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Untitled - 名古屋大学 遺伝子実験施設

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Untitled - 名古屋大学 遺伝子実験施設
ごあいさつ
生物学はこの半世紀の間に劇的な発展をとげてきました。特に、近年のゲノム生物学の
発展はめざましく、数年前には思いもよらなかったヒトやイネの全ゲノム配列が解明され
ました。名古屋大学においても理学、医学、農学、工学、考古学などの幅広い分野で、遺
伝子やゲノムを基礎とする研究が活発に行われています。
遺伝子実験施設は、本学における組換え DNA 実験の安全確保と関連する大型設備を学内の
共同利用に供することを目的に、昭和 59 年に創設されました。創設当初は現在の遺伝子解
析分野の 1 部門だけで構成され、DNA 合成やタンパク貿のアミノ酸配列決定などのサービ
スを全学的に行ってきました。研究面では、世界に先駆けて高等植物の葉緑体のゲノム配
列を決定し、現在のゲノム生物学の基盤となる重要な研究を展開してきました。平成 11
年度には、新たに「植物ゲノム解析分野」が設置され、既設の「遺伝子解析分野」と合わ
せて2 つの研究分野体制に整備されました。両分野が相互に連携して、全国の植物ゲノム
研究の中核拠点としての全国的業務や本学及び学外の研究グループの受け入れと支援を行
っています。研究面では、植物固有で重要な生命現象の解明を目指して、独創的なゲノム
研究を精力的に進めています。
専任教員は、大学院理学研究科生命理学専攻を兼任しており、理学部生命理学科の教育
を分担し、卒業研究生や大学院生の受入れと研究指導を行っています。施設研究生や施設
共同研究員、学術振興会特別研究員、その他の博士研究員の受け入れも行っています。
2014 年4 月
遺伝子実験施設長
木下 俊則
施 設 長
木下 俊則
遺伝子解析分野
教
授
杉田 護
植物オルガネラの遺伝子発現制御
ゲノム間コミュニケーションと個体統御システムの研究
遺伝子解析分野
植物ゲノム解析分野
植物細胞は、
光合成やアミノ酸の合成など重要な機
ゲノム計画の進展により、アラビドプシス(2000
能を担う「色素体」と総称されるオルガネラを持って
年)やヒト(2001 年)の全ゲノム配列が決定されま
います。葉の色素体は光合成機能に特化した「葉緑体」
した。個々の遺伝子を対象に研究する「遺伝子の時代」
に分化し、光合成機能を維持・調節しています。色素
からゲノムに含まれる全遺伝子を念頭に置いて網羅
体には独自のゲノムDNAがあり、色素体機能に必須
的に研究する「ゲノムの時代」の幕開けです。植物分
なタンパク質の遺伝子をもっていますが、色素体ゲノ
野でも、今後はゲノム情報を活用して「植物固有の重
ム上の遺伝子だけでは不十分であり、核ゲノムにある
要な現象を解明する」時代になりました。「植物固有
多数の遺伝子群の協調的な発現が必要です。これは真
のゲノム構成の意義」
や
「植物ゲノムの起源と進化」
、
核細胞の中で共生進化してきた色素体が核ゲノムの
「核、葉緑体、ミトコンドリアの各ゲノム間の相互作
支配を受けながら作り上げたユニークな遺伝子発現
用」などの未解明の重要課題にもせまることができま
制御システムと考えられます。遺伝子解析分野では、
す。またゲノム情報の品種改良などへの応用が進むこ
核ゲノムと色素体ゲノムにまたがる色素体遺伝子の
とが期待されています。
発現制御の仕組みを解明するために、主にタバコ、シ
研究内容は分子遺伝学を基盤として、ゲノム学の立
ロイヌナズナ、ヒメツリガネゴケなどの植物を使って、 場から植物の未解明の現象を分子レベルで解明する
色素体成分遺伝子の転写レベル、転写後(mRNAや
ことを目指しています。古細菌や藍色細菌などの原核
翻訳)レベルでの発現制御、細胞内シグナル、核と色
生物や藻類、コケ、高等植物などの真核生物を生物材
素体の間の情報伝達、等について研究を進めています。
料に用いて研究を進めています。
同時に、色素体の起源となったラン藻のゲノムの機能
についての研究も行っています。
Jr.サイエンス教室
(2013 年7 月)
次世代シーケンサーSOLiD5500xl
公開セミナー
(2013 年12 月)
植物ゲノム解析分野
教 授
多田
准教授
杉山
准教授
井原
助 教
松尾
安臣
康雄
邦夫
拓哉
ストレス応答を制御する酸化還元シグナル
植物ミトコンドリアのゲノム解析及び植物プロテアーゼの改変と応用
エネルギー変換膜の再構成システムバイオロジー
緑藻の生物時計
共同利用機器類
次世代DNA シークエンサー
DNA シークエンサー(三台)
リアルタイムPCR システム
DNA マイクロアレイ解析装置
マルチラベルリーダー
イメージアナライザー
マイクロチップ電気泳動システム
超音波破砕装置
遺伝子導入装置
蛍光分光光度計
円二色性分光光度計
二次元クロロフィル蛍光測定器
超遠心機
大型遠心機
大型振とう培養器
Life Technology 社SOLiD5500xl
Applied Biosystems 社Genetic Analyzer 3100
Applied Biosystems 社StepOnePlus
Axon Instrument 社GenePix4000
Affymetrix 社GeneChip scanner 3000
PerkinElmer 社2030ARVO X4
GE Healthcare 社Typhoon FLA9000
GE Healthcare 社STORM820
GE Healthcare 社ImageQuant LAS4000mini
Agilent Technologies 社2100 バイオアナライザ
Covaris 社Model S2
BioRad 社GenePulser
日立社F4010
日本分光社J700
Photon Systems Instruments 社EMFluorCam800MF
日立社SCP55H、ローター各種
クボタ社7780II ほか
TAITEC 社BR-180LF ほか
※遺伝子実験施設の利用を希望される方は「遺伝子実験施設利用申請書」を提出し、承認を得た上で利用して下
さい。利用申請書の書式(pdf ファイル)はhttps://sequence.gene.nagoya-u.ac.jp/からダウンロードして下さい。
