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富士ゼロックスのモノ作り革新技術
Fuji Xerox Digital Work Way
- Concurrent and Consistency Technology 要 旨
富士ゼロックスは、2004 年から 2006 年の 3 年間
に渡り、企業力の抜本的改革と事業成長力の基盤再構
築を狙いに、中期経営構造改革を展開して来た。限ら
れた経営資源で、魅力ある商品を間断なくグローバル
にお届けする為には、研究・技術・開発・生産が一丸
となり「開発生産力/効率」の改革が必要であった。
改革の重点として、企画から研究、技術開発、設計、
試作、金型、評価、生産準備、生産 の各開発生産準
備プロセスに対して、開発期間、設計変更率、R&D
費用効率を改善指標とし、手戻りを発生させない開発
生産準備プロセス改革へ経営陣を筆頭に取り組んだ。
本報では、特にモノを作った後の種々の手戻りの無
駄を撲滅させる為に、モノ作りを始める前のフロント
ローディング開発・生産準備フェーズにおいて品質と
コストをどう作り込むのか、どう実物で検証していく
のか、
『開発生産準備プロセス改革』活動 3 年間の成
果と課題を報告し、富士ゼロックスのモノ作りプロセ
ス全体最適を目指す「富士ゼロックス デジタル ワー
ク ウエイ」の紹介と今後の展望について述べる。
Abstract
執筆者
相模 靜夫(Shizuo Sagami)*1
高橋 正弘(Masahiro Takahashi)*1
稲垣 悟(Satoru Inagaki)*2
花坂 一茂(Kazushige Hanasaka)*3
*1
*2
*3
4
商品開発本部
(Process Innovation, Products Development Group)
モノ作り技術本部(Production Technology Group)
生産本部(Manufacturing Program Management、
Manufacturing Group)
Fuji Xerox has proceeded the middle term business
reformation since 2004 with drastic innovation to
encourage business growth. For the business growth, Fuji
Xerox must provide the products without a brake not only
for the domestic market but also for the global.
The current product development cycle including the
planning, the design, the model manufacturing, the tool
investments, the evaluation, the manufacturing
preparation and the mass production must be changed
to improve the term, especially with emphasis on the
concept of “No Retrogression of Development.”
This technical report describes the innovative
processing activities between the development and the
manufacturing as part of the “Fuji Xerox Digital Work
Way.” Our goal is to eradicate waste as “Retrogression of
Development”, Fuji Xerox has focused the previous
activities of development on verifying product quality by
using digital technology preceding actual model
manufacturing.
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
1. 緒言
1.1
1.4
はじめに、経営改革の必要性:
開発生産準備プロセスの改革と
富士 ゼロ ッ クス デジ タル ワー ク
ウエイ
複写機業界の成熟市場化に伴い、競争激化・
本報では、デバイスの開発生産準備プロセス
値引き競争により、当時富士ゼロックスは、売
改革を「Fuji Xerox Digital Work Way、
(以下
り上げ鈍化、営業利益率低下、商品原価と粗利
DWW と略す)」として、05・06・07 年と 3 年
率、在庫、市場品質・信頼性改善原価、更に、
間、ディジタル複合機の開発でそれぞれ、点、
生産拠点再編、グローバル市場での成長加速な
線、面とステップを踏んで取り組み、結果とし
ど多くの課題に直面していた。又、複写機業界
て、開発期間の短縮、手戻りを発生させないプ
競争激化による、競合の業界再編への対応、米
ロセスの指標である設計変更の低減などに一定
国ゼロックス社の構造改革(自社開発は大型機
の成果を得た事例を紹介する。
のみ、EMS(委託生産)への移行)に伴う富士
具体的には、デジタルフェーズに於けるフロ
ゼロックスの対応(全事業領域で、グローバル
ントローディング&コンカレント活動の強化施
市場への商品提供)変化もあり、富士ゼロック
策として、下記 3 つを取り上げた。
スの構造改革が必須の状況であった。
① 全 員 設 計 ( DDI : Digital
Design
Improvement)の仕組み化
1.2
富士ゼロックスの技術力・開発力上
の課題について:
② デジタル設計根拠の早期化(設計支援ツー
メーカーとしての総合力(企業力)は、商品
③ デジタル生産準備根拠の早期化(設計∼金
ル、CAE/Simulation、FMEA/EP 表/PP 表)
を適正な原価でタイムリーに市場に供給できる
型一貫システム、金型要件チェックツール、
こと(粗利率改善、売上への貢献)ととらえる
生産準備ナビ、樹脂流動解析・物流/梱包動
と、富士ゼロックスのモノづくりメーカーとし
解析)
