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Deep Ocean Water Research, 9(2), 89-97, 2008 海 洋 深 層 水利 活用 に よ る地 域 振興 策 とそ の評 価 The Evaluation of the Utilization 古屋 温 美1, 中 泉 黒澤 Atsumi FURUYA, Masamitsu Kaoru of Deep-Sea 昌 光2, 矢 本 馨2, 長 野 Water 欽 也3, 横 山 章4, 吉 水 NAKAIZUMI, Kinya KUROSAWA, Akira for Regional Promotion 純2, 守5 YAMOTO, Jun YOKOYAMA, NAGANO and Mamoru YOSHIMIZU Abstract In order to promote the utilization of deep seawater (DSW) in Rausu Town, northeastern Hokkaido, it is necessary to ascertain in advance the extent to which related industries will influence the production value and other aspects of the town. In the present paper, the process of the feasibility study for the promotion and post-evaluation on the implemented programs were reported. In the feasibility study, characteristics of the current industrial structure were analyzed to clarify the positioning of local marine industries and the income levels of the residents using a regional input-output table. Then the direction of industrial promotion necessary to realize the vision for the future was presented. In the second, seven regional promotion scenarios (four of them are related to DSW) along with twelve specific programs and target values were drawn up to give shape to the industrial promotion policy. Specific target values were given to eight of the twelve programs, and those target values were discussed by the Rausu Marine Vision Council to ensure their realization. Then, the direct effect of the eight programs was examined, and the effect was regarded as the final demand increase in input-output analysis to estimate the economic impacts on the regional economy. For programs that had already been implemented, the degree of goal attainment as well as the problems and challenges encountered were clarified for reevaluation. Key Words: deep seawater, future vision, sustainable analysis, economic impact 要 regional development, input-output 旨 北 海 道 羅 臼 町 にお い て地 域 が主 体 とな って 海 洋 深 層 水 の利 活 用 を進 め る た め に は, 深 層 水 関 連 産 業 が 町 の生 産額 等 に どれ だ け効 果 を創 出す るか, 事 前 に認 識 して お く必 要 が あ る. 