的な“ペットに対する物語”は,獣医師の理性的説得によって変容しない
獣医師の理性的説得は飼主に認知的不協和とその低減反応を引き起こす可能性があるため,獣医師と
飼主の認識のギャップは解消されないことがある
恐怖や怒りや憎悪に近い否定的感情は,①『インフォームドコンセントの難しさ』や『治療行為の不
確定性』という『獣医療の難しさ』を獣医師が抱えること②獣医師の理性的説得は飼主に認知的不協
和とその低減反応を引き起こす可能性があること③獣医師の説得がうまくいかないことと飼主を受け
入れられないために獣医師内で処理出来ない葛藤が発生していることにより生じている
129
表8-3 第3章 第3節 獣医師と飼主の認識のギャップに関する研究②~不治の病の治療に対する飼主の期待に
ついて で導き出された仮説
飼主は獣医師に対して必ずしも最新の獣医学知見に基づいた治療を期待しているわけではなく,獣医
師の人間性等の資質と治療プロセスの適切な説明によって対応してもらうことを期待している
獣医師と飼主の認識のギャップや飼主への否定的感情が存在するのは,獣医師が飼主の感情をうまく
理解できていないことに起因することも考えられる
表8-4 第3章 第4節 飼主の性格特性の把握への試み~防衛機制とコーピングの側面から で導き出された仮説
飼主は「行動化・身体化中心の非自己統制的防衛」が高く,「対人資源利用コーピング」が低い傾向
を有する
ペット飼育は,無意識の衝動につながった感情的な動機である
ペット飼育は,対人資源コーピングの代償となっている
攻撃的,神経質,身勝手が顕在してしまう,獣医師にとってストレスの多い飼主は,感情的な危機の
状態にある可能性がある
飼主の性質を獣医師がメタ認知することは,飼主との認識のギャップを埋め,飼主への否定的感情を
軽減する助けになる
130
第 2節
獣医師の飼主に対するストレス対処の人間科学的理解
獣医師と飼主の認識のギャップが関連して生じる飼主への否定的感情が獣医師のスト
レ ス を 引 き 起 こ す メ カ ニ ズ ム に つ い て 前 節 で 論 じ た 。飼 主 と の 認 識 の ギ ャ ッ プ で 生 じ る 獣
医 師 内の 葛 藤 を 処 理 で き ない と き ,獣 医 師 が 飼主 の 感 情 を 理 解 で きな い と き ,飼 主 へ の否
定 的 感 情 が 生 じ て い た 。本 節 で は 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 か ら 生 じ る ス ト レ ス へ の 対 処 の 実 態
と効果的な対処のメカニズムを提示する。
1. 『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 『 関 係 回 避 的 』 『 中 間 型 』 の コ ー ピ ン グ
第 3 章 第 1 節 か ら ,獣医師の飼主に対するストレスの対処は ,飼主との関係の次元にお
い て 『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』『 関 係 回 避 的 』『 中 間 型 』 に カ テ ゴ リ ー 化 さ れ る 方 略 を 用
い て い た 。『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 は , 積 極 的 に 飼 主 と 関 係 を と る こ と で ス ト レ ス を
対 処 し よ う と す る 対 人 方 略 で あ る の に 対 し ,『 関 係 回 避 的 』 は , 関 係 を 回 避 す る こ と で ス
トレスに対処しようとする対人方略である。その『中間型』ともいえるストレス対処方略
も存在した。
2. 『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 コ ー ピ ン グ の 特 徴
『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 は 『 飼 主 の 受 容 と 共 感 』『 問 題 解 決 を は か る 』『 飼 主 と の 充
分なコミュニケーション』で構成されるカテゴリーで,飼主と積極的に関係をとり,問題
解 決 的 に ス ト レ ス を 軽 減 し よ う と す る コ ー ピ ン グ と し て カ テ ゴ リ ー 化 さ れ た 。対 人 ス ト レ
ス に お い て , 問 題 焦 点 型 の コ ー ピ ン グ は 必 ず し も 成 功 す る と は 言 え な い ( 加 藤 ,2 0 08)。 こ
のことは,第 3 章第 1 節にて獣医師は『関係回避型』や『中間型』の情動焦点型・関係回
避 型 の コ ー ピ ン グ も 合 わ せ て 用 い る こ と ,テ キ ス ト か ら 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 が 読 み 取 れ る
こ と( 問 題が 解 消 す れ ば この よ う な 文 脈 の 発 言は 認 め ら れ な い と 考え ら れ る )か ら 支 持さ
れ る 。 加 藤 (2 000 ) の 対 人 ス ト レ ス コ ー ピ ン グ の 分 類 に お い て ,【 ポ ジ テ ィ ブ 】 が あ る 。 加
藤 は ,【 解 決 先 送 り 】 は ス ト レ ス を 減 じ る 効 果 が あ る と し て い る が ,【 ポ ジ テ ィ ブ 】 は ス ト
レスを減じる効果が一定していないことを示している。
『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』は【 ポ
ジティブ】にかなり近似した概念と考えられるが ,第 4 章第 1 節において【ポジティブ】
が【ストレス反応】を減じる効果は認められなかった。ただ ,第 4 章第 1 節における【統
合】は「お互いの最良の結果を得られるように ,お互いの考えを理解する」などお互いが
満 足 し 利 益 に な る よ う な 決 定 を す る 対 人 葛 藤 方 略 で あ り ,『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 に
近 い 対 人 方 略 で あ る が ,【 統 合 】 は , 獣 医 師 の ス ト レ ス 反 応 を 減 じ る 効 果 が 認 め ら れ た 。
ま た , 第 4 章 第 2 節 で 示 す N BM は , 社 会 構 成 主 義 的 な 治 療 構 造 の 認 知 か ら 飼 主 と コ ミ ュ
