...

学校経営過程研究における方法論の考察

by user

on
Category: Documents
23

views

Report

Comments

Transcript

学校経営過程研究における方法論の考察
学位論文(博士)
学校経営過程研究における方法論の考察
―ミドル・アップダウン・マネジメントを視座とした M-GTA による分析―
畑中
大路
HATANAKA, Taiji
2013 年度 九州大学大学院人間環境学府
学校経営過程研究における方法論の考察
―ミドル・アップダウン・マネジメントを視座とした M-GTA による分析―
目次
序章
本論の目的
第1節
・・・1
学校経営研究の分析視角
・・・1
第1項
学校経営組織研究の到達点
2
第2項
学校経営過程研究の到達点
5
第3項
学校経営研究の課題
7
第2節
研究目的と分析視座
・・・7
第1項
研究目的
7
第2項
分析視座
8
第3節
第1章
本論文の構成
・・・9
ミドル・アップダウン・マネジメント概念の整理
第1節
本論におけるミドル教員の特定
・・・11
・・・11
第1項
ミドル教員としての主任・主事
12
第2項
ミドル教員としての「新しい職」
12
第3項
ミドル教員としての中堅教員
13
第2節
ミドル教員へ期待される役割
・・・13
第1項
ミドル論の萌芽
15
第2項
「マネジャー」としての認識
16
第3項
「リーダー」としての期待の萌芽
17
第4項
ミドル・アップダウン・マネジメントへの期待の高まり
18
第3節
ミドル・アップダウン・マネジメントの出自と概要
・・・19
第1項
一般経営学理論としての組織的知識創造
20
第2項
ミドル・アップダウン・マネジメント研究の課題
22
i
第2章
「運動会の運営」にみる学校経営過程
第1節
―ミドル・アップダウン・マネジメントの実際(1)
・・・27
分析対象及び研究方法
・・・27
第1項
A小学校の属性
27
第2項
Az 教諭の特徴
28
第3項
研究方法
29
事例の実際
・・・30
第2節
第1項
課題の認識
30
第2項
一時観覧席設置
32
第3項
全校舎開放
36
第3節
第3章
考察
・・・42
校内授業研究の継続にみる学校経営過程
―ミドル・アップダウン・マネジメントの実際(2)―
第1節
分析対象及び研究方法
・・・45
・・・45
第1項
E小学校の属性
45
第2項
調査協力者およびデータ収集方法
45
第3項
研究方法
47
事例の実際
・・・47
第2節
第1項
「自己肯定感」研究の開始
47
第2項
「交流タイム」の導入
48
第3項
「交流タイム」の修正
53
第3節
第4章
考察
・・・58
学校経営過程研究と M-GTA の適合性
・・・60
第1節
先行研究の検討
・・・60
第2節
M-GTA の特徴
・・・62
第1項
GTA の基本的特徴
62
第2項
GTA の種類
64
ii
第3節
M-GTA を用いた分析の手順
・・・66
第1項
研究テーマおよび分析テーマ、分析焦点者
66
第2項
分析ワークシート
67
第3項
理論的飽和化
69
第5章
M-GTA を用いたミドル・アップダウン・マネジメントプロセスの分析
・・・71
第1節
調査協力者及びデータ収集方法
・・・71
第2節
分析結果
・・・76
第1項
分析結果の概要
76
第2項
アイディアの発案
77
第3項
アイディアの発信
79
第4項
抵抗感の存在
81
第5項
アイディアの実現
82
第6項
二つのコミュニケーション
84
第7項
アイディア実現への原動力・手段・目的
86
第3節
終章
考察
・・・88
第1項
分析結果を用いた各事例の描写
88
第2項
分析結果の含意
92
本論の成果と課題
・・・95
第1節
各章の要約
・・・95
第2節
本論の成果
・・・97
第3節
本論の課題
・・・99
引用・参考文献
・・・101
資料
・・・113
分析ワークシート
iii
序章
本論の目的
近年の学校経営研究は、学校経営過程を捉える方法論を模索している。その
背景には、断続的に実施された自律的学校経営を志向した制度改革がある。
1990 年 代 以 降 に な さ れ た 上 記 改 革 に よ り 、各 学 校 が 自 律 的 学 校 経 営 を な し う
る 基 盤 は 整 い つ つ あ る と い え 、そ の 実 態 を 探 る 研 究 も 行 わ れ て き た( 河 野 2004
な ど )。し か し 一 方 で 、制 度 上 の 改 革 は 進 む も の の 、各 学 校 は 未 だ 自 律 に 至 る 道
筋を模索しており、また学校経営研究も「個々の学校はどう「自律」しうるの
か 」( 浜 田 2004: 6) と い う プ ロ セ ス を 示 す こ と が で き ず に い る 。
本論の研究目的はこの学校経営研究が課題とする研究方法論の検討にある。
第1節
学校経営研究の分析視角
かねてより学校は、環境の不確実性や業務の複雑さ等を理由にフラット型及
び マ ト リ ク ス 型 の 組 織 構 造 を 採 用 し て き た ( 浅 野 2008 )。 ま た 学 校 組 織 は
Weick( 1982)が 提 示 す る よ う に 、教 育 の 目 標 や 教 師 が 用 い る 技 術 の 不 明 確 性 、
管 理 職 が 多 数 の 教 師 を 相 手 に す る と い う 統 制 範 囲( span of control)の 大 き さ 、
監督と評価の機能しづらさという特徴ゆえ、組織構成要素がゆるやかに結びつ
いた疎結合構造(ルース・カップリング)の状態をとるといわれている(佐古
2011)。 上 記 論 稿 か ら 読 み 取 れ る よ う に 、 学 校 経 営 は 教 師 の 自 律 的 な 教 育 活 動
を中心になされる複雑なプロセスであり、高野はかつて、上記特徴を持つ学校
経営を捉える分析視角の一つとして「学校経営過程論」を提示した。
(学校経営過程論とは:筆者注)学校やその他の教育機関の経営という有機
的な教育組織体の営みの総体を、大きく静態的局面としての組織構造と、動
態 的 局 面 と し て の 過 程 構 造 に 分 か つ と き 、い わ ゆ る 後 者 の 組 織 体 の 機 能 過 程 、
運行(営)過程または経営展開過程に関する理論のことである。これは戦後
の教育経営分析を飛躍的に前進させる役割を果たした分析視角といってよい
が、通常、経営過程論というときは、経営組織論という用語と対蹠的に用い
ら れ る ( 高 野 1986a: 281)。
上記のように、高野は学校経営を組織構造と過程構造の二側面から捉えてい
る 。そ し て 当 時 の 学 校 経 営 研 究 は「 と も す れ ば 組 織 論 の み が 重 視 さ れ る き ら い 」
( 高 野 1980a: 22) が あ る と 指 摘 し 、「 組 織 を ど の よ う に 運 営 す れ ば よ い か の
1
過 程 的 技 術 を 考 え る 」( 高 野 1980a: 22) こ と の 重 要 性 か ら 学 校 経 営 過 程 論 へ
着目したのである。
高野による指摘から数十年が経過し、また自律的学校経営の在り方が探られ
る現在、学校経営における組織構造と過程構造に関する研究はいかに蓄積され
ているのであろうか。以下ではその到達点について考察する。
第1項
学校経営組織研究の到達点
(1)静態的局面への着目
現在の自律的学校経営を志向した改革は、戦後三つめの段階にあるといわれ
る。一つ目は、戦後まもなく行われた、学校経営における教職員の共同決定や
教 育 研 究 協 議 会 設 置 の 推 奨 、教 育 指 導 者 講 習 会( IFEL)の 実 施 、教 育 委 員 会 法
の 制 定 な ど を 通 じ 、「 経 営 原 理 や 組 織 化 へ の 自 覚 が 素 朴 な が ら も 見 え は じ め た 」
( 中 留 1982: 160) 改 革 で あ っ た 。
二つ目は、教育委員会法の廃止と地方教育行政の組織及び運営に関する法律
の制定に代表される改革である。この改革は「教育経営機能を学校から行政の
側に移し、もしくは行政の側に吸収していくプロセス をスタートさせた改革」
( 小 島 1996:8)と し て 評 価 さ れ て お り 、戦 後 教 育 改 革 で 拡 大 さ れ た 学 校 の 自
主性を制限、縮小するものと捉えられている。この一連の改革を背景として、
教育行政からの学校の相対的な自律を目指した「教育経営」概念への注目がな
されることとなり、この後、教育経営主体は教育行政であるか、学校であるか
と い っ た 議 論 が な さ れ る よ う に な る ( 南 部 2008)。
そ し て 1990 年 代 以 降 に な さ れ た 地 方 分 権 改 革 と 規 制 緩 和 に よ り 、 学 校 教 育
を取り巻く環境は大きく変わり始める。これが戦後行われた三つめの学校経営
改 革 で あ る 。1995 年 6 月 の 地 方 分 権 推 進 法 制 定 後 、中 央 教 育 審 議 会 か ら 出 さ れ
た 答 申 「 今 後 の 地 方 教 育 行 政 の 在 り 方 に つ い て 」( 1998 年 9 月 ) で は 、 教 育 委
員会と学校の関係、学校の自主性・自律性など地方教育行政全般の見直しが言
及 さ れ て い る ( 小 川 1998: 8-63)。こ の 答 申 を 契 機 と し て 、① 学 校 へ の 教 育 委
員会の権限の委譲、②学校内部組織の再構築、③学校教育における公共性保障
を目的とした保護者・住民の学校経営参加という、学校経営の自律性確保の要
件 ( 堀 内 2005) に 関 す る 改 革 が 実 施 さ れ た 。 こ の 三 つ の う ち 特 に 学 校 経 営 組
織研究に関するものとしては、
「 ② 学 校 内 部 組 織 の 再 構 築 」を あ げ る こ と が で き
る。
上記改革は、自律的学校経営に求められる校長の権限拡大を目的とするもの
で あ る 。そ の 一 つ に は 、職 員 会 議 を「 校 長 の 職 務 の 円 滑 な 執 行 に 資 す る 」
(学校
教 育 法 施 行 規 則 第 48 条 ) も の と し た 、 職 員 会 議 の 補 助 機 関 化 が あ る 。 職 員 会
2
議 を め ぐ っ て は 、 以 前 か ら 「 学 校 の 議 決 機 関 」、「 校 長 の 諮 問 機 関 」、「 校 長 の 補
助 機 関 」と 見 解 が わ か れ 議 論 さ れ て き た が 、2000 年 の 学 校 教 育 法 施 行 規 則 の 改
正によって補助機関としての性格が明確になり、学校における校長の強い権限
と責任が確認されることとなった。
ま た 同 様 に 、上 記 答 申 中 で 提 言 さ れ た「 主 任 制 の 在 り 方 」見 直 し を 受 け 、2008
年度より配置可能となった副校長、主幹教諭、指導教諭といった「新しい職」
も校長の権限拡大につながるものである。
組織は、
「少なくとも一つの明確な目的のために二人以上の人々が協働するこ
とによって、特殊の体系的関係にある物的、生物的、個人的、社会的構成要素
の 複 合 体 」( Barnard 1938= 1968: 65) で あ る と 言 わ れ て い る 。 そ し て 組 織 構
成員が増加し規模が大きくなるにつれ、目的をいかに効率的に達成するかとい
う合理性が求められるようになり、マネジメントの必要性が生まれる。こうし
た 背 景 の も と 生 み 出 さ れ た の が 、組 織 の 階 層 化( ヒ エ ラ ル キ ー )で あ る( 図 序 1 )。
トップ
経営幹部
管理
部長クラス
ヒ
エ
ラ
ル
キ
ー
監督
課長クラス
係長クラス
実行
ボトム
一般のメンバー
図 序 -1 管 理 者 と 監 督 者 の 役 割 分 担 ( 田 尾 1999: 208)
中教審は、主任制は形骸化しており学校教育をめぐる状況の変化に十分対応
できなくなってきていると評価し、
「地域に特色ある学校づくりの推進など教育
上の課題に対応し、校長の学校運営を支えることができるよう、法令上の位置
づけを含めて、その在り方を見直す必要がある」と述べる。そしてその見直し
として、
「 学 校 組 織 の 垂 直 的 分 化( 職 層 の 多 層 化 )と そ れ に 伴 う 校 長 主 導 の 運 営
体 制 の 強 化 」( 大 野 2007: 18)を 目 指 し た「 新 し い 職 」が 制 度 化 さ れ た の で あ
3
る ( 1 )。
こ う し た 学 校 組 織 の 再 構 築 を 受 け 、近 年 で は 徐 々 に 研 究 蓄 積 も な さ れ て い る 。
例えば棚橋は、ミドルリーダーとしての主幹教諭の役割と資質・能力について
考 察 し 、 自 身 が 学 校 現 場 で 取 り 組 ん だ 実 践 内 容 を 紹 介 し て い る ( 棚 橋 2010)。
また、主幹教諭を「重層型の組織やチーム形成による機能的な組織、学習し成
長する組織などに転換する」
( 教 育 調 査 研 究 所 2011:5)ミ ド ル リ ー ダ ー で あ る
と 捉 え 、 そ の 視 座 か ら 行 わ れ た 調 査 研 究 も あ る ( 教 育 調 査 研 究 所 2011)。
しかしながら上記研究を含むその他多くの研究は、組織のあるべき姿(当為
論)を述べるに留まるものであり、この点が学校経営組織構造という静態的局
面へ着目した研究の限界といえる。
(2)動態的局面への着目
上述のように学校経営組織研究は、組織目標や職位に求められる役割、権限
といった静態的局面へ焦点をあてた性格を持つものが多い。しかし一方で、学
校組織文化や組織的意思決定といった学校経営組織の動態的側面に着目した研
究もある。
例えば曽余田は、組織(経営)現象を一方向的な因果関係の連鎖として説明
する直線的思考、すなわち上述した組織の静態的側面のみへの着目に対して異
論を唱え、学校組織の因果関係をループ(円環)で捉える円環的思考(円環的
因 果 論 、 相 互 因 果 論 ) を 提 唱 し て い る ( 曽 余 田 1997)。
水本は、ルーマン組織論の中核に位置する意思決定論について詳述し、その
視座からの分析による学校組織のダイナミズムや多元性を捉える可能性を提唱
し て い る( 水 本 1998)。ま た 、ル ー マ ン 組 織 論 を 踏 ま え た 複 雑 反 応 過 程 論 に 基
づいて学校組織の特質とその経営について考察し、教師と生徒は複雑なループ
を介する相互依存・影響関係にあり、その影響関係の中で秩序や価値が生み出
さ れ 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 形 成 ・ 更 新 が 行 わ れ る と 述 べ る ( 水 本 2007)。
また武井は、空間で生じる人と人との関係が思考と活動基盤を提供するとい
う「場の論理」の視点から現在の学校組織改革を捉え、その視座から組織改革
プ ロ セ ス の 描 写 を 試 み て い る ( 武 井 2011)。
さらに近年では、団塊世代の大量退職による管理職候補者の確保と若手教員
の育成といった急速な環境変化に鑑み、
「 様 々 な 衝 撃 に 耐 え 、復 元 す る し な や か
さ(レジリエンス)をもつとともに、環境変化に適応し、学習し、自らデザイ
ンして進化し続け」
( 枝 廣 ・小 田 ・ 中 小 路 訳 2011:5)、
「継続的に自らを変革し
ていく学習能力」
( 曽 余 田 2011: 44)を 組 織 が 身 に 付 け る と い う「 学 習 す る 組
織」への注目も高まっている。
4
上 述 の よ う に 、近 年 の 学 校 経 営 組 織 研 究 で は 静 態 的 局 面 へ の 着 目 に 留 ま ら ず 、
学校組織を成り立たせる諸要因の考察という、学校組織の動態的側面への言及
も蓄積されつつある。
第2項
学校経営過程研究の到達点
( 1 ) 分 権 改 革 期 ( 1990 年 代 ) 以 前 の 学 校 経 営 過 程 研 究
次に、上述した学校経営組織研究と対照的な位置にあるとされる学校経営過
程研究について考察する。そもそも経営過程研究の起源は、一般経営学におけ
る フ ァ イ ヨ ル ( Fayol, H) と ギ ュ ー リ ッ ク ( Gulick, L. H.) を 参 照 し 、 学 校 経
営 に 援 用 し た シ ア ー ズ( Sears, J. B.)に み る こ と が で き る 。そ し て こ の ア メ リ
カにおいて生起した学校経営過程研究は、教育経営の主体をめぐる論争が盛ん
になされた第二の学校経営改革期、学校を経営主体とする立場の拠り所として
導 入 さ れ る ( 2 )。 例 え ば 高 野 は 、 上 記 シ ア ー ズ に よ る 整 理 を 参 照 し 、 学 校 経 営
過 程 を 計 画 過 程 、組 織 化 過 程 、指 示 過 程 、調 整 過 程 、統 制 過 程 の 五 つ に 分 類 し 、
そ の 各 要 素 に つ い て 言 及 し た ( 高 野 1980a)。 秋 元 ら は 、 新 興 住 宅 地 ( 団 地 )
に新しく建設された学校を事例校とし、児童会指導過程の視角からその実態把
握 を 試 み て い る ( 秋 元 ・ 高 桑 ・ 勝 野 ・ 榊 ・ 田 中 ・ 間 瀬 ・ 野 渕 1965)。 秋 元 ら は
その後も研究を継続し、生活指導過程と経営過程の側面から分析を行った(秋
元 ・ 高 桑 ・ 勝 野 ・ 山 田 ・ 長 谷 川 ・ 榊 ・ 田 中 ・ 野 渕 ・ 菅 本 1966 )。 ま た 、 1970
年代になされた学習指導要領改定における教育課程の弾力的運営を契機とし、
教育経営過程の視座から教育課程経営を分析する論考も見られ始める(大嶋
1976、 高 野 1986b、 原 1987 な ど )。 そ の 他 に も 、 校 内 研 修 を 経 営 過 程 の 観 点
か ら 捉 え た 論 稿 ( 福 岡 県 校 内 研 修 研 究 会 編 1987) や 、 帰 国 子 女 に 対 す る 生 徒
指 導 過 程 を PDS の 視 角 か ら 分 析 し 、そ の 実 態 を 考 察 し た 論 考( 八 並 1994)な
ど、学校経営過程研究は多岐にわたった。
( 2 ) 分 権 改 革 以 降 ( 2000 年 代 ) の 学 校 経 営 過 程 研 究
日 本 教 育 経 営 学 会 が 40 周 年 を 迎 え た 1998 年 、日 本 教 育 経 営 学 会 編 集 の も と
出版された「シリーズ教育の経営」の中で住岡は、学校経営過程研究に関する
先行研究の整理を行い、研究課題を提示している。その一つは「これまでの経
営過程研究でほとんどを占める理論研究や実態調査の類いの研究に加えて、今
後 は 仮 説 ―検 証 型 の 実 証 研 究 を 通 じ て 、 経 営 過 程 を ス ム ー ズ に 展 開 す る 諸 要 因
( 条 件 )の 析 出 と こ れ ら の 要 因 間 の 相 互 関 係 を 明 ら か に す る 」
( 住 岡 2000:72)
必要性を提示するものであり、それは言い換えるならば、研究方法論に関する
課 題 と し て 捉 え う る ( 3 )。 こ の 課 題 に つ い て は 高 野 も 「 複 雑 な 経 営 過 程 を 支 え
5
る学校の諸条件を分析する手法の拙劣さと意欲の低さ」
( 高 野 1986a:281)と
して指摘したものであり、学校経営過程研究における方法論は長年にわたり課
題とされてきたことが読み取れる。
そして自律的学校経営改革を志向した学校経営改革が進行する中で、学校経
営過程研究は上記指摘に応える形で蓄積されていく。
例 え ば 、露 口( 2008)は 、校 長 の リ ー ダ ー シ ッ プ と 学 校 成 果 の 関 係 に 着 目 し 、
効果的なリーダーシップの有り様やその促進および先行要因、リーダーシップ
の 影 響 プ ロ セ ス を 明 ら か に し た 。 高 木( 2003)は 、教 師 の バ ー ン ア ウ ト と ス ト
レスの関係に着目し、学校制度が生み出す職務自体が教師のストレス反応に強
く影響するというストレス過程メカニズムを示すとともに、教師のストレス反
応 を 抑 制 で き る 要 因 を 探 索 し て い る( 高 木・田 中・渕 上・北 神 2006)。諏 訪( 2004)
は 、教 員 の パ フ ォ ー マ ン ス 向 上 や 学 校 改 善 が 期 待 で き る「 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 」
に着目し、教員社会におけるソーシャルサポートの実態とその正負両側面の実
態を提示した。
上 記 の よ う に 、2000 年 以 後 の 学 校 経 営 過 程 研 究 で は 、学 校 が 持 ち う る 限 ら れ
た資源をいかに活用するかという効率的なマネジメントへの着目と、その効率
性 を 高 め る 手 段 と 結 果 の 関 係 を 明 ら か に す る と い う 、量 的 研 究 方 法 を 用 い た「 イ
ン プ ッ ト ―ア ウ ト プ ッ ト 」 分 析 を 主 流 と し て 行 わ れ て き た 。 た だ し 上 記 研 究 は
学校経営過程の一般化を志向する一方で、学校経営組織研究が研究対象とする
「学校組織文化」といった個々の学校に影響を与える要素を分析結果に含むこ
とは困難であった。
その課題に応える形でなされたものが、学校の内部過程を扱う〈スループッ
ト 〉分 析( 藤 田 ら 1995:33)を 得 意 と す る 質 的 研 究 で あ る 。例 え ば 武 井( 2003)
は、文化人類学で発達した方法論であるエスノグラフィを用い、インドの代表
的 思 想 家 、 J.ク リ シ ュ ナ ム ル テ ィ の 実 験 学 校 で あ る ク リ シ ュ ナ ム ル テ ィ ・ ス ク
