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乳児の運動発達について

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乳児の運動発達について
乳児の運動発達について
千葉県千葉リハビリテーションセンター
東京大学大学院教育学研究科身体教育学コース
発達脳科学研究室
小林 佳雄
‘立ち上がる’
‘ものをつかむ’
‘歩く’
「小さな大人」か?
「乳児」か?
「発達」という問題を取り扱う
なぜ、発達か
運動
学習
知覚
記憶
認知
言語
ヒトの初期発達の研究は、我々の日常を支える身体・脳の機構と起源
を解明する上で不可欠
運動
学習
知覚
記憶
認知
言語
【発達】 ふるまいは多様性にあふれ、解が一意に定まらない
A
B
結果
(運動の獲得)
c
D
(time)
収束
【発達】 変化が線形ではなく、非線形である
A
B
結果
(運動の獲得)
c
D
• 非線形
(time)
【発達】 単純⇔複雑、複雑⇔単純な運動へと変化
A
B
結果
(運動の獲得)
c
D
(time)
なぜ、そのような現象が生じうるのか??
系-システム
運動
学習
知覚
記憶
認知
言語
系-システム
運動
学習
知覚
記憶
認知
言語
系-システム
運動
視覚
学習
聴覚
知覚
触覚
嗅覚
認知
記憶
言語
系-システム
系-サブシステム
運動
学習
知覚
記憶
認知
言語
‘複雑系’
時間の経過に伴い自己組織的に変化していく系のふるまい
(time)
‘安静時における意識を示す脳の動的活動’
(time)
発達
運動発達
(教科書的な)運動発達の流れ
• 神経成熟理論
大脳皮質
運動のふるまいの変化にある考えとして、
運動機能の出現には中枢神経系の成熟が最
も重要、という考え(McGraw, 1940)
反射
皮質下部
0~
反
射
大脳
皮質
(days)
・発達初期は、運動において反射が関係
・原始的な反射パターンが、制御されたパターンへと変化
・大脳皮質による皮質下部の活動抑制
大脳皮質の活動は環境からの影響を受けない
大脳
皮質
0~
(days)
神経成熟理論では説明できない現象が近年多く実証されてきている
原始歩行反射
原始歩行反射
・EMGのパターンは成人に比べて単純で、伸筋同士、拮抗筋同士がほとんど同期
(Forsberg et al. 1985)
・発達初期は、脊髄のセン トラルパターンジェネレーターが寄与している
・脊髄の神経回路と結合 し、原始歩行パターンから成人型歩行パターンへと変化
・原始歩行が消失するという現象は、大脳皮質の成熟によって皮質下の回路網が抑
制を受けるというメカニズムによって説 明
反
射
大脳
皮質
消失
反射
0~
(days)
原始歩行反射
・水の中では、原始歩行反射と呼ば
れる歩行様のリズム運動は出現
(Thelen E 1984)
・「大脳皮質の成熟によって、反射が
抑制されている」という考えでは、説
明できない現象
反
射
大脳
皮質
反射
0~
(days)
2つの視点
歩行の獲得、パターンの変化
環境
系全体を考慮した
変化
神経回路網の変化
我々が目にしている行動とは?
「行動」は…
脳・身体・環境の相互作用によって創発されたもの
脳
環境
身体
「システムとしての発達」は検証可能か
運動発達
行動、および現象をつぶさに丁寧に観察
- 自然なふるまい
-可能な限り、成人と同じ実験系で行っ
た計測で得られる現象
本日の講義内容
• システム論としての発達
• 生後1年の間に観察される運動発達の変化
運動発達
‘周期運動’
‘離散運動’
‘姿勢安定’
0~
‘現象の変化’
(days)
乳児の発達研究のパイオニアとして…
Charles Dawin(1809-1882)
運動発達
自発運動の特性は発達とともに変化する
相関係数(運動の関係性)
平均速度(運動量/時間)
手同士
脚同士
自発運動の特性は障害を伴うと変化する
平均速度(運動量/時間)
相関係数(運動の関係性)
躍度(運動の性急さ)
環境
脳
身体
環境
脳
身体
モビール課題を用いた四肢運動の発達的特性
黒…腕 白…脚
3ヵ月
2ヵ月
4ヵ月
(days)
モビール課題を用いた四肢運動の発達的特性
2-4ヶ月群の乳児(298名)を月
齢の若い順に4群に分けた所…
 初期は、四肢の運動量が顕著
 四肢間のタイミングを示す質は、
発達後期に出現
量
質
身体の認識
環境
脳
身体
・馴化/脱馴化パラダイム
乳児は新奇な課題、物体に対して注視する特性を持つ。その特性を
利用し、注視時間等を観察する実験パラダイム
観察者視点
映像
乳児視点
映像(反転)
観察者視点
映像(反転)
身体の認識
環境
脳
身体
・馴化/脱馴化パラダイム
乳児は新奇な課題、物体に対して注視する特性を持つ。その特性を
利用し、注視時間等を観察する実験パラダイム
早期からの探索活動
環境
脳
身体
• 吸綴課題
• 吸綴の度に音を鳴らす実験
吸綴回数
音を鳴らした条件>無音条件
• 吸綴の力に依存した音の高低を操作する条件
-吸綴の力に依存した音を鳴らすと、その音を鳴らすように吸啜する力を調節
-あえて吸綴の力に依存しないランダムな音程を鳴らすと、吸啜回
数が増加→予測との誤差を確かめるように、探索?
