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低圧ナトリウム灯下での色の錯視

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低圧ナトリウム灯下での色の錯視
大阪市立科学館研究報告 22, 25 -28 (2012)
低圧ナトリウム灯下での色の錯視
長 谷 川
能 三
*
概 要
低 圧 ナトリウム灯 は効 率 の良 い照 明 であるが、ほとんどオレンジ色 の光 のみの発 光 である。このため物
の色 がわからなくなるというのが照 明 としては欠 点 である。しかし、通 常 光 下 と低 圧 ナトリウム灯 下 でのもの
の見 え方 の違 いを活 かすことで錯 視 の一 種 を作 成 し、「あべの科 学 博 2011」に出 展 した。その錯 視 につ
いて、内 容 と仕 組 み等 について述 べる。
2.色 の錯 視
1.はじめに
低 圧 ナ トリウム灯 は 、光 変 換 効 率 が いいが 、ものの
2-1.色の準 備
色 がわからなくなるという特 徴 がある照 明 である。トンネ
低 圧 ナトリウム灯 下 では、ものの色 がわからなくなる
ルの中 で使 われているというイメージが強 いが、現 在 で
ことはよく知られている。サイエンスショー「虹のひみつ」
は高 圧 ナトリウム灯 や水 銀 灯 などが多 く使 われるように
でも、低 圧ナトリウム灯 で照 らすと、服の色などがわから
なってきており、低 圧 ナトリウム灯 はあまり使 われなくな
なくなるという実 験を行 なっている。
通 常 、物 の色は、色 相・彩 度 ・明 度 で表わされる。パ
ってきている。
低 圧 ナトリウム灯 は、波 長 589.6nmと589.0nmの
ソコン画 面 などでは、RGBの値 で表 わされることもある
近 接 した2 本 の 輝 線 ス ペクト ル(D線 )の オレンジ色 の
が、3つの自 由 度 があることに変 わりはない。ところが、
発 光 が主 である。このため、このオレンジ色 の光 をどの
オレンジ色 のD線 の 単 色 光 である低 圧 ナトリウム灯 下
程 度 反 射 するかによって、ものの 色 は 明 るいオレ ンジ
では 、こ の D線 の 色 の 反 射 率 に よ っ て、オレ ンジ色 が
色 に見 えたり黒 っぽく見 えたりするだけで、赤 や緑 、青
明 るいか暗 いかの区 別 しかつかない、つまり自 由 度 が
などの色 合 いには見 えない。このため、低 圧 ナトリウム
1つになってしまっている。このため、通 常 光 下 では異
灯 が 使 われ ているトンネ ル内 では、まわりの 自 動 車 の
なる色 が、低 圧 ナトリウム灯 下 では、同 じ色 に見 えたり
するのである。例 えば、赤 ~黄 色 のものは、このD線 の
色がわからなくなるということがあった。
8月 9日 ~16日 に近 鉄 百 貨 店 阿 倍 野 店 で開 催 した
色 の反 射 率 が概 ね高 いため、明 るく見 える。しかし、青
「あべの科 学 博 2011」では、ブラックライト通 りやプリズ
色 のものなどはD線 の色 の反 射 率 が低 いため、黒 っぽ
ムライトの部 屋 、オレンジの部 屋 、虹を作 ろう!など、光
い色に見える。
しかし、青 系 の 色 でも 明 度 の高 い色 は 低 圧 ナトリウ
をテーマに展 示や実 験を行 なった。
この中 の「オレンジの部 屋 」は、通 常 光 下 と低 圧 ナト
ム灯 下 でも あ る 程 度 明 る く 見 え る し、赤 系 の 色 でも 明
リウム灯 下 で、物 の色 の見 え方 が異 なるというコーナー
度 が低 い色 は、暗 く見 えるはずである。このため、明 度
である。当 初 は、いろいろな色 の物 が低 圧 ナトリウム灯
をうまく選 べば、青 系 の色 と赤 系 の色 でも低 圧 ナトリウ
下 では色 がわからなくなるということと、例 えば青 いリン
ム灯 下 では同 じ色 (同 じ明 るさ)に見 えるということも可
ゴといった通 常 とは異 なる色 の物 でも、低 圧 ナトリウム
能 である。
灯 下 では不 自 然 なのかどうかわからないといった内 容
そこで、さまざまな色 相 ・明 度 の色 を並 べたカラーチ
を考 えた。しかし、もっと違 った展 開 も可 能 ではないか
ャートを印 刷 し、色 相 の各 色 でどの明 度 の色 が低 圧 ナ
と思い、色の錯 視を作 成した。
トリウム灯 下 で同 じ明 るさに見 えるかを調 べた。この比
較 で、低 圧 ナトリウム灯 下 で、比 較 的 明 るく見 える色 の
*
大阪市立科学館 学芸員
E-mail:hasegawa@sci-museum.jp
一 群 、中 くらいの明 るさで見 える色 の一 群 、比 較 的 暗
く見える色の一 群を抽 出 した。