本 研 究 で は, 先 に作 成 した 羅 臼 地 域産 業連 関表 を基 に, 地 域 の水 産 業 の位 置付 けや 町民 所 得 水 準 な ど現 状 の 産 業 構 造 特 性 を 分 析 し, 将来 像 の実 現 に必 要 な産 業 振 興 の 方 向性 を提 示 した. ま た, 産 業 振 興 方 策 を具 体 化 す る た め の7つ の地 域 振 興 シナ リオ と12の 具 体 的 な取 り組 み を示 し, この うち8つ の 取 り組 み に対 して 目標 値 を 設 定 した. 設 定 した 目標 値 は羅 臼 マ リ ン ビジ ョン協 議 会 で の議 論 を 経 て, 無 理 の な い値 と した. (3)8つ の 取 り組 み が将 来 実 現 した場 合 の 直 接 効 果 を推 定 し, これ を産 業 連 関 分 析 に お け る最 終 需要 増 分 と して, 地 域 経 済 波 及 効 果 を推 計 した. (4)地域 振 興 シナ リオ の うち, 既 に取 り 組 まれ た事 例 につ いて 目標 の進 捗,取 り組 み の問 題 点 と課 題 を抽 出 し, 再 評 価 を行 った. キ ー ワ ー ド: 海 洋 深 層 水, 将 来 ビジ ョン, 持 続 的 な地 域 発 展, 産業 連 関分 析, 直 接 効 果 と波 及 効 果 1北海 道 大 学 大 学 院 水 産 科 学研 究 院 , 海 洋 生 物 資 源科 学 部 門, 水 産 総 合 基 盤 シス テ ム科 学 分 野(〒041-8611北 2水 産 庁 海 道 函 館 市 港 町3-1-1) , 漁港 漁 場 整 備 部(〒100-8907東 京 都 千 代 田 区霞 が 関1-2-1) 3国 土 交 通 省 ,北 海 道 開発 局(〒060-8511北 海 道 札 幌市 北 区北8条 西2丁 目) 4公 立 は こだ て 未 来大 学 , シス テ ム情 報 科 学 部, 情 報 アー キ テ クチ ャ学 科(〒041-8655北 海 道 函 館 市 亀 田 中野 町116-2) 5北 海 道 大 学 大学 院 水産 科 学 研 究 院 , 海 洋 応 用 生 命 科 学 部 門, 海 洋 生物 工 学 分 野(〒041-8611北 海 道 函 館 市 港 町3-1-1) 90 古屋 1.緒 温 美,中 泉 昌 光,矢 本 欽 也,横 山 純,黒 澤 馨,長 野 章,吉 水 守 実 施 さ れて い る一部 の施 策 に関 して,そ の 具体 的 内 言 容 や効 果,問 題点 を分 析(フ 食 の安 全 や循 環 型 社 会 の形 成 に対 す る関心 が 高 ま ォ ロー ア ップ)し 評 価 した ので そ の結 果 も報 告 す る. るな か,水 産 物 の生 産 か ら流 通 ・消 費 に至 る品質 ・ 衛 生 管 理 と と もに,環 境 に配 慮 した水 産 物 の提 供 と, 商 品 開 発 や付 加 価 値 化 に よ る地 域 振 興 が 求 め られ て い る.そ の生 産 基 盤 とな る漁 港 も同 様 に,環 境 との 2.羅 臼 町 の 地 域 マ リ ン ビジ ョン と課 題 羅 臼地 域 マ リ ンビ ジ ョン(羅 臼町2005)は2005 調 和 や水 産 物 の 品質 と衛 生 管 理 に対 応 した整 備 が進 年度 に策定 され,北 海 道 開発局 の北 海道 マ リンビジ ョ め られ て い る. ンモ デ ル地 区 に選 定 され た.