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報告書(PDF:566KB)
環境等に関する社会金融制度の必要性
瀬名 浩一
聖学院大学 政治経済学部 准教授
要約
欧州のソーシャル・バンクは、持続可能な社会を目指し、透明性と倫理性を重視して行動することにより組織
としての社会的責任を果たす一方、再生可能エネルギーへの投融資などソーシャル・ビジネスの分野に「理念と
やり方によっては市場が存在する」ことを発見する経営努力を行うことにより堅実な成長を続けている。
このような欧州のソーシャル・バンクの現状、日本における環境金融制度の動向やコミュニティ・ファンドの
成功事例からも環境・社会問題をビジネスで解決することを目指す社会的企業を支援する社会金融制度は必要で
ある。社会金融制度に参加する金融機関は、投融資先を具体的に選択することにより社会を前進させ、後退させ
ない役割を担っている。
[研究組織]
○瀬名 浩一(聖学院大学 政治経済学部准教授)
大塚 健司(聖学院大学 政治経済学部客員教授)
山田 直夫(日本証券経済研究所 主任研究員)
望月 聡 (埼玉県 産業労働部 金融課 主幹)
廣藤 秀明(埼玉県 環境部 環境政策課 主査)
池澤 裕和(埼玉県 企画財政部改革推進課主査)
[研究期間] 平成 22 年度
NPOは、自ら営業者として株式会社を設立し、
出資者と匿名組合契約を結ぶことによって資金調
達に成功したのである。出資者の分布は地元を除
けばほぼ全国にわたるが、所得水準の高い首都圏
で比率が高い。このような環境分野における市民
ファンドの成功は、今後続く環境以外の社会分野
のプロジェクトへの出資者獲得の可能性を開くも
のである。
1.研究の背景
(1)地域における環境金融の動き
日本企業の環境技術は世界でトップクラスであ
るため、日本は世界に冠たる環境先進国と思われ
ているが、実際には、1990 年から 2007 年の間、
日本は経済成長とともに温室効果ガス(CHG)排出
量を増加させてきた。対照的に、ドイツ、英国、
フランスなどの欧州先進国は、温室効果ガス削減
と経済成長を両立させてきた。さらに深刻なのは、
温室効果ガス排出原単位(CHG/GDP)の改善度合い
に着目すると、日本は京都議定書を批准していな
い米国よりも改善スピードが遅いことである。
国の政策ではなく地域の環境政策が求められる
時代となった。京都議定書が締結された 1997 年以
降、東京都や宮城県など先進的に環境金融に取り
組む自治体が登場している。この流れは「国連環
境計画と金融イニシャティブ東京会議」
(2003 年
10 月)における「東京原則」を契機として東京都
が先鞭をつけ、東京都では「環境金融プロジェク
ト」
(2005 年 5 月)という形をとって展開してい
る。
(3)リーマンショック後の欧州の「ソーシャル・
バンク」の持続的成長
リーマンショック後の世界的金融危機の中、欧
米の主要銀行が政府からの資金援助に頼って経営
再建に取り組んでいるのに対し、トリオドス・バ
ンク、コープ・バンクなど「ソーシャル・バンク」
は、それら経営危機にある主要銀行の預金者およ
び投資家からの資金流入をも受け入れることによ
り業績を拡大した。
「ソーシャル・バンク」の経営
に関する預金者・投資家からの関心が高まってい
る。
(2)市民ファイナンスを利用した環境ビジネス
の成功事例の増加
環境 NPO が見出した金融手段は、匿名組合出資
という市民ファイナンスであった。2011 年 2 月現
在、その数は 12 地域を数えるまでになった。環境
3.方法
(1)環境金融制度の点検
国および埼玉県内での環境・社会金融の需要及
び供給状況について分野別に検討
2.目的
日本においても環境・社会問題をビジネスの手
法を使って解決を図る「社会的企業」
、
「社会起業
家」への関心が高まっているが、そもそも日本で
は「社会的企業(ソーシャル・エンタプライズ)
」
制度が未整備であるので、企業制度と金融制度を
「社会金融制度」として一体的に整備することに
より「社会的企業」の起業チャンスを高められる
か検証する。
39
(2)コミュニティ・ファンド(CF)の成功事例
のケーススタディ
環境及び社会ファンドで成功している代表的事
業者からのヒアリング
資を促す仕組みが整っている。埼玉県は東京都に
比べれば企業誘致の必要性は高く、また千葉県な
どコンビナートがあるわけではないので、厳しい
環境政策を打ち出せるわけではない。
(3)欧州における代表的ソーシャル・バンクの
経営に関する委託調査
欧州の「トリオドス・バンク」と「コープ・バ
ンク」の経営者に対するヒアリング
グリーンビルディング
近年、世界的に普及が進んでいるグリーンビル
ディング(省エネ・省資源といった建物自体の環
境性能のみならず、利用する人間の健康や利便性
への影響も配慮した建物)については、米国ほど
普及していない。その理由として、日本の評価基
準 CASBEE(建設環境・省エネルギー機構が設けて
いる)は設計段階においては精緻であるが、企画、
設計、資材・設備開発、資材調達・施工、保守・
運営という一連の価値連鎖(バリューチェーン)
