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外国人留学生の キャリア支援
2016 12 Journal of Industry-Academia-Government Collaboration Vol.12 No.12 2016 特集 https://sangakukan.jp/journal/ 外国人留学生の キャリア支援 ■ 外国人博士課程留学生と企業とのマッチング ■ 早稲田大学の外国人留学生へのキャリア支援と課題 ■ 合同企業説明会「グローバルジョブフェア」で留学生の就職活動を支援 ナノ化鉄チタン水素吸蔵合金タンクの 実用化 再生医療で重症心不全患者を救う 巻 頭 言 ミツバチは泣いている 山口喜久二 ……… 3 特 集 外国人留学生のキャリア支援 CONTENTS 外国人博士課程留学生と企業とのマッチング 早稲田大学の外国人留学生へのキャリア支援と課題 合同企業説明会「グローバルジョブフェア」で 留学生の就職活動を支援 佐々木ひとみ ……… 8 川上尚恵 / 朴 鍾祐 …… 12 食の臨床試験システム「江別モデル」 ─食と健康のイノベーション─ 西平 順 …… 16 デザインパテントコンテストで知財を学ぶ ─大分県立芸術文化短期大学の挑戦─ 野田佳邦 …… 19 ナノ化鉄チタン水素吸蔵合金タンクの実用化 ─再生可能エネルギーの電力を水素で貯蔵─ 内田裕久 …… 23 再生医療で重症心不全患者を救う 産連 PLUS + 2 飯田良親 ……… 4 …… 25 学生のアイデアを企業の技術で具現化する「具現化ソン」 …… 28 視点 / 編集後記 …… 31 Vol.12 No.12 2016 デザインパテントコンテストで知財を学ぶ ―大分県立芸術文化短期大学の挑戦― 大分県立芸術文化短期大学(以下「本学」 )は九州唯一の公立短期大学であり、 特に芸術系と人文系の学科を備えている点が特徴的で、4 学科(美術科・音楽科・ 国際総合学科・情報コミュニケーション学科)および 2 専攻科(造形専攻・音 楽専攻)から構成される。教員数は約 50 人、学生数は約 900 人という比較的 規模の小さな大学ではあるが、むしろ小規模であることを生かし、学科横断的な 幅広い教養教育や担任制による学生支援を実現している。 野田 佳邦 ■大分県立芸術文化短期大学の産学官連携 本学は、各学科の特色を生かすことで地域貢献と学生教育の両方を狙った活動 を実施している。例えば、学生が県内各地の小学校を訪れて子どもたちと一緒に のだ よしくに 大分県立芸術文化短期 大 学 情 報 コ ミ ュ ニ ケ ー ション学科・講師(弁理士) なって作品作りを体験する「地域ふれあいアート講座」 (美術科) 、学生と教員が 県内各地の小中学校で演奏会を開き、クラシック音楽の楽しさや素晴らしさを 伝える「地域巡回演奏会」(音楽科)、毎年 11 月に開催される大分国際車いすマ ラソン大会において、学生たちが通訳ボランティアを行う「大分国際車いすマラ ソン大会の運営ボランティア」 (国際総合学科) 、県内各地に出掛け、そのコミュ ニティーのニーズに応じた活動を行うことで、大学で学んだことを地域で生か し、活動することで学びの意義を知る「サービスラーニング」 (情報コミュニケー ション学科)などである。 特に、情報コミュニケーション学科のサービスラーニングは「産」 「官」と協 力して行う活動が多いため、いわゆる「社会貢献系産官学連携」** 1 に分類され、 広い意味では産学官連携活動に該当する。 また、契約金額は小規模だが、美術科では教員および学生が、産業界や自治体 などからデザイン開発を受託する機会がしばしばあり、大学全体で見ると、契約 ** 1 南了太 . 人文社会科学系産 官学連携の一考察 . 産学連 携学会第 14 回大会予稿集 . 2016 年 6 月 .p.104-105. を伴う事業系産学官連携も年間数件から十数件の規模で実施している。学生が生 み出したパッケージデザインが企業に採用され、コンビニエンスストアで販売さ れた実績もある** 2。 