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三角合併の解禁とコーポレート・インバージョン対策税制

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三角合併の解禁とコーポレート・インバージョン対策税制
平成 22 年 4 月 1 日現在の法令等に準拠
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三角合併の解禁

租税条約の届出書
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三角合併の解禁とコーポレート・インバージョン対策税制
平成 19 年 5 月 1 日から合併対価の柔軟化により三角合併が解禁され、その課税関係も明確化されました。平成
19 年 4 月に、財務省が財務省令第 33 号で合併時の課税繰り延べを認める条件を発表しています。
従来の税制では、消滅会社株主に存続会社株式以外の資産が交付されないことを前提に、一定要件を充たした適
格合併でなければ課税繰延べは認められていませんでした'法法 2①十二の八、62 条の 2①(。つまり適格合併で消
滅会社が存続会社に資産・負債を移転した場合は、簿価引継ぎをしたものとして譲渡損益を計上する必要はなく、課
税繰延べが認められていました。したがって、従来は、現金や親会社株式を対価とする三角合併が行われた場合、
非適格合併に該当しました。三角合併とは、会社を合併する際、消滅会社の株主に対して、存続会社の株式ではな
く親会社の株式'海外親会社の株式でも可能(を交付して行う合併のことです。このため、消滅会社の株主にみなし
配当課税と株式譲渡益課税が、消滅会社に資産の譲渡益課税が生じるため三角合併が利用しにくいという意見が
経済界から出されていました。 そこで財務省は、共同事業要件を満たす合併の課税繰延を認める条件を制定しまし
た。その概要は、以下の通りです'法令 4 条の 2④一、法規 3、事業関連性要件(。
A:買収される消滅会社と外国企業の子会社が三角合併の直前に、それぞれ次の要件のすべてに該当すること
① 事務所、店舗、工場その他の固定施設を所有し又は賃借していること
② 従業者があること
③ 自己の名義をもって、かつ、自己の計算において次に掲げるいずれかの行為をしていること。
・商品販売等
・広告宣伝による商品販売等に関する契約の申込み又は締結の勧誘
・商品販売等を行うために必要となる市場調査
・商品販売等を行うに当たり法令上必要となる行政機関の許認可等の申請又は当該許認可等に係る権利の保有
・知的財産権を取得するための出願若しくは登録の請求等
・商品販売等を行うために必要となる資産の所有又は賃借
B:買収される消滅会社と外国企業の子会社が合併直前において次に掲げるいずれかの関係があること。
・消滅会社と存続会社の事業が同種であること
・消滅会社と存続会社の、事業にかかる商品、資産若しくは役務又は経営資源が同一又は類似であること
つまり外資企業が日本に単なるペーパーカンパニーを設立して合併する場合でも、事業開始の準備であるため上
記 A の③の要件を満たし税制適格となります。日本に製造拠点を持たない外国企業であっても、他の要件を充たせ
ば課税繰延が認められることになります。 上記の実務においては、国税庁の質疑応答も参考になります'共同事業を
営むための組織再編成に関する Q&A~事業関連性要件の判定について~ 平成 19 年 4 月(。
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そして平成 20 年になり、三角合併'正確には三角株式交換(を利用した国際的 M&A 案件第 1 号として、米国法人
C グループによる日本法人 N 社の買収が実施されました。 また、G ホールディングは米国 S 社と三角株式移転方式
で経営統合を発表しています。他方、日本企業が海外子会社を利用して外国企業を三角合併することもできます。
海外子会社に三角合併のために親会社株式を保有させることができるからです'会施規 23①八(。これからは、イン
バウンドの三角合併だけではなく日本企業が外国企業を吸収するアウトバウンド取引が増加する可能性もあります。
1.会社法上の手続き
会社法でも旧・商法と同様に、子会社による親会社株式の取得は原則禁止とされています'会 135①(。しかし、合
併等で合併消滅会社の株主に交付するための親会社株式の取得は例外的に許容されています'会 800①(。そして、
三角合併の手続は、通常の吸収合併の手続と同じです。すなわち、合併契約書の締結には両社の取締役の承認が
