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強磁場 X 線回折実験による Mn 1.8Co0.2Sb の 磁場中結晶評価 - J
日本金属学会誌 第 76 巻 第 4 号(2012)246250 強磁場 X 線回折実験による Mn1.8Co0.2Sb の 磁場中結晶評価 折 橋 広 樹1 満 永 大 輔1 廣 井 政 彦1 高 橋 弘 紀2 渡 辺 和 雄2 小 山 佳 一1 三 井 好 古2 1鹿児島大学大学院理工学研究科 2東北大学金属材料研究所附属強磁場超伝導材料研究センター J. Japan Inst. Metals, Vol. 76, No. 4 (2012), pp. 246 250 2012 The Japan Institute of Metals X ray Diffraction Study on Crystal Structure of Mn1.8Co0.2Sb under High Magnetic Fields Hiroki Orihashi1, Daisuke Mitsunaga1, Masahiko Hiroi1, Yoshifuru Mitsui2, Kohki Takahashi2, Kazuo Watanabe2 and Keiichi Koyama1 1Graduate 2High School of Science Engineering, Kagoshima University, Kagoshima 8900065 Field Laboratory for Superconducting Materials, Institute for Materials Research, Tohoku University, Sendai 9808577 Measurements of magnetization, electrical resistivity and high field Xray powder diffraction (XRD) were carried out for polycrystalline Mn1.8Co0.2Sb in magnetic fields up to 5 T in 4.2300 K temperature range, in order to investigate the structural properties affected by magnetic fields. In a zero field, the compound shows the firstorder magnetic transition from the ferrimagnetic (FRI) to antiferromagnetic (AFM) states at Tt=145 K with decreasing temperature. By applying magnetic fields of 5 T, Tt decreased to 60 K with thermal hysteresis of 35 K. From the XRD measurements, not only the AFM phase but also the residual FRI phase was confirmed even at 10 K in cooling process under 5 T. Results obtained indicate that the residual FRI phase is kinetically arrested. (Received November 28, 2011; Accepted January 16, 2012; Published April 1, 2012) Keywords: Mn2Sb, high field Xray powder diffraction, kinetic arrest effect, first order transition Tt における FRIAFM 相転移は,単位格子の体積や磁化, 1. は じ め に 電気抵抗の変化を伴う48).また,Tt 以下で磁場印加による 磁場誘起の AFM FRI 相転移によって磁気抵抗や磁歪を生 Mn2Sb は, Fig. 1 に示すような正方晶 Cu2Sb 型の結晶構 造(空間群 P4 / nmm )をとり,キュリー温度 TC 以下(~ 550 K )においてフェリ磁性(FRI)体である1,2).単位格子は じることが報告されている5,7,8). 近 年 , Mn2-xCoxSb ( x = 0.15 )9) や Ce ( Fe0.96Al0.04 )2 10), 4個 Ce(Fe0.96Ru0.04 )2 11), Pr0.5Ca0.5MnO3 12), Ni45Co5Mn36.7In13.3 の Mn と 2 個 の Sb を 含 み , Mn2Sb の 磁 性 は Mn の 磁 気 形状記憶合金13),Ni37Co11Mn42.5Sn9.5 形状記憶合金14)などの モーメントに大きく依存する. Fig. 1 のように,4 個の Mn 磁性体ついて,AFMFRI のような磁気一次相転移のダイナ うち, 2 個の Mn は Sb の四面体で囲まれた 2a サイトを占 ミックスが磁場により抑制されることが見いだされ,カイネ め,残りの Mn は Sb の八面体で囲まれた 2c サイトを占め ティックアレスト効果( KA 効果)として報告された. Ito ら る. 2a サイトを占める Mn を Mn (), 2c サイトを占める は磁場中 X 線回折測定により,Ni45Co5Mn36.7In13.3 の KA 効 Mn を Mn ()とする. FRI の磁気構造は, 3 層一組( Mn 果を報告し,熱力学的な議論をしている15) .