年中行事
RI 実験室で使用が認められている核種と使用量
RI 講習会
32
1日最大使用量
74 MBq
名大祭研究室公開
33
1日最大使用量
74 MBq
公開講座
35
1日最大使用量
37 MBq
共同利用講習会(上半期)
14
C
1日最大使用量
9 MBq
7月
Jr.サイエンス教室
3
H
1日最大使用量
9 MBq
8月
大学説明会・施設公開
4月
6月
10 月
共同利用講習会(下半期)
11 月
全国遺伝子実験施設連絡会議
12 月
公開セミナー
2月
卒業研究発表会、学位発表会
P
P
P
※RI 実験を希望される方は事前に「遺伝子実験施設
放射性同位元素利用者講習会」を受講して下さい。
植物オルガネラの遺伝子発現制御
ゲノム間コミュニケーションと個体統御システムの研究
SUGITA
MAMORU
杉田 護 教授
1978 年北海道大学理学部生物学科(植物学)卒業。82 年同大学大学院理学研究科博士課程
中途退学、同年北海道大学理学部植物学教室 助手、84 年理学博士(名古屋大学)、85 年カ
リフォルニア大学バークレー校博士研究員、88 年北海道大学理学部植物学教室 講師、89 年
名古屋大学遺伝子実験施設助教授、98 年名古屋大学大学院人間情報学研究科(物質・生命情
報学専攻)教授、2000 年より現職。日本遺伝学会奨励賞受賞(1994 年)。専門は植物オル
ガネラの分子生物学。
研究内容
植物細胞の中には「核・葉緑体・ミトコンドリア」の3つゲノムがあります。葉緑体とミトコンドリアの起源
となったバクテリアが宿主細胞に取り込まれ細胞内共生してきた過程で、バクテリアが持っていた大半の遺伝子
が核ゲノムに移行し、核、葉緑体、ミトコンドリアそれぞれのゲノムができあがったと考えられています。核ゲ
ノムに移行した遺伝子は、その遺伝子産物(蛋白質)を葉緑体やミトコンドリアに輸送することにより、光合成
や呼吸などを支えています。このような葉緑体やミトコンドリアの機能を発現したり調節したりするのに数千個
もの核遺伝子が働いています。
当研究室では植物細胞の中で重要な働きをもつ葉緑体やミトコンドリアの機能発
現の仕組みをさぐるため、核ゲノムに内蔵された遺伝情報を明らかにし、それらの遺伝情報発現制御の分子メカ
ニズム解明をめざしています。
Regulation of gene expression in plant organelles
Crosstalk between the nuclear and plastid genomes
研究協力者
鹿内利治(京都大学大学院理学研究科・教授)、由良 敬(お茶の水女子大学大学院情報科学研究科・教授)、樋口正信(国立科学
博物館・室長)、中村崇裕(九州大学・農学研究院・准教授)、杉田千恵子(研究員)、一瀬瑞穂(日本学術振興会特別研究員DC2)、
大学院生、学部生
ホームページ: http://www.gene.nagoya-u.ac.jp/~sugita-g/
e-mail: [email protected]
tel/fax: 052-789-3080
Room Number: F308
最近の主要な研究論文
1. Sugita, M., Ichinose, M., Ide, M. and Sugita, M. (2013) Architecture of the PPR gene family in the moss
Physcomitrella patens. RNA Biology (in press).
2. Sugita, C., Kato, Y., Yoshioka, Y., Tsurumi, N., Iida, Y., Machida, Y. and Sugita, M. (2012) CRUMPLED LEAF
(CRL) homologs of Physcomitrella patens are involved in the complete separation of dividing plastids. Plant &
Cell Physiology 53, 1124-1133. Chief-in-Editor’s Choice
3. Ichinose, M., Tasaki, E., Sugita, C. and Sugita, M. (2012) A PPR-DYW protein is required for splicing of a group II
intron of cox1 pre-mRNA in Physcomitrella patens. Plant J. 70, 271-278.
4. Ohtani, S., Ichinose, M., Tasaki, E., Aoki, Y., Komura, Y., and Sugita, M. (2010) Targeted gene disruption
identifies three PPR-DYW proteins involved in RNA editing for five editing sites of the moss mitochondrial
transcripts. Plant & Cell Physiol. 51, 1942-1949. Chief-in-Editor’s Choice
5.
Kobayashi, K., Kawabata, M., Hisano, K., Kazama, T., Matsuoka, K., Sugita, M., Nakamura, T. (2012)
Identification and characterization of the RNA binding surface of the pentatricopeptide repeat protein. Nucleic
Acids Res. 40, 2712-2723.
6. Uchida, M., Ohtani, S., Ichinose, M., Sugita, C. and Sugita, M. (2011) The PPR-DYW proteins are required for
RNA editing of rps14, cox1 and nad5 transcripts in Physcomitrella patens mitochondria. FEBS Letters 585,
2367-2371.
