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研究で用いる特許権の取扱に関する 調査研究報告書
平成19年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 研究で用いる特許権の取扱に関する 調査研究報告書 平成20年3月 財団法人 未来工学研究所 -1 -2 -3 -4 要 約 1.目的 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お い て は 、発 明 か ら 事 業 化 ま で 長 い 期 間 と 大 き な 投 資 を 必 要 と す る た め 、イ ノ ベ ー シ ョ ン に つ な げ る 上 で 、特 許 は 非 常 に 重 要 な役割を果たしている。 特 に 、遺 伝 子 改 変 マ ウ ス 等 の モ デ ル 動 物 、実 験 装 置 ・機 器 、ス ク リ ー ニ ン グ 方 法 等 の 方 法 、デ ー タ ベ ー ス や ソ フ ト ウ ェ ア 等 、研 究 を 行 う た め の 道 具 と し て 使 用 さ れ る 物 又 は 方 法 に 関 す る 特 許 で あ る「 リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 」に は 、 汎 用 性 が 高 く 研 究 の 推 進 に 資 す る も の が 多 い 一 方 で 、代 替 性 が 低 い も の も 多 い 。結 果 と し て 、リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に お い て 、特 許 に よ る 研 究 の 差 止 め を 求めて訴訟に至った事例も生じている。 こ う し た 状 況 に 対 し て 、国 内 外 で は 近 年 各 種 取 組 が 行 わ れ て き て い る 。先 進 国 間 で は 、「 遺 伝 子 関 連 発 明 の ラ イ セ ン ス 供 与 に 関 す る OECD ガ イ ド ラ イ ン 」 が 2006 年 2 月 に OECD( 経 済 協 力 開 発 機 構 ) に よ り 策 定 さ れ 、 ま た 、 米 国 で は NIH( 米 国 国 立 衛 生 研 究 所 ) が 、 リ サ ー チ ツ ー ル の 取 得 及 び 普 及 に 関 す る NIH 研 究 資 金 受 給 者 の た め の ガ イ ド ラ イ ン を 示 す と と も に 、 NIH 等 が 保 有する情報を公開するなどの取組を進めている。 さ ら に 、 欧 州 に お い て は 、「 EC バ イ オ 指 令 」 が 1998 年 に 策 定 さ れ 、 欧 州 各 国 に お い て も 、研 究 で 用 い ら れ る 特 許 権 の 使 用 に 関 す る 議 論 が な さ れ て い る。 一 方 、 我 が 国 に お い て も 、 総 合 科 学 技 術 会 議 に て 、「 大 学 等 に お け る 政 府 資金を原資とする研究開発から生じた知的財産権についての研究ライセン ス 指 針 」が 2006 年 5 月 に 、ま た 2007 年 3 月 に「 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 使 用 の 円 滑 化 に 関 す る 指 針 」が 、特 許 制 度 に よ る 保 護 と 活 用 の バ ラ ン ス の と れ た 特 許 の 使 用 に 係 る 運 用 の 指 針 と し て 、そ れ ぞ れ策定されている。 さ ら に 、2007 年 5 月 に 策 定 さ れ た「 知 的 財 産 推 進 計 画 2007」に お い て も 、 大 学 等 や 民 間 企 業 の 試 験・研 究 で 用 い ら れ る 特 許 権 の 特 許 法 上 の 取 扱 に つ い て 、国 際 的 な 議 論 の 動 向 や 各 国 の 対 応 等 を 踏 ま え て 検 討 す る こ と が 求 め ら れ i ている。 こ れ ら 最 近 の 国 内 外 の 動 向 や ニ ー ズ を 鑑 み 、研 究 で 用 い る 特 許 権 の 取 扱 に 関する検討のための基礎資料に資するため、本調査研究を行った。 2.調査研究の方法 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 を 中 心 に 、試 験 ・研 究 の 例 外 、 裁 定 ( 強 制 ) 実 施 権 、 発 明 の 特 許 性 、( 公 的 資 金 を 原 資 と す る ) 知 的 財 産 権 の保護と特許使用の円滑化(パテントプール等を含む)等について、法令・ 規 則 、 判 例 、 基 準 、 指 針 ( ガ イ ド ラ イ ン )・ 指 令 、 及 び 、 学 説 ・ 関 連 議 論 、 及 び 指 針 ・ 法 令 に 至 っ た 経 緯 ・背 景 や 動 向 を 国 際 機 関 、 地 域 、 国 毎 に 調 査 研 究を実施した。 調 査 研 究 対 象 の 国 際 機 関 と し て ( OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development ; 経 済 協 力 開 発 機 構 ) )、 地 域 と し て EU(European Union;欧 州 連 合 )、 国 と し て は 、 日 本 、 米 国 、 英 国 、 ド イ ツ 、 フ ラ ン ス 、 ベ ル ギ ー 、 ス イ ス と し た 。 調 査 研 究 は 、 対 象 国 の 大 学 ・関 係 機 関 等 の 研 究 者 等 へ 委 託 す る と と も に 、文 献 調 査 を 行 っ た 。更 に 、こ れ ら の 調 査 の 結 果 を 機 関 ・ 地 域 ・国 の 間 で の 類 似 ・相 違 点 の 比 較 分 析 、 機 関 ・ 地 域 ・国 そ れ ぞ れ の 経 緯 と 機 関 ・ 地 域 ・国 間 で の 相 関 の 2 視 点 よ り ま と め を 行 っ た 。 3.調査の結果・まとめ (1)比較分析:機関・地域・国の間での類似・相違点 日 本 、OECD、米 国 、EU、英 国 、ド イ ツ 、 フ ラ ン ス 、ベ ル ギ ー 、 ス イ ス に お い て 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 を 中 心 に 、特 許 権 者 の 利 益 を 図 り つ つ 、研 究 を 推 進 し イ ノ ベ ー シ ョ ン を 促 進 す る た め の 調 整 に つ い て どのような議論がなされているか又はどのような方策が講じられているの かについて明らかにした。 検 討 を 行 う に あ た り 、権 利 の 保 護 と 利 用 の バ ラ ン ス を と る 調 整 手 法 と し て 複 数 の も の が 抽 出 さ れ 得 る 。 具 体 的 に は 、 法 的 な 調 整 手 法 と し て 、( i ) 試 験・研 究 の 例 外 、( ii)強 制 実 施 、が あ げ ら れ る 。そ の 他 の 調 整 手 法 と し て 、 ii ( iii)ガ イ ド ラ イ ン / ポ リ シ ー の 策 定 及 び 普 及 、( iv)パ テ ン ト プ ー ル の 形 成等があげられる。 これらの各手法ごとに検討を行うこととする。 (i)試験・研究の例外 特 許 権 の 行 使 に お け る 試 験・研 究 の 例 外 に つ い て は 、こ れ ま で 多 く の 研 究 がなされている。 特 許 権 の 効 力 に 一 定 の 制 限 を 課 す こ と と な る 試 験・研 究 の 例 外 を 検 討 す る に あ た り 、ま ず は 、世 界 各 国 の 多 く の 特 許 法 の 共 通 の 枠 組 み の 一 つ で あ る「 知 的 所 有 権 の 貿 易 関 連 の 側 面 に 関 す る 協 定 ( TRIPS 協 定 )」 の 第 30 条 が 、 ま ず は参照され得る。 第 30 条 ( 与 え ら れ る 権 利 の 例 外 ) 加 盟 国 は 、第 三 者 の 正 当 な 権 利 を 考 慮 し 、特 許 に よ り 与 え ら れ る 排 他 的 権 利 に つ い て 限 定 的 な 例 外 を 定 め る こ と が で き る 。た だ し 、特 許 の 通 常 の 実 施 を 不 当 に 妨 げ ず 、か つ 、特 許 権 者 の 正 当 な 利 益 を 不 当 に 害 さ な い こ とを条件とする。 上 記 規 定 は 、世 界 各 国 の 多 く の 特 許 法 に お い て 定 め ら れ て い る 試 験・研 究 の例外等を考慮したものである。 日 本 の 特 許 法 で は 第 69 条 第 1 項 に 「 特 許 権 の 効 力 は 、 試 験 又 は 研 究 の た め に す る 特 許 発 明 の 実 施 に は 、 及 ば な い 。」 と 記 載 さ れ て い る 。 ま た 欧 州 各 国 、 例 え ば 英 国 ( 特 許 法 第 60 条 第 5 項 (b))、 ド イ ツ ( 特 許 法 第 11 条 (b))、 フ ラ ン ス ( 特 許 法 第 613 条 5(b))、 ベ ル ギ ー ( 特 許 法 第 28 条 (1)(b))、 ス イ ス ( 2007 年 6 月 22 日 に 議 会 に 承 認 さ れ た 改 正 特 許 法 第 9 条 (1)b) 等 の 特 許 法においても、試験・研究の例外について規定されている。 し か し 試 験・研 究 の 例 外 の 規 定 は 、各 国 で 少 し ず つ 異 な り 、ま た そ の 適 用 範 囲 は 明 確 に 限 定 さ れ て い る わ け で は な い( 明 確 に 限 定 さ れ る よ う に 規 定 す る こ と は 至 難 で あ ろ う )。 さ ら に 各 国 の 判 例 を み る と 、 試 験 ・ 研 究 の 例 外 の 適 用 範 囲 は 、一 見 よ く 似 た 条 文 の 内 容 で あ っ て も 、少 し ず つ 異 な っ て 解 釈 さ れている。例えば、ドイツでは臨床試験について広く例外を認めているが、 英 国 で は 非 常 に 狭 く し か 試 験・研 究 の 例 外 を 適 用 し て い な い 。フ ラ ン ス で も iii 判例上、厳格に解釈されている。 ベ ル ギ ー で は 、2005 年 4 月 28 日 に 公 布 さ れ た 改 正 特 許 法 の 第 28 条 (1)(b) に お い て 、「 特 許 所 有 者 の 権 利 は 、 発 明 の 主 題 に 関 す る (on)又 は 発 明 の 主 題 を 用 い て (with)、科 学 的 目 的 の た め に な さ れ る 行 為 に は 及 ば な い 」と 規 定 さ れ 、例 外 の 範 囲 が 拡 大 さ れ た 。こ れ に よ り 研 究 の 自 由 度 が 拡 大 す る こ と に な るが、一方で特許権の効力が制限されることになる。本条項の導入により、 特 許 の 保 護 と 利 用 の バ ラ ン ス が ど の よ う に 変 化 す る の か 、そ の 効 果 は ま だ 不 明であり、今後の状況の推移を注視する必要があるだろう。 ま た ス イ ス で は 、特 許 法 の 改 正 が 2007 年 6 月 22 日 に 議 会 で 承 認 さ れ 、第 9 条 (1)で 試 験 ・ 研 究 の 例 外 に つ い て 規 定 さ れ て い る 。 除 外 さ れ る ケ ー ス を 各 々 列 挙 し て 記 載 す る と い っ た ス イ ス 特 許 法 で の 規 定 ぶ り は 、英 国 の ガ ワ ー ズ 報 告 に お い て 、よ り 明 確 に 除 外 を 規 定 し た 好 例 と し て 取 り 上 げ ら れ 、当 該 規 定 ぶ り に 沿 っ て 研 究 例 外 を 規 定 す る こ と は 、権 利 者 の 利 益 に 損 害 を 与 え る こ と な し に 、研 究 を 促 進 す る こ と に な る だ ろ う 、と 述 べ ら れ て い る 。し か し 、 当該改正によりどのような効果が実際に得られるのかはこれからの研究が 待たれるところである。 一方、米国特許法では試験・研究の例外については規定されておらず、 コモン・ローによる除外を与えるのみで、その範囲は狭く解釈されている。 た だ し 、1984 年 の ボ ー ラ ー 判 決 を 受 け て 、FDA 承 認 申 請 に 必 要 な 行 為 に つ い て は 特 許 権 行 使 の 免 除 対 象 と す る 、い わ ゆ る ボ ー ラ ー 条 項 を 導 入 し た 。こ の ボ ー ラ ー 条 項 に よ る 法 定 除 外 の 範 囲 は 、2005 年 の メ ル ク 事 件 に お け る 最 高 裁 判決以降、広く解釈される傾向がみられる。 以 上 の と お り 、試 験・研 究 の 例 外 に つ い て 、日 本 や 欧 州 諸 国 の よ う に 特 許 法 上 に 規 定 さ れ て い る 場 合 で あ れ 、米 国 の よ う に コ モ ン・ロ ー に よ る 免 除 で あ れ 、ま た そ の 限 界 範 囲 は 各 国 で 異 な っ て い て 、か つ 明 確 で あ る と は 言 え な い も の の 、特 許 権 の 効 力 に 対 し て 一 定 の 制 限 を 課 し て 、第 三 者 と の 調 整 を 図 っ て い る こ と は 、各 国 共 通 で あ る 。し か し 試 験・研 究 の 例 外 の 範 囲 は 特 許 権 者と特許を利用する者とのバランスを考慮して調整されるべきものである こ と か ら 、お の ず と 限 定 的 に な ら ざ る を 得 な い 。ど ん な に 試 験・研 究 の 例 外 の 範 囲 を 拡 大 し 、又 は 明 確 に し た と し て も 、試 験・研 究 の 例 外 の 適 用 の み で 、 iv 特 許 権 者 の 利 益 を 考 慮 し つ つ 、第 三 者 に よ る 特 許 権 の 権 利 の 使 用 を 円 滑 に し て、イノベーションにつながる研究開 発 を促進 する こと は不可 能で あろ う。 (ⅱ)強制実施 強制実施についても、これまで多くの研究がなされている。 特 許 法 に お け る 強 制 実 施 の 規 定 は 、日 本 や 英 国 、ド イ ツ 、フ ラ ン ス 、ベ ル ギー、スイス等の欧州諸国では導入されている。 一 方 、米 国 で は 過 去 に 何 度 か 特 許 法 へ の 導 入 が 検 討 さ れ た も の の 、産 業 界 や 特 許 権 者 に お け る 反 対 が 強 硬 で あ り 、現 在 の と こ ろ 、例 え ば 大 気 清 浄 法 に お い て 汚 染 制 御 装 置 の 特 許 の 強 制 実 施 を 規 定 す る と い っ た 、非 常 に 限 定 さ れ た 形 で の 強 制 実 施 が 規 定 さ れ て い る 以 外 に は 、特 許 法 に お い て 強 制 実 施 の 規 定を導入するような動きはみられない。 実際のところ、強制実施権が付与されたことは日本(ただし裁定実施権) ではこれまでなく、欧州各国でも非常に稀である。 特許権の権利者の利益と第三者による権利へのアクセスの改善を調整す る 手 段 と し て 強 制 実 施 は 可 能 性 と し て は あ る が 、実 際 に は こ れ ま で ほ ぼ 機 能 していない。 (ⅲ)ガイドライン/ポリシーの策定と普及 権 利 の 保 護 と 活 用 の バ ラ ン ス を と る 方 法 と し て 、法 的 な 調 整 手 法 以 外 の 手 法も検討され得るし、また実際的である。 米 国 で は NIH( National Institutes of Health:国 立 衛 生 研 究 所 )が 、NIH 資金が投入されて行われた研究から生まれたリサーチツールが広く利用さ れ る こ と を 推 進 す る た め 、1999 年 に リ サ ー チ ツ ー ル・ガ イ ド ラ イ ン を 作 成 し た 。 米 国 の 大 学 の 間 で は 、 NIH の リ サ ー チ ツ ー ル ・ ガ イ ド ラ イ ン を ベ ー ス に ラ イ セ ン ス 実 務 が 行 わ れ て い る ケ ー ス も あ り 、当 該 ガ イ ド ラ イ ン が 米 国 内 で 広く受け入れられつつあると思われる。 OECD で は 2002 年 頃 か ら 検 討 を 重 ね 、2006 年 2 月 に「 遺 伝 子 関 連 発 明 の ラ イ セ ン ス 供 与 に 関 す る OECD ガ イ ド ラ イ ン 」を 策 定 し 、「 研 究 目 的 等 の た め の 遺 伝 子 関 連 発 明 の 広 範 な ラ イ セ ン ス 供 与 等 の 考 え 方 」 を 示 し た 。 当 該 OECD ガ イ ド ラ イ ン に つ い て 、 OECD 加 盟 国 に お け る 普 及 を 展 開 中 で あ る 。 こ れ に 続 い て 、 日 本 で は 、 2006 年 5 月 23 日 に 総 合 科 学 技 術 会 議 が 「 大 学 v 等における政府資金を原資とする研究開発から生じた知的財産権について の 研 究 ラ イ セ ン ス に 関 す る 指 針 」 を 、 続 い て 翌 年 の 2007 年 3 月 1 日 に 同 会 議 が「 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 使 用 の 円 滑 化 に 関 す る 指 針 」 を と り ま と め た 。 後 者 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 指 針 は 、「 特 許 制 度 に よ る 保 護 と 活 用 の バ ラ ン ス の と れ た 実 務 運 用 が 重 要 と の 認 識 の 下 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て 、大 学 等 や 民 間 企 業 が 研 究 に お い て 使 用 す る 場 合 の 基 本 的 な 考 え 方 を 示 す こ と に よ り 、そ の 使 用 の 円 滑 化 を 図 る も の で あ る 。」と さ れ て い る 。本 指 針 は 上 記 OECD ガ イ ド ラ イ ン と 軌 を 一 に し て お り 、OECD ガ イ ド ラ イ ン と 同 様 に 国 内 外 に 広 く 周 知 さ れ る こ と が 重 要 で あ る 。ま た リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 円 滑 な 使 用 を 促 進 す る た め に 、「 大 学 等 や 民 間 企 業 が 所 有 し 供 与 可 能 な リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 や 特 許 に 係 る 有 体 物 等 に つ い て 、・ ・ ・ そ の 使 用 促 進 に つ な が る 情 報 を 公 開 し 、 一 括 し て 検 索 を 可 能 と す る 統 合 デ ー タ ベ ー ス を 構 築 す る 。」 こ と と さ れ て お り 、 リ サーチツール特許の指針が真に受け入れられるためには上記統合データベ ースが重要な役割を果たすものとして期待される。 (ⅳ)パテントプールの形成 パ テ ン ト プ ー ル は 、「 複 数 の 権 利 者 が 有 す る 二 以 上 の 特 許 権 を 一 括 し て 実 施 を 希 望 す る 者( ラ イ セ ン シ )に ラ イ セ ン ス し 、ラ イ セ ン シ は プ ー ル 特 許 の 対 価 を 支 払 う 一 方 、特 許 権 者 に は 当 該 対 価 を 一 定 の ル ー ル に 従 っ て 配 分 す る 方 式 を い う 」。 パ テ ン ト プ ー ル は 電 機 ・ 通 信 分 野 で は 実 際 に 形 成 さ れ 運 用 さ れ て い る が 、ラ イ フ サ イ エ ン ス の 分 野 で は パ テ ン ト プ ー ル に よ る 権 利 の 活 用 は ま だ 行 わ れ て お ら ず 、ま た ラ イ フ サ イ エ ン ス の 分 野 で は パ テ ン ト プ ー ル は 機 能 し に く い と の 指 摘 が な さ れ て い る 。し か し 一 方 で 、欧 米 で は ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る パ テ ン ト プ ー ル の 形 成 に つ い て 議 論 さ れ て お り 、ま た パ テントプールを実際に形成し運用する試みも始まっている。例えば米国の PIPLA や 2007 年 10 月 に 発 足 し た 英 国 の SC4SM 等 の 取 組 が ど の よ う に 進 展 し ていくのか期待され得る。またパテントプールは独占禁止法との関係から、 よ り 排 他 性 の 少 な い ク リ ア リ ン グ・ハ ウ ス や パ テ ン ト・コ ン ソ ー シ ア ム の 形 式 に 展 開 す る こ と も 検 討 さ れ て い る が 、両 者 を 合 わ せ て パ テ ン ト プ ー ル と 呼 ぶ こ と も 多 い 。こ の 場 合 、電 機・通 信 分 野 で 行 わ れ て い る よ う な パ テ ン ト プ ールの管理や運用の形態には拘束されない。 vi 現 在 、世 界 が 注 目 し て い る iPS 細 胞 研 究 に お い て も 、包 括 的 な 研 究 組 織 を 形 成 す る と 共 に 、知 的 財 産 権 の ラ イ セ ン ス の 一 括 管 理 等 、知 的 財 産 権 の 戦 略 的 取 組 が オ ー ル・ジ ャ パ ン と し て 検 討 さ れ て お り 、今 後 の 進 展 が 期 待 さ れ る 。 ( 2 ) 経 緯 分 析 : 機 関 ・ 地 域 ・国 そ れ ぞ れ の 経 緯 と 機 関 ・ 地 域 ・国 間 で の 相 関 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に 関 連 し て 、1980 年 の チ ャ ク ラ バ テ ィ 判 決 、 1988 年 の ハ ー バ ー ド ・ マ ウ ス の 特 許 等 、 1980 年 代 か ら バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 分 野 の 特 許 に つ い て 、米 国 の プ ロ パ テ ン ト の 流 れ に 後 押 し さ れて、その重要度を増してきた。 一 方 、20 世 紀 の 終 わ り に は 、特 許 と 科 学 研 究 、特 に ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る 研 究 と の 関 係 に お い て 、例 え ば ア ン チ コ モ ン ズ の 悲 劇 の よ う な プ ロ パテントに内在する問題が指摘されるようになった。 こ れ を 背 景 に 、特 許 権 者 と 権 利 を 利 用 す る 第 三 者 と の バ ラ ン ス を 調 整 す る こ と が 必 要 で は な い か と い う こ と が 議 論 さ れ る よ う に な り 、特 に 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て は 、そ れ が 基 本 的 な も の で あ り 、 か つ 当 該 特 許 を 回 避 す る こ と は 非 常 に 困 難 で あ る と の 認 識 か ら 、21 世 紀 に 入 っ て 議 論 が 盛 ん に な っ て き た 。ま た ち ょ う ど そ の 頃 、遺 伝 子 配 列 の 解 読 が 競 争 し て 行 わ れ 、 そ の 成 果 が 特 許 化 さ れ る よ う に な っ た 。 特 に Myriad 社 の ラ イ セ ン ス 方 針 、す な わ ち あ る 特 定 の 遺 伝 子 に つ い て 特 許 を 取 得 し 、そ の 権 利 を ラ イ セ ン ス せ ず に 自 己 実 施 す る と い う 方 針 を と っ た た め 、他 の 企 業 で の 開 発 の み な ら ず 、大 学 等 の 研 究 機 関 に お け る 研 究 に も 支 障 を 引 き 起 こ し 、ベ ル ギ ー に 至 っ て は 特 許 法 の 改 正 ま で さ れ る 事 態 と な っ た 。実 際 に は 、そ の 影 響 は話題にされる程には大きくないとの指摘もされている。 こ う し た 状 況 の 中 、 OECD で は 2003 年 頃 か ら 遺 伝 子 関 連 発 明 へ の ア ク セ ス の 容 易 化 に つ い て の 議 論 を 促 し 、つ い て は ガ イ ド ラ イ ン の 策 定 に 集 大 成 さ れ た 。 OECD で の 議 論 は ス イ ス 特 許 法 の 改 正 の 際 に も 参 考 と さ れ て い る 。 OECD ガ イ ド ラ イ ン は 各 国 で そ の 取 込 が 期 待 さ れ る と こ ろ 、日 本 で は 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て 、そ の 円 滑 利 用 が 課 題 と し て あ げ ら れ た た め 、OECD ガ イ ド ラ イ ン 等 を 参 考 に し つ つ 、指 針 が ま と め ら れ たところである。 vii こ の OECD に お け る 動 き に 対 し て 、米 国 で は 必 ず し も OECD の 動 向 に 同 期 し て い る よ う に は 表 面 上 は み え な い し 、ま た ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る パ テ ン ト プ ー ル の 形 成 に つ い て 議 論 や 試 行 が な さ れ る 等 、独 自 の 動 き を み せ て い る が 、OECD の 方 向 性 と 大 き く 異 な る も の で は な い 。む し ろ パ テ ン ト プ ー ル に お け る 議 論 や 取 組 に 象 徴 さ れ る よ う に 、民 間 主 導 で 議 論 や 取 組 が 進 ん で い るというべきであろう。 一 方 、欧 州 は 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て 訴 訟 等 の 大 き な 問 題 は ほ と ん ど 見 ら れ な い も の の 、ベ ル ギ ー や ス イ ス に 見 ら れ る よ う に 特 許 法 の 改 正 を 行 う 等 に よ り 、実 務 上 で の 対 応 や 議 論 を 行 い 解 決 策 を 見出すというよりも政府が主導して法制上での足固めを行う動きがみられ、 米国とは異なる対応をとろうとしているように思われる。 日 本 で も 現 在 の と こ ろ 、リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て 大 き な 問 題 が 発 生 しているわけではないが、リサーチツール特許の指針を普及する等により、 特許権の円滑利用を促進するための取組や議論が今後もなされていくもの と思われる。 viii はじめに ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お い て は 、研 究 成 果 か ら 事 業 化・製 品 化 に 至 る ま で 長 い 期 間 と 大 き な 投 資 を 必 要 と す る た め 、イ ノ ベ ー シ ョ ン に つ な げ る 上 で 、特 許 は 非 常 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。特 に 、遺 伝 子 改 変 マ ウ ス 等 の モ デ ル 動 物 、実 験装置・機器、スクリーニング方法等の方法、データベースやソフトウェア等、 研 究 を 行 う た め の 道 具 と し て 使 用 さ れ る 物 又 は 方 法 に 関 す る 特 許 で あ る「 リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 」に は 、汎用 性 が 高 く 研 究 の 推 進 に 資 す る も の が 多 い 一 方 で 、代 替 性が低いものも多い。 こ の た め 、米国 、欧州 諸 国 を は じ め と し て 先 進 国 間 で 、リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 を 含 め た 研 究 で 用 い る 特 許 権 の 取 扱 に 関 す る 検 討 が な さ れ 、具 体 的 な 指 針 策 定 や 法 改正が先進国間で急速に実施されてきている。 こ の よ う な 状 況 に 対 し 、本 調 査 研 究 で は 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 を 中 心 に 、研究 で 用 い る 特 許 権 に つ い て 、様々 な 観 点 か ら 、国 際 機 関 (例 え ば OECD)や 日 本 、 米 国 、 欧 州 諸 国 で の 法 令 ・ 規 則 、 判 例 、 基 準 、 指 針 ( ガ イ ド ラ イ ン )・ 指 令 、 及 び 、 学 説 ・ 関 連 議 論 の 現 状 と そ れ ら 指 針 ・ 法 令 等 に 至 っ た 経 緯 ・背 景 や 動 向 に 関 し て 調 査 研 究 を 行 う 。 学 界 の 有 識 者 か ら な る 委 員 会 を 構 成 し 、調 査 研 究 方 針 を 取 り ま と め た 上 で 、国 内 外 文 献 等 の 調 査 を 実 施 す る と と も に 、米国 、欧州 諸 国 の 機 関・大 学 等 の 有 識 者 に各国の調査研究を委託し、調査研究を実施した。 本 調 査 研 究 報 告 書 は 、上 記 委 員 会 で の 議 論 や 海 外 調 査 、国 内 外 文 献 等 調 査 の 結 果 を ま と め た も の で あ る 。本 報 告 書 が 研 究 で 用 い る 特 許 権 の 取 扱 に 関 す る 検 討 の ための一助になれば幸いである。 最 後 に 、本 調 査 研 究 の 遂 行 に 当 た り 、委 員 と し て 御 指 導・御 協 力 い た だ い た 政 策研究大学院大学 隅 藏 康 一 准 教 授 、な ら び に 同 鈴 木 潤 教 授 に 対 し ま し て 、こ の場を借りて深く感謝する次第である。 平成20年3月 財団法人 未来工学研究所 目 次 要約 はじめに Ⅰ. 調 査 研 究 の 目 的 と 概 要 ...................................... 1 1. 目 的 .................................................... 1 2. 調 査 研 究 の 概 要 .......................................... 3 (1) 調 査 研 究 の 枠 組 み ...................................... 3 (2) 調 査 研 究 の 方 法 ........................................ 4 (ⅰ) 調 査 ................................................ 4 (ⅱ) 調 査 結 果 の ま と め .................................... 5 報 告 書 の 構 成 .......................................... 5 調 査 ...................................................... 6 調 査 の 設 計 .............................................. 6 (1) 海 外 調 査 .............................................. 6 (2) 国 内 外 文 献 調 査 ........................................ 8 調 査 の 結 果 .............................................. 8 日 本 .................................................. 8 (ⅰ) 概 要 ................................................ 8 (ⅱ) 国 内 外 文 献 調 査 ...................................... 10 (3) Ⅱ. 1. 2. (1) (2) 国 際 機 関 .............................................. 16 (ⅰ) 概 要 ................................................ 16 (ⅱ) 国 内 外 文 献 調 査 ...................................... 19 (3) 米 国 .................................................. 25 (ⅰ) 概 要 ................................................ 25 (ⅱ) 海 外 調 査 ............................................ 28 (ⅲ) 国 内 外 文 献 調 査 ...................................... 36 (4) EU(European Union;欧 州 連 合 ) .......................... 38 (ⅰ) 概 要 ................................................ 38 (ⅱ) 国 内 外 文 献 調 査 ...................................... 39 (5) 英 国 .................................................. 44 (ⅰ) 概 要 ................................................ 44 (ⅱ) 海 外 調 査 ............................................ 46 (ⅲ) 国 内 外 文 献 調 査 ...................................... 48 (6) ド イ ツ ................................................ 60 (ⅰ) 概 要 ................................................ 60 (ⅱ) 海 外 調 査 ............................................ 62 (ⅲ) 国 内 外 文 献 調 査 ...................................... 64 (7) フ ラ ン ス .............................................. 71 (ⅰ) 概 要 ................................................ 71 (ⅱ) 海 外 調 査 ............................................ 73 (ⅲ) 国 内 外 文 献 調 査 ...................................... 76 (8) ベ ル ギ ー .............................................. 78 (ⅰ) 概 要 ................................................ 78 (ⅱ) 海 外 調 査 ............................................ 80 (ⅲ) 国 内 外 文 献 調 査 ...................................... 85 (9) ス イ ス ................................................ 87 (ⅰ) 概 要 ................................................ 87 (ⅱ) 海 外 調 査 ............................................ 89 (ⅲ) 国 内 外 文 献 調 査 ...................................... 93 Ⅲ. 調 査 結 果 の ま と め .......................................... 94 1. 機 関 ・ 地 域 ・ 国 の 間 で の ま と め ............................ 94 (1) 比 較 分 析 : 機 関 ・ 地 域 ・ 国 の 間 で の 類 似 ・ 相 違 点 .......... 94 (i) 試 験 ・ 研 究 の 例 外 .................................... 94 (ⅱ) 強 制 実 施 ............................................ 96 (ⅲ) ガ イ ド ラ イ ン / ポ リ シ ー の 策 定 ........................ 97 (ⅳ) パ テ ン ト プ ー ル の 形 成 ................................ 98 ( 2 ) 経 緯 分 析:機 関・地 域 ・国 そ れ ぞ れ の 経 緯 と 機 関・地 域 ・国 間 で の 相 関 ................................................................ 99 【第二部 研究で用いる特許権の取扱に関する調査研究報告書−資料編−】 資料編 △海外調査結果 △ △ 資 料 1 △ 米 国 ················································· 3 △ △ 資 料 2 △ イ ギ リ ス ············································ 61 △ △ 資 料 3 △ ド イ ツ ·············································· 75 △ △ 資 料 4 △ フ ラ ン ス ··········································· 113 △ △ 資 料 5 △ ベ ル ギ ー ··········································· 123 △ △ 資 料 6 △ ス イ ス ············································· 165 Ⅰ. 調査研究の目的と概要 1.目的 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お い て は 、発 明 か ら 事 業 化 ま で 長 い 期 間 と 大 き な 投 資 を 必 要 と す る た め 、イ ノ ベ ー シ ョ ン に つ な げ る 上 で 、特 許 は 非 常 に 重 要 な役割を果たしている。 特 に 、遺 伝 子 改 変 マ ウ ス 等 の モ デ ル 動 物 、実 験 装 置 ・機 器 、ス ク リ ー ニ ン グ 方 法 等 の 方 法 、デ ー タ ベ ー ス や ソ フ ト ウ ェ ア 等 、研 究 を 行 う た め の 道 具 と し て 使 用 さ れ る 物 又 は 方 法 に 関 す る 特 許 で あ る「 リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 」に は 、 汎 用 性 が 高 く 研 究 の 推 進 に 資 す る も の が 多 い 一 方 で 、代 替 性 が 低 い も の も 多 い 。結 果 と し て 、リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に お い て 、特 許 に よ る 研 究 の 差 止 め を 求めて訴訟に至った事例も生じている。 こ う し た 状 況 に 対 し て 、国 内 外 で は 近 年 各 種 取 組 が 行 わ れ て き て い る 。先 進 国 間 で は 、「 遺 伝 子 関 連 発 明 の ラ イ セ ン ス 供 与 に 関 す る OECD ガ イ ド ラ イ ン 」 1 が 2006 年 2 月 に OECD( 経 済 協 力 開 発 機 構 )に よ り 策 定 さ れ 、ま た 、米 国 で は NIH( 米 国 国 立 衛 生 研 究 所 ) が 、 リ サ ー チ ツ ー ル の 取 得 及 び 普 及 に 関 す る NIH 研 究 資 金 受 給 者 の た め の ガ イ ド ラ イ ン 2 を 示 す と と も に 、 N I H 等 が保有する情報を公開するなどの取組を進めている。 