ニ ケ ー シ ョ ン を 図 り , 問 題 解 決 的 に ス ト レ ス を コ ー ピ ン グ し て い た た め ,『 問 題 解 決 的 ・
関係志向的』コーピングに近い対人方略であると考えられる。
総合的に評価すると『問題解決的・関係志向的』は,成功するとストレスを軽減できる
が,獣医師の努力で解決できることは限られていると考えられる。
3. 『 関 係 回 避 的 』 コ ー ピ ン グ の 特 徴
『 関 係 回 避 的 』 は ,『 あ き ら め ・ 諦 観 』『 忘 却 ・ 解 決 先 送 り 』『 仕 事 か ら 距 離 を 置 く 』『 飼
131
主 か ら 距 離 を 置 く 』『 感 情 抑 制 コ ン ト ロ ー ル 』 で 構 成 さ れ る カ テ ゴ リ ー で , 飼 主 と の 関 係
を 回 避 し ,情 動 焦 点 的 に ス ト レ ス を 軽 減 し よ う と す る コ ー ピ ン グ と し て カ テ ゴ リ ー 化 さ れ
た。第 4 章第 1 節で【ネガティブ】は関係回避や関係崩壊を志向するコーピングであり,
『 関 係 回 避 的 』 に 近 似 す る と 考 え ら れ る 。【 相 互 妥 協 】 な ど は , 要 求 や 意 見 を 譲 歩 し 合 い
お 互 い の 納 得 で き る 結 果 を 引 き 出 そ う と す る 対 人 葛 藤 方 略 で あ り ,『 あ き ら め ・ 諦 観 』 内
の 『 割 り 切 る 』 カ テ ゴ リ ー に 近 似 す る と 考 え ら れ る 。 よ っ て ,【 ネ ガ テ ィ ブ 】【 相 互 妥 協 】
は 『 関 係 回 避 的 』 に 近 い 対 人 方 略 で あ る と 考 え ら れ る 。【 ネ ガ テ ィ ブ 】【 相 互 妥 協 】 は 【 ス
ト レ ス 反 応 】【 脱 人 格 化 】 を 高 め る 効 果 が 認 め ら れ た 。 こ の よ う な こ と を 総 合 す る と ,『 関
係回避的』は獣医師のストレスを高める可能性があることを示唆する。
『問題解決的・関係志向的』に対応できた場合,獣医師のストレスは軽減される可能性
が あ る こ と を 示 し た が ,『 関 係 回 避 的 』 な 対 処 が 存 在 す る と い う こ と は ,『 関 係 回 避 的 』 で
し か 対 処 で き な い こ と が あ る こ と を 示 し て い る 。『 関 係 回 避 的 』 は , ス ト レ ス を 高 め る 可
能性があるが,獣医師は選択せざるを得ない場合があることを示している。
4. 『 中 間 型 』 コ ー ピ ン グ の 特 徴
『 中 間 型 』 は 『 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト の 利 用 』『 問 題 を 俯 瞰 す る 』『 飼 主 に 必 ず し も 同 調 し
な い 』『 治 療 の 枠 組 み の 設 定 』 で 構 成 さ れ る カ テ ゴ リ ー で , 飼 主 と の 関 係 に お い て あ る 程
度の距離を置き,あわよくば「問題解決的」にストレスを対処できればという コーピング
としてカテゴリー化された。
『 中 間 型 』は ,獣 医 師 が 抱 く 逆 転 移 感 情 か ら 距 離 を 置 き つ つ ,
しかし飼主との関係は断ち切らないコーピングと言い換えることができるかもしれない。
概念的には第 4 章第 1 節【問題先送り】に近しいコーピングと考えられる。
5. 効 果 的 な 獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス 対 処 方 法
『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』『 関 係 回 避 的 』『 中 間 型 』 の ス ト レ ス 対 処 を , 飼 主 と の 関 係
と獣医師内面に焦点を当てて評価する。獣医療の 独特な治療構造の影響で,獣医師の内面
には飼主との関係を維持したい気持ちと飼主が理解できず関係を崩壊したい気持ちの両
価 的 な 2 つ の 分 裂 し た 感 情 が 生 じ る こ と を 述 べ た 。こ の 獣 医 師 内 面 に 生 じ る 両 価 的 な 分 裂
し た 感情 に 起 因 す る 獣 医 師の 混 乱・葛 藤 が 獣 医師 に 生 じ る 飼 主 に 対す る 否 定 的 感 情 や 認識
の ギ ャッ プ に つ な が っ て いる こ と が 想 像 さ れ る 。この 分 裂 し た 両 価的 な 感 情 は ,精 神 分析
学の転移・逆転移感情の概念でとらえると ,飼主の分裂した両価的な感情が獣医師に逆転
移感情として生じていると捉えることもできる。
『 問 題 解 決 的・関 係 志 向 的 』
『関係回避的』
『 中 間 型 』 の ス ト レ ス 対 処 は , こ の 分 裂 し た 両 価 的 感 情 を 解 消 す る (『 問 題 解 決 的 ・ 関 係
志 向 的 』)ま た は 回 避 す る(『 関 係 回 避 的 』)ま た は 距 離 を 置 き つ つ あ わ よ く ば 解 消 す る(『 中
間 型 』)対 人 方 略 と 捉 え る こ と が で き る 。関 係 焦 点 型 コ ー ピ ン グ 分 類 を 提 唱 し た 加 藤 ( 200 8)
は,対人ストレッサー において,問題解決型コーピングは適応状態を情動焦点型コーピン
グ は ス ト レ ス 反 応 を 高 め る と い う Fol km a nn ら の コ ー ピ ン グ 方 略 理 論 の 特 徴 が あ て は ま ら
な い こと を 指 摘 し て い る 。こ れは ,対 人 ス ト レッ サ ー が 身 近 で 不 可避 で あ る た め と し てい
る。このことは,獣医師の飼主に対する対人ストレッサーにもあてはまると考えられる。
こ れ は , 第 3 章 第 1 節 『 ス ト レ ス 対 処 』 が 『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 だ け で な く ,『 関
係 回 避 的 』『 中 間 型 』 も 含 ん で 構 成 さ れ た こ と か ら も 明 ら か で あ る 。 つ ま り 獣 医 師 の 飼 主
132
に 対 す る ス ト レ ス は ,『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 に 獣 医 師 の 努 力 で 解 決 で き る こ と は 制
