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第77号 平成 26 年 5 月

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第77号 平成 26 年 5 月
平成 26 年 5 月
第77号
フォトコーナー
▲武蔵・小次郎像(写真提供:山口県下関市)
▲和歌祭(紀州東照宮)
(写真提供:和歌山県和歌山市)
▲紀淡海峡と友ヶ島(写真提供:和歌山県和歌山市)
▲干満の差が日本一の有明海
(写真提供:佐賀県佐賀市)
ち
ょ
第 77 号
目
う
せ
い
平成 26 年 5 月
次
フォトコーナー
公害等調整委員会の動き
1審問(調停)期日の開催状況(平成 26 年 1 月~3 月)
2公害紛争に関する受付・終結事件の概要(平成 26 年 1 月~3 月)
公害等調整委員会事務局 ※
都道府県公害審査会の動き
受付・終結事件の概要(平成 26 年 1 月~3 月)
公害等調整委員会事務局 ※
シリーズ「振動に関わる苦情への対応」
-第5回 建設作業振動-
一般社団法人 日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所
ネットワーク
最前線紹介
水と緑と歴史のまち
佐野 昌伴
わかやま市
和歌山県和歌山市環境事業部環境政策課
がんばってまーす
苦情対応の能力向上を目指して
山口県下関市環境部環境政策課
市の仕事とは?・・・・
佐賀県佐賀市環境部環境保全課
技師
森井 春樹
副課長兼環境保全係長
出見 秀人
最近の公害裁判例 第 16 回
高層マンションの建築による風害を受けたことを理由とする損害賠償請求及び防風フェン
スの設置請求がいずれも棄却された事例
公害等調整委員会事務局 ※
中韓両国との交流について
公害等調整委員会事務局 ※
公害紛争処理制度に関する相談窓口 ※
※印の記事は転載自由です。
表紙の写真
しものせき海峡まつり先帝祭 上臈参拝(写真提供:山口県下関市)
しものせき海峡まつりは、関門海峡を舞台に繰り広げられた史実を基にしたお祭りです。その一つである先帝祭は、
寿永4年に壇ノ浦(関門海峡)で源氏に敗れ、平家の主だった武将たちとともに8歳で入水した安徳天皇を偲ぶお祭
りです。そのクライマックスとして、5人の太夫が豪華絢爛な衣装を着て、市内を練り歩く上臈参拝が行われます。
公害等調整委員会の動き
公害等調整委員会事務局
1
審問(調停)期日の開催状況(平成 26 年 1 月~3 月)
平成 26 年 1 月~3 月の審問(調停)期日の開催状況は、以下のとおりです。
月
日
期
日
2 月 20 日 大田区における鉄道工事からの振動等による財産
開催地
東
京
東
京
東
京
被害責任裁定申請事件第2回審問期日
2 月 21 日 千葉市における地盤沈下被害原因裁定申請事件
第2回審問期日
3 月 7 日 栃木県壬生町における地盤沈下被害原因裁定申請
事件第1回審問期日
2
公害紛争に関する受付・終結事件の概要(平成26年1月~3月)
受付事件の概要
香南市における道路工事からの振動による財産被害責任裁定申請事件
(平成 26 年(セ)第 1 号)平成 26 年 1 月 7 日受付
被申請人会社が施工した歩道工事に伴う振動により、申請人ら所有の家屋の壁・基礎等
に亀裂が発生し、トイレも漏水して使用できなくなり、申請人 A は、仕事引退後、この家
屋に移り住む予定だったが、できないでいる。公共事業の施工に伴う建物等の損傷である
ので、定められた調査をするよう被申請人国に申し出たが、拒否されている。このため、
申請人らは、被申請人らに対し、連帯して、申請人 A に対し 4,000 万円、他 2 人に対しそ
れぞれ 1,000 万円の損害賠償金の支払を求めるものです。
静岡県函南町における拡声器からの騒音による健康被害責任裁定申請事件
(平成 26 年(セ)第 2 号)平成 26 年 1 月 14 日受付
申請人は、被申請人が開催した各種イベントの際の開催告知を含む拡声器からの騒音に
より、睡眠を妨げられたほか、動悸の発生、持病の不整脈の悪化の不安が生じ、肉体的・
精神的苦痛を受けたとして、被申請人に対し、損害賠償金 10 万円の支払を求めるものです。
座間市における工場からの騒音・振動による慰謝料等責任裁定申請事件
(平成 26 年(セ)第 3 号)平成 26 年 2 月 6 日受付
被申請人の工場は、平日午前 7 時前頃から午後 9 時過ぎ頃まで、さらに、土曜、日曜、
祭日も作業をし、工場内の機械から騒音、振動を発生させている。これにより、申請人ら
は、精神的、肉体的苦痛を受けており、また、騒音、振動対策のための防音フェンスや二
重サッシの設置等の費用が必要であるとして、被申請人に対し、申請人 A に対し 349 万
9,000 円、申請人 B に対し 100 万円の損害賠償金の支払を求めるものです。
静岡市における騒音等による健康被害責任裁定申請事件
(平成 26 年(セ)第 4 号)平成 26 年 3 月 26 日受付
被申請人の高校にある和太鼓部の活動で発生する騒音等により、申請人は、聴覚過敏症
状等を発症し、精神的・肉体的苦痛を受けたとして、被申請人に対し、損害賠償金合計 100
万円の支払を求めるものです。
終結事件の概要
品川区における鉄道騒音被害責任裁定申請事件
(平成24年(セ)第6号事件・平成25年(調)第11号事件)
1
事件の概要
平成 24 年 8 月 13 日、東京都品川区の住民 1 人から、鉄道会社を相手方(被申請人)と
して責任裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。申請人は、被申請人が運行する列車から発生する騒音
により、高血圧・耳鳴り・不眠等を発症し、また、電話の使用等がままならないため窓を
開放することが困難である。このため、窓を開放したい季節にも閉め切らざるを得ない期
間のエアコンの電気代金、並びに騒音が改善されない場合の防音ドア及び防音窓工事代金
として、被申請人に対し、損害賠償金合計 879 万 7,500 円の支払を求めるものです。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、事務局による現地調査
を実施するなど、手続を進めた結果、本件については当事者間の合意による解決が相当で
あると判断し、平成 25 年 12 月 20 日、公害紛争処理法第 42 条の 24 第 1 項の規定により
職権で調停に付し(平成 25 年(調)第 11 号事件)、裁定委員会が自ら処理することとしま
した。平成 26 年 1 月 6 日、第 1 回調停期日において、裁定委員会から調停案を提示したと
ころ、当事者双方はこれを受諾して調停が成立し、責任裁定申請については取り下げられ
たものとみなされ、本事件は終結しました。
千代田区における鉄道等からの騒音被害責任裁定申請事件
(平成23年(セ)第1号事件)
1
事件の概要
平成 23 年 2 月 21 日、東京都江戸川区の不動産会社から、鉄道会社を相手方(被申請人)
として責任裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。被申請人が運行する列車から発生する騒音等により、
申請人所有の賃貸マンションの居住者が、睡眠妨害、会話妨害等の生活妨害を受けている
ことから、申請人は、空き室の発生、賃料の減額、賃借人からの苦情への対応等の被害を
生じているとして、被申請人に対し損害賠償金日額 9,000 円等の支払を求めるものです。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、3 回の審問期日を開催す
るとともに、平成 23 年 8 月 23 日、鉄道騒音等の影響に関する専門的事項を調査するため
に必要な専門委員 1 人を選任したほか、事務局による現地調査等を実施するなど、手続を
進めた結果、平成 26 年 1 月 15 日、本件申請を一部却下、一部棄却するとの裁定を行い、
本事件は終結しました。
練馬区における粉じんによる大気汚染被害責任裁定申請事件
(平成25年(セ)第13号事件)
1
事件の概要
平成 25 年 6 月 14 日、東京都練馬区の住民 2 人から、隣人を相手方(被申請人)として
責任裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。被申請人宅の屋根の材質に問題があり、屋根から粉じ
んが散ってくるため、ベランダに洗濯もの等を干すことができず、窓を開くたび、くしゃ
みが出る等のアレルギーが申請人らに発生している。また、屋根が急勾配であるため、積
雪があるたび、申請人ら宅のガラス窓に雪の塊が落ちてくることに恐怖を感じている。こ
れらにより、申請人らは肉体的・精神的苦痛を受けたとして、被申請人に対し、損害賠償
金合計 1,200 万円の支払を求めるものです。
なお、同年 11 月 25 日、雪の落下被害については、申請を取り下げる旨の申出がありま
した(請求金額は 800 万円に縮減)
。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、1 回の審問期日を開催す
るなど、手続を進めた結果、平成 26 年 1 月 16 日、本件申請を棄却するとの裁定を行い、
本事件は終結しました。
武蔵野市における騒音・低周波音被害原因裁定申請事件
(平成24年(ゲ)第5号事件)
1
事件の概要
平成 24 年 4 月 4 日、東京都武蔵野市の住民 1 人から、医療法人を相手方(被申請人)と
して原因裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。申請人に生じている騒音被害は、被申請人の病院が排
出する屋上大型空調室外機チラー及び 3 階空調室外機から発生する低周波騒音等によるも
のである、との原因裁定を求めるものです。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、2 回の審問期日を開催す
るとともに、平成 24 年 9 月 24 日、騒音及び低周波音と騒音被害との因果関係に関する専
門的事項を調査するために必要な専門委員 1 人を選任したほか、事務局による現地調査等、
申請人本人尋問を実施するなど、手続を進めた結果、平成 26 年 1 月 28 日、本件申請を棄
却するとの裁定を行い、本事件は終結しました。
高槻市におけるエアコン室外機からの騒音・低周波音による健康被害原因裁定申請事件
(平成23年(ゲ)第5号事件)
1
事件の概要
平成 23 年 6 月 16 日、大阪府高槻市の住民 2 人から、不動産会社 1 社及び賃貸住宅所有
者 1 人を相手方(被申請人)として原因裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。申請人らが両側感音難聴を発症したほか、不眠症、長
期間の睡眠妨害による精神的・肉体的苦痛を受けたのは、被申請人らの管理・所有する賃
貸住宅に設置されたエアコン室外機から発生する騒音及び低周波によるものである、との
原因裁定を求めるものです。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、公害紛争処理法第 42 条の 27 第 2 項の規定に基づ
き、大阪府公害審査会に対して原因裁定申請の受理について意見照会を行い、受理につい
て特段の支障はないとの回答を受けたので、その後、直ちに裁定委員会を設け、2 回の現地
