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トヨタ社会貢献活動事例集

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トヨタ社会貢献活動事例集
Neighbors
ネイバーズ
トヨタ社会貢献活動事例集
お問い合わせ
社会貢献推進部 社会貢献推進室
〒112-8701 東京都文京区後楽1丁目4番18号
Tel: 03(3817)9361
www.toyota.co.jp/jp/community_care/
2006年1月発行
この冊子は古紙100%の再生紙を使用しています。
2号. 2006
C1
Neighbors
Neighbors
トヨタ社会貢献活動事例集
全世界のオールトヨタで豊かな社会づくりに情熱をかけて―
―
ネイバーズ
2号.2006
「Neighbors」第2号発行にあたり、思うところを述べさせていただき
ます。
Environment
環境
2
トヨタは創業以来「モノづくりを通じた豊かな社会づくり」
を企業精神の
トヨタリビングストリーム
原点に据え、事業活動を展開してまいりました。そして今日、その活動
米国
アウトドア教室
は世界26の国と地域で生産活動を展開し、170以上の国と地域で販
5
売活動を行うまでに至りました。
シンガポール
6
そうした中で、今日のグローバル化した社会におけるトヨタの存在意義
を考える時、我々は今一度その原点に立ち返り、豊かな社会づくりの
苗床のネットワーク
ために何をすべきなのかを改めて考える時期に来ているのではないかと思います。
インドネシア
プリウス森木会
8
日本
10
自動車という商品そのものを通じて社会に貢献することは勿論のこと、世界的にも大きな課題である
「環境」
分野、我々の本業と切り離すことのできない
「交通安全」
分野、そして、これからの社会を支
える
「人材の育成」
といった領域まで、これまで以上に高い次元での社会貢献活動を強力に推進す
トヨタ白川郷自然學校
ることが求められているのではないかと思います。
日本
そのためには、世界各国のトヨタの仲間達がすでに取り組み、高い成果をあげている好事例を交換
Education
教育
自動車整備訓練センター
し合い、横展開し、活動の質を高めていく。グローバルトヨタの関係者の知恵、創造性を結集し、豊
14
かな社会づくりのために新たな価値を生み出していく。――そう言った、素晴らしい活動を広く展開
していくことが必要です。
米国
17
私は、この
「Neighbors」
をそのための
“インスピレーションの宝庫”
として全世界のトヨタ関係者が熟
トヨタ・テクノロジー・チャレンジ
読し、お互いの活動に磨きをかけるメディアとして育って欲しいと願っております。
英国
トヨタエコユース
20
2006年1月
マレーシア
トヨタ自動車株式会社
社会貢献活動委員会 委員長
Oそ
th
er
の他
22
教育・生活向上支援
オマーン
メディカル・アウトリーチ
フィリピン
26
マイクロファイナンス
サウジアラビア
24
社会貢献活動基本理念
《2005年4月制定》
目的
トヨタ自動車株式会社と関連子会社(以下トヨタ)
は、豊かな社会の実現と、その持続的な発
展のため、積極的に社会貢献活動を推進します
取組み姿勢
トヨタは、社会の幅広い層と力を合わせ、持てる資源を有効に活用しながら、次の世代を担う
人材の育成と社会的課題の解決に向けた社会貢献活動に取り組みます
社員の参加
トヨタは、社員が一市民として主体的に行う社会貢献活動を支援します
情報開示
トヨタは、社会貢献活動の成果を開示し、広く社会と共有し、社会の発展に寄与することを目
指します
グローバル展開
トヨタは、社会貢献活動基本方針(後掲)
をグローバルに共有し、各国・各地域の実情に合わ
せた社会貢献活動を展開します
1
Environment
水源保全の環境教育/米国
トヨタ モーター マニュファクチャリング ケンタッキーは、ケンタッキー州の魚類野
生動物局が運営する「サレイト野生動物教育センター」に、教育用展示「トヨタリビ
ングストリーム」を企画・建設。開設以来、サレイト野生動物教育センターで最も人
気が高い展示物のひとつとなっている。同社は、建設工事費の全額30万ドル(約
3600万円)を寄贈した。また、同センターの環境保全活動に同社の従業員も参加
しており、活動としての広がりも見せている。
▲
トヨタリビングストリーム
When and Who
●
2003年にオープン
●
トヨタ モーター マニュファクチャリング ケンタッキー
ボ ラン ティア の 協 力
で、フェンスの補修作
業もあっという間に完
了。
(TMMK)
Why
TMMKは、トヨタ自動車の全額出資子会社として誕生
した北米初の車両生産拠点。1988年に生産活動を開
なり、周辺河川の水質を測定・分析するプロジェクトを指
始して以来、現地に根ざした企業市民をめざして幅広
導するなど、草の根的な活動から始まった。
い社会貢献活動を行ってきた。
また、ケンタッキー州の魚類野生動物局が推進してい
また、TMMKは、
トヨタの他の事業体と同様に、事業
る
「棲息地改善プログラム」
に参加し、生物学者の指導
活動と社会貢献活動の両面において
「環境」
を重点取
を仰ぎながら、社有地を流れる河川や周辺の森林の自
り組み課題としているが、なかでも水源の保全に力を注
然環境復元・維持のための活動も行ってきた。ケンタッ
いできた。TMMKは、トヨタでは世界最大級の生産拠
キー州は約95%が私有地で、野生動物の棲息環境を
点であり、生産工程で大量の水を使用するからである。
改善するには、土地所有者である個人や企業の協力
TMMKの環境管理部長を務めるジェフ・クロック氏は、
が不可欠なのである。同プログラムの普及により在来種
水源保全は、トヨタの使命だと言う。
の魚類・動物が増加し、それらの棲息地域も拡大して
「トヨタの子会社として、地域社会からは大きな注目を
いると言う。
集める企業ですから、とくに環境保全には最大限の取
り組みを行っています。年間で1億1000万リットル以上
▲
トヨタリビングストリ
ームは、サレイト野生
動 物 教 育センタ ーの
展 示 物 の な か でも特
に人気が高い。
What
自立
の水を処理し、生産工程で再利用しています。また、排
TMMKは、棲息地改善プログラムを通じて魚類野生
水に関しては、
“環境のトヨタ”
として、川の水よりもきれ
動物局と緊密な関係を築いてきた。同局が運営するサ
いに処理することに努めています」
レイト野生動物教育センターが「水」
関連の展示物を構
同社では、環境への取り組み姿勢を地域の人々によ
想していることを知り、水源保全に対するTMMKの取
り深く理解してもらうだけでなく、地域の人々とともに環
り組みをいっそう多くの人に知ってもらう機会と考え、ス
境保全に取り組むことを目指し、
「水」
をテーマとした社
ポンサー企業として名乗りをあげた。
会貢献活動を進めてきた。当初は、工場の環境管理マ
このプロジェクトは、他の意味でも、TMMKが社会
ネジャーが、近所の高校の科学クラブのアドバイザーと
貢献活動で重視する条件に合致していた。それは、
トヨタリビングストリームは、ケンタッキー州在来のさまざまな魚類や植物を集めて整備された人工の小川。川
の各所に設置された
「ラーニング・ステーション」
では、周辺に棲息する魚類の生態を学び、川の一部がガラ
ス張りになった野外水族館では、魚たちを水中から観察し、流れ落ちる滝の裏側を歩き…。小川に沿って歩
きながら、河川や水辺に棲息する生物が互いに支え合って暮らしていることを自然に学ぶことができる。また、
水質の指標や、水質改善のために市民一人ひとりや地域社会ができることなども紹介されており、
「水」
全般
について楽しく学べる。
トヨタリビングストリームに対する、トヨタ モーター マニュファクチャリング ケンタッキー
(以下、TMMK)
の
直接の支援は完了したが、その後も、同社は、サレイト野生動物教育センターをさまざまなかたちで支援し続
けている。例えば、
「ナショナル・パブリック・ランズ・デー」
を機に、大勢の従業員とその家族が、同センターで
ボランティアとして自然観賞路の整備・清掃を行ったり、在来種の草木を植えたり、
「トンボ池」
の清掃を行っ
たりするのも、そうした支援活動のひとつ。
ナショナル・パブリック・ランズ・デーとは、環境分野では米国最大規模のボランティア事業で、毎年、数万人
が参加して各地で環境改善のための活動に取り組む。また、トヨタは7年連続でナショナル・スポンサーとなり、
▲
▲
▲
サレイト野生動物教育センタ
ー を 支 援 す る こと に よ り 、
TMMKの現地に根ざした企業
イメージはいっそう向上して
いる。
新しい遊歩道を整備するボラ
ンティア。
地元の子どもたちが在来種の
植物を届けてくれることも。
寄贈金額・動員従業員数ともに最大の支援を提供している。この日は、TMMKだけでなく、トヨタの各北米
事業体も、全社あげて家族ぐるみでボランティア活動に勤しむ。
2
3
Environment
自然保護教育/シンガポール
「自立」
すること。広報部でコミュニティ
・リレーションズを
担当するキム・メンキー氏によれば、次のような理由によ
Results
アウトドア教室
トヨタ自動車は、シンガポールのスンガイブロー湿地保護区にあるアウトドア教室を
トヨタリビングストリームは、実物の熊が本来の棲息地に
再整備するにあたり、一部設備費を含む工事費の全額7万シンガポールドル(約
「当社は地域社会において大きな存在だけに、支援
近い環境で暮らす姿を観察できる展示と並び、サレイト
500万円)を寄贈した。その結果、アウトドア教室の参加者が増え、環境保全に貢
対象者が当社に依存しすぎないよう配慮しています。当
野生動物教育センターで最も人気の高い展示のひとつ。
社にだけ頼っていたら、健全には育ちませんからね。あ
見学者へのアンケート調査によれば、いちばん印象深い
くまでも、自力で成長していくことが望ましい姿です。し
風景がストリームの「滝」
だそうで、また、来場者の多く
たがって、当社の支援方針としては、唯一の支援者に
がトヨタリビングストリームを目当てに同センターを訪れた
なることを避け、他社からも援助が得られることを条件に
と答えている。さらに、リピーターにその理由を尋ねたと
しています。ただ、他の支援者を探す際、
『トヨタ』
の名
ころ、多くの人が「トヨタリビングストリームをもう一度見る
は強力な説得材料になるはず。
『トヨタも支援してくれま
ため」
と答えている。
ると言う。
す』
と言えば、他社からも援助が得やすくなります。また、
こうした評判は広く行き渡っており、州知事夫妻が来
献するトヨタの企業イメージも
高まっている。
What
アウトドア教室の竣工式は2005年4月23日に行われた。
シンガポールを本拠地とするトヨタ・モーター・アジア・パシ
フィック
(以下、TMAP)
