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欧州の電力市場の状況について(その 2)
情 報 報 告 ウィーン 欧州の電力市場の状況について(その2) 4 月 28 日、29 日にドイツ・Berlin で開催された欧州の電力市場に関する会議(European Power Summit)が開催された。主催は PLATTS 社(英国)である。 今回は、ドイツのビジネススクールの European School of Management and Technology とベルギーの廃棄物からのエネルギー回収施設連盟の講演を報告する。 3.自律に近いエネルギー社会 ~ドイツの開放と革命の傾向の調査~ Christoph Burger氏、European School of Management and Technology (ドイツ) 3.1 ESMTについて European School of Management and Technology(以下、EMST)は、企業によって設立 されたビジネススクールであり、主な特徴は以下のとおりである。 ・海外展開や欧州の独自性を持ったビジネススクールを創ることが目標であった25の世界 的企業や研究機関によって、2002年にドイツで設立された。 ・ドイツ語圏のエグゼクティブ教育プログラムを実施するKölnに近いSchloss Gracht (Gracht校)を補完する学校が、欧州の中心であるBerlinを拠点としている ・包括的なプログラムのポートフォリオ:フルタイムMBA過程、現在100人以上の生徒が いるエグゼクティブMBA過程、公開短期プログラム、個別および共同のプログラム ・2003年以降、12,000人以上が、エグゼクティブ教育プログラムを終了した ・32人の教授と19ヵ国からの教職員 ・ビジネススクールの国際認証機関であるAACSB、AMBA、FIBAAの認証を受けている ・2013年のエグゼクティブ教育プログラムの「Financial Times」の世界ビジネスすくルー ルランキング(FTランキング)において、世界中で第20位、欧州で第12位、ドイツでは第1 位であった。 ・教育や研究の面で、エネルギー業界(電力、ガス、他)で事業を行う企業からの支援も受け ている(図3-1 参照)。 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図 3-1 EMST の設立者および後援者 ― 38 ― 情報報告 ウィーン 3本柱に基づいて、エネルギーと持続可能性の分野に統合的に取り組んでいる ①エグゼクティブ教育 ESMTは、企業に合わせたプログラムやワークショップを提供している。 プログラムは、競争力のある差別化、意思決定のためのツール、新しいビジネスモデ ルの特定と評価の方法に焦点をあてている。 ②シンクタンク ESMTは、業界、政界および学術機関の間の意見交換のためのプラットホームとして機 能している ③研究 ESMTでのエネルギーの研究では、革新性、新しいビジネス戦略、エネルギーのバリュ ーチェーンに沿った変化に焦点をあてている。 マクロ的視点では、革新的な政策やエネルギー供給業界の統合化に焦点をあてている 一方で、ミクロ的視点では、企業の意思決定、個々の企業の革新性や戦略的方向性の 組織的実施を検討している。 3.2 自律に近いエネルギー社会の資金の調達方法について (1) Energiewende(エネルギーの大転換):民間の力によって動かされている ①再生可能エネルギーの発展 図3-2に、ドイツにおけるエネルギー政策および主要な再生可能エネルギー技術による 発電量の推移を示す。1990年時点では、再生可能エネルギーからの発電量は、17.1テラ ワット時(TWh)で、総電力消費量に対して3.1%しか占めていなかった。1991年に、再生 可能エネルギーに対する支援を目的とした『電力供給法』が施行されたが、あまり拡大 はしなかった。そして、2000年の『再生可能エネルギー法(以下、EEG)』では、総消費 エネルギーに占める再生可能エネルギー割合、系統管理者に対する再生可能エネルギー 由来の電力の接続義務と固定価格買取り制度(FIT)の導入などが行われたことで、大きく 拡大した。さらに、経済規模の拡大や様々な再生可能技術の進歩などから、2012年には、 136.1TWhの発電を行い、総電力消費量に対して22.9%を占めるまで拡大した。 ②再生可能エネルギーの所有者 図3-3に、2012年のドイツにおける再生可能エネルギーの設備容量に占める所有者の内 訳を示す。従来のユーティリティ大手が所有する容量よりも、その他の民間の個人および 団体が所有する容量の方が多い。 ― 39 ― 情報報告 ウィーン (EEG の 改正) 発電量(TWh) (EEG の改正) (EEG の改正) (再生可能 エネルギー法 :EEG) (電力供給法) 年 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図 3-2 ドイツにおける再生可能エネルギー電力の内訳と推移 一般個人 農場経営者 関連業界 プロジェクト会社 投資ファンド/銀行 他のエネルギー供給事業者 ユーティリティ大手 4 社 (E.ON,EnBW、RWE、Vattenfall) その他 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図 3-3 ドイツにおける再生可能エネルギー設備の所有者の内訳 ― 40 ― 情報報告 ウィーン (2) 誰が支払うのか? ①顧客は受動的 図3-4に、ドイツにおける2009年から2013年の住宅用電気料金の内訳と推移について示 す。2013年には料金の約半分が税金となっているが、電気を使用する全員が支払う必要が 電気料金(ユーロセント/kWh) ある。 洋上風力義務割当 送電委託費政令第 19 条による賦課金 電気税(電力消費にかかる環境税) コージェネ賦課金 EEG 賦課金 コンセッション料金 付加価値税 発電、送電、配電、販売管理費 年 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図3-4 ドイツにおける住宅用電力の内訳 ②所有者 図3-5に示すとおり、ドイツには、888のエネルギー協同組合があり、その目的と合意 は次のとおりである。 •「Energiewende」への貢献 •地方の価値創出の強化 •投資の機会 団体数 •供給事業者からの独立 年 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図3-5 ドイツにおける協同組合数の推移 ― 41 ― 情報報告 ウィーン ③顧客の意識の変化 地方(または地域)経営企業である“Stadtwerke”は、過去から各地域の配電・小売り を担っており、電力供給事業を運営するノウハウが蓄積されている。地域に密着した “Stadtwerke”を介した局所的(または地域的)なエネルギー生産は、自治体のイメージ 向上にも使われている。 3.3 非エネルギー企業の市場への参入方法 (1) バリューチェーンの変化 図3-6に、現在のドイツの電力供給におけるバリューチェーンでの動きを示す。従来のビ ジネスモデルとしては、一次燃料に始まり、大型発電所からの電力を最終消費者に一方向 で供給してきたが、再生可能エネルギーの普及によって、大型発電所が洋上や陸上風力発 電所に変わり、貯蔵またはコージェネ(CHP)や太陽光(PV)発電のような生産消費者が多くな った。また、デマンド・レスポンスや建築物のエネルギー効率性など、消費量を低減する 技術も進化している。ドイツのエネルギー転換によって、優れた技術とアイデアを持つ企 業が参入できる機会が容易となったことで、新たな競合グループが、電力の供給業界で確 立されているビジネスモデルを脅かしている。その例として、BMW社のような大企業が風 力発電を手掛け、その電力を生産過程で使用し、Younicos社のようなスタートアップの貯 蔵技術を生かしたソリューションなどがある。 ユーティリティシステムの統合/グリッドの最適化 探索&輸送 エリアネットワークの構築 消費量低減 従来のビジネスモデル 一次 燃料 大型発電 化石/原子力 取引き 送電 配電 小売り 最終 消費者 デンマンド レスポンス エネルギー 性能契約 大型発電 再生可能エネ 貯蔵 生産消費者 (CHP/PV) 建築物 効率性 再生可能エネルギーの影響 発 電 貯蔵 CHP/VPP※ スマートホーム 管理システム ※CHP:コージェネ、VPP:仮想発電所 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図3-6 ドイツの電力供給におけるバリューチェーンの現況 エネルギー転換によるバリューチェーンの変化の要点は、次の2点と考えている。 ・再生可能エネルギーによるエネルギー生産は、バリューチェーンを壊す要因ではない。 破壊的要因は、顧客自らがエネルギー生産できるようになったことで、バリューチェ ーンの流れを逆方向に変えていることである。 ― 42 ― 情報報告 ウィーン ・過去にも革新的技術によって大きく変化してきた。通常、そのような技術を持った中 小企業が市場に参入することで起きるが、このような破壊的要因は異質なものである。 例えば、Deutsche Telekom社などは、本来の事業分野ですでに革新的技術による市場 の変化を経験してきているので、どのように対応するかを知っている。