ての課題は、①ワールドワイドマーケットに対
05 年から 3 年間のデジタル複合機開発を対
して「間断のない魅力商品の提供(機能、品質、
象に、上記強化施策の導入・展開を点→線→面
低コスト)」、②商品供給リードタイムの短縮
と段階的に取り組み、今日に到っている。
を実現することである。富士ゼロックスの経営
開発生産準備プロセス改革活動の成果として
資源で、上記課題解決の為には、開発力の効率
は、当初取り上げた改善指標で見ると、開発期
化を実施し、手戻りを発生させないプロセスの
間:40%短縮、設計変更率:60%改善、R&D
構築とそのプロセスの定着が必要である。
費用効率:30%改善と確実に成果へ結びついて
きている。
1.3
開発力効率化実現の為の重点施策:
また、富士ゼロックス DWW フロントローデ
「開発生産力/効率」タスクでは、「ワールド
ィング化施策として構築してきた(構築中も含
ワイドマーケットに対して「間断のない商品供
む)仕組み、インフラをシステム的に連携させ、
給」を実現するために、企画/技術・研究/設計/
利便性の向上、見える化などの課題と展望につ
試作・型/評価の各プロセスの改革を実施し、商
いても述べる。
品供給リードタイムの短縮を目指し、下記の重
点施策を実施した。
① プラットフォーム開発/共通化・標準化によ
る効率化
② 開発生産準備プロセスの改革(手戻りを発
生させないプロセスの実現)
③ R&D の基盤強化
2. 製品開発生産プロセスの課題
2.1
設計品質の向上
製品開発生産プロセス全体にかかわる大きな
課題の一つとして、設計変更、手戻り作業の発生
がある。富士ゼロックスの商品開発で、共通的に
発生する手戻りワースト3に、仕様変更、メカハ
ード設計、組み立て性改善がある。OEM ビジネ
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
5
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
スに伴う仕様変更や顧客要求(VOC)からの仕
① 仕様検証のフロントローディング:
様検討不足などにより発生する手戻り、必要な機
VOC からの仕様検討が不足し、必要な仕様の
能設計が不足していたために生じる手戻り、設計
設定に抜けがあったり、顧客要求が正しく仕
時点での生産性検討不足、組立て性の検証不足や
様に反映されていない状態で、製品開発プロ
単純な設計ミスを修正するための手戻り等であ
セスが試作または製品の総合検証(QAT)段
る。開発生産各プロセスで発生する問題や手戻り
階まで進んだ場合、製品開発に与える影響は
の多くは、上流工程の企画・設計品質の作りこみ
大きい。設定された仕様が妥当かどうか、抜
プロセス課題へつながっている。
けや誤りがないかという確認を、いかに製品
企画段階で実施するかがキーとなる。また、
2.2
開発効率の向上
OEM ビジネスに伴う仕様変更も、開発後期
開発後期、試作してからの設計変更とその手
ではなく、製品企画段階でいかに取り込むか
戻りの影響は大きい。それらの修復工数ととも
もフロントローディング化の重要なポイント
に、試作・評価・生産準備の工数が手戻りし、
である。
収束が遅い。設計品質の不十分さによる設計変
② 技術開発のフロントローディング:
更が開発の後期で多発し、多額の品質損失コス
要素技術やプラットフォームの先行開発で、
トが発生したリ、市場での重要品質問題につな
技術の素性を明確にしておくことが重要であ
がるばかりでなく、トラブル改善(設計の手戻
る。技術メカニズムと限界性能をノウハウと
り)のための工数が増大し、結果的には開発期間
して技術蓄積、設計標準化など。
が伸びてしまうといった問題がある。これに対
③ 設計検証のフロントローディング:
して、プラットフォーム化/共通化・標準化、SW
パラメータ設計根拠、メカ設計根拠(構造/
の部品化による変えない設計をベースに、上流
機構)の早期明確化、メカ/エレキ/ソフト連
工程での品質作り込み、手戻りしない開発を徹
携した機能・性能・パラメータ早期検証、
底し、後工程へのトラブル流出を防止し、目指
CAE/Simulation の活用強化と仕組化など。
す姿(図1)、フロントローディング化と効率化
④ 生産準備検証のフロントローディング:
生産準備根拠の早期明確化、試作FMEA、
を実現する必要がある。
組立作業における機構解析 Simulation、組み
目指す姿
立てバラツキを考慮した DDI など。
フロントローディング
工数
量産図発行
量産開始
効率化
③項と④項は、コンカレント活動がキーである。
2.4
開発環境の整備と人材育成
設計品質の手戻り課題をベテラン技術者のタ
スクで分析した結果、手戻りの大半はベテラン
企画
構想設計
詳 細設計
試作
生産準備
市場導入
図 1. 製品開発生産プロセスの課題
Front-loading and efficiency of product
development process
設計者の知見で解決できる再発系の問題が個人
のバラツキにより発生しているものが多かった。
過去の知見・ノウハウをデジタル設計時に仕込
み、仮想品質点検(DDI)することで解決でき
2.3
フロントローディング開発
る可能性が高いことが分った。すなわち、IT ツ
図1の開発工程の工数分布からも明らかの如
ールでデジタル設計時に仕込み、仮想品質点検
く、モノを実際に作る「詳細設計と試作工程』
することで、63%の設計変更が防止できるとの
以降に工数が集中しており、開発上流工程での
見込みがあり、その IT ツールの中で設計者支援
(1)
品質作り込み確認・検証 が不足しており、フ
システムで 26%、CAE/Simulation で 13%、以
ロントローディング開発へ向けて4つの課題形
下、標準部品、DDI、金型要件チェックツール、
成をした。
生産準備ナビ等を活用することで、設計変更を
未然防止できるとの予測結果(2)を得た(図2)。
6
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
具体的な有効IT施策
仕組みとツール
デジタル設計時の
仕込みで効果が出るか
生準ナビ:1%
金型一貫
システム:1%
無関係
:14%
No:23%
テンプレート
設計:6%
Yes:63%
金型要件
チェック:6%
その他
手段:
設計支援
ツール:
仕組 26%.