の渉外部長、山田耕平氏は、
式典の挨拶を次のような話でしめくくった。
私たちとしても、そのようにして当社の社名を使っていた
訪した際も、夫妻ともに
「トヨタの展示は?」
と大いに関心
「スンガイブロー湿地保護区に数多く棲息する野鳥や
だくのは、むしろ大歓迎なのです」
を示した。トヨタリビングストリームの成功は、ケンタッ
希少生物について知ってもらうなど、アウトドア教室で充
キー州の人々に、
“環境のトヨタ”
のイメージをいっそう鮮
実した自然教育が行われることを心から喜んでいます。
明に印象づける役割を果たしていると言えるだろう。
これを機会に、ひとりでも多くの方に来訪していただき、
サレイト野生動物教育センターは、まさにメンキー氏が
強調する
「自力」
を発揮しつつ、TMMKの支援も上手
に生かしている。また、同センターの目論見どおり、数
自然保護に対する理解を深め、この素晴らしい自然公
社が相次いで新たなプロジェクトへの参加を申し出てき
園の魅力を多くの人々に伝えていただくことを期待して
ている。支援者のすべてがそうではないとしても、トヨタ
います」
スンガイブロー湿地保護区は、広さ130ヘクタール。
が支援者を集める広告塔となっていることは確かなよう
だ。T M M Kでは、今後もサレイト野生動物教育セン
1993年に自然公園として開園した。シンガポールの市
ターと緊密な関係を保っていく考えで、同社の幹部がセ
街地に近いこともあって、毎年約10万人の人々が訪れ
ンターの理事を務めるなど、センターの運営に直接かか
ている。
ルのトヨタ代理店、ボルネオ・モーターズだった。同社の
環境保全に対するTMMK
の取り組み姿勢を伝える
案内板。サレイト野生動物
教育センターを支援して
いることにはあえて触れ
ていない。
When and Who
●
2005年に開所
●
ボルネオモーターズ/トヨタ・モーター・アジア・パシフィッ
ク
(TMAP)
:プログラムコーディネーション
トヨタ自動車:資金支援
Why
シニア・マーケティング・マネジャーを務めるデズモンド・
スンガイブロー湿地保護区では、
「リフォレステーション&
ウォング氏が、両者の出会いの経緯を語ってくれた。
リーチアウト」
という名のプログラムのもと、5つの高等学
「当社は、さまざまな団体から支援を要請されます。
校から募った高校生ボランティアの協力を得て、アウトド
[サレイト野生動物教育センターについて]
意義があると思われるものについてはできるだけ要請に
ア教室周辺の植樹活動を進めていた。プログラムの拠
サレイト野生動物教育センターは、1995年、ケンタッ
お応えするようにしていますが、とくに、地元だけでなく、
点となるアウトドア教室の再整備を支援することは、トヨ
キー州の州都フランクフォート市にある魚類野生動物
東南アジア全域に及ぶPR効果が見込まれるような案件
タにとっても大きなPR効果となる。
局の猟獣農園内に開設された。長年にわたって同局の
については、今回のようにTMAPに紹介することもあり
局長を務めたジェームズ・サレイト氏の名が冠されて
いる。約90ヘクタール(東京ドーム約19個分)の広大
ます。スンガイブロー湿原のアウトドア教室は、トヨタが全
世界で力を入れている環境教育にぴったり適合するプ
な敷地では、さまざまな展示が公開されている。新た
Results
アウトドア教室の再整備は、スンガイブロー湿地保護区
が発行する季刊誌『ウエットランズ』
やホームページで大
な展示計画がいくつもあるが、いずれもスポンサー待
トヨタリビングストリーム
は 、ケ ン タッ キ ー 州 の
人々には見慣れた河辺の
風景を新たな観点から見
る機会を提供している。
ロジェクトだったのです」
●
アウトドア教室とトヨタの橋渡しをしたのは、シンガポー
わっている。
▲
アウトドア教室は、池や森林の間に立地しており、湿地棲息地や
その生物を勉強するためには、最適な教育の場。
きく掲載されたばかりでなく、シンガポールのマスコミに
ちの状態と言う。入場料を無料(入り口に「寄付金箱」
よっても広く報じられた。さらに、保護区のスポークス
が設置されているのみ)にしている同センターには、
ウーマンは、
「再整備前に比べ、アウトドア教室の利用
収入源がなく、民間企業からの寄付が頼みの綱。
者数が急増したことが何よりうれしい」
と、新アウトドア教
トヨタリビングストリームは、展示内容においても、
室の誕生を喜んでいる。
支援内容においても、サレイト野生動物教育センター
の看板プロジェクトとなっている。ケンタッキー魚類野
生動物財団は、ウェブサイトで同センターへの寄付を
募っており、その模範例としてトヨタ モーター マニュ
ファクチャリング ケンタッキ ーのケースを紹介して
いる。
4
▲
写真左:新装なった教室には、微生物を観察するための双眼顕
微鏡が新たに設置された。同右:高校生のボランティアが作成
した、保護地の遊歩道を題材としたゲームや教材も置かれて
いる。教室は、学校の遠足行事の場としても活用されている。
5
Environment
熱帯雨林保護/インドネシア
苗床のネットワーク
イルディカ教授は、学生と苗床周辺の村人とともにす
そして、1974年10月、事業活動を超え、目に見える
でに約150種の樹木の苗を収集し、約2万本を育てるこ
かたちでの社会貢献活動を通してインドネシア社会の健
けいちょう
(茎の先
とに成功している。育成法は主に
「茎頂 培養」
全な発展に寄与する目的で、トヨタ・アストラ財団が設立
近年、インドネシアの熱帯雨林が急速に減少し、植物多様性の維持が危うくなって
端にある細胞分裂活性の高い茎頂を培養する栽培法)
された。以来、会社と財団がともに教育と環境の分野
いる。ジャカルタ近郊にあるボゴール農業大学の林学部長、イルディカ・マンスー
を採用、樹種によっては60∼90%という高い成功率を
を中心に、社会貢献活動を行っている。
ル教授は、この流れに歯止めをかけようと、全国に「苗床のネットワーク」を張り巡
実現している。また、フィールドワークを重ねながら、歩
らすプロジェクトに取り組んでいる。トヨタ モーター マニュファクチャリング インド
ネシアとトヨタ自動車は、プロジェクトの立ち上げに必要な2万2千ドル(約250万
円)の資金援助を行い、インドネシア社会で注目を浴びている。
留まりの高い育成手法の開発も進めている。
トヨタの支援で立ち上げた苗床のネットワークで育てら
インドネシアは、環境保全にとって克服しなければならな
れた苗は、現在、地域の公園やトヨタの工場周辺での
い大きな課題を抱えている。環境保全対策は、同国が
造林活動や学校が行う植樹行事などに活用されてい
直面している非常に頭の痛い課題である。環境保全を
る。また、イルディカ教授は、これらの苗木をインドネシア
社会貢献活動の中心テーマのひとつに掲げているトヨタ
各地の植樹に活用してもらおうと考え、複数の在来樹
にとって、イルディカ教授が進めるこのプロジェクトは、支
種を公園などの公共地区に植樹するよう、自治体や民
援するにふさわしい社会貢献活動と言える。
間企業に熱心に呼びかけている。
「森林復旧に向けた植林活動では、単一樹種の植樹
Results
が一般的です。しかし、単一樹種の森林は虫害に弱い
苗床のネットワークの構想は、植林などに使われる在来
のです。複数の在来樹種を植えることで、森林の
『免疫
樹種の貴重な供給源としても注目を集めている。ある鉱
力』
が強化されるばかりか、在来樹種の保存にもつなが
業企業からは、鉱山の跡地に植林したいので、数種類
ります。さらに、管理の行き届いた公共の公園などに植
の在来樹種の苗木を供給してもらえないかと引き合いが
えれば、人目のない森林で多発する違法伐採など魔の
あった。さらに、エコ観光の振興を目的に、在来樹種を
手から守られるという利点もあります」
使った森林公園の開発を検討している企業からの問い
教授は、また、複数の在来樹種を育てることの利点
を、農業従事者にも呼びかけていると言う。
「環境保全と農業は対立関係にあると思われがちで
▲
イルディカ教授(写真
左)は、インドネシアの
在 来 樹 種を保 全する
ために、各気候帯での
苗床づくりを推進して
いる。
Why
合わせもあり、熱帯雨林保全のために苗床のネットワー
クが投じた一石は、今後、産業界にも波紋を広げてい
くものと期待されている。
すが、必ずしもそうとばかりは言えません。なぜなら、
チークなどの経済価値の高い樹木を植えれば、数年後
には、農作物と同じように収穫して換金できますからね。
また、単一樹種を植えると、日光が地表まで届かず、
樹木の下で作物を栽培できなくなる可能性があります
What
インドネシアの林業省が明らかにしたところによると、同国では、無計画な森林伐採や違法伐採、山火事、
鉱業、農業や住宅用土地開発などにより、年間推計280万ヘクタール
(日本の国土面積の約14分の1)
の森
が失われている。世界最大級の植物群の宝庫であると同時に絶滅危惧種の動物の棲息地でもある豊かな
森が、消滅の危機にさらされているのである。ちなみに、インドネシアの熱帯雨林には樹木だけでも3万5千種
が生育し、その植物多様性は世界に類を見ない。
これら多様な樹木は、いくつかの異なる気候帯に分布しているため、すべてを1カ所で育てるのは難しい。
が、複数の在来樹種を適度な間隔をおいて植えること
によって、林業と農業を両立することができるのです」
When and Who
●
2004年∼05年
●
トヨタモーターマニュファクチャリングインドネシア
(TMMIN)
とトヨタ自動車
インドネシアでトヨタ車の生産を統括するTMMINと、
そこでイルディカ教授は、苗床のネットワークを全国に広げるアイデアを思いついた。その第一歩として、自ら
販売を統括するトヨタ アストラ モーターの両社は、強い
が教壇に立つボゴール農業大学の近くに苗床をつくり、さらに他大学に協力を呼びかけて、カリマンタンとス
使命感を持って社会貢献活動に取り組んでいる。実は、
ラウェシにも苗床をつくった。
20年ほど前に起きたある不幸な事件に端を発している。
ジャカルタに本社を置くトヨタ モーター マニュファクチャリング インドネシア
(以下、TMMIN)
は、ボゴール
1974年、日系企業を狙った騒動が起き、そのあおりを受
農業大学とは、かねてより教育支援活動を通じて親密な関係を築いていた。また、沿岸のマングローブ林の
け、当時のTMMIN本社ビルが放火されてしまった。こ
修復などの環境保全活動を行っている。イルディカ教授の構想を知って、プロジェクトを立ち上げるための資
金を援助することにした。
のときの経験から、インドネシア社会に根を下ろし、持続
的に発展していくためには、インドネシアの人々から信頼
され、好感を持たれる企業になることが喫緊の課題だと
強く確信した。
6
▲
ボゴール農業大学に隣接する苗床では、樹木の苗の培養・栽培の手法を改
良する研究が行われている。
7
Environment
参加型の森林保全活動/日本
し
ん
ぼ
く
か
い
プリウス森木会