7. Banks, J.A., Nishiyama, T., Hasebe, M., Bowman, J.L., Gribskov, M., dePamphilis, C. et al. (2011) The Selaginella
genome identifies genetic changes associated with the evolution of vascular plants. Science 332, 960-963.
8. Tasaki, E., Hattori, M. and Sugita, M. (2010) The moss pentatricopeptide repeat protein with a DYW domain is
responsible for RNA editing of mitochondrial ccmFc transcript. Plant J. 62, 560-570.
9.
Hattori, M. and Sugita, M. (2009) A moss pentatricopeptide repeat protein binds to the 3'-end of plastid clpP
pre-mRNA and assists with the mRNA maturation. FEBS J. 276, 5860-5869.
10. Ito, H., Mutsuda, M., Murayama, Y., Tomita, J., Hosokawa, N., Terauchi, K., Sugita, C. et al. (2009)
Cyanobacterial daily life with Kai-based circadian and diurnal genome-wide transcriptional control in
Synechococcus elongatus. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106, 14168-14173.
11. Okuda, K. Chateigner-Boutin, A.L., Nakamura, T., Delannoy, E., Sugita, M. et al. (2009) Pentatricopeptide repeat
proteins with the DYW motif have distinct molecular functions in RNA editing and RNA cleavage in Arabidopsis
chloroplasts. Plant Cell 21, 146-156.
12. Yura, K., Miyata, Y., Arikawa, T., Higuchi, M. and Sugita, M. (2008) Characteristics and prediction of RNA
editing sites in the transcripts of a moss Takakia lepidozioides chloroplast. DNA Res. 15, 309-321.
13. O’Toole, N., Hattori, M., Andres, C., Iida, K., Claire Lurin, C., Schmitz-Linneweber, C., Sugita, M., and Small, I.
(2008) On the expansion of the pentatricopeptide repeat gene family in plants. Mol. Biol. Evol. 25, 1120-1128
(2008).
著書など
1. Kanamaru, K. and Sugita, M. (2013) Chapter 10. Dynamic features of plastid genome and its transcriptional control
in plastid development. Basanti Biswal, Karin Krupinska and Udaya C. Biswal, The Advances in Photosynthesis
and Respiration series 36 on “Plastid Development in Leaves during Growth and Senescence”. In press.
2. Sugita, M. and Aoki, S. (2009) Chloroplasts. In The Moss Physcomitrella patens, Celia Knight, Pierre
Francois-Perround and David Cove, eds., Blackwell Publishing. Annual Plant Reviews 36, pp. 182-210.
3. 植物ゲノム科学辞典(駒嶺 穆: 総編集)、分担執筆、朝倉書店、2009年1月
分子細胞生物学辞典(第2版)、分担執筆、東京化学同人、2008年10月
植物の免疫機構
ストレス応答を制御する酸化還元シグナル
TADA YASUOMI
多田 安臣
教授
1995 年3 月 神戸大学農学部植物防疫学科 卒業。2000 年3 月 神戸大学大学院自然
科学研究科生命科学専攻博士後期課程 修了、農学博士。2000 年4 月 神戸大学農学
部特別研究員、2004 年10 月 Duke 大学特別研究員、2009 年4 月 香川大学総合生命
科学研究センター准教授。2014 年4 月から現職。
研究目的
免疫系は、多細胞生物の生存、恒常性維持において重要な役割を担っています。自然免疫はホ乳動物を始めと
した生物に広く保存されている感染防御応答であり、植物は固着の生活を営むが故に、極めて高度に発達した制
御機構を保有しています。私たちの研究室は、生物が普遍的に持つ免疫システムと、植物固有の防御機構を分子
レベルで解明することを目的としています。これまでに、植物免疫を活性化する植物ホルモンであるサリチル酸
の受容体同定や特徴付けを世界に先駆けて行いました。
レドックスシグナルと免疫応答
植物は、動物のような好中球やマクロファージなどの特殊化した免疫細胞を持っていませんが、病原菌感染部
位において活性酸素種や活性窒素種による殺菌を行い、同時に病原体の封じ込めと消化を行います。放出される
活性酸素種などは、細胞内或いは細胞間のシグナル伝達物質としても機能することが明らかになっていますが、
これらの情報がどのように認識され、遺伝子発現システムの活性化に繋がるかは長く不明でした。私たちは、植
物における鍵免疫制御因子であるNPR1 が、ガス状ラジカルである一酸化窒素をS-ニトロソ化と呼ばれるタンパ
ク質翻訳後修飾を介して感知し、活性化することを示しました。これにより、世界で初めて酸化ストレスによる
植物免疫制御システムの分子機構が明らかになりました。現在、全く新奇な酸化ストレス認識システムとして、
免疫活性化に伴って生じる細胞内酸化レベルを総合的に評価し、核へとその情報を伝達する分子機構の存在を明
らかにしました。本システムは、多様な病原体の感染動態を一元的な情報へと変換する点で極めて合理的な防御
戦略であり、植物のみならず他の生物にも存在する可能性が高いと考えています。
免疫系を中心としたグローバルネットワークの理解に向けて
植物免疫シグナルは、成長などの内生シグナル、乾燥、昆虫や温度ストレスなどの環境シグナルとのクロスト
ークにより、互いに最適化することが示されています。例えば、昆虫が植物を加害するとジャスモン酸と呼ばれ
る植物ホルモンが合成され、植物免疫系は抑制されます。逆に、免疫系が活性化すると、ジャスモン酸シグナル
は強く阻害されます。また植物免疫系の活性化は、病原菌の初期感染部位である根毛の形成を抑制し、感染リス
クを減少させることを見出しました。私たちは、このような複数のシグナル伝達系が形成するグローバルシグナ
ルネットワークを、植物免疫系を中心として理解することを目的にし、独自に開発したタンパク質合成技術とト
ランスクリプトーム解析により制御因子を網羅的に同定しています。私たちのタンパク質合成技術は、ゲノム情
報が蓄積しつつある現在、ポストゲノム研究を推進する上で強力な技術基盤になることが期待されています。
Plant innate immunity
Redox-based regulation of plant stress responses
研究協力者:塚越啓央(名古屋大学 リーディング大学院PhD 登竜門)、山本義治(岐
阜大学 応用生物科学部)、松下智直(九州大学 農学部)、武宮淳史(九州大学 理
学部)、松永幸大(東京理科大学 理工学部)、Steven Spoel(University of Edinburgh)、
Xinnian Dong(Duke University)
e-mail: [email protected]
TEL: 052-789-2951 FAX: 052-747-6451
Room Number F511
最近の主要な参考論文
1. Yoshida H, Hirano K, Sato T, Mitsuda N, Nomoto M, Maeo K, Koketsu E, Mitani R, Kawamura M, Ishiguro
S, Tada Y, Ohme-Takagi M, Matsuoka M, Ueguchi-Tanaka M. DELLA protein functions as a
transcriptional activator through the DNA binding of the INDETERMINATE DOMAIN family proteins.