ールで行われる実践を描き、近代学校に特徴的な知の構造を示した。武井が用
いた研究方法論であるエスノグラフィでは、研究対象とするフィールドに関す
る デ ー タ を 参 与 観 察 等 で 収 集 し 、そ の 膨 大 な デ ー タ の 分 析 に お い て は 、
「第三の
視 点 」( 佐 藤 2006: 181) と も い え る 分 析 視 座 が 持 ち こ ま れ 、 当 該 現 象 を な り
た た せ る 要 因 の 抽 出 や 概 念 化 が な さ れ る 。そ れ ゆ え エ ス ノ グ ラ フ ィ は 、
「学校経
営現象を(中略)複雑な構造を持つものと認識し、生きられた現実の文脈の中
で 動 態 的 に 描 き 出 す 」( 武 井 1995: 95) こ と が 可 能 と 理 解 さ れ て い る 。 こ の エ
スノグラフィを用いた研究としては、
「 日 常 性 」と「 非 日 常 性 」の 視 座 か ら 校 内
研修を捉え、校内研修における多忙感の受容と積極的な取り組みを促す影響要
因 を 検 討 し た 神 山 ( 1995) や 、 教 育 委 員 会 の 定 例 会 審 議 を 「 ル ー テ ィ ン 」 の 視
6
座 か ら 分 析 し 、 そ の 類 型 化 を 行 っ た 海 口 ( 2005)、 学 校 ・ 家 庭 ・ 地 域 の 協 働 を
進める上での校長の役割について、
「 ハ ビ タ ン ト 」の 視 点 か ら 考 察 し た 諏 訪・渥
美 ( 2006) 等 が あ る 。
第3項
学校経営研究の課題
高野は第二の学校経営改革が行われた当時、学校経営組織研究に偏重する学
校経営研究の対抗軸として学校経営過程論の重要性を指摘した。しかし先に確
認したように、現在の学校経営組織研究はその射程に学校組織文化や組織学習
を含むことにより、より動態的な研究へと変容しつつある。
また、学校経営過程研究も一般化を志向した量的研究や、学校組織文化等を
踏 ま え 学 校 経 営 過 程 を 捉 え る 質 的 研 究 を 用 い る こ と で 、住 岡( 2000)が 指 摘 し
た「経営過程をスムーズに展開する諸要因」を析出するといった課題は解消さ
れつつあると判断できる。
しかしながら、現在の学校経営組織研究、学校経営過程研究で生み出される
知見は、当該現象をなりたたせる要因の抽出や概念化に留まり、析出された要
因 間 の 相 互 関 係 プ ロ セ ス を 示 す こ と は で き て い な い 。そ し て そ の 原 因 は や は り 、
高野と住岡が指摘する学校経営過程を分析する研究方法論の不在にある。
既述のように、学校経営は教師の自律的な教育活動を中心になされる複雑な
プ ロ セ ス で あ る 。ま た 自 律 的 学 校 経 営 が 進 行 す る 近 年 で は 、学 校 が「 開 か れ る 」
ことにより、保護者や地域住民、学生ボランティアが学校経営に参加すること
も 多 い 。そ の た め 、現 在 の 学 校 経 営 は 教 師・子 ど も・保 護 者・地 域 住 民 な ど 様 々
なアクターの相互作用でなされるプロセスとしての性格を持つ。しかし、学校
経営研究、特に上記事象を研究射程とする学校経営過程研究は、予め設定した
枠組を用いて当該事例を分析し、現象理解や要因の検討を行うに留まり、様々
なアクターの相互作用でなされる学校経営過程を把握するには至っていない。
第2節
研究目的と分析視座
第1項
研究目的
制度改革が進行し各学校が自律に至る道筋を模索する現在、学校経営研究に
は、各学校が自らを自律の道へと進める上で参照しうる知見、すなわち、複雑
なプロセスである学校経営過程を把握し、その説明と予測を可能とする研究知
の産出が求められている。そしてそれを可能とするためには、様々なアクター
によってなされる学校経営過程を捉え、かつその説明と予測を可能とする研究
方法論の検討が必須である。
7
本研究が目的とするのは、上記性格を持った研究方法論の検討である。
第2項
分析視座
学校経営過程を捉える方法論の検討を目的とする本稿では、その分析視座と
して、学校組織におけるミドル教員の学校経営参画に着目する。ミドル教員は
近年、下記二点の理由より注目されている。
第一は、国レベルで進められる学校経営改革にある。先述した「新しい職」
としての主幹教諭制度の導入に代表される断続的に実施された分権改革のもと
で、学校経営は従来の管理型から自律型(自律的学校経営)へと移行しつつあ
る。これにより、各学校は保護者、ボランティア、非常勤講師といった新たな
資源を自ら効果的・効率的にマネジメントする必要に迫られており、その調整
の役割がミドル教員に期待されている。
第二の理由は、公立学校で進む急激な教職員年齢構成の変化である。団塊世
代の大量退職とそれに伴う若手教員の大量採用により、これまでの学校組織構
成 の 典 型 で あ っ た 「 ワ イ ン グ ラ ス 型 」 は 、 30 代 後 半 か ら 40 代 前 半 が 極 端 に 少
な い 「 ふ た こ ぶ ラ ク ダ 型 」 へ と 変 動 し つ つ あ る ( 大 脇 2007)。 そ れ ゆ え 、 多 く
の学校は学校管理職候補者の確保、急増する若手教員の育成、そして学校組織
文 化 の 継 承 と い っ た 課 題 に 直 面 し て い る ( 元 兼 2010、 八 尾 坂 2008)。
このような状況を背景として、学校経営への参画と若手教員育成の中核を担
うミドル教員への期待が集まっているのであるが、その具体的な役割期待とし
てはミドル・アップダウン・マネジメントを挙げることができる。ミドル・ア
ップダウン・マネジメントとは、チームやタスクフォースのリーダーを務める
こ と の 多 い「 ミ ド ル 」が 中 心 と な り 、
「 ト ッ プ 」の 理 想 と「 ボ ト ム 」の 現 実 の 間
で生じる葛藤を解決し、新たな知識やアイディアの実現を図るという、一般経
営 学 に お い て 提 唱 さ れ た マ ネ ジ メ ン ト ・ス タ イ ル で あ る ( 野 中 ・ 竹 内 1996)。
こ の ミ ド ル ・ア ッ プ ダ ウ ン ・マ ネ ジ メ ン ト を 通 じ た ア イ デ ィ ア の 実 現 は 、 近 年 の
教 育 分 野 に お い て も 、学 校 改 善 を 促 す「「 中 間 概 念 」の 創 造 」
( 小 島 2010)と い
った視点から注目されている。
しかし、学校と一般経営学が対象とする企業を比較した場合、その組織規模
は 学 校 が は る か に 小 さ く 、ま た 学 校 組 織 の ミ ド ル( 教 員 )は 、企 業 の ミ ド ル( 中
間管理職)に比べ権限の所在が不明確である。それゆえ組織規模の小さな学校
に お い て ミ ド ル 教 員 が 行 う ミ ド ル ・ア ッ プ ダ ウ ン ・マ ネ ジ メ ン ト で は 、 不 明 確 な
権限を補うためにも、より濃密で複雑な相互作用が生じると予想される。つま
り 、 学 校 組 織 に お け る ミ ド ル 教 員 へ 期 待 さ れ る ミ ド ル ・ア ッ プ ダ ウ ン ・マ ネ ジ メ
ントは、必然的に相互作用が求められる学校経営過程であるといえ、本稿が目
8
的とする「学校経営過程を把握しうる方法論の検討」に最適の事例であると言
える。
以上の理由より、本論では、ミドル教員によってなされるミドル・アップダ
ウン・マネジメントを分析視座とし、以下の検討を行っていく。
第3節
本論文の構成
序章
学校経営研究
学校経営組織研究
学校経営過程研究
<課題>
学校経営過程の把握
<研究目的>
学校経営過程を捉え得る方法論の検討
<分析視座>
ミドル・アップダウン・マネジメント
1章
ミドル・アップダウン・マネジメント概念の整理
ミドル・アップダウン・マネジメントの実際
2章
3章
○対象:運動会の運営
○具体:「一時観覧席設置」「全校舎開放」
●方法:エスノグラフィ
○対象:校内授業研究の継続
○具体:「交流タイム」による自己肯定感育成
●方法:スクールヒストリー
学校経営過程の分析方法論検討
4章
○M-GTA(Modified Grounded Theory Approach)の適合性検討
5章
ミドル・アップダウン・マネジメントにおける
周囲の「巻き込み」プロセス
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 序 -2
本論文の構成
9
本論は 5 章からなる。
第 1 章では、本論の分析視座として設定したミドル教員、およびミドル・ア
ップダウン・マネジメント概念の整理を行う。また、学校経営研究におけるミ
ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 先 行 研 究 の 課 題 に つ い て 言 及 す る 。
第 2 章 及 び 第 3 章 で は 、第 1 章 の 検 討 を 踏 ま え 、ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ
ネ ジ メ ン ト の 実 際 を 捉 え る 。具 体 的 に は 、
「 運 動 会 の 運 営 」と「 校 内 授 業 研 究 の
継続」を事例として取り上げ分析し、ミドル・アップダウン・マネジメントの
実現要因を抽出する。
第 4 章 で は 第 2 章 ・ 第 3 章 の 分 析 を 基 に 、改 め て 従 来 の 学 校 経 営 過 程 研 究 に
おける方法論の課題を確認し、その課題解決の可能性を持つ方法論として、修
正 版 グ ラ ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ ( Modified Grounded Theory
Approach、 M-GTA) を 取 り 上 げ 、 そ の 理 由 を 述 べ る 。
第 5 章 で は 第 4 章 で 述 べ た M-GTA を 用 い 、 ミ ド ル ・ ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ
メントプロセスの分析を行い、学校経営過程分析における方法論としての
M-GTA の 可 能 性 を 検 討 す る 。
【序章注】
( 1 ) ま た 、 新 た な 職 の 設 置 は 、「 優 秀 な 教 員 」 の 処 遇 改 革 を 目 的 と す る も の
で も あ っ た ( 大 野 2007: 19-20)。
( 2 ) 以 下 は 住 岡 ( 2000) の 整 理 を 参 照 し て い る 。
(3) その他にも、
「 学 校 経 営 の 過 程 の サ イ ク ル を ど の よ う に 分 類 す る か 」、
「学
校 経 営 過 程 を 経 営 領 域 別 に 経 営 計 画・意 思 決 定 の 過 程 、直 接 教 育 活 動 の
経 営 過 程 、研 究 研 修 の 経 営 過 程 、経 営 組 織 の 経 営 過 程 、学 校 事 務 の 経 営
過 程 、学 校 評 価 の 経 営 過 程 等 に 分 け て 考 え た り 、ま た 具 体 的 な 個 別( 問
題 別 )過 程 に 分 け て 考 え た り す る 工 夫 や 吟 味 」、
「経営過程論の合理性の
過程を再吟味してみる必要」
( 住 岡 2000:72)に 関 し て も 述 べ て い る 。
10
第1章
ミドル・アップダウン・マネジメント概念の整理
学校経営は個々の教師による教育活動を中心とした自律的かつ複雑なプロセ
スである。また近年、自律的学校経営や「開かれた学校」づくりの進行を背景
に、保護者や地域住民、学生ボランティアが学校経営に参加することも多い。
そのため、現在の学校経営は教師・子ども・保護者・地域住民など様々なアク
ターの相互作用でなされるプロセスとしての性格を持つといえる。しかし、学
校経営研究、特に上記事象を射程とする学校経営過程研究は、予め設定した枠
組を用いて当該事例を分析し、現象理解や要因の検討を行うに留まる。そのた
め、様々なアクターの相互作用でなされる学校経営過程を把握し、その説明と
予測を可能とする研究知を産出するには至っていない。上記学校経営過程を捉
え得る研究方法論の検討を目的とする本論ではその分析視座として、ミドル・
アップダウン・マネジメントを設定した。
本章では分析を行うに当たり必要となる、ミドル・アップダウン・マネジメ
ントの概念整理を行う。
第1節
本論におけるミドル教員の特定
団塊の世代の大量退職による学校管理職候補者の確保と急増する若手教員の
育成、そして自律的学校経営を志向した学校経営改革を背景とし、学校組織に
おいて学校経営の中核としての役割を担うミドル教員への注目が高まっている。
このミドル教員への期待の高まりとともに、近年ではミドル研究も増加してい
る 。 こ れ は 、 図 1 -1 に 示 す 研 究 蓄 積 の 推 移 か ら も 明 ら か で あ る 。
110
120
100
80
54
60
40
20
2
2
20
11
9
2
0
56
34
9
0
1995~1997 1998~2000 2001~2003 2004~2006 2007~2009 2010~2012
該当年間の研究数
図 1 -1
累積研究数
ミドル研究の蓄積(1)
11
し か し 、「 ミ ド ル 」 に は 揺 ら ぎ が あ る 。 こ れ は 、「 ミ ド ル 」 と い う 用 語 が 「 ト
ップ」と「ボトム」の中間という相対的な位置を指す曖昧な性格を持つことに
起因する。よって、ミドル教員を研究対象とする上では、その対象が誰を指す
のかを明確にする必要がある。
そ こ で 本 論 で 対 象 と す る ミ ド ル 教 員 を 特 定 す べ く 、先 行 研 究 に お い て「 誰 が 」
研究対象として挙げられているのかについて整理を行ったところ、その対象は
以下の三つに整理できる。
第1項
ミドル教員としての主任・主事
一つ目は、校務分掌のリーダーを担う主任・主事である。主任職はかつて、
各学校の事情や必要性によって設置、運営されていた自生的なものであるが、
学 校 経 営 活 性 化 の 鍵 と な る べ く 、1975 年 に 制 度 化 さ れ た( 学 校 教 育 法 施 行 規 則
第 44 条 等 )。 現 在 、 各 学 校 に は 教 務 主 任 や 学 年 主 任 、 保 健 主 事 と い っ た い わ ゆ
る制度化主任・主事に留まらず、研究主任や体育主任といった、各種主任・主
事が置かれている。そして、かかる各種主任を学校経営におけるキーパーソン
として扱うミドル研究が蓄積されている。
例 え ば 高 階 は 、野 中 ・ 竹 内( 1996)ら に よ っ て な さ れ て い る 企 業 組 織 に お け
る ミ ド ル 論 を ひ き 、 学 校 に お け る 主 任 は 、「 そ っ く り 「 ミ ド ル 」 に 当 て は ま る 」
( 高 階 1995: 31) と 述 べ る 。 淵 上 も 、 管 理 職 と 教 職 員 の 中 間 的 立 場 で 、 学 校
組織づくりの中核的役割を担う教務主任、学年主任、教科主任などの主任層を
ミ ド ル リ ー ダ ー と し て 捉 え て い る( 淵 上 2009:52)。ま た 数 あ る 主 任 の 中 で も
特に、
「 校 長 の 監 督 を 受 け 、教 育 計 画 の 立 案 そ の 他 の 教 務 に 関 す る 事 項 に つ い て
連 絡 調 整 及 び 指 導 、 助 言 に 当 た る 」( 学 校 教 育 法 施 行 規 則 第 44 条 4 項 ) と さ
れ る 教 務 主 任 は 、「 主 任 層 の 中 で 最 も 総 括 的 な 役 割 を 担 う 立 場 」( 山 崎 2012:
10)に あ り 、
「管理職に近い立場で学校経営に参画していく」
( 山 下 2010:72)
存 在 と 認 識 さ れ 、 ミ ド ル 教 員 の 代 表 と し て 取 り 上 げ ら れ る 傾 向 に あ る ( 2 )。
第2項
ミドル教員としての「新しい職」
二 つ 目 は 、 学 校 教 育 法 改 正 に よ っ て 2008 年 度 よ り 配 置 可 能 と な っ た 、 主 幹
教諭や指導教諭といった「新しい職」が挙げられる。これは序章で述べたとお
り 、主 任・主 事 制 度 の 形 骸 化 や 、校 長 の 権 限 強 化 を 背 景 に 行 わ れ た 改 革 で あ る 。
八尾坂は、学校教育法の規定「主幹教諭は、校長(副校長を置く小学校にあ
つては、校長及び副校長)及び教頭を助け、命を受けて校務の一部を整理し、
並 び に 児 童 の 教 育 を つ か さ ど る 」( 第 37 条 9 項 ) と 、「 指 導 教 諭 は 、 児 童 の 教
育をつかさどり、並びに教諭その他の職員に対して、教育指導の改善及び充実
12
の た め に 必 要 な 指 導 及 び 助 言 を 行 う 」( 第 37 条 10 項 ) を 受 け 、 主 幹 教 諭 ・ 指
導教諭にはミドルリーダーとしての役割期待がなされていると述べる(八尾坂
2007)。 棚 橋 は 、 ミ ド ル リ ー ダ ー と し て の 主 幹 教 諭 の 役 割 と 資 質 ・ 能 力 に つ い
て 考 察 し 、自 身 が 学 校 現 場 で 取 り 組 ん だ 実 践 内 容 を 紹 介 し て い る( 棚 橋 2010)。
また、主幹教諭を「重層型の組織やチーム形成による機能的な組織、学習し成
長 す る 組 織 な ど に 転 換 す る 」( 教 育 調 査 研 究 所 2011: 5) ミ ド ル リ ー ダ ー で あ
る と 捉 え 、 そ の 視 座 か ら 行 わ れ た 調 査 研 究 も あ る ( 教 育 調 査 研 究 所 2011)。こ
のように、学校の運営組織をめぐる課題と主任制度自体の限界・形骸化を背景
と し て 導 入 さ れ た「 新 し い 職 」は( 八 尾 坂 2008)、制 度 化 か ら 約 6 年 が 経 過 し
た現在、研究・実践双方の視点から研究蓄積が行われつつある。
第3項
ミドル教員としての中堅教員
三つめは、教職キャリアをベースとした概念である中堅教員である。
文部科学省が作成する研修テキスト「学校組織マネジメント研修~すべての
教 職 員 の た め に ~( モ デ ル・カ リ キ ュ ラ ム )」
( 2005 年 2 月 )に お い て 中 堅 教 員
は 、「「 教 育 者 と し て の 使 命 感 」 を ベ ー ス に も ち 、 学 校 に 期 待 さ れ る 目 的 ・ 目 標
を 達 成 す る「 学 校 の キ ー パ ー ソ ン 」」で あ り 、学 校 組 織 の ミ ド ル リ ー ダ ー と し て
捉 え ら れ て い る ( 同 研 修 テ キ ス ト : 0-1-16)。
上記に代表されるように、教職キャリアをベースとした概念である中堅教員
の 対 象 と し て は 、 30 歳 前 後 か ら 40 歳 代 の 教 員 が 想 定 さ れ て い る が ( 八 尾 坂
1998)、 そ の 内 実 は 年 齢 を さ す の か 、 経 験 を さ す の か 不 明 瞭 で あ る 。 し か し 一
般的にこの世代は、学級担任の経験や主任等の豊富な職務経験を持つ世代であ
る こ と か ら「 ミ ド ル 」と し て 捉 え ら れ て お り 、前 出 の 主 任 や「 新 し い 職 」を「 ミ
ド ル 」 と 捉 え る 立 場 に 共 通 す る ( 3 )。
こ の よ う に 、 現 在 の ミ ド ル 研 究 対 象 は 、「 ミ ド ル 」 と い う 相 対 的 な 位 置 ゆ え 、
論者によって様々な認識で語られる傾向にあるが、その対象は、主任や主幹教
諭といった、
「 職 位 を 担 う 人 物 」と し て 捉 え ら れ て い る と い え る 。本 論 で 取 り あ
げ る ミ ド ル 教 員 も こ の 整 理 に 従 う こ と に す る ( 4 )。
第2節
ミドル教員へ期待される役割
前 節 で 述 べ た よ う に 、 本 論 で 対 象 と す る 、 主 任 、「 新 し い 職 」、 中 堅 教 員 と い
った「職位を担う人物」としてのミドル教員は、学校経営参画においていかな
る役割期待がなされているのであろうか。この考察を行う上で参考になるもの
13
が一般経営学における「マネジャー」と「リーダー」の比較である。
ゼ イ レ ツ ニ ッ ク ( Zaleznik, A.) は 、「 マ ネ ジ ャ ー 」 と 「 リ ー ダ ー 」 の 特 性 を
「 目 標 に 対 す る 態 度 」、「 仕 事 観 」、「 人 と の 付 き 合 い 方 」、「 人 格 特 性 」、「 育 成 方
法 」 か ら 区 別 し て い る ( Zaleznik 1977)。 金 井 は ゼ イ レ ツ ニ ッ ク に よ る 「 マ ネ
ジ ャ ー 」 と 「 リ ー ダ ー 」 の 比 較 を も と に 、「 マ ネ ジ ャ ー 」 は 、「 い か に 」 こ と が
成し遂げられるかを気に掛け、調整とバランスを心がけ、ときには妥協も認め
る問題解決者であり「
、 リ ー ダ ー 」は 、長 年 の 問 題 に 新 た な ア プ ロ ー チ 法 を 求 め 、
新たなアイディアを創造する問題創出者、企業家的人物であると整理した(金
井 1998)( 表 1 -1 )( 5 )。
表 1 -1
全般的な
特徴
目標に
対する
態度
仕事の
捉え方
他の人びと
との関係
ゼイレツニックによるマネジャーとリーダーの比較(6)
マネジャー
・問題解決者
リーダー
・問題創出者、企業家的人物
・受動的とまでいかないまで
も、没個人的な目標
・バランスを重んじる(妥協
も実際的には認める)
・他の人びとがやりやすくし
ていく過程として仕事を捉
える
