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発展的な発音指導を実現する 3 要素 - 大阪女学院大学・大阪女学院短期
発展的な発音指導を実現する 3 要素: Oral Interpretation の授業実践からの提言 大塚 朝美・上田 洋子 Three Elements to Attain Advanced Pronunciation Instruction: Suggestions from an Oral Interpretation Class Tomomi Otsuka, Hiroko Ueda 抄 録 大阪女学院大学・短期大学では、1998 年より Phonetics(英語音声学)履修済の学生を 対象に、Oral Interpretation(以下 OI)を開講している。古くから行なわれている OI とは、 文学作品をその時代背景なども踏まえ、感情を込めて聴衆の前で朗読する「表現読み」(近 江、1984)を指すが、大阪女学院の OI ではそれに加えて、Phonetics の基礎に続く発展的 な発音指導を行なうことも目標としている。本稿では、OI クラスが発展的な発音指導及 び自律学習促進の場となるために必要な 3 要素「統一音声評価基準」、「従来の OI 目標の 継承」、「(学生が自主選択する)バリエーションのある教材」を、筆者らによる発音指導 研究調査結果および二種類の学生アンケートの回答結果を交え、考察する。 キーワード:発展的な発音指導、オーラル・インタープリテーション、英語音声評価、 自律学習 (2012 年 9 月 24 日受理) Abstract Since 1988 at Osaka Jogakuin College and University (OJU), oral interpretation classes (OI) have been offered to all students who complete introductory phonetics coursework. Traditional OI focuses on interpretative reading, which is to read aloud in front of an audience the works of literature considering the background of the literature. OI at OJU focuses not only on interpretative reading, but also on both advanced pronunciation training and autonomous learning, using the three specific elements in the teaching: dual-use (with phonetics classes) of the same teaching rubrics, adherence to recognized oral interpretation teaching methods, and students' self-selection of various learning materials. This paper will report on those three elements in detail, discuss the authors' previous pronunciation instruction research, and introduce the results of class questionnaires. − 37 − 大阪女学院大学紀要9号(2012) Key words: advanced pronunciation instruction, oral interpretation, rubric for English pronunciation, autonomous learning (Received September 24, 2012) 1. はじめに Oral Interpretation という科目(以下 OI)は、本校の短期大学では 1998 年度より、大学 では 2004 年度より、Phonetics(英語音声学)履修済の学生を対象に半期の選択科目とし て開講されている。開講以来 OI は、Phonetics で学んだ基礎からより発展した発音指導を 行なう授業として Phonetics 担当者が兼任し、2012 年度で 15 年目となる。平沢(2000)は、 OI スタートから 2 年後に当時の授業について考察しており、そこには学生が選択した作 品課題(文学、映画、ニュース、スピーチなど)について、ワークシートを作成し、各自 が解釈・分析を行なった上で発表するという現在の授業スタイルの原型が見られる。