さ ら に 、 欧 州 に お い て は 、「 EC バ イ オ 指 令 」 が 1998 年 に 策 定 さ れ 、 欧 州 各 国 に お い て も 、研 究 で 用 い ら れ る 特 許 権 の 使 用 に 関 す る 議 論 が な さ れ て い る。 一 方 、我 が 国 に お い て も 、内 閣 総 理 大 臣 の 下 、科 学 技 術 政 策 の 推 進 の た め の総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を行っている総合科学 技 術 会 議 か ら 、「 大 学 等 に お け る 政 府 資 金 を 原 資 と す る 研 究 開 発 か ら 生 じ た 知 的 財 産 権 に つ い て の 研 究 ラ イ セ ン ス 指 針 」 3 が 2006 年 5 月 に 、 ま た 2007 年 3 月 に「 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 使 用 の 円 滑 化 に 関 す る 指 針 」 4が 、 特 許 制 度 に よ る 保 護 と 活 用 の バ ラ ン ス の と れ た 特 許 1 2 3 4 http://www. oecd.org/dataoecd/39/38/36198812.pdf http://ott.od.nih.gov/NewPages/64FR72090.pdf http://www8.cao.go.jp/cstp/output/iken060523_2.pdf http://www8.cao.go.jp/cstp/output/iken070301.pdf -1- の使用に係る運用の指針として、それぞれ策定されている。 さ ら に 、2007 年 5 月 に 策 定 さ れ た「 知 的 財 産 推 進 計 画 2007」5 に お い て も 、 大 学 等 や 民 間 企 業 の 試 験・研 究 で 用 い ら れ る 特 許 権 の 特 許 法 上 の 取 扱 に つ い て 、国 際 的 な 議 論 の 動 向 や 各 国 の 対 応 等 を 踏 ま え て 検 討 す る こ と が 求 め ら れ ている。 こ れ ら 最 近 の 国 内 外 の 動 向 や ニ ー ズ を 鑑 み 、研 究 で 用 い る 特 許 権 の 取 扱 に 関する検討のための基礎資料に資する た め、本 調査 研究 を行う こと とす る。 5 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/070531keikaku.pdf -2- 2.調査研究の概要 (1)調査研究の枠組み 調査研究項目 −その2− 機関 地域・国 日本 調査研究方法 国内外文献調査 国際機関 OECD 国内外文献調査 TRIPS 海外調査 米国 国内外文献調査 EU 国内外文献調査 海外調査 英国 国内外文献調査 海外調査 ドイツ 国内外文献調査 海外調査 フランス 国内外文献調査 海外調査 ベルギー 国内外文献調査 海外調査 スイス 国内外文献調査 調査研究項目 −その1− 経緯・背景、動向 法令・規則 判例 基準 指針・指令 学説・関連議論 試験・研究の例外 裁定(強制)実施権 発明の特許性 調査:委託先により調査研究を行う 同上 調査:文献により調査研究を行う 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 図 2.1 (公的資金を原資とする) 知的財産権の保護と 特許使用の円滑化 注:パテントプール等を含む その他 ま と め ・ 機 関 ・ 地 域 ・ 国 の 間 で の ま と め 調査研究の枠組み。 調査研究内容の項目は、大別して − そ の 1 ( 縦 欄 ): 指 針 ・ 法 令 に 至 っ た 経 緯 ・背 景 や 動 向 、 法 令 ・ 規 則 、 判 例 、基 準 、指 針( ガ イ ド ラ イ ン )・指 令 、及 び 、学 説・関連議論 − そ の 2( 横 欄 ): 試 験 ・研 究 の 例 外 、裁 定( 強 制 )実 施 権 、発 明 の 特 許 性 、( 公 的 資 金 を 原 資 と す る )知 的 財 産 権 の 保 護 と 特 許 使 用 の 円 滑 化( パ テ ン ト プ ー ル 等 を 含 む )、そ の 他 と し た 。具 体 的 に は 、例 え ば 、「 試 験 ・研 究 の 例 外 」に 関 し て そ れ に 関 す る 「 指 針 ・ 法 令 に 至 っ た 経 緯 ・背 景 や 動 向 」 を 調 査 研 究 し た 。 調 査 は 、 機 関 ・ 地 域 ・国 毎 に 実 施 し た 。 機 関 ・ 地 域 ・国 は 具 体 的 に は 、 −日本 − 国 際 機 関 ( OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development; 経 済 協 力 開 発 機 構 ) ) た だ し 、 TRIPS 協 定 ( Agreement on Trade-Related Aspects of -3- Intellectual Property Rights;知 的 所 有 権 の 貿 易 関 連 の 側 面 に 関 す る協定)についての調査もここに含めることとする。 −米国 − EU(European Union;欧 州 連 合 ) −英国 −ドイツ −フランス −ベルギー −スイス である。 また、調査は、 − 海 外 調 査 : 海 外 の 大 学 ・関 係 機 関 等 の 研 究 者 等 へ の 委 託 調 査 −国内外文献調査:文献等による調査 を 実 施 し 、こ れ ら の 調 査 研 究 結 果 を 調 査 研 究 項 目 − そ の 2 − に 関 し て 、機 関・地 域・国 を 横 断 的 に 比 較 対 照 す る こ と 等 に よ り 、調 査 研 究 結 果 の ま と め を行った。 具体的な、調査研究の方法について、以下に述べる。 (2)調査研究の方法 (ⅰ)調査 ① 海外調査 海 外 調 査 は 表 2.1 に 示 す 、 関 係 分 野 で の 研 究 者 に 調 査 研 究 を 委 託 し た 。 機関 国 氏 名 米国 Prof.Joshua D. Sarnoff 所 属 Washington College of Law American Univ. 英国 Prof.Jeremy Phillips IP Consultant of Olswang Editor of Oxford Journal of Intellectual Property Law & Practice ドイツ Dr. Prinz zu Waldeck und Pyrmont Program Director, Munich Intellectual Property Law Center Member of the Research Staff, Max Planck Institute for Intellectual Property, Competition and Tax Law フランス Mr. Alain Gallochat スイス Dr. Lucas Bu"hler ベルギー Prof. Dr. Geertrui Van Overwalle OECD Ms. Christina Sampogna Former Adviser to the government Consultant Swiss Federal Institute of Intellectual Property Katholieke Universiteit Leuven Administrator Biotechnology Division 表 2.1 海 外 調 査 の 委 託 先 -4- な お 、 OECD に つ い て は 結 局 、 調 査 へ の 具 体 的 な 協 力 が 得 ら れ な か っ た 。 ② 国内外文献調査 各 機 関・地 域・国 や そ の 関 係 機 関 、学 会 等 が 公 表 し て い る 文 献 を 図 2.1 の 調査研究の枠組みに従って調査した。 (ⅱ)調査結果のまとめ 以 上 の 調 査 結 果 を 以 下 の 視 点 に よ り 、機 関・地 域・国 を 横 断 的 に 調 査 研 究 結果のまとめを行った。調査研究結果 の まとめ の視 点は 以下の よう であ る。 − 比 較 分 析 : 機 関 ・ 地 域 ・国 の 間 で の 類 似 ・相 違 点 − 経 緯 分 析 : 機 関 ・ 地 域 ・国 そ れ ぞ れ の 経 緯 と 機 関 ・ 地 域 ・国 間 で の 相 関 (3)報告書の構成 調 査 結 果 は「 Ⅱ .調 査 」に 、ま た 調 査 結 果 の ま と め は「 Ⅲ .調 査 結 果 の ま とめ」に記載する。 な お 、海 外 調 査 の 委 託 先 の 報 告 書 は 資 料 編 と し て 別 冊 に 掲 載 す る 。資 料 編 に 掲 載 し た 海 外 調 査 の 報 告 書 は 米 国 、ベ ル ギ ー 等 、非 常 に 詳 細 に ま と め ら れ て い る こ と か ら 、「 Ⅱ . 2 . 調 査 の 結 果 」 の 各 ( ⅱ ) 海 外 調 査 に つ い て は 、 資料編(別冊)の原文の報告書の記載を必ず確認されることが望ましい。 -5- Ⅱ.調査 1.調査の設計 (1)海外調査 表 2.1 に 示 し た 海 外 調 査 の 委 託 先 へ 表 2.2 の 調 査 研 究 項 目 を 提 示 し 、調 査 研 究 を 行 っ た 。な お 、表 2.2 の 調 査 研 究 項 目 は 図 2.1 調 査 研 究 の 枠 組 み に 示 した調査研究項目に準拠した。 なお、委託先の国により、調査研究項目の主点に差異を設けた。例えば、 近 年 、法 改 正 等 の 大 き な 動 き が あ っ た ベ ル ギ ー や ス イ ス に 対 し て は 、法 令 改 正 等 に 至 っ た 経 緯 ・背 景 に 主 点 を 置 い た 調 査 を 委 託 し た 。 表 2.2 海 外 調 査 の 委 託 先 へ の 調 査 研 究 項 目 Item 1 Settled law suites and its regal analysis Object Description( analysis includes evaluation ) * Settled law suites * Analysis of law suites including judgment, process of argument, its effect on the following law suites, movement of the government, research activity etc. * Theoretical analysis * Summary of information in academic paper and journals etc 2 Law suites pending in court and incidents and troubles * Unsettled law suites Analysis of law suites, incidents and troubles including the forecast of judgment, process of argument, its effect on the following law suites, movement of the government, research activity etc. * Unsettled troubles and incidents ( outside court ) * Summary of information in academic paper and journals etc 3 The trend of law and regulation * The trend of discussion and * Analysis activities among governmental, political, bureaucratic, business, and academic circles and general public * Summary of information in academic journals etc 4 4. The discussion upon law and * The discussion upon law and * Analysis regulation,and its social back ground regulation, and its social back ground among governmental, political, bureaucratic, business, and academic circles * The discussion upon law and * Summary of information listed in right columns regulation, and its social back ground and of general public -6- 5 Altering process and background of * The history of of altering, the altering law (ex. Belgium) including political and social process * Analysis * The action and reaction of political circle * The action and reaction of academia * The action and reaction of business circle 6 The process and background to start, the process to alter the law (ex. UK, Swiss) * The social background of altering law * Summary of information in publication * The history of of altering, including political and social process * Analysis * The action and reaction of political, academic and business people * The social background of altering law 7 The guideline to protect and use research tool patents * Summary of information in academic journals etc * Guidelines of government and * Analysis private sector * Summary of information in report from government, business and academic sector. 8 The status quo of using the guideline * Working mechanism in academic and business research. * Analysis * The opinion of academic and * Summary of information in academic journals business circle etc 9 Other information( technological field, bibliographic item, price to license etc ) 10 OECD guideline * Major items not included above items * Working mechanism of the guideline Status quo of using 11 NIH guideline * Working mechanism of the guideline * Status quo of using -7- * Analysis * Summary of information in academic journals etc * Analysis * Summary of information in academic journals etc * Analysis * Summary of information in academic journals etc (2)国内外文献調査 既 に 述 べ た よ う に 、各 機 関 ・地 域・国 や そ の 関 係 機 関 、学 会 等 が 公 表 し て い る 文 献 を 図 2.1 の 調 査 研 究 の 枠 組 み に 従 っ て 調 査 し た 。 特 に 、海 外 調 査 と の 補 完 性 を 重 視 し 、初 期 的 な 調 査 を 行 う こ と に よ り 、調 査 研 究 の 枠 組 み を 構 築 し 、文 献 調 査 を 実 施 す る と と も に 、文 献 調 査 で は 得 ら れ難い調査項目を海外調査に反映させた。 2.調査の結果 (1)日本 (ⅰ)概要 知的財産制度は保護と利用のバランスにより適切に運用されることが重 要であり、研究活動に携わる者であっても、他者の知的財産権を尊重し、 適正な配慮のもとに知的財産権を活用することが求められる。 大学等は、知的財産を創造する権利者であると同時に、研究活動におい て 他 者 の 権 利 を 使 用 す る 者 で も あ る 。大 学 等 に お け る 研 究 活 動 に お い て も 、 特許権の効力が及ぶことが想定される状況においては、大学等は、両者の 立場から知的財産権の管理や活用を図ることが必要となっている。 特 許 権 の 効 力 と 試 験 ・ 研 究 の 関 係 に つ い て は 、 特 許 法 第 69 条 第 1 項 に 、 いわゆる試験又は研究の例外として規定されている。その場合の「試験又 は研究」の範囲については、特許発明それ自体を対象とし、改良・発展を 目的とする試験に限定されているとの解釈が示されている。また実施者が 企業であるか大学であるかの相違によって特許権の効力の及ぶ範囲が異な るものではない。これについては産業構造審議会 許制度小委員会 知的財産政策部会 特 特許戦略計画関連問題ワーキンググループ報告書「特許 発 明 の 円 滑 な 使 用 に 係 る 諸 問 題 に つ い て 」( 2004 年 11 月 ) に て 検 討 さ れ て いる。 この解釈を前提とすれば、非営利目的の研究であっても特許権の侵害を 問われることになる。一方、大学等の試験・研究に対し特許権が及ぶか否 -8- かの判決は出ていない。 こ の た め 2006 年 5 月 23 日 、 総 合 科 学 技 術 会 議 は 「 大 学 等 に お け る 政 府 資金を原資とする研究開発から生じた知的財産権についての研究ライセン スに関する指針」をとりまとめた。本指針は、政府資金を原資として得ら れた研究開発の成果に基づく大学等の知的財産権について、他の大学等が 非営利目的の研究においてそれを使用する場合の基本的な考え方を示すも のであり、これにより大学等の研究における知的財産権の使用の円滑化を 図ることを目的とする。 しかしながら、医薬やバイオテクノロジーの分野において、特に遺伝子 改変動植物やスクリーニング方法のように研究を行うための道具となるリ サーチツール特許は、汎用性が高く広範に使用されて研究の推進に資する ものが多いが、同時に代替性が低いものも多い。こうしたリサーチツール 特許が研究において円滑に使用されない場合、研究開発に支障が生じる可 能性があり、現に、権利者と使用者のライセンス条件に乖離があり交渉が 難航する場合も多く、特許による研究の差止めを求めて訴訟に至った事例 も生じている。 そ こ で 総 合 科 学 技 術 会 議 は 2007 年 3 月 1 日 に「 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に おけるリサーチツール特許の使用の円滑化に関する指針」を公表した。指 針では、リサーチツール特許を所有又は使用する大学等や民間企業が、そ のライセンスを授受する際の基本的な考え方が示されている。またリサー チ ツ ー ル 特 許 の 使 用 を 促 進 す る た め に 、リ サ ー チ ツ ー ル の 種 類 、特 許 番 号 、 使用条件等を含め、その使用促進につながる情報を公開し、一括して検索 を可能とする統合データベースを構築し、リサーチツール特許の使用を促 進 す る こ と が 重 要 で あ る と 述 べ ら れ て い る 。本 指 針 は OECD や NIH の 取 組 と も軌を一にするものである。 -9- (ⅱ)国内外文献調査 資料番号 対 象 国・機 関 日本 名称 研究ライセンス指針 書誌的事項 2006.5.23 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 「大学等における政府資金を原資とする研究開発 から生じた知的財産権についての研究ライセン スに関する指針」総合科学技術会議 http://www8.cao.go.jp/cstp/output/iken060523_2.pdf 調査結果 概要 1.基本認識 「知的財産制度は保護と利用のバランスにより適切に運用され、さらなる知的財産 の創造活動を活性化することが重要であり、事業活動においてはもとより、研究活 動に携わる者であっても、他者の知的財産権を尊重し、適正な配慮のもとに知的財 産 権 を 活 用 す る こ と が 求 め ら れ る 。」( 指 針 1.(2)か ら 抜 粋 ) 2.本指針の目的 「本指針は、政府資金を原資として得られた研究開発の成果に基づく大学等の知的 財産権について、他の大学等が非営利目的の研究においてそれを使用する場合の基 本的な考え方を示すことにより、大学等の研究における知的財産権の使用の円滑化 を 図 る も の で あ る 。」( 指 針 2.(1)か ら 抜 粋 ) 3.研究ライセンスの基本的な考え方 ○研究ライセンスの供与 「大学等の知的財産権者は、他の大学等から、非営利目的の研究のための知的財産 権 の 非 排 他 的 な 実 施 許 諾 ( 以 下 、「 研 究 ラ イ セ ン ス 」 と い う 。) を 求 め ら れ た 場 合 、 当該研究を差し止めることなく、その求めに応じて研究ライセンスを供与するもの と す る 。」 ○研究ライセンスの対価 「研究ライセンスに対する対価については、原則としてロイヤリティ・フリー又は 合 理 的 な ロ イ ヤ リ テ ィ と す る 。」 ○簡便で迅速な手続 「 大 学 等 は 、研 究 ラ イ セ ン ス が 、簡 便 で 迅 速 な 手 続 き に よ り 行 わ れ る よ う 努 め る も の とする。この場合、研究ライセンスのための簡便な書式を活用することや、大学等 の 間 で の 相 互 の 包 括 的 な 研 究 ラ イ セ ン ス の 方 式 を 活 用 す る こ と が 望 ま し い 。」 ( 指 針 3.か ら 抜 粋 ) - 10 - 資料番号 対 象 国 ・機 関 日本 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 名称 書誌的事項 2007.3.1 「ライフサイエンス分野におけるリサーチツール 特許の使用の円滑化に関する指針」 総合科学技術会議 http://www8.cao.go.jp/cstp/output/iken070301.pdf 調査結果 概要 1.はじめに 「(1)医薬やバイオテクノロジーの分野においては、一つの基本特許により製品や 方法を独占できる場合が多く、また、発明から事業化まで長い期間とリスクの高い大 きな投資を必要とするため、特許は研究開発や製品開発を促進し、その成果をイノベ ーションにつなげるうえで重要な役割を果たしている。 (2)とりわけ、遺伝子改変動植物やスクリーニング方法のように研究を行うための 道具となるリサーチツール特許には、汎用性が高く広範に使用されて研究の推進に資 するものが多いが、同時に代替性が低いものも多い。こうしたリサーチツール特許が 研 究 に お い て 円 滑 に 使 用 さ れ な い 場 合 、研 究 開 発 に 支 障 が 生 じ る 可 能 性 が あ り 、現 に 、 権利者と使用者のライセンス条件に乖離があり交渉が難航する場合も多く、特許によ る研究の差止めを求めて訴訟に至った事例も生じている。 (3)こうした問題は我が国のみならず他の先進国でも生じており、OECDが策定 した「遺伝子関連発明のライセンス供与に関するOECDガイドライン」(2006 年2月)においても、研究目的等のための遺伝子関連発明の広範なライセンス供与等 の考え方が示されている。 (4)また、米国では、国立衛生研究所(NIH)が、政府資金を原資とする研究開 発により得られたリサーチツールを研究において円滑に使用するためのガイドライン を示すとともに、NIH等が有するリサーチツールに関する情報を公開し、使用の促 進を図っている。 ( 5 )我 が 国 に お い て も 、大 学 等 や 民 間 企 業 は リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 を 所 有 し て い る が 、 これらを研究において円滑に使用するという共通の理解は形成されておらず、また、 これらリサーチツール特許やそのライセンス条件等の情報は研究者が利用しやすい形 で公開はされていない。 (6)リサーチツール特許の使用の円滑化は、ライフサイエンス分野における研究開 発を促進し、その成果をイノベーションにつなげるとともに、我が国の国際競争力を 向上していくうえで重要な課題であり、大学等や民間企業を含め、国全体として認識 共有を進める必要がある。」 ( 指 針 1.か ら 抜 粋 ) 2.本指針の目的 「(1)本指針は、こうした状況に鑑み、特許制度による保護と活用のバランスのと れた実務運用が重要との認識の下、ライフサイエンス分野におけるリサーチツール特 - 11 - 許について、大学等や民間企業が研究において使用する場合の基本的な考え方を示す ことにより、その使用の円滑化を図るものである。 (2)大学等や民間企業は、本指針に沿った実務運用を確立することに努め、リサー チツール特許に関する紛争を未然に回避し、研究におけるリサーチツール特許の使用 を相互に円滑化することが望まれる。 (3)なお、本指針に沿った実務運用を行うにあたっては、本指針が、我が国の特許 法に基づき、日本特許の効力が及びうる国内での研究活動を対象として、ライセンス 等の基本的な考え方を示すものであることに留意する必要がある。」 ( 指 針 2.か ら 抜 粋 ) 3.基本的な考え方 ○「リサーチツール特許を所有又は使用する大学等や民間企業は、そのライセンスの 授受にあたり、以下の基本的な考え方に基づき対応するものとする。ただし、リサー チツール特許のうち、商品化され市場において一般に提供されている物又は方法につ いては、この限りでない。なお、リサーチツールに関する特許出願中の発明について も、本指針に準じた取扱いとする。」 (1)ライセンスの供与 「リサーチツール特許の権利者は、他者から研究段階において特許を使用するための 許諾を求められた場合、事業戦略上の支障がある場合を除き、その求めに応じて非排 他的なライセンスを供与するなど、円滑な使用に配慮するものとする。」 (2)ライセンスの対価及び条件 「リサーチツール特許に対する非排他的なライセンスの対価は、当該特許を使用する 研究の性格、当該特許が政府資金を原資とする研究開発によるものか否か等を考慮に 入れた合理的な対価とし、その円滑な使用を阻害することのないよう十分配慮するも のとする。特に、大学等の間でのライセンス供与の場合は、大学等の学術振興の観点 から、無償(有体物提供等に伴う実費を除く)とすることが望ましい。」 (3)簡便で迅速な手続 「リサーチツール特許に関するライセンスの当事者は、ライセンスが簡便で迅速な手 続きにより行われるよう努めるものとする。」 (4)有体物の提供 「研究の場においてリサーチツール特許が円滑に使用されるためには、特許のライセ ンス供与に加えて、その特許に係る有体物の円滑な提供が不可欠である。これら有体 物の所有者は、合理的な条件と簡便で迅速な手続による有体物の提供に努めるものと する。」 ( 本 指 針 3.か ら 抜 粋 ) 4.統合データベースによる情報の公開 ○「リサーチツール特許の使用を促進するためには、大学等や民間企業が所有するリ サ ー チ ツ ー ル 特 許 及 び そ の ラ イ セ ン ス 条 件 等 に 関 す る 情 報 が 広 く 公 開 さ れ 、活 用 さ れ る必要がある。」 ○統合データベースの構築 「 関 係 府 省 は 、大 学 等 や 民 間 企 業 が 所 有 し 供 与 可 能 な リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 や 特 許 に 係 る 有 体 物 等 に つ い て 、リ サ ー チ ツ ー ル の 種 類 、特 許 番 号 、使 用 条 件 、ラ イ セ ン ス 期 間 、 ライセンス 対価(参 考となる 過去の 対価実 績)、支払条 件、交渉 のため の連絡先 等を 含 め 、そ の 使 用 促 進 に つ な が る 情 報 を 公 開 し 、一 括 し て 検 索 を 可 能 と す る 統 合 デ ー タ ベースを構築する。」 ( 本 指 針 4.か ら 抜 粋 ) - 12 - 5.本指針の周知 「関係府省は、本指針を大学等や民間企業に対し広く周知し、研究の場において適切 な実務運用が行われるよう、その普及に努めるものとする。」 ( 本 指 針 5.か ら 抜 粋 ) - 13 - 資料番 号 対象国・ 機関 名称 書誌的 事項 日本 分類 背景等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その他 特許発明の円滑な使用に係る諸問題について 2004.11 産業構造審議会 知的財産政策部会特許制度小委員会 特許戦略計画関連問題ワーキンググループ h t t p : / / w w w . j po . g o . j p / sh i r y o u / t ou s h i n / s hi n g i k a i / pd f /s t r a t e g y _ w g _ pr o b / 0 0 . p df 調査結果 概要 ○検討の背景 ・大学・公的研究機関の研究活動について、他者の特許発明が円滑に使用できないと 自由な研究活動を阻害するのではないかという懸念がある。 ・また、汎用性が高く代替性の低い上流技術(特にライフサイエンス分野における遺 伝子関連 技術やリサーチツール等)については、特許が取得され、特許発明の利用 が 制 限 さ れ る と 、当 該 分 野 に お け る 後 続 又 は 下 流 領 域 の 研 究 開 発 活 動 に 大 き な 影 響 を 及ぼす可能性があるとの懸念が示されている。 ・このような懸念を受け、円滑な研究活動と知的財産保護の両立を図るという観点、 又 は 知 的 財 産 の 円 滑 な 利 用 を 促 進 す る と い う 観 点 か ら 、 特 許 法 第 69条 第 1項 に 定 め る 特許権の効力が及ばない「試験又は研究」の範囲の明確化が求められている。 ・ さ ら に 、 前 記 リ サ ー チ ツ ー ル 等 の 上 流 技 術 に つ い て は 前 記 特 許 法 第 69 条 と と も に 裁 定実施権による対応可能性の検討も求められている。 ・また、技術標準に資するパテントプールを支援するという観点から、技術標準に必 須となる特許を有する権利者がパテントプールに参加しない場合の対処の困難さが 指摘され、それに対して裁定実施権による対応の検討が求められている。 試 験 ・研 究 の 例 外 ○特許権の効力が及ばない「試験又は研究」の例外について ・リ サ ー チ ツ ー ル 等 に つ い て の 問 題 及 び 大 学 等 で の 研 究 活 動 に つ い て の 問 題 と い う 2つ の 観 点 か ら 、 特 許 法 第 69条 第 1項 に 規 定 さ れ る 特 許 権 が 及 ば な い と さ れ る 「 試 験 又 は 研 究 」に つ い て 、諸 外 国 も 含 め 判 例 や 学 説 等 の 事 実 関 係 を 調 査 し た 結 果 を 提 示 す る こ とにより、本規定に関する従来からの一般的な解釈を改めて整理し、検討した。 ・本規定の解釈に言及している判決としては、後発医薬品の臨床試験に関する最高裁 判 決 が 存 在 す る も の の 、こ れ は 、実 質 的 な 特 許 権 存 続 期 間 の 延 長 に よ り 特 許 権 者 に 特 許法が想定するところを超える利益を与えるのは適当でないとされた特殊な事例で あ っ て 、こ の 判 決 に よ り 特 許 法 第 69条 第 1項 の 一 般 的 な 解 釈 が 定 ま っ た も の で は な い 。 つまり、一般的 に「試験又 は研究」を どう 解釈するか について は十分 な判例の 蓄積が ない。 ・一方、従来から通説とされている学説によれば、例外に当たる「試験又は研究」の 範 囲 を そ の 対 象 及 び 目 的 に よ り 区 分 し 、対 象 に つ い て は 特 許 発 明 そ れ 自 体 に 限 定 す る と と も に 、目 的 に つ い て も「 技 術 の 進 歩 」を 目 的 と す る 行 為( 特 許 性 調 査 、機 能 調 査 、 改良・発展 を目的と する試験 )に限定 すべ きとされて いる。こ の通説に ついて は、こ - 14 - れ ま で 特 段 の 異 論 は 唱 え ら れ て お ら ず 、特 許 法 の 解 説 書 等 に お い て も こ の 通 説 を 引 用 して説明されているのが一般的である。 ・他方、諸外国における類似の規定や判例、学説等についても調査したが、我が国に お い て 通 説 と さ れ て い る 試 験 又 は 研 究 の 例 外 の 範 囲 に つ い て の 解 釈 は 、諸 外 国 に お け る解釈と比較しても特に限定的なものではない。 ・具体的にみてみると、欧州主要国においては、特許権の効力が及ばない「試験」に ついて、対 象を「特 許発明の 主題」に 限定 する明文規 定を置い ており、その目 的につ いても我が国における上記通説とほぼ同様の範囲に限定する判決が存在する。 ・米国においては、試験又は研究の例外に係る明文の規定は無いが、判例において、 特許権の侵害とされないのは単に哲学的試験を目的とした行為等に限られるとして、 そ の 範 囲 は 諸 外 国 と 比 較 し て 非 常 に 限 定 的 に 解 釈 さ れ て い る 。 ま た 、ア ジ ア 諸 国 に お いては、試験又は研究の例外に係る判例や通説と言える学説が存在しない国が多い が 、わ ず か に 判 例 が 存 在 す る 中 国 に お い て も 、特 許 侵 害 と な ら な い の は 特 許 発 明 そ れ 自体に関する研究や試験でなければならないと解されている。 ・ 以 上 の よ う な 調 査 結 果 を 基 に す る と 、我 が 国 特 許 法 第 69条 第 1項 に 規 定 さ れ る 特 許 権 が 及 ば な い と さ れ る 試 験 又 は 研 究 の 例 外 の 範 囲 に つ い て は 、上 記 通 説 の 考 え 方 に 特 段 の問題はないと考えられる。 ・よって、上記通説の解釈にしたがえば、リサーチツール等の問題については、多く は 特 許 発 明 そ れ 自 体 を 研 究 対 象 と す る 場 合( 例 え ば 遺 伝 子 特 許 に つ い て 特 許 明 細 書 に 記 載 さ れ た 機 能 を 確 認 す る 場 合 等 ) に 当 た ら な い た め 、 第 69条 第 1項 の 適 用 は 否 定 さ れると考えられる。 ・また、大学等での研究活動については、我が国の特許法が営利又は非営利目的によ り他者の特許発明の実施に区別を設けていないことにかんがみると、実施者が企業 (営利機関)か 大学等(非 営利機関)であ るかの相違 によって 特許権 の効力が 及ぶ範 囲 が 異 な る も の で は な い 。こ れ ま で は 非 営 利 機 関 で あ る 大 学 等 を 訴 え る 利 益 に 乏 し か っ た こ と 等 の 様 々 な 配 慮 に よ り 、実 際 に 大 学 等 が 特 許 侵 害 に よ り 訴 え ら れ る こ と は ほ とんど無か ったが、今後産学 官連携が 進み 活発化して いけば、大学等が 訴訟当事 者と な る 場 合 も 想 定 さ れ る こ と か ら 、第 69 条 第 1 項 に つ い て の 正 し い 認 識 が 求 め ら れ る 。 裁定実施権 ○裁定実施権による対応の可能性について ・代替性の低い上流技術に係る特許及び技術標準に必須な特許が円滑に利用されない ために産業の発展及び技術の進歩が阻害されているのではないかという指摘を踏ま え、これらの問題について、裁定実施権制度による対応可能性を検討した。 ・指摘のあったそれぞれの問題点については、何らかの対応が必要となっている重要 な問題であるとの認識は得られた。 ・しかし、検討した結果、代替性の低い上流技術に係る特許及び技術標準に必須な特 許 に 係 る 問 題 を 裁 定 実 施 権 制 度 に よ り 解 決 す る と い う こ と に つ い て は 、 TRIPS協 定 を ベースとした諸外国との良好な国際協調の維持及び我が国の知的財産政策等の観点 から、慎重に検討すべきとの意見が多く出された。 ・また、現時点において、これらの問題の解決のために裁定実施権制度を用いること に つ い て は 、我 が 国 の 産 業 界 に お い て も コ ン セ ン サ ス の 醸 成 は 十 分 と は 言 い 難 い 状 況 にある。加えて、国際的に 見ても、諸 外国 の動向や議 論の方向 性が定 まってい るとは 言えない。 ・よって、このような現状においては、裁定実施権の制度の改正又はその運用の見直 しについては慎重に精査・検討する必要があり、早急な結論は出すべきではないとの 結論に至った。 - 15 - (2)国際機関 (ⅰ)概要 ① OECD (指針策定に至った)経緯・背景、動向 世 界 30 ヶ 国 が 加 盟 し て い る OECD は 、 2006 年 、 遺 伝 子 関 連 発 明 の ラ イ セ ン ス 供 与 に 関 す る OECD ガ イ ド ラ イ ン (GUIDELINES FOR THE LICENSING OF GENETIC INVENTIONS)を 公 表 し た 。 本 ガ イ ド ラ イ ン は 、「 OECD 加 盟 国 及 び 非 加 盟 国 政 府 が 遺 伝 子 関 連 発 明 の ラ イ センス供与及び移転における適切な行動を推奨する国家政策を整備する一助 と な る こ と を 狙 っ て い る 。 ガ イ ド ラ イ ン は 全 体 と し て 、 OECD 加 盟 国 及 び 非 加 盟 国 の 両 方 に お け る ヘ ル ス ケ ア ニ ー ズ に よ り 効 果 的・効 率 的 に 対 応 す る た め に 、 治 療 や 診 断 な ど 、遺 伝 子 関 連 発 明 に も と づ く 製 品 や サ ー ビ ス の 開 発 及 び 市 場 導 入 を 促 進 す る こ と を 意 図 し て い る 。」 6 ま た 本 ガ イ ド ラ イ ン で は 、「 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 商 業 化 や イ ノ ベ ー シ ョ ン へ の ア ク セ ス を 促 進 す る の み な ら ず 、権 利 者 が 望 む 場 合 に は 、投 資 収 益 を 回 収 す る 」 7 バランスのとれた知的財産制度が期待されている。 指針(ガイドライン)の内容 OECD ガ イ ド ラ イ ン は 、 −ライセンス供与一般 −ヘルスケア及び遺伝子関連発明 −研究の自由 −商業的開発 −競争 について指針の原則とベストプラクティスを示している。 ② TRIPS 6 7 「 遺 伝 子 関 連 発 明 の ラ イ セ ン ス 供 与 に 関 す る OECD ガ イ ド ラ イ ン ( JBA 訳 )」 前 文 1. http://www. jba.or.jp/top/top%20data/oecdguideline060323.pdf 同 ガ イ ド ラ イ ン 前 文 7. - 16 - TRIPS 協 定 ( Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights;知 的 所 有 権 の 貿 易 関 連 の 側 面 に 関 す る 協 定 ) は 、 第 30 条 で 与 え ら れ る 権 利 の 例 外 に つ い て 、ま た 第 31 条 で 強 制 実 施 に つ い て 規 定 し ている。 第 30 条 与えられる権利の例外 加 盟 国 は ,第 三 者 の 正 当 な 利 益 を 考 慮 し ,特 許 に よ り 与 え ら れ る 排 他 的 権 利 に つ い て 限 定 的 な 例 外 を 定 め る こ と が で き る 。た だ し ,特 許 の 通 常 の 実 施 を 不 当 に 妨 げ ず ,か つ ,特 許 権 者 の 正 当 な 利 益 を 不 当 に 害 さ な い ことを条件とする。 