Comments
Description
Transcript
ITネットワークを支えるLAN用ケーブル
IT ネットワークを支える LAN 用ケーブル 37 IT ネットワークを支える LAN 用ケーブル Local Area Network Cabling for Information Technology 仁 村 和 文** Kazufumi NIMURA 山 崎 泰 誠*** 田 中 俊 之*** Hiroyoshi YAMAZAKI 大 橋 省 吾** Shogo OHASHI Toshiyuki TANAKA 平 本 清* Kiyoshi HIRAMOTO IT(Information Technology,情報通信技術)の発達と呼応するように,インターネットやイントラネッ ト・アプリケーションも爆発的に成長している。それに伴いユーザー間で行き交う情報も,グローバル化・大 容量化・高速化の一途をたどっている。 このような状況の中,ネットワークを支えるケーブルに対しても,より高度な性能を要求が出てきているの が現状である。本文では,このような高度情報化社会を支えるメタル/光 LAN ケーブル技術について紹介する。 The Internet, intranet and applications grow explosively to respond with the development of Information Technology. And, information between the users become global, big capacity and high-speed. The requirement of cable, which supports a network, comes out toward the advanced performance. It is introduced about the metallic and optical LAN cable technologies, which supports such an advanced information-oriented society. 1.はじめに ∼ LAN の拡大・発展∼ 2 章以降では,現在の標準 LAN となっている Ethernet の現状と将来について説明する。 1980 年代に Ethernet ****が商用化されて以来,LAN 2.Ethernet の歴史 (Local Area Network)は,主に企業内の情報システムに おいて,コンピュータやサーバ・プリンタなどをネットワ 2.1 Ethernet 規格の誕生 ーク化する上で不可欠なネットワークとなり,オフィス・ 1980 年 2 月に ANSI(アメリカ規格協会)の公認標準化 工場のみならず,キャンパス・研究機関・一般家庭なども 組織として,IEEE802 委員会が設立され,その翌年にはよ 含む,インターネット/イントラネット,さらには広域ネ り国際的レベルでの標準化を目指し,Ethernet 方式 ットワーク(WAN : Wide Area Network)と深い関わり (CSMA/CD ; Carrier Sense Multiple Access with Colli- を持ちながら普及してきている。 sion Detection,衝突検出機能付搬送波検知多重アクセス 数ある LAN のなかでも,Ethrnet は継続的な技術の革新 方式)の標準化を審議するワーキンググループとして とコストダウン,さらには互換性を保った成長発展を遂げ IEEE802.3 委員会が設立され,本格的な標準化活動が開始 ており,全世界で LAN の代名詞とも言われるようになっ された。 ている。 このような状況のなか,大容量・高速ネットワークの発 展を支えるためのケーブルに対しても,同じように高周波 における高い特性が要求されている。 そして,1983 年 6 月に IEEE802 委員会は,CSMA/CD を 基本にして,より汎用性を持たせた 10BASE5 という IEEE802.3 標準規格が制定された。 この 10BASE5 に使用されているケーブルが,その見た 目から“イエロー同軸”と呼ばれる同軸ケーブルであり, * ** *** **** 通信技術部 通信技術部 営業技術グループ 通信ケーブル部 生産管理グループ Ethernet は Digital Equipment Corp., Intel Corp., Xerox Corp., の登録 商標です。 そのセグメント長の長さ(500 m)から現在でも工場等の ネットワークとして使用されている。