審問期日を開催するとともに、平成 23 年 11 月 28 日、騒音及び低周波音と健康被害との因
果関係に関する専門的事項を調査するために必要な専門委員 1 人を選任したほか、事務局
による現地調査等、申請人本人尋問を実施するなど、手続を進めた結果、平成 26 年 1 月 28
日、本件申請を一部認容するとの裁定を行い、本事件は終結しました。
裾野市における騒音による健康被害責任裁定申請事件
(平成25年(セ)第9号事件)
1
事件の概要
平成 25 年 4 月 12 日、静岡県裾野市の住民 1 人から、遊園地等運営会社を相手方(被申
請人)として責任裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。被申請人経営の遊園地等施設の設備機器から発生する
騒音・低周波音により、申請人は睡眠不足となり日常生活に支障を来しているとして、被
申請人に対し、損害賠償金日額 5,000 円の支払を求めるものです。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、1 回の審問期日を開催す
るなど、手続を進めた結果、平成 26 年 2 月 4 日、本件申請を一部却下、一部棄却するとの
裁定を行い、本事件は終結しました。
大田区における鉄道工事からの振動等による財産被害責任裁定申請事件
(平成25年(セ)第10号事件)
1
事件の概要
平成 25 年 4 月 26 日、東京都大田区の機械製造会社 1 社から、建設会社 4 社を相手方(被
申請人)として責任裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。被申請人らが行っている鉄道高架工事から発生する振
動等により、申請人事業所及び事業所備品が破損し、営業が不可能になったとして、被申
請人らに対し、連帯して、損害賠償金 8,970 万円の支払を求めるものです。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、2 回の審問期日を開催す
るなど、手続を進めた結果、平成 26 年 3 月 11 日、本件申請を棄却するとの裁定を行い、
本事件は終結しました。
福岡県寺内ダム下流域における養殖のり被害原因裁定申請事件
(平成23年(ゲ)第10号事件)
1
事件の概要
平成 23 年 12 月 20 日、福岡県朝倉市の川海苔製造販売会社 2 社から、独立行政法人水資
源機構を相手方(被申請人)として原因裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。申請人らが黄金川で養殖を行っているスイゼンジノリ
の生産量の減少及び質の悪化は、被申請人が寺内ダム建設事業によって行った工事等によ
り、河川の水量が減少したために富栄養化が進み水質が悪化したこと、水量不足を補うた
めにくみ上げられた地下水の水質が変化したことによるものである、との原因裁定を求め
るものです。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、1 回の現地審問期日を開
催するとともに、平成 24 年 6 月 25 日、寺内ダム建設工事及びその後の管理と河川の水質
悪化及び地下水の水質変化との因果関係に関する専門的事項を調査するために必要な専門
委員 1 人を選任したほか、現地調査等を実施するなど、手続を進めたが、平成 26 年 3 月
13 日、申請人らから都合により申請を取り下げる旨の申出があり、本事件は終結しました。
千葉市における地盤沈下被害原因裁定申請事件
(平成24年(ゲ)第7号事件)
1
事件の概要
平成 24 年 10 月 25 日、千葉県千葉市の住民 3 人から、千葉県を相手方(被申請人)とし
て原因裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。平成 23 年 3 月 11 日の東日本大震災の際、申請人らの
住宅は液状化被害により全壊(宅盤、住宅の陥没・傾斜)したが、この被害は、付近の住
宅よりも格段に大きかった。その理由は、千葉県企業庁が実施した公有水面埋立て後の後
養生不備(申請人らの住宅前道路下の埋立て土に軟弱部分が放置された)によるものであ
る、との原因裁定を求めるものです。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、2 回の審問期日を開催す
るとともに、平成 25 年 5 月 10 日、宅地造成後の管理と液状化との因果関係に関する専門
的事項を調査するために必要な専門委員 1 人を選任するなど、手続を進めた結果、平成 26
年 3 月 25 日、本件申請を棄却するとの裁定を行い、本事件は終結しました。
栃木県壬生町における地盤沈下被害原因裁定申請事件
(平成24年(ゲ)第8号事件)
1
事件の概要
平成 24 年 10 月 26 日、栃木県壬生町の住民 2 人から、クリーニング店経営者を相手方(被
申請人)として原因裁定を求める申請がありました。
申請の内容は以下のとおりです。申請人らの家屋及び物置に歪み、亀裂、床の傾きが生
じているのは、隣接する被申請人の経営するクリーニング店の洗濯工場が、長期にわたり
大量の地下水をくみ上げていることによって発生した地盤沈下によるものである、との原
因裁定を求めるものです。
2
事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、1 回の審問期日を開催す
るとともに、平成 25 年 7 月 22 日、地下水くみ上げが地盤に与えた影響と家屋の被害との
因果関係に関する専門的事項を調査するために必要な専門委員 1 人を選任したほか、委託
業者による現地調査を実施するなど、手続を進めた結果、平成 26 年 3 月 25 日、本件申請
を棄却するとの裁定を行い、本事件は終結した。
都道府県公害審査会の動き
公害等調整委員会事務局
受付・終結事件の概要(平成26年1月~3月)
1.受付事件
事件の表示
事
件
名
受付年月日
群馬県
平 成 26年 (調 )第 1 号 事 件
エ ア コ ン 室 外 機 及 び 冷 凍 機 等 か ら の 騒 音・低 周 波
音被害防止請求事件
平 成 26.2.19
東京都
平 成 25年 (調 )第 7 号 事 件
工場からの振動防止請求事件
平 成 25.12.25
東京都
平 成 26年 (調 )第 1 号 事 件
清掃事務所からの騒音防止請求事件
平 成 26.1.30
新潟県
平 成 26年 (調 )第 1 号 事 件
ヒ ー ト ポ ン プ 式 温 水 暖 房 機 か ら の 騒 音・低 周 波 音
被害防止請求事件
平 成 26.2.25
大阪府
平 成 26年 (調 )第 1 号 事 件
府立学校の増築工事による振動被害原状回復請求
事件
平 成 26.1.31
徳島県
平 成 26年 (調 )第 1 号 事 件
廃 棄 物 の 撤 去 及 び 再 埋 立 に 係 る 騒 音・水 質 汚 濁 等
のおそれ公害対策請求事件
平 成 26.2.28
2.終結事件
事件の表示
神奈川県
平 成 24 年 ( 調 )
第2号事件
請
求
の
概
要
終
結
の
概
要
平 成 24年 7月 30日 受 付
平 成 26年 3月 6日 調 停 成 立
被申請人の工場から継続的に発生する
騒音により平静な日常生活を送る権利
を 侵 害 さ れ て お り 、精 神 的 苦 痛 や 健 康
的 な 被 害 を 受 け て い る 。よ っ て 、被 申
請 人 は 、① 騒 音 に つ い て 地 元 市 の 定 め
る 規 制 基 準 内 に と ど ま る よ う 、防 音 壁
の設置や騒音の少ない設備への刷新
等 、有 効 な 防 音 対 策 を 講 じ る こ と 、②
操業時間を平日の午前9時から午後5
時 ま で と す る こ と 、③ 上 記 措 置 を 採 ら
な い 場 合 は 、半 年 の 猶 予 期 間 後 、工 場
を移転すること。
調 停 委 員 会 は 、10回 の 調 停 期 日 の 開 催
等 手 続 を 進 め た 結 果 、被 申 請 人 は 防 音
対 策 に 係 る 工 事 を 行 い 、平 成 26年 10月
末日までに完成させる等を内容とする
調 停 委 員 会 の提 示 した調 停 案 を当 事 者
双方が受諾し、本件は終結した。
事件の表示
神奈川県
平 成 25年 (調 )
第2号事件
請
求
の
概
要
終
結
の
概
要
平 成 25年 10月 29日 受 付
平 成 26年 1月 14日 調 停 打 切 り
被 申 請 人 は 、毎 年 12月 に 、防 音 設 備 が
整 え ら れ て い な い ホ ー ル で 、ロ ッ ク コ
ン サ ー ト を 開 催 さ せ て い る 。平 成 22年
ま で は 、公 演 1 回 当 た り の 集 客 人 数 1
万人以下、公演日数5日間だったが、
平 成 23年 か ら 集 客 人 数 が 拡 大 さ れ 、平
成 24年 に は 1 万 8 千 人 、公 演 日 数 も 10
日 間 に 増 や さ れ た 。公 演 で は 、重 低 音
を発生させるスピーカー(ウーハー)
を使用しているため、申請人宅では、
窓 を 閉 め 切 っ た 状 態 で も 、地 雷 が 遠 く
で爆発しているような重低音の騒音に
加 え 、部 屋 の 窓 ガ ラ ス が 振 動 し 続 け る
状 態 が 生 じ て お り 、申 請 人 と そ の 家 族
は 、不 快 感 等 に よ る 生 活 妨 害 や 、耳 鳴
り 等 の 健 康 被 害 を 受 け て い る 。よ っ て 、
① 平 成 25年 開 催 分 か ら 、公 演 1 回 当 た
り の 集 客 人 数 を 平 成 22年 以 前 の 1 万 人
に 戻 す か 、ウ ー ハ ー を 使 用 さ せ な い こ
と 。② 生 活 妨 害 と 健 康 被 害 に つ い て 申
請人に謝罪すること。
調 停 委 員 会 は 、2 回 の 調 停 期 日 の 開 催
等 手 続 を 進 め た が 、合 意 が 成 立 す る 見
込 み が な い と 判 断 し 、調 停 を 打 ち 切 り 、
本件は終結した。
事件の表示
請
求
の
概
要
終
結
の
概
要
新潟県
平 成 24年 (調 )
第1号事件
平 成 24年 2月 29日 受 付
平 成 25年 12月 25日 調 停 成 立
申 請 人 ら は 、メ ッ キ 工 場 か ら の 振 動 な
ど に よ り 、安 全 で 安 心 で き る 普 通 の 日
常生活を維持することが困難であり、
健康維持や精神的な苦 痛が極限に達し
て い る 。よ っ て 、被 申 請 人 は 、① 申 請
人 らの自 治 会 区 域 内 で操 業 する同 工 場
か ら 出 る 騒 音・振 動・悪 臭 に つ い て 防
止 対 策 を 講 ず る こ と 、② 常 時 加 熱 し て
いるメッキ釜の環境汚 染防止対策 を地
域 住 民 に 説 明 す る こ と 、③ 工 場 内 の 操
業 時 間 を 午 前 8 時 30分 か ら 午 後 5 時 30
分とすること。
調 停 委 員 会 は 、9 回 の 調 停 期 日 の 開 催
等手続を進めた結果、①被申請人は、
住民から自治会公害対 策委員を通 して
工場内の状況確認に係る要請があった
場 合 、状 況 を 精 査 し て 安 全 が 確 認 さ れ
た 上 で 、被 申 請 人 の 了 解 及 び 案 内 の 下 、