時代が後押ししてくれた面もあったと鷹取氏は言う。
例えば、同社では、毎月第2水曜日を
「クリーンデー」
と
「プログラムを開始した1998年当時は、サラリーマン
名づけ、全店舗で店舗周辺の清掃を行っている。また、
の余暇の過ごし方に大きな変化が現れ始めたころでし
毎年12月には、県内50ヵ所以上ある児童養護施設の
日本の販売会社の神奈川トヨタは、1998年、ハイブリッド車「プリウス」の発売を記
た。例えば、週末は、ゴルフをするかわりに、子どもと一
子どもたちにクリスマスケーキを届けて回る。さらに、
念して、オーナーを主会員とする「プリウス森木会(=親睦会)
」を発足。植樹や自然
緒にアウトドアで過ごすなど、健康志向と家庭回帰の兆
2000名を無料招待し、神奈川フィルハーモニー管弦楽
しが見え始めたころだったのです。さらに、中高年を中
団による
「クラウン・クラシック・コンサート」
を毎年開催して
心にハイキングブームが本格化した時期でもありました。
好評を博している。
観察会などの活動が、新聞などに大きく紹介された。プリウス森木会は、神奈川県
が推進する「かながわ水源の森林づくり」への協賛活動の一環でもあり、同社の森
林保全活動は、2001年と2004年に神奈川県知事から表彰を受けた。
こうした時代背景にぴったり合う事業だったわけです。
もちろん、企画段階ではそこまで予測してはいませんで
プリウス森木会は、プリウスのオーナーと一緒に、さまざ
したが……」
森木会に参加した多くの人が、「普段は、ただぼんや
まなイベントを通して森林の自然に触れながら親睦を深
り見過ごしてしまう山の景色が、まるで違うものに見えま
める目的で発足したが、神奈川トヨタがかねてより進め
した」との感想を持つ。森林インストラクターと一緒に歩
てきた企業イメージづくりとも合致した。同社では、1996
きながら、植物の名前や特徴、森林の持つ役割などを
年より、本社店舗においてマウンテンバイクやカヤック、
知る楽しみも、新鮮な体験となるようだ。プログラムの内
テントなどのアウトドアグッズの販売を開始し、自然志向
容は、今後もますます充実させていきたいと言う。
イメージの浸透を図ってきた。戦略は的中して集客力を
「悪天候の日の代替プログラムの充実も課題ですね」
ちなみに、プリウス森木会の各回実施経費は、移動
用の貸切バスやお弁当代など20万円弱。参加者から
は1人1000円の参加料を徴収し、残りは神奈川トヨタが
What
プリウス森木会が発足して7年、年に2回の植樹や自然観察会を欠かさず開催してきた。神奈川県環境農
政部に所属する森林インストラクターの指導のもとで体験する森林保全作業や、ゲームや工作など、その内
容も、環境保全に関する知識を楽しみながら学び体験できるよう試行錯誤を重ねながら工夫してきた。
ある日のスケジュールは、例えばこんなふうだ。午前中は、植栽や間伐、笹刈り、草刈り、鹿などに苗を食
い荒らされないための囲いの設置。昼食(神奈川トヨタがお弁当を用意)
をはさんで、午後は、各自が作業し
ながら調達した自然の素材を使ってブローチやクリスマスリース、竹笛、オカリナ、草木染めなどの工作。ま
た、ある日は、カヌーの訓練を受けた後に、貯水池に捨てられたペットボトルや廃タイヤなどを回収し、それら
を材料に、手作りロケット
(ペットボトル)
やブランコ
(廃タイヤ)
の制作。参加者は毎回50名。小学生から高齢
者まで年齢は幅広く、ひとりで、親子で、夫婦でと、その顔ぶれも多彩だ。これにインストラクター5∼6名、神
て知られ、単独事業としても利益を出している。
Results
神奈川トヨタによるプリウス森木会の運営と、かながわ水
全額負担している。
業を行う
「プリウス森木会」
の参加者。
大きく伸ばし、それに伴い、アウトドアグッズ事業も軌道
に乗り、横浜周辺ではアウトドアグッズ用品の小売店とし
と、鷹取氏。
▲ 専門家の指導のもと、間伐などの作
Why
神奈川トヨタはプリウスの販売台数に伴う神奈川県へ
源の森林づくりへの協賛活動は、これまで全国紙や地
の寄付活動も同時に実施。当初1台販売する毎に1万
元の新聞に何度も大きく取り上げられ、2001年と2004
円を寄付していたが、2001年より3000円とし、2005年
年には神奈川県知事から表彰されるなど、きわめて大き
夏現在、総額は約3200万円となった。
「プリウス森木会」
な企業PRの役割を果たしてきた。しかし、同社では、
としての森林保全活動と、神奈川トヨタの寄付活動を
あくまで社会貢献活動として位置づけ、自社の宣伝広
“プリウス
(さきがけの意)
”
に、神奈川県は
「水源林パー
告ではあえてこのことを訴求することを避けている。
トナー制度」
をスタート、現在は20の企業・団体が参加
している。
When and Who
●
1998年から毎年2回の開催
●
神奈川トヨタ
神奈川トヨタは、プリウス森木会の実施の他にも社会
貢献活動を通じて地域社会との接点を充実している。
奈川トヨタ社員複数名、万が一に備えて看護師1名が同行する。
募集告知は、神奈川トヨタの57ヵ所の販売店で配布する広報誌『Off(オフ)
(
』季刊誌、4万部発行)
やチ
ラシ、DM、パブリシティなどで行っている。当初は、参加者の約8割がプリウスオーナーだったが、近年は、
一般からの応募が定員の3倍にも上り、参加者の半数を非会員が占める。しかし、森木会の企画・実行を担
「当社にしてみれば新しい試みでしたし、地域社会の方々にとってもわかりづらい提案だったからでしょうね。
最初の数回は定員に満たず、従業員や家族を動員して補いました。でも、一度、参加すれば、このプログ
ラムの素晴らしさはわかっていただけますからね、口コミで評判が広がり、応募者数も徐々に増えていき
ました」
8
同中央:手作りロケットの
材料は、貯水池から回収
したペットボトル。
▲
当する鷹取修さんによれば、スタート当初は、その参加者を集めるのが一苦労だったと言う。
写真左:神奈川トヨタの広
報誌『Off』で、プリウス森
木会への参加を呼びかけ
ている。
同右:鹿に苗木を食べられ
ないようにフェンスで囲
う。
9
Environment
環境教育・自然体験・文化体験/日本
トヨタ白川郷自然學校
通年プログラム
項目
自然体験
トヨタ自動車は、2005年4月、世界文化遺産に登録されている白川郷合掌造り集
ミクロな叡智をプレゼント
落の近隣に、
「トヨタ白川郷自然學校」を開校した。同校では、これまでに類を見な
トヨタ白川郷自然學校
環境教育プログラム
い環境教育プログラムの実施と併せ、環境保全のための実践的なプロジェクトを進
共生プロジェクト
めている。
伝統文化
環境技術
3時間
1時間30分
ブナの森ガイドウォーク
2時間
ナイトハイク
1時間30分
モーニングウォーク
1時間30分
360°フォトシアター
30分
ピンホールでスローカメラ
2時間
スターウォッチング
1時間
*このほかに季節プログラムも実施している。
▲
トヨタ白川郷自然學校
のゲストハウス。もう1
棟と併せ、100名が宿
泊できる。
所要時間
世界遺産合掌集落なるほど風景スライドショー
▲
▲
充実したプログラムの例。
トヨタ白川郷自然學校は、環境教育・自然
体験・文化体験を備え合わせた、日本で初
めての施設。
独自性
トヨタ白川郷自然學校は、
「自然体験」
「環境技術」
「伝
容の充実度にあると言う。
統文化」
を3本柱とする、かつてない試みの環境教育施
「環境教育の看板を掲げた施設は、今ではそれほど
設である。たった1人でも、100人の団体でも利用できる
珍しくありません。周辺の散策路をガイドが案内するホ
各種プログラムが用意されている。
テルもありますし、本格的な自然体験をさせてくれる施
例えば、早朝6時半にスタートする
「モーニングウォー
設もあります。しかし、自然体験に加えて、世界遺産と
ク」
も自然學校ならではのプログラムのひとつ。参加者
いう文化的・歴史的景観を目の当たりにしながら、環境
(最大20名まで)
はインタプリターの案内で約1時間半に
保全プロジェクトに自ら参加する手ごたえを実感できる
わたって周辺の森を散策する。途上で遭遇する昆虫や
体験は、トヨタ白川郷自然學校でしか得られないもので
植物、野鳥などの解説を聞きながら森林浴を愉しむこと
はないでしょうか」
ができる。
また、教育プログラムには、トヨタ白川郷自然學校が
When and Who
推進する環境保全プロジェクトに参加するプログラムも
●
2005年に開所
組み込まれている。例えば、里山の自然保護のための
●
トヨタ自動車
活動などだ。春になると、里山のカタクリの花に蜜を求
What
氏は、他の施設と同校との決定的な違いはプログラム内
めて群がるギフチョウは、里山の衰退に伴うカタクリの減
Why
少によって絶滅の危機に瀕している。そこで、ギフチョウ
白川村は、合掌造り集落を中心とした飛騨・白川郷の
ここ数年、トヨタの内部でも、
「本業を通じて培った環境技術をさらに広い分野に適用・実証したい」
という機
を繁殖させるために、カタクリを植栽するプロジェクトが
文化的環境とその周辺に広がる美しい自然環境を損な
運が高まり、次々新プロジェクトを始動させるなか、
「白川村の社有地を環境保全を実践するモデル地とした
スタートした。参加者は、カタクリの生育に必要な十分
うことなく、村の主な収入源である観光業を振興し、健
な日光を確保するための間伐や下草刈りなどの作業に
全な生活基盤として次世代につなげていくことを重要課
従事する。このほか、白川郷周辺の古道を整備するプ
題としていた。環境教育施設の構想が具体化に向けて
ロジェクトにも参加することができる。さらに、環境技術
動き出したのは、2001年のこと。トヨタ、白川村、日本
の適用に関するプロジェクトとしては発電用の水車づく
環境教育フォーラムの三者が連携することにより、実現
りや燃料電池の実験などがあり、希望者はもちろんこれ
へ向けて大きな一歩を踏み出すことになった。
らどうか」
という声が挙がっていた。村の関係者や
「日本環境教育フォーラム
(環境省所管の社団法人。環境
教育を促進・支援し続けてきたNPO)
」
に相談を持ちかけ、ともに協議するなかで、宿泊施設や会議室、食
堂などを完備した
「トヨタ白川郷自然學校」
の建設計画が浮上した。
2003年着工、2004年末に竣工、2005年4月に開校の運びとなった。竣工を間近に控えた2004年10月、
トヨタ、白川村の関係者、日本環境教育フォーラム、その他の複数の環境団体が学校運営母体となる
らにも参加できる。
自然や環境に対する人々の関心の高まりを背景に、
NPO法人「白川郷自然共生フォーラム」
を設立した。トヨタの社有地に立つ合掌造り
(空き家)
のうち8軒は
また、こうした教育プログラムとは別に、環境関連の
一般市民を広く迎え入れる環境教育の施設が増え
1981年の豪雪によって致命的な被害を被ったが、残り2軒は難を逃れ、現在は自然學校のインフォメーション
研究も実施している。例えば、トヨタ白川郷自然學校の
ているなか、トヨタでも、かねてより、そうした施設の