・システムや機構を通じての
解決を図る
・相 手 に 合 わ せ る( 対 応 す る )
というよりも、アイディア
を創っていく
・リスクをとって自分のアイ
ディアをイメージ化してい
く
・そのわくわくするイメージ
で人びとをエクサイトさせ
る
・他の人びとの選択余地を狭 ・長年の問題に新たなアプロ
める(こうすればうまくい
ーチ法を求めて、新たなも
くという道筋を創る)
のの見方や選択の余地を広
める、オープンにする
・断続的に調整とバランスを ・リスクをとり、危険にも向
人びとの間に取ることが必
かっていくので、波風が立
要と考えている
つものだ
・情緒的な反応を抑制する。 ・情緒面を表出する。怒りた
クールである。
いときには怒る。
・単独の活動は好まず、他の ・ひとりでリスクをもって決
人びととともに仕事をする
めなければならないことが
のを好む
あると承知している。
・そのくせ、他の人びとの思 ・それだけに、自分の考えた
考や感情を直感的に受け止
アイディアにはこだわる
める共感力や度量は欠く
が、直接的かつ共感的に他
の人びととかかわることを
めざす
・他の人びとを通じて「いか ・他の人びとにとって、出来
に」ことが成し遂げられる
事や意思決定が「なにか」
か を 気 に 掛 け る 。ハ ウ が 鍵 。
を意味するかを気にかけ
る。ホワットが鍵。
14
学校経営においても、
「 マ ネ ジ ャ ー 」と「 リ ー ダ ー 」の 視 角 か ら の 分 析 は 、特
に 校 長 の リ ー ダ ー シ ッ プ ス タ イ ル を 対 象 に 行 わ れ て き た( 中 留 1995)。し か し 、
近年増加しているミドル研究においては、
「 マ ネ ジ ャ ー 」と「 リ ー ダ ー 」と い う
用 語 が 混 在 し て 使 用 さ れ て お り (7 )、 そ の 概 念 整 理 は 十 分 に な さ れ て い な い 。
し か し 、 表 1 -1 か ら も わ か る よ う に 、「 マ ネ ジ ャ ー 」 と 「 リ ー ダ ー 」 は 本 質
的には異なる特性をもつといえる。それでは、学校経営研究において「マネジ
ャ ー 」、「 リ ー ダ ー 」 と し て 語 ら れ る ミ ド ル 教 員 に は ど の よ う な 役 割 が 期 待 さ れ
て き た の で あ ろ う か 。以 下 で は 、
「 マ ネ ジ ャ ー 」と「 リ ー ダ ー 」の 視 座 か ら ミ ド
ル 教 員 を 捉 え る こ と で 、 ミ ド ル 教 員 へ の 役 割 期 待 の 変 遷 を 整 理 す る (8 )。
第1項
ミ ド ル 論 の 萌 芽 ( 1970 年 代 前 後 )
「ミドル」と銘打つものではないが、戦後初期においても、個々の学校が実
状 に 応 じ て 自 主 的 に 設 け て い た「 主 任 」や 、中 堅 教 員 を 対 象 と す る 論 稿 と し て 、
ミ ド ル 研 究 は 散 見 さ れ る ( 川 本 1951、 大 浦 1956 な ど )。 し か し 当 時 は 、 ミ ド
ル教員が果たす学校経営における役割が十分に議論されることはなかった。
そして、ミドル教員の役割を検討する契機となったのが、中央教育審議会答
申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」
( 1971 年 ) や 、 そ の 後 の 学 校 教 育 法 施 行 規 則 改 正 ( 1975 年 ) に よ っ て な さ れ
た主任制度化である。
この制度改革は大きな議論を生んだ。主任制度化は、これまで校務分掌の一
つであった主任を「たちまち中間管理職に転化し教育指導面における管理主義
をさらにおしすすめる」
( 三 上 1976: 112)も の で あ り 、
「教育行政の中央集権
化、学校現場の管理体制の強化を続けてきた文部行政の流れからみれば、主任
制 度 化 は そ の 路 線 の 一 つ の 到 達 点 」( 津 田 1975: 163) で あ る と い っ た 抵 抗 が
見 ら れ る 。ま た 、制 度 化 主 任 に 与 え ら れ る 主 任 手 当 に 対 し て も 、
「 学 校 内 に 職 務・
職 階 制 を 確 立 し 、そ れ を 裏 打 ち す る 差 別 賃 金 体 系 を 確 立 し よ う と す る も の 」
(横
山 1978: 112) と し て 、 主 に 日 教 組 を 中 心 と し た 抵 抗 が 起 こ る 。 こ の よ う に 、
主任制度化をめぐり多くの議論がなされたが、大多数は主任制度化の是非を述
べるに留まり、
「主任制のあり方や議論を学校経営や学校組織のイデオロギーと
し て 先 鋭 化 さ せ る 」( 小 島 2012: 44) も の で あ っ た 。
しかし単にイデオロギーの対立だけではなく、主任を「専門職」という視点
から捉え、再評価する論稿も存在した。例えば高野は、政治論争・紛争という
形をとっていた当時の主任制度化論争に対して、
「 主 任 は 、学 校 経 営 の 能 率・効
率の向上(技術合理化)と、協働関係を裏打ちする社会関係の合理化(社会合
理 化 )、す な わ ち 主 体 相 互 関 係 の 民 主 化 の 両 機 能( 志 向 )に サ ー ビ ス す る た め の
15
・
・
・
・
・
・
・
・
職能として働き、そのことによって、学校の教育が能率化・効率化され、同時
・
・
・
に 内 容 的 に は 民 主 的 教 育 に 施 行 す る た め に 設 置 」( 傍 点 マ マ 、 高 野 1976: 90)
されるものとの見解を示す。牧は、制度化の成否をめぐる論争に終始するので
は な く 、「 専 門 職 組 織 に お け る 主 任 職 の 役 割 」( 牧 1976: 27) と い う 観 点 を 導
入 し 、 主 任 職 を 「 各 部 経 営 の リ ー ダ ー 」( 同 上 書 : 29) と し て 捉 え る 必 要 性 を
述べる。また兼子も、学校経営の近代化を提唱する伊藤が主張した管理層とし
て 各 種 主 任 を 捉 え る 姿 勢( 伊 藤 1963)を 、
「真に優れた指導助言は実効をあげ
る の に 法 的 拘 束 力 を 要 し な い 」( 兼 子 1976: 41)と 批 判 し な が ら も 、主 任 制 度
化 の 規 定 に「 連 絡 調 整 、指 導 助 言 」と い う 役 割 が 記 載 さ れ た 点 に 対 し て は 、
「教
育 法 的 見 地 か ら は 、教 育 専 門 職 づ く り 復 活 の 契 機 を も ふ く ん で い る 」
(同上書:
46) と 述 べ る 。 こ の よ う に 、 主 任 制 度 化 は 「 民 主 化 を 図 り な が ら 合 理 化 を も 進
める可能性を有していた点で、いわゆる一般企業とは異なる学校独自の組織論
を 提 示 す る き っ か け 」( 大 和 2004: 107) を 提 示 す る も の で あ り 、 こ こ に 現 在
のミドル論の萌芽を見ることができる。
第2項
「 マ ネ ジ ャ ー 」 と し て の 認 識 ( 1980 年 代 ~ 1990 年 代 前 半 )
1980 年 代 前 後 の 学 校 は 、受 験 競 争 の 過 熱 化 、い じ め・非 行 等 の 青 少 年 の 問 題
行動といったいわゆる「教育荒廃」と呼ばれる状況にあり、臨時教育審議会に
よる答申やそれを受けた制度改革が行われた。そしてこの時期、主任制度化に
端を発したミドル論は徐々にイデオロギー対立を克服し、ミドル教員の学校組
織 に お け る 役 割 が 考 察 さ れ 始 め た ( 9 )。
例 え ば 岡 東 は 、 カ ッ ツ ( Katz, R. L.) の 経 営 的 力 量 を ひ き 、 主 任 を 「 ル ー テ
ィン・ワークをこなすテクニカル・スキルというよりはヒューマン・スキルが
中 核 を な し 、コ ン セ プ チ ュ ア ル・ス キ ル の 比 重 が た か ま り つ つ あ る ポ ジ シ ョ ン 」
( 岡 東 1988: 30) に 位 置 す る と し た 。 そ し て 主 任 は そ の 立 場 に お い て 学 校 経
営実践に関わり、専門職組織としての学校の成長に貢献する必要があると述べ
る ( 同 上 書 : 28)。 ま た 中 留 は 、「 校 長 、 教 頭 を 的 確 に 補 佐 し て 真 に 先 達 と し て
若い教師を育て、学校のもっている教育課題の解決に向けてすぐれたリーダー
シップを発揮する」
( 中 留 1988:12)役 割 を 主 任 に 期 待 し た 。他 に も 、
「校長・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
教 頭 の 学 校 経 営 の 方 針 を 適 切 に 理 解 し 、そ れ が 現 場 の 指 導 に 生 か さ れ る 」
(傍点
マ マ 、 山 本 1988: 39) よ う に 機 能 す る こ と が 主 任 の 役 割 で あ る と 述 べ る 論 稿
や 、中 堅 教 員 は「 学 校 課 題 を 発 見 し 、課 題 解 決 を 図 」り 、
「その課題解決方式が
そ の 学 校 固 有 の も の と し て 全 教 職 員 の 協 働 で 推 進 し て い く 」( 川 田 1989: 96)
ように動く、学校組織活性化の実働主体であると述べる論稿もある。
上記より、当時のミドル教員に対しては、学校で生起する課題を見極め、校
長や管理職の意図をくみ取り、課題解決策を模索する役割が期待されていたと
16
いえる。すなわち、当時のミドル論は、ミドル教員に対して問題解決者として
の「マネジャー」の役割期待をなすものであった。
第3項
「 リ ー ダ ー 」 と し て の 期 待 の 萌 芽 ( 1990 年 代 後 半 ~ 2000 年 代 前 半 )
1990 年 代 に 議 論 が 本 格 化 し た 地 方 分 権 改 革 や 、中 央 教 育 審 議 会 答 申「 今 後 の
地 方 教 育 行 政 の 在 り 方 に つ い て 」( 1998 年 9 月 ) を 契 機 と し て 、 自 律 的 学 校 経
営 を 志 向 し た 戦 後 三 回 目 の 学 校 経 営 改 革 ( 1 0 ) が 行 わ れ た 。そ の 内 実 は 、
「学校
経 営 を 他 律 化 し て き た 教 育 委 員 会 の 権 限 を 学 校 に 委 譲 」し 、
「委譲される権限を
行 使 す る た め の 保 障 措 置 と し て の 内 部 組 織 の 再 構 築 」を 図 り 、
「これまで教育委
員会が地方自治体の機関として住民から制度的に受権されてきた学校教育実施
に 関 す る 公 共 性 を 、 個 々 の 学 校 が 保 証 す る 」( 堀 内 2009: 6) こ と を 目 指 す も
のであった。
そしてこの頃から、
「 ミ ド ル 」と 銘 打 つ 研 究 が 散 見 さ れ 始 め る 。か か る 研 究 の
中 に は 、ミ ド ル 教 員 を「 教 師 相 互 を つ な ぐ 役 割 を す る キ ー パ ー ソ ン 」
( 大 橋・鈴
木 2003:66)と 捉 え る も の や 、
「学校管理職のリーダーシップと一般の先生の
意識とをうまく調和させ、学校の中によい「空気」をつくり出していくのが、
「 学 校 ミ ド ル リ ー ダ ー の 役 割 」」( 長 瀬 2001: 6) と 述 べ る も の な ど 、 ミ ド ル 教
員に対して「マネジャー」としての役割期待をなす論稿が依然として多い。
し か し 同 時 に 、「 マ ネ ジ ャ ー 」 と し て の 役 割 と は 異 な る 期 待 も な さ れ 始 め る 。
そ れ は 、ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト を 通 じ た ア イ デ ィ ア 創 造 と い う 、
「リーダー」としての役割である。例えば加藤は、学校組織における主任に対
し 、「 伝 達 役 や 調 整 役 に と ど ま ら な い 提 案 型 の 取 り 組 み を 展 開 す る 」( 加 藤
2002:41)と い う 役 割 期 待 を 述 べ て い る 。大 脇 も 主 任 を 中 間 リ ー ダ ー 層 と し て
捉え、
「 ふ さ わ し い 組 織 は「 ミ ド ル 中 軸 型 」で あ り 、
「 ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン 型 」
組 織 で あ る 」( 大 脇 2003: 24) と 述 べ る 。 織 田 は イ ギ リ ス で な さ れ た ミ ド ル ・
アップダウン・マネジメントに関する言及を考察し、主任は「知識の創造とそ
の普及におけるキーパーソン」
( 織 田 2003: 317)で あ る と し た 。ま た 小 島 は 、
「単に上と下をつなぐジョイントでもないし、上の情報を下に、また下の情報
を上に伝えるメッセンジャーでもない」
( 小 島 2004:29)も の と し て ミ ド ル 教
員をとらえ、
「 情 報 の 創 造・加 工・発 信 に よ り 、変 化 や 変 革 を 生 む 行 動 が 、こ れ
か ら の ミ ド ル リ ー ダ ー の 役 割 」( 同 上 書 : 29) で あ る と 述 べ る 。
上記ミドル・アップダウン・マネジメント主体としての役割期待は、進行す
る自律的学校経営を志向した改革の影響だけでなく、一般経営学の影響も受け
て い る 。 当 時 の 一 般 経 営 学 で は 、「 ミ ド ル 」 と し て の 中 間 管 理 職 を 、「 連 続 的 イ
ノ ベ ー シ ョ ン の 鍵 」( 野 中 ら 1996: 189)や 、「 戦 略 指 向 、革 新 指 向 の「 変 革 型
17
ミ ド ル 」」( 金 井 1991: 4) と し て 捉 え る な ど 、「 ミ ド ル 」 の 見 直 し が 行 わ れ て
いた。この動きは、一般経営学の知見を積極的に取り入れる傾向にあった当時
の学校改革(11)や教育経営学に対しても影響を与えたと考えられる。
第4項
ミドル・アップダウン・マネジメントへの期待の高まり
( 2000 年 代 後 半 ~ 現 在 )
上述のように、自律的学校経営を志向した第三の学校経営改革や一般経営学
における「ミドル」への注目を受け、学校経営のキーパーソンとしてミドル教
員 を 捉 え る 気 運 が 高 ま っ た 。そ の 後 も 、2008 年 学 校 教 育 法 改 正 に よ る「 新 し い
職」の制度化など学校経営改革は断続的に行われ、それとともにミドル教員へ
の 期 待 は よ り 一 層 強 ま る こ と に な る 。そ し て こ れ ら を 背 景 と し 、1990 年 代 後 半
か ら 2000 年 代 前 半 に 生 起 し た ミ ド ル 教 員 に よ る ミ ド ル ・ ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ
ジメントへの期待も高まる。
自律的学校経営を志向した学校経営改革に加え、教育委員会制度や教員免許
制度等の再検討が行われる昨今、学校をめぐる環境変化は加速している。この
ような状況を受け安藤は、学校および教師は自身の立ち位置を理解する必要に
迫られているとし、ミドル教員には「上からの制度改革をいわれるがまま遵守
するのでもなく、高をくくってやり過ごすのでもなく、自分たちなりに咀嚼し
て 、学 校 組 織 の 動 き 方 を 変 え る き っ か け に 活 用 」す る 、
「ファシリテーター的役
割」
( 安 藤 2008: 11)が 求 め ら れ て い る と 述 べ る 。ま た 佐 久 間 が 学 校 組 織 に お
け る ミ ド ル 教 員 を「 若 手 育 成 の キ ー パ ー ソ ン 」( 佐 久 間 2010: 40)と し て 捉 え
ているように、近年のミドル教員には、年齢構成や学校環境の変化により生じ
た 世 代 間・価 値 観 ギ ャ ッ プ の 調 整 を 通 じ た 人 材 育 成 も 期 待 さ れ て い る 。露 口 は 、
学 校 教 育 法 改 正 に よ り 2008 年 度 か ら 配 置 可 能 と な っ た 主 幹 教 諭 を ミ ド ル リ ー
ダーとして捉え、
「最重要課題を解決するための部門横断型のプロジェクトを立
ち上げ、学校組織をあげてそれに取り組むプロジェクトリーダーとして活躍す
る 」( 露 口 2011: 25)と い う 役 割 期 待 を 述 べ た 。ま た 、 ミ ド ル 教 員 の 重 要 性 に
早 期 か ら 着 目 し 、「 ス ク ー ル ミ ド ル 論 」 を 展 開 す る 小 島 は 、「 学 校 ミ ド ル の 役 割
の本質は、戦略的発想、戦略的思考、戦略的実践にもとづくミドルリーダーシ
ッ プ に あ る 」( 小 島 2012: 72) と 述 べ 、「 実 践 知 と 戦 略 知 を 解 釈 、 編 集 、 意 味
づけなどの営みを通じて媒介し、それぞれの知に意味ある知、新たな価値を付
加 」( 小 島 2010: 85)し た「 中 間 概 念 」 の 創 造 ・ 実 践 化 の 重 要 性 を 唱 え て い る
( 図 1 -2 )。
18
個人・現場の
課題・意思
実践知・個人知
の形成
個人・現場として
の問題解決
ミドルの
戦略・意思
実践知の
翻訳・対処
実践知の
創造・提案・協働
中間概念の創造
・分析
・解釈(翻訳)
・加工
・意味づけ
学校の
課題・意思
戦略知の
翻訳・対処
戦略知の
創造・提案・参画
戦略知・組織知
の形成
組織としての
課題解決
新たな価値創造
協議・対話など
コミュニケーションの過程
ミドルの中間概念形成過程
<ミドル意思の創造>
変化を刻む―問題・課題の解明・処理・解決
のアイデアと実践の創造
図 1 -2 ミ ド ル の 「 中 間 概 念 」 の 創 造 ・ 実 践 化 過 程 ( 小 島 2012: 76)
かかる研究はいずれも、組織の「トップ」と「ボトム」の中間に位置するミ
ドル教員に対し、その立ち位置を活かした役割、すなわちミドル・アップダウ
ン・マネジメント主体としての学校経営への参画を期待するものであり、その
役 割 期 待 の 高 ま り が 読 み 取 れ る ( 1 2 )。
上述した先行研究の整理からも読み取れるように、近年注目があつまるミド
ル 教 員 に 対 す る 役 割 期 待 は 、「 ミ ド ル 論 の 萌 芽 ( 1970 年 代 前 後 )」 の 後 、「 マ ネ
ジ ャ ー と し て の 認 識( 1980 年 代 ~ 1990 年 代 前 半 )」の 生 起 と「 リ ー ダ ー と し て
の 期 待 の 萌 芽 ( 1990 年 代 後 半 ~ 2000 年 代 前 半 )」 の 追 加 を 経 て 、「 ミ ド ル ・ ア
ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト へ の 期 待 の 高 ま り ( 2000 年 代 後 半 ~ 現 在 )」 へ と 、
時代を経るにつれ変化している。そして上記変遷からもわかるように、現在の
ミドル教員には、学校組織内外で生じる課題や葛藤を調整し解決するという、
ミドル・アップダウン・マネジメント主体としての役割期待が高まっていると
いえる。
第3節
ミドル・アップダウン・マネジメントの出自と概要
前節で述べたように、近年の学校組織において注目が高まるミドル・アップ
ダ ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト で あ る が 、 こ の マ ネ ジ メ ン ト ・ ス タ イ ル は 1990 年 代 前
後 の 一 般 経 営 学 に お い て 、野 中 ( 1996)ら に よ っ て 提 唱 さ れ た も の で あ る 。本
節ではその出自と概要、及び教育経営領域における研究の到達点を確認する。
19
第1項
一般経営学理論としての組織的知識創造
ミドル・アップダウン・マネジメントはそもそも、組織的知識創造に適した
マネジメント・スタイルとして提唱された。
組織的知識創造とは、言語化されていない暗黙知と、言語化された客観的・
理 性 的 な 形 式 知 が 、「 共 同 化 ( Socialization )」、「 表 出 化 ( Externalization )」、
「 連 結 化 ( Combination)」、「 内 面 化 ( Internalization)」 の 四 つ の 知 識 変 換 モ
ー ド( SECI)を つ う じ て 、絶 え 間 な く ダ イ ナ ミ ッ ク に 相 互 循 環 し 、新 た な ア イ
ディアが創造されるというナレッジマネジメントの様相を表す理論の一つであ
る ( 図 1 -3 )。
21
身体・五感を駆使、直
接経験を通じた暗黙
知の共有・表出
1.
2.
3.
組織内外の活動によ
る現実直観
感情移入・同期・気づ
き・予知・イメージの
獲得
暗黙知の伝授・移転
暗黙知
暗
黙
知
対話・思慮による概
念・デザインの創造
(暗黙知の形式知化)
暗黙知
共同化
表出化
Socialization
Externalization
個
環境
個
個
集団
個 場 個
個
形
式
知
4.
5.
自己の暗黙知の言
語化
言語からの概念・原
型の創造
個
個
実践・仮説検証を通
じた形式知の血肉化
10. 行為のただ中の熟慮
とフィードバック
9.
暗
黙
知
内面化
連結化
Internalization
Combination
環境
集団
集団
場
形式知を行動・実践
のレベルで伝達、新
たな暗黙知として理
解・学習
集団
組織
場
個
形式知
組織
集団
形
式
知
6.
7.
8.
