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労働不足はどうすれば解消するか
2006 年 3 月 13 日発行 労働不足はどうすれば解消するか ~2015 年の労働市場展望~ 本誌に関するお問い合わせは みずほ総合研究所株式会社 調査本部 電話(03)3201-0333 まで。 要旨 1. 少子高齢化の進展による労働力供給の減少および過剰雇用の解消、景気拡大による労 働力供給の拡大を受けて、労働需給は徐々にタイト化している。生産要素である労働需給 のタイト化は成長を制約する要因になりかねないが、労働供給の減少を資本代替で補うに は限界がある。こうした問題意識から本稿では、第一に産業ごとに中期的な労働需要と供 給を見通した上で、2015 年における産業別の労働需給を試算する。第二に、労働力供給の 不足を補うための高年齢者、女性、若年の雇用促進策の効果について検証を試みる。 2. 労働需要は、産業別 GDP やトレンドなどで推計した労働需要関数を用いて予測した。 その結果、労働需要は 2010 年にかけて年平均 0.2%増加した後、経済成長テンポの鈍化に 伴って年平均 0.2%減少し、2015 年には 6,555 万人になると見込まれる。産業別には、高 い生産性を維持する製造業で大きく減少するほか、生産額の減少が見込まれる卸売・小売 業、規制緩和等の影響を受ける電気ガス水道業、金融保険業、運輸通信業などで減少する。 サービス業は 2000 年に比べて 611 万人増加する。 3. 労働供給は、産業ごとの男女・年齢別コーホート変化率を用い、需要不足による労働 力率の低下トレンドを補正し、失業率は均衡水準まで低下すると前提した上で推計した。 その結果、2015 年の総労働供給は 2000 年に比べて 295 万人減少し、6,366 万人になると 見込まれる。産業別には、就業者が高年齢層に偏っていた農林水産業、鉱業、建設業、製 造業、不動産業で団塊世代の退出を受けて労働供給を大きく減少させる。一方で、若年あ るいは女性を積極的に活用してきたことから、卸売・小売業や運輸・通信業では減少幅が 小さく、またサービス業では大幅に増加する。 4. 以上で推計された結果を用いて 2015 年の産業別の労働需給を見ると、マクロ的には 189 万人の供給不足となるが、産業別の不足を総計すると、実質的には 376 万人の供給不 足が発生する。供給不足が最も大きいのはサービス業の 259 万人である。一方で、産業別 の需要に対する供給余剰を総計すると 187 万人となる。産業間の労働需要と供給のミスマ ッチによって、マクロで見込まれる以上の供給不足が発生すると試算される。したがって、 産業間ミスマッチの解消に有効な対策を講じなければ、失業者や非労働力人口の増加につ ながる可能性がある。 5. 次に将来の労働力不足を解消する策として有力視されている、①高年齢者層、②育児 期間の女性、③若年層、それぞれの雇用促進策を行った場合の効果をシミュレーションし た結果、総労働供給は基本ケースに比べて①201 万人、②142 万人、③94 万人増加すると 推計される。高年齢者の雇用を促進することが、マクロの労働供給を最も増加させる効果 があると言える。しかし各産業の不足解消幅が最も大きいのは、サービス業への供給が多 い女性の雇用を促進した場合である。若年層の雇用促進策は、若年人口が減少するために 量的インパクトは小さい。ただし各産業の労働需要に対する余剰の増加幅が最も小さく、 将来の日本経済を担うという点からも、若年層の雇用促進策は不可欠と言える。 6. 高年齢者、育児期間の女性、若年すべての雇用を促進した場合には、基本ケースに比 べて労働供給は 450 万人増加し、産業計で 6,816 万人となる。3 つの対策を講じることに よって、不足解消幅は 188 万人となる一方、余剰が新たに 262 万人発生する。労働供給の 増加幅が最も大きかったサービス業では依然需要を満たすことができず、次いで増加幅が 大きかった製造業では余剰幅が増大する結果となった。すなわち、すべての雇用促進策を 講じた場合には、産業間の需給ミスマッチは増大する。本稿の推計結果から、将来的な労 働供給不足を解消するためには、産業間移動を円滑にするための訓練機会などを提供して いくことが必要不可欠であると言える。 調査本部 経済調査部 武田淳(現みずほ銀行事業調査部)/大和香織 目次 1. はじめに ·································································· 1 2. 労働市場の展望 ···························································· 2 (1) 分析のフレームワーク ··············································································· 2 (2) 労働需要の推計························································································· a. 前提とする経済の姿 ··············································································· b. 産業別労働投入量の推計 ········································································· c. 産業別の労働需要の見通し ······································································ 3 3 4 5 (3) 労働供給の推計························································································· 7 a. 2000 年の労働市場の姿 ··········································································· 7 b. 年齢階層別労働供給の見通し ·································································· 11 (4) 2015 年の産業別労働需給 ··········································································22 3. 労働供給増加策の効果の検証 ··············································· 24 (1) 高年齢者雇用増加策の効果 ········································································24 (2) 女性の雇用促進策の効果 ···········································································26 (3) 若年層の雇用促進策の効果 ········································································28 (4) すべての対策を行った場合 ········································································30 (5) 3つの対策の効果·····················································································31 4. おわりに ································································· 33 5. 【補論】産業別労働供給の推計方法·········································· 34 (1) 推計の前提······························································································34 (2) 25 歳以上の各年齢階層の推計方法 ······························································37 (3) 新規学卒採用者数の推計方法 ·····································································37 1. はじめに 少子高齢化の進展を背景に、日本の潜在的な労働供給力は既に低下しつつある。国立社会 保障・人口問題研究所の推計によると、一般的に労働力とされる 15 歳以上の人口は 2010 年 まで増加が続く見込みであるが、90 年代後半以降の増加は 70 歳以上が中心となっており、 15~69 歳に限れば 95 年をピークに減少に転じている(図表 1)。 なかでも 39 歳以下の人口は、過去の少子化傾向を反映して 70 年代から減少が続いており、 2000 年代には減少テンポを速めると予想されている。こうした比較的年齢の若い層の人口減 少は、今後、長期にわたり労働供給力を低下させる要因となることは言うまでもない。 図表 1 (万人) 労働力人口の見通し 15-39歳 40-54歳 55-69歳 70歳以上 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 1980 85 90 95 2000 05 10 15 年 (注)2005年以降は、将来推計人口に基づく予測値。 (資料)総務省「住民基本台帳」、社会保障人口問題研究所 「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」 一方、労働力需要は、マクロ的な過剰雇用の解消や景気の拡大基調を背景に、企業が雇用 に対するスタンスを積極化しており、少なくとも今後数年間は底堅い推移が見込まれる状況 にある。以上のような労働力供給の減少と需要の拡大を受けて、2003 年には 5%半ばまで上 昇していた失業率が 2005 年に入り 4%台前半まで低下したほか、有効求人倍率が 1 倍まで上 昇するなど、労働需給は徐々にタイト化している。 中期的な経済成長という観点から見れば、一定の成長率を実現するためには、それに見合 った生産能力を確保する必要があり、生産要素である労働力の供給力が低下することは成長 を制約する要因になりかねない。労働力供給の減少を資本(設備)による代替で補うことは、 部分的には可能であろうが、産業によっては物理的に代替不可能な分野もあり、資本代替だ けに労働力不足の補完を期待するのは現実的ではなかろう。こうした問題意識を踏まえ、本 稿ではまず、産業毎に中期的な労働力需要と供給を見通したうえで、2015 年における需給面 から労働市場の姿を展望する。また、労働力供給の不足を補うために、現在、高年齢者や女 性の子育て世代、若年層に焦点をあてた労働供給力の拡大策が検討ないしは実施されている が、これらによる効果の検証についても試みる。 1 2. 労働市場の展望 (1) 分析のフレームワーク 労働力需要の予測にあたっては、まず、需要項目別に予測した実質国内総生産(GDP)を、 SNA 産業連関表の付加価値誘発係数1を用いて産業別の実質付加価値生産額に変換し、産業別 の労働需要関数を用いて付加価値生産額などから所要労働投入量(時間ベース:就業者数× 労働時間)を推計する(図表 2)。これに労働時間の変化を考慮して産業別の就業者数を得 る。 一方の供給サイドは、2000 年の産業別・年齢階層(5 歳きざみ)別の就業者数をベースと して試算する。既存就業者の退職および中途採用に伴う就業者数の増減は、直近の各年齢階 層(コーホート2)別就業者数の変化率を用いて 5 年ごとに予測する。新規学卒採用について は対象となる若年人口に、労働力率を直近固定、失業率を均衡水準とした就業比率(人口に 占める就業者の割合)を乗じたものを総数とし、各時点の生産額の割合によって各産業に割 り振った。以上の計算を 2005 年、2010 年、2015 年と順次行い、産業別・年齢階層別就業者 数を得る。以上により得られた就業者数は、新規学卒を除き需要動向には影響を受けず、過 去の就労パターンに従った変化のみが反映されると言う点で、供給サイドから見た労働力と 考えることができる。 最後に、以上の方法で推計された 2015 年の労働力需要と供給を比較し、労働市場が置かれ た環境を労働需給の面から概観する。 図表 2 分析のフレームワーク 供給サイド 需要サイド 2015年までの経済見通し 需要項目別国内生産額 産業別・年齢階層別就業者数 (2000年) SNA産業連関表 継続雇用および中途採用: コーホート別変化率 産業別国内生産額 新卒雇用: 若年人口×就業者割合 産業別労働需要関数 産業別・年齢階層別就業者数 (2015年) 産業別労働投入量 労働時間を勘案 集計 産業別就業者数 産業別就業者数 比較 1 2 産業構造の変化を反映させるため、予測期間における付加価値誘発係数は過去のトレンドで先伸ばしした。 出生や結婚などの「同時発生集団」を意味する人口学の用語。ここでは、生まれた時期を 5 年毎に区切り、 それぞれ一つの集団(コーホート)とみなしている。 2 (2) 労働需要の推計 a. 