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第 1 章 序論 1.1 研究の背景
第1章 序論 1.1 研究の背景 近年の高度情報化社会においては,職場における様々な 機械化や自動化により, 肉体的な労働の負荷は軽減した.その代わり緊張感が継続する仕事が増え,休息がと りにくい状況も多い[1].このような変化に加えて,職場では,経済不況などのストレス因 子により,うつ病,不安障害,心身症などのストレス関連疾患が急増している[2].ストレ ス関連疾患は長期にわたる休職や過労死などとの関連性が報告されている[3]. ストレス関連疾患では,精神疲労を伴っていることが多い.精神疲労が蓄積し回復が 遷延化すると,一定の期間を経てストレス関連疾患が顕在化し,いったん顕在化すると 労働の意欲が減退する上に,回復に時間を要する[4]. 日本の就労人口 8000 万人の内,60%の 480 万人が疲労を自覚し,半年以上続く 慢性疲労を訴える人は,37%の 3000 万人も存在する[5].その内 240 万人は休・退職, 過労死,過労自殺に追い込まれていることも明らかになった[2]. 産業医のための過重労働による健康障害防止マニュアルによると,「過労死とは過 度な労働負担が誘因となって,高血圧や動脈硬化などの基礎疾患が悪化し,脳血管 疾患や虚血性心疾患,急性心不全などを発症し,永久的労働不能または死に至った 状態をいう」と定義されている[6].厚生労働省の調査によると過労死に係わる請求件 数は,毎年平均で 800 件にのぼっている[7].過労死は社会問題となっている. 過労死と疲労との関係について検討されてきたが,厚生労働省平成 13 年 12 月 12 日付け基発第 1063 号により,このような脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務に明 らかな過重負荷として,発症に近接した時期における労働の負荷のほか,長期間にわ たる疲労の蓄積も考慮することになった[8-9].これは,2000 年 7 月に最高裁判所が, 労働基準監督署長が業務外と判断した自動車運転者に係わる 2 件の事件について, 慢性の疲労や就業態様に応じた諸要因を考慮する考え方を示した判決を行ったこ とを 契機に,2001 年 12 月に認定基準が改正され,発症前 6 か月間の長期間にわたる疲 労の蓄積が考慮されるようになったものである.また,厚生労働省の人口動態統計資料 では,1998 年以降自殺者は 30000 人を越えている.1999 年 11 月策定の精神障害・ 自殺の労働災害か否かの判断指針により,疲労と関連が深いうつ病による過労自殺も 労働災害として位置づけることが明確化されている[10]. 具体的な過労死の予防としては,労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストによる 適度な休息の勧奨,1 ヶ月 100 時間を超える時間外労働が認められた労働者について は,疲労回復のための十分な睡眠時間の確保または,休息時間の確保の勧奨が ,過 重労働の面接において医師により行われている. 1 また,精神疲労を伴ったオペレータの作業ミスや自動車運転者の集中力の低下や眠 気による交通事故などが引き起こされている[11].医療の分野では,顕著な精神疲労 を伴った外科医が,医療事故を起す可能性が高いことが示唆されている[12].小児科 医・産 婦人科 医・救 急医 療に携わる医師の 精神 疲労を伴った過 労も指 摘されている [13-14]. また,コンピュータ機器を使用している労働者の 34.6%が精神疲労やストレスを感じ, 精神疲労を自覚している労働者は,以前に比べ作業能力が低下し十分に活動できて いないと感じている[15]. 以上より,健康管理や労務管理,過労死や過労自殺の予防,作業場の安全や事故 防止,作業の効率化の観点からも精神疲労を予防することは重要な課題である. 疲労に関する研究も数多くなされており,問診票の開発や健康管理上の対策など大 きな知見も見られている.しかし,疲労の発現メカニズムが明確に確認されておらず,そ の確かな評価方法は確立されていないのが現状である.一般に労働の場における精 神疲労の評価は,主観的側面,生理的側面および他覚的側面の三側面からデータを 総合的に検討し評価する方法が採用されているが,その確かな評価方法は確立されて いない.