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6基礎知識編 Ⅲ準備2(PDF:1020KB)
3.その他の必要な施設 (1)飲水施設 放牧地にまず欠かせないのが水を飲む施設です。 和牛の場合、1日に20から50㍑の水を飲み、気温が高いほど飲む量は多くなります。冷 水でなくても構わないので、いつでも新鮮な水が飲めるようにしてやります。水槽は古い風 呂桶などの廃物利用で十分です(写真42)。ただし、ぬかるみを作らないように排水対策を 施すことが大切です。 ①近くに水道がある 水槽周辺が泥濘化しないように、フロート式の止水弁を取り付けて利用します。 ②沢水や農業用水などがある 高低差を利用して水を引き、排水用ホースを取り付けて泥濘化を防ぎます(写真43)。 ③水がない場合 近くに水がない場合は500~1000㍑のポリタンクに貯水し、2頭で放牧する場合、週 に1~2回水を補給します。 写真42.風呂桶利用(滋賀県) 写真43.ぬかるみ防止水槽(滋賀県) (2)日陰施設 牛は寒さよりも暑さが苦手です。放牧地内に木陰がない場合は、簡易な屋根や小屋など日 陰場所を作ってやります(写真44、45、46、47)。 写真45.掘っ立て屋根(京都府) 写真44.自然の木陰(滋賀県) - 23 - 写真46.ログハウス調日陰舎(滋賀県) 写真47.ビニールハウス(滋賀県) (3)鉱塩台 牛には塩の補給が必要です。 なみしお 牛用の「鉱塩」 (ミネラルを配合した家畜用の塩)を購入するか並塩でも構いませんので、 自由に舐められるようにします。ただし、雨に濡れると溶けるので、雨よけの天井のある場 所に固定します(写真48、49)。 写真48.鉱塩台(滋賀県) 写真49.鉱塩ブロック(写真は5㎏) (4)捕獲施設 ①移動式スタンチョン(簡易捕獲器) 殺ダニ剤の塗布や人工授精、治療など牛を 捕まえたい時に必要な道具です(写真50)。 餌おけ(ポリバケツ)の餌を食べようと牛 が首を差し入れると自動的にロックされま す。 金網は片側からしか首を入れられないよう にするためのものです。鉄棒のペグを打ち込 んで固定します。重さは80㎏で、大人2人で 持ち運ぶことができます。 写真50.移動式スタンチョン(滋賀県) - 24 - 作成にかかる資材費は、4頭用のスタンチョン(2頭用はない)を購入して2台作成す ると1台で4万8千円です(表5)。また2頭用の放牧地用既製品が約6万円で販売されて います。 ②足場パイプ捕定場 十分に人に慣れた牛であれば、写真51の ような足場パイプと飼槽の簡単な捕定施設 でも、餌をやって牛を捕まえることができ ます。 写真51.足場パイプ捕定場(栃木県S牧場) 表5.簡易捕獲器のコスト例 品名 規格 単価 数量 単位 金額 備考 簡易捕獲器(スタンチョン) 連動スタンチョン 成牛4頭用(4連) 62,000 0.5 基 金網メッシュ 1×2m 格子60×150mm 31,000 4連スタンチョンを2分割して使用 1,596 1 枚 1,596 兼用直交クランプ 220 8 個 1,760 自在クランプ 158 6 個 948 タルキ止めクランプ 280 4 個 1,120 単管パイプ φ48.6mm×1m 360 2 本 720 単管パイプ φ48.6mm×1.5m 560 2 本 1,120 単管パイプ φ48.6mm×2m 720 4 本 2,880 273 2 個 546 蝶番 アングル 25×25mm×1.8m×3mm 514 8 個 4,112 鉄丸棒 1.8m×13mm 420 3 枚 1,260 丸パイプ 560 1 本 560 ネジ 440 1 個 440 合 48,062 計 4.放牧する牛のトレーニング 今の牛は多くが畜舎で飼われた経験しかない箱入り娘。はじめて放牧される牛は、野草を 食べたことがなく、電気牧柵を知りません。このような牛をいきなり放牧すると、急な環境 の変化に適応できずに急激に痩せてしまったり、脱柵をする心配もあります。 