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北海道の自然学散歩
北海道の自然学散歩-12 北海道の自然学散歩- 12「北海道の湿原 12「北海道の湿原事情 「北海道の湿原 事情」 事情 」 北海道は湿原 の宝庫です。しかも多くの湿原が海岸線に沿って全道各地に広がって点在し ており、その面積は日本の湿原の 80%を占めています。また 1ha(100×100m)以上の面積を有す る主な湿原は 100 ヶ所以上もあり、その保存状態もおおむね良好です。 下図は北海道で湿原の保護を目的とするラムサール条約 に登録されている湿地の場所を示す ものですが、現時点では 13 ヶ所あり、代表的なものは釧路湿原やサロベツ原野などです。 では湿原はどの様な経緯を辿って形成されたのか、海岸周辺の湿原を例に挙げて説明します。 北海道は中央脊梁山脈群及び各地の火山群を除いて、ほぼ平野か丘陵で占められており、特に海 岸部は平野が広がっています。 6,000~4,000 年前の間氷期には、いわゆる縄文海進と呼ばれる海水面上昇に依って、大部分の低 地は内陸部まで内湾になっていました。その後 3,000 年前頃からの海退に伴って、内陸からの土 砂の供給と海流によって湾口部に砂州が発達します。やがて内湾は海と切り離されて汽水化され、 徐々に淡水湖となって行きます。この段階で現存している代表例はオホーツクのサロマ湖であり、 ここもやがて淡水化され最終的には湿原に変化して行く運命にあります。 特に北海道東部や北部の海岸にはこの様にしてできた湖や湿原が多数存在しているのです。 水深の浅い淡水湖はヨシやスゲなどの水生植物が繁茂し、それらが枯死しても低温の為分解さ れず水中に堆積して泥炭 となります。この段階の状態を低層湿原と呼びます。 やがて泥炭が積み重なって表面が陸化されるとミズゴケ類が繁茂してきてエゾゼンテイカ等の湿 原特有の美しい草花が咲き乱れる高層湿原に変化します。 長い時間を掛けて堆積した泥炭層は厚い所で 3~8mもの炭層ができることがあります 所で、かつて北海道にはとてつもなく広大な湿原が存在していたのですが、それは石狩川の周 辺に点在し、今では幻となった大湿原「石狩泥炭地」です。 明治政府は現在の釧路湿原の 3 倍もの面積を持つこの泥炭地(約 6 万 ha)の開拓を最優先にして 取り組み、農地化を推し進めてきたのですが、地中の厄介な泥炭の処理に手を焼いたのです。 ふかふかの泥炭地のままでは耕地にならず、重機が無い時代にこれを除去して遠くから客土を運 んでくるには多大な労力が必要で、その苦労は筆舌に尽くし難いものだったに違いありません。 結局この壮大な事業は昭和 40 年前半まで、実に 100 年間の歳月を費やして継続実施され、この地 の湿原はわずかな学術保護区を残してほぼ完全に消滅したのでした。 湿原は水鳥などの生息地として重要な役目を果たしており、同時に貴重な湿原植物の生育地と して守って行かねばならない数少ない場所です。また、湿原から海に流入する有機鉄イオンが、昆 布類の生育やカキ養殖の重要な成分であることはあまり知られていない事実なのです。 一方、湿原の周りには牧畜業を営んでいる人たちがいて、その暮らしも大切にしなければならな い訳であり、上記条約で提起されている環境保護と開発の両方を調和させる「Wise use」(賢明な 利用)を今後とも推し進めてゆく事が肝要であろうと考えます。 そこで次回では、釧路湿原・サロベツ原野の個々の事情について述べて行きます。 夏の低層湿原(サロベツ原野)