限 さ れ て お り , ど う し て も 『 関 係 回 避 的 』『 中 間 型 』 コ ー ピ ン グ を 利 用 せ ざ る を 得 な い 性
質 が あ る 。『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』 コ ー ピ ン グ は , 成 功 す る と 獣 医 師 の ス ト レ ス 反 応
を 軽 減 で き る ( 第 4 章 第 1 節 )。 し か し そ れ 以 外 は 『 関 係 回 避 的 』『 中 間 型 』 コ ー ピ ン グ を
選 択 せ ざ る を 得 な く , 獣 医 師 の ス ト レ ス 反 応 や バ ー ン ア ウ ト を 高 め る こ と が あ る 。『 中 間
型』は,臨床心理士が心理面接において分裂(自己不一致)の葛藤を抱えながらいるとい
う “ セ ラ ピ ス ト の 純 粋 性 ( 自 己 一 致 ) の 問 題 ( 河 合 ,1 97 0; 岡 村 , 19 99; 羽 間 199 7)” へ 対 処
しようとする心理士の姿と 類 似 す る と も 考 え られ る 。よ っ て 獣医師のコーピングは ,問題
焦点型コーピングが飼主との関係改善を志向する方略に限られ,これが成功しない場合,
情動焦点型・関係回避的コーピングを用いるしかないことが仮説として導きだされる(図
9-1 ) 。
ス ト レス 軽 減 効 果 が 認 め られ た ス ト レ ス 対 処 は ,第 4 章 1 節 か ら ,ネガ テ ィ ブ 関 係 コー
ピ ン グを 用 い な い こ と ,統 合 スタ イ ル の 対 人 葛藤 方 略 を 用 い る こ と ,強制 ス タ イ ル や 相互
妥 協 スタ イ ル の 対 人 葛 藤 方略 を 用 い な い こ と であ り ,第 4 章 第 2 節か ら 社 会 構 成 主 義 的な
治 療 構 造 の 理 解 に よ る 獣 医 師 の 対 応 で あ っ た 。獣 医 師 と 飼 主 の 認 識 の ギ ャ ッ プ に 関 係 す る
飼 主 への 否 定 的 感 情 は ,獣 医 師内 で 葛 藤 が 処 理で き な い 時 ,獣 医 師が 飼 主 を 理 解 で き ない
時生じると仮説された。
こ の こ と を 総 合 的 に 捉 え る と 飼 主 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に お い て ,ネ ガ テ ィ ブ な 表 現
を 用 いず ,お 互 い を 理 解 する が 過 剰 な 歩 み 寄 りを し な い こ と に よ って ,獣 医 師 内 の 葛 藤が
処 理 で き た 場 合 や 獣 医 師 が 飼 主 の 感 情 を 理 解 で き た 場 合 は ,飼 主 へ の 否 定 的 感 情 は 薄 ま り
ス ト レス を 軽 減 で き る こ とを 示 し て い る 。そ し て ,獣 医師 内 の 葛 藤処 理 や 飼 主 の 理 解 は実
現 で きず ,関 係 回 避 的 に スト レ ス 処 理 を せ ざ るを 得 な い 場 合 が あ り ,獣医 師 は そ の こ とを
メ タ 認 知 し て お く こ と は ,獣 医 師 の ス ト レ ス マ ネ ジ メ ン ト に 有 効 で あ る こ と が 考 え ら れ る 。
133
飼主への否定的感情
問題解決的・関係志向的コーピング
「飼主の受容と共感」「問題解決をはかる」
「飼主との充分なコミュニケーション」
・成功するとストレスを軽減できるが、獣医師
の努力で解決できることは制限されている。
獣医師は、恐怖や怒りや憎悪に近い飼主への否定的感情をこの
コーピングによって解消することでストレスへ対処している
関係回避的コーピング
「あきらめ・諦観」
「忘却・解決先送り」
「仕
事から距離を置く」「飼主から距離を置く」
中間型コーピング
「ソーシャルサポートの利用」「問題の俯瞰」
「必ずしも同調しない」「治療枠組みの設定」
「感情抑制コントロール」
・ストレスを高める可能性があるが、選択
せざるを得ない場合がある。
・距離を置きつつ、あわよくば問題解決的に
対処
ストレス軽減が認められたストレス対処
・ネガティブ関係コーピングを用いない
・お互いを理解し認める
・飼主への過剰な歩み寄りはしない
・ナラティブ・べイスド・メディスン
(社会構成主義的治療構造の理解・ストレス構造のメタ認知)
図 9-1 獣医師の飼主に対するストレスへの対処
134
表9-1 第4章 第1節 獣医師の飼主に対する対人ストレスコーピングと対人葛藤方略-ストレス反応,バーンアウト
との関係- で導き出された仮説
【ネガティブ】が獣医師の【ストレス反応】と【脱人格化】を高め,【強制】は【ストレス反応】を
高め,【相互妥協】は【ストレス反応】と【脱人格化】を高め,【統合】は【ストレス反応】を減じ
るという重回帰分析の結果と【ストレス反応】が高い獣医師は,そうでない獣医師よりも【ネガティ
ブ】,【解決先送り】,【回避】,【強制】,【相互妥協】を飼主に用いるというt検定の結果か
ら,獣医師の飼主に対する対人ストレスコーピングや対人葛藤方略のあり方が,獣医師のストレス反
応とバーンアウトに影響を及ぼす
ネガティブ関係コーピング,回避スタイル,強制スタイルなどの飼主との人間関係を避け,ぞんざい
に扱う関わり方は,獣医師のストレス反応を高める傾向があり,また,飼主と獣医師自身を理解す
る,認めるような統合スタイルの対人葛藤方略は,ストレス反応を減じる効果がある
相互妥協スタイルなどお互いに歩み寄りを見せ,妥協点を見つけようとする飼主とのかかわり方が獣
医師のストレス反応や情緒的消耗感を高める
獣医師のストレス反応やバーンアウトを減じるには,飼主とネガティブな人間関係を引き起こす方略
を用いずに,お互いを理解し認めること,しかし飼主に歩み寄り,妥協点を見つけようとする関わり
方を避けることが効果的
『関係回避的』はストレス反応やバーンアウトを高める可能性,『問題解決的・関係志向的』はスト
レス反応を減じる可能性がある
表9-2 第4章 第2節 獣医療におけるナラティブ-社会構成主義からの治療構造の理解が生む獣医師ストレスの減
少の試み- で導き出された仮説
社会構成主義的な治療構造の理解による獣医師の対応が主観的に飼主ストレスを軽減させた
『問題解決的・関係志向的』な『飼主の受容と共感』『飼主との充分なコミュニケーション』などの
コーピングは,社会構成主義の観点から獣医師のストレスを軽減する可能性がある