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長谷川 能三
低 圧 ナトリウム灯 下 で見 ると、上 面 ・左 側 面 ・右 側 面 に
それぞれほぼ同 じ色 (明 るさ)の色 が並 んでいるために、
ルービックキューブの各 面 がそろっているように見 える。
これが低 圧ナトリウム灯 下 での錯 視のひとつである。
次 に、ルービックキューブの上 面 には3つの色 の群
から青 緑 系 統 の 色 を、左 側 面 には 赤 系 統 の 色 を 、右
側 面 には青 紫 系 統 の色 を、それぞれランダムに配 置 し
た。この場 合 、通 常 光 下 で見 ると、上 面 は多 少 色 相 や
明 度 が異 なるものの青 緑 系 統 の色が並 んでおり、左 側
面 には同 じく赤 系 統 の色 が、右 側 面 には青 紫 系 統 の
色 が並んでいるため、一 見 、各 面 がそろったルービック
キューブに見 える。ところがこれを低 圧 ナトリウム灯 下 で
写 真1.通 常 光 下 でのカラーチャート
見 ると、明 るく見 える色 、中 くらいの明 るさで見 える色 、
暗 く見 える色 がランダムに並 んでいるため、各 面 がバラ
バラのルービックキューブに見える。
写 真2.低 圧ナトリウム灯 下 でのカラーチャート
ただここで、全 く同 じ色 に見 える色 はほとんど存 在 し
写 真3.色の錯 視を通 常 光 下で見 た場 合
なかった 。これは 、低 圧 ナト リウム灯 が D線 の オレンジ
左は各 面 がバラバラに見 え、
色の光 だけでなく、D線と比 べると輝 度は低 いが、赤や
右は各 面 がそろっているように見える
緑 の 輝 線 ス ペ ク ト ルの 光 も 出 して いる か らだ と 思 われ
る。
なお 、こ の 色 低 圧 ナ ト リ ウム 灯 下 で 同 じ 色 に 見 え る
色 の 組 み 合 わせは、印 刷 す るプリンタインクの 特 性 に
よって変 わる可 能 性 がある。そのため、別 のプリンタを
使 う場 合 には、この比 較 の過 程 をやり直 さないといけな
い可 能 性がある。
2-2.色の錯 視 の作 成
こうして、必 要 な色 の組 み合 わせが3種 類 決 まった。
これらの色 の一 群 は、通 常 光 下 ではさまざまな色 の集
まりであるが、低 圧 ナトリウム灯 下 ではほぼ同 じ色 (明る
写 真4.色の錯 視を低 圧 ナトリウム灯 下で見た場 合
さ)に見 える。そこで、ルービックキューブの形 の3面 の
内 、上 面 に 明 るく 見 える 一 群 の 色 の 中 か ら9 色 を 、左
左は各 面 がそろっているように見え、
側 面 に 中 く らいの 明 るさに 見 える 一 群 の 色 の 中 か ら9
右は各 面 がバラバラに見 える
色 を、右 側 面 には暗 く見 える一 群 の色 の中 から9色 を
尚 、研 究 報 告 誌 の紙 面 では印 刷 が白 黒 であるため、
ランダムに配 置 した。すると、通 常 光 下 では各 面 とも色
がランダムに並 んでいて、ルービックキューブの各 面 が
写 真 を見 てもわからないと思 われるので、ぜひウェブサ
バラバラになっているような状 態 に見 える。しかしこれを
イトでご覧 いください。ただ、人 間 の目 とカメラでは、色
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低圧ナトリウム灯下での色の錯視
に対 する感 じ方 が多 少 異 なるため、ウェブサイトのカラ
ー写 真 を見 ていただいても、実 際 に生 で見 るのとは少
し異なることをご了 承ください。
3.考 察
今 回 作 成 した色 の 錯 視 は、錯 視 としては比 較 的 地
味 なものとなってしまったが、これまで他 では見たことの
ないパターンのものとなった。
また、プリンタによって、抽 出 した色 の群 が変 わって
しまう可 能 性 はあるが、この色 の群 を用 意 しておけば、
アイデ ア次 第 でさまざ まな色 の 錯 視 を 作 ることが 可 能
である 。例 え ば 、 通 常 光 下 では 虹 の よう な7 色 の 色 の
帯 が、低 圧 ナトリウム灯 下 では1色 だけの帯 になるとい
った錯 視 が考えられる。
ただ、用 意 した色 の群は、比 較 的 彩 度 の低 いパステ
ルトーンの色 が多 く、どうしても全 体 的 に地 味 な絵 にな
りがちである。
また、低 圧ナトリウム灯 が単 色 光 であるということで考
えた錯 視 であるが、実 際 には赤 や緑 の輝 線 スペクトル
のために、全 く同 じ色 にはならないといった問 題 点 もわ
かった。
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