概念間の関係と仮説
の生成、プロトタイピ
ング
形式知の伝達・普
及・共有
形式知の編集・操作
化・シミュレーション、
ICT化
集団
形式知
形式知の組合せによ
る新たな知識の創造
(情報の活用)
図知識創造プロセス(SECIモデル)の概念
1 -3 SECI モ デ ル ( 野 中 ・ 紺 野 2012: 78)
※野中・紺野(2012:78)をもとに作成
野中らは、組織的知識創造の重要な要素として二点をあげている。
一つは、組織的知識創造プロセスが循環しやすい組織形態である。その形態
と は 「 ハ イ パ ー テ キ ス ト 型 組 織 」( 野 中 ら 1996、 野 中 ら 2012) で あ り 、 ハ イ
パーテキスト型組織は、通常のルーティーン業務が行われる官僚制的構造「ビ
ジネス・システム」と、製品開発などの知識創造活動に従事する「プロジェク
ト ・ チ ー ム 」、 そ し て 上 記 二 つ の 層 で 創 ら れ た 知 識 が 蓄 積 さ れ る 「 知 識 ベ ー ス 」
層 で 成 り 立 つ( 図 1 -4 )( 1 3 )。こ の よ う な 構 造 を し た 組 織 で は 、組 織 的 知 識 創
造が行われやすい。
20
22
メンバーは
「ビジネス・システム」
から選ばれる
ダイナミックな知識スパ
イラルが、絶え間なく知
識を創造し、蓄積し、活
用する
「プロジェクト・チーム」
製品開発などの知識創造活動に従事
「ビジネス・システム」
通常のルーティーン業務が行われる
「知識ベース」
ビジョン、組織文化、技術
3
図 1 -4
ハイパーテキスト型組織(14)
こ の ハ イ パ ー テ キ ス ト 型 組 織 は 、環 境 の 不 確 実 性 や 、顧 客 の 要 望 の 多 様 性( 教
九州大学UIプ ロ ジェ クト Kyudai Taro,2007
科 指 導・生 徒 指 導 等 )、柔 軟 で 機 動 的 な 経 営 、業 務 の 複 雑 さ と 高 度 さ 、構 成 員 の
相互依存関係、資源共有の必要性を理由に、フラット型及びマトリクス型の組
織 構 造 を 採 用 す る ( 浅 野 2008: 34) と と も に 、 教 師 の 自 律 性 が 担 保 さ れ る 疎
結 合 構 造( ル ー ス ・ カ ッ プ リ ン グ )
( Weick 1976、佐 古 1986)を と る 学 校 組 織
構 造 と 似 通 っ て い る ( 1 5 )。
そ の 一 例 と し て は 、日 本 の 多 く の 学 校 で 実 施 さ れ 、世 界 的 に も “Lesson Study”
と し て 注 目 さ れ て い る 授 業 研 究 ・ 校 内 研 究 ( 中 野 2009) を 挙 げ る こ と が で き
る。学校組織では、教師による授業や校務分掌等の日常的な業務が絶え間なく
行 わ れ て い る 。こ れ は ハ イ パ ー テ キ ス ト 型 組 織 に お け る「 ビ ジ ネ ス・シ ス テ ム 」
に該当する。その一方、授業研究を検証軸とした校内研究が行われる際には、
新たなアイディアを組織的に生み出すべく、研究主任を中心として構成される
研究推進委員会が設けられることが多い。この研究推進委員会はタスクフォー
スとしての性格を持ち、ハイパーテキスト型組織における「プロジェクト・チ
ーム」に該当する。そして、研究推進委員会を中心とした校内研究を通じて組
織 的 に 生 み だ さ れ た 知 識 は 、組 織 文 化 と し て「 知 識 ベ ー ス 」に 貯 蔵 さ れ て い く 。
この校内研究の様相からもわかるように、学校組織は組織的知識創造が行われ
や す い 組 織 形 態 で あ る と い え る ( 1 6 )。
そして、組織的知識創造の要素として二つ目に挙げられているのが、組織的
知識創造プロセスが循環しやすいマネジメント・スタイルとして提唱されたミ
ドル・アップダウン・マネジメントである。組織的知識創造では、新たなアイ
ディア実現へ向け、
「 ト ッ プ 」が 掲 げ る「 あ る べ き 理 想 」が 重 要 に な る 。し か し
この理想は、第一線で働く「ボトム」が直面する現実に対し葛藤を生むことも
多 い 。 こ の 「 ト ッ プ 」、「 ボ ト ム 」 間 で 生 じ た 葛 藤 に 対 処 す る の が 、 チ ー ム や タ
21
ス ク フ ォ ー ス の リ ー ダ ー を 務 め る こ と の 多 い「 ミ ド ル 」で あ り 、
「 ミ ド ル 」は 組
織構成員等との相互作用(ミドル・アップダウン)を通じてアイディアを生成
し 、組 織 内 で 生 じ た 葛 藤 に 対 処 す る 。
「 ミ ド ル 」は こ の 役 割 を 通 じ て 組 織 的 知 識
創 造 に 貢 献 す る ( 図 1 -5 )。
14
あるべき理想
トップ
ミドル
【葛藤】
現実の提示
図 1 -5
第2項
ミドル・アップダウン
・マネジメント
【葛藤解消】
アイディアの実現
ボトム
ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン九州大学UIプロジェクト
ト( 1 7 ) Kyudai Taro,2007
ミドル・アップダウン・マネジメント研究の課題
上述した組織的知識創造を構成する要素としての組織形態「ハイパーテキス
ト型組織」と学校組織が似通っていることからもわかるように、組織的知識創
造理論は学校経営との親和性が高い。この理由より、教育経営研究においても
組織的知識創造やミドル・アップダウン・マネジメントの視点から学校経営を
捉えた研究が多数存在する。
組 織 的 知 識 創 造 の 観 点 か ら 示 し た 論 稿 と し て 、例 え ば 大 串( 2003)は 、金 沢
市教育委員会を中心に行われた小学校英語活動カリキュラムの開発に至るプロ
セ ス を 、 組 織 的 知 識 創 造 の 観 点 か ら 示 し た 。 都 丸 ( 2004) は 「 異 教 科 TT に よ
る合科型自由学習」を事例とし、学校組織における組織的知識創造を検討して
い る 。 中 西 ・ 浪 越 ( 2003) は 、 二 つ の 小 学 校 の 体 育 カ リ キ ュ ラ ム 作 成 プ ロ セ ス
を比較分析し、組織的知識創造の様相を示した。またミドル・アップダウン・
マネジメントの観点から学校経営に言及した論稿としては、前節で示した加藤
( 2002)、 大 脇 ( 2003)、 織 田 ( 2003)、 小 島 ( 2004) 以 外 に も 、 ミ ド ル ・ ア ッ
プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト を 用 い た 高 校 に お け る 学 校 改 善 に 言 及 し た 柴 田( 2007)
や、教務主任によるミドル・アップダウン・マネジメントの重要性を述べた山
22
崎 ( 2012) 等 が あ る 。
上述のように、学校経営における組織的知識創造やミドル・アップダウン・
マネジメントに関する先行研究は蓄積がなされつつある一方、課題も残る。そ
れは、学校経営において、ミドル・アップダウン・マネジメントが「いかに」
行 わ れ る の か と い う 、現 実 に 根 差 し た 研 究 蓄 積 が 十 分 で な い と い う 課 題 で あ る 。
ミドル・アップダウン・マネジメントは一般経営学で提唱された理論である
ことからもわかるように、組織規模が大きい一般企業をもとに提唱されたマネ
ジメント・スタイルである。しかし、学校と一般企業を比較した場合、その組
織規模は学校がはるかに小さい。また学校組織のミドル教員は、企業における
ミドル(中間管理職)に比べ権限の所在が不明確である。
本論では学校と一般企業に存在する上記差異を「学校組織におけるミドル・
ア ッ プ ダ ウ ン ・マ ネ ジ メ ン ト で は 、よ り 濃 密 な 相 互 作 用 が 生 じ る 」と 捉 え 、ミ ド
ル・アップダウン・マネジメントを学校経営過程分析に適した分析視座として
用いている。しかしながら、組織構造・組織特徴に差異がある企業組織を対象
に生成された理論(ミドル・アップダウン・マネジメント)を、学校経営に対
して安易に援用することは困難であると言わざるをえない。しかし現在の学校
経営研究においてその吟味は十分になされておらず、ミドル・アップダウン・
マネジメントに対する期待ばかりが唱えられる理論先行の状況にある。
今後も進展が予想される教職員年齢構成の変化や自律的学校経営の推進によ
り 、ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト へ の 期 待 も 一 層 高 ま る と 考 え ら れ る 。
しかし、現在の学校経営研究におけるミドル・アップダウン・マネジメント研
究 の 状 況 を 踏 ま え る な ら ば 、学 校 経 営 の 現 実 に 根 差 し た ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・
マネジメントの考察は喫緊の課題といえる。
そこで、学校経営過程分析の視座としてミドル・アップダウン・マネジメン
トを用いる前に、まずは学校経営におけるミドル・アップダウン・マネジメン
ト の 実 際 に つ い て 考 察 し 、そ の 特 徴 を 踏 ま え る 必 要 が あ る 。第 2 章・第 3 章 で
はこの作業を行うことにする。
【第1章注】
( 1 ) Cinii お よ び Webcat Plus を 用 い た 検 索 に よ り 、「 ミ ド ル 」 と い う 用 語
が 用 い ら れ た 1995 年 以 降 の 学 校 教 育 に 関 す る 論 文 数 を 、 3 年 間 ご と の
数 、 及 び そ の 累 積 数 で 示 し た 。 対 象 と す る 文 献 は 、「 ミ ド ル 」、「 教 育 」、
「 学 校 」 を キ ー ワ ー ド と し 、 CiNii で ヒ ッ ト し た 論 稿 91 本 と 、 Webcat
Plus で ヒ ッ ト し た 19 冊 の 書 籍 ( 2012 年 12 月 末 現 在 ) で あ る 。
23
( 2 ) こ れ は 一 般 的 な 傾 向 で あ っ て 、研 究 主 任 や 学 年 主 任 を ミ ド ル 研 究 対 象 と
し て 取 り 上 げ る 論 者 も い る ( 李 2009、 二 宮 ・ 露 口 2010 な ど )。
( 3 ) た だ し 、教 員 年 齢 構 成 や 職 制 の 変 化 か ら 、こ の 認 識 の 捉 え な お し も 求 め
ら れ て い る 。 例 え ば 平 井 は 、「 従 来 の 、 学 級 担 任 →各 種 主 任 →教 頭 →校
長 と い う 教 師 の ラ イ フ コ ー ス を 前 提 と し た 職 能 開 発 論 は 、現 状 で は も は
や 多 数 の 教 員 に 妥 当 し な い 」( 平 井 2003: 2) と 述 べ 、 そ の 理 由 を 提 示
している。
( 4 ) た だ し 、 主 任 、「 新 し い 職 」、 中 堅 教 員 と い っ た 、「 職 位 を 担 う 人 物 」 の
み を ミ ド ル 教 員 と し て 捉 え ず 、「 ミ ド ル 」 を 「 機 能 的 な 概 念 」( 小 柳
2012: 50) と し て 捉 え る 論 者 も い る 。
例 え ば 阿 部 ら は 、「 従 来 の 「 主 任 ・ 主 事 論 」 で は 説 明 し き れ な い 内 容 を
含 む か ら こ そ 、『 ミ ド ル リ ー ダ ー 論 』 が 論 じ ら れ る よ う に な っ て き た 」
( 阿 部 ・ 藤 井 ・ 沢 田 ・ 佐 々 木 ・ 高 垣 1997: 68-69) と 述 べ る 。 佐 久 間
は 、 ミ ド ル リ ー ダ ー は 職 位 を 直 接 的 に 指 す 狭 い 概 念 で は な く 、「 現 場 の
リ ー ダ ー 、 頼 り に な る 先 輩 」( 佐 久 間 2007: 4) で あ る と い う 。 小 島 は
「 ミ ド ル 」 を 、「 職 制 を 超 え た 、 も し く は 職 制 に よ っ て は 包 み き れ な い
機 能 、 役 割 」( 小 島 2010: 82) を 果 た す 存 在 と し て 捉 え て い る 。
こ の よ う に 、「 ミ ド ル 教 員 は 誰 か 」 と い う 点 に つ い て は 議 論 の 余 地 が あ
る が ( 榊 原 2011)、 本 章 で は ひ と ま ず こ の 点 に つ い て は 言 及 し な い 。
( 5 ) た だ し 、「 マ ネ ジ ャ ー 」 と 「 リ ー ダ ー 」 に は 優 劣 が あ る わ け で は な く 、
現 実 に は ど ち ら の 資 質 も 必 要 で あ る と も 述 べ ら れ て い る ( Kets 1995)。
( 6 ) 金 井 ( 1998: 66) を 筆 者 が 一 部 修 正 。 下 線 部 も 筆 者 に よ る 。
( 7 ) 例 え ば 、近 年 の 研 究 で は「 ミ ド ル マ ネ ジ ャ ー と は 、校 長 な ど ト ッ プ マ ネ
ジメント層より下に位置づき、教職員チームや学校の仕事のために何ら
か の 経 営 責 任 を 負 う 教 員 す べ て の こ と を い う 」( 末 松 2012: 136) や 、
「学校現場で活躍できる高度な教育専門職、すなわちミドルリーダー」
( 日 比 2012:19)の よ う に 、
「 ミ ド ル 」は「 マ ネ ジ ャ ー 」と「 リ ー ダ ー 」
という用語とともに語られる傾向にある。
(8) 対象とする文献は、注 1 に記載した「ミドル」に関する先行研究と、
第 1 節 で 示 し た ミ ド ル 研 究 対 象 で あ る 主 任 、「 新 し い 職 」( 主 幹 教 諭 ・ 指
導 教 諭 な ど )、 中 堅 教 員 を キ ー ワ ー ド に 狩 猟 し た 論 文 ・ 書 籍 で あ る 。
( 9 ) ま た 1980 年 代 以 降 、サ ッ チ ャ ー 政 権 に よ る 教 育 改 革 が 強 力 に 進 め ら れ
た イ ギ リ ス に お い て も「 学 校 教 育 の 質 的 向 上 に は た す 校 長 、副 校 長 、主
任 な ど の 役 割 が 非 常 に 注 目 」( 水 本 1988: 33) さ れ 、 特 に 「 主 任 の リ
ー ダ ー シ ッ プ が 学 校 経 営 の 改 善 、及 び そ れ を 通 じ た 学 校 教 育 の 質 的 向 上
24
の 一 つ の 鍵 で あ る と 認 識 さ れ る 」( 同 上 書 : 36) な ど 、 ミ ド ル 教 員 へ の
注目がなされていた。
( 1 0 ) 序 章 で 述 べ た よ う に 、第 一 の 学 校 経 営 改 革 は 、戦 後 行 わ れ た ア メ リ カ
主 導 の 改 革 で あ り 、第 二 の 学 校 経 営 改 革 は 、教 育 委 員 会 法 の 廃 止 と 地 教
行法の成立に代表される改革を指す。
( 1 1 ) 「 教 育 改 革 国 民 会 議 報 告 ―教 育 を 変 え る 17 の 提 案 ―」( 2000 年 12 月
22 日 ) に お け る 、 学 校 や 教 育 委 員 会 へ の 組 織 マ ネ ジ メ ン ト の 取 り 入 れ
提言はその代表的な一つである。
(12)ミドル教員への注目の高まりは日本に限らず、世界的な傾向である
( OECD 2008)。例 え ば イ ギ リ ス で は 、教 科 主 任 を ミ ド ル リ ー ダ ー と し
て 捉 え 、「 教 科 リ ー ダ ー ( Subject Leader) と し て の 能 力 向 上 や 教 科 を
先導する責任感の醸成」
( TTA 1998:3)を 目 的 と し 、
「教科リーダース
タ ン ダ ー ド( National Standards for Subject Leaders )」を 作 成 し て い
る 。ア メ リ カ で は 、ミ ド ル リ ー ダ ー と し て の「 教 員 リ ー ダ ー 」
( Teacher
Leader)へ の 注 目 が 高 ま り 、「 学 校 、学 区 、そ の 専 門 職 に お い て リ ー ダ
ー シ ッ プ の 役 割 を 担 う 必 要 の あ る 教 師 の 知 識・ス キ ル・能 力 と は い か な
るものかについて、教職専門家の利害関係者同士の対話を触発する」
( TLEC2011: 3、 織 田 2013) べ く 、「 教 員 リ ー ダ ー モ デ ル ス タ ン ダ ー
ド ( Teacher Leader Model Standards )」 が 作 成 さ れ た 。「 最 も 精 力 的
に ミ ド ル 育 成 を 国 策 と し て 実 施 し て い る 」( 末 松 2012: 150) シ ン ガ ポ
ー ル で は 、「 学 習 と 教 授 を 先 導 す る ミ ド ル リ ー ダ ー の 認 識 と 経 験 の 観 点
か ら 、ミ ド ル リ ー ダ ー の 役 割 を 追 求 す る 」
( Heng & Marsh 2009:528)
研 究 が 行 わ れ る と と も に 、教 科 主 任 等 を 対 象 と し た 継 続 的 な 研 修 が 実 施
されている。
(13)
「 知 識 ベ ー ス 」層 は 現 実 の 組 織 実 態 と し て 存 在 す る の で は な く 、ビ ジ ョ
ンや組織文化、あるいは技術の中に含まれる。
( 1 4 ) 野 中 ら ( 1996: 253) を も と に 筆 者 作 成 。
( 1 5 )た だ し 、ハ イ パ ー テ キ ス ト 型 組 織 の 完 全 な 姿 は「 ビ ジ ネ ス・シ ス テ ム 」
と「 プ ロ ジ ェ ク ト・チ ー ム 」が 独 立 し た も の で あ る 。そ の 点 、マ ト リ ッ
ク ス 型 で あ る 学 校 組 織 は 完 全 な ハ イ パ ー テ キ ス ト 型 組 織 で は な く 、「 ハ
イパーテキスト型組織と呼ばれる資格はある」
( 野 中 ら 1996:258)組
織といえる。
(16)ただし、学校組織へ知識が集積されているか、また、いかにして集積
さ れ て い る の か に つ い て は 検 討 が 必 要 で あ る 。例 え ば 佐 藤 は 、研 究 指 定
を 受 け 行 う 授 業 研 究 ・ 校 内 研 究 に 関 し て 、「 多 く の 学 校 は 、「 研 究 指 定 」
25
の 期 間 を 終 え る と 、す べ て の 研 究 活 動 を 終 え 、10 年 後 に「 研 究 指 定 校 」
に 任 命 さ れ る ま で 何 も し よ う と は し な い 。多 大 な 労 力 を 注 い で 作 成 さ れ
た「 研 究 冊 子 」を 読 も う と す る 者 も 誰 も い な い 」と 批 判 的 に 言 及 し て い
る ( 佐 藤 2012: 132)
( 1 7 ) 野 中 ら ( 1996: 191) を も と に 筆 者 作 成 。
26
第2章
「運動会の運営」にみる学校経営過程
―ミドル・アップダウン・マネジメントの実際(1)―
学校経営過程を捉える分析視座として設定したミドル・アップダウン・マネ
ジメントは、団塊世代の大量退職や自律的学校経営を志向した改革を背景に近
年注目が高まる概念である。一方でその内実は一般経営学の理論を援用するに
とどまり、その期待ばかりが語られる傾向にある。そこで本章(第 2 章)及び
次章(第 3 章)では、学校経営におけるミドル・アップダウン・マネジメント
の実際を捉える作業を行う。まず本章では、A 小学校(1)における「運動会の
運 営 ( 2 )」 を 事 例 と し 、 ミ ド ル ・ ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト の 実 際 を 考 察 す
る。
第1節
分析対象及び研究方法
第1項
A 小学校の属性
本 章 で 対 象 と す る 事 例 は 、 A 小 学 校 の 教 務 主 任 Az 教 諭 に よ っ て 行 わ れ た 運
動会の運営をめぐるミドル・アップダウン・マネジメントである。
A 小 学 校 は 1990 年 代 前 半 、 児 童 数 の 増 加 に よ り B 小 学 校 か ら 分 離 開 校 し た
比 較 的 新 し い 学 校 で あ る 。A 小 学 校 は 、
「 会 社 関 係 の 倉 庫 が 立 ち 並 び 、各 地 か ら
大 型 ト ラ ッ ク が 頻 繁 に 出 入 り す る C 市 の 流 通 の 拠 点 ( 3 )」 に 位 置 し 、 公 共 交 通
機関の発達により、市内中心部へのアクセスは良い。近年は、周囲に残る田畑
を用いたマンション新設が進み、住民数・児童数は増加傾向にある。この影響
を 受 け 、 A 小 学 校 の 児 童 数 は 2000 年 前 半 よ り 各 学 年 5 ク ラ ス 、 児 童 数 1,000
人 を 超 す 大 規 模 校 と な っ て い る 。 そ し て こ の 1,000 人 を 超 す 児 童 数 に 対 応 す べ
く 、2000 年 中 旬 か ら は プ レ ハ ブ 校 舎 を 職 員 室 横 に 設 置 し 、教 室 と し て 利 用 し て
お り( 図 2 -1 )、2008 年 度 末 に は プ レ ハ ブ を 解 体 し 、校 舎 増 設 工 事 が 行 わ れ た
( 図 2 -2 )。
A 小 学 校 の 教 員 数 は 40 名 を 超 え 、そ の 年 齢 構 成 は 50 代 が 最 も 多 い 。し か し
新規採用教員も 6 年連続で配置されており、若手教員も増加傾向にあった。ま
た A 小 学 校 は 、C 市 の 「 小 中 学 校 連 携 教 育 」 の 推 進 事 業 モ デ ル 校 に 指 定 さ れ て
お り 、 中 学 校 教 員 で あ る By 教 諭 ( 理 科 専 科 、 6 年 学 年 主 任 、 A 小 学 校 赴 任 3
年 目 )と 教 頭( A 小 学 校 赴 任 1 年 目 )が 小 中 学 校 交 流 人 事 で A 小 学 校 に 在 籍 し
ている。
27
通用門
体育倉庫
体育館
北校舎
運動場
(
教プ
レ
室ハ
)ブ
プレハブ
(教職員
更衣室)
職員室
管理棟
保健室
正門
図 2 -1
2008 年 度 以 前 の A 小 学 校 校 舎 配 置
通用門
体育倉庫
体育館
北校舎
運動場
職員室
新校舎
保健室
管理棟
正門
2008年度末増築
図 2 -2
第2項
2008 年 度 以 降 の A 小 学 校 校 舎 配 置
Az 教 諭 の 特 徴
校 舎 増 築 後 、A 小 学 校 で は 昨 年 度 通 り の 教 育 活 動 が 行 わ れ て い た が 、
「運動会
の運営」において校舎増築にともなう課題が生じる。
例 年 A 小 学 校 で は 、運 動 会 を 5 月 に 実 施 し て い る 。し か し 、校 舎 増 築 工 事 が
28
2008 年 度 末 に 終 わ っ た ば か り で あ る こ と も あ り 、2009 年 度 の 運 動 会 は 10 月 実
施へと変更された。そしてこの運動会の運営で問題となったのが、保護者・地
域住民が運動会競技を観覧するスペースと、競技の合間や昼休みの間に休憩を
取 る ス ペ ー ス の 確 保 で あ っ た 。こ の 課 題 解 決 を 図 っ た の が 、当 時 A 小 学 校 の 教
務 主 任 で あ っ た Az 教 諭 で あ る 。
Az 教 諭 は 、 教 職 経 験 28 年 、 A 小 学 校 は 初 任 校 か ら 数 え て 7 校 目 の 勤 務 校 で
あ る 。Az 教 諭 は 前 任 校 在 籍 時 よ り 教 務 主 任 を 担 っ て お り 、A 小 学 校 へ も 教 務 主
任 と し て の 異 動 で あ っ た 。 A 小 学 校 の 在 籍 期 間 は 2007~ 2009 年 度 の 3 年 間 で
あ り 、 調 査 当 時 ( 2009 年 度 ) は A 小 学 校 赴 任 3 年 目 の 年 に あ た る 。 ま た 当 時
は 、 7 月 よ り 病 気 休 養 中 で あ っ た 6 年 D 組 担 任 の 代 替 も 兼 任 し て い た ( 4 )。
Az 教 諭 は 、 自 身 が 担 う 教 務 主 任 の 役 割 を 、「 管 理 職 で も 、 一 般 教 諭 で も で き
な い 仕 事 で あ り 、自 分 が 学 校 を 回 し て い る 。」( 9 月 14 日 14: 16)( 5 ) と 認 識 し
ており、周囲に対する積極的なコミュニケーションを意識的に行っている。そ
の た め 、教 員 や 保 護 者 、PTA へ の 声 か け や 挨 拶 な ど 、周 囲 へ の 気 遣 い を 欠 か さ
ず 行 い 、 日 常 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を と る 様 子 が 特 徴 的 で あ る ( 6 )。 こ の よ
う な Az 教 諭 に 対 す る 周 囲 の 教 員 の 評 価 も 高 い ( 7 )。本 調 査 で は 、こ の Az 教 諭
へのシャドーイングによる参与観察を実施した。
第3項
研究方法
筆 者 は A 小 学 校 に お い て 、 2007~ 2012 年 度 に 至 る 6 年 間 継 続 し た フ ィ ー ル
ド ワ ー ク を 行 っ て お り 、本 章 の 分 析 デ ー タ は 上 記 期 間 中 の 2009 年 9 月 14 日 ~
18 日 の 間 に 行 っ た 参 与 観 察 で 得 た デ ー タ を 主 と す る 。 調 査 で は 、Az 教 諭 に IC
レ コ ー ダ ー を 携 帯 し て も ら う と と も に 、 筆 者 は Az 教 諭 の シ ャ ド ー イ ン グ を 行
い、筆記での記録を行った。また参与観察後にも追加調査を行い、データの補
完を行っている。
参与観察で得たデータの分析においては、質的研究方法の一つであるエスノ
グラフィを用いた。エスノグラフィは文化人類学において発達した研究方法で
あ り 、 下 記 6 点 を 特 徴 と す る ( Smith 1992:149= 武 井 2003: 16)。
