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京都議定書、暫定的な延長が濃厚

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京都議定書、暫定的な延長が濃厚
25%削減時代の日本経済 【第8回】
京都議定書、暫定的な延長が濃厚
小林 辰男
11月末からメキシコで気候変動枠組み条約締約国会合(COP16)が始まった。2013年以
降の温暖化防止の国際的な枠組みを話し合うが、中間選挙で与党民主党が大敗した米国には新提
案を期待できない。中国は譲歩するそぶりもなく2大排出大国が動く気配はない。中長期的な削
減策の検討については2年後の米大統領選挙まで実質的に始まりそうもない。そういう情勢下で、
産業界が「不平等条約」との批判する京都議定書が、暫定的に13年以降も延長にされる見通し
だ。日本が厳しい排出削減に直面し、多額の排出権購入に追い込まれる「悪夢のシナリオ」も考
えられる。
表 各国の2020年までの削減目標案
本格交渉は米大統領選後に
主要国の2020までの
温暖化ガス削減計画
「今後、2年間は交渉が進まな
い」―。中間選挙の結果をみな
がら環境省幹部はため息をつく。
13年以降の温暖化ガス削減の国際
的な枠組み作り(ポスト京都)は、
削減費用
(円/CO2排出量
1トン当たり)
中 国
GDP原単位(単位GDP当たりの温
暖化ガス排出量)を
05年比▲40∼▲45%
0∼270
米 国
90年比▲3%
5400
E U
90年比▲20∼▲30%
4320∼12150
ロシア
90年比▲20∼▲25%
0
インド
GDP原単位(単位GDP当たりの温
暖化ガス排出量)を
05年比▲20∼▲25%
0
日 本
90年比▲25%
42840
米国の次の一手次第だからだ。し
かし中間選挙で大敗し、
「ねじれ
国会」となったオバマ政権は、指
導力を発揮できず、交渉が進展す
る可能性は現時点ではゼロに近い。
温暖化防止に熱心な欧州が国際
交渉を主導してきたと考えられて
注)削減費用は地球環境産業技術研究機構(RITE)の試算を基に1ドル
=90円で計算、▲はマイナスを示す
出所)筆者作成
いるが、実は現在の温暖化防止の枠組みは
昨年12月にコペンハーゲンで開かれた
米国が設計図を描いてきた。1992年に合意
COP15で、 米 国 は05年 比17 % 削 減(90年
した気候変動枠組み条約はブッシュ政権が
比3%減)を打ち出したが、各国から目標
最終交渉の場に素案を提示した。97年の京
が低いと批判を浴びた(表、欧州連合(EU)
都議定書は当時のゴア副大統領が作成に大
は90年比20%減、日本は25%減)
。後述す
き く 寄 与 し た。 い わ ば「 ブ ッ シ ュ 条 約 」
るが、米国の目標は現行の京都議定書(米
「ゴア議定書」といえる。
40
日本経済研究センター 2010.12
国は離脱している)が定めた目標すら下回
図 欧州は経済成長と温暖化ガスの削減を両立
(1990年=100%)
120
EU
日本
115
米国
110
105
100
95
90
1990
92
94
96
98
2000
02
04
資料)国連気候変動枠組み条約事務局(unfccc)
06 07
(暦年)
っているからだ。しかし 低い数値目標
上回った分を排出権として他国に売ること
ですら産業界の反対で国内の対策法案に盛
ができる。削減目標に達しなかった国は、
り込めなかった。オバマ政権は巻き返しを
排出権を購入することで、達成可能になる。
図ろうとしているが、
「結局は2年後の大
削減に市場原理を持ち込み、効率的に削減
統領選挙待ち」と多くの日本政府関係者は
を進める仕組みになっている。
みている。
この排出量取引の仕組みをいち早く制度
そこで浮上しているのが、京都議定書の
化 し た の が 欧 州 排 出 量 取 引 制 度(EU−
単純延長論だ。とりあえず現行の取り決め
ETS)だ。しかし本当に排出量取引が欧
を暫定的に残し、その間に排出大国である
州の削減に寄与したかどうか、検証はでき
米国、中国、インドなどにもう一段の譲歩
ていない。8月号の当コラムで日本経済新