前提とする経済の姿 日本経済は、平成バブル崩壊後の長期低迷をもたらした「3 つの過剰」、すなわち債務、設 備、雇用の過剰を概ね解消し、デフレからの脱却に向けて着実な回復を続けている。2005 年 入り後には、家計の所得環境が明確な改善を示し始めており、企業業績回復が設備投資や家 計所得を通じた個人消費の拡大に結び付き、さらに企業の業績拡大につながる「自律的な回 復」のメカニズムが働き始めている。こうした状況のなかでは、よほどの大きな外的ショッ クがない限り、例えば実質 GDP 成長率がマイナスとなるような、大きな調整局面に陥る可能 性は低いと考えられる。 加えて、景気の中期循環的な考え方に従えば、概ね 10 年程度の周期を持つ設備投資循環や、 20 年程度の建設投資循環がいずれも上昇局面に入っているとみられる。さらに、中国経済の 高成長持続を背景に輸出の堅調な拡大が見込まれるほか、家計所得の改善に伴い個人消費も 拡大基調を維持するとみられる。このため、今後 5 年程度の実質 GDP 成長率は、年によって 振れはあるものの設備投資を中心に平均で 1%台半ば程度の、潜在成長率を上回る3伸びを維 持する可能性が高いと考えられる。しかし、その後は設備投資の拡大が一巡することに加え、 人口の減少に伴う個人消費の伸びの鈍化などが予想されるため、平均で 1%程度の成長にとど まる可能性が高いと考えられる。 こうしたなか、付加価値生産額を産業別に見ると、製造業では 97 年から 2002 年にかけて 輸出の付加価値誘発係数が上昇しており(図表 3)、今後もこの傾向が続くとすれば、輸出 の堅調な拡大を背景に予測期間を通じて 3%前後の生産額の伸びが見込まれる(図表 4)。一 方、卸売・小売業では、全産業的に進められている流通の効率化や小売量販チェーンの拡大 による競争激化などを反映して、97 年から 2002 年にかけて付加価値誘発係数が低下してい る。今後もこの傾向が続くとすれば、卸売・小売業の付加価値生産額は減少傾向が予想され る。 図表 3 個人消費 設備投資 付加価値誘発係数 輸出 製造業 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 1997 2002 2007 2012 (注)2002年まで実績、2007年以降は、1997年から2002年の変化 率を用いて5年ごとに先伸ばしした。 (資料)内閣府「SNA産業連関表」 3 当総研では日本の潜在成長率を 1%台前半とみている。 3 0.18 0.16 0.14 0.12 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0.00 1997 卸小売業 個人消費 2002 設備投資 2007 輸出 2012 その他の産業では、家計支出のサービス消費へのシフトや人材派遣業に代表される企業の アウトソーシングの動きなどを受けて、サービス業で生産額の堅調な拡大が続くとみられる。 また、超低金利状態からの脱却を受けて利鞘の拡大が見込まれる金融・保険業や、地価の下 げ止まりや建設投資の拡大を背景に取引の活発化が予想される不動産業など、デフレ経済か らの脱却に伴い非製造業でも生産額の拡大が続くとみられる。ただし、建設業は、2010 年度 までは民間建設投資の回復を受けて生産額が増加するものの、その後は民間投資の一巡と公 共投資の削減傾向を受けて再び減少しよう。 図表 4 農林水産業 鉱業 製造業 建設業 電気・ガス・水道業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 運輸・通信業 サービス業 政府サービス生産者 対家計民間非営利サービス生産者 産業別付加価値生産額(実質) 実質付加価値生産額(兆円:2000年価格) 構成比(%) 年平均増減率(過去5年) 2000年 2005年 2010年 2015年 2000年 2005年 2010年 2015年 2005年 2010年 2015年 8.3 7.8 7.5 7.1 1.5 1.3 1.2 1.0 ▲ 1.3 ▲ 0.8 ▲ 1.1 0.9 1.0 1.3 1.5 0.2 0.2 0.2 0.2 2.0 3.8 3.4 126.7 140.9 160.8 187.4 22.8 23.6 24.6 26.7 2.2 2.7 3.1 37.6 34.2 35.8 35.7 6.8 5.7 5.5 5.1 ▲ 1.9 1.0 ▲ 0.1 15.5 16.8 19.5 22.5 2.8 2.8 3.0 3.2 1.6 3.1 2.8 72.7 74.9 71.6 66.6 13.1 12.5 11.0 9.5 0.6 ▲ 0.9 ▲ 1.4 32.0 38.5 47.0 56.6 5.8 6.4 7.2 8.1 3.7 4.1 3.8 64.6 69.5 76.3 82.7 11.7 11.6 11.7 11.8 1.4 1.9 1.6 38.4 42.5 45.1 47.0 6.9 7.1 6.9 6.7 2.1 1.2 0.8 104.0 111.9 128.8 145.9 18.7 18.7 19.7 20.8 1.5 2.9 2.5 45.0 49.8 53.2 56.7 8.1 8.3 8.1 8.1 2.1 1.3 1.3 9.1 10.3 11.7 14.3 1.6 1.7 1.8 2.0 2.6 2.5 4.2 (注)2005年以降はみずほ総研による予測値。 (資料)内閣府「国民経済計算」 b. 産業別労働投入量の推計 各産業の生産額から所要労働投入量を見通すにあたり、労働投入量(時間ベース)を実質 付加価値生産額やタイム・トレンドなどで回帰した労働需要関数を推計した(図表 5)。 この結果、ほぼ全ての産業で労働投入量と実質付加価値生産額との間に統計的に有為な関 係が見られた4。また、労働投入量の実質付加価値生産額に対する弾性値は概ね 0.2~0.7 程度 となっており、産業によってその軽重に差はあるものの、生産量の変化に対し労働投入量と 生産性の両面から対応している様子がうかがえる5。 また、データの制約6により推計期間が 90 年以降となったこともあり、総じて労働投入量 には統計的に有意な減少トレンドが認められた。この背景としては、①平成バブル期に過剰 な雇用が積み上がったため雇用削減圧力が強かったこと、②グローバル化の進行を背景に製 造業を中心に価格競争力維持のため労働生産性の向上が強く求められたこと、③デフレ圧力 の高まりや規制緩和の進展を受けて非製造業でも流通や金融を中心に労働生産性の向上によ 4 5 6 化学や電気ガス水道、金融保険業では、労働投入量と実質付加価値生産額との間に有為な関係が見られなか ったため、タイムトレンドやダミーのみで説明している。 繊維やパルプ紙業では弾性値が 1 を上回っているが、これは推計期間において、これらの産業では生産量の 減少以上に労働投入量を削減した結果とみられ、予測で用いる際には注意を要するが、本稿ではそのまま使 用した。 産業別の付加価値生産額は内閣府の国民経済計算を用いたが、現在のところ 90 年以降しか推計されていな い。 4 る高コスト体質の是正が促されたこと、などが考えられる。このため、既に過剰雇用が解消 し、今後はデフレ圧力も緩和に向かうことが見込まれるなかでは、本推計で得られた労働投 入量の減少トレンドをそのまま用いると、労働投入量が過小推計される恐れがある。したが って、労働投入量の減少トレンドが緩和するとして、2005 年以降のタイム・トレンドの傾き を概ね半分として予測した。 図表 5 農林水産業 鉱業 食料品 繊維 パルプ紙 化学 石油石炭 窯業土石 一次金属 金属製品 一般機械 電気機械 輸送用機械 精密機械 その他製造 建設業 電気ガス水道 卸小売 金融保険 不動産 運輸通信 サービス 政府サービス 対家計非営利サービス 各産業の労働需要関数 付加価値生産額 TIMEトレンド 係数:α t値 係数:β t値 0.339 1.808 -0.030 -5.415 0.563 2.555 0.412 1.478 1.149 8.545 1.478 5.634 -0.014 -7.463 0.302 1.460 -0.032 -8.661 0.478 2.428 -0.030 -10.328 0.370 3.587 -0.029 -15.746 0.702 4.777 0.474 5.435 -0.008 -3.062 0.244 5.699 -0.048 -14.202 0.257 2.165 -0.016 -5.615 0.542 6.922 -0.029 -14.778 1.463 16.376 0.535 2.735 -0.0014 -0.845 0.162 2.544 -0.0090 -6.490 -0.010 -5.718 0.143 0.303 -0.011 -1.365 0.070 0.979 0.725 7.278 0.435 1.876 -0.0201 -3.673 0.223 1.647 係数:γ 0.0014 ダミー等 t値 内容 2.060 雇用判断DI -0.0204 -1.315 2000年~ -0.0155 -0.0232 -1.244 -1.155 98年~ 96年~ -0.3888 -12.61 2000年~ 定数項 補正 R2 標準誤差 係数 t値 13.752 6.032 0.982 0.023 5.893 3.869 0.298 0.132 8.769 3.347 0.084 0.033 3.168 3.282 0.847 0.119 -0.855 -0.403 0.703 0.060 12.867 65.628 0.808 0.028 9.747 6.361 0.903 0.039 10.805 5.723 0.964 0.029 11.350 10.561 0.981 0.019 6.189 4.821 0.627 0.061 8.970 8.589 0.943 0.021 15.556 131.81 0.991 0.012 11.680 12.952 0.748 0.029 9.819 13.194 0.984 0.021 -1.001 -1.137 0.954 0.036 8.460 4.067 0.335 0.032 11.448 66.858 -0.023 0.024 13.693 21.634 0.769 0.017 0.901 0.016 11.760 2.717 0.763 0.020 -0.035 0.013 0.940 0.016 10.961 5.819 0.974 0.007 0.934 0.045 (注)パラメーターの推計は以下の式を最小自乗法で行った。推計期間はすべて90年~2003年の暦年。 log(労働投入量)=α×log(実質付加価値生産額)+β×TIMEトレンド+γ×ダミー+定数項 c. 産業別の労働需要の見通し 以上で推計した産業別の労働需要関数と実質付加価値生産額を用いて 2015 年までの産業 別の労働需要を推計すると7、全産業の就業者数は 2000 年から 2005 年にかけて年平均 0.3% の減少となった後、2010 年にかけては比較的高い経済成長率を背景に、年平均 0.2%の増加 に転じると予想される(図表 6)。しかし、その後は成長テンポの鈍化が見込まれるため、 2015 年にかけて就業者数は年平均 0.2%の減少が見込まれる。 7 各業種とも年平均 0.2%程度の労働時間の増加を見込んだ。 5 図表 6 農林水産業 鉱業 製造業 建設業 電気・ガス・水道業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 運輸・通信業 サービス業 政府サービス生産者 対家計民間非営利サービス生産者 合計 産業別の労働需要 就業者数(万人) 構成比(%) 年平均増減率(過去5年) 2000年 2005年 2010年 2015年 2000年 2005年 2010年 2015年 2005年 2010年 2015年 423.3 375.9 341.9 290.0 6.4 5.7 5.2 4.4 ▲ 2.3 ▲ 1.9 ▲ 3.2 7.6 6.9 7.6 8.3 0.1 0.1 0.1 0.1 ▲ 1.9 2.0 1.7 1,248.3 1,162.6 1,096.7 999.4 18.7 17.7 16.5 15.2 ▲ 1.4 ▲ 1.2 ▲ 1.8 682.4 614.8 626.1 617.0 10.2 9.4 9.4 9.4 ▲ 2.1 0.4 ▲ 0.3 43.9 42.2 41.7 41.0 0.7 0.6 0.6 0.6 ▲ 0.8 ▲ 0.2 ▲ 0.4 1,201.4 1,155.9 1,113.5 1,044.2 18.0 17.6 16.8 15.9 ▲ 0.8 ▲ 0.7 ▲ 1.3 199.5 183.7 177.9 168.0 3.0 2.8 2.7 2.6 ▲ 1.6 ▲ 0.6 ▲ 1.1 95.7 87.1 85.2 80.9 1.4 1.3 1.3 1.2 ▲ 1.9 ▲ 0.4 ▲ 1.0 401.5 397.3 396.1 392.5 6.0 6.0 6.0 6.0 ▲ 0.2 ▲ 0.1 ▲ 0.2 1,885.0 2,098.9 2,308.3 2,496.1 28.3 31.9 34.8 38.1 2.2 1.9 1.6 364.7 351.8 341.7 316.9 5.5 5.4 5.2 4.8 ▲ 0.7 ▲ 0.6 ▲ 1.5 107.9 95.7 97.6 101.0 1.6 1.5 1.5 1.5 ▲ 2.4 0.4 0.7 6,661.0 6,572.8 6,634.3 6,555.2 100.0 100.0 100.0 100.0 ▲ 0.3 0.2 ▲ 0.2 (注)2005年以降はみずほ総研による予測値。予測手法は本文参照。 (資料)内閣府「国民経済計算」 産業別に見ると、製造業では比較的高い生産額の伸びが見込まれるものの、生産性の伸び も高いため、就業者数の減少が続くと予想される。