センターとして活用されている。
周辺には、ツキノワグマが生息しているが、同じく、個
開設を検討してきた。トヨタは、30年ほど前に、白川村
体数が激減しており、岐阜大学と共同でツキノワグマの
の馬狩集落跡の172ヘクタールの土地と10軒の合掌
総建設費は約30億円。施設の所有者はトヨタで、白川郷自然共生フォーラムにその運営を委託してい
る。スタッフは約40名。4名のインタプリター
(教育プログラムの案内役)
をはじめ、管理・事務職など常勤が約
調査を実施している。
トヨタ白川郷自然學校の総支配人を務める横井純夫
造りの家を購入し、従業員の保養施設として利用して
いた。
20名、宿泊施設や食堂のパートタイマーが12名、研修生が8名という構成である。
10
11
Environment
Results
にそれほど大きな変化はなく、案内役の話し方もパ
ターン化しがちですよね。ところが、ここはいつ来てい
横井氏によれば、トヨタ白川郷自然學校は、初年度
ただいても、その時々の変化を楽しんでいただけます。
(2005年4月∼2006年3月末)
は1万3千人の利用者数
2、3日滞在している間に、ツボミだった花が開花した
の達成を目指している。
「日本では当校と類似する施
り、はっと気づいたら葉が色づいていたり…。自然の
設がないため、目標設定の参考にするものがありませ
生き物は10分後でさえ、今とは確実に何かが違って
んでした。そこで、さまざまな要素を総合的に検討し、
いるのです。季節が変われば、すべてが大きく変化
これくらいはいけるだろうと思われる数字を掲げていま
します。
す。やや強気の数字ですが、目標として掲げた以上、
また、利用者一人ひとりの関心や希望に合わせた
その達成に向けて知恵を絞り、あらゆる手を尽くして
ガイドをするインタプリターの存在も、ここの大きな魅力
がんばっています」
のひとつとなっています。例えば、上を見上げている方
現在までの利用状況は?
がいらっしゃると、
『何か、見えますか?』
と声をかけ、
『あの木はね…』
と自然に関する知識を伝えていくとい
し、目標まであと3500人という状況です。地元の食材
うように。利用する方にとっても、インタプリターにとって
にこだわったフランス料理と天然温泉も好評の要因
も、常に新しい発見があります。私自身、モーニング
です。これから厳しい冬に向かいますが、白川郷合
ウォークなどの案内役を何度しても、飽きることがありま
掌造り集落は一面銀世界の冬景色のころが最も美し
せん。私たち自身の感動が、利用する方たちにも伝わ
く、それも目玉のひとつにした利用者誘致のための
るようです」
マーケティングを積極的にやっています」
ユニークで有意義な試みとして頻繁に大きく取り上げ
少なくない。人気の秘密は、プログラム内容の充実と
られ、環境保全・環境教育に対するトヨタ独自の取り
ともに、時々刻々変化する自然そのものの魅力に拠る
組み姿勢を伝える大きなPR効果を果たしている。
は言う。
「一般的なテーマパークでは、乗り物やアトラクション
写真上:世界文化遺産の指定を受けた
「合掌造り」の建築構造を解説するチー
フインタプリターの山田俊行氏。
同中央:環境保全プロジェクトの参加資
格は年齢不問。写真の子どもたちは、
ギフチョウがその花の蜜を餌としてる
カタクリを植栽するために刈った薮を
運んでいる。
トヨタ白川郷自然學校は、テレビや雑誌・新聞などで
開校からわずか半年にもかかわらず、リピーターも
ところが大きいと、チーフ・インタプリターの山田俊行氏
▲
トヨタ白川郷自然學校は、
「
『日本一美
しい村』を目指す白川村に『日本一の自
然学校』をつくる」という目標を掲げて
スタートした。
▲
「予約を含め、9月現在で利用者は約9500人に達
同下:
トヨタ白川郷自然學校では、自分
で樹木の苗を植える植樹を体験でき
る。写真は、インタプリターの説明を聞
く参加者たち。
利用者に実施したアンケート調査によれば、利用者
の満足度も非常に高いという結果を得ている。しかし、
施設やプログラム内容を高く評価する一方で、「値
段がちょっと高い」
という感想を持つ人たちも少数ながら
同じように、自然保全・自然修復などについてもコスト意
いる。
「子どもだけで参加するならともかく、家族全員が
識を持つことが大事です。今後は、日本でも、また世界
参加するとなるとかなり高くつきますね」
といった声もある。
でも、環境保全の重要性を認識し、その促進に本格的
逆に、
「こんなに安くて大丈夫?」
と心配する利用者もい
に取り組んでいくことになるでしょう。そうならなければい
る。
けないと思いますが、その際、コスト意識が大きな鍵と
自然学校では、採算性とはまったくかかわりなく、利
用者にある程度の負担を負ってもらうことにあえてこだ
なるはずです。当校での体験が、そうしたコスト意識を
育てるきっかけになればと思っています」
わっている。チーフ・インタプリターの山田氏がそのこだ
わりの理由を明かしてくれた。
「映画を観たり、野球を観戦したりするときは、お金を
払うのが当然であることを誰もが認めますよね。ところが、
『自然はタダ』
と思い込んでいる方がいらっしゃる。施設
の維持費や、インタプリターをはじめとするスタッフの人
件費が必要であることは言うまでもありませんが、それら
を抜きにしても、自然に親しむには、それなりのコストが
かかるのだという意識を持ってほしいのです。市場経済
において、道路建設や住宅開発といったプロジェクトを
カタクリも、その花に群がるギフチョウも、着実にその数が増えている。目標は100万株のカタクリの植栽。
12
推進する際に、投資効率が議論の的となります。それと
13
E d u c a t i o n
職業訓練・就職支援/米国
自動車整備訓練センター
就職を支援する教育
ことを決めた。その一環として、地域の若者たちの雇用
「ロサンゼルス・アーバン・リーグ自動車整備訓練セン
機会の創出をめざして、トヨタの中核であり、強みでもあ
ター」
には、各種の修理・整備に関する訓練課目はもと
る自動車関連技術を習得し、就労につなげてもらうため
米国トヨタ自動車販売は、黒人の社会経済への進出を促進・支援する団体「全米
より、就職するための一般教育の科目も用意されてい
の訓練センターを開設した。
アーバン・リーグ」のロサンゼルス支部の協力を得て、1993年、自動車整備訓練セ
る。訓練期間は課目によって異なるが、10∼12週間。
ンターをロサンゼルスに開設した。以来、同センターは、
“都市再活性化のシンボ
毎年、夏と冬の2回、課程修了者を送り出す卒業式が
ル”
として広く注目を集めている。
Results
ロサンゼルス・アーバンリーグ自動車整備訓練センター
行われる。
は、都市の社会経済の再活性化の成功例として、大い
常勤スタッフは専任教師が4名、事務・管理スタッフ6
に注目されている。
名。また理事会は、TMSから4名、ロサンゼルス・アー
▲
訓練期間は6∼12週
間。
部品の組み付けや、
整 備 などの 技 術 を 習
得する。
バン・リーグから3名、そのほかに両者によって任命され
1994年11月、英国のチャールズ皇太子は、事件か
た2名の計9名が理事を務める。TMSは、訓練センター
ら2年を経たロサンゼルスの変貌ぶりを自分の目で確か
の開設費用を含めて計1000万ドル
(約12億円)
を寄贈
めにやってきた。その折、皇太子が視察先に選んだの
しており、現在は運転資金として年間100万ドルを
(約1
も同センターだった。2004年12月には、カリフォルニア
億2000万円)
供出している。
州知事のアーノルド・シュワルツネガー氏が来訪。さらに
訓練センターへの入所資格は、18歳以上で、運転免
2005年5月、ロサンゼルス市長に選出されたばかりのア
許を持つほか、8年生(日本の中学2年生)
相当の読み
ントニオ・ヴィラライゴサ氏は、当選後初の記者会見の会
書きと数学の能力があることなど。この最後の「読み書
場にこのセンターを指名した。ロサンゼルスでは、1872
きと数学の能力」
がネックになって入所できないケースが
年以来のヒスパニック系市長となった彼は、多民族都市
少なからずあると言う。
の象徴的存在である同センターに格別な思い入れが
あったのだろう。
設立時に、毎年100名以上の訓練生を卒業させるこ
What
1992年に、ロサンゼルスで勃発した人種暴動は全世界を震撼させた。米国では、都市のあり方を根本から
見直す契機となった。1957年からロサンゼルスを本拠地として事業展開してきた米国トヨタ自動車販売(以
下、TMS)
は、地元で起きた事件だけにこれを厳粛に受けとめ、健全な都市づくりにいっそう貢献していくこ
とを強く決意した。このときの決意を具体化したもののひとつが、
「ロサンゼルス・アーバンリーグ自動車整備
訓練センター」
の開設である。
なぜロサンゼルスなのか、パートナーはどのようにして選んだのか、訓練センターが生まれるまでの経緯を、
TMSで寄付活動のナショナルマネジャーを務めるトレーシー・アンダーウッド・スミス氏に聞いた。
「そのころすでにトヨタは、米国でたくさんのクルマを売っていましたが、その割には、地域社会における存
在感は希薄だったと思います。とりわけ、自動車整備訓練センターの開設地に選んだ地域では、トヨタも、
TMSもほとんど知られていませんでした。私たちは、地元ロサンゼルスの発展に目に見える形で貢献した
とを公約に掲げて、その公約を守り続けてきたが、訓練
もちろん、これら著名人のみならず、報道機関からも
センターがある地域には、読み書きと数学の能力が必
注目され、都市の再活性化策の好例として取り上げら
要な水準に達していない若者が大勢いる。訓練生を募
れている。これほど注目されるのは、実質的な成果を着
集する以前の問題として、補足教育を行わなければな
実に挙げているからである。開設以来、延べ約1400名
らないことがわかり、2005年に、読み書きと数学を教え
の卒業生を送り出し、そのうちの約7割はセンターの仲
る教室を開設した。
介で就職。同センターは、今や自動車業界でも信頼を
得ている。トヨタ系列はもとより、フォード、日産、本田な
When and Who
●
1993年に開設
●
米国トヨタ自動車販売(TMS)
ど他社系列のディーラーも含め100社余りがセンターの
卒業生を採用しているのである。
Why
Contact
Tracy Underwood-Smith
TMSは、1992年にロサンゼルスで起きた暴動であらわ
National Manager, Corporate Contributions,
になった米国が抱える人種差別の問題と、社会経済に
TMS
おける黒人の地位の実情に正面から向き合い、同地域
[email protected]
の企業市民として、社会基盤の修復・強化に取り組む
かった。そのためには、まず私たちが地元の人々の信頼を獲得し、彼らの積極的な協力を得ることが必須
条件でした」
初めての試みだからこそ、親近感を感じてくれている人々がいる地域を選ぶのが通常のやり方だが…?