獣医師のストレス軽減に寄与した要因は,獣医師が獣医療現象を社会構成主義的に俯瞰(メタ認知)
したことと考えられる
第 3節
まとめ
獣 医 師は 様 々 な ス ト レ ス を感 じ て お り ,大 き なス ト レ ス 要 因 は 飼 主で あ る 。獣 医 療 の独
特な治療構造,獣医師になった動機,獣医療の難しさなどの獣医師側の要因と,飼主の飼
育動機,飼主の性質,飼主の期待などの飼主側の要因から,理性的にペットを認識する獣
医師と感情的にペットを認識する飼主の間で獣医師と飼主の認識のギャップが生じてい
ることがある。このギャップは,飼主の認知的不協和とその低減反応や,獣医師内面の分
裂した両価的感情から獣医師に葛藤を生む。この葛藤は,獣医師内で処理できない時,獣
医 師 が 飼 主 の 感 情 を 理 解 で き な い 時 に ,飼 主 に 対 す る 恐 怖 や 怒 り や 憎 悪 に 近 い 否 定 的 感 情
となり,獣医師にとって飼主に対するストレスとして感じられる。
135
獣 医 師 は 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 に 起 因 す る ス ト レ ス を ,『 問 題 解 決 的 ・ 関 係 志 向 的 』『 関 係
回 避 的 』『 中 間 型 』 の ス ト レ ス 対 処 に よ っ て 対 処 し て い る 。 獣 医 師 の 飼 主 ス ト レ ス に お け
る問題解決的コーピングは限られ,飼主とのコミュニケーションによって『問題解決的・
関 係 志 向 的 』 に コ ー ピ ン グ 出 来 な い 時 ,『 関 係 回 避 的 』『 中 間 型 』 の コ ー ピ ン グ を 取 ら ざ る
を 得 ない 。ネ ガ テ ィ ブ 関 係コ ー ピ ン グ を 用 い ない こ と ,お 互 い を 理解 し 認 め る が 過 剰 な歩
み 寄 りを し な い こ と ,社 会 構 成主 義 的 に 治 療 構造 を 理 解 す る こ と は ,獣医 師 の ス ト レ スを
軽減する効果が認められた。
こ の よ う な 獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス の 構 造 を 獣 医 師 が メ タ 認 知 す る こ と は ,獣 医
師の飼主に対するストレス対処に有用であると考えられる。
第 4節
今後の研究展望
1. 獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス に つ い て の メ タ 認 知 の 効 果
「獣医師の飼主に対するストレスは,獣医療の独特な治療構造や飼主の性質,飼育動機
が関連して生じる獣医師と飼主の認識のギャップにより引き起こされる両価的な分裂し
た 感 情 か ら 生 じ る 飼 主 へ の 否 定 的 感 情 が 原 因 で あ る 」「 獣 医 師 の コ ー ピ ン グ は , 問 題 焦 点
型コーピングが飼主との関係改善を志向する方略に限られ ,これが成功しない場合 ,情動
焦点型・関係回避的コーピングを用いるしかない」「【ネガティブ】が獣医師の【ストレ
ス 反 応 】 と 【 脱 人 格 化 】 を 高 め ,【 強 制 】 は 【 ス ト レ ス 反 応 】 を 高 め ,【 相 互 妥 協 】 は 【 ス
ト レ ス 反 応 】 と 【 脱 人 格 化 】 を 高 め ,【 統 合 】 は 【 ス ト レ ス 反 応 】 を 減 じ る 」「【 ス ト レ ス
反 応 】 が 高 い 獣 医 師 は , そ う で な い 獣 医 師 よ り も 【 ネ ガ テ ィ ブ 】,【 解 決 先 送 り 】,【 回 避 】,
【 強 制 】,【 相 互 妥 協 】 を 飼 主 に 用 い る 」 「 獣 医 師 自 身 の ナ ラ テ ィ ブ と 飼 主 の ナ ラ テ ィ ブ を
社 会 構 成 主 義 的 に 尊 重 す る 獣 医 師 の 姿 勢 が 良 好 な 飼 主 -獣 医 師 の 治 療 関 係 構 築 を 助 け る 働
き を す る 」な ど 本 研 究 に よ っ て 得 ら れ た 獣 医 師 の 飼 主 に 対 す る ス ト レ ス に つ い て の 情 報 が
あ る 。こ の情 報 を 獣 医 師 が認 知 す る こ と は ,獣 医 師の ス ト レ ス を 軽減 す る こ と に つ な がる
可能性がある。
看 護 領 域 に お い て 感 情 労 働 や バ ー ン ア ウ ト に つ い て の 認 知 を 広 め る こ と に よ り ,看 護 師
の ス ト レ ス 研 究 の 広 が り を 見 せ ,プ ロ セ ス コ ー ド に よ る 看 護 場 面 の 再 構 成 と 異 和 感 の 対 自
化 の 研 究 ( 宮 本 , 20 03) や デ ィ ブ リ ー フ ィ ン グ の 研 究 ( 中 島 , 20 11) な ど の 看 護 師 の ス ト レ ス
対 処 のためのムーブメントに つ な が っ て い る 。臨 床心 理 学 で は ,本研究で明らかにした治
療者と被治療者の間で生じている転移・逆転移感情や自己一致 ,治療構造論などの扱いが
治療的関係を生むため ,スーパービジョンや事例研究を積み重ね ,実存的な研究を行って
い る 。 医 療 に お い て も 医 師 が 患 者 に 抱 く 否 定 的 感 情 の 扱 い や N BM , O SC E の 流 れ が 患 者 の 実
存を重視することで医療と患者のギャップを埋めようとするムーブメントが認められつ
つある。看護学・臨床心理学・医学に認められる ,業務ストレスに対するメタ認知を勧め
る 対 処 は , 従 事 者 の ス ト レ ス を 実 際 軽 減 す る こ と に つ な が っ て い る ( 武 井 , 20 01; 宮
本 , 20 03; 中 島 , 20 11 )。
獣 医 療 に お け る ス ト レ ス が 獣 医 療 従 事 者 に メ タ 認 知 さ れ る こ と は ,第 4 章 の 社 会 構 成 主
義 的 な 獣 医 療 の 認 知 と 対 処 が ス ト レ ス 軽 減 に つ な が っ た こ と が 示 す 通 り ,あ る 一 定 の ス ト
レ ス 軽 減 効 果 が 見 込 め る 。 今 後 A BA デ ザ イ ン で 調 整 し た 実 験 な ど に よ り , 実 際 の 獣 医 師 に
136
どのくらいストレス軽減効果が認められるのか調査する必要がある。
獣医師と飼主の認識のギャップと飼主への否定的感情についてはさらに知見を得られ
