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平成27年度教師海外研修報告書(パラグアイ)(PDF/9.75MB)
平成27年度 教 師 海 外 研 修 報 告 書 【派遣国:パラグアイ】 ラ小学校にて ペドロアギレ 独立行政法人 国際協力機構 東北支部 目 次 はじめに JICA 教師海外研修について… …………………………………………………………………………… 1 平成27年度 教師海外研修 パラグアイ 派遣者名簿……………………………………………… 2 1 .国内研修… ………………………………………………………………………………………………… 3 ( 1 次・ 2 次国内研修日程、写真、事後研修日程、写真、参加教員による実践授業写真) 2 .海外研修… ………………………………………………………………………………………………… 9 (日程、写真、研修国主要データ・地図、コラム) 3 .実践報告書 小 学 校 千葉 幸恵(岩手県:奥州市立稲瀬小学校/養護教諭)-----------------------------------32 【総合的な学習の時間( 5 年生) 】 『パラグアイをとおして自分を、日本をみつめよう』 近藤 歩樹(宮城県:宮城県石巻市立鮎川小学校/全教科)-------------------------------42 【社会科( 6 年生) 】 「世界で活やくする日本の人々」単元の活動』 『 中 学 校 進藤 千枝(宮城県:仙台市立長町中学校/社会)---------------------------------------48 【社会科( 1 年生) 】 『共に支え合う世界を造ろう』 金塚 元(宮城県:多賀城市立多賀城中学校/数学)-----------------------------------58 【総合的な学習の時間( 3 年生) 】 『ボランティアについて考える~50日間のボランティア活動~』 佐々木 りえ(宮城県:富谷町立富谷中学校/美術)-------------------------------------66 【総合的な学習の時間( 1 年生) 】 『国際理解教育~地球市民の一員としてできることを考える~』 高等学校 千葉 明彦(宮城県:宮城県仙台東高等学校/英語)-------------------------------------84 【コミュニケーション英語Ⅱ、英語表現Ⅱ、グローバル・シティズンシップ( 2 年生) 】 『貧困と教育』 佐藤 健太(山形県:九里学園高等学校/英語)-----------------------------------------92 【LHR( 1 年生) 】 『私達の幸福について考える ~パラグアイから日本を再考する~』 4 .教師海外研修を終えて………………………………………………………………………………… 101 5 .学校・教員のための JICA 東北開発教育支援メニュー… ……………………………………… 104 はじめに 独立行政法人国際協力機構(以下「JICA」 )は様々な問題を抱える開発途上国(以下「途上国」) と日本を結び、架け橋となって、国際協力に取り組んでおります。その活動の一環として、国内に おいては日本の方々の途上国に対する理解促進活動を行っており、 「教師海外研修」もその一翼を なす重要な業務として日本全国で実施しております。 「教師海外研修」は開発教育に関心を持つ学校教師および教育委員会の指導主事等(以下「教 師」)を対象に、実際に開発途上国を訪問することで、途上国が置かれている現状や国際協力の現 場、途上国と日本との関係に対する理解を深め、その成果を、学校現場での授業実践などを通じて、 将来を担う児童・生徒への世界観の醸成に役立ててもらうことを目的に実施しております。また、 研修参加後は、JICA と協力し、教育現場で開発教育を実践・推進する中核となるような人材となっ てもらうことを、本事業の波及効果として期待しております。 今年度、東北支部管轄におきましてはパラグアイ並びにルワンダを対象に実施し、参加された教 員は、帰国後、開発教育の実践授業の計画、実施、結果の共有と改善の検討を繰り返してきました。 本報告書は、研修に参加された先生方が研修を通して得た学びや経験を活かした授業実践や取組 みが報告されています。学校現場における総合的な学習の時間、国際理解教育活動等の参考にして いただけましたら幸いです。 末筆となりますが、ご参加いただいた教師の皆さんのあふれる熱意と真摯な取り組みに敬意を表 するとともに、引き続き学校現場等で国際理解促進にご尽力いただきますようお願い申し上げま す。また各参加者をご推薦下さった校長先生をはじめ、本研修実施に当たりご協力をいただきまし た青森、秋田、岩手、山形、宮城各県並びに仙台市の教育委員会、講師・ファシリテータの皆様、 現地で受け入れてくださった関係者の皆様に心から感謝申し上げます。 平成28年 3 月 国際協力機構 東北支部 支部長 村瀬 達哉 JICA 教師海外研修について 1 .目的 開発教育に関心を持つ学校教師および教育委員会の指導主事等(以下「教師」 )を対象に、実際 に開発途上国(以下「途上国」 )を訪問することで、途上国が置かれている現状や国際協力の現場、 途上国と日本との関係に対する理解を深め、その成果を、学校現場での授業実践などを通じて、時 代を担う児童・生徒への開発教育に役立ててもらうことを本事業の目的とする。 研修参加後は、JICA 国内機関と協力し、教育現場で開発教育を実践・推進する中核となるよう な人材となってもらうことを、本事業の波及効果として期待する。 2 .対象 国公立、私立の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、高等専門学校、特別支援学校の教師 及び教育委員会の指導主事等。 3 .主催 独立行政法人国際協力機構(JICA) 4 .後援 外務省、文部科学省、青森県教育委員会、岩手県教育委員会、宮城県教育委員会、秋田県教育委 員会、山形県教育委員会、仙台市教育委員会 5 .実施内容(年間スケジュール) 4 - 5 月 募集 6 - 7 月 国内研修( 2 回) 8 月 海外研修 9 -12月 帰国後の実践(学校での授業) 12月 事後研修 6 .国内研修について 海外研修の前に、国内研修を 2 回( 6 月・ 7 月、それぞれ 2 日間)実施。 派遣国の概要・視察先概要理解、過年度派遣教員・開発教育実践者の事例紹介、情報交換、実践 授業プラン作成、渡航情報共有などを行った。 参加者が、研修からの帰国後に「開発教育の担い手」となれるよう、事前研修では、 「海外研修 の効果が上がる」ようにサポートし、実施後のネットワーク作りのために過年度参加者・地域の開 発教育実践者にも参加を促している。 ― 1 ― 平成27年度 教師海外研修 派遣者名簿 ※派遣当時のものを記載。 No. 県名 1 岩手 2 氏 名 学 校 名 校種 役職/担当教科等 千 葉 幸 恵 奥州市立稲瀬小学校 小 養護教諭 宮城 近 藤 歩 樹 宮城県石巻市立鮎川小学校 小 教諭 3 宮城 進 藤 千 枝 仙台市立長町中学校 中 教諭/社会 4 宮城 金 塚 元 多賀城市立多賀城中学校 中 教諭/数学 5 宮城 佐々木 り え 富谷町立富谷中学校 中 教諭/美術 6 宮城 千 葉 明 彦 宮城県仙台東高等学校 高 教諭/英語 7 山形 佐 藤 健 太 九里学園高等学校 高 教諭/英語 小 教諭 同行ファシリテーター 1 宮城 片 平 恵 利府町立青山小学校 2 宮城 外 島 紀未子 JICA宮城デスク 国際協力推進員 ― 2 ― 1 .国内研修 1 次研修日程 2 次研修日程 事後研修 1 次研修 日程 第 1 日目 6 月 6 日(土) 時間 研 修 内 容 講 師 ・ 担 当 教師海外研修について概要説明 13:00~13:05 主催者挨拶 ・JICA 東北 支部長 村瀬 達哉 13:05~13:10 オリエンテーション当日スタッフ紹介 13:10~13:30 アイスブレーキング 13:30~13:45 JICA 事業全般説明 開発教育支援事業説明 13:45~14:00 研修全体日程確認 保険・VISA の確認 研修国訪問先について説明 14:00~14:40 研修国ごとの打ち合わせ 14:40~14:55 ・JICA 東北 市民参加協力課 渡辺 紀和 ・JICA 東北 市民参加協力調整員 清水 千絵 ・同行者(ファシリテーター) パラグアイ:片平 恵氏/ルワンダ:石森 広美氏 ・同行者(JICA 関係) パラグアイ:外島 紀未子/ルワンダ:櫻庭 武蔵 休 憩 派遣国について知ろう 14:55~15:45 ルワンダについて・質疑応答 ・在日ルワンダ人:ジョバンニ・ンタブゴバ氏 ・ルワンダ OV:秋山 千恵氏 15:45~16:35 パラグアイについて・質疑応答 ・在日パラグアイ人:カルロス・ハビエル・ゴンザレス氏 ・パラグアイ OV:阿部 江里氏 16:35~16:50 16:50~17:20 休 憩 派遣国について グループごとに質問 17:20~17:30 まとめのプログラム ・カルロス・ハビエル・ゴンザレス氏、阿部 江里氏 ・ジョバンニ・ンタブゴバ氏、秋山 千恵氏 ・同行ファシリテーターおよび同行者 清水 千絵 17:30~17:35 主催者挨拶 第 2 日目 6 月 7 日(日) 時間 研 修 内 容 講 師 ・ 担 当 9 :00~ 9 :10 開会、連絡、アイスブレーキング 海外研修を教材・授業につなげよう① 9 :10~ 9 :40 過年度参加者実践事例紹介① 岩手県立盛岡みたけ支援学校奥中山校 橋場 哲氏 (H26年度研修参加教員(ルワンダ) ) 9 :40~10:10 過年度参加者実践事例紹介② 山形県教育庁文化財・生涯学習課 企画調整主査 安藤 紀子氏 (H26年度研修参加教員(パラグアイ) ) 10:10~10:25 休 憩 海外研修を教材・授業につなげよう② 10:25~11:55 海外研修に向けた効果的な準備について 青森県立田名部高等学校 南澤 英夫氏 11:55~12:10 開発教育概論【講座】 12:30~13:10 清水 千絵 昼食休憩(開発教育教材展示・販売) 海外研修を教材・授業につなげよう③ 開発教育実践に向けた効果的な手法 13:10~15:00 ーバニヤンツリーの海外支援活動をモ 特定非営利活動法人 バニヤンツリー 藤本恵子氏 デルにー 15:00~15:10 閉会、事務連絡 清水 千絵 ― 3 ― 2 次研修 日程 第 1 日目 7 月 4 日(土) 時間 研 修 内 容 13:00~13:15 開会、事務連絡、アイスブレーク 講 師 ・ 担 当 JICA 東北 清水 千絵 海外研修を教材・授業につなげよう④ 13:15~14:05 スケジュールの説明・解説・質疑 14:05~14:45 各国同行者 地球市民を育てる授業設計概論(授業 日本国際理解教育学会理事 石森 広美氏 づくりの視点) 14:45~15:00 休 憩 15:00~15:40 課題の確認と共有の時間(国ごと) 15:40~15:45 同行ファシリテーター 石森 広美氏、片平 恵氏 休 憩 15:45~16:45 授業づくりのポイント~その1(国ごと) 同行ファシリテーター 石森 広美氏、片平 恵氏 16:45~17:30 授業づくりのポイント~その2(校種ごと) 同行ファシリテーター 石森 広美氏、片平 恵氏 17:30~17:35 まとめ、事務連絡 JICA 東北 清水 千絵 17:35~18:30 交流会 第 2 日目 7 月 5 日(日) 時間 9:00~9:05 研 修 内 容 講 師 ・ 担 当 開会、事務連絡 海外研修を教材・授業につなげよう⑤ 9:05~9:50 国ごとミーティング 1 (自由時間) 9:50~11:20 地球の食卓 ワークショップ体験 11:20~11:35 各国同行者・同行ファシリテーター 開発教育協会理事 阿部 眞理子氏(NPO 法人 IVY) 休 憩 11:35~12:20 フォトランゲージ手法解説等 12:20~13:30 阿部 眞理子氏 昼食休憩(開発教育教材展示・販売) 海外研修を教材・授業につなげよう⑥ 13:30~14:15 県ごとミーティング 14:15~15:00 国ごとミーティング 2 (検討事項の共有・協議) 15:00~15:10 閉会、事務連絡 各県デスク 各国同行者・同行ファシリテーター JICA 東北 清水 千絵 ― 4 ― 同じ派遣国のメンバーと緊張の初顔合わせ 心をほぐすアイスブレーキング。 一番手が大きいのは誰? 研修を効果的に進めるために必要なこと ランキング発表 事前研修を海外研修にどう生かす? 南澤氏のワークショップ ファシリテーター石森氏の講座 この食卓はどこの国? 世界の食卓の写真から国名や暮らしを考える まとめ ― 5 ― 事後研修 日程 第 1 日目 12月12日(土) 時間 内 容 12:30~13:00 受付 13:00~13:05 挨拶・事務連絡、など 13:05~13:45 各派遣国 研修内容の紹介 (各国 20分ずつ) 13:45~14:00 A グループ発表15分・入れ替え 5 分 (ルワンダ:小学校教諭 3 名) B グループ発表25分・入れ替え 5 分 14:20~14:50 (パラグアイ:中高教諭 5 名) 14:50~15:05 休 憩 C グループ発表20分・入れ替え 5 分 15:05~15:30 (ルワンダ:中高教諭 4 名) D グループ発表10分・入れ替え 5 分 15:30~15:45 (パラグアイ:小学校教諭 2 名) 14:00~14:20 15:45~16:15 フリートーク等 16:15~16:30 過年度研修 発表の時間 16:30~16:35 16:35~17:25 開発教育ネットワークづくりのための 意見交換会(各県毎) 17:25~17:35 本日のまとめ・事務連絡 18:30 講 師 ・ 担 当 市民参加協力課課長 鍬田 伸利、渡辺 紀和 発表者(予定) パラグアイ:団長/団長 進藤 千枝氏 ルワンダ:団長/村上 篤氏 休 憩 ファシリテーター: 石森 広美氏(ルワンダ同行者) 片平 恵氏(パラグアイ同行者) グループ発表の仕方: 1 )14名全員が授業実践記録を模造紙に書いて持参する。 2 )4 グループ(A:ルワンダチーム、B: パラグアイチーム、C: ルワンダチーム、D: パラグアイチーム) 3 )ABCD の順番にポスター前で 1 人ずつ 5 分発表。発表者の前 にそれぞれ集まってプレゼンを聞く。 4 )1 グループ発表後、感想などをポストイットに書いてそれぞ れのポスターに貼る。 ※15:00~16:15の間、同ビル15階にて、過年度参加教員向けの セミナーを同時開催 過年度参加者教員向けのセミナーでの成果を発表します。 休 憩 青森県:南澤 英夫氏(青森県立田名部高校) 秋田県:藤本 恵子氏(NPO 法人 バニヤンツリー) 山形県:阿部眞理子氏(認定 NPO 法人 IVY) 岩手県:藤澤 義栄氏(いわて国際理解教育研究会/矢巾町立徳 田小学校) 小田 隆博氏(いわて国際理解教育研究会/盛岡大学) 宮城県:石森 広美氏(ルワンダ同行者) 片平 恵氏(パラグアイ同行者) 市民参加協力課 渡辺 紀和 懇親会 第 2 日目 12月13日(日) 時間 9:00~10:40 10:40~10:50 10:50~11:30 11:30~11:40 11:40~12:20 12:20~13:20 13:20~14:00 14:00~14:10 14:10~14:50 14:50~15:00 15:00~15:10 内 容 国ごとに「新作」の教材作り パラグアイ 2 チーム ルワンダ 2 チーム 休 憩 ルワンダ(小学校)の授業 休 憩 パラグアイ(小学校)の授業 ランチ懇親会 ルワンダ(中高)の授業 休 憩 パラグアイ(中高)の授業 休 憩 閉会挨拶 講 師 ・ 担 当 ファシリテーター: 石森 広美氏(ルワンダ同行者) 片平 恵氏(パラグアイ同行者) 過年度参加教員向け研修 日程 12月12日(土) 時間 内 容 15:00~15:30 実践発表会 15:30~16:15 感じたことを表現しよう、まとめ 16:15~16:30 11階 C 会議室にて発表 講 師 ・ 担 当 実践発表者:佐藤 慶一氏(H23年度教師海外研修参加者) 講師:南澤 英夫氏(青森県立田名部高校) ― 6 ― 実践授業の発表 実践授業の発表 同時開催で行った過年度参加者向け研修 過年度参加者向け研修の成果を皆で共有 各県毎の「開発教育ネットワーク」作りのための 意見交換会(秋田県の発表の様子) 持ち寄った授業をもとに 「より良い授業案」を考える 持ち寄った授業をもとに 「より良い授業案」を考える 「より良い授業案」を発表し、共有 ― 7 ― 各学校での実践授業の様子 千葉 幸恵 教諭(岩手県) 近藤 歩樹 教諭(宮城県) 進藤 千枝 教諭(宮城県) 金塚 元 教諭(宮城県) 佐々木 りえ 教諭(宮城県) 千葉 明彦 教諭(宮城県) 佐藤 健太 教諭(山形県) ― 8 ― 2 .海外研修 日程 主要データ・地図 コラム JICA 東北支部 HP も併せてご覧下さい。↓ http://www.jica.go.jp/tohoku/enterprise/kaihatsu/kaigaikenshu/2015par/index.html 日 程 日順 月日 研 修 行 程 1 7 月25日 (土) 成田空港集合→成田発→ニューヨーク経由 2 7 月26日 サンバウロ経由→アスンシオン到着 (日) 3 7 月27日 JICA パラグアイ事務所訪問 吉田所長、竹村職員よりパラグアイ及びパラグアイにおける JICA 事業のブリーフィングを受ける。 (月) カルロス・アントニオ・ロペス職業訓練 シニアボランティアが配属されている日本政府の無償資金協力によって建設された職業訓練校・工業高 センター訪問 校。学校長から学校の歴史・沿革を説明いただいた後、授業を見学。 4 7 月28日 内山田ホテル会議室 (火) サン・ロレンソ市小学校訪問 アスンシオン市内にて教材等購入 ホテル オリンポ会議室 内 容 ・ 備 考 観光庁・英雄広場にて民芸品等の教材を購入。 JICA 専門家より「地域とともに歩む学校づくり支援プロジェクト」の概要・課題等を説明いただいた後、意見交換。 現地小学校視察。教員・児童による歓迎セレモニー、施設・授業を見学後、学校長・教員とパラグアイ と日本の教育制度・方針・課題について意見交換。 地元のニャンドゥティ(*) 製作者による実演と説明を受け、作品を購入。* パラグアイの先住民族・グア ラニー族の言葉で「蜘蛛の巣」を意味し、パラグアイ・レースとも呼ばれるカラフルな伝統民芸品。 5 7 月29日 ペドロ・アギレラ小学校訪問 (水) 青年海外協力隊活動現場視察が配属されている地元の公立小学校。協力隊員から活動内容についての説 明を受け、隊員・教員と意見交換。児童と一緒に折り紙を折り交流を深める。 6 7 月30日 プライマリーヘルスケア体制強化プロ (木) ジェクト事務所訪問 JICA 専門家より地域保健医療サービス体制のモデルづくり及び地域保健医療人材の育成を通じた地域保 健医療サービスの改善に取り組む JICA 技術協力プロジェクト「プライマリーヘルスケア体制強化プロ ジェクト」の概要説明を受ける。 エンパラド USF(家族健康ユニット)訪問 青年海外協力隊が派遣されているプライマリーヘルスケア体制強化プロジェクトを実施先を見学。 7 イユ地区病院訪問 青年海外協力隊が派遣されているプライマリーヘルスケア体制強化プロジェクトの実施先を見学。 イユ市高等学校訪問 イユ地区病院に派遣されている青年海外協力隊の活動場所の一つである現地高等学校を訪問。授業見学 後、生徒と意見交換。 7 月31日 セタパル財団訪問 (金) 日系人移住者の営農の安定と振興を図る為に設立された農業総合試験場を見学。また、シニアボランティ アから活動について説明をいただく。 フンダシオン マーノ ア マーノ訪問 JICA 草の根案件「アルト・パラナ州青少年を対象とした縫製技術・コンピューター職業訓練プロジェク ト」を見学。代表から活動内容についての説明を受ける。対象地域は、同国の中でも最貧困地区の一つ ペナルティ訪問 であり、河の対岸にあるブラジルの大都市との経済格差を目の当たりにした。 エスクエラ デ アルテ イ オフィシオ訪問 8 8 月 1 日 イグアス日本語学校訪問 (土) ラジオ体操をはじめとする日本式朝礼、授業見学後、校長先生・教員と意見交換。非日系の生徒の姿も 多くみられる。教育制度上の学校とは認められていないため、通常は地元の学校に通い、週に 2 日ほど 日本語学校に通う。 イグアス日本人会連合会訪問 日本人会会長を表敬、イグアス移住地の歴史・概要・課題等を説明いただく。また、日本人会が所有す る採石場を訪問。 イグアス日本人会との懇親会 昨年度に続き、日本人会会長をはじめ、日本語学校校長、ホームステイ先のホストファミリーの方々な ど大勢の皆さんが出席され、手作りのお料理でおもてなしいただく。「ふるさと」の歌を披露すると、日 本人会の皆さんも手拍子をしながら一緒に歌ってくださった。 ホームステイ おもに東北出身の日系家庭に 2 人 1 組でホームステイ。夕食を囲みながら移住前から現在までの話に花が咲いた。 9 8 月 2 日 ブラジル・イグアスの滝見学 / イグアス 休日を利用し、世界遺産でもある滝を訪問。また、日系の元 JICA 職員より、イグアスの日系移民の資料 (日) 日本「匠」センター訪問 / ホームステイ 展示館であるイグアス日本「匠」センター(旧 JICA 事務所)を案内いただく。 一方で、ホームステイ家族と 1 日を過ごす先生もいた。 10 世界遺産にも登録されている、18世紀にイエズス会により宣教の目的で作られた「ミッション村」の遺跡を見学。 8 月 3 日 トリニダ遺跡見学 (月) エンカルナシオン障碍者支援センター訪問 現地 NGO が運営している障がい者支援施設。施設見学後、子ども達へ日本の児童・生徒が作ったしおり等を贈った。 11 8 月 4 日 パラグアイ日本人造りセンター訪問 (火) 12 8 月 5 日 アモール・イ・エスぺランサ特殊教育セ 青年海外協力隊の配属先である障碍者支援施設を訪問。協力隊員から活動内容についての説明を受け、 (水) ンター訪問 活動現場を視察。 卓球クラブ訪問 カテウラ音楽団訪問 13 8 月 6 日 日本人会連合会教育推進委員会訪問 (木) 青年海外協力隊の配属先である、日本政府の無償資金協力によって建設された多目的センターを訪問。 協力隊員から活動内容についての説明を受け、活動現場を視察。 シニアボランティアの配属先である地元の卓球練習場。状況の説明を受け、見学。 ゴミから作った楽器を演奏する子供の楽団。練習風景を見学し、創設者のファビオ氏及び支援者から現在の 状況や課題について説明いただく。 パラグアイの日本語学校の元締め的存在である委員会を訪問し意見交換。シニアボランティアの配属先 でもある。 アスンシオン市内にて教材等購入教材等購入 ショッピングセンターのスーパーマーケット、書店・文具店にて教材等を購入。 14 在パラグアイ日本大使館訪問 上田大使を表敬し、研修報告、挨拶及び意見交換。 懇親会 パラグアイの民族的な楽器「アルパ」( パラグアイハープ ) 教室にて、地元の奏者が演奏するアルパを聞 きながら、お世話になったスタッフとの懇親会。 8 月 7 日 JICA パラグアイ事務所訪問 (金) アスンシオン郊外ランパレの丘見学 吉田所長に研修報告、挨拶及び意見交換。 アスンシオン市を一望できる丘から、先の水害で浸水の被害を受けた「カテウラ」地区の浸水被害を目 の当たりにする。カテウラ地区は最貧困地区の一つといわれている。また道中、トタンを被せただけの 質素な住居で避難生活を送っている様子が、車窓から伺えた。 アスンシオン空港発→サンパウロ経由 15 8 月 8 日 ニューヨーク経由 (土) 16 8 月 9 日 成田到着 (日) ― 9 ― 教材探しに街の土産物屋へ。覚えたての スペイン語で値段交渉に挑戦。 ( 7 /27 英雄広場) 校長先生より学校の歴史、現状、JICA との 関わりについて説明を受ける。 ( 7 /27 ルロス・アントニオ・ロペス職業訓練センター) 技術支援プロジェクト「地域と共に歩む 学校づくり支援プロジェクト」について 説明をする大谷専門家。 ( 7 /28 内山田ホテル) 児童たちに歯磨きの大切さを伝える演劇を披露。 ( 7 /28 サン・ロレンソ市小学校) 教員らと互いの国の教育事情について意見交換を 行う。( 7 /28 サン・ロレンソ市小学校) 伝統工芸ニャンドゥティ。伝統工芸の素晴らしさ とともに後継者問題について知る。 ( 7 /28 Hotel Olimpo) ― 10 ― 眞喜志 JOCV より活動と代々の隊員が作成・改 定した MAPARA について説明を受ける。 運転手のアルベルトさんによる「実演テレレ」。 ( 7 /29 ペドロ・アギレラ小学校) 数あるハーブの中から、体の調子や好みに合わせ てオリジナルブレンドを作るのが地元流。 ( 7 /29 セントラル県イタウグア市) プライマリーヘルスケア体制強化プロジェクトに ついて説明する小川専門家。 ( 7 /30 プロジェクト事務所) 草の根事業である青少年を対象とした 縫製技術プロジェクトを視察。 ( 7 /31 Fundacion Mano a Mano) 高校生に3.11の震災経験について語る進藤先生。 ( 7 /30 イユ市高等学校) 自分たちで作った紙飛行機を力いっぱい飛ばす生 徒達と近藤先生。 ( 8 / 1 イグアス日本語学校) ― 11 ― イグアス日本人会比嘉会長より日本人会の歴史と 現状を聞く。 ( 8 / 1 日本人会事務所) 休日を利用して世界三大瀑布の一つである 「イグアスの滝」へ。