一方で、大企 業は大きな資金力を生かして、懸念される市場確保に向けて努力するだろう。 (2) MeteoViva社 ドイツのスタートアップのMeteoViva社のMeteoViva ® Climateでは、各地域の天気予報 を使って、室内温度を予測して冷暖房需要を最適化することで、エネルギー消費量とコス トの削減を提案している。同社の技術は、Frankfurtにある新しい欧州中央銀行本店の冷暖 暖房出力(kW) 室内の壁温/外気温度(℃) 房にコンセプトにも採用されている(図3-7 参照)。 時間 暖房出力(kW) 室内壁温/外気温度(℃) (a)時間あたりの変化 時間 (b)1 日あたりの変化 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図3-7 MeteoViva社のサービス例 ― 43 ― 情報報告 ウィーン (3) LichtBlick社とVolkswagen社 クリーンエネルギー小売りのLichtBlick社と自動車メーカ大手のVolkswagen社は提携し て、仮想発電所(以下、VPP)に、Volkswagen社製のマイクロCHP装置(EcoBlue)を10万台 組合せる発電プロジェクトを進めている。2014年3月時点での販売台数は、1,400台である。 (a) 2011年(左)と2012年(右)の販売エリアの比較 CHP (b) VPPのシステム概要図 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図3-8 (4) LichtBlick社とVolkswagen社が進めるVPPプロジェクト ICTプレーヤーおよびコンサルタント会社 情報通信技術(以下、ICT)およびコンサルタント会社は、企業買収とB2C(企業対消費者間 取引き)およびB2B(企業間取引き)市場のための統合したサービスを提供している。 ①B2Cの例:Google社 Google社は、スマートホームに関する専門知識のために、スタートアップのNest社を 32億ドルで買収し、市場に再参入した。 Nest社には、サーモスタット“Nest”と火災報知機“Protect”の2つの主要製品があ り、Nest社が開発したプログラムによって、Nest社の製品にアクセスが可能となる。ま た、Nestの温度設定は、Google社のOSが搭載された端末機器(スマートフォンなど)から 行うことができる。 ②B2Bの例:Accenture社 経営コンサルティング、技術サービス、アウトソーシング・サービスを提供するグロ ーバル企業であるAccenture社は、“Intelligent City”の実現を目指し、スマートグリッ ド・プロジェクトを積極的に支援している。 ― 44 ― 情報報告 ウィーン 3.4 国外で活用する方法 (1) 国際化 エンパワーメントおよび製品の革新性が、成功する要因である。 【エンパワーメント】empowerment 与えられた目標を達成するために、組織の構成員に自律的に行動する力を与えることで、自律性を促し、 支援することが特徴。 ①EnerNOC社 デマンド・レスポンスの世界一のプロバイダであるアメリカのEnerNOC社は、2014 年に下記の欧州企業を買収し、国際化に向けた事業の拡大を進めている。 ・ドイツのデマンド・レスポンスの大手企業のEntelios社 ・アイルランドのデマンド・レスポンスの大手企業のActivation Energy社 ②QINOUS社 ドイツのQINOUS社は、自律した高機能なボックス(Qinous ESS)を提供している。 Qinous ESSは、余剰電力を後日使用するためのエネルギー貯蔵システムである。また、 Qinous ESSは、ハイブリッド・グリッドのインテリジェントな管理を前提として、設計 されているので、風力発電や太陽光(PV)発電が長時間行われない時に、始動するディー ゼル発電機によって安定かつ安全な動作を保証している。 (2) 国特有の理由が組み合わされた価値の創出 ①ドイツにおける再生可能エネルギーによる価値の創出 図3-9に、2012年のドイツの再生可能エネルギー部門で生み出された価値(お金)とその 内訳を示す。例えば、太陽光(PV)モジュールでの中国メーカの存在のように、装置や機 器の製造は、今後も非現地化が進行することが予想される。 さらなる 現地化 さらなる 非現地化 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図3-9 ドイツにおける再生可能エネルギーによる価値の創出の内訳(2012年) ― 45 ― 情報報告 ウィーン ②他国にみるエネルギー政策のしゅがn点 図3-10に、アメリカ、中国、そして、途上国における、エネルギー政策の主眼点につ いて示す。