と結びつけられていない限界が指摘されている。
例えば、日本の不動産業界では、取引物件の大
半は既存物件であること、また米国では、グリー
ンビルディングの環境価値を経済価値に結びつ
ける役割を金融機関が担っているが、日本ではそ
のような仕組みが未だないことがあげられる。評
価ツールが有効活用されていないため自治体へ
の届け出件数も 4,884 件(2009 年度)に止まっ
ている。
それに対し、米国の評価基準 LEED は、グリー
ンビルディングを省エネ・省資源といった建物自
体の環境性能、利用する人間の健康や利便性に加
え、周囲の地域コミュニティへの影響にも配慮し
た持続可能な建築物(Sustainaple Building)と
して包括的に評価し、制度の普及に役立っている。
その結果 2010 年累積申請件数 36,212 件、累積
認証件数 7,335 件(評価対象別割合 新築 54%、
内装 21%、保守・運営 11%、構造体 9%、店
舗 3%、学校 1%、地域 1%)となっている。
米国がグリーンビルディング市場に力を入れ
ているのは、全米の電力消費量の 73%(2006 年)
が、民生の建物(商業ビルと住宅を合計)で消費
され、今後も増大する見込みであるのに対し、産
業消費は 27%に過ぎず今後も減尐するという米
国連邦エネルギー省の推計を反映している。
他方、日本における部門別最終エネルギー消費
(2008 年)では、民生部門は 28%(2008 年)に
過ぎず、産業部門 46%、運輸部門 25%となって
おり、グリーンビルディングに対する日米の熱意
の差は、日米の目指す産業構造の違いを反映して
いると思われる。
埼玉県は全国的に高齢化の進展が最も早い自
治体であるため「医療・介護施設」としてのグリ
ーンビルディングの市場が大いに期待できるが、
4.結果
(1)日本における分野別環境金融の現状
日本における分野別環境金融を補助金、政策金
融、民間金融、匿名組合出資に分類整理してみる
と、表 1 のとおりである。
①分野別分類
自然エネルギー(再生可能エネルギー)
風力、太陽光、小水力など自然エネルギーによ
る発電プロジェクトについては匿名組合出資と
いう形の市民ファイナンスが根付いてきている。
わが国の自然エネルギー買取制度のモデルと
なっている欧州では、各国政府は再生可能エネル
ギー買取制度によりソーシャル・バンクの活動を
間接的に支援しているといわれている1。
有機農業
有機農業については、欧州では、自然エネルギ
ーと一緒に「環境」のカテゴリーとして取り扱わ
れることが多いが、日本では、
「環境」との結び
付きは弱い。しかし埼玉県では首都圏近郊農業が
盛んであり、新規就農を希望する人材が集まり、
今後の可能性が大いに期待される分野である。
表 1 日本における分野別環境金融の現状
補助金
1 自然エネルギー
(1)風力発電
(2)太陽光発電
(3)小水力発電
(4)森林資源(グリーン熱)
2 有機農業
3 製造業ほか
(1)大企業
(2)中小企業
4 グリーンビルディング( 注)
(1)住宅
(2)地域
(3)内装
(4)構造体
(5)新築
(6)学校
(7)医療・介護施設
(8)店舗
(9)既存ビルの運営・保守
5 EV・ PHVタウン
政策金融 民間金融 匿名組合出資
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
製造業ほか
日本の得意とする製造業については、
「環境格
付け」という特別表彰制度ももうけられ、環境投
40
そのためには持続可能な建築物に必要な用地を
手当てする必要がある。
2004 年4 月に、
県が積立金1 億円を出資して、
NPO 基金を創設し、県民と企業の寄付金を原資
として、NPO の取り組みに財政支援をしてきた
のであるが、2009 年度の事業実績は、チャレ
ンジサポート事業は 12 件で 6,520 千円、みん
なでサポート事業は 29 件で 8,302 千円、合わ
せると 41 件、助成金総額 14,822 千円(1 件当
たり平均 36 万円)であり、規模的にはこれか
らだといえよう。
県下の認証 NPO 法人数は、2009 年度末で
1,421 団体と大きく増えており、NPO 法人「環
境ネットワーク埼玉」が市民共同発電事業とし
て与野、鴻巣の保育園に寄付金により太陽光パ
ネルを設置しているが、長野県飯田市のような
コミュニティ・ビジネスとしての事業規模には
達していない。県下にどのような環境金融ニー
ズがあるのか、地元金融機関や県、地方自治体
関係者のフォローと情報交換が望まれる。
・中小企業制度融資
まず、県から利子補給の得られる中小企業制
度融資としては、事業資金・小規模事業資金、
企業家育成資金、
産業創造資金、
産業立地資金、
経営安定資金・再生資金がある。これらは環境
金融に直結しているものではないが、県の制度
融資は予算枠:4,500 億円のところ 2009 年度
は、26,754 件、4,144 億円(前年度比 110.4%、
1 件あたり平均 15.5 百万円)と過去最高の実
績を挙げている。なお環境対策資金がどのくら
いであったかは不明である。
