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日本のリターン革命(特別版)その 2

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日本のリターン革命(特別版)その 2
2015年7月
15
JAPAN is BACK 2.0
日本のリターン革命(特別版)その2
チーフ・ストラテジスト
神山 直樹
● 非営業資産としての現金保有を減らして株主還元することが重要
● 利益率改善が株価に重要となり、株主還元で資本効率の維持が必要
● 株式投資家も経営者も意志を持てば「リターン革命」は実現できるはず
ROE革命の考え方は、渡辺茂教授(立教大学)の1994年の著書に始まるほど古い。日本企業が利益率や
資本効率を重視することが日本経済を変革するとされたが、レバレッジを増やすだけでROEが高くなる、目先
のコスト削減に走るだけといった批判を受けた。しかし、これはROEの濫用、誤用でしかない。電話があるから
オレオレ詐欺が起こるとは誰も言わないように、道具の使い方が適切であれば問題ではないはずだ。
本業で稼ぐ力を発揮しながら、株主還元と成長投資の組み合わせで資本効率を適切に維持する。ROE革命
は株式会社制度が適切に機能するという「当たり前」になるための革命なのだ。そのため、株主は社会への役
割として、会社の内部留保の使い道に目を凝らし、不要な現金が非営業資産とならずに配当で還元されるよ
うに会社に働き掛けなければならない。この点を強調するために、ROE革命を「リターン革命」と呼び直してお
きたい。
足元で8%程度の日本企業のROEが、利益率と資本効率の改善を通じて欧米と同程度の12%を長期的に
実現できると投資家が信じるならば、PERは同じでもPBRは1.5倍程度になり、日本企業の構造改革で日経
平均が2万円から3万円になり得ると期待される。これから2~3年の間にこの革命が進展するとすれば、日本
株への投資チャンスが続くはずだ。これを信じるに足りると判断するためには、株主総会などを通じての会社か
らのコミュニケーションに注目する必要がある。
株式還元が少なすぎると株価がさえずリターンが不足する恐れ
2014年度の決算報告で、良好な収益環境を背景に、多くの企業が増配や自社株買いの発表を行なった。こ
のような積極的な株主還元が株価上昇につながるとの期待が出る一方で、景気が拡大するのであれば新規
投資に資金を投入するべきであって、株主還元を強調するのはおかしいとの意見もある。
あらためて株主還元と株価の関係を確認してみよう。株価は配当の権利確定日が過ぎれば「配当落ち」する
が、その後、配当を受け取れば株価が下落したとしても合計では変わらないはずだ。この意味で、配当が上が
れば株価が上がるとは言えない。むしろ、株主還元が少ない方が株価の値持ちが良いようにすら感じるかもし
れない。
一方で、配当割引モデルによれば、株価=配当/(要求利回り-成長率) となるので、まるで配当が2倍に
なれば株価が2倍になるように見える。しかし、成長率は内部留保率(利益のどのくらいを配当に回さず投資す
るか)に依存するため、配当と成長率はバラバラではなく、配当が上がれば成長率が下がって株価は上がらな
いと考えられる。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
覧ください。
1/6
株主への還元が多すぎても少なすぎてもいけない。もし多すぎれば、投資のための資金が不足すると思われ
て期待成長率が下がる。しかし、少なすぎると普通預金の金利ほどの利益の少ない事業へ投資した資金とみ
なされて株価低下につながる。私は、今の日本で株主還元を充実することは日本株にポジティブだと考えてい
る。なぜなら、日本企業の多くが後者の問題に陥っているからだ。しかも、これが一時的な増配ではなく、還元
策を見直すトレンドとなるためには、(1)投資家が、内部留保で会社がどう成長するのかという夢や希望を経営
者のビジョンとすり合わせて、整合的に行動すること、(2)会社が還元と内部留保による成長投資に適切な意
識を持ち行動すること、が必要だ。
成長投資がより大事という筋論は正しい
株式のリターンは配当と株価の上昇から得られる。一般に、株式投資家はリターンがリスクに見合うかを考え