る よ うな 追 加 研 究 を 行 う こと で ,獣 医 師 の 飼 主へ の ス ト レ ス の メ タ認 知 が 広 が り ,獣 医師
がストレスマネジメントを行う助けになると考えられる。
2. 獣 医 師 ス ト レ ス の 詳 細 な 把 握 ( 人 間 科 学 的 手 法 の 展 開 )
本研究は「獣医師はどのようなストレスを持つのか」を明らかにする過程で ,獣医師の
飼 主 に 対 す る ス ト レ ス に 着 目 し , 研 究 を 展 開 し た 。 中 川 ( 20 12 ; 表 0 -1) が 示 す , 他 の 獣 医
療 ス ト レ ス に つ い て 今 後 詳 細 に 検 討 さ れ る 必 要 が あ る 。本 研 究 に お い て 飼 主 へ の 対 人 ス ト
レ ス に 「 病 院 経 営 上 の 問 題 」「 治 療 行 為 の 不 確 定 性 」 な ど の 要 因 も 絡 み 合 い , 獣 医 師 の 飼
主 へ の ス ト レ ス が 形 成 さ れ て い る こ と が 明 ら か に な っ た が ,中 川 が 示 す 様 々 な ス ト レ ス 要
因 は 密接 に 絡 み 合 い 作 用 して い る 可 能 性 も あ る 。また ,今 回 の 研 究で は 飼 主 に 対 す る スト
レスがどの程度獣医師の精神的健康に影響しているのか調査できていない。欧米では獣医
師 の自殺率が高い ,うつやバーンアウトの獣医師が多いという研究結果があるが ,果たし
て 日 本 の 実 態 は ど う で あ る の か 。こ の よ う な ス ト レ ス の 深 さ に つ い て の 継 承 的 研 究 も 今 後
必要になってくると考えられる。
看 護 ・ 医 療 な ど 対 人 援 助 職 の バ ー ン ア ウ ト は , 個 人 的 要 因 よ り 環 境 要 因 (過 重 労 働 , 仕
事の裁量の欠如,仕事に対する低い社会的支援 ,自立性の欠如,時間的切迫,患者との直
接 的 接 触 の 多 さ ( St an sfe ld
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et a l, 200 4) , 職 場 の 人 間 関 係 ( Le it er e t
al, 19 88 ) に 起 因 す る と さ れ , ス ト レ ス マ ネ ジ メ ン ト に お い て こ の 要 因 の 調 整 を 行 う こ と
が 重 要と さ れ て い る 。獣 医 師 が 3 人 以 下 の 小 規模 深 慮 施 設 が 多 い とさ れ る 動 物 病 院( 社団
法 人 日 本 獣 医 師 会 ,2 0 07 ) に お い て , ま た , 獣 医 師 は コ ー ピ ン グ と し て 一 般 と 比 べ る と 仕
事 場 と 家 庭 の サ ポ ー ト に 頼 る 傾 向 が あ り ( Kah n & Nu tt er ,20 05 ) , 専 門 的 な 機 関 以 外 の 社 会
資 源 を コ ー ピ ン グ サ ポ ー ト と し て 用 い て い た (G ar dn er & Hin i ,20 06 ) と い う 報 告 か ら も ,
このようなストレスの環境要因を調整するために利用できるソーシャルサポートは獣医
療において制限されていると考えられ,獣医療域における実態は調査される必要がある。
本研究では ,獣医師の個人的要因 ,内的要因により飼主に対するストレスを論じているた
め,環境要因についての影響は継承的研究によって調査される必要がある。
3. 獣 医 師 ス ト レ ス マ ネ ジ メ ン ト の た め の ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト
獣医師のソーシャルサポートについての現状や効果的なソーシャルサポートの構築な
どが検討される必要がある。
137
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資料 1 第 3 章第 1 節
第 4 章第 1 節
質問紙調査票
獣医師のストレスとその対処方法を調査するためのアンケート
このアンケートは、獣医師のストレスとその対処方法を調査する研究のために実施しています。アンケートの結果は個人情報保護の観点
から個人が特定されないよう配慮し、論文作成や学術発表など学術目的のためのみに使用します。ご協力をお願いいたします。
文責:〒814-0165 福岡県福岡市早良区次郎丸 4-9-42 次郎丸動物病院
矢野淳(やの
あつし)℡・fax(092)866-0010
カッコ内にご記入をお願いします。
性別(
男 ・ 女 )
年齢(20・30・40・50・60・70 以上)代
臨床経験年数(
)年
今後面接調査を受けてもよい(可・不可)もし可であればご記名お願いします。氏名(
)
♢設問 1~6までお答えください。
【設問1】下の記述は最近(1 か月以内)のあなたの状態に当てはまりますか。以下の項目に対して「よく当てはまる:3」、「当ては
まる:2」、
「少し当てはまる:1」、
「当てはまらない:0」から選択し、○を付けお答えください
①動悸がする
・・ 3
2
1
0
⑮胸部がしめつけられる感じがする
②悲しい気持ちだ
・・ 3
2
1
0
③いつもより動作が鈍い
・・ 3
2
1
3
2
⑤体がだるい
・・ 3
⑥冷汗、脂汗をかく
・・ 3
④気がかりなことがすぐ頭に浮かぶ
3
2
1
0
⑯いらいらする
・・ 3
2
1
0
0
⑰自分のからに閉じこもる
・・ 3
2
1
0
1
0
⑱脱力感がある
・・ 3
2
1
0
2
1
0
⑲不安を感じる
・・ 3
2
1
0
2
1
0
⑳話すことが嫌でわずらわしく感じられる 3
2
1
0
⑦未来に希望が持てない
・・ 3
2
1
0
㉑話や行動にまとまりがないと思う ・・ 3
2
1
0
⑧泣きたい気分だ
・・ 3
2
1
0
㉒呼吸が苦しくなる
・・ 3
2
1
0
⑨体がこわばる
・・ 3
2
1
0
㉓心が暗い
・・ 3
2
1
0
⑩根気がない
・・ 3
2
1
0
㉔何もかもいやだと思う
・・ 3
2
1
0
3
2
1
0
㉕体がふらついたり、めまいがする
3
2
1
0
⑫怒りを感じる
・・ 3
2
1
0
㉖不愉快な気分だ
・・ 3
2
1
0
⑬頭が重い
・・ 3
2
1
0
㉗びくびくしている
・・ 3
2
1
0
⑭重苦しい、圧迫感を感じる・・ 3
2
1
0
⑪頭の回転が鈍く考えがまとまらない