第 31 条 特 許 権 者 の 許 諾 を 得 て い な い 他 の 使 用 加盟国の国内法令により,特許権者の許諾を得ていない特許の対象の 他 の 使 用 (政 府 に よ る 使 用 又 は 政 府 に よ り 許 諾 さ れ た 第 三 者 に よ る 使 用 を 含 む 。 )を 認 め る 場 合 に は , 次 の 規 定 を 尊 重 す る 。 (a) 他 の 使 用 は , そ の 個 々 の 当 否 に 基 づ い て 許 諾 を 検 討 す る 。 (b) 他 の 使 用 は , 他 の 使 用 に 先 立 ち , 使 用 者 と な ろ う と す る 者 が 合 理 的な商業上の条件の下で特許権者から許諾を得る努力を行って,合 理的な期間内にその努力が成功しなかった場合に限り,認めること ができる。加盟国は,国家緊急事態その他の極度の緊急事態の場合 又は公的な非商業的使用の場合には,そのような要件を免除するこ とができる。ただし,国家緊急事態その他の極度の緊急事態を理由 として免除する場合には,特許権者は,合理的に実行可能な限り速 やかに通知を受ける。公的な非商業的使用を理由として免除する場 合において,政府又は契約者が,特許の調査を行うことなく,政府 により又は政府のために有効な特許が使用されていること又は使用 されるであろうことを知っており又は知ることができる明らかな理 由を有するときは,特許権者は,速やかに通知を受ける。 (c) 他 の 使 用 の 範 囲 及 び 期 間 は , 許 諾 さ れ た 目 的 に 対 応 し て 限 定 さ れ る。半導体技術に係る特許については,他の使用は,公的な非商業 的目的のため又は司法上若しくは行政上の手続の結果反競争的と決 定された行為を是正する目的のために限られる。 (d) 他 の 使 用 は , 非 排 他 的 な も の と す る 。 (e) 他 の 使 用 は , 当 該 他 の 使 用 を 享 受 す る 企 業 又 は 営 業 の 一 部 と 共 に 譲渡する場合を除くほか,譲渡することができない。 (f) 他 の 使 用 は , 主 と し て 当 該 他 の 使 用 を 許 諾 す る 加 盟 国 の 国 内 市 場 への供給のために許諾される。 (g) 他 の 使 用 の 許 諾 は ,そ の 許 諾 を も た ら し た 状 況 が 存 在 し な く な り , かつ,その状況が再発しそうにない場合には,当該他の使用の許諾 を得た者の正当な利益を適切に保護することを条件として,取り消 - 17 - すことができるものとする。権限のある当局は,理由のある申立て に基づき,その状況が継続して存在するかしないかについて検討す る権限を有する。 (h) 許 諾 の 経 済 的 価 値 を 考 慮 し , 特 許 権 者 は , 個 々 の 場 合 に お け る 状 況に応じ適当な報酬を受ける。 (i) 他 の 使 用 の 許 諾 に 関 す る 決 定 の 法 的 な 有 効 性 は , 加 盟 国 に お い て 司 法 上 の 審 査 又 は 他 の 独 立 の 審 査 (別 個 の 上 級 機 関 に よ る も の に 限 る 。 )に 服 す る 。 (j) 他 の 使 用 に つ い て 提 供 さ れ る 報 酬 に 関 す る 決 定 は , 加 盟 国 に お い て 司 法 上 の 審 査 又 は 他 の 独 立 の 審 査 (別 個 の 上 級 機 関 に よ る も の に 限 る 。 )に 服 す る 。 (k) 加 盟 国 は , 司 法 上 又 は 行 政 上 の 手 続 の 結 果 反 競 争 的 と 決 定 さ れ た 行 為 を 是 正 す る 目 的 の た め に 他 の 使 用 が 許 諾 さ れ る 場 合 に は , (b) 及 び (f)に 定 め る 条 件 を 適 用 す る 義 務 を 負 わ な い 。こ の 場 合 に は ,報 酬額の決定に当たり,反競争的な行為を是正する必要性を考慮する ことができる。権限のある当局は,その許諾をもたらした状況が再 発するおそれがある場合には,許諾の取消しを拒絶する権限を有す る。 (l) 他 の 特 許 (次 の (i)か ら (iii)ま で の 規 定 に お い て「 第 1 特 許 」と い う 。 )を 侵 害 す る こ と な し に は 実 施 す る こ と が で き な い 特 許 (こ れ ら の 規 定 に お い て「 第 2 特 許 」と い う 。)の 実 施 を 可 能 に す る た め に 他 の使用が許諾される場合には,次の追加的条件を適用する。 (i) 第 2 特 許 に 係 る 発 明 に は , 第 1 特 許 に 係 る 発 明 と の 関 係 に お い て相当の経済的重要性を有する重要な技術の進歩を含む。 (ii) 第 1 特 許 権 者 は ,合 理 的 な 条 件 で 第 2 特 許 に 係 る 発 明 を 使 用 す る相互実施許諾を得る権利を有する。 (iii) 第 1 特 許 に つ い て 許 諾 さ れ た 使 用 は , 第 2 特 許 と 共 に 譲 渡 す る場合を除くほか,譲渡することができない。 - 18 - (ⅱ)国内外文献調査 資料番号 対 象 国・機 関 名称 書誌的事項 OECD 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 GUIDELINES FOR THE LICENSING OF GENETIC INVENTIONS 出典:下記の備考を参照 2006.2 調査結果 概要 ・ヘルスケアに使用される遺伝子関連発明のライセンス供与に関する原則とベストプ ラクティスについてのガイドライン。 ・遺伝子関連発明にもとづく製品やサービスの開発及び市場導入を促進することを意 図している。 原則 1.ライセンス供与一般 ・ライセンス実務は、人のヘルスケアに係わる新しい遺伝子関連発明を開発する上で の イ ノ ベ ー シ ョ ン を 促 進 し 、か つ そ の よ う な 発 明 を 駆 使 し た 治 療 や 診 断 、ま た そ の 他 製品及びサービスが合理的に利用できるように保証すべきである。 ・ラ イ セ ン ス 実 務 は 、遺 伝 子 関 連 発 明 に 関 す る 情 報 の 迅 速 な 普 及 を 奨 励 す べ き で あ る 。 ・ライセンス実務は、ライセンサー及びライセンシー双方が遺伝子関連発明に関連す る投資から収益を得る機会を提供すべきである。 ・ライセンシー及びライセンサーは、遺伝子関連発明に関する自らの権利とその制限 事項について、合理的な確実性を持たせるべきである。 原則 2.ヘルスケア及び遺伝子関連発明 ・ライセンス実務は、新製品やサービスの提供、ヘルスケアニーズ、ならびに経済的 収益還元の間で、バランスが取れるようにすべきである。 ・ライセンス実務は、患者にとって、当該国又は遺伝子発明を利用するサービス提供 者 の 所 属 す る 国 の 法 律 に 従 っ て 実 現 す る こ と が で き る 、最 も 高 水 準 の プ ラ イ バ シ ー 、 安全性、ならびに研究方法を享受できるようにすべきである。 ・ライセンス実務は、患者やそのヘルスケア・サービス提供者が他の製品やサービス を選ぶことを制限するために利用されるべきではない。 ・ ラ イ セ ン ス 実 務 は 、OECD 加 盟 国 と 非 加 盟 国 の 双 方 で 、未 対 応 で 緊 急 の ヘ ル ス ニ ー ズ に対処するために、遺伝子関連発明への適切なアクセス及びその利用を促進すべき である。 原則 3.研究の自由 ・ ラ イ セ ン ス 実 務 は 、研 究 目 的 の 遺 伝 子 関 連 発 明 へ の ア ク セ ス を 減 少 さ せ る の で は な く、むしろ増大させるべきである。 ・ 公 共 の 研 究 活 動 に お い て 商 業 化 を 考 慮 す る 場 合 、研 究 者 の 学 術 的 な 自 由 を 不 当 に 妨 げるべきではない。 ・ 公 共 の 研 究 活 動 に お い て 商 業 化 を 考 慮 す る 場 合 、特 に こ れ ら の 活 動 か ら 生 ま れ て く る発明について特許保護を求める機会を損なわないようにする必要がある場合で も、研究の成果をタイムリーに発表する裁量を不当に制限すべきではない。 ・ 公 共 の 研 究 活 動 に お い て 商 業 化 を 考 慮 す る 場 合 、学 生 の 教 育 研 修 を 不 当 に 制 限 す べ きではない。 原則 4.商業的開発 ・ 基 礎 的 遺 伝 子 関 連 発 明 は 、広 汎 に ア ク セ ス で き る よ う に ラ イ セ ン ス さ れ る べ き で あ る。 ・ ラ イ セ ン ス 実 務 は 、遺 伝 子 関 連 発 明 か ら 生 じ る 新 し い 製 品 や サ ー ビ ス の 開 発 を 通 じ て 、ラ イ セ ン サ ー 及 び ラ イ セ ン シ ー 双 方 が 価 値 を 創 造 で き る 効 果 的 手 段 と し て 使 用 - 19 - されるべきである。 ・ ラ イ セ ン ス 実 務 は 、多 数 の 遺 伝 子 関 連 発 明 に ア ク セ ス す る 必 要 が あ る 場 合 、そ こ か ら生じる調整の問題を克服するよう努めるべきである。 原則 5.競争 ・ 遺 伝 子 関 連 発 明 に 係 わ る ラ イ セ ン ス 実 務 は 、適 用 さ れ る 競 争 法 を 遵 守 し つ つ 、イ ノ ベーションと実質的競争を通じて、経済成長を助長すべきである。 ・ ラ イ セ ン ス 実 務 は 、関 連 す る 知 的 財 産 権 の 範 囲 を 超 え て 、独 占 的 権 利 の 広 さ を 拡 大 するために用いるべきではない。 備考 原 文 http://www.oecd.org/dataoecd/39/38/36198812.pdf 日 本 語 ( JBA 仮 訳 ) http://www.jba.or.jp/top/top%20data/oecdguideline060323.pdf - 20 - 資料番号 対 象 国 ・機 関 名称 書誌的事項 TRIPS 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 TRIPS 協 定 1998 TRIPS 協 定( Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights;知 的 所 有 権 の 貿 易 関連の側面に関する協定) 出典:詳細は下記の文中を参照 調査結果 概要 ・加盟国が「実施許諾などにおける行為または条件であって、関連市場における競争 に悪影響を及ぼすような知的所有権の濫用となることのあるもの」を規制できると し、強制的な一括実施許諾を認めている。 与 え ら れ る 権 利 の 例 外 ( 試 験 ・研 究 の 例 外 ) ・ 第 30 条 与 え ら れ る 権 利 の 例 外 加盟国は,第三者の正当な利益を考慮し,特許により与えられる排他的権利につい て 限 定 的 な 例 外 を 定 め る こ と が で き る 。た だ し ,特 許 の 通 常 の 実 施 を 不 当 に 妨 げ ず , かつ,特許権者の正当な利益を不当に害さないことを条件とする。 Article 30 Exceptions to Rights Conferred Members may provide limited exceptions to the exclusive rights conferred by a patent, provided that such exceptions do not unreasonably conflict with a normal exploitation of the patent and do not unreasonably prejudice the legitimate interests of the patent owner, taking account of the legitimate interests of third parties. ※英文 http://www.wto.org/english/tratop_e/trips_e/t_agm0_e.htm ※日本語文は日本国特許庁の仮訳 http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/trips/ta/mokuji.htm 上記条項は「多くの国の特許法において設けられている①試験・研究の目的のため に 特 許 発 明 の 実 施 を 行 う 行 為 、 ② 医 師 に よ る 調 剤 行 為 等 を 考 慮 し た も の で あ る 。」 ※ ※吉藤幸朔著、熊谷健一補訂『特許法概説 第 12 版 』 第 773 頁 ( 株 式 会 社 有 斐 閣 、 1997 年 ) 強制実施 TRIPS で は 強 制 実 施 に つ い て 、 条 件 を 詳 細 に 設 定 す る こ と で 、「 強 制 実 施 権 の 適 切 な 設定が行われる」※ように規定されている。 ※吉藤幸朔著、熊谷健一補訂『特許法概説 第 12 版 』 第 773 頁 ( 株 式 会 社 有 斐 閣 、 1997 年 ) 第 31 条 特 許 権 者 の 許 諾 を 得 て い な い 他 の 使 用 加 盟 国 の 国 内 法 令 に よ り ,特 許 権 者 の 許 諾 を 得 て い な い 特 許 の 対 象 の 他 の 使 用 (政 府 - 21 - に よ る 使 用 又 は 政 府 に よ り 許 諾 さ れ た 第 三 者 に よ る 使 用 を 含 む 。 )を 認 め る 場 合 に は,次の規定を尊重する。 (a) 他 の 使 用 は , そ の 個 々 の 当 否 に 基 づ い て 許 諾 を 検 討 す る 。 (b) 他 の 使 用 は , 他 の 使 用 に 先 立 ち , 使 用 者 と な ろ う と す る 者 が 合 理 的 な 商 業 上 の 条件の下で特許権者から許諾を得る努力を行って,合理的な期間内にその努力が 成功しなかった場合に限り,認めることができる。加盟国は,国家緊急事態その 他の極度の緊急事態の場合又は公的な非商業的使用の場合には,そのような要件 を免除することができる。ただし,国家緊急事態その他の極度の緊急事態を理由 として免除する場合には,特許権者は,合理的に実行可能な限り速やかに通知を 受ける。公的な非商業的使用を理由として免除する場合において,政府又は契約 者が,特許の調査を行うことなく,政府により又は政府のために有効な特許が使 用されていること又は使用されるであろうことを知っており又は知ることができ る明らかな理由を有するときは,特許権者は,速やかに通知を受ける。 (c) 他 の 使 用 の 範 囲 及 び 期 間 は , 許 諾 さ れ た 目 的 に 対 応 し て 限 定 さ れ る 。 半 導 体 技 術に係る特許については,他の使用は,公的な非商業的目的のため又は司法上若 しくは行政上の手続の結果反競争的と決定された行為を是正する目的のために限 られる。 (d) 他 の 使 用 は , 非 排 他 的 な も の と す る 。 (e) 他 の 使 用 は , 当 該 他 の 使 用 を 享 受 す る 企 業 又 は 営 業 の 一 部 と 共 に 譲 渡 す る 場 合 を除くほか,譲渡することができない。 (f) 他 の 使 用 は , 主 と し て 当 該 他 の 使 用 を 許 諾 す る 加 盟 国 の 国 内 市 場 へ の 供 給 の た めに許諾される。 (g) 他 の 使 用 の 許 諾 は , そ の 許 諾 を も た ら し た 状 況 が 存 在 し な く な り , か つ , そ の 状況が再発しそうにない場合には,当該他の使用の許諾を得た者の正当な利益を 適切に保護することを条件として,取り消すことができるものとする。権限のあ る当局は,理由のある申立てに基づき,その状況が継続して存在するかしないか について検討する権限を有する。 (h) 許 諾 の 経 済 的 価 値 を 考 慮 し , 特 許 権 者 は , 個 々 の 場 合 に お け る 状 況 に 応 じ 適 当 な報酬を受ける。 (i) 他 の 使 用 の 許 諾 に 関 す る 決 定 の 法 的 な 有 効 性 は , 加 盟 国 に お い て 司 法 上 の 審 査 又 は 他 の 独 立 の 審 査 (別 個 の 上 級 機 関 に よ る も の に 限 る 。 )に 服 す る 。 (j) 他 の 使 用 に つ い て 提 供 さ れ る 報 酬 に 関 す る 決 定 は , 加 盟 国 に お い て 司 法 上 の 審 査 又 は 他 の 独 立 の 審 査 (別 個 の 上 級 機 関 に よ る も の に 限 る 。 )に 服 す る 。 (k) 加 盟 国 は , 司 法 上 又 は 行 政 上 の 手 続 の 結 果 反 競 争 的 と 決 定 さ れ た 行 為 を 是 正 す る 目 的 の た め に 他 の 使 用 が 許 諾 さ れ る 場 合 に は , (b)及 び (f)に 定 め る 条 件 を 適 用 する義務を負わない。この場合には,報酬額の決定に当たり,反競争的な行為を 是正する必要性を考慮することができる。権限のある当局は,その許諾をもたら した状況が再発するおそれがある場合には,許諾の取消しを拒絶する権限を有す る。 (l) 他 の 特 許 (次 の (i)か ら (iii)ま で の 規 定 に お い て 「 第 1 特 許 」 と い う 。 )を 侵 害 す る こ と な し に は 実 施 す る こ と が で き な い 特 許 (こ れ ら の 規 定 に お い て「 第 2 特 許 」 と い う 。)の 実 施 を 可 能 に す る た め に 他 の 使 用 が 許 諾 さ れ る 場 合 に は ,次 の 追 加 的 条件を適用する。 (i) 第 2 特 許 に 係 る 発 明 に は , 第 1 特 許 に 係 る 発 明 と の 関 係 に お い て 相 当 の 経 済 的 重要性を有する重要な技術の進歩を含む。 (ii) 第 1 特 許 権 者 は , 合 理 的 な 条 件 で 第 2 特 許 に 係 る 発 明 を 使 用 す る 相 互 実 施 許 諾 を得る権利を有する。 - 22 - (iii) 第 1 特 許 に つ い て 許 諾 さ れ た 使 用 は , 第 2 特 許 と 共 に 譲 渡 す る 場 合 を 除 く ほ か,譲渡することができない。 Article 31 Other Use Without Authorization of the Right Holder Where the law of a Member allows for other use of the subject matter of a patent without the authorization of the right holder, including use by the government or third parties authorized by the government, the following provisions shall be respected: (a) authorization of such use shall be considered on its individual merits; (b) such use may only be permitted if, prior to such use, the proposed user has made efforts to obtain authorization from the right holder on reasonable commercial terms and conditions and that such efforts have not been successful within a reasonable period of time. This requirement may be waived by a Member in the case of a national emergency or other circumstances of extreme urgency or in cases of public non-commercial use. In situations of national emergency or other circumstances of extreme urgency, the right holder shall, nevertheless, be notified as soon as reasonably practicable. In the case of public non-commercial use, where the government or contractor, without making a patent search, knows or has demonstrable grounds to know that a valid patent is or will be used by or for the government, the right holder shall be informed promptly; (c) the scope and duration of such use shall be limited to the purpose for which it was authorized, and in the case of semi-conductor technology shall only be for public non-commercial use or to remedy a practice determined after judicial or administrative process to be anti-competitive; (d) such use shall be non-exclusive; (e) such use shall be non-assignable, except with that part of the enterprise or goodwill which enjoys such use; (f) any such use shall be authorized predominantly for the supply of the domestic market of the Member authorizing such use; (g) authorization for such use shall be liable, subject to adequate protection of the legitimate interests of the persons so authorized, to be terminated if and when the circumstances which led to it cease to exist and are unlikely to recur. The competent authority shall have the authority to review, upon motivated request, the continued existence of these circumstances; (h) the right holder shall be paid adequate remuneration in the circumstances of each case, taking into account the economic value of the authorization; (i) the legal validity of any decision relating to the authorization of such use shall be subject to judicial review or other independent review by a distinct higher authority in that Member; - 23 - (j) any decision relating to the remuneration provided in respect of such use shall be subject to judicial review or other independent review by a distinct higher authority in that Member; (k) Members are not obliged to apply the conditions set forth in subparagraphs (b) and (f) where such use is permitted to remedy a practice determined after judicial or administrative process to be anti-competitive. The need to correct anti-competitive practices may be taken into account in determining the amount of remuneration in such cases. Competent authorities shall have the authority to refuse termination of authorization if and when the conditions which led to such authorization are likely to recur; (l) where such use is authorized to permit the exploitation of a patent (“ the second patent” ) which cannot be exploited without infringing another patent (“ the first patent” ), the following additional conditions shall apply: (i) the invention claimed in the second patent shall involve an important technical advance of considerable economic significance in relation to the invention claimed in the first patent; (ii) the owner of the first patent shall be entitled to a cross-licence on reasonable terms to use the invention claimed in the second patent; and (iii) the use authorized in respect of the first patent shall be non-assignable except with the assignment of the second patent. ※英文 http://www.wto.org/english/tratop_e/trips_e/t_agm0_e.htm ※日本語文は日本国特許庁の仮訳 http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/trips/ta/mokuji.htm - 24 - (3)米国 (ⅰ)概要 Sarnoff 教 授 8 及 び Holman 教 授 9 に よ る 今 回 の 海 外 調 査 報 告 “ Recent Developments in the United States Regarding the Law and Practical Application of Patents on Research Tool Inventions” で は 、 米 国 特 許 法 の 下 で の 最 近 の 進 展 を 総 括 す る と 共 に 、い わ ゆ る“ リ サ ー チ ツ ー ル ”発 明 の 扱 い に つ い て 、大 学 、産 業 界 、政 府 機 関 の 実 務 に つ い て い く つ か の 識 見 が 提 示 さ れ て い る 。 「 何 年 に も わ た っ て 、リ サ ー チ ツ ー ル を 発 明 し 、開 示 す る イ ン セ ン テ ィ ブ と し て排他的な特許権を与える必要があること−その排他権が特許されたリサーチ ツ ー ル の す べ て の 使 用 と す べ て の 使 用 者 に 適 用 さ れ よ う と 、リ サ ー チ ツ ー ル の す べての使用者が引き続きおこる発明を過度に思いとどまることを妨げる排他権 で あ ろ う と − に つ い て 、活 発 な 議 論 が な さ れ て き た 。発 明 を 引 き 続 き 研 究 で 使 用 す る こ と に 関 す る 特 許 権 の 適 切 な 範 囲 に つ い て の 懸 念 は 長 い 歴 史 が あ る が 、世 紀 の 変 わ り 目 以 降 、司 法 判 断 に 照 ら し て 詳 細 な 調 査 が 増 え て き て い る 。リ サ ー チ ツ ールの使用とリサーチツール特許を行使する努力についての新しい研究は二つ の 判 決 、 す な わ ち 、 Madey v. Duke University 事 件 で 特 許 侵 害 に 対 す る “ 実 験 で の 使 用 の 除 外 ”の 限 定 的 な 解 釈 を 与 え る 2002 年 の CAFC 判 決 、及 び Merck, KGaA v. Integra LifeSciences I Ltd.事 件 に お け る 成 文 化 さ れ た “ 法 定 除 外 ” の 拡 張 解 釈 を 与 え る 2005 年 の 最 高 裁 判 決 に 照 ら し て 行 わ れ て き た 。 特 許 と リ サ ー チ ツ ー ル 発 明 に 関 す る 法 律 は 2000 年 以 降 よ り 明 確 に な っ て き た 。 CAFC の 2002 年 の Madey 判 決 は 、実 験 で の 使 用 の 除 外 に 関 す る 法 律 の 状 態 を 表 し て い る と し て 、 特 に 、 最 高 裁 も 議 会 も CAFC の ア プ ロ ー チ を 修 正 す る た め に 介 在 す る こ と を 選 択 し な か っ た と し て 、だ ん だ ん 認 識 さ れ て き た 。した が っ て 、特 許 さ れ た リ サ ー チ ツ ー ル の 使 用 は 、大 学 で の 基 礎 研 究 に と っ て も 、今 や 、排 他 的 特 許 権 の 起 訴 可 能 な 侵 害 と 考 え ら れ て い る 。法 定 除 外 の 場 合 の み 、特 許 さ れ た リ サ ー チ ツ ー ル の 使 用 が 起 訴 可 能 な 侵 害 を 構 成 す る か と い う こ と に つ い て 、非 常 に 不 確 か な ま ま で あ る 。 そ の 意 味 で Merck 事 件 に お け る 最 高 裁 の 解 釈 、 そ れ に 続 く CAFC の 差 し 戻 し 判 決 、 及 び そ の 他 最 近 の 事 件 の 広 い 言 い 回 し は 、 除 外 が 、 少 な Joshua D. Sarnoff, Practitioner-in-Residence & Assistant Director, Glushko-Samuelson Intellectual Property Law Clinic, Washington College of Law, American University 9 Christopher M. Holman, Associate Professor of Law, University of Missouri, Kansas City School 8 - 25 - く と も い く つ か の 、法 定 除 外 の 目 的 に 非 常 に 関 連 し た 発 明 の 、リ サ ー チ ツ ー ル の 使用に適用されるかもしれないということを暗示している。 そ れ と 同 時 に 、社 会 的 な 実 務 は も っ と 複 雑 に な っ て き て い る 。最 近 の 研 究 で は 、 大 学 の 研 究 者 も 民 間 の 研 究 者 も 実 際 の 法 律 の 状 態 を 無 視 し て 、特 許 発 明 を 特 許 権 者 の 許 可 な く 日 常 的 に 使 用 し て い る 、と 説 明 し て い る 。こ の ア プ ロ ー チ は 、多 く のリサーチツール特許権者は研究を制限するために特許を行使することはない だろうということを説明する他の研究に照らして正当化されているようにみえ る 。し か し 研 究 は 過 度 に 制 限 さ れ 、法 律 上 の 権 利 の 日 常 的 な 無 視 は 安 定 し た 地 位 で は な い か も し れ な い 。診 断 や 幹 細 胞 の 発 明 と い っ た あ る 状 況 で は 、リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 積 極 的 な 行 使 は 公 衆 の 批 判 を 引 き 出 し 、大 学 や 政 府 の 新 し い ガ イ ド ラ イ ン は 、リ ー ズ ナ ブ ル な 条 件 で リ サ ー チ ツ ー ル を 広 く ラ イ セ ン ス す る こ と が 進 展 し て き た 。」 1 0 「 特 許 侵 害 に 対 す る 実 験 で の 使 用 (experimental use) の 除 外 及 び 法 定 除 外 (regulatory approval exception)に 関 す る 法 律 は 長 年 に わ た っ て 変 化 し て き た 。 最 近 、 実 験 で の 使 用 の 除 外 の 範 囲 は CAFC に よ っ て 狭 く 解 釈 さ れ て い て 、 大 学 又 は民間の科学研究において使用される特許されたリサーチツールへの適用はほ と ん ど 妨 げ ら れ て い る 。一 方 、最 高 裁 及 び CAFC は 法 定 除 外 を 広 く 解 釈 し て い て 、 地裁は少なくともいくつかのリサーチツールについて除外を適用する判決を下 し て お り 、い ず れ は リ サ ー チ ツ ー ル を 使 用 す る た め の 販 売 へ の 除 外 適 用 を 認 め る 判決がなされるかもしれない。 こ れ ら の 司 法 上 の 進 展 は 、大 学 や 民 間 の 科 学 者 に 実 務 上 の 対 応 の 変 化 を 引 き 起 こ し て い る 。特 許 さ れ た 技 術 へ の ア ク セ ス や 科 学 的 な 研 究 開 発 に つ い て の 進 展 の 効 果 は 不 確 か な も の で あ る が 、か な り の 割 合 の 不 利 な 効 果 は 、こ れ ま で ア ク セ ス 制 限 に 対 す る 現 在 機 能 し て い る 複 数 の 解 決 策 の 適 用 に よ っ て 避 け ら れ て き た 。こ の解決策は広く認知された侵害行為とそれに伴う特許権者による特許行使から の 自 制 (forbearance)を 含 ん で い る 。 し か し 、 書 籍 上 の 法 律 と 実 務 上 の 法 律 と の 間 の 不 連 続 性 は 、も っ と 重 大 な ア ク セ ス の 問 題 が 現 れ る か も し れ な い と い う 懸 念 を提出し続けている。 10 “ I. Executive Summary” か ら 抜 粋 - 26 - さ ら に 、現在 機 能 し て い る 解 決 策 の 安 定 性 は 、特 に 、様 々 な 特 許 法 の 理 論 及 び 政 府 、大 学 、産 業 界 に お け る ラ イ セ ン ス 実 務 に 起 こ っ て い る 重 大 な 変 化 の に 照 ら し て み る と 、不 確 か で あ る 。こ れ ら の 変 化 に 対 す る 実 際 の 実 務 の 感 度 も 不 確 か で あ る 。し た が っ て 、特 許 化 の 行 動 、発 明 へ の 資 金 供 与 、及 び 特 許 権 者 の ラ イ セ ン ス行動についてのこれらの変化及び引き続きおこるであろう又は外的な変化が、 特許発明を研究で使用することに関するアクセスの問題を緩和するか又はさら に 悪 化 す る か 、を 予 想 す る こ と は 難 し い 。確 か な こ と は 、実験 で の 使 用 の 除 外 又 は 法 定 除 外 の 範 囲 の 問 題 、その リ サ ー チ ツ ー ル へ の 適 用 、実際 の 反 応 、法 律 と 実 務 の 社 会 的 な 帰 結 、及 び 研 究 で 使 用 す る た め の 特 許 発 明 の ア ク セ ス を 保 証 す る た め の 法 律 上 及 び 実 務 上 の 手 段 が 、懸 念 事 項 で あ り 続 け る だ ろ う し 、注 意 深 い 調 査 と 経 験 的 か つ 理 論 的 な 分 析 を 保 証 し 続 け る だ ろ う と い う こ と で あ る 。」 1 1 11 “ VIII Conclusions” か ら 抜 粋 - 27 - (ⅱ)海外調査 資料番号 対 象 国・機 関 名称 書誌的事項 分 背景 法令 判例 基準 指針 学説 その 他 等 規則 指令 類 海外調査結果の概要 Prof. Sarnoff, Prof. Holman ‘ Recent Development in the United States Regarding the Law and Practical Application of Patents on Research Tool Inventions’ 米国 調査結果 ※詳細は資料編の海外調査結果の資料 1 を参照のこと。 概 要 本 報 告 書 で は 、リ サ ー チ ツ ー ル 及 び リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て 基 本 的 な 定 義 を 提 供 し 、 実 験 で の 使 用 の 除 外 (experimental use exception) 及 び 法 定 除 外 (regulatory approval exception)の 歴 史 及 び そ れ ら の リ サ ー チ ツ ー ル へ の 適 用 について紹介し、判例における最近の進展、研究者及び特許権者の最近の実務 (practice)に つ い て の 研 究 、リ サ ー チ ツ ー ル に 関 す る ラ イ セ ン ス・ポ リ シ ー の 最 近 の 変 化 に つ い て 総 括 す る 。ま た 広 い「 実 験 で の 使 用 の 除 外 」の 代 替 手 段 に つ い ての議論も簡単に紹介し、関連する学術論文も紹介する。 1.イントロダクション(定義) 本 章 で は 、本 報 告 書 に お け る リ サ ー チ ツ ー ル 及 び リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 基 本 的 な 定 義 を 提 供 す る 。報 告 書 の 焦 点 は 、研 究 で 用 い ら れ る 技 術 の 発 展 の た め に 特 許 権 に よ り 与 え ら れ る 財 政 的 な イ ン セ ン テ ィ ブ と い う よ り も 、潜 在 的 な 特 許 の 義 務 (potential patent liability)及 び そ の よ う な 義 務 の 科 学 研 究 に お け る 効 果 に 関 する動向であるので、広い定義が採用される。 “ リ サ ー チ ツ ー ル ”は 多 く の 定 義 が あ り 、ま た 非 常 に 広 い 範 囲 の 技 術 を 包 含 す る だ ろ う 。例 え ば 、細 胞 株 、遺 伝 子 配 列 、分 析 方 法 、ソ フ ト ウ ェ ア 、顕 微 鏡 や レ ー ザ と い っ た 機 器 な ど の 特 許 発 明 は す べ て リ サ ー チ ツ ー ル と し て 参 照 さ れ る 。リ サ ー チ ツ ー ル は 科 学 研 究 で は 、特 許 の 応 用 分 野 で 開 示 さ れ る よ う に 、し ば し ば 使 用 目 的 に よ っ て 定 義 さ れ る 。広 範 囲 に 議 論 す る た め に は 、研 究 の た め だ け 又 は 主 に 研 究 の た め に 開 示 さ れ た 目 的 で 特 許 さ れ た 発 明 よ り も 、リ サ ー チ ツ ー ル の 定 義 をより広く考えなくてはならない。 よ り 広 義 の“ リ サ ー チ ツ ー ル ”は 特 許 発 明 が お か れ る で あ ろ う 使 用 に 焦 点 が 当 て ら れ る 。 最 近 の 連 邦 巡 回 裁 判 所 ( CAFC) の 事 件 ※ 1 で は リ サ ー チ ツ ー ル を 以 下 のように定義した。 「科学者が研究室で使うツールであり、それは次のものを含む−細胞株、モノ クロナル抗体、試剤、モデル動物、成長因子、コンビナトリアルケミストリー、 DNA ラ イ ブ ラ リ ー 、ク ロ ー ン 、( PCR ※ 2 の 様 な )ク ロ ー ニ ン グ ン ツ ー ル 、方 法 、実 験 設 備 ・ 器 具 。」 