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不登校児童生徒の母親に対する面接過程の研究
平成11年度 研究報告書 (第 600 号) F9−01 不登校児童生徒の母親に対する面接過程の研究 ― 相談室と学校が果たした 役割とその意味に着目して ― 不登校児童生徒の母親面接は,子供の問題に焦点をあてて対応するだけ では解決しない場合もある。そこで,本事例研究では,母親が「自分自身 の問題を語る」ための面接担当者のかかわり方を明らかにしようとした。 その際,学校の子供に対するかかわり方も面接過程に影響を及ぼすもの と思われる。子供の援助における相談室と学校の役割とその意味を明らか にする中で,連携についても,若干の示唆を得ることができたと考える。 福岡市教育センター 教育相談室 長期研修員 増田健太郎 目 次 Ⅰ 主題設定の理由 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 1 Ⅱ 研究の目標 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 1 Ⅲ 研究の内容と方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 2 Ⅳ 面接過程と考察 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 2 事例1(中学生C子の事例)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 2 1 2 第1期 C子を受け止められない母‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 2 第2期 C子の気持ちに戸惑う母‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 3 第3期 C子を受け入れ始めた母‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 4 第4期 C子のことを自分のことのように受け止める母‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 5 事例1の考察‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 7 事例2(小学生D子の事例)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 8 第1期 不安に揺れる母‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 8 第2期 D子の思いを語る母‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研 9 第3期 自分自身の心の変容に気づいた母‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研11 第4期 ゆとりをもってD子を見守る母‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研11 事例2の考察 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研12 研究のまとめと課題 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研13 Ⅴ Ⅵ 1 本2事例の面接過程の共通点‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研13 2 相談室と学校が果たした役割と意味‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研13 3 教師相談(来所)の意味‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研13 4 連携の3段階機能‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研15 5 教育相談態勢から相談体制への起点‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研15 6 連携の課題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研16 研究指導者のコメント ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥相研16 引用・参考文献 この報告書の内容については,プライバシー保護のため,資料の 保管・守秘には最大限の留意をお願いします。 めには,面接担当者は相談者との関係を深める Ⅰ 主題設定の理由 こと,面接の目的を明確に持つことが重要なポ イントになると考えるようになった。 平成10年度の文部省学校基本調査によれば, 橋本(1998)は,「母親面接は,子供の話をと 1年間に30日以上欠席した不登校児童生徒の数 おして,母親が自分自身を語り,子供の話題か は12万8千人となり,過去最高となった。不登 ら母親自身の内奥に届くようにするのが目的で 校の理由は,情緒的混乱によるもの・学校生活 ある」2)ことを指摘している。母親が子供の問 に起因するもの・意図的なものや複合型など, 題だけに終始しているとき,子供の不登校の問 その要因は様々である。しかし,不登校問題は, 題も解決しない場合も多いのでないかと考える。 因果論だけでは解決しない場合が多いことは周 橋本が言うように,母親が子供の問題を「自分 知の事実である。不登校児童生徒の対応策とし 自身の問題として語る」ためには,面接担当者 て,文部省はスクールカウンセラー制度や適応 が「今,子供と母親が抱えている現実的課題を 指導教室の拡充などの対策を進め,学校では教 どのように受け止め,かかわっていくかという 育相談体制の確立・専門機関との連携の推進な こと」「子供の話を母親の問題と重ね合わせて ど数々の対応策を行っている。不登校児童生徒 聴く視点を持つこと」の2つが必要なのではな の援助が,学校だけでは対応できなくなったと いかと考える。現実的課題とは,学校への登校 き,教育相談室や児童相談所などの公的相談機 を試みる際の子供と親の心理的ハードルである。 関,病院やクリニックなどの民間の専門機関が, 不登校児童生徒の援助にあたることが多い。 また,学校の援助の在り方が母親面接にも学 校復帰にも影響を与えるのではないかと考える。 本教育相談室においては,不登校児童生徒の 本事例は,母親自身の人間関係の有り様が子 面接は,親子並行面接の形態をとっている。並 供の心理的側面,行動面に投影されていると思 行面接の意味を,河合(1986)は「児童の治療の われる事例である。 補助的手段とみるか,母親自身の心理治療を行 そこで,本事例研究においては不登校児童生 うかの2つの方向性がある」 1)としている。教 徒の母親が「子供の問題が自分自身の問題と重 育相談室に来談する主訴は,「不登校」が主で なっていることに気づく」過程に,面接担当者 あるために,来談した親は,面接の目的を自分 がどのようにかかわっていったのかを分析する。 自身の問題ではなく,子供とのかかわり方等に さらに,不登校児童生徒が再登校する過程に おく場合が多い。不登校の要因がどのようなも おける,当該児童生徒と親への学校の援助の在 のであったとしても,多くの場合,学校で何か り方と相談室の役割についても考察したい。 あったに違いないと考え,学校にその原因を求 めようとするからである。そして,「自分の悩 Ⅱ みを話し,解決策を教えてもらう」ことを希望 研究の目標 することも少なくない。 母親面接を始めた当初,子供の様子や母親の ○ 母親が自分自身を語り,自分自身の問題 悩みをゆっくりと聴き,子供の問題に焦点を当 に気づくためには,面接担当者はどのよう てて対応していくことが,問題解決につながる なかかわり方をすることが大切なのかを分 のではないかと考えていた。しかし,河合が言 析し,考察する。 