OI が「Phonetics の応用編」であるという捉え方は今でも変わらないが、4 年制大学の開学 (2004)、統一音声評価基準(ルーブリック)の確立(2006)、カリキュラムの変遷、CALL 教室の拡充(2012)などにより、OI の授業内容もここ数年で大きく変化してきた。そこ で、発展的な発音指導を可能にする要素を特定し、それらについて考察することで、長年、 「Phonetics の応用編」として漠然と位置付けられてきた OI の意義をより明確にすること が本稿の目的である。 15 年の授業実践の経験から見い出した、発展的な発音指導に必要な要素とは「統一音 声評価基準(ルーブリック)」の採用、古くから OI の授業目標である「表現読み」の継承 (以下、「従来の OI 目標の継承」とする)、そして、学生が自主選択する「バリエーション のある教材」の 3 つである。実際の OI の授業において、これらの要素がどのように組み 込まれており、また、学生たちはそれらをどのように捉えているのかを筆者らによる発音 指導研究調査結果および授業後に実施したアンケートの回答結果も交えながら報告、考察 する。 2. 研究背景 2. 1 OI とは いわゆる OI とは、どのように定義されているだろうか。時代をさかのぼれば、古代ギ リシャやローマ時代から、文学作品などは口頭で語り伝えられ、感情豊かに暗唱すること が求められていた(Bahn & Bahn, 1970)。海外で古くから行なわれている OI は、Lee (1965) で "Oral Interpretation is the art of communicating to an audience a work of literary art in its intellectual, emotional and aesthetic entirety." と説明され、文学作品などを時代背景を踏ま えて、聴衆の前で感情を込めて朗読することが一般に求められている。また、近江(1984) では OI を「1 つの作品(ないしはその抜粋)の意味を自分なりに解釈し、作者になりかわっ − 38 − 大塚・上田:発展的な発音指導を実現する 3 要素 て音声表現する作業」(p. 3)と説明している。 また、現在アメリカで開講されている OI の授業は、Oral Interpretation of Literature と して、また、スピーチやコミュニケーションの授業として開講されている(Columbia College, 2005; Eatern Arizona College, 2011-2012; Northeastern State University, 2008 Fall) 。 一方、大阪女学院大学・短期大学の OI シラバスでは、授業概要を以下のように示して いる。 "Students will review basic fundamentals of phonetics, including rhythm. They will then study, practice and present samples from various TV commercials, news broadcasts, speeches, stories, movies and dramas. (…) Emphasis will be placed on correct pronunciation following the phonetic rules studied and appropriate interpretation and / (OJU 2012 syllabus) or expression for the materials." シラバスで記述されているように、本校の OI では、古くからの OI の授業で扱うような 文学作品に限らず、コマーシャルや映画のワンシーン、ニュースやスピーチなど日常生活 で出会う色々なテクスト(text)を取り上げることが可能であり、Phonetics で学んだ音 声学習項目を確認しながら様々な context で口頭表現にチャレンジするという授業内容と なっている。 2. 2 OI に関する先行研究 日本においても、大学や高校などで OI の要素を取り入れた授業は行なわれており、そ れらの研究報告では、高校 1 年の 1、2 学期の Oral Communication I で音声指導後、3 学 期に OI コンテストを試みた例(三浦、2004)、大学 1 年生の一般英語のクラスで OI の手 法を実践した例(シルバ、2009;高井、2005)、OI をオーラルの授業で用いた例(LoDico, 2011)、また OI の課題の評価表が紹介された報告(Hashimoto, 2007)などがある。ただし、 このような報告は、OI の要素を取り入れてはいるものの、短期間での指導が多く、一年 間の系統だった音声学指導後に、発展的な発音学習の場として位置づけた OI の実践報告 は見られなかった。 2. 