アメリカでは、再生可能エネルギーの進展よりも、分散型エネルギーによる 供給の安全性確保が優先されており、再生可能エネルギーはそのための選択肢の1つであ る。また、中国では、局所的な大気汚染が深刻化しているので、再生可能エネルギーを 利用しながら、それをいかに改善するかが普及の動機の1つとなっている。そして、途上 国では、エネルギーインフラが不十分であることから、最少コストによる電化として、 小型の再生可能エネルギー技術を導入している。 供給の安全性 局所的な大気汚染 最少コストの電化 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図3-10 他国にみるエネルギー政策の主眼点 3.5 まとめ ドイツの「Energiewende(エネルギーの大転換)」は、非常に多くの分散したエネルギー 生産の増加をもたらし、それによって多くのビジネスの機会が生まれると予想される。 ①エネルギーシステムの軌道 図3-11に、3つの要素(エネルギーミックス、所有権、構成)から見たエネルギーシステ ムの過去からの動きを示す。その傾向は、低炭素化、民間化、分散化に向かっている。 ②推進力 ・技術 既存技術の学習曲線 (例:太陽光(PV)発電のグリッドパリティ、ヒートポンプ、など) ICTの進化 新技術 (例:スマートメーター、電気自動車 など) ・規制 気候変動や供給の安全保障を理由に負の作用を持つ形式主義の回避 ― 46 ― 情報報告 ウィーン 送電線と分散化システムとの間のトレードオフ(両立し得ない関係性) ・エンパワーメント Agenda 21:1992年6月にブラジルのRio de Janeiroで開催された“環境と開発に関 する国連会議”で採択された21世紀に向けた持続可能な開発のための行動計画 消費者から生産消費者への転換 軌 道 出典:European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT 図3-11 ドイツにおけるエネルギーシステムの軌道 (参考資料) ・European Power Summit、Christoph Burger 氏、ESMT、 (www.esmt.org) ・MeteoViva社ホームページ、(http://www.meteoviva.com/en/home/) ・グーグル流スマートホーム、Nestでできる8つの便利技、 (http://www.gizmodo.jp/2014/06/nest8.html) ・Accenture社ホームページ、(http://www.accenture.com/jp-ja/Pages/index.aspx) ― 47 ― 情報報告 ウィーン 4.廃棄物からのエネルギー回収(Waste-to-Energy) Dr.Ella Stengler氏、CEWEP(ベルギー) 4.1 CEWEPについて :廃棄物からのエネルギー回収施設の連盟 CEWEP(Confederation of European Waste-to-Energy Plants)は、欧州全域で廃棄物か らのエネルギー回収 (以下、WtE)施設の所有者と運営事業者の包括的組織である。 WtE は、廃棄物の発生抑制、再利用、リサイクルの後に残った家庭ごみおよび同様の廃 棄物からエネルギーを生産しながら熱的に処理する。廃棄物からのエネルギー回収は、信 頼性、費用対効果、住民の廃棄物から地域のエネルギーを生み出す 2011 年時点での WtE 施設数は、以下のとおりである。 ・CEWEP 加盟団体:378 施設、6,600 万トン(欧州全体の 85%を占める) ・欧州の施設能力 :454 施設、7,800 万トン 4.2 欧州におけるWtE 図4-1に、欧州で運転しているWtEをしめす(有害廃棄物の焼却施設は含まず)。WtE施設 で熱処理される廃棄物は、数百万トンに上る。 青文字:運転している施設数 赤文字:WtE で熱処理されている廃棄物量 (×100 万トン) 以下のデータ以外は CEWEP 加盟団体からのデータ * Eurostat ** アンドラ公国を含む 出典:European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP 図 4-1 4.3 欧州で運転している廃棄物からのエネルギー回収施設(2011 年時点) WtE がもたらすことができるものとは ①WtEは、廃棄物容積を約90%減少させながら衛生的な方法で廃棄物を処理する ②同時に、エネルギーを生じる ― 48 ― 情報報告 ウィーン ③温室効果ガス(GHG)の排出量を削減する ・埋立て処分されていた廃棄物を流用する ・エネルギー生産のために使われていた化石燃料に置き換える ④エネルギー供給の安全性を確保する ⑤再生可能エネルギー目標を達成する (2) WtE の役割 WtE は、廃棄物管理のエネルギー回収とエネルギー生産システムを両立する技術である。 ①廃棄物管理システム ・発生抑制(および回避) ・再利用 ・リサイクル(堆肥化含む) ・エネルギー回収 ・埋立て処分 ②エネルギー生産システム ・化石燃料の消費量の削減 ・エネルギー効率 ・再生可能エネルギーによる化石燃料の置換 (3) 都市ごみの処理状況 図 4-2 に、2012 年の EU 加盟国およびスイス、ノルウェーとアイスランドの都市ごみの 処理状況を示す。EU28 ヵ国の平均では、リサイクル(堆肥化含む)が 42%、焼却処理が 24%、 埋立て処分が 34%であった。 ■リサイクル(堆肥化含む) ■焼却処理 ■埋立て処分 ノルウェー アイスランド ― 49 ― スイス 欧州各国の都市ごみの処理状況(2012 年時点) マルタ 8 2 ( ) 図 4-2 ルーマニア クロアチア ラトビア リトアニア ギリシャ キプロス ポーランド スロバキア ブルガリア ハンガリー スペイン ポルトガル チェコ エストニア スロベニア イタリア アイルランド フィンランド 英国 フランス ルクセンブルグ オーストリア デンマーク オランダ スウェーデン ドイツ ヵ国 ベルギー 平均 出典:European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP 情報報告 ウィーン 4.4 EUの政策:埋立て処分からの廃棄物の転換 (1) 背景 ①埋立て処分は、二酸化炭素(CO2)の25倍の温暖化係数を持つ温室効果ガスのメタンを 排出するが、それらの全ての収集は不可能である。 ②軽量プラスチックの埋立て処分は、海洋ごみの増加に寄与する ③埋立て処分は、 ・利用可能な資源を無駄にしている ・貴重な土地を使用する(WtEは廃棄物の容積を90%小さくできる) (2) EU の法律の進展の影響で、WtE に大きな変化が起きている ①廃棄物枠組み指令(2008/98/EC) ・エネルギー効率の向上がWtE施設のインセンティブとなる ・廃棄物管理の階層の優先順位 ②埋立て指令(1999/71/EC) ・埋立て処分から廃棄物管理のより持続可能な方法への廃棄物転用の目標を設定 すなわち、リサイクリングそして残った廃棄物からのエネルギー回収 ③再生可能エネルギー指令(2009/28/EC) ・生分解性廃棄物は、再生可能エネルギー源である ④エネルギー効率化指令(2012/27/EU) (旧コージェネレーション指令(2004/8/EC)) ・地域熱供給や冷房への使用の促進 ⑤廃棄物焼却指令(2000/76/EC)/ ・産業排出指令(2010/75/EU)と利用可能な最善技術(BAT)参照文書 ・最も厳しい排出レベル、厳格な制御 (3) 環境性能 WtEは厳しい環境規制によって規制されており、非常に少ない排出ガス量、厳格な制御、 よく監視された排出ガス濃度を実現することで、健康と環境への影響は一般的に無視でき るレベルと認識されている。 (4) WtE 施設 図 4-3 に、一般的な WtE 施設の処理フロー図を示す。構成として、廃棄物の搬入・受入 れする部分、熱的(焼却)処理とエネルギーを発生する部分、そして、排ガスを処理する部分 から構成されている。また、一般的に、WtE 施設は排ガス処理設備のために、従来型発電 システムと比較して、エネルギー効率が低い。さらに、排ガス処理設備は投資コストに対 する影響も高く、最大 50%を占める場合もある。しかしながら、厳しい環境基準を満たす ために必要な設備である。 ― 50 ― 情報報告 ウィーン 廃棄物の搬入・受入れ 熱的処理 とエネルギーの発生 排ガスの処理 出典:European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP 図 4-3 (5) 一般的な WtE 施設の処理フロー図 WtE の成果 DEFRA 2013 (英国の環境・食料・農村地域省)からの抜粋によれば、次のとおりである。 廃棄物が生産するエネルギーは、エネルギー安全の安全保証に貢献する貴重な国産のエ ネルギー資源である。 部分的に再生可能エネルギーとして、エネルギー生産の脱炭素化を目指す我々の再生可 能エネルギー目標に貢献することも可能である。 それは、断続的で無いという追加の利点もあるので、風力発電や太陽光(PV)のような他 の再生可能エネルギー源を補完することが可能である。 (6) エネルギーの生産量について 新型の WtE 施設では、より多くのエネルギー量を生産することができる。