(図 1) また,オフィスでは 10BASE5 の廉価版として,ケーブ ルに RG-58A/U 同軸ケーブル等を使用した 10BASE2 が適 昭 和 電 線 レ ビ ュ ー 38 Vol. 51, No. 1 (2001) それまでの一般通信用に使用されているケーブルと比較し て,特性を規定している周波数帯域が 16 MHz までと広く, 近端漏話減衰量(NEXT ; Near End Cross Talk)の規定 も厳しく定められている(表 1) 。 図 1 10BASE5 用同軸ケーブル 用されたが,現在ではあまり使用されていなくなってきて いる。 2.2 UTP ケーブルによる Ethernet 図 2 UTP ケーブル しかしその後 IBM が発表したトークンリング LAN 方式 において,Ethrnet で規定している同軸ケーブルよりも安 表 1 カテゴリ 3 ケーブル特性表 価な UTP ケーブル(Unshielded Twisted Pair Cable)を 項 目 特性値(at 16 MHz) 使用したネットワークについても規定されていたことや, インピーダンス (Ω) 100 ± 15 その配線形態が物理的にはネットワーク管理もしやすいス 減衰量(dB/100 m) 13.1 ター配線方式という特徴を備えていたことから,Ethernet NEXT(dB) 23 SRL(dB) 10 方式を開発したゼロックス社では,UTP ケーブルを使用し た Ethernet 製品の開発のため新会社の SynOptics を設立し 1987 年 8 月に最初の UTP を使用した Ethernet 製品を完成 させた。 10BASE-T ではこのカテゴリ 3 ケーブルを使用して最大 100 m までの伝送が可能となっており,この長さは一般的 その後,IEEE802 委員会で標準化の審議が重ねられ, なオフィス内で使用される配線システムには充分な長さで 1990 年 9 月にこの後の LAN の方向性を決定付ける, あることから,現在日本国内のオフィスの主流を占める配 “10BASE-T”が IEEE802.3i 規格で IEEE802.3 標準として制 線システムとなっている。 定された。 3.光ファイバケーブルによる Ethernet このように標準化された 10BASE-T だが,その標準が制 定された 1990 年頃になると,LAN の普及やオフィスで使 オフィス内で使用するには充分な伝送距離を持つ 用されるコンピュータの CPU の性能向上・低価格化を背 10BASE-T であるが,キャンパス等の広い敷地内で LAN 景として,パソコンが急速に普及し始めたことに加え, システムを組むことを考えた場合には不充分であった。 CAD を始めとする画像データや各種写真データ,テレビ そこで,UTP ケーブルよりも広帯域・低損失である光フ 会議など映像も含めた大容量のマルチメディア情報を扱う ァイバを使用した Ethernet である 10BASE-F 規格が, ケースが増大することが予想されるようになった。 IEEE802.3j 標準規格として 1993 年に制定された。 このような情報の大容量化や,HUB に接続されるパソ この 10BASE-F で使用される光ファイバは,コア径 62.5 コン数の増大に対応するため,10BASE-T の高速化を目的 μm のマルチモード光ファイバ(GI 型)が基本であり,最 とした新技術の開発が進められ,その結果として生まれた 大伝送距離は 2 000 m となっている(図 3)。なお,日本国 のが“EthernetSwitch”と呼ばれるスイッチ技術と双方向 内ではコア径 50 μm のマルチモードが使用されるケースが 同時通信(全二重通信)技術である。 多い。 この新技術の開発により 10BASE-T は,その配線コスト が低価格であることもありオフィス LAN として急速な広 光ファイバ心線 まりを見せた。 2.3 10BASE-T 用 UTP ケーブル テンションメンバ 10BASE-T に使用されている UTP ケーブルがいわゆる 緩衝層 “カテゴリ 3”ケーブルと呼ばれるツイストペアケーブルで 外被 ある(図 2)。 このカテゴリ 3 ケーブルは,約 0.5 mm(24AWG)の太 さの導体を対撚りし,それを 4 対集合したケーブルである。 