&
3Dモデル: Tool
CAE:
10%
13%
標準
DDI:
部品:
12%
13%
11%
図 2. 手戻り課題の分析と有効施策
Effective methodologies for design request
クス デジタル ワーク ウエイ」と名付けて(図
4)
、バーチャルフェーズとリアルフェーズの大
きく2つに分けて考え、バーチャルフェーズで、
内在する手戻り要因を解決するフロントローデ
ィング化と効率化を図ることにした。
富士ゼロックス DWW の基本的な考え方と狙
いは、3D-CAD データが設計から生産 流れる
事で、モノづくりに関わる部門が 3D データ連
携し、フロントローディングと全体最適を図り、
開発生産の効率化、開発期間短縮、手戻りを発
これらのことから、開発環境の整備と IT 化、
生させないプロセスの実現である。
そしてそれらを上手く活用させる仕組みと人材
従来:物を作って抽出した問題を潰し込む開発体制
従来の
開発プロセス
⇒
試作1(ソフト
3D設計/DDI
量産試作
試作2(ソフト
)
)
・ソフト加工部品による試作
・型品リードタイムが長い
開発期間
短縮
型品LT
短縮
量産試作
3D設計
開発プロセス
DDI
⇒
最終審査
量産
3. 富士ゼロックスの開発生産プロセ
スのあるべき姿と取り組み
目指す
量産
育成が必要と課題設定した。
•DDIの質の向上
•3D上で型要件を成立させ
ソフト品試作を行わない
CAT
DDIによる仮想試作/点検
1.設計根拠、生産準備根拠
2.部品の量産性
3.量産組立て性を仕込む
HID
生産準備活動
設計支援 金型要件 金型一貫 生産準備
ナビ
ツール チェック システム
Sim/CAE
「設計とは もの を作り始める前に考えるこ
とすべて」と捉えている。設計、製造、流通、
CAD/CAM
QFD/FMEA/E-P/P-P
デジタル設計で品質を仕込む
PDM
販売、回収、解体、再利用など、製造業が行わ
Fuji Xerox Digital Work Way
統合化情報システム
- Concurrent and Consistency Technology -
なければならない作業をスムーズに行う為には、
デジタルエンジニアリング
3D設計金型一貫Sys.でLT改革
図 3. 開発・生産準備プロセス改革
(従来プロセスと目指すプロセス)
Fuji Xerox Digital Work Way
- Concurrent and Consistency Technology -
設計の段階で、商品のライフサイクル全般につ
いて考えておかなくてはならないからである。
また、製品開発に伴う積算発生コストは、上流
全ライフサイクルコストの 80%は設計段階で
デジタル設計
商品開発
の設計段階で多くの部分が固まるため、製品の
CAD
(SolidWorks
))
CADCAD
(SolidWorks
流用設計
流用設計
標準化
標準化
/共通化
/共通化
CADテンプレート
CADテンプレート
テンプレート設
計ツール画面
標準品画面
CAE画面
SEツール
画面
確定(3)すると言われている。
ディジタル評価
CAE/Simulation
設計支援ツール
設計ナビ
CAE
設計ナビ
CAE
ベテランのノウハウ 設計ツール
設計ツール
CAE
CAEテンプレート
テンプレート
ベテランのノウハウ
+ 手順化
手順化
・生産での垂直
・生産での垂直
立上げ
立上げ
・W.W同時販売
・W.W同時販売
PDM
コンカレント開発
ディジタル生産準備
富士ゼロックスでは、1998 年、2 次元 CAD
セプトで、設計・生産準備・調達・生産・物流・
生産準備
から 3 次元 CAD へ移行し、
「全員設計」のコン
樹脂金型設計
板金金型設計
組立工程設計
組立性評価
治具設計・評価
包装設計・評価
タクトタイム評価
WELD LINE
樹脂流動解析
Injection Pressure
落下・衝撃解析
品質管理等関連者全員でデザインレビューする
最終実機による
・妥当性検証
・認証取得
図 4. 製品開発 FX デジタル ワーク ウエイ
Fuji Xerox Digital Work Way
し く み 仮 想 品 質 点 検 ( DDI : Digital Design
Improvement)を構築・活用している。それは
従来実機で確認していた品質点検を、実機を製
作する前にデジタルモックアップ
ツールを活
用した DDI を実施することにより、静的トラブ
4. 富士ゼロックスの開発生産プロセ
ス改革 富士ゼロックス DWW
ルを早期に抽出し、設計品質を高める。また、
富士ゼロックスでは、手戻りを発生させない
3D データを点検部門で共有し、レイアウト設
プロセスの実現に向けフロントローディング化
計段階で解決すべき設計品質問題をコンカレン
施策を、開発上流工程の強化や生産準備の技術
トに作りこむことを目的としている(図 3)。
力強化の観点で、多くの取り組みを進めてきて
さらに、2004 年からは、2章で述べた製品
いる。表 1 に DWW フロントローディング施策
開発生産プロセスの課題を「フロントローディ
(Methodology-13)として、主要な施策項目
ング&コンカレント」のコンセプトで、デバイ
を示す。
スの開発生産準備プロセス改革を「富士ゼロッ
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
7
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
表 1. DWW フロントローディング施策(Methodology-13)
Front-loading methodology-13
デジタル複合機の開発へ適用し、一定の成果を
得ているものである。但し、各種支援技術にお
No.