このように、本学では学科構成の特性上、特許権よりはむしろ著作権、意匠権、 受託契約などに関するマネジメントが必要とされる。しかし、総合大学のように産 学官連携分野のマネジメントの専門的機構や、専任スタッフを設けることはリソー スの点から困難である。 そのような事情から、これまで大学として意匠登録出願などの権利化手続きを 行った実績はなく、学内で創出される知的財産(以下「知財」 )の管理ポリシーも ** 2 大 分 県 職 員 研 修 所 .“ 平 成 23年 度「 地 域 政 策スクー ル 」研 究 報 告 書 ”. 公 益 財 団法人大分県自治人材育 成 セ ン タ ー .http://ojic. or.jp/wp-content/uploa ds/2010/08/bd76825dc1 20bf0fd120afb580ead1a d.pdf, (accessed2016-12-15). 明確には規定されていない。産学官連携活動で知財が創出された場合については 個々の契約において管理している。本学の現状に鑑みると、教員、事務職員、学生 を含む大学全体としての知財マインドの向上が当面の課題である。 Vol.12 No.12 2016 19 ■デザインパテントコンテストとは デザインパテントコンテスト** 3 は、高校生、高専生、大学生の知財制度の理 解向上を目的として、文部科学省、特許庁、日本弁理士会、独立行政法人工業所 有権情報・研修館が開催するコンテストであり、入選した創作については意匠登 録出願の支援が受けられる。2009 年度から毎年開催されており、特許権を対象 としたパテントコンテストと同時開催という形をとっている。 ** 3 “デザインパテントコンテス ト ”. 独 立 行 政 法 人 工 業 所 有権情報・研修館 . http:// www.inpit.go.jp/jinzai/ contest/design_patent/, (accessed2016-12-15). 学生がコンテストに応募する場合の簡単な流れ ①映像コンテンツの視聴または意匠制度セミナーの受講により意匠制度を学ぶ ②自分で物品のデザイン(ただし、意匠法の保護対象となるもの)を創作する ③創作したデザインを応募書類に記載して応募する ④選考の結果、優れたデザインが表彰される ⑤表彰された学生のもとに弁理士が派遣され特許庁に意匠登録出願を行う 社会人となる前に実際の意匠登録出願を経験できる点、意匠登録出願に掛かる 費用(出願料、弁理士費用)および意匠権を取得できた場合の登録料(2016 年度 コンテストでは 3 年分)を主催者に負担してもらえる点が大きなメリットである。 * 1 2016 年 度 か ら は 過 去 の 入 選作品リストが画像付きで 公開されている。 ** 4 ■ 2015 年度デザインパテントコンテストの取り組み 本学は芸術系・人文系から構成されるため、当コンテストと相性が良いのでは ないかと考え、2015 年 4 月に着任してすぐに学内で呼び掛けを開始した。本学 はこれまで当コンテストへの応募経験が無かったため、最初は他の教員および学 “特許・実用新案、意匠、商 標 の 簡 易 検 索 ”.J-PlatPat 特 許 情 報 プ ラ ッ ト ホ ー ム . https://www.j-platpat. inpit.go.jp/web/all/top/ BTmTopPage, (accessed2016-12-15). 生に対してコンテストの趣旨と概要を説明することから始めた。コンテストへの 呼び掛けを行う意義として、人文系の学生には、情報リテラシー教育 の一環として知財制度にも関心を持ってもらいたい、芸術系の学生に は、作品を作るだけではなく生み出した作品を適切に保護および活用 する意識を持ってもらいたいという狙いがあった。 呼び掛けに当たっては、コンテストの趣旨やメリットはもちろんで あるが、 「十分に勝負できるコンテストであること」を強調するよう心 掛けた。そのためには具体的な過去の入選作品を見てもらうことが効 果的である。