Proc Natl Acad Sci USA, 111:7861-7866.
2. Takemiya A, Sugiyama N, Fujimoto H, Tsutsumi T, Yamauchi S, Hiyama A, Tada Y, Christie JM,
Shimazaki K (2013): Phosphorylation of BLUS1 kinase by phototropins is a primary step in stomatal
opening. Nature Commun, 4:2094.
3. Fu ZQ, Yan S, Saleh A, Wang W, Ruble J, Oka N, Mohan R, Spoel SH, Tada Y, Zheng N, Dong X (2012):
NPR3 and NPR4 are receptors for the immune signal salicylic acid in plants. Nature, 486:228-232.
4. Pajerowska-Mukhtar KM, Wang W, Tada Y, Oka N, Tucker CL, Fonseca JP, Dong X. (2012): The HSF-like
transcription factor TBF1 is a major molecular switch for plant growth-to-defense transition.
Curr Biol, 22:103-112.
5. Wang W, Barnaby JY, Tada, Y, Li H, Tör M, Caldelari D, Lee D, Fu X, Dong X (2011): Timing of
plant immune responses by a central circadian regulator. Nature, 470:110-115.
6. Spoel SH, Mou Z, Tada Y, Spivey NW, Genschik P, Dong X (2009): Proteasome-mediated turnover
of the transcription coactivator NPR1 plays dual roles in regulating plant immunity. Cell,
137:860-872.
7. Tada Y, Spoel SH, Pajerowska-Mukhtar K, Mou Z, Song J, Wang C, Zuo J, Dong X (2008): Plant immunity
requires conformational charges of NPR1 via S-nitrosylation and thioredoxins. Science,
321:952-956.
総説
1. 野元美佳、多田安臣(2013):「サリチル酸受容体の発見」、化学と生物 Vol51:728-729.
2. Miura K, Tada Y (2014): Regulation of water, salinity, and cold stress responses by salicylic
acid. Front Plant Sci, doi: 10.3389/fpls.2014.00004.
植物免疫における鍵転写補助因子であるNPR1 にGFP 遺伝子を付加したNPR1-GFP 植物に、病原菌である
Pseudomonas syringae を接種し、蛍光顕微鏡観察しました。写真右半分は病原菌を認識し、病原菌と共に
自爆死した植物細胞です(オレンジ色の細胞)。左半分は病原菌が感染していないにも関わらず、感染部
位から伝達されるシグナルを感知後、NPR1 が活性化し、免疫力を獲得していることが分かります。
植物ミトコンドリアのゲノム解析及び植物プロテアーゼの改変と応用
SUGIYAMA
YASUO
杉山 康雄
准教授
1974 年大阪大学理学部卒業。79 年同大学大学院理学研究科博士課程修了、理学博士。
カリフォルニア大学アーバイン校博士研究員を経て83 年大阪大学理学部助手。89 年名
古屋大学理学部助手、93 年同講師、96 年同大学院助教授を経て、99 年から現職。専門
はタンパク質解析学、ゲノム解析学。
研究目的
1.植物プロテアーゼはタンパク質の代謝に必須である。活性部位にシステインをもつシステインプロテアーゼ
類は、種子の発芽、セネッセンスや細胞死などに関係することが知られていたが、近年、病原菌や病害虫の攻撃
から植物を防御する様々な過程で重要な役割を演じていることが分かってきた。それらのプロテアーゼ類は病原
菌の感染や病害虫との接触で誘導される。一方、システインプロテアーゼが常時多量に乳液・ラテックスや果実
で発現している植物もあり、その生物学的役割も生体防御であると推定されている。また、プロテアーゼ類は古
くから産業や医療への応用がなされてきた。我々は、多彩な生物作用・薬理作用をもつ改変プロテアーゼの作成
を試みている。そのため、異種発現系を使って大量に調製したプロテアーゼ前駆体をリフォールディングさせる
方法を開発し様々な産業に活用(食品処理作用、免疫力向上作用、抗炎症作用、抗酸化作用などを食品・医薬分
野に適用)することを目指している。