運動発達
リーチング
モノを斜めにとる課題
11週
17週
速度
始点
終点
始点
終点
リーチング
モノを斜めにとる課題
11週
17週
速度
始点
終点
始点
終点
y
モノ
X
モノ
APA(先行性随伴調節)
• 9ヶ月頃の乳児は既にAPAと呼ばれる予測的姿勢制御を獲得して
いる(Von Hofsten et al. 1989)
左三角筋
左腹直筋
右腹直筋
運動発達
sitting
E-lnh NF RA RF
RA:腹直筋
RF:大腿直筋
NF:頸部屈曲筋
E-lnh:伸筋群
• 前方方向に外乱
• 外乱時にみられた筋活
動の組み合わせのパタ
ーンが5‐6ヶ月において
はばらつきが多かった
ものの、発達に伴い、ば
らつきが減少
(Hadders-Algra M et al. 1996)
運動発達
出現する筋活動パターンの数
後方外乱
前方外乱
• 立位を完全に達成しない8ヵ月乳児においても、外乱の向きに対して方向
特異的に筋活動パターンを行う様子が観察される
• 座位時の外乱に対する筋活動パターンが、立位においても汎化している
可能性あり
感覚への刺激および、動作獲得前後の変化
環境
脳
身体
・指先を機械に触れるのみ
・機械から特定の周波数の微振動が起きる
・体性感覚に刺激
感覚への刺激および、動作獲得前後の変化
環境
脳
身体
・指先を機械に触れるのみ
・機械から特定の周波数の微振動が起きる
・体性感覚に刺激
歩行獲得前後の月齢変化
環境内で身体を制御するために
脳
環境
身体
自由度問題
目標位置
始点 無数の軌道
始点
無数の関節角度
の組み合わせ
歩行における下肢の筋活動
歩行における下肢の筋活動
運動発達
様式の違いによる四肢運動パターン
様式の違いによる、手足の運動順序のタイミングは同じ
• 運動学的視点からみた下肢の協調性の変化
歩き始め時期
歩き始めて
3週間後
歩き始めて
6週間後
月齢18ヵ月
 月齢18ヵ月時期に下
肢の運動学的な協調
構造が成人に似てくる
 足部の特性の変化が
著明
歩行における下肢の筋活動
歩行における下肢筋の協調構造の発達
脳
環境
身体
正常歩行
下肢の運動学的な協調構造は、環境の違い
(文脈)に応じて、適応性をみせるのか?
障害物
階段
傾斜
階段(昇段)
障害物
昇り傾斜
正常歩行
下り傾斜
階段(降段)
階段(昇段)
障害物
昇り傾斜
正常歩行
下り傾斜
階段(降段)
•
•
•
成人は環境の違いによって下肢の協調性を変化させる一方で、歩き始めた乳児
は全く変化が観察されない
成人は、大腿を含めた3自由度で、環境に応じて変化
乳児は、2自由度のみ
多様性
多様性
運動パターンの多様性が
どのような変遷課程を辿
るのか?
A
B
外乱時に出現するパターン
-sitting (Forssberg et al. 1994; HaddersAlgra M et al. 1996)
-standing (Hedberg et al.2007)
択
infantの歩行に寄与するパターン
(Dominichi et al. 2011)
増
増
運動発達の中での寝返り
0~



接地面が広い
力学的に状態が安定
全身を用いた協調運動
(days)
背景
乳児期の寝返り運動の発達的変化
Reflex
pattern
Automatic
pattern
Deliberate
pattern
(McGraw et al. 1941)
(Phase B)Reflex pattern.. from a supine to lateral position with spinal extensor movement
(Phase C)Automatic pattern… from a supine to prone
四肢の協調運動
はどのように観察
されるのか
・同側の上肢・下肢が動いているかいないか
・運動肢と体幹の運動のタイミング
(体幹と同時か
体幹より早いか
体幹より遅いか)
様
様
理論的に考えうるパターン
 四肢の運動特性について
数種の運動パターンに集約
 乳児期の寝返り運動における四
肢運動は同時に運動するパター
ンが多い
 非同時に運動する場合、対側上
肢を先行するパターンが多く観
察される-成人の寝返り運動
(Richter et al. 1989)
 乳児にみられる四肢の同時の運
動パターンは、成人ではあまり
観察されない
未発表データのため、非公表
異なる初期条件から,異なる軌道を描いた場合、同じ最終状態が,
どのように達成されるのか.
個人の発達過程はモデルとして記述できるの
か?
結果
(運動の獲得)
time
‘縦断的観察により、個人レベルと集団レベルで観察される運
動発達の軌跡について普遍性と多様性を観察する必要があ
る’
• 先天的か後天的か
(遺伝か、環境か)
(生得か、経験か)
出現する運動パターンが、本来備わっている仕組みによって出現したのか、
経験によって引き出されるのか
150年前に問われた命題は、
未だ解明されていない
Charles Dawin(1809-1882)
本日の講義を聞き終えて………
環境
脳
身体
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