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Marc to Market: 国際資本市場の分析と解釈

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Marc to Market: 国際資本市場の分析と解釈
国際資本市場の分析と解釈
健全な投資家のリスク選好、水面下は
不安感
お祭り騒ぎの流動性の真最中に、欧州デフレ問題と日本債務問題を懸念
著:マーク・チャンドラー(ブラウン・ブラザーズ・ハリマン社)
本稿は、国際資本市場を読み解くマーク・チャンドラー氏の
ブログ“Marc to Market”に5月15日付で掲載されたものである。
金融資産が堅調を維持するなかで投資家は積極的にリスクを受
く。日本とスイス、それにスウェーデンは完全にデフレ下にある。
け入れているが、水面下では不安定要素もある。
「日銀が新発国債の70%も購入しているという事実にも関わら
現在の一本調子の上げ基調はいずれ崩れる時が来る。たとえば、
ない」
米国の株式市場はおよそ180日にわたり右肩上がりを続けており、
その間には5%の修正も生じていない。
日銀とFRBは毎月合計で1,600億ドルの資産を買い上げ、欧州中央
ず、その劇的なまでの日本国債売りの意義は十分に評価されてい
――マーク・チャンドラー
銀行(ECB)は市中銀行が望む限りの市場流動性を供給し、望む限
欧州の周縁国家ギリシャではデフレの始まりが明らかになって
更新されるという状況では、常識的にはインフレリスクと商品価
はインフレを脱却しインフレ抑制策を採用していることは明らか
りの担保を受け入れている。そして新興市場では準備金の伸びが
きている。一方、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダで
格の高騰、とりわけ金価格の上昇に注意すべきところだ。
だ。
しかし今回は違う。CRB指数は1月の高値からは6.5%、2008年の
そのインフレ抑制策の環境が、とりわけ欧州周縁国を厳しいもの
ら20%安い水準での取引されている。
ドイツよりもゆっくりと物価が上昇しなければならない。ところが
4月中旬の劇的な急落からの反発もフィボナチ・リトレースメント
のだ。
ピークからは40%下げている。金は2012年第4四半期のピークか
の目標値(オンスあたりおよそ1,488ドル)で息切れした。1,400ド
ルをブレイクしたいまは1,322ドル近辺のパニック的な安値が警戒
される。
このため買い方の多くは、マイナスの実質金利による、いわゆる
金融抑制(ファイナンシャル・リプレッション)から自身を守るた
にしている。周縁国家が競争力を高めるためには、長期にわたり
ドイツのCPIは、EU統一ベースで、
1年前に比べ1.1%上昇している
米国が周縁国の最大の貿易パートナーでないことは明白であり、
どこをとらえてそういうのか判じ難いが、FRBの量的緩和策がイン
フレを他国に輸出しているという点を論じた向きもあった。
さらに最近では、日本の量的緩和がデフレの輸出につながると主
めに本当の“モノ”に基づく債権を購入するものだ。
張するものも出てきた。しかし周縁国のデフレを強いるのはドイ
ここにきてFRBと欧州中銀はプライスプレッシャーの弱まりを指
は関係がない。
摘している。仮に食品価格を除外すれば、中国のCPI(消費者物価
1
指数)は2%をゆうに下回り、ユーロ圏や米国のコアレベルに近づ
ツの緩やかなインフレである。ECBが金利をどのように操作するか
日本の安倍晋三首相は、世界第三位の経済大国の構造改革と再
日本銀行が新規に発行される日本国債の70%を購入しているの
かし、企業収益と見通しが円安によって改善するなか、一部にお
ていない。
生のための最重要課題のひとつとして、賃上げを要請している。し
けるボーナス支給額がいくらか増加しているとはいえ、民間企業
は依然として利益の配分に腰が重い。
ドイツでは話が違う。先ほど、労働組合のIGメタルと経営者団体
のゲザムトメタルが、賃金交渉で妥結した。その合意に含まれる約