うように母親面接を治療的に行う場合,面接担 ○ 不登校児童生徒の援助に対する学校と相 当者は問題の本質をどうみるのかが問われるこ 談室の援助の意味を明確にし,連携の在り とになる。問題の本質に親自身が迫っていくた 方を考察する。 相研−1 ・ 研究の内容と方法 Ⅲ 母親の子供に対する情緒的なかかわりの なさが,子供が本来持っている自己主張す る力の成長を奪っていると考えらる。 研究事例の分析について 1 (4) 面接の目標 ・ 不登校児童生徒の母親面接においては,主訴 母親が子供を情緒的に受け入れていくこ を援助する。 は子供の不登校であるが,母親自身の内面の問 ・ 題に面接担当者がどうかかわっていくかが課題 現実的課題は,学校と連携していきなが ら援助する。 となる。そのためには,面接担当者自身の自己 理解,他者理解の力量・技術を身につけておく ことが必要である。そこで,面接場面における 2 面接担当者と相談者との会話,相談者の表情な #は親の面接回数を,Tは面接担当者をMは どを詳細に記録するとともに,子供の面接担当 母親をFは父親を表す。Mの話は「・・・」, 者との話し合いも記録していく。 Tの話は<・・・>で,Tが感じたことは《・ 不登校の問題の面接の場合,学校の子供への 面接経過 (事例2も同様) ・・》で表す。次の視点で期を分ける。 対応も面接過程に影響を与える。教師相談も記 ・面接担当者と相談者との関係の深まり 録し,母親との面接過程への影響について考察 ・相談者が自分自身のことを語る度合い する。教師相談とは,「カウンセリングではな ・子供の行動変容 く,教師と面接担当者が子供の援助の方法を話 各事例の考察は,事例の最後に記す。 し合うコンサルテーション」である。 本研究においては,小学生と中学生の2事例 第1期 #1∼3 C子を受け止められない母 を取り上げるが,当然のことながら,不登校に #1は,子供と来談し待合室で話をすること なった背景や学校の状況は異なっている。そこ もなく,疲れた感じで座っていた。第1期のM における共通点と相違点を明らかにし,次の視 は,面接室に入っても最初はテンションが低く, 点を手がかりに相談室と学校の役割の意味につ 途中からやっと自分の思いを一方的に話し始め いて考察する。 る感じだった。Tは感情を素直に表現できない 印象を持った。 (1) 面接担当者と相談者の関係の変容 <まずは,学校での様子からでも・・・>と (2) 母親の子供へのかかわり方の変容 (3) 学校の子供へのかかわり方が,面接過程 言うと,少しほっとしたような表情になり,学 校の様子を話し始める。「学校には時々行くが, に及ぼした影響 保健室か相談室にいる。」と,感情を交えずに, Ⅳ 面接過程とその考察 淡々と話す。Tがこの後,生育歴を聞いた時も, 防衛のためか感情が表出しない話し方だった。 1 事例1 しかし,あと5分で面接が終わろうとすると (1) 相談者:不登校女子生徒の母親 き,会話の中の笑いで肩の力が抜けたのか, (2) 主 「じつは・・・。」と妹も不登校状態になりか 訴:子供(C子)の不登校 (3) 見立て けていることを語り始めた。このときは,《困 ・ 母親の存在を内面化できないで思春期を迎 っているんだ,何とかしてくれ。》とTの心を えた女子生徒が,母親が母親らしくかかわっ 揺さぶるような感じだった。 #2のとき,「本人には聞こうか,聞かない ていく過程を投影させていくことで自我を形 成している事例であると考えられる。 方がいいか迷ったんですが,数日前に聞いたん 相研−2 です。」と前置きをして,教育相談室の子供の け止められるようになっていた。 【子供面接担当者との話し合い2】 面接では何をしているのかをC子に聞いたが, ・ もっと詳しく知りたいということであった。 子供の面接でC子は「学校の給食が心理 的なストレスになっている。」と話す。 遊びや会話をとおして,面接担当者との関係 ・ を深め,子供の自発性を高めたり,自分のこと 給食の対応については,学校に連絡する を考えたりできるようにしていることと母子並 かどうか迷ったが,その直後に,「教師相 行面接の意味を話すと,ほっとしたような表情 談をしたい。」との連絡が入り,対応につ になり,妹のことを詳しく話した。 いて教師相談で話し合うことにした。 この後,子供の面接担当者とこの事例につい 第2期 ての話し合いをした。 C子の気持ちに戸惑う母 【子供の面接担当者との話し合い1】 ・ #4∼7 教師相談1∼3回 教師相談1回目 Mの話し方は速く,論理的な感じでC子 来所 教育相談担当教諭 のゆっくりしたテンポと波長が合わない。 学校でトラブルがあったことを担当教諭は, ・ MのC子へのかかわり方が課題である。 「もう,ご存じとは思いますが・・・」と,詳 ・ Mの今の心のエネルギーは,妹に向かっ 細に話す。Tはその対応から情熱を感じる。そ ている。 のトラブルの対応がC子にどんな意味があるの という3点を確認し,当面の面接目標を下 かを話し合った。給食の問題も含めたC子の環 記のようにした。 境調整の具体的な手順を確認した。 母親に対して ・ MとC子の心の距離を大切にし,無理に ・ C子自身に給食のことについて話を聞く。 ・ 校長,養護教諭,同学年等関係ある先生 方で対応を協議する。 合わせようとしない。 ・ ・ 母の心のエネルギーが妹の方に向いてい ・ 全職員で共通理解する。 ることを肯定的に考え,Mが妹の問題を取 ・ 保護者と話し合いをする。 り上げたらまず,妹の問題を援助する。 <今後も学校と教育相談室で連絡を取り合いな 子供に対して がら,C子を援助していきましょう。>と話し 不安や不満を言語化するようにかかわる。 て,教師相談を終えた。 教師相談2回目 電話 教育相談担当教諭 #3で,「担任の先生からの朝の電話で行く 「昨日は,C子を囲んで,担任と私と冗談を 気になるようです。」<行く気になって来たん 言いながら,楽しく話をすることができた。C ですね。>と言うと,「でも,『学校に行きま 子の笑う顔を初めて見た。」と連絡があった。 す』と電話を入れてから,準備をするまでに1, 教師相談3回目 来所 教育相談担当教諭 2 時間もかかって,いらいらするんです。」 C子を受け入れるための環境調整を,校長先 <いらいらしますよね。>と子供に対しての感 生と学年の先生の協力のもと,行うことができ 情を素直に表出する。しかし,C子のことでは た。C子から「給食はストップして欲しい。」 話が続かず,妹の話になる。 と言ってきた。それには,驚いた。それ以来順 妹は担任のタイミングの良い家庭訪問で,登 調に来ていたが,また,トラブルが起こり,学 校を始める。「ちょっと強引かなとも思ったん 校に来なくなった。<子供の学校に対するいろ ですけど,ここは先生にお任せするしかないと いろな思いは,聴いてあげるしかないのではな 思って。」Mは妹が学校に行けるようになった いでしょうか。その中で,先生は不登校の子供 ことで,ほっとするとともに,先生の思いを受 たちと関係を作っていくことだと思いますが・ 相研−3 ・・>とだけお話をして,教師相談を終えた。 くわからない。」と話すM。 #4で,学校が配慮してくれたこと,C子が <C子さんが家事をやってくれるなら, お母 自分から先生に「こうして欲しい」と言えたこ さんもゆっくりされたらどうでしょう。>と言 とで,C子が学校へ行けるようになったことを うと,「ゆっくりできません。あれしなければ, Mはとても喜んで報告した。しかし,2週間ほ これしなければという思いが次々に出てきて, ど順調に行った後,またトラブルが起こり,行 ゆっくり休めません。」ときつそうに語る。 けなくなった。「今週からまた,学校に行って この間,学校から帰ってきた後,一言「もう いないんです。金曜日は帰りが遅くて,帰って 学校に行く必要がない」言った言葉が気になっ 来ても元気が無いので,どうしたのか聞きたか ていると話す。<学校に行く必要がない?どう ったのですが,聞いても何ですから・・・その いう意味なんでしょうかねぇ。家庭ではエネル 夜,担任の先生から電話があり,トラブルがあ ギーが出てきているので,もう少し様子を見て ったらしくて,それがショックだったらしいん みましょう。>と話して,この回を終わる。M です。」と話す。<トラブルがあった後ですし, は自分のきつさを語り始めるとともに,C子の 少し休養が必要かも知れませんね。