そこで牛舎から放牧地へスムースに順応できるように、放牧未経験牛では約1か月、経験 - 25 - じゅんち 牛では約2週間程のトレーニング(馴致と言います)を行います(図18) 。 気象変化に順応する 上手に青草を食べる 電牧柵に触らない 野外環境に 適応させる 複雑な地形を歩く 図18.放牧牛に必要な能力 (1)気象や地形などの野外環境に慣らす 放牧1か月前から昼間は舎外に出して外気や日光にさらし、野外を歩き回ることに慣れさ せます。狭い牛舎から出たことがないような牛は、広い場所に出ることに不安を覚えるので、 まず2~3日外に繋ぐことから始めてもよいでしょう。外の環境に慣れてきたら、パドック か庭先で昼夜放牧を行い、気象や環境への馴致を行います。 放牧トレーニングは、放牧経験牛と一緒に行うと、初めての牛の不安を和らげ、経験牛を 先生役として早く覚えます。 (2)生草の食べ方を上達させる 青刈りの草を与えたり、草地の上に繋いで青草を食べさせて慣らします。第一胃内の微生 物が放牧環境の餌に適応するまでには少なくとも2週間程度かかります。 (3)電牧線に触ってはならないことを学習させる パドックがある場合は、パドックの一部に電気を通した線を一本張り、電牧線を覚えさせ るのが最も安全です。電気牧柵の学習は牛の脱柵を防止し、人や車との事故や農地の損壊な どのリスクを避けるためにとても大切な準備です。 滋賀県では、県から畜産農家に電気牧柵セットを貸し出し、農場の敷地内に外周100m - 26 - ほどの2段張りの電気牧柵を張って、トレーニングを行っています(写真52、53)。 写真52.電気牧柵内に入れた牛の観察(滋賀県) 写真53.電牧線を確認する牛(滋賀県) 牛は見慣れないものがあるとまず鼻を近づけて臭いをかぎ舌で舐めようとする習性があり、 このときに湿った鼻面が電牧線に接触します。個体によっては吼えて飛び跳ねたりすること があるので、入れた直後は注意深く観察することが必要です。半日もあれば電牧線を覚えま すが、接触する回数に個体差があり、2回くらいで覚える個体もあれば、何回も接触してや っと覚える個体もあります。順位が高く好奇心の強い牛が先に接触を試み、順位の低い牛は その様子を見ることも含めて学習するようです。 電牧線の学習は最初が肝心です。2,000~3,000ボルトの弱い電圧で行うと学習の効果 が低くなります。必ず電圧テスターで電圧が十分に高いことをチェックして、「危なくて恐 いもの」という印象を強く植え付けることがポイントです。 ※ 人が強制的に鼻を電牧線に接触させて覚えさせる方法が取られることもありますが、 無理やり恐怖を与えて人への信頼感を損なうため、やらない方が良いようです。 放牧先進県の山口県では県畜産試験場が放牧馴致施設を持ち、次のような放牧牛トレーニ ングサービスを行っています。 山口県の放牧馴致施設 ○施設の概要 足場パイプで組んだ広さ25m×25m、柵高90cmと60cmの2段の物理柵 柵内に水飲み場と寒冷紗(日陰)を設置 ○農家の牛を預かり約1か月かけてトレーニング ①2頭ペアにして1週間程度を目安として昼間放牧 ②徐々に放牧時間を延ばして昼夜連続放牧 ③物理柵の内側に電気牧柵を張って自然に電気牧柵へ馴致 ④電気牧柵に近づかなくなり、反芻してくつろぐ姿が観察できたらトレーニング 終了、一人前の放牧牛として放牧地へ 牛の能力や個性には個体差があり、草を食べることが下手な牛、電気に強い牛、気性の荒 い牛など放牧に不向きな牛がいます。また、ペアにしたときに相性が悪い牛同士もいます。 安全・安心な放牧のために、温厚な性格の放牧向きの牛を選ぶことが大切です。 - 27 - 5.念のための外柵の設置 今後、近畿管内で水田放牧が増えてくる と、車の通行量の多い場所で放牧するケース も出てきます。念のため電気牧柵の外側に足 場パイプや間伐材で恒久柵を設置し、危ない ところをガードする必要も出てくると思われ ます。 写真54は、景観を考慮して間伐材を使った 例です。 写真54.間伐材の外柵(滋賀県) - 28 -