必要であり、さらに、株主総会の特別決議が必要です'会社法 309②十二(。ただし、一定の場合には特別決議より要
件の厳格な特殊決議を求めています'会 309③二、三(。
なお、平成 19 年 4 月 25 日に交付された法務省令第 30 号は、会社法施行規則 182 条を改正し、消滅会社の事
前開示事項として、以下の 3 点を挙げています。
①合併対価の相当性に関する事項
②合併対価について参考となるべき事項
③存続会社の財務状況に関する事項 等
2.設例
内国法人間での三角合併での設例を、以下に示します。
①資本関係のない内国法人の X 社と Y 社が合併する。合併消滅会社は、Y 社。
②合併に際して X 社は Y 社株主に、A 社株式 5 百万株を交付する'A 社は X 社の 100%親会社で、上場企業(。
③X 社は以下の方法で、Y 社株主に交付する親会社 A 社株式を取得する。
・5 百万株:合併契約締結後に、親会社の第三者割当増資を引き受けて取得'時価@1,500 円×5 百万株=7,500 百万円(。
④X 社は 3 月決算法人。合併契約の締結日は平成 22 年 2 月 1 日。合併期日は平成 22 年 4 月 1 日。
なお、平成 22 年 4 月 1 日時点での A 社の市場時価は@1,600 円。
⑤会計上は、取得に該当すると判定される。税務上は、共同事業要件を満たすため適格合併に該当する。
⑥ターゲット会社 Y 社の合併最終事業年度の貸借対照表は、以下の通り。簿価=時価と仮定する。
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・Y 社貸借対照表
'金額単位:百万円(
諸資産
12,000
諸負債
8,000
資本金
1,000
利益剰余金
3,000
純資産
総資産
12,000
負債・純資産計
4,000
12,000
3.会計処理
X 社の平成 22 年 4 月 1 日時点での合併に係る会計処理は、以下の通りです。
諸資産'時価(
のれん
12,000
4,000
諸負債'時価(
8,000
親会社株式'A 社株式(
7,500
親会社株式売却益
500
会計上は取得に該当するため、Y 社の資産負債を時価'この設例では簿価と同じと仮定(で取得します。X 社は、Y
社株主に交付した親会社株式の簿価 7,500 百万円と合併期日の時価 8,000 百万円の差額 500 百万円を損益に計
上します'企業結合適用指針 第 81、389 項(。なお、親会社 A 社の連結財務諸表上は、この損益は資本取引として
自己株式処分差額に振り替えます。のれんは、時価純資産 4,000 百万円と取得対価である親会社株式時価 8,000
百万円の差額で計上されます。
4.税務処理
合併期日の平成 22 年 4 月 1 日時点での X 社の税務処理は、以下の通りです。
諸資産'簿価(
12,000
資本金等の額
6,500
諸負債'簿価(
8,000
親会社株式'A 社株式(
7,500
利益積立金
3,000
適格合併の場合は、X 社は Y 社の資産負債を税務簿価で引き継ぎます'法法 62 条の 2①、法令 123 条の 3(。ま
た、純資産のうち利益積立金は Y 社のものをそのまま引き継ぎます'法令 9①二(。合併で増加する資本金等の額は、
その差額で計上されます'法令 8①五(。
※増加・資本金等の額
=税務上の簿価純資産-合併受け入れで増加した資本金-被合併法人の利益積立金-交付した親会社株式の簿価
=4,000 百万円-0 円-3,000 百万円-7,500 百万円=▲6,500 百万円
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5.申告調整
資本金等の額
6,500 利益積立金
親会社株式売却益'利益積立金(
3,000
500 のれん
4,000
※会計上の資産であるのれんは、税務上は認識されず簿外資産となります。
6.平成 23 年 3 月期の別表四、五の記載例
<別表四>
区分
総額
留保
①
②
当期利益
社外流出
③
500
加算
減算
親会社株式売却益
500
仮計
500
-
-
0
<別表五(一)>
Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分
期首利益積立金
期中増減
減少
期末
増加
利益準備金
親会社株式
500
500
のれん
資本金等の額
繰越損益金
▲4,000
▲4,000
6,500
6,500
500
500
Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書
区分
期首資本金等の額
期中増減
減少
期末
増加
資本金
資本準備金
利益積立金
▲6,500
▲6,500
