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原子核物理学 10.原子核の二重ベータ崩壊 原子核を用いたニュートリノの物理 平成20年度 原子核物理学 1 ニュートリノ仮説 今から約80年前 中性子のベータ崩壊 電子は連続なエネルギースペクトルを 持つ(内部転換電子は固有のエネル ギーの線スペクトルを持つ)。 どのような既知の放射線でも測定でき るように、熱量計を用いても、電子以外 の粒子(エネルギー)は検出されない。 エネルギースペクトルは決まったエネ ルギーの上限を持ち、崩壊によって解 放されるエネルギーに対応している。 重大な問題を提起 ベータ崩壊では、エネルギーの保存則が破れている。 ベータ崩壊では、角運動量の保存則および複合系の統計の規則が破れている。 困難のすべては、観測されない未知の粒子を導入することによって解決できる。 1930 年にPauliが仮定した粒子(ニュートリノ)である 平成20年度 原子核物理学 2 ニュートリノについての考察 電荷の保存則から、ニュートリノは電気的に中性である。 この性質は、ベータ崩壊の実験結果とも一致する。 もしニュートリノが電荷を持つならば、電磁相互作用( イオン化な ど)によって検出されるはずである。 同様な考察から、ニュートリノが磁気モーメントを持つとしても極め て小さい。 エネルギー保存則から、ニュートリノの質量 mν は小さい。 mν = 0 と矛盾しない。 トリチウムのベータ崩壊において、3H、3He および電子の質量から mν の上限として0.5 keV が、さらに電子のエネルギースペクトル の形から上限値0.2 keV が得られる。 角運動量の保存則および複合系の統計規則から、ニュートリノは スピン 1/2 を持つ Fermi 粒子である。 平成20年度 原子核物理学 3 ニュートリノの存在を実証する実験 Reines と Cowan, 1953年 中性子のベータ崩壊 対消滅 対消滅と,それに続く Cd による 中性子捕獲ガンマ線が特徴的 ベータ崩壊の逆過程 平成20年度 原子核物理学 4 太陽ニュートリノ問題 塩素の同位体を用いた Davis らの 実験 (1960年代から) 予言値 615 トンの C2Cl4(液体) 生成された Ar は原子軌道にある 電子を捕獲して崩壊 比例計数管で 37Ar の個数を数える 標準太陽模型が予言する値に比べて、 地球上で観測されるニュートリノの数が少ない 平成20年度 原子核物理学 5 ニュートリノのフラックス(標準太陽模型) Cl SK 太陽内部で起こる核融合反応のうち, 0.2 % の分岐しか持たない反応で生成さ れるニュートリノしか測定にかからない。 Ga 平成20年度 Ga を用いれば,最も基本的な反応で 生成されるニュートリノを観測できる。 原子核物理学 6 GALLEX (pp 反応) 標準太陽模型の予言値の約 1/2 を観測 平成20年度 原子核物理学 7 大気ニュートリノ SuperKamiokande での測定 ミュー ニュートリノが減少 地球の裏から到来 エネルギー依存 電子ニュートリノは若干増加 主に、ミュー ニュートリノが タウ ニュートリノに変化していると 考えると、測定値が説明できる ニュートリノ振動 平成20年度 原子核物理学 8 ニュートリノ振動があるなら Kamiokande 大気ニュートリノの測定結果 から ニュートリノ振動の可 能性が強く示唆された 太陽ニュートリノ問題も、 同様に、 ニュートリノ振動 として解決できる Flavor は変化しても、 太陽から標準太陽模型が 予言する数のニュートリノ が地球に到達しているはず 平成20年度 原子核物理学 9 SNO と 測定結果(1) 重水 D2O(重水素)を用いた ニュートリノ測定実験 3種類の反応を利用 弾性散乱(ES) 荷電カレント(CC) 中性カレント(NC) 平成20年度 原子核物理学 10 測定結果(2) すべてのニュートリノを合わせると,標準太陽模型の予言に一致。 太陽で生成された電子ニュートリノは他の種類のニュートリノに変化。 平成20年度 原子核物理学 11 ニュートリノ混合(2種) ニュートリノ振動が起こるのは,ニュートリノが質量をもつとき Flavor の固有状態 質量の固有状態:上の質量行列を対角化して ニュートリノ混合角 平成20年度 原子核物理学 12 ニュートリノ振動 Flavor が変化する確率 近似 その結果 ニュートリノ振動を決める2つのパラメータ 平成20年度 原子核物理学 13 KamLAND 原子炉からのニュートリノ 平成20年度 ニュートリノ振動 原子核物理学 14 3種類のニュートリノ混合 Maki-Nakagawa-Sakata 行列 Flavor の固有状態 質量の固有状態 3つの混合角と1つの位相 cf. クォークの混合を表す Kobayashi-Maskawa 行列 平成20年度 原子核物理学 15 ニュートリノの混合パラメータと質量の階層 