地 域 マ リ ン ビジ ョンで 本 研 究 の対 象 地 域 と した羅 臼 漁 港(地 域)の 立 地 す る 羅 臼 町 は,北 (2008年 海 道 東 部 の 人 口 約6,200人 は,羅 臼 町 の 目指 す姿 を 「さか なの城 下 町」 と して 地 域 全 体 を 「らうす ブ ラ ン ド」 化 す る こ とを考 え, 現 在)の 漁 村 で あ る.羅 臼 町 の 域 内 生 産 水 産 物 の 持 続 的 な安 定 生 産 体 制 の 確立,地 域 資 源 を 額 は年 間約380億 円 で あ り,漁 業,水 産 加 工 業 な 活 用 した地場 産業 の育 成 お よ び環 境保 全 と循 環 型 社 ど水 産 業 の 生 産 額 は そ の52%に あ た る約200億 円 を 占 め,地 域 経 済 の中 心 を 担 って い る.し か し,羅 臼 町 で 水 揚 げ され た水 産 物 は70%が 会 の 構 築 を課 題 と して挙 げて い る(図1). そ の 中 で,漁 港 施 設 の拡 充 整 備,海 洋 深 層 水 を利 そ の ま ま域 外 活 用 した環 境 ・衛 生 管 理 高 度 化対 策(人 工 地 盤 等), に移 出 され,町 内 の水産 加 工 業 は1次 加 工 が 主体 で, 流 通 加工 機 能 施 設 の整 備 な ど,水 産 業 の核 と な る漁 町 内 の飲 食 店 や 旅 館 で 食材 に利 用 さ れ る水 産 物 は域 港 区 域 の整 備 が推 進 され て い る(図2). 外 か ら調 達 され て い る.つ ま り,地 域 内 で水 産 物 の 付 加 価 値 を創 出 し地 域経 済 循 環 を生 み 出す 産 業 構 造 に な って い な い. この よ うな状 況 を 改善 す るた め,羅 臼 町 で は地 域 住 民 の 発 意 に よ り地域 マ リン ビ ジ ョ ン(水 産 を核 に した振 興 構 想)が 策定 され,多 様 な主 体 の 参画 の元, 地域 の持 続 的振 興 の実 現 に取 り組 ん で い る.さ らに, 2005年7月 に羅 臼 町 を 含 む知 床 半 島 一 帯 が 世 界 自 然 遺 産 に登録 され て か らは,観 光 地 と して の 発 展 が これ まで 以上 に期 待 さ れて お り,核 とな る地域 資 源 と して期 待 され たの が 「ら うす 海 洋深 層 水 」 で あ る. 町 は海 洋深 層 水 を水 産 業,観 光 業 な ど諸 産 業 で活 用 図1 羅 臼 地 域 マ リン ビ ジ ョ ンの 目指 す姿 と課 題 し,生 産物 の付 加 価 値 化,地 域 ブ ラ ン ドの 創 出,新 規産 業 の創 出,地 域 内産 業 の連 携 な ど地 域 振興 施 策 の推 進 に よ って水 産 業 を含 め た この 地域 の基 盤 産 業 を活 性 化 す る こ とで地 域 の 活 性化 を 図 ろ う と して い る. 本 研 究 は,海 洋 深 層 水 を 利 活用 した羅 臼 町 の地 域 振 興 施 策 が実 現 した場 合 に地 域 に創 出 さ れ る直 接 効 果 を想 定 し,そ れ に よ る関 連 産業 に及 ぼ す経 済 波 及 効 果,雇 用 効 果,地 域GDPの 増加効 果を予測す る た め羅 臼 町産 業 連 関 表 を作 成 した.さ らに,す で に 図2 環 境 ・衛 生 管 理 施 設 を整 備 す る羅 臼 漁 港 海洋深層水利活用 によ る地域振興策 とその評価 3.羅 91 南 茅 部 町 の4自 治 体 の産 業 連 関 表(古 屋 ら2006) 臼 町 の 産 業振 興 の方 向性 と比 較 す る と,羅 臼 町 の所 得 が 最 低 で あ る(図3). 