自 治 会 公 害 対 策 委 員 の う ち2 ~ 3 名 程
度 を対 象 に工 場 内 の状 況 確 認 及 び説 明
を行う。また、申請人側においては、
状況確認等 を行った者 が住民にその内
容 を 伝 え る 、② 申 請 人 の 自 治 会 公 害 対
策 委 員 会 と 被 申 請 人 は 、被 申 請 人 工 場
か ら 発 生 し て い る 騒 音 、振 動 、悪 臭 等
の 防 止 に 向 け 、両 者 が 円 満 な 解 決 に 向
け た 協 議 を 行 う 場 を 年 1 回 設 け る 。な
お 、協 議 の 開 催 回 数 に つ い て は 、当 事
者間の協議により増やすことができる
ものとする、③申請人と被申請人は、
良好な近隣関係の形成に努めるととも
に 、被 申 請 人 が 公 害 防 止 対 策 を 実 施 す
る 場 合 は 、申 請 人 に 対 し て 事 前 に 説 明
の 上 、実 施 す る 、④ 被 申 請 人 は 、申 請
人 が 求 め る 要 望 等 に つ い て は 、真 摯 に
対応するよう努めることとし、特に、
申 請 人 が 求 め る 要 望 に 対 し 、実 施 で き
な い 場 合 、被 申 請 人 は 、速 や か に そ の
事由を上記 ②の協議 の場において説明
するよう努める等を内容とする調停委
員会の提示 した調停案を当事者双 方が
受諾し、本件は終結した。
長野県
平 成 25 年 ( 調 )
第1号事件
平 成 25年 6月 20日 受 付
平 成 26年 3月 10日 調 停 成 立
被 申 請 人 が申 請 人 住 居 の隣 地 で菓 子 製
造 工 場 の 操 業 を 開 始 し て 以 降 、工 場 の
ボ イ ラ ー 、ク レ ー ン 、大 型 タ ン ク 、車
両 等 か ら 発 生 す る 騒 音 、低 周 波 音 等 に
よ り 、申 請 人 は 、不 快 感 、睡 眠 不 足 等
の 被 害 を 受 け て い る 。よ っ て 、被 申 請
人 は 、申 請 人 の 要 求 す る 工 場 騒 音 防 止
対 策 及 び 危 険 防 止 対 策 を 、平 成 26年 6
月 30日 ま で に 実 施 す る こ と 。
調 停 委 員 会 は 、3 回 の 調 停 期 日 の 開 催
等手続を進めた結果、①被申請人は、
エ ア コ ン の 室 外 機 の 防 音・減 音 対 策 を 、
平 成 26年 5 月 31日 ま で に 実 施 す る 。加
え て 、給 水 ポ ン プ に つ い て 防 音 対 策 を
講 ず る 、② 被 申 請 人 は 、騒 音 規 制 法 に
基づく規制基準値を超える騒音を発生
さ せ な い よ う に し 、規 制 基 準 値 未 満 で
あっても騒音の発生を抑えるよう努力
す る 。特 に 夜 間 か ら 早 朝( 概 ね 19時 か
ら 翌 朝 8 時 )に か け て は 、騒 音 の 発 生
を 抑 え る よ う 努 力 す る 、③ 申 請 人 と 被
申 請 人 は 、今 後 円 満 な 近 隣 関 係 を 築 く
よう相互に努力する等を内容とする調
停 案 を 当 事 者 双 方 が 受 諾 し 、本 件 は 終
結した。
事件の表示
請
求
の
概
要
終
結
の
概
要
兵庫県
平 成 25 年 ( 調 )
第1号事件
平 成 25年 9月 27日 受 付
平 成 26年 3月 25日 調 停 打 切 り
マンション建設時に大量の地下水を揚
水 し た こ と に よ り 地 盤 が 沈 下 し 、申 請
人住居の台所床下に陥没やつかの浮き
が 発 生 し た た め 、今 後 地 震 等 で 倒 壊 す
る お そ れ が あ り 、生 命 を 脅 か さ れ て い
る 。よ っ て 、被 申 請 人 は 、台 所 床 下 の
現状復旧にかかる費用を支払うこと。
調 停 委 員 会 は 、2 回 の 調 停 期 日 の 開 催
等 手 続 を 進 め た が 、合 意 が 成 立 す る 見
込 み が な い と 判 断 し 、調 停 を 打 ち 切 り 、
本件は終結した。
島根県
平 成 25 年 ( 調 )
第1号事件
平 成 25年 7月 24日 受 付
平 成 26年 3月 24日 調 停 打 切 り
被申請人A社の産業廃棄物処分場は、
過 去 の管 理 者 が不 法 投 棄 した産 業 廃 棄
物 に よ り 、汚 染 物 質 が 容 易 に 流 出 し う
る状態が長期間にわたり継続していた
こ と 等 か ら 、汚 染 物 質 が 流 出 し 、周 辺
環 境 を 汚 染 す る お そ れ が あ る 。よ っ て 、
被 申 請 人 ら は 、① ラ ム サ ー ル 条 約 に 基
づく環 境 アセスメントを実 施 すること、
②環境アセスメントが完了するまでの
間 、本 件 処 分 場 の 営 業 許 可 を 与 え な い
こ と 、ま た 、本 件 処 分 場 で の 処 分 業 を
中 止 す る こ と 、③ 申 請 人 に 対 し て 、本
件 処 分 場 の 設 置 計 画 、過 去 に 不 法 投 棄
さ れ た 産 業 廃 棄 物 の 処 分 状 況 、周 辺 環
境への影響等について説明すること、
④上記③について申請人の承諾を得る
ま で の 間 、本 件 処 分 場 で の 管 理 型 産 業
廃 棄 物 等 の 受 け 入 れ 、搬 入 、埋 め 立 て
等 一 切 の 処 分 業 を 中 止 す る こ と 、⑤ 本
件 処 分 場 敷 地 内 に不 法 投 棄 された産 業
廃 棄 物 を 適 正 に 処 理 し 、周 辺 環 境 へ の
影響が生じないよう適切な処置を施す
こと。
調 停 委 員 会 は 、2 回 の 調 停 期 日 の 開 催
等 手 続 を 進 め た が 、合 意 が 成 立 す る 見
込 み が な い と 判 断 し 、調 停 を 打 ち 切 り 、
本件は終結した。
( 注 ) 上 記 の 表 は 、 原 則 と し て 平 成 26 年 1 月 1 日 か ら 平 成 26 年 3 月 31 日 ま で に 各 都 道 府 県 公 害 審 査 会 等 か ら
当委員会に報告があったものを掲載しています。
シリーズ「振動に関わる苦情への対応」
-第 5 回 建設作業振動-
一般社団法人 日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所
1
佐
野
昌
伴
はじめに
公害振動には、工場、建設作業、道路交通、鉄道等から発生する振動がありますが、建設
作業振動は、建設機械の稼働状況、施工・使用方法、土質条件等の諸条件の違いから、他の
公害振動に比べて、振動の発生や伝搬のメカニズムが非常に複雑です。
このため、建設作業における振動対策は、騒音対策に比べて技術的対応が難しく、苦情件
数も多い傾向にあります。建設作業が始まると、近隣住民は通常の生活では感じない振動を
感じることがありますが、この振動が大きくなると「恐怖感」に繋がり、騒音のような「不
快感」とは異なった苦情原因となります。
この現状を踏まえ、建設作業振動の特性をご理解いただき、今後の振動対策への活用や、
建設工事への理解を少しでも深めていただければ幸いです。
2
建設作業振動の一般的特徴
(1) 公害振動
一般論として、公害振動には以下のような特徴があります[1]。
1) 公害振動は、例外を除くと多くは振動源から 10~20m 程度の距離で発生しています。
2) 公害振動の主な被害は、地域住民の心理的・感覚的な被害であり、物的影響や振動自体
が直接人体に影響を及ぼす事例は少ないです。
3) 多くの場合は、公害振動単体ではなく、騒音を伴います。
4) 地表面における振動レベルは、水平振動よりも鉛直振動の方が大きく、周波数範囲は 1
~90Hz の範囲にあります。
(2) 建設作業振動
上記の公害振動の特徴に加えて、建設作業振動には以下の特徴が見られます。
1) 多くは短期的で一過性なものですが、場所の代替性がなく、エネルギーが大きく、集中
的かつ衝撃的です。
2) 心理的・感覚的影響が主であり、一部に物的被害を生じる事例があります。
3) 建設作業振動は、施工方法や建設機械の種類によって大きさが異なるだけでなく、その
作業状況や施工条件等によっても大きく変動します。
3
建設作業振動の苦情
3.1
苦情件数の推移
環境省が毎年実施している振動規制法施行状況調査結果をもとに、建設作業振動に着目し
た過去 10 年間の苦情件数と全苦情件数に占める建設作業振動の割合を図 3-1 に示します。
苦情件数は、平成 18 年度までは増加傾向でしたが、それ以降は3年連続で減少に転じ、
平成 21 年度は平成 15 年度以前の件数と同程度になっています。しかし、近年は3年連続で
増加傾向にあり、建設作業振動の苦情割合も 60%前後の横這いから右肩上昇の傾向が見ら
れ、公害振動の中で最重要視すべき項目となっています。
なお建設投資額は、平成 8 年度以降、右肩下がりの減少傾向が続いており、平成 23 年度
の建設投資はピークだった平成 4 年度の 84 兆円に対して約 50%に落ち込んでいますが、建
設作業振動の苦情件数は、その傾向とは一致していません。
100
苦情件数
割合
2,184 2,273 2,092
1,932
苦情件数(件)
2,500
2,000
1,500
2,046
80
1,805
1,774
1,492
2,154
60
1,458
40
1,000
20
500
0
全苦情件数に占める割合(%)
3,000
道路交通
8%
工場・
事業場
18%
鉄道
2%
その他
6%
H24振動苦情割合
建設作業
66%
0
H15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
(年度)
図 3-1
3.2
建設作業振動に係る苦情件数の推移と全苦情件数に占める建設作業振動の割合
振動苦情の実態
環境省水・大気環境局大気生活環境室では、今後の建設作業振動の低減に役立てることを
目的に、平成 15 年度及び平成 21 年度を対象に、建設作業振動の苦情の具体的内容を調査し、
その成果を「よくわかる建設作業振動防止の手引き[2]」「地方公共団体担当者のための建設
作業振動対策の手引き[3]」として公表しています。以下は、この調査結果をもとに建設作
業振動の特徴的な事項を説明したものです[4][5]。
(1) 振動苦情の主な要因
苦情の主な要因は、図 3-2 のように振動源の「作業方法、機械運転操作上の問題」及び人
体が受ける「心理的・生理的影響」によるものが多く、建物や機械等の物的被害によるもの
は少ないです。
(2) 振動苦情の対象となる工種・機種
振動苦情の工種は、図 3-3 のように約 65%は解体工事によるもので、中でも建築解体工
が圧倒的に多いです。また苦情対象機種は、図 3-4 のように建築解体工に関わるバックホウ
(小型バックホウを含む)、ブレーカ、圧砕機が上位を占めています。ただし、アタッチメ
ントの違いだけでベースマシンは油圧ショベル(バックホウ)です。
(3) 発生源から受振点までの距離
振動源位置から振動苦情を訴える場所(受振点)までの距離は、図 3-5 のように 50m 未満
の範囲に集中していますが、100m を超える場合もあります。
敷地境界付近での振動レベル実測値は、図 3-6 のように 50dB から 70dB に集中しています
が、40dB の振動を感じないレベルでも苦情を訴える場合があります。
(4) 工事敷地境界での振動の大きさ