2.ミトコンドリアは真核細胞の進化の過程において細胞内共生で生じたと推定されている。18 億年前、細胞内
共生で動物細胞が誕生した時に、ミトコンドリアの祖先(自由生活型α-プロテオバクテリア)のゲノムからほと
んどの遺伝子が喪失した(ゲノムの縮小)。その後、葉緑体の祖先(シアノバクテリア)が取り込まれて植物細
胞の祖先となった。この植物細胞内のミトコンドリアゲノムは、動物細胞の場合とは異なった進化をとげた。特
に、水中から陸上へ植物が進出してから、縮小していたミトコンドリアゲノムの大きさが再び増大し、現在に至
っている。我々は、ミトコンドリアの進化を、ゲノム構造の解析等によって明らかにしようと試みている。
研究成果
(1)タバコミトコンドリアDNA 塩基配列の決定
高等植物の進化の過程でmtDNA から遺伝子が消失(大抵は核ゲノムへ移行)した時期を系統樹上に描いた
(Sugiyama et al. 2005)。
(2)RNA エディティング部位の決定
RT-PCR 法でタバコmtDNA にある36 種類のタンパク質遺伝子のRNA エディティング部位を決定した(合計
519 箇所)。他の高等植物mtDNA 遺伝子で報告されているRNA エディティング部位と比較し、一般的な特徴を
抽出し、また、被子植物におけるRNA エディティングの起源と進化を考察した。
(3)マタタビ属果実プロテアーゼ類の解析
埋もれた森の恵みを発掘するため,マタタビ属のサルナシとマタタビを材料としている。果実からDNA とRNA
を調製し、genomic PCR とRT-PCR によって、サルナシゲノムには少なくとも5 種類のシステインプロテアーゼ
遺伝子があり、そのうちの2 種類が果実で発現していることを明らかにした。実際、サルナシ果汁から比活性の
大きく異なる2 種類(高活性型と低活性型)のシステインプロテアーゼをイオン交換カラムで分離・精製し、そ
れらの酵素学的性質を明らかにした(SaruA-01、SaruA-07 と名づけた)。そして高活性型プロテアーゼ(SaruA-01)
のX 線構造解析を行った。(最近の主要な参考論文1.)
Genomics of the plant mitochondria, and application of the plant proteases
研究協力者:杉浦昌弘(名古屋大学・特別教授)、山根隆(名古屋大学・名誉教授)
鈴木淳巨(名古屋大学大学院工学研究科・准教授)
大学院生、学部生
ホームページ http://www.gene.nagoya-u.ac.jp/~sugiyama-g/
e-mail [email protected]
tel 052-789-5943
fax 052-789-5943
Room Number 102
今後の展望
1.
植物ミトコンドリアについて;高等植物mtDNA の存在状態やmtDNA 複製とホモプラスミー維持に関与す
る酵素・タンパク質などは良く分かっていない。植物ミトコンドリアの形質転換法の開発が急務である。
2.
植物プロテアーゼについて;(1)果実から精製したSaruA-01 とSaruA-07 の変性と再生過程を追跡し、構
造安定性や酵素活性をパパインと比較して有用性を明確にする。(2)改変プロテアーゼの異種発現系とそ
の大量調製法を確立する。
タバコミトコンドリアのゲノム構造
サルアーゼA の立体構造モデル
最近の主要な参考論文
1. Vogavel, M.,Nithya, N., Suzuki, A,, Sugiyama, Y., Yamane, T., Velmurugan, D., and Sharma, A. (2010) Structural
analysis of actinidin and a comparison of cadmium and sulfur anomalous signals from actinidin crystals measured using
in-house copper- and chromium-anode X-ray sources. Acta Cryst. D66:1323-1333.
2. Sugiyama, Y., Watase, Y., Nagase, M., Makita, N., Yagura, S., Hirai, A., and Sugiura, M. (2005): The complete
nucleotide sequence and organization of the tobacco mitochondrial genome: comparative analysis of mitochondrial
genomes in higher plants. Mol. Genet. Genomics 272:603-615.
著書・総説など
1. 高等植物ミトコンドリアゲノムの遺伝と進化、オーバービュー、2005 年11 月号増刊「二層膜オルガネラの
遺伝学」、蛋白質核酸酵素 50:1780-1781.
2. 杉山康雄(2005): 度重なるゲノムの再編成は独特な転写・翻訳系を生みだした、2005 年11 月号増刊「二層
膜オルガネラの遺伝学」、蛋白質核酸酵素 50:786-17891.
3. 杉山康雄(2005): 植物ミトコンドリアは独自なtRNA 輸送機構をもつのか?、2005 年11 月号増刊「二層膜オ
ルガネラの遺伝学」、蛋白質核酸酵素 50:1799-1800.