て投資する。この場合、会社は必ずしも「成長しなければならない」のではなく、リスクに応じたリターンを株主を
通じて経済社会に還元すればよいため、無謀な研究開発投資を拡大する必要はない。ただし、現実には、多
くの株主が夢と希望を経営者のアニマル・スピリッツに託している。だから株主は、利益を全額配当せずに内
部留保することを許している。そうでなければ利益は全部配当してもらったほうが嬉しいだろう。内部留保は株
主にとっての夢と希望の源(金銭的に言えば将来の配当や株価上昇の源泉)だ。
ただし、デフレの時期に日本企業の設備投資額は
減価償却費をしばしば下回ってきた。これは、全体
としては、メンテナンス投資程度しか新規投資がな
かったことを示唆している。その理由は、企業が投
資を怠ったわけではなく、投資先がなかったからと
考えられる。ただし、投資先がなかったのだから、
企業は株主への配当を増やすのが適切だった一
方で、投資家は利益が適切に配当されるように説
得的な議論をすべきだった。
株主や潜在株主(これから株主になるかもしれな
い投資家)は、経営者と対話し、内部留保に夢や
希望が託せるかを判断することになる。これに対し、
経営者は、経営ビジョンを語って、投資家に応える
必要がある。
設備投資額が減価償却費を下回る時期が続く
(倍)
減価償却費に対する設備投資額の倍率
2.5
(1970年度~2013年度)
設備投資/減価償却費
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
1970 1974 1978 1982 1986 1990 1994 1998 2002 2006 2010 (年度)
※設備投資額(財務省法人企業統計・年次・ソフトウエア除く)÷減価償却費
(財務省のデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
ただし、ビジョン、夢、希望とは、「いつかは宇宙旅行したいね」といったことではない。なぜこの経営陣でなけれ
ば医薬品を患者に届けることができないのか、どのような競争環境を認識し、どう勝ち残る手立てを打つのか、
なぜこの会社なのか、という対話を行なうことになるはずだ。その蓋然性、説得力、熱意などが投資の判断に
は役立つ。この場合、投資とは「誰にも分からない未来を(金銭的に)引き受ける」ことだ。配当されなかった内
部留保はその投資に使われる。
内部留保はどう使われれば適切か。それを見るうえで、ROEが重要な指標となる。ROEの分子は利益で分
母は資本だ。資本は「今年配当しなかった利益」を繰り入れることで増えていく。つまり内部留保が来期の分母
を増やす。ROEを一定に維持したければ、来期の利益もそれに応じて増えなければ、ROEは低下する。
※上記は過去のものであり、将来の市場環境などを保証するものではありません。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
覧ください。
2/6
内部留保する会社においてROEが一定となる利益の成長は、既存の事業の拡大で可能だろう。既存事業の
設備を増やし、同じ資産回転率で売上を増やし、同じ利益率で利益を計上できれば、サステイナブル成長率
での利益成長となる。つまりイノベーション(同じ資産で多くを製造できるとか、同じ商品をいままで以上に高く
売るとか)は必要ない。それでも株価はEPS増加分だけ上昇する(事業リスクが変わらないので、PERが変わ
らないだろうから)。内部留保する会社の株価は、少なくとも配当しなかった分だけ上昇することで、全額配当
する会社と同等のリターンを生みだす。
このように、少なくとも今のまま事業を健全に拡張することができれば、株主に株価上昇でリターンをもたらすこ
とができるだろう。株価上昇とは、投機の結果ではなく、(理論的には)事業の成果なのだ。さらに、成長投資が
重要な理由には、投資資金が既存事業の単なる拡張に使われるだけでなく、イノベーション(より利益率の高
い新商品開発や同じ商品をより低コストで生産する設備など)にも使われることがあげられる。この成果はROE
水準を引き上げ、株価の追加的な上昇をもたらす。仮にリスクがあるとしても、アニマル・スピリッツを持つ経営
者が現状以上のROEを実現することができれば、投資家はそう簡単に他の投資機会を見つけることはできな
