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2006 年サッカーW 杯における外国イメージ
日心第71回大会 (2007) 2006 年サッカーW 杯における外国イメージ ~試合の結果と外国イメージの変化~ ○森 津太子 1・高比良 美詠子 2 1 ( 甲南女子大学人間科学部・2 メディア教育開発センター) Key words: 外国イメージ、試合の勝敗、サッカーW 杯 目 的 オリンピックやサッカーW 杯といった国際的なスポーツ 大会の視聴が、他国のイメージにどのような変化に及ぼすか を検討する研究が継続的に行われている(e.g., 上瀬・萩原, 2003; 向田ら, 2001)。これらの研究の多くは、各大会の開幕 前と閉幕後のイメージ変化を調べているが、高比良・森(2006)、 森・高比良(2006)がアテネ・オリンピックの会期中に行った 研究によると、個別の試合の前後においても、その勝敗結果 によって対戦国のイメージが左右されることが明らかになっ ている。本研究では、調査対象の大学生において、オリンピ ック以上に注目度の高いサッカーW 杯(2006 年ドイツ大会) を利用し、試合の結果が対戦国のイメージに及ぼす影響を引 き続き検討する。さらに、試合前後で生じる外国イメージの 変化が持続性のあるものかという点についても検討する。 方 法 調査参加者 甲南女子大学学生 83 名 手続き 日本がグループリーグで対戦するオーストラリア、 クロアチア、ブラジルについて、以下に示す項目を、1)グル ープリーグ開幕前、2)各試合翌日、3)W 杯閉幕後(試合の約 1 カ月後)の 3 時点で調査した。調査の依頼は携帯メールで 行い、参加者は専用ウェブサイトにアクセスして回答した。 調査項目 a) 国に対するイメージ 対戦国に対して現在持っている印 象を尋ねた。回答は、 「全然よくない」から「非常によい」の 6件法で求めた。 b) 国民に対するイメージ(好意度) 国民に対する現在のイ メージを、 「人が良い」 「信用ができない※」 「親しみにくい※」 「公正な」 「冷たい※」 「好き」の6項目で尋ねた(※は逆転項 目)。「全然そう思わない」から「非常にそう思う」の6件法 で回答を求め、平均値を算出した。 c) 試合結果についての知識 試合後の調査で、当該の試合の 結果を知っているかどうかを尋ねた。 結 果 試合前後のイメージ変化(図 1・図 2) 試合結果を知っていると答えた参加者のみを分析対象にし て、試合前後のイメージ変化を調べた。 a) オーストラリア戦(1-3 で敗戦) 試合後に測定したイメ ージは、試合前に比べ、国、国民のいずれに対しても低下し ていた(t(65)=-5.85, p<.0001; t(60)=-4.01, p< .001)。 b) クロアチア戦(0-0 の引き分け) 試合後、国に対するイ メージは上昇したが(t(66)=2.78, p<.01)、国民に対する有意 なイメージ変化は見られなかった。 c) ブラジル戦(1-4 で敗戦) 国に対しても国民に対しても、 試合の前後で有意なイメージ変化は見られなかった。 2. イメージ変化の持続性(図 1・図 2) 試合前後と W 杯閉幕後の 3 時点のイメージを比較したとこ ろ、オーストラリアは国、国民のイメージに対して(F(1.74, 85.25)=19.04, p<.0001; F(1.67, 76.65)=7.24, p<.005 球面性の 仮定が棄却されたため、G-G 法により自由度を修正)、クロ アチアとブラジルは国に対するイメージにおいてのみ(クロ 1. アチア: F(2,106)=3.23, p<.05; ブラジル: F(2, 100)=7.01, p<.01)、 有意な差が見られた。 その詳細を分析すると、対戦直後に低下したオーストラリ アの国および国民に対するイメージは、W 杯閉幕後も有意な 変化が見られず、回復していなかった。また、対戦後に上昇 したクロアチアの国に対するイメージも W 杯閉幕後まで持 続していた。ブラジルの国に対するイメージは対戦後では変 化がなかったが、その後、有意に低下していた(p<.05)。 6.00 オーストラリア 5.50 クロアチア 5.00 ブラジル 6.00 クロアチア 5.00 4.50 4.50 4.00 4.00 3.50 3.50 3.00 オーストラリア 5.50 ブラジル 3.00 試合前 試合後 閉幕後 図1 国に対する イ メージ 試合前 試合後 閉幕後 図2 国民に対する イ メージ 考 察 アテネ・オリンピックでの勝敗と外国イメージを調査した 高比良・森(2006)の研究では、日本が試合に勝った場合には 対戦国のイメージが上昇し、負けた場合にはイメージが低下 するという傾向が見られた。今回の調査においては、日本が 勝利した試合はなかったが、失点をせず引き分けに終わった クロアチア戦では相手国のイメージが上昇し、負けたオース トラリア戦ではイメージが低下したことから、先行研究を追 認する結果が得られたといえよう。またこのような試合後の イメージ変化は約1カ月後の調査でも持続しており、一過性 のものでないことも示された。但しこうした傾向にも例外が あり、ブラジル戦では日本が負けたにもかかわらず、その直 後にブラジルのイメージが低下することはなかった。このこ とから、イメージ変化は試合の勝敗だけでなく、その試合に 対する視聴者の期待(勝敗予想)にも依存する可能性が考え られる。本調査の参加者には、事前に各対戦における日本の 勝率を予想させており、その平均はオーストラリア戦 65.05%、 ブラジル戦 24.46%であった。ブラジル戦の場合、当初から勝 てるという期待が低かったために、敗戦してもイメージの低 下が起きなかったのだろう。今後は、このような視聴者の期 待とイメージ変化との関係を検討していくことが必要である。 引用文献 上瀬 由美子・萩原 滋 (2003). ワールドカップによる外国・ 外国人イメージの変化 慶應義塾大学メディア・コミュニ ケーション研究所紀要, 53, 97-114. 森 津太子・高比良 美詠子 (2006). アテネ・オリンピックで の勝敗と外国イメージ(2) 日心第 70 回大会論文集, 73. 向田 久美子・坂元 章・村田 光二・高木 栄作 (2001). アト ランタ・オリンピックと外国イメージの変化 社会心理学 研究, 16, 159-169. 高比良 美詠子・森 津太子 (2006). アテネ・オリンピックで の勝敗と外国イメージ(1) 日心第 70 回大会論文集, 72. (MORI Tsutako, TAKAHIRA Mieko)