漁 業 地 域 の 産 業振 興 に効 果 の あ る対 策 を検 討 す る 羅 臼 町 の例 は,地 域 経 済 循 環 が 起 こ りに くい漁 村 地 た め に は,地 域 の産 業 構 造 上 の 問題 点 を把 握 し,そ 域 に お いて は,漁 業 生 産 額 が 多 いだ けで は域 内 で 創 の解 決 に必要 な対 策 の方 向性 を定 め,そ の 具 体 的 な 出 され る付 加 価 値額 や経済 波 及 効 果 が大 き くな らず, 施 策 の 内 容 は,産 業 を担 う人 た ち の合 意 に基 づ く地 町民 全 体 の所 得 の向 上 等 に反 映 され に くい こ と,を 域 振 興 シナ リオ と して整 理 し,具 体 化 す る必要 が あ 示 して い る. る. そ こで,羅 臼地 域 マ リ ン ビ ジ ョ ンで は,産 業 振興 そ こ で,初 (2004年)を め に羅 臼 町 の羅 臼地 域 産 業連 関表 の方 向 性 を,「 地 域 内 で の水 産 物 の消 費,原 料 の調 作 成 し,連 関 表 の 数 値 か らわ か る羅 達,地 域 内で の投 資 促 進 な どを 推 進 す る施 策 を 導 入 臼 町 の産 業構 造 と町民 所 得(表1)の 表1よ 特 徴 を 示 す. り,羅 臼 町 は毎 年 漁 業 生 産 額 が100億 して 地域 内産 業 の生 産 誘 発 を大 き くす る こ と」 と し, 円 町 の財 源 とな る税 収 を増 や す こ と に よ り町 が 率 先 し を 超 え るだ けで な く,域 内生 産 額 に対 す る漁業 生 産 て新 しい事 業 に取 り組 む仕 組 み を考 えた.こ の ビジ ョ 額 と水 産 加 工 業 生 産 額 の割 合 の 合 計 が50%以 上を ンに示 さ れ た羅 臼 町 の 漁 業,水 産 加工 業,海 洋 深層 占め水 産 業 へ の依 存 度 が大 きい地 域 で あ る こ とが わ 水 産 業,水 産 関 連 産 業 お よ びそ の 他 の 各 産業 振興 の か る.ま 方 向性 を表2に 整 理 して 示 した. た,人 口1人 あ た りの 町 民 所 得 は2,139 千 円 で あ る こ とが示 され て い るが,こ れ を,同 じく 水 産業 に依 存 して い る厚 岸 町,根 室 市,苫 前 町,旧 4.海 洋 深 層 水 を 活 用 した 地 域 振 興 シナ リオ の 具体 化 と産 業 連 関 分 析 表1 羅臼町の産業構造 と町民所得の特徴 以 上,述 べ た よ うに,羅 臼 町 にお いて は,水 産 物 の生 産,加 工,流 通,販 売 と い う一 連 の 流 れ を通 し て地 域 内 で付 加 価 値 を高 め,域 内 の経 済 循環 が 創 出 さ れ る産 業 構 造 へ の 転 換 が必 要 で あ り,そ の転 換 方 法 を,(1)水 産 業 と既 存 産 業 の連 関 の 強化,(2)製 造 業 に お け る生 産 物 の更 な る付加 価 値 化,(3)商 業 に お け る域 内消 費 の促 進,(4)サ ー ビス 業等 の域 内創 出,(5) 各 産 業 の生 産 構 造 の 付 加 価値 創 出型 へ転 換(よ り多 くの 付 加 価 値 を生 む 生 産 構 造 に 転 換 す る),の5つ に整 理 した. 図3 人口 一 人 あ た りの 町民 所 得 92 古屋 温 美,中 泉 表2羅 昌光,矢 本 欽 也,横 山 馨,長 野 章,吉 水 守 臼地 域 マ リン ビ ジ ョ ンにお け る産 業振 興 の方 向性 この5つ の 転 換方 法 に よ り地 域 内 の経 済 循 環 を創 出 す るた め に,7つ 純,黒 澤 の具 体 的方 策 とそ の実 現 に向 け (ス ケ ソ ウ ダ ラ 漁 体 験 ツ ア ー な ど)の と し,観 光 窓 口 手 数 料 は 知 床 羅 臼 観 光 協 会 の 試 算 に た取 り組 み を 地域 振 興 シナ リオ と して設 定 した(表 基 づ く も の で10%と 3).海 2) 洋 深 層 水 は,水 産 物 の付 加 価 値 化 ま た は新 た に生 産額 を創 出 す る た め に活 用 す る地 域 資 源 と し し た. 深 層 水 体 験 施 設 の 整 備(取 り組 み1-2) 利 用 者 数 ・客 単 価 は と も に 羅 臼 町 が 想 定 し た 数 字 て,表3に 示 した地 域 振 興 シナ リオ の うち少 な くと を 用 い た. も4つ(シ ナ リオ1,2,3,6)に 3) 関 係 して い る. 