電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車
(PHV)タウン
社会実験の段階であり、埼玉県でも春日部市の
ように長期計画を作成している自治体もあるが、
富山市のように環境だけでなく福祉(運転できな
い高齢者)を踏まえた政策を実施している例もあ
り、未だ流動的である。
②政策金融
国の政策金融
製造業を中心とする日本政策投資銀行による
「環境配慮型経営促進事業」と「環境格付け」手
法を用いた融資制度が 2004 年度発足し、民間銀
行との協調融資(2008 年度)やシンジケート・
ローンが広がっていることや、日本政策金融公庫
が国民生活事業として「環境・エネルギー対策貸
付」を提供していることが注目される。
日本政策投資銀行の「環境配慮型経営促進事
業」の特徴は、
「環境格付け」手法を用いた世界
初の融資制度で、環境スクリーニングの結果によ
り、金利は 3 段階の優遇レートを用意しているこ
と、設備資金に加えて、研究開発資金、リサイク
ル費用なども対象とすることである。融資実績は、
2010 年 3 月末で 200 社 2,832 億円(協調銀行込
みで 3,000 億円超)である。融資のほかに、社債
保証などにも応用が可能である。
埼玉県の環境金融制度
県下の事業主や NPO 法人、あるいは個人向けの
コミュニティ・ビジネスおよび環境経営を支援す
る金融制度に以下のようなものがある。
・環境みらい資金
注目されるのが、県の創設した「環境みらい
資金」である。申し込み対象者は、県内で 1
年以上事業を営んでいる中小企業者で、融資対
象経費は、公害防止施設費用、地球温暖化対策
設備や緑化費用、快適な生活環境の創造関連経
費に分かれており、
最後のカテゴリーには、
「環
境ビジネス分野の事業の創出に要する経費」や
「再生資源利用促進施設」費用、
「環境への負
荷低減型生産プロセスへの転換」費用などが列
挙されている。2009 年度の「環境みらい資金」
の実績は、5 件、1 億 9,130 万円で、融資対象
先は、食品製造業 4 件、1 億 8,400 万円、その
他 1 件、730 万円である。
・NPO などへの支援
③埼玉りそな銀行の環境融資
民間金融機関の取り組みとしては、埼玉りそな
銀行の次の 3 つの環境金融すなわち、埼玉りそな
環境ファンド、埼玉りそな環境配慮型融資、そし
て、埼玉りそな環境経営応援融資が注目される。
これらの環境融資の実行状況については、環境
ファンドは 8 件で 287 百万円、環境配慮型融資は
1 件で 300 百万円、
環境経営応援融資は 4 件で 370
万円(2010 年 10 月末現在)となっており、いず
れも端緒についたばかりである。
なお、埼玉りそな銀行では、環境経営応援融資
について、環境格付けの取れる先約 1200 社程度
を潜在的顧客とみている。ちなみに、埼玉県の環
境基本計画によると、
「彩の国エコアップ宣言事
業者数」の 2011 年度目標値は 1000 事業者となっ
ている。
(2)コミュニティ・ファンド(CF)の成功事例
①市民出資自然エネルギー事業の現状
41
匿名組合方式などを利用した市民出資による
自然エネルギー事業を列挙すると表2のとおり
12 地域に達している。
的仕組み
②北海道市民風車ファンド
市民風車ファンドの募集は、2001 年 3 月に、生
活クラブ生協北海道の会員を主なターゲットと
して開始されたが、募集条件は 1 口 50 万円、契
約期間 18 年である。匿名組合の営業者は、SPC
である北海道市民風力発電(株)であり、年間発
電量、約 260 万 kwh(約 900 世帯分)
、売上げ約
4000 万円(02 年度実績)でスタートしている。
仕組みの中で、NPO 法人北海道グリーンファン
ドが、自ら広く投資家の出資を求めず、匿名組合
を通じて資金調達している理由は、NPO 法上、特
定非営利活動法人としてその他事業の収益につ
いて投資家へ分配できない制約があるためであ
る。グリーン電力普及のために広く市民の出資を
求めようとする場合、何らかの収益還元や出資金
の返還が見込まれることは重要である。寄付金に
しても所得税額控除(節税メリット)があるなど、
資金提供者に何らかの経済的メリットが無けれ
ば、まとまった資金を調達することは困難なので
ある。
商法上の匿名組合や投資事業有限責任組合(民
法上の任意組合)が、資金調達主体として利用さ
れるのは、設立が容易であることと、運営管理が
し易く、事業収益の分配が可能なことにある。な
お、投資家保護については、投資家の出資持分が
みなし有価証券として扱われ、金融商品取引法の
適用を受けることで担保されている。その後、北
海道グリーンファンドは、国内各地の市民風車事
業者への支援活動を広げると同時に、さまざまな
形で自然エネルギーの普及活動を展開中である。
表2 日本の市民出資自然エネルギー事業
地点
事業内容
北海道浜頓別町
風車
990
北海道石狩市
風車
4,050
青森県大間町
風車
1,500
青森県鰺ヶ沢町
風車
1,500
秋田県潟上市
風車
1,500
秋田県秋田市
風車
1,500