【設問2】飼主との人間関係で生じるストレスについて、あなたはどう認識していますか。以下の項目に対して「よく当てはまる:3」、
「当てはまる:2」、
「少し当てはまる:1」、
「当てはまらない:0」から選択し、○を付けお答えください。
①その状況を変えることができ ①・3
2
1
0
る
②そのストレスをうまく解消で ②・3
2
1
0
2
1
0
0
⑦自分にとってわずらわしいこ ⑦・ 3
2
1
0
⑧自分の望み通りの結果が得ら ⑧・ 3
2
1
0
2
1
0
れるように、そのストレスに対
2
1
0
だと思う
⑤自分に重要な影響を与えるも ⑤・3
1
とだと思う
思う
④自分にとって負担になること ④・3
2
できる
きる
③自分にとって苦痛なことだと ③・3
⑥ストレスの原因をうまく解決 ⑥・ 3
してうまく対応できる
⑨自分にとって重要なことだと ⑨・ 3
2
1
0
思う
のだと思う
150
【設問3】あなたは最近 6 か月ぐらいのあいだに、次のようなことをどの程度経験しましたか。以下の項目に対して「いつもある:5」、
「しばしばある:4」、
「時々ある:3」
、
「まれにある:2」、
「ない:1」のあてはまると思う番号に○を付けお答えください
①こんな仕事、もうやめたいと思うことがある。
①・
5
4
3
2
1
②われを忘れるほど仕事に熱中することがある。
②・
5
4
3
2
1
③こまごまと気くばりすることが面倒に感じることがある。
③・
5
4
3
2
1
④この仕事は私の性分に合っていると思うことがある。
④・
5
4
3
2
1
⑤同僚や患者(飼主)の顔を見るのも嫌になることがある。
⑤・
5
4
3
2
1
⑥自分の仕事がつまらなく思えてしかたのないことがある。
⑥・
5
4
3
2
1
⑦1 日の仕事が終わると「やっと終わった」と感じることがある。
⑦・
5
4
3
2
1
⑧出勤前、職場に出るのが嫌になって、家にいたいと思うことがある。
⑧・
5
4
3
2
1
⑨仕事を終えて、今日は気持ちのよい日だったとおもうことがある。
⑨・
5
4
3
2
1
⑩同僚や患者(飼主)と、何も話したくなくなることがある。
⑩・
5
4
3
2
1
⑪仕事の結果はどうでもよいと思うことがある。
⑪・
5
4
3
2
1
⑫仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある。
⑫・
5
4
3
2
1
⑬今の仕事に、心から喜びを感じることがある。
⑬・
5
4
3
2
1
⑭今の仕事は、私にとってあまり意味がないと思うことがある。
⑭・
5
4
3
2
1
⑮仕事が楽しくて、知らないうちに時間が過ぎることがある。
⑮・
5
4
3
2
1
⑯体も気持ちも疲れはてたと思うことがある。
⑯・
5
4
3
2
1
⑰われながら、仕事をうまくやり終えたと思うことがある。
⑰・
5
4
3
2
1
【設問4】
“あなたの行動や願望などが他者によって妨害された状態”を“対人葛藤”と定義します。獣医療において対人葛藤を飼主と
の間で感じた経験があると思います。たとえば「飼主と意見や立場が一致しない」
「飼主と対立した」などの経験です。飼主との間で経
験した対人葛藤を解決するために、あなたは飼主に対して具体的にどのような行動をとりましたか。以下の項目に対して「よく当ては
まる:3」、
「当てはまる:2」
、「少し当てはまる:1」、
「当てはまらない:0」から選択し、○を付けお答えください
①お互いの意見の間を取ろうとする ①・3
2
1
0
⑪できる限り口論にならないよ ⑪・ 3
②・3
2
1
0
うにする
③お互いの意見を水に流すよう ③・3
2
1
0
⑫お互いの妥協点を探そうとす ⑫・ 3
②飼主の要求に従う
主張する
2
1
0
2
1
0
2
1
0
2
1
0
2
1
0
る
④飼主の目的に添うようにする ④・3
2
1
0
⑬自分にとって有利な結果を得 ⑬・ 3
⑤自分の意見を押し通すために、⑤・3
2
1
0
ようとする
いろんなことをする
⑭自分の立場を押し通そうとす ⑭・ 3
⑥お互いの利益になるような決 ⑥・3
2
1
0
2
1
0
定をする
る
⑮お互いの意見の歩みよったと ⑮・ 3
⑦お互いに満足するような結論 ⑦・3
を見つけ出そうとする
⑧お互いの意見の相違に直面し ⑧・3
2
1
0
ないようにする
ころで、取り決めようとする
⑯相手との衝突を避けようとする
⑯・ 3
2
1
0
⑰飼主の望み通りにする
⑰・ 3
2
1
0
⑱飼主の考えを認める
⑱・ 3
2
1
0
⑨・3
2
1
0
⑲対立を防ごうとする
⑲・ 3
2
1
0
⑩最良の結果が得られるように、⑩・3
2
1
0
⑳自分の意見を通そうとする
⑳・ 3
2
1
0
⑨お互いの目的を支持する
お互いの考えを理解する
151
【設問5】今まで飼主との人間関係で生じるストレスを経験したことがあると思います。人間関係で生じるストレスとは、たとえば「け
んかをした」
、「誤解された」
、
「何を話していいのか、わからなかった」
、「自分のことを、どのように思っているのか気になった」
、「自
慢話や、愚痴を聞かされた」
、
「嫌いな人と話をした」などの経験によって、緊張したり、不快感を感じたりしたことを言います。あな
たが実際に経験した飼主との人間関係で生じたストレスに対して、普段どのように考えたり、行動したりしましたか。以下の項目に対
して「よく当てはまる:3」
、
「当てはまる:2」、
「少し当てはまる:1」、
「当てはまらない:0」から選択し、○をつけてください。
①自分のことを見つめ直した。
3
2
1
0
⑱積極的にかかわろうとした
3
2
1
0
②相手を受け入れるようにした
3
2
1
0
⑲自分の意見を言うようにした
3
2
1
0
③相手を悪者にした。
3
2
1
0
⑳無視するようにした
3
2
1
0
④相手の気持ちになって考えてみた
3
2
1
0
㉑人間として成長したと思った
3
2
1
0
⑤相手の鼻を明かすようなことを考えた 3
2
1
0
㉒自分は自分、人は人と思った
3
2
1
0
⑥あまり考えないようにした
3
2
1
0
㉓何もせず、自然の成り行きに任せた 3
2
1
0
⑦あいさつをするようにした
3
2
1
0
㉔話をしないようにした
3
2
1
0
⑧たくさんの友人を作ることにした
3
2
1
0
㉕相手と適度な距離を保つようにした 3
2
1
0
⑨反省した
3
2
1
0
㉖気にしないようにした
3
2
1
0
⑩こんなものだと割り切った
3
2
1
0
㉗そのことにこだわらないようにした 3
2
1
0
⑪相手の良いところを探そうとした
3
2
1
0
㉘何とかなると思った
3
2
1
0
⑫友達付き合いをしないようにした
3
2
1
0
㉙人を避けた