を引き出す狙い。すべての主要排出国が公
聞社の古谷茂久記者がレポートしたように
平に何らかの削減義務を負う枠組みに近づ
同取引に参加する大半が金融関係者や排出
けようとしている、あくまで建前は。
権売買を仲介するブローカー。議定書が失
延長論の背景にマネーゲームの影
効すると企業などが保有する巨額の排出権
が紙くずになる。欧州が議定書の延長に動
現実は複雑だ。京都議定書は08∼12年ま
く背景には、こうした本音がある。中国や
でに先進国へ削減を義務づけた。欧州が90
インドは途上国扱いで削減義務はなく、最
年比で8%、米国が7%、日本が6%、そ
終的に賛成する可能性が高い。
れぞれ削減することが主な内容。途上国に
は削減義務はない。さらに京都メカニズム
日本にとって「悪夢」のシナリオも
と呼ばれる排出量取引の仕組みが規定され
では、日本にとって延長はどのような影
ている。目標を上回る削減を実現した場合、
響があるのか。
日本経済研究センター 2010.12
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延長の中身次第だが、延長と同時に現在
の削減目標を見直そうという動きが表面化
する場合はやっかいなことになる。実は政
府や産業界で「悪夢のシナリオ」とささや
かれている。欧州は、20年20%削減を掲げ
る。日本にも6%ではなく、25%減を求め
てくることが考えられる(日本の目標は主
要排出国が同様の削減義務を負うことが前
提)
。
表で示すように温暖化ガス(この場合は
CO2)を1トン減らす場合、日本と欧州で
排出量取引制度
政府や地方自治体が工場やオフィスごとに
温暖化ガスの排出上限を設定し、排出枠を割
り当てる。排出枠内で温暖化ガスの排出量を
抑制できた場合、余剰分の権利を売却できる。
逆に排出枠を超えてしまったときは、排出量
の権利を購入することで、上限を遵守する。
欧 州 連 合(EU) が 域 内 の 排 出 量 取 引 制 度
(EU−ETS)を2005年に創設。現在は第2
フェーズ(08年以降)に入っており、05年
比で6%減という目標のもとに排出枠が設定
している。排出枠の割り当ての一部は競争入
札で買い取る仕組みになっている。日本では
環境省などが国内向け排出量取引制度を検討
中だ。
は大きくコストが異なる。厳しい排出削減
を日本に求めれば、それだけ排出権価格が
上がり、日本へ高価で売ることが可能にな
る。
しかも前述したように条約を批准する国
込まれない外交手腕が問われる。
延長問題、 来年COP17決着か
の多数を占めるのは削減義務がない途上国。
だがCOP16の交渉に対し、日本政府内
彼らは排出権を買う可能性はなく、反対理
に危機感は乏しい。
「肝心の議長国メキシ
由はない。日本政府はこのケースには徹底
コがやる気ないですから」と政府関係者は
抗戦する構えだ。
打ち明ける。京都議定書の延長であれば、
一方、日本は京都議定書の削減目標をそ
11年末にまとまれば、手続き上問題はない。
のままにして12年以降2∼3年間暫定的に
温暖化問題に関するこれまでの国際交渉は、
延長する方向で、とりあえず最終決着させ
ギリギリになるまで決まらないのが常で、
たい考えだ。米政権の姿勢がはっきりする
今回は何も決まらないと読んでいるからだ。
12年以降に中長期の温暖化防止策となる
しかし降って湧いたように問題が噴出し、
「新議定書」交渉を再開するのが現実的と
あたふたする可能性が潜むことは、環太平
みている。だが、京都議定書を離脱してい
洋経済連携協定(TPP)への参加問題の
る米国は頼りにならず、多勢に無勢の状況
政府の対応でも明らか。
「備えあれば憂い
に追い込まれた場合、どのように対応する
なし」というが、「備えなく、憂いばかり
のか。
「外国から空気(排出権)を買うた
ある」気がするのは筆者だけだろうか……。
めに数兆円を出費する」という事態に追い
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日本経済研究センター 2010.12
(主任研究員)
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