エネルギー変換膜の再構成システムバイオロジー
3つの生物ドメインを比較したシステム進化生物学
IHARA
KUNIO
井原 邦夫
准教授
1989 年大阪大学大学院理学研究科卒、理学博士。同年名古屋大学理学部生物学
教室助手、2000 年名古屋大学遺伝子実験施設助手、2009 年名古屋大学遺伝子
実験施設助教。2012 年6 月から現職。
エネルギー変換膜の再構成システムバイオロジー
全ての細胞は、自己(細胞内部)と外界(外部環境)が細胞膜によって仕切られており、外部環境から物質を
細胞内に輸送して、細胞内の不要物を細胞外に排出している。さらに、細胞膜を介したプロトンの電気化学ポテ
ンシャル差(ΔμH+)は、ATPの化学エネルギーと並んで、細胞の重要なエネルギー形態の一つである。高度好
塩性古細菌には、光エネルギーをATPの化学エネルギーに変換できる、最も単純な光エネルギー変換システムが
存在している。そのシステムは、光駆動性のプロトンポンプであるバクテリオロドプシン(1種類のタンパク質)
とATP合成酵素(9種類のタンパク質)という2種類のタンパク質から構成されている。光エネルギーを利用してバ
クテリオロドプシンがプロトンの濃度勾配(正確には電気化学ポテンシャル差)を形成し、その濃度勾配を利用
してATP合成酵素が、ADPとPiからATPを作り、そのATPを利用してさまざまな酵素が機能している。また、同
じ細胞膜には、酸素呼吸を担う呼吸鎖電子伝達系やΔμH+(あるいは、Na/Hアンチポーターによって変換された
ΔμNa+)を利用していろいろな物質を輸送するトラン
スポーター、細胞が水溶液中を移動するモーター分子で
あるべん毛等が存在している(図1)。我々は、膜に存
在するエネルギー変換素子の働きを一つ一つをX線結
晶構造解析(名大・理学研究科 物質科学専攻 神山研究
室との共同研究)から理解すると同時に、個々のエネル
ギー変換素子(複合体)の相関、制御を全体として理解
したいと考えている。
さらに、最も単純な膜エネルギー素子であるバクテリ
オロドプシン、ハロロドプシンを他の各種共役輸送体や細胞膜構築系とともに人工系(大腸菌系や再構成系)に
組み込むことで、光によって簡単にエネルギーを与えたり、トリガーを与えることが可能になる。このような系
を使って、様々な膜エネルギー変換現象をシステムとして理解しようと試みている。
3つの生物ドメインを比較したシステム進化生物学
現在の地球に生息する生物は、その細胞のつくりから原核生物と真核生物に大きく分けられる。さらに、原核
生物は、アーキア(古細菌)とバクテリア(真正細菌)とよばれる起源が大きく異なる2つに分けられる。それ
で、現在の地球上の生物は、3つのドメイン(アーキア、バクテリア、ユーカリア)から構成されると考えられ
ている。これらの3つのドメインで、全てのドメインに共通した特徴や、2つのドメインのみに共通した特徴、
そして、それぞれのドメイン(あるいは生物種)に固有の特徴が存在する。次世代シーケンサーの登場によって
ゲノム解析が簡単になり、これらの特徴は抽出しやすくなってきた。また、様々な環境におけるトランスクリプ
トーム解析によって、遺伝子発現(転写)の変化が網羅的になると同時に、転写因子による厳密な調整システム
System biology using reconstitution approach in the energy transducing membrane
System evolutional biology comparing three Domain of life
研究協力者:神山勉教授(名古屋大学大学院理学研究科物質化学専攻)、小俣達男教授(名古屋大学大学院生命農学研究科)、藤
田祐一准教授(名古屋大学大学院生命農学研究科)、本間道夫教授(名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻)、須藤雄気准教
授(名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻)、高木新准教授(名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻)、大野欣司教授(名
古屋大学大学院医学研究科先端応用医学、神経遺伝情報学)、田中雅嗣部長(東京都老人総合研究所、老化制御研究)、吉田 正
人准教授(名古屋大学大学院生命農学研究科)、亀倉正寛所長 (好塩菌研究所)、伊藤隆主任研究員(理化学研究所)、
e-mail: [email protected]
TEL: 052-789-6455、052-747-4532
Room Number F402
FAX: 052-789-4526
の全貌を知る事が可能になってきた。主に次世代シーケンサーを使って、この転写、翻訳レベルにおけるドメイ
ン間の相違を調べ、それぞれの生物システムがどのように進化してきたのかを知り、突然変異と自然選択以外の
生物進化の基本原理(あるのなら)に迫りたいと考えている。
次世代シーケンサーを利用した技術開発と共同研究
次世代シーケンサー(SOLiD5500)を使った、リシーケンスによる変異部位(SNPs やINDEL)の同定、RNA-Seq
法による網羅的な転写解析、ChIP-Seq 法による核酸ータンパク質複合体解析、バイサルファイト法によるメチル
化部位のシーケンス解析等をトータルに扱って、それぞれの段階
で効率化するウエットやドライの手法開発に取り組み、これらの
様々な方法論を用いた共同利用、共同研究を展開している。右図
は、ラン藻の変異体解析を次世代で解析してSNPs 部位(sll1512)
を同定した一例。
最近の主要な参考論文
1. 1. Terashima H, Terauchi T, Ihara K, Nishioka N, Kojima S, Homma M. Mutation in the a-subunit
of F1FO-ATPase causes an increased motility phenotype through the sodium-driven flagella of Vibrio.
J Biochem. 2013 Jun 20. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 23750030.
2. Sudo Y, Okazaki A, Ono H, Yagasaki J, Sugo S, Kamiya M, Reissig L, Inoue K, Ihara K, Kandori H,
Takagi S, Hayashi S. A blue-shifted light-driven proton pump for neural silencing. J Biol Chem.
2013 May 28. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 23720753.
3. 3. Zhang J, Mizuno K, Murata Y, Koide H, Murakami M, Ihara K, Kouyama T. Crystal structure of
deltarhodopsin-3 from Haloterrigena thermotolerans. Proteins. 2013 [Epub ahead of print] PubMed
PMID: 23625688.