本 報 告 で は 、 よ り 広 い 定 義 、 す な わ ち 、「 リ サ ー チ ツ ー ル と は 、 研 究 を 実 施 す - 28 - る 際 に 使 わ れ る 特 許 技 術 で あ り 、 研 究 時 に そ の 技 術 自 体 が 目 的 で は な い も の 。」 を用いる。 ※1 ※2 Integra LifeSciences I Ltd. V. Merck KGaA, 331 F.3d 860, 872 n.4(Fed.Cir.2003) polymerase chain reaction( ポ リ メ ラ ー ゼ 連 鎖 反 応 ) 2.実験での使用の除外及び法定除外 (1)実験での使用の除外の最初及び初期の解釈 米 国 に お け る 実 験 で の 使 用 の 除 外 は 、 19 世 紀 初 頭 、 最 高 裁 の Story 判 示 に よ る2件の判決により初めて明瞭に表現された。 ① Whittemore v. Cutter ※ 3 1813 年 の 本 事 件 に お い て 、 Story 判 示 は 以 下 の よ う に 述 べ て い る 。 「このような機械を、ただ単に物理実験に使うためや、あるいは、記述され た効果が達成できるか確かめるために作った人を罰することが立法者の意図 で は な い 。」 ※ 3 29F.Cas.1120(C.C.D.Mass.1813)(No.17,600) 当時の特許法は、特許発明を“生産し、改造し、行使し、販売する”いか な る 人 に 対 し て 義 務 を 与 え て い て 、行 使 せ ず に 作 る こ と (making without use) は排他権の侵害を構成することを明確にするために法令の言葉は修正されて いた。 そ こ で 、Whittemore 判 決 は 2 つ の ど ち ら か で 理 解 さ れ 得 る 、す な わ ち 、 特 許により与えられた特定の権利の限界についての法的解釈か、あるいは、そ の当時のより広範な司法のコモン・ローを作る力と首尾一貫した、付与され た権利に対して法的に課された例外であるか、である。その区別は本質的に もまた手続的にも重要である。最初のアプローチは、当初与えられた所有権 の限界を定義し、2番目のアプローチは、所有権の行使に制限を課する。 どちらのアプローチが正しいかについての論争はまだ決着していないが、 義務からの「コモン・ローによる」免除として、例外が非常に頻繁に言及さ れている。 Whittmore 判 決 は 、 特 許 侵 害 の 例 外 に つ い て の 二 つ の 異 な る 理 由 に も 明 瞭 に 述 べ て い る 。 一 つ は 哲 学 的 ( Philosophical )実 験 で あ る こ と 、 も う 一 つ は 開示された利用法について特許発明が充足しているかを確かめるためであ る。例外についてのこれら二枝の範囲は、その後の2世紀において広範囲に 渡る論争及び数多くの裁判事件の論題となってきた。 ② Sawin v. Guild※ 4 Sawin v. Guild 事 件 に お い て Story 判 示 は 、 次 の よ う に 、 例 外 の 範 囲 を さ らに明らかにしようとした。 「作ることは特許の権利を侵害する意図があること、また権利者の発見に 対 す る 法 律 上 の 報 酬 を 奪 う 意 図 が あ る こ と で あ る 。」 ※4 21 F.Cas.554(C.C.D.Mass.1813)(No.12,391) - 29 - 1852 年 か ら 1950 年 に お け る 数 多 く の 裁 判 事 件 に お い て 、「 法 律 上 の 利 益 を 奪う意図」と言う基準の範囲を探る判決がなされた。この間、大学における 科 学 的 研 究 に 関 す る 事 件 は 、 た っ た 1 件 だ け で あ る ( Ruth v. Stearns-Roger Manufacturing Co.)。 そ の 事 件 で は 、 特 許 さ れ た 機 械 は 単 に 実 験 室 で 実 験 的 に使用され、その後切断され交換されたものであって、使用された部品の交 換をすることによって侵害に当たることにはならないと判断された。 1950 年 に 議 会 は 、実 験 で の 使 用 の 除 外 、す な わ ち 、販 売 の た め で は な く“ 単 に研究又は実験のために特許発明を生産し又は使用すること”を侵害から除 外することを、明示的に成文化しようとする法律を提案した。 し か し 、1952 年 、議 会 は 明 示 的 な 実 験 で の 使 用 の 除 外 を 規 定 せ ず 、 271(a) 条で生産し、使用し、販売する排他的権利及び侵害について現行の司法の基 準を成文化しただけの修正特許法を制定した。 Section271 特 許 侵 害 (a) 本 法 に 別 段 の 定 め が あ る 場 合 を 除 き , 特 許 の 存 続 期 間 中 に , 権 限 を 有 することなく,特許発明を合衆国において生産,使用,販売の申出若しくは 販売する者,又は特許発明を合衆国に輸入する者は特許を侵害する。 (2)ボーラー判決 1984 年 に CAFC は Roche Products Inc. v. Bolar Pharmaceuticals Co. 事 件 で 、 ジ ェ ネ リ ッ ク 薬 の FDA 認 可 の た め の 特 許 使 用 を 試 験 ・ 研 究 の た め の 免 除 に 当 た ら な い と 判 決 し た 。 FDA 認 可 申 請 は 明 ら か に 商 業 的 目 的 で あ る た め に免除されないと述べている。議会はそれに対し、立法措置※5により法的 規制のための認可申請を特許権行使の免除対象として、発明者とジェネリッ ク薬メーカーのバランスを取った。 ※5 Section271(e)(1)、 い わ ゆ る ボ ー ラ ー 条 項 の 創 設 Section271 特 許 侵 害 (e)(1) 特 許 発 明 (動 物 用 新 規 医 薬 品 又 は 獣 医 学 上 の 生 物 学 的 製 品 (当 該 用 語 は ,連 邦 食 品 医 薬 品 化 粧 品 法 及 び 1913 年 3 月 4 日 の 法 律 に お け る 使 用 法 に 従 う 。 )で あ っ て , 主 と し て 組 換 え DNA, 組 換 え RNA, ハ イ ブ リ ド ー マ 技 術 又 は位置特定遺伝子操作技術を含む他の方法を使用して製造されたものを除 く 。)を ,医 薬 品 又 は 獣 医 学 上 の 生 物 学 的 製 品 の 製 造 ,使 用 又 は 販 売 を 規 制 す る連邦法に基づく開発及び情報提出に合理的に関連する使用のみを目的とし て,合衆国内において生産,使用,販売の申出若しくは販売すること又は合 衆国に輸入することは,侵害行為とはしないものとする。 ( 3 ) そ の 後 の CAFC の 狭 い 解 釈 1984 年 に 議 会 が 271 条 を 修 正 し て か ら 、 CAFC は 実 験 で の 使 用 の 除 外 と 271(e)(1)条 の 法 定 除 外 の 両 方 を 狭 く 解 釈 し て い る( 2000 年 の Embrex Inc. v. Service Engineering Corp.)。 2002 年 、 Madey v. Duke University 事 件 で 、 CAFC は 初 め て 実 験 で の 使 用 の除外が大学で行われる科学的研究に適用されるかもしれないと判決した。 CAFC は 地 裁 判 決 を 取 消 し 、判 例 は“ 司 法 上 作 り 出 さ れ た 実 験 で の 使 用 と い う - 30 - 抗弁は、しかしながら、非常に限定された形態において”認識されるべき義 務を負わせると判決した。 Madey 事 件 以 降 、 実 験 で の 使 用 の 除 外 を 扱 っ た 地 裁 事 件 は ほ と ん ど 報 告 さ れていない。扱った事件についても、除外の狭い範囲について反復して述べ る か 、 拘 束 力 の あ る 判 例 と し て Madey 事 件 に 言 及 す る の み で あ る 。 (4) 実験での使用のより広い除外を成文化する法律の提案 Bolar 判 決 以 降 、 議 会 は 、 実 験 で の 使 用 の よ り 広 い 除 外 を 成 文 化 す る た め に提案された法律を導入する機会が何度かあったが、これらの努力は法律の 変更を採用するに至っていない。 例 え ば 、 1990 年 、「 研 究 又 は 実 験 の 目 的 」 で あ れ ば 、 免 除 対 象 に す る 法 案 が 提 出 さ れ た 。2002 年 に は 遺 伝 子 配 列 特 許 の 研 究 で の 使 用 は 製 造 や 販 売 で な け れ ば 免 除 さ れ る 法 案 を 提 出 し た 。2007 年 に は ヌ ク レ オ チ ド 配 列 等 の 特 許 化 を禁止する法案を提出した。リサーチツールに関連するこのような法案は、 バイオ産業界その他の強い反対により成立の見込みは立っていない。 学会では、試験・研究のための免除が広範囲に行使されることの必要性に ついて長年議論されてきていて、大学・非営利の研究者による特許された技 術の使用は広く免除されるようにすることを唱える者がいる一方、広い試 験・研究のための免除により新しいリサーチツールを開発するインセンティ ブが削がれることを危惧する者もいる。多くの意見では、制限された試験・ 研究の免除、強制ライセンス、その他の手段を組み合わせたハイブリッドな 制度が提案されている。 ( 5 ) メ ル ク 対 イ ン テ グ ラ 事 件 − 271(e)(1)条 の 裁 判 所 の 解 釈 2003 年 、 Integra Lifesciences I Ltd. v. Merck KGaA 事 件 に お い て 、 CAFC は 271(e)(1)条 の 法 定 除 外 を 狭 く 解 釈 し た 。 臨 床 前 実 験 は 、“ FDA の 安 全 性 及 び有効性を承認する手続きのための開発や情報の提供に合理的に関係した使 用のみ”ではないとされた。 2005 年 、 Merck KGaA v. Integra Lifesciences I Ltd.事 件 で 、 最 高 裁 判 所 は 、271(e)(1)条 の 法 定 除 外 に お け る CAFC の 狭 い 解 釈 を 覆 し た 。最 高 裁 は 、 除 外 は 安 全 性 や 有 効 性 の デ ー タ を 発 生 さ せ る テ ス ト に 限 定 さ れ ず 、 FDA に 提 出 さ れ る デ ー タ を 発 生 さ せ る か も し れ な い 、( 生 物 学 上 の 仕 組 み に 関 す る 基 礎研究を含めて)いかなるテストも含むと判決した。 しかし最高裁は、特許されたリサーチツールに法定除外が適用されること を扱うことを明示的に断り、実験での使用の除外について扱わなかった。 ( 6 ) 2005 年 の メ ル ク 事 件 に お け る 最 高 裁 判 決 以 降 の 法 定 除 外 を 解 釈 す る 判 決 2005 年 の メ ル ク 事 件 に お け る 最 高 裁 判 決 以 降 の 裁 判 事 件 で は 、 271(e)(1) 条の法定除外を広く解釈する傾向が生じているだけでなく、リサーチツール の免除を明確に拡張してきている。 ・ 2005 年 の Classen Immunotherapies, Inc. v. Biogen IDEC 事 件 に お け る地裁判決 ・ 2006 年 の Genentech, Inc. v. Insmed Inc.事 件 の 地 裁 判 決 ・ 2006 年 の Amgen, Inc, v. F. Hoffman-LaRoche Ltd.事 件 の 地 裁 判 決 ・ 2006 年 の Classen Immunotherapies, Inc. v. King Pharmaceuticals, Inc.事 件 の 地 裁 判 決 - 31 - ・ ・ 2007 年 の 、 最 高 裁 か ら の 差 し 戻 し 事 件 で あ る Integra Lifesciences I Ltd. v. Merck KGaA 事 件 の CAFC の 多 数 意 見 2007 年 の Forest Laboratories, Inc. v. Ivax Pharmaceuticals, Inc. 事 件 の CAFC 判 決 2008 年 に は 、 CAFC は Proveris Scientific Corp. v. Innovasystems, Inc. 事 件 ( No. 07-1428) で 取 り 扱 う か も し れ な い ( 口 頭 弁 論 を 行 っ て き た )。 本 事 件 は 271(e)(1)条 の 免 除 の 範 囲 を 解 決 す る 可 能 性 が あ る 。 総 括 す る と 、CAFC は 試 験 ・ 研 究 の 免 除 の 範 囲 を 狭 く 、そ れ と 同 時 に 明 確 化 してきて、その範囲の元ではほとんどの科学的研究は、大学の研究であれ、 非 営 利 の 基 礎 研 究 で あ れ 、免 除 が 与 え ら れ な い 。一 方 、最 高 裁 は 、271(e)(1) 条の法定除外の範囲を拡張し、それは広範囲の実験に適用されるだろうが、 法定除外の範囲は不明瞭のままである。 (7)最近の議論と実務 Madey 判 決 後 、 当 該 判 決 の 効 果 を 評 価 す る た め に 、 特 に 、 リ サ ー チ ツ ー ル としての機能を意図する発明に関する特許が基礎的な科学的研究を妨げる又 は 遅 ら せ る か に つ い て 、多 く の 研 究 が な さ れ て き た 。こ れ ら の 懸 念 は 、“ ア ン チコモンズ”又は複数の特許のライセンスが必要とされる特許の藪−これに よって、より高いコスト、遅延、そして重要な科学的研究(特にバイオメデ ィカル及び遺伝子関連研究について)が放棄されるかもしれないということ になる−の進展の可能性に関する初期の理論的研究を反映している。またこ れらの懸念は、遺伝子発明が基礎的で、それゆえ遺伝子配列の特許は迂回し 得ないということも反映している。 これらの研究の結果は、特許の(特に大学研究者の)義務の拡大された法 律上の可能性が原因で、現在重大な問題を引き起こしているということはほ とんどないことを示している。しかし、この結果の理由は、特許保有者が積 極的に自らの特許を行使しておらず、また科学的研究者がそのような特許を ( Madey 判 決 に 照 ら す と )侵 害 す る や り 方 で 行 動 し て い る か ら か も し れ な い 。 また、警告状や特許侵害を思いとどまらせるための大学における内部努力は 増えているものの、研究者の行動に重大な効果はまだない、という研究結果 も示されている。言い換えると、書籍上の法律と実務の間には大きなギャッ プがあり、現在の状況の安定性は重大な関心事であり続けるということであ る。 3.特許化及びライセンスポリシー及び実務の最近の変化 相当の割合のリサーチツール特許、特に遺伝子及びバイオメディカルの研 究に関するものは政府資金による研究や大学での研究から起こっている。そ れゆえ、リサーチツール特許は研究やイノベーションを妨げるかもしれない という懸念を処理する一つのアプローチは、これらの機関が、特許されたリ サーチツールへの広く非差別的な利用を奨励する特許化及びライセンス実務 を取り入れることを促進することである。 米 国 に お け る バ イ オ メ デ ィ カ ル 研 究 へ の 資 金 配 分 の 主 要 源 で あ る NIH を 含 む、政府資金配分機関は、内部ポリシーや外部への資金配分実務を行ってお り、ガイドラインを公表している。これらの実務やガイドラインは、いくつ かの発明を特許化することを思いとどまらせることや、バイオメディカルの - 32 - リサーチツールを普及し利用することを推進するライセンスポリシーを促進 することに向けられている。 大学も、リサーチツール特許の逆効果の可能性についての懸念を処理する ことに向けられた特許化やライセンス実務を取り入れてきた。 例 え ば 、 1999 年 、 NIH は 、 NIH 資 金 の リ サ ー チ ツ ー ル が 広 く 利 用 さ れ る こ とを推進する実務をグラント受託者が採用することを推奨する、リサーチツ ール・ガイドラインを発行した。 2005 年 、NIH は 、“ 遺 伝 子 発 明 の ラ イ セ ン ス の ベ ス ト プ ラ ク テ ィ ス ”の 最 終 通知を発表した。この“遺伝子ベストプラクティス”は、リサーチツール・ ガイドラインと大概のところ首尾一貫しているが、法律的に縛られない規則 としてベストプラクティスの推奨を表すことをもっと明示的に明らかにして いる。 DNA 特 許 を 最 も 多 く 取 得 し た 3 0 の 米 国 の 大 学 研 究 機 関 に つ い て の 最 近 の 調 査 で は 、 ラ イ セ ン ス 実 務 は NIH の リ サ ー チ ツ ー ル ・ ガ イ ド ラ イ ン と 遺 伝 子 ベストプラクティスに大部分が一致していることを研究者は認めている。 いくつかの最も有名な米国大学のある連合は、最近、リサーチツール発明 の広い普及と利用を奨励する技術ライセンスのガイドラインを採用すること を確認し推奨する文書“九点文書※6”を公表した。 ※6 In the Public Interest: Nine Points to Consider in Licensing University Technology (2007) ま た 、ウ ィ ス コ ン シ ン 大 学 の 技 術 ラ イ セ ン ス 機 関 で あ る WARF※ 7 は 、2007 年 1 月 23 日 、大 学 及 び 非 営 利 の 研 究 者 の 利 用 条 件 を 改 善 す る 、ラ イ セ ン ス ポ リシーの変更を公表した。 ※7 Wisconsin Alumni Research Foundation 特許されたリサーチツールに関する産業界のライセンス実務の研究は、一 般には入手できていないが、商業機関が保有しリサーチツールとして使用さ れる特許に関する現在のライセンス環境にもっとまとまった評価を与えるた めには必要とされる。 これらの新しい特許化及びライセンスポリシーの効果はまだ評価されてい ない。しかし、これらのポリシーは、進展する科学的研究で使用される特許 された技術を利用することの制限をある程度改善しそうだ。 4.侵害に対する実験での使用の除外及び法定除外の代行手段 ( 1 ) 強 制 実 施 (Compulsory Licensing) 強制実施は、侵害に対する実験の使用の除外及び法定除外の研究や製品開 発における代行手段として有効な手段として取り上げられている。 経緯 - 33 - 強 制 実 施 の 規 定 は 、 米 国 特 許 法 の 1952 年 改 正 で 導 入 の 可 能 性 が 検 討 さ れ たが、最終法案が提出される前に法案草稿から削除された。 そ の 後 2005 年 に 、 ヘ ル ス ケ ア の 非 常 時 に 関 す る あ る 特 許 発 明 の 強 制 実 施 を提供するであろう法案が議会提出されたが、法案は成立しなかった。 現 在 議 会 で 検 討 中 の 特 許 改 正 法 案 は 強 制 実 施 の 規 定 を 含 ん で い な い 。特 許 制 度 に つ い て の 2004 年 の NAS ※ 1 0 の 報 告 書 で 述 べ ら れ て い る よ う に 、産 業 界 に お い て 、ま た 特 許 権 者 の 間 に は 、強 制 実 施 の い か な る 形 態 に 対 し て 敵 意 が ある。 現状 米 国 法 は 特 許 さ れ た 技 術 の 強 制 実 施 を あ る 限 定 さ れ た 形 で 与 え て お り 、例 え ば 大 気 清 浄 法 ( Clean Air Act) は 、 法 律 で 強 制 さ れ た 汚 染 制 御 基 準 に 合 う代替物を使用できない者に対して汚染制御装置の特許の強制実施を与え る。 し か し な が ら 、現 在 あ る 強 制 実 施 の 規 定 は 特 許 さ れ た リ サ ー チ ツ ー ル 、特 に バ イ オ メ デ ィ カ ル 研 究 の 文 脈 で 用 い ら れ る リ サ ー チ ツ ー ル の 使 用 に 、も し あったとしてもほとんど関連がない。 ※ 10 National Academy of Science (2)リーチスルー・ライセンス契約 リーチスルー契約は研究により得られた最終製品に対しても特許権を及ぼ す 契 約 で あ り 、反 ト ラ ス ト 法 、特 許 法 に 違 反 す る 可 能 性 を 持 っ て い る 。ま た 、 アンチコモンズの問題を大きくすると言うものもいる。 (3)パテントプール 米 国 の バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー の 業 界 団 体 で あ る BIO※ 8 は 、 自 発 的 な パ テ ン トプールは“特許が重なり合うことについての懸念に対する最も重要かつ可 能性を秘めた解決策の一つ”であると述べている。同様に、米国特許商標庁 は、パテントプール白書※9を出して、特許されたリサーチツールの利用を 促進する方法としてパテントプールの利用を議論している。特許制度に関す る 2003 年 の F T C 報 告 で は 、パ テ ン ト プ ー ル に 必 然 的 に 伴 う 集 中 管 理 は 、ロ イヤルティーの積み上がりの問題を避けることに役立つかもしれないと述べ られている。 ※ 8 Biotechnology Industry Organization ※ 9 Patent Pools: A Solution to the Biotechnology Patents? Problem of Access and しかしながら、高い取引コストは遺伝子発明においてパテントプールを形 成し利用する能力を実質的に制限するかもしれないと疑問を示す意見があ る 。 こ れ ら の 技 術 は 、 標 準 と 内 部 操 作 性 (interoperability)が 重 要 で あ る た めにパテントプールがより頻繁に用いられているエレクトロニクス分野とは 基本的に異なっていると述べられている。さらに、バイオテクノロジー発明 の予測可能性がより乏しいこと、またバイオテクノロジー企業がライセンス 収入を最大化することにより大きく頼っているかもしれないことが、個々の 特許権者がパテントプールの標準的なライセンス条件に参加し又は賛同する インセンティブを減らしているかもしれない。 - 34 - しかし具体的なリサーチツールのパテントプールを作り出すための様々な 提 案 が な さ れ て い る 。 例 え ば 、 DNA マ イ ク ロ ア レ イ の 先 進 企 業 で あ る Affymetrix は 、遺 伝 子 の パ テ ン ト プ ー ル を 作 る こ と を 提 唱 し て い る 。欧 州 の 学者のあるグループは、診断テストの利用のために遺伝子技術の利用を促進 するためにパテントプールを利用する可能性について議論する雑誌をシリー ズで刊行している。カリフォルニア再生医学研究所及びその他の幹細胞研究 の資金提供者のためのパテントプールも提案されている。 同様のアプローチはバイオメディカルのリサーチツールに有用であること が証明されるかもしれない。しかし、これまでのところパテントプールはバ イオテクノロジー分野において重要な役割は果たしていない。バイオテクノ ロ ジ ー の パ テ ン ト プ ー ル で 最 も よ く 知 ら れ た 事 例 は 、 お そ ら く 、“ ゴ ー ル デ ン・ライス”を生産するための運営の自由を与えるべく、急いで作り上げま とめられた特許権の収集である。ゴールデン・ライスは商業的には適切な作 物とは考えられておらず、プールの元でのライセンスは、本質的に人道的理 由 で 、対 価 な し で 与 え ら れ て い た 。SARS の 研 究 に 関 連 し た 特 許 の プ ー ル を 作 る 試 み も な さ れ た が 、こ の 試 み が 完 成 し た と い う 報 告 は ま だ な さ れ て い な い 。 - 35 - (ⅲ)国内外文献調査 資料番号 米国 対 象 国・機 関 名称 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 米国特許法 書誌的事項 合 衆 国 法 典 第 35 巻 (35 U.S.C. Title 35 of the United States Code) 出典:下記文末を参照 試験・研究の例外 米国特許法では、いわゆる「試験・研究の例外」に関する明文の規定はない。 た だ し 、 FDA ※ 承 認 と の 関 係 に お け る 権 利 の 効 力 の 除 外 に つ い て 、 271 条 (e)(1)に おいて以下のとおり規定されている。 第 271 条 特 許 侵 害 (e)(1) 特 許 発 明 (動 物 用 新 規 医 薬 品 又 は 獣 医 学 上 の 生 物 学 的 製 品 (当 該 用 語 は ,連 邦 食 品 医 薬 品 化 粧 品 法 及 び 1913 年 3 月 4 日 の 法 律 に お け る 使 用 法 に 従 う 。 )で あ っ て , 主 と し て 組 換 え DNA, 組 換 え RNA, ハ イ ブ リ ド ー マ 技 術 又 は 位 置 特 定 遺 伝 子 操 作 技 術 を 含 む 他 の 方 法 を 使 用 し て 製 造 さ れ た も の を 除 く 。)を ,医 薬 品 又 は 獣 医 学 上の生物学的製品の製造,使用又は販売を規制する連邦法に基づく開発及び情報 提出に合理的に関連する使用のみを目的として,合衆国内において生産,使用, 販売の申出若しくは販売すること又は合衆国に輸入することは,侵害行為とはし ないものとする。 35 U.S.C. 271Infringement of patent (e)(1) It shall not be an act of infringement to make, use, offer to sell, or sell within the United States or import into the United States a patented invention (other than a new animal drug or veterinary biological product (as those terms are used in the Federal Food, Drug, and Cosmetic Act and the Act of March 4, 1913) which is primarily manufactured using recombinant DNA, recombinant RNA, hybridoma technology, or other processes involving site specific genetic manipulation techniques) solely for uses reasonably related to the development and submission of information under a Federal law which regulates the manufacture, use, or sale of drugs or veterinary biological products. ※ Food and Drug Administration 出典: 英文 http://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/documents/appxl_35_U_S_C_271.htm 日本語文(日本国特許庁の仮訳) http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/mokuji/us_tokkyo1.pdf - 36 - 資料番号 米国 対 象 国・機 関 名称 NIH 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 NIH ガ イ ド ラ イ ン 書誌的事項 1999.2 Principles and Guidelines for Recipients of NIH Research Grants and Contracts on Obtaining and Disseminating Biomedical Research Resources: Final Notice http://ott.od.nih.gov/policy/rt_guide_final.html 調査結果 概要 ガイドラインの基本的な目的と理念 (1)Reasonable terms and conditions for making NIH-funded research resources available to scientists in other institutions in the public and private sectors (disseminating research tools) (2) restrictions to accept as a condition of receiving access to research tools for use in NIH-funded research (acquiring research tools) (公的資金を原資とする)知的財産権の保護と特許使用の円滑化 ○ バ イ ド ー ル 法 の 履 行 (2.Appropriate Implementation of the Bayh-Dole Act) リ サ ー チ ツ ー ル へ の 広 範 な ア ク セ ス を す る た め 、Bayh-Dole 法 の 履 行 (公 的 助 成 で 行 なった研究成果について商業的開発を奨励する)が必要であるとしている。 ○ リサーチツールの普及 (Dissemination of Research Resources Developed with NIH Funds) 使用を認める対象となるリサーチツール 研究成果が下記に該当する場合(ひとつ以上)には、他機関等での異なる使用方法、 製品での使用を認めること。 (1)リ ソ ー ス の 主 な 用 途 が FDA の 承 認 対 象 物 で は な く 、 研 究 の た め の ツ ー ル で あ る (2)リ ソ ー ス は 限 ら れ た 用 途 で は な く 、多 数 の 研 究 者 に と っ て 汎 用 性 が あ り 、発 明 を 促 進するために有用である。 (3)ツ ー ル と し て 、 直 ぐ に 使 用 ・ 普 及 で き る こ と ( 更 な る 開 発 不 要 )。 Simple Letter Agreement の 使 用 -非 営 利 団 体 へ の 移 転 は UBMTA(Uniform Biological Materials Transfer Agreement) 以 上に制限しない。 -特 許 化 さ れ て い な い ツ ー ル の 、 他 の NIH 資 金 提 供 プ ロ ジ ェ ク ト へ の 移 転 は 、 Simple Letter Agreement 等 の 使 用 が 望 ま し い 。 -特 許 化 さ れ た 、 ま た は 排 他 的 に ラ イ セ ン ス さ れ た ツ ー ル で は 他 の Agreement の 使 用 が適切と思われるが、商業化オプション、リーチ・スルー・ロイヤリティ、最終成 果物のアサインバック・グラントバックは不適切である。 -営 利 団 体 の internal use で は 障 害 が 起 こ ら な い よ う に 移 転 す る 。 考察、備考等 開発されたツールの普及のための奨励事項 NIH の 資 金 に よ り 開 発 さ れ た ツ ー ル の 普 及 の た め の 奨 励 事 項 な ど が 記 載 さ れ 、 普 及 に 力が入れられている。 - 37 - (4) EU(European Union;欧 州 連 合 ) (ⅰ)概要 経緯・背景、動向 CPC(Community Patent Convention:共 同 体 特 許 条 約 )は 未 発 効 で あ る が 、 構成国の国内法に取り入れられ、構成国間のハーモナイゼーションに寄与 し て い る 。 特 許 発 明 の主 題 に関 し実 験 目 的 でなされる行 為 に対 する特 許 効 力 の 除外、強制実施権について規定されている。 法 令 ・規 則 EPC(European Patent Convention;欧 州 特 許 条 約 ) で は 、 欧 州 特 許 付 与 後 の 特 許 権 は 各 国 法 の 下 で 扱 わ れ 、侵害 も 各 国 法 の 定 め に 依 拠 し て い る た め 、 必然的に特許権の侵害に対する免責である「試験・研究の例外」に関する 規定はない。また、強制実施権に関する規定もない。 CPC の 第 27 条 ( b) に お い て 、 特 許 発 明 の 主 題 に 関 し 実 験 目 的 で な さ れ る行為には、共同体特許に基づく権利は及ばないと規定されている。 CPC で は 、 第 45-47 条 に 強 制 ラ イ セ ン ス (compulsory licences)に つ い て 規定されている。 指 針 ( ガ イ ド ラ イ ン ) ・指 令 と 運 用 ・ 利 用 状 況 EC バ イ オ 指 令 で は 、 バ イ オ 関 連 発 明 の 特 許 の 保 護 対 象 と し て の 適 格 性 、 特許権者に基づく排他的権利及びその制限に関する条文を有し、 「 試 験・研 究の例外」を視野に入れている。構成国におけるバイオ関連発明に関する 「試験・研究の例外」の導入が意図されている。 - 38 - (ⅱ)国内外文献調査 資料番 号 対象国・ 機関 名称 書誌的 事項 EU 分類 背景等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その他 欧州(及び共同体)での特許条約 1977 年 EPC(European Patent Convention;欧 州 特 許 条 約 ) 発効 h t t p : / / w w w . e po . o r g / p a te n t s / l a w /l e g a l - t ex t s / h t m l /e p c/ 2 0 0 0 / e / m a 1 . ht m l 1989 年 及 び 日 本 語 訳 ( 日 本 国 特 許 庁 の 仮 訳 ) 2000 年 改 正 http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/epo/pc/mokuji.htm 1989 年 (未 発 効 ) CPC(Community Patent Convention: 共 同 体 特 許 条 約 ) http://legis.obi.gr/ESPACEDVD/legal_texts/LAWS_E/eu_cvn04.htm 調査結果 概要 共 同 体 特 許 条 約 ( CPC) は 未 発 効 で あ る が 、 構 成 国 の 国 内 法 に 取 り 入 れ ら れ 、 構 成 国 間のハーモナイゼーションに寄与している。 試験・研究の例外については発明の主題に関する実験目的の免責が、強制実施権に ついては不実施と利用関係の場合が規定されている。 試 験 ・研 究 の 例 外 EPC ・欧州特許付与後の特許権は各国法の下で扱われ、侵害も各国法の定めに依拠してい るため、必然的に特許権の侵害に対する免責である「試験・研究の例外」に関する 規定はない。 EPC の 附 属 議 定 書 ・ 2001 年 に 、 EPO(European Patent Office; 欧 州 特 許 庁 ) 当 事 国 は パ リ 政 府 間 協 議 に お い て 、 共 同 体 内 で 統 一 的 な 司 法 制 度 を 実 現 さ せ る た め に 、 EPC の 附 属 議 定 書 の 起 草 を決定し、作業部会を設置した。 ・公 表 さ れ た 欧 州 特 許 裁 判 所 の 規 程 の 草 案 で は 侵 害 及 び 間 接 侵 害 行 為 等 の 実 体 規 定 は 、 CPC の も の を 原 則 踏 襲 し た と さ れ て お り 、 第 35 条 の (b)は 、 CPC の 第 27 条 (b)と 同 様である。 CPC ・ 第 27 条 ( b) に お い て 、 特 許 発 明 の 主 題 に 関 し 実 験 目 的 で な さ れ る 行 為 に は 、 共 同 体特許に基づく権利は及ばない、と規定されている。 Article 27 Limitation of the effects of the Community patent The rights conferred by a Community patent shall not extend to: (a) acts done privately and for non-commercial purposes; (b) acts done for experimental purposes relating to the subject-matter of the patented invention; - 39 - 裁定(強制)実施権 EPC ・強制実施権に関する規定はない。 CPC ・ 第 45-47 条 に 強 制 実 施 権 (compulsory licences)が 規 定 さ れ て い る 。 「 ① 強 制 実 施 権 ( CPC 第 45 条 ) ・共同体特許について付与された強制実施権の範囲及び効果は、関連する領域に 限定される。 ・ 各 CPC 締 約 国 は 、 少 な く と も 強 制 実 施 権 に 対 す る 補 償 に つ い て 、 司 法 裁 判 所 へ の上告に関する規定を設けなければならない。 ・実務当局は、共同体特許に強制実施権が設定された時には欧州特許庁に対して その事実を知らせなければならない。 ・共同体特許条約の目的にかんがみ、「強制実施権」という言葉には、公的なラ イセンスや公共の利益のための特許発明の使用に関する権利も含まれるものと解 釈される。 ② 不 実 施 の 場 合 ( CPC 第 46 条 ) ・ あ る CPC 締 約 国 で 製 造 さ れ た 特 許 製 品 が 、 他 の CPC 締 約 国 の 市 場 で の 需 要 を 満 たす十分な量が供給されていれば、当該共同体特許に対し強制実施権は設定され ない。 ③ 利 用 関 係 の 場 合 ( CPC 第 47 条 ) ・利用関係については、当該特許権が共同体特許と国内特許との関係や共同体特 許同士の関係に当たる場合についても適用される。」 (出典)産業構造審議会 知的財産政策部会特許制度小委員会 特許戦略計画関連問題ワーキング グ ル ー プ 「 特 許 発 明 の 円 滑 な 使 用 に 係 る 諸 問 題 に つ い て 」 2004 年 11 月 第 67 頁 h t t p : / / w w w . j po . g o . j p / sh i r y o u / t ou s h i n / s hi n g i k a i / pd f /s t r a t e g y _ w g _ pr o b / 0 0 . p df Article 45 Compulsory licences 1. Any provision in the law of a Contracting State for the grant of compulsory licences in respect of national patents shall be applicable to Community patents. The extent and effect of compulsory licences granted in respect of Community patents shall be restricted to the territory of the State concerned. Article 28 shall not apply. 2. Each Contracting State shall, at least in respect of compensation under a compulsory licence, provide for a final appeal to a court of law. 3. As far as practicable national authorities shall notify the European Patent Office of the grant of any compulsory licence in respect of a Community patent. 