主要施策項目
いても、技術革新が進んでいる。決して完成し
1
QFD(品質機能展開)
たものではない。新技術、新手法を反映し常に
2
FMEA/FTA
進化させ、全体最適を目指している。以下、富
3
設計支援ツール
士ゼロックスのフロントローディング開発を支
4
Simulation
5
CAE(品質工学との融合)
6
E-P表
7
P-P表
8
3D-CAD/PDM
9
DDIによる仮想点検
10
金型要件チェックツール
11
コントロ-ル金型
用目的の明確化、設計思想とその優先順位、
12
生産準備ナビ
FMEA や FTA(Fault Tree Analysis)などを重
13
Phase Gate管理によるマネジメント
点的に行う。設計 FMEA は、重要な機能部品な
える主要な仕組みと技術を紹介する。
4.1
QFD: Quality Function Deployment
FMEA: Failure Mode and Effect Analysis
FMEA (Failure Mode and Effect
Analysis)
設計の品質を最終決定する設計審査では、使
どに関して、想定する故障モードが致命的であ
FTA: Fault Tree Analysis
るかをシステム上で評価することによって、致
CAE: Computer Aided Engineering
命的欠陥の事前防止をはかる手法である。
E-P: Engineering-Parts (List)
P-P: Parts-Process (List )
開発の初期あるいは構想検討段階から設計
CAD: Computer Aided Design
FMEA を継続的に適用し、シミュレーションや
PDM: Product Data Management
CAE、ベンチテストを実行して、設計目的を示
DDI: Digital Design Improvement
した設計書とリンクさせて課題を事前検証する。
途中変更があった場合でも同様である。部品か
フロントローディングは、単なる工程の前倒
ら仮想トラブルを想定して、トレードオフや設
しや上流工程への作業シフトではなく、研究・
計思想、使用目的の妥当性を判断する。FMEA
技術開発部門と生産準備・生産部門との技術・技
の作業は、設計内容と詳細に関連付け、想定し
能、経験やノウハウ・知恵の連携、更には、それ
たトラブル項目の判定レベルと影響度などを使
らをデジタルデータで連携を図ることである。
った独自の FMEA フォーマットを基に作成す
DWW とは、3D-CAD 等のデジタルデータが
る。これを総合リスク評価した上で判断、問題
設計から生産
シームレスに流れ、連携する仕
組みである。
の刈り取りと未然防止に役立てている。
なお、
「設計 FMEA/FTA 実践コース」として
ただし、実際の業務プロセスをみるとデジタ
内部研修の教育体系に組み込まれており、実設
ルだけではない。顧客要求からの製品仕様の検
計への展開だけでなく技術者のコンピテンシー
(4)
討、品質機能展開(QFD) 、想定される懸念
向上に活用されている。
事項への未然防止(FMEA)等は、設計者・生産
技術者の知恵とひらめきのアナログ的連携であ
4.2
る。富士ゼロックスでは、これらの活動を包含
4.2.1
Simulation/CAE
ゼロプロセス解析技術:
し、
「デジタル設計とは、設計根拠と生産準備根
フロントローディング開発支援ツール
拠の確定行為(一貫性のあるデータで裏付けら
ゼログラフィ・プロセスを利用した複合機・プ
れた設計)と DDI で行う品質作りこみ活動(操
リンタの開発では、ハードウェア設計の前にゼ
作性、保守性、安全性、組立性含む)全体と量
ログラフィのパラメータ設計が必要である。こ
産フェーズまでの設計/検証活動」と広く定義し
のパラメータ設計の品質が製品の性能だけでな
ている。
く、開発期間とコストに大きく影響する。富士
後述するフロントローディング化の仕組みや、
各種支援技術やツール技術は、04 から 07 年の
8
ゼロックス DWW は、パラメータ設計根拠を開
発の早い段階で明確にしながら、コンカレント
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
に生産準備根拠を確立し、設計の手戻りのない
士ゼロックス DWW では欠かせない手法の一つ
フロントローディング開発を実践することを狙
である。
いとしている。そこでゼログラフィのシミュレ
富士ゼロックスでは、設計工程が進むにした
ーションは主要な施策のひとつとして活用され
がって、下記内容の CAE を実施している。
ている。
① システム構想設計:
ゼログラフィは相互に影響しあう複数の物理
多くのユニットにまたがるシステム全体に関
現象からなる複雑なシステムであり、また放電・
わる設計項目を対象に実施。用紙挙動解析、
摩擦帯電・粉粒体現象をはじめとして、十分に解
機内エアーフロー解析、フレーム構造解析な
明されていない現象も含まれる。これらの現象
どを実施する。
を適切に扱える市販のシミュレータは存在せず、
② ユニットごとの構想設計:
シミュレーション技術そのものの技術開発が大
ユニットごとに仕様を満たす設計になってい
きな課題となる。富士ゼロックスでは、ゼログ
るかの確認。形状寸法や部品間位置、使用材
ラフィを対象としたシミュレーション技術開発
料などの設計パラメータを振ってケーススタ
機能を設け、富士ゼロックス DWW の実践に必
ディを実施する。ここでは、テンプレートモ
要なシミュレータの技術開発を行い、商品開発
デルによる構想設計と機構解析による機構検
プロセスの中で実用化してきている。従来、ゼ