4. Tanisawa K, Mikami E, Fuku N, Honda Y, Honda S, Ohsawa I, Ito M, Endo S, Ihara K, Ohno K,
Kishimoto Y, Ishigami A, Maruyama N, Sawabe M, Iseki H, Okazaki Y, Hasegawa-Ishii S, Takei S,
Shimada A, Hosokawa M, Mori M, Higuchi K, Takeda T, Higuchi M, Tanaka M. Exome sequencing
of senescence-accelerated mice (SAM) reveals deleterious mutations in degenerative disease-causing
genes. BMC Genomics. 2013 Apr 15;14(1):248.
5. 5. Kitaoka M, Nishigaki T, Ihara K, Nishioka N, Kojima S, Homma M.
A novel dnaJ family gene,
sflA, encodes an inhibitor of flagellation in marine Vibrio species. J Bacteriol. 2013
Feb;195(4):816-22.
6. 6. Nakanishi T, Kanada S, Murakami M, Ihara K, Kouyama T. Large deformation of helix F during
the photoreaction cycle of Pharaonis halorhodopsin in complex with azide.
Biophys J. 2013 Jan
22; 104 (2) :377-85.
7.
7. 井原 邦夫、神山 勉
「光駆動性塩素イオン輸送タンパク質ハロロドプシンの構造」 オプトジェネティク
ス 2013 エヌ・ティー・エス出版
緑藻の生物時計
MATSUO TAKUYA
松尾 拓哉
助教
1998 年3 月 山口大学理学部生物学科 卒業。2003 年3 月 山口大学理工学研究科博士後
期課程 単位取得退学、2004 年3 月 理学博士取得(山口大学)。2003 年4 月~2004 年3
月名古屋大学遺伝子実験施設・研究員、2004 年4 月~2007 年3 月 日本学術振興会特別研
究員PD、2007 年4 月~2009 年2 月 名古屋大学遺伝子実験施設・研究員、2009 年3 月~
現在名古屋大学遺伝子実験施設・助教。専門は緑藻の生物時計(The circadian clock in green
algae)
研究目的
ほとんどの生物は生物時計を持っています。生物時計は個々の細胞に備わった分子装置であり、自立的に時
間を計ることが出来ます。生物時計はその時間情報を元にして様々な生命現象を適切なタイミング(時刻)で起
こるように調節することで、生物を外界の環境変化(昼夜変化)に適応させる役割を担っています。私たちは、
生物時計の分子レベルでの研究がほとんど進んでいなかったクラミドモナスを生物時計研究の新たなモデルと
して確立し、真核細胞内でどのようにして時が計られ、その時間情報が細胞内で起こる多くの生命現象にどうや
って反映されるのかを包括的に理解することを目標としています。
※クラミドモナス(和名:コナミドリムシ)
クラミドモナスは身近な池や川などでごく普通に見られる生物です。細胞の大きさは約10マイクロメートル
ぐらいで、鞭毛、核、葉緑体、ミトコンドリア、眼点などから成る単細胞生物です(図1)。効率よく光合成を
行うために、眼点で光の来る方向を認識し、鞭毛を使って光に向かって泳ぎます。研究用のモデル生物としての
クラミドモナスは、1)単純な単細性の真核生物である、2)増殖が早い、3)雌雄の区別があり遺伝学的解析
が可能、4)分子遺伝学的ツールが整っているといった特徴を持っており、モデル生物である酵母とよく似た点
が多いことから“Green yeast(緑の酵母)”とも呼ばれます。ただし、酵母で出来る実験は酵母でやればよいの
ですから、クラミドモナスは「単純なモデル生物がよいが酵母では出来ない」といった現象を研究する時に最も
力を発揮するモデルと言えます。例えば、葉緑体や真核生物鞭毛の研究です。また、酵母はあまり明瞭な概日リ
ズムを示しませんので、真核生物の生物時計の研究においてもクラミドモナスは強力なモデルとなるに違いあり
ません。
研究成果
1)生物発光レポーター系を葉緑体ゲノムに応用しました
生物時計の活動を測定する手法として、ルシフェラーゼレポーターを用いて生物発光の概日リズムを測定する
手法があります。私たちはこの手法をクラミドモナスの葉緑体ゲノムに応用しました。クラミドモナスの葉緑体
遺伝子tufA はその発現量に概日リズムを示します。そこで、tufA 遺伝子のプロモーター領域を、葉緑体用にコド
ンを最適化したホタルのルシフェラーゼ(lucCP)と連結して、クラミドモナスの葉緑体ゲノムに組み込みまし
た。このレポーター株は発光し(図2A)、発光の強度は非常に明瞭な概日リズムを示しました(図2B)。
2)クラミドモナスの時計遺伝子群を網羅的に同定しました
抗生物質耐性遺伝子を核ゲノムへランダム挿入することにより、約16000 個の挿入変異体を作製しました。そ
れらの変異体の生物発光の概日リズムを測定し、
105 個のリズム変異体を分離することに成功しました。
さらに、
分離したリズム変異体の遺伝学的解析とTAIL-PCR 法による抗生物質耐性遺伝子の挿入部位の同定から、
30 個の
原因遺伝子(遺伝子座)を決定することに成功しました。この遺伝子群は葉緑体のリズムに重要であることから
Rhythm of Chloroplast (ROC)遺伝子群と命名しました。ROC 遺伝子群の中で、6 つのROC 遺伝子はクラミドモ
ナスの生物時計の中心的な機構に関わっている遺伝子、すなわち時計遺伝子であると考えられ、現在特に注目し
て研究を進めています。これらは転写因子(ROC15、ROC40、ROC66、ROC75)やユビキチンリガーゼのサブ
ユニット(ROC114)と推測されるタンパク質をコードしています。また、ROC55 は機能を推測できるドメイン
を持っていません。興味深いことにROC15、ROC40、ROC75 は高等植物の時計タンパク質と、ROC66 は同じく