まさに「圧巻」の一言。 ( 8 / 2 イグアスの滝 / ブラジル) パラグアイ唯一の世界遺産トリニダ遺跡を視察。 ( 8 / 3 トリニダ遺跡) 子どもたちが手にしているのは、ゴミを リサイクルした楽器。その美しく力強い音色は、 音楽が持つ無限の力を感じさせてくれた。 ( 8 / 5 カテウラ音楽団) 足立 JOCV よりパラグアイでの障がい者支援 状況について説明を受ける。先生方からの温かい 励ましに足立 JOCV が涙をする場面もあった。 ( 8 / 5 アモール・イ・エスペランサ特殊教育センター) 最後の振り返り。それぞれが作成した 学びの地図へ、それぞれがコメントを書く。 ( 8 / 6 内山田ホテル) ― 12 ― パ ラ グ ア イ 主 要 デ ー タ 出典:外務省ホームページ ・面積:40万6,752平方キロメートル(日本の約1.1倍) ・人口:692万人(2014年、世銀) ・首都:アスンシオン(人口約51万人) ・民族:混血(白人と先住民)95%、先住民 2 %、欧州系 2 %、その他 1 % ・言語:スペイン語、グアラニー語(ともに公用語) ・宗教:主にカトリック(信教の自由は憲法で保障) ・政体:立憲共和制 ・元首:オラシオ・カルテス大統領(任期は2018年 8 月まで) ・議会:二院制(上院45、下院80、任期 5 年) ・経済概要:経済は、農牧畜業と電力が輸出総額の 8 割以上を占めており、アルゼンチン、ブラジル の経済状況に依存している。主要農作物は、大豆、トウモロコシ、小麦、綿花、マテ茶、ゴマ等。 とりわけ日本人移住者が導入し急成長した大豆の生産量は世界第 6 位、その輸出量は世界第 4 位。 また、世界第 9 位の牛肉輸出国でもある。2013年は大豆及び牛肉の輸出が好調だったこと等から 13.6%のプラス成長を記録。近年、低い税率、安価な労働力等を背景に、自動車部品、造船分野等 において、日本企業を含めた外国企業の進出が活発化している。 ・軍事力:(1)予算約313百万ドル(2014年、ミリタリーバランス) (2)兵役徴兵制 (3)兵力陸軍7,600人、海軍1,950人、空軍1,100人 ・主要産業:農牧業(綿花、大豆) 、牧畜業(食肉) 、林業 ― 13 ― 訪問先地図 (出典:http://www 2 m.biglobe.ne.jp/ZenTech/world/map/Paraguay/Map_of_Paraguay_and_neighboring_countries.htm) (出典:http://www 2 m.biglobe.ne.jp/~ZenTech/america/paraguay.htm) ― 14 ― コ ラ ム 1 日目 7 月25日(土) 午後 1 時30分成田空港集合。重いスーツケースを引っ 張ってきた面々はすでに疲労困憊状態。 荷造りを早めに完了し、事前にスーツケースを送って いた人は涼しい顔だった。これから始まる研修を前に余 裕綽綽の人、押し寄せる不安を隠せない人、体調どん底 の人などなど北ウイングでの集合写真の表情は様々で あった。 まずは12時間のフライト後に到着した NY。思うよう に眠られず(一人を除き!) 、このあとさらに 2 回乗り 継ぐことを想像しただけで口が重くなるような状況だった。更に、ちょっとしたハプニングが発生し てヒヤヒヤする場面があったり、ここでリタイヤかと本気で悩んでいる人がいたり、大都市 NY にい る事を実感する余裕は全くなかった。が、次のサン・パウロまでの10時間は、体が順応したのかあま り苦にもならず、パラグアイまでのトランジットでソーラン節の練習!カメラを向ける外国人の視線 にますますはりきる我々なのであった。 (コラム提供:奥州市立稲瀬小学校 千葉 幸恵) 2 日目 7 月26日(日) フライトだけでも24時間、乗り換えの時間を入れれば、30 時間余りの時間をかけてようやく南米パラグアイに到着しま した。日本の裏側のパラグアイは冬なのにあたたかく、乾い た空気でした。降り立ったシルビオ・ペッティロッシ空港は 首都に設置された空港にしては小さく感じました。JICA パ ラグアイ事務所の竹村さんと大石さんに出迎えられ、早速、 通貨両替のため、近くのショッピングセンターに向かいまし た。ブランドショップが並ぶショッピングセンターを目の当 たりにしてパラグアイが発展途上国とは信じがたいものがあ りました。米ドルを現地通貨のグアラニーに両替しやっとの ことでホテルに到着しました。足を延ばして寝ることができ ると思うと正直ほっとしました。こうして30時間以上に及ぶ 長い旅がようやく終わりました。 (コラム提供:宮城県仙台東高等学校 千葉 明彦) ― 15 ― 3 日目 7 月27日(月) 約36時間の長いフライト。成田空港からニューヨークまでの長時間フライトは覚悟していたが ニューヨークからサンパウロ空港までは、さらに遠かった。アスンシオンに着いたときはさすがに疲 れ切っていた。到着の翌日、内山田ホテルの朝食は、納豆。疲れた胃と心を癒してくれた。 ホテルの最上階で、竹村さんからのパラグアイについてのレクチャーを受け、その後バスで JICA パ ラグアイ事務所へ移動。吉田所長から、JICA の行っている事業についての説明を受ける。日本同様日 系社会は、高齢化が進んでいるそうだ。また、パラグアイには、 「なぞの魅力」があることをお聞きした。 私たちは、パラグアイ滞在期間中パラグアイの「なぞの魅力」を探すことにした。 JICA 事務所の向かいにあるおしゃれなレストランで昼食。牛のカツは、お皿からはみ出すかのよ うな大きさだ。初めて食べるソパ(スープ)は、おいしかった。 昼食後、カルロス・アントニオ・ロペス職業訓練セン ターへ。後藤明男ボランティアの活動現場だ。 ここは、日本の援助で建設された。 4 つの専門科に分 かれている。後藤さんの生徒の皆さんが書いてくれた歓 迎の言葉にみな、感激した。 その言葉は、パラグアイへの長い飛行時間を忘れさせ てくれた。パラグアイの生徒のみなさんは、 「自己肯定 感」が強く、自分に自信を持っていた。 (生徒の皆さんには、英語通じました!!) 私たちは、英雄広場で、教材購入。アオポイ(パラグアイの伝統的なブラウス) ・ニャンドゥティ・ マテ茶ポットを大人買いした。 グアラニーの 0 (ゼロ)の多さには、目が点になりつつしっかり値切って買い物をした。 (コラム提供:仙台市立長町中学校 進藤 千枝) 4 日目 7 月28日(火) 時差にも慣れてきた 4 日目。内山田ホテルでの朝食は、和食。日本での生活よりもしっかりとした 和食を食べているような…。 始めに、内山田ホテルの上にて大谷専門家による技術協力プロジェクトについての話。大谷専門家 からは、パラグアイの教育の概要から、プロジェクト内容まで幅広くお聞きすることができ、来たば かりでみんなの質問は止まらず…。学校訪問の前段階で、教育の現状を聞くことができたことは貴重 ― 16 ― であった。卒業率、退学率には驚き、やはり日本の教育との違いを実感。時間は限られているため、 別れを惜しみつつも次へ。 サンロレンソ小学校訪問のために準備していた、歌「上を向いて歩こう」と南中ソーラン。現地 JICA 職員の方にギターを借り、男性陣はみんな音楽ができる!ということで「パラグアイズ」結成。 みんなで歌を歌ったり、弾き語りを聴いたり、ゆったりしたいい時間。そうこうしている間に、お昼 に。ショッピングモールで、みんな好きなものを取って食べた。初めて食べるマンディオカやチパに 感動。ただし、デザートが全部とてもとても甘い…。これもパラグアイの味。 バスに乗り込み、サンロレンソ小学校へ。さっそく出迎えてくれたのは、会うたびみんな、オラ! と返してくれる子どもたち。自己紹介の後、さっそく空港で練習した南中ソーランと歌の出し物を披 露。各学年から、詩の朗読や歌、パラグアイのダンスなどを披露してもらった。こんなに歓迎してく れるなんて。いよいよ練習した劇、歯磨き指導の時間。始まったら、みんな真剣に劇を見てくれてい た。片言のスペイン語でなんとか 1 日 3 回は歯を磨こ う!と伝えることができた。休み時間はお菓子を食べな がら外を歩く子どもたち。そして下を見ると、地面には たくさんのゴミが落ちていて衝撃を受けたのを覚えてい る。小学校で掃除の時間を取り入れている学校は少ない。 最後は日本から持ってきた手紙や鶴などを渡したらとて も喜んでいた。 夜は高級感のある、ホテルへ。ここでパラグアイの伝 統工芸であるニャンドゥティ(手編みのレース)を作っ ている様子を見ることができ、実際に布に縫い付けて、 それをはさみで切っていき、完成するまでの様子をみる ことができた。大きいものから、細い糸のものまでいろ いろな種類のニャンドゥティがあって、大量買いする女 性陣…。縫う姿を見ているととても緻密で、気の遠くな りそうな作業。物によっては 3 ヶ月かけて作るものもあ るとのこと。やはり、伝統工芸の後継者不足はどこでも 問題になっているように思った。 (コラム提供:石巻市立鮎川小学校 近藤 歩樹) 5 日目 7 月29日(水) ペドロ・アギレラ小学校 7 月29日。ペドロ・アギレラ小学校を訪問した。敷地に足を踏み入れた瞬間にきれいな学校だと感 じた。広い敷地に校庭を囲むような形で平屋の校舎が並んでいた。赤土と赤い校舎、敷地内に生い茂 る緑、そして平屋の校舎だから感じることができる広く青々とした空。赤と緑と青の美しい色合いに 感動すら覚えた。もちろん日本の学校の方が建物はしっかりしているが、子ども達がのびのびと育つ ことができそうな良い環境だった。 ― 17 ― この日は、市からの支援によって建てられた給食調理室の完成式典が行われる日だった。子ども達 は様々な出し物を見せてくれた。我々もソーラン節を披露したが、以前にきたボランティアが子ども 達にソーラン節を教えた事があったようで、踊れる子どもは一緒に踊ってくれた。昼食の時間には完 成したばかりの調理室で調理された食事をいただくことができた。日本の学校では、学校給食を食べ ることは当たり前のことで、子ども達も毎日当然に食べられるものとして食べている。そのためか嬉 しそうに学校給食を食べている子ども達がとても新鮮に思えた。そして、昼休みに外でゆったりと休 憩している先生方の姿がとてもうらやましかった。 子ども達に折り紙を教える時間があり、新聞で兜を作ったり、紙飛行機を作ったりして遊ぶことが できた。折り紙文化のないパラグアイの子ども達には、簡単な紙飛行機でもなかなか難しいもののよ うで、悪戦苦闘している子どもが多くいた。しかし、どの子も途中で投げ出したりせず一生懸命折り 紙に取り組んでいた。違う形の紙飛行機を作って見せると目を輝かせて喜び、外で紙飛行機を飛ばし 始めたときには皆大はしゃぎだった。とても楽しい時間だった。 ペドロ・アギレラ小学校には、日本から眞喜志 JOCV(青年海外協力隊)が派遣されていた。眞喜 志 JOCV からは主にこれまでに行ってきた活動や、パラグアイで行われている「マテマティカ(日本 語で算数) 」の授業についてお話をいただくことができた。私は数学の教員なので、パラグアイのマ テマティカで活用されている、 「MaPara(マパラ) 」と「 4 D(クアトロデー) 」に興味があったがこ の日見せていただくことができた。 「MaPara」はマテマティカの指導案集、 「 4 D」はマテマティカの 問題集で、どちらも日本の JICA ボランティアが研究し作成しているものだ。パラグアイでは日本の ように決まった教科書はなく、先生は市販されている本を買って授業を行ったり、子ども達はノート だけで授業を受けたりしている。そのような状況の中、パラグアイの算数教育を向上させるべくこの 2 つの本は作られている。中を見ると、日本の教科書のように多くの図や絵が配置され、見やすくわ かりやすいように工夫されていることがよくわかった。今後この「MaPara」が多くの地域で活用され、 パラグアイの子ども達がマテマティカの楽しさを目一杯感じられる日が来ることを願っている。 (コラム提供:仙台市立多賀城中学校 金塚 元) 6 日目 7 月30日(木) プライマリーヘルスケア 小川専門家 この日は主にパラグアイにおける医療について研修を 深めた。まず午前中は PHC のシステムモデルづくりに ついて、小川専門家より講話をいただいた。プロジェク トの目的は対象地域の保健医療サービス体制の整備であ り、特に上位目標として母子保健水準の向上を掲げてい る。主な対象地域となったのはカアグアス県で、面積は 11.474km、人口は訳47万人。システムモデルづくりは ①厚生省 ②第 5 衛星厚生局 ③住民 ④県庁 ⑤国立 大学 ⑥県・市・医療審議会のこれら 6 つの機関と連携 して行われている。その中の具体的な実践の一例として、幸福家族プロジェクトという妊婦死亡率を ― 18 ― 減少するために、妊産婦検診の向上推進と住民参加型啓発活動、保健サービスの改善、保健教育・啓 発活動の強化について取り上げて説明したい。とりわけ重要となるのは①第一回妊産婦検診の受診率 の向上 ②出産まで最低 6 回の妊産婦検診の受診者数増加、この 2 つの目標を掲げた活動の促進であ る。実際に行われた取り組みとして、妊産婦検診の重要性を示したデモンストレーションの実施、妊 産婦検診日カレンダー、妊婦用危険度別色分けファイル、妊婦健診受診度別の見える化などが挙げら れた。小川専門家は、住民の自発的活動をいかに引き出すかがプロジェクトの鍵であると話した。母 子保健水準の向上の他にも、救急医療体制の整備や生活習慣病の予防など、様々な課題が残されてい るが、パラグアイ人における健康の考え方について「国が与えてくれるもの」という認識を改め、健 康とは自分たちで連携し、意識を高めてつくりだすものだという考え方を浸透させていくことが必要 だと感じた。小川専門家はある心の迷いと、そこから生まれた考えについても話してくださった。そ れはパラグアイ人の幸福度が高く、開発や支援が本当に必要なのか、という迷いだった。しかしある 方の考えに感銘を受けたという。それは、先進国は発展途上国に対し医療をはじめとする様々な自国 のシステムを、押し付けるのではなく提供し、良いものをその国が独自に選び、取り入れていく権利 を与えること、それこそが本当の支援なのではないか、という考えである。小川専門家の国際協力に 懸ける思いと、自分の生きた証を仕事で残す、という情熱に、皆心を打たれた。素晴らしい講話に感 謝。 エンパラド USF(家族の健康ユニット) 看護師として地域の医療のために力を尽くしている桂 JOCV と面会した。ここでは妊産婦検診や、性感染症の 検査、生活習慣病の改善、リハビリなどの医療を提供し ている。また、週に 2 日のみ歯科医が来て治療も行って いるとのこと。妊産婦検診の受診度を示した一覧が掲示 されており、小川専門家の講話にもあった取り組みが現 場で実践されていることを実感した。この日はたまたま 休業日だったが、普段はひと息つく間もないほど忙しい という。 昼食は病院の近場にあったお店に立ち寄り、料理名もよく分からないローカルフードを食した。牛 肉を煮込んだもので、半熟ウェーボ(卵)が乗っていた。塩味が効いていて美味しかった。主食とな るマンジョーカというキャッサバを茹でた物も食べたが、ジャガイモに似ていて、ほくほくしてこれ もまた美味しく、ついつい食べ過ぎてしまった。 ― 19 ― イユ地区病院 看護師として働く大澤 JOCV と面会した。エンパラド USF よ りも規模の大きい病院だった。大澤さんは医療に従事するだけで なく、近くの学校に出向き、自作のイラストや道具を使って歯磨 き指導や性教育を行っている。自分のやりたいことと、周りの ニーズとの差に戸惑うこともあるが、精力的な活動を続けていき たいと話していた。 その後、大澤さんの紹介で、地区の学校を訪問することがきた。 ここでは小学生から高校生まで、幅広い年齢の子供たちに会って 話を聞くことができた。勉強は大切だと思うか、という質問に対 し、多くの生徒が頷いた。優秀な成績をおさめることで将来が開 けるから、周りの人の対応も変わってくるから、家族のため、自 分のためにより良い仕事に就きたいから、などの理由を語った。 また、子供たちに自分の事が好きか、という質問を投げかけると、大半の生徒が手を挙げた。自分が 将来国を変えていける存在だと確信している子も少なくないことが分かり、現代の日本の子供たちの 多くが抱える自己肯定感の低さとは、ある意味対照的な部分もあると感じた。 (コラム提供:富谷町立富谷中学校 佐々木 りえ) 7 日目 7 月31日(金) CETAPAR 財団 この財団は1962年にイグアス居住地の農場研修センターと して発足し、現在ではパラグアイ国民に対しても農業や牧畜 の技術協力活動を行っている。この施設にある機械は JICA から寄贈されたもので、帯広畜産大学と 5 年間プロジェクト で共同研究も行っている。この日は大豆の試験的栽培を行っ ているラボラトリーや牧畜試験場を見学させていただいた。 日本と比較すれば、特に真新しいものはなかったが、こう いった基本的な研究や技術でパラグアイに協力をしているこ とが良く分かった。施設内の説明をしていただいていると、予定には入っていなかったシニア・ボラ ― 20 ― ンティアの松澤さんからお話を聞くことができた。松澤さんは退職して から農薬の研究協力というかたちでこの財団で働いていた。今の目標は パラグアイで応用できる、簡単でお金のかからないものを開発すること だという。現在パラグアイで使われている農薬は質が悪く、他に安いも のがないので人体に害があっても使わざるをえない状況なのだそうだ。 中学時代に英語を学び始めてから、海外に憧れを抱き、ボランティアに 応募したそうだ。彼が言うには、先進国は環境に配慮したものを開発す ることに目を向けているが、途上国は最新の技術に興味を持っている。 したがって、途上国といってもやっていることは先進国と同じで、遅れ ているわけではない。松澤さんが最後に言っていた「海外に出ると外国 人が外国人だという感覚がなくなる。 」という言葉が大変印象に残った。 縫製技術・コンピューター職業訓練プロジェクト;Fundacion Mano a Mano 隣国のブラジルからの企業進出が活発な地域(シウダ・デル・エステ 市、ミンガ・グアス市、プレシデンテ・フランコ市、エルナンダリアス 市)での職業訓練を行うプロジェクトで、ここで技術を身につけると雇 用の機会を得ることができる。実際に現場に行ってみると、壁には 「Hou Ren Sou」 「 5 S」といった日本の企業が大切にしている精神が掲 げてあった。このプロジェクトに応募している人は、貧しい家庭の女性 や若いシングルマザーであり、若い男性も数名見られた。古い型のミシ ンをつかって裁縫技術を勉強していた。これにより貧困から少しでも抜 け出すことができるという目的意識がはっきりとしているので、参加者 は皆、活力にあふれ真剣に取り組んでいた。今の日本におけ る高等教育は、少子化の影響もあり、生徒数よりも学校数の 方が多くなっている。大学も全入時代に入っており、その結 果、学習に対する目的やモチベーションが低くなっている人 もいる。社会が求める人材を育てるのが学校なのだというこ と、そして学ぶ人の目的意識がはっきりしていることが大切 だと再認識した。 Penalty 縫製工場 Penalty は、ブラジルのスポーツ衣料メーカーである。工 場内は分業制になっており、各自が各自の作業に黙々と取り 組んでいた。パラグアイ人の気質として「明日でいいことは、 今日やらない。」と事前に聞いていたが、勤勉に働く姿をこ こでは見ることができた。この工場で働くと、月給として 180万グアラニーを手に入れることができ、これはパラグア イで定められた最低賃金であるそうだ。また、この工場の求 人は非常に高倍率で、人々は仕事を欲しがっていることが分 ― 21 ― かった。しかし、現実としてパラグアイには仕事口がなかったり、専門技術を必要とする求人に対し て、その技術を持ち合わせた人が少ないのだそうだ。 Escuela de Arte y Oficio ここの施設の一部分を借りて、縫製技術やコンピュー ター技術を教わっていた。ここに通う生徒もシングルマ ザーや貧しい家庭の女性であり、ここの施設には託児所 もあるそうだ。日本の国旗とパラグアイの国旗を教室に 掲げてくれて、私たちは大歓迎を受けた。偶然、この日 は「友達の日」という日で、生徒達はお互いにプレゼン トを交換していて、私たちも手作りのプレゼントと手作 りのお菓子をそれぞれ頂いた。パラグアイの人々は、手 作りが好きだ。作られた製品が少ないからかもしれない が、数日前にも同様にサン・ロレンソ市小学校で手作りのプレゼントや手作りのお菓子をティー・タ イムにいただいた。ここの施設では JICA の支援が終わっても、自分たちでお金を稼いでいけるよう に、学校内に工場を作っていた。従業員は数人という小さい工場ではあったが、自立しようとする意 識があり、JICA が打ち出す目標を達成しようとする意気込みが感じられた。パラグアイ人は、自分 たちの国が発展途上国だということを認識しているそうだ。英語で表現すると Developing Country。 つまり、「発展している」国。そこに、パラグアイの人々は希望も持てるのだそうだ。ここまでの研 修を通して、「途上国」という言葉のイメージが分らなくなっていた。 スラム街 予定には入っていなかったが、ブラジルとの国境であ るパラナ川に作られたスラム街をバスから見ることと なった。大石さんから「バスから降りないように。きれ いな格好をしている日本人が降りてくると、変に期待を 抱かせてしまうから。」という注意があった。パラグア イの場合、スラム街に住む人たちは自ら進んで仕事を探 していないのだという。仕事を得て普通に働けば、スラ ム街に住むような生活をしなくても良いらしい。バスの 窓から見えたのは、板などを自分たちで組み合わせた小 屋や日陰に腰かける大人達、元気に遊ぶ子ども達であった。一見するとあまり困っているようには見 えなかった。 (コラム提供:九里学園高等学校 佐藤 健太) ― 22 ― 8 日目 8 月 1 日(土) イグアス日本語学校 朝 7 時から始まる朝礼に合わせ、あわただしく宿を出 発。ごまプリンのデザートまでついた純和食の朝食と、 優しい笑顔で見送ってくださった小林旅館のご夫婦の笑 顔に後ろ髪をひかれる思い。 「また来まぁす!!」と思 わず叫んでしまう。 赤い大鳥居を過ぎると見えてきた学校はいわゆる「昭 和レトロ」。なんとも懐かしさが漂う。校庭には子ども 達が並び、真面目な顔つきで国旗掲揚を見守っている。 パラグアイと日本の旗が並ぶ光景はこの国ですでに何度 も見た。両国のつながりを強く感じる一コマである。 ラジオ体操第二でなんとなく体をほぐし、佃校長先生のお話を伺った後、ぞろぞろと校舎内へ移動。 この日本語学校は約 2 割が非日系という。普段日本語を使わないパラグアイ人の子ども達のために 2001年からラパーチョコースが開設され、 「国語教育(国語コース) 」と「日本語教育(ラパーチョ コース)」に区別されて授業が行われていた。日本の教科書を使用し、 「平和のとりでを築く」の読解 を行う学級、テキストを使用し、正しい日本語に並べ直す作 業を行う学級などさまざまであった。 教える先生方は「教諭」ではなく、 「日本語を知っている 人」。数年前までは JICA から教師が派遣されていたが現在 は「現地調達」。日本語学校の教員不足は深刻なようで、卒 業生である日系二世・三世やイグアスにたまたま居をかまえ た人などが、校長先生をはじめとするベテランの先生方とと もに頑張っていた。 日課表には清掃時間も設定され、子どもたちは黙々と作業 に取りかかっていた。このように日本語学校では、 「日本語 の学習を通して、日本の優れた文化や習慣を身に付けるこ と」を目標としている。日本の素晴らしさを身につけたパラ グアイ人としてパラグアイの発展に貢献してほしいという親 の願いが反映されていた。 イグアス日本人会 学校近くの食堂で昼食にラーメンを食べ、ますますパラグアイの中の日本を実感した後、イグアス 日本人会事務所へ。会長の比嘉さんと事務局長の平野さんが出迎えてくださった。事業の概要やイグ アス移住地のようす、そして今後の課題などについてお話を伺う。 日本語の存在は、子ども達だけでなく大人の間でもだんだん薄れてきており、日本人会の回覧板と いえどもスペイン語訳をつけないと理解してもらえないとのこと。また、来年で移住55周年を迎える ― 23 ― イグアスにとっても、日本と同じく高齢化の問題は避け ては通れない。高齢者への福祉をどうしていくかが悩み だという。 若い人たちが仕事を求めて日本やアスンシオンなどの 都会へデカセギするのを何とか食い止めるために、農業 だけに頼らない新たな産業を開発する必要もあるよう だ。 懇親会 日本人会事務所に隣接するイグアス日本人会会館で懇 親会が開催された。ホームステイ先のご家族はじめ日本 語学校の先生や高等部の子どもたちと楽しく会食した。 体育館のように広いこの会館は、移住者の方々にとって 親睦を深める大切な場所で、成人式や敬老会、合同慰霊 祭などの各種行事はもちろん、結婚式をあげることもあ るのだとか。 今晩のお料理は、味付けおこわに煮物、焼きそば、海 苔巻き、おにぎり、漬物盛り合わせなどのザ・日本食と ともに、豚の丸焼きも登場!!実はこの豚とは数時間前から対面しており、グルグル回転しながら焼 かれているその姿に生唾を飲み込んで待ち構えていた。 パラグアイに来てよかったとあらためて実感した懇親会だった…。 (コラム提供:奥州市立稲瀬小学校 千葉 幸恵) 9 日目 8 月 2 日(日) 8 月 1 日からの 3 日間はイグアス移住地でのホームス テイです。私は日本人会顧問の福井さんのところにお世 話になりました。 研修が始まってからちょうど 1 週間目。 