振動レベルの実測値は、図 3-7 のように 75dB を越えるものは僅かに2件(約 2.5%)で、
振動規制法の特定建設作業に関する規制基準値 75dB 以下の振動レベルでも苦情を訴える場
合が非常に多いことを示しています。また、人体の振動感覚閾値は 10%の人が感じる振動
レベル値で約 55dB とされており、この値の前後から苦情件数も増加しています。
(5) 振動被害の種類
具体的な建物被害は、図 3-8 のように「内外壁等のひび割れ」「建物・柱の傾き」の訴え
があり、これらは敷地境界付近での振動レベルが 50dB 以上です。
0
50
100
150
200
250
事前説明の不足
29
苦情申立者の建物の構造上の問題
29
13
1
71
0
河川工事
4
0
電気・ガス・上下水道工事
3
0
その他
1
50
100
150
21
79
6
アースオーガ
6
0
アースドリル掘削機
3
140
116
20m以上50m未満
100m以上
39
18
49
不明
25
複数回答可,総数H15:925件
図 3-5
16
6
振動源から受振点までの距離
14
総数H15:78 件
11
80
1.かなり感じる
敷地境界付近での実測値(dB)
11
17
バイブロハンマ
9
コンクリートポンプ車
5
2
20
タンパおよびランマ、振動コンパ… 04
4
0
56
57
2.感じる
70
3.感じない
60
50
40
30
1
苦情対象機種
10
100
1000
振動源から受振点までの距離(m)
複数回答可,総数 H15:925件
H21:456件
図 3-4
200
178
25
クレーン(クローラクレーン、ホイールクレーン、ト… 59
その他
150
16
ロングブーム圧砕機
トラックミキサ
100
10m以上20m未満
145
31
19
1
50
0m以上10m未満
50m以上100m未満
ダンプトラック
トラクタショベル
0
350
325
苦情対象工種
50
3
ハンドブレーカ・削孔機
ブルドーザ
300
169
56
圧砕機
空気圧縮機
250
400
377
57
図 3-3
176
ブレーカ(ハンドブレーカを除く)
つかみ機(フォークグラブ)
200
350
複数回答可,総数H15:557件
H21:385件
振動苦情の主な要因
0
300
8
鉄道工事
30
32
バックホウ、小型バックホウ
250
11
7
道路工事
複数回答可,総数H15:965件
H21:671件
図 3-2
200
111
80
22
129
7
6
150
240
建築工事
11
その他
100
解体工事
宅地造成工事
17
建物等物的被害
50
177
54
感情的問題
商店などへの営業妨害
0
254
241
心理的・生理的影響
精密機械、印刷機械等への影響
300
257
278
作業方法、機械運転操作上の問題
図 3-6
振動源から受振点までの距離と実測値
複数回答可,総数H15:147 件
80
1.かなり感じる
0
5
10
15
2.感じる
20
3.感じない
75dB超
2
70
70-75dB
65-70dB
18
60-65dB
16
55-60dB
20
50-55dB
11
45-50dB
6
45dB以下
敷地境界付近での実測値(dB)
5
60
50
3
総数H15:81箇所
図 3-7
40
敷地境界付近での実測値
30
内外壁等の
ひび割れ
健康
感覚的・
心理的
建物や建具の
揺れ・ガタツキ
図 3-8
4
睡眠妨害
建物・柱
の傾き
その他
テレビ画面
の乱れ
振動の感じ方と実測値
建設作業振動の評価
4.1
振動評価に関わる各種要因
受振点における振動影響の評価は、表 4-1 のように振動源、伝搬経路、受振点における各
種要因を総合的に考慮した上で判断する必要があります[1][6]。個人や工事の属性など、現
実的には把握できにくい要因も含まれます。
また、振動ピックアップの設置方法や、データの整理方法によっても評価が異なることが
あります。例えば、草地や柔らかい地面の場合は、振動ピックアップの重量と接地の間に一
つの振動系が構成されて設置共振を起こし、本来の振動以上に増幅されることがあります。
建設作業振動の予測や対策が難しいのは、このような多くの要因をすべて考慮する必要が
あることです。さらに、地盤振動が家屋の壁や窓を揺らし、固体伝搬音を発生させる事例が
あり、騒音苦情の原因が地盤振動である事例もあります。
表 4-1
振動源の要因
・ 建 設 機 械 (機種,質量,台
数,組合せ等)
・ 作 業 内容 (定 置 ・ 移 動 , 速
度等)
・作業時間(発生頻度)
・スペクトル特性
・作業場所の剛性,地盤の
状態(不陸等)
振動評価に関わる各種要因
伝搬経路の要因
・距離(幾何減衰)
・地盤条件(内部減衰)
・土質の層構造
・溝や埋設物等
受振点の要因
・ 家 屋 (住 宅 構 造 , 築 年 数 , 居
住階)等の振動増幅量
・ 個 人 の 属 性 (年 齢 , 性 別 , 性
格等)
・ 工 事 の 属 性 (公 共 性 , 利 害 関
係)
・暗振動(他の振動源の影響)
4.2
振動の発生形態
(1) 振動の時間変動特性
建設工事の振動測定要領(案)では、JIS Z 8735-1981(振動レベル測定方法)等を踏まえ 、
建設作業振動を以下のように分類しています[7][8]。
① 定常振動:レベル変化が小さく、ほぼ一定とみなされる振動
② 変動振動:時間的にレベルが不規則かつ大幅に変動する振動
③ 間欠的振動:間欠的に発生し、継続時間が数秒以上の振動
図 4-1 は、バックホウの履帯端部から5m 離れた地点において、数種類の運転条件のもと
で発生する振動レベルを測定した結果です[1]。振動レベル波形のうち、「定常振動」はア
イドリングの状態(定置型・静的運転状態)、「変動振動」は掘削-右 90°旋回-排土-
左 90°旋回の繰り返し作業(定置型・動的運転状態)、「間欠的振動」は前進-後進の繰
り返し作業(移動型・動的運転状態)、「衝撃振動」(間欠的振動に含まれる。)はバケッ
トによる地盤の打撃作業(定置
80
型 ・動的運転状態)です。
75
変動振動
衝撃振動
※ 測定距離は,バックホウの
履帯端部から5m地点である。
間欠的振動
よ り振動の種類が異なるように、
65
同 じ工種でも施工サイクル(作業
60
内 容)が変わると振動の時間変動
特 性は異なります。
測定した振動の大きさを、振動
振動レベル (dB)
同じ使用機械でも、作業内容に
70
55
50
45
規 制法の特定建設作業に関する規
40
制 基準値と対比して評価するよう
35
な 場合は、観測した振動が前掲の
30
ど の種類に該当するかを判断して
読 み取る必要があります。
定常振動
0
図 4-1
5
10
15
時間(s)
20
25
30
建設作業振動の種類(振動レベル変動例)
(2) 主たる工種と使用機械
建設作業振動は、表 4-2 のように施工方法(工種)、使用機械(機種)、ユニット(作業
単位を考慮した建設機械の組合せ)によって発生状況が変わります。ゴシック体は一般的に
振動発生量が大きい機種又は作業内容を示しています[1]。
建設工事は、さまざまな工種から構成され、その工種では複数の機械が使用されます。建
設機械は、周辺の環境条件等を考慮して、現場に適合したものを選定しますが、その振動の
種類や大きさなどの特性が変わるので、選定には留意が必要です。
なお、表 4-2 は道路環境影響評価の技術手法[9]のユニット別基準点振動レベル(原単位)
を参考に作成していますが、基準点振動レベル等を算出した実際の測定内容とは異なる点が
あるので注意が必要です。ここでは数値を示しませんが、基準点振動レベルはユニットの稼
働位置から5m 離れた地点を基準点として振動レベルを設定したものです。
表 4-2
工
種
細
別
主たる工種と使用機械の一覧
主な使用機械名(機種名)
ブルドーザ
土工
掘削工事
バックホウ(ブレーカ含)
クラムシェル
クローラドリル
土工
盛 土 工 事 ( 路 体 、 ブルドーザ
路床)
タイヤローラ、振動ローラ
モータグレーダ、ブルドーザ
土工
共通工
共通工
路 床 安 定 処 理 工 スタビライザ、バックホウ
事
トラッククレーン
サンドマット工事
主たる作業
掘削押土
打撃、掘削、積込
削孔
掘削押土
締固め
敷均し
混合
固化材散布
タイヤローラ
締固め
ブルドーザ[湿地]
敷均し
クローラ式サンドパイル打機
打設
バーチカルドレーン トラクタショベル
工 事 、締 固 改 良 工
空気圧縮機
事
砂投入、運搬
発動発電機
共通工
固結工事
ボーリングマシン
削孔
粉体噴射攪拌機
打設
超高圧・薬液注入ポンプ
噴射
空気圧縮機
発動発電機
共通工
基礎工
法面吹付工事
既製杭工事
吹き付け機
吹付
空気圧縮機
クローラ式杭打機
打撃(打込み)
アースオーガ中堀機
掘削・打撃
ホイールクレーン、クローラクレーン
吊込み、吊上げ
空気圧縮機
発動発電機
電気溶接機
基礎工
鋼 管 矢 板 基 礎 工 クローラ式杭打機
事
クローラクレーン
矢板打込み
吊上げ
オールケーシング掘削機
基礎工
場所打杭工事
リバースサーキュレーションドリル
掘削、土砂搬出
クローラ式アースオーガ
ダウンザホールハンマ
掘削・打撃
工
種
土留・仮締切工
細
別
土留・仮締切工事
主な使用機械名(機種名)
主たる作業
クローラクレーン
吊込み
バックホウ
掘削土処理
バイブロハンマ
矢板打込み
クローラクレーン、ホイールクレーン
吊上げ
油圧式杭圧入引抜機
圧入、引抜き
ウォータージェット
基礎工
共通工
オ ー プ ン ケ ー ソ ン クラムシェル
工事
クローラクレーン
地中連続壁工事
掘削、積込
吊上げ
掘削機(壁式、柱列式)
掘削
クローラクレーン
吊上げ
土砂分離機
橋梁
架設工事
クローラクレーン
構造物取り壊し工
構 造 物 取 り 壊 し 工 バックホウ(ブレーカ、砕 機 含 )、自 走 式
打撃、掘削、積込
事・旧橋撤去工事 破砕機
モータグレーダ、ブルドーザ
舗装工
舗装工事
アスファルト・コンクリートフィニッシャ
コンクリートスプレッダ
吊上げ
敷均し(路盤材)
敷均し(舗設)
タイヤローラ、ロードローラ、振動ローラ 締固め
運搬工
建築工
現場内運搬作業
ダンプトラック
運搬
建築解体工事
バックホウ、ブレーカ、圧 砕 機 、つかみ
機 (フォークグラブ)、ハンドブレーカ、
解 体 、コンクリート構
削 孔 機 、ダンプトラック、ブルドーザ、ト
造物撤去、整地
ラ ク タシ ョ ベ ル 、 空 気 圧 縮 機 、 発 動 発
電機、ホイールクレーン
※ ゴシック体は一般的に振動発生量が大きい機種又は作業を示しています。
5
市街地で問題となりやすい工種・機種
前掲の図 3-3、図 3-4 の件数が上位にある工種・機種を中心に説明します[3][5]。
5.1
建築解体工事
建築解体工事は、建築物の基礎、柱、壁、床板、屋根等を解体する作業です。
一般的に使用される機種には、バックホウ、ブレーカ、圧砕機、つかみ機(フォークグラ
ブ)、ハンドブレーカ、削孔機、ダンプトラック、ブルドーザ、トラクタショベル、空気圧
縮機、発動発電機、ホイールクレーンが挙げられます。
このうち、バックホウ、ブレーカ、圧砕機、つかみ機(フォークグラブ)は、図 5-1 のよ
うにすべてバックホウをベースマシンとし、アタッチメントの違いにより機種名が変わりま
す。建設作業に係る苦情は、工種では建築解体工が圧倒的に多く、機種ではバックホウ、ブ
レーカ、圧砕機が上位を占めているので、最も振動対策に重点を置く必要があります。
特に油圧ブレーカは、ロッド(チゼル、ノミ)をピストン(ハンマ)で打撃し、その打撃