参加者 予測数 漁 港 内 で の 朝 市 等 の 実 施(取 り組 み1-3) 朝 市 の 開 催 を 希 望 す る 漁 業 者 数 名 が,夏 (1) 地 域 振 興 シナ リオ の根 拠 9月)に 表3に 掲 げ た地 域 振 興 シナ リオ は,す べ て羅 臼 町 操 業 して い る 定 置 網 や 刺 網 の 操 業 者 か ら, ホ ッ ケ,イ カ な ど の 魚 介 類(現 の計 画 も しくは関 係 者 の ヒア リングを 元 に設定 した れ て い る)を もの で あ る.シ ナ リオ の内 容 と根 拠 な ど に 販 売 す る.年 シナ リオ実 現 後 に地 域 に創 出 され る経 済 波 及 効 果 の推 計 値 は 関係 単 価1,200円 者 が 一堂 に会 す る シナ リオ検 討 会 で承 認 され て い る. し た. 以 下 に,地 域 振 興 シナ リオ の 根拠 を 示 す. 4) 1)体 験 観 光 プ ロ デ ュ ー スの総 合 窓 口企業 創 設(取 港 内 の 朝 市 で 町 民,観 間120日 で14,400千 在 は 賄 い と して 扱 わ 光客 開 催,1日100人, 円 の売 り上 げ 目標 を設 定 深 層 水 を 使 っ た 新 た な 加 工 品,製 品 づ くりに よ り組 み2-1) (有)ら う す 深 層 水 が 基 材 販 売 を 委 託 販 売 す る.初 羅 臼町 に は元 々体 験 エ コ ツ アー や観 光 船 観 光 が あ る の で,2005年 購 入 し,漁 る 既 存 産 業 の 拡 大(取 り組 み1-2) 季(5∼ の知 床 自然 遺 産 へ の登 録 を 機 に, 年 度(2007年)に 算 し た.ま 年 間20百 万 円 売 り上 げ る と 試 た,「 知 床 ら うす 深 層 水 」 を 使 用 し た 商 既 存 の体 験 観 光 メ ニ ュ ー と利 用 者 サ ー ビス の充 実 を 品 の 売 上 げ 総 額 は 現 在117億 目指 した総 合 窓 口企 業 の新 設 を考 え た.観 光 客 数, は 「知 床 ら う す 深 層 水 」 の 商 標 使 用 料 収 入 の 目標 を 宿 泊 者 数 の 目標 値 は羅 臼 町 が想 定 した値,土 産 販 売 93.6百 は既 存 の 漁協 直売 場 の客 単 価(3,500円/人)に 5) 観 円 に 達 して い る.町 万 円 と して い る. 深 層 水 を 利 用 した ウ ニ の 陸 上 蓄 養(取 光 客 数 増 分 を乗 じた値 を使 用 し,観 光 船 の乗 客 は運 -1) 航 会 社 の試 算 に よ る.体 験 ツア ー客 増 分 は,羅 臼 町 ウ ニ の 陸 上 蓄 養 の 目 標 は30t(全 で 組 織 した滞 在 型 モ デ ル ツア ー ワー キ ング グ ル ー プ る.こ にお いて 検 討 され,今 後 計 画 して い る新 た な ツ ア ー パ ッ ク)に の う ち,身 入 り を15%と り組 み3 て 加 工)で あ す る と製 品(塩 水 加 工 さ れ る の は4 .5tで,こ れ を1番 手 海洋深層水利活用 による地域振興策 とその評 価 表3 93 地 域 振 興 シ ナ リオ とそ の概 要 ∼3番 手 の等 級 別 に分 類 し,各 等級 の販 売 額 を乗 じ 将 来 の 氷 調 達 費用 の 差額 を氷 の域 内調 達 の効 果 とみ て販 売 予 想 額 を設 定 した. な し た. 6) 8) 深 層 水 利 用 と トレーサ ビ リテ ィ導入 に よ る鮮 魚 年(2000年 ∼2004年 万 円/ 平 均)が 全 て 衛 生 管 理 と深 層 水 利 用 に よ り単 価 が10%上 昇 す る と羅 臼 町 が試 算 した. 7) 深 層 水 を利 用 した氷 の域 内 調 達(取 り組 み6-1) カ レ イ 刺 網 漁 業 の 生 産 額 の 増 加 を 予 想 した. の鮮 度 保 持 と付 加 価 値 化(取 り組 み3-2) 羅 臼 漁 港 の昆 布 を 除 く水 揚 げ 高10,200百 漁 場 保 全 に よ る 生 産 額 の 増 加(取 9) 海 洋 深 層 水 の 利 用 に よ る生 産 