>と,Tは 気持ちを戸惑いながらも,少しずつ感じ始めた。 学校から話を聞いていたので,C子の気持ちを 第3期 考えながら答えることができた。 #7∼10 教師相談4回目 C子を受け入れ始めた母 沈黙の後,「本人は何かちょっとへんと言う #8で,夜,担任から電話があり,「写真撮 んです。眠っているけど疲れるって。」C子の 影があるので,出ておいで。」と言われたが, 様子が心配だという表情でMが話す。 その後,担任から電話があり,出ることはで 本人は「放課後ではいけませんか。」と返事を きた。夜は「明日は行かなくちゃ。」と言って, する。Mは行けないだろうなと思い,無理はさ 準備をしていたが朝になると結局行けない。 せたくなかったので,何も声はかけていない。 「『最近,頭がへん,体がへんだ。』と言う 「学校に行っても意味がない」このC子の言 んです。」と心配だが,どうしたらいいのかわ 葉の意味を,Mが尋ねてくる。これをどのよう からないという表情で話す。<前もそんなこと に受け止めるかで,Mも担任もC子に対する対 は,あったんですか?>「頭やおなかが痛いと 応の有り様が変わってくる。この言葉の意味に いうことはありましたが・・・。」<何か不安 ついては,子供の面接担当者と事前に話し合い なことでもあるんでしょうねぇ。>「・・・」 を持っていたので,次のように話をした。 C子の今の不安をどう受け止めるかという話 <学校に行きたくない,行かないということ をしているときに,突然,高校見学をいっしょ ではなく,行ったときに勉強を教えてほしいと にしたいという現実課題の話になった。<今は いうC子さんの意欲の裏返しの言葉じゃないで C子はその段階ではないので,しばらく待ちま しょうか。>「勉強を教えて欲しい?」<C子 しょう。>と話して,この回を終える。Mもそ さんは,家の中でエネルギーが回復してきてい んなC子の不安を知ってはいるが,不安に共感 るし,先生にも会おうとしていますよね。>と することなく,現実的なことだけの対応を迫っ いうとMは安心したようにうなずいた。 その後,「担任の先生が家の近くまで来てい ている感じだった。 #5,6 では,Mは学校には行ってないが,元 たので,C子に『どうする?』と聞くと,『ど 気が出てきた様子を話す。C子は「何かするこ っちでもいい。』と言ったので,『会ってもい とない。」と聞いてきて,洗濯やアイロンがけ いんだな。』と感じた。」とMは話す。Mは, 等をしてくれる。しかし,「C子の気持ちがよ C子の心を少しずつ感じ取ることができるよう 相研−4 教師相談4回目 になってきている。 #10では,病院で内科の検査を受けることに 来所 担任・教育相談担当 子供・親の面接担当者の4人でコンサルテー なったC子はMに不安を訴えていたことを話す。 ションを行う。C子の学校での様子と担任との その話の流れの中で,C子の幼少期の病院体験 かかわり方を聞く。 のことを語り始めた。 C子は「かなり待たなければなかなか言えな <C子さんは,小さい頃入院したことがあり いが,逆に待つと表現する力があること」を, ましたよね。そのときもつらかったですか。> 共通理解する。「勉強を教えて欲しい」という と尋ねると,「3歳の時は,1週間入院したん C子の希望を「サポートする」ために,時間の ですが,完全看護の個室で,しかも妹が赤ちゃ 許す限り勉強を教えているとのことだった。C んだったので,一人で入院していたんです。不 子が「行きたいが行けない」と担任に伝えると, 安だったと思います。」と涙を流しながら話す。 担任は「迎えに来て欲しい」というメッセージ <C子さん,病院で一人だったらさびしかった だと受け取り,すぐに迎えに行くという行動を でしょうけど,お母さんも小さな子を一人で病 起こしている。この行動が今までのタイミング 院に残すのもつらかったですね。>と言うと, のずれを修正させているように思われる。 「妹が入院したときは,病室に私が泊り込んで, ・ C子は家で一人で留守番だったんです。」とさ らに涙がこぼれてきた。<C子さんは,今,お 学校で友達ができ,学校に対する思いを自 由に話せるようになっている。 ・ 母さんを求めているのかもしれませんね。> 学校でのおしゃべりの中で,「お母さんに 甘えたいけど・・・。」とC子は話している。 #9 では,写真撮影で登校して帰宅後,「明 この学校からの話は,面接の中で,TがMの 日,7時30分に学校に行く。」言ったが,7時 C子に対するかかわり方を考える上で,貴重な 40分に起きた。起こしたとき,「もういい。」 情報だった。 と言ったが,少し強く言ってみた。<もう一回 起こされたんですね。>「何か7時30分に意味 第4期 #11∼17 教師相談5回 があるのではないかと感じて,もう一度言えた C子のことを自分のことのように受け止める母 んです。」MがC子の心に気づき始めた感じで C子は疲れたようだったが,3日間行く。続 ある。<お母さんは心で感じられたんですね。 けて登校した日の夕方,「C子は頭痛がする」 C子さんはいろいろ聞かないで欲しいけど,気 と言う。C子の訴えは「何かが広がってただれ づいて欲しい。お母さんにしっかり受け止めて てる感じ」で,今までと違う感じだった。Mは 欲しいと思っているのではないでしょうか。> 心配になり,病院に連れていく。Mの心配の仕 とTが話すとMの目から涙がこぼれた。 方が,自然な形で表現されている感じだった。 この日からしばらく登校することができる。 「ずっと病院通いで大変だった。」という話を #10で,担任に会いに登校したことをうれし したが,大変だったという話の内容とは裏腹に そうに語る。その後,Mは家族に対する思いを さっぱりした軽い表情だった。 次々に語った。 <お母さん,最近はどんな感じですか。>と 【子供の面接担当者との話し合い3】 尋ねると「私ですか?・・・子供の病院通いば C子の気持ちが学校に向き始めているので, っかりで,考えてみたらいらいらしますので, 担任と話し合いを持つことにする。連絡をする 考えないように,完璧とは行きませんが横にお と,担任は「私も話したいと思っていた。」と いときます。勉強をさせようと思っても,病気 言い,来所の日時が決まる。 ですから。」今までは,「あらねばならない。 勉強させたいという思い」にからみとられてい 相研−5 #14で,いい状態で学校に行っていること, たMだが,病気のおかげで,子供に対する接し 家でも疲れた感じではないことを話す。「ここ 方が変わってきた印象である。(#11) #12で,ずっと学校に行っていること,他教 まで,続いたのは初めてです。」と言って涙を 科担当教諭の働きかけで,C子と同じ教材で手 浮かべるMの横顔に,以前の不安は感じられな 芸品を作ることができるようになったことを話 かった。学校で友達ができたこと,先生方のか す。教材のパンフレットに20年前に作りかけて かわりが,C子の自主性を育てようとしている いたものと同じ手提げがあり,C子は「お母さ ことをその理由として話す。「先生方もいろい んも作ってみたら。」と言う。「完成させるこ ろ大変だと思いますが,よく我慢してあると思 とができなかったら。」いう思いを「自分の青 います。」と先生のかかわり方に共感していた。 春時代,手芸の・・・」と涙ぐみながら語る。 「高校のことは,本人がどう思っているのか 学校に参考書をおいてくるという行動が, まだわからないので,話せないんです。」と言 「C子は学校に居場所ができたようだ。」と, いながら,Fと高校見学に行っていることを話 自分のことのようにうれしそうに語った。 す。C子が抱えることができない不安をMがし 学校側の援助もあり,Mが肩の力をぬいて, っかりと受け止め,進路という現実課題はFと C子の気持ちを受け入れながら,かかわること 準備ができるようになってきている。<お母さ ができるようになってきている。 んはC子の気持ちを頭ではなく心で感じられる #13では,C子の学校での生活の様子,友達 ようになっているので,進路の問題はお母さん とのやりとりなど楽しそうに語る。「今まで, がC子と接して不安がない,話しても大丈夫だ 学校に行っていなかった子が9時から3時すぎ と感じられたときが,向き合うときではないか までいるんだから,疲れると思います。でも, と思います。>C子が学校に適応したきたこと 朝は今までと全然違うんです。