コンテストの公式サイトに公開されている入選校、入選 写真 1 応募に向けたミーティング 者名、作品名称の情報からは具体的な入選作品をイメージすることが 困難であったため* 1、J-PlatPat ** 4 の意匠公報検索などを利用して調 査を行い、意匠登録公報の図面を紹介するなどして、入選作品の創作 レベルや作品ジャンルの多様性を把握してもらうよう努めた。その結 果、6 月には美術科デザイン専攻の 2 人の学生が応募の意思を固め、主 に夏休み期間を利用して応募に向けた指導を行った(写真 1) 。創作や 六面図の作成に関する部分は美術科の教員が担当し、知財制度の説明 や応募書類作成に関する部分は私が指導するという役割分担で進めた。 20 Vol.12 No.12 2016 写真 2 2015 年度デザインパテントコンテスト 表彰式 結果、1 人の作品が入選し、学内における取り組みが評価され、本学も「文 部科学省科学技術・学術政策局長賞」を受賞した(写真 2) 。入選学生について は、意匠権取得へ向けて弁理士指導のもと意匠登録出願を行ったところであり、 2016 年 9 月現在、特許庁の審査結果待ちである。 ■コンテストの効果 コンテストの効果として、実社会における活躍を意識した実践的な活動ができ る点がある。学生は自分の力でアイデアを出し、他者を意識してそれを文章や図 面で表現する。そして、デザインを保護・活用するための知財について学び、権 利化についての実務を知る。その際、他者の権利に抵触しないよう注意しなけれ ばならないという意識が芽生え、必要となる先行意匠調査の手法も学ぶ。短期大 学は 2 年間という短い時間で社会に出るための学生を育てるところであるから、 このような実践的教育を行うことのできるコンテストの存在は大変貴重である。 また、学内で知財意識の変化が見られたこともコンテストの効果である。コン テストの周知活動を通じて、ものづくりを行う多くの学生が意匠権について知る きっかけをつくることができ、さらに、実際にコンテストに応募した学生に対し ては、制度内容や手続き面のより深い部分を指導することができた。入選した学 生はコンテストを振り返って、今までに無いものを考えるのが難しかったこと、 ものづくりを行う上でマーケティング調査だけでなく、先行意匠調査を行う視点 が身に付いたことを述べている** 5。コンテスト応募に向けた書類作成を通して、 ユーザーニーズ志向のものづくりから一歩進み、創出するデザインの適切な保護・ 活用を意識したビジネス的視点が得られたことがうかがえる。すなわち、単にプ ロダクトアウトかマーケットインかということではなく、他者の権利を尊重する ビジネスルールや自身のデザインをビジネスに結び付けるツールとしての意匠権 ** 5 “デザインパテントコンテス トの入選学生による意匠登 録出願が終わりました”. 大 分 県 立 芸 術 文 化 短 期 大 学 . http://www.oita-pjc.ac. jp/news/detail/820, (accessed2016-12-15). を理解した上でものづくりを行う、そのような新しい意識が芽生えたといえる。 さらに、応募した学生だけでなく、大学としても知財マインドの向上が見られ た。コンテストの周知や結果報告を行う過程で、学内に「知的財産」あるいは「意 匠権」というキーワードを広めることができたため、同僚である教職員から知財 に関する実務的な相談を受ける機会が増えた。また、独創的な創作品を完成させ 卒業後にビジネス展開を考えている学生から、意匠権や実用新案権の相談を受け ることもあった。知財を専門とする教員が学内に存在する事実が認識されただけ でも大きな効果であったといえる。 デザインパテントコンテストへの初めての取り組みは、本学の新しい魅力と可 能性を引き出すきっかけになったと同時に、今後本学における芸術系・人文系の 産学官連携活動、特にクリエーティブな分野における活動を活性化していく上で 土台となる学内の知財マインド向上に大きく役立った。 ■両面指導の実現と今後の展望 2015 年度の取り組みを振り返ると、デザインと知財の両面指導を実現できた Vol.12 No.12 2016 21 点が特徴的であったと感じる。例えば芸術系の大学で、デザインの教員が当コン テストの指導を行うことはあるが** 6、デザインの教員と知財の教員が 2 人体制 でそれぞれの専門領域の指導を行ってコンテストに臨むことは珍しいのではない だろうか。両面指導によって、デザインと知財という二つの専門領域の教育効果 がシナジーとして期待できる。私は知財の人間なので、知財マインド普及の難し さを承知しているつもりであるが、当コンテストで知財面を指導するという形を ** 6 森下眞行 . デザインパテン トコンテストのデザイン 教育での効果と課題 . 月刊 パ テ ン ト . 日 本 弁 理 士 会 . 2013,vol. 66,no. 2,p. 55-62. 取ることにより、結果的に学内外に知財の存在や重要性をアピールするいい機会 となった。 総合大学には知財専門の教職員がいる場合があるので、コンテストの呼び掛け という形で、知財側から専門学部側に積極的にアプローチしていくことは有効な 手法であると考える。デザインパテントコンテストと併せてパテントコンテスト も呼び掛けの対象とすれば、学内のあらゆる分野との連携が期待できる。 デザインの権利化が実現すれば、県内の公的機関を活用して マッチングを図り、地域の産業界との連携を行うことでビジネス 化を進めていく予定である。2016 年度もデザインパテントコン テストの応募者を募り、夏期休暇を活用してコンテストへの応募 指導を行い、学生 2 人が応募済みである。2015 年度の反省点は、 学生へコンテストの応募を呼び掛けた際に、意匠制度の内容につ いてはごく簡潔に紹介するにとどまったことである。応募を決め た学生にはミーティングの場で意匠制度について教えることがで きたが、この手法では意匠制度を学ぶことのできる学生がコンテ 写真 3 2016 年度デザインパテントコンテスト説明会 スト応募者に限定されてしまう。そこで 2016 年度は、学内でコ ンテストの説明会を開催し、説明会に参加した学生にはコンテスト応募の意思に 関わらず意匠制度を学んでもらう形式とした(写真 3) 。今後も過去の取り組み を振り返りながら改善していきたい。 ■おわりに 産学官連携活動におけるデザイン分野の活躍はますます期待されている** 7。 実施件数は増加傾向にあるが、美術・デザイン系大学に関しては、国立・総合大 学と比較して、知財管理体制の整備不足、契約交渉や学内規程に関するマネジメ ント不足** 8 が指摘されている。実務上の観点から知財に関する意識は必要不可 欠であるため、大学の規模や産学官連携の実施件数に関わらず、教職員・学生を 含む全学的な知財マインドの向上が急務である。しかし、課題意識はあっても解 決の糸口がつかめない教育機関も少なからずある。その観点からも、デザインパ テントコンテストは、教員・学生を含めた大学全体の知財マインドの底上げに貢 献する可能性を秘めている。 「素晴らしいデザインでコンテストに入選して意匠 権を得る」という分かりやすい目標を掲げることで、学内に広く知財を意識させ ることが可能であり、本学のように知財そのものの認識率向上を課題とする教育 機関にとって、その課題解決に有効な取り組みであると実感している。 22 Vol.12 No.12 2016 ** 7 “特集 デザインの力で地域 活性” . 産学官連携ジャーナ ル 2016 年 6 月号 .https:// sangakukan.jp/journal/ j o u r n a l _ c o n t e n t s / 2016/06/contents/1606_ contents.html. (accessed2016-12-15). ** 8 平成 22 年度特許庁大学知財 研究推進事業 .大学発デザイ ンの産学連携及びその保護 の取り組みに関する研究報 告書 . 三菱 UFJ リサーチ& コンサルティング株式会社 . 2011.213p.