討があり、共に、品質工学と融合させロバス
ログラフィ・シミュレーションは、電界解析、伝
ト性の検証も行っている。
熱解析、熱流体解析などをベースとして、部分
③ 部品形状設計:
的な現象を定性的に再現することで、技術・商品
設計はアセンブリ上で行われるが、CAE では
開発過程で発生するトラブルのメカニズムの解
境界条件を工夫して部品単品で評価する。生
明、新規技術の実現性探索など、実験結果の検
産要件を入れた詳細形状まで作りこんだ出図
証や定性的な方向性を示す目的で使用するのが
前の確認に CAE を実施する。この段階での
一般的であった。しかし、ゼログラフィ・シミュ
CAE は、旧来設計計算、材料力学などを基に
レーション技術はここ十数年で格段に進歩して
した電卓計算の置き換えであるが、旧来の設
おり、適用範囲、計算速度、計算精度が飛躍的
計計算手法で複雑な形状や機構を対象とする
に向上している。現在では、シミュレーション
には高度な工学知識と設計への熟練が必要で
によって事前に問題を予測し、メカニズムを明
あった。富士ゼロックスでは CAD と一体化
らかにして、設計仕様とその物理的根拠を与え
した CAE システムで、設計者が容易に CAE
ることを可能とし、商品開発の中での活用を進
を使って設計計算できる環境を導入している。
めてきている。一方、このシミュレーション技
①②項では、非線形解析となる現象が多い。
術を特別な知識・スキルを必要とせず設計者が
この領域では、計算が困難で不可能なこともあ
自由に利用できるナビゲート支援環境も開発し
り、富士ゼロックスでは、解析専任者によって
ている。
実行されて来たが、近年、設計者自ら設計パラ
メータ検討が出来る環境、CAE テンプレートモ
4.2.2
メカニカル領域の解析技術:
(構造/機構/振動/熱伝導/熱流体など)
メカハード系開発では、CAE/Simulation を駆
デルの構築が進んでいる。
また、設計案が要求機能/性能を満たしている
かを確認するには、ひとつの課題だけではなく、
使した試作レスの開発が進んでいる。設計の事
複数の課題が絡み合った結果から判断しなけれ
前検証手法のひとつである CAE 技術は、現物が
ばならない。そのためには、複数の課題を同時
まだない設計初期段階で、設計根拠を確定する
に評価して最適解を導出する手法(連成解析な
手法のひとつとして設計現場で広く活用されて
ど)の獲得、CAE/Simulation 技術蓄積を図っ
いる。その狙いは、設計後期での手戻り防止に
ている。
よる設計効率の向上と、実機評価を仮想評価に
置き換えることによる R&D 費抑制であり、富
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
9
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
4.3
設計支援ツール
同時に、生産準備部門は、設計の狙いを理解し、
設計支援ツールは、ベテラン設計者の経験・
設計手法をナレッジ化・デジタル化し、標準化
部品機能を実現する重要寸法/公差の量産性を
P-P 表(Parts-Process List)を用いて検討する。
した設計工程フローに沿って、社内に蓄積され
たノウハウ/設計ツール/データベースを設計者
4.4.1
(E-P 表)
に提供し、より高い設計品質と短期開発の実現
に向けて設計作業をナビゲートする支援ツール
設計根拠を部品機能展開に落とし込む
機能展開(一次機能/二次機能)を実施し、対
象部品名/部番を選定し、これまでの関連トラブ
である。
各設計工程での Input 情報/Output 情報が時
ル/故障モード/構成パラメータ/複合機能の有
系列的に工程フローに沿って整理できる場合は
無から、設計/製造管理の重要度と FMEA との
比較的容易にコンテンツを構築できるが、複雑
関連付けを行い、設計狙い値(中央値と公差)
なサブシステムを設計する場合は、一方の工程
と結びつけたやり方で E-P 表検討を実施する
が生み出す情報を仮定し、その仮定情報に基づ
(図 6)。
いて次の工程を行い、その結果に照らして再び
最初の工程を検証する「繰り返し」が発生する。
4.4.2
過去の生産上の課題を生産準備要件
そのため設計開発での支援ツールを構築する場
として部品加工(組立)展開に落とし
合は、こうした相互関係にある業務をいかに効
込む(P-P 表)
率よく進めることのできるツールを構築するか
設計部門で検討された E-P 表を基に生産準備
部門で P-P 表検討を実施する。P-P 表は過去の
が重要である。
開発に要求されるこれらの事柄を実現するた
生産上の課題を重点に、生産方法-工程/重要管
めに、IT 化技術を活用した「設計支援ツール」
理部品/測定方法/品質保証方法/他機種の工程
を構築してきた。このシステムはスキルの高い
能力調査を加味して構成される。規定項目の測
ベテラン設計者の設計手順を標準化し、そのプ
定データは、試作 Model/量産試作/量産の推移
ロセスに従って社内に蓄積された標準/ノウハ
として蓄積する。更に定常生産時の維持管理方
ウデータベース等を効率よく活用して、品質の
法として QC 工程図/X-R 管理図/ロット毎の
高い設計が可能となるよう設計者を支援するシ
抜き取り検査等の管理項目を定めていく。測定
ステムで、設計支援ツール活用により既に設計
結果から工程能力を満たしていれば、抜き取り
の手戻り(設計変更)件数削減に効果が得られ
検査を実施し、工程能力を満たしていなければ、
ている。
全数検査を実施していく(図 7)。
4.4
4.4.3