この日は久しぶりの休日で他のみなさんはイグアスの滝 に出かけて行きました。私は体調が少し不安だったのと 町をゆっくり見て歩きたかったのでイグアスに残りまし た。午前中、福井さんの息子さんと娘さんの案内で、福 井家の250ヘクタールの農場を見せてもらいました。福 井さんの話によるとパラグアイは気候も土壌も農業に適 しており、異常気象にでもならなければ、農作物の収穫量は比較的多いとのことです。この規模でも、 ここでは小規模農家にあたるとのことです。課題はいかに効率よく収穫量を増やして、農産物を高く 買ってもらえるかということだそうです。農場経営には経営力が求められており、そのため福井さん ― 24 ― は息子さんと娘さんを日本で研修させています。 その後、イグアス日本「匠」センターに向かい、入植 者の園田さんから当時の様子を伺いました。パラグアイ への入植はおよそ80年前に始まりました。入植当時の生 活は決して楽なものではなく、生活を立て直すために借 金をし、その借金で生計が成り立たなくなり、イグアス の地を後にした入植者の数も多かったということです。 福井さん、園田さんを初めてとして、日系人の皆さんは、 パラグアイにしっかりと根を下ろしながらも、日本の伝 統の文化を次の世代の日系人に伝えていきたいという思 いを強くお持ちのようでした。次に、世界最大級のイタ イプダムに連れて行っていただきました。パラグアイは 水の埋蔵量が豊富で、巨大な発電施設で作った電気をブ ラジルへ売っているのだそうです。これは私の勝手な発 想ですが、これだけ豊富な水資源があるのなら、ウォー タースポーツなどのレジャーでもっと観光客を呼び込み、 経済を活性化させることができるのではと思いました。 (コラム提供:宮城県仙台東高等学校 千葉 明彦) 10日目 8 月 3 日(月) いよいよ研修も後半戦に突入。朝早く、堤さんの車で、 畑・サイロ・製粉工場を見学。ホームステイ先の堤さん が、最初に入植した場所とジャングル、家。赤い大地に 生きる日本人の移住者の命を削り、パラグアイに根付い た事実に敬意を表したい。 ホームステイ先のお宅で、涙・涙の別れをし、互いの 幸福と健康を祈りお世話になったホームステイ先のご家 族とお別れした。 イグアス居住地からエンカルナシオンへ。別天地のよ うに美しい街だ。川の対岸は、アルゼンチンだ。 まず、トリニダ遺跡へ。 1600年代に、スペイン人の造っ たコロニーだ。広大な敷地に、残されている建物群。無 造作に展示されている彫刻。パラグアイ唯一の世界遺産 なのだから、観光資源の生かし方も大切だと感じた。 トリニダ遺跡を見学すること 1 時間。晴天続きで、暑 さに負けそうになる。 エンカルナシオン障がい者支援センターへ。ここは、 理学療法施設・教育施設の 2 つに分かれている。 ― 25 ― 青年海外協力隊員が 2 名以前派遣されていたそうだ。 教育施設で伺ったことでは、やはり、障がいを隠す事 も多いそうだ。 理学療法施設・教育施設のいずれも、まだまだ日本の 運営システムと開きがあると感じた。通って来る人々へ の援助や、障がいを持っている人々に関わっている人々 への援助や研修の必要性を強く感じた。 夕食を終えエンカルナシオンの夜は、ホテル周辺の散 歩。まるで、東京にいるかと錯覚させるほどの美しい町 並み。対岸のアルゼンチンの街の明かりがまぶしかった。 明日は、また、アスンシオンに戻る。 エンカルナシオンの街の雰囲気は、途上国とは思えな かった。 (コラム提供:仙台市立長町中学校 進藤 千枝) 11日目 8 月 4 日(火) エンカルナシオンの朝はとても優雅だった。対岸にはアルゼンチンの街の景観が広がっていた。そ れを眺めながらの朝食はビュッフェで、パンもとてもおいしい!コーヒーを飲みながら、ここに住み たいとさえ思った。エンカナルシオンを離れるのは残念だった。信号機もあり、道が整備されている。 びっくりしたのは、歩行者に対して車がしっかりと停まってくれること。朝にはマラソンする人の姿 や、散歩している人の姿も見られた。ごみなど全然落ちていないとてもきれいな街だった。パラグア イ、と一言で言っても違う国のようだった。 アスンシオンまでバスで約 7 時間の長い道のり。外の景色は、相変わらず牛と広大な大地と赤土。 現地で、パラグアイでは牛は人口よりも多いという話を聞いたが、どこを見ても牛がいる。そして信 号のないまっすぐ続く道をひらすら走る。これまで学んできたことを共有(世間話?)したり、睡眠 を摂ったり、景色を眺めたり、お菓子を食べたりと、それぞれ過ごしていた。アスンシオンに着いて からは、スポーツ分野で活躍する JOCV(青年海外協力隊)の方や SV(シニアボランティア)の方 の活動を視察した。パラグアイ日本人造りセンターで体操競技を専門に教えている方の活動を見せて いただいた。しかし、活動する中で「これは本当に自分がやりたかったことなのか」と葛藤すること もあったという話を聞いた。また、活動がなかなか思い通りには行かず、苦労したという貴重な話を 聞くことができた。世界で活躍する人々は、必ずしも全員がすぐに成果を残せるわけではない、苦労 して活動しているという話をきくことができ、このことはぜひ帰ってから子どもたちに伝えたいと 思った。次に卓球練習所では、パラグアイはまだまだ卓球が普及していないという話を聞いた。SV の方がいることで助けられていると現地のチームコーチが言っていた。電気や水、交通の整備、教育、 医療などの支援ばかりが最も必要だと感じていたが、スポーツで人の心を豊かにすることも大切な支 援の 1 つなのだと気付かされた 1 日であった。何かに打ち込むこと、一生懸命になること、スポーツ ― 26 ― を通して世界に羽ばたくことができるという可能性をもたせることを目標に活動しているそうだ。 帰ってきました、内山田ホテル。朝食会場にて、内山田ホテルに泊まっている方や住んでいる方と の交流をした、という話もちらほら。日を追う毎にパラグアイでの知り合いが増えている、団長。パ ラグアイに戻って来る日もそう遠くないのでは…? (コラム提供:宮城県石巻市立鮎川小学校 近藤 歩樹) 12日目 8 月 5 日(水) アモール・イ・エスペランサ特殊教育センター もはや住み慣れた内山田ホテルからバスで約 1 時間。まずアモール・イ・エスペランサ特殊教育セ ンターを訪れた。この施設は教育文化省から認可された施設で、障害をもった子どもが、卒業後に仕 事をもてるようにすることを目的として設立された。 こちらの施設には日本から足立 JOCV が派遣されていた。足立 JOCV は日本で特別支援教育を学 んでいた。しかし現地の職員の多くは特別支援教育を学んでおらず、苦労をしているようだった。 足立 JOCV が行う授業を見させていただくことができたが、子ども達に見通しを持たせる導入や、 ICT、フラッシュカードの活用など、日本の特別支援教育でも行われている活動を取り入れた良い授 業だった。このような授業を自らが実践し、現地の職員達の授業にも取り入れてもらえるよう啓蒙し ているようだった。様々な課題がある中で、施設での教育の改善に取り組み、授業内容の向上に努め る姿は頼もしく思え、大変だけど充実していると語る足立 JOCV はとても輝いて見えた。 スーパー アモール・イ・エスペランサ特殊教育センターで、足立 JOCV から元気をもらった私達は、教材 等を買いにスーパーに向かった。 発展途上国とは思えないほど近代的で大きな建物だった。フードマーケットやブランドショップ、 書店やフードコートなど様々な店舗が入っている複合施設だった。 私達はまずフードコートに向かい昼食をとることにした。多くの店舗がある中私達が選んだのは 「マクドナルド」だった。肉食文化であるパラグアイのハンバーガーはどんなものか食べてみたかっ たからだ。通訳してくれる人が誰もいなかったため、書いてある文字を読み注文した後、何を聞かれ ても「Si !(はい!) 」を連呼した。ドリンクは全員コーラで、トレイの上にコーラとオレンジジュー スの 2 つのドリンクが乗ったりもした。これもまた海外の面白さかもしれないと感じたと同時に、 我々に気を遣い様々な事を聞いてくれた店員の方に申し訳ないとも思った。 カテウラ音楽団 カテウラ音楽団は今回の視察団の中でも楽しみしている人が多かった場所ではなかっただろうか。 日本のテレビでも放送されたことがあるゴミから楽器を作り演奏を行っている音楽団だ。 カテウラ音楽団のある地域の景色は決してきれいと言えるものではなかった。水浸しの石畳の道、 色が褪せ剥がれた家の壁、外れた扉、そこら中に散らばるゴミ、そしてそこに住む人々もどこか生気 が感じられないような印象を受けた。 ― 27 ― 楽団が練習を行っている場所に着くと中に入り、練習の様子を見させていただくことができた。私 は当初カテウラ音楽団について「ゴミから楽器を作り演奏をしている珍しい楽団」くらいに認識して いた。しかしその認識は大きく間違っていた。多くの話を聞き、カテウラ音楽団が地域の中で果たし ている機能に大変驚いた。楽団の最も大きな機能は「音楽を通して子どもを救い、子どもの未来を創 り上げる」ことだった。楽団への寄付金や収入の多くは奨学金に使われている。その奨学金を使い、 音楽が学べるよう子どもを学校に通わせている。また、音楽活動を通して、物を大切にすること、目 上の人に対する敬意、しっかり人の話を聞くこと、規律を守ることなど生きていく上で大切なことを 学ばせている。カテウラ音楽団が、活動を始めてから、地域は悪い環境から抜け出し始めているよう だ。そして何より、子ども達は音楽に熱中し、生き生きとしている。改めて、子どもが熱中できるも のや環境を、大人が作っていく必要性を感じた。カテウラ音楽団が地域で果たしている機能を知って から聴いた演奏はとても感慨深く、演奏に熱中している子ども達の姿は本当に感動的であった。 (コラム提供:仙台市立多賀城中学校 金塚 元) 13日目 8 月 6 日(木) 日本人会連合会教育推進委員会 日本語教育の教育主事、事務局長らと対談を行った。 現在、パラグアイの日本語教育校の教員は、主に日系 2 世、 3 世が就くことが多いとのことだが、ここ数年教員 不足に悩まされているという。さらに教育の質も問われ ており、研修の機会も少ないことが問題視されている。 しかし、教職員の待遇の低さも課題として挙げられる中、 意欲をもって教壇に立ち続けることは難しいのではない かといえる。日本語を学びたい人のニーズとは何なのか、 という質問に対し、日系社会では子供たちの親が、日本 語を受け継がせたいという思いから、日本語学校に通わせる事例が多いことを知った。一方で、マン ガやアニメといった日本のサブカルチャーに親しみをもち日本語を学びたいと考える子や、その他に も、日本に出稼ぎに行きたいとの理由の子もいるという。次に、言葉以外にも残したい日本文化につい て、教育主事らの思いを伺うと、礼儀作法や掃除、あいさつ、整理整頓など心構えが挙げられた。パ ラグアイの人々にとって、学校の掃除を子供たちがすることは抵抗があり、受け入れ難いという意見も あるようだが、自分たちが過ごす環境は自分たちで綺麗に保つ、というのは日本人にとってごく当たり 前の認識であり、大切な考え方だと思う。他にも、日本の行事としてひな祭りや七夕などを行うことも あるようだ。しかし、日本の全ての文化や行事を伝える事はやはり難しく、生活に根差した言葉や文化 を精選して、伝承していけるよう努めていると語った。日本語を学んだ生徒の多くは、日本で働くこと を夢見るので、優秀な人材が国内から出て行ってしまうのでは、という懸念に対し、主事らは、その通 りです、と少し残念そうに頷いた。パラグアイにおける日本語教育や日系社会が今後どう変化していく か、不安や疑問が残るが、子供たちが日本語を学ぶことで、日本の文化に触れ、視野を広げたり、考 え方を深めたりすることは、その後の生き方にプラスの効果をもたらすものだと信じ、日本人会の発展 ― 28 ― と隆盛を祈念したい。 帰り際に、東日本大震災の際にパラグアイから支援を 受けた豆腐の実際の物を見せていただいた。 「心はひと つ パラグアイ国民は日本を応援します。 」と書かれた パッケージから、パラグアイの人々の思いやりと温かさ を感じた。これを受け取った震災時の被災者は、勇気を もらったことだろう。 その後、国会議事堂を訪れたり、鉄道の名残を見学し たりした。そして教材購入のため Maita という文具と 本を取り扱う店に立ち寄った。教科書だけでなく、飛び出す絵本や、おもちゃ、画材など様々な商品 が数多く並べられていた。現地で使われている教科書や実践授業で生徒たちの興味を引くような教材 を各自購入した。昼食は日本で言うところの「白金風」といった感じの、気品のあるレストランでい ただいた。料理が出てくるのに大分待たされたが、その分手が込んでいて魚やチキンのグリルなど、 どれも美味しかった。デザートには種類が豊富でおしゃれなプチケーキの盛り合わせを頼み、皆で分 け合って楽しく食べた。 在パラグアイ日本大使館 午後は在パラグアイ日本大使館を訪れた。入館には厳重なセキュリティチェックが必要で、携帯電 話の持ち込みや撮影は安全保障上禁じられている。 中は日本庭園のような美しい景色が広がっていた。 パラグアイ共和国駐箚特命全権大使の上田善久氏と面会し、多忙なスケジュールの合間を縫って対談 させていただくことができた。大使はこれからのパラグアイと日本との未来について、日本企業がよ り積極的にパラグアイに来てつながりを深めてほしい、と語った。また、現代の子供たちに戦後移住 政策の話を広め、日本とパラグアイとの関係に興味をもってもらいたいとの思いを伺った。パラグア イは土壌に恵まれ、飢えとは無縁の幸福度の高い国であるが、今後はさらに教育や医療など近代的な 意味における真の発展を遂げてほしい、との大使の言葉に対し、一同は深く共感を示した。対談の後、 茶道セットや茶椀のコレクションを見せていただいた。進藤団長と大使は見事なお手前のお椀につい て話に花を咲かせておられた。 学びの地図 日も暮れたころ、すっかり馴染んだ内山田ホテルに戻り、資料整理を行った。その後最上階の会議 室に集まり作成した「学びの地図」を見合った。というのも、実践授業の要となる言葉を中心に、研 ― 29 ― 修で学んだことをまとめて地図に書き起こしたものである。夜に JICA 事務所との懇親会兼アルパ演 奏会が控えていたため、発表したりゆっくりと意見を交換したりする時間は取れなかったが、これか らの実践授業づくりに向け、ふせんにコメントを記入し互いの考えを伝え合った。 (コラム提供:富谷町立富谷中学校 佐々木 りえ) 14日目 8 月 7 日(金曜日) パラグアイ JICA 事務所~ランバレの丘~アスンシオン空港 パラグアイ最終日。この日は、これまでの研修の成果を JICA パラグアイ事務所長に報告すること になっていた。一人一人がこの研修で感じたこと、学んだこと、そして今後につなげそうなことを所 長に報告した。所長も熱心に我々の話に耳をかたむけてくださり、また質疑応答もあり、報告は 1 時 間ほどになった。その後、屋上に上り、アスンシオン市を一望した。大石さんから「市長は緑のあふ れる街、アスンシオンを目指しているんです。 」とお聞きしたが、アカ茶のレンガの色と木々の緑の ハーモニーは大変美しかった。次に、ランバレの丘を目指した。その途中で、水没したカテウラ地区 のスラム街から逃げてきた人々が新たに作ったスラム街をバスの窓から見ることができた。バスで山 道を15分ほどかけて走ると、ランバレの丘に到着した。記念塔の台座に立つランバレ首長の銅像を見 ることができた。さらに進むと、カテウラ地区も一望できた。パラグアイには先進国的な部分もあり、 また川沿いのスラム街に住む人々も存在する。本当に色々な生活が一つの国に混ざりあって存在して いると感じた。きれいに咲き誇るラパチョの木の下で、最後の記念撮影をし、アスンシオン空港へと 向かった。いよいよ本当にパラグアイ研修が終わってしまう。そんな、そわそわした気持ちのまま、 JICA の大石さん、通訳の高橋さんとの別れの時がやってきた。お二人とも心優しく、いつも私たち を気遣ってくれ、支えて頂いた。仕事だとはいえ、パラグアイで活躍する日系人のお二人と心を通じ 合わせながら研修できたことは幸せなことである。空港でチェックインして、税関を通っても、大石 さんと高橋さんは私たちが見えなくなるまで手を振ってくださっていた。 (コラム提供:九里学園高等学校 佐藤 健太) ― 30 ― 3 .実践報告書 ~帰国後の実践授業~ 小 学 校 実践の目的 授業の構成 授業の詳細 実践の成果 課題 関連する学習指導要領の記述 出典 ― 993 ― 高等学校 教科、時間数、対象生徒 中 学 校 実践報告書の構成 千葉 幸恵 パラグアイをとおして自分を、日本をみつめよう 千葉 幸恵 奥州市立稲瀬小学校 養護教諭 教 科 Ⅰ 総合的な学習の時間 2 時間 (TT 指導 T 1 : 5 年生担任 T 2 :養護教諭) 対 象 5 年生 17名 実践の目的 本校児童とパラグアイの子ども達が間接的な交流を図るために、渡航前に「世界に友だちをつ くろう作戦」を展開し、パラグアイのおおよそを紹介する集会を行ったり、絵や手紙、折り紙な どの現地へのプレゼントを募集した。その結果、事前に行ったアンケートでは、 「学校はどんな 様子かな」 「どんな勉強をしているのかな」 「お小遣いはいくらだろう」 「日本のことを知ってい るかな」など、同じ年代の子ども達の生活に関心を示す子が多かった。 そこで、「学校」 「将来の夢」をキーワードとした授業を計画し、パラグアイの子ども達の様子 を伝えるとともに、学ぶことの大切さや未来を切り拓こうとする生き方の重要性に気付かせたい と思った。 物質的にも時間的にも決して充分とはいえない学習環境の中でさえ、自分の夢を持ち、明るく 楽しそうに学校に通うパラグアイの子ども達。その姿を通して、これから自分はどう生きていけ ばいいのか、自分の将来を考えるきっかけになればと思う。 Ⅱ 授業の構成 ○海外研修前 全校朝会や昼休み、放課後など教科指導時間外を利用した。 テーマ・対象 ① 「世界にともだちをつくろう作 「世界にともだちをつくろう作戦」の取り組みと隊員募集 戦」について(全校児童) ② について(全校朝会) 事前学習 1「パラグアイはどん パラグアイの学校や子どもたちの様子を知る。 な国なのだろう」 (隊員希望児童) ③ 学習内容・方法など (前年度参加の先生からいただいた写真をもとにパラグア イについて簡単に紹介) 事前学習 2「ともだちをつくろ ・ スペイン語講座の講師(在日ペルー人)へのインタ う作戦会議」 ( 1 ~ 3 年の隊員) ビュー画像を見る。 世界の人と友だちになるために大切なこと等 ・どうやって「ともだちになりたい」という気持ちを伝え るか具体的な方法を考える。 ― 32 ― 千葉 幸恵 テーマ・対象 ④ 学習内容・方法など 事前学習 3「日本とのかかわり」 東日本大震災の際に届けられた豆腐のエピソード等を ⑤ 知る。 事前アンケート ・パラグアイのイメージは? (隊員) ・事前学習で心に残ったことは? ・パラグアイについてもっと知りたいと思ったことは? ⑥ 折り紙や絵、手紙などの募集 パラグアイの人たちに届けたいプレゼントを考え、作成する。 「夢」や「宝物」など学級ごとにテーマを決め、その言葉 学級紹介写真の作成 を書いた紙を持って一人ひとり写真を撮る。 (全校児童) 夏休みにパラグアイという国に 行ってきます! あった!パラグアイ! 【全校朝会】 【保健室前の掲示】 届けられたお豆腐は約125 万個。岩手県の人口とだ いたい同じだよ。 【事前学習 3 】 スペイン語講師の方のインタビュー画像を紹介 「なぜスペイン語を日本人に教えているのですか」 「稲瀬小の子ども達は世界にともだちをつくろうと いう取り組みを始めましたがどう思いますか」 「世界の色々な国の人と友だちになるために大切な ことはなんですか」 【事前学習 2 】 【地方紙での紹介】 ○海外研修後 対 象 教職員 教 科 時期・時間 テーマ・学習内容など 夏季休業中 海外研修報告会 1 時間 ・研修で見聞きしたこと全般を伝講 ・児童への指導で取り上げたいテーマ・内容を確認しても らう機会とする。 ― 33 ― 小 学 校 ( 4 ~ 6 年の隊員) 千葉 幸恵 対 象 教 科 時期・時間 1 年生 学級活動 8 ~10月 各 1 時間 2 年生 テーマ・学習内容など 「パラグアイってどんなくに?」 位置、気候、町の様子、食べ物、学校の様子、日本とのか かわりなど。 3 年生 特別支援学級 3 年生 国語 9月 12時間 「伝えよう 楽しい学校生活」 ~パラグアイのこと~ グループ毎に興味をもった事項について詳しく調べ、わ かったことを発表し合う。 4 年生 社会 ( 2 月予定)「岩手県と外国のつながり」 2 時間 5 年生 総合 10月 2 時間 6 年生 社会 パラグアイと岩手県のつながり 「夢をかなえるために」 *公開授業 ( 2 月予定)「われら地球市民」 3 時間 ・日系人社会や移住の歴史 ・パラグアイで活動してる日本人 など 学級活動「パラグアイってどんなくに?」の様子 マテちゃ、 ちょっとにがぁい… ~ 1 年生の感想~ にほんのひともたくさんたくさんいて、にほんご がっこうにかよっていることがわかりました。い ちねんせいもいました。にほんのおちゃも、にほ んのらあめんもありました。 【学級通信】 校内教職員への海外研修報告会( 8 月実施) ~メニュー~ ボリボリ ソ パ エンパナーダ ライスプリン マテ茶 パワーポイントで報告 パラグアイ料理で昼食会も一緒に… ― 34 ― 千葉 幸恵 *校外での活動 時期・時間 養護教諭 冬季休業中 (同地区養護教諭) 1 時間 テーマ・学習内容など 海外研修報告会 ・健康教育に関することに重点を置いて伝講 ・養護教諭としての立場からできる国際理解教育 約40名 居住地区民 1月 海外研修報告会 約40名 40分 ・日系人社会と移住の歴史に重点をおいて伝講 養護教諭研修会 自らすすんで学校に出向き、健康教育を実 践している看護師の方を紹介。 「すごいねえ」 「喝!を入れられた気がしま す…」との反応がありました。 Ⅲ 居住地区での講話 移住地での大豆の刈り取り作業の映像に感 嘆の声。大型機械を導入した大規模農業に よってパラグアイの経済を支える日系人の 活躍に日本人のすごさを感じたようです。 授業の詳細 5 年生を対象とした総合的な学習の時間についてのみ記載。 担任が T 1 、養護教諭が T 2 となり、TT 指導で実施した。 …………………………………………………………………………………………………………………… 事前調査:アンケートの実施 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… (1)学校について ①学校(小学校、中学校、高校、大学など)は、 「何のために」あると思いますか。 将来のため(11人) 勉強するため( 5 人) 大人になるため( 3 人) 仕事をするため( 3 人) 夢をかなえるため( 2 人) その他(自分のため 学力を上げるため 友情を深めるため 人とかかわることができるよ うになるため 本を読んで楽しめるように) (2)将来の夢について ①あなたのしょうらいの夢や目標は何ですか。 各種スポーツ選手(水泳、テニス、卓球、バドミントン) ( 4 人) 保育士( 3 人) パティシエ( 2 人) その他(小学校の先生 大工さん 会社員 荷物を運ぶ人 ゲームクリエーター 美容師 漫画家 画家 子どもとやさしく遊んであげられる人) ― 35 ― 小 学 校 対 象 千葉 幸恵 ②しょうらいの夢や目標をかなえるために、必要なことは何だと思いますか。 勉強をしっかりする( 7 人) (なりたい仕事の)練習をする( 7 人) 努力・あきらめない( 3 人) その他(先生の話をしっかり聞く 人の気持ちをしっかり考える 礼儀 すばやく動く 続けること) ③しょうらいの夢や目標をかなえるために、今がんばっていることはありますか。 なりたい仕事に関する練習など(ピアノ、お菓子作りなど) ( 7 人) 勉強( 3 人) いろいろな学年の人たちと仲良くする …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 事前指導・事前学習 …………………………………………………………………………………………………………………… パラグアイの概要(位置や気候、生活の様子等)について学習する授業時間の設定が難しいた め、児童が自主的に調べられるよう環境を整えたり、授業前の 5 分間を活用することとした。 ・パラグアイについて、校内廊下に掲示している資料を見たり、自分で調べるなどして、位置や 気候、生活の様子などについておおよそをつかませる。 ・本時の授業の前に、学習内容にかかわってくると思われる事項について、パワーポイントで簡 単に確認する。 …………………………………………………………………………………………………………………… 1 時限目:パラグアイの学校のようすを知ろう ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… ねらい 日本の子どもたちは、学習環境の整った学校で毎日勉強できることが当たり前だと感じている が、世界にはそうではない国々が数多くある。パラグアイの実態を伝え、決して豊かではなくて も今の生活に幸せを感じ、夢に向かって頑張る姿から、将来の夢を実現するために大切なことは 何なのかを考えさせたい。 段階 導入 学習内容・学習活動 指導上の留意点 1 「学校について」 「将来の夢について」 ・学校は「将来のため」と答えた人が多かった の事前アンケートの結果を聞く。 (T 1 ) が、将来のためとは具体的にどういうことな のか聞く。 