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気候変動に適合した水管理 / 世界気象機関 気候・水部長 アビナッシュ

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気候変動に適合した水管理 / 世界気象機関 気候・水部長 アビナッシュ
気候変動に
適合した水管理
世界気象機関 気候・水部長 アビナッシュ・ティアギ
気候変動は、有効利用できる水資源と需要の双方に大
確実性を考慮して、
より厳しい干ばつと洪水のリスクに備
きな影響を及ぼします。異なる空間・時間スケ−ルにおい
えることが求められ、地域社会も干ばつ、洪水に対し迅速
て連続した変化や兆しが生じるプロセスを理解すること
かつ調整のとれた対応をとるために、万一を想定した行
は大切なことです。
これまで重大な影響を及ぼしてきた急
動計画が必要です。水需要管理も主要ユーザーの回復力
激な人口増加や人間活動などと相まって、水質や水利用
を高めるために有効でしょう。
により大きな影響を与えることもあります。干ばつ、洪水、
水資源の開発と分配に必要な社会基盤施設整備は、
高潮や地すべりといった極端現象の発生頻度や規模に
人類とマクロ経済に大いなる恩恵をもたらしてきました。
見られる水災害リスクの増大は、水資源管理にさらなるス
逆に言えば、それが出来ない国は、干ばつと洪水による
トレスを与え、供給する水の質・量の不確実性を増大さ
被害に困窮することになります。増大する変動に対応する
せます。たとえ気候変動の影響を緩和させる対策を講じ
ため、
より多くの水を貯留することが求められています。
たとしても、今後、数十年にわたってリスクは増え続ける
雨水灌漑、持続可能な帯水層管理と湿地の保全を通じた
のです。想定される変動に適応できる方法を模索し、新た
地下水涵養といった自然的なものが一法でしょうし、環境
な状況と極端現象に対処するための回復力のあるインフ
と分散している地域社会のセーフガードとして、大小の貯
ラやサ−ビスを提供していくことが社会に求められてい
水池に人工的に水を貯留するのも一法です。いずれの方
ます。
法も、日常の水の補給への備えとしてだけでなく、干ばつ
不確実だからといって、問題を放置することは許されま
と洪水に対する備えとして多くの地域で不可欠なもので
せん。長期の気候予測など水管理における意思決定に必
す。
要な種々の情報には不確実性の問題は避けられません
昨年、日本を訪れる機会がありましたが、災害リスクと
が、適応的管理によって克服でき、
より多くの、かつ、
より
脆弱性の問題を思い起こさせるものでした。新潟を訪れ
良質な情報にも適切に対処できます。気候変動適応策で
たところ、2004 年の新潟県中越地震に対する災害復旧
ある
『後悔を回避する』考え方と同様、実践的かつ『今後
工事が進められる一方で、町の中心街には洪水標識が建
を見越した適応的管理』に向けて、気候の不確実性を考
てられていました。特に災害リスクが日常生活と関わって
慮したリスクを基本とする計画とインフラ設計に基づき、
いる所では、継続的な努力がいかに重要かを知り、深い
リスクを基本にした次世代型の設計基準開発にアプロー
感銘を受けました。
チしていくべきでしょう。
ソフト対策は柔軟性があるため、
世界気象機関は、天気、気候と水問題に一緒に取り組
水の需要と供給の双方にある不確実性への適応が容易
んでいこうという理念の下、統合洪水管理についてのヘ
です。そのため、あらゆる適応戦略において、ソフト対策
ルプデスクを開設しました。
このヘルプデスクは、ヘルプ
を取り入れる必要があります。
デスク支援基盤と呼ぶ戦略上重要で、技術的かつ財政的
気候の大規模な変動と短期的な不確実性によって、長
なパートナー組織のネットワークを通じて、その役割を果
期的傾向は卓越され、極端現象の発生頻度が増えていき
たそうというものです。
日本のいくつかの機関も世界気象
ます。
そのため、各方面での災害リスクの低減を含めた包
機関とともに緊密に活動していることは、私にとって大き
括的なリスク管理と、貯水池運用の改善と緊急活動のた
な喜びです。技術進歩が気候変動に適合した水管理に貢
めに新技術を採用した早期警報システムの改良を進める
献していくことを期待しています。
ことが求められています。水管理者は、気候変動予測と不
すい滴/気候変動に適合した水管理
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