実験的に未だ精度よく測定されていない量 θ13 :1番目と3番目のニュートリノ混合角 δ : CP 非保存を表すパラメータ 平成20年度 原子核物理学 16 原子核の二重ベータ崩壊 質量数 100 の原子核 弱い相互作用の2次の過程:原子核の電荷が2単位増加(減少) ニュートリノの基本的性質を調べる (1)ニュートリノ質量の絶対値に関する情報が得られる (2)ニュートリノが Majorana 粒子であるか Dirac 粒子であるかを区別 平成20年度 原子核物理学 17 2つの崩壊様式 2ν モード 標準模型の枠内で起こる 既に約10の核種で観測され ている 半減期は短くて 1019 年 核構造計算のテストになる 0ν モード 標準模型では禁止される まだ観測されていない 原子核から2個の電子だけが 放出される 平成20年度 原子核物理学 18 0ν 崩壊が起こる条件 Right-handed 《条件1》 ニュートリノは Majorana 粒子である Left-handed 《条件2》 ニュートリノは質量をもつ 平成20年度 原子核物理学 19 二重ベータ崩壊から得られる ニュートリノの質量 ニュートリノの混合を考慮した有効値 ニュートリノ混合振幅の2乗を重みとした和 振幅の絶対値の2乗ではない ニュートリノの質量を直接測定することにはならない ニュートリノが Dirac 粒子であるときは、二重ベータ崩壊は起こらない 平成20年度 原子核物理学 20 二重ベータ崩壊の実験(1) Heidelberg-Moscow Collaboration at Gran Sasso 平成20年度 原子核物理学 21 0ν モードを観測したか? 平成20年度 原子核物理学 22 二重ベータ崩壊の実験(2) NEMO Collaboration 大規模な実験装置 Mo を始めとして、多くの 核種の二重ベータ崩壊の 測定を行っている Heidelberg-Moscow Coll. と異なり、2つの電子の運 動量(エネルギー)を個々 に測定可能 平成20年度 原子核物理学 23 NEMO Collaboration 平成20年度 原子核物理学 24 2ν モード vs 0ν モード 半減期測定 平成20年度 原子核構造計算 原子核物理学 25 核行列要素の計算(2ν) 3種類の QRPA 模型での計算 gpp は原子核の基底状態相関の強さ を規定するパラメータ 3種類の模型の違いは、基底状態相 関の取り入れ方による QRPA: quasi-boson 近似 RQRPA:基底状態相関を近似的 に取り入れる EQRPA:更に高い精度で取り入 れる 原子核構造計算の予言能力は乏しい 平成20年度 原子核物理学 26 行列要素の強い核種依存性(2ν) 測定された半減期から求めた 2ν モードの核行列要素 2重 Gamow-Teller 型遷移の強 度は二重巨大共鳴に集中する。 二重ベータ崩壊に寄与するのは 全体の 10-4 – 10-7 程度 平成20年度 原子核物理学 27 原子核に作用する演算子(0ν) 弱い相互作用の2次の過程 は中性子を陽子に変える 2つの核子の間でニュートリノが 交換されるので、それに応じて “ニュートリノポテンシャル” が 原子核に作用する 平成20年度 原子核物理学 28 0ν モード核行列要素(1) 3種類の QRPA 模型での計算 gpp は原子核の基底状態相関の強さを規定するパラメータ 基底状態相関の効果を取り入れると、2ν モードの核行列要素より理論的 予言値の信頼度は高い 平成20年度 原子核物理学 29 0ν モード核行列要素(2) 最大の不安定性は Jπ = 1+ 成分 にある これは 2ν モードの核行列要素 の不定性と同様 他の成分は安定 Jπ = 1+ 成分の振る舞いに注意 が必要 2ν モードの崩壊確率の実験値 が役に立つ 平成20年度 原子核物理学 30 二重ベータ崩壊:まとめ 二重ベータ崩壊は ニュートリノが Majorana 粒子であることを検証する、 現在のところ唯一の現実的手段 ニュートリノの質量の絶対値を与えることができる ただし、測定できるのは有効値 76Ge の二重ベータ崩壊が、ニュートリノの質量についてもっとも厳し い上限値を与えている 弱い相互作用の右巻き成分の大きさに関して、最も厳しい上限値を 与えている 核行列要素の計算は、未だ、大きな不定性があると考えられる 平成20年度 原子核物理学 31 暗黒物質の探索 WIMPs : Weakly Interacting Massive Particles neutralino Galactic dark matter ~270 km/s 検出器の原子核と散乱、原子核の反跳を測定 原子核との相互作用は良くわからない スピンに依存しない相互作用なら断面積は A2 に比例 スピンに依存する相互作用の場合は原子核の構造に依存 原子核への運動量移行 原子核の形状因子(運動量移行に依存した応答) Ge, Si, Na, ・・・ 平成20年度 原子核物理学 32