E-P 表/P-P 表
設計根拠と生産要件の確認を設計部門/生産
E-P/P-P 表の整合と合議
E-P 表/P-P 表の作成にあたっては、設計エン
準備部門と一緒に検討する事がポイントとなる。
ジニアと生産準備エンジニアが早い段階から打
設計部門は、設計の狙い(性能を実現する為に
合せを行い、設計の狙いを記載した E-P 表/生
部 品 に 要 求 さ れ る 機 能 ) を E-P 表
産準備項目を記載した P-P 表に落とし込んで整
(Engineering-Parts List)を用いて部品へ機能
合を計り、両者が E-P 表/ P-P 表の合意を行う
展開する(図 5)
。コンカレント活動としてほぼ
(図 8)。
設計品質
部品品質
部品品質
部品加工法
E-P表
技術/部品
P-P表
部品/加工法
設計部門
生産準備部門
設計品質
部品品質
部品加工法
E-P表/P-P表
合議
4.4.4
設計部門
生産準備部門
れる。
図 5. E-P 表/ P-P 表 概念
Concept for “E-P List” and “P-P” List
10
QC 工程図
P-P 表作成後、出図/型打合せ/型起工/型検査
合格/量産品供給を通じて QC 工程図が作成さ
P-P 表で取り上げた重要寸法/公差が生産の
中で、きちんと加工工程に結びついて押さえら
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
一次機能
説明
故障モード
二次機能
複合一次
機能有無
パラメータ
複合機能
対象
部品名
出図
予定
部番
関連トラブル
(Systemへの影響)
重要度
FMEAとの関連付
設計 製造管理 番号
設計項目
設計狙い値
図 6. E-P 表項目
E-P List Constituent
生産方法-工程
重点管理部品
P-P表対象
品質保証方法
他機種工程能力
生産上の課題 測定方法
測定結果
量産試作
試作
定常維持管理方法
量産
図 7. P-P 表項目
P-P List Constituent
Q C 工 程 図
発行 xxxx年 xx月 xx日
工程名
工程 重要
番号 工程
xx成形
工程名
品 番
機械
設備
管理項目
xxxE xxxxx Kxxx
規格
(作業条件)
管理
水準
株式会社 XX製作所
品名
測定具
xxxx Assy-xxxx
判定者
判 定
管理書類 作業標準書
備考欄
図 8. QC 工程図 項目
QC Process Chart Constituent
れているかがポイントであり、生産準備エンジ
②金型要件
チェックツール
①金型構造の標準化
③樹脂流動解析
ニアが部品メーカーと共に製造品質の作り込み
を行う。
生産設計
4.5
金型設計
⑤金型自動設計
④生産設計支援ツール
高速金型一貫システム
CAM/加工
仕上げ/成形/測定
⑥加工テンプレート
富士ゼロックスは、生産準備領域に於ける開
発期間短縮のキーを、実機試作及び量産の金型
図 9. 高速金型一貫システムを支える技術
Technologies to support Rapid unified
System for Mold Designing and
Manufacturing
部品(特に難易度部品)リードタイムとその出
来映え品質と捉え、内製、高速金型一貫システ
ム構築を戦略的に実施した。
このシステムは、ベテラン設計者・生産技術
4.6
生産準備ナビシステム
者・加工技術者のノウハウ・業務プロセス・過
生産準備ナビシステムは、図 10 に示す 2 つ
去のトラブル知見を徹底的に分析し、設計・生
のシステムから構成され、ベテランに頼らず一
産設計・金型設計・金型加工・型品計測、夫々
定の業務品質が獲得出来ることと進
のプロセスをリードタイムと品質の観点で最適
える化を実現している。
管理の見
システムとして構築、加工面に当っては最新の
高速設備を導入した。
システム構築に当って開発した主な技術(図
生産準備
業務の標 準化
生産準備
工程A
PMS
9)は、①金型構造の標準化、②金型要件チェ
故障解析
原因分析
過去トラ
バンク
対策処置
ードタイムの観点では金型設計・製造の高速化
生産準備
工程F
対策処置と再発防止策の検討
再発防止
スパイラルアップ
レート化)、⑥加工プロセスの半自動化(テンプ
を完成させるフロントローディングの実現、リ
生産準備
工程E
生産準備に対する評価・審査(FMEA、工程能力、・・・)
産設計支援ツール、⑤金型半自動設計(テンプ
ず、出来映え品質の観点では出図前に生産設計
生産準備
工程C
生産準備
工程D
生産準備フェーズゲート監査(仕込みのPMC)
ックツール、③流動解析ツールの自前化、④生
レート化)である。このことでベテランに頼ら
生産準備
工程B
品質を仕込んだ結果
トラブルシート
設計変更
部品品質
求償
再発防止審査(結果のPMC)
再発防止の強化
生産準備工程に関連付け
どの生産準備工程で抑えるか(出来るだけ源流に)
図 10. 生産準備ナビシステム
Manufacturing preparation navigation system
を実現している。
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
11
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
4.6.1
初心者でも一定レベルの業務ができる
ェクト体制で進めた。その中で、前述したフロ
PMS(Process Management System)
ントローディング施策(表1)の進
ナビゲーションの基本は「業務プロセスを明
とフェー