欧州の平均は 廃棄物 1 トンあたり、発電量は 400kWh で熱生産は 1,200kWh である。 ・熱生産専用施設では、廃棄物1トンあたり、1,800kWh~2,000kWh ・発電専用施設では、廃棄物 1 トンあたり、500kWh から 600kWh (7) WtE のエネルギーサイクル 図 4-4 に、WtE のエネルギーサイクルの概念図を示す。 電力や熱供給、そして化石燃料の削減については、先にも述べたとおりであるが、同時 に廃棄物の熱的(焼却)処理の副生成物として焼却灰が残る。焼却灰中に含まれるアルミニウ ムのような金属類は自動車業界などでリサイクルが可能である。 ― 51 ― 情報報告 ウィーン 電力供給 1,400 万世帯 熱供給 1,400 万世帯 欧州で、7,800 万トンの 残渣ごみが発生 WtE における 780 億 kWh の熱量 310 億 kWh の電力量 熱的処理 発 電 熱生産 節約 節約 節約 800 万トン~4,200 万トンの化石燃料 出典:European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP 図 4-4 (8) WtE のエネルギーサイクルの概念図 WtE から得られるエネルギー生産量の予測 図 4-5 に、WtE から得られるエネルギー(電力・熱)量の実績と 2020 年の予想(現実と最 大)を示す。2020 年には、2010 年のほぼ 2 倍になる可能性があり、それは、6 基から 9 基 の原子力発電所または 25 基の石炭火力発電所に相当するエネルギー量となり、7,000 万世 帯に供給するのに十分な量である。 ただし、この数値の達成には、埋立て処分からリサイクルのような正しい処理手順を誘 導する政策によって、WtE 施設に搬入される廃棄物が増加する。そして、エネルギー効率 の向上、暖房や冷房のような熱供給用のインフラの整備だけでなく、グリッドの接続性の 向上も必要である。 ― 52 ― エネルギー量(TWh) 情報報告 ウィーン 2006 年 2010 年 2020 年 (現実的) 2020 年 (最大) 出典:European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP 図 4-5 4.5 WtE から得られるエネルギー生産量の実績と予測 WtE の成功物語 以下に、WtE 施設の代表的な成功例を紹介する。 (1) 発電:Afval Energie Bedrif(AEB) Amsterdam市(オランダ) オランダのAmsterdam市の市庁舎、トラム、地下鉄、そして、街路灯には、Amsterdam 市のWtE公社(以下、AEB)が運転する2つのWtE施設(旧炉と新炉)によって供給されるグリ ーン電力が使用されている。 WtE施設は、285,000世帯(Amsterdam市の世帯数の75%)の電力需要を満たすように発電 を行っている。新炉の発電効率は送電端で、30%を達成する。また、AEBでは、熱と温水 を12,000世帯に提供するために発生した熱を利用している。 (2) 熱供給:Brescia 市(イタリア) 2011 年には、602 ギガワット時(GWh)の電力と 747GWh の熱を生産し、それは、1 年間 に Brescia 市の熱グリッドに供給される熱エネルギーのほぼ 55%に相当する。 発電量は、200,000世帯の需要に、また、熱量は、60,000件以上のアパート(集合住宅)の 需要に相当する。石油換算で150,000トンの燃料と400,000トンのCO2 の削減が可能で、 Brescia市にとってWtE施設はエネルギーの重要な供給源を代表する施設である。 4.6 再生可能エネルギーとの統合とグリッドの課題 再生可能エネルギーとの統合とグリッドの課題に対して、WtEが貢献できることとして、 以下の事項が挙げられる。ただし、WtEが優先すべき目的は、廃棄物を衛生的かつ環境に 負担をかけない方法で処理することであるので、エネルギー効率やグリッドへの接続性な どについて話す前に、このことを忘れるべきではない。 ①WtE施設は、年間を通して、1日24時間、週7日の運転である。 ②継続的に環境に配慮した方法で廃棄物を管理することは重要な役割である。 ― 53 ― 情報報告 ウィーン ③廃棄物由来のエネルギーは、“基準負荷”として一定量の計画されたエネルギーと して使用することができる。 ④グリッドの管理は、WtE施設にとって技術、運転および資金面に影響を与えるので、 グリッド運営事業者と十分に協議する必要がある。 ・太陽光(PV)発電や風力発電がピーク時のアクセスおよび送電の優先権について? ・補償の種類?