2 本時の学習内容を知る。 (T 1 ) パラグアイの学校のようすを知ろう 展開 3 写真(授業のようす)からわかることを ・短冊を10枚配布し、簡潔に書かせる。 グループで話し合い、短冊に書く。 (T 1 ) ・同じ短冊がないか確認し、あったら重ねては ・日本と「同じ」 「違う」という視点に分 けてみる。 らせる。 出された意見をもとに以下 3 点にまとめる。 4 短冊を黒板にはって発表する。 ・教科書は先生用しかない。 5 実際の様子を聞く。 (T 2 ) ・もの(机、ものさし等)が足りない。 ・午前と午後どちらかに登校する。 ― 36 ― 千葉 幸恵 段階 学習内容・学習活動 指導上の留意点 6 自分はどちらの学校に通いたいか理由 ・ 2 、 3 人に聞く程度にする。 7 パラグアイの子ども達のようすを動画 で見る。 (T 2 ) 動画 5 年生の分数のかけ算 動画「家の仕事をすすんでしている」 動画「家族のためになりたい」 終末 8 パラグアイの子ども達に手紙を書く。 ・学習でわかったこと、感じたことだけでなく、 (T 1 ) 自分のことも伝えながら手紙に書かせる。 ・数名に発表させる。 この写真からわかることをたくさん出してみよう 「教室がせまそう」「子ども達がたくさんいるね」 「机が小さい」「教科書やノートがないよ」 「いすにかばんをかけている」 「おかしを持ってきている子もいるよ」 「運動着があるのは同じだ」 高校生にインタビューしてみました(画像) 男 3 人兄弟の長男で す。母親が外で働い ているので、料理や 洗濯などの家の仕事 をやっています。 将来、両親や病気の 妹の面倒をみるため にちゃんとした仕事 (医 師) に つ き た い です。 「将来は歌手になりたい」といい、 ステキな歌声を聞かせてくれた子も いました。 ○学習後のワークシート「パラグアイのみなさんへ」 せまい校舎で630人もの人が勉強していると 聞いてとても驚きました。自分の教科書や物 がなくても一生懸命勉強して家族や人のため になろうとしているパラグアイの人たちがす ごいと思いました。これからも自分の夢をか なえるために頑張ってください。 ( 5 年男子) 午前と午後に分けての授業で、短い時間の中 での授業だから大変そうだなと思いました。 でも私たちと同じように家族のための夢を もっていたり、家族のためにご飯や洗たくな どをしていてすごいなと思いました。パラグ アイの様子を見て色々なことを一生懸命やろ うと思いました。( 5 年女子) ― 37 ― 小 学 校 も含めて考える。 (T 1 ) 千葉 幸恵 …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 2 時限目:カテウラ音楽団の子ども達のようすを知ろう …………………………………………………………………………………………………………………… ねらい カテウラ地区のスラム街の人々は資源ごみの収集で生計を立てている。学校に通わず手伝いを している子ども達も少なくない。そのような現状を改善するために活動する「カテウラ音楽団」 を紹介し、どんな環境にあっても将来に夢を持ち、学んでいこうとする意欲がなにより大切であ ることに気付かせたい。 段階 導入 学習内容・学習活動 指導上の留意点 1 前時の学習をふりかえる(T 1 ) 2 カテウラ地区の写真を見る。 (T 1 ) 写真「川岸の美しい様子」 「水没している町の様子」 カテウラの子ども達のようすを知ろう 展開 3 1 枚の写真から、どんな仕事をして生 活しているのかペアで考える。 (T 1 ) 写真「川の中にいる人たち」 ・ごみの山に気付かないときは、右脇に注目す るよう話す。 4 生活の様子を知る。 (T 2 ) 5 子ども達は学校に通っているか考え ・ごみの山からお金になりそうなものを拾って 生活。一日の収入は2,000グアラニー。日本 る。(T 1 ) 円で50円程度。 (2,000グアラニー札) 6 カテウラ音楽団の活動を知る。 (T 2 ) 写真「子どもの写真」 ・10人中 4 人が中学校を卒業できない。 写真・動画「練習風景」等 ・チャベスさん…子ども達が学校に行けるよう に、人間らしい生活を送ることができるよ うに。 ・世界で注目され、公演の収入が学費などに使 われている。 終末 7 カテウラの子ども達はどんな気持ちで (ワークシート) 楽器を演奏しているか考える。 (T 1 ) ・吹き出しに書き込ませる。 ・全員に発表させたい。 ― 38 ― 千葉 幸恵 授業で使用した写真・動画 小 学 校 【カテウラの町のようす】 【ごみを収集する人たち】 【カテウラ音楽団の練習風景】 【リサイクル楽器】 保健室からの通信( 5 年生の授業の様子を紹介) ― 39 ― 千葉 幸恵 Ⅳ 実践の成果 ・養護教諭という立場を利点として、全校児童を対象として指導を実施した。渡航前に「世界 に友だちをつくろう作戦」を展開したことで、子ども達がパラグアイという国に関心をもち、 事後学習においても積極的に学ぼうとする姿勢が見られた。 ・司書の先生から外国の本を読む子が増えたとの話を聞き、自分の知らない国(こと)に興味 をもつきっかけになったようである。 ・「掃除」「規律」など、パラグアイで大切にされている日本の文化について折に触れ紹介する ことで、あらためて自分たちの生活を見直し、日本のよい点に気付き、継承しようとする態 度を育てる取り組みにもなった。 ・海外研修での学びを、校内だけでなく、養護教諭部会や居住地区などで紹介する機会がもて た。なじみがないと思っていたパラグアイという遠い国が、実は色々な面で日本と深いかか わりがあるということに多くの人たちが驚き、関心を深めていた。特にも養護教諭において は、「他国で頑張るボランティアの方々の活動に感銘を受けた」 「自分も興味があるのだけれ ど…」という反応が多く聞かれ、今後の他校での国際理解教育の推進に期待がもてた。 Ⅴ 課 題 ・研修で得たものを今後も継続して子どもたちに伝えていくためには、国際理解教育の年間計 画をしっかり立てて学校全体で取り組む必要がある。校内で連携を図りながらすすめていき たい。 ・子ども達にとって「生きた教材」であり続けるためには、これからも現地パラグアイとのつ ながりを保ち、協力を得ながら実践していく必要があると考える。 ・現地における健康管理や健康教育、環境衛生などについて紹介し、養護教諭にしかできない 授業実践の構築を図っていきたい。 ― 40 ― 千葉 幸恵 関連する学習指導要領の内容と文言 第 2 各学年の目標及び内容[第 6 学年] ○目標(第 2 章 第 1 節 第 1 ) 横断的・総合的な学習や探求的な学習を通して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主 体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方 を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の生 き方を考えることができるようにする。 ○指導計画の作成と内容の取り扱い(第 4 章 第 1 節(5) ) 学習内容については、学校の実態に応じて、例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの 横断的・総合的な課題についての学習活動、児童の興味・関心に基づく課題についての学習活動、 地域の人々の暮らし、伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題についての学習活動などを 行うこと。 ●出典・参考図書 ・「パラグアイ 赤土に生きる -ラパチョの花咲く原風景-」 (佐藤道子) ・「国際理解教育 実践資料集 ~世界を知ろう!考えよう!」 (JICA) ・「国際教育実践ハンドブック」 (日本国際理解教育学会) ― 41 ― 小 学 校 総合的な学習の時間 近藤 歩樹 「世界で活やくする日本の人々」単元の活動 近藤 歩樹 石巻市立鮎川小学校 教諭 教 科 Ⅰ 第 6 学年社会科( 2 時間) 対 象 第 6 学年 児童 7 名 実践の目的 本校では,緑や海に囲まれた豊かな環境,そして震災の支援等の経験を生かした環境教育,防 災教育,国際理解教育を軸に,持続可能な開発のための教育活動を推進してきた。そして,昨年 度ユネスコスクールへの加盟が決まった。今後は、ESD 活動を防災教育の面でも,国際理解教 育の面でも増やしていく必要がある。震災の時にはさまざまな国や地域から支援があり,今の生 活が成り立っていることを,国際理解教育の観点から子どもたちに伝えていけたらと思ったため である。 また、本校は全校児童26名と小規模の学校である。小規模のよさを活かした教育活動が行われ ており、保護者や地域の人々とのかかわりも深く、学校への協力も大いにある。縦割り班での活 動や全校給食を実施し、高学年のリーダー性を育てるとともに、低学年の児童は高学年の児童を 見本としながら、日々協力してさまざまな活動に取り組んできた。一方で、幼少期から変わらな いメンバーで生活しているため、対外的なコミュニケーション力が課題となっている。そこで、 今回の教師海外研修を通して、児童がなかなかふれる機会のない世界の国々について、少しでも 身近に感じ、児童の視野を広げられたらと感じた。 さらに、教科書ではほんの数ページの内容であるが、教科書の背景にあることや、現地で実際 に体験し、感じたことを私の言葉で子どもたちに伝え、少しでも世界の国々や諸問題に目を向け られる児童が増えてくれればと思ったためである。 Ⅱ 授業の構成 【 6 学年】 1 .授業タイトル「世界で活躍する日本人~わたしたちにもできること~」 2 .授業のねらい 世界で活躍する日本人の存在を知り,国際理解協力についての理解を深める。また,青年海外 協力隊について,実際の活動の様子や活動するに当たっての,思いや考えを写真や映像資料から 捉える。 ― 42 ― 近藤 歩樹 3 .指導過程 次 学習活動 ・ 「世 界 が も し 100 人 の 村 ○世界の国々について知る。 だったら」 ・発展途上国とはどのような国なのかを捉える。 ・JICA 資料「学校に行き ○世界で活躍する日本人について知る。 ・青年海外協力隊はどんな活動を行っているのか,日本はなぜ たい!」 世界に協力しているのか,捉える。 2 ・青年海外協力隊について ○パラグアイについて知る。 (国紹介) ・パラグアイで活躍する青年海外協力隊の方々について知る。 の写真(power point) ・青年海外協力隊が活動していく中で,成功することばかりで ・活動の映像 ・モニター はなく,苦労や葛藤もあることを捉える。 ○自分たちにできる国際協力について考える。 ・文化紹介資料 ・目標をもって日々努力すること。 ・ワークシート ・自他を大切にすること。 ・自分と違う価値観,生活様式,生き方を尊重すること。など Ⅲ 授業の詳細 …………………………………………………………………………………………………………………… 1 .単元名 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 「世界で活やくする日本の人々」 …………………………………………………………………………………………………………………… 2 .本時のねらい ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 世界で活躍する日本人について知る。今の自分たちにできることを考える。 …………………………………………………………………………………………………………………… 3 .指導過程 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 段階 主な学習活動 支援と指導の手立て・評価は囲み 1 海外で活躍する日本人について考 ○スポーツ選手など,児童にとって身近なところ 導入 える。 から考えさせる。 ・スポーツ選手 ・ノーベル賞受賞者 ・医者等 分 5 ○海外で活躍する日本人はなぜ日本で同じことを しないのか,という観点から課題につなげられ るようにする。 展開 分 70 2 青年海外協力隊の活動について ○本時の課題を提示する。 知る。 世界で活躍する日本人について知り,自分にできることを考えよう。 ― 43 ― 小 学 校 1 参考資料 近藤 歩樹 段階 主な学習活動 支援と指導の手立て・評価は囲み ・日本はなぜ国際協力を行っているのか ○ JICA 資料「学校に行きたい」を参考に,日本 を考え,青年海外協力隊の活動の意義 はなぜ世界の国々に協力しているのか考えさ について考える。 せ,青年海外協力隊の活動について知る。 ・技術や知識,経験を他の国のために活かして いる。 ・ボランティアとして,20~39歳までの人たちが 2 年間,世界で活動している。 ・今までに約 3 万人が参加した。 ・職種は,農業・看護・教育・スポーツ等160以 上にもなる。 関 国際協力にかかわる日本の人々の活 動に関心をもっている。 【発言・行動観察】 3 教師海外研修とパラグアイという国 についてつかむ。 ○パラグアイという国について,また教師がなぜ 研修に参加したのかを簡単に紹介する。 (場所, 人々,文化等) ○実際にニャンドゥティやマテ茶に触れさせる。 ・どのような協力隊の方に出会ったの ○特別支援教育の分野で活躍している青年海外協 か,写真を紹介し,どんな活動をして 力隊について,紹介する。 いるのかを想像する。 4 青年海外協力隊の思いを想像する。 ○写真にふきだしをつけ,どんな願いを持って活 動しているのかを想像し,ワークシートに記入 させる。その際に,海外に出発する前の気持ち 等についても触れさせる。 5 青年海外協力隊の話の映像から,感 じたことや思ったことを共有する。 ○活動していく中で,大変なことは何かを考えさ せる。 ○心に残った青年海外協力隊の言葉を付箋に書く よう指示する。 (大変さと喜びという面から, キーワードを抜き出す。 ) ○抜き出したキーワードから,活動することでの 苦労や葛藤があったことを捉えさえる。 ― 44 ― 近藤 歩樹 段階 主な学習活動 支援と指導の手立て・評価は囲み ○それでもなお続けている理由について考えさせ ことを伝える。 ○青年海外協力隊の活動において,共通理解すべ きことを捉えさえる。 ・成果を残そうと焦らないこと ・いなくなった後も,その国に残るもの=「持続 可能な支援」をすることが大切 技 青 年海外協力隊の願いや苦労, 様子について読み取ってまとめ ている。【ワークシート・付箋】 6 今の自分にできることを考える。 ○私たちの食べ残しや無駄遣いによって困る人が いるということにも気付かせる。 ○すぐに答えが出せなくてもよいことを伝える。 ○今すぐに世界に行けるわけではない…自分たち にできる国際協力について考える。 まとめ 分 15 ・目標をもって日々努力すること。 ・自他を大切にすること。 ・自分と違う価値観,生活様式,生き方を尊重す ること。等 ○今できることを精一杯行うことが大事であるこ とを捉えさせる。 ・青年海外協力隊の方がすぐに成果を求めないの と一緒で,今行っていることは何年後の未来に 役立つこと。 …………………………………………………………………………………………………………………… 4 .パワーポイント資料(一部抜粋) ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… ― 45 ― 小 学 校 る。できなければやめるのか?→そうではない 近藤 歩樹 …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 5 .児童の感想(今の自分にできること、これからやってみたいこと) …………………………………………………………………………………………………………………… 「みんなの前で恥ずかしがらずに話して、いろ いろなことを伝えたい。募金をして、つらい国を 助けたい。」 「将来は、青年海外協力隊の方のように、その 国に残るものを伝えたいと思った。 」 「家の手伝いとかなら、今からでもできると 思った。」 「勉強をしたくてもできない人がいるからちゃ んとしないと、と思った。 」 「自分の周り、できる範囲のことや、目の前にあること、やらなければいけないことをしたい と思う。」 「募金をする。また、ご飯を食べられない子どもたちがいるから残さずご飯を食べる。 」 「将来、青年海外協力隊など、世界に出る機会があったらぜひ参加したい。 」 「他の人と交流をして、元気を届ける。やりたいと思ったことは、あきらめないでやり遂げる。」 Ⅳ 実践の成果 教科書だけでは伝わりにくいことを、実際に現地で得た教材をもとに授業ができ、子どもた ちも興味をもって熱心に授業に取り組んでいた。また、現地で活躍する青年海外協力隊の足立 さんの映像を見せると、遠い国パラグアイでもとても身近に感じられたようだった。 子どもたちの中では「海外で活躍する日本人」というと、スポーツ選手や歌手、ノーベル賞 受賞者など、 「すごい人」というイメージがあるが、海外で活躍する人は決して成功している 人ばかりではなく、そこには苦労や葛藤もあることを学ぶことができたようだった。感想から は、「目の前のこと、やらなければいけないことをしっかりとやりたい」など、自分の生活を 見直したり、これからやりたいことを考えたりするきっかけとなったようだ。社会科の授業で 行ったが、キャリア教育の面でも、 6 年生に向けてこの授業ができたことは大きい成果だと感 じた。 ― 46 ― 近藤 歩樹 Ⅴ 課 題 や手紙等で、児童が直接足立さんと接する場面を作れればさらによかった。また、今回の 6 学 年での授業では、 2 時間と限られた時間であったため、一方的に伝えるだけの場面が多くなっ てしまった。7 名という少ない人数であるため、体験やゲーム等を取り入れられればよかった。 国際理解教育の授業は今回初めての実践であり、模索しながらであったが、今回の研修を活 かし、今後も授業作りに挑戦し国際理解教育の推進に携わっていきたい。 関連する学習指導要領の内容と文言 小学校学習指導要領 第 2 章 第 2 節 社会 第 2 各学年の目標及び内容[第 6 学年] 1 目標(2) 日常生活における政治の働きと我が国の政治の考え方及び我が国と関係の深い国の生活や国 際社会における我が国の役割を理解できるようにし、平和を願う日本人として世界の国々の 人々と共に生きていくことが大切であることを自覚できるようにする。 2 内容(3) 世界の中の日本の役割について、次のことを調査したり地図や地球儀、資料などを活用した りして調べ、外国の人々と共に生きていくためには異なる文化や習慣を理解し合うことが大切 であること、世界平和の大切さと我が国が世界において重要な役割を果たしていることを考え られるようにする。 ア 我が国と経済や文化などの面でつながりが深い国の人々の生活の様子 イ 我が国の国際交流や国際協力の様子及び平和な国際社会の実現に努力している国際連合の 働き 3 内容の取扱い(3) 内容の(3)については、次のとおり取り扱うものとする。 ア アについては、我が国とつながりが深い国から数カ国を取り上げること。その際、それら の中から児童が一カ国を選択して調べるよう配慮し、様々な外国の文化を具体的に理解でき るようにするとともに、我が国や諸外国の伝統や文化を尊重しようとする態度を養うこと。 イ イの「国際交流」については、スポーツ、文化の中から「国際協力」については教育、医 学、農業などの分野で世界に貢献している事例の中から、それぞれ選択して取り上げ、国際 社会における我が国の役割を具体的に考えるようにすること。 ●出典・参考図書 ・「学校に行きたい!」 (JICA 資料) ・「国際理解教育ハンドブック」 (日本国際理解教育学会) ・「世界がもし100人の村だったら」 ― 47 ― 小 学 校 足立さんの映像によって、児童にとって青年海外協力隊が身近な存在となったが、スカイプ 進藤 千枝 共に支え合う世界を造ろう 進藤 千枝 仙台市立長町中学校 教諭/社会 教 科 Ⅰ 社会科 7 時間 対 象 1 年生 4 クラス 128名 実践の目的 現代社会は,世界各国とつながらず生活していくことは不可能に近い。世界の出来事は,ネッ トを通して瞬時に伝わる。身の回りを見渡しても, 「MADE IN ○○○○」と明記されているも のが多い。 人は,生まれる国や地域・生まれる時を選択できない。生まれた国や地域によっては,苦難な 人生を歩まなければならないこともある。生まれた国や地域が,人生を困難なものにしてはなら ない。常日頃から考えていることである。しかし,残念なことに生まれた国や地域が人の人生を 左右する出来事がいまだに多い。 社会科の教員として「世界に目を向ける」こと, 「今の世界の現状をありのままに見つめるこ と」「少しでもお互いの幸福につながることを考えられること」を念頭に授業を実践してきた。 今回,幸運にも途上国の一つであるパラグアイを訪問する機会をいただけた。途上国の現状を 実際にフィールドワークすることができる。 五感で感じてきた途上国の現状を自分の言葉で語り, 実践授業につなげていきたいと考えた。 Ⅱ 授業の構成 前時授業 世界の自然環境 世界の人々の暮らし(衣服 ・ 食事・住居)をフォトランゲージで実施 日本と世界の国々の共通点相違点を学習した。 帰国後 6 時間構成 時間 テーマ 1 多様な自然環境 ねらい・内容 ・南アメリカ州を大観させる。 その他 地図 写真 ・ 生活や産業の特色を雨温図や写真から考察さ 雨温図 教科書 せる。 【単元を貫く課題】多文化理解を通して,世界と日本 とのつながりを考える ― 48 ― 地図帳 進藤 千枝 時間 2 テーマ ねらい・内容 その他 ・ 地域形成の過程や独自文化形成の過程を考察 実物資料 歴史と文化 写真 VTR する。 ・スペイン,ポルトガルや先住民,アフリカ系の グループワーク 人々の文化が融合され,形成された南アメリカ州 教科書 の文化の特色を考察させる。 地図帳 3 変化する農業と 工業 ・ 産 物 の 多 様 化 す る こ と の 重 要 性 を, モ ノ カ ル コーヒー豆 チャー経済との関係から考察させる。 ・農作物のルーツから多文化についての理解を深 途上国の課題を 知ろう 5 ・ 途上国の現状と抱えている問題について考察 パワーポイント資料 する。 南米と日本との つながりを知ろ キャッサバの写真 教科書 地図帳 める。 4 大豆 グループワーク ・日本と南米とのつながり,日本人移民や青年海外 写真 協力隊員の活躍を通して理解させる。 インタビューの VTR ・パラグアイを通して,日本と同じところ違うとこ グループワーク う ろ,途上国の課題を考察する。 6 支え合う世界を ・私たちができることを考察する。 作るために必要 ・これからどのようにお互いに支え合っていくこと なことを考える Ⅲ グループワーク が人々の幸福につながるか,考える。 授業の詳細 1 時間目から 3 時間目までは,社会科の授業として実践。 4 時間目以降が国際理解教育として 実践。 …………………………………………………………………………………………………………………… 4 時間目 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 学習テーマ 「途上国の課題を知ろう」 学習のねらい:①途上国の分布を知る。 ②途上国の抱えている課題について理解する。 資料:写真(途上国の現状 パラグアイのスラム街など) 過程 つかむ 主な学習活動 途上国の分布を知る。 5分 広げる・ 深める 35分 指導上の留意点 備考 どの州に多いか,なぜその州なのか考 パワーポイント える。 途上国にはどのような課題が グローバルイシューへの理解を図る。 パワーポイント あるか,考える。 グループワークを通して,課題を考察 グループワーク 個人⇒グループワーク⇒全体 する。 で共有 ― 49 ― 中 学 校 ・日本人移民の歴史を理解する。 進藤 千枝 過程 まとめ 10分 主な学習活動 授業の振り返り 指導上の留意点 備考 感想を記入する。 感想発表 *使用した資料(抜粋) *生徒の感想(抜粋) ・私たちの暮らしでは,考えられないような生活を送っている国々について考えました。こう いった国々には,何がたりないのか,他の人の意見を聞くことで,色々な考えを深めることが できました。同時に私たちは,そういった人々に何ができるのだろうかと考えました。 ・支援すれば解決するという分けではないかもしれないが,支援によって少しは改善することは できるのではないでしょうか? ・途上国について,考えてみました。私たちは,当たり前にご飯を食べたりしたいことができる けれど,途上国の人々は当たり前のことが当たり前にできないのだから私たちは,ご飯を残さ ずありがたく何でもしなければならないのだな,と思いました。少しでも途上国の人々の役に 立てる存在になれたら世界中の一員として嬉しい。 ・途上国の問題を今のうちに解決して世界の人々がよい暮らしができるようにしていくことが大 事だと考えた。 ・途上国の問題を解決するために,先進国の技術指導などが必要ではないかと想います。 ・支援が必要。支援で色々なことにつながっていくと思う。 ・色々な意見を聞き,知識の幅が広まっているな,と思いました。日本とは違う国に目を向けて 見ることも大切だと思いました。 ・途上国の問題を解決するには,途上国の人々も頑張らないといけないのではないかと感じま した。 ― 50 ― 進藤 千枝 …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 5 時間目 …………………………………………………………………………………………………………………… 学習テーマ 「南米と日本とのつながりを知ろう」 学習のねらい:①日系移民の歴史を知る。 ②青年海外協力隊員,シニアボランテイアの方のお話を通して,協力のあり方 を知る。 資料:青年海外協力隊員の方のインタビュー映像 日系移民の方の映像 過程 つかむ 主な学習活動 前時までの復習 指導上の留意点 途上国の課題について再確認する。 5分 広げる・ 深める 35分 VTR JICA の仕事の紹介 JICA の仕事には,深入りしない 日系移民・青年海外協力隊員 インタビュー映像には,コメントせず フォトランゲー の方インタビュー映像視聴 生徒の感想を聞く。 違点を知る 授業の感想記入 ジ グループワーク パラグアイと日本の共通点相 10分 時間をかけすぎ ない。 パラグアイの中学生の映像 まとめ 備考 4 ~ 5 人に感想発表 感想発表 次時の予告 *使用した資料(抜粋) ― 51 ― 中 学 校 JICA 専門家の方の映像 進藤 千枝 *生徒の感想(抜粋) ・「支援」は,上から目線だと思いました。 「支援」ではなく, 「協力」 「応援」をしていかなけれ ばならないと思いました。 「支え合い」生きていかなければならないと思いました。 ・最初は支援が必要と考えましたが, 「支え合い」が必要だと思いました。 ・必要な事は,支援ではないということがわかりました。 ・私は,途上国に住む人々が「可哀想だ。 」と思いました。でも,それを解決しようとする「志」 「前向きなコメント」などにその努力や姿勢を知らない私たちのような日本人が,可哀想に思 いました。私たちに, 「何ができるのか?」をもう一度考えていきたいです。 ・パラグアイの子供たちの夢は,”自分の国を良くすること”だと言っていてすごいなあと思い ました。「貧しい」や「支援が必要」などとは思っていませんでした。 ・途上国だからといって,支援がすべてという訳ではないと思いました。パラグアイは,自分の 事より他の人の事を考えて動ける,とても暖かい国です。 ・複雑な気持ちになった。彼らに不足している物は, 「何なのか?」わからなくなり気持もわか らなかった。日本人から見れば,「可哀想」「貧しい」と思う。実際は,違うかもしれないと 思った。 ・途上国に住む人たちに本当は, 「何が必要なのか?」わからなくなりました。 東日本大震災の時, 日本に支援してくれていてビックリしました。 ・「貧しくて可哀想だな。 」と思っていました。だから”支援”が必要ではないかと思っていまし た。でも, 「私たちに何か,できることはないか?」と考えました。 ・途上国は, “貧しい”と思いましたが,これは日本と同じで,国の発展の違いで「人々の感じ 方は,同じ」なんだ,と思いました。 ― 52 ― 進藤 千枝 ・私たちが考えているより,はるかに“前向き”だと思いました。 ・「支援が必要」と勘違いしていたことがわかりました。 ・先進国に住んでいますが,いろいろな事が“当たり前”ではない国に住む人々がいますが, 「支 え合い」ながら生きていければよいと思います。 ・必要なのは, 「支え合い」であると思いました。 学習テーマ 「共に支え合う世界を造ろう」 学習のねらい:①これからの他国との関わり方を考える。 ②共に支え合う世界を造るために必要な事は何かを考える。 資料:前時までのパワーポイント資料 「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」 くさばよしみ編 汐文社刊 過程 つかむ 5分 主な学習活動 既習事項の確認 指導上の留意点 備考 あまり時間をかけすぎない PC ・途上国,先進国のそれぞれの立場か 4 人組の班編成 パラグアイからのお手紙紹介 各集課題の確認 広げる・ 深める 35分 個人でワークシート記入。 個人⇒グループワーク⇒発表 ⇒意見交換(全体で共有) 班で発表されたことを,全体 ら考えるようにする。 ・ 発 表 の 際 は, キ ー ワ ー ド で ま と める。 で話し合う。 まとめ 「世界でいちばん貧しい国の 10分 大統領のスピーチ」を聞く 時間があれば,生徒( 2 ~ 3 名)に感 想を発表させる。 感想記入 *ワークシート 課題 共に支え合う世界を造るために「何が必要か」 「できることは何か」考えよう。 1 個人の考え 途上国の立場から 日本の立場から 2 班で考えをまとめよう 途上国の立場から 日本の立場から 3 いちばん重要な事はなんだろう? 途上国の立場から 日本の立場から ― 53 ― 中 学 校 …………………………………………………………………………………………………………………… 6 時間目 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 進藤 千枝 *生徒の考えたできること 途上国側から 先進国(日本)側から ・夢を叶える施設 ・技術 ・環境をよくする ・学校 ・食べ物や衣服 ・学校 ・貿易 ・技術 *生徒の感想(抜粋) ・途上国の子供たちは,国の発展のために夢を持って勉強していたので,先進国はその夢を応援 しそれを手助けできるものを提供することが大切だと思いました。 ・一方的に先進国が支援するのではないことも大切だと思いました。 ・日本と途上国がどのように関わっていけばいいのか,わかりました。日本と途上国がともに支 え合ってほしいと思いました。 ・支え合いについて話し合いましたが, 「絶対にこれなんだ!」という考えはありませんでした。 これからの日本を担う私たちが一生かけて考え,解決していくべき問題でもあるのではないか と思いました。日本,また世界に住む一人の人としてこれからの社会に貢献していきたいです。 ・支え合うために,これはよいかと考えて必要なことは多くあるということがわかりました。国 のために 1 つでも自分にできればよいと思いました。 ・なぜ答えが一つではないか,というのがよくわかりました。答えは,わかりません。何でもお こなってみないと進まないのが普通なので,実行することが必要だと思いました。お互い支え 合いよい方向に向かって行きたいです。 ・助けあうために必要なものもあるし,不要なものもあることを学べました。 「助け合う」ため には相手の国を思いやって行動することが大切だと思いました。 ・途上国の立場として考えると日本が思っている部分とは違うこところもあった。お互い不足し ている部分を補いあうということも支え合うために必要だと思った。 ・「答えは, 1 つでではないからといって何もしなくていいのか?」という問いに共感しました。 答えがなくても何かを始めることによって少しでも「良くしよう」という考えが大切なのだと 気づきました。 ・最初は,支援でいいかと思ったが,日本にも足りないことがあると気づいた。 ・一方的な支援は上から目線だと思った。途上国にとって何が必要かわからない。全部必要だっ たり,全部外れだったりするかもしれない。少しずつでもいいから途上国のために努力すれば, いつか実をつけると考えました。 ・途上国と先進国との関係は,一方的ではいけないと思った。なぜならそれでは先進国が上で途 上国が下になるからだ。一国の立場は全部公平であるから互いに支え合い良いところ悪いとこ ろに気づきながら一歩ずつ進んでいくことが大事なのかなと思いました。 ・互いに補い合っていくことが大切だということがわかりました。どちらもどっちが上というこ とではなく意見をいいあってよりよい改善ができるといいです。 ・個人的には,日本からの技術協力や応援が必要だと思います。途上国には学校が必要だと思い ました。学ぶことで,国のためにいろいろできると思うからです。 ・たとえ答えがわからなくても,とりあえず行動してみてだめだったら,また別な方法を考えて ― 54 ― 進藤 千枝 いければ良いと思いました。そうやっていくうちに答えにたどりつくことができたら良い世界 になれるはずです。 ・この時間の学習は,とても大切なものだと思った。 *授業の様子 中 学 校 Ⅳ 実践の成果 3 時間という,短い時間の扱いであったが生徒の思考が,確実に変容していることがわかっ た。「支援」が上から目線であるということ,答えは一つではないということがわかったとい う生徒の感想が何よりの成果であると思う。また, 「学級全体で一つの問題にじっくり考える ことができた。 」 「大切な一時間になった。 」という生徒の思いも成果のひとつであるといえる。 教科指導の中で,十分な授業時間を確保できなかった中で,大きな成果を上げることはでき なかったが,何かを考えるきっかけになったことは,間違いないと思う。 全教科や全領域の中に国際理解教育という分野がないことが残念だが,工夫次第では教科の 中に教材を見つけ“国際理解教育”を入れ込んでいけると思った。 何よりも,生徒がグローバル・イシューや遠いパラグアイに生きる人々を身近な人々と感じ ることができるようになったのが一番の成果であると思う。 Ⅴ 課 題 担当教科が社会科ということから,国際理解教育を教科の中に取り入れやすいとう強みは ある。 ― 55 ― 進藤 千枝 地理的分野では, 「世界地理」は異文化理解や多文化共生は,授業テーマとして実践授業が しやすい。 公民的分野では, 「国際協力」 「国際貢献」 「持続可能な社会」がテーマとして授業実践がで きる。しかし, 「国際理解教育」という教科がないためになかなか,授業実践への理解が得ら れないのが実情だ。 「シラバスにない。 」という理由で協力を得られないことも多かった。国際 理解教育を授業で実施するのであれば,年度当初作成するシラバスに入れ込むことが大事だと 思う。 また,中・高校では,考査や受験との兼ね合いで,国際理解教育の授業時間を確保すること が難しい。今回は,教科書の発展的学習の一環として実施したが,時間数に限りがあり,深め たいことが深めることができなかった。 教員間の温度差もまた,課題の一つだ。 「国際理解教育」は,英語科の仕事で,他教科の教 員は関係ないと考えている教員が多いのが実情だ。全教科・全領域で実施することができるこ とを啓蒙することも大切な事であろう。 「国際理解教育」は,何よりも持続していくことが大事だ。パラグアイを教えるのではなく, パラグアイを通して,途上国の現状を把握し,グローバルイシューへのアクションを考えさせ ることをこれからも継続していきたい。持続可能な世界の形成を担っていく生徒をこれからも 育てていきたい。 “グローバルイシュー”への理解を基礎に,クリテイカルシンキング・ロジ カルシンキングができ,英語で発信できる生徒を育成することができたら,幸いだ。 学校全体で全教科・全領域で取り組むことができたならば,なおよいと思う。 関連する学習指導要領の内容と文言 平成20年 3 月告示 中学校 第 2 節 社会 第 1 目標 「広い視野に立って,社会に対する関心を高め,諸資料に基づいて多面的・多角的に考察し, 我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め,公民としての基礎的教養を養い,国際社会に生 きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質を養う。 第 2 各分野の目標および内容 [地理的分野] 1 目標 (1)日本や世界の地理的事象に対する関心を高め,広い視野に立って我が国の国土および世界 の諸地域の地域的特色を考察し理解させ,地理的な見方や考え方の基礎を培い,我が国の国 土及び世界の諸地域に関する地理的認識を養う。 (2)日本や世界の地域の諸現象を位置や空間的な広がりとのかかわりでとらえ,それを地域の 規模に応じて環境条件や人間の営みなどと関連付けて考察し,地域的特色や地域の課題とし てとらえさせる。 (3)大小様々な地域から成り立っている日本や世界の諸地域を比較し関連付けて,考察し、そ れらの地域は,相互に関係しあっていることや各地域の特色には,地方的特殊性と一般的共 ― 56 ― 進藤 千枝 通性がること,また,それらは諸条件の変化などに伴って変容していることを理解させる。 [公民的分野] 1 目標 (3)国際的な相互依存関係の深まりの中で,世界平和の実現と人類の福祉の増大のために,各 国が相互に主権を尊重し,各国民が協力し合うことが重要であることを認識させるととも に,自国を愛し,その平和と繁栄を図ることが大切であることを自覚させる。 (1)私たちと国際社会の諸課題 ア 世界平和と人類の福祉の増大 世界平和の実現と人類の福祉の増大のためには,国際拠丁の観点から,国家間の相互の主 権の尊重と協力,各国民の相互理解と協力及び国際連合をはじめとする国際機構などの役割 が大切であることを認識させ,国際社会における我が国の役割について考えさせる。 その際,日本国憲法の平和主義について理解を深め,我が国の安全と防衛及び国際貢献に ついて考えさせるとともに,核兵器などの脅威に着目させ,戦争を防止し,世界平和を確立 するための熱意と協力の態度を育てる。また,地球環境,資源・エネルギー,貧困などの解 決のために,経済的,技術的な協力などが大切であることを理解させる。 イ よりよい社会を目指して 持続可能な社会を形成するという観点から,私たちがよりよい社会を築いていくために解 すべき課題を探求させ,自分の考えをまとめさせる。 第 4 章 総合的な学習の時間 第 1 目標 横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主 体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え方 を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生 き方を考えることができるようにする。 ●出典・参考図書 ・学習指導要領(文部科学省) ・「世界でいちばん貧しい国の大統領のスピーチ」くさばよしみ編(汐文社刊) ・「国際教育ハンドブック」日本国際理解教育学会編(明石書店) ・「開発教育実践ハンドブック」参加型学習で世界を感じる 改訂版(開発教育協会発行) ・「国際理解教育実践資料集」 (JICA 地球ひろば) ・「われら新世界に参加す」 (海外移住資料館) ・「パラグアイを知るための50章」田島久蔵 武田和久編著(明石書店) ・「遙かなる地球の裏側に夢を馳せた人々」仙道 富士郎編(山形大学出版会) ― 57 ― 中 学 校 2 内容 金塚 元 ボランティアについて考える~50日間のボランティア活動~ 金塚 元 多賀城市立多賀城中学校 教諭/数学 教 科 Ⅰ 総合的な学習の時間 6 時間 対 象 3年3組 男18名 女17名 計35名 実践の目的 今回実践授業を行うにあたって,私自身が研修を通して感じ,考えてきた過程を,実際にパラ グアイ等発展途上国に行ったことがない生徒に追体験させ,新たな価値観,視点をもたせたいと 考えていた。 本授業では,ボランティア活動について考えることに重点を置いた。第 1 のねらいは,国際協 力や海外ボランティアに興味・関心をもたせることである。第 2 のねらいは,ボランティア活動 について理解させることである。第 3 のねらいは,支援のあり方について考えようとする態度を 身に付けさせることである。第 4 のねらいは,支援について正しい方法や意義が判断できる力を 養うことである。また,本授業を自身も国際社会に寄与しようと考えたり,ボランティアに参加 しようと考えたりするきっかけとしたかった。 Ⅱ 授業の構成 【第 1 ・ 2 時】ボランティア活動について考えよう 【第 3 ~ 6 時】50日間のボランティア活動 時数 1 授業の概要 ねらい ・ パ ラ グ ア イ に 興 味・ 関 心 を も た ( 3 ~ 4 人のグループワーク) ①パラグアイの写真でフォトランゲージを行う。 せる。 ・国際協力・ボランティアに興味・関 ②写真を見て気付いたことを挙げる。 ③写真の場所に自分たちが派遣されるとしたら,ど 心をもたせる。 のようなボランティア活動ができるか考える。 2 ・実際に活躍しているボランティアの (一斉,個) ①パラグアイについて知る。 活動について理解し,支援のあり方 ②パラグアイで活躍するボランティアの活動内容 について考えようとする態度を身に 付けさせる。 や.エピソードを聞く。 ③ボランティアの方々が大切にしていることについ て考える。 ④前時で扱った写真について詳細を確認する。 ( 3 ~ 4 人のグループワーク) ― 58 ― 金塚 元 時数 授業の概要 ねらい ⑤前時で考えたボランティア活動について再検討 する。 3 ①活動計画書の下書きの作成 て,支援のあり方について考えよう ②活動日程表の作成 とする態度を身に付けさせる。 ・活動計画書を作成する活動を通し ③活動資金計画の作成 ④活動計画書の清書の作成 て,ボランティアが行う支援のあり ⑤発表準備 方について考え,支援の正しい方法 や意義が判断できる力を養う。 5 ・他チームの発表を聞き,自己評価, (ポスターセッション) ①50日間のボランティア活動の活動計画について発 の正しい方法や意義が判断できる力 表する。 6 他の活動の評価を行うことで,支援 ②他の班の発表を聞き活動の評価を行う。 を養う。 ③振り返りで自己評価と今回の授業を通しての感想 を記入する。 Ⅲ 授業の詳細 …………………………………………………………………………………………………………………… 第 1 時 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 第 1 時では,パラグアイの写真を教材とし,興味・ 関心を持たせようとした。また,どのようなボラン ティア活動ができるかを考える際には,次時でボラン ティア活動における大切なことについて自身で気付 き,活動の再検討ができるよう,あえて全く知識のな い状態で考えさせた。 各グループに場所の異なる 4 枚の写真を配り,同じ 場所・地域で撮影したと思われる写真を 4 枚集める活 動を行った(図 1 参照) 。共通点が見 つけられる写真,それとは逆に大きな ギャップの感じられる写真も混ぜた。 また,パラグアイの実状や課題が見や すいよう写真を選んだ。日本と大きく 異なる風景が写っている写真に,多く の生徒が興味・関心をもち,様々な気 付きがあった。その気付きをもとに, どのようなボランティア活動を行うか を考えた際には, 「ゴミ拾い」 「食べ物 を渡す」「募金を集める」といったものが多かった。 ― 59 ― 図1 中 学 校 4 ・活動計画書を作成する活動を通し ( 3 ~ 4 人のグループワーク) 金塚 元 …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 第 2 時 …………………………………………………………………………………………………………………… 第 2 時では,まずパラグアイの現状や詳細なデータ を写真などを見ながら確認した。そして実際に活躍し ているボランティアの活動内容やエピソードを紹介 し,ボランティア活動を行う上で大切なことについて 考えさせ,生徒の意見を全体で共有した。また,再度, 写真に写っているものや,その地域の現状をより詳し く確認し,前時に考えた活動を振り返り,再検討した。 〔生徒が考えたボランティア活動を行う上で大切なこと〕 ・その時だけ問題が解決されるのではなく,支援がなくなってもそれが生かされ継続されるよう な活動をすること。 ・今までなかった習慣をどうやって習慣化するか。 ・国,地域,人の自立を促す。 ・人を思う気持ち,地域をよくしたいという強い意志。 ・その国について知り,相手の求めていることを理解すること。 ・子ども達に多くの事を教えること。 など …………………………………………………………………………………………………………………… 第 3 ・ 4 時 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 「50日間のボランティア活動」と題して,写真の場所に自分たちがボランティアとして派遣さ れるとしたら,50日間でどのような活動を行うか具体的に考えさせる活動を行った。可能な限り リアリティーをもたせられるようにした。 ― 60 ― 金塚 元 〔生徒の作成物〕 活動計画書下書き:プロジェクト名,プロジェクトメンバーと役職,活動場所,派遣先の現状, 活動内容,活動の目的,活動の動機,誰のために行うか,活動の効果の予想,活動の評価方法と いった10の項目について詳細に記入させた。 中 学 校 活動計画書下書き 活動日程表:2016年 4 月 4 日~2016年 5 月23日まで活動を行うと仮定して,50日分の活動日程 を作成させた。基本的に土日祝日は休みとして,土日祝日に活動を行う場合には振替休日をとるこ とや,自分たちの活動の成果を評価するための期間を50日間の中で設けることをルールとした。 活動日程表 ― 61 ― 金塚 元 活動資金計画:購入する物について,単価,個数,合計金額, 用途,そして総額を記入させた。人件費や使うであろう物品の 価格を載せた価格表を事前に配付した。載っていない物につい ては,購入したい物をリストアップして教師に渡すようにし, 再度調べてから価格表に追加した物を配付した。 活動計画書清書:模造紙 1 枚に作成させた。様式は特に設け なかったが,写真などを貼り見やすい物になるよう,レイアウ ト等考えさせた。 その他:活動の中で使いたいポスターやチラシなどのデザイ ンを考え,実際に作成したグループもあった。 資金計画書 …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 第 5 ・ 6 時 …………………………………………………………………………………………………………………… 発表はポスターセッションで行った。活動計画書の清書を貼り付け,各グループが発表を 行った。 〔生徒が考え発表した活動〕 ・小規模農業によるスラムの人々の自立支援 ・水害多発地域での防災マップの作成及び環境整備 ・小学校における,教師,子ども,親,地域を対象とした食育指導 ― 62 ― 金塚 元 ・ゴミ処理の習慣化の指導による環境改善 ・緑化活動及び公園整備 ・日系居住区における生け花指導 など また,生徒は他の班の活動について評価を 行った。評価ついては「持続可能な支援になっ 中 学 校 ているか」「相手の立場に立って考えているか」 「実現できそうか」 「効果は期待できるか」の 4 観点に加えて, 「良い点」 「課題点,疑問点」に ついて自由記述させるようにした。また自己評 価,授業を通しての感想を記入させた。 評価シート 〔生徒の自己評価〕 A,B,C,D,E の 5 段階評価で A が 「できた」,C が「普通」 ,E が「できなかった」 ※数値の単位はすべて% 観点 A B C D E 国際協力やボランティアについて興味・関心をもつことができましたか。 75 19 6 0 0 ボランティア活動で大切なことについて考えることができましたか。 91 9 0 0 0 ボランティア活動を行う上で大切なことは理解できましたか。 78 19 3 0 0 50日間のボランティア活動では主体的に考えることができましたか。 56 31 13 0 0 他の班の発表を聞いて,客観的に評価することができましたか。 63 37 0 0 0 56 41 3 0 0 他の班の発表を聞いて,ボランティア活動のあり方が正しいかどうか判 断することができましたか。 〔授業後の生徒の感想〕 ・今までボランティアなんて必要ないと思っていたのですが考えがすべて変わりました。ボラン ティア活動はやりがいがあり,現地にいる人の役に立つ素晴らしい活動だと思いました。 ・今できるボランティアを自分からやっていこうと思いました。 ・自分たちにできることは確かに限られているけど,本当は沢山あったのではないかという考え 方に変化していきました。将来,日本でも良いからボランティア活動を行う仕事に就きたいと 具体的に考えるようになりました。 ・計画を立ててみると,色々なことを深く考えなければいけなくて大変でした。本当にボラン ティアをしている人達は,私達の何倍も大変で何倍も難しいことをしているのだと,今回を きっかけに知りました。 ・ボランティアの活動のことを知りたい気持ちが大きくなりました。 ・ボランティアは誰かのために,何度も何度も計画を練って,より良いものにしようと頑張って いる人がいるからこそ実現できると思いました。また,そういう人達のためにボランティアに 協力することの大切さもわかりました。 ― 63 ― 金塚 元 ・日本という限られた場所で育った私は,これからもっと視野を広げていくべきだと思いまし た。将来このようなボランティア活動に参加していきたいと思います。そして今回の授業のよ うに未来の子ども達に伝えていきたいと思います。 など 〔生徒が作成した活動計画書〕 ― 64 ― 金塚 元 Ⅳ 実践の成果 ・写真を使うことで興味・関心をもたせることができた。 ・生徒が主体的に考え,活動していく中で様々なことに気付きボランティアについての考えを 深めさせることができた。 ・生徒の意見を授業ごとに書かせることで,考えが次第に深まり,生徒のボランティアに対す ・ボランティアに興味・関心をもち,将来ボランティアに参加したいと考えるようになった生 徒が多かった。 ・自己評価,他者評価をしっかり記述させることで,ねらいがどの程度達成できたか具体的に 把握することができた。 Ⅴ 課 題 ・リアリティーを求めても仮定の話にしかならないので,中学生の内に実践に結びつけること は難しい。 ・実際には,50日間の活動では持続可能な支援を行うことは難しい。 ・発表の仕方に工夫が必要であった。 ・教師側の準備も生徒の準備も多くの時間を要する。 ・教材化するにはもう少し内容をスリムにする必要がある。 