3
2
1
0
⑬一人になった
3
2
1
0
㉚積極的に話をするようにした
3
2
1
0
⑭表面上の付き合いをするようにした
3
2
1
0
㉛そのことは忘れるようにした
3
2
1
0
⑮自分の存在をアピールした
3
2
1
0
㉜これも社会勉強だと思った
3
2
1
0
⑯かかわり合わないようにした
3
2
1
0
㉝友人などに相談した
3
2
1
0
⑰この経験で何かを学んだと思った
3
2
1
0
㉞相手のことをよく知ろうとした
3
2
1
0
【設問6】あなたは飼主に対してストレスを感じたことがありますか。
(
ある ・
ない )
あるとお答えされた方は、飼主に対してどのようなストレスを感じたことがありますか?また、そのストレスをどのように解消しまし
たか?自由に記載してください。
お疲れ様でした。ご協力ありがとうございました。
152
資料 2 第 3 章第 4 節
質問紙調査票
より良い動物と人間の関係を実現することを目的にアンケートを行っております。下の質問1~3にお答えくださ
い。お手数ですがご協力お願いいたします。なお、アンケートの結果は個人が特定されないよう配慮し、心理学
研究のためのみに使用いたします。また、このアンケートは授業の成績とは無関係です。調査への参加は自由で
す。
ご記入者のプロフィールについて、当てはまるところに○をしてください。また、必要に応じて(
【ご自身の性別】
男
【ご自身の年齢】 20代
【動物飼育の有無】
女
30代
現在あり
【動物飼育歴】 1年未満
40代
50代
60代
現在ないが過去にあり
1~2年
【飼育のペットの動物種と頭数】 犬(
2~5年
)頭、猫(
一人住まい
)頭、兎(
3世代同居(祖父母、夫婦、子供)
80代以上
10~20年
20年以上
)頭、ハムスター(
)(
夫婦2人住まい
70代
なし
5~10年
それ以外(
【お住まいの家族構成】
)内に記入してください。
)頭
)頭
夫婦子供
祖父母夫婦(2世帯)
その他(
)
《質問1》 【回答の仕方】を読んで、次の42の質問に答えてください。
【回答の仕方】
私に全然当てはまらない
例:私は女性である
私に全く当てはまる
1 2 3 4 5 6 7 8 9
上の例では、あなたが女性なら9を選ぶでしょうから、9を○で囲むことになります。男性ならば1を○で囲
むことになります。42の質問事項がありますので、各々の記述があなたに当てはまる程度を判断し、1~9の
いずれかの番号を○で囲んでください。では、ページをめくって回答を始めてください。
153
私に全然当てはまらない
1.私は他人を助けることで満足を得る。もし助ける機会を取り上げられたら、 ・・・1
私に全く当てはまる
2 3 4
5 6
7 8 9
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
4.やる事には何でも、正当な理由を見つけることができる。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
5.時々今日すべきことを明日まで引き伸ばす。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
6.自分の失敗を笑いに変えることが容易にできる。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
7.人に利用されることが多い。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
8.もし誰かが私を襲ってお金を盗んだとしても、罰せられるより犯人がその
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
9.不愉快な事実を、それがまるで存在しないかのように無視する傾向がある、 ・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
気分が沈むだろう。
2.問題を処理する時間ができる時まで、その問題を考えないようにしておけ
る。
3.不安を抑えるために何か建設的かつ創造的なことをする(例えば描画や工
作)。
お金で助かることを望む。
と人から言われる。
10.自分がまるで不死身であるかのように危険を無視する。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
11.うぬぼれている人の鼻をへし折る能力は私の誇りだ。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
12.何かに悩まされている時には、しばしば衝動的に行動する。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
13.物事がうまくいかない時には、体の具合が悪くなる。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
14.とても内気な人間だ。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
15.私がいつでも本当のことを言うとは限らない。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
16.実生活でよりも空想上で満足を得る事が多い。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
17.問題なく人生をやり過ごせるような特別な才能をもっている。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
18.物事がうまくいかない時にはもっともな理由がある。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
19.現実の生活においてよりも空想において物事をやり遂げる。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
20.私は何も恐れない。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
21.ある時には自分が天使であると思い、ある時には悪魔であると思う。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
22.傷つけられると、あからさまに攻撃的になる。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