従来は主に質問調査票および問診票などによって主観的疲労が把握されて いる.問診票は疲労の高まりの自覚症状を表現することによって調節機能の維持の限 界を知らせる警告と言われている.より早く疲労に反応を示す生体信号より疲労を示し, 問診票と合わせて総合的に評価を行える精神疲労の定量的な評価方法が求められて いる. 現在,精神疲労の評価方法に関する研究は,生体信号,生化学 的検査,問診票に よる評価方法から行われている.生体信号による評価方法として,発話音声評価法[16 -17],脈波のゆらぎ検出方法[18-19],聴覚的方法[20],心拍変動[21-22],フ リッカー値検査方法[23],脳波などによる疲労の評価方法が提案されているが,疲労 を検出するまでに到っていない.また,生化学的評価方法として,カテコールアミン,コ ルチゾール[24-25],ヒトヘルペスウイルス 6 型活性[26-28]などによる疲労の評価 方法が提案されている.ストレスを評価できるためストレスマーカが,疲労の評価方法と しても期待されているが,疲労を検出するまでに到っていない.問診票などによる疲労 の評価方法として,自覚症しらべ[29-30],NASA‐TLX (National Aeronautics and Space Administration Task Load Index)[31-32],蓄積的疲労徴候インデ ックス[33-34]が提案されている.作業者の簡単な問診項目によって確認できるため, 疲労感の調査として有用であり広く使用されている. 問診票と合わせて総合的に評価 を行える精神疲労の定量的な評価方法の確立が求められている. 2 1.2 生体疲労の種類 1.2.1 疲労の特徴 ここで,疲労の特徴として疲労,ストレスおよび過労について説明する. ストレスと疲 労の関係を Fig.1-1 に示す[35].ストレッサーとストレスとの関係を表現する一つのモデ ルとして,セリエの定義した生理的ストレスと快・不快に関するものがある.生体が,外部 から刺激を受けて緊張やゆがみを起こすとこれらの刺激(ストレッサー)を受けて防衛反 応が起こる.これがストレスである[36].ストレスには快ストレスと不快ストレスがあり,快 ストレスは,例えば運動を行うと負荷が刺激になって反応を起こす.それが,適度であれ ば爽快感を感じる.しかし,不快ストレスは, 生体の恒常性がゆがめられ,情動や行動 における円滑な動きが損なわれ,不均衡状態が持続すると,心身反応が起き,疲労あ るいはストレス反応として現れる.心身反応からストレス反応に移った場合,様々な症状 を起こす.例えば,倦怠感,頭痛,動悸,めまいや睡眠障害などである.身体疾患とし ては,潰瘍性大腸炎,気管支喘息などであり,精神疾患としては,うつ病,不安障害, 心身症などのストレス関連疾患である.ストレス反応から一定の期間を経てストレス関連 疾患が顕在化し,いったん顕在化すると労働の意欲が減退する上に,回復に時間を要 し,過労や休職に陥る. ストレッサーに対する個人の反応には差がある.同じ環境の変化を経験しても技量が 高く健康状態がよければ抵抗できる.しかし,健康状態がよい場合でも,仕事の負荷度, 緊張度や困難度などの刺激が大きければ,不快ストレスとなってストレス反応が起きる. 人間には適量・適質なストレッサーの負荷が必要であり,最良の生理反応,適度な 心理的要求状態が生命の調節維持に重要な役割を演じているが,心的刺激や物理的 刺激が増加し,ストレッサーが大きくなり,正常範囲を越えると,ストレス反応や疲労を引 き起こす.疲労は,心身反応の延長線上にあり,ストレス関連疾患は,精神疲労を伴っ ていることが多い.疲労の共通な性質は,特有の疲労感が見られ,疲労を継続すると休 息要求がみられ,休息により回復する[37]. 労働によって誘発されるストレスは,職務遂行上必要とされる要因,さらには労 働環 境条件と,そこで働く人間の適応能力との不均衡の結果として出現する「人間の心身 反応」である[36].職業上のストレッサーの中には,作業内容,作業環境,さらには勤 務時間などの心的刺激条件と物理的刺激条件とが混在する.これらのストレッサーによ る刺激により,個人差,熟練度,技量,健康状態によって身体機能が不均衡な状態に なり,心身反応が起きる.