(1)直接的にその集団に参加・観察し、記録を取って、主要資料とすること
ができるだけの長期間、調査者が研究対象とする共同体・集団と生活を
共にする必要がある。
(2)個人の生活・仕事・遊びの『特筆されるべき』事柄への関心と同様に、
ささいな日常的事柄へも関心をよせる。
(3)個人が彼らの世界をいかに知覚し、意味付け、解釈しているかについて
29
特に注目する。
(4)共同体、組織、集団の中の生活を、全体的に把握するに至らないにして
も、それらを総合し、文脈化するよう試みる。
(5)問題意識の当初から最終的な結論に至る調査の過程を通じて、深化、発
見、説明された、調査の解釈的・概念的構造を意図的に見ようとする傾
向がある。
(6)概念の抽象化に際して意識的・創造的に事実の陳述を織り込む。
上記のような特徴を持つエスノグラフィは、一般経営学においても活用され
る 方 法 論 で あ り( 金 井 1990)、学 校 経 営 過 程 研 究 の 文 脈 に お い て も「 学 校 経 営
現象を(中略)複雑な構造を持つものと認識し、生きられた現実の文脈の中で
動 態 的 に 描 き 出 す 」( 武 井 1995: 95) こ と が 可 能 と 考 え ら れ て い る 。
前章で述べたように、学校経営におけるミドル・アップダウン・マネジメン
トの実態把握が不十分な現在、実際の文脈からの考察作業は必須である。そこ
で本章では上記特徴を持つエスノグラフィを用い、学校経営におけるミドル・
アップダウン・マネジメントの実際を描き出す。
第2節
事例の実際
第1項
課題の認識
2009 年 度 2 学 期 が 始 ま っ た ば か り の A 小 学 校 で は 、 校 舎 増 築 後 、 初 め て 行
う 運 動 会 の 準 備 が 進 め ら れ て い た 。今 年 度 は 運 動 場 が 狭 く な っ た た め 、
「競技ト
ラ ッ ク を ど の よ う に 設 置 す る か 」 や 「 本 部 テ ン ト を ど こ に 置 く か 」、「 用 具 置 き
場をどこにするか」といった、運動会の運営上様々な点で例年とは変更が生じ
ている。そのような変更にともなう課題の一つとして生じたものが、運動会当
日 2,000 人 を 超 す 来 校 が 予 想 さ れ る 保 護 者 ・ 地 域 住 民 の 「 運 動 会 競 技 観 覧 ス ペ
ース」と「休憩スペース」確保であった。
こ の 課 題 に つ い て 、 Az 教 諭 は 悩 ん で い た 。 Az 教 諭 は 前 任 校 で 、 保 護 者 ・ 地
域 住 民 と の 連 携 に よ り 荒 れ た 学 級 を 立 て な お し た 経 験 を も つ 。 そ れ 以 来 Az 教
諭は「保護者・地域住民との連携」を重視しており、A 小学校赴任後も、A 小
学校が掲げる重点目標である「保護者・地域との連携」を重要視していた(図
2 -3 )。
30
地域と連携し開かれた学校づくりの推進
① PTA・ 公 民 館 等 地 域 諸 団 体 と の 連 携 を 図 り 、 諸 活 動 へ の 協 力 と 支 援 を で き
る範囲で行うとともに、スクールガードやメール配信等の組織の拡大を図
り 、 児 童 の 安 全 を 守 る 活 動 を PTA 地 域 と 連 携 し て 行 う 。
②地域との連携を深め開かれた学校づくりを推進するため、積極的な情報発
信を推進し、本校教育に対する理解と支援を得るように努める。
③家庭の教育力を高めるための啓発を進めるとともに、学校の取組を積極的
に地域・保護者等に発信したり意見を求めたりするなど学校教育への信頼
と支援を得るように努める。
④ 社 会 人 講 師 や ALT 等 の 活 用 や 校 区 ・ PTA 人 材 の 活 用 を 進 め る た め 、 人 材
バンクの拡大を図り教育活動の活性化をめざす。
⑤いじめ・不登校や生徒指導上の課題を持つ児童への対応については、家庭
は も と よ り 地 域・関 係 団 体 と の 連 絡・協 力 体 制 の 充 実 を 図 る 取 組 を 進 め る 。
図 2 -3
A 小 学 校 重 点 目 標 ( 抜 粋 )( 8 )
こ の 認 識 の も と 、Az 教 諭 は 毎 年 、運 動 会 後 に 保 護 者 を 対 象 と し た ア ン ケ ー ト
を実施し、運動会の運営における意見収集を行っている。そして昨年度アンケ
ートの中に、
「 競 技 を 見 る ス ペ ー ス が 少 な い 」と い う 意 見 や「 運 動 場 に レ ジ ャ ー
シートを敷く休憩スペースが少ない」という意見が多いことに気付いた。
昨 年 度 ( 2008 年 度 ) の 運 動 会 は 、 図 2 -4 で 示 す よ う に 、 校 舎 増 築 前 の 比 較
的 ス ペ ー ス に 余 裕 の あ る 状 態 で 実 施 し た も の で あ る 。し か し 今 年 度 は 図 2 -2 で
示したように、校舎増築によって運動場がさらに狭くなっている。そのため、
競技を観覧するスペースを意図的に設置しなければ、多くの保護者・地域住民
が運動会の競技を見ることができなくなる恐れがあり、運動場内への保護者侵
入 な ど 運 動 会 実 施 に 支 障 を き た す 恐 れ も あ る 。 ま た 、 運 動 会 実 施 予 定 の 10 月
初 旬 、A 市 の 平 均 気 温 は 約 20 度 、日 中 の 最 高 気 温 は 30 度 近 く に な る こ と も 多
く、日光を遮ることのできる休憩スペースがなければ熱中症等の問題が起こる
恐れもあった。さらに上述のような「運動会の運営」における課題への対応次
第 で は 、 保 護 者 ・ 地 域 住 民 が 不 満 を 募 ら せ る 可 能 性 も あ り 、 結 果 と し て Az 教
諭と A 小学校が重視する「保護者・地域との連携」を脅かしかねない。
Az 教 諭 : そ ん な の は ち ゃ ん と 親 に 聞 い て お か な い と 、極 端 な 話 、親 が 不 満 を
持 っ た ま ま で 、 そ の ま ん ま で 、「 学 校 は 何 も 改 善 し て く れ な い 」 と
か「何も対応しなかった」とか、やっぱりなるんだよね。
( 9 月 14 日 16: 05、 職 員 室 )
31
通用門
体育倉庫
児童席
体育館
入
退
場
門
児童席
北校舎
本
部
テ
ン
ト
トラック
入退場門
プ
(
教レ
室ハ
)ブ
プレハブ
(教職員
更衣室)
職員室
管理棟
児童席
入
退
場
門
保健室
児童席
正門
図 2 -4
2008 年 度
運動会配置
そ こ で Az 教 諭 は 、 予 想 さ れ る 「 運 動 会 競 技 観 覧 ス ペ ー ス 不 足 」 と 「 休 憩 ス
ペース不足」という二つの課題への対応策を生み出した。それが、以下で述べ
る「一時観覧席設置」と「全校舎開放」である。
第2項
一時観覧席設置
(1)企画委員会での提案
「 一 時 観 覧 席 設 置 」は 、
「 競 技 を 見 る ス ペ ー ス が 少 な い 」と い う 意 見 へ の 対 応
策 と し て 、児 童 席 後 方 に 競 技 観 覧 ス ペ ー ス を 設 置 す る と い う ア イ デ ィ ア で あ る 。
9 月 14 日 。A 小 学 校 で は 、1 ヶ 月 後 に 迫 る 運 動 会 へ 向 け た 準 備 内 容 の 確 認 や 、
新型インフルエンザに関する対応を協議・情報共有するべく企画委員会が実施
さ れ た 。Az 教 諭 は「 一 時 観 覧 席 設 置 」実 現 の た め に 、こ の 企 画 委 員 会 に お い て
アイディアの提案を行う。
Az 教 諭:実 際 に ト ラ ッ ク が あ っ て 児 童 席 が あ っ た ら 、児 童 席 の 外 側 ぐ ら い は 、
その演技の学年に関係する保護者が入れ替わり立ち替わり見てくだ
さいみたいな、親にはレジャーシート敷かせないような(スペース
を ) 何 メ ー ト ル か 作 っ て 。 そ こ で は 自 由 に 、「 そ の 学 年 ( の 保 護 者 )
は見てください。そのかわり入れ替わってください」みたいなやり
か た を し な い と 、 保 護 者 が 「 見 れ な い 」、「 座 れ な い 」 と か 言 っ て 、
相当文句言うんじゃないかなぁっていう気がしてるので。こういっ
32
たようなお願いができないのかなぁって思います。
( 9 月 14 日 16: 23、 企 画 委 員 会 、 校 長 室 )
Az 教 諭 に よ っ て な さ れ た「 休 憩 ス ペ ー ス 確 保 」と い う 課 題 提 示 と そ の 対 応 策
としての「一時観覧席設置」について、企画委員会参加者は理解を示す。しか
し、校舎増築によって狭くなった運動場にそのようなスペース確保が可能なの
かという実現可能性に関する意見も出された。
Nb 教 諭 ( 5 年 学 年 主 任 ): と に か く ほ ん と 、 運 動 場 が 狭 い も ん ね 。 何 も 言 い
ようがない。
校長:今回はちょっと読めない部分もあって。一時観覧席が設置可能かどう
か わ か ら な い 。( 9 月 14 日 16: 28、 企 画 委 員 会 、 校 長 室 )
こ れ ら 意 見 が 出 さ れ た め 、 Az 教 諭 は 計 画 の 再 検 討 を 余 儀 な く さ れ た 。
( 2 ) By 教 諭 へ の 協 力 打 診
企 画 委 員 会 終 了 後 、 職 員 室 へ 戻 っ た Az 教 諭 は 、 自 身 の 座 席 前 方 に 座 る 6 年
学 年 主 任 By 教 諭 か ら 声 を か け ら れ ( 図 2 -5 )、 運 動 場 を 一 望 で き る 新 校 舎 3
階へと向かった。
以降省略
5年教員の
座席
6年教員の
座席
By教諭
出
入
り
口
出
入
り
口
運
動
場
校長
図 2 -5
教頭
副校長
Az教諭
保
健
室
職員室座席配置(抜粋)
教 務 主 任 で あ る Az 教 諭 と 小 中 学 校 連 携 教 育 の 一 貫 で 中 学 校 か ら 異 動 し て き
た 教 員 で あ る By 教 諭 は 互 い に 学 級 担 任 を も た な い こ と も あ り 、 日 ご ろ か ら 職
33
員 室 等 で の 接 触 が 多 い 。ま た 調 査 当 時 は 特 に 、By 教 諭 が 初 め て 学 年 主 任 を 担 う
学 年 で あ る 6 年 D 組 へ Az 教 諭 が 関 わ っ て い た こ と か ら 、 普 段 以 上 に Az 教 諭
と By 教 諭 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 頻 度 は 高 か っ た 。
By 教 諭 は 当 時 、 体 育 部 ( 校 務 分 掌 ) に 所 属 し て い た 病 休 中 の 6 年 D 組 担 任
に 代 り 、 運 動 会 運 営 の 中 核 を 担 っ て い た 。 そ の た め 、 企 画 委 員 会 で Az 教 諭 か
ら 提 案 さ れ た 「 一 時 観 覧 席 設 置 」に つ い て 協 議 す る た め 、 By 教 諭 は Az 教 諭 を
新館 3 階へ連れ出したのである。
Az 教 諭 は By 教 諭 と 運 動 場 を 見 下 ろ し な が ら 、運 動 会 会 場 配 置 に つ い て 話 し
合 う 。 こ の 会 話 の 中 で 、 Az 教 諭 は By 教 諭 に 「 一 時 観 覧 席 設 置 」 検 討 へ の 協 力
を打診した。
Az 教 諭 : 気 持 ち 的 に は ね 、 去 年 も ( ア ン ケ ー ト の 意 見 に ) 出 て た け ど ね …
正 面( = 本 部 テ ン ト )に 向 か っ て 、子 ど も が 踊 る み た い な の が 多 い
やない。
By 教 諭 : あ ぁ 。
Az 教 諭 : で 、こ っ ち( = 演 技 が 正 面 か ら 見 え る )側 に も ね 、ス ペ ー ス が 欲 し
い み た い な 意 見 が 、 あ っ た は あ っ た ん だ よ ね 。 わ か る や ろ 、( ス ペ
ー ス が な か っ た ら )全 部 後 ろ 向 き 撮 影 に な る か ら ね 。だ か ら 、ど こ
かちょっとでも開けてやったらいいのかなぁって気がしないでも
な い ん や け ど ね 。( 中 略 )
By 教 諭 : 正 面 に … 確 か に 、撮 影 テ ン ト じ ゃ な い け ど 、撮 影 し て 構 わ ん み た い
な の が で き れ ば 、 そ れ は ( い い だ ろ う ) ね 。( 中 略 ) そ し た ら 明 日
で す ね 、テ ン ト の 大 き さ で( 実 際 の 配 置 が ど う な る か )、
( 中 略 )ラ
イ ン を 引 き ま し ょ う か 。( 9 月 14 日 17: 30、 放 課 後 、 新 校 舎 3 階 )
こ う し て 、 Az 教 諭 は By 教 諭 の 協 力 を 得 る こ と に 成 功 す る 。
(3)課題への直面
Az 教 諭 と By 教 諭 は 空 き 時 間 を 利 用 し 、「 一 時 観 覧 席 設 置 」 に つ い て 検 討 す
る ( 9 )。 ま た By 教 諭 は 、 体 育 部 内 で の 調 整 や 管 理 職 と の 協 議 を 通 じ 、「 一 時 観
覧 席 設 置 」実 現 へ の 行 動 を と っ た 。そ し て 企 画 委 員 会 の 2 日 後( 9 月 16 日 )に
は「一時観覧席設置」の目途が立つ。
ただし、この時点では課題が残っていた。それは運動場の狭さゆえ、児童席
と一時観覧席の境界が十分に取れないというものであった。この対応策として
は、杭とロープで児童席と一時観覧席を区切ることが考えられる。しかし、杭
34
は高額なため、A 小学校には十分な本数がない。
Az 教 諭 :「( レ ジ ャ ー シ ー ト を )敷 い て る の に 、人 が 入 っ て き た 」み た い な 文
句 言 う ( 可 能 性 が あ る )。 だ か ら 、 By 先 生 が 言 う よ う に 安 全 面 が ど
う し て も 心 配 っ て い う な ら 、ロ ー プ を 児 童 席 の 後 ろ に 張 っ て 、そ の
後 ろ に は 、も う と に か く 線 引 い て 、
「 ×」と か し て 。先 生 た ち が「 こ
こ は だ め 」と か 言 っ て 、2・3 人 立 っ て て も ら っ て 指 導 す る み た い な
こ と を し な い と 、足 ら な い か も し れ な い 。線 だ け で だ め っ て 言 う の
は。ねぇ。
By 教 諭 : そ っ ち が い い か な 。 ロ ー プ は 200m 分 は あ る ん で す よ ね 。
Az 教 諭 : う ー ん 。 杭 は な い ん よ ね 。
By 教 諭 : 杭 は な い 。借 り て き て も い い け ど 、借 り て き た ら ぐ ち ゃ ぐ ち ゃ に 折
れ曲がりそうで。
Az 教 諭 : 杭 、 結 構 高 い も ん ね 。 10 本 セ ッ ト で 何 千 円 っ て 。
By 教 諭 : 感 覚 的 に は や っ ぱ り 、 一 番 大 外 に 引 き た い で す ね 。
( 9 月 16 日 13: 35、 昼 休 み 、 職 員 室 )
(4)解決策の提案
「 一 時 観 覧 席 設 置 」が 再 び 課 題 に 直 面 し た そ の と き 、Az 教 諭 と By 教 諭 の や
り と り を 聞 い て い た 副 校 長 が 話 し か け る 。副 校 長 は 、今 年 度 A 小 学 校 に 異 動 し
てきたばかりであり、A 小学校の運動会は初めてであった。
副校長:一時観覧席と児童席のさ、境目がなくなってどんどん親が入ってき
たりとか、そういうことない?
Az 教 諭 : そ れ は な い と 思 い ま す け ど 。
By 教 諭 : そ れ は な い 。( 子 ど も た ち は ) 座 っ て る か ら で す ね 。
副校長:どんどん子どもが前の方に詰められたりとか。
Az 教 諭 : い や 、 そ こ ま で は な い と 思 う ん で す け ど 。 ・・・あ っ た ら あ っ た で 、
やっぱり、来年対策(が必要)やねって感じはしますね。
副校長:今から杭買ってもらったら間に合わないですか?
Az 教 諭 : い や 、 買 っ て も ら え る な ら 。
By 教 諭 : ど っ ち に し ろ ね 、 買 っ て も ら う な ら 買 っ て も ら っ た 方 が 。
副 校 長:買 お う や 、杭 。
( 中 略 )買 っ て も ら お う 。そ れ ぐ ら い の 金 は あ る 。
(中
略 )( 事 務 の ) Nt 先 生 に 頼 ん で お く よ 。
( 9 月 16 日 13: 37、 昼 休 み 、 職 員 室 )
35
この副校長の後押しを受け、
「 一 時 観 覧 席 設 置 」の 課 題 は 解 決 し 、実 現 可 能 と
な っ た ( 図 2 -6 )。
(点線部):杭とロープによる仕切り
通用門
体育倉庫
入
場
児童席 門
一時観覧席
一時観覧席
体育館
児童席
北校舎
退場門
一 児
時 童
観 席
覧
席
トラック
退場門
本部テント
児 一
童 時
席 観
覧
席
シルバー
席
職員室
入
口
新校舎
管理棟
W
C
保健室
正門
図 2 -6
第3項
一時観覧席設置(10)
全校舎開放
(1)副校長の意向を踏まえた提案
Az 教 諭 に よ る 二 つ 目 の ア イ デ ィ ア 「 全 校 舎 開 放 」 は 、「 休 憩 ス ペ ー ス が 少 な
い」という保護者の意見に対し、校舎開放によってスペースを確保するという
ものである。
Az 教 諭 は 「 一 時 観 覧 席 設 置 」 を 提 案 し た 企 画 委 員 会 で 、「 全 校 舎 開 放 」 に つ
いての提案も計画していた。企画委員会当日の昼休み、6 年 D 組での給食指導
を 終 え 職 員 室 に 戻 っ た Az 教 諭 は 、 隣 の 席 に 座 る 副 校 長 か ら 尋 ね ら れ る 。
副校長:企画(委員)会で何か提案すると?
Az 教 諭 : い や 、 運 動 会 の 。 そ の 、 な ん て い う か な 。 応 援 席 が 、 保 護 者 の 席 を
ど の へ ん ま で に す る か っ て い う の を 。校 長 先 生 に は は っ き り 聞 い て
な い ん で す け ど 、僕 的 に は「 全 館 フ リ ー に 」み た い な 気 持 ち が あ る
んですよ。
副校長:あぁはぁ。
36
Az 教 諭 : そ う し な い と 、 パ ラ ソ ル と か 何 と か 持 ち 込 ま せ た ら で す ね 、 こ う 、
( 児 童 席 や 競 技 ス ペ ー ス に ) 入 り 込 ん で で す ね 。( 中 略 )
副 校 長:( 話 を 聞 き 、う な ず く )こ こ( = 職 員 室 が あ る 管 理 棟 )の 通 路 は 入 ら
せんようにして。事務室とか職員室とか。この通りだけは入らせん
ように。ちょっとこの前だけはやめて。怖い。そこ(=職員室前)
にバリケードを作るのは簡単でしょ?
Az 教 諭 : は い 、 そ う で す ね 。( 9 月 14 日 13 時 43 分 、 昼 休 み 、 職 員 室 )
こ の 副 校 長 の 意 向 を 踏 ま え 、Az 教 諭 は 企 画 委 員 会 で「 全 校 舎 開 放 」を 提 案 し
た。
Az 教 諭:今 年 新 校 舎 も で き た し 。職 員 室 の 前 は や め よ う と い う こ と に な っ て
ま す け ど 、新 校 舎 も 含 め て 、す べ て 、オ ー ル 3 階 ま で 確 保 す る こ と
で で す ね 。( 中 略 ) 校 舎 内 は ゆ っ く り 休 ん で く だ さ い ( と い う 様 に
し よ う と 思 っ て い ま す )。 去 年 も 体 育 館 と か も 含 め て 、 時 間 的 に は
11 時 45 分 ぐ ら い か ら 1 時 半 と か ま で 、 昼 食 の 時 間 と か に ( 開 放 )
し て た け ど 、( 今 年 は ) オ ー ル フ リ ー で 。
( 9 月 14 日 16: 22、 企 画 委 員 会 、 校 長 室 )
(2)意見の取り入れと計画修正
① By 教 諭 の 見 解
Az 教 諭 の 提 案 に 対 し 、 6 年 学 年 主 任 の By 教 諭 か ら 否 定 的 な 意 見 が 述 べ ら れ
た。
By 教 諭 : 新 校 舎 の で す ね 、 3 階 は 得 点 板 が く る 予 定 な ん で す よ 、 今 年 だ け 。
Az 教 諭 : あ 、 上 か ら つ る す 。
By 教 諭 : い や 、つ る す ん じ ゃ な く て 中 に 置 く ん で す よ 。 あ の ー 、窓 枠 を 通 し
て見える状態にする予定なんで。
Az 教 諭 : う ん 。
By 教 諭 : 新 校 舎 3 階 だ け は あ の ー 、あ そ こ は 袋 小 路 に な っ て る か ら 、よ け て
もらったほうがいいかな。逆にいうと新校舎はのけるとかですね。
そ う し た ほ う が わ か り や す い の か な ぁ と 。本 館 の ほ う の フ ロ ア ー だ
けを使うとかしたほうがわかりやすいんじゃないかなぁ。
二つ目は、いわゆるシルバー席(11)みたいなやつを作ってるじゃ
ないですか。
37
Az 教 諭 : う ん 。
By 教 諭 : そ の こ と も あ る か ら で す ね 。 そ ち ら に つ い て は ト イ レ と か で す ね 。
そういう部分は、お年寄りの方とか足が不自由な方というのは、新
校舎のトイレ、一階のトイレを使ってもらうようにするからですね。
Az 教 諭 : う ー ん 。
By 教 諭 : あ と も う 一 つ は で す ね 、救 護 に 関 係 す る こ と 。新 校 舎 を 通 っ て い く
形になるからですね。新校舎は入れない方がいいかなぁと。
Az 教 諭 : う ん 。
By 教 諭 : 場 所 的 に も 狭 い し 。( 9 月 14 日 16: 25、 企 画 委 員 会 、 校 長 室 )
さ ら に 企 画 委 員 会 終 了 後 、Az 教 諭 は By 教 諭 に 声 を か け ら れ 、運 動 場 を 一 望
で き る 新 校 舎 3 階 へ と 向 か っ た ( 1 2 )。こ こ で By 教 諭 は 全 校 舎 開 放 に 対 し て 再
度否定的な見解を示す。
By 教 諭 : ち ょ っ と 最 後 話 し て た け ど 、フ リ ー に( 校 舎 を )開 放 す る っ て い う
のが、その、現実的にはないですね。
( 9 月 14 日 17: 25、 放 課 後 、 新 校 舎 3 階 )
By 教 諭 は こ の 理 由 に つ い て 、校 舎 内 へ の 侵 入 者 把 握 が 難 し く 、危 機 管 理 上 好
ま し く な い と 述 べ る 。そ し て「 全 校 舎 開 放 」の 代 替 案 と し て 、
「体育館の開放と
昼食時に限った北校舎一階の開放」を示した。
②副校長の見解
企 画 委 員 会 翌 日 の 放 課 後 、By 教 諭 に 引 き 続 き 、副 校 長 か ら「 全 校 舎 開 放 」に
対 す る 見 解 が 示 さ れ る 。 放 課 後 の 職 員 室 、 6 年 D 組 で の 業 務 を 終 え た Az 教 諭
は 職 員 室 の 自 席 に て 、 運 動 会 プ ロ グ ラ ム を 作 成 し て い た 。 そ の Az 教 諭 へ 、 副
校長は隣の席から話しかける。
副 校 長 :( 昨 日 の 企 画 委 員 会 で 、) 運 動 会 の 時 に 、 体 育 館 と か フ ロ ア ー を 親 に
開放するって話したやない。
Az 教 諭 : は い 。
副 校 長:そ れ で 、ち ょ っ と 校 長 先 生 と も 話 し た ん だ け ど 、教 頭 先 生 と か と も 。
今 日 、 By 先 生 と も 話 し て 。 ト ラ ッ ク ( の 線 を ) き れ い に 引 い て く れ
たから。
( 新 校 舎 の )3 階 か ら 見 な が ら 。・・・結 論 か ら 言 え ば 、体 育 館
はですね、朝から、開放して。で、えー、校舎内 1 階の、多目的ス
38
ペースですかね、
Az 教 諭 : は い 。
副校長:あれは昼食時だけ開放ということでいけば、いいかなって思ってる
んですけど、どうですかね。
Az 教 諭 : ・・・あ ー ・・・。( 9 月 15 日 17: 34、 放 課 後 、 職 員 室 )
副校長は前任校で「校舎内への中高生からの落書き」を経験している。その
ため、危機管理面への危惧から「全校舎開放」に難色を示したのであった。
こ れ に 対 し て Az 教 諭 は 、 保 護 者 ア ン ケ ー ト で 休 憩 ス ペ ー ス 不 足 に つ い て の
意 見 が 出 て お り 、そ の 対 策 が 必 要 だ と 再 度 伝 え る と と も に 、PTA へ 校 内 巡 回 を
依頼することで、校舎内を荒らされるリスクは十分に防げるという案を付け加
え、副校長の説得を試みた。
し か し 副 校 長 は 譲 ら ず 、 最 終 的 に Az 教 諭 は 副 校 長 の 意 見 を 受 け 入 れ る 。
Az 教 諭 : い や ・・・最 終 判 断 は 任 せ ま す 。 僕 は そ う 思 う け ど っ て い う ね 。
( 9 月 15 日 17: 48、 放 課 後 、 職 員 室 )
こ う し て 、By 教 諭 と 副 校 長 か ら「 全 校 舎 開 放 」へ の 反 対 を 受 け た Az 教 諭 は 、
「全校舎開放」の計画を「体育館の開放と昼食時に限った北校舎一階の開放」
に修正することとなった。そしてこの修正した計画を、小中学校交流人事で今
年度中学校から異動してきた教頭に手渡した。
Az 教 諭 : 教 頭 先 生 、 明 日 で す ね 、 見 て て も ら え ま せ ん か 。
教
頭:はい?