23.知っている誰かが自分の守り神のようだといつも感じている。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
24.私の知っているかぎりでは、人は善か悪のいずれかである。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
25.もし上司が私をいらいらさせたら、仕事でわざとミスしたり、ゆっくり
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
26.何でもすることができて、絶対的に公平かつ公正である人が知人にいる。 ・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
27.自分の活動の妨げになるような感情を私は抑え続けることができる。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
28.苦しい状況でも、そのおもしろい側面を見つけることができる。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
29.好きでないことをしなければならない時には頭が痛くなる。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
30.当然怒りを感じるべき人に対して、自分がとても親切であることにしば
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
31.人生において自分が不当な扱いを受けていると確信している。
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
32.困難な状況に出会うことが分かった時には、その内容を予測し対策を立
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
・・・1
2 3 4
5 6
7 8 9
やったりして仕返しをする。
しば気がつく。
てる。
33.医者は私のどこが悪いのか、けっして本当にはわからない。
154
私に全然当てはまらない
私に全く当てはまる
34.自分の権利のために戦った後で、その主張について謝る傾向がある。
・・・1
2
3
4
5
6
7
8
9
35.落ち込んでいたり不安な時には、食べることで気分が良くなる。
・・・1
2
3
4
5
6
7
8
9
36.しばしば自分の感情を見せないと人から言われる。
・・・1
2
3
4
5
6
7
8
9
37.悲しい出来事が事前に予測できたなら、それにもっとうまく対応するこ
・・・1
2
3
4
5
6
7
8
9
・・・1
2
3
4
5
6
7
8
9
・・・1
2
3
4
5
6
7
8
9
・・・1
2
3
4
5
6
7
8
9
41.もし危機にあったら、同じ問題を抱えている人を捜し出すだろう。
・・・1
2
3
4
5
6
7
8
9
42.もし攻撃的な考えをもったら、それを打ち消すために何かをする必要性
・・・1
2
3
4
5
6
7
8
9
とができる。
38.たとえどれだけ不平を言っても、けっして満足のいくような回答を得ら
れない。
39.激しい感情を引き起こすような状況においても、何も感じないことがし
ばしばある。
40.手近な仕事に集中することで、気分が沈んだり不安になったりすること
を避けられる。
を感じる。
155
《質問2》 【回答の仕方】を読んで、次の24の質問に答えてください。
【回答の仕方】
『精神的につらい状況に遭遇したとき、その場を乗り越え、落ち着くために、あなたは普段から、どのように
考え、どのように行動するようにしていますか。』24の質問事項があります。下の選択肢を参考にして、各文章
に対して各々の記述があなたに当てはまる程度を判断し、1~5のいずれかの番号を○で囲んでください。
【選択肢】
1;そのようにしたこと(考えたこと)はこれまでにない。今後も決してないだろう。
2;ごくまれにそのようにしたこと(考えたこと)がある。今後もあまりないだろう。
3;何度かそのようにしたこと(考えたこと)がある。今後も時々はそうするだろう。
4;しばしばそのようにしたこと(考えたこと)がある。今後もたびたびそうするだろう。
5;いつもそうしてきた(考えてきた)
。今後もそうするだろう。
決してしない
いつもする
1.悪いことばかりでないと楽観的に考える
1 ・・・
1
2
3
4
5
2.誰かに話を聞いてもらい気を静めようとする
2 ・・・
1
2
3
4
5
3.嫌なことを頭に浮かべないようにする
3 ・・・
1
2
3
4
5
4.スポーツや旅行などを楽しむ
4 ・・・
1
2
3
4
5
5.原因を検討しどのようにしていくべきか考える
5 ・・・
1
2
3
4
5
6.力のある人に教えを受けて解決しようとする
6 ・・・
1
2
3
4
5
7.どうすることもできないと解決を後延ばしにする
7 ・・・
1
2
3
4
5
8.自分は悪くないと言い逃れをする
8 ・・・
1
2
3
4
5
9.今後はよいこともあるだろうと考える
9 ・・・
1
2
3
4
5
10.誰かに話を聞いてもらって冷静さを取り戻す
10 ・・・
1
2
3
4
5
11.そのことをあまり考えないようにする
11 ・・・
1
2
3
4
5
12.買い物や賭け事、おしゃべりなどで時間をつぶす
12 ・・・
1
2
3
4
5
13.どのような対策をとるべきか綿密に考える
13 ・・・
1
2
3
4
5
14.詳しい人から自分に必要な情報を収集する
14 ・・・
1
2
3
4
5
15.自分では手に負えないと考え放棄する
15 ・・・
1
2
3
4
5
16.責任を他の人に押しつける
16 ・・・
1
2
3
4
5
17.悪い面ばかりでなくよい面を見つけていく
17 ・・・
1
2
3
4
5
18.誰かに愚痴をこぼして気持ちをはらす
18 ・・・
1
2
3
4
5
19.無理にでも忘れるようにする
19 ・・・
1
2
3
4
5
20.友だちとお酒を飲んだり好物を食べたりする
20 ・・・
1
2
3
4
5
21.過ぎたことの反省をふまえて次にすべきことを考える
21 ・・・
1
2
3
4
5
22.既に経験した人から話を聞いて参考にする
22 ・・・
1
2
3
4
5
23.対処できない問題だと考え、あきらめる
23 ・・・
1
2
3
4
5
24.口からでまかせを言って逃げ出す
24 ・・・
1
2
3
4
5
アンケートは以上になります。お疲れ様でした。ご協力ありがとうございました。
156
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