エネルギー生産の無い時、廃棄物を焼却しない時、グリッドの安定性の に対して? (2) グリッドの安定性:Meath WtE 施設 (アイルランド) 一例として、風力発電の多いアイルランドには、現在のところ 1 つの WtE 施設がある。 図 4-6 に示すように、数多くの発電事業者がおり、この中に WtE 施設は含まれる。発電事 業者のグリッドへの接続の優先順位は、図 4-7 に示すとおりである。 卸売りと送電 WtE 施設 小売りと 配電 出典:European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP 図 4-6 Meath WtE 施設 (アイルランド)と電力ルートの関係図 ― 54 ― 情報報告 ウィーン アイルランドの廃棄物管理の階層の違い:廃棄物対アクセスと送電の優先順位 優先順位 発生抑制・回避 系統連係事業者 風力発電所 再利用 リサイクル 熱電併給/バイオマス/水力 複合型発電所 回収 (エネルギー) 泥炭発電所 従来型発電所 処分 (a)廃棄物管理の階層 (b)グリッドのアクセスと送電の優先順位 出典:European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP 図 4-7 (3) アイルランドの廃棄物管理の階層とグリッドへの接続の優先順位 デンマーク・Copenhagen 市における熱供給ネットワーク Copenhagen 市にある WtE 施設は、地域熱供給グリッドに接続されており、熱供給需要 の 30%以上を供給している。そのため、需要ピーク時の負荷管理の強化がより一層求めら れている。 地域熱供給ネットワーク (Copenhagen) CTR 地域熱供給範囲 WtE 施設 VEKS 地域熱供給範囲 CHP(熱電併給)施設 Vestforbraending 地域熱供給範囲 高負荷施設 その他の熱供給 輸送用パイプライン 蒸気供給範囲 出典:European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP 図 4-8 Copenhagen 市における熱供給ネットワーク ― 55 ― 情報報告 ウィーン 4.7 スマートな WtE のための技術的導入事項 WtE 施設は需要の変動に対して柔軟に対応し、グリッドの安定性を維持できるように進 化していく必要がある。 焼却炉/ボイラー エネルギー回収 廃水処理 排ガス処理 出典:European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP 図4-9 WtE施設の処理フロー図 ①タービンバイパス ②ボイラーの運転範囲の下限を70%から40%まで広げる ③廃棄物の流れを止める(大容量の廃棄物ピット) ④地域冷熱供給 ⑤熱の貯蔵 タービンバイパスおよび運転範囲の拡大は、冷暖房用の熱源を柔軟に確保し、グリッド を安定化させるためである。さらに、グリッドを安定させるための進んだ措置として、廃 棄物の流れを止める方法があるが、人々は廃棄物の生産を止めないので、実際には難しく、 本来の責務である廃棄物処理をしなければならない。そこで、長期間に渡って廃棄物を貯 留できるより大きな廃棄物バンカーを持つことも可能であるが、臭い、スペース、コスト などの多くの課題がある。WtE施設には廃棄物を処理するという重要な役割があるが、そ して、グリッドに対してより安定化させる責任も、今まで以上に無視できない。熱の貯蔵 も議論されている。WtE施設は、ある一定の柔軟性を持つべきであるが、当然ながら、WtE 施設が持つ燃料(=廃棄物)によって制限される。 ― 56 ― 情報報告 ウィーン 4.8 まとめ WtE は、環境政策の視点から非常に重要な埋立て処分への依存性と限られた化石燃料の 両方の削減に貢献する。廃棄物は処理される必要があるので、費用対効果もある。また、 年間に 8000 時間以上運転されるので、堅牢である。 ①WtEは埋め立て処分への依存と限られた化石燃料資源の両方の削減に貢献する ②WtEは、 ・費用対効果が高い ・信頼性がある ・地域で利用可能な再生可能エネルギー源である ③再生可能エネルギーのための持続可能なバイオマス資源である WtEでは、いくつかのバイオマス資源が直面している、持続可能性の条件について議論 する必要がない。 ④温室効果ガスの排出量を削減するための効果的な選択肢である ⑤技術的に堅牢であり、数十年の経験から低排出物を保証できることが証明されている (参考資料) ・European Power Summit、Dr.Ella Stengler 氏、CEWEP ・CEWEP ホームページ、(http://www.cewep.eu/index.html) ― 57 ―