茨城県神栖市
風車
1,500
千葉県旭市
風車
1,500
石川県輪島市
風車
20,000
富山県
発電能力
(KW)
小水力
長野県飯田市
太陽光他
岡山県備前市
バイオマス熱等
500
(出典)環境エネルギー政策研究所
コミュニティ・ファンドというのは、市民や地
域住民が出資あるいは寄付などで資金提供し設
立するファンドであり、匿名組合ファンドであっ
たり、SPC(特別目的会社)の株式会社であったり
する。図1は、匿名組合ファンドについて市民出
資の基本的仕組みを説明したものである。
NPO 法人が資本的制約を超えるためによく利用
する資本調達手段でもあり、ソーシャル・キャピ
タルとしての意義も認められる2。ここでは、コ
ミュニティ・ビジネスを支える資金調達手段とし
て、匿名組合と事業主体である NPO 法人の関係を
明らかにするため、わが国における成功事例とし
て、北海道の市民風車ファンドと南信州おひさま
ファンドの仕組みを紹介する。
市民出資
③南信州おひさまファンド
つぎに、省エネルギー、太陽光発電、グリーン
熱風力発電設備の設置に取り組んでいる NPO 法
人南信州おひさま進歩を紹介する。おひさまファ
ンドのあゆみを記せば下記の通りである。
基本的仕組み
個別のプロジェクト(事業)に個人(又は法人)が出資するための仕組み
株式と融資の中間的性格
匿名組合
出資・配当
投資先
事業開発
不動産
有価証券
サービス業等
営業者名義で
運用する
個別契約
出資・配当
投資
営業者
個別契約
出資・配当
個別契約
表3 おひさまファンドの歩み
(商法第 535~542 条)
出資者 A
匿名組合員
年月
主な歩み
2004 年 12 月
環境省の温暖化防止モデル事業と
して飯田市の事業が選定され、NPO
南信州おひさま進歩が母体となっ
て、おひさまエネルギー有限会社
を設立
2005 年 2 月
日本初の太陽光発電に投資する
「南信州おひさまファンド」募集、
出資者 B
匿名組合員
出資者 C
匿名組合員
【個人・法人】
図1 匿名組合ファンドにおける市民出資の基本
42
同銀行に注目するのは、その経営手法やグリー
ンファンド・スキームがわが国における環境金融
制度を考える上で参考になると思われるからで
ある。同行はリーマンショックにも拘らず堅調に
その業績を伸ばしており、ここではその成功要因
も考察しておきたい。
まず、簡単に計数を確認すれば以下の通りであ
る。
トリオドス・バンク・グループ(トリオドス・
バンク、トリオドス・インベストメント・ファン
ド、およびトリオドス・プライベートバンキング)
の受託資産は、2009 年は対前年比 30%の伸びを
示し、49 億ユーロ(約 6,400 億円)に達した。
顧客(口座)数は年間で 5 万口座以上増え、
242,000 口座を超えた。
銀行貸付は、2009 年度年率 31%増と同行 30 年
の歴史上最高の伸びを示し、残高は 17 億ユーロ
(約 2200 億円)
、インベストメント・ファンドも
31%増の伸びで、16 億ユーロに達している。同
行の純利益は 9.5 百万ユーロ(約 12 億円)
、BIS
レシオは 16.3%(2008:13.0%)である。従業
員数は、576 名(前年比 21%の増)である。
規模はさして大きいとはいえないが、欧米の商
業銀行がリーマンショック後の金融不況に喘い
でいる中で、着実に投資家の信頼を勝ち取り、高
い収益力を示している小人数銀行の経営手法と
その成功要因は注目に値しよう。同行は、ファイ
ナンシャル・タイムズ社より、2009 年度の年間
最優秀銀行賞(Sustainable Bank of the Year
Award 2009)を受賞している。
5 月に 2 億 150 万円満額募集完了
(1 口、10 万円と 50 万円)
2005-07 年
飯田市内の幼稚園など 38 の施設
に太陽光パネル(発電容量合計
208kW )設置、12 の施設に省エネ
ルギー設備導入
2007 年 6 月
「南信州おひさまファンド」第 1
回現金分配実施、以後毎年分配継
続
2007 年 11 月
おひさまエネルギーファンド(株)
へ社名変更、市民出資エネルギー
事業の全国展開を開始
「温暖化防止おひさまファンド」
募集開始
2008 年 12 月
4億3430万円(653 名の出資
申込)で募集終了(1 口、10 万円
と 50 万円)
2009 年 6 月
「おひさまファンド 2009」募集開
始、12 月に 7520 万円(145 名出資)
の募集完了
2010 年 9 月 「立山アルプス小水力発電事業」
出資募集開始(1 口 50 万円と 300
円)
(出典)立山アルプス小水力発電事業出資のご案内
これまでの「おひさまファンド」の実績は、3
つの事業合わせて、1,274 名から合計 7 億円の出
資金を得て、約 160 施設に太陽光パネルを設置、
約 40 施設に自然エネルギー/省エネルギー設備
を導入。2007 年より予定通り毎年 1.1%-3%の
配当を実施し、運営主体であるおひさまエネルギ
ーファンド株式会社は公益的地域エネルギー会
社として、またファンド募集を自ら行う第 2 種金