学校に行くとき を「靴下があうようになってきた。」とMは表 もぐずぐずしていた子が,自分で準備をして行 現していた。 学校での新しい友達との人間関係の悩みなど, っているんです。『勉強もしなさい』と言いた いんですけど,今は,学校に行っていることが Mはまるで自分のことのように語る。「よく話 大切じゃないかと・・。」C子の気持ちに寄り してくれるんで。今まで,学校や先生こととか 添えるようになっているMがそこにいた。 話さなかったのが,しゃべってくれます。」 「勉強のことは,私の中にもものすごく葛藤 <お母さん,いろいろ聞きたい気持ちが少なく がありますが,本人がやる気になるまで待って なってきたでしょう。>「聞かなくてもしゃべ ます。」<やっと学校に行けるようになってま ってくれるので,ちょっと聞き返すぐらいで, すからね。お母さんの葛藤と,『勉強しなくて 様子がよくわかるので,私もほっとします。C はいけないけど,今はできない』というC子さ 子の気持ちになって聞けるようになった感じで んの葛藤は同じようなものですよね。C子さん す。」C子が話している学校の出来事を自分の はお母さんに自分のことをわかってくれている ことのように語るMから,C子の気持ちをしっ ように感じているから,学校に行くエネルギー かりと受け入れていることが感じられた。 #16・17では,「試験前なので少しは,勉強 が出てきているんじゃないでしょうか。>と言 をさせたい。」と訴えるMに,<今,勉強しな うと,Mは涙をこぼす。 「進路の問題は,お父さんと話をしなければ さいって言ったらどうなるでしょうか。>と聞 いけませんが」と前置きをしながらも,「今は き返すと,「学校に行くエネルギーが出てこな C子の気持ちを一番大切にしたい」と語る中に, くなる感じはします。まあ,今回は0点を覚悟 TはMの母性とその強さを感じることができた。 しなくちゃ。と思ってます。(笑い)勉強だけ 相研−6 は少しずつ一緒にしていますけど。」と自然な 事例1の考察 形で返ってくる。M自身,葛藤に陥りながらも, 母親が情緒的に子供を受け入れていくことに C子にとって今,大切なことをしっかり感じる よって,登校できるようになった事例である。 ことができている。「私は少しあせっているん 面接過程を幾つかの観点で考察をしたい。 ですけど,まだ待った方がいいのかなぁってい C子の給食のストレスについて,子供の面接 う感じがします。」<学校からもしっかりと受 担当者と話し合いを持ったとき,Tは学校に連 け入れてもらっているようですし,お母さんの 絡した方がよいのか迷った。 C子に対するやわらかい接し方が,ちょうど手 【なぜ,迷ったのか】 のひらにのせた風船をやわらかく包み込むよう 相談者の自助努力を援助することが面接の一 な感じで,C子のエネルギーを作っているので つの目的であるが,その機会を奪う可能性があ はないでしょうか。>と今の状況を話す。「最 るのではないかと考えたこと,守秘義務の問題 近寒くなって,何を着ていこうかなって聞くん もさることながら,T自身がその学校のイメー です。前は,そんなこと聞かなかったし,聞く ジを具体的に持っていないため,連絡すること 前に,私の方がこれとこれと言っていたので・ が逆効果になるのではないかという二つの危惧 ・自分からいろいろ言えるようになって,とて を持ったからである。 もうれしいです。」と話す。<お母さんが待っ 【教師相談の意味】 ているから自分から言えるようになったんです 第2期で教師相談1回目の持つ意味は大きく ね。今,お母さんや友達に支えられて,友達と 2つある。 の悩みも乗りこえようとしてますね。>と言う ① と,「今はそっちの方で精一杯みたいです。勉 教育相談担当教諭の率直性とC子に対する思 面接担当者と先生との連携の端緒 強のことは,私も内心はあせっているんですが。 いを感じ取ることができた。C子の学校でのト 今,言ってもですね。」とMは自分の心の葛藤と ラブルについて,先生と話ができたことがこの 上手に付き合いながらC子に接している。Mは 事例の展開の方向性を決めたのではないかと考 C子の制服姿からもずいぶん学校でリラックス える。不登校の子供たちやその担任とかかわり していることに気づいている。進路については, ながら活動している様子がよく理解できた。 Fがまだ現実的でないが,MがC子の現状と気 教師相談によって,心のエネルギー補給が相 持ちを受け止め,守ってあげている印象である。 談室,現実適応が学校という援助の役割が明確 教師相談5回目 化された。親の面接担当者と教育相談担当教諭 電話 教育相談担当教諭 <どんな感じですか。>と尋ねると「たくま しくなってますよ。ずっと登校しています。」 が,C子を取り巻く人 (家庭・学校・相談室)の情報と思い を繋ぎ,調整するという役割を担ったと考える。 担当教諭はC子の変容について驚いたように話 ② す。<学校の先生方のC子へのかかわりをとて 学校の配慮によって,給食からお弁当を持っ 環境調整としての意味 も感謝してありました。いろいろありながらも, ていくことになった。給食が食べられず,弁当 先生方がC子を受け止めていることが,お母さ になったことには,二つの意味がある。一つ目 んがC子の不安を受け止められるようになった は,学校に対する不安の一つを軽減させること, ことにつながっていると思います。進路の具体 二つ目はC子とMにとって,学校が自分たちの 的なことは時期をみて学校の方で話をしてもら ために時間とエネルギーを使ってくれたことを い,お母さんの不安はこちらの方で受け止めて 実感させることができたことである。 いきたいと思います。>と話して,教師相談を 終わる。 また,子供のためにお弁当を作るというMの 具体的行動が,MとC子の心理的距離を近づけ 相研−7 2 させることにもなっている。 事例2 第3期において,幼少時の入院のエピソード の中で,Mは大きな情緒的な反応をした。この (1) 相談者:不登校女子児童の母親 エピソードを語ったことを転機として,MはC (2) 主 子を受け入れていくようになる。 (3) 見立て ・ 【C子の幼少期の入院体験を語った意味】 訴:子供(D子)の不登校 母子分離不安が不登校の要因の一つであ ると考えられる。 このエピソードをMが語ることで,C子はい ・ つもひとりぼっちだったこと,母親を心の中に 母親の人間関係の持ち方や不安が子供に 影響を与えていると考えられる。 受け入れることができなかったC子にMが気づ くことができた。その空白を埋めるための不登 (4) 面接の目標 校であり,病気であると考える。また,MはC ・ 母親自身の心の有り様を変えていくこと を援助する。 子への申し訳なさがどこかにあり,それが,C ・ 子との距離を作っていたと思われる。 現実的課題は,学校と連携していきなが ら援助する。 【面接過程でTが果たした役割と意味】 (5) 面接の経過 第 1・2期においては, 「C子を知的に理解しよ 学校でのある出来事をきっかけに登校できな う」というMに,Tは情報や行動の意味の解釈 くなる。面接を開始してから断続的にではある を話すことで説明的対応をしている。 しかし,TとMの関係が深まっていく中で, が,登校をしている。 Mの母親としてのC子への情緒的な心の揺れを 増幅させることで,MがC子を情緒的に受け入 第1期 #1∼5 不安に揺れる母 れていくことを援助するようになる。Mは不安 第1期のMは,時折メモを見ながら,緊張気 をTに受け入れてもらえる体験をしたことが, 味に話す。初回の面接では,幼少期のD子の様 C子の不安を受け入れるというMの母性を喚起 子について話を聴く。途中,家族関係の話にな することにつながったのではないかと言える。 った時,目線が変わったことが印象に残った初 また,Mは「勉強させたいけど友達との人間 回面接だった。 関係も大事にしたい」という葛藤を意識化し, #2∼5では,「兄も学校に行きたがらなくな C子の気持ちにゆとりを持ってかかわるように っていること」で,MはD子だけではなく,兄 なった。TはMの不安や葛藤を受け止め,意識 の対応にも困惑している様子だった。 D子は,担任の家庭訪問のとき,いっしょに 化させる役割だったと言える。 【面接過程で学校が果たした役割と意味】 遊んでもらったことや担任が自分の子供の話を 第 1・2期は,C子のことが心配だが,C子に直 してくれたことで,少しほっとした感じがあり, 接いろいろ聞きたいども聞けないことをもどか 少しだけ保健室に行くようになる。 