「私たちは、PR効果よりも実質的な貢献をめざしていました。訓練センターを開設するからには、最もそれ
▲
が必要とされている地域に開設したかったのです。ですから、1992年の事件の
“震源”
となった地域をあえ
て選んだわけです。とはいえ、事業を成功させるには、知名度も権威もあるパートナーの力を借りる必要があ
ると考え、その最もふさわしい相手として全米アーバン・リーグのロサンゼルス支部に白羽の矢を立てました。
当社は、事件の起こるずっと以前から、採用方針にダイバーシティ
(人種・民族・性別などの多様性)
を掲げ、
自 動 車 整 備 訓 練セン
ターを開設するに当た
り、全米最大のマイノ
ーリティ支援団体アー
バン・リーグのロサン
ゼル ス支 部に協 力を
依頼。強力な後ろ盾を
得られたことも、成功
要因のひとつ。
それを実践し続けています。全米アーバン・リーグはとくにその点を評価してくれて、以前から良好な関係を
築いていました。ちなみに、全米アーバン・リーグのロサンゼルス支部は、全支部中最大級の規模を誇り、最
も活発な活動を展開しているところです。そういう意味でも、素晴らしいパートナーに恵まれたと思っています」
14
▲
ロサンゼルスを中心に100社余りが自動車整備訓練センターの卒業生
を採用している。
15
E d u c a t i o n
科学技術教育支援/英国
トヨタ・テクノロジー・チャレンジ
▲
トヨタモーターマニュファクチャリングUKは、英国における科学技術教育を支援す
全国大会の太陽電池部門とマイコン部門で優勝した
るために、11∼16歳の生徒を対象に、
「トヨタ・テクノロジー・チャレンジ」
と名づけ
2チームには、さらに750ポンド
(約9万円)
の賞金がそれ
たコンテストを2003年から毎年行っている。コンテストへの参加校は年々増えて
ぞれ授与されるほか、欧州大陸への約1週間の修学旅
おり、英国の教育現場を熱くさせている。
トヨタ・テクノロジー・
チャレンジは、
「太陽電
池」と「マイコン」
2部門
で行われ、全国から応
募してきたチームが優
勝をかけて競い合う。
行の副賞が贈られる。2004/05年は、トヨタのギリシャ
販売代理店、トヨタヘラスの協賛を得てギリシャへの修
学旅行となった。
英国中の若者たちが、
柔らか な 頭 を 駆 使し
て、創造力あふれるク
ル マ を 制 作し 、トヨ
タ・テクノロジー・チャ
レン ジ に 挑 戦し てく
る。
コンテストは、TMUKと、英国を本拠地とする産業
▲
用・教育用の電気・電子装置の販売代理店であるラピッ
ド・エレクトロニクスとの共同事業として実施されている。
TMUKは、
主催者としてコンテストの企画と運営を担い、
各チームの構成員は3
∼5 名 で、事 務 局 は、
「男女混合のチーム編
成」を優遇する。
▲
賞金を提供する。ラピッド・エレクトロニクスは、応募者に
配布する組立キットや、必要に応じて追加材料を提供
する。TMUKは、2005/06年のトヨタ・テクノロジー・
チャレンジを開催するにあたり、約5 万3 0 0 0ポンド
(約
1100万円)
の予算を計上している。
創造力の勝負
各部門に応募できるのは1校につき1チーム、両部門へ
計2チームが参加することができる。2004/05年は全国
から約250チームが参加した。3∼5名で構成するチー
ムが多く、事務局としては、
「なるべく男女混合のチー
Why
ム編成が望ましい」
としている。また、言うまでもなく、出
英国では、近年、製造業の空洞化が危惧され、工学
品するクルマは必ずチームのメンバーのみで製作しなけ
教育の充実が広い分野で強く求められている。TMUK
ればならない。
では、かねてより製造基盤の拡充に貢献すべく、各種
各チームには、応募登録した時点で部門別の基本
奨学金による教育支援を行ってきた。トヨタ・テクノロ
キットが無料で付与され、追加材料が必要な場合は、
ジー・チャレンジはその延長線上の施策であり、
「環境に
ラピッド・エレクトロニクスから割引価格で購入できるシス
配慮したクルマづくりを楽しもう」
という趣旨で、社会に
テム。使用材料は限定されているものの、設計の自由
とって極めて重要な工学技術の分野に若い人々の目を
トヨタ・テクノロジー・チャレンジは、環境に配慮した手作りのクルマづくりを
「太陽電池」
と
「マイコン」
2つの部門
度は大きく、毎回、その創造力に驚かされる作品の
向かわせることを目的としている。
で競うコンテスト。参加者は、最長30センチまでのクルマを製作してレースに出場するが、クルマの一部には
数々が応募されてくる。
What
また、学校によっては教師たちがコンテストを教育課
必ずリサイクル材を使用することが規定されている。また、マイコン適用車は、障害物を検知して回避する機
能を備えていることが条件とされる。
2003/04年の初年度は、トヨタが英国に持つ車両工場、エンジン工場、販売代理店の本社がある3地域
の学校に限定して
“試運転”
を行った。ところが初回から応募者は予想を大きく上回る58組に上り、新聞や
程に組み込んでいるところもある。ラピッド・エレクトロニク
トヨタ・テクノロジー・チャレンジは、英国中の中・高等
スの営業開発部長、ベン・ハワード氏も、コンテストの教
学校から注目され、
応募チームは年々増加する一方。
育上の意義を強調する。
メディアの話題となる機会も回を重ねるごとに増え、
「トヨタ・テクノロジー・チャレンジは、各種の科学理論
テレビのトピックにもなった。その結果、欧州トヨタ社会貢献基金の支援を得られることになり、次年度の
をさまざまな分野の技術を用いて実用化していくトレー
2004/05年には対象地域を英国全土に広げ、本格的な展開へと踏み出した。
ニングとして、工学分野の教師や生徒たちのニーズに
第一次選考は企画書段階でのせめぎあい――。各チームは、太陽電池またはマイコンをどのように駆使し
てクルマに適用するか(マイコン仕様車も太陽電池の使用可)
を15ページ以内の企画書にまとめる。企画書
には、クルマのコンセプトのほか、仕様、設計性能、試行経過などを詳細に明記しなければならない。
第一次選考を通過したチームは、英国内7地域で行われるレース大会に進む資格を得る。出場チームは、
審査員の前で、クルマのコンセプトや性能などについて口頭による5分間のプレゼンテーションを行った後、実
Results
PR効果も大きい。
ぴったり合致している。それに、とにかくとても楽しい
しね」
When and Who
●
2003年から毎年実施
●
トヨタモーターマニュファクチャリングUK(TMUK)
際にレース場でクルマを走らせる。優勝チームは、プレゼンテーションとレース成績との総合評価で決定。各
地域の優勝チームは2 5 0ポンド
(約5 万円)の賞金と、トヨタモーターマニュファクチャリングU K(以下、
TMUK)
のダービシャー工場で開催される全国大会への出場権を手にすることができる。
16
17
E d u c a t i o n
環境改善プロジェクトの企画・実施・アワード/マレーシア
トヨタエコユース
8月上旬に、同社による2回目の視察訪問。プロジェ
ど一部の自動車部品の製造も手がける。設立当初か
クトの成果を審査し、問題解決のためのアドバイスを行
ら社会貢献活動にも積極的に取り組み、現在は、トヨタ
う。このときの評価が全体評価の50パーセントを占める。
エコユースを主要活動としながら、全国各地でスポーツ
また、8月中旬には、各チームがクアラルンプールのホテ
や文化活動の支援も行っている。
マレーシアのUMWトヨタ自動車は、
2001年に現地で
「トヨタエコユース」
をスタート。
年1回のペースで回を重ね、今年で5回目を迎えた。トヨタエコユースは、
全国から選
抜された15校の高等学校ごとに参加チームを結成し、教師の指導のもと、校舎な
どの施設を対象に節電や廃水処理など環境改善プロジェクトを企画・推進するプロ
グラム。クアラランプールのホテルで開かれる全国大会では最優秀賞などが選ばれ
る。マレーシア政府もこのプログラムを高く評価し、積極的にバックアップしている。
▲
2005年のトヨタエコ
ユースで4位に入賞し
たSMKラ・サール高等
学校のチーム。空調設
備 の 廃 水 を浄 化 する
プロジェクトが認めら
れた。
ルに集まり、プロジェクトのプレゼンテーションと展示を行
う。プレゼンテーションと展示それぞれが全体評価の残
りの25パーセントずつを占める。
Why
UMWトヨタ自動車は、
「環境保全」
を経営方針の重点
UMWトヨタ自動車は、プロジェクト費用の一部として
テーマに位置づけており、社会貢献活動においてもこ
各校に1000リンギット
(約3万円)
を付与するほか、第1
のテーマを強く打ち出す方針。トヨタエコユースのプログ
位から第5位までの優秀校にはそれぞれ5000、4000、
ラムで活用される問題解決の手法の
「魚の骨図」
は、ト
3000、2000、1000リンギットの賞金を授与する。また、
ヨタ独自のノウハウを活用してもらうことにより、若者の間
マレーシアの教育省は立ち上がりのワークショップと締め
にトヨタに対する理解を深めることに役立っている。
くくりの全国大会(いずれも開催地はクアラルンプール)
に参加するために必要な往復交通費、ホテルでのイベ
Results
ント費用も負担する。ちなみに、2 0 0 5 年のトヨタエコ
トヨタエコユースへの参加校は、初年の2001年は8校
ユース関連のUMWトヨタ自動車予算は35万リンギット
だったが、2002年以降は、毎年15校が参加。現在ま
でに計68校が参加した。環境教育のユニークな施策と
(約1千万円)
。
When and Who
して、その意義は着実に高まっている。