エネルギーを利用してコンクリート構造物などを破砕するので、一般的には大きな地盤振動
を発生します。ブレーカ工法の地盤振動対策には、圧砕工法、ワイヤソーイング工法、カッ
ター工法、油圧孔拡大工法などの工法を用いることがあります。
木造住宅の施工では、準備作業として、作業スペース・搬入路確保、足場設置・養生シー
ト掛け・仮囲いを行った後に、解体作業として、住宅設備類撤去、内装材撤去、内・外部建
具撤去、ベランダ等撤去、屋根材撤去、外装材・建物本体解体、足場・仮囲い・養生シート
撤去、基礎・土間コンクリート撤去、地中構造物・基礎ぐい撤去、整地、清掃作業の順に作
業を行います。
この作業では、外装材・建築物本体解体、基礎・土間コンクリート撤去、地中構造物・基
礎ぐい撤去、整地の際に大きな振動を発生します。特に、解体廃棄物を高所から落下させる
と極めて大きな振動を発生します。近隣に住宅がある事例が多く、振動源と受振点との伝搬
距離が短いため、振動の発生量が小さくても振動苦情の原因になる場合があります。このた
め、工事現場では周辺環境を十分に考慮して、適切な工法を選定する必要があります。
図 5-1
5.2
ベースマシンとアタッチメントの違い
図 5-2
施工状況の全景
構造物取り壊し工事(ハンドブレーカ)
構造物取り壊し工事(ハンドブレーカ)は、ハンドブレ
ーカなどを使用して外部からの機械的打撃で破砕を行う工
法です。一般的に使用される機種には、ハンドブレーカ、
削岩機(エアードリル)、エアーカッター、コンプレッサ
ー、ダンプトラック、バックホウが挙げられます。ハンド
ブレーカは、一般に本体質量が 40kg 前後までの手作業で
扱うことができる小型のものが対象となります。
施工は、取り壊し作業、コンクリート殻の整理、コンク
リート殻の積込みを1サイクルとして、位置を変えて繰り
図 5-3
構造物の取り壊し作業
返し作業を行います。この作業は、取り壊し作業の際にハンドブレーカや削岩機等の機械的
打撃により破砕するため振動が発生します。建築解体工事と同様に、近隣に住宅がある事例
が多いため、振動苦情の原因になることがあります。
5.3
構造物取り壊し工事(圧砕機)
構造物取り壊し工事(圧砕機)は、コンクリート圧砕機を使用して土木構造物を取り壊す
作業する工法です。一般的に使用される機種には、コンクリート圧砕機、ダンプトラック、
バックホウが挙げられます。
施工は、取り壊し作業、コンクリート殻の整理、コンクリート殻の積込みを1サイクルと
して、位置を変えて繰り返し作業を行います。この作業では、取り壊し作業の際にコンクリ
ート圧砕機が油圧で作動する爪形の刃先で鉄筋コンクリート等の土木構造物を噛み砕くため、
破砕されたコンクリート殻が落下した時に振動を発生します。現場周辺住宅への環境影響が
予想される場合は、現場で排出されたコンクリート塊等を、住宅等への振動影響のない場所
に運搬して破砕する方法も考えられます。
図 5-4
5.4
コンクリート圧砕機による桁破砕作業
土留・仮締切工事(超高周波バイブロハンマ工)
土留・仮締切工事(バイブロハンマ工)は、矢板を通し
て矢板に接する地盤に振動を加え、地盤に流動化または鋭
敏化現象を起こさせて鋼矢板やH形鋼の貫入を容易にする
工法です。また、超高周波による作業をすることで振動伝
搬経路での減衰を大きくするという特徴があります。一般
的に使用される機種には、ホイールクレーン、バイブロハ
ンマ(振動式杭打機)、発動発電機が挙げられます。
打込 み は 、 鋼矢 板・H 形鋼 の 吊 上 げ・建込 み 、鋼 矢 板・H
形鋼の打込みを1サイクルとして、位置を変えて繰り返し
作業 を 行 い ます 。 引 抜 きは 、 鋼 矢 板・H 形鋼 の引 抜 き 、 鋼
矢板・H形鋼の抜倒を1サイクルとします。
この 作 業 で は、 鋼 矢 板 ・H 形鋼 の 打込 み ・ 引 抜き の 際 に 、
バイ ブ ロ ハ ンマ の 強 制 振動 が 鋼 矢 板・H 形鋼 に伝 達 さ れ る
ため大きな振動が発生します。ただし、超高周波数で杭を
振動させることにより、地盤振動の内部減衰効果が期待で
き、打込み・引抜き位置から 10 数 m 以上離れた地点で減衰
効果を得ることができます。
図 5-5 バイブロハンマによる
鋼矢板吊り上げと打込み作業
5.5
場所打ち杭工事(アースオーガ工)
アースオーガ工は、アースオーガにより掘削し、モルタ
ル注入する場所打ち杭工です。一般的に使用される機種に
は、クローラ式アースオーガ(直結三点支持式)、クロー
ラクレーン、バックホウが挙げられます。
施工は、機械据付、掘削・排土、モルタル注入・オーガ引
抜き、鉄筋またはH形鋼建込みを1サイクルとして、位置
を変えて繰り返し作業を行います。
この作業では、掘削及び排土、クローラクレーンの移動
図 5-6
アースオーガ施工状況
(走行)の際に振動を発生します。近年開発された低振
動・低騒音工法の場所打ち杭工の一つには、鋼管杭の高いねじり強度を活かすために、先端
に羽根を取り付けた鋼管を回転させて地中に貫入させる先端翼付き回転圧入工法があります。
5.6
現場内運搬作業(未舗装)
現場内運搬作業(未舗装)は、ダンプトラック等による
土砂、砂利、岩石等の運搬の他、材料や建設機械等を現場
に搬入出する資機材運搬等があります。機種には、ダンプ
トラック、トレーラが挙げられます。
施工は、ダンプトラックやトレーラ等の資機材運搬車に
よる材料や建設機械等の積込み・積卸し(排土)、現場内
走行の作業を行います。
この作業では、ダンプトラックやトレーラ等の資機材運
搬車の走行時に、走行路に凹凸やひび割れなどがあるとダ
ンプトラック走行時に振動が発生しやすくなります。
図 5-7
運搬作業
走行振動は、同じ路面状態において、車両重量の増加や走行速度の上昇によって大きくな
る傾向にあります。そのため、現場内運搬作業による走行振動を低減するには、走行速度を
制限し、走行路の剛性を高め、走行路面をできるだけ平坦に整えることが重要です。
6
地盤振動の防止・軽減対策
地盤振動の防止・軽減対策の基本は、低振動工法等の「ハード対策」と住民への伝達等の
「ソフト対策」に大きく区分され、振動源、伝搬経路、受振点の振動が伝搬する過程の各段
階に分類することができます。各段階における対策の具体例を、以下に説明します[5]。
ただし受振点対策は、受振建物の防振補強や受振対象者の一時避難など実現性が低いため
省略しています。
6.1
振動源対策【ハード対策】
ハード対策は低振動工法など適応可能技術がある場合は有効ですが、騒音対策に比べて適
応可能技術が少ないことや、コストと効果のバランスを考慮して検討する必要があります。
(1) 工事用道路(現場内)の鉄板下部に発泡スチロールを設置
鉄板の下部に発泡スチロール(10cm 厚)を設置した事例では、10t ダンプトラック(土砂
積載状態)が8km/h で走行した場合に振動源から 40m 地点で5dB の低減効果が見られてい
ます。ただし、軟弱地盤のために発泡スチロール下部の地盤が不等沈下して凸凹ができるた
め、耐久性に欠ける課題が残っています。
(2) 工事用道路(現場内)の舗装、工事用車両の進入路(現場外)の修繕
工事用車両の走行に伴う振動を低減するために、工事用道路では仮舗装(簡易舗装)、工
事用車両の進入路では切削・オーバーレイを実施する事例があります。
(3) 住宅付近での小型の建設機械の採用
通常は 0.7m 3 のバックホウで掘削を行う場合に、近隣住宅等に近い箇所では 0.45m 3 、また
は 0.25m 3 の小型のバックホウを用いる事例があります。
(4) 施工方法の変更
掘削時に排出したコンクリート塊等を、住宅等への振動の影響がない場所へ運搬して粉砕
する事例や、振動を低減するために油圧ブレーカから圧砕機を用いて粉砕するなど低振動工
法を用いる事例があります。
6.2
伝搬経路対策【ハード対策】
(1) 地中連続壁・鋼矢板等の設置
地中連続壁や鋼矢板の設置は、鉛直方向の振動対策にも効果があります。地中連続壁の施
工後に、振動レベルの 80%レンジ上端値(L V10 )が 6~8dB 程度低減した事例があります。
また、比較的入手が容易で現場への適用性が高いと考えられる鋼矢板(Ⅲ型,深さ 10m)
と EPS(発泡スチロール)を用いた比較検証試験では、鋼矢板のみの振動低減量が鋼矢板か
ら 3~6m 離れた位置で 3~5dB の事例があります[10]。さらに、鋼矢板に EPS を付加するこ
とで、鋼矢板の結果に比べて 5dB の振動低減効果の向上が見られています。ただし、鋼矢板
からの距離が約 10m を超えると振動低減効果が減少するなど、限定された範囲に有効な方法
であることに注意する必要があります。
6.3
振動源対策【ソフト対策】
建設工事を円滑に進めるために、多くの現場で行われている振動対策はソフト対策になり
ます。このソフト対策を徹底することが、近隣住民の理解を得ることにも繋がります。
(1) 看板や速度警報装置による制限速度の周知
工事用車両が制限速度を超えて走行した場合に、速度警報装置により画面表示と音声でオ
ペレータに知らせる事例があります。一般道における工事用車両の走行に当たっては、沿道
住宅への振動影響を低減するため、交通誘導員の先導により時速 5 ㎞/h 程度に走行速度を
抑制する、沿道住宅への影響が予想される主要な場所に、走行速度を調査する監視員を配置
して、工事用車両の速度データを管理する事例もあります。
(2) 建設機械オペレータへの教育徹底
建設機械のオペレータに対する教育を徹底することで、建設機械の急発進、急停止、不要
な動作、及び過度の負荷を掛けることが回避され振動低減に繋がります。
(3) 振動モニタリングによる建設機械オペレータへのリアルタイムでの警告
工事内容に応じて振動モニタリングを行い、管理目標値を超える振動が発生した時には、
振動測定者が建設機械オペレータに注意を促す事例があります。
振動実験により管理目標値を、官民境界から 50m 地点の L V10 が 60dB、官民境界で L V10 が
65~68dB を設定している事例や、更に管理目標値より厳しい自主目標値(官民境界で L V10
が 60~63dB)を設定している事例もあります。
6.4
工事内容の調整【ソフト対策】
(1) 建設機械の稼動時間の抑制
工事の開始時刻の午前8時に対して建設機械の稼動時間帯を遅くする、昼休み・昼食の時
間帯(12~13 時)に建設機械の稼動を自粛する、休日には振動を伴う作業を自粛する、な
どの事例があります。
(2) コンクリート打設日の工区間の日程調整
ミキサ車を 200~250 台/日を使用するコンクリート打設では、隣接する工区のコンクリー
ト打設日が重ならないようにするため、業者間で日程調整を実施する事例があります。
6.5
住民とのコミュニケーション【ソフト対策】
(1) 掲示板及びチラシによる工事内容の周知,挨拶・見回り・訪問等による周辺住民との直
接対話
比較的大きな振動の発生が見込まれる建設作業では、事前に近隣住民に工事内容と振動発
生の可能性を直接説明することで、後で「あの作業では振動を感じた。」と住民から指摘さ
れても、苦情ではなく日常のコミュニケーションの範囲内で解決した事例があります。
(2) 工事説明会や工事見学会の実施
工事見学会、音楽会の開催、建設機械試乗体験などのイベントを通じて工事現場をオープ
ンにすることで、住民との良好なコミュニケーションを築くことも重要です。
【参考文献】
[1] 佐野昌伴 : 建設作業振動の特性,騒音制御,Vol.35,No.2,pp.128-133(2011).