Az 教 諭 : え っ と 、 一 応 な ん か 、 副 校 長 が 、「 体 育 館 の み の 開 放 」 で 、 あ と 、
そ の 、「 校 舎 は 昼 食 時 の み 」 っ て 言 っ て た の で 、 そ の 辺 で 書 き 直 し
て ま す 。( 9 月 15 日 19: 27、 退 勤 前 、 職 員 室 )
(3)計画の再修正
修 正 計 画 を 教 頭 に 提 出 し た 翌 日 、 Az 教 諭 は 教 頭 か ら の 新 た な 提 案 を 受 け る 。
教
頭:これね、先生。
Az 教 諭 : は い 。
教
頭 : こ れ な ん で 、( 北 校 舎 ) 2 階 ( を 開 放 ) し な い の ?
Az 教 諭 : い え 、 な ん か 副 校 長 が 言 い ま し た よ ? 2 階 以 上 は 上 げ な い っ て 。
39
教
頭:いや、それでね、私、
Az 教 諭:僕 も 必 要 じ ゃ な い で す か っ て( 言 っ た ん で す )。そ し た ら こ っ ち( =
新 校 舎 ) の 3 階 も 上 げ な い し 、( 北 校 舎 も ) 3 階 ま で は 上 げ な い っ
て 。( 中 略 )
教
頭 : い や 、だ っ て さ 、こ れ 、な ん で 1 階 し か っ て 思 っ て 、
( 副 校 長 に )話
したんよ。
Az 教 諭 : あ 、 そ う で す か 。 2 階 い い っ て 言 っ て ま し た か ?
教
頭:えぇ。
Az 教 諭 : あ れ ? じ ゃ あ 、 そ う し ま す 。
教
頭:まあいいじゃない。そうしないとさ、1 階だけだと「上には行っち
ゃいけないんですか」ってなるよ。ね。だからこれも 3 階まで入
れ て い い と 思 う 。( 中 略 )
(職員室に戻ってきた副校長に対して)ここですね、昼の開放 3
階もいいでしょ?こっち(管理棟・新校舎)を外すけど。向こう
(北校舎)側。
副校長:いいと思います。
Az 教 諭 :( 驚 い た 顔 で ) じ ゃ あ そ れ で 。 は い 、 わ か り ま し た 。
副校長:こっち(管理棟・新校舎)側にさえ入らなければ。
教
頭 : 新 校 舎 は ま ず い 。( 9 月 16 日 16: 57、 放 課 後 、 職 員 室 )
こ の 教 頭 の 提 案 を 受 け 、 Az 教 諭 の ア イ デ ィ ア は 、「 体 育 館 の 開 放 と 昼 食 時 に
限った北校舎全階の開放」として再度修正されることとなった。
こ の 後 、Az 教 諭 は 翌 日 の 職 員 会 議 へ 向 け 、全 教 職 員 へ 提 案 す る 資 料 作 成 を 行
う 。そ し て 、
「 一 時 観 覧 席 設 置 」と「 体 育 館 の 開 放 と 昼 食 時 に 限 っ た 北 校 舎 全 階
の 開 放 」 は 職 員 会 議 を 経 て 、 運 動 会 当 日 の 実 施 へ と 移 さ れ た ( 図 2 -7 、 図 2 8 )。
40
(点線部):杭とロープによる仕切り
通用門
体育倉庫
入
場
児童席 門
一時観覧席
体育館
一時観覧席
終日開放
6:30~14:40
児童席
北校舎
退場門
一 児
時 童
観 席
覧
席
トラック
退場門
本部テント
児 一
童 時
席 観
覧
席
シルバー
席
昼食時開放 11:30~13:30
職員室
入
口
新校舎
管理棟
W
C
保健室
正門
一時観覧席設置、および校舎開放(13)
図 2 -7
重要
平成21年9月29日
保護者 様
C市立A小学校
校長 Sc
運動会への協力のお願い
空高くかかる白雲には、秋の風情が感じられるようになってまいりました。保護者の皆様
には、お元気でお過ごしのことと拝察いたします。
さて、子どもたちは、10月4日(日)に開催いたします第○回運動会に向け、力一杯練習
に取り組んでいるところです。
つきましては、当日は、ご来校の上、子どもたちに声援を送っていただくとともに、下記の
事項について保護者の皆様のご協力をいただきますようお願いいたします。
記
1
運動会をスムーズに運営するため、シート等が敷けない場所を裏面に斜線
で示しておりますので、ご協力をお願いいたします。シート等が敷かれている
場合は、立ち退いていただくことになりますのでご了承ください。
2
運動会当日は、2000人以上のお子様の家族の方が来校される予定です。
多くの保護者の方にシート等による場所を確保するためには、一家族での広
い場所取りはご遠慮いただき、ゆずり合って場所取りをしていただきますよう
お願いいたします。
また、シート等による場所取りについては、6時30分から正門を開けますの
でご協力ください。それ以前に敷かれているシート等は、撤去いたします。(体
育館も6時30分から開放します)
3
本年度は、保護者の皆様の応援席を確保するために、児童席の後方に一
時観覧席を設けています。演技中のお子様の関係者の方のみご利用ください。
(一時観覧席には、シートは敷けません)
4
当日は、学校敷地内に駐車スペースはございませんので、自家用車での来
校はできません。また、例年、学校周辺に駐車される方を放送で呼び出す状
況が発生しております。運動会の運営に支障がでるとともに、近所の方にご
迷惑をおかけすることになりますので、学校周辺への駐車もしないようにご協
力をお願いいたします。
図 2 -8
保護者への配布資料(14)
41
第3節
考察
前 節 で は 、Az 教 諭 に よ っ て な さ れ た「 運 動 会 の 運 営 」に お け る 二 つ の ア イ デ
ィ ア 、「 一 時 観 覧 席 設 置 」 と 「 全 校 舎 開 放 」 に つ い て 詳 述 し た 。
新 校 舎 増 築 に よ っ て 生 じ た「 競 技 観 覧 ス ペ ー ス 不 足 」と「 休 憩 ス ペ ー ス 不 足 」
と い う 課 題 は 、 対 応 を 怠 れ ば 運 動 会 の 運 営 に 支 障 を き た し 、 ま た Az 教 諭 と A
小学校が重視する「家庭・地域との連携」にも影響を与えかねない。この課題
を 解 決 し た 教 務 主 任 Az 教 諭 が 取 っ た 行 動 は ま さ に 、学 校 組 織 に お け る ミ ド ル・
ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト を 示 す も の で あ る と い え る 。 以 下 で は 、 こ の Az
教諭によってなされたミドル・アップダウン・マネジメントの実現要因につい
て、二つのアイディア実現プロセスの比較を通じて考察する。
前 節 で 詳 述 し た ア イ デ ィ ア 実 現 過 程 か ら も 分 か る よ う に 、Az 教 諭 に よ る ア イ
デ ィ ア 実 現 に は 、By 教 諭 、副 校 長 、教 頭 と い う 三 人 か ら の 協 力 の 獲 得 と い う「 巻
き込み」によって成功していると考えられる。
By 教 諭 は「 一 時 観 覧 席 設 置 」と「 全 校 舎 開 放 」の い ず れ に お い て も 、ア イ デ
ィアの実現可能性といった現実を提示する役割を果たした。ただし、その提示
の 意 味 合 い は 異 な る 。 企 画 委 員 会 後 の や り 取 り の 中 で Az 教 諭 か ら 協 力 打 診 を
受 け た「 一 時 観 覧 席 設 置 」に お い て By 教 諭 は 、Az 教 諭 と の 度 重 な る 打 ち 合 わ
せや、運動会運営の中核という立ち位置を利用した体育部内での調整、そして
管理職との意思形成を主体的に行っていることから、
「 一 時 観 覧 席 設 置 」実 現 へ
向けた行動をとっていることがわかる。一方「全校舎開放」に関しては、得点
板設置やシルバー席の配置、そして校舎内への侵入者対策という危機管理面か
ら実現可能性へ疑問を呈し、
「体育館の開放と昼食時に限った北校舎一階の開放」
という開放規模を大幅に縮小した代替案を提示した。
副校長も「一時観覧席設置」においては、最終的に残った「児童席と一時観
覧 席 の 境 界 が 十 分 に 取 れ な い 」と い う 課 題 に 対 し 、
「 杭 と ロ ー プ 購 入 」の 交 渉 役
を引き受けるという役割を担った。一方「全校舎開放」に関しては、かつて自
身が経験した「校舎内への中高生からの落書き」を踏まえ、危機管理面への危
惧 を 理 由 に 反 対 し 、By 教 諭 と 同 じ く「 体 育 館 の 開 放 と 昼 食 時 に 限 っ た 北 校 舎 一
階の開放」という代替案を示した。
こ れ に 対 し 教 頭 は 、 上 記 By 教 諭 、 副 校 長 が 反 対 し た 「 全 校 舎 開 放 」 の 代 替
案「 体 育 館 の 開 放 と 昼 食 時 に 限 っ た 北 校 舎 一 階 の 開 放 」に 対 し 、Az 教 諭 の 提 案
に限りなく近い「体育館の開放と昼食時に限った北校舎全階の開放」という第
三案を提示し、副校長の説得を行った。
以 上 よ り Az 教 諭 の ア イ デ ィ ア「 一 時 観 覧 席 設 置 」は By 教 諭 と 副 校 長 の「 巻
42
き 込 み 」に よ り 実 現 し 、ま た も う 一 つ の ア イ デ ィ ア「 全 校 舎 開 放 」は 教 頭 の「 巻
き込み」によって実現しており、ここからミドル・アップダウン・マネジメン
ト実現要因としての周囲の「巻き込み」の存在が読み取れる。
しかし、本章で取り上げた「運動会の運営」事例は、運動会前後の短期間で
行われたアイディア実現事例である。第1章で確認したように、ミドル・アッ
プダウン・マネジメントはダイナミックに繰り返される組織的知識創造に適し
たマネジメント・スタイルであることを考慮すると、ミドル・アップダウン・
マネジメントを考察するうえでは、長期的スパンで学校経営を捉えることが望
ましい。
以上の課題を踏まえ次章では、学校組織において長期的に実施された学校経
営過程を対象とした分析を試みる。
【第2章注】
(1)これ以降、学校・自治体名等はランダムに割り当てた大文字アルファベ
ット一字で表記する。人物名については、ランダムに割り当てた大文字
と小文字アルファベットの組み合わせで表記する。
(2)本章における「運動会の運営」は、運動会の事前準備段階からの一連の
プロセスを指す。
( 3 ) A 小 学 校 『 平 成 21 年 度 学 校 経 営 方 針 』 よ り 引 用 。
( 4 )さ ら に 調 査 当 事 は 、新 型 イ ン フ ル エ ン ザ が C 市 内 で 流 行 し た 時 期 で あ り 、
A 小学校でも学級閉鎖が起こるなど、多忙極まる時期であった。
(5)以後、調査で得られた会話データはゴシック、筆者の補足は(
)で記
載し、データ末尾には時間・場所等の情報を記載する。
( 6 ) 調 査 期 間 中( 9/14~ 18)、Az 教 諭 が 周 囲 と 取 っ た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン は 、
下図に示すように全データの約五割を占める。
周囲との
コミュニケーション
(雑談、
打合わせ等)
1,070分(44.1%)
接触回数:815回
コミュニケーション
以外
(授業、
デスクワーク等)
1,359(分)(55.9%)
43
(7) 調査期間中のある教員の発言、
「 Az 先 生 は さ す が や も ん ね 。ス ー パ ー マ
ン だ か ら 。」( Cx 教 諭 、 9 月 16 日 18: 56) 等 の 発 言 か ら も 、
Az 教 諭 の 働 き ぶ り が 周 囲 か ら 肯 定 的 に 捉 え て い る こ と が 窺 え る 。
( 8 ) A 小 学 校 『 平 成 21 年 度 教 育 指 導 計 画 』 よ り 。 な お 、 A 小 学 校 重 点 目 標
は 、 そ の 他 、「 心 の 教 育 の 充 実 」、「 A 小 ら し い 教 育 の 推 進 」、「 学 校 の 自
主性・自律性」が挙げられている。
( 9 ) Az 教 諭 と By 教 諭 の 会 場 配 置 に 関 す る や り 取 り は 、 調 査 期 間 中 延 べ 15
回 、 時 間 に し て 計 55 分 に 及 ん だ 。 な お 、 や り 取 り が 行 わ れ た 時 間 及 び
場所は、昼休みや放課後の職員室、6 年生の運動会学年練習(組体操、
学 級 対 抗 リ レ ー )中 の 体 育 館 や 運 動 場 、全 校 練 習 中 の 運 動 場 と 様 々 で あ
った。
(10)保護者への配布資料をもとに、筆者が加筆・修正。
( 1 1 ) A 小 学 校 で は 毎 年 、地 域 在 住 の 高 齢 者 用 テ ン ト を 本 部 テ ン ト 横 に 確 保
している
( 1 2 )前 述 し た 、By 教 諭 に 対 す る「 一 時 観 覧 席 設 置 」へ の 協 力 打 診 も こ の 場
で行われている。
(13)保護者への配布資料をもとに、筆者が加筆・修正。
(14)保護者への配布資料をもとに、筆者が加筆・修正。
44
第3章
校内授業研究の継続にみる学校経営過程
―ミドル・アップダウン・マネジメントの実際(2)―
本章では前章同様、ミドル・アップダウン・マネジメントに関する事例研究
を行う。対象とする事例は、ある小学校で継続的・発展的に実施されている校
内授業研究である。学校内で日々行われる授業研究を事例とすることで、長期
的に行われるミドル・アップダウン・マネジメントの様相を捉えることが可能
になると考える。
第1節
分析対象及び研究方法
第1項
E 小学校の属性
本章で対象とする事例は、E 小学校の校内授業研究である。E 小学校は創立
100 年 を 超 え 、 F 町 で 最 も 歴 史 の 長 い 学 校 で あ り 、 児 童 数 は 700 人 を 超 え る 。
ま た 以 前 よ り 校 内 授 業 研 究 が 盛 ん な 学 校 で も あ る ( 1 )。
E 小 学 校 が あ る F 町 は 純 農 村 地 帯 と し て 発 展 し て い た が 、隣 接 す る 県 庁 所 在
地である G 市街地がそのエリアを北部へ伸ばすに伴い住宅都市としての要素が
高まり、宅地化が進みはじた。近年では G 市のベッドタウンとして位置づき、
人口は増加傾向にある。
F 町には五つの小学校がある。F 町教育委員会はこれら五つの小学校に対し
て 毎 年 研 究 指 定 ( 研 究 期 間 2~ 3 年 ) を 行 っ て い る 。 例 え ば E 小 学 校 は 近 年 、
200X-1 年 ~ 200X+1 年 の 3 年 間 、 200X+2 年 ~ 200X+4 年 の 3 年 間 、 200X+5
年 ~ 200X+7 年 の 3 年 間 と 、 連 続 し た 研 究 指 定 を 受 け て い る ( 2 )。
第2項
調査協力者およびデータ収集方法
E 小学校では、
「 自 己 肯 定 感 の 育 成 」を 研 究 テ ー マ と し た 授 業 研 究 が 6 年 以 上
継 続 し て 実 施 さ れ て い る 。本 章 で は こ の 内 容 及 び 変 遷 を 把 握 す る べ く 、200X+3
年 か ら 200X+5 年 に か け 、E 小 学 校 に 在 籍 経 験 の あ る 教 員 7 名 に 対 し 、の べ 10
回 の イ ン タ ビ ュ ー を 行 っ た 。調 査 協 力 者 の 属 性 等 は 表 3 -1 に 示 す と お り で あ る 。
ま た 、表 3 -1 に 示 し た 各 教 員 へ の イ ン タ ビ ュ ー に 加 え 、E 小 学 校 で 作 成 さ れ
た 研 究 紀 要 の 収 集 (『 200X-1 年 度 研 究 紀 要 』、『 200X+1 年 度 研 究 紀 要 』、
『 200X+3 年 度 研 究 紀 要 』、
『 200X+4 年 度 研 究 紀 要 』)や 200X+4 年 度 研 究 発
表 会 の 観 察 を 行 っ た ( 表 3 -2 )。
45
0
表 3 -1
調査協力者
Dw教諭
調査協力者の属性等
調査当時の所属
日時
F町教育委員会指導主事
200X+3. 8/25
教職経験年数:18年
行政経験年数:5年
(200X+5年時) 200X+4. 2/23
200X+3. 8/25
Ev教諭
場所
10:00~11:00
F町役場
休憩室
13:00~14:00
F町役場
相談室
16:00~17:00
H大学附属小学校教室
H大学附属小学校教諭
200X+4. 8/2
17:30~18:30
教職経験年数:11年
H大学附属小学校教室
※Fu教諭と合同で実施
(200X+5年時)
200X+5. 8/6
10:00~11:00
H大学附属小学校教室
Fu教諭
I小学校教諭
200X+4. 8/2 17:30~18:30
教職経験年数:22年
H大学附属小学校教室
※Ev教諭と合同で実施
(200X+5年時)
Gt教諭
200X+4. 8/2 15:30~16:00
E小学校教諭
教職経験年数:21年
(200X+5年時) 200X+5. 8/16 9:00~9:30
E小学校
保健室
Hs教諭
E小学校教諭
教職経験年数:6年
200X+5. 8/29
(200X+5年時)
10:00~10:30
E小学校
保健室
10:30~11:30
E小学校
校長室
13:00~14:00
F町役場 会議室
Ir校長
Jq校長
E小学校校長
200X+5. 8/29
F町教育委員会嘱託職員
200X+5. 9/21
(200X+5年時)
1
表 3 -2
200X-2
200X-1
Ev教諭
Fu教諭
Gt教諭
Hs教諭
Jq校長
Ir校長
(附属小)
200X+2
200X+3
4年主任
研究主任
6年主任
(K小)
200X+4
200X+5
研究指定
(200X+2~200X+4
研究発表
(I小)
全国大会
発表
(6年)
200X+1
研究指定
(200X-1~200X+1)
家庭科
全国大会
Dw教諭
200X
分析対象期間
5年主任
研究発表
(F町教委)
5年
研究発表
5年
6年
研究主任
6年主任
研究主任
6年主任
研究主任
6年主任
5年
研究発表
4年
6年
E小講師
4年
(L小)
(H県教委)
研究指定
(200X+5~200X+7
(H県教委)
(附属小)
研究主任
5年主任
(J小)
研究発表
3年
(F町教委)
(M小)
※網掛け部分は各教員のE小学校在籍期間
46
第3項
研究方法
本章ではスクールヒストリーの視点から E 小学校の校内授業研究を分析する。
スクールヒストリー研究は、
「 学 校 の 生 態 、組 織 の 生 成・発 展・消 滅 、学 校 の “息
遣 い ”を 長 期 の 時 間 の 流 れ の 中 か ら 取 り 出 す 」こ と を 目 的 と す る も の で あ り 、
「学
校の諸活動や発展過程を学校をとりまく関係機関や集団などと関連付けながら、
時 間 的 な 経 過 に 即 し て と ら え て い く 」( 天 笠 1995: 52)。 そ の 特 徴 は 以 下 の 4
点 と し て ま と め ら れ て い る ( 天 笠 1995: 52-53)。
1. 学校内部におけるイノベーションの導入・実施と外部環境の関連を分析す
る。
2. 長い時間的スパンをもってイノベーションの導入・実施をとらえる。
3. イノベーションの導入・実施に役割を演じた教育実践家個人ないし集団を
浮き彫りにし、その人間的な側面に迫る。
4. イノベーションの導入・実施のダイナミックスを克明に解明するケースス
タ デ ィ を 実 施 す る 。( 3 )
スクールヒストリー研究の代表例としては、上述したスクールヒストリー研
究の特徴を示すとともに、ティームティーチングの導入・展開・転移過程を描
き 出 し た 天 笠( 1995)や 、体 育 に 関 す る 国 の 研 究 指 定 校 制 度 と い う 外 生 的 変 革
を受容した二つの小学校のスクールヒストリーの比較から、学校体育経営にお
け る 革 新 の 定 着 要 因 を 検 討 し た 清 水( 2001)、
「 地 域 と の 合 同 運 動 会 」を 事 例 と
して取りあげ、合同運動会を実施する二つの学校の比較から、学校経営組織内
の意味継承の方法と地域住民の経営参加形態の相違がイノベーションの継続に
影 響 を 与 え る こ と を 明 ら か に し た 横 山 ・ 清 水 ( 2005) が あ る 。
本章はかかる先行研究の方法を参照し、E 小学校における校内授業研究の実
際を描き出す。
第2節
事例の実際
第1項
「自己肯定感」研究の開始
2000 年 前 半 。学 習 指 導 要 領 の 改 訂 に と も な う 子 ど も の「 生 き る 力 」の 育 成 に
向けた教育の在り方の見直しが課題となり、E 小学校は「自己肯定感を抱くこ
と の で き る 子 ど も の 育 成 」( 以 下 、「 自 己 肯 定 感 の 育 成 」 と 表 記 ) を 重 視 し た 研
究 に 取 り 組 み 始 め る ( 4 )。当 初 は 算 数 で の 研 究 で あ っ た が 、200X-2 年 度 の 家 庭
科 全 国 大 会 会 場 指 定 を 受 け 、 200X-3 年 度 は 算 数 ・ 家 庭 科 研 究 の 二 本 立 て 、
47
200X-2 年 度 は 家 庭 科 単 独 の 研 究 を 行 っ て い る 。
そ し て 全 国 大 会 を 終 え た 200X-1 年 度 、 F 町 教 育 委 員 会 か ら 新 た な 研 究 指 定
を 受 け た E 小 学 校 で は 、中 断 し て い た 算 数 研 究 を 再 開 し 、家 庭 科 と 算 数 二 本 立
て で の 研 究 を 開 始 し た ( 図 3 -1 )。
校長
教頭
研究推進委員会
研究部会
算数科 低学年部会
全体研究会
中学年部会
家庭科部会 高学年
図 3 -1
200X-1 年 度 E 小 学 校 研 究 組 織 図 ( 5 )
しかし、全国大会で完成度の高い家庭科研究を行ったため、E 小学校では更
なる高みを目指すモチベーションが低下しており、また同時に、全国大会を終
え た 後 の「 研 究 疲 れ 」の た め か 、200X-1 年 度 の 研 究 は ほ と ん ど 進 展 し な か っ た 。
研 究 発 表 ま で 残 り 2 年 と な っ た 200X 年 度 、 E 小 学 校 に Jq 校 長 が 赴 任 す る 。