製造業は、90 年代に入り、円高の進行や 東南アジア諸国のキャッチアップなどを受けグローバルな厳しい競争環境下にさらされてい たため、労働生産性は 90 年代を通じて 3~4%程度の伸びを維持していた(図表 7)。今後 も幅広い分野で NIES を中心とするアジア諸国や欧米企業との競争を強いられることに加え、 急速に工業化が進む中国などの新興勢力も新たな競争相手として存在感を強めることが予想 されるため、引き続き高い生産性の伸びを維持するとみられる。こうした環境下、製造業の 就業者数は 2000 年の 1,248 万人から 2015 年には 999 万人まで減少すると予想される。 卸売・小売業は、生産額の減少が続く下で設備投資も抑制気味に推移するとみられ、生産 性の伸びが大きく高まることは期待し難い。このため、就業者数は概ね生産額と同テンポで 減少が続き、2000 年の 1,201 万人から 2015 年には 1,044 万人になるとみられる。一方、サ ービス業は、需要の拡大基調を背景とする生産額の増加に伴い、就業者数は 2000 年の 1,885 万人から 2015 年には 2,496 万人まで増加し、引き続き雇用拡大の牽引役としての役割を果た すと予想される。 その他の産業では、規制緩和の進展や業界再編の動きを受けて、電気ガス水道業や金融保 険業、運輸通信業などで就業者数の減少が続くとみられる。建設業も 2010 年にかけて生産額 の増加に伴い就業者数が増加するものの、その後は再び減少に転じると予想される。 6 図表 7 (%) 7 6 5 4 3 2 1 0 ▲1 ▲2 ▲3 ▲4 ▲5 1990-95 労働生産性の伸び 建設業 電気ガス水道 卸小売 金融保険 運輸通信 サービス 製造業 95-2000 2000-05 2005-10 2010-15 (注)労働生産性=実質付加価値生産額/労働投入量 (資料)内閣府「国民経済計算」 (3) 労働供給の推計 ここでは、まず、2000 年の就業者数を年齢階層別および産業別に見ることで労働市場の現 状を確認したうえで、25 歳以上の労働力供給については、産業間移動や労働市場への参入お よび退出といった就労行動に一定の前提を置いて、産業別・年齢階層別に推計する。また、 25 歳未満の若年層については、労働需要を反映させた労働供給関数を推計し、若年人口の変 化を踏まえながら予測した。 a. 2000 年の労働市場の姿 (a) 年齢階層別の就業者構成 2000 年の年齢階層別の就業者構成を見ると、男女ともに共通に見られる特徴は、団塊世代 を含む 50~54 歳で最も就業者数が多く、次いで団塊ジュニア世代を含む 25~29 歳で多くな っている点である(図表 8)。このため、男女ともに就業者の年齢構成は二つのピークをも つ M 字型を描いているが、男性では出生数が 50~54 歳の 3 分の 2 まで落ち込んだ 40~44 歳でボトムとなっているのに対し、女性では労働力率の低い 30~34 歳がボトムとなっている 点が異なる。これは、男性の場合、25~59 歳の労働力率がほぼ 100%となっていることから もわかる通り、ボトムが人口要因によって形成されているのに対し、女性のボトムは、男性 同様の人口要因に加えて、結婚・出産による労働市場からの退出および育児期間後の再参入 というライフ・サイクルの変化によって労働力率が 30 代前半を中心に大きく落ち込んでいる (M 字カーブ)ためである。 7 図表 8 2000 年の男女・年齢別就業者数 (就業者数、万人) 産業計 500 (労働力率、%) 506 100 400 80 男 300 60 200 40 100 20 0 0 100 20 200 40 300 400 80 70- 65-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 労働力率 15-19 500 60 女 100 (年齢階層) (資料)就業者数;総務省「国勢調査」・内閣府「国民経済計算確報」よりみずほ総研試算 労働力率;総務省「労働力調査」 こうした現状を踏まえると、労働力の供給余力は、男性の場合、労働力率が低い 25 歳未満 および 60 歳以上に求めざるを得ない。25 歳未満の労働力率が低い主な理由は、就学してい ることであるが、近年はニート8など未就学で就業(就職)する意思もない無業者の比率が高 まっている。したがって、このような無業者が就業意欲を持てば、就業者が増加する余地は あろう。また、60 歳以上の労働力率も、定年退職などによる労働市場からの退出によって低 くなっている。日本では高齢者の就業意欲が高いため、体力などを考慮したフレキシビリテ ィの高い勤務形態の就職機会がこれまでよりも多く提供されれば、60 歳以上の就業者の増加 余地は大きいと考えられる。 一方、女性の場合は、男性同様、若年層や高齢者層に供給余地があるほか、出産後の育児 期間などに就業を希望しているが、何らかの障害により無業である者が多いため、潜在的な 供給余力は男性より大きい。仮にこうした就業希望者が労働力人口に加われば、M 字カーブ はほぼ解消するため、労働力の供給不足問題を解決する有力なセクターとして期待されてい る。 (b) 産業別の就業者構成 次に、産業別に男女・年齢階層別の就業者構成を見ると、農林水産業、金融・保険業、不 動産業を除く各産業で、先に見た産業計と同様、団塊世代、団塊ジュニア世代を二つの山と 8 ニート(NEET;Not in Employment, Education or Training)とは、就業もせず、在学もしていない無業 の若者のこと。就業構造基本調査によれば、ニートを「就職を希望しているが仕事を探していない 15~34 歳無業者(非求職の理由が「家事」「育児」「通学」「介護」「看護」除く)」と定義すると、その人数は 1992 年の 102 万人から 2002 年には 141 万人へと増加している(玄田 2004)。 8 した年齢構成となっている(図表 9)。ただし、詳細に見ると以下のように類型化できる。 まずは、建設業や運輸・通信業のような、女性が男性に比べて極端に少なく、男性は二つ の山がはっきりしているパターンである。これらの産業では、団塊世代による山に比べ団塊 ジュニアによる山が小さいため、団塊世代を中心とした年齢層が定年退職期を迎えると、労 働力不足に陥り易いと考えられる。ただし、運輸・通信業では、女性の若年就業者が比較的 多いという特徴も見られる。これは、特に通信業で高学歴の若年採用を男女問わず積極的に 行っていること9を反映したものと考えられる。そのため、女性の高学歴化が進めば、労働力 供給が押し上げられると期待できる。 農林水産業や不動産業では、団塊世代による二つの山は明確には見られず、男女とも高年 齢者層が多いという特徴がある。特に農林水産業では年齢階層が下がるにつれて急激に就業 者数が減少しており、就業者が極端に高齢者に偏っている様子が見て取れる。これら産業で は、一見すると高齢者層の現役引退による労働供給の減少インパクトが大きいように見える。 ただし、これら産業では雇用者比率が低いため(図表 10)、通常は 60 歳前後で増加する退 職による現役引退が少ない。したがって、団塊世代の退職が本格化する 2007 年直後に労働力 不足が深刻化するということはないと見られる。とりわけ不動産業では 70 歳以上の層で労働 者の流入が最も大きいことから10、団塊世代の退出による影響は、中期的にはあまり大きくな いと考えられる。 製造業や卸売・小売業では、男女とも団塊世代と団塊ジュニア世代に明確なピークが見ら れる。特に卸売・小売業では、団塊ジュニアを含む若年層が男女とも団塊世代を含む中高年 層と遜色ない規模となっているため、今後の採用規模次第ではあるが、将来的にも比較的安 定した労働供給が見込まれる。したがって、団塊世代の退出による労働力減少の影響は、先 に見た産業に比べると小さいものと考えられる。 サービス業では、若年層や女性を積極的に採用してきた結果、女性を中心に若年層の就業 者数が中高年層を上回っている点が特徴である。また、金融・保険業でも、20 代男性が少な い一方で、20 代女性が突出しているという特徴がある。したがって、これらの産業では、若 年層の定着が図れれば団塊世代の退職による影響は比較的軽微となり、安定した労働力を維 持できるだろう。 9 学卒者の「通信業」への就職者数は公表されていないため新産業分類の「情報通信業」で見ると、2003 年 ~2005 年 3 月卒業者において高卒の採用はほとんどないが、大卒は就職者総数のうち男性で 10%近く、女 性でも 6%前後就職している(文部科学省「学校基本調査」)。 10 具体的には、定年退職者が自己所有不動産の賃貸業を営んだり、不動産管理会社の雇用者となるケースが 挙げられよう。 9 図表 9 (年齢階層) 2000 年の男女・年齢別就業者数 (年齢階層) 農 林 水 産 業 70- 建 設 業 70- 65-69 女 65-69 60-64 男 60-64 55-59 55-59 50-54 50-54 45-49 45-49 40-44 40-44 35-39 35-39 30-34 30-34 25-29 女 25-29 男 20-24 20-24 15-19 15-19 80 60 40 20 0 20 40 60 80 80 60 40 20 0 20 40 (万人) 80 (万人) (年齢階層) 製 造 業 (年齢階層) 60 卸 売 ・ 小 売 業 70- 70- 女 65-69 男 女 65-69 60-64 60-64 55-59 55-59 50-54 50-54 45-49 45-49 40-44 40-44 35-39 35-39 30-34 30-34 25-29 25-29 20-24 20-24 15-19 男 15-19 100 50 0 50 100 100 50 0 50 100 (万人) (万人) (年齢階層) 金 融 ・ 保 険 業 70- 女 65-69 70- 男 65-69 60-64 60-64 55-59 55-59 50-54 50-54 45-49 45-49 40-44 40-44 35-39 35-39 30-34 30-34 25-29 25-29 20-24 20-24 15-19 15-19 20 10 0 不 動 産 業 (年齢階層) 10 20 女 8 6 4 男 2 0 2 4 6 (年齢階層) (年齢階層) 運 輸 ・ 通 信 業 70- 女 65-69 8 (万人) (万人) 70- 男 65-69 60-64 60-64 55-59 55-59 50-54 50-54 45-49 45-49 40-44 40-44 35-39 35-39 30-34 30-34 25-29 25-29 20-24 20-24 15-19 サ ー ビ ス 業 女 男 15-19 60 40 20 0 20 40 60 200 100 (万人) 0 100 200 (万人) (資料)総務省「国勢調査」、内閣府「国民経済計算確報」よりみずほ総研試算 10 図表 10 男 女 サービス業 運輸・通信業 不動産業 金融・保険業 卸売・小売業 電気・ガス・水道業 製造業 建設業 鉱業 農林水産業 (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 産業別の雇用者比率(2000 年) (資料)総務省「国勢調査」、内閣府「国民経済計算確報」よりみずほ総研試算 b. 年齢階層別労働供給の見通し ここでは、各年齢階層(コーホート)の就業者数を、産業間移動や労働市場への参入およ び退出などによって 5 年間に変化する度合い(以下、コーホート変化率:各年齢階層の就業 者数を 5 年前かつ 5 歳下の就業者数と比較した変化率)を用いて延長したものを、将来の労 働供給とする。具体的には、以下に示すように前提とするコーホート変化率を産業毎に特定 したうえで、先に見た 2000 年の労働市場を起点として産業毎の労働供給を予測する。ただし、 25 歳未満の層については、新規学卒採用の動向に大きく影響を受けるため、産業別の労働需 要や人口動態などを勘案して別途推計する。 (a) コーホート変化率の前提 まず、1980 年以降の産業計のコーホート変化率を年齢階層別・男女別に見ると、男性では 70 歳以上の高齢層を除いて概ね安定的に推移している(図表 11)。ただし、90 年代前半か ら後半にかけては、景気の低迷による雇用情勢の悪化を反映してプラス幅の縮小ないしはマ イナス幅の拡大傾向が見られる。男性のコーホート変化率の特徴としては、①25~29 歳で大 幅なプラスとなっていること、②30 代から 40 代ではゼロ近傍ないしは小幅なマイナスにと どまっていること、③50 歳以上では 70 歳以上を除き、年齢が高くなるにつれて急速にコー ホート変化率のマイナス幅が拡大していること、が指摘できる。①は、20 代前半から後半に かけて、四年制大学卒や大学院卒など比較的高学歴の新規学卒者が労働力化することを、② は生計を支えるべき中年層ではあまり非労働力化の動きは見られないこと、③は中年層から 高年層にかけて現役引退に伴い加速度的に非労働力化が進こと、を示していると考えられる。 女性では、25~29 歳のコーホート変化率が結婚や出産によりマイナスとなる一方、35~49 11 歳ではプラスとなっており、子育てを終えた中年層が労働市場に戻っている様子がうかがえ る。また、晩婚化に伴い結婚や出産によって労働市場から退出する年齢が高まっていること から、25~29 歳のコーホート変化率がマイナス幅を縮小させている。一方、30~34 歳では マイナス幅が拡大傾向にあり、最近ではこの年齢階層が結婚や出産による非労働力化の中心 となっている。 