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ヨーロッパにおける河川の 自然再生とわが国の課題

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ヨーロッパにおける河川の 自然再生とわが国の課題
ヨーロッパにおける河川の
自然再生とわが国の課題
(独)土木研究所河川生態チーム
主任研究員 中村圭吾
2005年9月
内容
河川復元の概況・実施例
河川復元に関する研究課題
日本の現状と課題
スイス研究員生活の概要
土研、特別在外研究員制度を利用
期間:H15年10月~H16年9月(1年)
スイス連邦環境科学・技術研究所/スイス連邦工科
大学(EAWAG/ETH):アインシュタインの母校
陸水学部(理学系)河川生態学のグループに所属
タリアメント川の調査&河川復元の研究
日本の河川復元の情報発信(論文、講義、学会)
Fiume Tagliamento (NE Italy)
The King of Wild Rivers
自然河川タリアメント川の
研究から分かってきたこと
ハビタットの変化は非常に激しいが,そのハビ
タットタイプの構成比は一定(動中静)
氾濫原の止水域(池など)は河川生態系の生
物多様性に重要
陸生昆虫の捕食は,水生昆虫にとって大きな
インパクトがある(陸域⇔水域)
河川復元(River restoration)について
最も注目される科学分野の一つ(Science)
1990年以降,実施事例,研究論文が増大
北・西ヨーロッパ,北米,オーストラリア,日本
で多数実施
Stream Ecology is a young science. (河川生態
学は分かっていないことがほとんど)
ヨーロッパ河川復元の歴史
長い開発の歴史
流域の改変,動力として水車用水路(Werkkanal)の開発
産業革命(18世紀半ば~19世紀半ば),一次治水
第2次世界大戦後の経済成長(1950~),二次治水
産業革命後の近代的自然保護のうごき
郷土保護運動(Heimat Kunst),一次治水への反応
1938年Seifertにより近自然河川工法に関する論文
生物学的河川工法(1950~)戦後の物資不足
近自然河川工法Naturnaher Wasserbau(1970~),二次治
水への反省,Landschaftの保全
河川復元 River Restoration(1990~),生態系保全
(Conservation),重要団体:RRC, ECRR
発電用水路(Werkkanal)
http://www.tmg.musin.de/isar/ziele.htm
Case study
Local River Widening (河道拡幅)
Thur 川(スイス)
A. Peter 提供
コチドリが渡来(1842年以来)
Emme River, before local widening (A.Peter提供)
Emme River, after local widening (A. Peter提供)
河道拡幅の目的
河床低下対策
河川のダイナミクスの復元
レキ質河床(河原)の復元
氾濫原の復元(ドナウ川,ウィーン下流)
http://www.donauauen.at/html/english/index.html
河畔林は残るものの,河川との
連続性は保たれていない!
本川と河畔林の連続性
の復元
冠水頻度:8日/yearから
約200日/year
貴族の狩場
河畔林の管理について
は,Hughesらが詳しい
www-flobar.geog.cam.ac.uk/
(NP-Donauauen/Kovac)
生態学者:流木(LWD)の機能が着目されている
)の機能が着目されている
生態学者:流木(
VS
河川管理者:流木の増加が懸念されている
(NP-Donauauen/Kovac)
氾濫原の保全・復元・創出
事例は多数,増加傾向
通常,洪水対策(遊水地)と環境対策(氾濫原
的環境の復元)を兼ねて,氾濫原を復元して
いる事例が多い(ライン川:ポルダーの復元,
オランダ:二次流路の創出)
氾濫原公園(Auenschutzpark)として管理する
場合がある
欧州では旧東欧の氾濫原の保全が課題
残存する氾濫原は東ヨーロッパに集中
(Hughes et al. 2004)
自然再生と水質管理
(スキャーン川・デンマーク)
典型的,しかし大規模
な蛇行復元
自然再生に定量的水
質目標を設定したこと
が画期的(関,2003)
硝酸塩:6%削減
リン酸塩:12%削減
評価はこれから
http://www.europanostra.org/lang_en/awards_2002/skjern.htm
オーストリアの河川復元
Hornbach(角)川の砂防ダム撤去事例
Removal of a debris dam at the Hornbach (WWF A/H. Sonntag 2003)
Timber Floating (木流し)工事の復元
北欧では19世紀半以来,
材木を流すための河川
改修を大規模に実施
スウェーデンPite川では
本川の87%が改修
構造物の撤去および巨
レキの河床への配置
「木流し」文化保護地区
Pite川本川
Make wild river wilder
欧州における河川復元の背景
頻発する洪水:洪水対策と環境対策は一体
EUの積極的関与・影響(環境立国を目指す)
EUライフ:環境事業に補助金
水枠組指令(WFD):2015年までに「良い状態」を
地域政策による国家間プロジェクト推進
EUに加盟希望国の思惑:先進国イメージの形成
農業の作りすぎ問題(overproduction):EUの
補助金の半分
米国における河川復元
河川復元の実施数は,30000件以上 (Palmer et al.)