当 時 E 小 学 校 に お け る 算 数 学 力 は F 町 で も 低 位 に あ っ た 。 Jq 校 長 は こ の 状 況
を改善すべく、算数研究の充実を目指す。そこで、その牽引役としての役割を
期 待 さ れ た の が 、前 年 度( 200X-1 年 度 )E 小 学 校 へ 異 動 し て き た Dw 教 諭 で あ
る。
E 小学校では毎年、その年の研究の方向性を示す提案授業が 5 月に実施され
て い る の で あ る が 、 Dw 教 諭 は こ の 提 案 授 業 に お け る 算 数 授 業 を 一 任 さ れ 、 家
庭 科 で の 提 案 を 行 う 研 究 主 任 Fu 教 諭 と と も に も 、 提 案 授 業 を 行 う こ と と な っ
た。
第2項
「交流タイム」の導入
( 1 )「 交 流 タ イ ム 」 の 発 案
Dw 教 諭 は「 子 ど も の 授 業 理 解 」を 最 重 要 視 し 、こ れ ま で 実 践 を 行 っ て き た 。
こ の 考 え を も と に 、Dw 教 諭 は 提 案 授 業 へ 向 け た 新 た な 授 業 ス タ イ ル を 考 え る 。
一 般 的 な 算 数 授 業 で は 、「 教 師 に よ る 問 題 提 示 →子 ど も の 自 力 解 決 ( +適 宜 教
48
師 に よ る ア ド バ イ ス ) →発 表 」 と い う 形 式 が 一 般 的 で あ る 。 し か し 、 Dw 教 諭
は E 小 学 校 の 校 内 授 業 研 究 テ ー マ で あ る「 自 己 肯 定 感 の 育 成 」と い う 視 点 か ら
従来の算数授業形式を捉えたとき、疑問を感じた。
Dw 教 諭 : み ん な が 答 え を 持 っ て( 中 略 )、全 員 が 学 習 に 参 加 し な い と け な い 。
( 中 略 ) そ の と き に 、 例 え ば も の す ご く 時 間 か か っ て 、( 中 略 ) 先
生 が 、 足 早 に ま と め な が ら 、「 み ん な わ か っ た ね 」 み た い な 感 じ で
終 わ る 授 業 も 多 か っ た ん で す 。( 200X+4 年 2 月 23 日 )
従来の算数授業では、子どもは「答えを持つ」ことが求められ、答えを持て
ない子ども、すなわち子どもの「わからない」という思いは置き去りにされる
こ と が 多 か っ た 。こ れ に 対 し Dw 教 諭 は 、
「 自 己 肯 定 感 」の 視 点 か ら 算 数 授 業 を
捉 え な お し 、 子 ど も 自 身 が 「 解 け な い 問 題 が あ る こ と に 気 付 く 」、「 わ か ら な い
こ と に 気 付 く 」こ と も「 答 え 」の 一 つ で あ る と 発 想 し た 。そ の 上 で 、
「問題が解
けない自分」を認め、さらに周囲の友人からも「問題が解けない自分」を認め
られる経験を通してこそ本当の意味での「自己肯定感」が育まれるのではない
かと考えたのである。
Dw 教 諭 :「 答 え を も っ て な い の が ダ メ 」 っ て い う 発 想 を 取 っ 払 え ば い い ん じ
ゃ な い か 。 わ か ら な い 子 は 、 気 楽 に 、「 俺 わ か ら ん 」 っ て 他 の 子 に
言 え る 。 わ か っ て る 子 が わ か ら な い 子 に 、「 じ ゃ あ 、 俺 教 え る よ 」
っ て 。 そ う い う 学 級 集 団 を つ く っ て 、 学 ぶ こ と で 。「 わ か ら ん 」 っ
ていうのも一つの答えとして、認めようよって。
( 200X+4 年 2 月 23 日 )
そして、この手段として発案されたのが「交流タイム」である。
「交流タイム」は、自力解決後に子どもたちが席を離れ、仲間と考えを交流
させる時間を指す。この「交流タイム」では、子ども同士が相手の状況(理解
度 ) を 把 握 す る 必 要 が あ る が 、 Dw 教 諭 は そ の 手 立 て と し て 、 子 ど も の 身 近 に
あ る「 体 操 帽 子 」を 用 い た 。答 え が 分 か っ た 子 ど も は「 赤 帽 子 」、答 え が 分 か ら
ない子どもは「白帽子」をかぶることで自身の考えを表明するのである。この
方 法 に よ り 、問 題 が 解 け な い 子 ど も( 白 帽 子 )は 問 題 が 解 け た 子 ど も( 赤 帽 子 )
へと疑問を投げかけ、その交流の中からともに考えを深めることができる。ま
た、教師も子どもの理解度を把握することができ、その後の指導に生かすこと
ができた。
49
そ し て「 交 流 タ イ ム 」後 、子 ど も に 発 表 を 求 め る 段 階 で は 、
「 交 流 タ イ ム 」を
通 し て 知 っ た 友 人 の 考 え を 踏 ま え 、「 誰 の 解 法 が よ か っ た か 」 や 、「 誰 の 説 明 が
上 手 だ っ た か 」と い っ た 発 表 が 可 能 に な る 。こ れ に よ っ て 、
「答えが分かる子ど
も 」だ け で な く 、
「 答 え が 分 か ら な い 子 ど も 」も 授 業 に 参 画 可 能 と な る 。す な わ
ち、発表の段階においてもすべての子どもが成就感・達成感を味わう機会を持
つことができ、結果として自己肯定感の育成が期待できるのである。
Dw 教 諭 は 上 記 「 交 流 タ イ ム 」 を 5 月 の 提 案 授 業 で 実 施 す る べ く 、 準 備 を 進
めた。
(2)提案授業と周囲の反応
5 月 の 提 案 授 業 で Dw 教 諭 と と も に 授 業 公 開 を 行 う 予 定 で あ っ た 研 究 主 任 の
Fu 教 諭 は 、 家 庭 科 全 国 大 会 ( 200X-2 年 度 ) で の 研 究 発 表 を 担 当 し て い る 。
Fu 教 諭 は E 小 学 校 で の 研 究 を 通 じ て 家 庭 科 の 可 能 性 を 再 確 認 し 、 こ れ ま で
自身が行ってきた「自己肯定感の育成」に関する家庭科授業へ手ごたえを感じ
ていた。
Fu 教 諭 : 保 護 者 の 応 援 と か も あ っ て 、す ご く そ れ( 家 庭 科 研 究 )が 上 手 に 回
っ て 。 大 変 勉 強 に な っ た 。( 中 略 ) 家 庭 科 っ て こ ん な に 、 子 ど も も
ね、保護者も変えられるんだなって、すごく感じた。
( 200X+4 年 8 月 2 日 )
上 記 の よ う な 思 い を 持 ち 、 200X 年 度 も 継 続 し て 家 庭 科 研 究 を 行 う 心 づ も り
で あ っ た Fu 教 諭 は 、 今 年 度 も 家 庭 科 を 主 軸 と し た 校 内 授 業 研 究 を 構 想 し て い
た 。Dw 教 諭 か ら「 交 流 タ イ ム 」構 想 が 伝 え ら れ た の は そ の 折 で あ り 、 Fu 教 諭
は当時を振り返り、以下のように述べている。
Fu 教 諭:Dw 先 生 か ら「 こ う い う 提 案 を し た い 」っ て い う 話 が き た と き に 、や
っ ぱ り 、 純 粋 に す ご い な と 。( 中 略 ) そ れ を 聞 い た 時 に 本 当 に 、 目
からうろこじゃないけど。すごいなぁって思ったね。
( 200X+4 年 8 月 2 日 )
「 交 流 タ イ ム 」 は 未 だ 構 想 段 階 で あ っ た が 、 そ の 理 念 は Fu 教 諭 の 心 を 揺 さ
ぶ っ た 。 そ し て 、 提 案 授 業 内 容 に 対 し て Fu 教 諭 か ら の 承 認 を 受 け た Dw 教 諭
は 、「 交 流 タ イ ム 」 を 用 い た 授 業 実 践 準 備 を 進 め る こ と と な る 。
ただし、体操帽子を用いて自身の立場を表明する「交流タイム」を用いるた
50
めには、
「 で き な い こ と を 共 有 し 、失 敗 し た こ と に 共 感 で き る 集 団 作 り 」と い う
学 級 経 営 の 力 量 が 試 さ れ る 。 そ の た め 、「 交 流 タ イ ム 」 を 発 案 し た Dw 教 諭 は 、
提 案 授 業 ま で の 約 1 ヶ 月 で 、「 交 流 タ イ ム 」 を 行 い 得 る 学 級 づ く り に 取 り 組 ん
だ。
そ し て 200X 年 5 月 初 旬 、
「 交 流 タ イ ム 」を 用 い た 算 数 の 提 案 授 業 が 行 わ れ る
こ と に な る が 、こ の Dw 教 諭 の 授 業 は 周 囲 の 教 師 か ら 肯 定 的 に 受 け 止 め ら れ た 。
Jq 校 長 : そ の 授 業 が よ く で き て る わ け で す よ 。こ れ 大 き い ん で す よ 、や っ ぱ
り 。 そ れ を 見 て 、 自 分 の 授 業 と 比 べ て 、「 あ ぁ 、 い い な ぁ 」、「 自 分
も こ ん な 授 業 が し た い な 」 っ て ( 思 う )。 そ う い う 部 分 が あ る ん で
す よ ね 。( 200X+5 年 9 月 21 日 )
Gt 教 諭 : 子 ど も た ち が 自 由 に 生 き 生 き と 、友 達 同 士 で 話 を し て 、そ の 中 で 学
ん で い く 姿 が す ご く い い ね ぇ っ て 。( 200X+4 年 8 月 2 日 )
学 級 を 開 き 、 ま だ 一 ヶ 月 程 度 の 5 月 で あ る に も か か わ ら ず 、 Dw 教 諭 の 授 業
は子どもが主体的に動き、相互に認めあうものであり、この「交流タイム」を
用 い た 授 業 は E 小 学 校 教 師 の 心 を 動 か す 。そ し て こ の 年 よ り E 小 学 校 で は 、
「交
流タイム」を用いた算数授業を中核に据えた校内授業研究が行われることにな
っ た の で あ る ( 図 3 -2 、 図 3 -3 )。
校長
教頭
研究推進委員
研究部会
授業研究部
全体研究会
学習支援部
図 3 -2
200X+1 年 度 E 小 学 校 研 究 組 織 図 ( 6 )
51
交流タイム(あのねタイム)
交 流 タ イ ム と は 、自 力 解 決 に お い て 、
「 分 か っ て い る 」ま た は「 わ か ら な い 」、さ
ら に は 「 も っ と わ か り た い 」「 他 の 考 え に ふ れ た い 」 自 分 を 明 ら か に し 、 互 い に 意
見を交流しながら考えを深める場である。
ねらいは以下の通りである。
○ 人 と の 交 流 の 中 で「 自 分 の よ さ 」に 気 付 く と と も に 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を
高める
 自分の解決法を説明することで、自分の考えを確かなものにする。
 解 決 法 が 分 か ら な い 児 童 は 、友 達 の 説 明 を 聞 く こ と に よ り 課 題 解 決 の き っ か け を
つかむ。
 互いの意見を交流することで、自分や友達の考えのよさに気付く。
 ひらき合い場面の意見交流を活発にする。
形式としては従来の「自力解決→ひらき合い」ではなく、自力解決の中に交
流タイムを取り入れ、その後ひらき合いへと展開していく。
ま た 、「 交 流 タ イ ム 」 の 中 で は 、 自 己 肯 定 感 を 抱 く た め に 必 要 な 『「 あ り の ま
まの自分」を素直に表現すること』そして、
『 で き な い こ と を 共 有 し 、失 敗 し た こ と に 共 感 で き る 集 団 作 り 』= 学 級 経 営
が大切となってくる。
図 3 -3
200X+1 年 度 交 流 タ イ ム ( 7 )
(3)周囲との共通理解
Dw 教 諭 が 提 案 し た 「 交 流 タ イ ム 」 は 、 E 小 学 校 に お け る 校 内 授 業 研 究 の 中
核に位置づくことになったが、校内授業研究という組織的な取り組みを行う上
で は 、 そ の リ ー ダ ー で あ る 研 究 主 任 と の や り 取 り が 欠 か せ な い 。 そ こ で Dw 教
諭 は 授 業 実 践 を 通 じ 、 研 究 主 任 Fu 教 諭 と の 共 通 理 解 を 図 っ た 。
Dw 教 諭:何 を や っ て る か っ て い う の を で き る だ け 具 体 化 し て 話 す よ う に し て
る 。 そ れ で 、 具 体 策 を 聞 け ば 、「 あ 、 こ の 人 の 考 え て る こ と は 俺 と
同じだ」とか思うし、違うことに対しては意見をもらえるから。
( 200X+3 年 8 月 25 日 )
Fu 教 諭 : Dw 先 生 は 実 際 に 実 践 で 見 せ て く れ る し ね 。 見 せ な い と ダ メ 。 口 だ
け で は 。 Dw 先 生 は 理 論 が あ っ て 見 せ る 。( 200X+4 年 8 月 2 日 )
Ev 教 諭 : Fu 先 生 と Dw 先 生 の 二 人 は ね 、 ど っ ち か と い う と 正 反 対 。( 中 略 )
違 う ん だ け ど 、そ の 方 向 が ね 、ま っ た く 違 う こ と を 言 わ な い 。言 っ
てることは同じ。
( 中 略 )そ の 中 で Dw 先 生 が 授 業 の 提 案 を し て 、Fu
先 生 が そ れ を 固 め て 。で 、こ っ ち( = Ev 教 諭 )は そ れ を 実 践 し な が
ら 、 そ の 論 が ち ゃ ん と な る よ う に し て い く 。( 200X+4 年 8 月 2 日 )
ま た 、 Dw 教 諭 は こ れ ま で の 教 職 経 験 か ら 、 組 織 で 動 く こ と 、 学 年 教 師 全 員
52
で 同 学 年 の 子 ど も を 育 て る こ と を 重 視 し て い た 。 そ の た め 、 同 学 年 の Gt 教 諭
と 、当 時 E 小 学 校 で 最 も 若 手 で あ っ た Ev 教 諭 と の 度 重 な る 授 業 公 開 を 行 っ た 。
Dw 教 諭 : 同 学 年 で 、 共 通 の 歩 調 で 歩 め る よ う な 手 立 て を 打 つ 必 要 が あ る 。
共通理解をして、みんなが同じことをしないと、同学年の子ども
は育たない。ぶれたら、ねぇ。かわいそうだからね、他のクラス
の子が。
( 中 略 )ま ず は 同 学 年 の 人 間 に 、し っ か り 伝 え な い と い け
ない。5 年生のこの 3 人は同じ流れで、ちゃんと授業ができるこ
と が 大 事 じ ゃ ん 。( 200X+3 年 8 月 25 日 )
Gt 教 諭:自 分 が 、
( 教 職 )何 年 目 か な … も う 14、15 年 目 に こ こ( E 小 学 校 )
に 来 た わ け な ん で す ね 。そ れ ぞ れ あ る 程 度 、他 の 学 校 で し て き た ん
で す け ど 。そ の 1 年 は す ご く 勉 強 に な り ま し た 。授 業 の こ と も で す
し 、学 級 経 営 の こ と も で す し 、Dw 先 生 が 学 校 で ど ん な 動 か れ る か と
か で も 。( 中 略 ) 同 学 年 を 大 事 に し た り 、 揃 え た り 、 子 ど も た ち を
( 中 略 )。
担任って、自分のクラスがよければいい、じゃないですけど、
( Dw 教 諭 は ) 学 年 の こ と も よ く 見 て く だ さ っ て 、 同 じ よ う に 他 の
ク ラ ス も 怒 っ て く だ さ る し 。「 何 か す る 時 に は 学 年 で 」 っ て 。 す ご
く 大 事 な こ と を た く さ ん 学 べ た 。そ う い う い い 経 験 的 な と こ ろ も だ
し 。 授 業 に 対 す る や り 方 と か も で す ね 。( 200X+4 年 8 月 2 日 )
Ev 教 諭 : Dw 先 生 の 授 業 を 、 も う ( 時 間 の ) 空 き が あ れ ば す ぐ に 見 に 行 く 。
( 筆 者 : Dw 先 生 か ら 見 て も ら う こ と は ? ) そ う 、 見 て も ら っ た り
す る し 、こ っ ち も よ く 見 に 行 っ て た ね 。何 十 本 っ て 見 た と 思 う よ 、
Gt 先 生 と 2 人 で ね 。( 200X+3 年 8 月 25 日 )
上 述 の 取 組 を 通 じ 、「 交 流 タ イ ム 」 に 関 す る Dw 教 諭 の 理 念 が Fu 教 諭 、 Gt
教 諭 、 Ev 教 諭 へ と 伝 わ っ て い っ た 。
第3項
「交流タイム」の修正
( 1 )「 黒 帽 子 」 の 発 案
「 交 流 タ イ ム 」 研 究 開 始 2 年 目 の 200X+1 年 度 、 交 流 タ イ ム を 提 案 し た Dw
教諭は、F 町教育委員会へ異動する。
「 交 流 タ イ ム 」 を 発 案 ・ 牽 引 し た Dw 教 諭 の 不 在 に よ り 研 究 の 停 滞 が 起 こ る
53
かと思われたが、E 小学校の「交流タイム」はこの年さらに発展する。その新
た な 牽 引 役 と な っ た の が 、昨 年 度 Dw 教 諭 と 同 学 年 で あ っ た 、当 時 E 小 学 校 で
最 も 若 手 の Ev 教 諭 で あ っ た 。
Ev 教 諭 は 、1 年 間 Dw 教 諭 と 取 り 組 ん だ「 交 流 タ イ ム 」実 践 の 中 で そ の 課 題
に気付く。
Ev 教 諭 : Dw 先 生 と し た 1 年 間 は そ れ ( = 赤 帽 子 ・ 白 帽 子 ) で や っ て た ん だ
け ど 。ず っ と し て た ら 、赤 白 じ ゃ ど う し て も ね 、あ の 、語 れ な い 子
が い た ん で す よ 。赤 帽 子 は 自 分 の 考 え の 分 か っ た 子 、わ か ら な い 子
は 白 帽 子 だ っ た ら 、も う 1 個「 表 現 す る 力 」っ て い う の が い る ん で
す よ ね 。だ か ら 、「 頭 で は わ か っ て る け ど 、説 明 が で き な い 」、そ う
い う 子 も 白 帽 子 に す る か ら 、「 わ か ら な い 」 っ て い う 立 場 に な る 。
そ れ が 、ち ょ っ と な ん か 、選 び に く い な ぁ っ て 思 っ て 。子 ど も の( 姿
を ) 見 て た ら 。( 200X+5 年 8 月 6 日 )
Ev 教 諭 は 、「 問 題 を 解 け な い 子 ど も 」 と 「 相 手 に 説 明 で き る 子 ど も 」 の 間 に
いる、
「 自 分 の 考 え は あ る が う ま く 説 明 で き な い 子 ど も 」の 存 在 に 気 付 い た の で
あ る 。そ こ で Ev 教 諭 は 、
「 相 手 に 説 明 で き る = 赤 帽 子 」、
「自分の考えはあるが
説 明 で き な い = 白 帽 子 」、「 問 題 を 解 決 で き な い = 帽 子 を か ぶ ら な い ( 黒 帽 子 )」
の 3 パターンで子どもの立場を示す手立てを発案した。
Ev 教 諭 : な ん と か な ら な い か っ て 思 っ た 時 に 、何 も な い 、帽 子 も な い と き が
「 考 え て も 思 い つ か ん 」。 で 、 白 は 「 わ か っ て る け ど 、 説 明 は で き
な い ぞ 」っ て 。だ か ら 、書 け て る か も し れ な い ん で す よ ね 。書 け て
て も 書 け て な く て も い い け ど 、一 応 な ん と な く わ か っ て る と 、白 は 。
( 200X+5 年 8 月 6 日 )
Ev 教 諭 は ま ず 、自 身 の 学 級 に お い て 赤 ・白 ・黒 帽 子 に よ る「 交 流 タ イ ム 」実
践 を 試 み た 。 そ し て こ の 取 り 組 み が Jq 校 長 の 目 に と ま る こ と と な る 。
3 年 間 の 研 究 成 果 発 表 の こ の 年 ( 200X+1 年 度 )、 高 学 年 の 発 表 担 当 で あ っ た
6 年 教 諭 が 突 然 の ケ ガ に よ り 発 表 で き な く な る 。 Jq 校 長 は そ の 代 わ り と し て 、
Ev 教 諭 へ 発 表 を 打 診 し た 。
Jq 校 長 : よ く 研 究 を し て た し 、若 か っ た し 。や っ ぱ り 研 究 の 内 容 を 外 に ア ピ
ー ル で き る 人 間 か な 、 と 思 っ た ん で す ね 。( 200X+5 年 9 月 21 日 )
54
Ev 教 諭 は こ の 依 頼 を 受 け 、研 究 発 表 会 で 赤・白・黒 帽 子 を 用 い た 授 業 提 案 を
行 っ た 。 そ し て 、 こ の 研 究 発 表 会 を 契 機 と し て 、 Ev 教 諭 の 実 践 が E 小 学 校 に
広まることとなる。
(2)研究の継続
研 究 発 表 後 の 200X+2 年 度 、E 小 学 校 は F 町 教 育 委 員 会 よ り 新 た な 3 年 の 研
究指定を受ける。この段階ですでに、家庭科全国大会以来続く「自己肯定感の
育 成 」 研 究 は 5 年 を 超 え 、「 交 流 タ イ ム 」 研 究 も 昨 年 度 の 研 究 発 表 で 一 応 の 区
切りは迎えていたが、E 小教師からは「より交流タイムを深めたい」という声
が 上 が り 、「 交 流 タ イ ム 」 を 用 い た 算 数 授 業 研 究 が 継 続 さ れ る こ と に な っ た 。
こ の 年 、 研 究 主 任 の Fu 教 諭 、 Gt 教 諭 、 Ev 教 諭 は 同 学 年 と し て 6 学 年 を 担
当 す る 。 3 人 は 、「 交 流 タ イ ム 」 実 践 の 蓄 積 と 、 昨 年 度 Ev 教 諭 が 行 っ た 「 交 流
タイム」修正を踏まえ、より一層研究へ取り組むとともに、学年内での実践に
留まらず、E 小学校での更なる「交流タイム」定着・発展を心掛けた。