額 の 増 加(取 み6-2) マ ツ カ ワVerasper moseri, glossoides dubius, り組 み3- ア カ ガ レ イHippo- キ チ ジSebastolobus macrochir, オ ヒ ョ ウHippoglossus stenolepisな 3) い,市 漁 協 が 盛 漁期 に域 外 か ら購 入 して い る氷 に は海 洋 こ こ で は,マ 深 層 水 を使 いす べ て域 内調 達 す る こ とと し,現 状 と り組 ど の 蓄 養 を行 場 動 向 や 端 境 期 な ど に 出 荷 し売 上 高 を 増 や す. ツ カ ワ10t,オ ヒ ョ ウ0.1tを に 蓄 養 した 時 の 単 価 向 上 率 を 想 定 し た. 端境 期 94 古屋 温 美.中 泉 昌光,矢 本 欽 也,横 山 純,黒 澤 馨,長 野 章,吉 水 守 海洋深層水利活用 による地域振興策 とその評価 95 (2) 経 済 波 及 効果 の試*移輸入額は, 算 マイナス表示をとって計算する 次 に,二 次 波及 効 果 に つ い て説 明 す る.一 次 波 及 次 に表4に 示 す羅 臼 町産 業 連 関 表 を用 いて シナ リ 額 の 中 の雇 用者 所 得 の うち,一 部 は消 費 に回 り,残 オ の 実現 に よ る効 果 と して,直 接 効 果,一 次 ・二 次 り は貯 蓄等 に 回 るが,消 費 に回 る額(民 間 消 費 額) 波 及 効 果,雇 用 効 果 お よ びGDPの は,雇 用 者 所 得 額 の増 分 に平 均 消 費 性 向 と い う指 標 増 加 額 を試 算 し た. 1) を乗 じて下 式 に よ り計 算 す る. 一 次 ・二 次 波 及 効 果 民間消費額 産 業 連 関 表 を用 い て一 次 ・二 次 波 及効 果 を計 算 す る た め に,逆 行 列 表 を作 成 す る(表5).逆 とは,あ る産 業 の 生 産(最 終 需要)が1単 =雇 用 者 所 得額(総 額)× 平 均 消 費 性 向 式(2) 行列表 位増加 し 民 間 消 費 額 を 部 門 別 に振 り分 け るた め に,民 間 消 た場 合 に,そ れ を 生 産 す るた め に必 要 な そ の他 の産 費 支 出 構 成 比 を 産業 連 関表 の民 間 消 費 支 出 よ り計 算 業 との 取 引 額 を極 値 まで 合計 した もの で,経 済 波 及 す る.民 間 消 費 支 出構 成 比 は,産 業連 関表 の民 間消 効 果 を 計 算 す る際 の基 本 的 な表 に な る. 費 支 出(総 額)に 表4の 産 業連 関表 か ら投 入 係 数 表 を作 成 した.投 占め る産 業 部 門別 の民 間消 費 支 出 の 比率 で あ る. 入 係 数 と は,あ る産 業 が1単 位 の生 産 を行 う際 の 原 部 門別 民 間消 費額 材 料 や給 与等 の経 費 を合 計 が1に な る よ うに標準 化 =民 間消 費 額 ×民 間 消 費 支 出構 成 比 式(3) した もの で あ る.す な わ ち,各 産 業 部 門(表4の1. 農 業∼14.そ の他 サ ー ビス業)の 縦 計(域 内生 産 額) 二 次 波 及 額 は,前 述 の一 次 波 及 額 と同 様 の手 順 で 計 で 縦方 向 に示 され て い る経 費 を除 す と年 間 の域 内生 算 す る.部 門 別 民 間 消 費 額 が△Fに な る. 産 額 を1と 2) した 時 の経 費 率 が 求 め られ,こ れ が投 入 係 数 表 とな る. 地 域GDP増 地 域GDP増 次 に,生 産 額 や売 上 高 の増 加 が 直 接効 果(最 終 需 加額 加 額 は,直 接 効 果(最 終 需 要 増)の 増 加 に よ る雇 用 者 所 得 と営 業 余 剰 の 増 分 で あ る. 要 増)と な る場 合 は,他 の産 業 との新 た な取 引が 発 雇 用 者 所 得 の 増 分 は次 の3つ を 計 算 した. 生 す る た め,一 次 波 及 効 果 が 発 現 す る. 