関連する学習指導要領の内容と文言 第 1 目標 横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主 体的に判断し,より良く問題を解決する資質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え方 を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態や度を育て,自己の 生き方を考えることができるようにする。 1 指導計画の作成に当たっての配慮事項 (5)学習活動については,学習の実態に応じて,例えば国際理解,情報,環境,福祉健康など 横断的・総合的な課題についての学習活動,地域や学校の特色に応じた課題についての学習 活動,職業や自己の将来に関する学習活動などを行うこと。 2 内容の取り扱いについての配慮事項 (2)問題の解決や探究活動の過程においては,他者と協同して問題を解決しようとする学習活 動や,言語により分析し,まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるようにする。 ― 65 ― 中 学 校 る考え方が変容していく様子がよく見て取れた。 佐々木 りえ 国際理解教育~地球市民の一員としてできることを考える~ 佐々木 りえ 富谷町立富谷中学校 教諭/美術 教 科 Ⅰ 総合的な学習の時間および道徳 対 象 ( 5 時間) 1 年生 男41名 女40名 計81名 実践の目的 交通手段の発達や情報化が進む中で,経済,社会,文化等の様々な面で国際交流が進展し,国 際的な相互依存関係はますます深まっている。また,地球環境問題,エネルギー問題,人口問題, 難民問題など地球規模の問題が深刻化し,これらの問題の解決に当たっては,国際的な協調が不 可欠となっている。こうした状況を踏まえ,教育の分野においても,地球環境問題への対応や, 科学技術や文化の面などで,今後一層積極的に国際社会に対して貢献し,世界の安定と発展に寄 与していく資質や能力を養うことが求められている。教育基本法第 2 条第 5 号及び学校教育法第 21条第 3 号においても, 「他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。」と する目標が示されている。よって,世界に生きる一人という自覚をもたせ,国際社会の平和と発 展に寄与する心情もたせることが重要だといえる。国と国とが支え合うことの大切さや,ボラン ティアの人々の活躍を伝えることで,生徒の進路選択の幅を広げ,よりよい生き方を求める意識 を高めることを目的とし,授業実践を行った。また,中央教育審議会 第一次答申「21世紀をし た我が国の教育の在り方について」 (平成 8 年 7 月)の第 3 部第 2 章では,国際化と教育につい て「国際化が進展する中にあって,広い視野とともに,異文化に対する理解や,異なる文化を持 つ人々と共に協調して生きていく態度などを育成することは,子供たちにとって極めて重要なこ とである。」と示されている。国際協力は他国の文化の良さを見出し,違いを認め,相互に理解 することを基本として成り立つことから,異文化の一例としてパラグアイを題材に取り上げ,他 国のよさや面白さを感じ取ることを通して,異文化理解を深める授業実践を行った。さらに,同 審議会では国際理解教育を進めるにあたり「個の確立」の推進も示されている。生徒たちに自国 の歴史や伝統文化などについての理解を深める指導を取り入れながら,授業展開を工夫した。 Ⅱ 授業の構成 授業実践を通して,以下のような手立てを講ずれば,異文化理解と国際協力の心を備え,社会 の発展と人々の幸福に貢献する生き方を目指す生徒の育成が図られると考えた。 (1)他国の文化の例として,パラグアイの文化を幅広く紹介し,よさや面白さを発見する授業を 通して異文化理解を深めさせる。 (2)発展途上国の現状や,世界が相互に支え合い成り立っていることを理解させ,国際協力の在 り方について考えを深めさせる。 (3)人々の幸福と社会の発展のために生きるボランティアの方々の生き方や思いを紹介し,自己 ― 66 ― 佐々木 りえ の生き方の変容と進路選択の視野を広げる。 (4)パラグアイにおける日系人の活躍や,移民政策と開拓の歴史を紹介し,日系社会を通して自 国の歴史や伝統文化についての理解を深め,共生社会について考えさせる。 (5)地球市民という考え方を推進し,国際支援の在り方を理解させ,発展途上国の抱える問題を 解決するために考え行動しようとする心を育む指導を工夫する。 時間 主な活動内容 ねらい パラグアイの人々に贈るために,自分の好き パラグアイの人々に贈る和柄のしおり ( 7 月) な言葉を書いた和柄のしおりを作る。 作りを通して,世界とつながることに 興味・関心をもたせる。 2 時間目 パラグアイの伝統工芸品「ニャンドゥティ」 パラグアイの伝統工芸品や風土,言 (11月10日) の鑑賞をする。地位,文化,言語,衣食住に 語,衣食住について知り,異文化理解 ついて知り,他国の文化のよさや面白さを発 を深めさせる。 見する。 3 時間目 ①第二次世界大戦前後の移住政策と開拓の歴 ①パラグアイにおける日系人の活躍や (11月11日) 移民政策と開拓の歴史を紹介し,日 史について知る。 系社会を通して自国の歴史や伝統文 ②日系社会,日本語学校から自国の文化を捉 化についての理解を深め,共生社会 え直し「日本の心」を考える。 について考えさせる。 ②日本の文化の価値を再認識する。 4 時間目 発展途上国の現状とボランティアの人々の活 国際協力について理解を深め,人々の (11月18日) 躍を知り,国際協力の在り方を考える。 幸福と社会の発展に貢献する生き方に 関心をもたせる。 5 時間目 地球市民の考え方を知り,その一員として発 国際支援の在り方,支援の多様性につ (11月20日) 展途上国の子どもたちのために何ができるか いて理解を深め,自分たちにできるこ とを考える。 考える。 Ⅲ 授業の詳細 …………………………………………………………………………………………………………………… 1 時間目 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 〈準備物〉ペン,折り紙,厚紙,カッター,のり,リボン,穴あけパンチ,辞典,ラミネート 用紙 段階 活動内容 導入 1 .本時のめあてを確認する 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 ○教師海外研修でパラグアイに行くことを伝える。 めあて:パラグアイの人々に贈る和柄のしおりを作ろう。 展開 2 .パラグアイの位置を確認 一斉 3 .しおりに書く日本語を決 ・個 ◆パラグアイは日本のほぼ反対の南米の中心にあるこ とを伝える。 める ― 67 ― 中 学 校 1 時間目 佐々木 りえ 段階 活動内容 形態 4 .しおりを作成する ◆教師の指導 ○留意点 □評価 ○自分の好きな言葉から,パラグアイの人々に伝えた い言葉を選ぶ。 ◆厚紙と和柄の折り紙を使ってしおりを作成させる。 ○机間指導をして制作の支援をする。 ○教師海外研修でパラグアイの学校を訪れた際に,日 本の学校の紹介と,このしおりを渡すことを伝え, 他国とのつながりの意識をもたせる。 写真 1 「一期一会」と 書かれたしおり 終結 □他国に伝える言葉を主体的に考え,興味・関心を もって制作に取り組んでいるか。 5 .片付け 写真 2 完成したしおり 写真 3 贈る時の様子 写真 4 贈る時の様子 …………………………………………………………………………………………………………………… 2 時間目 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 〈準備物〉PC,スクリーン,ワークシート 1 ,ニャンドゥティ,マテ茶,アオポイ 段階 導入 活動内容*生徒の反応 1 .学習全体の流れを把握する 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 一斉 ◆パワーポイントで授業全体の流れを説明する 2 .本時のめあてを確認する めあて:他国の文化を知り,よさや面白さを発見しよう。 展開 3 .班編成をする ・ 1 班 5 ~ 6 人計15班に分かれる。 班・ ◆班ごとに丸くなり,中心に置かれた実物の 個 ニャンドゥティを鑑賞させる。 4 .パラグアイの伝統工芸品ニャン ドゥティを鑑賞する ・自分の班の作品を鑑賞した後,他 の班の作品も見て回る。 ・感じたことをワークシートに記入 し発表する。 写真 5 ニャンドゥ ティ *編み方が細かくて模様が綺麗。 写真 6 鑑賞の様子 ○他の班に置かれたニャンドゥティも,歩き回 り自由に鑑賞させるようにする。 ― 68 ― 佐々木 りえ 段階 活動内容*生徒の反応 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 *どうやって作っているのだろう。 班 ◆ワークシートに感じたことを記入後,発表さ せる。 ・模様の形を想像し,班ごと話し合 □他国の伝統工芸品に興味・関心をもち主体的 いワークシートに記入する。 に自分の感じたことをまとめているか。 ・見えた模様を発表する。 ○自由に発言する雰囲気づくりを行う。 *花,蝶,太陽,風車,扇風機,孔 様を記入後,発表させる。 ○模様をひとつひとつ確認し意見の共有を 図る。 5 .パラグアイの風土,地位,文化, 一斉 ◆パワーポイントでパラグアイの地位,風土, 文化,言語,衣食住について説明する。(図 言語,衣食住について知る 1 , 2 写真 7 ~10) ○伝統衣装アオポイ(写真 7 )は実物を提示 する。 ○テレレ文化(写真 9 )紹介はマテ茶を実際に 試飲さる。 6 .グアラニ-語のニャンドゥティ 班 ◆グアラニー語でニャンドゥティの意味を予想 させ,友達の予想と比較させた後,発表さ という言葉の意味を予想する せる。 ・班ごとに話し合い,友達の予想も 〇ニャンドゥティは蜘蛛の巣という意味だと説 記入後,発表する。 明する。 7 .ニャンドゥティについてさらに 詳しく知る 一斉 ◆ニャンドゥティの縫い方の動画を見せる。 ○制作に時間がかかり,生計を立てるには困難 などの問題があることから,作り手が減って ・縫い方の動画や写真を見て制作方 いると説明する。 法や様々な工夫を知る。 *伝統が失われるのはさみしい。 ○伝統工芸を継承することの大切さや難しさを 考えさせる。 ○日本の伝統工芸も同じ課題があることを考え させる。 終結 8 .本時の感想をワークシートに記 入後,発表する ◆ワークシートに感想を記入する。 ○他者の感じ取ったことを認めたり,自分の感 じ取り方と比較したりしながら発表を聞か せる。 ― 69 ― 中 学 校 ◆ワークシートに鑑賞したニャンドゥティの模 雀,蜘蛛の巣など 佐々木 りえ 〈使用した図・資料・写真の一部抜粋〉 図 1 パラグアイの場所確認 図 2 パラグアイの基礎知識 写真 7 伝統衣装 写真 8 首都アスンシオン 写真 9 テレレ文化の様子 写真10 食文化 資料 1 (ワークシート) …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 3 時間目 …………………………………………………………………………………………………………………… 〈準備物〉PC,パワーポイント,スクリーン,ワークシート 2 ,筆記用具 段階 活動内容*生徒の反応 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 導入 1 .パラグアイの学校について知る 一斉 ◆パワーポイントでパラグアイの学校の様子を 説明する。 (写真11) *生徒が教科書を持っていない学校 ○日本の学校との違いや,本時で知るパラグア イの日本語学校との違いや共通点に気付かせ が多い。 ていく。 *給食が無い学校があるから,半日 しか学校に行かないのか。 2 .日本とパラグアイのつながりに ついて考える ○都市と地方とでは学校設備に差が見られる。 ○教科書を持っているのは教師のみ。 ○給食が無く,午前と午後の二部制の学校が 多い。 *なぜ日本人を温かく迎え入れてく れるのだろう。 ○学校に行かない時間は家の手伝いなどをして いる。 3 .本時のめあてを確認する ― 70 ― 佐々木 りえ 段階 活動内容*生徒の反応 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 ○現地でとても温かな歓迎を受けたことを伝え る。また,それは日本人のパラグアイの移住 の歴史と関わりがあることを伝える。 写真12 歓迎の様子 めあて:日系社会について学び,日本の文化を見つめ直そう。 展開 4 .イグアス移住地と日系社会の把 一斉 ◆パワーポイントでイグアス移住地の場所と様 握(写真13) 子を説明する。 ○パラグアイの日系社会の経緯について説明 する。 ◆ワークシートに自分の考えを記入させる。 5 .問 1 :当時の日本の人々はな ぜ海外へ移住したのだろう。 個 ○当時の人々はどのような気持ちで移住を決意 したか想像させる。 ・考えをワークシートに記入し,発 ○ワークシートに記入したことを発表させる。 表する。 6 .実際の移住者の声を聞き移住の 一斉 ◆日本人移住者の園田さんの話を動画で紹介 する。 理由の一例を知る ○戦争による貧困のため仕事を求めてパラグア イに移住したことを理解させる。 ○移住政策を政府が掲げていたことも説明 する。 7 .問 2 :あなたの家族(班)は日 班 ◆ロールプレイで班ごとに家族になって役割を 決め,移住するか,日本に残るかを話し合わ 本から海外へ移住をしますか。 せワークシートに記入する。 ・家族の役割を決め,移住するかし ないか話し合いワークシートに記 ○当時の日本人の心情になって考えながら,自 国の戦前戦後の移住政策について理解を深め 入する。 させる。 8 .各家族の考えを発表する(図 3 ) 〇自分の班の考えを発表させる。 ○各班の考えを自分の班の考えと比較しながら 聞く。 ― 71 ― 中 学 校 写真11 パラグアイ の小学校 佐々木 りえ 段階 活動内容*生徒の反応 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 9 .パラグアイ移住者の開拓の様子 一斉 ◆パワーポイントでイグアス日本「匠」セン ター (移住資料館)の写真を見せる。 を知る・イグアス日本「匠」セン ター (移住資料館)の写真を元に 当時のパラグアイの開拓の歴史と 変容を知る。 *開拓する上でどのような苦労が あったのだろう。 *移住して大変だったことは何だ ろう。 *移住した日本人は現在どうしてい 写真14 移住資料館 写真 るのだろう。 ○最初は密林だった場所を日系人とパラグアイ 人が協力し,開拓し農地に変えていったこと を説明する。 ○人生を切り開いていく生き方の苦労ややりが いを理解させる。 10.日本語学校の様子を知る(写真 一斉 ◆パワーポイントで日本語学校の写真を見せな がら説明する。 15,16) *ラジオ体操で一日が始まる。 *ルールや決まりの掲示物がある。 *日本の学校と同じように掃除して いる 写真15 日本語学校の様子 11.「日本の心」とは何か考えワー 個 ○日本から遠く離れても日系人が大切にしてい る「日本の心」について考えさせる。 クシートに記入する。 (図 4 ) □日本に生きる人々が大切にしてきた心はどの ようなことかを考え,自分の言葉でまとめて いるか。 終結 12.本時の感想をワークシートに記 一斉 ◆ワークシートに本時の感想を記入させ,発表 入し,発表する させる。自分の感じ取り方と比較しながら発 表を聞かせる。 ― 72 ― 佐々木 りえ 〈使用した図・資料・写真の一部抜粋〉 中 学 校 写真13 イグアス移住地と「匠」センター (移住資料館) ・父だけ移住してお金を貯めた ら日本に帰ってくる。 ・意見が割れたから家族全員で は行けない。 3 ・ふるさとを離れたくない。 ・言葉が通じないのは困る。 ・移住しても成功するとは限らない。 ・船の移動は安全の保障がなくて不安 だから。 その他 ・ 戦争で飢え死にするくら いなら新しい土地で農業 をする方が良い。 ・ 時間はかかっても生活が できる暖かい国へ移住し たい。 ・ 新しい土地で成功してお 金を稼ぎたい。 する しない 図3 ロールプレイ結果 図 3 ロールプレイ結果 あなたの家族(班)は日本から海外へ移住しますか? あなたの家族(班)は日本から海外へ移住しますか? 写真16 イグアス日本語学校の様子 資料 2 (ワークシート) 図4 「日本の心」まとめ ― 73 ― 写真17 日本語学校の様子 佐々木 りえ …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 4 時間目 …………………………………………………………………………………………………………………… 〈準備物〉PC,パワーポイント,スクリーン,資料,筆記用具 段階 導入 学習活動 *生徒の反応 1 .前時までの学習を振り返る 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 一斉 ◆前時の振り返りをする。 ・移住するか,日本に残るかのロー 〇他国の文化を認めることと同様に自国の良さ ルプレイの結果(図 3 )と「日本 をしっかりと認識し大切にし続けることも大 の心」についてみんなの考えを知 事だと伝える。 る。(図 4 ) 2 .資料「パラグアイ農業に日系人 ◆互いに協力し合い,真面目に働く日本人移住 の姿あり」を読む(資料 5 ) 者たちが,現地の人に好意をもって受け入れ ・パラグアイの日系人が大豆の栽培 に成功し,世界でも上位の生産と られたことを伝える。 〇イグアス移住区で始まった大豆の不耕起栽培 輸出を行っていることを知る。 はパラグアイ全土に広まり,現在では世界第 4 位の輸出量であることを伝える。 3 .東日本大震災時にパラグアイの ◆パラグアイの日系農家が生産した大豆100t 日系移住者とパラグアイ国民から とパラグアイ全土からの寄付を受け,豆腐 の寄付で大豆100t(豆腐100万丁) 100万丁を日本で生産し,被災地に贈る運動 の支援を受けたことを知る(写真 があったことを伝え「国際協力」について考 18 資料 5 ) えさせる。 4 .本時のめあてを確認する めあて:発展途上国と国際協力について学ぼう。 展開 5 .発展途上国について知る。 一斉 ◆発展途上国についてパワーポイントを使って 説明をする。 ・途上国の分布と定義を知る。 ・図「小田家の 1 日ごはん編」から ○発展途上国の定義はそれぞれの機関で異なる ことを理解させる。 日本と発展途上国との関係を 知る。 ○資料「小田家の 1 日のごはん編」では発展途 上国を「かわいそうな国」や「支援を要する *他国で生産された物を輸入して, 国」として捉えるだけで終わらず,日本も発 現在の豊かな食生活がある。 展途上国で生産された物を輸入して豊かな生 *自国の生産品だけで生活を成り立 活を送ることが出来ていることを理解させる。 たせるのは難しい。 ・発展途上国の問題を,クイズ形式 写真18 支援を受けた豆腐 ○東日本大震災の際は,日本も世界から様々な 支援を受けたことを踏まえ,世界は助け合い で捉える。 で成り立っていることへの理解を深めさせる。 ― 74 ― 佐々木 りえ 段階 学習活動 *生徒の反応 * 5 才まで生きられない子がそんな 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 〇発問で発展途上国の特に深刻な問題について 捉えさせる。 にいるなんてかわいそう。 Q 1 , 1 日 1 ドル以下で生活する人の数は?→ A,11 億人 Q 2 ,学校に通うことの出来ない子どもは世界中にど のくらいいるでしょう?→ A, 1 億3000万人 *どうしてこんな状況があるだ ろう。 *解決策はないのか。 6 .発展途上国としてパラグアイの ◆パラグアイの抱える主な課題をパワーポイン 課題を知る トで説明する。 *日本では当たり前のことが発展途 上国や世界から見るとそうではな いのか。 7 .国際協力の体制を知る ・JICA について理解する ◆国際協力の取り組みの体制と,JICA につい てパワーポイントで説明する。 図 5 国際協力の取り組み体制 8 .JICA のボランティアの方々の ◆写真でボランティアの方々の活動を紹介 活動を知る(写真19) ①眞喜志直子さん(教育) する。 ○具体的にその国の人のために,どのような活 ②大澤みずほさん(医療) ③小川正子専門家(医療・保健) 動をしているのか理解を深めさせる。 ◆ボランティアの工夫や活動にかける思いなど ④遠藤久美子さん(教育) ・ボランティア志望動機などを知る を紹介する。 ◆現在アフリカで青年海外協力隊として活動す (図 6 ) る遠藤久美子さんから,頂いたメッセージを 紹介する。 □人々を幸せにするボランティアの活動に興 味・関心をもって話を聞いているか。また, ワークシートに自分の言葉で感じたことをま とめているか。 ― 75 ― 中 学 校 Q 3 ,もっとも貧しい国々で 5 才までに死んでしまう 子どもの数は,1000人のうち何人?→ A,164人 佐々木 りえ 段階 学習活動 *生徒の反応 形態 終結 9 .本時の感想をワークシートに記 一斉 ◆本時の感想を記入する。 ・個 ○他者の感じ取ったことを認めたり,自分の感 入し発表する ◆教師の指導 ○留意点 □評価 じ方と比較したりしながら発表を聞かせる。 〈使用した図・資料・写真の一部抜粋〉 資料 3 JICA 横浜国際センター海外移住資料館 『海外移住資料館だより2006AUTUMN 資料探 検隊!第 5 回 パラグアイ農業に日系人の姿あ り!~パラグアイの食卓を豊かにした~』P 4 , P 5 (2006年) 資料 4 JICA 資料「Find the Link どうなってるの?世界と日本」 写真19 JICA のボランティア隊員および専門家 ― 76 ― 佐々木 りえ 図 6 アフリカの JOCV 遠藤久美子さんから頂いたメッセージ 〈準備物〉PC,パワーポイント,スクリーン,資料,ペン,感想用紙,筆記用具 段階 学習活動 *生徒の反応 導入 1 .シミュレーション「世界がもし 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 一斉 ◆「世界がもし100人の村だったら」シミュ 100人の村だったら(図 7 ) レーションを行い,世界を縮小した規模で ・性別,年齢,地域,栄養状態,言 様々な人の割合を捉えさせる。 語,あいさつの言葉,識字につい ○あらかじめ 1 人に 1 枚ずつ役割カードを配布 ての質問をもとに,地球全体の しておく。 様々な人々の割合を把握する。 ○当てはまる生徒を起立させる。 2 .本時のめあてを確認する めあて:地球市民の一員として,発展途上国の子どもたちを助ける支援を考えよう。 展開 3 .地球市民の定義を知る 4 .班に分かれて資料を読み,発展 一斉 ◆地球市民の定義を伝える。 班 〇地球市民とは,人種,国籍,思想,歴史,文 途上国の子どもたちがどんなこと 化,宗教などの「違いをのりこえ,誰もがそ に 困 っ て い る の か 知 る。(資 料 の背景によらず,人として尊重される社会の 7,8) 実現」を目指し,活動する人々のことをいう。 *発展途上国の子どもたちは,安全 な水が得られない。 ◆資料から発展途上国の抱える問題について 「子どもたちが困っていること」を捉えさ せる。 *栄養不足で病気になりやすい。 *様々な理由で学校に行けない。 5 .学校に行けないと,どのような ことに困るか考えてみよう」を前 時の学習をもとに班で話し合い記 入する。 資料 5 発展途上国 の子どもたちが困っ ていること *字が読めないので仕事が限られ収 入が得られない。 *薬や注意書きなどが読めないの で,安全に関する知識が得られ ない。 ― 77 ― 資料 6 学校に行け ない理由 中 学 校 …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 5 時間目 …………………………………………………………………………………………………………………… 佐々木 りえ 段階 学習活動 *生徒の反応 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 ◆前時で学習したボランティア隊員の例を出し 6 .子どもたちを助ける支援を班で て説明をする。 話 し 合 い 考 え, カ ー ド に 記 入 〇生徒の考えを引き出し記入させるが,どうし する。 ても 9 つ浮かばない班には教師が用意したヒ ・ 1 枚のカードに 1 つ支援を記入 ントを配布する。 し, 9 枚作成する。 ◆ダイヤモンドランキングを写真に撮りスク *募金する。 *学校の数を増やす。 リーンに映しながら発表することを説明 *安全な水が飲めるように技術を伝 する。 える。 *医者を派遣する。 7 .支援が書かれた 9 枚のカードを, 班 大事だと思う順に並べ,ダイヤモ ンドランキングをつくる。 ・大事だと思う理由を考えながら並 べる。 * 1 番大事なのは子どもたちの病気 写真20 ダイヤモンドランキング を治す薬を送るなど命に関わるこ □興味・関心をもって支援の内容を考え活動に とだと思う。 参加しているか。 *根本的に社会の構造を発展させる 〇発表したい班に挙手をさせる。また,巡視し ため学校を作ることが大事だと てよく考えている班に対して指名を行う。 思う。 8 .代表の班が発表する 一斉 〇支援の内容の共有を図る。 ◆持続的支援と一時的支援について説明し,も ・支援の内容の説明と,ランキング う一度ランキングを並び替える。 の理由を説明する。 ・発表を聞く側は,自分たちの考え 〇一時的支援は募金,支援物資など,困ってい た支援の内容と比較しながら る人をすぐに助けることができ,緊急を要す 聞く。 る際に重要であることを伝える。 9 .持続的支援と一時的支援につい 班 ◆持続的支援は技術提供や教育など支援者がい て知りもう一度ランキングを並 なくなった後も残るような支援であり,問題 べる。 を根本的に解決する上で重要であることを伝 える。 *募金は使えば消えてしまうので一 時的なもの。 *病院や学校を作っても働く人がい なかったら一時的支援になってし まう。 10.代表の班のダイヤモンドランキ 一斉 ングを教師が紹介する。 ― 78 ― 佐々木 りえ 段階 学習活動 *生徒の反応 形態 ◆教師の指導 ○留意点 □評価 〇ボランティアの多様性を捉えさせる。 *農業の技術を伝えることと,教師 〇持続的支援と一時的支援はどちらかが優れて の育成を上位にもってきた。 いるのではなく,それぞれに良さがあること *物やお金だけではなく,技術や学 に気付かせる。 力の指導も支援だということが分 かった。 いくことが必要だ。 終結 10.国際理解教育の授業全体を通し 一斉 ◆ワークシートに全体の感想を記入後発表さ ての感想を記入し発表する。 せる。 □授業の感想を自分の言葉でワークシートにま とめているか。 〇全体の授業のまとめを行う。 〈使用した図・資料・写真の一部抜粋〉 図 8 100人村シミュレーション ― 79 ― 中 学 校 *場合に応じた支援の在り方を考え 佐々木 りえ 写真21 授業の様子 Ⅳ 写真22 授業の様子 実践の成果 〈授業後の生徒の感想〉 ・他国には色々な伝統工芸品や文化があることが分かりました。景色や工芸品を見ることがで きてとても楽しかったです。 ・パラグアイのことは何も知らなかったけど,文化や食事や衣服が日本とは全く違い,興味が 湧いてきました。外国に行ってみたいという気持ちになりました。 ・パラグアイの農業に日系人がとても貢献していてすごいと思った。震災が起きた時にパラグ アイ人や日系の人々が助けてくれて,日本とパラグアイはお互いに支え合っていると思いま した。 ・ 5 歳まで生きられずに死んでしまうなんて早過ぎるしかわいそうだと思いました。世界には 学校に行きたくても行けない人もいて,今私たちが授業を受けることができるのも貴重なこ とだと思い,もっとまじめに普段の授業を頑張って受けようと思いました。 ・改めて世界の現状を知って悲しい気持ちになりました。 私は食べ物の好き嫌いなどをしたり, 水を出しっぱなしにしたりしていてもなんとも思わなかったけど,苦しんでいる人たちのこ とを考えたら申し訳ないと思いました。大変な人々を助けようとするボランティアの人はす ごいと思いました。 ・外国の人ために頑張っている日本人が多いことを知りました。もっと世界全体が豊かになる よう募金をしたり物を大事にしたりするなどを心がけていきたいと思いました。 ― 80 ― 佐々木 りえ 中 学 校 各授業後の感想と, 5 時間全体を通しての生徒の感想から,国際理解の授業実践を通して, 以下のような手立てに応じた成果が得られたといえる。 (1)他国の文化を知ることは面白い。 」 「もっと見たい。 」という気持ちを高めるため, 2 時間 目の実践授業の中で,パラグアイの伝統工芸品「ニャンドゥティ」に焦点を当てて鑑賞を 行った。現地で入手した本物の教材を用いて授業を行い,鑑賞では夢中で色や模様から良さ や美しさを感じ取っている様子が見られ,生徒の興味・関心を高め,異文化理解につながる 導入ができた。日本とは異なる衣食住や環境,文化などにも驚きの反応を示し,活発に質問 をしていた。実際にその国の写真を見たり,マテ茶のテレレ文化を体験したりすることで, 他国の文化のよさや面白さを,体験を通して感じさせることができた。 (2)実践授業 3 時間目の感想から,異国の地で努力を続ける生き方や,勤勉さと協調性で現地 の人に受け入れられ,共生社会を築いたことを知ることができたと分かる。また,ロールプ レイを通して当時の歴史的背景や心情に迫りながら移住の歴史と共生社会について知ること ができたと捉えることができる。 (3)実践授業を終えた生徒の感想から,自分たちの生活はあらゆる国や人々に支えられて成り 立っていることへの理解を深めさせることができたといえる。実践授業 3 , 4 時間目の感想 では,「私は以前から外国に行ってみたい,そこで働きたいと考えていましたがその気持ち が強くなりました。 」という声が上がった。また「誰かの人ために頑張っている人の生き方 を知り,自分も夢の実現に向けてもっと勉強しようと思いました。 」 「もっと世界全体が豊か になるよう募金をしたり物を大事にしたりするなどを心がけていきたいと思いました。 」と いう生徒の感想から,実践授業を通して国際協力への興味・関心の高まりと自己の変容が認 められた。 (4) 5 時間目の実践授業を通して発展途上国の子どもたちを助ける支援を考えることができた といえる。また,ダイヤモンドランキングを通して支援の多様性を知り,持続的支援や一時 的支援の特徴を考え,学びを深めることができた。 ― 81 ― 佐々木 りえ Ⅴ 課 題 ・生徒の感想の中に,「発展途上国の人たちはかわいそうだと思った。自分達は日本に生まれて 恵まれていると思った。」という言葉があった。貧困や学校に行けない子どもたちに対して, どこか遠い国の出来事として客観視したまま完結してしまった生徒もいることが分かった。 今後も話を続け,自分も世界に生きる一人として,身近なところからでも何かできることは 無いかという心構えを築かせていくことが課題である。 ・ 5 時間目において,発展途上国の子どもたちに対する支援の内容を考える時間と,ランキン グ付け,さらには支援の多様性を理解させるなど,内容を詰め込み過ぎたことが要因で,持 続的支援と一時的支援の特徴を知るだけで終わってしまった。理解を深めるために,それぞ れの良さを考えさせ,その国の人々のニーズに応じて支援策を考えていくことの重要性をよ り深く捉えさせていかなければならないと考える。 ・支援カードのランキングは,授業後に写真としてしか残すことができなかったので,次回の 実践の機会があれば,形として留めておく工夫を取り入れたい。模造紙などに貼り掲示をし て共有を図れればと考える。 ・考えて終わりではなく,実際に行動に繋げていく手立てを考える。例えば,架空募金や,現 地に物資を送るなど,国際交流や支援の情報の収集と考案を行っていきたい。 関連する学習指導要領の内容と文言 中学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編 第 2 章 総合的な学習の時間の目標 第 1 節目標の構成 第 1 目標 横断的・総合的な学習や探求的な学習を通して,自らの課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、 主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え 方を身に付け、問題の解決や探求活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の 生き方を考えることができるようにする。 第 4 章 指導計画の作成と内容の取扱い 第 1 節指導計画の作成に当たっての配慮事項 (5)学習については、学校の実態に応じて、例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの 横断的・総合的な課題についての学習活動、生徒の興味・関心に基づく課題についての学習 活動、地域や学校の特色に応じた課題についての学習活動、職業や自己の将来に関する学習 活動などを行うこと。 中学校学習指導要領解説 道徳編 価値項目 4 -(10)世界の中の日本人としての自覚をもち,国際的視野に立って世界の平和と 人類の幸福に貢献する。 ― 82 ― 佐々木 りえ ●出典・参考図書 ・JICA 横浜国際センター海外移住資料館『海外移住資料館だより2006AUTUMN 資料探検 隊!第 5 回 パラグアイ農業に日系人の姿あり!~パラグアイの食卓を豊かにした~』 (2006年)P4, 5 ・JICA 資料「Find the Link どうなってるの?世界と日本」 (2013年 9 月)より一部抜粋 (2003年 3 月25日) ・DEAR 開発教育協会「ワークショップ版世界がもし100人の村だったら」 ― 83 ― 中 学 校 ・JICA 資料「学校に行きたい 国際協力とわたしたち」 (改訂第二版2009年12月) 千葉 明彦 貧困と教育 千葉 明彦 宮城県仙台東高等学校 教諭/英語 教 科 Ⅰ コミュニケーション英語Ⅱ( 4 時間) 英語表現Ⅱ( 4 時間) グローバル・シティズンシップ( 4 時間) 対 象 2 学年生徒 276名 実践の目的 国際理解教育でよく取り上げられるのが、貧困の悪循環という テーマです。貧困状態にあると満足な教育が受けられない、教育 が施されなければ収入が乏しくなる。収入が十分でなければ教育 を受ける機会が奪われ、その結果、貧困の悪循環が止まらないと いうものです。発展がうまく進まないのも教育事情が関わってい るのではないかという仮説に立ちこの研修に臨みました。 私の仮説どおり、教育事情が十分でないことが発展の妨げの 要因の一つであることを実感しました。JICA が教育の専門家をパラグアイの教育省に派遣し、 教育システムの改善に貢献していることを知りました。その一方で、役人たちの中には自分たち の身辺のことだけを考え,社会の発展のために真剣に取り組まない人がいることも知りました。 現在、貧困問題は発展途上国だけの問題ではなく、自分たちにも降りかかる身近な問題である と考えます。他の国の貧困問題を学習することを通して、あらためて貧困について考える機会を 持ち、自分たちの身に迫る問題を意識し、その対策について考えることはとても大切であると考 えています。授業をとおして生徒にそうした問題に取り組ませたいと考えました。 英語教授法の一つとして、理科や社会などの科目内容と言語を統合した CLIL という手法があ ります。語学と内容を統合的に指導するため、生徒は語学と学習対象となる内容を同時に学ぶこ とができます。この方法を活用することで、英語科の授業をとおして世界の問題を扱うことを実 践の目的にしました。 Ⅱ 時間 1 授業の構成 テーマ パラグアイを知ろう① ねらい パラグアイという国、そこに住む人々について興味関心を持っ てもらうのがねらい。 2 パラグアイを知ろう② 写真や動画、回答を見ながらパラグアイや人々の生活を知るの がねらい。 3 問題を理解しよう パラグアイが抱える課題を理解し、同時に英語の読解力を養う のがねらい。 ― 84 ― 千葉 明彦 時間 4 テーマ 解決方法を考えよう ねらい グループごとにディスカッションとおしてそれぞれの考えを発 表させるのがねらい。 Ⅲ 授業の詳細 …………………………………………………………………………………………………………………… 1 時間目 パラグアイを知ろう① ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… <導入> JICA 教師海外研修でパラグアイを訪問することを 生徒に伝える。JICA について説明し、研修の意義や 目的を知ってもらう。パラグアイについて知っている <展開> 4 名 1 組のグループでディスカッションしてパラグ アイの子どもたちへの質問を考えてもらう。考えた質 問をワークシートに記入してもらう。 <まとめ> 各グループの代表に話し合った内容を発表してもらいクラス全体で共有する。 考えてもらった質問をパラグアイの子どもたちにして、その回答を持ち帰ることを話す。 …………………………………………………………………………………………………………………… 2 時間目 パラグアイを知ろう② ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… <導入> JICA 教師海外研修の日程や活動した内容について説明する。持ち帰った写真、動画、その他 現地で入手した教材を見せたり、触れてもらったりしてパラグアイについて知ってもらう。 <展開> パラグアイで活動している青年海外協力隊を紹介する。考えてもらった質問についてフィード バックする。4 名 1 組のグループでディスカッションして回答について感想を話し合ってもらう。 <まとめ> 各グループの代表に話し合った内容を発表してもらいクラス全体で共有する。 …………………………………………………………………………………………………………………… 3 時間目 問題を理解しよう ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… <導入> これまでの授業を振り返り、パラグアイについて知っていることを挙げてもらう。 持ち帰った写真、動画を見せて、これから読む英文についてヒントを与える。 <展開> 欄外の語句をクラス全体で確認し、ペアになって助け合いながら英文を読み設問に答える。内 容が読み取れているか対話形式で確認する。 4 人 1 組のグループになって英文の内容で何が問題 になっているのか話し合ってもらう。 ― 85 ― 高等学校 ことを話してもらう。 千葉 明彦 Paraguay is a very beautiful country located right in the center of South America with a lot of natural resources. The people there are very friendly and their lives are more relaxed than Japanese. Their main industry is agriculture. Due to the occasional climate change and so forth, a lot of people are said to be suffering from poverty. We visited an elementary school and observed a class. Both teachers and the students were very motivated, but we found no textbooks were being used. The students were just writing what the teachers had written on the board without complaints. They spent most of their time writing everything in their notes. Most of the students leave the school before lunchtime and help with household chores for the rest of the day. I wondered why they do not have a more efficient way of educating people in this country. The Japanese ambassador in Paraguay also said that the local government does not value education highly. In order to solve this problem, The Japanese government is supporting them through JICA(Japan International Cooperation Agency) . We had a chance to talk with Ms. Otani, an education specialist, and asked her some questions about the system. She is now trying to establish a new education system that is sponsored by the board of education for Paraguay and JICA. She said that there are a lot of things that need to be done for the educational system of this country. First of all, textbooks and teaching skills need to improve. Second, the government needs to make more of an effort to control the system throughout the country. In order to improve this situation, a lot of JOCV(Japan Overseas Cooperation Volunteers)are volunteering to help them. Mr. Goto is retired and used to be an architecture specialist. He volunteered to come to this county to help students at a vocational school. Ms. Makishi had teaching experiences in a Japanese elementary school. She is now working to improve their textbook. Also, she has been sharing teaching methods with her coworkers. When I arrived in Asuncion, the capital city of Paraguay, seeing a lot of skyscrapers I had an impression that Paraguay is a developed county like Japan. However, as we explored more, we found that its educational system was not good enough. I believe without good education you cannot gain the skills needed to earn a sufficient income to lead to a happy life. In another word, bad education leads to poverty. These days a lot of Japanese people say poverty is not just an issue in another country but it is also a hidden problem of our own country. Now is the time to think about our social issues and take action. ― 86 ― 千葉 明彦 Words & Phrases occasional observed sponsored by architecture coworkers Asuncion skyscrapers explore sufficient hidden Reading questions(in pairs) 1. Where is Paraguay located? 2. How are their lives? 3. What is an issue in Paraguay? 4. What problems were found at the elementary school? 5. According to the education specialist, what are the problems that need to be solved? 6. How long do the students in this country study in a day? 8. What do they do? 9. What did the author think when he first arrived in the country? 10. What does the author suggest we should do? <まとめ> 各グループの代表に話し合った内容を発表してもらい、何が問題になっているかクラス全体で 共有する。 …………………………………………………………………………………………………………………… ──────────────────────────────────────────── 4 時間目 問題を解決しよう …………………………………………………………………………………………………………………… <導入> 英文から読み取った内容を、もう一度クラス全体で 確認する。ワークシート示しながら、活動の内容につ いて説明する。 <展開> ディスカッション 1 貧困の悪循環が描かれているワークシートを示し、 活動内容を説明する。 4 人 1 組のグループでディス カッションしてもらい、空欄に入る語句を選んでもらう。グループの代表者はクラス全体に向 かって選んだ語句とその語句を選んだ理由について発表してもらう。 ディスカッション 2 ランキングが描かれているワークシートを示し、活動内容を説明する。 4 人 1 組のグループで ディスカッションしてもらい、空欄に入る語句を選んでもらう。 グループの代表者はクラス全体に向かって選んだ語句とその語句を選んだ理由について発表し てもらう。 ― 87 ― 高等学校 7. Who are the ones helping to improve the situations in the country? 千葉 明彦 Discussions(in groups) 1. Choose the suitable words from the options below and fill in the box. 1. Getting good education 2. Getting good jobs poverty 3. Getting bad skills and knowledge 4. Getting bad education 5. Getting good skills and knowledge 6. Getting bad jobs 2. Discuss the priority of International Cooperation and rank them in the boxes from the most important to the least. Explain the reasons. 1. Importing more crops from Paraguay 2. Educating the people in Paraguay to get more skills 3. Giving more ODA, Official Development Assistance, to the Paraguay government 4. Letting people know about the situation in Paraguay 5. Saving more energy in Japan 6. Promoting the intercultural exchange between Paraguay and Japan the most important reasons ― 88 ― 千葉 明彦 <まとめ> ディスカッション 1 の活動については、悪循環の仕組みについてもう一度復習し、循環を断ち 切るためにどうすることが必要になるのかクラス全体で確認する。 ディスカッション 2 の活動については、答えは一つではなく様々な考え方があることを確認 し、それぞれのグループの解決方法の類似点や違いを共有し、それぞれの考え方を尊重すること を強調する。 Ⅳ 実践の成果 教育事情が十分でないことが発展の妨げの要因の一つであることを実感してもらえたこと。 また、JICA が青年海外協力隊や専門家をパラグアイの教育省に派遣し、教育システムの改善 貧困問題はもはや人ごとではなく、自分たちにも降りかかる身近な問題であること。他の国 の貧困問題を学習することを通して、あらためて貧困について考える機会を持ったこと。自分 たちの身に迫る問題を意識し、その対策について考えることはとても大切であると考えます。 授業をとおして、そうした問題に取り組ませることができたのはとても大きな成果であったと 考えています。 Ⅴ 課 題 英語をとおして貧困などの地球的課題について学ぶことができたのは非常に良かったのです が、理解した内容について自分の意見を英語で表現するところまでたどり着けなかったのは残 念でした。「聞く」「読む」から「話す」 「書く」へのどのように橋渡ししていけば良いのか、 今後の課題となりそうです。 また、教材を作成するにあたってはいかに客観性を保つのかが課題となりました。自分が意 図した内容の英文を作成する気持ちが強くなり、いつしか客観性が失われていることが度々あ りました。