図 3 光ファイバケーブル例 IT ネットワークを支える LAN 用ケーブル この 10BASE-F はバックボーン用 LAN としては使用さ れているが,一般オフィス内では使用しているパソコン等 4.2 39 ギガビット Ethernet 用ケーブル これらのギガビット Ethernet に使用されるケーブルは, に光ファイバ端末を持つものが少なくメディアコンバータ UTP ケーブル・光ファイバケーブルともに従来のものより ーが必要になることやケーブル自体の価格が UTP ケーブ も広帯域・高性能のケーブルとなっている。 ルと比較して高いことから,フロントエンド・ネットワー クとしてはあまり使用されていないのが現状である。 リ 5 以上の性能を持ったケーブルを使用することが決めら れており,実際には更に特性の良いエンハンスドカテゴリ 4.Ethernet の高速化 4.1 UTP ケーブルは 100 MHz までの特性を規定したカテゴ 5 が使用されているケースが多い(図 5) 。 100 Mbps ∼ 1 Gbps 伝送の標準化 10BASE-T がオフィス等の標準 LAN として定着すると 間もなく,高性能化・高速処理化が進むパソコンやワーク 導体 ステーションと,その上で走るアプリケーションをネット ワークで流し,マルチメディア環境を実現するために,更 絶縁体 に広帯域(高速伝送)の LAN が必要となった。その結果 として 1995 年 6 月に 100 Mbps の伝送速度を持つ, 外被 100BASE-T が IEEE802.3u 規格として制定された。 また,100BASE-T の普及が始まった 1995 年頃になると, 図 5 エンハンスドカテゴリ 5 ケーブル サービス開始後数年を経た商用インターネットのユーザー が爆発的に増加するとともに,社内イントラネットの構築 も加速しだした。このような中,早くも 95 年 11 月には さらにカテゴリ 6 ケーブルの規格化(2001 年 3 月現在, IEEE802.3 ワーキンググループ内に HSSD(High Speed ドラフト 8 の審議中)も現在進められている。このカテゴ Study Group ;高速 LAN 研究グループ)が,翌年 5 月には リ 6 では,特性は 250 MHz まで規定されており,今後 LAN 光ファイバをベースとしたバックボーン・ネットワーク用 以外のアプリケーションへの展開も期待される(図 6,及 途としてのギガビット Ethernet の標準化を検討する び表 2)。 IEEE802.3z タスクフォースが設置された。 さらにフロントエンド・ネットワーク(一般オフィス内 での LAN 配線)での用途を目指した,UTP ケーブルによ 導体 るギガビット Ethernet 1000BASE-T の標準化を検討する IEEE802.3ab タスクフォースも設立された。 絶縁体 その結果,1998 年には光ファイバによるギガビット Eth- 介在 ernet を標準化した IEEE802.3z 規格が,翌 99 年には UTP ケーブルを使用した IEEE802.3ab 規格が制定され,ギガビ 外被 ット Ethernet の標準化が完了した(図 4)。 図 6 カテゴリ 6 ケーブル IEEE802.3ab 1000BASE-T規格制定 IEEE802.3u 100BASE-T規格制定 IEEE802.3i 10BASE-T規格制定 表 2 カテゴリ 6 ケーブル特性表(HECL-9004R) 1Gbps 項 目 100Mbps インピーダンス(Ω) 10Mbps 1990 1995 UTPイーサネット本格化 特性値 100 MHz 1999 ギガビット時代へ 図 4 Ethernet 規格化の流れ 250 MHz 100 ± 6 % 減衰量(dB/100 m) 19.8 NEXT(dB) 44.3 32.8 38.3 PSNEXT(dB) 42.3 36.3 ELFEXT(dB/100 m) 27.8 19.8 PSELFEXT(dB/100 m) 24.8 16.8 反射減衰量(dB) 20.1 17.3 伝播遅延(ns/100 m) 538 536 (適用規格: TIA/EIA-568B2.1 Draft8[2001.3 発行]) 昭 和 電 線 レ ビ ュ ー 40 Vol. 51, No. 1 (2001) また,光ケーブルも従来使用されていたファイバと比較 また,フロントエンド・ネットワークのギガビット化が した場合,マルチモードモードファイバで広帯域の要求特 進むにつれて,バックボーン・ネットワークはさらに高速 性となっている(表 3)。 化する必要性が生じ始めており,現在 IEEE802.3ae として 10 ギガビット Ethernet の標準化が審議されている。 