...

博士論文審査結果報告書

by user

on
Category: Documents
20

views

Report

Comments

Transcript

博士論文審査結果報告書
早稲田大学大学院情報生産システム研究科
博士論文審査結果報告書
論
文
題
目
Study on Wideband Voltage Controlled Oscillator and
High Efficiency Power Amplifier ICs for Wireless
Communications
申
請
者
LIU, Qing
情報生産システム工学専攻
高周波回路設計技術研究
2012 年
1
2月
近 年 の 無 線 通 信 端 末 は 種 々 の 通 信 規 格 を 使 用 す る マ ル チ モ ー ド・マ ル チ バ
ン ド 対 応 に な っ て い る 。例 え ば 、携 帯 電 話 が 無 線 LAN(Local Area Network)
や Bluetooth な ど の 通 信 機 能 を 含 ん で い る 。 マ ル チ モ ー ド ・ マ ル チ バ ン ド 通
信端末においては、1)いかに種々の周波数バンドを発振する電圧制御発振
器 ( V C O : Vo l t a g e C o n t r o l l e d O s c i l l a t o r ) を 実 現 す る か は 極 め て 重 要 な 設 計 課
題である。また、無線通信端末が種々の通信を行うため、消費電力が増大し
通信時間(1回の電池充電による使用時間)が短くなる。無線通信端末にお
い て は パ ワ ー ア ン プ( PA : P o w e r A m p l i f i e r )の 消 費 電 力 が 極 め て 大 き い た め 、
通 信 時 間 伸 張 に は 2 )PA の 高 効 率 化 が 必 須 で あ る 。 ま た 、高 速 ・ 大 容 量 無 線
通 信 を 実 現 す る た め QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)や 64QAM(64
Quadrature Amplitude Modulation)な ど の ベ ク ト ル 変 調 が 用 い ら れ て お り 、
こ れ ら の 変 調 波 の PA R ( P e a k t o Av e r a g e P o w e r R a t i o ) は 極 め て 高 い た め 、
3 ) PA の 線 形 性 は 通 信 シ ス テ ム の 根 幹 を 決 め る 重 要 な 性 能 指 数 で あ る 。
1 ) の 課 題 に 対 し て 、 従 来 、 種 々 の 周 波 数 バ ン ド に 対 応 し た 複 数 の VCO
を 高 周 波 ト ラ ン シ ー バ LSI 内 に 集 積 す る こ と に よ り 、マ ル チ バ ン ド ・ マ ル チ
モ ー ド 化 を 実 現 し て い る 。し か し 、V C O を 複 数 個 集 積 す る こ と は 高 周 波 ト ラ
ン シ ー バ L S I の チ ッ プ サ イ ズ と 製 造 コ ス ト を 増 大 さ せ る 。従 っ て 、V C O の 広
帯 域 化 は 高 周 波 ト ラ ン シ ー バ LSI の 小 型 化 と 低 コ ス ト 化 を 実 現 す る 上 で 極 め
て 重 要 な 課 題 で あ る 。 一 般 に 、 VCO の 性 能 は 、 Ⅰ ) 発 振 周 波 数 帯 域 ( 動 作 周
波数とその帯域幅)Ⅱ)位相雑音、Ⅲ)消費電力により評価される。これら
3 種 類 の 性 能 は ト レ ー ド オ フ の 関 係 に あ る 。 従 っ て 、 VCO の 性 能 を 評 価 す る
た め の 性 能 指 数 F O M _ T ( F i g u r e O f M e r i t _ Tu n i n g r a n g e ) が 提 案 さ れ 、 V C O
の 評 価 に 広 く 用 い ら れ て い る 。従 っ て 、高 い F O M _ T を 有 す る 広 帯 域 V C O が 、
高 性 能 ・ 低 コ ス ト 高 周 波 ト ラ ン シ ー バ LSI 実 現 の た め の 重 要 課 題 で あ る 。
2 )PA の 高 効 率 化 と 3 )高 線 形 化 の 課 題 は 、ト レ ー ド オ フ の 関 係 に あ る 。
線 形 性 を 高 め る に は 、 PA に 用 い る ト ラ ン ジ ス タ を A 級 ま た は A B 級 で 動 作
さ せ る 手 法 が 一 般 的 で あ り 、効 率 を 改 善 す る に は ト ラ ン ジ ス タ は B 級 ま た は
C 級で動作させる手法が用いられる。しかし、前者の効率は後者の半分程度
に な り 、ま た 、後 者 の 線 形 性 は 高 い PA R の 変 調 波 を 用 い る 無 線 通 信 規 格 を 満
た せ な い 。従 っ て 、通 信 規 格 を 満 た し た 上 で い か に 高 効 率 化 を 実 現 す る か が 、
PA の 重 要 な 設 計 課 題 で あ る 。こ の ト レ ー ド オ フ を 解 決 す る に は 、高 性 能 ト ラ