高等植物の光周性花成の制御因子とアミノ酸配列が部分的に類似していました。緑藻と高等植物の生物時計は、
共通の起源を持つのかもしれません。しかし、ROC55 やROC114 に相同な高等植物のタンパク質はありません
ので、現在の緑藻の生物時計は、緑藻が進化の過程で独自に獲得した特徴も多く持っているようです。
The circadian clock in green algae
研究協力者:福澤秀哉・山野隆志(京都大学 生命科学研究科)、皆川純(基礎生物学研究所・環境光
生物学研究部門)、下河原浩介(帝京大学 医学部)、西村芳樹(京都大学 理学研究科)、塙優(産
業技術総合研究所・特許生物寄託センター)、大学院生
e-mail: [email protected]
TEL: 052-789-4527 FAX: 052-789-4526
Room Number F510
今後の展望
クラミドモナスは単純な真核細胞でありながら、様々な現象で概日リズムを観察できます。走光性や走化性と
いった細胞の行動、窒素や炭素化合物の代謝系、細胞分裂、細胞表面の粘着性など、多岐にわたります。これら
多様なリズムの根幹には生物時計によるゲノムの制御があります。葉緑体の遺伝子発現にリズムが観られること
からもわかるように、それは核だけではなく葉緑体やミトコンドリアといったオルガネラのゲノムにも及んでい
ます。クラミドモナスは核、葉緑体、ミトコンドリアの細胞内3 ゲノムの全てにおいて形質転換系が確立してい
る現時点では唯一の生物です。この特長を生かせば、生物時計の時間発振機構からオルガネラゲノムを含めた細
胞内の全ゲノムの制御に至る時間情報の流れを包括的に理解できるユニークなモデル系にできるのではないか
と考えています。
図1 クラミドモナスの写真(A)と模式図(B)
図
図2 ホタルの発光遺伝子で発光するクラミドモナ(A)と
光の強さの概日リズム(B)
最近の主要な参考論文
1. Niwa Y, Matsuo T, Onai K, Kato D, Tachikawa M, Ishiura M (2013): A phase-resetting mechanism of the
circadian clock in Chlamydomonas reinhardtii. Proc Natl Acad Sci USA, In press
2. Matsuo T, Iida T, Ishiura M (2012): N-terminal acetyltransferase 3 gene is essential for robust circadian rhythm of
bioluminescence reporter in Chlamydomonas reinhardtii. Biochem Biophys Res Comm, 418:342-346
3. Matsuo T, Okamoto K, Onai K, Niwa Y, Shimogawara K, Ishiura M(2008): A systematic forward genetic analysis
identified components of the Chlamydomonas circadian system., Genes Dev. 22:918-930
4. Matsuo T, Onai K, Okamoto K, Minagawa J, Ishiura M(2006): Real-time monitoring of chloroplast gene expression by a
luciferase reporter: Evidence for nuclear regulation of chloroplast circadian period., Mol. Cell. Biol. 26:863-870
総説
1. Matsuo T. and Ishiura M. (2011). Chlamydomonas reinhardtii as a new model system for studying the
molecular basis of the circadian clock. FEBS lett., 585:1495-1502
2. Matsuo, T., and Ishiura, M.(2010): New insights into the circadian clock in Chlamydomonas. Int. Rev. Cell Mol. Biol.
280:281-314.
3. 松尾拓哉、石浦正寛 (2008);「真核生物における生物時計の新しい実験系:クラミドモナス」、蛋白
質核酸酵素, Vol53, 1873-1880
■名古屋大学遺伝子実験施設道案内
バスか地下鉄を利用して名古屋大学駅で降
りてください。
左の地図で、地下鉄2番出入り口から赤い
ラインをたどって、理学部E 館の東玄関に行
く道順が分かりやすいです。
その後は、上の図で、E 館の東玄関から入
ってF館まで来てください。
F 館入り口前にも
エレベーターが出来ました。
■交通アクセスMAP
[フロアー案内 ]
地階:共同利用
1 階: 施設受付(F111)
: 杉浦(F110)、杉山(F102)
3 階: 杉田(F308)
4 階: 次世代シーケンサー管理室(F402)
5 階: 石浦(F511)、井原(F506)、
松尾(F510)
[JR 東海名古屋駅から地下鉄名古屋大学駅まで]
地下鉄東山線名古屋駅で藤ヶ丘行きに乗車し、本山駅で名城線(4 番
ホーム・右回り)に乗りかえ、次の名古屋大学駅で下車して、2 番出
入口からおいで下さい。2 番出入口を出たらそのまま直進し、郵便局
を過ぎて最初の信号機の自動車用ゲートのある交差点を右折して下
さい。(上左図の赤色のライン)
[中部国際空港(セントレア)から地下鉄名古屋大学駅まで]
空港で名鉄常滑線に乗車し、金山駅で下車。地下鉄金山駅名城線(1
番ホーム・左回り)に乗車し、名古屋大学駅で下車して、2 番出入り
口からおいで下さい。
[県営名古屋空港から地下鉄名古屋大学駅まで]
空港で名古屋駅行きのバスに乗車してください(30 分程度)。
名古屋駅到着後は、上記を参照してください。
名古屋大学遺伝子実験施設
〒464-8602 名古屋市千種区不老町
TEL:052-789-3086
FAX:052-789-3083
E-mail: [email protected] URL: http://www.gene.nagoya-u.ac.jp
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