ズゲート管理を定期的に行って来た。現在では、
確にする」ことである。そして業務プロセスを
各製品開発チーム責任者のもとで DWW 運用マ
「作業レベル」まで細かく明確にする必要があ
ネジメントが定着しつつある。又、フェーズゲ
る。A さんと B さん業務品質の差は、属人的な
ート項目は「生産準備ナビシステム」に盛り込
ノウハウ・経験の差に起因している事が課題分
まれており、生産準備ナビシステムデータをベ
析から明確となった。
ースに、設計根拠、生産準備根拠が明確で、狙
業務プロセスの明確化にあたっては、ベテラ
い通り生産準備ができているのか、チェックポ
ンエンジニアのスキルや技術ノウハウを詳細に
イントごとに E-P 表、P-P 表なども活用して審
ヒヤリングし、業務の What の明定(必要業務
議を行っている。
項目の明確化)と How to の明定(業務項目の
業務手順の明確化)を整備(標準化)した。業
務手順はシステムの中で「工程シート」という
形で明文化される。ナビゲーションの基本は業
5. 結果
5.1
フロントローディング指標
務プロセスごとに、この工程シートをエンジニ
図 11 に近年の何世代かの商品について、事
アへ明示することである。初心者でもベテラン
前検討の段階で抽出した課題と実際に試作品を
と同様な質の高い生産準備品質作り込みが出来
作ってから発生した問題の件数の推移を示す。
るプロセスと手順を構築した。
開発トラブル抽出推移
4.6.2
過去トラバンクシステムによる生産
準備プロセス上での再発防止
トラブル項目数
15 00
分布
中心値
12 50
B
10 00
7 50
5 00
2 50
0
Ste p0
過去トラバンクでは、単にドキュメントを登
Ste p2
Step3
Ste p4
D DI
DD I
DDI
DD I
M1 -1
M1- 1
M1 - 1
M1 -1
実機 実機 実機 実機
実機
実機
実機
実機
M1 -1
M1 - 2
M1 -2
M1- 2
SimB1
M1- 1
静的
M1 -2
QET2,3
M1- 2
DVT1
QAT1
M-QAT1
M- QAT1
フロントローディング化
開 発 トラブ ル 抽 出 推 移
1 50 0
トラブル項目数
である。つまり、この情報を次の生産準備の「い
QET1
実機
テスト名
録するだけではなく、
「標準化した生産準備プロ
セスに対して登録する」というのが大きな特徴
D VT1
時間
静的
M1- 1
1 25 0
C
分布
中心値
1 00 0
75 0
50 0
25 0
0
つ、どの作業のときに使うのか」を明確にして
S te p0
Step2
Step3
S te p4
静的
DD I
D DI
DDI
DDI
実機
M 1 -1
M1 -1
M 1- 1
M 1- 1
M 1 -1
Q ET1
実機
時間
M 1 -1
DV T 1
静的
Q AT1
M - Q AT 1
M -Q AT1
実機
実機
実機
実機
実機
M 1- 1
M1- 2
M 1 -2
M1 -2
S im B 1
テ ス ト名
登録する。その作業も、登録文書をプロセスに
フロントローディングの進化
う、非常に直感的に分かりやすいユーザーイン
ターフェースとしている。
トラブル項目数
開発トラブル 抽出推 移
ドラッグ&ドロップするだけで登録できるとい
D
150 0
分布
中心値
125 0
100 0
75 0
50 0
25 0
0
S tep0
S te p2
Ste p3
Ste p4
静的
DD I
DD I
DD I
D DI
実機
M 1- 1
M1- 1
M1 -1
M1 -1
M 1-1
Q ET1
実機
時間
M 1-1 Q ET2
静的
DV T
QA T
M- QA T
実機
実機
実機
実機
実機
M 1- 1
M 1- 2
M1 -2
M1 -2
Sim B1
テ スト名
4.7
富士ゼロックス DWW 運用マネジメ
ント
図 11. フロントローディング化の推移
Change of development front loading
富士ゼロックス DWW の仕組みをシステムと
フロントローディングの進 度合い(5)を分か
して効果的に運用するには、推進と監査するし
りやすく比較できるように数値化し、定量的に
くみが必要である。開発・生産準備プロセスの
表現できるようにした。そのフロントローディ
管理指標のうちフェーズ移行判断する指標をフ
ング指標 FLI(Front Loading Index)は、分布
ェーズゲート項目と呼び、この管理指標の達成
中心値として表し、富士ゼロックス独自の工程
状況・課題・対応策を開発生産準備のプログラ
について各々番号化した重み付けを該当件数に
ムスケジュールに合わせマネジメントすること
乗算し、その合計を該当件数の積算値で除算す
をフェーズゲート管理という。DWW 推進の初
る加重平均的方法によって式1で算出する。
期段階では、役員をトップに、開発・生産準備プ
ロセス改革メンバーを推進事務局にしたプロジ
12
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
n
ω
i
=
∑
ω
i=1
⋅ x
i
て事前抽出が向上した結果、設計変更が 60%低
i
… (1)
n
∑
i=1
x
減し品質向上に貢献している。
また、図 13、図 14 に示すように、開発期間
i
が 40%低減され着実に短縮化、R&D 費用効率
ここで、 xi はデータ、 ωi は重みである。
30%改善の成果が得られている。
商品によって開発の規模に偏りがあるために
しかしながら、魅力ある商品(機能、品質、
値のばらつきがあるものの、デジタル化施策に