PR効果も大きく、なかでも嬉しい効果は、トヨタ生産
●
2001年から毎年開催
方式で重視される
「横展開」
で周辺諸国にもプロジェクト
●
UMWトヨタ自動車
に対する反響が広がっていることだ。隣国のインドネシア
マレーシアのUMWコーポレーションとトヨタ自動車、
では、トヨタモーターマニュファクチャリングインドネシアが
豊田通商との合弁会社として1982年に設立された。マ
このプログラムに注目し、実際の活動を視察するなどし
レーシアにおけるトヨタ車の輸入販売をはじめ、シートな
てプログラムの運営手法を学びつつ、自国での実施を
What
2001年、UMWトヨタ自動車は、本社周辺の高等学校を対象にトヨタエコユースを開始した。2002年から
は、マレーシアの教育省が、同プログラムの環境に関する教育的価値に注目して協賛することになり、マ
レーシア各州から1校を選抜することを目標に、対象校が全国に広げられた。その結果、2002年以降は、
まずは教育省が参加候補校をピックアプし、UMWトヨタ自動車と相談しながら最終参加校を決定している。
また、マレーシア政府は、数学や科学の教育については、マレー語ではなく、
「第2公用語」
の英語で行うよ
うに働きかけている。その方針に従い、トヨタエコユースも、2004年以降は英語で行っている。
トヨタエコユースの実施期間は約半年間に及び、毎年2月に行われるワークショップがその幕開けとなる。
各校チームはまずクアラルンプールに集合し、環境上の問題を発見、解決する手法を学ぶためのトレーニン
グ受ける。このトレーニングは、UMWトヨタ自動車の環境衛生部及び品質管理部が行っている。参加者は、
環境教育に加え、日本生まれの
「魚の骨図」
の分析法を含めた高度な問題解決法を学ぶ。その後、各々の
学校の環境監査を行い、例えば、廃水処理の不備、土壌の浸食、電気の浪費、冷房装置の油漏れなどな
ど、さまざまな問題を洗い出す。そして、それらの解決法をひとつずつ検討して解決可能なものひとつに絞り、
それを実践するためのプロジェクトの企画書をUMWトヨタ自動車に提出する。これを受け、同社の環境衛
生部長と広報担当者は、各校を訪問し、プロジェクト案の妥当性を確認。ときにはこの時点で、テーマの変
▲
トヨタエコユースの総責任者で、UMWトヨタ自動車
広報部のシティ・マリアム・ダウド氏(写真左)と、トヨ
タエコユースの参加チームの指導にあたる、UMW
トヨタ自動車環境・衛生部長のイスメイル・オマール
氏。
「参加校には最低でも2回は足を運んで直接指導
しています」
と、オマール氏。
▲
毎年、新聞や雑誌がトヨタエコユースの話題を
大きく取り上げる。
更または調整を指示することもある。その後、各校での取り組みが始まる。
18
19
O
t
h
e
r
貧困打開活動/オマーン
検討してきた。その結果、2006年からインドネシア版トヨ
境教育事業の一環として運営する案が浮上している。
タエコユースが誕生することとなった。さらに、韓国をは
UMWトヨタ自動車でもこの提案を受け入れる方向で検
じめとする周辺諸国のトヨタ事業体も関心を示している。
討を進めている。
教育・生活向上支援
オマーンのトヨタ代理店を含むサウド・バフワン・グループは、社会貢献活動を幅広
また、企業広告で、同社が行っている社会貢献活動の
く展開している。高度経済成長を続けているオマーンでは、義務教育や医療は無
模範例として、トヨタエコユースの話題を取り上げた。
料で受けられるのだが、社会保障制度の整備は、他の新興経済国と同様に必ずし
マレーシア国内では、新聞やテレビなど主要メディア
も国民のニーズに追いついていない。サウド・バフワン・グループは、それを少しで
が、毎年、トヨタエコユースの活動の様子を大きく取り上
も補填しようと、経済発展が十分に及ばない社会層に向けた各種の救援活動を
げる。また、マレーシア政府の注目度が高いことも、特
行っている。
筆すべきPR効果のひとつだろう。教育省が企画・運営
に積極的に協力しているだけでなく、環境省も同プログ
写真左:
トヨタエコユー
ス の 参 加 するチ ーム
の活動ぶりを視察する
教育省の職員。
▲
写真右:同プロジェクト
の一部。空調装置の排
水が浄化され、純水と
して蘇って校内の庭園
に注ぎ込む。
▲
サウド・バフワン・グ
ループが開設した視
覚障害児のための施
設。この種の施設と
しては、オマ ーンで
は初めての寮も備え
ている。
ラムを高く評価し、教育省と環境省が共同推進する環
Reporter’s Column
山火事の炎に勝る情熱の炎
トヨタエコユ ースに参加する若者たちの情熱
は、環境保全に取り組むUMWトヨタ自動車の従
業員に希望や勇気を与えてくれると言う。彼ら
の思いの熱さは、私たち取材チームにも強く伝
わってきた。クアラルンプールのSMKラ・サー
ル高等学校を訪ね、生徒たちに進行中のプロジ
ェクトを案内してもらったその日、空は煙ってい
た。折りしも、海を挟んだスマトラ島ではまたも
や大規模な山火事が発生し、黒煙が国境を越え
てマレーシアの空まで曇らせていたのである。
環境保全の難しさをあらためて痛感させられた
私たちは、プロジェクトに参加している生徒のひ
とりにちょっと意地悪な質問を投げかけてみた。
「あなたがたのプロジェクトは確かに素晴らし
いと思いますが、率直に言えば、たかが知れた
規模です。あの山火事のような大規模な環境破
壊の進展には、どうやっても勝てないのではな
いでしょうか」
彼は自信満々の表情で、きっぱりと答えた。
「勝てます」
「どうやって?」
「僕たちは、あの山火事に勝る大きな炎を心
のなかで燃やすことができますから」
UMWトヨタ自動車のトヨタエコユースは、地
球全体から見ればささやかで地道な営みであ
る。しかし、一校一校、生徒一人ひとりの心に環
境保全の「炎」を灯し、やがて次世代の希望へと
つないでいくに違いない。
What
オマーンは、ここ35年間、めざましい経済発展を続けているものの、その恩恵が社会全体に均一に行き渡っ
ているとは言いがたい。なかでも、内陸の山岳部や砂漠地帯などには学校や病院などの公共施設がきわめ
て少ないことから、住民の多くが不自由な生活を強いられている。また、近代化されて以降の歴史が浅いこ
ともあり、出生率が今なお高く、子沢山が家計に重い負担となってのしかかっている世帯が少なくない。同
国では、とりわけ、児童、高齢者、寡婦、専門的治療を必要とする人などの社会的弱者を救済するための
社会保障基盤の充実が求められている。
サウド・バフワン・グループの創業者であり、現会長のサウド・サリム・バフワン氏は、わずか9歳のとき、貿易
商だった父親に伴われ、ダウ
(小型の帆船)
で中近東の貿易港を巡った。このとき、社会には表と裏があるこ
とを肌で感じとり、とくに、生活苦にあえぐ貧しい人々の姿が目に焼きついて離れなかったと言う。中近東を
代表する実業家のひとりとして世界のビジネス界で活躍するようになってからも、
「困っている人を助けたい」
と
いう子どものころの思いを忘れることなく、事業のかたわら社会貢献活動に精力的に取り組んできた。その思
いは、今も変わりなく、社会貢献活動と併行して莫大な額の寄付を行っている。
20
21
O
t
h
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r
サウド・バフワン・グループは、以下のような社会貢献活
学業支援
小・中学校に通学する経済的に恵まれない児童・生徒に
マーンで唯一の視覚障害児のための寮制学校の開設、
も支援の手を伸べている。例えば、2004/05年度は、
児童養護施設の支援、貧困層世帯への食料援助、各
10万人の児童・生徒に制服、スクールバッグ、文房具一
地の学校に計数千台のエアコンや飲料用冷水機を寄
式を贈った。また、給食費を援助している生徒も15万人
贈、専門医療施設の開設。このほか、貧困層の子弟を
に上る。
対象に海外留学を含む高等教育の奨学金制度や、貧
窮者への生活費補助など、その活動領域は広範囲に
児童養護施設支援
▲
動を行っている。心身障害児の教育訓練の実施、オ
専門的医療を中心にヘル
スケアサ ービスを支 援 。
写 真 は 、サウド・バ フワ
ン・グル ープが資金援助
を行っているマスカットに
ある透析センタ ー。この
センターのほかにも、同
市にある14個所の透析セ
ンターを拡大するための
資金援助を行っている。
社会開発省が運営する児童養護施設は、かつて収容
わたっている。
人数20名という小規模のものだった。サウド・バフワン・グ
心身障害児支援
ループの資金援助によって施設の拡張工事を実現し、
オマーン政府は、身体障害児の教育やリハビリテーショ
現在では約100名の児童を受け入れている。併せて、
ンを行うための「心身障害児センター」
を全国19カ所に
各種の施設付帯装備や送迎用のバスを寄贈。それら
開設・運営している。サウド・バフワン・グループは、その
の運転資金も一部補助している。また、250名の児童を
うち計13棟の施設建物の建設資金援助のほか、テレビ
収容できる新たな施設への援助も行っている。
やエアコンなどの付帯設備、子どもたちの移動用バスを
寄贈し、2300人分の給食費援助を行っている。
生活支援
また、
「心身障害児の厚生協会」
が運営する同様の
98年から、全国各地で貧困世帯に対する食糧援助を
施設も全国に6カ所あり、これらに対しても、バスの寄贈
始めた。このプロジェクトのために組織された7 2 組の
や給食費援助などの支援を行っている。首都マスカット
チームがランドクルーザーに乗り、一年中毎日8500世
市内に約800名の収容力を持つ本部センター開設に当
帯に米、羊肉、バーミチェリ
(細いパスタ)
、ナツメを配給
このほか、生活難に陥っている女性たちの雇用機会