[2] 環境省環境管理局大気生活環境室 : よくわかる建設作業振動防止の手引き,
http://www.env.go.jp/air/sindo/const_guide/,(2004).
[3] 環境省水・大気環境局大気生活環境室 : 地方公共団体担当者のための建設作業振動対策
の手引き,http://www.env.go.jp/air/sindo/const_guide/lg.html,(2012).
[4] 飯盛洋,佐野昌伴 : 建設作業振動の苦情実態,(社)日本音響学会騒音・振動研究会資
料,N-2005-11(2005).
[5] (公社)日本騒音制御工学会 : 平成 23 年度建設作業振動対策に関する検討調査業務報告
書,pp.6-8,pp.42-44,pp.144-148(2012).
[6] (一社)日本建設機械施工協会 : 建設作業振動対策マニュアル,pp.71(1994).
[7] (独)土木研究所 : 建設工事の振動測定要領(案),pp.1-2(2007).
[8] (社)日本騒音制御工学会 : 振動規制の手引き,pp.172-177(2003).
[9] 国土交通省国土技術政策総合研究所 : 道路環境影響評価の技術手法(平成 24 年度版),
国土技術政策総合研究所資料,No.714,pp.6-2-20(2013).
[10] 設楽和久,佐野昌伴,谷倉泉 : 軟弱地盤上の空溝と鋼矢板による地中防振壁の振動
低減効果に関する研究,土木学会第 67 回年次学術講演会, pp.189-190(2012).
ネットワーク
水と緑と歴史のまち
わかやま市
最前線紹介
和歌山県和歌山市環境事業部環境政策課
和歌山市は、紀伊半島の北西部にあり、北はみどり豊かな和泉山脈、西は風光明媚な紀淡海峡に
面し、紀の川の河口に位置しています。古くは、万葉
人を魅了し、多くの歌に詠まれた「和歌の浦」や「名
草山」
、また、本市のシンボルである紀州徳川家の居城
であった和歌山城がまちの中心部にあり、今なお、い
にしえの風景が残るまちです。このような自然と歴史
当課(市役所)から望む和歌山城
あふれる豊かな環境を守りながらも個性ある魅力的なまちを目指し、まちづくりを行っています。
さて、まちづくりの環境分野を担う環境政策課は、14 人体制で、工場・事業場の規制や指導、住
民からの苦情や相談などに対応する環境対策班(7人)
、また環境保全を推進する政策班(5人)の
2班で環境行政に取り組んでいます。
本市の製造業は、大正時代頃から本格的に捺染や染色会社、それらの工場に染料等を供給する化
学会社が多く誕生し、今も市内各地で操業を行っています。昭和時代には、高炉を持つ製鉄所が市
内を拠点として、また、地元発祥の精密機械製造会社が誕生し、その部品類等を供給する中小の関
連工場も市内各地で操業するようになりました。以前の公害苦情と言えば、鉄鋼や化学工業などの
大規模工場に対する苦情が大半でしたが、近年では中小工場等の周辺での宅地開発に伴って、作業
音や操業音、悪臭などの住工混在型の苦情が多くなってきているのが、本市の特徴となっています。
これらの苦情の多くは、公害関係法令の規制対象外の工場あるいは物質であることも多く、その対
応に苦慮しているところです。これらの苦情については、発生源者には粘り強い指導、一方、苦情
者には丁寧な状況説明などを地道に行っていくしかなく、その解決に長時間を要しています。また、
市民の日常生活そのものが、近隣苦情の原因となる事例も増えてきているのが、最近の傾向です。
市民間で発生するこれらの苦情では、健康被害や日常生活の支障を主張されることが多く、行政に
相談すればなんとかしてくれるはずだ、原因者も行政の注意を聞き入れるはずだという思いから相
談してきます。当然、法令等の規制が適用されるわけでなく、行政がどの程度、市民間の問題に介
入するのか、また介入後、さらに関係が悪化しないか、その対応に苦慮することもしばしばです。
今後は、住工混在型苦情や近隣苦情の防止のためにも、事業者、住民双方が環境に対する意識の
高揚と環境に配慮した事業活動及び生活を心がけ、お互いにコミュニケーションをとり、何か問題
の起きた時には、話し合いのできる関係を築くことが大切になってきているのではないかと考えて
います。
ネットワーク
がんばってまーす
苦情対応の能力向上を目指して
山口県下関市環境政策課
氏名
技師
森井
春樹
下関市は、平成 17 年に下関市と豊浦郡の菊川町、豊田町、豊浦町、豊北町の1市4町が合併して
中核市となり、今年で合併 10 周年を迎えます。人口は約 30 万人で、面積は 716.17km2 で山口県で
は山口市、岩国市についで3番目に広い都市です。本市は本州と九州及び大陸との接点でもある地
理的条件から、内外の交通の要衝として古くから栄え、商工業、港湾、農業、水産観光都市として
の諸性格を持つ山口県最大の都市となりました。また、本州の西端部に位置し、日本海、瀬戸内海
に面し三方が海に開かれており、市北部は映画やドラマのロケ地などにも選ばれる豊かな景観の角
島があります。土地利用では山林が最も広く、市東部にはゲンジボタル発生地の木屋川が流れてお
り、毎年ホタルが見ごろを迎える時期に、船上からホタルを眺めながら川下りをするホタル舟が運
行しています。名産品にはふく(ふぐ)
、クジラ、瓦そばなどがありますので、お立ち寄りの際は是
非ご賞味ください。
私の所属する環境政策課では公害苦情相談員を4名配置し業務にあたっています。年間の公害苦
情の受付件数は 80 件程度です。私が公害苦情の担当をする前は、温暖化対策関係を担当しており苦
情とは無縁の世界、その前は民間企業(製造業)で品質保証をしておりクレーム対応をしていまし
た。日々クレームと向き合うのは精神的にきついものですが、中には思わず笑ってしまうような突
拍子もない製品の返品も稀にあり、そんなときは気持ちが和む瞬間でもありました。公害苦情の担
当を命じられたとき、
「誰かに電磁波で攻撃されている」などの変わった苦情もあると教わっており、
クレームと苦情の性質は異なりますが、どんな苦情に巡り合うのかある意味楽しみにこの業務に取
り掛かりました。
そんな中、とうとう私にもそのような苦情が寄せられました。申立人は低周波で人を攻撃するこ
とはできるのか、もしかしたら低周波で攻撃されているのかもしれないがそんなことはあるのか、
どうやったら防げるのか、という苦情(相談)でした。その方は某テレビドラマで、音波(ドラマ
では高周波)で人を攻撃しているシーンを見て、自分にも当てはまることがあるから気になったそ
うです。
本市で受け付ける公害苦情は、上記のような案件は稀ですが 50%以上を騒音振動・悪臭などの感
覚公害が占めています。感覚公害に対応する際に感じることは、現場で第3者の立場からみると大
した被害の確認はできないが本人は大変困っているということで、申立人が感じていることに共感
できないことです。
上記案件も、普通は到底共感できるものではないと思いますが、たまたま私は同じ番組を見てい
たため、その方の話が何となく分かりました。このときの申立人は安心して帰られたようですが、
この際に私がそのドラマを見ていて、その話に沿った説明をしたことが申立人の満足感につながっ
たのではないかと思う一件でした。
苦情発生時には現場・現実・現物の確認の3現主義が重要だと思いますが、それでも分からない
申立人の感情的なものがあります。そこはどれだけ現場を入念に確認しても知りうることはできな
いと思います。先日も隣の空地に雑草が繁茂して虫やら火事が怖いやらでどうにかしてほしいとい
う苦情が寄せられました。市としてできることはやり、それでも解決には向かわなかったことを説
明していた際に言われたのが、
「あなたはここに住んでないからそんなことが言える」でした。確か
にそこに住んでないので、どれほど申立人が困っているのか想像もつきません。こればかりは申立
人宅に住むわけにもいかず、感情的に怒っている申立人を理解できないことには、納得させること
は難しいと感じました。
ただ、業務上では理解できなくとも、日常生活での気づきで申立人の心理を理解する機会は、上
記のドラマのようにあるのではないかと思いました。ささいなことでも、誰かが苦情を申立てるか
もしれないと日頃から意識し疑似的に体験してみることで、解決につながる案件もあるのではない
かと思い、私自身プライベートでもそのような場所に足を踏み入れ、スキル向上に努めていきたい
と思っています。
角島大橋
ネットワーク
がんばってまーす
市の仕事とは?・・・・
佐賀市環境部環境保全課
副課長兼環境保全係長
で
み
出見
秀人
本文
佐賀市は、九州の北部に位置する佐賀県の県庁所在都市です。タレントの「はなわ」さんによる
「佐賀県」がヒットし、佐賀県にもスポットライトがあたり、少しは知名度が上がったのではない
かと思っています。
市域は南北約 40km、東西 25km で、面積は 430km2 で、人口は約 24 万人です。年間の平均気温
は 16 度、年間の降水量は 1900mm、美しい自然と、歴史の面影の残るまちです。
市の北部には、山麓や清流の美しい景観に加え、肌触りが柔らかで、美白・美肌によいと評判の
温泉地があり、中心部は、城下町として長い歴史を持ち、いまでも市の中心部には古い建物が多く
残っています。
南部は干満の差が8m もあり、日本一といわれる有明海など素晴らしい環境に恵まれています。
その有明海の恵まれた自然環境と、高度な技術で育てられた佐賀のりは磯の風味、香ばしく甘みを
含んだ独特のうまみがあり、品質と生産高で日本一を誇っています。
佐賀は、明治維新の 1868 年から始まった日本の近代化において、最先端の科学技術を持ち、日
本の製鉄所の基礎を作ったのも佐賀の技術力でした。また、日本海軍発祥の地が、佐賀市の三重津
です。現在、三重津海軍所跡を「九州・山口の近代化産業遺産群」として世界遺産登録を目指して
います。
また、本市における観光のメインは、毎年秋に開催さ
れる「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」です。
1980 年から始まったバルーンフェスタは、アジアでは最
大級の熱気球大会であり、世界中から多くのバルーニス
トが参加しています。2016 年世界選手権の開催地に選ば
れており、これまで以上に「バルーンのまち・さが」を
全国的に PR し、情報発信に努めていきます。
ぜひ、佐賀においでいただき、
「さがのおもてなし」を
ご堪能ください。
優雅に飛び立つ「バルーン」