いので、配当よりも内部留保による投資のほうがリターンのチャンスが大きい。つまり、利益を配当しないことで、
会社と株主の双方に、よりチャンスが生まれるはずだ。
ROEは、これまで会社が投じてきた資本(資本金と内部留保の蓄積)が現状の設備や従業員などのキャパシ
ティをフル利用して、どれだけの利益が得られるかを比率で計算している。だが、この指標はそこだけを見てい
ても「行動の規範」にはならない。今期と翌期の時の流れの中で、今期の利益から配当と内部留保が生み出
され、配当がリターンの一つとして株主を通じて消費や別の投資機会に流れ出す。内部留保は、サステイナブ
ル成長率をもって利益成長を生み出す。同じ事業・商品・マージンであればROEは一定だが、EPSが5%伸
びれば(PERが一定と仮定すると)株価は5%上昇する。つまり、内部留保はキャピタルゲインの基礎となるの
だ。配当とキャピタルゲインを合わせると株主のリターンとなり、これは経済社会に消費や新規投資となって回
ることで、経済社会の分業が適切に機能し、効率的なシステムを維持する。内部留保やROEがいくらである
べきか、ひとつの数値としての答えはないが、ROEが維持改善していることが重要であることが分かる。
「成長投資」が理屈としては正しいとしても、現実には成長機会がないか乏しいにも関わらず、会社に対して
「内部留保しないで配当を増やすことは、成長を捨てるようなものだ」と批判する向きがある。だが、リターンの
最大化が重要だと考えれば、このような成長神話に陥ることはない。会社の社会的責務のひとつには、事業リ
スクに応じた適切なリターンを提供することが挙げられ、成長かあるいは配当の組み合わせで、リスクに応じた
リターンを提供することがファイナンスの観点から見た会社の存在意義となるだろう。多くの場合、経営者のビ
ジョンと株主の夢と希望が、「今と同じ未来」ではなく「今とは異なる未来」を想定して、新たな時代に新規開発
などで対応していくことを生き残りの条件とする時には、イノベーションと成長が必要となる。
現実には日本企業は現金を貯め過ぎ(キャッシュリッチ)
内部留保を事業拡大の夢や希望とつながらない普通預金にすべて預けて放置すると、どうなるだろうか。経
営者のアニマル・スピリッツに期待しているはずの資金が、企業活動に期待できるROEよりもずっと低い収益し
か生まない「預金事業」に回ってしまうのだ。分母の資本が増えたのに利益は増えないので、ROEは低下する。
仮に既存の事業は想定どおり成長しているとしても、使われずに蓄積された現金部分で株価上昇が薄められ
てしまい、株主がリスクに応じて「要求した」リターンが会社の配当と株価上昇でカバーされない。このような事
態はもともと株式会社制度において想定されていない。なぜなら、経営者が長期的にわたって間違えた行動
をすれば、株主が「取り替える」はずだからだ。
しかし、日本企業が融資の返済に苦しんだ経験から現金を保有したいと思う気持ちや、デフレで追加的な投
資が合理的でなかったという日本独自の環境から、日本企業はリーマン・ショック前から現金を貯め過ぎてき
た。いまや東証1部上場企業(金融を除く)の半数以上が「ネットキャッシュ」(すべての有利子負債を返済可
能なほど現金を保有している)状態だ。特に、ヘルスケアや生活必需品などのセクターでネットキャッシュと
なっている企業が目立つ。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
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負債がゼロであることは、デフレ環境のせい
だと理解してもよい。しかし、現金をどんど
ん増やしてしまうと、本来内部留保が要求
する株価上昇が実現しないことになる。株
主は適切なリターンを獲得できないので、
失望するしかない。多くの経営者が株主に
適切な配当を支払っていなかったのだ。
株主も、財閥系列やメインバンク制度など
を含む持ち合いで、本来のコミュニケーショ
ン力を削がれていた。
セクター別ネットキャッシュ比率
(TOPIX、金融除く、5月28日現在)
ネットキャッ
ネット現金/ ネット現金/ ネットキャッ
対象銘柄数 シュ銘柄比
資産(%) 資本(%) シュ銘柄数
(%)
-19.7
-50.3
10
23
43.5
エネルギー
7.7
13.1
60
83