図表 11 (%) 1980 年以降のコーホート変化率の推移(産業計) (%) コーホート変化率(男) 40 30 30 20 20 10 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70- 10 0 -10 -20 -30 コーホート変化率(女) 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70- 0 -10 -20 -30 -40 -40 -50 平均 80→85 85→90 90→95 95→00 年 平均 80→85 85→90 90→95 95→00 年 (注)1.コーホート変化率は、各年齢階層の 5 年前(1 年齢階層下)比変化率。 2.折れ線グラフは、各年齢階層とも右に行くほど世代が若くなっている。折れ線グラフの一番左は、1980~2000 年の間の平均変化率。 (資料)総務省「国勢調査」 産業別に見ると、製造業や金融・保険業では、女性のコーホート変化率は、90 年以降、35 ~44 歳で、それまでの大幅プラスから小幅プラスないしはマイナスに転じている。一方で、 男性のコーホート変化率が全年齢階層にわたって総じてマイナス幅が拡大、ないしはプラス 幅が縮小傾向にあるが、その変化は緩やかである。以上のことから判断すると、これら産業 では、景気の低迷により雇用の削減圧力が強まった 90 年代において主にパートタイム雇用と みられる中年女性の採用を抑制し、男性の中核層の雇用維持を図った可能性が指摘できる。 これに対し、卸売・小売業や運輸・通信業、サービス業では、90 年代においても 35~49 歳女性のコーホート変化率が大幅なプラスとなっており、この時期に労働市場へ再参入した 女性は主にこれら産業で雇用されていたと見られる。また、卸売・小売業では 90 年代後半に 男性のコーホート変化率がマイナス幅を拡大させており、主に正社員とみられる男性雇用者 からパートタイムを中心とする女性雇用者へのシフトが進んでいた様子がうかがえる。さら に、運輸・通信業やサービス業では、25~29 歳の女性のコーホート変化率が 90 年代後半に プラスに転じており、女性の新規学卒者がこれらの業種で多く採用されたことを示唆してい る。 多くの産業で 90 年代後半にコーホート変化率が低下するなか、農林水産業は男女ともほと んどの年齢階層で上昇している。特に 25~34 歳ではコーホート変化率がプラスとなっており、 12 若年層で農業への参入が増加していることが分かる。 図表 12 (%) 産業別コーホート変化率の推移 (%) コーホート変化率(農林水産業、男) 50 100 40 80 30 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70- 20 10 0 -10 コーホート変化率(農林水産業、女) 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70- 60 40 20 0 -20 -20 -40 -30 平均 (%) 80→85 85→90 90→95 平均 95→00 年 (%) コーホート変化率(建設業、男) 60 60 40 40 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 20 0 -20 平均 (%) 80→85 85→90 90→95 95→00 90→95 95→00 年 コーホート変化率(建設業、女) 20 25-29 30-34 0 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 -40 70- -60 -60 -80 85→90 -20 55-59 60-64 65-69 70- -40 80→85 -80 年 平均 (%) コーホート変化率(製造業、男) 40 40 30 30 80→85 85→90 90→95 95→00 年 コーホート変化率(製造業、女) 20 20 25-29 10 35-39 0 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70- 10 30-34 0 40-44 -10 -10 45-49 50-54 -20 -20 55-59 -30 -40 60-64 -30 65-69 -40 70-50 -50 -60 -60 平均 80→85 85→90 90→95 95→00 平均 年 13 80→85 85→90 90→95 95→00 年 (%) (%) コーホート変化率(卸売・小売業、男) 40 40 30 30 コーホート変化率(卸売・小売業、女) 20 20 25-29 10 10 30-34 35-39 30-34 35-39 40-44 0 40-44 0 25-29 45-49 50-54 55-59 -10 45-49 50-54 55-59 60-64 -10 -20 60-64 -20 -30 65-69 70- -30 65-69 70- -40 -50 -40 平均 (%) 80→85 85→90 90→95 95→00 平均 年 (%) コーホート変化率(金融・保険業、男) 80→85 85→90 90→95 95→00 年 コーホート変化率(金融・保険業、女) 60 120 100 40 80 25-29 60 30-34 35-39 40 40-44 20 45-49 50-54 0 25-29 20 30-34 35-39 40-44 0 45-49 50-54 55-59 -20 55-59 60-64 65-69 70- -20 -40 60-64 65-69 70- -40 -60 -60 -80 -80 平均 (%) 80→85 85→90 90→95 平均 95→00 年 (%) コーホート変化率(運輸・通信業、男) 60 80→85 85→90 90→95 95→00 年 コーホート変化率(運輸・通信業、女) 50 40 40 30 20 0 -20 25-29 30-34 35-39 20 40-44 45-49 50-54 0 55-59 60-64 -40 65-69 70- 25-29 30-34 10 35-39 40-44 45-49 -10 50-54 55-59 60-64 65-69 70- -20 -30 -40 -60 -50 -60 -80 平均 80→85 85→90 90→95 平均 95→00 年 14 80→85 85→90 90→95 95→00 年 (%) (%) コーホート変化率(サービス業、男) 50 30 40 20 30 25-29 10 20 30-34 35-39 0 10 40-44 45-49 50-54 -10 0 55-59 -20 60-64 65-69 70- -30 -10 -20 コーホート変化率(サービス業、女) 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70- -40 -30 -50 -40 平均 80→85 85→90 90→95 平均 95→00 年 80→85 85→90 90→95 95→00 年 (注)図表 10 に同じ。 (資料)総務省「国勢調査」 以上で見た通り、コーホート変化率は男女ともライフ・サイクルを背景とする一貫した傾 向がある一方で、雇用情勢の悪化など景気循環に伴う環境変化によって各年齢階層における 水準が大きく変化する部分も見られた。後者のような循環的な変化は、今後、雇用情勢の改 善に伴って反対の動きになる可能性は否定できない。しかし、本稿では 10 年程度の中期的な 展望を試みることから、労働力供給の先行きを推計する際に用いるコーホート変化率は直近 (95~2000 年)のものとしたうえで、失業率が均衡水準に収斂していくという前提を設ける ことにより11、短期循環的な変動による影響を控除することとした(推計方法の詳細について は【補論】参照)。 (b) 若年層の労働供給の見通し 新規学卒者に相当する 15~19 歳(高卒相当)、20~24 歳(大卒相当)の労働供給総数は、 各年齢階層の人口12に、以下で述べる前提のもとで推計した就業比率(就業者数/人口)を乗 ずることで算出した。なお、就業比率は、純粋な供給要因である労働力率と、需要サイドの 影響を強く受ける失業率に分解することができ13、本予測においては前者を足元から一定、後 者からは景気循環による変動を取り除くことで、現状の構造を維持した場合の供給サイドの 予測値としての性格付けをしている。また、産業別の労働供給については、産業毎の生産額 に強く影響を受けると考えて産業別の付加価値生産額に応じて配分した(推計方法の詳細に ついては【補論】参照)。 80 年以降の若年層の就業比率を見ると、15~19 歳では、大学進学率の上昇などを背景に低 11 ここでいう失業率の均衡的な水準とは、需要不足による失業が解消する失業率(構造的失業率=均衡失業 率)を指し、労働力率は労働力供給の拡大策が行なわれないことを前提とする意味で年齢階層毎に 2005 年 平均値で一定とした。 12 将来人口推計に基づく。 13 就業比率=労働力率×(1-失業率)で表すことができる。 15 下トレンドにある(図表 13)。一方、20~24 歳では 1990 年をピークに男女とも低下してい おり、大学や大学院への進学率が上昇したことに加えて、企業が新卒採用を抑制したことに よる就職難を反映しているものと考えられる。なお、20~24 歳の 90 年から 2000 年にかけて の低下幅は、男性で 6.0%ポイント、女性で 6.1%ポイントとほぼ同程度となっており、若年 層においては男女間で量の面では雇用環境に大きな違いがない可能性が示唆されている。 図表 13 (就業者/当該年齢総数、%) 20 若年層の就業比率の推移 (就業者/当該年齢総数、%) 74 15~19歳 19 72 18 17 70 16 68 15 男性 女性 14 男性 女性 66 13 64 12 62 11 10 20~24歳 60 1980 1985 1990 1995 2000 年 1980 1985 1990 1995 2000 年 (注)人口総数に就業状態不詳の者は含まない。 (資料)総務省「就業構造基本調査」 就業比率が低下する背景には、失業率あるいは非労働力率の上昇がある。若年層の失業率 の上昇は、就職難によって卒業後も就職活動を継続する者、あるいは不本意な就職をしたた めに早期に離職する者が増加したことなどに起因すると考えられる。主に失業率の上昇によ って就業比率が低下しているとすれば、今後、新卒に対する需要が回復するに伴って就業比 率も上昇する可能性が高い。一方、非労働力は「通学」「家事」「その他」に分類されてお り、若年層では通学理由が大部分であることから、進学率の上昇によって非労働力率は上昇 傾向にあると見られる。近年の就業比率の低下が、主に通学理由によって非労働力率が上昇 したことによってもたらされたとすれば、若年労働力の需要が増大したとしても、就業比率 が上昇に転じる可能性は小さいだろう。進学率の上昇には、雇用情勢の悪化を受けて就職を より有利にするため、ないしは雇用情勢の改善を期待した就職時期の先送りといった需要不 足に起因する部分もある。そのため需要不足の解消に伴って、進学率が低下して就業比率が 上昇する可能性もあるものの、近年の進学率の上昇トレンドが中期的には大きく変更される とは考えにくい。したがって、需要不足の解消が見込まれる今後の若年層の就業比率を見通 すためには、就業比率の低下原因が失業率の上昇にあるのか、あるいは非労働力率の上昇あ るのかを明らかにする必要がある。 以上の観点に従って若年層の就業比率の低下を要因分解した結果、15~19 歳では失業率の 上昇による就業比率の押し下げ寄与は比較的小さく、特に女性で大学や専門学校への進学率 上昇を意味する「通学」が押し下げ要因となっていることがわかる(図表 14)。また、女性 16 においては、「家事」が小幅ながらも継続的に就業比率を押し上げており、専業主婦や家事 手伝いなどの理由による非労働力化の動きは縮小傾向にある。特筆すべきは、1995 年から 2000 年にかけて顕著に見られる「その他」の大幅な押し下げ寄与である。これは、通学もせ ず、就業する意志もない(失業者ではない)、いわゆるニートの増加を表している。 20~24 歳では、「通学」による就業比率の低下傾向が女性に偏っている一方で、「失業者」 の増加による押し下げ幅は男性で大きい。この年齢階層では、相対的に大学進学率が高い男 性において進学の選択肢がほぼ大学院に限られるため、卒業後すぐに失業者となる数が増加 していることを反映したものと考えられる。また、2000 年にはこの年齢階層でもニートの増 加による就業比率の低下が見られた。女性では、晩婚化を背景に「家事」が就業比率の押し 上げ要因となる傾向が見られるが、95 年以降はその寄与が低下している。 図表 14 (%pt) 1.0 若年層の就業状態変化の要因分解 (%pt) 1.0 15~19歳、男 その他 通学 家事 完全失業者 就業者 0.5 15~19歳、女 その他 通学 家事 完全失業者 就業者 1985 1995 2000年 1995 2000年 0.5 ▲ 0.0 ▲ 0.0 ▲ 0.5 ▲ 0.5 ▲ 1.0 ▲ 1.0 ▲ 1.5 ▲ 1.5 ▲ 2.0 ▲ 2.5 ▲ 2.0 1985 (%pt) 2.0 1990 1995 2000年 (%pt) 4.0 20~24歳、男 1990 20~24歳、女 3.0 1.0 2.0 ▲ 0.0 1.0 ▲ 1.0 ▲ 0.0 ▲ 2.0 ▲ 1.0 ▲ 3.0 ▲ 4.0 その他 通学 ▲ 2.0 家事 ▲ 3.0 完全失業者 その他 通学 家事 完全失業者 就業者 ▲ 4.0 就業者 ▲ 5.0 ▲ 5.0 1985 1990 1995 2000年 1985 1990 (注)1.