4. For the purposes of this Convention, the term 'compulsory licences' shall be construed as including official licences and any right to use patented inventions in the public interest. - 40 - Article 46 Compulsory licences for lack or insufficiency of exploitation A compulsory licence may not be granted in respect of a Community patent on the ground of lack or insufficiency of exploitation if the product covered by the patent, which is manufactured in a Contracting State, is put on the market in the territory of any other Contracting State, for which such a licence has been requested, in sufficient quantity to satisfy needs in the territory of that other Contracting State. This provision shall not apply to compulsory licences granted in the public interest. Article 47 Compulsory licences in respect of dependent patents Any provisions in the law of a Contracting State for the grant of compulsory licences in respect of earlier patents in favour of subsequent dependent patents shall be applicable to the relationship between Community patents and national patents and to the relationship between Community patents themselves. 考察、備考等 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ EU 法 上 で 、 大 学 等 に お け る 「 試 験 ・ 研 究 」 行 為 の 特 許 権 侵 害 の 懸 念 に つ い て 、 特 に あてた法的文書はない。 ・( 未 発 効 で あ る が ) CPC は ド イ ツ 他 の 一 部 構 成 国 の 国 内 法 に 取 り 入 れ ら れ 、 構 成 国 間 のハーモナイゼーションに寄与している。 裁定(強制)実施権 ・ EU 法 に 基 づ く 共 同 体 レ ベ ル の 強 制 実 施 権 の 付 与 に つ い て は 、 現 在 の と こ ろ 事 例 が な い。 ・ EU レ ベ ル に お い て 、 ブ ロ ッ キ ン グ 特 許 及 び リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 問 題 の 解 決 に 関 し て強制実施権制度に言及した例はない。 - 41 - 資料番号 対 象 国 ・機 関 名称 EU 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 EC バ イ オ 指 令 書誌的事項 1998 EC バ イ オ 指 令 注:出典は下記文末を参照 調査結果 概要 発明の特許の保護対象としての適格性、排他的権利及びその制限に関する条文を有 し、構成国におけるバイオ関連発明に関する「試験・研究の例外」の導入が意図され ている。 (出典) http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:1998:213:0013:0021:EN:PDF 試 験 ・研 究 の 例 外 ・直接触れた条文はない。 ・バイオ関連発明の特許の保護対象としての適格性、特許権者に基づく排他的権利及 び そ の 制 限 に 関 す る 条 文 を 有 し 、「 試 験 ・ 研 究 の 例 外 」 を 視 野 に 入 れ て い る 。 ・構成国におけるバイオ関連発明に関する「試験・研究の例外」の導入が意図されて いる。 - 42 - 資料番号 EU 対 象 国 ・機 関 名称 書誌的事項 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 「公的資金による研究機関における知財管理」報告書 Expert group report ‘ Management of intellectual property in Publicly-funded research organisations: 2004 Towards European Guidelines’ , European Commission 注:下記出典を参照 調査結果 概要 ・ 欧 州 委 員 会 (EC)の 研 究 部 門 (Research DG)に よ り 、“ 公 的 資 金 に よ る 研 究 に お け る 知 的財産の問題”に関する専門家グループが組織された。外部専門家のグループが招 聘され、本論題について議論し、公的資金による研究機関における知財管理に関す る一連の勧告がなされ、欧州のガイドラインの進展の基礎として提供され得る。本 報 告 書 に は 背 景 、問 題 の 領 域 、現 状 の レ ビ ュ ー が 含 ま れ 、公 的 研 究 機 関( 大 学 含 む )、 産業界、公共機関による行動の選択の調査がなされている。 ・ 報 告 書 の 2.6 項 「 知 財 ポ ー ト フ ォ リ オ の 専 門 的 管 理 」 で は 、 知 的 財 産 保 護 、 第 三 者 の 知 的 財 産 権 の 尊 重 、 研 究 免 除 (Research Exemption)、 材 料 移 転 契 約 (MTA)、 機 密 情 報について述べられている。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ 公 的 研 究 機 関 の 研 究 に 対 し 適 正 評 価 (due diligence)を 実 施 す る 際 に 、 特 定 の 知 的 財 産権と研究上の実務の関係に注意することが重要と指摘している。 裁定(強制)実施権 ・言及なし 発明の特許性 ・言及なし (公的資金を原資とする)知的財産権の保護と特許使用の円滑化 ・公的機関は非営利団体であるために、特許侵害その他の問題によって影響を受ける 機会は稀であると認めつつ、これら機関が第三者の知的財産権に対する脅威に映る 場面が増える可能性があると指摘している。 その他 ・「 オ ー プ ン ・ サ イ エ ン ス 」 モ デ ル や 「 イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ モ デ ル 」 に つ い て も 言 及 さ れ ている。 (出典) http://ec.europa.eu/research/era/pdf/iprmanagementguidelines-report.pdf - 43 - (5)英国 (ⅰ)概要 経緯・背景、動向 1977 年 特 許 法 で EPC と の 調 和 が 取 ら れ 、 そ の 後 EC バ イ オ 指 令 が 2000 年 か ら 2002 年 に か け て 3 段 階 を 経 て 導 入 さ れ た 。2004 年 改 定 は 主 に EPC2000 への整合がはかられた。 EPC と の 調 和 が 図 ら れ 、一般 的 な 試 験・研 究 の 例 外 や 、強 制 実 施 権 が 規 定 されている。大学等に特定した試験・研究の例外条項や、後発医薬品の臨 床 試 験 に 関 す る 例 外 条 項 は 無 い 。 ま た 強 制 実 施 権 に つ い て は 、 1999 年 改 正 以降の現行制度の下で付与された事例はない。 法 令 ・規 則 第 60 条 [ 侵 害 ] の 第 5 項 に 試 験 ・ 研 究 の 例 外 に 関 し 、 (a)私 的 か つ 非 商 業 的 な 目 的 / (b)対 象 に 関 す る 試 験 的 目 的 が 規 定 さ れ て い る 。 強 制 実 施 権 に 関 し て は 、 第 55 条 か ら 第 59 条に 規 定 が あ り 、 特 許 庁 長 官 は 、 (a)ラ イ セ ン ス の 条 件 の 取 消 し 又 は 修 正 等 / (b)及 び / 又 は 、ラ イ セ ン ス ・ オ ブ ・ ラ イ ト (同 法 第 46 条及 び 第 49 条)と し て の 強 制 的 な 登 録 を 命 じ ることができる。 判例 − Smith Kline, French Laboratories v Evans 裁 判 ( 1988 Patents Court): Smith Kline(SK&F)の 医 薬 の 3 特 許 ( A、 B、 C) に 関 す る 侵 害 訴 訟 で 、 裁 判 所 は 、「 最 終 的 に 商 業 目 的 で あ っ て も 、ク レ ー ム さ れ た 発 明 に 直 接 的 に 関連するものでなければならない、被告は原告の特許 C の異議申立のた めに特許 B を使っており、試験・研究の例外には該当しない」とした。 − McDonald v Graham 裁 判 ( 1993 Court of Appeal): 原 告 が 特 許 を 持 つ 印 刷物シートを、原告のコンサルタントだった被告が入手し第三者に配布 した事件で、控訴審は「被告は自身のビジネスのために保有し使ってお り、明らかに商業目的であって試験・研究の例外には該当しない」とし た。 − Thomas Ralph Auchinloss 他 v Agricultural & Veterinary Supplies 他 裁 判 ( 1998 Reports of Patent Cases 397): 被 告 の 殺 生 物 剤 化 合 物 が - 44 - 原告特許に抵触するか否かが争われた裁判の中で、被告は農水省への提 出 試 料 に 試 験・ 研 究 の 例 外 を 求 め た が 、控 訴 審 は 、「 農 水 省 へ の 提 供 は 認 可が目的あって、未知のものの発見や仮設の検証でもなく、試験・研究 の例外に該当しない」とした。 - 45 - (ⅱ)海外調査 資料番号 対 象 国・機 関 名称 書誌的事項 分 背景 法令 判例 等 規則 類 海外調査結果の概要 Prof.Jeremy Phillips 英国 基準 指針 指令 学説 その 他 調査結果 ※詳細は資料編の海外調査結果の資料 2 を参照のこと。 概要 ・判例を中心とした調査研究である。 試 験 ・研 究 の 例 外 法令 ・判例 ① Monsanto Co v Stauffer Chemical Co and another [1985]Reports of Patent Cases 515.31 July 1984(Patents Court), 11 June 1985 (Court of Appeal) 除 草 剤 の 差 止 め 仮 処 分 に 対 す る 試 験・研 究 の 例 外 適 用 を 求 め た 訴 え に 対 し 、一 審は、 ・試験・研究の例外はその発明に対してのものであり、その商業化は該当し ない ・私的でなければならず、第三者への提供はできない ・小規模であり、その発明に対して新たな知見を得るものでなければならな い とした。控訴審ではほぼ一審を支持しながら、更に ・ 試 験 ・ 研 究 の 例 外 が 適 用 さ れ る 試 験 は 、 通 常 の 英 語 “ experiment” の 意 味 であり、商業目的であっても該当する。 とした。この決定に対して、不明確との指摘がある。 ② Smith Kline & French Laboratories Limited v Evans Medical Limited [1989]Fleet Street Reports 513, 10 November 1988(Patents Court) Smith Kline(SK&F)の シ メ チ ジ ン 薬 の 三 件 の 特 許 ( A、 B、 C) に 関 す る 侵 害 訴 訟 で、裁判所は、 ・最終的に商業目的であってもよいが、クレームされた発明に真に直接的に 関連するものでなければならない。 ・被告は原告の特許 C の異議申立のために特許 B を使っており、試験・研究 の例外には該当しない とした。 ③ McDonald and another v Graham [1994]Reports of Patent Cases 407, 16 December 1993(Court of Appeal) 原 告 が 特 許 を 持 つ 印 刷 物 シ ー ト を 、原 告 の コ ン サ ル タ ン ト だ っ た 被 告 が 入 手 し第三者に配布した事件で、被告は試験・研究の例外を求めたが、控訴審は、 - 46 - ・被告は自身のビジネスのために保有し使っており、明らかに商業目的であ って試験・研究の例外には該当しない、 とした。 ④ Thomas Ralph Auchinloss and Antec International Ltd v Agricultural & Veterinary Supplies Ltd., Vincent Rooney, South Western Chics Ltd and South Western Chicks (Warren) Ltd [1999] Reports of Patent Cases 397, 29 October 1998. [1998]EWCA(Civ.)1642 被 告 の 殺 生 物 剤 化 合 物 が 原 告 特 許 に 抵 触 す る か 否 か が 争 わ れ た 裁 判 の 中 で 、被 告 は 農 水 省 ( MAFF, Ministry of Agriculture, Fisheries and Food) へ の 提 出 試 料 に 試 験・研 究 の 例 外 を 求 め た が 、控 訴 審 は 、MAFFへ の 提 供 は 認 可 が 目 的 あ っ て 、未 知 の も の の 発 見 や 仮 設 の 検 証 で も な く 、試 験・研 究 の 例 外 に 該 当 し な い と した。 国内・政界・法曹界・学会の動向 ・特 許 を 使 う 立 場 に も な り ま た 使 わ れ る 立 場 に も な る こ と 、試 験 や 研 究 で の 特 許 使 用 が 特 許 権 者 に 見 つ か り に く い こ と か ら 、何 か 対 策 す べ き か 否 か や ど の よ う にすべきかについて殆ど総意は得られていない。 ・ ガ ワ ー ス 報 告 ( Gowers Review of Intellectual Property (December 2006)) は 、1977 年 特 許 法 第 60 条 (5)(b)の 下 で 現 在 規 定 さ れ て い る も の よ り 明 確 か つ よ り 広 い 研 究 除 外 (research exception) に 有 利 な 法 律 の 制 定 を 労 働 党 政 府 に 代わって示している。報告では次のように述べられている: “ 4.11 実 験 で の 使 用 の 除 外 (experimental use exception)は 研 究 者 が 発 明 を 調 査 し 、習 得 し 、改 善 す る こ と が で き る よ う に 、明 確 に さ れ な け れ ば な ら な い 。 最近変更されたスイスの研究除外はより明確な除外の好例となっている。 4.12 ス イ ス の 線 に 沿 っ て 研 究 除 外 を 明 確 に す る こ と は 、権 利 者 の 利 益 を 損 なうことなく研究を促進するだろう、と本報告は信じている。” ・現 行 法 に 対 す る 司 法 界 か ら の 意 見 表 明 の 機 会 は な く 、認 知 で き る 法 曹 界 の 動 向 はない。 ・学 会 で は 、特 許 権 者 と 調 和 し な が ら も 試 験・研 究 の 例 外 は 最 大 限 認 め ら れ る べ きというのが支配的で、特に著作権法に関して強く表明されている。 - 47 - (ⅲ)国内外文献調査 資料番号 英国 対 象 国 ・機 関 名称 書誌的事項 背景 等 分類 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 特許法 1977/2004(改 定 ) 特 許 法 出 典 : 下 記 考 察 ・備 考 等 の 欄 を 参 照 調査結果 概要 ・1977 年 特 許 法 で EPC と の 調 和 が 取 ら れ 、そ の 後 EC バ イ オ 指 令 が 2000 年 か ら 2002 年 に か け て 3 段 階 を 経 て 導 入 さ れ た 。 2004 年 改 正 は 主 に EPC2000 へ の 整 合 。 ・EPC と の 調 和 が と ら れ 、一 般 的 な 試 験・研 究 の 例 外 や 、強 制 実 施 権 が 規 定 さ れ て い る 。 大学等に特定した試験・研究の例外条項や、後発医薬品の臨床試験に関する例外条 項 は 無 い 。 ま た 強 制 実 施 権 に つ い て は 、 1999 年 改 正 以 降 の 現 行 制 度 の 下 で 付 与 さ れ た事例はない。 EC バ イ オ 指 令 は そ の ま ま の 形 で 導 入 さ れ て い る が 、 特 に 審 査 段 階 で 産 業 応 用 性 ( 有 用性)など特許要件の厳格な適用で対応しているとされている。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ 第 60 条 [ 侵 害 ] の 第 5 項 に 以 下 が 規 定 さ れ て い る 。 第 60 条 侵 害 の 意 味 (5) 本 項 が な か っ た な ら ば 発 明 の 特 許 の 侵 害 を 構 成 す る 筈 で あ る 行 為 は , 次 の 何 れ か に該当するときは,その特許の侵害を構成しない。 (a) そ れ が 私 的 に , か つ , 商 業 以 外 の 目 的 で 実 行 さ れ る こ と (b) そ れ が そ の 発 明 の 内 容 に 係 わ る 実 験 目 的 で 実 行 さ れ る こ と Meaning of infringement 60.(5)An act which, apart from this subsection, would constitute an infringement of a patent for an invention shall not do so if(a) it is done privately and for purposes which are not commercial; (b) it is done for experimental purposes relating to the subject-matter of the invention; 裁定(強制)実施権 ・ 強 制 ラ イ セ ン ス (compulsory licenses)に つ い て 第 48 条 か ら 第 54 条 に 規 定 。 ・ま た 第 55 条 か ら 第 59 条 に は“ 国 の 業 務 の た め に す る 特 許 発 明 の 実 施 (Use of patented inventions for services of the Crown)” が 規 定 さ れ て い る 。 ・付与の根拠は以下である。 (1)不 実 施 / 不 十 分 実 施 の 場 合 - 48 - (2)合 理 的 ラ イ セ ン ス の 拒 絶 で 、 利 用 関 係 後 発 発 明 の 実 施 、 商 業 上 産 業 上 の 活 動 の 確 立又は発展が不当に阻害される場合 (3)ラ イ セ ン ス 条 件 に よ り 、特 許 権 の 保 護 を 受 け て い な い 材 料 の 生 産 、使 用 等 や 商 業 ・ 産 業 活 動 の 確 立 ・発 展 が 不 当 に 阻 害 さ れ る 場 合 ・付与の条件は以下である。 (1)特 許 付 与 の 日 か ら 3 年 経 過 後 /(2)国 家 事 業 の た め /(3)特 許 権 者 の 損 失 に 見 合 う 額 を補償 ・特許庁長官は、以下を命じることができる。 (1)ラ イ セ ン ス の 条 件 の 取 消 し 又 は 修 正 等 (2)及 び / 又 は 、 ラ イ セ ン ス ・ オ ブ ・ ラ イ ト (同 法 第 46 条 及 び 第 49 条 )と し て の 強 制的な登録 発明の特許性 ・ 英 国 は EC バ イ オ 指 令 を そ の ま ま 導 入 し て い る 。 考察、備考等 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ 2005 年 2 月 時 点 で 成 文 法 の 改 正 は 企 図 さ れ て い な い 。 ・大学等の試験・研究の例外条項/後発医薬品の臨床試験に関する例外条項は無い。 裁定(強制)実施権 ・主として英国内の市場への供給を目的とする。 ・ 1997 年 5 月 現 在 、 1977 年 特 許 法 の 下 で 2 件 付 与 さ れ た こ と が あ る が 、 1996 年 1 月 1 日時点ですべて失効している。 ・ 現 行 制 度 ( 1999 年 改 正 以 降 ) の 下 で 強 制 実 施 権 が 付 与 さ れ た 事 例 な し 発明の特許性 ・バイオ関連発明に対しては、特に産業応用性(有用性)など特許要件の厳格な適用 で 対 応 し て い る が 、 判 例 や EPO 決 定 が ま だ な い 状 況 な の で そ れ が 支 持 さ れ る か は 不 確定である。 ・バイオ関連発明のリーチスルークレームに関して法には特に記述はないが、英国特 許庁は米国連邦裁判所判断(ロチェスター大事件)と同様に記載不十分として拒絶 する立場をとる。 (出典)英国特許法 英 語 : http://www.opsi.gov.uk/acts/acts2004/ukpga_20040016_en_1 日本語(特許庁仮訳) http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/england/tokkyo.pdf - 49 - 資料番号 英国 対 象 国 ・機 関 名称 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 研 究 コ ン ソ ー シ ア ム SC4SM の 特 許 ポ リ シ ー 書誌的事項 2007 Intellectual Property Rights (IPR) Policy http://www.sc4sm.org/wp-content/uploads/2007/10/ _2007-09-sc4sm-ip-policy-final-draft.pdf 調査結果 概要 ・ 幹 細 胞 を 使 っ た 新 薬 候 補 の 毒 性 試 験 技 術 開 発 の 官 民 コ ン ソ ー シ ア ム SC4SM(2007 年 10 月 発 足 )の 知 財 権 取 扱 ポ リ シ ー ・ 幹 細 胞 を 使 っ た 新 薬 候 補 の 毒 性 試 験 技 術 開 発 の 官 民 コ ン ソ ー シ ア ム SC4SM で は 、 参 加 者 (社 )と の 間 で 契 約 を 締 結 し 、 プ ロ ジ ェ ク ト の 成 果 特 許 お よ び そ れ に 関 連 す る 各 社独自の特許について、非排他的ライセンスされるように規定している。 ・ バ ッ ク グ ラ ウ ン ド IPR の 扱 い な ど 、 き ち ん と し た 特 許 対 策 を 取 る こ と を 明 記 し て い る。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・試験・研究の例外の適用については全く言及しておらず、むしろバックグラウンド IPR の 扱 い な ど 、 き ち ん と し た 特 許 対 策 を 取 る こ と を 明 記 し て い る 。 (公的資金を原資とする)知的財産権の保護と特許使用の円滑化 ・ 研 究 開 発 の 推 進 の た め 、 IPR の 利 用 を 容 易 に す る 仕 組 み を 作 っ て い る 。 ・フォアグラウンド特許(プロジェクトの成果特許)の扱い − 成 果 特 許 は SC4SM に 帰 属 す る こ と と し 、 そ の 旨 Project Agreement に 明 記 す る 。 − SC4SM は メ ン バ ー に 対 し 、メ ン バ ー で あ っ た 期 間 の 成 果 IPR に つ い て 研 究 目 的 に 限 った非排他的/無期限/無償/全世界対象のライセンスを与える。 − SC4SM は プ ロ ジ ェ ク ト 参 加 者( 社 )に 対 し 、プ ロ ジ ェ ク ト 成 果 IPR に つ い て 研 究 目 的に限った非排他的/無期限/無償/全世界対象のライセンスを与える − SC4SM は 第 3 者 か ら の 申 し 入 れ に 対 し 、役 員 会 の 承 認 の 下 、研 究 目 的 に 限 っ て 個 別 の条件で非排他的ライセンスを与える。 − SC4SM は メ ン バ ー / プ ロ ジ ェ ク ト 参 加 者( 社 )/ 第 3 者 か ら の 商 業 的 実 施 の 申 し 入 れに対し、役員会の承認の下、個別の条件で非排他的ライセンスを与える。 ・バックグラウンド特許(プロジェクトの成果でないが関連する特許)の扱い − メ ン バ ー お よ び 参 加 者 ( 社 ) は 、 各 自 の バ ッ ク グ ラ ウ ン ド 特 許 を 適 切 ・合 理 的 条 件 で SC4SM や 他 者 ( 社 ) に ラ イ セ ン ス す る こ と を 期 待 。 − プ ロ ジ ェ ク ト 開 始 時 に は 、 バ ッ ク グ ラ ウ ン ド 特 許 を 選 定 し Project Agreement で 明確化。 − プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 時 に メ ン バ ー は SC4SM に 対 し 、 バ ッ ク グ ラ ウ ン ド IPR の 非 排 他 的/無期限 /無償/ 全世界 対象/再 実施許 諾可能ライ センスを 与え、他者( 社)が プロジェクト中に使えるようにする。 − プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 時 、 参 加 者 ( 社 ) お よ び SC4SM は 他 参 加 者 ( 社 ) に 対 し 、 プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 に 必 要 な バ ッ ク グ ラ ウ ン ド IPR の 非 排 他 的 / 無 償 / 全 世 界 対 象 の ラ イ センスを与える。 − 成 果 IPR の ラ イ セ ン ス に 際 し 、 成 果 IPR の 遂 行 に 必 要 な バ ッ ク グ ラ ウ ン ド IPR に - 50 - つ い て も SC4SM が 再 実 施 許 諾 可 能 な も の は そ の 目 的 に 限 定 し て ラ イ セ ン ス を 行 う 。 考察、備考等 研 究 コ ン ソ ー シ ア ム SC4SM に つ い て ・ 政 府 関 係 機 関 か ら 5 組 織 ( 各 £ 15 万 出 資 )、 お よ び 民 間 か ら 3 社 ( 各 £ 10 万 出 資 )を メ ン バ ー と し て 非 営 利 の 「 Stem Cells for Safer Medicines Ltd.」( £ 105 万 ) を 2007 年 に 設 立 し て お り 、 更 に 新 た な メ ン バ ー を 募 っ て い る 。 ・政 府 系 機 関:保 健 省( Dept. of Health)、イ ノ ベ ー シ ョ ン・大 学・職 業 技 能 省( Dept. for Innovation, Universoties and skills) 、 ス コ ッ ト ラ ン ド 政 府 ( Scottish Government)、 医 学 研 究 評 議 会 ( Medical Research Counsil)、 バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー ・ 生 物 科 学 研 究 評 議 会 ( Biotechnology and Biological Sciences Research Council) ・ 民 間 会 社 : ア ス ト ラ ゼ ネ カ ( AstraZeneca 英 )、 グ ラ ク ソ ・ ス ミ ス ク ラ イ ン ( GlaxoSmithKline 英 )、 ロ シ ュ ( Hoffman-La Roche ス イ ス ) ・新薬開発の早期段階で毒性スクリーニングに使える幹細胞の、オープンな標準、手 順の研究開発推進を目指しており、治療での使用の研究は対象としていない。 ・知財権の扱いの原則を示しており、資金提供する研究プロジェクト実施に際しては 参 加 者 ( 社 ) と の 間 で 個 別 に 具 体 的 な Project Agreement を 締 結 す る 。 Project Agreement は 基 本 的 に は IPR ポ リ シ ー に 準 じ る が 、役 員 会 の 承 認 の 下 に 柔 軟 な 対 応 も 可能。 SC4SM: http://www.sc4sm.org/ - 51 - 資料番 号 対象 国・機 関 名称 書誌的 事項 英国 分類 背景等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その他 Nuffield 報 告 書 July 2002 “ The ethics of patenting DNA” , Nuffield Council on Bioethics h t t p : / / w w w . n uf f i e l d b i oe t h i c s . o rg / f i l e L ib r a r y / p d f/ t he e t h i c s o f p a t en t i n g d n a .p d f 調査結果 概要 ・生 命 倫 理 に 関 す る 非 営 利 の 独 立 法 人 で あ る ナ フ ィ ー ル ド 委 員 会( Nuffield Council on Bioethics) が 2 年 間 に わ た っ て 検 討 し 、 問 題 の 明 確 化 と 更 な る 議 論 の た め に 提 言 と してまとめた。 ・試験・研究の例外の範囲の明確化を提言し、また公的研究機関(私企業もできる限 り )は リ サ ー チ ツ ー ル と し て の DNA 配 列 の 特 許 は 排 他 的 ラ イ セ ン ス を し な い よ う 提 言 し て い る 。強 制 実 施 権 に つ い て は 、公 衆 の 利 益 に 適 合 し な い 特 定 の ケ ー ス に 限 定 す べ き と す る 。 DNA 配 列 を 用 い た 特 定 の 診 断 試 験 の 特 許 は 有 用 だ が 、 DNA 配 列 自 体 の 特 許 は 審 査 基 準 を 厳 格 に 適 用 す べ き で あ り 、特 に リ サ ー チ ツ ー ル と し て の DNA 配 列 の 特 許 は認めるべきでなく、米国の有用性ガイドラインは好ましい。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・欧州では多くの国で試験・研究の例外が法制化されているがその範囲は明確ではな く 、ま た 米 国 で は 法 制 化 さ れ て お ら ず 慣 習 法 的 に も 限 定 さ れ て い る 。米 国 で の 法 制 化 と欧州での明確化を提言する ・ 産 業 界 も 、 協 力 し て 、 研 究 に 使 わ れ る DNA 配 列 に 試 験 ・ 研 究 の 例 外 の 概 念 を 広 げ て いくことを提言 裁定(強制)実施権 ・ 強 制 実 施 権 は む や み に 適 用 す べ き で な く 、 診 断 試 験 に 用 い る DNA 配 列 特 許 が 独 占 的 で公衆の利益に適合しない特定のケースに限って認めるべき 発明の特許性 ・ DNA 配 列 に 関 す る 成 立 済 み 特 許 で 正 当 性 が 疑 わ れ る も の が 多 く あ る ・ 診 断 試 験 に 用 い る DNA 配 列 特 許 ( product patent) は 、 特 に 発 明 性 ( 進 歩 性 ) に 関 する審査基準を厳格に適用すべき ・ DNA 配 列 を 用 い た 特 定 の 診 断 試 験 の 特 許 ( use patent) は 、 発 明 者 に 報 い る た め に も 代替方法の開発のためにも効果的 ・ リ サ ー チ ツ ー ル と し て の DNA 配 列 の 特 許 を 認 め る こ と は や め る べ き 。 ル ー チ ン 的 に 見出された配列で明確な用途を示せないものは特許要件に適合しない。米国の有用 性ガイドラインは好ましい ・病気に関連した遺伝子が分かれば遺伝子組み換え治療に使えるのは自明であり、そ の よ う な 配 列 特 許 ( product patent) は 認 め る べ き で は な い ・ 新 薬 ・ 治 療 用 タ ン パ ク 質 を 作 る た め の DNA 配 列 の 特 許 は 許 容 で き る が 、 記 述 さ れ た タンパク質に限るよう狭く限定すべき。 - 52 - (公的資金を原資とする)知的財産権の保護と特許使用の円滑化 ・公的研究機関はたとえ短期的に回収が減ったとしても、また私企業もできる限り同 様 に 、リ サ ー チ ツ ー ル と し て の DNA 配 列 の 特 許 は 排 他 的 ラ イ セ ン ス を し な い よ う 提 言 。 その他 ・具体例として5例を紹介し検証 (1)BRCA1: 乳 が ん に 関 連 す る 遺 伝 子 配 列 を 用 い た 診 断 ・ ス ク リ ー ニ ン グ の 特 許 で 、 2001 年 に Myriad Genetics 社 の 欧 州 特 許 が 成 立 し 、 独 占 支 配 的 で 影 響 が 大 き い た め、フランス、ベルギー、デンマーク無効を申し立て中(報告書当時) (2)CCR5: 米 国 HGS 社 ( Human Genome Genetics Inc) が 2000 年 に USP を 取 得 。 出 願 時 は 不 明 だ っ た が 、あ と で HIV に 関 連 す る こ と が 判 明 。HGS は 大 学 等 が ラ イ セ ン ス なしに研究するのを阻止しようとはしていない模様(報告書当時) (3)C 型 肝 炎 診 断 : 米 国 Chiron 社 が 出 願 し 、 広 範 な UK 特 許 ( ウ ィ ル ス 成 分 ・ 診 断 )、 核 酸 プ ロ ー ブ と PCR 物 質 に 限 定 し た 欧 州 特 許 な ど 、 20 カ 国 以 上 で 100 件 以 上 の 特 許 が 成 立 し て い る 。 ワ ク チ ン は 特 許 範 囲 で は な い が 、 関 連 す る DNA 配 列 は 特 許 に なっているため議論は残る。 (4)B 型 肝 炎 診 断:米 国 Biogen 社 が 遺 伝 子 組 み 換 え に よ る 抗 原 開 発 を 1978 年 に UK 出 願。異なる遺伝子組換え方法を使った他社を権利侵害として訴えたが、英国上院 ( 最 高 裁 に 相 当 ) は Biogen 社 ク レ ー ム は 広 す ぎ で 、 組 み 換 え に よ る 抗 原 作 成 す べ てに及ぶのではないとした。 (5)マ ラ リ ア ( MSP-1): 国 際 慈 善 機 関 PATH は マ ラ リ ア ワ ク チ ン 開 発 支 援 の た め 、 マ ラ リ ア 原 虫 が 作 る 抗 原 た ん ぱ く MSP-1 の 特 許 状 況 を 調 査 し た が 、 多 く の 類 似 特 許 が錯綜していたため、それぞれの特許権者との交渉に多大な時間と労力を要した 考察、備考等 その他 ・ Nuffield Council on Bioethics は 、 Medical Reseach Council、 Nuffield Foundation、 Wellcome Trust と が 共 同 で 設 立 - 53 - 資料番号 英国 対象国・機関 名称 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 IPI 調 査 報 告 書 書誌的事項 May 2004 “ Patents for Genetic Sequences: the competitiveness of current UK Law and Practice - A study by the Intellectual Property Institute (IPI) on behalf of the DTI” http://www.berr.gov.uk/files/file10475.pdf 調査結果 概要 ・ 英 産 業 省 (DTI; Department of Trade and Industry )の 委 託 に よ り 、 特 に 遺 伝 子 配 列 特 許 に 関 し て 大 手 民 間 企 業 、 大 学 、 研 究 機 関 等 を イ ン タ ビ ュ ー 、 お よ び WEB ア ン ケ ート調査した。 ・EC バ イ オ 指 令 に 応 じ た 2000 年 改 正 以 来 、重 大 な 問 題 は 殆 ど 無 く 、総 体 的 に 遺 伝 子 配 列 に 関 す る 英 国 法 令 、実 務 は 、 産 業 分 野 と 公 的 機 関 の 双 方 の ニ ー ズ を 満 た し て い て 大 き な 変 更 の 必 要 性 は 無 い 。公 的 機 関 の 研 究 に つ い て 、時 と し て 高 額 で あ っ て も ラ イ セ ン ス は さ れ て お り 、 支 障 は 認 め ら れ な い 。 た だ し EPO の 特 許 が 付 与 さ れ る ま で の 時 間 が か か り す ぎ て 不 利 と な っ て い る 面 な ど あ り 、EU 内 お よ び 全 世 界 と の 一 層 の ハ ー モ ナ イズが重要である。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・更なる改善として、小企業や公的機関で、法や利用に関する理解を深める必要があ る。特に試験・研究の例外に関して不明確となっている 発明の特許性 ・ バ イ オ 技 術 の EU 指 令 に 応 じ た 2000 年 改 正 以 来 、そ の イ ン パ ク ト は 良 い 方 向 で あ り 、 以前の事例調査でも重大な問題は殆ど無い ・総体的に、遺伝子配列に関する英国法令、実務は、産業分野と公的機関の双方とも ニーズを満たしており、大きな変更の必要性は無い ・遺伝子配列の特許で、産業部門を過度に利しているという証拠は無く、また公的機 関 に よ る 研 究 に 支 障 が で て い る と す る 証 拠 も な い 。 patent thicket の 証 拠 も な い 。 時として費用が高すぎることはあるが、一般にライセンスは得られている。 ・ EPO な ど 特 に 特 許 権 利 化 ま で の 時 間 が か か っ て お り 、 EU 指 令 が 全 世 界 に い き わ た っ て な い 状 況 で か な り 不 利 と な っ て い る 。EU 内 お よ び 全 世 界 と の 一 層 の ハ ー モ ナ イ ズ は 重要である - 54 - 資料番号 英国 対 象 国 ・機 関 名称 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 ガワーズ報告 書誌的事項 Dec 2006 “ Gowers Review of Intellectual Property” , U.K. HM Treasury http://www.hm-treasury.gov.uk/media /6/E/pbr06_gowers_report_755.pdf 調査結果 概要 ・ 英 大 蔵 省 ( HM Treasury) の 委 託 に よ り 、 特 に デ ジ タ ル 化 の 進 展 の 中 で 英 国 知 財 制 度 の状況を調査報告。 ・試験・研究の例外に該当するか否かについては判例も殆ど無く、明確でない。その ものに対する研究かそうでないかは、遺伝子関係技術では差はあいまいであり、権 利侵害訴訟を危惧している研究グループもいる。特許法の条項をスイス特許法のよ うに修正して明確化することを提言。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・試験・研究の例外に該当するか否かが明確でない。そのものに対する研究かそうで ないかで異なるが、遺伝子関係などの技術では両方にあてはまる可能性がある。 ・ 判 例 も 殆 ど 無 く 、 DTI 報 告 ( 2004) に よ る と 、 多 く が 、 明 確 化 が 必 要 と 考 え て お り 、 また権利侵害訴訟を危惧している研究グループもいる。 ・ 米 国 で は 知 財 権 の た め に 1/6 の 研 究 プ ロ ジ ェ ク ト が 停 止 し た と さ れ ( Murray, Stern 2004)、 ま た 知 財 権 導 入 を 拒 絶 さ れ た 学 術 機 関 が 19%あ る と い う 報 告 ( Walsh et.al. 2005)も あ る 。 ・ 植 物 育 種 の EC バ イ オ 指 令 に 関 し て は 、独 仏 が 盛 り 込 ん だ の に 対 し 、英 国 法 で は 十 分 でなく、試験・研究例外規定ではカバーできていない。 ・ 1977 年 特 許 法 の 60 条 (5)項 を 修 正 し て 、 experimentation、 innovation、 education に便宜を与えるよう試験・研究の例外を明確化することを提言。 ・スイスの方向で明確化すれば、権利者の利益を損なうことなく研究を育成できる。 その他 ・現行制度はほぼ十分であるが、改善が必要な点として以下の点を指摘 − 模 造 品 ・海 賊 品 対 策 と し て 権 利 行 使 の 強 化 − IP 取 得 ・維 持 費 用 の 低 廉 化 −バランスの良く弾力的な知財権 - 55 - 資料番号 英国 対 象 国・機 関 名称 OECD 書誌的事項 STI 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 報告「特許された知識の研究使用」 Feb. 2006 “ Research Use of Patented Knowledge: A Review” , STI Working Paper, (OECD Directorate for Science, Technology and Industry) http://www.oecd.org/dataoecd/15/16/36311146.pdf 調査結果 概要 ・本ワーキング・ペーパーは、特に研究免除(又は実験での使用の例外)の役割に焦 点を当てて、特許された発明への研究アクセスに関する問題をレビューする。 ・ 将 来 の 政 策 策 定 の た め の ベ ー ス と し て 、 OECD 国 の 試 験 と 研 究 の 例 外 の 経 済 的 ・ 法 的 状況を調査・報告している。 ・ ほ と ん ど の EU 国 ( 英 国 を 含 む ) は CPC( Community Patent Convention) 第 27(b)項 の規定、試験・研究の例外、を取り入れているが、いくつかの国では裁判所が法解釈 を 出 し て お り 、 試 験 ・ 研 究 の 例 外 の 範 囲 の 差 を 生 み だ し て き た 。い く つ か の EU 国 は 更 に 公 的 認 証 取 得 の 例 外 ( 特 に 医 薬 ) も 有 す る ( 英 国 は 除 く )。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ 殆 ど の EU 国 は CPC( Community Patent Convention) の 27(b)項 の 規 定 、 試 験 ・ 研 究 の例外、を取り入れている。 ・いくつかの国では裁判所が法解釈を出しており、試験・研究の例外の範囲の差を生 みだしてきた。 ・一般的な試験・研究の例外の法規定を持つ国は、さらに限定的に公的認証取得の例 外 ( 特 に 医 薬 ) を 有 す る 傾 向 に あ り 、 い く つ か の EU 国 は そ の よ う な 規 定 を 有 す る 。 - 56 - 資料番号 英国 対 象 国・機 関 名称 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 ACIP 討 議 報 告 「 特 許 と 実 験 使 用 」 書誌的事項 調査結果 Feb. 2004 “ Patents and Experimental Use - ISSUES PAPER” , ACIP (Advisory Council on Intellectual Property) http://www.acip.gov.au/library/patentsexpuse.PDF ※ 「 ド イ ツ 」 の ACPI 討 議 報 告 も 参 照 の こ と 。 概要 ・ ACIP が オ ー ス ト ラ リ ア 産 業 ・ 技 術 ・ 観 光 省 政 務 官 の 要 請 に よ り 、 試 験 ・ 研 究 の 例 外 に関する国民的論議を促進するためにまとめており、各国状況についても紹介して いる ・ 英 国 を 含 む 多 く の EU 国 は 現 行 ド イ ツ 特 許 法 ( 1981) の 試 験 ・ 研 究 の 例 外 の 条 項 と 同 様の条項を有するが、ドイツの裁判所は試験・研究の例外に非常にリベラルな立場 を と っ て い る の に 対 し 、 英 国 を 含 む 多 く の EU 国 は 臨 床 試 験 は 権 利 侵 害 と し て い る 。 しかし、欧州では試験・研究の例外についてその他の技術分野でも判例法上の問題 は生じておらず、本質的な問題は見られない。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ ほ と ん ど の EU 国 は 現 行 ド イ ツ 特 許 法 ( 1981) の 試 験 ・ 研 究 の 例 外 の 条 項 と 同 様 の 条 項を有する。 ・ 英 国 を 含 む 多 く の EU 国 が 臨 床 試 験 は 権 利 侵 害 と し て い る の に 対 し 、ド イ ツ の 裁 判 所 は試験・研究の例外に非常にリベラルな立場をとっている。 ・ Goddar の 報 告 を 紹 介 し 、 欧 州 で は 試 験 ・ 研 究 の 例 外 に つ い て そ の 他 の 技 術 分 野 で も 判例法上の問題は生じておらず、本質的な問題は見られない、としている 考察、備考等 ACIP: Advisory Council on Intellectual Property オーストラリア大臣、オーストラリア知的財産局に助言する独立機関 - 57 - 資料番号 英国 対象国・機関 名称 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 ESHG 報 告 「 遺 伝 子 検 査 に 関 す る 特 許 化 及 び ラ イ セ ン ス 」 書誌的事項 June 2007 “ Patenting and licensing in genetic testing - Ethical, Legal and Social Issues“ (final draft) ESHG( European Society of Human Genetics) 出 典 : 下 記 考 察 ・備 考 欄 を 参 照 調査結果 概要 ・欧州委員会の専門部会が、公衆により役立つよう、状況を把握し特許システムの改 善をはかるため議論を進めるベースとして報告をまとめた最終ドラフト。 ・試験・研究の例外の境は明確でなく、欧州内でも各国で異なる法制化、解釈がされ て い る 。強 制 実 施 権 は ほ と ん ど 使 わ れ た こ と が な い た め 実 績 や 判 例 を 欠 い て お り 、 ま た 数 年 間 実 施 さ れ な い 後 で し か 要 求 で き な い た め 、難 し い 。遺 伝 子 リ サ ー チ ツ ー ル は 機能が明確でなく有用性の審査基準を満たさないが、研究用と診断用との差は小さ く、問題は残る。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・試験・研究の例外の境は明確でなく、欧州内でも各国で異なる法制化、解釈がされ ている。 裁定(強制)実施権 ・強制実施権はほとんど使われたことがないため実績や判例を欠いており、また多く の国では数年間実施されない後でしか要求できない。 ・英、独、仏などは特許権者が合理的条件でライセンスすることを宣言するしくみ、 Licenses of Right が あ り 、 非 排 他 的 ラ イ セ ン ス が 得 ら れ る 一 方 、 特 許 権 者 は 特 許 維 持費用を半減できる。 発明の特許性 ・ Nuffield 報 告 書 の 主 張 “ 用 途 限 定 し た 特 定 の 診 断 試 験 の 特 許 ( use patent) は 効 果 的 ”と い う の は 誤 解 を 招 く 。実 際 Myriad 特 許 の 用 途 ク レ ー ム は DNA 自 体 の ク レ ー ム と 同様に迂回困難である。 ・ 仏 、独 は 権 利 範 囲 を ク レ ー ム に 書 か れ た 用 途 に 限 定 す る こ と で EC バ イ オ 指 令 を 取 り 込 ん だ 。 欧 州 委 員 会 は 2005 年 に こ の よ う な 異 な る 各 国 対 応 の 正 当 性 に つ い て 見 解 を 示していない。 その他 ・具体例として 4 例を紹介 (1)BRCA1/2: 90 年 代 に 国 際 協 力 研 究 が お こ な わ れ て い た が Myriad Genetics 社 が い ち 早 く 特 許 化 し た 。同 社 は 他 社 へ ラ イ セ ン ス せ ず 全 て 自 社 で 検 査 す る 政 策 を と り 、 迂回ができず独占的支配力を有するため混乱を生じた。その後特許は無効ないし 権利範囲の限定などされている。 (2)嚢 胞 性 線 維 症 ( CF): ト ロ ン ト 小 児 病 院 と ミ シ ガ ン 大 が 関 連 す る 遺 伝 子 CFTR を 見 - 58 - 出して特許化し、商用テストキットと商業的検査機関からロイヤリティをとった が 、 CFTR へ の ア ク セ ス は 解 放 し た 。 こ の た め 多 く の テ ス ト キ ッ ト の 開 発 が 進 み 合 理的価格で広く実施されるようになっており、そのライセンスモデルへの大きな 異議は生じていない。 (3)遺 伝 性 ヘ モ ク ロ マ ト ー シ ス (HFE): 鉄 が 過 剰 と な る 常 染 色 体 劣 性 疾 患 の 関 連 遺 伝 子 を 米 国 Bio-Rad 社 が ク ロ ー ン 化 し 特 許 化 。 同 社 は 高 額 の ラ イ セ ン ス 料 を 要 求 し た た め 、 他 社 は テ ス ト キ ッ ト 開 発 を で き な か っ た 。 迂 回 が で き な い た め BRCA1 と 同様に独占的支配力を有する。 (4)カ ナ バ ン 病 : 治 療 法 開 発 の た め に 尽 力 し た 患 者 両 親 に 無 断 で 診 断 法 を 特 許 化 し 、 高額料金で商用化。患者両親は無料開放を目指して訴訟を起こし、半額とするこ とで和解した。 ・ OECD 調 査 ( 2002) か ら 、 リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 は 通 常 そ れ 用 い て 開 発 し た 製 品 の ク レ ームを含んでいないが、ロイヤリティを要求していく傾向がみられる、と紹介。 ・遺伝子リサーチツールは機能が明確でなく有用性の審査基準を満たさないが、研究 用と診断用との差は小さい。 考察、備考等 その他 ・ ESHG (European Society of Human Genetics)は 1967 年 に 設 立 さ れ た 学 術 団 体 で 、 EU 委 員 会 な ど と も 連 絡 を 取 っ て い る 出典: http://www.eshg.org/PatentingandLicensingDraftBackgrPaper07062007.pdf - 59 - (6)ドイツ (ⅰ)概要 経緯・背景、動向 リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に 関 す る 、試 験 ・研 究 の 免 除( 例 外 )、及 び 、強 制 実 施権はドイツ特許法の規定は存在しない。また、現在、このような規定を 法律化するかなどの議論はなく、特許の関係者や学会にもその必要性を訴 える動きはない。 法 令 ・規 則 1998 年 の TRIPS 協 定 に 基 づ く 見 直 し に よ り 、 2 種 類 の 強 制 使 用 が 法 制 化 された: −公衆衛生のための強制使用 −利用特許の強制使用(特許交渉が不調に終わった場合) 試 験 ・ 研 究 の 例 外 は 、 第 11 条 (a)∼ (f)項 に 以 下 が 規 定 さ れ て い る 。 −私的かつ非商業的目的 −対象である発明に関する試験的目的 判例 Clinical Traial Ⅰ − 試 験 ・研 究 の 例 外 に 関 す る 判 例 − 試 験 ・研 究 の 例 外 を 商 業 目 的 に も 拡 大 し た 。す な わ ち 、例 外 の 目 的 は 特 許 権 者 の 利 益 を 最 大 限 に 守 る こ と と 、技 術 の さ ら な る 向 上 の バ ラ ン ス を 取ることにあり、試験の目的如何を問わない。 Polyferon 事 件 -裁 定 ( 強 制 ) 実 施 権 に 関 連 す る 判 例 - − ド イ ツ 連 邦 特 許 裁 判 所 は Polyferon が イ ン タ ー フ ェ ロ ン γ を 含 む 唯 一 の 医 薬 品 で あ る こ と を 重 視 し 、公 共 の 福 祉 が あ る と し て 、ド イ ツ 国 内に限定した強制実施権を付与 − 最 高 裁 は「 公 共 の 福 祉 」に つ い て は 変 化 す る も の で あ り 、ま た 、他 の ほ ぼ 同 等 の 代 替 製 品 に よ り 公 共 の 福 祉 が 満 た さ れ る 場 合 に は 、医 薬 品 に関する強制実施権は認められないとした。 学説・関連議論 「試験・研究の例外」に対しては、ドイツの法令、判例、学説のいずれ - 60 - も、試験・研究行為の主体の性格、さらに、試験・研究行為の結果の利用 目 的 も 、「 試 験 ・ 研 究 の 例 外 」 の 判 断 基 準 と し て い な い 。 ま た 、商 業 的 、非 商 業 的 性 質 と い う 区 分 も 放 棄 し て お り 、大 学 等 研 究 機 関 という行為主体の性格に基づく区分は用いられていない。 - 61 - (ⅱ)海外調査 資料番号 対 象 国・機 関 名称 書誌的事項 分 背景 法令 判例 基準 指針 学説 その他 等 規則 指令 類 海外調査結果の概要 Dr. Prinz zu Waldeck und Pyrmont ‘ The Permissibility of Using Patented Research Tools Under German Patent Law ドイツ 調査結果 ※詳細は資料編の海外調査結果の資料 3 を参照のこと。 概要 ・本調査は、特許さ れたリサー チツールへ の 許されるアクセ ス、特に特許 権の免除の 範 囲 及 び 強 制 ラ イ セ ン ス の 規 定 の 可 能 性 の あ る 適 用 に つ い て 、ド イ ツ 特 許 法 下 に お ける法的な状況を分析する。 ・ リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に 関 す る 、 試 験 ・ 研 究 の 免 除 ( 例 外 )、 及 び 、 強 制 実 施 権 は ド イツ特許法の規 定は存在しな い。また、現 在 、このような規定 を法律化す るかなど の議論はなく、特許の関係者や学会にもその必要性を訴える動きはない。 ・したがって 、リサ ーチツール の試験・研究 のための使用が 認められるか 、また 、ど の様に使えるかを現行の規定に照らして分析する。 試 験 ・研 究 の 例 外 (ア ) 特許法によれば ① 実験の場合 ② 特許自体に関する場合 情報を得る目的に依らず、情報を獲得する実験が対象になる。ただし、特許技 術が単に実験の手段の場合は免除の対象にはならない。 (イ ) 医薬などの許認可の場合 特許法は公開の基準があり、発明を特許期間中に検証すること、及び、そ の検証に基づき技術の開発を行うことを認めている。認可取得試験はこの範囲 に含まれるため免除の対象になる。 ただし、二つの医薬の同定は新たな知識を増やすわけでないため免除対象外 (ウ ) 商業的目的か否か 商業的目的であることは適用に影響を及ぼさない。また、大学及び公益研究所の 研究も私企業の研究より広い基準が用いられることはない。 (エ ) 判例 Clinical Trial I 試験・研究の例外を商業目的にも拡大した。すなわち、除外の目的は特許権者の 利益を最大限に守ることと、技術のさらなる向上のバランスを取ることにあり、 試験の目的如何を問わない。 裁定(強制)実施権 1998 年 の TRIPS 協 定 に 基 づ く 見 直 し に よ り 、 二 種 の 強 制 使 用 が 法 制 化 さ れ た 。 ① 公衆衛生のための強制使用 特許交渉が不調に終わり、公衆衛生上重要な場合は強制使用可能。例えば、重要 な医薬品など。 ② 利用特許の強制使用 ある特許を使用することを含む特許において、特許交渉が不調に終わった場合。 (公的資金を原資とする)知的財産権の保護と特許使用の円滑化 ・パテントプールはドイツのバイオ業界においては主要な役割を担っていない。 - 62 - ・Straus ら に よ る 得 ら れ る 唯 一 の 経 験 的 な 研 究 に よ る と 、ク ロ ス ラ イ セ ン ス 及 び パ テ ントプールは人気がなく、調査を行った企業のうちわずか三社がそれらの手段を用 いていた。それらは非効率的と思われ、貢献と利益の不均衡のおそれから、ライセ ンス費用が増加した。 - 63 - (ⅲ)国内外文献調査 資料 番号 対象 国・機 関 ドイツ 分類 背景等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その他 名称 特許法 書誌 的事 項 2005(改 正 ) 1981 年 ド イ ツ 特 許 法 出 典 : 下 記 考 察 ・備 考 欄 参 照 調査結果 概要 ・CPC 批 准 に 伴 い 、1981 年 ド イ ツ 特 許 法 に よ り 一 般 的 な 試 験 ・研 究 の 例 外 が 設 け ら れ て い る が 、大 学 等 研 究 機 関 を 特 定 し た 区 分 は な い 。強 制 実 施 権 で は 公 共 の 利 益 の 観 点 が 求 め ら れ 、 実 際 に 適 用 さ れ た 例 は な い 。 2005 年 改 正 で は EC バ イ オ 指 令 に 対 応 し た が 、 そ の ま ま の 形 で は な く 、人 遺 伝 子 配 列 の 場 合 に は 、果 た す 役 割 を ク レ ー ム 中 に 記 載 が 必 要 と し て 、権 利 範 囲 に 制 限 を か け て お り 、 こ れ に 対 し て 欧 州 産 業 界 か ら 、 限 定 的 解 釈 で 却 っ て EU 国 内 の 不調和が拡大、と批判が出ている。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ 第 11 条 (a)∼ (f)項 に 以 下 が 規 定 さ れ て い る 。 第 11 条 特許権の効力は次のものには波及しない。 (1) 非 商 業 的 目 的 の た め に 行 わ れ る 私 的 な 行 為 (2) 特 許 発 明 の 対 象 に 関 係 す る 行 為 で あ っ て も , 実 験 目 的 の た め の 行 為 (2a) 新 種 植 物 の 栽 培 、 発 見 及 び 開 発 を 目 的 と し た 生 物 学 的 物 質 の 使 用 (3) 医 師 の 処 方 に 基 づ い て な さ れ る 薬 局 内 に お け る 医 薬 の 即 座 の 個 々 の 調 合 , 又 は , こ の ようにして調合された医薬に関する行為 (4) 産 業 財 産 の 保 護 に 関 す る パ リ 条 約 の 他 の 締 約 国 の 船 舶 が 一 時 的 に 又 は 偶 発 的 に 本 法 の 効 力 が 及 ぶ 水 域 に 入 っ た 場 合 に お い て ,当 該 船 舶 の 船 上 若 し く は 船 内 ,又 は 当 該 船 舶 に 搭 載 さ れ て い る 機 械 ,索 具 ,装 置 若 し く は そ の 他 の 付 属 物 に お け る 特 許 発 明 の 対 象 の 使 用 で あ っ て ,こ の 対 象 が 専 ら 当 該 船 舶 の 必 要 の た め に の み 使 用 さ れ る と い う 条 件 を 満 た す も の (5) 産 業 財 産 の 保 護 に 関 す る パ リ 条 約 の 他 の 締 約 国 の 航 空 機 若 し く は 車 両 が 一 時 的 に 若 し く は 偶 発 的 に 本 法 の 施 行 領 域 に 入 っ た 場 合 に お い て ,そ の 航 空 機 若 し く は 車 両 又 は こ れ ら の 付 属 物 を 建 造 す る に あ た っ て な さ れ る ,若 し く は こ れ ら を 運 転 す る た め に な さ れ る 特 許 発明の対象の使用 (6) 1944年 12月 7日 の 国 際 民 間 航 空 に 関 す る 条 約 第 27条 に 定 め ら れ て い る 行 為 で あ っ て 、 かかる行為が、同条の規定が適用される他国の航空機に関係しているときのもの ・大学研究機関の試験・研究に関する例外条項は無い。 ・ EC バ イ オ 指 令 に 応 じ て (2a)が 追 加 さ れ た 。 裁定(強制)実施権 ・ TRIPS 協 定 に 整 合 (1998/7/16)、 EC バ イ オ 指 令 に 整 合 (2005/1/21) - 64 - ・ 付 与 の た め の 一 般 的 要 件 (第 1 項 )( 以 下 の AND) ・合理的な条件を提示して努力したがライセンスを得られなかった ・公共の利益の観点から必要 その他の要件 ・ 利 用 関 係 (第 2 項 ): 先 願 と 比 較 し て 、 商 業 的 重 要 性 を 有 す る 重 要 な 技 術 進 歩 を 含 む こ と ・ 不 実 施 ( 第 9 項 ): 特 許 権 者 が 特 許 発 明 を 実 施 し な い 、 又 は ド イ ツ 国 内 で ほ と ん ど 実 施 し ない場合(輸入は実施とみなす) ・手続き等 ・強制実施権の付与、取下等の手続は、連邦特許裁判所無効部に訴えを提起 ・ 強 制 実 施 権 の 付 与 に お い て は 、範 囲 、期 間 、目 的 な ど に つ き 制 限 又 は 条 件 を 課 す こ と が で きる ・特許権者は、強制実施権を付与された者から実施料を受け取る権利を有する ・実 施 権 付 与 の 前 提 と な っ た 状 況 が 消 滅 し 、か つ 今 後 再 び 発 生 す る こ と が 予 測 さ れ な い 場 合 、 特許権者は強制実施権の撤回を請求できる ・ ド イ ツ 連 邦 政 府 に よ る 特 許 発 明 の 使 用 は 、 特 許 法 第 13 条 で 規 定 発明の特許性 ・ 2005 年 、 EC バ イ オ 指 令 に 対 応 し 、 以 下 が 規 定 さ れ て い る 。 ・生 物 素 材 に 特 許 を 付 与( 第 1 条 )。但 し 人 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 の 権 利 範 囲 を 厳 密 化( 第 1a 条 ) ・ 単 な る 発 見 は 不 可 ( 第 1a 条 (1))、 単 離 や 技 術 的 に 獲 得 な ら 可 ( 第 1a 条 (2)) ・ 産 業 上 の 利 用 可 能 性 と し て 、 遺 伝 子 配 列 の 果 た す 役 割 の 具 体 的 説 明 が 必 要 ( 第 1a 条 (3)) ・ 人 遺 伝 子 配 列 の 場 合 に は 、 果 た す 役 割 を ク レ ー ム 中 に 記 載 が 必 要 ( 第 1a 条 (4)) ・「 発 明 の 主 題 が 、 人 体 の 天 然 の 遺 伝 子 の 配 列 又 は 部 分 的 配 列 の 構 造 と 構 造 を 同 じ く す る 遺 伝 子 の 配 列 又 は 部 分 的 配 列 を 持 つ な ら ば 、前 項 の 産 業 上 の 利 用 可 能 性 に つ い て の 具 体 的 な 説 明 の 行 わ れ た 使 用 に つ い て 、 特 許 ク レ ー ム に 記 載 し な け れ ば な ら な い 。」 ・ 特 に 科 学 者 コ ミ ュ ニ テ ィ で 最 も 大 き く 議 論 さ れ た 事 項 で あ り 、連 邦 議 会( 下 院 )本 会 議 で の採択前の最終局面で挿入された その他 ・後発医薬品の臨床試験に関する例外条項は無い 考察、備考等 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ドイツの 法令、判 例、学説 のいず れも、試験・研究 行為の主 体の性 格、さら に、試 験・研 究 行 為 の 結 果 の 利 用 目 的 も 、「 試 験 又 は 研 究 」 の 例 外 の 判 断 基 準 と し て い な い 。 ・ ま た 、商 業 的 、非 商 業 的 性 質 と い う 区 分 も 放 棄 し て お り 、大 学 等 研 究 機 関 と い う 行 為 主 体 の性格に基づく区分は、用いられていない 裁定(強制)実施権 ・ 1961 年 に 特 許 裁 判 所 が 設 立 さ れ て 以 降 に 、 12 件 の 申 請 が あ り 、 そ の う ち 1 件 に つ き 強 制 実 施 権 が 付 与 さ れ た が 、 後 に 最 高 裁 判 所 で 取 り 消 さ れ た ( Polyferon 事 件 ) ・ そ の 他 の 事 例 の 多 く は 、「 公 共 の 利 益 」 が 存 在 す る こ と を 立 証 で き な か っ た こ と に よ り 申 請を却下されている。 ・強 制 実 施 権 制 度 が 特 許 権 者 に よ る 自 発 的 な ラ イ セ ン ス に お け る 現 実 的 な イ ン セ ン テ ィ ブ に なった事例は、近年も見られる - 65 - 特許性に関して ・ EuropaBio( ヨ ー ロ ッ パ バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 産 業 連 合 ) は 、限 定 的 解 釈 と し て 批 判 ( 2005 年) ・「 ド イ ツ 、 フ ラ ン ス の 履 行 し た こ と は 指 令 の 文 言 上 か ら く る 幅 で は な く 、 趣 旨 が 異 な っ て い る 。指 令 の 主 目 的 は E U 各 構 成 国 の 特 許 法 を 調 和 さ せ る こ と な の に 不 調 和 が 拡 大 し て い る」 ドイツ語 h t t p:/ / w w w.je t ro. de / j/ pat e n t / 2 0 0 5 Jan _Fe b/ % 9 3 % c 6 % 8 3 o% 8 3 C% 8 3 I% 9 7 % 9 a% 8 ds% 9 6 @% 8 c % b4 % 9 5 % b6 % 8 3 e % 8 3 L% 8 3 X% 8 3 g.p df 日本語 ○ 欧 州 知 的 財 産 ニ ュ ー ス ( 2005年 1・ 2 月 号 ) : h t t p:/ / w w w.je t ro. de / j/ pat e n t / 2 0 0 5 Jan _Fe b/ % 9 3 % c 6 % 8 3 o% 8 3 C% 8 3 I% 8 e w% 9 7 % d f% 9 7 % 9 a% 8 ds% 9 6 @% 8 9 % bc % 9 6 % f3 .p df ○ 日 本 特 許 庁 仮 訳 ( 1998 年 http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/germany/pl/mokuji.htm - 66 - 資料番号 ドイツ 対 象 国 ・機 関 名称 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 ドイツ国家倫理委員会見解書「ヒト由来の生物物質の使用を伴うバイオ テクノロジー発明の特許化」 書誌的事項 Oct. 2004 “ The patenting of biotechnological inventions involving the use of biological material of human origin” OPINION, Nationaler Ethikrat (German National Ethics Council) 出 典 : 下 記 考 察 ・備 考 欄 を 参 照 調査結果 概要 ・ EC バ イ オ 指 令 が 未 履 行 前 に 、 バ イ オ 発 明 に 特 許 性 を 認 め た 場 合 の 倫 理 上 、 学 術 上 、 法 律 上 の 問 題 点 を 25 名 の 専 門 委 員 が 整 理 、 分 析 し 、 見 解 を ま と め た 。 ・ 研 究 の 自 由 に つ い て 、 EU 指 令 や 法 案 で 規 定 さ れ て い な い が 、 一 般 的 な 試 験 ・ 研 究 の 例外が適用できるので特に規定を設ける必要はない。強制ライセンスは特に診断学 や 治 療 法 に 関 わ る 場 合 に は 狙 い を 定 め て 認 め る べ き 。政 府 の EC バ イ オ 指 令 導 入 案 は 妥 当 だ が 、 さ ら に 人 DNA 配 列 特 許 は 技 術 的 応 用 を 請 求 項 に 記 述 し て 限 定 す る こ と を 提言した。この限定は実際にドイツ特許法に取り入れられている。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ 研 究 の 自 由 確 保 に つ い て は 、 植 物 種 に 関 す る 規 定 を 除 き 、 EC 指 令 や 法 案 の 枠 内 で 特 に 定 め ら れ て い な い が 、 特 許 法 第 11 条 第 2 号 が 研 究 の 特 権 を 一 般 的 に 定 め て い て 、 これがバイオ発明にも当て嵌まるため、特に規定を設ける必要はない。 裁定(強制)実施権 ・特に診断学や治療法に関わる場合、強制ライセンスは重要な意味を持ってくる。こ こでは狙いを定めて強制ライセンスを認めるべき。 発明の特許性 ・ドイツ連邦政府の国内履行法案を妥当と評価。 ・今後遺伝子の調製が新発明と見なされるケースが限定されて広範囲の成分特許が廃 止 さ れ 、 TRIPS 協 定 と 衝 突 す る だ ろ う が 、 実 践 の 場 で の 対 処 に 任 せ る こ と で 十 分 。 ・現時点で可能な独自のアプローチ手段や自由裁量幅を規定に活かすべき。 ・ 人 体 か ら 採 取 さ れ た DNA 配 列 は 、 詳 細 説 明 及 び 請 求 項 の 中 で 提 示 さ れ て い る 機 能 の 技 術 的 応 用 に 限 定 す べ き で あ り 、 1a 条 第 3 項 の 文 言 は 具 体 性 の 面 か ら 物 足 り な い 。 ・どういう時に「発明」が成立するのか、明確で拘束力のある形で提示するのは困難 な た め 、「 発 明 」 の 前 提 条 件 や 限 界 に 関 す る EU レ ベ ル で の 定 義 規 定 が 欠 落 し て い る 限り、できるだけ狭義に解釈すべきであり、その旨、法案解説の中で明確に言及し ておくべきである。 その他 - 67 - ・ 実 際 に 2004 年 の EC バ イ オ 指 令 履 行 法 で は 、 技 術 的 応 用 を ク レ ー ム 中 に 入 れ る こ と が盛り込まれた。 (出典) h t t p : / / w w w . e th i k r a t . o rg / _ e n g l i sh / p u b l i ca t i o n s / O pi n io n _ p a t e n t i n g -o f - b i o t e ch n o l o g i c al - i n v e n ti o n s . p d f - 68 - 資料番号 対 象 国 ・機 関 名称 書誌的事項 ドイツ ESHG 報 告 ‒ June 2007 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 遺伝子検査に関する特許・ライセンスの問題 “ Patenting and licensing in genetic testing Ethical, legal and social issues” , Draft Appendix A 出典:最下欄を参照 調査結果 概要 Appendix A, Legal Framework 6.” National Legislation and Recommendations of National Councils” の ” Germany” を 参 照 の こ と 。 ・ ド イ ツ の EC バ イ オ 指 令 の 導 入 は 、特 に DNA 配 列 の 物 質 特 許 の 扱 い の 点 で 発 明 者 の 利 益と社会の利益とのバランスを欠いているとして物議をかもした。オランダが欧州 司 法 裁 判 所 に 提 訴 し た EU 指 令 無 効 化 が 却 下 さ れ た こ と で 、 最 終 的 に 2005 年 に 発 効 したが、フランスやルクセンブルクと同様に遺伝子配列の具体的な産業応用をクレ ーム中に記述することが盛り込まれている。 発明の特許性 ・ ド イ ツ の EC バ イ オ 指 令 の 導 入 は 、特 に DNA 配 列 の 物 質 特 許 の 扱 い の 点 で 発 明 者 の 利 益と社会の利益とのバランスを欠いているとして物議をかもした。 ・ヒト遺伝子や細胞の物質特許は人の尊厳を冒すとみられ、またヒト遺伝子の数が当 初予想よりかなり少ないこと、ほとんどの病気は多因性であること、などわかって き た 。 国 民 意 識 は 2000 年 に 成 立 し た エ デ ィ ン バ ラ 特 許 に は 反 対 で あ っ た 。 ・ オ ラ ン ダ が 欧 州 司 法 裁 判 所 に 提 訴 し た EU 指 令 無 効 化 の 結 果 を 待 っ て い た が 、そ れ が 却下されたことで導入に向かった。 ・ 最 終 的 に 2005 年 に 発 効 し た が 、フ ラ ン ス や ル ク セ ン ブ ル ク と 同 様 に 遺 伝 子 配 列 の 具 体的な産業応用をクレーム中に記述することが盛り込まれている。 ・説明としてヒト胚保護法の規定が優先することが声明され、胚細胞や幹細胞の特許 化は排除された。 (出典) http://www.eshg.org/PatentingandLicensingDraftBackgrPaper07062007AppendixA.pdf - 69 - 資料番号 ドイツ 対 象 国 ・機 関 名称 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 ACPI 討 議 報 告 ‒ 試 験 ・ 研 究 の 例 外 - 書誌的事項 調査結果 分類 Feb. 2004 “ Patents and Experimental Use ISSUES PAPER” , ACIP (Advisory Council on Intellectual Property) 出典:最下欄を参照 ※ 「 英 国 」 の ACPI 討 議 報 告 も 参 照 の こ と 。 概要 ・ ACIP が オ ー ス ト ラ リ ア 産 業 ・技 術・観 光 省 政 務 官 の 要 請 に よ り 、試 験・ 研 究 の 例 外 に関する国 民的論議 を促進 するため にまと めており、各国 状況に ついても 紹介して いる。 ・ 英 国 を 含 む 多 く の EU 国 は 現 行 ド イ ツ 特 許 法 ( 1981) の 試 験 ・ 研 究 の 例 外 の 条 項 と 同様の条項 を有する が、ドイツの 裁判所は 試験・研 究の例外 に非常 にリベラ ルな立 場 を と っ て い る の に 対 し 、 英 国 を 含 む 多 く の EU 国 は 臨 床 試 験 は 権 利 侵 害 と し て い る。しかし、欧州では試験・研究の例外についてその他の技術分野でも判例法上の 問題は生じておらず、本質的な問題は見られない。 試 験 ・研 究 の 例 外 ・ ほ と ん ど の EU 国 は 現 行 ド イ ツ 特 許 法 ( 1981) の 試 験 ・ 研 究 の 例 外 の 条 項 と 同 様 の 条項を有する。 ・ 英 国 を 含 む 多 く の EU 国 が 臨 床 試 験 は 権 利 侵 害 と し て い る の に 対 し 、 ド イ ツ の 裁 判 所は試験・研究の例外に非常にリベラルな立場をとっている。 ・ 最 高 裁 の Klinische Versuche Ⅰ と Ⅱ で は 、 特 許 の 対 象 に 向 か っ て の 試 験 ・ 研 究 で ある限り、クレ ームさ れた特性 の試験で も クレームさ れていな い方向 を探る試 験で も、許容されるとしており、憲法裁判所でも支持されている。 ・ Goddar の 報 告 を 紹 介 し 、欧 州 で は 試 験・研 究 の 例 外 に つ い て そ の 他 の 技 術 分 野 で も 判例法上の問題は生じておらず、本質的な問題は見られない、としている。 ※ ACIP: Advisory Council on Intellectual Property オーストラリア大臣、オーストラリア知的財産局に助言する独立機関 (出典) ISSUES PAPER; http://www.acip.gov.au/library/patentsexpuse.PDF OPTIONS PAPER; http://www.acip.gov.au/library/Experimental%20Use%20Options%20Paper%20A.pdf - 70 - (7)フランス (ⅰ)概要 経緯・背景、動向 法 令 は EU 指 令 へ 対 応( 整 合 )す る こ と に よ り 改 正 さ れ て き て い る 。例 え ば、当初、医薬品の認可のための試験はこの特許権免除の対象にならない と考えられていたが、法律の改正で「特許権は医薬品の認可、および、認 可 に 必 要 な 行 為 な ど に は 及 ば な い 。」 と さ れ た 。 リサーチツール特許に関する特別な規定はなく通常の特許と同様に考え られ、試験・研究の免除範囲内での使用と商業的使用では全く異なる扱い を 受 け る 。こ の こ と に よ り 、問 題 も 生 じ て お り 、例 え ば 、PCR 特 許 で 、特 許 権者は営利企業に許諾しない方針(あるいは高額な使用量を要求)であっ た た め 、 血 液 検 査 セ ン タ ー は PRC 特 許 の 使 用 を 中 止 し た 。 法 令 ・規 則 特許によって付与される権利は、次の各号には及ばない: −私的に非商業的目的でなされる行為 −特許発明の主題に関し試験目的でなされる行為 司法機関による強制実施権の付与と行政機関の職権による実施権(裁定 実施権)の付与が規定されている。 判例 試験・研究の例外に関する主たる判例は以下のとおり: − Babolat/Boschian 裁 判 ( 1992、 PIBD 1992,n 525. Ⅲ .363): 製 品 の 展 示会への出品は、商業的な価値を探ることが目的である。 − Parienti Automobiles Peugeot 裁 判 ( 2002、 PIBD 2002): 全 国 紙 へ のプロトタイプの発表は実験の範囲を超えている。 − Agrosol Sodifag 裁 判 ( 2005、 PIBD 2005 n.819. Ⅲ . 685): プ ロ ト タイプを顧客となる者に示すことは商業的な目的である。 − Science Union Servier Corbiere 裁 判 ( 1984 、 PIBD 1985,N,366, Ⅲ .118): 認 可 申 請 は 製 品 の 製 造 が 商 業 目 的 を 持 っ て い る こ と を 示 し ており、特許侵害に当たる。 − Wellcome Parexel 裁 判 ( 1999、 PIBD 2001,n 729.Ⅲ .530):( 判 例 を - 71 - 覆し)将来の販売を含む最終的な目標に関わらず、予備試験は試験・ 研 究 の た め の 免 除 の 対 象 で あ り 、認 可 の た め の 使 用 は 特 許 侵 害 に 当 ら ない。 - 72 - (ⅱ)海外調査 資料番号 対 象 国・機 関 名称 書誌的事項 分 背景 法令 判例 等 規則 類 海外調査結果の概要 Mr. Alain Gallochat フランス 基準 指針 指令 学説 その 他 “ French Survey” 調査結果 ※詳細は資料編の海外調査結果の資料 4 を参照のこと。 概要 ・ 法 令 は EC 指 令 へ 対 応 ( 整 合 ) す る こ と に よ り 改 正 さ れ て き て い る 。 例 え ば 、 当 初 、医 薬 品 の 認 可 の た め の 試 験 は こ の 特 許 権 免 除 の 対 象 に な ら な い と 考 え ら れ て い た が 、「 特 許 権 は 医 薬 品 の 認 可 、 お よ び 、 認 可 に 必 要 な 行 為 な ど に は 及 ば な い 。」 と さ れ た 。 ・リサーチツール特許に関する特別な規定はなく通常の特許と同様に考えられ る 。す な わ ち 、試 験・研 究 の 免 除 範 囲 内 で の 使 用 と 商 業 的 使 用 で は 全 く 異 な る 扱いを受ける。 こ の こ と に よ り 、 問 題 も 生 じ て お り 、 例 え ば 、 PCR 特 許 で 、 特 許 権 者 は 営 利 企 業 に 許 諾 し な い 方 針( あ る い は 高 額 な 使 用 料 を 要 求 )で あ っ た た め 、血 液 検 査 セ ン タ ー は PRC 特 許 の 使 用 を 中 止 し た 。 ・フ ラ ン ス に お い て は 国 家 機 関 が 正 式 に 関 係 す る パ テ ン ト プ ー ル は な い 。研 究 組 織 や 大 学 は パ テ ン ト プ ー ル に 関 す る 論 議 を 先 導 し よ う と す る 動 き が あ る が 、現 在のところ、その議論からは具体的な成果は出ていない。 