また,疲労は,精神機能および生理機能の低下の総合された 現れであるという定義より集中維持機能いわゆる集中力の低下も見られる [38].VDT (Visual Display Terminals)作業によって引き起こされる目の疲労感は,疲労の発 現に対する警告信号であり,目の調節機能の維持の限界を知らせている.しかし,必ず しも集中維持機能,生理的な反応が一致しない面も指摘されている[39]. 3 以上のように,疲労の成因が様々な要素を含んでいるので,疲労が広範囲な領域を 示すものと推測される.そこで,どのような種類の疲労を研究対象にするか検討した. Headache Stress factor Stressor Palpitations Stress-related disorder Sleeplessness Depression Anxiety Reaction to stress Sick leave Resignation Death from overwork Suicide from overwork Uncomfortable stress Unbalance Psychosomatic reaction fatigue Overwork Feelings of fatigue Hypertension Demand for rest Comfortable stress Arteriosclerosis Exhilaration Fig.1-1. Stress and Fatigue[35]. 図 1-1 ストレスと疲労 1.2.2 急性疲労,亜急性疲労,慢性疲労 疲労は,急性疲労,亜急性疲労,慢性疲労と移り変わる.疲労および回復過程の位 相別因子の概念図を Fig.1-2 に示す[40].急性疲労が遷延化し,十分な回復が得ら れないうちに蓄積し慢性疲労に陥る.その過程には多くの位相があり,それらの移り変 わりのなかではいくつかの疲労因子の増減・変化の方向性 が変化する.本論文では, 疲労の予防という観点から,疲労が遷延化する前の急性疲労を研究対象とする. 4 Fig.1-2.Schematic diagram of fatigue and recovery process[40]. 図 1-2 疲労および回復過程の位相別因子の概念図(渡辺恭良,“疲労とは?―疲 労の統計,疲労の科学で何をつきとめなければならないか?”,医学のあゆ み,Vol.228,No.6,pp593-597,2009,の p.596 図 2.より転載). 1.2.3 精神疲労,肉体疲労,免疫学的疲労 1.2.2 では,疲労の移り変わりという観点から疲労の種類を述べた.疲労は その原因 からも分類できる.①長時間の精神ストレス暴露や精神作業などによる精神疲労,②筋 肉運動による肉体疲労,③感染症罹患時などの免疫反応を起因とする感染(免疫学 的)疲労である[41]. 静的な緊張が続く労作活動,情報処理や意思決定などの精神的作業負荷に伴う疲 労現象を一般的に精神疲労と呼ぶ[42].肉体疲労は,肉体的労働の多い仕事や身 体の活動が主となるスポーツなどの後に起こる[43].免疫学的疲労は,感染症や病気 の罹患時,外科・手術侵襲による全身倦怠感として起こる.本論文ではストレス関連疾 患と関連が深い精神疲労を研究対象とする. 以上 1.2.2 および 1.2.3 より,本研究では疲労の予防およびストレス関連疾患との関 連より,精神疲労の急性疲労期を研究対象とする. 1.3 研究の目的 本研究は上記のような背景のもとで,急性疲労における精神疲労の評価手法を確立 するために,いくつかの生体信号を組み合わせて疲労と結びつけ生体信号より精神疲 労の客観的定量的な評価方法の構築を目的とする. 本研究は,1)独立成分分析 (Independent Component Analysis:ICA)による疲 労に関 連する信 号の抽 出手 法の構 築,2)大 規 模データベースオンラインモデリング (Large-scale database-based Online Modeling: LOM)による疲労度の推定手法 5 の構築と疲労度ソフトセンサの開発を行う. 第 1 の目的である ICA による疲労関連信号の抽出手法の構築について述べる.疲 労の発現機序は,明確に立証されていない[44].評価に採用する指標の種類やその 処理方法などは一般化されておらず,高度な判断を必要とする.