たっては、建設費の全額を援助。地方の施設には計4
する。現在、配給している食料パケットの数は、月間で
を促進・支援するため、社会開発省所管の女性のため
棟分の建設費を寄贈した。
27万個に上る。
の職業訓練センター
「オマーン女性協会」
にも資金援助。
●
約30年前から継続実施
また、2005年からは、洞窟や仮設住宅に住む生活困
同協会の本部は首都にあるが、全国各地に地方セン
●
サウド・バフワン・グループ、サウド・バフワン会長
制学校も開設した。同校は、20室の一般教室のほか、
窮者を対象に、家族構成に合わせて2∼3DKの一戸建
ターがあり、女性の自立を促すために縫製や陶芸など
視覚障害者向けの音声案内装置を装備した教室、工
て住宅の供給を開始し、2 0 0 6 年末までに3 0 0 軒を建
各種の職業訓練が行われている。
作室、寮や食堂など、充実した施設が完備している。
設・供給する予定。
さらに、オマーンで初めての視覚障害児のための寮
また、サウド・バフワン・グループは、年2回、10万世帯
弱の貧困世帯に対して、衣料や食料を購入するための
資金援助を行っている。
When and Who
サウド・バフワン氏は、社会貢献活動の持続的な実施
を目指して、
「サウド・バフワン慈善財団」
を設立した。
Why
サウド・バフワン・グループは、オマーンを代表する国家的
企業として、政府による社会保障・社会福祉を補完する
医療支援
各種の医療機関支援では、とりわけ、専門医療の施設
や医師の不足をカバーするための支援に力を入れてい
ために、各種の活動を行っている。
Results
る。透析施設の施設拡張費支援、地方に新たに施設
サウド・バフワン・グループによる社会貢献活動は、オマー
を開設するための建設費を全額寄贈することも決定し
ン国民の生活水準の向上に直接寄与し、その恩恵を
ている。また、心臓病、糖尿病、がんなどの専門医療
受ける人々の数は数十万人に上る。その取り組みは各
施設の新設・拡張や各施設の医療機器などの装備につ
界で広く注目され、評価も高い。オマーンで最も売れて
いても、積極的に支援する考えだ。さらに、国内で必要
いるジネス雑誌『ビジネス・
トゥデイ』
が2003年に同国の財
な治療を受けられない患者には、海外で治療を受けら
界人を対象に行った調査で、サウド・バフワン・グループ
れるように、患者とその家族に対して目的地までの往復
は
「最良の企業市民」
に選ばれている。
の交通費や宿泊費、手術代などの医療費を援助も行っ
▲
▲
▲
▲
聴覚障害児には、補聴器を提
供している。
心身障害児のための施設をオ
マ ーン全域に開設・運営する
ための資金援助を行っている。
心身障害児の厚生協会が運営
する施設には各種の特別仕様
車を寄贈。車椅子に座ったま
ま乗車できるこのバンもその
ひとつ。
貧困世帯のために、300軒の
住宅を建設中。
22
ている。
23
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貧困地区への医療サービス/フィリピン
メディカル・アウトリーチ
フィリピン・トヨタは、トヨタモーターフィリピン財団を通じて、
「メディカル・アウト
リーチ」と名づけた年1回の定期医療サービスを、地元の病院や製薬会社の協力を
得て、同社の工場が立地するサンタローサ市と、パラナケ市で実施している。この
パラナケ市の市長夫人は、第35回
のアウトリーチを観察した。写真
右はTMPの田畑延明社長。
目の検査も行われる。
血圧測定も重要な検査項目の一つ。
▼
▼
▼
活動は医療への関心を高める役割を果たし、対象地区での医療サービスの向上に
大きく寄与している。
▲
子どもたちへの医療サ
ービスは、アウトリー
チの重要な任務。
メディカル・アウトリーチの準備は、実施3カ月前から始
まる。まず、市庁に打診し、当日の利用者の選出や会
場確保などの協力を依頼する。市から送られてきた参
フィリピン社会にはキリスト教が浸透しており、ボランティ
加証を持参して来場した利用者は、体重や血圧測定な
ア活動の習慣や精神が根づいている。また、企業の社
どの健康診断と、看護師による問診の後、医師の診療
会貢献活動に対する人々の期待も強い。TMPは、トヨ
を受け、必要な場合は処方された医薬品を受け取る。
タの他の事業体と同様に、教育支援や環境保全を社
利用者全員に菓子パンと飲み物のサービスがあり、この
会貢献活動の優先課題に位置づけているが、とくにヘ
うれしいおまけを楽しみにしている子どもも少なくない。
ルスケアにかかわる活動には力を注いでいる。
トヨタモーターフィリピン財団会長のデービッド・ゴー氏
フィリピンでは、貧困層におけるヘルスケアの欠如は
は、同社の社会貢献活動に対する取り組み姿勢を、次
深刻な社会問題となっており、トヨタモーターフィリピン財
のように説明してくれた。
団の活動内容を絞り込むにあたり、ヘルスケアに関する
「私たちは、資金援助するより、人々が自力で自分た
活 動が 候 補に上った。具 体 的な方 法を探るなか 、
ちの生活を改善していくための力になりたいと思ってい
TMPの出資者の1社であるメトロ銀行が病院や看護学
ます。例えば、食べ物を必要としている人に魚を与える
校の経営を手がけていることもあって、移動病院を実施
よりも、魚の釣り方を教えてあげるほうが、長い目で見れ
することとなった。
ば、本人のため、社会のためになるでしょう。自力で改
What
「メディカル・アウトリーチ」
の実施にあたっては、大勢の協力者が動員される。2005年7月30日に実施され
た第35回目のアウトリーチの協力者は、医師40名、看護師30名、歯科医25名、製薬会社スタッフ20名、
官庁職員10名、トヨタモーターフィリピン
(以下、TMP)
の従業員を含むボランティア100名。TMPの従業員
善を図るためには、まずは健康でなければなりません。
Results
健康であってこそ教育も受けられ、
職業訓練も受けられ、
現在までに受診者数は延べ7万5千人以上に上り、なか
働きがいのある仕事に就くこともできるのです」
には生まれて初めて医師の治療を受けたという人も少な
TMPは、この方針に沿った社会貢献活動を継続的
くない。TMPの移動病院は、貧困地区における医療
に行っていくため、1990年にトヨタモーターフィリピン財
サービスの実質的な向上に大きく寄与し、政府からも高
はもちろん、医師をはじめとする参加者すべてがボランティア。総勢230名近い
“大所帯”
によるプロジェクト
団を設立した。同財団は、現在、メディカル・アウトリーチ
く評価されている。さらに、毎回、報道機関によって取
である。
のほか、緑化事業支援や奨学金による教育支援も行っ
り上げられ、企業イメージのPR効果も大きい。第35回
トヨタモーターフィリピン財団は年間100万ペソ以上(約200万円)
の予算を充当しているが、使用する医薬
ている。また、メディカル・アウトリーチとは別に、医療装
のアウトリーチは、地元市長夫人や市庁の関係者の立
品は、協賛する製薬会社2社から無料で提供される。TMPが寄贈した2台のバンも、レントゲン検査・血液検
置や医療に必要な車両を病院に寄贈するなど幅広い医
ち会いのもとで行われた。また実施の詳細は新聞で
査用の検査車両として活躍する。また、地域の小学校などに開設する会場までのバスなどの交通手段は市
療サービス支援も行っている。
広く報道され、TMPでも、企業広告の題材として移動
が提供する。
プロジェクトの対象となる患者は、一生、医師に診てもらえることなどないかもしれない人々がそのほとんど
When and Who
●
を占める。医療サービスの内容は、風邪の症状で受診する子どもたちが多く、その大半は、著しい栄養失
調に陥っている。虫下しを必要とする子どもたちも多い。また、必要に応じて簡単な手術を行うこともあり、重
病と診断される場合は、専門の病院に紹介する。
24
Why
●
1992年より計35回(サンタローサ地区とパラナケ地区
病院を取り上げ、話題を集めた。
Contact
以外の実施も含む)
Ruby Ramos
トヨタモーターフィリピン
(TMP、トヨタモーターフィリピ
Management Service Office, TMP
ン財団を介して)
[email protected]
25
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小額無担保融資による自立促進支援/サウジアラビア
マイクロファイナンス
アブドゥル・ラティフ・ジャミールグループは、アラブ世界における貧困の撲滅をめ
ざして、貧困層でも“小さな事業”を興すことができる小額貸付「マイクロファイナ
ンス」の手法を活用している。この取り組みは、バングラデシュで270万世帯を貧
困からの脱出に導いたグラミン銀行の手法にならったもので、同行の創業者がマ
イクロファイナンスを国際的に広めるために設立したグラミン銀行財団USAとの提
携で進められている。
「進歩」
の提携
ティブは、マイクロファイナンス用の資金を提供している
プロダクティブファミリーズプログラムは、グラミン財団
ほか、間接的な支援としては、アラブ世界全域のマイク
USAのテクニカルサポートを得て立ち上げられた後、自
ロファイナンス事業立ち上げのための訓練や各種のツー
力で成長し続けている。現在までに、サウジアラビア全
ルの提供も行っている。例えば、2004年には、グラミン
土に6支部を開設、借手数を2006年に5000名に、2007
銀行の協力を得て、43名のアラブ系マイクロファイナン
年には1万名に増やすことを目標に掲げて活動している。
ス事業の関係者を対象に同時通訳付きの10日間の集
また、グラミン・アブドゥル・ラティフ・ジャミール汎アラブイ