常に情報の出所を明示して教材の客観性を保つ努力をすることもこれからの課題で あると考えています。 また、日系社会もパラグアイの大きなテーマの一つだと考えます。世代交代が進み改めて日 系社会のあり方が問われています。日系社会をテーマにした授業をすることも課題の一つだと 考えます。 ― 89 ― 高等学校 に貢献していることを知ってもらえたことは大きな成果だったと思います。 千葉 明彦 関連する学習指導要領の内容と文言 第 4 款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い 1 指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとする。 (1)「コミュニケーション英語Ⅱ」は「コミュニケーション英語Ⅰ」を履修した後に, 「コミュ ニケーション英語Ⅲ」は「コミュニケーション英語Ⅱ」を履修した後に, 「英語表現Ⅱ」は 「英語表現Ⅰ」を履修した後に履修させることを原則とすること。 (2)「コミュニケーション英語基礎」を履修させる場合, 「コミュニケーション英語Ⅰ」は「コ ミュニケーション英語基礎」を履修した後に履修させることを原則とすること。 2 内容の取扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。 (1)教材については,外国語を通じてコミュニケーション能力を総合的に育成するため,各科 目の目標に応じ,実際の言語の使用場面や言語の働きに十分配慮したものを取り上げるもの とすること。その際,その外国語を日常使用している人々を中心とする世界の人々及び日本 人の日常生活,風俗習慣,物語,地理,歴史,伝統文化や自然科学などに関するものの中か ら,生徒の発達の段階及び興味・関心に即して適切な題材を変化をもたせて取り上げるもの とし,次の観点に留意する必要があること。 ア 多様なものの見方や考え方を理解し,公正な判断力を養い豊かな心情を育てるのに役立 つこと。 イ 外国や我が国の生活や文化についての理解を深めるとともに,言語や文化に対する関心 を高め,これらを尊重する態度を育てるのに役立つこと。 ウ 広い視野から国際理解を深め,国際社会に生きる日本人としての自覚を高めるととも に,国際協調の精神を養うのに役立つこと。 エ 人間,社会,自然などについての考えを深めるのに役立つこと。 (2)音声指導の補助として,発音表記を用いて指導することができること。 (3)辞書の活用の指導などを通じ,生涯にわたって,自ら外国語を学び,使おうとする積極的な 態度を育てるようにすること。 (4)各科目の指導に当たっては,指導方法や指導体制を工夫し,ペア・ワーク,グループ・ワー クなどを適宜取り入れたり,視聴覚教材やコンピュータ,情報通信ネットワークなどを適宜 指導に生かしたりすること。 また,ネイティブ・スピーカーなどの協力を得て行うティーム・ ティーチングなどの授業を積極的に取り入れ,生徒のコミュニケーション能力を育成すると ともに,国際理解を深めるようにすること。 ― 90 ― 千葉 明彦 ●出典・参考図書 ・『日本国際理解教育学会・藤原孝章・石森広美・今田晃一・多田孝志・中山京子・森茂岳雄 編著(2010) 『グローバル時代の国際理解教育-実践と理論をつなぐ-』明石書店. ・日本国際理解教育学会・大津和子・永田佳之・中山京子・藤原孝章・嶺井明子・森茂岳雄編 著(2015) 『国際理解教育ハンドブック-グローバル・シティズンシップを育む-』明石書店. ・田島久歳・武田和久編著(2011) 『パラグアイを知るための50章』明石書店 ・仙道富士郎編著(2014) 『遥かなる地球の裏側に夢を馳せた人々-南米パラグアイ在住日系 移・住者の声-』山形大学出版 高等学校 ― 91 ― 佐藤 健太 私達の幸福について考える ~パラグアイから日本を再考する~ 佐藤 健太 山形県九里学園高等学校 教諭/英語 教 科 Ⅰ LHR 2 時間 対 象 1 学年 進学コース16名 実践の目的 本校は平成27年度、文部科学省からスーパーグローバルハイスクール・アソシエイト校と認定さ れた。認定以前から、姉妹校の定期的な来校や長・短期留学生、単位認定と卒業を目指した留学生、 さらに単発での数日間の学校訪問を受け入れており、普段から日常的に国際交流が盛んに行われて いる。それらの受け入れプログラムを考えたり、それを再考して改善を加えたりして行く中で、私は 国際交流が生徒へもたらすものを次のように考えるようになった。交流を通じて、外から自分を見つ め直し、違いを知ることができ、考え方・在り方・生き方が変わり、それらが学習や学校生活への 動機となり、好ましい人格形成につながるということである。受け入れプログラムの中で、海外の生 徒とのディスカッションのテーマを「幸福」とすることがあった。そこで感じたことは、海外の生徒 は自己肯定感が強く、反対に本校の生徒はそれが弱いということであった。 “When do you feel happy?”という質問に対して、海外の生徒は“Time with family.”といったように、人とのつなが りや経験を重視していることが分かる答えが多いのに対して、本校の生徒は“Time to sleep.”と いった個人的かつ消極的な答えが多いことに、私は問題意識を抱くようになった。今回、教師海外 研修という貴重な機会をいただき、途上国訪問は私自身にとって初めての経験となった。その経験 を題材として、生徒の価値観の変容や課題解決能力の育成、他者及び自己理解をねらいとした、生 徒の精神的な成長に資する授業を展開しようと考えた。 Ⅱ 授業の構成 時間 事前学習 LHR テーマ 高校生意識アンケート 内容 本校の生徒にアンケートをとる。 私達の「幸福」について考える① 生徒が感じる「幸福」を客観的に考え、パラグアイ の習慣テレレを通して、私たちの価値観を再考する。 LHR 私達の「幸福」について考える② パラグアイが抱える課題を理解し、同時に英語の読 解力を養うのがねらい。 事後学習 アンケート結果の比較 本校の生徒と、イグアス居住地で生活する同世代の 日系人とのアンケート結果を比較する。 ― 92 ― 佐藤 健太 アンケートの項目 パラグアイ研修 意識アンケート 年令: 才 男・女 5 :とてもそう思う 4 :そう思う 3 :どちらともいえない 2 :あまり思わない 1 :まったく思わない 5 4 3 2 1 人間関係で不満や悩みはない。 5 4 3 2 1 異性関係で悩みはない。 5 4 3 2 1 毎日、安心して暮らしている。 5 4 3 2 1 学校や地域のグループの一員として、居心地がよい。 5 4 3 2 1 自分から積極的に他人と関わりたいと思っている。 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 友達といる時が楽しい。 5 4 3 2 1 家族といる時が楽しい。 5 4 3 2 1 もっと自分を成長させたい。 5 4 3 2 1 携帯電話などを使ったほうが、言いやすいこともある。 5 4 3 2 1 「自分はやれる」と思える時が、結構ある。 あなたの夢や将来の目標は何ですか。 【自由記述】 どんな大人になりたいですか。 あなたはどんな時に幸せを感じますか。 あなたの夢や将来の目標は何ですか。 ※アンケート結果については、本校の生徒と現地の日系人の間で、大きな差異はなかった。 Ⅲ 授業の詳細 各授業の詳細や資料など …………………………………………………………………………………………………………………… 1 時間目 私達の「幸福」について考える① キーワード「つながり」「時間」 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 〈導入〉 1 .「楽しいと思うことはどんなこと?」という教師からの問いに対してブレインストーミング をする。 付箋に思いつくだけ書いていく。 2 .ブレインストーミングを 4 人 1 組のグループでシェアし、まとめる。その後、グループごと に発表する。 生徒が付箋に書いたこと(一部) ・友達と話している時 ・YOUTUBE を見ている時 ・テレビを見ている時 ・お金を使っている時 ・勝負に勝った時 ・みんなで写真を撮り合う時 ・部活の仲間とバスケをしている時 ・寝ている時 ・スマホをいじっている時 ・音楽を聞いている時 ・ごろごろしている時 ・友達と遊んでいる時 ・食べている時 ・好きな事について語っている時 ― 93 ― 高等学校 衣食住に不満はない。 佐藤 健太 〈展開①〉 1 .パラグアイの習慣テレレを写真、現地で購入したカップ、ストローを用いて紹介する。 その後、テレレはパラグアイ人にとってどんなものか、どんな意味を持つのかをグループで考 える。 発問: どんな時にやるものなのか? なぜ、回し飲みをするのか? どんな人とテレレをするのだろう? 普段の生活で、テレレをやってみたいと思う? 路上で売っている茶葉や薬草 路上でテレレをする人々 スーパーの警備員さんもテレレ イグアス居住地の日本語学校の 生徒たち 車の中でもテレレ テレレ用のカップと ストローを提示 2 .考えたことをグループごとに発表し、黒板にまとめていく。 生徒が考えたこと ・病気予防、熱中症予防 ・おもてなし ・友好関係を築くきっかけ ・知り合いに限らずシェアするもの その後、 「では、日本でテレレに相当するものって何だろう?」という問いに、再度グループ ごとに考え、発表する。 ― 94 ― 佐藤 健太 〈展開②〉 1 .教師より、現地で聞き取ってきたテレレの意味を紹介する。 薬草も含むので、体に良い 心理的なつながりを生む 一人でやると物思いにふける 二人でやると会話が始まる 2 .展開①で記入した付箋を「誰かと一緒にやるもの」 「一人でするもの」に分ける。 その後、キーワード「つながり」 「時間」を紹介する。 〈まとめ〉 忘れない味に出会ったのはチチカカ湖に浮かぶア マンタニ島。水道も電気もない、星のきれいなその 島で、ある民家に泊まった日の夕食だ。……日が暮 れかける頃、船乗りのお父さんがジャガイモをかつ いで帰ってくる。土のついた小さなパパス(ジャガ イ モ の 一 種)。 待 っ て ま し た と ば か り に お 母 さ ん が かまどに日を入れ、夕食の支度を始める。あたりは ちょうど暗くなり、調理の火の周りに子どもたちが 集 ま っ て く る。 ケ チ ュ ア 語 で 家 族 の 会 話 が 始 ま る。 学校の話とか船の話なのだろう、ひとりひとりの一 日 の 時 間 を シ ェ ア す る の だ。(考 え て み れ ば、 こ ん なに情報があふれている時代に、私は自分の家族が 過 ご し た 時 間 を ほ と ん ど 知 ら な い な ぁ。 )親子の会 話。夫婦の会話。……私には何を話しているのか見 当がつかない。それにお腹もペッコペコ。レストラ ン な ら も う と っ く に 料 理 が 出 て 食 べ 終 わ る 時 間 だ。 暖 か い 家 族 の 団 ら ん に 感 動 し な が ら も、 だ ん だ ん イ ライラしてくる。そんな「私の時間」は、古代文明 の栄えた広い湖の上で、本当にちっぽけで、無力で、 根拠がない。……やっと出てきたのはじっくり煮込 ん だ ジ ャ ガ イ モ や ニ ン ジ ン や 雑 穀 の ス ー プ。 い び つ な素焼きの器に入っている。家族の時間までが溶け 込んだ、とても暖かい味のスープ。一ヶ月間、一度 も日本に帰りたいなんて思ったことはなかったけれ ど、その時ばかりは家族の顔が思い浮かんだ。 藤岡亜美「アマンタニ島のスローフード」より引用 淡水湖 ※チチカカ湖:ペルー南部とボリビア西部にまたがる ― 95 ― 高等学校 発問: 現代は人と人のつながりを感じにくいのだろうか? なぜ、遅いのが嫌われるのだろうか? 1 .藤岡亜美「アマンタニ島のスローフード」からの引用を配布し、各自で読む。 まとめの板書 誰かと一緒にやる ⇒ 時間もかかる ⇒ 時間と空間を共有する ⇒ しあわせにつながるのではないか? 2 .その後、授業の感想を書く。 生徒の感想(一部) ・これからも人とのつながりを大切にしていきたい。 ・日本では絶対に飲み回しをすることはありえないし、道端で会った人とお茶を飲むな ど日本人にとっては考えられない。 佐藤 健太 ・文化の違いと、その意味を考えることができた。 ・テレレは会話のきっかけになる、ということがしっくりきた。 ・自分の幸福が当たり前のものになりすぎていて、すぐに思いつくことができなかった。 色々な幸福に囲まれて日々の生活を送れていることに、あらためて気づくことがで きた。 ・同じものを回し飲みするのは、少し抵抗があるけど、自分も挑戦してみたいと思った。 ・色々な人とたくさんつながりを持ち、同じ時を共有して“小さな幸福”をたくさん積 み重ねていきたいと思った。 ・誰かと何かをすると時間がかかるので、今までは敬遠しがちでしたが、テレレの話を 聞いてみて、少しいいなぁと思った。 ・日本にはゆとりがないから、お茶を飲み合う時間(= 余裕)がないのかなと思った。 …………………………………………………………………………………………………………………… 2 時間目 私達の「幸福」について考える② キーワード「いのちを感じる食」「食に対する価値観」 ──────────────────────────────────────────── …………………………………………………………………………………………………………………… 〈導入〉 1 コンビニのチキン、焼き肉、ファーストフードのハンバーガーの写真を提示する。おいしい か、おいしくないか、好きか、嫌いか、そしてその理由を尋ねる。 2 コンビニのチキンなどを生徒が口にするまでの過程を想像した後、生きている牛が肉になる 過程を写真で提示する。 3 パラグアイで食べた豚の丸焼きの写真を提示する。 イグアス居住地での歓迎パーティーで出していただいた豚の丸焼き 〈展開①〉 1 日本では、豚の丸焼きをなぜやらないのか考え、その理由を付箋に書き込んでいく。 その後、グループ内でカテゴライズし、グループごとに発表する。 授業の様子 カテゴライズされた付箋 ― 96 ― 佐藤 健太 生徒が付箋に書いたこと(一部) ・かわいそうだから ・日本の文化にはないから ・やり方がわからないから ・切ってあるものや加工してあるものを食べる方が楽だから ・処理が大変だから ・怖くて食べられないから 〈展開②〉 1 展開①で考えた理由を、現代の食の特徴シートを用いて、そこから浮かび上がる現代の日本 の食習慣の問題点をグループで考え、発表する。 2 現代の食の特徴シートの右側は、いわゆるファーストフードであることを伝える。 逆に左側に相当する日本食は何なのか、グループで考え、発表する。 生徒が考えたこと(一部) 全体食:焼き魚 風土食:鯉、雪菜、うこぎ、いも煮 適量食:パック入りのもの、 1 / 4 カットの野菜 手料理:肉じゃが、カレーライス 〈まとめ〉 1 今の日本の食習慣について、このままでいいのか?望ましい食習慣とは、どのようなものな のか?と全体に問いかける。 2 大谷ゆみこ「未来食」からの引用を紹介する。 世界各地で、日本各地で、風土に根ざした地域自給型の、命を育む食習慣を取り戻すことが 急務です。それは、私たちが知らない間に放棄してしまった生きる喜びの一つを取り返すこと なのです。 3 授業の感想を書く。 生徒の感想(一部) ・環境問題の原因として、自分達の食事が関わっていることが分かった。 ・生き物を殺して、それを頂いているからこそ、 「生きる」ことができているんだという 意識が日本は低いと感じた。 ・いつも普通に食べている肉だけど、丸焼きにして、 「かわいそう」とは思わずに食べて いるのが不思議に思った。 ― 97 ― 高等学校 現代の食の特徴 1 .全体食(丸ごとの命としての食べ物)⇔ 部分食(バラバラフード) 2 .風土食 ⇔ 輸入食 ※フードマイレージ、バーチャルウォーター 3 .適量食 ⇔ 過剰食 ※穀物飼料と飢餓 4 .手料理 ⇔ 工場での料理(機械による画一的大量生産) 佐藤 健太 ・「食べたいから食べる」 「もう食べられないから捨てる」という考え方をもっと見直し ていくべきだと思った。 ・頭では状況と原因を知っていたけれども、自分の生活と結びつけることができていな かった気がした。 「丸焼きはかわいそうだけど、お肉は好き」という矛盾みたいなもの に、ちゃんと向き合うべきだと思った。 ・豚肉や牛肉を、生きている牛や豚として見ることができた。 ・便利さを追求し、それにより環境破壊につながっていることへの解決方法はすぐには 思いつかないが、このままにしておくのはいけないと感じた。 Ⅳ 実践の成果 生徒の感想をみると、 2 時間の授業において、現代の日本人が忘れていた価値観や見失いか けていた価値観を再定義し、普段の私たちの生活が日本だけでなく海外の国々ともつながって いるということを感じてくれていたように思う。そして以前に比べて、少しずつではあるが、 海外の文化や出来事をより身近に感じることができるようなっていると思われる。 国際理解教育または開発教育で扱うテーマは、英語教師として以前より関心のあるもので あった。しかし「英語を教える」 、つまりテストで点数が取れる力を身につけさせることを優 先して、あまりそれらのテーマを深く考えさせるような授業は今までしてこなかった。今回、 このような取り組みを経て、教科の内容に対する私自身の視点が大きく変わったと感じる。教 材を工夫して提示し、そこから生徒達に考えさせ、他人事ではなく自分の事として捉えさせよ うとするようになった。また、JICA の事前・事後研修で勉強したブレインストーミング、ラ ンキング、フォトランゲージ等の参加学習型の手法も、普段の授業実践の中で大いに役に立っ ている。そして何より、教師として生徒に伝えたいことが以前と比べてはっきりしたと感じて いる。以前から、 「卒業後に活躍できる人材を育てたい」と考えてはいたが、そのイメージは あまり明確ではなかった。一連の研修を経験させていただき、私の目標は次のように変わった。 それは、多様性を理解でき、地球的課題の解決に自ら主体的に取り組み、地球市民の一人とし て卒業後も活躍できる人材を育てたい。という目標である。今後も、開発教育の視点を普段の 実践から大切にしていくつもりであるし、その入口に立てたことは教師として幸せであると感 じている。 Ⅴ 課 題 事前に入手できる情報が少なかったことと、JICA の国際協力の現場をそれほど詳しくは知 らなかったこと、さらに海外に行けば何かしら有意義なものを掴んでくることができるのでは ないかという私自身のあいまいな目的意識が、一連の研修に一貫性を持って取り組めなかった 原因ではなかったかと反省している。そのため、本校生徒及び在パラグアイ日系人対象に実施 したアンケートが今回の授業実践にうまく活かしきれなかった。また、今回のテーマを英語の 授業で行おうとも考えたが、内容と生徒の英語力とのかい離を埋める力量が私にはなかったの で、英語の授業として落としむことができなかった。さらに、国際理解教育を行っていく際の 地理や歴史、国際情勢などの基礎知識が私にはもっと必要だと感じた。ニュース 1 つをとって ― 98 ― 佐藤 健太 も、国内外問わず、必ずどこかでつながってくる。そのような世の中の流れや、生徒が今後生 きていく未来と、教育実践内容を切り離さずに考えていかなければならない。 実施した授業からは、教師の偏っている価値観の押し付けになってはいけないと反省した。 相互の文化や価値観を受け入れるためにも、相互を平等に扱う。どちらかが優れているとか、 劣っているとかを見つけるのではなく、相互の「見方」に気付かせる。 発問一つをとっても「豚 の丸焼きを、なぜ日本人はやらないのか?」ではなく「なぜパラグアイの人は豚の丸焼きをす るのか?」という発問にした方が良かったのではないか、という助言もいただいた。また、他 の教科から生徒が学んでいる既習知識を有機的につなげて、今回テーマをもっと深めることが できればよかったと感じている。原因としては、 1 時間の授業の中に内容を盛り込み過ぎ、生 徒達が熟考する時間が十分ではなかったこと、また生徒の反応に対する教師側の予測が不足し ていたことである。 を加えていきたいと考えている。 関連する学習指導要領の内容と文言 第 2 各活動・学校行事の目標及び内容 〔ホームルーム活動〕 1 目標 ホームルーム活動を通して,望ましい人間関係を形成し,集団の一員としてホームルームや 学校におけるよりよい生活づくりに参画し,諸問題を解決しようとする自主的,実践的な態度 や健全な生活態度を育てる。 2 内容 (2)適応と成長及び健康安全 ア 青年期の悩みや課題とその解決 イ 自己及び他者の個性の理解と尊重 ウ 社会生活における役割の自覚と自己責任 オ コミュニケーション能力の育成と人間関係の確立 キ 国際理解と国際交流 ク 心身の健康と健全な生活態度や規律ある習慣の確立 ●出典・参考図書 ・開発教育実践ハンドブック 参加型学習で世界を感じる [ 改訂版 ] 開発教育協会 ・身近なことから世界と私を考える授業 100円ショップ・コンビニ・牛肉・野宿問題 開発 教育研究会 編著 明石書店 ・スロー・イズ・ビューティフル - 遅さとしての文化 辻 信一 平凡社 ― 99 ― 高等学校 以上のように反省点が多いが、今後も Try and Error の精神を忘れず、自分の実践に改善 4 .教師海外研修を終えて -人生に“種をまく”授業を目指して- ファシリテーターとしてパラグアイに同行するにあたり,主に次のようなことを先生方にアドバイ スさせていただきました。これらを基に,所感を述べさせていただきます。 【研修中】 ①担任は児童・生徒にとって, 「世界への最初の扉」となる。自分なりの視点を大切にして研 修に臨むこと。 ②それぞれの見学地で感じたことを日々整理し,伝えたいテーマを見出すこと。 ③常にアンテナを張り巡らせ,多くのことを発見し,吸収すること。一見して途上国と分かる ような,日本と全く違う環境のみが授業として扱えるのではない。様々な視点を開発するこ とのできる,柔軟性のある“目”を養うこと。 ④まっさらな気持ちで純粋に研修を楽しみ,多くの感動を得ること。それは時に雑談の中に あったり,研修外の“遊び”の中に存在したりする。自分自身の変化を楽しみ,授業作りに 生かすこと。 ⑤仲間との語り合いを大切にし,遠慮なく意見を出し合い,討論を楽しむこと。 パラグアイは「本当に途上国なのか?」と思ってしまうような環境で皆驚いていましたが,そのこ とがかえって授業の視点を見出す過程に深みを与えました。先生方は見学場所で,移動中のバスの中 で,また,毎日の振り返りの場で,疑問に思ったことや互いの考えを遠慮なく出し合いました。また, 現地の人々との触れ合いや学校訪問の中で,人間の本質に触れる場面が多くあり, 『パラグアイを通 して伝えたい普遍的なテーマ』を,それぞれが感じ取ることができました。このことは,今後の授業 作りに幅を与える大きな収穫であると考えます。 【事後研修・実践授業】 ⑥パラグアイを教えるのではなく, 「パラグアイという国を通して何を伝えるのか」が大切。 伝えたいテーマを常に中心に置きながら,スパイラルな授業を構成し,最終的にはテーマに 立ち戻って考えるような流れを工夫すること。 ⑦児童・生徒の実態を正確に把握し,それを踏まえた授業の展開を工夫したり,効果的な手法 を選択したりすること。 ⑧教師自身の個性を生かし,感じたことを伝える場面を,適切な段階に設定すること。 ⑨授業は“種まき”である。感動を中心に据えた授業で児童・生徒の“心”を動かし,その後 の行動に繋げること。 ⑩現存のカリキュラムの中で無理なく継続的に行えるよう,他教科との関連を踏まえて位置づ けること。 ― 101 ― 事後研修では,現地で立てた略案を基に細案を構成しましたが,冷静になって考えを整理し,メモ や写真を見ながら再度自分の伝えたいことを練り直す姿が見られました。実際の授業を組み立てる段 階では,児童・生徒の実態の把握と,効果的な手法の選択が大切です。現地では毎日たくさんのこと を次々見聞きするので混乱気味になり,その場の自分の興奮を押し付けた授業を作成してしまいがち ですが,それではその場限りの継続性のない授業になりかねません。帰国後に児童・生徒と改めて向 き合い,もう一度“何が必要なのか・何を伝えたいのか”を考えて再構成することで,より訴える力 のある授業が出来上がります。また,自分たちが滞在したのはほんの短い期間であることから,思い 込みや一方向からの見方だけを伝える授業に陥らないよう,細心の注意を払う必要もあります。 実践授業については学校事情のためほとんど参観することができませんでしたが,授業案や実践報 告を見聞きし,それぞれの先生方が個性を生かし, “テーマ”を明確にした授業を行うことができた と感じています。事後研修会では様々なアドバイスをいただきましたが,それらをそのまま取り入れ るのではなく,あくまで真摯に受け止めながらも,自分の中でしっかり整理した上で生かしていって ほしいと思います。「自分自身の授業」を作り上げることが,国際理解教育を継続的に実施していく 大きな原動力となるからです。児童・生徒が,今まで気にもしなかったことを改めて考え直したり, 何気なく見てきた風景が違って見えたりする授業,その後の生き方に指針や可能性を与える,まさに その子の“人生に種をまく”授業。そういう授業を展開し続けていくことが,私達教師の大きな役目 です。これからも一緒に頑張っていきましょう! 平成27年度 教師海外研修 パラグアイ同行ファシリテーター 宮城県利府町立青山小学校 教諭 片 平 恵 ― 102 ― 5 .学校・教員のための JICA 開発教育支援メニュー ― 104 ― ― 105 ―