融商品取引業者として順調に成長を続けている。
②トリオドス・バンクの経営の特徴と強み
明確な経営理念と投資基準
トリオドス・バンクの特徴は、そのミッショ
ン・ステートメントに表れている。
(3)欧州のソーシャル・バンクの経営状況3
市民出資や市民金融を発展させたモデルとし
て注目されるのが、銀行免許を得たソーシャル・
バンクであり、ここではヨーロッパの代表的ソー
シャル・バンクのひとつであるトリオドス・バン
ク(Triodos Bank、本社オランダ)に注目したい。
①トリオドス・バンクの 概要
トリオドス・バンクは、有機農業や環境エネル
ギー関連(2009:50%,2008:48%)
、教育文化・
福祉関連(同:26%,30%)
、ソーシャル・ビジ
ネス関連(同:19%,21%)の融資に特化した銀
行で、オランダにおいて後述するグリーンファン
ド・スキームを立ち上げたことで知られている。
・人間の尊厳を根底において人々の生活の質を向
上するような社会を創出することに貢献する
・個人や団体機関、企業が人間や環境を豊かにし、
しっかり発展を続けられるようもっと良心的
に資金を活用するよう助ける
・投資家へしっかりした金融商品と高い質のサー
ビスを提供する
そして、以上の目的を達成するため、自らの行
動指針を次のようにまとめている。
・競争力のある価格と専門的サービスの提供
・革新的な商品の開発と広範なサービスの提供
43
・生活の質向上、企業の社会的責任、堅固な金融
サービスの先導者となること
ど低くなってはいるが、着実に収益を上げている
ことが分かる。融資部門全体の収益率は 22 べー
シス・ポイント、インベストメント・ファンド運
用部門の収益率は 23 べーシス・ポイントであり、
自己資本利益率は 4.2%(2009、2008 は 5.0%)
とまずまずの成績を挙げている。
銀行の経営理念も行動指針も極めて意欲的で、
高い理想を掲げているが、大事なことはそれがど
のように実践されているかである。同行において
は、特定の部門ではなく、全ての部門が常に社会
的責任と環境的側面に注意を向けて、案件の発掘
やサービスの提供に努めており、サステイナブ
ル・ポリシー(Sustainable Policy)という基本
原則を定め、融資やファンドの投資は、サステイ
ナブル基準(Sustainable Criteria)に基づいて
実行する仕組みをとっている。
預金や投資資金の受け入れ
預金や投資資金も大きく伸びているが、所得税
優遇の効果と同時に、預金証書(デポジタリー・
レシート)の利回りや個別のファンドの運用成績
が優れていることによるものと思われる。もちろ
ん、社会的責任投資(SRI, Social Responsibility
Investment)に対して関心の強い預金者や投資家
の存在とその支援も無視することは出来ないが、
トリオドス・バンク・グループの経営基盤は、そ
の経営理念と実績からみて、それ自体かなり強固
といえ、サステイナブル・バンキングをまさに実
践していると認められる。
多様な業務内容と質の高い職員研修
トリオドス・バンクの従業員数(576 名、2009)
を見ると、日本で言えば地方銀行の下位行の一つ
に相当する規模であるが、その業務内容は、有機
農業や環境エネルギー関連、教育文化・福祉関連、
ソーシャル・ビジネス関連およびマイクロ(零細)
金融に特化しているほか、融資に加えてインベス
トメント・ファンド(投信)の運用があり、多岐
にわたっている。また、欧州のみならず世界各地
のソーシャル・バンクへの出資や企業向け融資も
行っており、社会的金融機関としての 30 年の実
績とノウハウは日本のメガバンクや地方銀行に
とっても学ぶところが多いといえよう。
重要な点は、さまざまな融資やインベストメン
ト・ファンドについて、サステイナブル基準を明
記し、審査に手を抜かない姿勢が貫かれているこ
と。職員の研修に力を入れていることである。ち
なみに従業員一人当たりの研修費用は、年間支店
平均 1,318 ユーロ(2009、約 17 万円、前年実績
は 1,240 ユーロ)となっている。ただし、ファン
ドマネジャーの研修費用は、一人当たり年間
1,921 ユーロ(前年は 1,697 ユーロ)とオランダ
で一番高くなっている。
③トリオドス・バンクの融資事例
Eigg 島の再生可能エネルギー発電導入支援
2007 年まで、Eigg 島の 45 住宅、20 企業、6 公
共施設は、炭酸ガスの増加や大気汚染を引き起こ
すディーゼル発電機に頼っていた。
「島全体をク
リーン電力化する」という大胆な計画を運転資金
融資、公的助成金受給の支援、
島と太陽光、水力、
風力などの発電源を結ぶ送電網の構築などによ
り実現した。
創造的な消費者生活協同組合への支援(
“Out of
this World”
)
1995 年に英国ノッチンガム市に設立された、イ
ンターネット販売に特化した消費者生活協同組
合、
“Out of this World”は、16000 人の組合員
を擁し、「オーガニック」、
「フェアートレード」
、
「エコフレンドリー」
、
「ローカル」をモットーに
インターネットによる商品販売システムを構築
