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熱応力解析への 形状最適化手法の応用
1.4 熱応力解析への 形状最適化手法の応用 仕様決定 基本設計 許容応力 以下? 構造計算 yes 熱応力解析 製造 (a)従来型の設計プロセス 仕様決定 基本設計 最適化 温度分布 データ 製造 制約条件:重量 目標:応力最小化 図1.製品開発における強度設計プロセス−従来の設計プロセスは繰り 返し試行錯誤が必要でしたが,最適化プロセスでは短時間に最適解を得ら れます。 中圧タービン 図3.形状最適化手法を応用した熱応力解析−まず,熱伝導解析により 求めた温度分布を基に熱応力解析を行い,次に,熱応力と内圧による応力 の合計が最小となるように表面形状を最適化します。 基本形状: 重量 100 % 援エンジニアリング(CAE)システムをベースとした構 設計における シミュレーション技術 廃却・ リサイクル 上流設計 DMU 蒸気弁 内圧 PDM 温度:高 温度:低 内圧 熱応力:大 熱応力:小 内圧による応力:小 内圧による応力:大 図2.構造物形状と応力の関係(蒸気弁の例)−蒸気弁は,タービンの 蒸気入口部に配置され,発電量に応じて高温蒸気の流量を制御します。この 部品の肉厚が厚いと,内圧による応力は小さいが熱応力が大きくなり,肉厚 が薄いとその逆になります。形状最適化手法により,これらの応力の和が 最小となる構造を求めることができます。 ともできます。火力発電システムを構 に,内外面の温度差による熱応力と蒸 成する高温機器においても,最適化手 気による内圧に常にさらされています。 CAD/CAM CAE ・強度シミュレーション ・製造シミュレーション ・経年劣化 シミュレーション 最適化形状:重量 90 % 最適化形状:重量 85 % 図4.一体型蒸気弁の形状最適化の結果−基本形状に対し重量が 90 % 及び 85 %となった場合について,応力が最小となる形状を求めました。 を最小化する表面形状を求めています。 形状情報 DB 構成情報 DB 属性情報 DB 最適化システム ・形状最適化 ・寸法最適化 ・位相最適化 DB:データベース 図6. DE システムの概要−製品試験を仮想的にシミュレーションし, 上流設計に反映させるシステムが実現しつつあります。 肉厚が薄くなりすぎたために,許容応 各ステップで起こりうる現象や問題を 力を超えることが明らかとなりまし あらかじめ評価するという,デジタル た。この結果から,応力を許容応力以 エンジニアリング(DE)が可能となり 火力発電機器の主蒸気止め弁・加減 下に抑えるとともに,重量を 10 % 低 ます。今回,強度シミュレーションにより 形状最適化例 法が取り入れられています。これらの 機器の肉厚が厚い場合には,内圧に 近年,設計の現場では,従来の経験 機器は,高温環境下で使用されること より発生する応力は小さいのですが, に頼る設計手法に代わり,コンピュー もあり,熱応力や経年劣化・損傷を考 内面と外面の温度差が大きくなるので 弁一体型蒸気弁の開発にこの形状最適 減できる形状を達成することができま 熱応力を計算し,最適化を行いました。 タ支援エンジニアリング( CAE )シス 慮した最適化が必要となっています。 熱応力が大きくなり,肉厚が薄い場合 化手法を適用した例を図4に示しま した。このような熱応力問題を考慮し 製品ライフサイクルの各ステップを評 テムを活用した合理的な設計手法が取 東芝は,熱応力を最小化するための には,その逆の大小関係となります。 す。蒸気弁には蒸気を遮断するための た最適化解析は,火力発電機器の蒸気 価するためには,このほかに,製造シ り入れられています。 形状最適化技術を開発し,火力発電機 機器の形状が複雑になった場合,肉 止め弁と蒸気量を調整する加減弁があ タービン高中圧ケーシングなどにも適 ミュレーション技術や経年劣化のシ 器の信頼性向上とコスト競争力強化を 厚をどの程度にすれば熱応力と内圧に り,一体型蒸気弁はこれらを一体化し 用しています。 ミュレーション技術が不可欠です。その 進めています。 よる応力の合計が最小となるか,経験 たものです。この解析例では,従来の 的に最適解を得るのが困難でした。そ 設計手法により求めた基本形状を重量 こで,新たに熱応力問題に対する最適 100 % としています。これに対し,重 せることにより,最適設計形状を得る 形状最適化手法を応用した 熱応力解析 化解析手法を開発しました。その手法 量制約を 90 % ,85 % とした場合の 最近では図6に示すように,CAD/ 試みもなされています。図1には,強 火力発電機器の熱応力問題の多くは, を図3に示します。これは,コンピュー それぞれについて,応力が最小となる CAM(コンピュータ支援による設計・ エネルギー機器のいっそうの信頼性向 上とコスト競争力強化を目指します。 CAE システムにおいては,強度評 価シミュレーションや製造シミュレー ションの開発が進められています。ま た,これらと最適化手法とを組み合わ 70 運転・ メンテナンス 製造 (デジタルモックアップ) などの高温環境下で使用される機器については,温度分 術を開発し,高信頼性とコスト競争力を両立しました。 設計 主蒸気 造最適化設計が進められています。特に,火力発電機器 東芝は,高温エネルギー機器を対象に形状最適化技 85 90 基本形状との重量比率(%) 図5.形状最適化後の応力値−発生する応力を許容応力以下に抑えると ともに,重量を 10 %低減できる形状を達成することができました。 企画 います。そのために,近年発達の著しいコンピュータ支 最小化するための形状最適化が課題となっています。 0.8 100 (基本形状) いては,高信頼性とコスト競争力の両立が必要となって 下するという問題があります。そのため,この熱応力を 1.0 高圧タービン エネルギー機器に代表される大型構造物の設計にお 布や熱膨張差により熱応力が発生し,機器の信頼性が低 1.2 0.6 熱伝導解析 (b)最適化を含めたプロセス 高温エネルギー機器の形状を 最適化するシミュレーション技術 形状 データ 表面形状 最適化 許容応力比 no 試行錯誤 ために当社は,溶接などの熱加工や高 いっそうの高信頼性と コスト競争力強化を目指して 度設計における従来型の設計プロセス 熱応力と,蒸気などの圧力により発生 タにより,与えられた制約条件の下で 形状を最適化解析により求めました。 製造)システムや PDM(製品情報管理) と最適化を含めたプロセスの比較を示 する応力とが重畳した問題となります。 様々に表面形状を変化させて,所定の また,それぞれの形状において発生す システムとともに,仮想的な製品試験 します。最適化手法を取り入れること 蒸気弁を例に,高温機器の形状と応力 目標を達成するように表面形状の最適 る応力の許容応力に対する比を,図5 体( DMU :デジタルモックアップ) により,従来の試行錯誤よりも時間と の関係を図2に示します。弁の内部に 化を行うものです。ここでは,重量を に示します。重量 90 % の場合は許容 システムが提案されています。DMU コストが節約でき,最適な解を得るこ は,高温・高圧の蒸気が流れているため 制約条件とし,その重量において応力 応力を満足し,一方,85 % の場合は を使うことで,製品ライフサイクルの 東芝レビュー Vol.61 No.2(2006) 熱応力解析への形状最適化手法の応用 温劣化のシミュレーション技術を開発 しています。今後,このような技術と 最適化手法を組み合わせることにより, 中谷 祐二郎 電力・社会システム社 電力・社会システム技術開発センター 金属・セラミックス材料開発部主務 71