3 発音指導研究 筆者らの発音指導研究とは、Phonetics や OI の授業に関わる過程で、大学教育における より効果的な発音指導を組み立てるためにスタートした研究である。そもそも学生たちは 大学入学以前にどのような発音指導を受け、また大学入学時点で発音記号やイントネー ション、強勢や音のつながりといった音声学習項目についてどれくらい習得しているのか を系統だてて調査した上で、あらためて大学での指導を考える必要があると感じた。その ため、筆者らは発音指導研究として、発音学習の段階を「中高のインプット調査」「大学 入学時の状況」 「大学在学中」の 3 つのステージに分け、2009 年秋より研究を開始した(図 1「発音指導研究の 3 ステージ」参照)。 まず、第 1 ステージでは、中学・高校での発音指導に注目し、学生たちの大学入学以前 − 39 − 大阪女学院大学紀要9号(2012) の学習履歴を把握するため「中高のインプット調査」として、中学校検定教科書の分析(上 田・大塚、2011)、入学直後の大学生への回想式質問紙調査と現職中高教員への質問紙調 査(大塚・上田、2012)を実施した。検定教科書分析調査においては、2011 年度まで使 用された中学校検定教科書 6 社について 8 項目(発音に関連するコーナー、発音記号、音 素指導、強勢、イントネーション、音のつながり、意味グループごとの区切り、OI 指導) を分析した結果、教科書間で発音記号の不一致やカタカナ使用の差、音声学習項目の扱い に差異が見られることが分った。また、大学生 295 名と中高の教員 37 名を対象とした質 問紙調査では、音声学習項目のうち、特に発音記号、語強勢、イントネーション、ポーズ の 4 項目について中高で学んだか/指導しているかについての回答を分析し、考察した。 その結果、発音記号については、学生、教員の肯定的な回答をした割合が 4 項目の中で最 も低く(学生:中学で 3 割、高校で 5 割、教員:中学で 4 割弱、高校で 5 割が「発音記号 の指導を受けた/指導をした」と回答)、発音記号の読み方はあまり積極的に扱われてい ないことが示された。語強勢については、肯定的な回答をした割合が 4 項目中で最も高 く(学生:中学で 7 割、高校で 8 割、教員:中学で 8 割、高校で全員が「単語の中での強 勢/アクセントの指導を受けた/指導をした」と回答)、中高の英語音声学習において語 強勢を扱う頻度が高いことが伺える。 また、発音学習の第 2 ステージである「大学入学時の状況」を把握するため、音声学習 項目の知識を問う簡単な小テストを行なうと同時に、「大学 1 年生の現状と英語学習に対 する意識」を問う質問紙調査(第 1 ステージで実施した質問紙調査の中に含まれる)も実 施した(大塚・上田、2012)。これにより、中学高校時代の学習だけでは充分でない音声 学習項目が明らかとなった。発音記号、語強勢、イントネーション、意味グループごとの 区切りについての小テスト結果は、語強勢、平叙文や Yes-No 疑問文のイントネーション、 意味グループごとの区切りについてはほぼ 6 割以上の正答を得たが、発音記号をスペリン グに書き換える問題については一部の記号を除いて 2 割に満たない正答率であり、列挙文 や選択疑問文のような文のイントネーション・パターンは正しく認識されていなかった。 また、音声学習項目についての回答から、学生達の大学教育への高い期待を読み取ること ができた。 これらの 2 つのステージの調査結果をもとに、第 3 ステージである「大学在学中に受け る指導」については、発音学習の効果的な授業内容を検討し、実践することが必要だと考 えた。在学中に受ける授業は、いわゆる基礎的な学習項目を教える基礎科目と発展的な指 導を行なう応用科目に分けられるが、本稿では OI を発展的な発音指導が可能な科目とし て位置づけ、授業実践から、発展的な指導に必要な 3 つの要素を提案することとした。 − 40 − 大塚・上田:発展的な発音指導を実現する 3 要素 第 1 ステージ (中学・高校) 中高のインプット調査(上田・大塚、2011;大塚・上田、2012) ・中学の教科書分析 ・大学生への質問紙調査 ・教員への質問紙調査 第 2 ステージ (大学入学時) 大学入学直後の音声学習項目の定着度調査(大塚・上田、2012) ・音声学習項目についての小テスト ・大学生への質問紙調査 第 3 ステージ (大学在学中に 受ける指導) 中高のインプット調査と音声学習項目定着度調査の結果をふまえた 授業内容の検討 ・音声学習項目の基本を学ぶ授業 ・発展的な発音指導が可能な授業 図 1 「発音指導研究の 3 ステージ」 3. 発展的な発音指導を実現する OI 授業の 3 要素 本稿では OI を発展的な発音指導の場として捉えているが、ここでいう「発展的な発音 指導」とは、音声学の知識を生かして言葉を発する自律した発話者の育成を目指す指導で ある。言い換えると、音声学で学んだ基礎的な知識を自分のものとして使いこなし、言葉 の裏にこめられた感情や意図なども表現できる発話者の育成を指す。