この 10 ギガビット Ethernet では,従来のマルチモード 表 3 ギガビット用光ファイバ特性一覧 種 別 ファイバでは伝送距離は数 10 m 程度になるとの検証結果 G50 G62.5 SM がアメリカで報告されている。そのためコア径 50 μm で屈 伝送損失(dB/km) (λ= 0.85 μm) 3.5 3.5 規定無し 折率分布を最適化した,次世代マルチモードファイバと短 伝送損失(dB/km) (λ= 1.3 μm) 1.5 1.5 0.5 伝送帯域(MHz・km) (λ= 0.85 μm) 400/500 160/200 規定無し し本規格は現在もまだ審議が続いている段階で,規格化終 伝送帯域(MHz・km) (λ= 1.3 μm) 400/500 500 規定無し 了は 2002 年になってからと言われており,今後とも詳細の 項 目 波長 VCSEL を組み合わせての伝送方式や,シングルモー ドファイバを使用しての伝送方式も検討されている。ただ 確認を継続する必要があると思われる。 (*)帯域は伝送長によって異なる。 さらに MT-RJ コネクタを始めとする次世代光コネクタ (SFF ; Small Form Factor)と,それらを使用する機器類 4.3 主な製品群 の開発も進むと考えられる(図 7)。 現在の LAN に使用される主なケーブルを表 4 に示す。 表 4 の製品はいずれも,現在のギガビット LAN 配線での 使用が可能なケーブル・コード類である。 この他に,ECX-8672 同軸ケーブル(イエロー同軸; 10BASE5 用),ECX-8862 同軸ケーブル(10BASE2 用)が ある。 表 4 LAN 用ケーブル(概略) 種 別 メ タ ル L A N 用 光 L A N 用 型 名 特 長 GECL-9004R エンハンスドカテゴリ 5 対応 EM-GECL-9004R エンハンスドカテゴリ 5 対応 環境調和型タイプ GECLF-9004 エンハンスドカテゴリ 5 対応 撚り線タイプ GECLD-9008 エンハンスドカテゴリ 5 対応 メガネ型(8 対ケーブル) GECL-9024-INS エンハンスドカテゴリ 5 対応 24 対,インナーシース付 HECL-9004R カテゴリ 6 対応 非鉛 PVC 外被 NH-SCT-*** (*** :ファイバ型名) ギガビット対応品 環境調和型細径層型タイプ EM-STK-*** (*** :ファイバ型名) 環境調和型細径コード CT-*****-LAP UT-*****-LAP 汎用ケーブル 屋内用・ノンメタリック対応可能 図 7 MT-RJ コネクタ付コード それにより,従来 UTP ケーブルが大部分を占めていた フロントエンド・ネットワークにおいても,光ファイバが 導入されるケースが増加すると考えられ,今後はフロント エンド・ネットワークに使用される製品の開発が重要にな ると思われる。 参考文献 1)アスキー出版局:ギガビット Ethernet 教科書 2)アスキー出版局:標準 LAN 教科書(上) ,(下)第三版 5.今後の動向 3)リックテレコム:光ファイバーネットワーク構築入門 4)山崎泰誠,他:昭和電線レビュー,Vol.50,No.1,p.60(2000) 現在 UTP ケーブルを使用した 1000BASE-T では,その 採用している伝送方式(ケーブル内の 4 対すべてを使用し た全二重送信方式)による影響から,受信信号に様々な不 要信号(ノイズ)が混在する。それをどのように処理をす るかが一番の問題であり,現在はエコークロストークキャ ンセラーを使用している。これが機器の価格が高い原因の 一つとなっており,現在 2 対ずつを使用しての双方向伝送 方式の検討が進んでいる。 5)社団法人 電子情報技術産業協会:情報配線システムの標準化に関 する調査報告書 IT ネットワークを支える LAN 用ケーブル 仁村 和文(にむら かずふみ) 通信技術部 営業技術グループ 主任 1991 年入社 光ファイバケーブル及びメタル通信ケーブル の設計・開発に従事 山崎 泰誠(やまざき ひろよし) 通信ケーブル部生産管理グループ 1994 年入社 通信ケーブルの新製品開発・設計に従事 田中 俊之(たなか としゆき) 通信ケーブル部生産管理グループ 主査 1983 年入社 通信ケーブルの新製品開発・設計に従事 大橋 省吾(おおはし しょうご) 通信技術部 営業技術グループ 主幹 1978 年入社 光ファイバケーブル及びメタル通信ケーブル の設計・開発に従事 平本 清(ひらもと きよし) 通信技術部長 1973 年入社 光ファイバケーブル及びメタル通信ケーブル の設計・開発に従事 41