折れ線グラフは、当該年齢人口総数に占める就業者の比率の、5 年前からの変化ポイント。 棒グラフは、マイナスの場合はその就業状態の比率が上昇して就業者の比率を押し下げたことを示す。 プラスの場合はその就業状態の比率が低下したことを示す。 2.人口総数に就業状態不詳の者は含まない。 3.「家事」「通学」「その他」は非労働力人口の内訳。 (資料)総務省「国勢調査」 17 以上のように、若年層の就業比率の低下は、特に 10 代で進学率の上昇などによる非労働力 の増加に起因する部分が大きい。一方、より母集団の大きい 20 代前半では、雇用情勢の悪化 を反映して、労働力人口のうち失業率の上昇に起因する部分も大きかったことがわかる。し かし 20 代前半でも、2000 年にはニートの増加が就業比率の低下要因となってきており、90 年代後半に起きた若年層の就業比率の低下は、労働力率の低下(非労働力人口の増加)によ る部分が相当大きいと言える。 ただし、ニートの増加の原因は一概には言えないものの、雇用環境の悪化(したがって就 業を諦めてしまうこと)が一因であると考えられる。景気の回復を受けて企業の新卒採用意 欲が高まっていることを踏まえれば(図表 15)、今後ニートの増加によって若年層の労働力 率が一段と低下する可能性は小さい。また、進学率は上昇を続けているものの、卒業者に占 める進学志願者の比率で見ると 2000 年以降ほぼ一定で推移していることから、通学者の増加 による労働力率の押し下げ余地も大きくないと予想される。したがって、今後の労働力率は 2005 年と同水準とし、失業率については中期的に各年齢階層で均衡的な水準に収斂するとし て将来の就業比率を推計した。 図表 15 若年層の進学・就職状況 〔求人倍率の推移〕 (倍) 3.5 3 〔進学志願率の推移〕 (%) 60 59 58 57 56 55 54 53 52 51 50 2000 大卒求人倍率 高卒求人倍率 2.5 2 1.5 1 0 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 0.5 計 2001 2002 (注)志願率=進学志願者数/卒業者数。 過年度卒業生は含まない。 (資料)文部科学省「学校基本調査」 (年度卒) (注)高卒は卒業年度の7月末時点の状況、大卒は卒業年度の2~3月調査。 (資料)高卒;厚生労働省、大卒;リクルートワークス 男 2003 女 2004 年度卒 次に、新卒採用の産業別の配分(新卒採用シェア)については、各産業の生産額に応じた 過去の平均的な水準に従うと仮定した。そこで、15~19 歳を高卒相当、20~24 歳を大卒相 当とみなし14、1 年前の産業別の実質付加価値生産額シェア(GDPシェア)を説明変数とし て、男女別に高卒および大卒の新卒採用シェアの水準を推計した。また、製造業を基準とし た産業ダミーを説明変数に加えており、推計された各産業ダミーの係数の符号がプラスの場 合には、その産業の新卒採用シェアが製造業と比べて大きい(マイナスの場合には小さい) 14 20~24 歳就業者数から 5 年前の 15~19 歳就業者数を差し引いて、大卒相当の新規採用とみなした。 18 ことを示している。ダミーは定数項ダミーであるため、産業別の違いは傾き(GDPシェア の係数)には影響を与えず、水準のみに影響を与えるとの仮定をおいている15。 推計の結果、生産額シェアは新卒採用の産業別シェアと正の相関があり、従来は平均的に 生産額シェアが大きいほど新卒採用シェアが大きいという関係があることが確認された(図 表 16 1 行目)。産業別にみると、15~19 歳の男性ではすべての産業で係数がマイナスであ ることから、基準である製造業よりもどの産業も新卒採用シェアが小さいことがわかる。20 ~24 歳の男性では、サービス業で製造業よりも新卒採用シェアの水準が高いものの、統計的 に有意な結果とはなっていない。一方、女性では 15~19 歳、20~24 歳とも、サービス業に 加えて卸売・小売業で製造業よりも有意に新卒採用シェアが大きいことから、これら産業で は女性の採用に積極的であったことがわかる。また、20~24 歳の女性では有意ではないもの の、金融・保険業の係数がプラスであることから、大卒相当の女性についてのみ積極的に採 用を行っていたことが示唆される。 以上の新卒採用の総数予測値およびシェア推計結果に従い、将来のGDPシェアには先に 推計された結果を用いて、2015 年までの若年層の労働供給を算出した。 図表 16 GDPシェア 産業ダミー(基準:製造業) 農林水産業 鉱業 建設業 電気・ガス・水道業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 運輸・通信業 サービス業 政府サービス 非営利サービス 定数項 新卒採用の産業別シェア推計結果 男性 15~19歳 β exp(β) 0.214 (1.238) -2.368 -5.147 -0.425 -3.379 -0.214 -4.393 -5.097 -1.705 -0.185 -1.603 -2.426 -1.710 *** *** *** *** *** *** *** *** * (0.094) (0.006) (0.654) (0.034) (0.808) (0.012) (0.006) (0.182) (0.831) (0.201) (0.088) (0.181) 20~24歳 β exp(β) 0.365 * (1.440) -2.171 -4.054 -0.494 -2.603 -0.006 -1.967 -3.380 -0.776 0.213 -1.034 -1.708 -2.375 *** *** * *** *** *** ** *** *** *** (0.114) (0.017) (0.610) (0.074) (0.994) (0.140) (0.034) (0.460) (1.237) (0.355) (0.181) (0.093) 女性 15~19歳 β exp(β) 0.158 (1.171) -3.623 -6.202 -2.563 -4.552 0.643 -1.909 -4.208 -2.104 0.760 -1.638 -1.776 -1.885 *** *** *** *** * *** *** *** *** *** * * -2Log Likelihood 0.951 0.953 0.944 adj.R2 cox&snellR2 48 48 48 N ***;p<.0.01, **;p<0.05, *;p<0.1 (注)以下の式を最小二乗法によって推計。推計期間は、1985、1990、1995、2000年。 ln(p/1-p)=const.+β*(GDPシェア)+γ*dummy(各産業)、 p;若年各年齢階層就業者の産業構成比 15 (0.027) (0.002) (0.077) (0.011) (1.903) (0.148) (0.015) (0.122) (2.139) (0.194) (0.169) (0.152) 20~24歳 β exp(β) 0.549 ** (1.732) -2.303 -3.618 -1.219 -2.683 0.781 0.166 -2.386 -0.965 1.388 -0.567 -0.275 -3.453 *** *** *** *** *** *** *** *** ** *** (0.100) (0.027) (0.296) (0.068) (2.184) (1.181) (0.092) (0.381) (4.006) (0.567) (0.760) (0.032) 0.958 48 新卒採用シェアの推計値が 0~1 の間に収まるように、新卒採用シェアをロジット変換した上で推計してい る(図表 16 の注参照)。また、ここでは各産業を定数項ダミーとして説明変数に加えていることから、各 産業の新卒採用シェアの水準は異なるが、GDP 弾性値はすべての産業で等しいという仮定をおいているこ とになる。本来であれば、産業ごとに GDP 弾性値は異なると考えられるので、産業別に推計すべきである が、データの制約(①国勢調査は5年ごとデータであるため、産業別に推計するための十分なデータ数が得 られない、②地域別のデータを使用すればデータ数は確保できるものの、20~24 歳を大卒相当の新卒者と みなして 5 年前の 15~19 歳就業者数を差し引いているため、就業者が地域間移動する可能性を考慮すると データの整合性が得られない、③厚生労働省「賃金構造基本調査」を用いれば毎年の産業別新卒採用データ が得られるためデータ数は確保できるが、正規雇用のみとなるため、就業者全体のシェアとの乖離が大きい) から、本稿ではこのような推計式を用いた。なお、国勢調査による新卒採用シェアを毎年データに線形補間 した上で産業別の推計を試みたが、良好な結果が得られなかった。 19 (c) 2015 年の労働供給 以上の結果、就業者の産業間移動や各年齢階層における労働市場への参入・退出といった 就労行動を現状のまま維持した場合、2015 年の労働供給は 6,366 万人になると推計される(図 表 17)。2000 年に比べた減少幅は▲295 万人であり、その規模は、均衡失業率のもとで推 計された 2015 年の失業者数 239 万人を上回る。すなわち、2015 年には失業率が 0%であっ たとしても、現在の就業者数を維持することはできない。産業別には、サービス業(352 万 人増)、非営利サービス(27 万人増)、運輸・通信業(3 万人増)を除く全産業で 2000 年に 比べて減少している。 増減率で見ると、農林水産業、鉱業、建設業、製造業、不動産業、政府サービスで二ケタ の落ち込みとなっている。これらの産業では、2000 年時点の就業者の年齢構成が団塊世代を 中心とする高年齢層に偏っていたことから、主に団塊世代退出の影響を大きく受けたものと 考えられる。 一方、サービス業では、若年層の採用を積極的に行ってきた結果、団塊世代退出の影響は 比較的小さく、労働供給は大きく伸びている。また、運輸・通信業では特に通信業において 若年層を積極的に採用していたため、2000 年とほぼ同水準の労働供給を維持している。他方、 サービス業と同様に若年女性を積極的に採用する傾向のある金融・保険業16では、90 年代後 半から 2000 年にかけて新規学卒者の採用を大幅に抑制したことに加え、最近時において見ら れる中年女性の採用抑制傾向を反映して、労働供給が減少する結果となった。 図表 17 計 民間計 農林水産業 鉱業 建設業 製造業 電気・ガス・水道業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 運輸・通信業 サービス業 政府サービス 非営利サービス 2000年 6661 6189 423 8 682 1248 44 1201 200 96 402 1885 365 108 2015年 6366 5909 225 5 583 984 41 1160 187 81 404 2237 323 135 2015 年の産業別労働供給 (単位:万人) 2000年比増 (2000年比 減数 増減%) ▲ 295 ▲ 4.4 ▲ 280 ▲ 4.5 ▲ 198 ▲ 46.8 ▲2 ▲ 32.1 ▲ 99 ▲ 14.5 ▲ 264 ▲ 21.2 ▲3 ▲ 6.8 ▲ 41 ▲ 3.4 ▲ 13 ▲ 6.3 ▲ 14 ▲ 15.0 3 0.7 352 18.7 ▲ 42 ▲ 11.5 27 25.0 産業計 (年齢階層) 7065-69 女 男 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 500 400 300 200 100 0 100 200 300 400 500 (万人) (資料)みずほ総研試算 16 2000 年国勢調査によれば、女性比率(全就業者数に占める女性就業者の比率)はサービス業の 53.4%に次 いで金融・保険業が 51.8%となっており、50%を超えるのはこの 2 産業のみである。 20 図表 18 (年齢階層) 農林水産業 7065-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 60 40 7065-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 男 20 0 建設業 (年齢階層) 女 80 2015 年の男女・年齢別就業者数 20 40 60 80 80 女 60 男 40 20 0 20 40 60 (年齢階層) 製造業 (年齢階層) 7065-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 女 100 50 卸売・小売業 7065-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 男 0 50 100 女 100 男 50 0 50 100 (万人) (万人) (年齢階層) 金融・保険業 7065-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 女 20 10 不動産業 (年齢階層) 7065-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 男 0 10 20 女 10 8 6 4 男 2 0 2 4 60 (年齢階層) 運輸・通信業 7065-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 女 40 20 7065-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 男 0 20 40 6 8 10 (万人) (万人) (年齢階層) 80 (万人) (万人) 60 200 (万人) サービス業 女 100 男 0 100 200 (万人) (資料)みずほ総研試算 21 (4) 2015 年の産業別労働需給 ここでは、前節までに推計した労働需要と供給を合わせた需給結果について分析を行う。 