学校では,保健室で養護教諭と話をしたり絵 しく思っているMを,担任の電話など学校から を描いたりして過ごしている。保健室で,養護 の情報が救う構図になっている。 学校が進路という現実課題に対しても,C子 教諭とD子が描いた絵の中に,花壇を描いてい の気持ちに沿った対応をしてくれていることが, た。全体的には,明るい色調だったが,その縁 Mの葛藤を助長させることなく,C子をやわら 取りだけが真っ黒になったことを,Tが「影の かく見守ることを可能にしている。 部分ですね。」と言うと,Mは「心の影でしょ 学校の対応が,Mの自分自身への気づきを促 進させる役割を果たしたと言える。 うか。」と気にしていた。TはMの心の中を投 影しているようにも感じていたが,そこに触れ 相研−8 るには関係がまだ深まっていないので,触れず 学級の雰囲気や友達のやさしさを感じ,とても にいた。面接はD子と兄の話が混在していた。 ほっとしたらしい。この時の体験から,Mは, D子の状態がよくなれば,兄の状態がよくない 「無理して教室に行かせるより,保健室で元気 というシーソーのような状況で,Mの不安はま が,回復するまで待っておくことが大切だ。」 すます募っていく感じであった。 と思ったと話すMに,少し待つゆとりが生まれ #4で,「実は,また,D子が学校に行って たように感じる。しかし,家族から「甘やかし ないんです。」とD子の状態がまた悪くなった が原因ではないか。」と言われ,「まっておこ ことをメモを見ながら話す。家庭では,担任や う。」という気持ちが少し揺らぎ空しくなるこ 友達に手紙を書いたり,時々勉強しながら,元 とがあると語る。 気に過ごしているが,「休むことに慣れてしま この後,面接時間の変更を希望したが,<変 って,このまま家にいても・・・。」と話すM 更できないかもしれない。>と告げると,面接 に対して,<難しいところですね。行かせよう が1ヶ月間中断することになった。面接で,M と思ってもですね。>とあいまいに答えると, の不安をTが受け止め切れていないことを突き 少し不満そうな表情を見せる。Mは学校の先生 つけられたような感じがした。Tは,このまま や友達にも慣れてきたので,もう大丈夫ではな もう来所しないのではないか心配になった。 いかと思っていたときに,再び登校できないこ とになり,今までよりも不安が強くなったよう 第2期 #6∼13 教師相談1∼2回目 D子の思いを語る母 である。<担任の先生や養護の先生と今後のこ とを話す時間を持ってみては。>とTが言った 教師相談1回目 来所 担任 養護教諭 後,しばらく沈黙が続いた。 D子のことを担任と話し合いたいと考えてい その沈黙の後,表情が変わり,「関係ないこ たところ,学校から「D子とのかかわり方を話 とで申し訳ないんですけど。」と切り出し,自 し合いたい。」という連絡があり,教師相談を 分の家庭でのことを話し始めた。「家庭の中で 行うようになった。養護教諭も来所し,3人で 私自身が,何か言われるんじゃないかとびくび D子のことで話し合いをする。D子が登校した くしているんです。」と涙を流しながらいろい とき,先生方の対応で,安心して学校にいるこ ろ語る。自分の思いと子供の不登校を重ねなが とができること,母親の不安も軽減しているこ ら語るMのやるせなさや不安を聴きながらも, とを話した後,次のことを確認した。 TはMの気持ちをしっかりと受け止められずに ・ いる感じがした。 家庭訪問は,D子の状態を考えると,定期 的に,短時間,D子とお手玉などで遊ぶこと #5で ,「D子はまた,学校に行き始めた。 保健室で先生と勉強をしている。D子は元気に を目的にする。 ・ 1週間に1回,立ち話程度でよいので,母 なっているが,また,兄の方が元気がなくなっ 親と話す機会を持つことが母親の不安やD子 てきているので,心配している。」と話す。 への対応を考えるために大切である。 「D子は保健室で勉強したり,他の先生もか ・ 無理に教室にあげようとしない。 かわったりしてくれるので,得したような感じ ・ 対応に困ったときは,校長・担任・養護教 がしている。」とうれしそうにMは話す。時々, 諭と話し合い,相談室に連絡をする。 教室にも入れるようになる。 担任などと話して,学校のサポート態勢がし 「今日,教室に1日いていいですか。」と担 っかりできていることが実感でき,Mが話して 任の先生に突然言ってみたところ,「どうぞ」 いた「主観的事実」と「客観的事実」となり, と気楽に言われたので,D子と教室に入った。 D子を取り巻く状況を理解することができた。 相研−9 久しぶりの面接となった#6では,Mは待合 うになるためには,自分の心の有り様を変えて 室で,暗い感じで待っていた。面接室に入るが, いくことが大切だ》ということ伝えているよう 前回までと違った空気が流れていた。 に思えた。 面接が中断したことを,Mは「近所の方に勧 #10で,Mは「D子に『教室に行ける?』」 められて,他の相談機関に相談に行った。」と と聞くと『いや。』」とは言わなかった。」と 話す。Tはショックだったが,冷静さを装い, 話し,Tには教室に入らせたいという期待が少 <で,どうでした?>と聞くと,「どちらかに しあせりに転じている感じがし,<無理しない してください。」と言われ,「センターにまた で自然の流れでいきましょう。>と促したが, 相談の継続をするようにした。」とのことだっ その後,D子は学校に行けない状態になった。 た。ほっとすると同時に,Mの不安をしっかり 「ずっと行ってません。」と言いつつも,校 長から「期待しないで待ちましょう。」と言わ 受けとめていなかったことをTは再認した。 「実は,せっかく学校に行っていたとき,他 れたこと,「学校全体で見守られている」とい の学年の子とトラブルがあり,また学校に行か う思いがMの心の中にしっかりとあるため,面 なくなった。先生が間に入って,一応解決はし 接をしていても,Mには以前のような不安や暗 たのですが・・・」と話す。<D子の不安を取 さがあまり感じられなかった。 り除くには,その子と一緒に遊んだ方がよいか #12の中で,「D子の頭の中には,もう一人 もしれませんね。>とTは言い,このことを担 の小さなD子がいて,ベンチに座っている。そ 任の先生に伝えるように話す。このトラブルの のベンチに小さなD子は座っているが,その向 件は,その後,「先生方が上手に子供の中に入 こうは分かれ道になっている。まっすぐ行くと り,一緒に遊ぶことで魔法のように解決しまし 家があり,右の方の先には学校がある。学校で た。」と電話で連絡があった。その後,2週間 は友達が呼んでんでいる。どっちに行くか迷っ 登校したが,また,登校できなくなった。 ている。」と昨夜D子がMに話した心の葛藤を 第2期は,Mはメモを見ずに,悩みを自然な 語る。また,家庭の中で以前よりもMが自分の 形で話せるようになっていた。D子が「今まで 考えをしっかりと言えるようになってきたこと 話せなかったことを話したい。」と言って,ず を語る表情はとても輝いていた。 っと前にあったことをMに話したことが面接の この時期,担任の家庭訪問の後,D子は教室 中に何回も出てきた。それは,D子の友達関係 に母子登校できるようになった。「また,もと での悩み,学校に対する不安が中心であった。 にもどることもあるでしょうね。」と話すMに, (#7,8,11,12) Mは話しているD子をみて, <そうですね。ゆっくりと・・>とTは答えた。 「どうしてずっと黙っていたんだろう」という D子は教室に入ったが,母親がいないとき, 思いと,「きつかっただろうな」という思いで 2回ほど赤ちゃんのように泣きじゃくるという 聞いていたことを話す。#9の面接で, Mの幼 パニックを起こし,登校しなくなった。 教師相談2回目 少期の話になる。「自分は友達ともけんかもし ない。何かあっても心の中で留めてしまってい ・ 電話 養護教諭 パニックを起こした時の対応について る感じの子だった。D子と似ている。」と語る <登校して疲れていたときに,母親がいなく Mに,TはMとD子が二重写しになっていた。 なって急に不安になったのではないか。一時 最後に「D子と私は同調しやすいみたいです。 