直接 効 果 が すべ て 雇 用者 所 得 の増 分 にな (1) る場 合 は, 直接 効 果 を△F(計 算 の 段 階 で は直 接 効 果△Fの この 雇 用 者 所 得 増分 をGDP増 加 額 と した. 発 生 す る産 業 部 門 以 外 を0と す る最 終 需 要 ベ ク トル 一 次 波 及 効 果 の う ち雇用 者 所 得 の増 分 と して お く必 要 が あ る)と す る と,一 次 波 及 額 は以 二 次 波 及 効 果 の うち雇 用 者 所 得 の増 分 (3) 下 の式 で 計 算 で き る. 営 業 余剰 の増 分 は次 の3つ の計 算 を す る. 直接 効 果(生 産 コス トの縮 減)の 一 次 波 及 額=[I-[I-M^]A]-1△F =逆 行 列 表 ×△F 式(1) (2) うち営 (1)業 余 剰 の 増分 一 次波 (2) 及 効 果 に よ る営 業 余 剰 の増 分 二 次波 及 効 果 に よ る営 業 余 剰 の増 分 (3) 表5 逆 行 列 表 作 成 の ス テ ップ 一 次 ・二 次 波 及 効 果 ,雇 用 者 所 得,地 域GDP増 加 額 の試 算 結 果 を表6に 示 した.た だ し シナ リオ4 -1 ,5-1,7-1は,地 域 に お いて ア イ デ ア や要 望 は あ る もの の,取 り組 み の 目標 値 を具 体 化 で き な か った シナ リオ で あ る. 5.羅 臼町 にお け る海 洋 深 層 水 利 活 用 によ る 効 果 表6 に示 した地 域 振 興 シナ リオ と効 果 の うち,海 96 古屋 温 美,中 泉 昌光,矢 本 表6 欽 也,横 山 純,黒 澤 馨,長 野 地 域 振 興 シナ リオ と その 効 果 ※波 及 効 果 合 計()内 は波 及 乗 数(波 及 効 果 合計/直 接 効 果) ※羅 臼 町人 口6,956人(平 成12年) 章,吉 水 守 海洋深層水利活用 による地域振興策 とその評価 洋 深 層 水 利 活 用 に よ る シナ リオ は2と3で 「2.深 あ る. 97 一 部 の事 例 の再 評 価 を試 み た 層 水 関 連 産 業 の 振 興 」 は,新 た な加 工 品 や 「2.深 層 水 関 連 産 業 の 振 興 」 の 中 で,2006年 製 品 作 り によ って既 存 産 業 の振 興 を図 る シナ リオ で 度 以 降,羅 あ り,「3.水 補 助 金 を 受 け な が ら,海 産 物 価 格 向 上 と付 加 価 値 化 」 は,環 . 臼 町 の漁 業 者 お よ び民 間 企 業 が 水 産 庁 の 洋 深 層 水 を使 った養 殖 コ ン 境 ・衛生 管 理 型 漁 港 を核 と して水 産 物 の 付加 価 値 化 ブ の 付 加 価 値 化 が 進 あ られ た.収 を 図 る シナ リオ で あ る.具 体 的 に は,羅 臼 漁港 で水 洋 深 層 水 に 一 晩 浸 して か ら通 常 の 乾 燥 ・加 工 作 業 を 揚 げ さ れ る全 水 産 物 を 品 質 衛 生 管 理 す る こ とに よ っ 行 っ た と こ ろ,味,外 て価 格 が10%上 る 高 付 加 価 値 コ ン ブ が で き,単 この2つ 見 な どの点 で従 来 品 とは異 な の シ ナ リオ に よ る直 接 効 果 は1,160百 ブ の1.2倍 の 価 格)も 次 ・二 次 波 及 効 果 は 合 計2,078百 層水社長 私 信).2008年 万 円/年,一 円/年,雇 昇 す る と想 定 した. 用 効 果(雇 百 万 円/年,地 万 用 者 所 得 増 加 額)は1,135 域GDP増 加 額 は1,565百 万 円/年 と な り,人 口一 人 あ た りに す る と224千 町 の 人 口6,956人,2000年)と 円(羅 臼 な り,計 算 上,こ 穫 した コ ン ブ を 海 価 上 昇(通 み ら れ た((有)ら 常 の コン うす 海 洋 深 度 以 降,そ の 取 り組 み が 複 数 の コ ン ブ漁 業 者 へ 拡 大 す る 兆 し も認 め られ て い る.