ン ジ ス タ が 有 効 で あ り 、 従 来 は 化 合 物 半 導 体 (GaAs や SiGe)が 用 い ら れ て き
た 。 し か し 、 高 周 波 ト ラ ン シ ー バ LSI は Si CMOS 技 術 を 用 い て 設 計 ・ 製 造
さ れ て い る た め 、 化 合 物 半 導 体 を 用 い た PA は L S I の 高 集 積 化 ・ 低 コ ス ト 化
の 障 害 と な っ て い る 。 従 っ て 、 S i C M O S 技 術 を 用 い た 高 効 率 ・ 高 線 形 PA は
高 周 波 ト ラ ン シ ー バ LSI の 低 コ ス ト 化 と 通 信 端 末 の 小 型 化 に 極 め て 有 効 で あ
る。
本 研 究 で は 、高 性 能 ト ラ ン シ ー バ を 実 現 す る 重 要 課 題 で あ る 、高 い F O M _ T
を 有 す る 広 帯 域 V C O を 実 現 す る こ と 、高 効 率 ・ 高 線 形 PA を 実 現 す る こ と を
2
目的として、新規回路を提案し、回路シミュレーションとチップ試作(大学
外 部 に 委 託 )、チ ッ プ 評 価 を 行 う こ と で 新 規 回 路 の 有 効 性 を 実 証 し て い る 。以
下に、各章の概要について述べ、評価を加える。
第 1 章 「 Introduction」 で は 、 本 研 究 の 研 究 背 景 と 目 的 、 重 要 性 に つ い て
述 べ 、 広 帯 域 V C O と PA が 果 た す 役 割 と 位 置 づ け を 明 確 に し て い る 。
第 2 章 「 N o v e l Wi d e b a n d L C V C O I C 」 で は 、 V C O I C の 広 帯 域 化 の 研 究
に つ い て 述 べ て い る 。こ こ で は 、V C O の 動 作 周 波 数 を 決 定 す る 共 振 回 路 に 注
目 し 、 そ の 広 帯 域 化 の た め 、 ⅰ ) ト ラ ン ス フ ォ ー マ と A M O S( A c c u m u l a t i o n
MOS) 可 変 容 量 を 組 み 合 わ せ た 可 変 イ ン ダ ク タ と 、 ⅱ ) 可 変 容 量 値 を 増 加 さ
せ る た め に A M O S 可 変 容 量 を 並 列 接 続 し た 回 路 を 提 案 し て い る 。具 体 的 に は 、
ⅰ)1次側インダクタと2次側インダクタを磁界結合させることでトランス
フ ォ ー マ を 形 成 し 、2 次 側 イ ン ダ ク タ に 直 列 に A M O S 可 変 容 量 を 接 続 し 、該
AMOS の 両 端 電 圧 を 周 波 数 制 御 電 圧 と す る こ と で 、イ ン ダ ク タ ン ス 値 は 広 範
囲 に か つ 精 細 に 可 変 可 能 と な る ( F i n e Tu n i n g )。 さ ら に 、 ト ラ ン ス フ ォ ー マ
を2種類設計し、それぞれにスイッチを接続することで、インダクタンス値
を 大 き く 切 り 替 え る こ と が 可 能 と な る( C o u r s e Tu n i n g )。こ の 2 種 類 の チ ュ
ーニングを組み合わせることで制御電圧の変化に対して広範囲なインダクタ
ン ス 変 化 を 実 現 し て い る 。 こ れ ら の 効 果 を 確 認 す る た め 、 0.13µm CMOS プ
ロ セ ス を 用 い て 、 V C O I C を 設 計 ・ 試 作 ( 大 学 外 部 に 委 託 )・ 評 価 を 行 っ て い
る 。 試 作 さ れ た VCO IC を 評 価 し た 結 果 、 発 振 周 波 数 は 1.2GHz~ 3.27GHz
の広帯域特性が確認されている。この発振周波数帯域は第3世代携帯電話や
無 線 LAN な ど の 無 線 通 信 規 格 を 網 羅 し て い る 。 こ れ を 帯 域 に 換 算 す る と
92.6 %に な り 、 性 能 指 数 ( FOM_T) は - 195 dBc/Hz で あ る 。 同 様 の CMOS
プ ロ セ ス を 用 い た 従 来 の VCO は 帯 域 が 50~ 70%で あ り 、 そ れ ら の FOM_T
は - 1 7 0 ~ - 1 8 0 d B c / H z 程 度 な の で( F O M _ T は 絶 対 値 が 大 き い ほ ど 高 性 能 )、
新 規 広 帯 域 VCO の 有 効 性 が 実 証 さ れ て い る 。 ま た 、 本 VCO IC の 面 積 は
0.58mm2 で あ り 、 従 来 の 狭 帯 域 発 振 器( 発 振 帯 域 は 10%程 度 )の 面 積 の 約 2
倍にすぎない。従って、複数の発振器を集積する場合に比べて、トランシー
バ LSI の 小 型 化 と 低 コ ス ト 化 に 有 効 で あ る 。
第 3 章「 H i g h L i n e a r i t y a n d H i g h E f f i c i e n c y PA I C 」で は 、PA の 高 効 率 ・