よって,過重労働によ る健康障害防止のための産業医面談は,残業時間と問診による主観的な疲労感の把 握による医師の判断に任されている.問診を補助する精神疲労の評価手法が望まれ る. そこで,疲労は一定の作業を負荷し続けることにより,精神的負担に続いて発 生し, 作業成績や生理・心理機能の低下,特有の疲労感,行動の変化を伴い,休息により回 復するという考え方に基づいて,測定した数種類の生体信号を分解した独立成分によ って疲労の情報を抽出するために,独立成分分析 ICA[45-46]の適用について検討 する.独立成分分析は,多点計測されたデータの解析に有効とされ,信号の分離に応 用されているが,その信号処理の手法として持つ顕著な特徴として,原信号の独立性 を仮定するだけで,それ以外の信号伝送路の伝達特性などの情報は未知とすることが できる[45].疲労のメカニズムは未知として,ICA を使用して生体情報から疲労に関連 する信号を抽出し,疲労の情報を抽出する.そのために,VDT 作業における外乱の少 ない生体情報の収集方法を提案し,生体情報に疲労に関連する信号が含まれる可能 性を検証し,VDT 作業実験の生体情報より疲労関連信号の抽出を行う.さらに,疲労 に関連する信号の抽出手法を確定するために,より精神負荷を与える暗算作業実験に おいて被験者および実験回数を増やし,疲労に関連する信号の再現性を確認する.ま た,疲労に関連する信号と問診による被験者の疲労感を比較し,疲労に関連する信号 の抽出性能を確認する. 第 2 の目的である LOM による「疲労度」の推定手法の構築ついて述べる.精神疲労 は,免疫系,自律神経系,循環器系など複雑な系が係わっているため,精神疲労の現 象を数式モデルで構築することが難しい.従来では問診票より疲労感の程度を推定し ていたが,疲労の研究ではこれまで行われていない,過去の「生体信号」に基づいた統 計モデルによる「疲労度」の推定手法を構築する.システム全体が大規模・非線形であ ったとしても,一定範囲内であれば線形モデルによる近似が有効である場合が多い.シ ステムの運転領域をいくつかの小領域に分割 してそれぞれで局所的にモデル構築を 行ない,モデルを組み合わせることにより対象システムを近似的に表現する. 近年 JIT モデリング(Just-In-Time modeling: JIT modeling)[47-48]と呼ばれ る局所モデル構築手法が注目されている.JIT モデリングは従来のモデル構築法とは 異なり,推定が要求されたときのみ要求点近傍のサンプルをデータベースから選択し, それらを用いて局所モデルを構築し,作成したモデルを用いて出力を推定する.このた め,モデルの更新は自然に行われ,またデータが十分に保有されていれば非線形シス テムに対しても高い推定精度が得られる.JIT モデリングの手法の一つである LOM 6 [49]を応用し,生体信号 から「疲労度」を推定する.まず,実験より得られた生体信号 および疲労感を使用し,対象データベースを作成する.データの入力変数の絞り込み を行い,相空間の低次元化と近傍探索の効率化,計算負荷の大幅な低減を図る. 絞り 込まれた入力変数を使用し,LOM による「疲労度」の推定を行う.問診による疲労感と 推定した「疲労度」を比較する. つぎに,「疲労度ソフトセンサ」の試作と実用化について述べる.LOM による「疲労 度」の推定手法を応用した「疲労度ソフトセンサ」を開発する.まず,LOM による「疲労 度ソフトセンサ」のシステムを構成する.暗算作業実験の際作成したデータベースを「疲 労度ソフトセンサ」に格納する.放射線科医師の放射線画像診断作業中の生体信号を 「疲労度ソフトセンサ」に与え,「疲労度」を推定し表示する.放射線画像診断作業中に 放射線科医師より聴取した疲労感と推定した「疲労度」の相関係数を比較し,「疲労度 ソフトセンサ」の推定性能について検証する. 1.4 本論文の構成 本論文の構成は,8 章から構成されており,その概要は以下のとおりである. 第 1 章では,序論を述べる.第 1 節では,研究の背景について説明する.第 2 節で は,疲労の特徴,生体疲労の種類として,急性疲労,亜急性疲労,慢性疲労 の違い, 疲労の原因から精神疲労,肉体疲労,免疫学的疲労について述べ,本研究の目的お よび本論文の構成について説明する. 