72.3
ヘルスケア
-8.0
-19.4
201
417
48.2
一般消費財・サービス
-8.3
-116.8
1
20
5.0
公益事業
-47.2
-234.1
277
504
55.0
資本財・サービス
-18.3
-46.8
223
286
78.0
情報技術
5.4
9.9
76
168
45.2
生活必需品
-6.9
-15.1
68
191
35.6
素材
-18.3
-37.9
1
4
25.0
電気通信サービス
2.5
6.0
917
1,696
54.1
合計(金融除く)
GICSセクター
※GICS分類の不動産を含む金融を除いている。
(信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成)
株主のリターンに目を向けさせる政策から「リターン革命」へ
日本企業の現金蓄積は今や政治問題となった。安倍政権の「第三の矢」の隠れたハイライトだ。2014年に示
された新成長戦略の「稼ぐ力」の向上は、株主の適切なリターンの要求という「インセンティブ」で会社の経営を
変えようという政策だ。日本の学者、投資家、経営者などが集まった経産省プロジェクトの「伊藤レポート」が日
本企業に8%のROE実現を求めたことが大きな話題となった。8%がちょうどいいかは理論的には分からない
のだが、多くの日本企業のROEは欧米主要企業よりもかなり低かったため、今よりも「高くなければならない」と
いうことは広く伝わった。政府は、機関投資家にスチュワードシップ・コードを課して、企業との対話を促し(成長
戦略)、上場企業にコーポレートガバナンス・コードを課して、適切に利益を追求するための枠組み作りを求め
た(新成長戦略)。
このような政策の目的は、単に株主(機関投資家)と会社が対話して、稼ぐ力とバランスの良い配当を求めつ
つ、ROEを高くして株価を上げることだけではない。というのは、企業の現金の持ち過ぎと政府の負債増大は
裏表の関係にあるからだ。企業が萎縮して投資をせず資金を預金などで抱え込むほど、政府が無理な経済
振興策を打つ羽目になる。新成長戦略は、この悪循環から抜け出す策でもある。
ROEという指標が問題ではなく、リターン(株価上昇と配当を合わせた株主へのリターン)が重要なのだ。成長
機会に対して適切な内部留保を行なう一方で、配当あるいは自社株買いで還元する。その全体が経済社会
のリスクの報酬としてのリターンになるため、「リターン革命」なのだ。
資本の効率が高まれば株価は上昇するはず
会社の経済社会における役割のひとつに、内部留保などの資金を経営者のアニマル・スピリッツで事業に投
入して利益を拡大し、配当や将来の配当のための投資を行なって社会にリターンを還元することがある。ピケ
ティが述べたように、会社の経営者がアニマル・スピリッツを失って保身に走れば、資本の収益率(r)はまさに
不労所得(働かずして消費できる所有権による所得)となり、相続されることで(ピケティの懸念によれば)格差
拡大的となるかもしれない。一方で、経営者にアニマル・スピリッツがなくなれば、rが低下して賃金等の成長率
(g)と近くなり、格差は縮小するという主張も成り立つかもしれない。しかし、株主が適切な経営者を探して任
せる仕組みが機能すれば、「誰にも分からない未来」を引き受ける報酬である r (リスクの報酬)は高く維持さ
れ、しかも、少額から投信、REITなどを通じて、勤労者層もリターンを享受できるはずだ。
※上記は過去のものであり、将来の市場環境などを保証するものではありません。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
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があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
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繰り返すが、株主還元の充実だけでは株価は上昇しないだろう。一般に(ファイナンス理論や株式会社制度の
理論では)会社の経営者は事業のチャンスに応じて、最適な投資をするはずなので、内部留保は現時点の
ROEを維持するか高めると期待できる。つまり、配当を「増やすほど株価が上がる」「減らすほど下がる」という