高 線 形 化 の 研 究 に つ い て 述 べ て い る 。 動 作 周 波 数 は 5.8GHz で あ り 、 DSRC
( Dedicated Short Range Communication) 規 格 を 用 い て い る 。 ト ラ ン ジ ス
タの非線形性で通信に悪影響を及ぼす(チャネル間リークなど)重大なもの
は3次歪みが主な原因である。そこで、トランジスタのトランスコンダクタ
ンスの3次歪みに着目し、その歪みを有効に補正し、かつ効率改善のための
新 し い 回 路 方 式 を 提 案 し て い る 。従 来 、PA に よ く 用 い ら れ て き た カ ス コ ー ド
トランジスタの上段にあるゲート接地トランジスタを2種類並列接続し、そ
れ ぞ れ を AB 級 と B 級 に バ イ ア ス す る 方 式 を 提 案 し て い る 。 本 方 式 で は 、 B
級 ト ラ ン ジ ス タ が PA の 効 率 を 改 善 す る と と も に 、A B 級 ト ラ ン ジ ス タ の ト ラ
3
ン ス コ ン ダ ク タ ン ス の 3 次 歪 み を 補 正 す る 機 能 を 有 し て い る 。 本 PA は 、
0.13µm CMOS プ ロ セ ス を 用 い て 設 計 、 試 作 ( 大 学 外 部 に 委 託 ) し 、 評 価 を
行 っ て い る 。 そ の 結 果 、 線 形 出 力 = 17.3 dBm で 効 率 = 32%が 得 ら れ て い る 。
従 来 の C M O S PA の 効 率 が 2 5 % 以 下 で あ る の で 、 本 回 路 方 式 に よ り 7 % の 高
効 率 化 が 確 認 さ れ て い る 。 ま た 、 3 次 歪 み ( IM3:Third-order
Inter-modulation)を 評 価 し た 結 果 、従 来 回 路 よ り も 6dB 以 上 の 改 善 が 得 ら
れており、新しい回路方式が有効であることが実証されている。
第 4 章 「 C M O S C l a s s - G S u p p l y M o d u l a t i o n f o r P o l a r PA s w i t h H i g h
Av e r a g e E f f i c i e n c y a n d L o w R i p p l e N o i s e 」 で は 、 G 級 ア ン プ を 改 善 し た 新
規回路の提案を行っている。G 級アンプは、ベースバンドでの信号処理を利
用して、低周波の変調波信号のエンベロープと高周波信号を分離して増幅を
行 い 、PA 全 体 の 効 率 を 改 善 す る 。 し か し 、 そ の 際 、低 周 波 回 路 で 発 生 す る ノ
イ ズ が PA の 線 形 性 を 悪 化 さ せ 、 効 率 低 下 を 招 く 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 ノ
イズフィルタを2段構成とし、また、電源を2系統とすることで、ダイナミ
ッ ク レ ン ジ を 従 来 回 路 の 55 dBc か ら 73dBc へ と 改 善 し て い る 。 さ ら に 、 電
源を2系統にしたことにより、入力信号の電力に応じて電源電圧を切り替え
る こ と が 可 能 と な る 。 次 に 、 同 じ PA を 用 い て 、 ベ ー ス バ ン ド を 含 む 全 体 回
路について、従来例と本提案回路の特性を回路シミュレーションにより比較
を 行 っ て い る 。そ の 結 果 、従 来 の G 級 ア ン プ の 平 均 効 率 が 22.2%で あ る の に
対 し て 、 本 提 案 回 路 で は 平 均 効 率 2 9 . 3 % が 得 ら れ て お り 、 本 回 路 方 式 は PA
の高効率化に有効であることが確認されている。
第 5 章 「 C o n c l u s i o n s a n d F u t u r e Wo r k 」 で は 、 本 研 究 を 総 括 し 、 新 規 提
案 の 広 帯 域 V C O と PA の 特 性 と 有 効 性 を ま と め て い る 。ま た 、こ れ ら の 回 路
のさらなる性能向上に向けた今後の研究の方向性について述べている。
以上を要約すると、本研究は、無線通信機器のマルチモード・マルチバン
ド 化 に お け る 重 要 な 設 計 課 題 で あ る 、 1 ) VCO の 広 帯 域 化 ・ 小 型 化 、 2 ) パ
ワーアンプの高効率化・高線形化について、新規回路を提案し、評価を行う
ことで、その有効性を実証している。その性能は従来回路と比較して格段の
向 上 が 確 認 さ れ て お り 、今 後 の 無 線 通 信 機 器 な ら び に 高 周 波 L S I の 発 展 に 寄
与すること大である。よって、本論文は博士(工学)の学位論文として価値
あるものと認める。
2012 年 2 月 3 日
審査員
主査
早稲田大学教授
博士(学術) (神戸大学)
吉増
敏彦
早稲田大学教授
博士(工学) (早稲田大学)
井上
靖秋
早稲田大学教授
工学博士
(大阪大学)
吉原
務
九州大学准教授
博士(工学) (九州大学)
金谷
晴一
4
Fly UP