上記の強磁性 ()Mn()Mn())のブロックが c 軸にそって層状に重 形状記憶合金では,KA 効果は磁化の大きい高温相(立方晶) なって構成しており,ブロック内の Mn()と Mn()の磁 と磁化の小さい低温相(正方晶または斜方晶)とのマルテンサ 気モーメントは互いに逆向きに配列している. Mn ()と イト変態で見出されている.これは,磁場による KA 効果 Mn ()の磁気モーメントの大きさはそれぞれ 2.1 mB と 3.9 が磁気と結晶変態に影響することを示唆する.ただし, mB と報告されている2). Ni37Co11Mn42.5Sn9.5 形状記憶合金の場合,低温相(正方晶)と Mn を Co で置換すると,その磁気特性は,温度の低下に 高 温 相 (立 方晶 )と で は , a 軸 方向 に - 7.9 , c 軸 方 向 に 伴い磁気転移温度 Tt (~ 130 300 K )で, FRI から反強磁性 +15.6の大きな歪みを伴っている.一方,Mn2-xCoxSb は ( AFM )へ一次相転移を示す1,3) . Fig. 1 に示すように, FRI Tt において構造相転移は起こらず, a 軸方向に+ 0.15 , c 状態における 3 層一組のブロックは互いに同じ向きに配列 軸方向に-0.34だけ歪むことが報告されている7).しかし, 状態においては逆向きに配列している2). Mn2-xCoxSb について,磁場による KA 効果の結晶構造への しているが,AFM 4 第 号 強磁場 X 線回折実験による Mn1.8Co0.2Sb の磁場中結晶評価 247 Fig. 1 Crystal structure and arrangement of Mn() and Mn () moments in ferrimagnetic (FRI) and antiferromagnetic (AFM) states in Mn2Sb based compounds. The length of the arrow represents the magnitude of the magnetic moment of the atom. Fig. 2 Temperature dependence of the magnetization of Mn1.8Co0.2Sb for 10T280 K (a) and for 10T160 K (b). The measurements were made in field cooling at 0.1 T (FC 0.1T), field cooled warming at 0.1 T (FCW0.1T), field cooling at 5 T (FC5T), field cooled warming at 5 T (FCW5T) and field warming at 5T after zerofield cooling (ZFCW5T). 影響についての詳しい報告はない.磁場による KA 効果の 物性への影響を多方面から評価することは,今後,磁場で磁 気相転移を制御する材料開発において重要となる. 本研究目的は,磁化測定と磁場中電気抵抗測定,強磁場 X 線回折測定によって,磁場中における Mn2-xCoxSb ( x = 束密度 0 B 5 T の範囲で行われた.電気抵抗率 r の測定 0.2)の磁気一次相転移に伴う結晶構造の変化を詳細に調べ, は,直流 4 端子法を用いて,4.2T170 K および 0B 磁場による KA 効果が結晶構造に与える影響を明らかにす 5 T の範囲で行われた.このとき,磁場は試料に流す電流に ることである. 対して平行に印加した.強磁場中 X 線粉末回折測定16,17) は,線源に CuKa 線を使用し, 10 T 280 K , 0 B 5 T 実 2. 験 の範囲で行われた.磁化測定,電気抵抗測定および強磁場中 X 線粉末回折測定は,以下のプロセスで行われた.ゼロ磁 多結晶 Mn1.8Co0.2Sb は Mn ( 99.9 ), Co ( 99.9 )および 場中冷却(ZFC)→ゼロ磁場中加熱(ZFW)→磁場中冷却(FC) Sb ( 99.999 )の原料を化学量論比で秤量し,アルゴン雰囲 → 磁 場 中 加 熱 ( FCW ) → ゼ ロ 磁 場 中 冷 却 後 磁 場 中 加 熱 気中でアーク溶解法を用いて合成した.アーク溶解は,試料 (ZFCW).冷却過程を測定する場合は,ゼロ磁場下で Tt 以 を裏返すなどして繰り返し行った.得られた試料は石英管に 上に加熱した後測定を行った. 真空封入された後, 923 K で 24 h で熱処理を行った. X 線 粉末回折測定から合成した試料は Cu2Sb 型の結晶構造をと 3. 結 果 と 考 察 り,不純物相がないことを確認した.得られた M1.8Co0.2Sb の室温における格子定数は a = 0.4077 nm および c = 0.6455 Fig. 2 ( a )に B = 0.1 T と 5 T における磁化 M の温度変化 nm で,報告されている Mn2-xCoxSb の値7) とほぼ同じであ を示す.B=0.1 T において,M1.8Co0.2Sb は温度の低下とと る. もに, Tt = 145 K で M の大きい FRI 相から磁化の小さい 磁化 M の測定は, SQUID 磁束計( Quantum Design )を使 AFM 相へヒステリシスを伴う一次相転移を示す.