第 2 章では,精神疲労の評価方法に関する従来の研究と評価方法の考え方につい て説明する.第 1 節では,これまでの精神疲労の評価方法の経緯について述べ,第 2 節では生体信号による評価方法として発話音声評価法,脈波の揺らぎ検出方法,聴 覚的方法,心拍変動,フリッカー(ちらつき)値検査方法,脳波 のアルファ波について, 生化学的評価方法として,ヒトヘルペスウイルス 6 型活性とカテコールアミン・コルチゾー ルについて,問診による評価方法については,日本産業衛生学会産業疲労研究会作 成の作業前後および回復後に記入させる「自覚症しらべ」,アメリカ航空宇宙局で開発 した NASA‐TLX,蓄積的疲労徴候インデックスについて説明する.第 3 節では,本研 究における精神疲労の評価方法の考え方について,作業負荷方法の選定,生体情報 の選定と測定機器,被験者の選定について述べる. 第 3 章では,第 2 章で検討した精神疲労の評価方法の考え方に基づいて行った生 体信号データの分散分析による精神疲労の評価について述べる.VDT 作業実験の結 果より,作業者の生体に及ぼす影響について検討する.まず第 1 節で VDT 作業時の 疲労について述べる.第 2 節で課題作業と VDT 作業負荷の計測,被験者と実験の概 要,評価指標(作業成績,主観的指標,生体信号),実験環境について述べる.第 3 節で統計処理方法について,第 4 節で二元配置分散分析による検定結果として,作 7 業量とミス入力数,自覚症しらべ,心拍数・呼吸数・皮膚血流量・表面皮膚温度の検定 結果を説明し,第 5 節で考察する.第 6 節では,まとめを述べる. 第 4 章では,第 3 章の結果をもとに,ICA を使用して疲労に関連する信号を抽出す る方法を提案する.VDT 作業中に計測した生体信号から ICA を使用し疲労に関連す る信号を抽出した結果を説明する.まず第 1 節で第 4 章の目的を述べる.第 2 節は, 独立成分分析の概念,問題設定,前処理として白色化,独立性の基準,疲労に関連す る信号と判断する基準について説明する.第 3 節では,VDT 作業実験における疲労に 関連する信号の抽出について,第 4 節で暗算作業実験における疲労に関連する信号 の抽出について,第 5 節ではまとめを述べる. 第 5 章では,第 4 章の結果をもとに,大規模データベースオンラインモデリングによる 「疲労度」の推定について述べる.過去の生体信号に基づいた統計モデルによる「疲労 度」の推定方法について説明する.第 1 節では,第 5 章の目的を述べ,第 2 節では, 重回帰分析について述べる,第 3 節では,大規模データベースオンラインモデリングの 基本的な概念となる JIT モデリングを説明する.第 4 節では,LOM の概要として, LOM の構成,ステップワイズ法による相空間の低次元化,相空間の量子化と近傍探 索について述べる.第 5 節では,LOM による「疲労度」の推定について述べる.「疲労 度」の推定に使用する生体信号,推定の処理手順と局所モデル,重回帰分析,LOM による「疲労度」の推定結果を示し,LOM による「疲労度」の推定手法を検証する.第 6 節ではまとめを述べる. 第 6 章では,第 5 章の LOM による「疲労度」の推定方法を応用し,「疲労度」を推定 するために作成した「疲労度ソフトセンサ」の開発について述べる.第 1 節では,第 6 章 の目的を述べ,第 2 節で放射線画像診断作業による精神疲労について説明する.第 3 節では,LOM による「疲労度ソフトセンサ」のシステムの構成について述べる.第 4 節で は,実験方法について説明し,第 5 節で,実験結果について述べる.読影フィルム枚 数,NASA‐TLX および「自覚症しらべ」や「疲労感の変化」などによる疲労感の結果と 「疲労度ソフトセンサ」による「疲労度」の推定結果を示 す.放射線科医師より聴取した 疲労の変化と比較し,「疲労度ソフトセンサ」を用いた「疲労度」の推定の方法と結果に ついて述べる.第 6 節では,まとめを述べる. 第 7 章では,今後の展望について述べる. 第 8 章では,本研究の成果をまとめ総括する. 8 第 1 章参考文献 [1] 小木和孝,“現代人と疲労”,紀伊國屋書店,pp.7-11,1994. 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