いわゆる基礎から応 用へというだけではなく、それは社会に出る前の大学教育での最終段階の指導となる、感 情表現を含んだ発音指導である。 15 年の実践から、発展的な発音指導を実現する OI 授業において大切な 3 要素は、「統 一音声評価基準(ルーブリック)」の採用、 「従来の OI 目標の継承」、 「(学生が自主選択する) バリーションのある教材」である。これらが含まれることにより、Phonetics と OI、つま り英語音声教育の基礎と発展が連携し、「在学中に受ける発音指導」として機能すること となる。 3. 1 統一音声評価基準(ルーブリック) 第 1 の要素は、「統一音声評価基準」である。大阪女学院大学・短期大学では独自の発 音評価基準、ルーブリックを 2006 年に開発し、学生の音声評価の統一を目的に使用して − 41 − 大阪女学院大学紀要9号(2012) いる。Appendix 1 が示すように、このルーブリックの表は縦軸に音声学習項目 vowels, consonants, stress, rhythm & smoothness, intonation, performance の 6 項目、横軸は各項目 の到達度合いを 4 分割で説明し、評価を 0 ~ 5 の 6 段階で出すように規定している。また、 目標とする発音についても「学習者として英語の一変種の音体系を理解し、それを実践す るものであること。(一部抜粋)」(OJC Phonetics Rubric, 2006)とし、明確な定義が示さ れている。(OJC Phonetics のルーブリック作成経緯については、吉田(2007)を参照され たい。) このルーブリックは、Phonetics で春学期に、また OI でもコースの初めに学生に配布さ れ、どちらのクラスでも一貫した音声評価を行なうことが説明される。これにより、OI では履修学生の年次も様々で、複数のクラスが同時開講される状況下において、統一され た音声評価を提供している。教員が評価をすることに加え、学生は自分の発音について自 己評価も行うが、その際には、ルーブリックをベースに、より学生に向けた簡易型の自己 評価表が各担当教員によって加工され、配布される(資料 1 参照)。 資料 1 学生向けの自己評価表例 3. 2 「従来の OI 目標の継承」 第 2 の要素は、「従来の OI 目標の継承」であり、これは、テクスト(text)の解釈や聞 き手(audience)の存在を意識したパフォーマンスを求めることを指す。つまり、言葉が 発せられる背景や感情に注意を向けた解釈をし、効果的な伝え方を学び、訓練することが 目標となる。「生きた言葉を発する話し手」の育成のために、この OI 従来の目標達成に向 けて、段階を追いながら 15 週間学び、学生たちはリーハーサルも含めて何度もクラスの 前に立つこととなる。従来の OI の手法として、学習者が発表作品の原稿に解釈分析を「記 号づけ」することは近江(1996、pp. 156-157.)にも紹介されているが、本校においては、 Phonetics で学んだ音声記号も使用し、同様の分析作業を行っている。text の種類・役割・ − 42 − 大塚・上田:発展的な発音指導を実現する 3 要素 ボイスコントロールの考察を行い(資料 2)、発音記号を用いた発音確認、ポーズ、文強勢、 またその様に考えた理由を綿密に書き込み(資料 3)、audience への伝え方を考える。ま た客観的に分析する手段として、LL 教室や CALL 教室では自分の発音を録音する自己モ ニター、またビデオ録画による自己評価なども行う。発表者として、感情表現や一つ一つ の発音に責任を持つことを学ぶと同時に、聴衆としてクラスメイトの発表を数多く見てお 互いに評価し合う経験を通して、自分自身のパフォーマンスを客観的に見直す目を養うこ とが可能となる。 資料 2 学生のワークシート①(作品の解釈) − 43 − 大阪女学院大学紀要9号(2012) 資料 3 学生のワークシート②(IPA などの書き込みがあるもの) [原文ママ] 3. 3 バリエーションのある教材 第 3 の要素は、「(学生が自主選択する)バリエーションのある教材」である。本校の OI では教科書を使用せず、Phonetics の教科書を参照しながら、まず教員が用意した数種 類のサンプル教材に取り組み音声分析方法を確認する。その後、学生は各自が選んだ題材 について、音声学の知識を活用しながら分析作業を進めるのである。したがってクラスで 扱う教材は、映画のワンシーン、本の一部分、ニュース原稿、チャンツ、機内アナウンス など多岐に渡る。例として、2012 年度春学期に開講された 3 つの OI クラスでは、受講学 生総数 42 人対し、個人またはグループで選択された作品数は 21 であった。 教材の選択に関しては、幅広い教材を学生の自主性に従って選ばせるというスタイル (平沢、2000)が OI 開講以来続いており、発展的な指導の場では、学生は与えられる教材 を待つのではなく、自由に選ぶことで学習動機が高まり、自律学習に貢献すると考えられ る。