分析の第一の視点は、産業計で見た場合の供給過不足(ネットの供給過不足)と、産業別の 過不足を総計した場合(グロスの供給過不足)との相違にある。労働者は、基本的には需要 の大きな産業に集まる傾向がある。しかし労働者が他産業に移ろうとする場合には、それま でいた産業で身につけたスキルが通用しない可能性があるため、産業間移動にはある程度制 約があると言える。また地域移動を伴う場合には、コスト負担や家族事情なども制約要因に なるだろう。このような産業間移動の制約を考慮すると、ネットの供給不足よりも、産業別 の需給の結果として推計される、グロスの供給不足の方が大きくなると考えられる。 以上の視点に従うと、2015 年にはネットで 189 万人(民間産業計では 229 万人)の供給不 足になると試算されるが、グロスの供給不足は 376 万人となっており、ネットアウトした場 合と比べて、実際には 2 倍の供給不足が発生することが分かる(本節における需給結果を「基 本ケース」とする)。したがって産業間移動による調整が現状のままでは17、グロスの供給余 剰が 187 万人発生し、これらの人々は失業者、あるいは非労働力化する可能性があることが 指摘できる。 次に産業別の需給を見ると(図表 19)、卸売・小売業で 116 万人と最も大きな余剰が発生 しており、次いで金融・保険業で 19 万人の供給超過となっている。卸売・小売業では供給が 減少するものの、それを上回って需要が減少するため大きな余剰が発生する。一方、金融・ 保険業では、生産性の伸びもあり、労働需要の減少ほどには供給が減少しないことから、余 剰が発生している。本稿における新卒採用の推計は、これまで各産業が生産額に対して新規 学卒者をどの程度採用していたかという度合いに基づいていることから、金融・保険業では 今後見込まれる生産額の増加に応じて過去のような新卒採用の大幅拡大を続けると仮定して いるため、このように供給余剰になっている面もあると考えられる。 一方、中高年層に比べ若年層が極端に少ない農林水産業および建設業では、労働需要は減 少するものの、それを上回る供給減により、それぞれ 65 万人、34 万人の供給不足が生じる。 製造業では、生産規模の拡大が続くなか、これまでのような雇用の抑制を続けるため、労働 供給の減少が労働需要の減少を上回り、15 万人の供給不足が生じる。製造業の雇用抑制は労 働生産性の持続的な上昇に依存する部分が多いが、過度な生産性向上への期待は雇用不足を 生じる可能性があることを、本試算結果は示していると考えられる。他方、サービス業では 若年層や女性の雇用増加によって労働供給が増加するものの、労働生産性の伸びがこれまで のような緩やかな上昇にとどまるとすれば労働需要の増加が供給を大幅に上回るために、259 万人の供給不足となる。 以上のように、ネットで見た場合でも労働需要の増加が供給のそれを上回り、2015 年には 17 「就業構造基本調査」(総務省)によると、過去 20 年に転職率(転職者/就業者)は 5%弱、産業間移動 率(産業間転職者/転職者)は 60%前後で推移している。したがって本稿の労働需給推計結果は、この程 度の産業間移動による需給調整があった上で、さらに生じる過不足を示している。 22 大幅な労働力不足が生じるとみられるが、さらに産業間の労働需要と供給のミスマッチによ って、より多くの供給不足が発生する。このことから、労働力不足に対処するためには、マ クロ的な労働供給量を増やすことと併せて、産業間のミスマッチの解消により一部の産業で 余剰となった労働力を円滑に労働力不足の産業へ移動させることが重要であることが改めて 確認される。 図表 19 (万人) 過剰 2015 年産業別の就業者過不足見通し(基本ケース) 700 600 500 400 300 100 50 ▲ 3.1 ▲ 0.1 18.9 11.6 0.5 0 ▲ 50 ▲ 100 ▲ 15.2 ▲ 33.7 ▲ 64.9 サービス業 運輸・通信業 不動産業 金融・保険業 卸売・小売業 電気・ガス・水道業 製造業 23 建設業 (資料)みずほ総研試算 鉱業 サービス業 運輸・通信業 金融・保険業 ▲ 258.9 不動産業 卸売・小売業 電気・ガス・水道業 製造業 建設業 鉱業 農林水産業 民間計 ▲ 250 ▲ 228.8 ▲ 300 農林水産業 ▲ 200 200 100 0 100 200 300 400 労働需要 労働供給 民間計 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ 150 不足 基本ケース 需給変化(対2000年差) (万人) 2015年 労働供給過不足状況 基本ケー ス 150 116.0 3. 労働供給増加策の効果の検証 前節の「基本ケース」は、ライフ・サイクルに応じた労働市場への参入・退出および産業 間移動(転職)などの就労行動を現状のまま維持した場合、2015 年にはサービス業や製造業、 建設業、農林水産業など多くの産業で労働力が不足し、全体でも労働力不足となることを示 している。 こうした将来の労働者不足については、政府、民間研究機関などによって計量的な推計が 多くなされている18と同時に、労働力不足を解消するための手段として、高年齢者や女性の労 働力率を上昇させることや、ニートなど就業意欲の喪失が問題となっている若年層を、労働 市場へスムーズに誘導するための対策の必要性が指摘されている。そして、これらの対策を 講じることによって、労働供給の減少度合いがある程度緩和されることが報告されている。 そこで本稿でも、前節の推計で使用したフレームワークを用いて、現在、労働力不足を解 消する策として有力視されている、①高年齢者層、②育児期間の女性、③若年層、それぞれ の雇用促進策を行った場合の効果を試算する。 (1) 高年齢者雇用増加策の効果 高年齢者の雇用促進は、労働力不足へ対応策のみならず、技能伝承という労働力の質的側 面での向上を通じて労働生産性を高め、その結果として労働力不足を緩和する効果も期待さ れる。また、年金受給開始年齢の引き上げに伴って無収入の時期が生じないようにする必要 性もあって、既に 60~64 歳層の高年齢者に対して企業が雇用機会を提供しなければならない ことが決定されている19。 そこで、高年齢者雇用の促進による影響を織り込むために、2010 年から 2015 年にかけて、 55~59 歳の雇用者(就業者から自営業主や家族従業者・内職者を除いたもの)は、60~64 歳になっても全員雇用されるという条件を加えて、2015 年の労働供給を推計した。なお、本 試算では 55~59 歳から 60~64 歳になる過程で全員雇用継続という仮定を置いているため、 推計された結果は高年齢者雇用を促進する最大限の効果を意味している。 18 19 雇用政策研究会(2005)、神津・佐藤・稲田(2003)など。 高年齢者雇用安定法の改正によって、事業主は雇用者に対して、2006 年度までには 62 歳まで、2009 年度 には 63 歳、2012 年度には 64 歳、2013 年度以降は 65 歳までを対象に、①定年年齢の廃止、②定年年齢の 延長、③継続雇用制度の導入、のいずれかの策を講じることによって雇用を確保しなければならないことが 定められた(当面企業規模毎に一定猶予が設けられている)。 24 図表 20 (万人) 高年齢者雇用促進策の効果 2015年 労働供給過不足状況 (万人) 200 過剰 180 146 150 160 140 100 38 50 120 31 28 3 ▲ 3 100 80 0 0 ▲ 15 ▲ 50 40 サービス業 運輸・通信業 不動産業 卸売・小売業 ▲ 0 金融・保険業 電気・ガス・水道業 製造業 建設業 鉱業 ▲ 1 民間計 運輸・通信業 サービス業 不動産業 卸売・小売業 金融・保険業 製造業 電気・ガス・水道業 鉱業 建設業 民間計 農林水産業 ▲ 20 ▲ 225 農林水産業 ▲ 200 19 9 3 0 0 34 30 18 20 ▲ 150 ▲ 250 53 60 ▲ 63 ▲ 100 ▲ 66 不足 基本ケースからの供給増加数 166 (資料)みずほ総研試算 本試算の結果によると、高年齢者の雇用を促進した場合、2015 年には労働供給が基本ケー スに比べて 201 万人(民間計では 166 万人;図表 20 左)増加し、需要に対するネットの供 給過不足(産業計の供給過不足)は 12 万人の余剰に転じると見込まれる。ただし、高齢者の 雇用を促進した場合には政府サービスや非営利サービスで大きな余剰が発生していることか ら、民間に限ると 63 万人の不足となっている。また、グロスの供給不足(産業別の供給不足 の総計)は基本ケースに比べておよそ 67 万人解消されるものの、依然 309 万人と大きな不足 が生じている。 供給不足の解消幅が大きかったのは、建設業、製造業、サービス業である。建設業は、団 塊世代を中心とする高年齢者の退出の影響が和らいだために、18 万人の供給不足が解消して いる。建設業と同じく高年齢者の退出などによって供給が不足していた製造業では、供給が 53 万人押し上げられたため需要を上回り、38 万人の余剰に転じている。サービス業では、34 万人と製造業に次いで供給が増加したものの、供給不足は依然 200 万人を超えている。 一方、基本ケースで供給過剰にあった金融・保険業では、60~64 歳のコーホート変化率が 男性で最も大きいマイナスとなっているため、供給余剰幅が拡大している。卸売・小売業、 不動産業および運輸・通信業でも余剰幅が拡大する結果となる。 農林水産業では、基本ケースに比べて、わずかではあるものの不足幅が大きくなっている。 これは、農林水産業については 55~59 歳から 60~64 歳にかけて退出よりも参入する者の数 が多いためである。この結果は、高年齢雇用者の雇用継続を促した場合には、定年退職など を経て他産業から農林水産業に移行してくる人たちの人数を減少させる可能性があるという 25 ことを示している。 (2) 女性の雇用促進策の効果 女性の年齢別労働力率は、結婚や出産によって一旦落ち込み、その後再び上昇することで M 字型を描くことは先に指摘した通りであるが、近年は晩婚化の進展によって若年層で労働 市場からの退出が遅延した結果、M 字の落ち込みが小さくなってきている(図表 21)。パー トタイム労働の拡大によって中年層の労働供給が増えたことも、この層の女性の労働力率を 押し上げているとみられる。しかし、女性の場合には、「就業を希望しているが就職活動を していない者」を含めた潜在労働力率と、実際の労働力率の乖離が男性に比べて大きい(図 表 22)。したがって、女性の就業や求職活動を阻害する育児などの障害を取り除くことがで きれば、女性の労働供給はさらに増大するものと考えられる。 図表 21 女性の年齢別労働力率 労 働 力 人 口 /15歳 以 上 人 口 ( % ) 80 72.7 74.0 70 61.4 60 50 49.2 48.2 40 1980 1990 2000 2004 30 20 (年齢階層) 10 15- 20- 25- 30- 35- 40- 45- 50- 55- 60- 6519 24 29 34 39 44 49 54 59 64 (資料)総務省「労働力調査」 (注)潜在労働力率=(労働力人口+非労働力人口のうち就業希望の者)/ (資料)総務省「労働力調査」 26 労働力率 人口総数 70歳以上 65~69歳 60~64歳 55~59歳 50~54歳 45~49歳 潜在労働力率 40~44歳 15~19歳 70歳以上 65~69歳 60~64歳 55~59歳 50~54歳 45~49歳 40~44歳 35~39歳 30~34歳 25~29歳 潜在労働力率 35~39歳 労働力率 女性(2004年) 30~34歳 (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 25~29歳 男性(2004年) 20~24歳 15~19歳 (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 就業希望者を含めた潜在労働力率 20~24歳 図表 22 ここでは、企業の女性に対する就業継続支援や政府による育児支援などの対策が最大限に 効果を発揮した場合を想定して、育児期間に相当する 25 歳~39 歳の女性の労働力率が潜在 労働力率の水準まで上昇するという条件を基本ケースに加えて推計を行う。具体的には、2005 年から 2010 年にかけての 25~34 歳女性の労働力率が潜在労働力率と同水準に、2010 年から 2015 年にかけては 35~39 歳女性にも範囲を広げて 25~39 歳女性の継続就業率が潜在労働力 率と同水準になるとしている。 図表 23 (万人) (万人) 2015年 労働供給過不足状況 200 過剰 女性の雇用促進策の効果 140 146 150 120 100 100 50 25 1 2 0 17 80 0 40 30 16 20 3 6 6 サービス業 運輸・通信業 1 不動産業 金融・保険業 0 電気・ガス・水道業 製造業 建設業 サービス業 運輸・通信業 不動産業 金融・保険業 卸売・小売業 電気・ガス・水道業 製造業 建設業 鉱業 農林水産業 民間計 農林水産業 ▲ 191 0 鉱業 ▲ 200 2 民間計 0 卸売・小売業 ▲ 3 ▲ 31 ▲ 63 ▲ 100 ▲ 98 ▲ 150 不足 68 60 ▲ 50 ▲ 250 基本ケースからの供給増加数 131 (資料)みずほ総研試算 この結果、2015 年には基本ケースに比べて(以下、同様)労働供給が 142 万人(民間計で は 131 万人;図表 23 右)増加し、ネットの供給不足は 47 万人に縮小するものの、高年齢者 の雇用を促進する場合に比べて、ネットでの不足の解消幅は小さい。