コスト)を全事業領域、グローバルに間断なく
よってここ何世代かに渡って課題の事前抽出率
提供するには、更に、飛躍的な商品供給リード
が向上しており、フロントローディングの効果
タイム短縮、品質向上を図る必要がある。
が現れていることがわかる。しかし、試作機で
DWW フロントローディング施策の進化、個
のトラブル(設計変更含む)はまだ残っており
別施策のシームレスな連携など、手戻り無く設
事前刈り取りの前倒しが課題である。
計から生産までの淀みない一貫プロセスの実現
に向けた課題は多い。
5.2
富士ゼロックス DWW 活動の結果
富士ゼロックス DWW 活動の結果、図 12 は
設計変更の推移を示す。デジタル化施策によっ
6. 成果のまとめ
富士ゼロックスの開発生産プロセスの課題、
開発生産プロセスのあるべき姿と取り組み、開
発生産準備プロセス改革「富士ゼロックス
60%削減
DWW: Fuji Xerox Digital Work Way」を説明
した。フロントローディング化に向けた各施策
による効果は、①FMEA:設計根拠明確化と事
前品質作りこみ、手戻りしない設計や未然防止
A
B
C
D
図 12. 設計変更の推移
Design request result
設計に対し設計根拠明確化と事前品質作りこみ
に役立つ、②Simulation/CAE:バーチャル設計
品質の作り込みとメカニズム検証、試作費低減
が可能、③設計支援システム:設計手順や KH
などを参照して設計根拠を確認しながら設計・
40%削減
検図した結果、支援領域で設計変更が 1/10 以
下、④EP/PP:設計品質に対する確実な部品品
質が作り込め、量産段階で安定した部品品質が
確保できる、⑤生産準備ナビ:熟練エンジニア
A
B
C
D
図 13. 開発期間の推移
Development period result
の業務手順を詳細に手順化・標準化することに
より設計・生準品質の向上、効率化、技術蓄積
が可能、⑥高速金型一貫システム:内製金型に
よるリードタイムの短縮、コスト削減に貢献、
30%削減
⑦富士ゼロックス DWW 運用マネジメント:開
発フェーズでの進
達成状況を管理し課題への
対応が適正であることを明示、生産準備の手戻
りを最小限にできたことである。
これらの結果、「開発生産力/効率」改革の改
A商品
D商品
善指標である①開発期間 40%短縮、②設計変更
率 60%改善、③R&D 費用効率 30%改善の成果
図 14. R&D 費用
Expense of research and development
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
が得られた。
13
特集
富士ゼロックスのモノ作り革新技術
7. むすび、課題と展望
富士ゼロックスの『開発生産力/効率』改革活
(5) 富士通・日本発ものづくり研究会 . 「モノ
を作らないものづくり」-デジタル開発で時
間と品質を稼げ- . 日科技連 . 2007
動の重点施策を中心に述べてきたが、大別する
とその核は、3D-CAD を起点とした『開発プロ
セス改革』と『生産技術プロセス改革』であり、
手戻り撲滅を狙いとした品質作り込みと開発及
び生産準備の期間短縮を狙いとして活動を展開
し、一定の成果を得ることが出来た。
課題としては、ここに述べてきた個々の領域
に於けるプロセスの仕掛や構築してきたシステ
ムは、いわゆる部分最適または個別最適であり、
これらをシームレスに一気通貫させる全体最適
化(新 PDM/PLM の構築)を加速し、更なる『開
発生産力/効率』へ結実させることが重要となっ
てくる。
また、今後の展望としては、より良い商品をタ
イムリーにお客様へお届け出来るよう、ここに述
べてきたものづくり技術・仕組みの拡大・拡充を
継続し、更には、設計領域の半自動設計(テンプ
レート設計)強化、メカ・エレキ・ソフト連携技
術などベンチマークレベルの開発生産準備プロ
セス改革に取り組んでいく所存である。
参考文献
(1) 東
正則監修 . IBM ビジネスコンサルテ
ィングサービス「ものコトづくり」企業革
新セミナー講師グループ . 『ものコトづく
り 製造業のイノベーション』 . 日経 BP
社 . 2006
(2) 富士ゼロックスの「グローバル生産へ向け
た設計-金型一貫システムの実現」 . 第2
1回日本生産管理学会全国大会「世界同一
品質・同時立上げと生産管理」 . 2005 年
筆者紹介
3 月 12 日発表
相模 靜夫
(3) Fabrycky, W. J; Blanchard, B.S. Life-Cycle
Cost and Economic Analysis, Prentice Hall
高橋 正弘
International and Series in Industrial and
商品開発本部 プロセス イノベーション部に所属。
専門分野:機械工学
Systems Engineering, 1991,352p.
(4) Don P. Clausing . 訳者 富士ゼロックス
TQD 研究会
(相模靜夫他).「Total Quality
Development 品 質 ・ 速 度 両 立 の 製 品 開
発」 . 日経 BP 社 . 1996
14
商品開発本部 プロセス イノベーション部に所属。
専門分野:精密機械工学
稲垣 悟
モノ作り技術本部に所属。
専門分野: 機械工学
花坂 一茂
生産本部 生産準備部に所属。
専門分野:機械工学
富士ゼロックス テクニカルレポート No.18 2008
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