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第55回県展 県展賞受賞作品及び講評
資料 2 第55回県展 県展賞受賞作品及び講評 洋画 ライフ―彷徨― 石田しのぶ (米子市) 【講評】 「ライフー彷徨―」石田しのぶ氏の作品は、ことしの深く、重いテーマを殆どモノクロ ームで強く印象づけている。審査をしていて感じたことは、大胆な構図がまず特徴的。上 部に崩れた建物や船が描かれ、流れて何も無い大地に母か祖母を背負って、空(くう)を 見つめる若者がいる。右端の壊れたカーブミラーが良い位置に描かれており効果的である。 すべてが氏の絵画的造形化がなされており、最近の作品のなかでも特質していると思われ る。 絵画は自分の表現様式で、他では表すことができない、色と形の言葉で物を言う。永遠 のテーマである。 (講評者 上田 敏和) 日本画 樹根 古田 啓子 (鳥取市) 【講評】 山深い森の奥で、風雪に耐えて、そして岩の上に根を張って、蘖になって生き続ける。そんな 樹木の生命力を丁寧に描写した力作で好感が持てる。さらに澄み切った空気を感じさせ、作品を 見ていると爽やかな心地良さを感じさせてくれる。 (講評者 岸本 章) 版画 前へ・・ 桑田 幸人 (倉吉市) 【講評】 今年の審査結果は、ジャッジ採点の順位が一点差で連なり、最高得点を得た作品が県展賞に選 ばれた。しかし、賞候補の作品はいずれもハイレベルであり、作品の完成度は高かった。その中 で、作品自体が強い主張を持ち、対峙する鑑賞者の内面を深くえぐる力を持って、他の作品を圧 倒したのが受賞作品であった。牛の群像は、作者自身であり、観る者を擬人化させる鑑として描 く秀逸な作品である。それは、牧歌的な風景に遊ぶ凡庸な牛ではなく、意志を持って何かに怒り、 やるせない憤りの表情が、牛たちの前足の爪に凝縮されている。日常生活の隙間に、非日常を垣 間見せる芸術の強い意志を、久しぶりに感じさせる大作である。表現したいと言う情動に流れや すい中で、美を生み出すセオリーを画面構成の中で踏襲している。まさに、お見事である。鳥取 県の木版画の奔流が再び始まる兆しを感じている。 (講評者 計羽孝之) 彫刻 打棄る人 梶村 自得 (米子市) 【講評】 金属と木をうまく融合させた美しい作品である。荒々しく削り取られた木の台上に、高くそび える球状の針金の中には、生命の誕生を感じさせる卵状の木が浮かんでいる。まるで優しい何か によって守られているかのようだ。それらの形は、若干の弱さを感じさせるが、力強く削られた 木に打ちつけられた釘や金属板と、上空に浮かぶ球体などによって強さと優しさを表現するなど、 作家の巧みな技術と豊かな感性を感じることができた。しかし、無難にまとめられている感じを 受けるので、今後さらに大胆に自己表現されることを期待する。 (講評者 永江 靖幸) 工芸 萌芽 齋江 仁美 (鳥取市) 【講評】 今年は、齋江仁美さんの竹工作品「萌芽」が県展賞を受賞した。 弧を描きながら連続する竹のライン、そのかたちの先端が天空へと伸びていくかのよう な生き生きとした表現である。 対称する2つの面の一方を合わせ、全体として三角錐の構造に近いユニークなフォルム となっている。 細い竹、幅のある竹など、多様な竹材を駆使して面を構築し、竹の間合いと連続の中に、 確かな秩序と律動がみえる。 従来の竹工作品にない新たな竹工芸の「立体造形」としての可能性を鮮やかに示してみせ た本展最高の意欲作といってよいだろう。 (講評者 外舘 和子) 書道 おく山の 井上 聖子 (鳥取市) 【講評】 県展賞の井上聖子さんの作は全体の構成の妙だといえる。特に墨の濃淡を使いながら潤渇のお りなすメロディを聞く思いがするが、9首の歌を程よく調和させ、それぞれ山場を作り、盛り上 りを見せている。またその線質はまことに素直なものが基調をなしていて心地よい作となってい る。 ((講評者 柴山抱海) 写真 秘密 井尻 奈々 (境港市) 【講評】 決定的瞬間で有名なアンリ・カルティエ=ブレッソンの名言に「私は目と頭と心を照準に合わ せて写真を撮る」とある。それは、被写体や背景に対して知的関心を持ち、対象となる事物に共 感する心を大切にして、作品化することが大切と示唆している。 第55回県展写真部門は、154点の応募の中から、独創的で表現方法の練れた完成度の高い 「秘密」を厳選の結果、県展賞とした。 組み写真は、一枚一枚が作品として成立していることが大切で、それが組み合わされることに より、どんな些細な被写体でも想像力をかきたて、視覚的衝撃を与えることができる。 この作品は、光と影を匠に取り入れ、画面を単純化し、事物の動きを瞬時に捉え、連続性を否 定しつつ、物語性を表現するという高度なテクニックを駆使している。しかも、艶っぽさを感じ させる構成的タブロー写真は、作者の感性の高さを表わしている。 (講評者 生田 英明) デザイン COLORS/CASCADE 岩永 輝也 (鳥取市) 【講評】 デザイン部門の一般応募作品数は39点であった。その中で岩永輝也さんの作品「COLORS/CA SCADE 」が県展賞に輝いた。今年は、3.11に未曾有の災害、東日本大震災が起こった年である。 日本国民のひとり一人が決してこの大惨事を忘れることがあってはならない。と、感じていたことだろう。 そうした、時代背景や社会に巻き起こったことを作品を通じてメッセージし、自身の精神性をひとつの 作品とし、創造することが、デザインの背骨であり、使命感でもある。 県展賞に選ばれた作品は、そうした2011年という時の記憶と明日への希望を見事な作品として表し ている。希望の虹を感じさせる色彩豊かな織り糸を画材に選び、B1サイズの画面全体に“静と動”を視 覚的に感ずられるよう緻密に精緻な手作業で一本一本垂直及び対角に張り込まれている。あたかも虹模様 ともいえる色糸の滝を表す平面立体の作品は鎮魂の光と希望の存在を静かに観る者に与えてくれる。言葉 を排除し、B1の画面の色糸のアートな世界が(岩永作品が)被災地から遠く離れた鳥取からの明日への 応援メッセージのように思えたのは、私だけなのだろうか。 デザインは美術展の中で作品と作者が社会性や時代性を強く意識し自身の作意を独創的に創造、造形表 現し成しえなくてはならない。美しくあること、健全な考え方であること、巧みな技術であることを、見 事に備え完成させた岩永作品は、2011年という年に開催された鳥取県美術展デザイン部門の県展賞に 相応しい作品として、審査員一堂が高く評価し選定したものである。 (講評者 植木 誠)