(白井(2012)は大学生や社会人のための英語教育を「最終目標は自律した学習者」 − 44 − 大塚・上田:発展的な発音指導を実現する 3 要素 (p. 129)とした上で、スピーチや映画の一場面などの感情に訴える教材が記憶に残りやす く、長期にわたり(つまり卒業後も)学習事項が定着しやすいと述べている。)実際の OI クラス内での教材選択においてもスピーチ・映画はよく選択される題材であり、選んだ題 材について 1 年次で使用した教科書を参考にしながら、分析を進める。教員は、授業内に 学生と順番に面談するが、その間面談を行なっていない学生たちは個々に計画を立てて作 業に取り組む。こういった自律学習が成り立つのは、基礎の定着がみられる発展的クラス の利点と言える。 4. 学生アンケート結果 以上、本校における OI 授業実践とともに、発展的な発音指導の実現に必要な 3 要素に ついて述べてきたが、受講生自身は OI の授業方法や内容をどのように受け止めているの だろうか。大学が実施した過去 3 年間の学期末授業アンケート(N = 325)の回答の一部抜 粋と、2012 年度春学期に OI クラスのみで行なった 3 要素に特化したアンケート結果を紹 介する。 4. 1 大学実施の学期末授業アンケート結果 大学が過去 3 年間(2009 年から 2011 年)に学期末に行なった OI の授業アンケート 9 項目のうち、授業に対する満足度を示す 4 項目をとりあげた(図 2 参照)。回答については、 「非常にそう思う」「そう思う」「どちらともいえない」「そうは思わない」「まったくそう は思わない」の 5 件法のうち、「非常にそう思う」と「そう思う」を肯定的な回答とみな した。取り上げた質問項目は、(1)私はこの授業に意欲的に取り組んだ、(2)私はこの授 業から得たものが多い、(3)この領域の知識と関心が広がった、(4)英語運用力の向上に 役立った、の 4 つで、各々の質問項目に対し肯定的な回答は 3 年間トータルで(1)94%、 (2) 94%、(3)92%、 (4)93% であった。授業の感想として 9 割以上の学生が OI について満足 度が高い内容だと評価していることがわかる。 また、大学実施アンケートの自由記述より学生のコメントの一部(原文ママ。カッコは 筆者が追記)を紹介すると、 ・「この授業は、音声学の授業がない 2 回生以上の学生全員にお勧めできるもの。」 ・「1 年生以来 IPA から離れていたので、復習にもなったし、自分の英語力が向上し たと思います。」 ・「Oral(OI)2 をしたい。もっと(OI の)1 から発展したい。」 ・「オーラル(OI)2 を作って欲しい。 」 ・「もっとこういう授業があったらいいなと思う。もう一度うけたいから。」 など、Phonetics 後に発音指導を受けられる授業を学生自身が求めていることや、OI を再 受講してみたいという学生の意欲が感じられる。また、 ・「とても楽しく、発音、感情、リズムなどの英語だけじゃない勉強も出来てすごく − 45 − 大阪女学院大学紀要9号(2012) 良い経験ができる授業だと思いました。」 ・「「話す」という表現方法を学ぶステップの一つとしてとてもよい授業だと思った。」 ・「他の授業でもこれは活かせるし必要だと思います。」 ・「めちゃめちゃ楽しかったです。今度 Oral を受けていた友達と一緒にスクリプトを 作ってするつもり。」 ・「音声は奥が深い。練習したら上手になる。ずっと続けないといけない。もっと練 習しようと思った。」 など、コース修了後に自分でも OI や英語音声学習を続けて試みようという自律的な気持 ちが芽生えていることなどがわかる。このような授業に対しての高い満足度の結果には複 合的な要因が存在すると推測されるが、学生の自由記述からは、発音の発展的な指導が継 続して受けられる、またプレゼンテーションの技術が上達する、という理由が浮かび上が る。 (1)私はこの授業に意欲的に 取り組んだ (2)私はこの授業から得たも のが多い (3)この領域の知識と関心が 広がった (4)英 語 運 用 力 の 向 上 に 役 立った 図 2 大学実施の授業アンケート結果(2009~2011)N=325 4. 2 3 要素に特化したアンケート結果 さらに、今回提案した、発展的な発音指導に必要な 3 要素について、2012 年春学期に 同時開講の 3 クラスで 38 人を対象にアンケートを実施(2012 年 7 月)した。そのうち、 36 人分の有効な回答について、 「非常にそう思う」「そう思う」「どちらともいえない」「そ うは思わない」「まったくそうは思わない」の 5 件法の回答結果(図 3 参照)と自由記述 − 46 − 大塚・上田:発展的な発音指導を実現する 3 要素 (Appendix 2, 3 参照)について考察する。 4. 2. 