している。飲料から農産品、加工食品、日用品、
木工品、衣料品まで幅広い商品を扱っている。ホ
ームページには、商品の写真と価格などとあわせ
て、ダイエット情報が簡単な符号で表示されてお
り、消費者の選択を助けている。
融資案件の規模
オランダでは、1 件当たり平均約 7 百万円と小
額の投資案件を積み上げている。
(ベルギー、英
国、スペインでは、それぞれ 1 件当たり、およそ
34 百万円、41 百万円、65 百万円であり、国によ
って戦略の違いが読み取れる。
)
有機農業と畜産農場への支援(“Abbey Home
Farm”
)
「アベー・ホームファーム」は英国、コッツワ
ールド(Costsworlds)にある 1992 年に始まった
有機農場である。1999 年の有機食品生産者賞、
融資の収益率
オランダが 34.5 ベーシス・ポイント(0.345%)
と最も高く、ベルギーは 32.7、英国は 21.6、ス
ペインは 8 ベーシス・ポイントと参入の遅い国ほ
44
2000 年の有機農場店舗賞を受賞しており、農場
も販売店舗も有機食品事業者として高く評価さ
れている。
650 ヘクタールの農場では、25 頭の乳牛と 65
頭の肉牛を飼育するほか、羊や豚、鶏(350 羽)等
も飼っている。穀物には 300 ヘクタール、野菜は
15 ヘクタールを使用するほか、カフェーや販売
店舗でさまざまな飲料や野菜・果物、加工食品等
を提供している。また、農場見学や研修・教育プ
ログラム、キャンピングなどの企画もあり、いわ
ば有機農業のモデル農場といえよう。
コミュニティ利益会社が登場する前 1980 年代に
有限責任保証会社の時代があったことを思えば、
日本は英国より約 30 年遅れて、コミュニティの
社会化を進めている段階といえよう。
表5 日本の合同会社、株式会社の設立件数推移
(2007 年から 2010 年)
5.考察
(1)ソーシャル・バンクとソーシャル・ビジネス
トリオドス・バンク UK(英国小会社)の成長は、
投融資対象であるソーシャル・ビジネスの拡大発
展に依るところが大きいと英国子会社の経営者
は述べている。ソーシャル・ビジネスと呼ばれる
組織は、2005 年に立法されたコミュニティ利益
会社4(CIC)のことであり、その企業数は表4の
通り3年間(2007 年から 2010 年)で 3.5 倍に増
加している。このことから、ソーシャル・バンク
の存在がソーシャル・ビジネスの増加に寄与して
いることは確実である。
比較のため、日本で同じころ立法化された有限
責任の人的会社、合同会社数(累計)の増加ペー
スを見ると、この間 2.9 倍に増加している。
2008 年
2009 年
1,344
NA
NA
4,716
日本の
合同会社
9,468
14,881
20,652
27,805
2009 年
2010 年
6,076
5,413
5,771
7,153
日本の
株式会社
95,363
86,222
79,902
80,535
(2)
「社会的」金融機関と「社会的」責任
①社会的責任の追求
トリオドス・バンク UK(英国子会社、ブリスト
ル)とコープ・バンク(The Co-operative Bank、
英国マンチェスター)について法的地位、英国金
融監督庁の規制・監督、企業理念、融資審査基準
及び融資分野を比較したものが表6である。
まず組織についてみると、トリオドス・バンク
は一般に考えられているような「チャリティ」組
織ではない。つまり非営利組織(NPO)ではない。
コープ・バンクも「協同組合」組織ではない。い
ずれも会社法に基づく法人組織である点に注意
すべきである。また普通の銀行と同様、金融監督
庁より規制・監督を受ける立場にある。
トリオドス・バンクが企業理念として重視して
いる「透明性」
、そしてコープ・バンクが顧客と
作る「倫理綱領」で追求している価値は、いずれ
も従来「企業の社会的責任(CSR)」の原則とされ
てきたものであり、最近では企業だけでなく、持
続可能な発展に取り組むすべての組織に求めら
れる社会的責任の原則5となっている。従って、
社会的金融機関(ソーシャル・バンク)の「社会
的」の意味は、通常いわれる構成員による「協同
性」という意味ではなく、
「社会的責任」という
場合の「社会的」に通じるものと理解できる。つ
まり使命(ミッション)だけではなく社会的責任
(ソーシャル・リスポンシビリティ)として求めら
れているように思われる。
融資案件の全件開示という透明性を求める行
動は、確かに通常の利潤極大化を目指す企業行動
としては理解しにくい。ビジネス・モデル(商売
のやり方)やビジネス・プロセス(業務推進体制)
については、通常の営利法人とほとんど変わらず、
2010 年
英 国 の
CIC
2008 年
(出典)政府統計の総合窓口
表4 英国のコミュニティ利益会社数(CIC)と
日本の合同会社数の推移(累計)
2007 年
2007 年
日本の
合同会社
(出典)
“List of Community Interest Companies”
及び合同会社の登記の件数
また日本の合同会社の年間設立件数を株式会
社と比較すると表5のとおりである。2008 年リ