77万人の労働者は、これから20カ月にかけて5.6%の賃金増を得る
ことになる。組合は1年で5.5%の賃上げを要求していた。
IGメタルは370万人の労働者を代表しており、この結果は、ほかの
賃金交渉にも影響するだろう。しかし、地域も産業も、以前よりも
かなり多様化してきている。注意しておきたいのは、まずバイエル
ン州のIGメタル組合員が、7月1日からの3.4%の賃上げと来年5月
からのさらなる2.2%増を勝ち取ったことである。バイエルン州の
労働市場は売り手市場となっており、失業率は全国平均未満だ。
欧州は今初めて、銀行家かつ家長のマイアー・アムシェル・ロート
シルト(ロスチャイルド)が18世紀末にみせた洞察を高く評価し
ている――「私に国の通貨の発行と管理をさせていただきたい。
そうすれば誰が法律を作ろうと、どうでもいい」。
この判断は完全に正しいようだ。ただし、ロートシルトが今日生き
ていれば、おそらく次のように修正しただろう――「しかし、私に
労働と資本の間で社会的生産物を分配させていただきたい。そ
うすれば為替レートの気まぐれな変動から自分を守ることができ
る」。
ある米国の当局者が認めていたように、中国との競争力不均衡の
真の解決策となったのは、為替レートではなく、広く解されている
ように中国の賃金高騰であった。ドイツでの賃金(1人あたりの人
件費)の上昇は、フランス、イタリア、スペインにとって、欧州中央
銀行による25ベーシス・ポイントのレフィ・レート(オペ金利)引き
にもかかわらず、その劇的売却についての意義が十分に評価され
マスコミの報道は概して、日本国内の資金が日本国債市場から資
金を引き上げて、株式や外債に流入していることを強調している。
米金利の支えが日本の利回り上昇の重石として一役買っていると
みる向きもある。
利回りには2つの構成要素がある。実質金利とリスクプレミアム
だ。高所得経済でのリスクプレミアムは、概ねインフレリスクであ
ると理解されている。これを評価するのは非常に難しい。特に日
本国債に対して中央銀行が大規模な購入意欲を見せている場合
はそうだ。しかし、10年債の利回り上昇は、概ねインフレ期待の作
用であるように思われる。
昨年11月に選挙が発表される前、10年物日本国債の利回りは75
ベーシス・ポイントであった。そこから下落傾向にあり、日本銀行
の表明があった4月初めに急落し、50ベーシス・ポイントあたりで
底入れしたようだ。現在、1年ぶりの高値である90ベーシス・ポイ
ントを試している。
インフレ期待を把握しようとする方法のひとつが、普通債の利回
りと物価連動債の実質利回りとの比較だ。
5年債の「ブレークイーブン(期待インフレ率)」は、昨年11月に70
ベーシス・ポイントの丁度上にあり、3月初めには160ベーシス・ポ
イントに上昇した。日本銀行の新総裁について不透明であった時
期が調整局面であったようだ。しかし現在は、数年ぶりに190ベー
シス・ポイント近くまで付けた。
皮肉にも、日本では名目利回りが高くなっているにもかかわらず、
実質金利は低くなっているようだ。このことが多くの人々を混乱さ
せている。
下げよりも有効なのだ。
マーク・チャンドラー(Marc Chandler)……ブラウン・ブラザーズ・ハリマン社(ニューヨーク)のシニアバイスプレジデント兼通貨戦略グ
ローバル本部長。氏は、大半が運用マネジャーを占める顧客のために外国為替取引に従事し、トレード戦略を考案している。ユーロマ
ネー、FXウィーク、インターナショナル・トレジャラーといった、さまざまな業界誌に寄稿しており、著書に『Making Sense of the Dollar:
Exposing Dangerous Myths about Trade and Foreign Exchange』がある。
この情報は、信頼できると思われる情報源から得たものです。しかし、正確性を保証するものではありません。そこで表現されている情報
も意見も、何かしらの先物やオプションの売買を勧誘するために構成されたものではありません。
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