試 験 ・研 究 の 例 外 法令 ・特許法は次の規定を設けている。 ①特許権は特許を対象とした関連試験に及ばない。 ・判 例 は こ の 規 定 が 厳 格( 狭 く:訳 者 注 )に 解 釈 さ れ る こ と を 示 し て い る 。ま た 、 次の二つが明確に区別される様に制限されている。 ①発明の技術的利点を確認する試験、ないし一般知識を増進するための開発 は該当 ②商業目的の行為は非該当 (PIBD 1992,n 525.Ⅲ .363 PIBD 2002, PIBD 2005,n 819.Ⅲ .685) ・例 示 判 決 が 示 す よ う に 、顧 客( と な る 可 能 性 を 持 っ た )に 提 示 さ れ た 場 合 、特 許 権 免 除 の 対 象 と な ら な い 。こ の こ と は フ ラ ン ス の 公 共 保 健 に 対 し 深 刻 な 影 響 を与え、実質的にフランスの判例に変化を与えた。 ・当 初 、医 薬 品 の 認 可 の た め の 試 験 は こ の 特 許 権 免 除 の 対 象 に な ら な い と 考 え ら れ た 。 (PIBD 1985,n 366.Ⅲ .118) ・ し か し 、認 可 試 験 は 法 律 の 改 正 で 解 決 さ れ た 。EC 指 令 2004/27/CE が フ ラ ン ス 法 (Law n2007-248 of Feb. 27,2007)に と り い れ ら れ た 。 ①特許権は医薬品の認可、および、認可に必要な行為などには及ばない。ま た、医薬品には特許法の規定によりある範囲のバイオ製品が含まれる。 ・判例 ① Babolat/Boschian 裁 判 ( 1992、 PIBD 1992,n 525. Ⅲ .363): 製 品 の 展 示 会 への出品は、特許の技術的有用性の確認や、その範囲、発展などの要求にそ - 73 - うものではなく、一般人の意見を聞くことで商業的な価値を探ることが目的 である。 ② Parienti Automobiles Peugeot 裁 判 ( 2002、 PIBD 2002): 全 国 紙 に 集 中 し てコメントするというプロトタイプの発表は単に、実験の範囲を超えてい る。 ③ Agrosol Sodifag 裁 判 ( 2005、 PIBD 2005 n.819. Ⅲ . 685): プ ロ ト タ イ プを顧客となる人の前に示すことは実験とは言えず、商業的な目的である。 ④ Science Union Servier Corbiere 裁 判 ( 1984 、 PIBD 1985,N,366,Ⅲ .118): 認可申請は製品の製造が商業目的を持っていることを示している。従って、 試験・研究のための免除の対象とならず、特許侵害に当たる。 のための実証試験は侵害には当たらない。 ⑤ Wellcome Parexel 裁 判 ( 1999、 PIBD 2001,n 729.Ⅲ .530):( 判 例 を 覆 し ) 将 来 の 販 売 を 含 む 最 終 的 な 目 標 が ど う で あ れ 、予 備 の 試 験 は 試 験・研 究 の た め の 免 除 の 対 象 で あ り 、 認 可 の た め の 使 用 は 特 許 侵 害 に 当 ら な い 。 [TGI of Paris (1st instance Court) Feb. 20, 2001] 後の行為だけが商業的目的と考えられる。 リサーチツール特許の扱い ・フ ラ ン ス に お い て 、リ サ ー チ ツ ー ル に 関 し て 専 門 家 の 間 で 話 し 合 わ れ て い な い し、法律改正の予想もない。 ・フ ラ ン ス で は リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に 関 す る 特 別 な 規 定 は な く 通 常 の 特 許 と 同 様 に 考 え ら れ る 。す な わ ち 、試 験・研 究 の 免 除 範 囲 内 で の 使 用 と 商 業 的 使 用 で は 全く異なる扱いを受ける。 ・ そ の 顕 著 な 例 と し て PCR 特 許 を 取 り 上 げ る 。 ・PCR 特 許 は DNA 連 鎖 を 複 製 す る 技 術 で 少 量 の 資 料 を 検 査 可 能 な 量 ま で 複 製 し 増加させる。 ・あ る 試 験 機 関 は 人 の 病 気 の 試 験 セ ッ ト を 開 発 す る た め に こ の 特 許 を 使 っ て い た が 、こ の 場 合 は 試 験・研 究 の た め の 免 除 に 当 た り 、特 許 使 用 料 の 支 払 い は 不要である。 ・一 方 、血 液 検 査 セ ン タ ー で PCR 特 許 を 使 用 し 、患 者 に 使 用 料 を 請 求 す る 場 合 、 許諾契約を結び、使用料の支払いが必要である。 ・結局特許権者は営利企業に許諾しない方針(あるいは高額な使用料を要求) で あ っ た た め 、 血 液 検 査 セ ン タ ー は PRC 特 許 の 使 用 を 中 止 し た 。 ・リ サ ー チ ツ ー ル の 問 題 は 、そ の 他 に も あ る 。物 質 ス ク リ ー ニ ン グ 特 許( 有 用 な 物 質 か ど う か 検 査 す る 特 許 )の 場 合 、特 許 権 者 は ス ク リ ー ニ ン グ に よ っ て 得 ら れ た 分 子 を 含 む 医 薬 品 等 の 最 終 成 果 物 の 売 上 に 対 す る 特 許 料 を 請 求 す る( リ ー チ ス ル ー 特 許 請 求 の 項 目 )。 し か し 、 通 常 そ の 様 な 特 許 請 求 の 項 目 は 仕 様 に よ り 規 定 す る 事 が 難 し い た め 特 許 と な ら な い 。さ ら に 、特 許 使 用 者 は そ の 様 な 計 算 を 認 め な い 。結 局 、そ の 様 な リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 売 り 方 は 普 通 の 化 学 反 応 物としてうるしかなく、価格の決め方が難しい。 裁定(強制)実施権 法令 ・フ ラ ン ス に お け る 強 制 使 用 は い く つ か に 分 類 で き る が い ず れ も 、非 排 他 的 で ラ イセンス料が必要である。 (公的資金を原資とする)知的財産権の保護と特許使用の円滑化 パテントプール ・フランスにおいては国家機関が正式に関係するパテントプールはない。 - 74 - ・パ テ ン ト プ ー ル は 、様 々 な 特 許 権 者 が 有 す る 複 数 の 特 許 が 必 要 な 場 合 に 適 切 な 条 件 を 潜 在 的 に 備 え て い る 。し か し な が ら 、現 時 点 に お い て 、パ テ ン ト プ ー ル システムは存在しない。 ・い く つ か の 、研 究 組 織 や 大 学 で は パ テ ン ト プ ー ル に 関 す る 論 議 を 先 導 し よ う と す る 動 き が あ る が 、現 在 の と こ ろ 、そ の 議 論 か ら は 具 体 的 な 成 果 は 出 て い な い 。 ・“ ク リ ア リ ン グ ・ ハ ウ ス ” に よ る 管 理 。 - 75 - (ⅲ)国内外文献調査 資料番号 フランス 対 象 国 ・機 関 名称 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 知的財産法 書誌的事項 知的財産法 出典:最下欄を参照 調査結果 概要 ・ EU 国 で 一 般 的 、 試 験 ・ 研 究 の 例 外 が 規 定 さ れ て い る 。 強 制 実 施 権 に つ い て も 、 付 与 から3年不実施、利用関係、など規定されている。 試 験 ・研 究 の 例 外 第 L613 条 5 特許によって付与される権利は,次の行為には及ばない。 (a) 私 的 か つ 非 商 業 目 的 で な さ れ る 行 為 (b) 特 許 発 明 の 内 容 に 関 し 実 験 の 目 的 で な さ れ る 行 為 (c) 医 師 の 処 方 に 従 っ て 薬 局 に お い て な さ れ る 個 々 の 症 例 の た め の 即 座 の 調 剤 , 又はそのように調剤された医薬に関する行為 強 制 実 施 (compulsory license) ・司法機関による強制実施権の付与と行政機関の職権による実施権(裁定実施権)の 付与が規定されている。 (1)司 法 機 関 に よ る 強 制 実 施 権 の 付 与 ( 第 L613 条 11-14) -不 実 施 の 場 合 付 与 か ら 3 年 出 願 か ら 4 年 -利 用 関 係 の 場 合 先 行 特 許 の 権 利 者 は 改 良 特 許 の 実 施 権 を 付 与 -半 導 体 の 場 合 争 的 な 場 合 (2)行 政 機 関 に よ る 実 施 権 の 付 与 ( 第 L613 条 16-17) -公 衆 衛 生 上 必 要 な 場 合 第 613-16 条 -量 的 ・ 質 的 に 不 足 す る 場 合 異 常 に 高 い 値 段 の 場 合 -経 済 上 必 要 な 場 合 第 613-18 条 -防 衛 上 必 要 な 場 合 審議はすべて非公開である。 (出典) 日 本 語 ( 日 本 国 特 許 庁 の 仮 訳 ): http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/france/chiteki_zaisan.pdf - 76 - 資料番 号 対象国・ 機関 名称 書誌的 事項 フランス 分類 背景等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その他 「大学等における試験・研究をめぐる紛争事例」 産業構造審議会知的財産部会特許制度小委員会特許戦略計画関 連問題ワーキンググループ「特許発明の円滑な使用に係る諸問 題 に つ い て 」( 2004 年 11 月 ) 第 25 頁 h t t p : / / w w w . j po . g o . j p / sh i r y o u / t ou s h i n / s hi n g i k a i / pd f /s t r a t e g y _ w g 1 1/ f i l e 3 . p df 調査結果 概要 「現在のところ、フランスにおいて、大学等の研究活動に関して、当該大学等以外 の他者が有する特許発明の実施が権利侵害に当たるか否かが裁判で争われた事例は見 あ た ら な い 。」 - 77 - (8)ベルギー (ⅰ)概要 (法改正等に至った)経緯・背景、動向 法改正の過程中で、試験・研究の権利行使免除の範囲拡大のきっかけと な っ た の は 、 Myriad 社 の 乳 ガ ン 診 断 特 許 で あ る 。 リ サ ー チ ツ ー ル と し て 有 用な遺伝子特許が独占的に権利主張された場合、病気に関連する遺伝子研 究が滞る事が広く認識された。 試 験 ・研 究 の 例 外 に 関 し て は 、「 免 除 は 研 究 者 と 特 許 権 者 の 微 妙 な バ ラ ン スの上で成り立つが今回の法律はその点が不十分」と産業界からは法成立 阻止の動きがあった。また、公衆衛生に対する強制ライセンスについての 産 業 界 の 反 応 は 、「 小 規 模 な ベ ル ギ ー の 企 業 は よ り 大 規 模 な 会 社 や 外 国 企 業と比較して深刻な影響を受ける」という懸念であった。 最終的法案は公共保健に関して幅広い試験・研究の権利行使免除と強制 ラ イ セ ン ス を 主 体 と し EC 指 令 が 求 め る 法 を 上 回 る 法 案 と な り 、 2005 年 4 月に公布された。 法 令 ・規 則 改正法ではバイオ分野に起きる特許権の行使に関して二つの追加措置が 導入された。これらの措置は、バイオテクノロジー特許が公衆衛生に与え る悪影響を制限することを目的としている。 − 28 条 (1)(b):研 究 目 的 に お け る 使 用 の 例 外 の 大 幅 な 拡 大 − 31 条 2:公 衆 衛 生 上 の 理 由 に 基 づ く 強 制 ラ イ セ ン ス 制 度 の 導 入 指令と運用・利用状況 法 制 当 局 は 、 98/44/EC 指 令 を 特 許 法 に 反 映 さ せ る 作 業 を 進 め 、 主 務 大 臣 の 承 認 を 得 て 2001 年 6 月 に 国 会 へ 提 出 さ れ た が 議 題 と し て 取 り 上 げ ら れ ず 、 指 令 へ の 対 応 が 遅 延 し た 。法 制 化 遅 延 に 対 し て EU 裁 判 所 は 義 務 違 反 と 警 告 し 、 違 反 金 を 課 す 事 に し た 。 EC 指 令 の 欧 州 域 で の 位 置 づ け が 分 か る 経 緯 で ある。 学説・関連議論 調 査 報 告 者 の Overwalle 教 授 は 、 拡 大 さ れ た 試 験 ・ 研 究 の 免 除 は 将 来 性 を大きく期待されている。ただし、この拡大が問題の解決、試験・研究実 施上の自由、バイオ技術の研究に対する刺激となるかは見守っていかなけ - 78 - れ ば な ら な い 。」 と 述 べ て い る 。 - 79 - (ⅱ)海 外 調 査 資料番号 対 象 国・機 関 名称 書誌的事項 ベルギー 海外調査結果の概要 Prof. dr.Geertrui Van Overwalle “Research Tools in the R&D Phase” 調査結果 ※詳細は資料編の海外調査結果の資料 5 を参照のこと。 概要 ・特 許 法 改 正 の 中 で 、試 験・研 究 の 権 利 行 使 免 除 の 範 囲 拡 大 の き っ か け と な っ た の は 、 Myriad 社 の 乳 ガ ン 診 断 特 許 で あ る 。 こ の こ と に よ り 、 リ サ ー チ ツ ー ル と し て 有 用 な 遺 伝 子 特 許 が 独 占 的 に 権 利 主 張 さ れ た 場 合 、病 気 に 関 連 す る 遺 伝 子研究が滞る事が広く認識された。 ・試 験 ・研 究 の 例 外 に 関 し て は 、「 免 除 は 研 究 者 と 特 許 権 者 の 微 妙 な バ ラ ン ス の 上 で 成 り 立 つ が 今 回 の 法 律 は そ の 点 が 不 十 分 」と 産 業 界 か ら は 法 成 立 阻 止 の 動 き があった。 ・ 公 衆 衛 生 に 関 す る 強 制 ラ イ セ ン ス に つ い て の 産 業 界 の 反 応 は 、「 小 規 模 な ベ ル ギ ー の 企 業 は よ り 大 規 模 な 会 社 や 外 国 企 業 と 比 較 し て 深 刻 な 影 響 を 受 け る 」と いう懸念であった。 ・最 終 的( 二 番 目 )法 案 は 公 衆 衛 生 に 関 し て 幅 広 い 試 験・研 究 の 権 利 行 使 免 除 と 強 制 ラ イ セ ン ス を 主 体 と し EC 指 令 が 求 め る 法 を 上 回 る 法 案 と な り 、 2005 年 4 月に公布された。 試 験 ・研 究 の 例 外 1.産業界の動き 以下の疑問が生じている。 (1)「 科 学 的 な 目 的 」 に つ い て で あ り 、 知 識 の 進 歩 に 寄 与 す る こ と が 必 要 で あ る が、その様な研究は民間企業でも行われている一方、商業目的の研究は大学や 公的機関においても行われている。商業的研究と非商業的研究の解釈はかなり 幅広くできる上、他の表現を使ってもそれも解決にはならない。 (2)用 語 の 問 題 で あ り 、 こ の 用 語 で は 特 許 に よ る 保 護 の 範 囲 が 狭 く 解 釈 さ れ る 。 その結果、発明は公開されず、トレードシークレット化される。免除は通常範 囲を厳しく解釈される。現在は大学の研究では企業は特許権の行使について口 出しせず、勝手にやらせている。 (3)製 造 法 に 関 す る 場 合 で あ る 。現 在 製 造 法 の 特 許 は 免 除 対 象 に な っ て い な い が 、 バイオ技術の研究においては、製造法が重要である。 フランダースのバイオ技術協会は現在の形では成立阻止を働きかける。この ままの状態であると、事前に予想しなかった、悪影響が発生するかもしれない ためである。免除は研究者と特許権者の微妙なバランスの上で成り立つが今回 の法律はその点が不十分なためである。 2.学会の動き ・法 律 学 者 の 中 に は 拡 大 さ れ た 研 究 免 除 に つ い て い く つ か の 懸 念 を 提 起 す る も の が い る 。 Overwalle 教 授 は 、“ 拡 大 さ れ た 研 究 免 除 は 将 来 性 を 大 き く 期 待 さ れ る が 、こ の 拡 大 が 問 題 の 解 決 、試 験・ 研 究 実 施 上 の 自 由 、バ イ オ 技 術 の 研 究 に - 80 - 対 す る 刺 激 と な る か は 見 守 っ て い か な け れ ば な ら な い ”と 述 べ て い る 。日 常 的 な 研 究 現 場 で 、科 学 的 な 目 的 と 商 業 的 な 目 的 の 両 面 を 持 っ た 研 究 を 展 開 す る 場 合 の 線 引 き は 非 常 に 難 し い 。ま た 、こ の 法 律 に よ り 産 業 界 が リ サ ー チ ツ ー ル 特 許の開発意欲を失う結果とならないかと指摘している。 ・ EPC は 医 療 の 方 法 は 特 許 と し な い 。 例 え ば 、 研 究 の 方 法 は 特 許 に な ら な い 。 し か し 、研 究 に 使 う た め に 製 品 を 売 る こ と は 特 許 化 で き る 。こ の よ う に 法 律 に よ り 、研 究 者 が 研 究 室 で 特 許 を 無 断 使 用 し た と 指 摘 さ れ た り 、企 業 が 研 究 用 の 機 材 を 特 許 に 守 ら れ 作 る こ と が 出 来 る 。し た が っ て 、研 究 の 自 由 と 発 明 の 奨 励 を 両立できる。 3.法改正の背景 ベ ル ギ ー 特 許 法 に お け る 研 究 免 除 (research exemption)を 修 正 す る 法 案 は 、 最 終 的 に 2005 年 3 月 10 日 に 下 院 議 会 を 通 過 し 、 2005 年 4 月 14 日 に 上 院 を 通 過 し た 。 法 案 は 2005 年 4 月 28 日 に 公 布 さ れ 、 2005 年 5 月 13 日 に ベ ル ギ ー 官 報に掲載された。 ベルギー特許法改正の中で、試験・研究の権利行使免除の範囲拡大のきっか け と な っ た の は 、保 健 衛 生 分 野 の 強 制 使 用 と 同 様 に 、Myriad 社 の 乳 ガ ン 診 断 特 許である。この特許は、ライセンス条件が一方的であるのと共に、非常に高価 であった。このことから、リサーチツールとして有用な遺伝子特許が独占的に 権利主張された場合、病気に関連する遺伝子研究が滞る事が、誰の目にも明ら かだったからである。 4.法改正の経緯 (1)1998 年 7 月 6 日 欧 州 議 会 が バ イ オ 技 術 に 関 す る 98/44/EC 指 令 を 採 用 し た 。 法制当局はベルギー特許に反映させる作業を進めたが、選挙があり時間がかか る一方、内容やその範囲に関しての議論は白熱した。 (2)最 初 の 法 案 は 1998 年 10 月 29 日 に 完 成 し た が 不 採 用 と な っ た 。二 番 目 の 法 案 は 2000 年 8 月 8 日 に 発 表 さ れ 、 一 連 の 諮 問 機 関 か ら 多 く の 意 見 が 出 さ れ た 後 、 法 案 は 大 幅 に 修 正 さ れ た 。 主 務 大 臣 の 承 認 を 得 て 国 会 に 2001 年 6 月 21 日 提 出 されたが、ほとんど議論されなかった。 (3) こ の よ う な ベ ル ギ ー の 法 制 化 遅 延 に 対 し て E U 裁 判 所 は 義 務 違 反 と 警 告 し た。ベルギー政府は法制化に必要な手続きを進めていると反論したが、裁判所 は 欧 州 委 員 会 が 定 め た 日 程 違 反 で あ る と こ れ を 認 め な か っ た 。ベ ル ギ ー 政 府 が 必要な手段を講じない場合、EU裁判所は違反金を課す事にした。 (4)事 態 の 深 刻 化 と 、政 府 の 変 化 が あ り 新 し い 法 案 が 整 備 さ れ た 。法 案 は 2004 年 4 月 23 日 国 会 に 提 出 さ れ た 。国 会 の 委 員 会 の 議 論 や そ の 他 の 法 制 化 手 続 き を へ て 、 2005 年 5 月 13 日 に 公 布 さ れ た 。 委 員 会 で の 議 論 の 過 程 で 様 々 な 修 正 が 提 案 さ れ た が 、 そ の ほ と ん ど 全 て が 採 用 さ れ な か っ た 。 こ れ は 、 2004 年 4 月 23 日 の 諮 問 委 員 会 (council of Minister )で 各 方 面 の 団 体 と の 合 意 が あ り 、 修 正 の余地がほとんど残っていなかったためである。 (5)2002 年 6 月 21 日 の 最 初 の 法 案 は E C 指 令 か ら か な り 距 離 の あ る も の で あ っ た。人遺伝子の特許化を避ける、また、道徳的な観点での除外を広く解釈でき - 81 - る、などである。最初の法案は賛成派と反対派の意見の妥協から生まれた。 (6)二 番 目 の 法 案 は 様 々 な 点 で 最 初 の 法 案 と 似 て い た が 、 用 語 や 解 釈 を 工 夫 し て よりEC指令に近くなっている。この法案では反対派との妥協を主眼としたも のでなく、公共保健に関して幅広い試験・研究の権利行使免除と強制使用を主 体 と し EC 指 令 が 求 め る 法 を 上 回 る 案 と な っ て い る 。 (7)二 番 目 の 法 案 は 2005 年 4 月 28 日 に 公 布 さ れ た 。 5.特許法の概要 (1)ベ ル ギ ー 特 許 法 の 新 条 項 第 28 条 (1)(b)は 、特 許 所 有 者 の 権 利 は 、発 明 の 主 題 に 関 す る (on)又 は 発 明 の 主 題 を 用 い て (with)、 科 学 的 目 的 の た め に な さ れ る 行 為には及ばない、と規定している。 二つの主な疑問が、この新しい、拡大された研究免除についての議論を支配 し た 。 第 一 の 疑 問 は 、 一 対 の 概 念 で あ る ‘ on and/or with’ は ど の 様 に 理 解 さ れ る の か 、 と い う こ と で あ っ た 。 第 二 の 疑 問 は 、‘ 科 学 的 目 的 (scientific purposes)’と い う 概 念 に 関 し て で あ っ た 。大 臣 は 議 会 に お け る あ る 特 別 の 演 説 の中で両問題を明らかにした。 (2)On/with 両 方 を 含 む こ と に よ り 、 研 究 の 自 由 度 を 大 幅 に 拡 大 す る 。 ま た 、 科 学的な発見、究明が主体で有れば免除されるが、商業的目的が主体の場合は免 除されない。ただし、その境界がどの様な物であるかは今後の推移を見守るこ とが必要である。 (3)ジ ェ ネ リ ッ ク 薬 品 の 許 認 可 に か か る 使 用 は 試 験 ・ 研 究 の 免 除 の 範 囲 外 で あ る と解釈される。ただし、米国のボーラー条項に相当する欧州指令により、侵害 をとわれない。 ○ 公 衆 衛 生 (public health)の た め の 強 制 ラ イ セ ン ス (compulsory license) 1.産業界の動き及び反応 (1)産 業 界 の 反 応 は 、 最 初 の 提 案 ( DOC50 1886/001 21 June 02)に 対 す る バ イ オ 工業界ほかからあった。それは小規模なベルギーの企業はより大規模な会社や 外国企業と比較して、異なったより深刻な影響を及ぼすことを懸念している。 ま た 、EU 国 間 で 異 な る 法 律 に な る 方 法 を 使 う こ と に 賛 同 し て い な い 。二 番 目 の 提案に関しては、公衆衛生の分野だけでなくより広い分野への適用が広がると 特許法が過剰に、また、不必要に効力や意義を失うことを懸念している。その 結果、大学や研究所の研究が意欲をなくしてしまう。非合理な高額ライセンス を要求するミリヤッド社の乳ガン検査特許はその代表的な例である。その特許 は結局一部を除き拒絶された。強制ライセンスは広い範囲に適用される: ①医療 ②医療を行うための工程 ③人間と動物の診断 - 82 - (2)こ れ 以 上 の 特 許 法 の 例 外 措 置 は 国 内 技 術 に 対 す る 投 資 に 対 す る 意 欲 を 奪 う こ とになる。その結果国内の有力な医療関連企業の研究はヨーロッパの他の国に 移される可能性がある。ほかの国、たとえばフランスでは公共保健に関する強 制ライセンスは、それ以外の分野でも同じ法律で定めている。そのほかのヨー ロッパの国でも同様に公衆衛生分野を特別に定めてはおらず、同様の強制ライ センスの項目は既存のベルギー特許法にすでにある。 (3)二 番 目 の 反 対 理 由 は 誰 で も 強 制 ラ イ セ ン ス を 求 め る こ と が で き る ( こ れ は 正 確 な 理 解 で は な い が )、 ま た 、 事 前 に 特 許 権 者 と 交 渉 す る こ と は 求 め ら れ な い 、 時間的な尺度がかけるというものであるそのほかに、当事者の意見陳述が規定 されておらず、明らかに被申立人の基本的権利が侵されている。取り扱う委員 会は倫理面での判断を行うだけで、経済面の判断がかけており、委員に産業界 の医薬、生命科学関係者が含まれていない。 (4)Myriad 社 に 対 し て は 直 接 名 指 し は し な い も の の 、産 業 界 か ら 非 常 に 厳 し い 意 見が出された。特許は産業の発展を加速し、持続させるシステムからすぐに且 つ莫大な利益を生むシステムに変わった。このシステムは特許がただ単に最大 の利益を生む財として扱うことでのみ実現できる。特許がこのように扱われた 場合、医療診断の分野では特に、さらなる批判にさらされる。このような独占 は診断を必要としている患者を犠牲にすることになる。 (5) 主 要 紙 新 聞 (De Standaard and De Morgen)は 、 Myriad 社 の BRCA 特 許 に 対 す る 異 議 の 手 続 を 大 々 的 に か つ 批 判 的 に 報 道 し て き た − 2000 年 か ら 2007 年 ま で の Myriad 事 件 に つ い て の 一 連 の 報 道 記 事 が そ の 証 拠 で あ る 。 (6)バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 技 術 特 許 事 務 所 の 見 解 :「 2005 年 法 に は 強 制 ラ イ セ ン ス に つ い て 多 く の 規 定 が 盛 り 込 ま れ て い る が 。 新 条 項 の 第 31 条 に よ っ て ベ ル ギ ー 政府に、公衆衛生に問題がある場合は強制ライセンスを付与することができる。 強 制 実 施 が 認 め ら れ る と 、ラ イ セ ン サ ー と ラ イ セ ン シ ー の 間 の 関 係 は 通 常 の 契 約 ラ イ セ ン ス と み な さ れ る 。公 衆 衛 生 の 強 制 ラ イ セ ン ス は 、特 許 権 者 が 並 行 輸 入 を 止めることができるかに影響をあたえるのではないか、という懸念が生じるが、 こ れ は 通 常 、強 制 ラ イ セ ン ス は 特 許 権 者 の 同 意 を 必 要 と し な い と 考 え ら れ る た め で あ る 。」 ※ ※ Linklaters Brussels, Intellectual Property News, November 2005 2.学会の動き (1)法 律 関 係 の 研 究 者 は 新 強 制 ラ イ セ ン ス を 支 持 し て い る が い く つ か の 関 心 を 示 し て い る 。 ま た 、 Overwalle 教 授 は こ の 法 律 を 革 命 的 と と ら え て い る 。 (2)こ の 法 律 に よ り 、 ベ ル ギ ー を 特 許 権 者 と 公 共 ( 患 者 ) の 利 益 の バ ラ ン ス を 図 り公共の健康に関心払う国として国際社会の中でとらえられる。しかし、効果 はまだ不明であり、企業が利用するかどうかで決まってくる。 (3)あ る 学 者 は 主 務 大 臣 が リ ー ダ ー シ ッ プ を 発 揮 し な か っ た こ と を 残 念 が っ て い る。またある学者は意志決定に長い期間を要したことで強制実施権が法律を作 - 83 - り上げるシンボルとしての意味を持ち得なかったのではないかと思っている。 (4)し か し な が ら 、 強 制 ラ イ セ ン ス 権 が ラ イ セ ン ス に 協 力 的 で は な い 特 許 権 者 を 公正で適切な交渉の場に引き出す効果を間接的に持つことを理解するべきであ る。 3.法改正の経緯 上 記 「 試 験 ・ 研 究 の 例 外 」 の 3 .「 法 改 正 の 経 緯 」 を 参 照 の こ と 。 4.特許法の概要 (1)強 制 ラ イ セ ン ス は 公 衆 衛 生 に 関 し て 適 用 さ れ る 。 (2)適 用 さ れ る 技 術 は 、 医 薬 品 、 医 療 機 器 、 診 断 に 使 用 す る 器 具 ま た は そ れ か ら 派生する製品または組み合わせ。 - 84 - (ⅲ)国内外文献調査 資料番号 対 象 国 ・機 関 名称 書誌的事項 ベルギー 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 “−ベルギー特許法改正−研究目的における使用の例外の改正と公衆衛 生上の理由による強制実施権制度の導入” Prof. Geertrui Van Overwalle, Ms. Esther van Zimmeren, 知 財 研 フ ォ ー ラ ム Vol.64 p.42-49 調査結果 概要 特許権者の利益と特許権へのアクセスを円滑化することのバランスをとることは非 常 に 重 要 で あ り 、そ の た め の 一 つ の 手 段 と な り 得 る も の と し て 強 制 実 施 が 考 え ら れ る 。 複数の国で強制実施が特許法に導入されているが、強制実施は特許権の効力を弱める ものであるから、強制実施に対しては慎重さが求められるであろう。 ベルギーでは特許法の改正により導入された強制実施に期待がよせられているが、 ど こ ま で 効 力 を 発 揮 す る か に つ い て は ま だ 不 透 明 で あ り 、「 今 後 の 展 開 を 見 守 る し か な い 」、 と Overwalle ら は 指 摘 す る 。 一方、強制実施はいずれの国でも一度も発動されたことがないか、あったとしても 非 常 に 少 な く 、い わ ゆ る 伝 家 の 宝 刀 で あ る が 、「 非 協 力 的 な 特 許 権 者 を 公 正 か つ 合 理 的 なライセンス交渉の席に着かせるための間接的な「脅し」効果」があるとの指摘もな されている。 - 85 - 資料番号 対 象 国 ・機 関 名称 書誌的事項 ベルギー 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 “ Patent pools and diagnostic testing” Birgit Verbeure, Esther van Zimmeren, Gert Matthijs, Geertrui Van Overwalle, TRENDS in Biotechnology, Vol.24 No.3 (2006) p.115-120 出典:最下欄を参照 調査結果 概要 IT の 分 野 で は パ テ ン ト プ ー ル が う ま く 機 能 し て い る が 、 バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 分 野 に おけるパテントプールの取り組みも少しずつ出てきている。 Verbeure ら は 、 バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 分 野 の パ テ ン ト プ ー ル の 例 と し て 、 ゴ ー ル デ ン ラ イ ス 、SARS の パ テ ン ト プ ー ル 、HNPCC の パ テ ン ト プ ー ル の 三 ケ ー ス を 紹 介 し て お り 、 特にゴールデンライスは開発途上国への技術移転が目的である点で注目される。 http://www.epip.eu/conferences/epip02/lectures/Verbeureetal-2006-TIB-Publication.pdf - 86 - (9)スイス (ⅰ)概要 法改正に至った経緯・背景、動向 バ イ オ ・医 薬 産 業 が 重 要 な 産 業 で あ る ス イ ス の 特 許 法 は 、バ イ オ テ ク ノ ロ ジー分野における発明の適切かつ効果的な特許保護を確保するために改正 さ れ た ( 2007 年 6 月 22 日 )。 改正の契機は、スイスは欧州共同体のメンバー国ではないものの、バイ オ 指 令 98/44/EC に 適 合 さ せ る こ と で あ っ た 。 2000 年 に 特 許 法 改 正 案 が 作 成 さ れ 、そ の 後 、公 衆 協 議 (public consultation) に かけられた。意見収集の際にあがってきた問題(バイオテクノロジー発明 の特許が基礎/応用研究または経済に与える影響)についてさらに詳細に 分 析 す る こ と と な っ た 。ス イ ス 特 許 庁 は 2003 年 に 国 内 の バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー業界に調査を行ったところ、私的使用の抗弁の問題が提出された。 一 方 、 OECD は バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー に 関 す る 調 査 を 2002 年 、 2004 年 と 二 回 に わ た っ て 行 い 、 実 験 で の 使 用 (experimental use)の 問 題 に 関 し て い く つかの勧告を行った。これはスイスの特許法改正にも影響を与えた。 そ し て 2007 年 6 月 22 日 に ス イ ス 特 許 法 の 修 正 が 議 会 で 承 認 さ れ た 。 法令 2007 年 6 月 22 日 に ス イ ス 議 会 に よ り 承 認 さ れ た 修 正 ス イ ス 特 許 法 は 第 9 条において特許の効果が及ばないものとして以下を列挙している; (a)非 商 業 的 目 的 で の 私 的 範 囲 に お い て 行 わ れ た 行 為 (b)利 用 可 能 性 を 含 む 発 明 の 目 的 に つ い て の 知 識 を 得 る た め の 実 験 及 び 研 究 を 目 的 と し て 行 わ れ た 行 為;特 に 、発 明 の 目 的 に 関 す る す べ て の 科学的研究は認められる (c)治 療 用 製 品 に 関 す る 2000 年 12 月 15 日 の 法 律 の 規 定 に 従 っ て 医 薬 品 の販売許可を得るために必要な行為 (d)教 育 機 関 に お け る 教 育 目 的 の た め の 発 明 の 使 用 (e)植 物 品 種 の 選 択 又 は 発 見 及 び 育 成 を 目 的 と し た 生 物 材 料 の 使 用 (f)偶 然 に よ る か 、 又 は 、 技 術 的 に 不 可 避 な 、 農 業 分 野 に お い て 得 ら れ た生物材料 ま た 、 特 許 の 強 制 使 用 と し て 以 下 の 新 条 項 第 40b 条 が 規 定 さ れ た ; - 87 - 第 40b 条 F.研究道具 特 許 さ れ た バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 発 明 を 、研 究 に お い て 道 具 又 は 手 段 と し て 使 用 し た い と 思 う 者 は 、非 排 他 的 ラ イ セ ン ス の 権 利 を 与 え ら れ る 。 ただし、本条項は競争者に製造や供給をライセンスするものではない。 ま た 、第 40b 条 は 研 究 や 技 術 革 新 が 不 合 理 な 制 約 で 悪 影 響 さ れ る 状 況 を 防 ぐ こ と が 意 図 さ れ て い る 。研 究 と 技 術 知 識 の 普 及 を 保 証 し 促 進 す る た め 、本 規定は技術知識を生み出した者と利用する者との間のバランスをとってい る。 - 88 - (ⅱ)海外調査 資料番号 対 象 国・機 関 名称 分 背景 法令 判例 基準 指針 学説 その他 等 規則 指令 類 海外調査結果の概要 “ Switzerland ‒ Experimental use defence (research exemption) and research tools” スイス 調査結果 ※詳細は資料編の海外調査結果の資料 6 を参照のこと。 概 要 2007 年 6 月 22 日 に ス イ ス 議 会 に 承 認 さ れ た ス イ ス 特 許 法 の 修 正 は 、過 去 数 年 間 の技術進歩と国際的な進展に適合させるものである。その主なねらいは、バイオ テクノロジー分野における発明の適切かつ効果的な特許保護を確保することであ る。変更点は公衆又は道徳の理由による特許性の排除を明らかにすること、バイ オテクノロジー特許の保護の範囲を明らかにすること、研究免除及びボーラー免 除 (research and Bolar-exemption) の 法 制 化 、 そ し て 遺 伝 子 源 及 び 伝 統 的 知 識 の 出 所 開 示 義 務 の 導 入 を 含 ん で い る 。し か し 、ス イ ス 法 に 、TRIPS 協 定 の ド ー ハ 宣 言 の パ ラ 6 の 履 行 に 関 す る 2003 年 8 月 30 日 付 け WTO 決 定 を 置 き 換 え る こ と や 、PLR の批准、模倣品対策の有効な手段の導入といった、他の重要な司法の目標を含ん でいる。 調査結果の報告では以下の項目について述べられている; 1.スイス特許法の改正を起こす主要な出来事 2.スイス特許法の改正の議論が始まった頃の、イノベーションと 特許の関係(特に研究免除) 3.研究免除の範囲/商業使用と非商業使用/研究目的 4 . 特 許 の 強 制 使 用 ( Compulsory uses) 5.スイス特許法改正の主なパブリック・コメント 法改正の経緯 1998.7 ・バイオテクノロジー発明の法的保護に関する欧州議会及び欧州委員会の 98/44/EC 指 令 ( 1988 年 7 月 6 日 )、 い わ ゆ る バ イ オ 指 令 の 採 択 が 、 ス イ ス 特 許 法改正の出発点となった。 ・ ス イ ス は 欧 州 共 同 体 ( EC) 又 は 欧 州 経 済 領 域 ( EEA) の メ ン バ ー で は な い ( 欧 州 特 許 条 約 ( EPC) の メ ン バ ー で は あ る )、 し た が っ て ス イ ス 特 許 法 上 記 バ イ オ 指 令に合わせる義務はない。しかしスイスは自国の知財法を欧州共同体の法律と できる限り揃えようとしてきた国である。 ・さらに、スイスの産業界は、バイオテクノロジー発明の特許化において、欧州 で共通かつ明確な法律上のルールが必要であることを表明した。 1999.4 ・ 1999 年 4 月 20 日 、 ス イ ス 議 会 は 、 欧 州 議 会 の 98/44/EC 指 令 に ス イ ス 特 許 法 を 適合させることを可決した。 2000 - 89 - ・ 2000 年 に ス イ ス 特 許 法 を 改 正 す る た め の 法 案 が 作 成 さ れ た 。 ・ こ の 法 案 に つ い て 公 衆 協 議 (public consultation)の 手 続 が 2001/ 2002 に 採 ら れた。この協議はスイスにおけるバイオテクノロジー発明の特許化について、 最初の公衆での議論となった。 ・公共協議は、本トピックス(著者注:バイオテクノロジー発明の特許化)につ いて経験的な証拠の欠如があることを明らかにした。それゆえ上院はスイス特 許庁に、意見収集の際にあがってきたいくつかの問題をもっと詳細に分析する ことを求めた。 ・詳細に調査された二つの領域は、以下のとおり; −基礎及び応用研究に与えるバイオテクノロジー発明の特許(特に遺伝子 特許)の影響 −経済に与えるバイオテクノロジー発明の特許(特に遺伝子特許)の影響 2003 ・ ス イ ス 特 許 庁 は 2003 年 、 ス イ ス の バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 業 界 の 調 査 を 行 っ た (“ Research and Patenting in Biotechnology ‒ A servey in Switzerland” )。 ・協議の手続の中で、またスイスのバイオテクノロジー業界の調査の中で、私的 使用の抗弁の問題が提出された。 2002/2004 ・ そ の こ ろ OECD は 、 バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー の 広 範 囲 な 研 究 の 部 分 と し て 実 験 で の 使 用の抗弁の問題の調査を始めた。 ・ 最 初 の 調 査 は 2002 年 に 行 わ れ 、 結 果 は “ Genetic Inventions, Intellectual Property Rights and Licensing Practices: Evidence and Policies” と し て 公表された。 ・ こ の 公 表 に 続 い て 、 2 番 目 の OECD の 報 告 書 ” Patents and Innovations: Trends and Policy Challenge“ が 2004 年 に 公 表 さ れ た 。 こ の 報 告 書 は 実 験 で の 使 用 の 問題に関していくつかの勧告を行った。国際レベルでの実験での使用の抗弁の 議論はスイスの改正にも影響を与えた。 2007.6 ・2007 年 6 月 22 日 に ス イ ス 議 会 に 承 認 さ れ た ス イ ス 特 許 法 の 修 正 は 、過 去 数 年 間 の技術進歩と国際的な進展に適合させるものである。 ・その主なねらいは、バイオテクノロジー分野における発明の適切かつ効果的な 特許保護を確保することである。変更点は公衆又は道徳の理由による特許性の 排除を明らかにすること、バイオテクノロジー特許の保護の範囲を明らかにす る こ と 、 研 究 免 除 及 び ボ ー ラ ー 免 除 (research and Bolar-exemption)の 法 制 化 、 そして遺伝子源及び伝統的知識の出所開示義務の導入を含んでいる。しかし、 ス イ ス 法 に 、TRIPS 協 定 の ド ー ハ 宣 言 の パ ラ 6 の 履 行 に 関 す る 2003 年 8 月 30 日 付 け WTO 決 定 を 置 き 換 え る こ と や 、PLR の 批 准 、模 倣 品 対 策 の 有 効 な 手 段 の 導 入 といった、他の重要な司法の目標を含んでいる。 試験・研究の例外 ○スイス特許法の改正の議論が始まった頃の、イノベーションと特許の関係(特 に研究免除) 1.法改正時の議論 ・経済理論によると、特許は知識の普及とイノベーションの促進力であり、経済 成長の重要な要素である、といわれている。しかし、最近の研究では、過度の 特許化は研究、開発、イノベーションを妨げるのではないかということがわか った。 - 90 - ・研究のインセンティブと特許された研究へのアクセスを与えることを同時にバ ランスをとることは難しいことがわかっている。 ・研究開発に対する影響という点では、特許権の保護は試験・研究の例外および リサーチツールへの適応の問題を生じさせる。 ・調査結果に関して、次の事実的要素に留意すべきである −研究環境はここ何年かで変化した:今日の大学は私企業部門からの委託研究 に積極的に関与している。欧州のほとんどの大学は、知的財産を取得し、管理 し 、ラ イ セ ン ス し 、行 使 す る た め に 、技 術 移 転 機 関( TLO: Technology Licensing Organization) を 内 部 に 又 は 会 社 を 設 立 し て い る 。 商 業 的 研 究 と 非 商 業 的 研 究 の境界線は消滅した。 −多くの欧州諸国の国内法をと異なり、スイス特許法は、発明の主題に関連し て、私的及び非商業的使用のための、又は実験目的での使用のための法的抗弁 を与えていない。しかしそのような抗弁は実際には考慮されているものの、こ の免除の正確な範囲はあまり明確ではない。 ・法 的 抗 弁 の 欠 如 と 抗 弁 の 不 明 確 な 範 囲 は 、( 公 的 資 金 を 得 て い る 研 究 機 関 及 び 私 企 業 の ) 研 究 者 の 間 に 法 的 な 不 確 実 さ を 引 き 起 こ し た 。 さ ら に PCR 技 術 の 例 に 関して、調査の回答者は、バイオテクノロジー発明はイノベーションの過程で は比較的初期段階に関係していて複製され得ないことから、科学者は重要なリ サーチツールを使用することを制限されているかもしれないという懸念を述べ た 。 そ の た め 、 2003 年 の ス イ ス の バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 業 界 の 調 査 に お け る 回 答 者は、バイオテクノロジーにおける取引コストを減らす最も有効な治療法とし て 、“ 広 範 な 研 究 免 除 ” を あ げ て い て 、 報 告 書 は “ 他 の 治 療 法 と 比 較 す る と 、 広 範な研究免除の導入は相対的に有益であると思われる”と結論づけた。こうし た背景に基づきスイスでは、法的な実験での使用の抗弁の導入は、研究におけ る特許のマイナスとなり得る効果を排除する方法として議論された。 2.改正特許法の内容 2007 年 6 月 22 日 に ス イ ス 議 会 に よ り 承 認 さ れ た 修 正 ス イ ス 特 許 法 は 次 の よ う な抗弁を規定している。 第 9条 特許の効果は、次のものには及ばない: (a)非 商 業 的 目 的 で の 私 的 範 囲 に お い て 行 わ れ た 行 為 (b)利 用 可 能 性 を 含 む 発 明 の 目 的 に つ い て の 知 識 を 得 る た め の 実 験 及 び 研 究 を 目的として行われた行為;特に、発明の目的に関するすべての科学的研究は 認められる (c)治 療 用 製 品 に 関 す る 2000 年 12 月 15 日 の 法 律 の 規 定 に 従 っ て 医 薬 品 の 販 売 許可を得るために必要な行為 (d)教 育 機 関 に お け る 教 育 目 的 の た め の 発 明 の 使 用 (e)植 物 品 種 の 選 択 又 は 発 見 及 び 育 成 を 目 的 と し た 生 物 材 料 の 使 用 (f)偶 然 に よ る か 、 又 は 、 技 術 的 に 不 可 避 な 、 農 業 分 野 に お い て 得 ら れ た 生 物 材料 新 条 項 の 第 9 条 (1)(a) と (b)は 2004 年 の 共 同 体 特 許 規 則 (Community Patent Regulation)の ド ラ フ ト の 第 9 条 に み ら れ る 特 許 権 者 の 権 利 の 制 限 に 対 応 し て い る 。こ れ ら の 規 定 は 私 的 か つ 非 商 業 的 使 用 の た め の 、 ま た は 発 明 の 主 題 に 関 す る 実験目的での使用の法定の抗弁を規定している。 第 9 条 (1)(b)に は 最 終 的 に 商 業 目 的 を 見 込 ん だ 試 験 も 含 ま れ る が 、特 許 権 者 の - 91 - 市場化努力を妨げる目的のために行われる試験には及ばない。 ま た 、 第 9 条 (1)(c)は 欧 州 諸 国 に 導 入 さ れ た 認 証 試 験 の 例 外 (“ ボ ー ラ ー 免 除 “ )に 対 応 す る が 、 国 の 認 証 機 関 の み へ の 適 用 に 制 限 さ れ な い 。 新 条 項 の 第 9 条 (1)(d)で あ る“ 教 育 で の 使 用“ は 、他 の 欧 州 国 の 特 許 法 に は な い 。 3.特許の強制使用 2007 年 6 月 22 日 に ス イ ス 議 会 に よ り 承 認 さ れ た 修 正 ス イ ス 特 許 法 は 次 の よ う な強制ライセンスを規定している。 第 40b 条 F. 研 究 道 具 特許されたバイオテクノロジー発明を、研究において道具又は手段として使 用したいと思う者は、非排他的ライセンスの権利を与えられる。 第 40b 条 は バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 発 明 の み に 関 連 し て い る の で 、“ 研 究 の た め の 道具と手段”は、研究室の装置や機械、データベース、コンピュータ・ソフト ウエアは含まない。 第 40b 条 は 、 第 9 条 (1)(b)の 試 験 ・ 研 究 の 例 外 に 該 当 し な い バ イ オ 関 連 リ サ ーチツール特許の非排他的強制使用を規定しているが、ただし、競争者に製造 や供給をライセンスするものではない。 第 40b 条 は 、 研 究 や 技 術 革 新 が 不 合 理 な 制 約 で 悪 影 響 さ れ る 状 況 を 防 ぐ こ と が意図されている。研究と技術知識の普及を保証し促進するため、本規定は技 術知識を生み出した者と利用する者との間のバランスをとっている。 4.スイス特許法の改正についての主なパブリック・コメント ス イ ス 特 許 法 の 第 9 条 と 第 40b 条 は ス イ ス の バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 及 び 医 薬 品 産 業 ( 多 国 籍 企 業 、 中 小 企 業 、 大 学 、 研 究 機 関 を 含 む )、 さ ら に は ス イ ス 経 済 を 代表する機関によって協議され、賛同されている。 - 92 - (ⅲ)国内外文献調査 資料番号 対 象 国 ・機 関 名称 書誌的事項 スイス 分類 背景 等 法令 規則 判例 基準 指針 指令 学説 その 他 ” Blocking Patents and their Effects on Scientific Research: Evidence from the Biotechnology Industy” 2005 Nikolaus Thumm, IP & RTD: Articles No.23, IPR Helpdesk 出典:最下欄を参照 調査結果 概要 世紀の変わる頃から、プロパテントの行き過ぎによるアンチコモンズがそこかしこ で囁かれているが、アンチコモンズといったことが実際にどの程度社会で大きな問題 となっているのかについては、曖昧である。 2004 年 に Thumm に よ り 行 わ れ た ス イ ス ・ サ ー ベ イ (Nikolaus Thumm, “ Research and Patenting in Biotechnology ‒ A Survey in Switzerland” )に よ る と 、「 バ イ オ テ ク ノロジー発明にとって現在の特許制度の組織的な悪用は見あたらなかったし、乱用レ ベ ル の 戦 略 的 な 特 許 化 は 見 出 せ な か っ た 。」 そ の た め 、さ ら に 権 利 の 円 滑 利 用 を 進 め る た め に は 、Thumm が 提 示 す る よ う に 、パ テ ントプール、クロスライセンス、パテントコンソーシアムといった取り組みが注目さ れる。 http://ipr-helpdesk.org/newsletter/23/html/EN/IPRTDarticleN1025F.html - 93 - Ⅲ.調査結果のまとめ 1.機関・地域・国の間でのまとめ (1)比較分析:機関・地域・国の間での類似・相違点 「 II.調 査 」の章 で は 、日本 、OECD、米 国 、EU、英 国 、ドイ ツ 、フ ラ ン ス 、 ベ ル ギ ー 、ス イ ス に お い て 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 を 中 心 に 、特 許 権 者 の 利 益 を 図 り つ つ 、研 究 を 推 進 し イ ノ ベ ー シ ョ ン を 促 進 す るための調整についてどのような議論がなされているか又はどのような方 策が講じられているのかについて明らかにした。 本 項 で は 、国 際 的 な 機 関 、地 域 、国 の 各 々 で 取 り 組 ま れ て い る 又 は 検 討 さ れ て い る 調 整 手 法 に つ い て 、ど の よ う な 類 似 点 又 は 相 違 点 が あ る の か に つ い て検討を行う。 検 討 を 行 う に あ た り 、「 II. 調 査 」 の 章 で 明 ら か に な っ た と お り 、 権 利 の 保 護 と 利 用 の バ ラ ン ス を と る 調 整 手 法 と し て 複 数 の も の が 抽 出 さ れ 得 る 。具 体 的 に は 、法 的 な 調 整 手 法 と し て 、( i )試 験・研究 の 例 外 、( ii)強 制 実 施 、 が あ げ ら れ る 。そ の 他 の 調 整 手 法 と し て 、( iii)ガ イ ド ラ イ ン / ポ リ シ ー の 策 定 及 び 普 及 、( iv) パ テ ン ト プ ー ル の 形 成 等 が あ げ ら れ る 。 これらの各手法ごとに検討を行うこととする。 (i)試験・研究の例外 特 許 権 の 行 使 に お け る 試 験・研 究 の 例 外 に つ い て は 、こ れ ま で 多 く の 研 究 が な さ れ て い る 12。 特 許 権 の 効 力 に 一 定 の 制 限 を 課 す こ と と な る 試 験・研 究 の 例 外 を 検 討 す る に あ た り 、ま ず は 、世 界 各 国 の 多 く の 特 許 法 の 共 通 の 枠 組 み の 一 つ で あ る「 知 的 所 有 権 の 貿 易 関 連 の 側 面 に 関 す る 協 定 ( TRIPS 協 定 )」 の 第 30 条 が 、 ま ず は参照され得る。 12 例えば、産業構造審議会 知的財産政策部会特許制度小委員会 特許戦略計画関連問題ワーキンググ ル ー プ「 特 許 発 明 の 円 滑 な 使 用 に 係 る 諸 問 題 に つ い て 」2004 年 11 月( 以 下 、「 産 構 審 WG 報 告 書 」と い う 。); 財 団 法 人 知 的 財 産 研 究 所 「 平 成 17 年 度 特 許 庁 産 業 財 産 権 制 度 問 題 調 査 研 究 報 告 書 特 許 発 明 の 円 滑 な 利 用 の た め の 方 策 に 関 す る 調 査 研 究 報 告 書 」平 成 18 年 3 月 ;E. Richard Gold, Yann Joly, Timothy Caulfield, ‘Genetic research tool, the research exception and open science’ Vol.3 No.2 p.1-13 (2005) - 94 - 第 30 条 ( 与 え ら れ る 権 利 の 例 外 ) 加 盟 国 は 、第 三 者 の 正 当 な 権 利 を 考 慮 し 、特 許 に よ り 与 え ら れ る 排 他 的 権 利 に つ い て 限 定 的 な 例 外 を 定 め る こ と が で き る 。た だ し 、特 許 の 通 常 の 実 施 を 不 当 に 妨 げ ず 、か つ 、特 許 権 者 の 正 当 な 利 益 を 不 当 に 害 さ な い こ と を 条 件 と す る 。 13 上 記 規 定 は 、世 界 各 国 の 多 く の 特 許 法 に お い て 定 め ら れ て い る 試 験・研 究 の 例 外 等 を 考 慮 し た も の で あ る 14。 日 本 の 特 許 法 で は 第 69 条 第 1 項 に 「 特 許 権 の 効 力 は 、 試 験 又 は 研 究 の た め に す る 特 許 発 明 の 実 施 に は 、 及 ば な い 。」 と 記 載 さ れ て い る 。 ま た 欧 州 各 国 、 例 え ば 英 国 ( 特 許 法 第 60 条 第 5 項 (b))、 ド イ ツ ( 特 許 法 第 11 条 (b))、 フ ラ ン ス ( 特 許 法 第 613 条 5(b))、 ベ ル ギ ー ( 特 許 法 第 28 条 (1)(b))、 ス イ ス ( 2007 年 6 月 22 日 に 議 会 に 承 認 さ れ た 改 正 特 許 法 第 9 条 (1)b) 等 の 特 許 法においても、試験・研究の例外について規定されている。 し か し 試 験・研 究 の 例 外 の 規 定 は 、各 国 で 少 し ず つ 異 な り 、ま た そ の 適 用 範 囲 は 明 確 に 限 定 さ れ て い る わ け で は な い( 明 確 に 限 定 さ れ る よ う に 規 定 す る こ と は 至 難 で あ ろ う )。 さ ら に 各 国 の 判 例 を み る と 、 試 験 ・ 研 究 の 例 外 の 適 用 範 囲 は 、一 見 よ く 似 た 条 文 の 内 容 で あ っ て も 、少 し ず つ 異 な っ て 解 釈 さ れている。例えば、ドイツでは臨床試験について広く例外を認めているが、 英 国 で は 非 常 に 狭 く し か 試 験 ・ 研 究 の 例 外 を 適 用 し て い な い 15。 フ ラ ン ス で も 判 例 上 、 厳 格 に 解 釈 さ れ て い る 16。 ベ ル ギ ー で は 、2005 年 4 月 28 日 に 公 布 さ れ た 改 正 特 許 法 の 第 28 条 (1)(b) に お い て 、「 特 許 所 有 者 の 権 利 は 、 発 明 の 主 題 に 関 す る (on)又 は 発 明 の 主 題 を 用 い て (with)、科 学 的 目 的 の た め に な さ れ る 行 為 に は 及 ば な い 」と 規 定 さ れ 、例 外 の 範 囲 が 拡 大 さ れ た 。こ れ に よ り 研 究 の 自 由 度 が 拡 大 す る こ と に な るが、一方で特許権の効力が制限されることになる。本条項の導入により、 特 許 の 保 護 と 利 用 の バ ラ ン ス が ど の よ う に 変 化 す る の か 、そ の 効 果 は ま だ 不 産 構 審 WG 報 告 書 第 16 頁 吉 藤 幸 朔 著 、 熊 谷 健 一 補 訂 『 特 許 法 概 説 第 12 版 』 第 773 頁 ( 株 式 会 社 有 斐 閣 、 1997 年 ) 1 5 ‘The Bolar provision: a safe harbour in Europe for biosimilars’ EURALex Issue No.172 p.19 (2006) 16 本 報 告 書 資 料 編 の 「 フ ラ ン ス 」 を 参 照 の こ と 。 13 14 - 95 - 明 で あ り 、 今 後 の 状 況 の 推 移 を 注 視 す る 必 要 が あ る だ ろ う 17。 ま た ス イ ス で は 、特 許 法 の 改 正 が 2007 年 6 月 22 日 に 議 会 で 承 認 さ れ 、第 9 条 (1)で 試 験 ・ 研 究 の 例 外 に つ い て 規 定 さ れ て い る 。 除 外 さ れ る ケ ー ス を 各 々 列 挙 し て 記 載 す る と い っ た ス イ ス 特 許 法 で の 規 定 ぶ り は 、英 国 の ガ ワ ー ズ 報 告 18に お い て 、 よ り 明 確 に 除 外 を 規 定 し た 好 例 と し て 取 り 上 げ ら れ 、 当 該 規 定 ぶ り に 沿 っ て 研 究 例 外 を 規 定 す る こ と は 、権 利 者 の 利 益 に 損 害 を 与 え る こ と な し に 、研 究 を 促 進 す る こ と に な る だ ろ う 、と 述 べ ら れ て い る 。し か し 、当 該 改 正 に よ り ど の よ う な 効 果 が 実 際 に 得 ら れ る の か は こ れ か ら の 研 究 が待たれるところである。 一 方 、米 国 特 許 法 で は 試 験・研 究 の 例 外 に つ い て は 規 定 さ れ て お ら ず 、コ モ ン・ロ ー に よ る 除 外 を 与 え る の み で 、そ の 範 囲 は 狭 く 解 釈 さ れ て い る 。た だ し 、1984 年 の ボ ー ラ ー 判 決 を 受 け て 、FDA 承 認 申 請 に 必 要 な 行 為 に つ い て は 特 許 権 行 使 の 免 除 対 象 と す る 、い わ ゆ る ボ ー ラ ー 条 項 を 導 入 し た 。こ の ボ ー ラ ー 条 項 に よ る 法 定 除 外 の 範 囲 は 、2005 年 の メ ル ク 事 件 に お け る 最 高 裁 判 決 以 降 、 広 く 解 釈 さ れ る 傾 向 が み ら れ る 19。 以 上 の と お り 、試 験・研 究 の 例 外 に つ い て 、日 本 や 欧 州 諸 国 の よ う に 特 許 法 上 に 規 定 さ れ て い る 場 合 で あ れ 、米 国 の よ う に コ モ ン・ロ ー に よ る 免 除 で あ れ 、ま た そ の 限 界 範 囲 は 各 国 で 異 な っ て い て 、か つ 明 確 で あ る と は 言 え な い も の の 、特 許 権 の 効 力 に 対 し て 一 定 の 制 限 を 課 し て 、第 三 者 と の 調 整 を 図 っ て い る こ と は 、各 国 共 通 で あ る 。し か し 試 験・研 究 の 例 外 の 範 囲 は 特 許 権 者と特許を利用する者とのバランスを考慮して調整されるべきものである こ と か ら 、お の ず と 限 定 的 に な ら ざ る を 得 な い 。ど ん な に 試 験・研 究 の 例 外 の 範 囲 を 拡 大 し 、又 は 明 確 に し た と し て も 、試 験・研 究 の 例 外 の 適 用 の み で 、 特 許 権 者 の 利 益 を 考 慮 し つ つ 、第 三 者 に よ る 特 許 権 の 権 利 の 使 用 を 円 滑 に し て、イノベーションにつながる研究開 発 を促進 する こと は不可 能で あろ う。 (ⅱ)強制実施 Geertrui Van Overwalle, Esther van Zimmeren, ‘ベ ル ギ ー 特 許 法 改 正 − 研 究 目 的 に お け る 使 用 の 例 外 の 改 正 と 公 衆 衛 生 上 の 理 由 に よ る 強 制 実 施 権 制 度 の 導 入 ’知 財 研 フ ォ ー ラ ム Vol.64 p.42-49 1 8 ‘Gowers Review of Intellectual Property’ (2006) 4.11-4.12 http://www. hm-treasury.gov.uk/media/6/E/pbr06_gowers_report_755.pdf 17 - 96 - 強 制 実 施 に つ い て も 、 こ れ ま で 多 く の 研 究 が な さ れ て い る 20。 特 許 法 に お け る 強 制 実 施 の 規 定 は 、日 本 や 英 国 、ド イ ツ 、フ ラ ン ス 、ベ ル ギー、スイス等の欧州諸国では導入されている。 一 方 、米 国 で は 過 去 に 何 度 か 特 許 法 へ の 導 入 が 検 討 さ れ た も の の 、産 業 界 や 特 許 権 者 に お け る 反 対 が 強 硬 で あ り 、現 在 の と こ ろ 、例 え ば 大 気 清 浄 法 に お い て 汚 染 制 御 装 置 の 特 許 の 強 制 実 施 を 規 定 す る と い っ た 、非 常 に 限 定 さ れ た 形 で の 強 制 実 施 が 規 定 さ れ て い る 以 外 に は 、特 許 法 に お い て 強 制 実 施 の 規 定を導入するような動きはみられない。 実際のところ、強制実施権が付与されたことは日本(ただし裁定実施権) で は こ れ ま で な く 21、 欧 州 各 国 で も 非 常 に 稀 で あ る 。 特許権の権利者の利益と第三者による権利へのアクセスの改善を調整す る 手 段 と し て 強 制 実 施 は 可 能 性 と し て は あ る が 、実 際 に は こ れ ま で ほ ぼ 機 能 し て い な い 22。 (ⅲ)ガイドライン/ポリシーの策定と普及 権 利 の 保 護 と 活 用 の バ ラ ン ス を と る 方 法 と し て 、法 的 な 調 整 手 法 以 外 の 手 法も検討され得るし、また実際的である。 米 国 で は NIH( National Institutes of Health:国 立 衛 生 研 究 所 )が 、NIH 資金が投入されて行われた研究から生まれたリサーチツールが広く利用さ れ る こ と を 推 進 す る た め 、1999 年 に リ サ ー チ ツ ー ル・ガ イ ド ラ イ ン を 作 成 し た 。 米 国 の 大 学 の 間 で は 、 NIH の リ サ ー チ ツ ー ル ・ ガ イ ド ラ イ ン を ベ ー ス に ラ イ セ ン ス 実 務 が 行 わ れ て い る ケ ー ス も あ り 、当 該 ガ イ ド ラ イ ン が 米 国 内 で 広く受け入れられつつあると思われる。 OECD で は 2002 年 頃 か ら 検 討 を 重 ね 2 3 、 2006 年 2 月 に 「 遺 伝 子 関 連 発 明 の ラ イ セ ン ス 供 与 に 関 す る OECD ガ イ ド ラ イ ン 」を 策 定 し 、「 研 究 目 的 等 の た め 19 本報告書資料編の「米国」を参照のこと。 例えば、産業構造審議会 知的財産政策部会特許制度小委員会 特許戦略計画関連問題ワーキンググ ル ー プ 「 特 許 発 明 の 円 滑 な 使 用 に 係 る 諸 問 題 に つ い て 」 2004 年 11 月 21 中 山 信 弘 『 工 業 所 有 権 法 ( 上 ) 特 許 法 第 2 版 増 補 版 』 第 456-467 頁 ( 株 式 会 社 弘 文 堂 、 2000 年 ) 2 2 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 等 に 対 す る 強 制 実 施 の 適 用 に つ い て は 、竹 田 和 彦 著『 特 許 の 知 識 第 8 版 』 第 474 頁 ( ダ イ ヤ モ ン ド 社 、 2006 年 )。 2 3 隅 蔵 康 一 、 藪 崎 義 康 、 石 川 浩 ‘ 遺 伝 子 関 連 発 明 の ラ イ セ ン ス に 関 す る 問 題 : OECD ガ イ ド ラ イ ン を め ぐ っ て ’ 知 財 管 理 Vol.57 No.3 p.377-393 (2007) 20 - 97 - の 遺 伝 子 関 連 発 明 の 広 範 な ラ イ セ ン ス 供 与 等 の 考 え 方 」2 4 を 示 し た 。当 該 OECD ガ イ ド ラ イ ン に つ い て 、 OECD 加 盟 国 に お け る 普 及 を 展 開 中 で あ る 2 5 。 こ れ に 続 い て 、 日 本 で は 、 2006 年 5 月 23 日 に 総 合 科 学 技 術 会 議 が 「 大 学 等における政府資金を原資とする研究開発から生じた知的財産権について の 研 究 ラ イ セ ン ス に 関 す る 指 針 」 を 、 続 い て 翌 年 の 2007 年 3 月 1 日 に 同 会 議 が「 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 使 用 の 円 滑 化 に 関 す る 指 針 」 を と り ま と め た 。 後 者 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 指 針 は 、「 特 許 制 度 に よ る 保 護 と 活 用 の バ ラ ン ス の と れ た 実 務 運 用 が 重 要 と の 認 識 の 下 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て 、大 学 等 や 民 間 企 業 が 研 究 に お い て 使 用 す る 場 合 の 基 本 的 な 考 え 方 を 示 す こ と に よ り 、そ の 使 用 の 円 滑 化 を 図 る も の で あ る 。」 2 6 と さ れ て い る 。 本 指 針 は 上 記 OECD ガ イ ド ラ イ ン と 軌 を 一 に し て お り 、OECD ガ イ ド ラ イ ン と 同 様 に 国 内 外 に 広 く 周 知 さ れ る こ と が 重 要 で あ る 。ま た リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 円 滑 な 使 用 を 促 進 す る た め に 、「 大 学 等 や 民 間 企 業 が 所 有 し 供 与 可 能 な リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 や 特 許 に 係 る 有 体 物 等 に つ い て 、・ ・ ・ そ の 使 用 促 進 に つ な が る 情 報 を 公 開 し 、 一 括 し て 検 索 を 可 能 と す る 統 合 デ ー タ ベ ー ス を 構 築 す る 。」 2 7 こ と と さ れ て お り 、 リサーチツール特許の指針が真に受け入れられるためには上記統合データ ベ ー ス が 重 要 な 役 割 を 果 た す も の と し て 期 待 さ れ る 28。 (ⅳ)パテントプールの形成 パ テ ン ト プ ー ル は 、「 複 数 の 権 利 者 が 有 す る 二 以 上 の 特 許 権 を 一 括 し て 実 施 を 希 望 す る 者( ラ イ セ ン シ ー )に ラ イ セ ン ス し 、ラ イ セ ン シ ー は プ ー ル 特 許 の 対 価 を 支 払 う 一 方 、特 許 権 者 に は 当 該 対 価 を 一 定 の ル ー ル に 従 っ て 配 分 す る 方 式 を い う 」 29。 パ テ ン ト プ ー ル は 電 機 ・ 通 信 分 野 で は 実 際 に 形 成 さ れ 運 用 さ れ て い る が 、ラ イ フ サ イ エ ン ス の 分 野 で は パ テ ン ト プ ー ル に よ る 権 利 「 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 の 使 用 の 円 滑 化 に 関 す る 指 針 」 1.(3) 例えば、セミナー:知財戦略「生命科学分野のイノベーションに向けて:リサーチツールと知的財 産 権 」 in BioJapan2007( 2007 年 9 月 21 日 ) 2 6 上 記 指 針 2.(1) 2 7 上 記 指 針 4.(1) 28 隅 蔵 康 一 「 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る ラ イ セ ン ス ・ デ ー タ ベ ー ス の 展 望 − 総 合 科 学 技 術 会 議 の 指 針 を 受 け て − 」 知 財 プ リ ズ ム Vol.6 No.63 p.9-18( 2007 年 12 月 ) 29 加 藤 恒 『 パ テ ン ト プ ー ル 概 説 − 技 術 標 準 と 知 的 財 産 問 題 の 解 決 策 を 中 心 と し て 』 第 2 頁 ( 社 団 法 人 発 明 協 会 、 初 版 、 2006 年 11 月 30 日 ) 24 25 - 98 - の 活 用 は ま だ 行 わ れ て お ら ず 、ま た ラ イ フ サ イ エ ン ス の 分 野 で は パ テ ン ト プ ー ル は 機 能 し に く い と の 指 摘 が な さ れ て い る 30。 し か し 一 方 で 、 欧 米 で は ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る パ テ ン ト プ ー ル の 形 成 に つ い て 議 論 31さ れ て お り 、 ま た パ テ ン ト プ ー ル を 実 際 に 形 成 し 運 用 す る 試 み 32も 始 ま っ て い る 。 例 え ば 米 国 の PIPLA 3 3 や 2007 年 10 月 に 発 足 し た 英 国 の SC4SM 3 4 等 の 取 組 が ど の よ う に 進 展 し て い く の か 期 待 さ れ 得 る 。ま た パ テ ン ト プ ー ル は 独 占 禁 止 法 と の 関 係 か ら 、よ り 排 他 性 の 少 な い ク リ ア リ ン グ・ハ ウ ス や パ テ ン ト・コ ン ソ ー シ ア ム の 形 式 35に 展 開 す る こ と も 検 討 さ れ て い る が 、 両 者 を 合 わ せ て パ テ ン ト プ ー ル と 呼 ぶ こ と も 多 い 。こ の 場 合 、電 機・通 信 分 野 で 行 わ れ て い る よ うなパテントプールの管理や運用の形態には拘束されない。 現 在 、世 界 が 注 目 し て い る iPS 細 胞 研 究 に お い て も 、包 括 的 な 研 究 組 織 を 形 成 す る と 共 に 、知 的 財 産 権 の ラ イ セ ン ス の 一 括 管 理 等 、知 的 財 産 権 の 戦 略 的 取 組 が オ ー ル ・ ジ ャ パ ン と し て 検 討 さ れ て お り 36、 今 後 の 進 展 が 期 待 さ れ る。 ( 2 ) 経 緯 分 析 : 機 関 ・ 地 域 ・国 そ れ ぞ れ の 経 緯 と 機 関 ・ 地 域 ・国 間 で の 相 関 ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に 関 連 し て 、1980 年 の チ ャ ク ラ バ テ ィ 判 決 、 1988 年 の ハ ー バ ー ド ・ マ ウ ス の 特 許 等 、 1980 年 代 か ら バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 分 野 の 特 許 37に つ い て 、 米 国 の プ ロ パ テ ン ト の 流 れ に 後 押 し されて、その重要度を増してきた。 一 方 、20 世 紀 の 終 わ り に は 、特 許 と 科 学 研 究 、特 に ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る 研 究 と の 関 係 に お い て 、 例 え ば ア ン チ コ モ ン ズ の 悲 劇 38の よ う な 小 田 切 宏 之 『 バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー の 経 済 』 第 134-140 頁 ( 東 洋 経 済 新 聞 社 、 2006 年 7 月 20 日 ) 例 え ば 、Birgit Verbeure, Esther van Zimmeren, Gert Matthijs, Geertrui Van Overwalle, ‘Patent pools and diagnostic testing’ TRENDS in Biotechnology Vol.24 No.3 p.115-120 (2006) 32 森 岡 一 、 ‘バイオ関連特許活用についての一考察−フリーライセンスあるいはパテントプールの可 能 性 に つ い て ’ 知 財 研 フ ォ ー ラ ム Vol.64 p.32-41 3 3 Public Intellectual Property Resource of Agriculture http://www.pipra.org/ 3 4 http://www.sc4sm.org/ 35 隅 蔵 康 一 、 ‘ライセンス・ガイドラインと知的財産権の集合的管理’ , 『知的財産政策とマネジメン ト 』( 株 式 会 社 白 桃 書 房 、 2008) 3 6 http://www8.cao.go.jp/cstp/project/ips/haihu3/ips-m.pdf 3 7 小 田 切 宏 之 『 バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー の 経 済 』 第 122-127 頁 ( 東 洋 経 済 新 聞 社 、 2006 年 7 月 20 日 ) 3 8 Michael A. Heller, Rebecca S. Eisenberg, ‘Can Patents Deter Innovation? The Anticommons in Biomedical Research’ Science Vol.280 p.698-701 (1998) 30 31 - 99 - プロパテントに内在する問題が指摘されるようになった。 こ れ を 背 景 に 、特 許 権 者 と 権 利 を 利 用 す る 第 三 者 と の バ ラ ン ス を 調 整 す る こ と が 必 要 で は な い か と い う こ と が 議 論 さ れ る よ う に な り 、特 に 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て は 、そ れ が 基 本 的 な も の で あ り 、か つ 当 該 特 許 を 回 避 す る こ と は 非 常 に 困 難 で あ る と の 認 識 か ら 、21 世 紀 に 入 っ て 議 論 が 盛 ん に な っ て き た 。ま た ち ょ う ど そ の 頃 、遺 伝 子 配 列 の 解 読 が 競 争 し て 行 わ れ 、 そ の 成 果 が 特 許 化 さ れ る よ う に な っ た 。 特 に Myriad 社 の ラ イ セ ン ス 方 針 、す な わ ち あ る 特 定 の 遺 伝 子 に つ い て 特 許 を 取 得 し 、そ の 権 利 を ラ イ セ ン ス せ ず に 自 己 実 施 す る と い う 方 針 を と っ た た め 、他 の 企 業 で の開発のみならず、大学等の研究機関における研究にも支障を引き起こし、 ベ ル ギ ー に 至 っ て は 特 許 法 の 改 正 ま で さ れ る 事 態 と な っ た 。実 際 に は 、そ の 影 響 は 話 題 に さ れ る 程 に は 大 き く な い と の 指 摘 も さ れ て い る 39。 こ う し た 状 況 の 中 、 OECD で は 2003 年 頃 か ら 遺 伝 子 関 連 発 明 へ の ア ク セ ス の 容 易 化 に つ い て の 議 論 を 促 し 、つ い て は ガ イ ド ラ イ ン の 策 定 に 集 大 成 さ れ た 。 OECD で の 議 論 は ス イ ス 特 許 法 の 改 正 の 際 に も 参 考 と さ れ て い る 4 0 。 OECD ガ イ ド ラ イ ン は 各 国 で そ の 取 込 が 期 待 さ れ る と こ ろ 、日 本 で は 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て 、そ の 円 滑 利 用 が 課 題 と し て あ げ ら れ た た め 、OECD ガ イ ド ラ イ ン 等 を 参 考 に し つ つ 、指 針 が を ま と め られたところである。 こ の OECD に お け る 動 き に 対 し て 、米 国 で は 必 ず し も OECD の 動 向 に 同 期 し て い る よ う に は 表 面 上 は み え な い し 、ま た ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 に お け る パ テ ン ト プ ー ル の 形 成 に つ い て 議 論 や 試 行 が な さ れ る 等 、独 自 の 動 き を み せ て い る が 、OECD の 方 向 性 と 大 き く 異 な る も の で は な い 。む し ろ パ テ ン ト プ ー ル に お け る 議 論 や 取 組 に 象 徴 さ れ る よ う に 、民 間 主 導 で 議 論 や 取 組 が 進 ん で いるというべきであろう。 一 方 、欧 州 は 、ラ イ フ サ イ エ ン ス 分 野 の リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て 訴 訟 等 の 大 き な 問 題 は ほ と ん ど 見 ら れ な い も の の 、ベ ル ギ ー や ス イ ス に 見 ら れ る よ う に 特 許 法 の 改 正 を 行 う 等 に よ り 、実 務 上 で の 対 応 や 議 論 を 行 い 解 決 策 を Timothy Caulfield, Robert M Cook-Deegan, F Scott Kieff, John P Walsh, ‘Evidence and anecdotes: an analysis of human gene patenting controversies’ Nature Biotechnology Vol.24 No.9 p.1091-1094 (2006) 40本 報 告 書 資 料 編 の 「 ス イ ス 」 を 参 照 の こ と 。 39 - 100 - 見出すというよりも政府が主導して法制上での足固めを行う動きがみられ、 米国とは異なる対応をとろうとしているように思われる。 日 本 で も 現 在 の と こ ろ 、リ サ ー チ ツ ー ル 特 許 に つ い て 大 き な 問 題 が 発 生 しているわけではないが、リサーチツール特許の指針を普及する等により、 特許権の円滑利用を促進するための取組や議論が今後もなされていくもの と思われる。 - 101 - 禁 無 断 転 載 平成19年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 研究で用いる特許権の取扱に関する調査研究 調査研究報告書 平成20年 3 月 財団法人 〒 135-8473 未来工学研究所 東 京 都 江 東 区 深 川 2-6-11 富岡橋ビル 電 話 03-5245-1013 FA X 0 3 - 5 2 4 5 - 1 0 6 3 h t t p : / / w w w. i f t e c h . o r . j p / E-mail w e b m a s t e r @ i f t e c h . o r. j p - 102 -