的な退行だと思うが,パニックが続くようだ 家族の中でも,自分の気分が楽になってから, ったら連絡してください。 D子もエネルギーが出てきた感じがする。」と 語るその言葉が,Tには《D子が登校できるよ 相 研 − 10 パニックを起こしている時は,傍らにいて, 手を握るなどして泣きやむのを待つようにし てください。先生の方が落ち着いていたら, すね。> と話した。 #17,18では,Mは自分から家族間の悩んで そのうちに収まってきます。 教室で直接的にD子が友達や先生と交わる いた話題を出し,「D子も,いろんな気持ちを まで,まだエネルギーが回復してないようで 話すようになって,私自身もD子の気持ちがわ す。お母さんという保護膜が必要です。D子 かるようになってきて楽になり,いやなことは, はお母さんといっしょに教室の雰囲気を感じ いやと言えるようになってきた。物事に対する 取っています。しばらく,そのまま様子をみ 受け止め方がとてもやわらかい感じがしてきた てください。> ことで,いろんな人との関係がしっくりいくよ うになった。」と語る。「同じ道を歩いている 第3期 #14∼18 のに,去年は,木々の美しさを気づかなかった 自分自身の心の変容に気づいた母 んですよね。前ばっかり見て歩いていたんでし #14は父親が来所した。この面接では,次の ねぇ?>と尋ねると,「私がですか。私と言う ような話し合いを行った。 ① このままだったら,「甘えたまま」「わ より,周りが変わったような感じがするんです けど。」と言いながらもMは自分自身の心の変 がまま」にならないか。 ○ ょうね。」<去年と今と何が違うんでしょうか 自発的に動き出すまで待つ。そのために 化に気づいていた。 は,今は母親の保護膜が必要では。今まで の流れを長い目で見ると,エネルギーが高 第4期 #19∼23 教師相談3回目 まってきている。でも,母親はそのときの ゆとりを持ってD子を見守る母 状態で落ち込む。それを,どう父親が支え しばらくは,順調に行っていたが,Mの不安 が少しでできたことで,D子の調子が悪くなる。 るかが大切なのでは。 ② 勉強がおくれるのでないかと心配 学校へは行っているが,教室には入らない状態 ○ 勉強よりも,今はエネルギーを高める方 が続く。 がD子には大切。勉強の遅れは,エネルギ 教師相談3回目 電話 養護教諭 担任 ーが高まったときに取り戻す。 「D子の調子がよくない。ずっと前に戻った ような感じ。」という電話だった。<休みが入 父親は学校のかかわり方のよさに感謝してい ったので,以前の状態からやり直しをしていっ ると話をする。家庭の中で,父親が母親の不安 ているのではないか。先生が介在した中で,少 の聞き役になったり,家族間の調整役になるこ しずつ友達と遊べるようにするのもいいかもし とで,母親を支えていることを感じた。 れません。>と話をする。 父親面接の後,D子は兄と保健室登校ができ るようになる。 D子の状態はあまりよくなかったが,Mは 「昨日,D子がまた,『行きたくない菌が増え #15の面接で,「周りからいろいろ言われて てきちゃった』と言うんですよ。」と笑いなが も,全てではありませんけど,聞き流せるよう ら話す。(#21)「疲れた時に,D子が『行きた になった。D子とは双子みたいなんですよね。 くない。』と言ってきたんです。疲れてるんだ D子がきついときは,私もきついし。いっつも なと思いつつも,もし,これでまた行けなくな 同じ感じなんです。前は違ったんですけど。」 ったらとちょっと不安でした。」<ちょっと, と話すMに,Tは父親の支えの大きさを感じな 不安。以前と比べてどうでしょうか。>「ちょ がら,<お母さんの気持ちの持ちようが変わっ っとだけ,少なくなったようには思います。」 ていくことでD子ちゃんが変わっていったんで <次の日はどうでしたか?>「何ともなく行き 相 研 − 11 ました。」<今までのことを,短期間でやり直 学校と連携しながら,解決したことが本事例の しをしている感じですね。>とTが言うと, 方向性を決めたように思われる。 面接の中で,母親が自分自身を語り,自分の 「そうです。本人は,ゆっくりとやると不安も 内面の問題を克服していくことがD子の登校へ なくやれるんです。」とMは答えた。 Mはまた,学校に対する不安を訴えたが,父 のエネルギーになると認識できるようになった 親が来所(#22)した際に,Mが抱えていた不 のは,学校がD子への対応のエネルギーを注い 安を父親と話し合った。それから,D子は時々 でいることを母親自身がしっかりと感じること 一人で教室に入ることができるようになった。 ができたからだと言える。 【父親面接の意味】 「私も最初は不安だったんですけど,一人で 第3期は父親面接が分岐点である。母親を支 も元気そうになったので,不安がなくなってき えることを,父親と確認できてから,Mの自分 ました。」とMは語った。 <自分で動けるようになってきたみたいです 自身の受け止め方が大きく変わってきている。 ね。>とTが言うと,「自分で決めて動いてい 父親面接の後,D子の登校を再開するなど行動 るので,私は後ろからついていっている感じで 変容が見られる。D子は登校して,しばらく休 す。しばらくはこんな感じだと思います。」と んでまた行くというパターンであるが,D子の 明るい声で語った。(#23) エネルギー充電器である母親の充電を,父親が 強く認識できたことがD子の行動の変容に大き く作用したと考える。Mが父親,学校,Tに支 事例2の考察 教師相談・父親面接を行ったことが,母親の えられているという気持ちが持てていること, 心の有り様を変容させる契機となり,子供の行 M自身の物事のとらえ方が変容していることで, 動変容につながったと思われる事例である。面 D子があまりよくない状態でも,不安を持つこ 接過程で,面接の中断があり,中断も面接の質 となく見守ることにつながっている。そのこと を変える意味があった。 が,一人で登校できるようになりつつある要因 であると考えられる。 【面接中断の意味】 【面接過程でTが果たした役割と意味】 第1期は,D子が不登校の相談に来ている時 に兄の調子も悪くなり,母親としては,とても Tは,中断の後,D子とMの不安が共鳴し母 つらい時期だったようだ。兄とD子の双方を支 子間で増幅していることに気づいた。教師相談 えていかなればという思いはあるが,「母親と を行ってから,担任・養護教諭,校長のD子や しての責任感と無力感」が交錯してしていた。 母親に対するかかわり方や学校のサポート態勢 この時期,母親としての不安と無力感をTが のよさをTが実感することができた。そのこと 受け止めきれずにいた。また,相談者は自分の で,母親の不安をしっかりと受け止めることが 内面の問題に気づきかけたが,関係が深まって Tの役割であること,学校と連携していくこと いない中で,心の内を語ることによって,面接 がD子を支えていくことになることを再認識で に対する不安感が募っていた。そのことを感じ きた。Tが#7で行った学校でのトラブルの解 ないまま,TはMに対応していた。この二つが, 決への示唆も,具体的な学校場面がイメージで 面接の中断の要因であると考える。しかし, きたから行えたと言える。 「D子を見守ってくれる」とMが受け止められ Tの役割は,D子の心の内面を語るMが,実 る学校側のD子の受け入れ態勢(校長,担任や は母親自身を語っていることを受け止めること 養護教諭のかかわり方)のよさが母子の救いに である。また,学校や家庭でのD子の言動の意 なっていたこと,中断の後,トラブルに対して 味を考え,Mや学校がD子の心の成長を長い目 相 研 − 12 で見られるようにすることであったと言える。 2 相談室と学校が果たした役割と意味 一般的に,相談室は面接構造枠(時間・場所 【面接過程で学校が果たした役割と意味】 養護教諭を中心として,担任・校長,専科教 ・人的資源)があり,心理的援助が主である。 諭などD子が学校に適応できるように,温かく しかし,相談者が来談しない場合や子供が登校 見守っている。D子の心の状態に合った家庭訪 する際の現実場面での援助は不可能である。学 問・登校の促しや校長の対応など学校のD子や 校は現実場面での援助や家庭訪問,教師集団や Mに対するかかわり方のぬくもりが,Mの「自 友達など機動力を活かした援助が可能である。 分自身の心の変容」を気づかせる要因になって 相談室と学校が子供の登校に至るまでに担っ た役割について整理したい。 