中研修をバングラデシュで行った。グラミン銀行にとって
ニシアティブは、エジプトのマイクロファイナンス事業、ア
は50回目を数える記念すべき研修であり、同様な研修
ル・タダムンと提携を結び、現在までに同国で1万世帯に
としては過去14年で最大規模のものになった。
融資を提供している。エジプトでは他の提携先とも組ん
で活動している。さらに、モロッコでは、2つのマイクロ
ス分野の関係者を招いて、第2回の「グラミン・アラブ対
ファイナンス事業と提携を結んでおり、チュニジアでも同
話」
を行う予定。各地での研修も数十回以上行うと同時
様の活動の開始に向けて、現地のパートナーと提携を
に、研修に参加するため必要な奨学金も提供しており、
結んだ。
イニシアティブ開設から3年間で計170名に提供する計
サウジアラビアを含むアラブ世界において、当イニシア
画。さらに、イニシアティブの資金援助によって、50種以
ティブは、既存のプログラムを通じて5万2000余人に融
上のマイクロファイナンス関連のマニュアルなどの刊行物
資しており、2011年までにこれを43万7000人に増やす
がアラビア語に翻訳され、発行されている。また、2005
ことをめざしている。また、新規プログラムの創設にも積
年には、アラブ系のマイクロファイナンスのネットワークで
極的に取り組み、既存・新規プログラムを合わせ全体で
あるサナベルと、世界銀行の機関である貧困層支援協
は、同年までに
「貸出中」
の借手数を150万人に増大す
議グループと共同で、インターネットでは初めてマイクロ
る目標を掲げている。この目標を達成すれば、アラブ世
ファイナンスに関する情報をアラビア語で提供するホー
界で750万人の生活水準の向上に寄与することになる。
ムページ
「アラビック・マイクロファイナンス・ゲートウェイ」
を
グラミン・アブドゥル・ラティフ・ジャミール汎アラブイニシア
立ち上げた。
プロダクティブファミリーズプログラムの融
資を受けた女性が開設した女性専用の“テ
ナントショップ ”
。女性だけに商品を展示販
売するスペースを貸し出している。
グラミン・アブドゥル・ラティフ・ジャミール
汎アラブイニシアティブの支援を得て運営
されているホームページ「アラビック・マイ
クロファイナンス・ゲートウェイ」の一画面。
マイクロファイナンスに関する情報をアラ
ビア語で提供している。
▼
▼
▲
サウジアラビア第二の
都市ジェッダ市の女性
は手先が器用で、プロ
ダクティブファミリー
ズプログラムの融資を
利用して、工芸品の製
作・販売の事業を立ち
上げた。
2006年5月には、行政や商業銀行のマイクロファイン
What
アブドゥル・ラティフ・ジャミールグループは、サウジアラビア、シリア、アルジェリアとモロッコのトヨタ代理店も統
括するサウジアラビアを代表する企業集団。早くから幅広い分野で社会貢献活動を推進し、広く注目されて
いる。2002年にグラミン銀行財団USAと共同でアラブ世界におけるマイクロファイナンスの実施可能性に関
する調査を行い、2003年9月、それを実施するための団体「グラミン・アブドゥル・ラティフ・ジャミール汎アラブイ
ニシアティブ」
を発足した。ジャミールグループを率いるモハマド・ジャミール氏は、マイクロファイナンスに関する
抱負を次のように語る。
「グラミン銀行がバングラデシュで開拓したマイクロファイナンスは、効果的かつ柔軟な手法で、多くの国々
で成果を挙げています。しかし、当イニシアティブを発足した時点では、マイクロファイナンスは、アラブ世界で
多少の実績があったものの、その範囲はごく限られたものでした。私たちは、その適用拡大に向けて、既存
の優れた事業と提携を結ぶとともに、新たな事業の起業も行っています。
なお、マイクロファイナンスがほとんど行われていなかったサウジでは、2004年6月に
『アブドゥル・ラティフ・
ジャミールのプロダクティブファミリーズプログラム』
を発足しました。現在、中近東では最も急成長しているマ
イクロファイナンスのひとつであり、すでに3000名の女性借手に融資しています」
26
27
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― 付表 ―
社会貢献活動基本理念・基本方針
社会貢献活動基本理念
模範のグラミン銀行
グラミン銀行は、1976年に、バングラデシュのチッタゴン
Why
社会貢献活動基本方針
トヨタ自動車株式会社と関連子会社
(以下トヨタ)
は、
1-1
豊かな社会の実現と、その持続的な発展のため、
積極的に社会貢献活動を推進します
●
豊かな社会の実現と、その持続的な発展は、トヨタにとっても存
大学の経済学部教授だったユヌス氏が36歳の若さで
中近東・北アフリカの総人口は約3億人。そのうちの約4
創立した革命的な金融機関。貧困層を対象に与信を
分の1は1日1ドル
(約120円)
以下で生活を送っている。
また事業活動を超えて、社会の一員としての様々な社会的責任
呼び水にして、従来の「低収入・低貯蓄・低投資」
の悪
100万人近くの男女がマイクロファイナンスを使って、生
を果たすと共に、持てる資源を有効に活用し積極的に社会貢献
循環を
「投資・収入増・貯蓄増・投資増・収入増」
の好循
活水準を向上することに成功しているものの、その割合
環に転換させるマイクロファイナンスの手法を編み出し、
は潜在的な借手の7%に過ぎない。また、貸出中のマイ
実績を上げて世界にその名を馳せることとなった。
クロファイナンス融資の総額は、2億5000万ドル
(約300
目
的
続と成長の基盤となります。そのため、
トヨタは事業活動を通じて、
活動を推進いたします。
1-2
●
トヨタは、良き企業市民として、それぞれの地域が抱える社会的
当初、ユヌス氏は自分の手持ち資金を元手に、大学
億円)
に上っているものの、潜在的な需要の2∼5%しか
周辺の農村の女性を中心に無担保での小額融資を始
満たしていない。アラブ世界で貧困を大幅に減少させる
1-3
めた。借手の多くは、提供された資金で織り機などを購
ためにも、マイクロファイナンスの急速な成長が求められ
●
入・活用することによって生活水準を向上させ、自立を
ており、グラミン・アブドゥル・ラティフ・ジャミールイニシア
実現した。このプロジェクトの成果に着目した政府や商
ティブはその成長に大いに貢献することが予測される。
業銀行は、さらに広く展開できるよう資金援助を行い、
83年の法人化を機に、その活動に一段と拍車がかけら
れた。
課題に目を向け、地域社会と協力しながらその解決に努めます。
ルな視点から持続可能な社会づくりに貢献します。
トヨタは、社会の幅広い層と力を合わせ、持てる資
源を有効に活用しながら、次の世代を担う人材の育
成と社会的課題の解決に向けた社会貢献活動に取
り組みます
Results
グラミン・アブドゥル・ラティフ・ジャミール汎アラブイニシア
現在、借り手の数は5百万人を超え、その96パーセ
ティブは、2003年に発足して以来、着実に活動範囲を
ントを女性が占める。銀行の所有権の95パーセントは借
拡大している。現在は、3カ国で5万2000余人の借手に
手にあり、貸付の回収率は98パーセント以上ときわめて
融資を提供しており、急成長し続けている。
高い。グラミン銀行を模範にした、同様な金融機関は、
グラミン・アブドゥル・ラティフ・ジャミール汎アラブイニシア
トヨタは、グローバルに事業を行う企業のひとつとして、グローバ
2-1
●
トヨタは、豊かな社会の実現と、その持続的な発展のため、次の
世代を担う人材の育成に努めると共に、様々な社会的課題に対
し、その根本的な解決につながる社会貢献活動を目指します。
2-2
取
組
み
姿
勢
●
トヨタは、社会の幅広い層と力を合わせ、事業活動を通じて培っ
た技術やノウハウ、社員個人が保有する様々なスキルを活かし
た社会貢献プログラムの開発に努めます。
ティブの対象となるアラブ世界の国々はもとより、マレー
2-3
シア、中国、ナイジェリア、メキシコ、米国でも設立され
●
と協働し、互いに目的と目標を共有しあうと共に、それぞれの長
ている。
所を活かして社会貢献活動を推進します。
When and Who
●
2003年より
●
アブドゥル・ラティフ・ジャミールグループ
トヨタは、コミュニティやNPO・NGOなど社会の様々な活動主体
トヨタは、社員が一市民として主体的に行う社会貢
献活動を支援します
社
員
の
参
加
3-1
●
トヨタは、社員による自発的な地域社会への参画やボランティア
活動が、社会の利益となると共に、社員の成長、自己実現にも
つながるものと考えます。
3-2
●
そのため、社員ボランティアを支援する諸制度の整備と、その実
効的な運用により、社員のボランティア活動を支援します。
情
報
開
示
トヨタは、社会貢献活動の成果を開示し、広く社会
と共有し、社会の発展に寄与することを目指します
4-1
●
トヨタは、社会との積極的なコミュニケーションを通じて、社会貢
献活動のノウハウや経験、成果を共有するとともに、豊かな社会
の実現とその持続的な発展につながるよう、活動の継続的な改
善に努めます。
▲
マイクロファイナンスの借手に
小切手を手渡す、サオウド・ビ
ン・アブドゥル・モ ーセン王子
(写真左)とモハマド・ジャミー
ル氏(同中央)
。
グ
ロ
ー
バ
ル
展
開
トヨタは、社会貢献活動基本方針をグローバルに共
有し、各国・各地域の実情に合わせた社会貢献活
動を展開します
5-1
●
トヨタは、豊かな社会の実現とその持続的な発展に貢献するとい
う考え方のもと、事業を行うそれぞれの地域の社会的な要請を踏
まえ、社会貢献活動を推進します。
2005年4月制定
28
29
Fly UP