大規模な河川復元が目立つが,実際は小規模なも
のがほとんど
釣り人の団体が政治的に強く,魚類の復元を目指し
た小規模な事例が多い
河川復元データベース(NRRSS)
Rosgen問題 (Malakoff D. (2004) The river doctor,
profile Dave Rosgen. Science 305: 937-939.)
オーストラリアにおける河川復元
1990年代前半に,河川水の過剰取水が要因
とされる,有毒藍藻類が発生した後,「流量の
復元」が盛ん
環境流量 (Environmental flow)の研究先進国
南アフリカ (J. King)でも環境流量の研究盛ん
2 Flow-ecosystem correlations
Flow categories correlate with vegetation zones
Back Dynamic
1:20
Tree/Shrub
1:2
Intra-annual 4
Intra-annual 2 & 3
Lower Dynamic
upper
lower
Wet Bank
WSLF & Intra-annual1
Aquatic
DSLF
(King, 2004)
河川復元に関する研究課題(1)
自然河川の仕組みの理解(原始河川研究)
タリアメント川の研究
河川地形変化の予測技術の向上
水文・水理,地形,生態学の学際的専門家
環境流量(Environmental flow):
オーストラリア,南アフリカで研究が盛ん
人工洪水(スイス,Robinsonの研究)
河川復元に関する研究課題(2)
Dam撤去:米(ウィスコンシン州)
Damは撤去したより,新たに作っている数が多い
Dam撤去後の悪影響低減策の研究必要
(Stanley)
河川復元に関する研究課題(3)
評価手法
EUでは,WFDをにらんだ研究事例が急増中
EAWAGにおいても2005年完成予定
Reference(復元目標)の考え方
Variation is “normal”; balance of nature is an
exceptional (Bob Naiman)
Restoration goalからRestoration trajectory(軌跡)へ
PictureからAnimationへ
日本の現状と課題
日本の河川復元(1)
気象・地形条件が非常に厳しい
人口密度が高い
河川のダイナミクス大
アジアモンスーンに地域における貴重な事例
水田文化圏における貴重な事例
日本の河川復元(2)
多自然型川づくり累積実施数
30000
20000
累積実施数
10000
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
0
1991
1990年以来,20000件を
越す多自然型川づくり,
世界第2位の河川復元
実施国
2000年前後から,本格
的な河川復元
生態学と工学の連携は
世界的に見ても密(応
用生態工学会)
都市河川における初期の事例
いたち川(横浜,1982)
治水機能を保ちつつ,
低水路の多様性を復元
多摩川 (東京)
ダイナミクスの喪失,レキ河原の喪失
1974
1997
レキ質河床の復元
河道拡幅
土砂供給
外来種(ニセアカシア)の除去 (Robinia pseudo-acacia)
きっかけ作り&自然のポテンシャル
シードバンクを活用した復元
シャジクモ (Chara braunii) は,30年
ぶりに「シードバンク」から復元
日本の課題
河川復元データベースの構築
科学的モニタリングの普及
地形学的視点を含んだ土砂の専門家の育成
保全すべき河川データベースの構築
まとめ
本格的な河川復元は,1990年以降,日本で
は2000年前後から盛ん
欧州では,EU,水枠組み指令の影響もあり,
河川復元は盛ん
河川復元の課題は世界で共通
日本はアジアモンスーン地域における貴重な
事例として,技術開発,情報普及に努めなけ
ればならない
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