こ の よ う に,シ ナ リ オ の 実 現 に は,そ う地 域 住 民 の 積 極 的 な 行 動,役 れを担 割 分 担,連 携 な どが 層 水 利 用 の 拡 大 を 図 る た め,既 設 の分 水 重 要 な 要 素 と い え る. 一 方 ,深 の よ うな効 果 が毎 年 創 出 され る推 計 とな る.以 上 の よ うに,海 洋 深 層 水 利 活 用 の シナ リオ を作 り,そ の 施 設 で 供 給 さ れ る殺 菌 深 層 水 を 使 っ て 脱 塩 加 工 水 を 実現 に 向 け た取 り組 みが 推 進 され た場 合,地 域 に大 製 造 販 売 す る計 画 は,施 きな効 果 を もた らす ことが 予 想 で き る. 保 が 進 ま ず 中 断 して い る.つ 羅 臼 町民 や水 産業 関 係者 が 自 ら地 域 の将 来 を考 え, シナ リオ を検 討 し,実 現 に向 けた主 体 的 な取 り組 み 設 建 設 と機 材 購 入 の 資 金 確 い シ ナ リオ に 関 して は,資 ま り,初 金 面,特 期 投 資 の大 き に必 要 な施 設 整 備 に 関 して 何 ら か の 経 済 的 な 支 援 が 必 要 で あ る. を進 め る うえ で,地 域 振興 シナ リオ が実 現 した時 の 実 際,最 近 で は 伊 豆 大 島,三 浦市で民間企業が運 地 域 へ の経 済 波 及 効 果 や雇 用効 果 等 の予 測 を数 値 で 営 す る海 洋 深 層 水 取 水 ・販 売 事 業 が 相 次 ぎ 停 止 あ る 可 視 化 す る こ とで,取 り組 み の推 進 にお いて 漁 業 者 い は撤 退 を 余 儀 な く さ れ,海 や水 産 加 工会 社 な どの取 り組 む人 や町 民 の理 解 を 促 し さ を 示 す 結 果 と な って い る. し,シ ナ リオ の有 効 性 を事 前 に意 識 す る こ とが で き る よ うにな る. 国 や 自治 体 は 財 政 難 で あ り,民 保 が 優 先 な の で,資 る が,シ 6.考 洋 深 層 水 ビ ジネ スの 難 間 企 業 は利 益 の 確 金 確 保 は今 後 も困 難 が予 想 され ナ リオ の 実 現 に は 国 や 自治 体 の 資 金 面 で の 支 援 は 引 き 続 き 必 要 で あ る し,シ 察 ナ リオ 実 現 を 担 う 地 域 住 民 と 多 様 な 主 体 の 連 携 な ど さ ら な る検 討 が 必 羅 臼漁 港 の低 温 清 浄 海 水 取 水 施 設 は2007年10 月 に完 成 式 を迎 え,2008年 度 か ら衛 生 管 理 施 設 や 人 工 地盤 に お い て本 格 的 な深 層 水 利 用 が ス ター トす 要 で あ る.今 後,全 て の 取 り組 み の 進 捗 と 目 標 値 の 達 成 状 況 を 調 査 し,問 題 点 や 課 題 へ の 対 応 策 の 検 討, 目標 値 の 見 直 し な ど再 評 価 を 行 う予 定 で あ る. る.ま た,羅 臼町 にお いて 海 洋 深 層 水利 活用 シナ リ オ が策 定 され て2年 が 経 過 して お り,本 研 究 で示 し 文 た深 層 水 利 活 用 シナ リオが 地 域 の 人 た ち の取 り組 み 古 屋 温 美, 上 川 浩 幸, 北 原繁 志, 浅 川 典 敬, によ って具 体 化 し,直 接 効 果 の 創 出 と地 域 波 及 効 果 の発 現 が期 待 され る と こ ろで あ る. そ こで,2年 前 に策 定 した シナ リオ が,現 在 ど の よ うに取 り組 まれ 具 体 化 され て い るの か,ま た うま く進 ん で い な い場 合 は何 が 原 因 か 明 らか に す る た め 献 長野 章(2006)漁 中泉 昌 光, 村 地 域 の産 業 連 関表 作 成 と産 業 構 造 の比 較 に よ る漁 業 の課 題 分 析 に 関 す る研 究, 土 木 学 会 海洋 開発 論 文 集, vol.22, 羅 臼 町(2005)羅 pp331-335. 臼地 域 マ リ ン ビ ジ ョ ン計 画 書. (2008.10.14受 付,2008.12.20受 理)