しかしグロスの供給不 足の解消幅は 88 万人であり、高年齢者の 67 万人よりも解消幅が大きくなると見込まれる。 高年齢者よりもグロスの供給不足に対する効果が大きい主な理由は、労働需要が唯一伸び ていたサービス業で就業者に占める女性比率が高いことによる。そのため、サービス業では 基本ケースに比べて最も労働供給が増大した。ほかに労働供給の増加が大きいのは製造業、 卸売・小売業である。製造業では就業者に占める女性の割合が低いこともあり高年齢者活用 に比べると増加幅は小さいものの、供給不足は解消している。また卸売・小売業では、高齢 者の場合と同様に余剰が増大する結果となる。一方、女性労働者の比率が低い鉱業、建設業、 電気・ガス・水道業では、不足幅がほとんど解消されていない。 女性比率が平均程度であった不動産業では、従来、女性は 30 代になると大きく減少する傾 27 向があるため、20 代後半から 30 代の女性の労働供給を増加させても効果はほとんどない。 また、金融・保険業では、就業者に占める女性の比率こそ 50%超とサービス業に次いで高い ものの、20 代前半に女性就業者が偏っており、その後はすべての年齢階層で減少する傾向が あることから、不動産業と同様に労働供給を拡大させる効果は小さい。ただし、いずれの産 業も基本ケースで既に供給過剰となっていることから、効果が小さいことは両産業にとって 問題とならない。 (3) 若年層の雇用促進策の効果 厳しい環境が続いていた新卒採用状況であったが、企業業績の回復と将来の労働者不足へ の懸念から、ここ数年は回復傾向が鮮明になってきている。一方で、ニートなど、働く意志 を持たず求職活動を行わない若年無業者は未だ増加している模様である。ニートが増加する 理由の一つとして、社会への適応性の乏しさが指摘されており、政府を中心に社会活動への 参加が円滑に行えるような支援が行われ始めたところである。 そこで、こうした支援策によってニートなどの無業者が就業可能になると仮定し、無業の 理由が「家事」、「通学」以外の本来「労働可能」である無業者者を就業者数に加えて将来 の労働供給を試算した。具体的には、基本ケースでは労働力率を現在と同程度として推計し ていたが、ここではこの「労働可能」者を労働力人口に加えて計算した労働力率の過去 20 年 の平均値20を用いて推計する(図表 24、図表 25)。 図表 24 (%) 23 労働可能比率の推移 (%) 15~19歳 20~24歳 80 22 78 21 76 20 74 19 72 18 70 男 女 17 男 女 68 66 16 64 15 1977 1982 1987 1992 1997 1977 2002 1982 1987 1992 1997 2002 (注)労働可能比率=(有業者+家事・通学以外の無業者)/総数(%) (資料)総務省「就業構造基本調査」 20 ここでは若年層活用の最大値を推計するため、失業者の発生を考慮していない。そこで、失業であるか否 かに関わらず、無業の理由が把握できる「就業構造基本調査」(総務省)によって、労働可能比率(有業者 +家事・通学以外の無業者)を計算すると、最近では 1992 年に労働可能比率が高く、2002 年に低くなって いることから、それらを均するために 1987 年、1992 年、1997 年、2002 年の平均値を推計に用いた。 28 図表 25 若年層増加シミュレーションの前提条件 (%) 20~24歳 (%) 15~19歳 22 80 +7.2%pt 20 +13.7%pt 75 +3.9%pt +9.6%pt 18 70 16 65 14 60 12 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 男 女 男(シミュレーション前提) 女(シミュレーション前提) 男 女 男(シミュレーション前提) 女(シミュレーション前提) (注)点線は基本ケースの就業比率(就業者数/人口)。矢印に添えた数値は、シミュレーション前提の 就業比率の、基本ケース推計期間平均就業比率と比べた増加幅。 (資料)総務省「国勢調査」、「就業構造基本調査」よりみずほ総研試算。 図表 26 (万人) 若年層の雇用促進策の効果 (万人) 2015年 労働供給過不足状況 200 過剰 138 150 100 50 0 1 16 ▲ 64 2 4 サービス業 不動産業 0 運輸・通信業 金融・保険業 卸売・小売業 1 電気・ガス・水道業 サービス業 運輸・通信業 不動産業 金融・保険業 卸売・小売業 電気・ガス・水道業 製造業 建設業 鉱業 民間計 不足 農林水産業 ▲ 300 製造業 ▲ 232 ▲ 250 27 22 8 0 建設業 ▲ 200 1 鉱業 ▲ 142 22 農林水産業 ▲ 150 21 0 ▲ 26 ▲ 50 ▲ 100 7 ▲ 3 基本ケースからの供給増加数 87 民間計 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (資料)みずほ総研試算 この結果、若年層が従来に比べて積極的に労働市場に参入した場合、2015 年には基本ケー スに比べてネットの労働供給は 94 万人(民間計では 87 万人;図表 26 右)増加すると推計さ れる。高年齢者あるいは女性を活用する場合に比べると増加幅が最も小さく、グロスの過不 足についても総計で 51 万人の不足解消と、高年齢者や女性を活用する場合に比べて効果は小 29 さい。ただし、労働需要をある程度考慮して各産業に配分されると前提していることから、 余剰の発生は最も小さい。また、若年層において供給余剰が発生することは、将来の主要な 働き手となることを勘案すれば、若年層の失業者や非労働力人口の増加を必ずしも意味する わけではない。しかし若年の供給が増加することによって、他の年齢階層に対する需要が減 少する可能性はある。したがってここで推計された余剰は、若年以外の年齢階層における失 業者や非労働力人口の増加を示唆していると言えよう。 産業別には、製造業で労働供給が 22 万人増加するために供給不足は解消されるものの、サ ービス業の供給増は 27 万人にとどまり、供給不足を解消するには大きく及ばない。建設業に ついても、不足の一部を補うにとどまる。 一方、卸売・小売業や金融・保険業、運輸・通信業では、供給余剰幅が拡大する。少子化 の影響により若年人口が減少していることもあり、若年層の雇用促進策は、高年齢者や女性 に比べて供給不足を解消する効果は小さい。ただし、若年層は将来の日本経済の中核を担う 層であり、中長期的な観点ではこの層の雇用促進策は当面の効果の多寡にかかわらず不可欠 であろう。 (4) すべての対策を行った場合 最後に、(1)~(3)全ての条件を基本ケースに加えた場合の推計結果を示す。ネットの労働供 給の基本ケースからの増加幅は 450 万人(民間計で 408 万人)となっている。しかし、それ でもグロスで見ると 188 万人の供給不足が発生する一方、余剰は 449 万人に達している。こ れは、基本ケースに比べた不足解消幅が 188 万人である一方で、余剰増大幅も 262 万人とな ったためである(図表 27)いずれの対策も、ネットの就業者数の増加幅に比べて不足幅解消 への貢献は小さかったため(すなわち余剰の増大につながったため)、すべての対策を講じ た場合には産業間ミスマッチが増大する結果となっている。そのため、農林水産業、鉱業、 建設業およびサービス業では依然として、労働供給の不足が解消されていない(図表 28)。 図表 27 シミュレーション総括表 (万人) 基本ケース 需要に対する供給過不足 (民間計) うち不足 うち余剰 基本ケースからの増加幅 (民間計) 不足解消幅 余剰増大幅 ▲ 189 (▲ 229) ▲ 376 187 シュミレーション結果 (1)高齢者 (2)女性 (3)若年 (4)すべて 12 (▲ 63) ▲ 309 321 201 (166) 67 134 ▲ 47 (▲ 98) ▲ 288 241 142 (131) 88 54 ▲ 96 (▲ 142) ▲ 325 229 94 (87) 51 43 260 (179) ▲ 188 449 450 (408) 188 262 (資料)みずほ総研試算 30 図表 28 (万人) 200 (万人) 2015年 労働供給過不足状況 250 過剰 高年齢者・女性・若年すべて活用ケース 450 202 179 基本ケースからの供給増加数 408 400 350 150 300 250 80 100 4 0 50 31 86 18 4 30 サービス業 運輸・通信業 2 不動産業 金融・保険業 電気・ガス・水道業 卸売・小売業 製造業 建設業 0 鉱業 2 農林水産業 サービス業 運輸・通信業 不動産業 金融・保険業 卸売・小売業 電気・ガス・水道業 製造業 建設業 鉱業 農林水産業 ▲ 120 民間計 0 ▲ 63 不足 96 100 ▲ 3 民間計 ▲ 150 139 150 2 ▲ 3 ▲ 50 ▲ 100 200 42 36 50 (資料)みずほ総研試算 (5) 3つの対策の効果 高年齢者の雇用促進策は、女性や若年の雇用を促進する対策に比べてネットの供給不足の 解消に最も効果的である。しかし、労働需要の減少が最も大きかった製造業における供給増 加幅が大きかったために、グロスの供給不足の解消幅は、女性の雇用促進策に比べて小さか った。製造業のほか、建設業も 2000 年時点で団塊世代を中心とした高年齢層の比率が高かっ たことから、供給不足に対する効果は比較的大きい。ただし製造業に比べると、不足の解消 度合いは小さい。また運輸・通信業では、建設業と同程度に供給が増加するものの、2000 年 と比べると需要がわずかではあるが減少すると見込まれるために、余剰幅が増大する結果と なっている。 女性の雇用促進策は、ネットの供給不足の解消幅は高年齢者のケースに及ばないものの、 グロスでは最も供給不足の解消幅が大きかった。従来から女性の就業者に占める比率や就業 継続率が高かったサービス業において、労働需要の高い伸びが見込まれるために、他の対策 に比べてミスマッチによる余剰の発生が抑えられている。しかし、女性の雇用を促進したと しても、増大するサービス業の需要を満たすことはできない。もっとも本シミュレーション では女性の労働力率が上昇する範囲を 39 歳までとしていることから、40 歳以上の女性の供 給拡大余地が残されている。したがって女性の雇用を促進することは、供給不足解消に対し て、より大きな効果を期待することができる。 一方、サービス業と同様に女性比率が高かった金融・保険業および不動産業では、30 代以 降に就業継続する女性が減少していく傾向があるために、供給拡大の効果は得られなかった。 31 若年層の雇用促進策は、供給不足の解消幅は他の対策に比べ小さかったものの、製造業に おいては供給不足の解消に十分なインパクトがある。 高年齢者、女性、若年を併せて活用することは供給不足を解消する一方で、大きな余剰も 発生する可能性もあることが示唆された。これは、スキルあるいは地域要因によって発生す る産業間ミスマッチの解消策を併用しなければ、十分な効果が得られないことを示している。 特に、余剰の発生が大きい卸売・小売業や製造業から、不足幅が大きかったサービス業への 円滑な労働移動が行われるような対策を実施する必要がある。卸売・小売業から他産業への 労働移動のうち、サービス業への移動は最も多いが、本推計には現在と同程度の産業間移動 が前提されている。したがって、従来以上の移動が促進されなければ卸売・小売業の余剰は 失業者の増加につながり、労働力不足となる一方で、失業率が上昇する可能性がある。 本試算においては、ミスマッチが拡大することで必然的に発生するであろう賃金の変化な どを通じた産業間の労働移動について明示的に織り込まなかったため、ミスマッチによる影 響を過大に評価している可能性は否定できない。しかし、産業間の雇用のミスマッチをでき るだけ緩和すれば、少なくともこうした調整に伴うコストを低下させる効果が期待できる。 いずれにしても、ミスマッチの解消策は必須であろう。 高年齢者、女性、若年層の雇用促進策のいずれか、あるいは全てを活用したとしても、ほ とんど労働力不足が改善されなかったのは農林水産業である。他産業の労働供給が拡大する ことで、むしろ農林水産業への流入が減少し、労働力の不足幅が拡大する可能性も示唆され た。農林水産業の労働力不足問題については、別途、労働供給の増加策を考える必要がある だろう。 32 4. おわりに 本稿の推計によれば、2015 年の労働供給は 2000 年に比べて 300 万人程度減少する。就業 者が高年齢層に偏っていた農林水産業、鉱業、建設業、製造業および不動産業では、団塊世 代の退出を受けて労働供給を大きく減少させた。一方で、卸売・小売業や、運輸・通信業で は、若年採用を積極的に行っていた、あるいは就業者の男女の偏りが小さかったために、減 少幅が小さい。これら産業と同様に、若年および女性を積極的に活用してきたサービス業で は、2000 年よりも労働供給が増大している。 しかし同時に、労働供給を増大させたサービス業でさえも、2015 年の労働需要に対して、 供給が十分でないことが示された。就労構造を現状維持したままでは、産業別の供給不足を 積上げると、ネットアウトよりも 2 倍程度の供給不足が発生することが見込まれる。