このとき 用し,温度 10T280 K(昇降温レート 2 K/min),印加磁 のヒステリシスの幅は約 5 K である. B を 5 T に増加する 248 日 本 金 属 学 会 誌(2012) 第 76 巻 と Tt は低下し,ヒステリシス幅は増大する. B = 5 T 中 10 の変化は過冷却状態や過熱状態の影響ではなく,磁場による T 100 K の温度範囲で, FC 5T ( 5 T の磁場中冷却)と KA 効果の影響を強く示唆している.そのため,本研究で観 FCW 5T ( 5 T の磁場中冷却後 5 T の磁場中加熱)の M は 測された FRI 相と AFM 相間の磁気一次相転移の磁場中冷 ZFCW5T(ゼロ磁場冷却後 5 T 中加熱)のそれと比較して大 却・昇温過程による変化も KA 効果の影響によるものと考 きい.つまり,磁場印加と冷却過程の違いで,磁化の振る舞 えられる. いが異なる.このような FC や FCW,ZFCW で見られる磁 Fig. 4 に( a ) ZFC ,( b ) FC 5T ,( c ) ZFCW 5T における 化の熱磁気的な不可逆性は,磁気秩序相磁気秩序相間の一 004 ピークの X 線回折パターンの温度変化を示す.だだし, 次相転移を示す Ce ( Fe0.96Al0.04 )2 10), Ce ( Fe0.96Ru0.04 )2 11), Fig. 4 は CuKa2 による回折線を除去した結果である.( a ) 13)などでも報告されており,その原因と の ZFC において, 250 T < 150 K までは FRI 相(▼)の回 し て 磁 場 に よ る KA 効 果 を 示 唆 し て い る . 特 に , 折ピークのみ観測される.150T120 K では,低角度 2 u Ni45Co5Mn36.7In13.3 Ce ( Fe0.96Ru0.04 )2 11)では,残留 FRI 相から AFM 相への変 側の FRI 相の回折ピークが減少し,高角度側の AFM 相の 化を示唆する長い磁気的緩和も観測されている. Fig. 2 ( b ) 回折ピーク(●)が増加する.この温度範囲で FRI 相と AFM に(a)の低温領域における拡大図を示す.B=5 T 中の 相の二相共存状態が X 線回折測定でも確認され, Tt におけ FCW 5T において 30 T 80 K で M の減少が確認でき る相転移は一次相転移である.T100 K では AFM 相の回 る.これは, FC5T の過程において KA 効果により残留し 折ピークのみであることから,ゼロ磁場中 T100 K では, た FRI 相の一部が温度上昇とともに AFM 相に転移したた 試料は AFM 単相であることが分かる.この結果は Fig. 2 めと考えられる. Fig. 3 に B=0 T と 5 T における電気抵抗率 r の温度変化 を示す. B = 0 T において,温度の低下とともに Tt= 145 K で r の小さい FRI から r の大きい AFM へ一次相転移を示 す.B を 5 T に増加すると Tt は低下し,ヒステリシス幅は 増大する.FCW5T において 30 K から 80 K に昇温したと き , r の 増 加 を 確 認 で き る . FC 5T と FCW 5T お よ び ZFCW5T の低温領域(T80 K)における r の温度依存性の 違いから,伝導特性も磁場の印加と冷却過程に強く依存する ことが分かる. Fig. 3 と Fig. 2 を比較すると, M が大きく r が小さい FRI 相と M が小さく r が大きい AFM 相間の一 次相転移の磁場と温度依存性として矛盾しない.Fig. 3 で示 し た Mn1.8Co0.2Sb の r の 冷 却 ・ 昇 温 過 程 の 磁 場 依 存 性 は Kushwaha ら9) が Mn1.85Co0.15Sb (ゼロ磁場での Tt ~ 120 K ) で行った r のそれらと定性的に一致する.彼らの説明は後 述するが,このような磁場中冷却・昇温過程に依存する r Fig. 3 Temperature dependence of the electrical resistivity of Mn1.8Co0.2Sb. The measurements were made in zerofield cooling (ZFC), zerofield worming after ZFC (ZFCW), field cooling at 5 T (FC5T), field cooled worming at 5 T (FCW 5T), and field warming at 5 T after zerofield cooling (ZFCW 5T). Fig. 4 Xray powder diffraction profiles of Mn1.8Co0.2Sb at various temperatures for zerofield cooling (ZFC) (a), field cooling at 5 T (FC5T) (b), and field warming at 5 T after zerofield cooling (ZFCW5T) (c). The solid triangles and the solid circles indicate the FRI phase and the AFM phase, respectively. The data were presented after removing the Ka2 contribution from the observed profiles. 