1 統一音声評価基準 第 1 の要素である「統一音声評価基準」については、「Phonetics と同じルーブリックを 発音評価に使って発音を評価される/自己評価することは、発音上達に効果があると思 う」という質問項目を設定した。これに対し、「非常にそう思う」と「そう思う」の合計 が 89% という肯定的な回答を得たことから、9 割近くの学生が Phonetics と共通のルーブ リック使用に対して、学習に役立つと考えていることがわかる。 また、自由記述では、「昨年習得した、発音記号や発音の仕方なので、新しく勉強する よりは、発音上達すると思った。」「ルーブリックを使うことにより、自分では理解できて いなかった間違いに気付くことがよくありました。自分の次の課題を見つける参考になり ました。」「違うルーブリックだとややこしくて上達しないと思う。」「Phonetics の応用と して大切だと思う。」のように、Phonetics から継続的に使われるルーブリックが、発展的 な音声学習にも役立ち、学習の指針として認識されていることがわかった。 4. 2. 2 「従来の OI 目標の継承」 第 2 の要素である「従来の OI 目標の継承」に関連して、「何度も人前に立って口頭発表 することは、音声表現を学ぶのに役に立つと思う」という質問項目を設定した。これに対 し、「非常にそう思う」と「そう思う」の合計が 86% の肯定的な回答を得ており、8 割以 上の学生がクラスメイトの前で発表する効果を認めている。学生たちの様子を見ていると、 人前で発表することに多くの学生が慣れており、口頭発表には積極的に取り組む姿勢が見 られた。 また、自由記述では、 「人に見られると、もっとキレイに、伝わるようにしようと思うし、 自分でふり返って、課題もみつけられる。」「コミュニケーション能力の向上につながると 思う。」のように、メッセージの解釈や伝達に関して聞き手の存在の意義を述べているも のがあった。さらに「人から学ぶこと、見て自分と比べてみることなど、自分の発音を考 え直せる。」「周りの人とお互いにきき合うことで自分にないものなどを発見できたりする のでいいと思う。」のように、自分が聞き手にもなることで視点が変わり、様々な成功や 失敗例を身近で学んでいる実感も述べている。 4. 2. 3 バリエーションのある教材 第 3 の要素である「(学生が自主選択した)バリエーションのある教材」に関しては、 「日 常生活に関わる色々な題材を扱うことは良いと思う」という質問項目を設定した。これ対 し、「非常にそう思う」と「そう思う」の合計は 89% であり、ほぼ 9 割の学生が様々な場 面からの題材選択に肯定的であることがわかる。 学生の自由記述では、「難しい教材より自分の好きなものや興味のあることなら学ぶ気 が増します。」 「日々のニュースやコマーシャルなどを通して、より音声学が楽しく出来た。」 − 47 − 大阪女学院大学紀要9号(2012) というように、教材バリエーションが学習動機を高めていることを伺わせる回答があった。 また、「自分の好きなものをえらべるし、今後、NEWS、映画などを見てても、こういう 風に発音するのかと、興味が沸く。」といったように、コース修了後の自分、おそらく卒 業後の将来の自分につなげての感想もあり、OI が社会へ出る前の音声教育の仕上げの役 割を果たせたのではと思われる。 (1)Phonetics と同じルーブリックを使っ て発音を評価される/自己評価するこ とは、発音上達に効果があると思う。 (2)何度も人前に立って口頭発表すること は、音声表現を学ぶのに役に立つと思 う。 (3)日常生活に関わる色々な題材(News, Storytelling, Announcement, CM, 映 画など)を扱うことは、良いと思う。 図 3 3 要素に特化したアンケート結果(2012)N=36 5. まとめと今後の課題 「Phonetics の応用編」として開講されている大阪女学院大学・短期大学の OI を「発展 的な発音指導の場」とするために必要な 3 つの要素を提案した。まず第 1 の要素は、「統 一音声評価基準」である。基礎クラスで学んだ学習項目を継続的に同じ評価項目と評価基 準で見直しをすることで、学習者にとっても教員にとっても学習項目の定着が確認でき、 担当者が異なる場合も一貫した評価を受けることが可能となる。第 2 の要素は、「従来の OI 目標の継承」である。基礎クラスでは理論通りに正しくできることが目標となるが、 発展のクラスでは OI で本来重視される text の解釈や聞き手の存在を意識した発話を訓練 することにより、 「生きた言葉を発する発話者」の育成につながると考える。第 3 の要素は、 − 48 − 大塚・上田:発展的な発音指導を実現する 3 要素 「(学生が自主選択する)バリエーションのある教材」である。自分で音声表現にチャレン ジしたい題材を選ぶことで、学習動機を高め、また自ら進んで取り組むという自律学習を 生むことにつながる。 