会計上では、PL 経由で利益剰余金が 500 百万円増加します。税務上では、BS で直接利益積立金が 3,000 百
万円増加します。このため、別表四では親会社株式売却益を無いものとして減算します。別表五'一(のⅠでは、別
表四を経由しない調整が生じます。申告ソフトの仕様上エラーが出る場合は、強制入力処理するか最初から別表四
で減算・社外流出項目とします。
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7.参考
「国内法人の利益を海外のタックスヘイブン親会社に吸収させて非課税にしたい、三角合併で香港やケイマン
SPC でできないか?」という租税回避行為を防止するために、課税当局が税制改正で対応しています。平成 19 年度
税制改正により、クロスボーダーの一定の三角合併は税制非適格とされ簿価繰延が出来なくなり、株主にも譲渡益課
税されるようになりました'措置法 68 条の 2 の 3①、68 条の 3(。この規定は、平成 19 年 10 月 1 日以後に行われる合
併等または平成 19 年 10 月 1 日以後に外国法人を通じて内国法人の持分の 80%以上を保有する場合について適
用されます。
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租税条約の届出書
租税条約とは、①国際的租税回避を防止する目的と、②国際的二重課税を排除する目的、③資本投資促進目的
で締結されるものです。平成 19 年 11 月現在で、日本政府は 56 カ国の政府・地域で適用しています。シンガポール
や中国と違い、日本政府は香港やマカオ・台湾と租税条約を締結していません。
国際的な源泉所得税の軽減策としては、日中租税協定 12 条や日米租税条約 22 条の届出の利用が検討できます。
これは、外国法人に支払う際の配当やロイヤリティーの源泉徴収所得税を免除や軽減するための手続です。外資系
企業が日本に子会社や支店で進出する場合にも必須の手続です。技術指導料や特許実施料をライセンサーに支払
う際の源泉所得税を軽減することが出来ます。具体的には、以下のような租税条約に関する「届出書」を事前に提出
します'租税条約特例法 3 条の 2(。
①配当に対する所得税の軽減・免除'様式 1(
②利子に対する所得税の軽減・免除'様式 2(
③使用料に対する所得税の軽減・免除'様式 3(
支払を受ける日の前日までにこれらの届出書を税務署へ提出していないと、使用料の場合は支払者に 20%の源
泉徴収義務があります。配当の場合は、非上場会社なら 20%、上場会社なら 7%の所得税の源泉義務があります。リ
カバリー策としては、後日でいいので「租税条約に関する届出書」とセットで「租税条約に関する源泉徴収税額の還
付請求書'様式 11(」を支払者経由で税務署に提出します。そして、軽減又は免除の適用した場合の源泉徴収税額
との差額を、還付請求できます。
還付請求における注意事項
①届出書を提出しなかったために源泉徴収された所得税のうち、租税条約に基づき軽減又は免除される金額について還付請求する場
合は、「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書」に「租税条約に関する届出書」と支払内容が確認できる書類の写し'例えば、使
用料の場合は契約書のコピー(等を添付します。また、還付金は原則として、申請者=非居住者に返金されます。ただし、代理人によって
還付金を受領することもできます。その場合、委任状とサイン証明書'大使館の証明(又は印鑑証明書、これらの翻訳文の添付が必要とな
ります。
②特典制限条項'LOB、Limitation on Benefits(が租税条約にある場合
平成 22 年 6 月現在、日本は米国・英国・フランス・オーストラリア・スイスとの租税条約で特典制限条項を設けています。租税条約で所得
税の免除を受ける場合は、「特典条項に関する付表'様式 17(」と相手国の課税当局が発行する「居住者証明」が必要になります。
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本レターに掲載している情報は、一般的なガイダンスに限定されています。この文書は、個別具体的ケースに対する会計・税務のア
ドバイスをするものではありません。会計上の判断や税法の適用結果は、事実認定や個別事情によって大幅に異なることがありえます。
また、解説の前提となる会計規則や税制が変更されている可能性もあります。実際に企画・実行される場合は、当事務所の担当者にご
確認ください。
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