4 第 号 強磁場 X 線回折実験による Mn1.8Co0.2Sb の磁場中結晶評価 249 の磁化測定(B= 0.1 T)や Fig. 3 の電気抵抗率測定(B= 0 T ) の 結 果 と 矛 盾 し な い . ま た , FRI 相 ( a = 0.4052 nm, c = 0.6424 nm )から AFM 相( a = 0.4058 nm , c = 0.6396 nm )に 相転移することにより a 軸方向に Da / a = 0.15 , c 軸方向 に Dc / c =- 0.44 変化する.これは Bartashevich らの報 告7)と矛盾しない. 一方,Fig. 4(b)の FC5T では,T110 K までは FRI 相 の回折ピークのみ観測され, T < 110 K で AFM 相の回折 ピークが出現し相転移が始まるが, 10 K においても, FRI 相と AFM 相の二相共存状態が確認された.これは,磁場を 印加することにより FRI 相(高温相)の一部が低温領域まで Fig. 5 Xray powder diffraction profiles of Mn1.8Co0.2Sb at 10 K (broken line), 50 K (dotted line) and 80 K (solid line) for FCW5T. The solid triangle and the solid circle indicate the FRI phase and the AFM phase, respectively. The data were presented after removing the Ka2 contribution from the observed profiles. 残留したことを示している.二相共存している 75 K で, FRI 相の格子定数は a = 0.4044 nm と c = 0.6418 nm , AFM 相の格子定数は a = 0.4056 nm と c = 0.6383 nm である.こ のとき, AFM 相と FRI 相の格子定数の変化量は Da / a = 0.30 と Dc / c =- 0.55 である.この値は上記ゼロ磁場中 の Tt における変化量より大きい.回折ピークの面積から, 10 K における FRI 相と AFM 相の比率は約 1 2 と見積も FC 5T のように,磁場印加によって Tt 以下でも FRI 相 られた.つまり,試料中に FRI 相が約 33存在する. Fig. が残留することや,FCW5T のように,残留 FRI 相が昇温 3 の 10 K における FC 5T と ZFC の r の差 Dr ( 10 K )= 5 とともに一部 AFM 相に相転移し,その後 Tt 以上で FRI 単 mQm は,磁場印加による r の小さい FRI 相の一部残留によ 相 に な る こ と な ど の 現 象 に つ い て , Kushwaha ら は るものと考えられる.FRI 相の r の値を 10 K まで外挿し, Mn1.85Co0.15Sb についての磁場中 rT の詳細な実験の結果か FRI 単相の残留抵抗が約 15 mQm と仮定する.このとき, ら,磁場による KA 効果の影響を示唆している9).彼らによ Dr ( 10 K )と比較することにより,約 22 の FRI 相が 5 T れば,この現象は FRI AFM 一次相転移の過冷却状態や過 の磁場印加で 10 K まで残留していることが示唆される.こ 熱状態の準安定状態とは異なり,FRIAFM 相転移が測定時 れは,磁場中 X 線回折測定の結果と矛盾しない. 間に対して極めて遅いダイナミックスによるもの( KA 効 Fig. 4 ( c )における ZFCW 5T の 10 K において FRI 相の 果),つまり,FRI 相のガラス凍結状態に類似していると報 残留は殆ど確認できないが,昇温過程で FRI 相が誘起し, 告している.磁場に依存する過冷却状態や過熱状態の特性温 120 K までに AFM 相から FRI 相へ相転移が終了, T > 120 度の領域(過冷却バンドと過熱バンド)とは別に磁場に依存す K で は FRI 単 相 と な っ て い る . こ れ は Fig. 3 に お け る る KA 効果の特性温度領域(KA バンド)があり,磁場中の低 ZFCW 5T の 10K では, r の値は ZFW や ZFC のそれとほ 温下で過冷却バンドと KA バンドの重なるモデルが提案さ ぼ同じであるが, T 85 K 領域で昇温とともに r の値が れている.過冷却バンドと KA バンドの重なるような磁場 ZFW や ZFC のそれより減少し, 90 K で相転移して T > において FC した場合,過冷却効果と KA 効果の競合が起こ 100 K で r が単調に増加していることと矛盾しない.よって, り,カイネティックアレストによる残留 FRI 相と相転移後 Fig. 2 の 10 K における ZFCW5T の M (= 6.2 J T-1 kg-1 ) の安定な AFM 相(低温相)の二相共存が KA バンド以下の温 が ZFCW 0.1T の M(2.8 J T-1 kg-1 )のそれより大きいのは, 度で実現される.