もちろ ん、今後の需要動向を反映して、本推計で想定した以上の産業間の供給調整がなされる可能 性もあるが、需要に対する供給余剰が最も大きかった卸売・小売業では、産業間移動の程度 が長期的に安定しているため、本推計が実態から大きく乖離することはないと考えられる。 そして労働力不足の解消策として有力視されている高年齢者、女性、若年の活用推進策の効 果を供給推計に織り込むと、産業別の不足計がいくらか解消される一方で、余剰は更に増大 する結果となった。従来以上の産業間の需給調整がなされない場合には、余剰は失業者や非 労働力人口の増加につながる可能性がある。 これまで行政や民間研究機関などで議論されてきた労働力不足の試算においては、産業や 職業の違いといった側面を考慮しておらず、マクロでみた量的な不足(現在の就業者数から の減少度合い)を指摘するにとどまっている21。しかし産業や職業の間を、労働需要に応じて 労働者が円滑に移動するためには、「労働者の保有するスキル」と「需要のあるスキル」と のミスマッチが生じないための訓練を、従来以上に積極的に行う必要がある。本稿の産業別 労働需給の推計結果は、このようなミスマッチ解消のための訓練の必要性を再確認する証左 となろう。 21 ただし、雇用政策研究会(2005)の分析の基礎資料を提供した日本労働政策研究・研修機構(2005)では 産業別に推計しているが、どの程度の労働力不足が生じるかについては言及していない。また、ここで産業 別や職業別の考慮が十分でないというのは、将来の労働力不足を試算した分析等に限ってそういえるという ことであって、失業率の上昇によって 90 年代末頃より政府が各種助成等を創設することによって、ミスマ ッチを解消するための訓練等を促進したという成果について否定するものではない。 33 5. 【補論】産業別労働供給の推計方法 SNAの経済活動別就業者ベースで推計するため、国勢調査の産業分類を SNA ベースに修 正した上で、必要なデータを使用した。なお、SNA では副業を持つ者を新たな 1 人として就 業者数が算出されているため、とりわけ農林水産業の就業者については他の統計に比べて多 くなっていることに留意する必要がある。 (1) 推計の前提 推計には、労働力率、失業率および産業構成の変化に前提を置いた上で、コーホート変化 率を用いる。推計式は、以下のように導出される。添え字には表示していないが、推計は全 て男女別となっている。また、5 年毎、5 歳刻みデータで推計することを前提としている。 人口をN、労働力人口を L、失業者数をUとすると、 労働力率 l = L N より、 L = N * l 失業率 u = U L = U N * l より、 U = N * l * u 就業者数は労働力人口から失業者数を引いて求められるから、就業者数 E は、労働力率と失 業率を用いて以下のように表される。 E = L − U = N * l − N * l * u = N * l * (1 − u ) LLLLLL ① E at E at −−55 = c at (=産業計のコーホート変化率)とすると、将来のt時点における年齢 a の 就業者数は、 E at = c at * E at −−55 LLLLLLLLLL ② また①より、②は人口、労働力率、失業率を用いて以下のように書き換えることができる。 N at * l at * (1 − u at ) E = t −5 t −5 * E at −−55 LLLLLLLLLL ③ t −5 N a −5 * l a −5 * (1 − u a −5 ) t a 産業計のコーホート変化率 c a は、②③より、年齢別の人口、労働力率、(1-失業率)の t-5 t 期~t 期における変化率の積となっていることがわかる。 次に産業 i の t 時点における就業者数は、各年齢総数に占める産業 i の就業者数の割合 ra ,i を t 用いると、 rat,i = E at ,i E at E t a ,i より、 = r *E t a ,i t a 34 t −5 ②より、 E a ,i = ra ,i * c a * E a −5 LLLLLLLLLLLL ④ t t t 但し④では t-1 期の産業構成比を考慮していない。そこで、 E at ,i E at −−55,i = c at ,i (=産業別のコーホート変化率)とすると、④より、 c at ,i = rat,i * c at * E at −−55 E at −−55,i = c at * rat,i rat−−55,i LLLLL ⑤ ⑤は、人口、労働力率、失業率および産業構成の変化すべてを考慮している。 よって産業別就業者数は、以下のようにコーホート変化率を用いて推計することができる。 E at , j = c at ,i * E at −−55,i = c at * rat,i rat−−55,i * E at −−55,i LLLLLLLLLL ⑥ 推計では産業構成の変化について、直近データがある 1995~2000 年の変化率のまま推移す るものと仮定する。すなわち実際には、下記⑦式を推計する(各産業の産業構成の変化につ いては参考図表)。 t −5 E at ,i = c at * ra2000 ra1995 LLLLLLLLLL ⑦ ,i −5 ,i * E a − 5,i その他の前提は以下のとおり。 ・ 人口は、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(中位推計)の通り推移 ・ 労働力率は、2005 年は労働力調査による 2005 年平均値を用い、それ以降も労働力率は一 定のまま推移すると仮定 ・ 失業率は、需要不足が解消されれば、現在の均衡失業率 3.6%までは低下すると考えられ る(※36 頁参照)。したがって 2005 年は労働力調査の実績値(4.4%)を用い、2010、 2015 年は全体の失業率が 3.6%まで低下すると仮定する。そして人口と労働力人口を上記 の通り推計した結果を用いて全体の失業者数を算出し、その総数を労働力調査 2005 年平 均の失業者の年齢構成を用いて分割する。年齢構成については人口構成の変化を考慮する ために、労働力人口の年齢構成変化分を補正して用いた。以上から推計された年齢別失業 者数と労働力人口を用いて、失業率を算出する。2005 年については労働力調査の年齢別 失業率の実績値が公表されているものの、サンプル数が少ないことから若年や高齢者で国 勢調査との乖離が大きい。そのため、2005 年については全体の失業率のみ労働力調査の 実績値を用いた。 35 参考図表 (%) 100 2000 推計に用いる産業構成比変化( ra ,i (%) 10 農林水産業 男 女 80 -10 40 -20 20 -30 0 -40 -20 3034 3539 4044 (%) 0 4549 5054 5559 6064 6569 -50 70- -5 20 -10 15 0 -30 -5 -35 -10 2529 3034 3539 (%) 50 40 30 4044 4549 5054 5559 6064 6569 -15 70- 男 女 20 10 0 -10 -20 -30 -40 -50 (%) 20 4044 男 女 25- 30- 35- 40- 45- 50- 55- 60- 65- 7029 34 39 44 49 54 59 64 69 (%) 不動産業 80 男 70 女 60 50 40 30 20 10 0 -10 -20 -30 25- 30- 35- 40- 45- 50- 55- 60- 65- 7029 34 39 44 49 54 59 64 69 金融・保険業 25- 30- 3529 34 39 卸売・小売業 5 -25 -40 25- 30- 35- 40- 45- 50- 55- 60- 65- 7029 34 39 44 49 54 59 64 69 10 男 女 -20 男 女 (%) 25 製造業 -15 建設業 0 60 2529 ra1995 − 5 ,i ) 45- 50- 55- 60- 65- 7049 54 59 64 69 (%) 40 運輸・通信業 10 30 サービス業 男 女 0 -10 20 男 女 -20 10 -30 0 -40 -10 -50 -60 25- 3029 34 35- 4039 44 45- 5049 54 55- 6059 64 2000 (注)縦軸は、産業構成比の変化; ra ,i -20 65- 7069 25- 30- 35- 40- 45- 50- 55- 60- 65- 7029 34 39 44 49 54 59 64 69 ra1995 (%) 。横軸は年齢階層。産業構成の変化は、プラスの場合は労働 −5 ,i − 1 供給に増加トレンドが、マイナスの場合には労働供給に減少トレンドがあることを示す。 (資料)総務省「国勢調査」、内閣府「国民経済計算」よりみずほ総研試算。 36 (※)均衡失業率は、UV曲線が視覚的に安定的と捉えられる 2002 年第 1 四半期から 2005 年第 4 四半期ま での期間について、誤差項の系列相関によるバイアスを考慮したプライス=ウィンステン変換に基づく一般化 最小二乗法を用いて求めた。推計の手順は以下のとおり。 ① 雇用失業率および欠員率を以下のように求めた上で、雇用失業率の自然対数を被説明変数、欠員率の自然 対数を説明変数として、最小二乗法によって推計。 雇用失業率=完全失業者数/(完全失業者数+雇用者数)*100 欠員率=(有効求人数-就職件数)/((有効求人数-就職件数)+雇用者数)*100 ln(雇用失業率)= 2.3052-0.5128 ln(欠員率) (45.1744)(-10.9517)←t 値 補正 R2 = 0.9283、 ダービン・ワトソン比 = 1.6979 ② 雇用失業率と欠員率が一致する均衡雇用失業率を、以下のように求める。 ln(均衡雇用失業率)=ln(雇用失業率)-0.5128*ln(欠員率)/(1-0.5128) ③ ②で求めた均衡雇用失業率から失業者数を算出し、就業者ベースの均衡失業率を求める。 失業者数=均衡雇用失業率*雇用者数/(1-均衡雇用失業率) 均衡失業率=失業者数/(就業者数+失業者数) (2) 25 歳以上の各年齢階層の推計方法 ① 1995 年、2000 年「国勢調査」より、産業ごとに男女別年齢(5 歳刻み)別就業者割合を 算出する。SNA 経済活動分類に合わせるため、「卸売・小売、飲食店」の男女別年齢別 就業者数の各値から国勢調査産業中分類「一般飲食店」「その他飲食店」の就業者数を減 算し、その減算分をサービス業に加算した上で算出。 ② SNA 経済活動別就業者数を男女計年齢計のトータル値とし、①で算出した割合を用いて、 1995 年、2000 年の産業別男女別年齢別就業者数を推計。ただし、「非営利サービス」に ついては、介護保健サービス関連事業の民間移管に伴って 2000 年に就業者数が大幅に減 少した影響を除くため、変化率の算出にあたってのみ 2000 年就業者数の代わりに 1999 年就業者数を用いた。 ③ ②で推計した 1995 年、2000 年の産業別男女別年齢別就業者数によって、産業構成の変化 t 2000 率 c a * ra , j ra1995 − 5, j を算出する。 ④ (1)で置いた各前提に従って、国勢調査データによって 2015 年までの産業計の就業者 数を算出する。 ⑤ ②で推計した 2000 年就業者数を初期値とし、③、④を用い、(1)の⑦式に従って 2005 年、2010 年、2015 年の就業者数を推計。 (3) 新規学卒採用者数の推計方法 ① 1980 年~2000 年「国勢調査」データ使用。15~19 歳については全てが当期(t 期~t-4 37 期)に新たに採用された者とし、20~24 歳については当期の総数から 5 期前の 15~19 歳就業者数を減算した数を、15~19 歳からの継続採用者を除く当期に新たに採用された 者の数として、男女別年齢階層別にそれぞれの産業別就業者比率を算出。 ② 各産業の採用比率(新卒就業者総数を 1 とした場合の各産業新卒就業者の比率)は、採用 活動時期である卒業 1 年前の各産業 GDP シェアに影響されるとし、①で求められた産業 別就業者比率を t-1~t-5 期平均 GDP の産業別シェアで回帰。作成された 5 年毎データで ある 1980~85 年、85~90 年、90~95 年、95~2000 年の計 4 期間分データを統合した。 また説明変数の推計値が 0~1 の間をとるよう、下記のようにロジット変換した上で、最 小二乗法によって推計した。 ln(p/(1-p))=const. + β* lnGDP + γ*sangyoD, p;産業別就業者比率、lnGDP;対数産業別 GDP シェア、sangyoD;各産業ダミー ③ ②で求めた推計式に、産業別 GDP 予測値を投入して 2005 年、2010 年、2015 年の各産 業の就業者比率を算出。それを各年で合計が 100%となるように調整した上で、産業別新 規採用比率の予測値とする。 ④ 若年就業者の総数は、(1)の前提に基づき算出。この総数と③で求めた産業別就業者比 率にしたがって、各産業の 2005 年~2015 年の就業者数を求めた。 [参考文献] 神津多可思、佐藤嘉子、稲田将一「わが国の人口動態がマクロ経済に及ぼす影響について」 日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、2003 年 9 月 厚生労働省『平成 15 年版働く女性の実情』、2004 年 厚生労働省雇用政策研究会「人口減少下における雇用・労働政策の課題―すべての人が自律 的に働くことができ、安心して生活できる社会を目指して」、2005 年 7 月 日本労働政策研究・研修機構『労働力需給の推計―労働力需給モデル(2004 年版)による将 来推計』JILPT 資料シリーズ No.5、2005 年 38