さて、佐賀市は平成 26 年4月1日に特例市に移行しました。移行に伴い、これまで佐賀県が実施
していた環境保全に関する事務が移譲されることとなりました。
私が所属する環境保全課は特例市移行に伴い新設された部署で、環境保全係は、特例市として権
限移譲された事務――大気汚染防止法(一般粉じん関係)
、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法、特定
工場における公害防止組織の整備に関する法律に基づく事務――のほかに、これまで市が所管して
いた騒音・振動、悪臭に関する事務を担当しており、私を含めて総勢6名でがんばっています。
特に、今年度から移譲された事務は、係員全員が受付の仕方もわからない状況で、佐賀県環境課
や佐賀中部保健福祉事務所へ、その都度、電話で確認しながらの作業となっています。
そのような中において、県職員の皆さんには丁寧にご教示いただき本当に感謝しています。
実は私も、公害関係業務を担当するのは初めてで、係員への指導なんて「とんでもない」状況で
す。この場合の対応はどのようにすればいいのか、係員全員で話し合いながら、また試行錯誤しな
がら対応しているところです。いつになればスムーズな対応ができるのか、不安でいっぱいの毎日
を過ごしています。
このような不安な中においても、苦情の電話がひっきりなしに掛かってきます。その内容のほと
んどは環境法令の対象とならないものですが、公害と称した隣近所とのトラブルまで市役所に電話
が掛かってくるのが実情です。
先日私が対応した苦情は、
「隣の家が解体されている。ほこりが飛んでくる。どうにかならないか。
」
というものでした。
解体しているのですから、当然ほこりも舞います。解体期間も長期に及ぶものではないことは察
しがつくと思われます。そして何より、ほこりがひどければ、解体している業者に、少し配慮して
工事をしてくれるよう依頼すればいいことだと思います。
このケースでは、解体作業とのことでしたので、騒音・振動に係る特定建設作業に伴う規制を視
野に、作業機械等の確認に出向きました。法規制対象外の作業等であったため、近隣への配慮をし
て作業を実施するよう依頼をしましたが、業者と近隣住民がお互いにちょっとした声掛けをするこ
とで解決する内容のことを、市が行う必要があるのか疑問を感じた事案でした。
市民の要求は、市が本当に対応しなければならないもの以外にも及んでいます。
「税金をおさめて
いるから、市がどうにかするのが当たり前」との考えを持つ人がいることも事実です。
ただ、苦情処理は初期始動が肝心だと思っています。それを誤ると、苦情が長期化するケースも
考えられます。市が本当に積極的に対応しなければならない案件なのか、線引きが難しい部分があ
りますが、対応を間違えないように研鑽していきたいと考えています。
これから、どんな苦情が襲ってくるのか、また適切に対応できるのか、戦々恐々としていますが、
この「ちょうせい」の事例等を参考にして日々努力していきたいと思います。
最近の公害裁判例
第 16 回
高層マンションの建築による風害を受けたことを理由とする損害
賠償請求及び防風フェンスの設置請求がいずれも棄却された事例
公害等調整委員会事務局
平成24年10月19日大阪地方裁判所判決
(判例時報2201号90頁)
【事案の概要】
1 (1) 原告会社は和洋菓子の製造販売等を営む会社であり、原告甲は原告会社の代表取締
役である。
被告会社は本件マンションの建築主及び工事施工者であり、被告組合は本件マンシ
ョンの管理組合である。
本件マンションは、原告会社の営む店舗(以下「本件店舗」という。)南側を東西
方 向 に 走 る 道 路 を 挟 ん で 、 同 店 舗 と 向 か い 合 う 形 で 建 築 さ れ 、 本 件 店 舗 側 は 11階 建
て、南側は8階建ての建物(高さ最高約33メートル)である。
(2) 本件は、原告らが、被告会社が本件マンションを建築したことにより、本件店舗に
強風が吹き込むようになるなど風環境が悪化し、社会通念上受忍することを相当とす
る限度を超える被害(原告会社において財産的被害、原告甲において精神的被害)を
被ったなどと主張し、被告らに対し、①原告甲において、人格権に基づき防風フェン
ス の 設 置 、 及 び 民 法 709条 ( 被 告 会 社 に つ い て ) な い し 同 717条 1 項 ( 被 告 組 合 に つ
いて)に基づき損害金等(同フェンスが設置されるまでの間の将来分の損害金を含む )
の 支 払 、 ② 原 告 会 社 に お い て 、 民 法 709条 ( 被 告 会 社 に つ い て ) な い し 同 717条 1 項
(被告組合について)に基づき損害金等(同フェンスが設置されるまでの間の将来分
の損害金を含む)の支払を求めた事案である。
(3) 本件の争点は複数にわたるが、以下では、本件マンションの建築により風環境が悪
化し、原告らに受忍限度を超えた被害が発生したか否かという争点に関する本判決の
判断を中心に紹介することとしたい。
【裁判所の判断】
1
本判決は、以下の理由から、本件マンションの建築により風環境が悪化し原告らの
受忍限度を超える被害が発生したと認めるに足りる証拠がなく、仮に、受忍限度を超
える被害が発生したとしても、被告会社に過失があるものとは認められないなどと判
断して、原告らの請求をいずれも棄却した。
2
受忍限度を超えた権利侵害の有無について
(1) 原告らが、本件マンション建築による風環境の悪化を裏付ける証拠等として提出し
た、①原告会社の従業員らの陳述書や本件店舗周辺の住民らによるアンケートの回答、
②マンション建築後の本件店舗付近を撮影した映像記録、③マンション建築前後で本
件店舗付近の風速比が変化した旨を示すコンピュータシミュレーションによる解析結
果について、以下のとおり、これらの証拠をもって、受忍限度を超える程度に風環境
が悪化したことまでは直ちに認め難い。
(2) ①(陳述書等)及び②(映像記録)について
ア
①や②の各証拠によれば、本件店舗及びその周辺で、かなり強い風が吹いている
ことがうかがわれ、本件店舗やその周辺の関係者が、風環境の悪化を感じているこ
とは否定できない。
しかしながら、本件マンションの建築前後に、専門家により風速等の実測がされ
たことはなく、客観的な風速、風向や強風の持続時間、頻度等が明らかでないこと、
陳述書等において強風時に生じうる不便や被害の頻度等までは明らかにされていな
い上、本件マンションの建築前後で風環境に変化はない旨の同マンション住人らの
証言等があることにも照らすと、①や②の証拠から直ちに、受忍限度を超えるほど
の風環境の悪化が生じていることや、それが本件マンション建築後に初めて生じる
ようになったことまでは認め難い。
なお、本件店舗周辺をも観測区域とする気象台の気象データによると、本件店舗
周辺の関係者が訴える風環境の悪化は、本件マンションの建築自体により生じたと
いうよりも、地域一帯の気象条件の経年変化に大きな影響を受けて生じた可能性も
強い。
イ
また、本件店舗の被害状況等を説明する原告甲本人の供述についても、本件店舗
の風環境の悪化への対応策として、7年もの間、被害防止に十分な効果が認めら
れなかったという防風テントの設置以外に具体的な対策を講じていなかったこと
からすると、その被害頻度等に関する供述内容は誇張されている可能性も否定で
きず、直ちに採用することができないものといわざるを得ない。
(3) ③ ( 見 解 書 等 ) に つ い て
③の各証拠は、一定の乱流モデルを用いて、コンピュータシミュレーションによ
り、風速の変化を予測し、建物建築前後の風速比等を算定、報告するものである。
本件店舗のように周辺に種々の建築物が存在する場合には、付近の建築物の影響
を受けて風は複雑な変化をするといわれており、予測された風速の正確性には、一
定の留保を付さざるを得ないこと、本件マンションを含む周囲の建築物の状況が必
ずしも正確に再現された上でのシミュレーションであるとはいえないこと等の事情
に照らせば、③(見解書等)の結果には、正確性、信用性の点で疑問が残る。
(4) 以 上 の と お り 、 ① な い し ③ の 証 拠 を も っ て 、 本 件 マ ン シ ョ ン の 風 環 境 の 悪 化 に よ る
受忍限度を超えた被害の発生に係る原告らの主張は認められず、他に同主張を認め
るに足りる証拠はない。
3
仮に、本件マンションの建築により、風環境が悪化し、原告らに受忍限度を超えた
被害が発生したとしても、マンション建築前後の周辺建物等の位置関係や高さなどを
考慮すると、その主たる原因は、本件マンションが、従前当該土地に建てられていた
建築物よりも、5メートルほど境界より後退した位置に建築されたことにあるものと
推認することができる。
そうすると、マンションの高層性が風環境の悪化の直接の原因とは認められない上、
敷地内での建物の配置による風環境の悪化について社会一般に認識されているといっ
た事情はうかがわれないから、本件マンションの建築について被告会社に過失があっ
たとは認められず、本件マンションに設置又は保存の瑕疵があるものとも認められな
い。
【解説】
1
「風害」と不法行為
(1)
「 風 害 」 は 、 環 境 基 本 法 が 定 め る い わ ゆる 典 型 7 公 害 に 含 ま れ る も の で は あ り ま
せんが、高層建築物の建築により風害が発生し、住環境が侵害された場合には、い
わゆる公害 が問題とさ れる事例と 同様に、民 法709条 ( 又は717条 )に基づく 損害賠
償請求が可能であると解されています。
(2)
過 去 に 風 害 自 体 の 不 法 行 為 該 当 性 が 正 面か ら 争 わ れ た 裁 判 例 の 多 く で は 、 風 害 の
発生やその程度、建築物の建築と風害の因果関係が認められないなどとして、請求が
否定されています(大阪地裁昭和49年12月20日決定・判例時報773号113頁、大阪地
裁 昭 和 57年 9 月 24日 判 決 ・ 判 例 時 報 1063号 191頁 、 最 高 裁 第 二 小 法 廷 昭 和 59年 12月
21日判決・ 最高裁判所 裁判集民事 143号491頁 等)。その 一因として は、風の直 接の
発生原因は、気圧の変動であって、建物の状況、周辺の地理的状況や気象条件等の影
響を多分に受けるものであることから、風環境の状況を客観的な指標で示すことが難
しい上、風環境の変化が認められたとしても、その要因を建築物の建設のみに求める