従って,印加磁場の強度によって, AFM AFM 相の磁化が磁場によって誘起されたためと考えられ 相のみ,残留 FRI 相+ AFM 相, FRI 相のみの状況が生ま kg-1 ) れる.残留 FRI 相と AFM 相の体積分率は磁場の強度によ が FC 0.1T の M (= 3.1 J T-1 kg-1 )より大きいのは,磁場 って変化する. Kushwaha らのモデルを基に Fig. 5 の結果 る.一方, 10 K における FC 5T の M (= 10.7 J T- 1 印加によって AFM 相の磁化が誘起した影響よりも,磁化の は次のように考えられる.5T の磁場中冷却(FC5T)によっ 大きい FRI 相が 10K まで残留したことによる. て KA バンド以下の温度で,カイネティックアレストによ Fig. 5 に FCW5T における 10, 50, 80 K の 004 ピークの る残留 FRI 相(凍結した FRI 相)と相転移後の安定な AFM X 線回折パターンを示す.だだし,Fig. 5 は CuKa2 による 相(低温相)の二相共存状態となる.その後,10 K から 50 K 回折線を除去した結果である.10 K から 50 K の昇温におい へ昇温する過程で,凍結した FRI 相の一部が AFM 相へ転 て, FC で残留した FRI 相のピーク強度が一度減少し, 50 移し,FRI 相の X 線回折強度が減少し,さらに 80 K に昇温 K から 80 K の昇温では FRI 相のピーク強度が再び増加し すると,AFM 相から FRI 相に相転移し始める温度となるた た.この結果は, Fig. 2 ( b )の FCW 5T で, 30 T 80 K め再び FRI 相の回折強度が増加すると考えられる. において M が僅かに減少すること,また Fig. 3 における FCW5T の r の値が 30T80 K で FC5T の r と異なる 4. 結 論 結果と矛盾しない.つまり, FCW 過程の M や r の変化は FRI 相と AFM 相の体積分率の温度変化に依存したものであ る. 正 方 晶 Cu2Sb 型 の Mn1.8Co0.2Sb 多 結 晶 に つ い て , 温 度 4.2 T 280 K ,印加磁束密度 0 B 5 T の範囲で磁化測 250 日 本 金 属 学 会 誌(2012) 定,電気抵抗測定,強磁場中 X 線粉末回折測定を行った. 強磁場中 X 線粉末回折測定の結果, 5 T の磁場中冷却過程 において,10 K で FRI 相(高温相)と AFM 相(低温相)の二 相共存状態が確認された.磁化測定や電気抵抗測定の低温領 2) 3) 4) 域における物理量の変化は,磁場による AFM 相の誘起では なく,FRI 相が磁場印加により残留したことによる.また, 5 T の磁場中加熱過程において,50 K から 80 K の範囲で, 5) 6) 磁化の減少および電気抵抗率の増加が確認された.これは, 7) 磁場中冷却で残留した FRI 相の一部が昇温とともに AFM 8) 相へ転移し,両相の体積分率が変化したことによる. Mn1.8Co0.2Sb の T150 K における磁場中の磁気や伝導特性 は,磁場印加によって FRI 相から AFM 相への一次相転移 9) 10) のカイネティックが抑制され,残留した FRI 相の体積分率 の温度・磁場変化に起因している. 11) 12) 強磁場 X 線回折測定は東北大学金属材料研究所附属強磁 場超伝導研究センターで行いました.磁化測定は東北大学低 温科学センターで行いました.磁場中電気抵抗測定は鹿児島 13) 14) 大学理学部低温物質科学研究施設で行いました.本研究は, 科研費 22360285 の助成を受けて行いました. 15) 16) 文 献 1) O. Beckman and L. Lundgren: Handbook of Magnetic Materials, 17) 第 76 巻 vol. 6, chapter 3, ed. by K. H. J. Buschow, (Elsevier, Amsterdam, 1991) pp. 181287. M. K. Wilkinson, N. S. Gingrich and C. G. Shull: J. Phys. Chem. Solids 2(1957) 289300. T. Kanomata and H. Ido: J. Appl. Phys. 55(1984) 20392041. M. I. Bartashevich, T. Goto, T. Tomita, N. V. Baranov, S. V. Zemlyanski, G. Hilscher and H. Michor: Phys. B 318(2002) 198210. Y. Q. Zhang and Z. D. Zhang: Phys. Rev. B 67(2003) 132405. A. E. Austin, E. Adelson and W. H. Cloud: Phys. Rev. 131 (1963) 15111517. M. I. Bartashevich, T. Goto, N. V. Baranov and V. S. Gaviko: Phys. B 351(2004) 7176. Y. Q. Zhang, Z. D. Zhang and J. Aarts: Phys. Rev. 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