理論はないのだ。増配は経営者の自信の現れであり、会社の内情を経営者ほど分からない株式投資家への
「シグナル」となるという理論(アナウンスメント効果)が、配当を「増やしたら株価が上がる」傾向を説明してはい
るが、会社が配当を増やしたほうが企業価値が上がるという意味ではない。
だが、現時点の日本企業は平均的にキャッシュリッチ、つまり現金を持ち過ぎており、これは「現金運用事業」
というほとんど利益にならないビジネスに投資していることと同じだ。企業のキャッシュがリッチであるほど株主の
リターンがプアになる。だから、今、政策や機関投資家による企業との対話に後押しされ企業の株主還元が増
えるのであれば、株式投資に大きなチャンスとなる。会社は資本を効率的に使うし、不要な資金は配当を通じ
て消費や、よりチャンスが大きい投資に回るはずだ。もちろん増配が「稼ぐ力」に自信を深めた経営者のシグナ
ルだとしても同じだ。
株式会社、投資家、財政などの機能不全が解消しつつある日本の今の変化は、日本株を買う理由になるだ
ろう。キャッシュリッチ企業が株主のリターンを重視するように変わるとすれば、事業環境が変わらなくても資本
効率が改善するので、株価リターンは大きくなるはずだ。株式投資家は、経営者の適切な行動を強く期待でき
るようになる。たくさんのキャッシュリッチ企業が適切に株主還元をするようになるならば、日本企業の変化は
不可逆なものとなるだろう。
ガバナンスと稼ぐ力はどう関係しているのか
新成長戦略で「稼ぐ力」を持つためにコーポレートガバナンスの強化が叫ばれ、機関投資家のスチュワードシッ
プ・コードや上場企業のコーポレートガバナンス・コードがその方法として提案された。ガバナンスの強化と利益
はどのように関係しているのだろうか。この関係は、この時代の日本の企業についての特殊な問題として確かに
存在している。
現代の株主は分散しており、原則として経営の実権を持っていない(非機能資本家)。株式は分散投資したほ
うがリスクに対するリターンが高いはずだ(分散効果)から、これは当然の選択であり、結果として分業が進む。
株主は経営者ではないから、会社に詳しいわけではないし、経営の打ち手を知っているわけでもない。例えば
どのプロジェクトが有望か、どの部長が有能か、などの会社の詳細な情報も持っていない(情報の非対称性)。
そのため、株主ガバナンスが強化されて「稼ぐ力」が増しても、経営の打ち手を株主が提案することを意味しな
い。アクティビストや強いエンゲージメントなどの運用手法によって経営提案は可能だが、運用者がビジネスコ
ンサルタントと同等以上のノウハウと経験を持つ必要があり、一般的な機関投資家の専門性の中に入っていな
いはずだ。
では、どのような経路で株主ガバナンスが利益率に影響を与えるのか。これは、株主がリスクに応じたリターン
を適切に要求することで始まる。今の日本において分かり易く言えば、経営に「規模と安定」よりも「効率と成
長」という株主の論理により耳を傾けるようにしてもらう。リターン革命として前述してきたように、株主が要求す
るリターンは、内部留保を含む資本に対する事業リスクに応じている。株主は経営者を選ぶ権利と利益の分
配を受け取る権利を持っているので、経営者が株主の論理に耳を傾けるインセンティブはある。
株主ガバナンスとは、株主が持分に応じて会社の財産を持ち帰ることではない。株主が主に内部留保を通じ
て提供した資金(配当されなかったが成長の後に分配されるべきビジネスの利益)が、株主の利益になるよう
に(効率的かつ成長に資するように)使われているかをモニターし、経営者を選ぶ権利などを通じて具体的に
要求することだ。成長神話からの脱却として、「成長しなければならない」のではない。成長しないならば配当
を増やせばよい。リスクに応じてトータルリターン(配当とキャピタルゲイン)が十分高ければよいのだ。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
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ROEを革命的に引き上げるのは利益率の改善と適切な還元政策
日本のリターン革命の趣旨は、日本のROEを欧米並みの水準に引き上げることで、株価も上昇するということ
だった。まずは利益率を改善すること、そのために価格戦略を変えることが重要と指摘した。そして単に利益率