いる。 【相談室(親面接)が果たした役割について】 Ⅴ 研究のまとめと課題 ① 母親が子供を情緒的に受容できるように 援助する。 ② 表1は事例1と事例2を時系列で縦断的に, 親面接担当者は親の不安を受け止め,母 図1は人的サポート環境を横断的に構造化し, 親が自分自身の問題に気づくように援助す 比較したこの図表をもとに考察していく。 る。その際,学校の子供に対するかかわり 1 方が,母親の学校観をポジティブなものに 本2事例の面接過程の共通点 変え,母親の気づきを促進した。 本2事例は,小学生と中学生の事例であり, ③ 不登校になった要因・母親と子供との関係,学 に対応できるように,課題を整理する。 校状況も全く異なる事例である。 ④ しかし,表1及び図1から,その面接過程・ 【学校が果たした役割について】 うに六つの共通項がある ② 母親が子供のことだけではなく,子供の ① 学校は現実課題を具体的に援助する。 ことをとおして自分自身のことを語り,母 ② 学校の中に,居場所づくりを行う。 親自身の心の変容が子供の行動変容に投影 ③ 子供・母親の不安を受け止める。 していた。 ④ 担任だけではなく,担任を援助する学校 学校が子供とのかかわり方に悩みながら の相談態勢が母親の学校に対する信頼感・ も,「常に心のエネルギーを使っていたこ 安心感を醸成していることを明確化する。 と」が,面接過程の中で,母親の自分自身 本事例において,相談室と学校がそれぞれに 母親や子供の援助を行っていったが,結果的に への気づきを促した。 ③ ④ 「親の学校に対する思いがポジティブに ではあるが,双方の役割を明確化し,連携を可 変容していく過程」と「母親の自分自身に 能にしたのが教師相談(来所)であった。 対する気づきの深まり」に相関があった。 3 を行ってからである。 子供のことで来所するということは,その子 的にあった。 教師相談で,現実課題を解決するための 援助方法を具体的に話し合うことができた。 ⑥ 担任だけではなく複数の先生が子供とか かわり,担任を支援していた。 教師相談(来所)の意味 面接が深まっていったのは,来所の教師相談 面接担当者と相談者の関係が深まってい く契機として,来所による教師相談が自発 ⑤ 学校がその子供の気持ちにそった対応が できるように,学校と話し合う。 子供の行動変容を詳細に検討すると,下記のよ ① 登校や進路の不安を受け止め,現実課題 供のことを「今,ここで」双方が共有すること であり,子供のことを語る文脈上の解釈以上に, その会話の行間に秘められたパッショネート (情意的)な部分を面接担当者が感じること 相 研 − 13 表−1 事 例1・2の面接過程 の比較 事 例1 C 子 (中 学 生女 子生 徒 ) 面 接過 程 子 供の 変容 C 子 を受 け止 め られ な い母 第 1 期 時 々, 学 校に 行 くが ト ラ M → C 子の 話 を淡 々 と話 す ブ ル があ る と休 む bbb C 子に い らい ら する bbb Mと の テン ポの 合 わ なさ 妹 の方 に エネ ル ギー が 向い て いる 学 校で の 不安 を 訴え る 妹 の登 校 で気 持 ちに ゆ と りが で る T → 説 明的 対 応を す る 妹 の問 題 に焦 点 が合 う C 子 の気 持ち に 戸惑 う 母 第 2 期 bbb 【 教 師相 談】 学 校の 対 応 bbbbbb 給食 等 環境 調 整 bbb M → 学 校の 配 慮に 感 謝 再 び登 校 する が , トラ ブ bbb ル で 登校 し なく な る 弁 当作 り bbb 【 教 師相 談】 学 校の 対 応 トラ ブ ルの 受 け止 め 方 bbb C 子の 不 安を 受 け止 めbbb 頭痛 等 をM に訴 え る ら れな い まま 現 実課 題 に bbb 気 持ち が わか ら ない bbb 「 休め な い, き つい 」 と 自分 自 身を 語 り始 め る T → M の心 の 揺れ に 添い な 家 で 手伝 い を始 める 担 任の 働 きか け で ,何 回 か 登 校す る こと が で きる 事 例2 D子 (小 学 生女 子児 童 ) 面 接過 程 子 供 の変 容 不安 に 揺れ る母 M → 兄と D 子の 間 で不 安 が 揺 れる 内面 の 問題 に 少し 触 れる 。 少 し待 つ ゆと り 不 安 が募 る T → Mの 不 安を 受 け止 め bbb bbb 時々 保 健室 登 校 影の あ る絵 を 描く bbb bbb 母子 で 1日 だ け 教 室 に 入る られ な い < その 後 面接 が 中断 > 来 談す る か不 安 D子 の 思い を語 る 母 bbb 【 教師 相 談】 学校 の 対応 bbb 家庭 訪 問, 母と の M → 他機 関 に相 談 に行 っ 対 応 の仕 方 た が再 び 来所 断 続的 保 健室 登 校 bbb bbb ト ラ ブル で 不安 トラ ブ ルが あり 行 bbb bbb 学 校の 対 応に 感 謝 bb けな く なる bb M自 身 の 幼少 期 をと 再 び保 健 室登 校 お し て自 分 自身 を 語る D子 と 私は 似 てい る bbb D 子 の葛 藤を 語 る bbb 行 けな く なる 期 待と あ せり 担 任家 庭 訪問 後 登 が らC 子 の心 を 伝え る 【 教 師相 談】 パ ニッ ク bbb bbb T → M が語 る D子 の 思い を M自 身 のこ と と重 ね 合 わせ な がら 聴 く 第 3 期 C 子を 受 け入 れ 始め る 母 bbb bbb M → 「 無理 だ ろう な 」 担 任か ら 登校 の 写 真撮 影 C 子の 言 葉か ら 気持 ち の 誘 いの 電 話 を 感じ ら れる よ うに な る 担 任の 家庭 訪 問 の時 , bbb bbb 「 ど っち で も」 「 会っ て もい い んだ な 」 bbb こ の言 葉 の意 味 に悩 む bbb 「 学 校に 行 く必 要 ない 」 幼 少期 の エピ ソ ード を 契 機 にC 子 の気 持 ちに 共 感 bbb bbb C子 の 多面 的 共通 理 解 【 教 師相 談】 → C子 の 理解 bbb bbb C 子の 不 安を 受 け入 れ る 検 査の 不 安を 訴 え る T → M の不 安 を受 け 止め , M 自身 の 気づ き を返 す 第 4 期 け 入れ る (同 一 化) F と現 実 的課 題 に対 応 T → M の葛 藤 を受 け 止め , M のC 子 への 気 づき を 返 す 現 実課 題 を整 理 する 現 実課 題 は学 校 が対 応 する 心 の変 容に 気 づい た 母 【 父 親面 接 】M の 不安 M → D子 と は双 子 みた い 自分 が 変わ れば D 子も 校 し ばら く 母子 で 教 室 で過 ご す パ ニ ック を 起こ す bbb 母 子登 校 から 兄 弟 bbb 登 校へ 変 わる bbbbbb Mも い やな こ とは い bbbbbb 不 安を 言 語化 で き や と言 え るよ う にな る る よ うに な る bbb D子 の 気持 ち を理 解 bbb 教 室に 少 し入 る T → Fが M を支 え てい る こ とを 実 感す る M自 身 の気 づき を 返す 登校 始 める 母 性を 増 幅さ せ る質 問 自 分 のこ との よ うに 語 る母 bbb M → C 子の 不 安の 受 け入 れbbb 頭 痛を 訴 える bbb 思 春期 の 自分 を 語る bbb 手 芸を M とす る bbb 自 分の こ とと し て受 けbbb 学 校で の 出来 事 ,人 間 関 bb 入 れる 係 bb の 悩み を Mに 話 す 葛 藤( 勉 強の 心 配) を 意 識化 し C子 の 気持 ち 受 家庭 訪 問で 少 し気 ち が和 ら ぐ ゆ とり を 持っ て見 守 る母 bbb M → 学校 に 行か な いD 子 bbb に 対し て もゆ と りを も っ て見 守 る。 