ーマンショックによって合同会社の設立件数は、
一旦減尐しているが、その後は増加している。こ
れに対し、株式会社は 2010 年横ばいとなったも
のの減尐傾向にある。
日本の合同会社は、英国のコミュニティ利益会
社のように社会的目的を持つ組織とは必ずしも
認められない。しかし、英国の社会的企業(ソー
シャル・エンタープライズ)の長い歴史を見ると、
45
そこには相当の経営力が必要となる6。因みに、
1973年に米国シカゴで創業されたソーシャ
ル・バンクで、かつてはグラミンバンクを経営指
導したこともある「ショアバンク」がサブプライ
ムローン問題に巻き込まれ 2010 年 8 月倒産した
という事例もある。
「グリーン証明書」交付申請を行い、国の外郭団
体である認定機関の審査を受けてグリーン・プロ
ジェクトと認定されるのである。認定されたプロ
ジェクトには、グリーン証明書が交付され、低利
の融資が提供される。
グリーンファンド・スキームの対象となるグリ
ーンプロジェクトの分野は、1)自然・森林保全
事業、2)継続可能な(有機)農業、3)環境基準
を満たした園芸栽培、4)再生可能エネルギー、5)
環境に配慮した住宅やビル建設などである。
2008 年 12 月末現在、オランダ国内における個
人投資家数はおよそ 44,000 人、グリーンファン
ドへの累積投資額は68 億ユーロ
(約9,000 億円)
、
グリーンプロジェクトの投資件数は累計 5,000
件を超える。
なお、2007 年度のグリーンファンド・スキーム
による投資実績は、温室栽培が 69.7%、再生可
能エネルギー関連投融資 16%、有機農業 7.1%、
環境に配慮した住宅建設 4.8%、省エネルギー型
温室 1.8%となっている7。
表6 ソーシャル・バンクの社会的責任
銀行名
トリオドス・バンク
コープ・バンク
法的地位
会社法に基づく法人
会社法に基づく法人
英国金融監督庁
規制・監督を受ける
規制・監督を受ける
企業理念
透明性(融資案件の全面開示)
倫理性、透明性
融資審査基準
①基本基準
②環境融資基準
③バイオマス基準
倫理綱領
①ネガティブリスト
②ポジティブリスト
融資分野
①有機農法・再生可能エネルギー
②芸術・文化
③福祉
④中小企業
①人権
②国際開発
③社会的企業
④環境への影響
⑤動物愛護
⑥顧客との協議
②コープ・バンクの「環境」への取り組み
2009 年の倫理綱領で「化石燃料の発掘及び製
造」を加えたが、その内容は、タール・サンドの
ような石油資源やバイオ燃料の流通に従事する
企業を融資対象から除外するものである。また再
生可能エネルギー・プロジェクトについては、海
上風力はなく、陸上風力のみを対象に、あくまで
商業ベースの規模の小さい案件であり、大型案件
主体の大手銀行とは競合しないように経営的工
夫を行っているのである。
6.結論
(1)欧州のソーシャル・バンク(社会的金融機
関)は、持続可能な社会を目指し、融資案
件を全件公開し(透明性)
、倫理的に行動す
ること等により社会的責任を果たす一方、
再生可能エネルギー事業への投融資など
「理念とやり方によってはビジネスとなる
市場が存在する」ことを発見する経営努力
を行うことにより堅実な成長を続けている。
(2)このような欧州のソーシャル・バンクの現
状、これまでみてきた日本における環境金
融制度の動向やコミュニティ・ファンドの
成功事例から環境・社会問題などをビジネ
スで解決することを目指す社会的企業を金
融支援するための社会金融制度が必要であ
ると結論づけることができる。
(3)社会金融制度を担う金融機関は、投融資先
の社会的企業が社会的責任を果たすことに
よって、社会を前進させたり、後退させた
りしないよう、社会的成果を評価表彰する
ことにより、ソーシャル・キャピタルを増
減させる役割を担っている。
(3)継続可能な農業ベンチャーの支援から始ま
ったトリオドス・バンク
グリーン・ファンドのスキームは、概略以下の
通りである。
まず、オランダの主要な銀行が、スキームの仲
介金融機関として認定された子会社である「グリ
ーンバンク」を設立する。グリーンバンクは個人
顧客に対し預金や債券あるいは投資信託(インベ
ストメント・ファンド)を提供するが、これらに
投資を行った個人はキャピタルゲイン課税(税率
1.2%)と所得税の 1.3%分、最大 2.5%の控除が
受けられる。
グリーンバンクは、投資家・預金者から集めた
資金の 70%以上をグリーン・プロジェクトに融
資することが義務付けられており、事業者は事業
計画書を作成し、グリーンバンクに対して投融資
を申請する。グリーンバンクの審査を通った案件
は、グリーンバンクが住宅・国土計画・環境省へ
7.政策への提言
(1)年間起業目標件数を決める
埼玉県には次世代型農業、グリーンビルなど環
境・社会分野の起業機会が多いので、そのための
投融資資金を賄う社会金融制度を早急につくり、
46
起業すべき件数の年間目標を持つべきである。こ
こで私見ではあるが具体的な政策提言として図
2 のようなソーシャル・ファーム、図 3 のような
ソーシャル・ベンチャーへの市民出資スキームを
紹介したい。
「ソーシャル・ファーム」は、農家の高齢化が