を向上させるだけではなく、それを非営業資産に積み上げないことも重要な要因となることを示した。価格戦
略を変更することは、新規投資を多く必要としないケースが多いだろう。非営業資産を蓄積することは会社に
求められていないし、蓄積が過ぎればマクロ経済の資金の目詰まりのもとにすらなる。仮に労働市場が十分効
率的に賃金を決めているとすれば(賃金コストが不適切に圧縮されていないとすれば)、非営業資産の蓄積は、
株主の取り分の不足ということになる。
欧米の企業と比較して同じにならなければならない理由は、そもそも存在意義を問われるからだ。海外の投
資家が日本を通り過ぎて行ったのは(日本の投資家も日本株投資のウェイトを大きく引き下げてきたのは)、存
在価値を見失うほど日本企業が株主を通じて利益を経済社会に分配しなかったことが一因だ。金利(インフレ
期待)格差で日本のROEは低くてもよいという考え方は経済理論では整合的だが、ROE格差の多くを説明で
きない。先進国で類似の事業を行う企業があるならば、リスクはおおむね同じだろう。資本取引が自由であれ
ば、同じリスクで低いリターンの企業に投資する理由はない。そのような企業に「内部留保させる理由もない」
のだ。誰にも分からない未来に起こることを引き受ける投資家は、リスクを比較したうえで、適切にリターンを要
求する存在だ。
アベノミクスはさまざまな観点からリターン革命を擁護してきた。まず、インフレ期待は中央銀行の政策に影響
されるが、日銀はインフレ目標政策をとった。経済サイクルのずれはあるが、日米欧がおおむね同じ政策をとり、
リーマン・ショック後の正常化の道を歩みつつある。インフレ目標政策は、行き過ぎた円高を修正する一方、負
債の重みに圧迫されがちなデフレ環境からの脱却の一助となるはずだ。また、経産省プロジェクトの伊藤レ
ポートが日本の「持続的低収益性」を指摘した。欧米に比べて低いROEが問題であることを強く経営者や投
資家に印象付けることに成功した。成長戦略の中にあったスチュワードシップ・コードが機関投資家の役割を明
示した。社会が伊藤レポートにあるような内容を求めるのであれば、機関投資家もそのような観点から企業と
対話することになろう。
新成長戦略は、コーポレートガバナンス・コードを上場企業に課することとした。持合い株の保有の理由を問う
ことが、銀行の持ち合いの最後の岩盤を崩すことにつながりそうだ。持ち合いは、非営業資産であること、議決
権を棚上げすることから、株主の持つ「効率と成長」のロジックを抑えこむものだった。融資の返済を求める銀
行ガバナンスは、「規模と安定」を求める論理だった。しかし、銀行の資本規制強化がコーポレートガバナンス・
コード導入をきっかけに持合いの最後の岩盤を砕くことになるならば、会社は、今まで以上に株主の論理であ
る「効率と成長」を受け入れやすくなる。
意志を持って異なるトレンドを生み出す
利益率が2~3年で1.5倍になり、ROEを維持改善するために適切な配当政策を取れば、ROEも1.5倍になる
だろう。どちらもこれまで行なってこなかったことだから、経営者のマインドセットも、株式投資家の期待も大きく
(革命的に)変わる。PERが今以上に上昇しなくても(バブルにならなくても)、3万円の日経平均株価を遠くな
い未来に見る可能性は十分ある。ただし、革命的な変化は、そう簡単には起こらないし、変化は始まったばか
りである。外部環境や仕組みはずいぶん整った。まずは、会社の意思がどの程度変わるかを見極めたい。この
変化は人の意志でしか進めることはできないのだから。
PDFファイルおよびバックナンバーは、日興アセットマネジメントのホームページでご覧いただけます。
また、facebookやツイッターで発行をお知らせいたします。
http://www.nikkoam.com/products/column/kamiyama-reports
facebook https://www.facebook.com/nikkoam Twitter https://twitter.com/NikkoAMofficial
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
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