【 教 師相 談 】学 校 の対 応 居 場所 ・ 友達 が で き毎 日 登 校 する M → 母の 不 安が 少 し増 す 【 父 親面 接】 M の不 安 を <適応 し てい く C子 > ど う受 け 止め る か M → D子 が自 分 で決 め て 動 いて いる 感 じが す る ・参 考書 を おい て くる ・靴 下が 似 合っ て くる ・ 制 服が 似 合っ てく る 相 研 − 14 私 は後 ろ から つ いて い くだ け T → M 自 身の 不安 を 受け 止 め ,現 実 課題 は Fと 学 校と 対応 す る bbb bbb 「 行き た くな い 菌 が 増 えた 」 と自 分 で 言える 保健 室 登校 に もど る が, 短 期間 で 第 2 3 期の や り直 し を行 い 部 分的 に 教室 へ 友達 と のか か わり 増える 【 事例 1 C 子の 場 合】 親 面接 担当 者 心理的援助 情報交換 連携 子供 面 接担 当者 面接方針 子供 環境調整 情報提供 教 育相 談担 当 家庭訪問 情報交換 子供 面 接担 当者 面接方針 遊戯療法 意味の解釈 自発性援助 母親 情緒的受容 子供 環境調整 友達援助 学習支援 父親 担任 子供の援助 D子 の場 合 】 親面 接 担当 者 連携 自己主張受容 父親 【事 例2 心理的援助 自己主張練習 情緒的受容 bbb bbb bbb bbb 心理的援助 意味の解釈 母親 スーパーヴァイズ 家庭訪問 養 護 教諭 支援・連携 子供の援助 居場所づくり 学習支援 担任 支援・連携 居場所づくり 校長 先 生 養護教諭・同学年など 校長 先 生 同学年・専科・事務 学校 の 相談 態 勢 図−1 学 校の 相談 態 勢 事 例1・2の相談 室か らみた人的サポー ト態勢構図 (太線は,相談室との直接的関係を示す) である。その中で,Tはこの先生とは連携して 来所相談を端緒とした「個人的つながり」5) いけるという確信を持つことができた。その確 が継続教師相談となり,協働的な連携によって 信が親面接の中で語られる親の学校の対応につ 子供を援助していったと考える。連携が段階を いて,その意味を問われたとき,教師が持って 上がるごとに,お互いの役割を明確に認識し, いたパッショネートな部分を親に転移させてい 共有する情報の量が増え,役割の相補性が高ま くことを可能にする。また,逆に子供や親の思 っていくと言える。 相談室と学校の連携,親との関係を構造化す いを伝えることもできる。このことが面接担当 者が単なる情報だけではなく母子と先生双方の ると下記のようになる。 思いをつなぐ「橋渡し的な役割」3)を担うこと <第1段階 第1期> 注)線の太さ・点線は関係の深さを示す bbb 4 bbb bbb 相談室 bbb を可能にしたと言える。 連携の3段階機能 親 学校 子供の問題・学校観の変容 学校と専門機関の連携というと,組織同士の <第2段階 第2・3期> 連携のようなイメージがあるが,その原点は, 相談室 bb bb bbb bbb bb 面接担当者と親との関係と同様に,面接担当者 bbb bbb 親 bbb bbb bbb bbb bb 自分自身の問題を語る と教師という個人と個人の関係である。 学校 bb bb 情報交換・連絡調整 連携には「情報交換・連絡調整,相互補完, <第3段階 第4期> 協働の3段階の機能」4)がある。電話相談は情 相談室 bb bb bb 報交換・連絡調整はできるが,その微妙なニュ bbb bbb 親 bbb bbb 現実課題の整理 アンスは伝わりにくい。しかし,来所され,同 bbb bbb 現実課題対応 学校 bb bb bb 相互補完・協働 じ空間,同じ時間にともに子供のことを語り合 うという体験がその微妙なニュアンスをポジテ bbb bbb 図−2 相談室・学校・親の関係構造3段階 5 教育相談態勢から教育相談体制への起点 ィブなものとし,子供の情報を共有することで, この個人の関係を越えて,学校というコミュ 多面的な子供理解ができ,お互いの役割を認識 ニティーを援助システムとみるアプローチを可 した上での,相互補完的な連携を可能にするも 能にしているのが,複数の先生の教師相談であ のと考える。さらに,「次からは,電話でも相 る。複数での来所相談は,来所する際の専門機 談できる」という学校と相談室の安心感を醸成 関という敷居の高さを低くすることができ,ま し,継続的な教師相談につながったと思われる。 た,教師相談において話し合った意味を来所し 相 研 − 15 た先生同士が共有でき,反芻できるのである。 しかし,相談者の中には,「学校には来談を 担任だけではなく,学校の教育相談機能のキー 知られたくない」という人もいる。この場合の パーソンとなる先生と一緒に来所することが, 連携の在り方は,今後の課題である。 研究指導者のコメント 学校の組織としての教育相談対応を促進させて Ⅵ いると言える。この教育相談態勢がシステムと 当事者感覚が連携への意欲と知恵を産む して子供を援助していく教育相談体制の起点と 一般に,不登校行動の発症と長期化は子供自 なることを示唆している。 身の学校のストレス対処力,それをサポートす 6 る環境資源,不登校で得る二次的利得という三 連携の課題 本2事例は,相談者の来所は学校からの紹介 つの要因の絡み合いという観点で考えられる。 である。よって,相談者の来所は学校が知って 従って,その改善にはこれらの要因の強化・抑 いることがその前提となっている。 制を目論んだ種々のアプローチが営まれる。 連携をとる際,「秘密保持」が課題となる。 環境資源強化という点でいえば,いわゆる専 相談者は面接担当者との関係の深まりの中で, 門相談機関は家族や学校との協力・連携に腐心 その内容が学校に伝わらないことを前提に自分 する一方,学校も家庭(保護者)との協力や校 の内面を語るのである。しかし,学校と連携し 内の支援体制が図られている。しかし,実際に 「理解・協力を得るためには,ある程度面接内 はこれらの相互の連携・協力はいわれるほどシ で知り得た情報を担任と共有することが必要で ステマティックではないのが現状である。 あり,どのような形でどの程度共有するかが問 本事例では,担当者が,保護者との面接を中 題」6)となる。面接担当者と相談者,学校との 心にしながら,結果的には,子供支援資源とし 間の信頼関係の上で,「この点について,○○ ての保護者と学級担任,学級担任と校内組織の 先生と話し合いますが,どうですか。」という 具体的な連携を引き出した点に注目される。逆 了解をとることが必要である。例えば,事例1 に見れば,保護者にしろ学校にしても,子供の の場合は相談者(C子)に給食の件で学校と話 問題改善という目的において専門機関を利用す し合うこと,事例2においては「他学年とのト ることの積極的意義と方法,またそのための当 ラブルで学校と話し合うこと」について,相談 事者感覚の重要性等について改めて確認する機 者(母)の承諾を得た。「秘密を守りつつ,課 会となったのではなかろうか。限られた事例で 題解決に必要な情報を共有し,課題解決への援 の成果とはいえ,関係者にとっては参考になる 助をすること」が重要であると考える。 点は少なくないと思う。 ( 引用 文献 ) 1) 河 合隼 雄 (1986)“ 心理 療 法論 考” 第 1版 P218 新曜社 P624 心 理 臨床 学研 究 15-6 3)小 俣和 義 (1999)“ 母親 と 協力 して 支 えた 思 春期 女子 の 事例 ”P538 心 理 臨床 学研 究 16-6 4)佐 藤晴 雄 (1998)“ 学校 と 家庭 ・地 域 社会 の 連携 に関 す る実 践事 例 の検 討 ”P209 教育制度学研究5号 5) 大 川成 夫 (1999)“ 問題 行 動の 深刻 化 の克 服 をど う進 め るか ”P121 教職研修8月号増刊 6) 長 坂正 文 (1998)“ 学校 内 カウ ンセ リ ング の 諸問 題” 心 理 臨床 学研 究 15-6 2) 橋 本や よ い(1998)“ 母親 面 接の Narrativeに つい て” P618 教育開発研究所 ( 参考 文献 ) 1 山 本和 郎 コ ミ ュニ ティ 心 理学 幹男 第1版 研 究指 導者 林 (筑 紫 女学 園大 学 教授 ) 長 期研 修員 増田 健 太郎 (東 月 隈小 学校 ) 相 研 − 16 東 京大 学 出版 会 (1986年 ) 坂井 俊介 ( 主 任指 導 主事 )