以上のように 3 つの要素を OI の授業に組み入れることで、音声学習の基礎の確認も取 り入れつつ本来の OI を学ぶとともに、学習者の自律を促すことが可能となる。このよう な授業では、教員の役割が基礎の発音指導にみられる教員主導型から facilitator へと変化 し、複数の発表作品への分析アドバイス、クラス進度の確認、課題発表までのサポート役 となる。教員の役割の変化に伴い、学生達は自律した学習への取り組みが求められること となり、相乗的に自律学習の促進につながるものと考える。 また大学が実施した学生アンケートや、筆者らが独自に行なった 3 要素についてのアン ケート結果でも学生たちの授業への満足度は高く、audience の前で自分の伝えたいこと を効果的にアピールするという事にも積極的に取り組んでいる様子が見られた。近年の YouTube やスピーチ動画サイト TED に代表されるように、presentation をすることはもは や学校・仕事の場にとどまらず、誰もが自ら「発信者になれる時代」がきたことを明示し ている。OI ではあらかじめ存在しているスクリプトを使用しての発信ではあるが、それ でも学生たちは、既習学習項目を効果的に応用しながら時代が求めるスキルを学んでいる、 という実感があるからこそ、この授業に対して高い評価を示しているのだろう。 最後に、受講時期、Phonetics 理論の定着、facilitator の役割、学生の自主性、CALL 教 室などの活用について、今後の課題を述べる。 まず、OI 受講の時期については、Phonetics の単位取得者が対象であるため、受講生の 年次は通常揃わないことが多い。Phonetics を修了後、継続して OI を受講する場合は良い が、しばらく時間が空いて受講した学生には、音声学習項目の復習時間が必要となり、足 並みそろえた授業の進行が難しいのが現状であり、調整の求められる課題である。 次に、Phonetics 理論の定着については、Phonetics 履修内容の変更や学生の学力低下な どの影響からか、OI 受講時点で Phonetics の基礎の定着が年々難しくなり、発展的な指導 に何らかの工夫が必要となることが予想される。実際に 3 要素のアンケートの自由記述に は、「口頭発表は良いと思うが、準備期間がみじかい。」という率直な気持ちが述べられて いた。何度も行われる発表について、15 週間というコース期間は学生にとっては短く感 じられ、基礎の定着度を確認しながら発展的な授業へと導くシラバスの再調整が必要とな るであろう。 また、教員の facilitator としての役割については、クラスサイズや題材の数の多さにより、 その役目に徹することが難しくなることも課題である。クラスサイズは 20 人を超えると 指導が行き渡りにくく、個人またはグループで選ぶ作品数も 1 クラス内で 10 以上あると、 1 作品あたりにかける指導時間が短くなる傾向にある。しかし、受講者数が少なくなりす ぎると、audience の存在を意識することに欠け、他の発表者から学ぶ機会も少なくなる ことから、OI の教育的な観点で考えると、ある程度の受講人数が確保されることも大切 である。 − 49 − 大阪女学院大学紀要9号(2012) 学生の自主性については、個人差があり、授業内の時間を上手く使えない学生や、授業 外の準備があまりできないまま授業に参加する学生も見受けらる。この場合、自主性の低 い学生の指導に時間がとられることもあり、その自律学習を促すための対応が課題となる。 最後に、CALL 教室やタブレット端末の活用については、今後ますます授業内での有効 な活用方法を提案することが課題となる。CALL 教室でインターネットやプレゼンテーショ ンソフトを使用したり、タブレット端末で録音・録画を行う、同時開講の OI クラス間で 課題発表を視聴し合うなど、授業で出来ることの幅が広がると実感する。 今後は以上のような課題を検証しながら、phonetics 理論の基礎学習の上に構築する発 展的な発音指導、そして他の英語科目との連携の可能性を探り、さらなる研究を進めてゆ きたい。 注 本稿は外国語教育メディア学会(LET)第 52 回全国研究大会(2012 年 8 月 9 日 於 甲 南大学)における口頭発表をもとに加筆修正したものである。 謝辞 本稿の執筆にあたり、丁寧なご指導を頂いた大阪大学の米田信子先生に感謝の意を表し たい。また大阪女学院大学 OI 担当教員として授業資料収集にご協力頂いた井上球美子先 生に感謝の意を表する。 そして、大阪女学院大学・短期大学の音声評価として確立したルーブリックの開発にご 尽力いただいた大阪大学の米田信子先生、大阪経済大学の吉田弘子先生に敬意を表したい。 引用参考文献 浅野亨三(2005).「Oral Interpretation 指導の研究(1)−自立的な Oral Interpreter へ」 『南山短期大学 紀要』33, 243-257. 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