ことが困難であるといった事情があるとの指摘がされています。
(3)
こ の よ う な 立 証 の 困 難 さ が あ り な が ら も、 マ ン シ ョ ン 建 築 に よ る 風 害 が 問 題 と な
った 事例 で 損害 賠償 請 求が 認容 さ れた もの と して は、 大 阪高 裁平 成 15年 10月 28日 判
決・判例時報1856号108頁があります。当該事案においては、マンション敷地内に設
置された風速・風向計により、着工前から風速等が継続的に計測されており、その測
定結果により風環境の著しい悪化が客観的に明らかであったこと、ビル建設と風害の
因果関係についての立証責任が当事者の合意により転換されていたこと等の事情があ
ったため、これらが受忍限度を超える風環境の悪化の認定に大きく影響したものと推
察されます。
2
本判決について
(1)
本事 案 で は、 風 害 を 裏付 け る 証 拠と し て 、 本件 店 舗 従 業員 や 周 辺 住民 の ア ン ケ ー
トや、本件店舗付近を撮影した映像記録、コンピュータシミュレーションによる解
析結果などが提出されましたが、裁判所は、前記のとおり、いずれの証拠によって
も、風環境の悪化により受忍限度を超える被害が発生したと認定することはできな
いとして、原告らの損害賠償請求等をいずれも棄却しました。
受忍限度の判断にあたっては、「被害の内容やその程度」が重要な判断要素の一つ
となるところ、マンションの建築の前後を通じて本件店舗付近の風速や風向等に関
する計測結果がないという状況においては、風速、風向や強風の持続時間、頻度等
を客観的に明らかにすることが難しいため、受忍限度超過の被害の発生を認定する
には至らなかったものと思われます。測定結果の存在が被害把握の有効な手がかり
となることは、他の公害が問題となる事例と共通するところといえるでしょう。
もっとも、風害については、風環境に対する評価基準が必ずしも確立している状況
には な い と いう 課 題 も ある た め 、 測定 結 果 の 存在 を 前 提 とし た 場 合 でも な お 、立証
の難しさが残るところです。
(2)
なお 、 本 判決 は 、 付 加的 で は あ るも の の 、 建物 建 築 に 伴う 風 害 に つい て 、 「 騒 音
や悪臭 のよ うに、 その 直接の 発生 原因が 人為 的なも ので あり、 その 発生源 に対 して
その責 任を 追及す る場 合とは 異な り、… …、 風の直 接の 発生原 因が 気圧の 変動 とい
った自 然環 境に起 因し 、いか なる 建物で あれ 、それ を建 築する こと によっ て、 多か
れ少な かれ 風環境 に影 響を与 える ことか らす ると、 建物 建築に 伴う 風環境 の悪 化に
よる被 害が 受忍限 度を 超える もの である かを 判断す る上 では、 被害 を主張 する 者の
側の生 活状 況、被 害へ の対応 可能 性等を も総 合して 判断 するこ とが 相当で ある 」と
して、 他の 公害と は異 なる要 素に も着目 して 受忍限 度を 判断す べき としま した 。こ
の点に 関す る判断 は、 被害を 訴え る原告 側が 本件マ ンシ ョンに 面す る歩道 上に 業務
用コン ロを 設置し て商 品を販 売し ていた とい う特殊 事情 の存在 を考 慮した もの とも
考えら れま すが、 先に 述べた よう な風害 固有 の特性 に配 慮した 受忍 限度の 判断 を示
唆するものであり、注目すべき点といえます。
3
高層ビルの建築に伴い、本件と同種の生活紛争は今後も起こることが想定されるもの
の、「風害」について判断した裁判例が未だ十分に蓄積されているという状況にはあ
りません。そのような中で、本判決は、風害を巡るトラブルの解決方法を検討する際
に、実務上参考になるものといえるでしょう。
中韓両国との交流について
公害等調整委員会事務局
1
はじめに
公害等調整委員会では、主に平成19年以降、アジア地域の各国や国連環境計画(UNEP)
等の関係機関からの講演や研修の依頼に対応して、国外へ担当官を派遣してきたほか、国
内においても、関連学会や関係機関等からの講演や研修の依頼に対応した担当官の派遣等
を行ってきました。
そうした中、公害等調整委員会は、昨年4月と10月に中国から、12月には韓国からの研
修団を迎え、我が国の公害紛争処理制度について説明を行いました。席上では、制度の運
用状況等について活発な質疑応答も行われましたので、以下、交流の概要をご紹介します。
2
中国研修団との交流について
(1) 中国環境保護法改正のための訪日研修
(ア)趣旨
大気汚染等が深刻化する中国では、1989年の制定以来初の環境保護法の大幅改正作
業を進めていました(平成26年4月、全人代常務委員会にて法案可決。)。こうした
中、国際協力機構(以下JICA)は、中国の立法機関である全国人民代表大会(以下全
人代)が改正に関する審議を行うことを踏まえ、環境保護法改正に携わる全人代法制
工作委員会行政法室及び環境保護部(環境省に相当)の11名(団長の袁傑全人代法制
工作委員会行政法室主任(局長級)、別涛環境保護部政策法規司副司長(審議官級)
らの幹部級職員を含む)を対象とした訪日研修を実施しました。公調委はJICAからの
要請を受け、平成25年4月5日、研修団に対して、我が国の公害紛争処理制度につい
て説明を行いました。
(イ)当日の概要
富越公害等調整委員会委員長からの歓迎の挨拶の後、委員会事務局から、公害紛争
処理制度及び公害紛争処理の審理手続について説明を行いました。その後、研修団か
らは、我が国の環境保護の歴史と現状、過去の経験やそこから得られた教訓等につい
て質問がありました。また、研修団からは「中国と比較すれば公害問題が収束してい
ると考えられる日本で、「公害」紛争処理機関に何が求められているのか」との疑問
が投げかけられ、近年、我が国で増加している都市型・生活型公害の実態とその解決
の必要性について説明を行いました。
(2) 中国河南省産業公害防止技術移転研修
(ア)趣旨
三重県と友好提携を結ぶ河南省の環境保全政策の推進に寄与するため、同県が(公
財)国際環境技術移転センターに委託して実施した研修で、河南省環境保護庁の副処
長(課長補佐級)ら3名を対象として、平成25年10月に15日間にわたって行われまし
た。研修の目標は、我が国における産業公害防止のための法制度や各種施設を理解し、
公害防止技術等に関する専門知識を深めることで、25年度のテーマは「環境汚染の防
止・改善(企業の取り組み・公害紛争処理)」でした。公調委は三重県経由で(公財)
国際環境技術移転センターの依頼を受け、平成25年10月21日、研修団に対して、我が
国の公害紛争処理制度について説明を行いました。
(イ)当日の概要
委員会事務局から、公害紛争処理制度及び公害紛争処理の審理手続について説明を
行いました。その後、研修団からは、原因裁定制度における申請適格や事務局職員の
体制等について質問がありました。
3
韓国中央環境紛争委員会研修団との交流について
日韓の公害紛争処理機関の交流の歴史は、昭和50年代にまで遡ることができますが、韓
国が我が国の公害紛争処理制度をモデルの一つとして環境紛争処理機関及び制度を創設し
た1991年以降は、20余年にわたって一段と活発な交流が続けられています。平成25年12月
10日、韓国中央環境紛争委員会(CHUNG Ilrok委員ほか事務局職員2名)及び地方自治体
(道)政府の環境部局から計7名が、日本の環境紛争処理制度、紛争処理事例の調査のた
め公害等調整委員会を訪問しました。
当日は、富越公害等調整委員会委員長からの歓迎のあいさつの後、委員会事務局から、
公害紛争処理制度及び公害紛争処理の審理手続について説明を行いました。その後、研修
団との間で、専門家の活用の具体的なあり方、中央委員会(公調委)と公害審査会等との
関係、公害紛争処理制度の改善のための最近の取り組み等について、活発な質疑応答が行
われました。
4
結びに
いまだに高い経済成長率を維持し、我が国の高度成長期にも似た大規模かつ深刻な環境
問題を抱える中国と、高度成長期を経て産業型公害から都市型・生活型公害へとシフトし、
ソウルをはじめとする都市への人口集中による紛争の小規模化が顕著な韓国では、公害紛
争処理制度に期待される解決の方法も異なるといえます。我が国の公害紛争処理制度は、
大規模公害の余燼の消えない昭和45年に創設されて以降、産業や国民のライフスタイル等
の変化に対応しながら、多くの公害事件を解決に導いてきました。その過程で得られた様々
な知見は、発展段階の異なる国々の公害問題に解決の糸口を与える上で、大いに役立つも
のと考えられます。公害等調整委員会は、これからも公害問題に取り組む諸外国との交流
を続け、経済成長と環境保護の両立に貢献してまいります。
近隣騒音や建築工事による騒音・振動に伴う被害なども
公害紛争処理の対象になります。
紛争を解決するには、まずは相談を。
公害紛争処理制度に関する相談窓口
こうちょうい
公 調 委 公害相談ダイヤル 03-3581-9959 月~金曜日 10:00~18:00
(祝日及び12月29日~1月3日は除く。)
FAX.03-3581-9488
E-mail: [email protected]
ホームページアドレス http://www.soumu.go.jp/kouchoi/
政府インターネットテレビ「徳光&木佐の知りたいニッポン!」
騒音や悪臭などでお困りの方へ~公害紛争処理制度
公害紛争処理制度について、紹介しています。ご覧ください。
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg4642.html?t=64
※ 本誌に掲載した論文等のうち、意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解である
ことをお断りしておきます。
第77号
編集
平成 26 年 5 月
総務省公害等調整委員会事務局
〒100-0013
東京都千代田区霞が関 3-1-1
中央合同庁舎第 4 号館
内容等のお問い合わせ先
総務課広報担当
TEL:03-3581-9601(内線 2315)
03-3503-8591(直
通)
FAX:03-3581-9488
E-mail:[email protected]
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