待ったなしの時代、意思ある人が農業を受け継ぐ
試みである。農業の現場では 2 年から 3 年の間に
10 人中 8 人が「離脱」していくのが実情である。
さらに農業で自立していくためには地域での人
間関係づくり、経営感覚、農業技術の習得という
3 つの条件がそろうことが肝心と言われる。今ま
での農業金融制度では成功に導くことができな
かった課題に取り組む農業ベンチャーを金融的
に支援しようとするものである。
市民出資事業スキームⅡ
〇ソーシャル・ベンチャー支援事業
募集の取り扱い
グリーンファンド
株式会社
申し込みの勧誘
出資金
A 号出資者
B 号出資者
分配金
募集の委託
株式会社 6 次産業
匿名組合
営業者
設備投資
特養園
(2)金融機関との環境協定を深化させる
埼玉県自体としても社会金融制度に参加を希
望する金融機関に対し、自らの投融資案件につい
て説明責任を負い、透明性を確保し、倫理的に行
動するなど社会的責任を果たすことを求める協
定を結ぶべきである。そしておよそ以下に述べる
シナリオに沿って進められることは可能と思わ
れる。
①埼玉県と地域銀行との現行の環境協定の精
神にもとづいて、両者が環境保全型農業経営
や耕作放棄地解消プロジェクトの具体的案
件(一定期間内に事業を軌道に乗せ、投資家
(出資者)に一定の配当を行う見込みのある
もの)を募集し、審査基準をクリアする案件
については、ファンドの残額引受を銀行団が
確約するなどして、地域金融機関の協調融資
やプロジェクトに賛同する県民の投資(出
資)を誘導する。
②当該案件については、農林公社などからの経
営指導や職員研修などの支援が受けられる
こととする。そうすれば、応募する事業者に
勇気を与えると同時に、プロジェクトの信頼
性を高め、県民の出資・賛同を誘うことにな
るであろう。
グリーンファンド
株式会社
農産物を作り、
加工し販売する
分配金
設備投資
図3 ソーシャル・ベンチャーへの市民出資
募集の取り扱い
出資金
匿名組合
営業者
匿名組合契約
〇ソーシャル・ファーム支援事業
A 号出資者
B 号出資者
株式会社特養園
事業収益
市民出資事業スキームⅠ
申し込みの勧誘
募集の委託
事業収益
匿名組合契約
図2 ソーシャル・ファームへの市民出資
また「ソーシャル・ベンチャー」は、介護の現
場などに、環境を配慮したグリーンビルディング
を建て、グリーン革命を起こす試みである。居住
者とスタッフ、そして運営するコミュニティのた
めに、健康的な環境を創り、ここに暮らす居住者
たちのために手ごろな料金でサービスを提供す
ることを目指すプロジェクト金融である。
(3)金融機関は企業文化の違いを乗り越える覚
悟が必要である
金融制度は、各国それぞれの歴史と風土の中で
発達してきた。日本にソーシャル・バンクを導入
する場合必要となると思われる企業文化は、表7
の通り今までの日本の金融機関の企業風土と大
きく異なる8。ソーシャル・バンクを目指す日本
の金融機関にとって、ソーシャル・バンキングは
47
自らにとってもソーシャル・ベンチャーであると
いう覚悟が必要である。
表7
欧米と日本の金融機関の企業文化比較
欧米の金融機関
日本の金融機関
職能性社会
就社社会
権限と責任の個人への大幅な委譲
集団決定主義
議論による意思決定
詳細な事前規定と稟議・根回しによる
全会一致
個人の業績に基づく評価、結果責任
→階級差、所得格差大
格差小
能力開発=OJT,自己開発
→転職によるキャリアアップ
長期勤続を前提とした
社内研修等
長期視点からの人材育成
引用文献
1)DBJ Europe Ltd.「欧州のソーシャル・バン
クに関する受託調査」報告書(2011):46-49
2)高浦康有.ソーシャル・キャピタルの資本的
形成 -NPO 法人北海道グリーンファンドの市
民風車設立事業を事例に-.東北大学研究年報
『経済学』研究ノート 68-4(2007)
3)花川泰雄.埼玉県における環境金融制度の現状
と発展策(2011)
:12-17
4) 瀬名浩一.日英比較から見たコミュニティ・ビ
ジネス.谷口隆一郎編.コミュニティ政策研究
の課題.愛知:三恵社,
(2010)
:171-184
5) ISO/SR 国内委員会.ISO26000:2010 社会的
責任に関する手引き.東京:日本規格協会,
(2011)
:57-65
6) DBJ Europe Ltd.「欧州のソーシャル・バンク
に関する受託調査」報告書(2011):13-20、38-42
7) 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング.平成
21 年度コミュニティ・ファンド等を活用した
環境保全活動の促進に係る調査検討業務報告
書.
(2010)
8)DBJ Europe Ltd.「欧州のソーシャル・バンクに
関する受託調査」報告書(2011):50-51
本研究を公表予定の学会発表
1) 瀬名浩一:コミュニティ投資が創る環境・社会
ビ ジネス
公共選択学会第 15 回大会, 2011.7.2~7.3
48
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