Ev 教 諭 : 三 人 で ね 、( 中 略 )お 互 い が 勝 負 し て る か ら 。( 授 業 を ) 見 せ 合 う っ
ていうより、感じるんだよね。
Fu 教 諭 : 常 に 一 緒 。向 い て い る 方 向 が 一 緒 だ し 。い ろ い ろ 自 分 の 思 い を 語 る
けど、とにかくいっぱいしゃべったよね。子どものことも、勉強の
こともなんでも。やっぱり、本当にいっぱいしゃべったね。
Ev 教 諭 : 校 内 研 究 の 時 で い っ た ら 、 俺 は Fu 教 諭 と 席 が 隣 だ か ら 、 質 問 し て
た。本当は同学年だから、よく話してるから分かるところもあるけ
ど 、敢 え て そ こ を 質 問 し て 、( E 小 学 校 の 教 師 )み ん な で( 理 解 で き
る よ う に し て い た )。
Fu 教 諭 :( Ev 教 諭 が ) み ん な に 広 げ て く れ て た 。
Ev 教 諭 : そ う し な い と 、「 分 か っ た つ も り 」 が 一 番 ダ メ 。 聞 い て 、 質 問 す れ
ば 、 み ん な に も 伝 わ る 。( 200X+4 年 8 月 6 日 )
Fu 教 諭 、 Gt 教 諭 、 Ev 教 諭 の 上 記 取 り 組 み を 受 け 、「 交 流 タ イ ム 」 研 究 は 着
実 に E 小 学 校 へ と 定 着 し て い く ( 図 3 -4 )。 そ の 後 、 200X+2 年 度 末 に Ev 教
諭 、200X+3 年 度 に Fu 教 諭 が 異 動 す る こ と に な る が 、200X+4 年 度 に は 5 年 間
の「交流タイム」実践を踏まえた研究成果発表が行われた。
55
交流タイム(あのねタイム)
○交 流 タ イ ム と は 、 自 力 解 決 に お い て 、「 分 か っ て い る 」 ま た は 「 わ か ら な い 」、 更
に は 「 も っ と わ か り た い 」「 他 の 考 え に ふ れ た い 」 自 分 を 明 ら か に し 、 互 い に 意
見を交流しながら考えを深める場である。
○交 流 タ イ ム の ね ら い
人 と の 交 流 の 中 で「 自 分 の よ さ 」に 気 付 か せ る と と も に 、言 語 活 動 の 充 実 を 図 る 。
・自分の解決法を説明することで、自分の考えを確かなものにする。
・解決法が分からない児童は、友だちの説明を聞くことにより課題解決のきっ
かけをつかむ。
・互いの意見を交流することで、自分や友だちの考えのよさに気付く。
・ひらき合い場面の意見交流を活発にする。
○形 式 と し て は 従 来 の 「 自 力 解 決 →ひ ら き 合 い 」 で は な く 、 自 力 解 決 の 中 に 交 流 タ
イムを取り入れ、その後ひらき合いへと展開していく。
めざす
子どもの姿
交流の流れ
自力①
交流パターン
自力②
(低学年)
①自分なりの方法で、
考えを伝えようとす
る子
②友達の話を聞いて、
同じ考えか、違う考
えかわかる子
自力①
↓
交流タイム(教師主導)
支援【教師主導】
・ヒントカード
・TTによる支援
(集団・個別)
1対1
・隣同士
・ペア
⇒
(中学年)
①相手にわかりやすい方法
で 、自 分 の 考 え を 伝 え よ う
とする子
②友達の話を自分の考えと
比べながら聞くことがで
きる子
自力①
↓
交流タイム
⇒
⇒
支援【児童主体】
・ヒントカード
班
⇒
・生 活 班
小集団
⇒ ・考 え 方
・そ の 他 の 班
全員(一斉)
⇒
(高学年)
①相手が必要としている
ことを考えて、筋道を
立てて話すことができ
る子
②友達の考えを参考にし
ながら、自分の考えを
確かなものにし、ひら
き合いにつなげようと
する子
⇒
自力①
↓
交流タイム
↓
自力②
自力
⇒
⇒
フリー
・帽 子 の 色
⇒
児童の判断
【教師の手立て】
○学 年 の 発 達 状 態 や 内 容 に よ っ て 、 交 流 タ イ ム の パ タ ー ン を 考 え る 。
○児 童 に 相 手 意 識 、 目 的 意 識 を し っ か り と 持 た せ る 。
○自 力 解 決 で の 子 ど も の 考 え ・ 状 態 を 把 握 し 、 必 要 に 応 じ た 支 援 を す る 。
・交流対手の選択
・説明のサポート
・理解度の確認
○赤 帽 子 →「 自 分 の 考 え を 説 明 し た い 」「 い ろ い ろ な 考 え を 知 り た い 」
白 帽 子 →「 説 明 で き る よ う に な り た い 」
黒 帽 子 →「 分 か る よ う に な り た い 」
といった子どもたちの思いを大切にしていく。
また、
「 交 流 タ イ ム 」の 中 で は 、自 己 肯 定 感 を 抱 く た め に 必 要 な『「 あ り の ま ま の
自分」を素直に表現すること』そして、
『できないことを共有し、失敗したことに共感できる集団作り』=学級経営
が大切となってくる。
図 3 -4
200X+3 年 度 交 流 タ イ ム ( 8 )
56
(3)研究の現在
「 交 流 タ イ ム 」 開 始 か ら 6 年 が 経 過 し た 200X+5 年 度 、 人 事 異 動 に よ り 「 交
流タイム」開始当初からの変遷を知る教員は少なくなっている。しかしその中
でも、
「 交 流 タ イ ム 」の 理 念 は 着 実 に 継 承 さ れ て い る こ と が 、下 記 Hs 教 諭 の 発
言からも看取できる。
Hs 教 諭 : 交 流 タ イ ム … 難 し い の が ま ず 第 一 で す ね 。 何 が 難 し い か と い う と 、
根 本 に あ る の が 学 級 経 営 だ と 思 う ん で す よ ね 。い ろ ん な こ と を 話 せ
る よ う な 仲 間 作 り が で き て い な い と 、ま ず 、う ま く は い か な い か な 。
「 交 流 始 め ま す 」と 言 っ て も 、い つ も 仲 の い い 子 た ち だ け と し ゃ べ
っ て し ま う と か 。( 中 略 ) 誰 と で も 話 せ る 状 態 っ て い う の を 、 日 頃
の 学 級 が 、誰 が 発 表 し て も「 す ご い ね ぇ 」っ て 認 め て あ げ た り と か
で す ね 。「 え ぇ 、 な ん そ れ 」 と か 言 い 出 す と 、 言 え な く な る ん で す
よ ね 。( 200X+5 年 8 月 29 日 )
Hs 教 諭 は 200X+4 年 度 に E 小 学 校 に 異 動 し た 教 員 で あ り 、200X 年 度 か ら 続
く 研 究 の 詳 細 を 知 ら な い ( 9 )。 し か し そ の Hs 教 諭 で あ っ て も 、「 交 流 タ イ ム 」
に 求 め ら れ る 「 学 級 経 営 の 重 要 性 」 を 認 識 し て い る 。 こ れ は 200X 年 度 に 初 め
て 「 交 流 タ イ ム 」 を 提 案 し た Dw 教 諭 が 指 摘 し た 点 と 同 様 の も の で あ る 。
そ し て 200X+4 年 度 に 研 究 発 表 を 終 え た E 小 学 校 は 、 200X+5 年 度 か ら 3 年
間の新たな研究指定を受けた。そのテーマとして検討が進められているのが、
「交流タイムの効果的活用」である。
Ir 校 長 : 今 年 度 か ら は 、 交 流 を 用 い る の は ど う い う 場 面 が 子 ど も に と っ て
一番いいのかと。
( 授 業 内 容 に よ っ て は )あ ん ま り 交 流 し な い で い
い 場 面 も あ る ん で す ね 。( 200X+5 年 8 月 29 日 )
Gt 教 諭 : 授 業 で 一 番 狙 い と し て て 、 そ れ に 交 流 が 適 す る か っ て い う こ と を
少し考えて、
「 単 元 の 中 の 、こ こ と 、こ こ と 、こ こ に 入 れ よ う 」っ
ていうようなことを今年確認し合おうっていうことが(話し合わ
れ て い ま す )。( 200X+5 年 8 月 16 日 )
算 数 授 業 全 体 へ 「 交 流 タ イ ム 」 を 導 入 ・ 実 施 す る の で は な く 、「 交 流 タ イ ム 」
が 適 す る 授 業 、 適 し な い 授 業 を 精 査 す る 取 り 組 み が 始 ま っ た の で あ る 。 Dw 教
諭 に よ る 交 流 タ イ ム 提 案 か ら 6 年 が 経 過 し た 200X+5 年 度 、 E 小 学 校 の 研 究 は
57
次のステージに入ろうとしている。
第3節
考察
前節では、E 小学校で継続的に実施されている校内授業研究について詳述し
た 。 こ の 事 例 か ら は 、 校 内 授 業 研 究 の 停 滞 と い う 課 題 を Dw 教 諭 、 Fu 教 諭 、
Ev 教 諭 が 中 心 と な り 解 決 し た 、ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト の 様 相 が
読み取れる。
「 運 動 会 の 運 営 」を 事 例 と し た 前 章( 第 2 章 )で は 、ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン ・
マネジメント実現要因としての「巻き込み」を抽出した。この「巻き込み」の
存在は、本章で取り上げた校内授業研究におけるミドル・アップダウン・マネ
ジメント事例においても確認できる。
Dw 教 諭 は 、 家 庭 科 全 国 大 会 後 に 停 滞 し た E 小 学 校 の 校 内 授 業 研 究 の 活 性 化
をめざす。そしてその取り組みは、研究テーマである「自己肯定感の育成」を
拠 り 所 と す る こ と で 発 案 し た 「 交 流 タ イ ム 」 と し て 結 実 す る 。 た だ し 、 Dw 教
諭は学年主任という立場にあり、校内授業研究において「交流タイム」を展開
す る た め に は 、 必 然 的 に 研 究 主 任 で あ る Fu 教 諭 や 周 囲 の 教 員 の 協 力 が 必 要 と
な る 。そ こ で Dw 教 諭 は 、Fu 教 諭 と の「 交 流 タ イ ム 」実 践 を 通 じ た 共 通 理 解 を
図るとともに、学年主任を務める同学年教員との度重なる授業公開を行った。
こ う し て Dw 教 諭 は Fu 教 諭 と 同 学 年 教 員 Ev 教 諭 の「 巻 き 込 み 」を 図 っ た の で
ある。
Dw 教 諭 か ら の「 巻 き 込 み 」を 受 け た Fu 教 諭 は も と も と 、家 庭 科 全 国 大 会 へ
向 け た 家 庭 科 研 究 を 機 に 家 庭 科 授 業 へ の 手 ご た え を 感 じ 、 200X 年 度 も 家 庭 科
研 究 の 継 続 を 志 向 し て い た 。 し か し 、 Dw 教 諭 か ら の 「 交 流 タ イ ム 」 実 践 へ の
「巻き込み」を受けて以来、自身の研究を「交流タイム」研究へシフトするこ
と に な る 。具 体 的 に は 、
「 交 流 タ イ ム 」導 入 初 年 度 に お け る 上 述 し た Dw 教 諭 と
の 共 通 理 解 や 、研 究 主 任 と し て 行 っ た「 交 流 タ イ ム 」実 践 の 調 整 、そ し て 200X+2
年 度 、 Ev 教 諭 と 同 学 年 で 行 っ た E 小 学 校 全 教 員 の 「 巻 き 込 み 」 な ど 、「 交 流 タ
イム」研究において中心的役割を果たしたのであった。
最 後 に Ev 教 諭 で あ る 。 Ev 教 諭 は 「 交 流 タ イ ム 」 導 入 時 の 200X 年 、 E 小 学
校 で 最 も 若 手 で あ っ た 。 し か し 、 200X 年 の 学 年 主 任 Dw 教 諭 と の 度 重 な る 授
業 公 開 を 通 じ て「 交 流 タ イ ム 」を 理 解 し た Ev 教 諭 は 、「 交 流 タ イ ム 」の 課 題 を
察 知 す る 。そ の 課 題 解 決 へ 向 け 、200X+1 年 度 に は「 交 流 タ イ ム 」修 正 を 行 い 、
研 究 授 業 発 表 を 機 に E 小 学 校 教 員 の「 巻 き 込 み 」を 果 た し た 。さ ら に 、200X+2
年 度 に は 上 述 の よ う に 、 Fu 教 諭 と と も に E 小 学 校 で の 「 交 流 タ イ ム 」 定 着 を
58
図る役割を担っている。
以 上 よ り 、E 小 学 校 に お け る 校 内 授 業 研 究 の 継 続 は 、Dw 教 諭 、Fu 教 諭 、Ev
教諭という三者を中心とした、周囲の教員の「巻き込み」によってなされたと
いえる。以上、前章および本章の分析を通じ、ミドル・アップダウン・マネジ
メント実現要因としての「巻き込み」が確認された。
【第3章注】
( 1 ) E 小 学 校 は か つ て 、理 科 研 究 で の ソ ニ ー 賞 受 賞 や 、家 庭 科 の 全 国 大 会 会
場校として研究発表を行った経験を持つ。
( 2 ) 本 章 で は 、E 小 学 校 で 実 施 さ れ た 校 内 授 業 研 究「 交 流 タ イ ム 」開 始 年 を
200X 年 と 表 記 す る と と も に 、 そ の 前 後 を + - で 表 記 し て い る 。
( 3 ) こ の よ う な 特 徴 を 持 つ ス ク ー ル ヒ ス ト リ ー 研 究 は 、「 個 人 の 人 生 、 す な
わち、その人の過去から現在にいたる体験および主観的な意味づけの記
録であるライフヒストリーのデータを第一次資料として、新たな知見、
仮 説 、理 論 を 構 築 す る 研 究 の 方 法 で あ る 」
( 野 入 2009: 90)ラ イ フ ヒ ス
トリー分析に近い性格を持つといえる。
( 4 ) E 小 学 校 で は 自 己 肯 定 感 を「 自 分 が 価 値 あ る 人 間 で あ り 、自 分 の 存 在 を
大 切 に 思 う 気 持 ち 」と 定 義 づ け 、自 己 肯 定 感 に は 以 下 に 示 す 3 段 階 が あ
ると捉えている。
1 .「 あ り の ま ま の 自 分 」 を 認 め る こ と が で き る 。
2.人との交流の中で「自分のよさ」に気付くことができる。
3 .達 成 感 や 充 実 感 を 味 わ い 、
「 自 分 の よ さ 」を こ れ か ら も 生 か し て い こ
う と す る こ と が で き る (『 200X+1 年 度 研 究 紀 要 』 よ り 引 用 )。
( 5 ) 『 200X-1 年 度 研 究 紀 要 』 よ り 引 用 。
( 6 ) 『 200X+1 年 度 研 究 紀 要 』 を も と に 筆 者 作 成 。
( 7 ) 『 200X+1 年 度 研 究 紀 要 』 よ り 引 用 。
( 8 ) 『 200X+3 年 度 研 究 紀 要 』 よ り 引 用 。
( 9 ) た だ し 、 200X-1 年 度 に は 講 師 と し て E 小 学 校 に 在 籍 し 、 Dw 教 諭 と 4
年生を担当している。
59
第4章
学 校 経 営 過 程 研 究 と M-GTA の 適 合 性
前 章 ま で は 、学 校 経 営 過 程 分 析 の 視 座 と し て 設 定 し た ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・
マネジメントの実際を捉える作業を行った。本章では改めて本論の研究目的で
ある「学校経営過程分析における方法論の検討」に立ち返り、その方法論とし
て の 可 能 性 を も つ Modified Grounded Theory Approach ( M-GTA) に つ い て
考察する。
第1節
先行研究の検討
本論の研究目的は、学校経営過程を捉え、またそのプロセスの説明と予測を
可能とする研究知を生成しうる方法論の検討にある。そしてその分析視座とし
ては、近年期待が高まるミドル教員によってなされるミドル・アップダウン・
マネジメントを設定している。
第 2 章 で は 、「 運 動 会 の 運 営 」 に お け る 意 思 形 成 過 程 を 事 例 と し 、 Az 教 諭 に
よってなされた課題解決策としての二つのアイディア実現過程をエスノグラフ
ィを用い描写した。第 3 章では、停滞傾向にあった校内授業研究 の活性化へ向
け 、 Dw 教 諭 、 Fu 教 諭 、 Ev 教 諭 が 中 心 と な り 行 っ た 新 た な 授 業 方 法 の 開 発 過
程をスクールヒストリーの視点から提示した。上記二つの事例から明らかにな
っ た の は 、ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト 実 現 要 因 と し て の「 巻 き 込 み 」
の存在であった。このミドル・アップダウン・マネジメントにおける「巻き込
み」はミドル教員によってなされるアイディア実現へ向けた協力者獲得の行動
であり、アイディアに関わる人々の相互作用でなされるプロセスとしての性格
を持つ。しかし現在の学校経営研究は、予め設定した枠組を用いて当該事例を
分析し、現象理解や要因の検討を行う傾向に留まり、上述したミドル・アップ
ダウン・マネジメントにおける「巻き込み」プロセスといたような、組織構成
員等の相互作用でなされるプロセスの把握、およびその説明と予測を可能とす
る研究知の生成には至っていない。
学校経営過程研究が導入された戦後二回目の学校経営改革期以来、その研究
蓄積は増加しており、現在では、かねてより指摘されていた「学校経営過程を
領域別に(中略)分けて考えたり、また具体的な個別(問題別)過程に分けて
考 え 」、「 経 営 過 程 を ス ム ー ズ に 展 開 す る 諸 要 因 ( 条 件 )」( 住 岡 2000: 72) を
抽出するといった課題は克服されつつある。しかしながら、上述のような学校
経営過程把握に関しては未だ課題を抱えており、これは学校経営過程研究で長
60
らく指摘されてきた「
、複雑な経営過程を支える学校の諸条件を分析する手法の
拙 劣 さ 」( 高 野 1986: 281) 及 び 析 出 さ れ た 要 因 間 の 「 相 互 関 係 を 明 ら か に す
る」
( 住 岡 2000: 72)と い う 課 題 に 対 し 、学 校 経 営 過 程 研 究 が 未 だ 応 答 で き て
いないことを意味する。
自律的学校経営を志向した改革が進行し、各学校が自律に至る道筋を模索す
る現在、学校経営研究には、各学校が自らを自律の道へと進める上で参照しう
る知見、すなわち複雑な学校経営過程を把握し、その説明と予測を可能とする
研究知の産出が求められている。それゆえ、上記課題を解決しうる研究方法論
の検討は喫緊の課題である。
上述のように学校経営過程の十分な把握を成し得ていない学校経営研究に対
し 、一 般 経 営 学 で は 経 営 プ ロ セ ス へ の 着 目 が な さ れ て い る 。例 え ば 印 南( 2002)
は 、「 組 織 の 脳 お よ び 神 経 系 」( Richard 2001= 2002: 257) と い わ れ る 意 思 決
定 に 着 目 し 、 そ の プ ロ セ ス に つ い て 言 及 し て い る 。 ま た 中 西 ( 2013) は 、 企 業
内・企業間における知識移転に着目し、先行研究のレビューを通じてそのプロ
セスを提示した。このように一般経営学においては経営プロセスへの言及が
様々になされているが、その研究方法論の一つとして用いられているものに
Grounded Theory Approach ( 以 下 、 GTA) が あ る 。
GTA は 、人 間 の 行 動 や 他 者 と の 相 互 作 用 に よ っ て な さ れ る “動 き( 変 化 ・プ ロ
セ ス )”の 説 明 や 予 測 に 有 効 な 理 論 生 成 を 目 指 す 質 的 研 究 方 法 の 一 つ で あ る( 木
下 2003)。経 営 学 に お け る GTA の 活 用 に つ い て レ ビ ュ ー を 行 っ た Locke(2001)
は 、グ ラ ウ ン デ ッ ド セ オ リ ー は 、経 営 学 や 組 織 論 研 究 が 扱 う 意 思 決 定 、社 会 化 、
変 革 の プ ロ セ ス 分 析 に 適 し て い る と 述 べ ( Locke 2001:95 )、 そ の 理 由 と し て 、
GTA は「 複 雑 性 の 把 握( capturing complexity)」、
「 実 践 と の 関 連 付 け( Linking
well to practice)」、「 未 着 手 の 実 在 的 領 域 の 理 論 化 ( Supporting theorizing of
‘new’ substantive areas )」、「 成 熟 し た 理 論 の 活 性 化 ( Enlivening mature
theorizing)」 が 可 能 で あ る と い う 四 点 を 挙 げ て い る ( Locke 2001: 95-98、 竹
下 2009: 23)。
上 記 の よ う な 特 徴 を 持 つ GTA を 用 い た 論 稿 と し て 、例 え ば 紺 野( 2008)は 、
組織的知識創造の重要性を唱え、個や集団から帰納的に生成される性質を持つ
知 識 創 造 プ ロ セ ス の 分 析 と GTA の 性 格 の 適 合 性 を 述 べ て い る 。 Mishra &
Bhaskar( 2011) は 、 効 果 的 ・ 非 効 果 的 な 学 習 を 行 う 二 つ の 組 織 を GTA を 用
い て 分 析 し 、ナ レ ッ ジ マ ネ ジ メ ン ト の 概 念 モ デ ル を 提 示 し た 。Yamazaki( 2005)
は、アメリカに進出した日本の多国籍企業における意思決定に着目し、日本的
経 営 手 法 で あ る 稟 議 シ ス テ ム の 受 容 と 変 容 を GTA を 用 い て 分 析 し て い る 。 ま
た 竹 下( 2009)は 、多 様 な 文 脈 と 状 況 を 有 す る ゆ え 、関 係 者 間 の 社 会 的 な 相 互
61
作用が求められプロセスである「企業の海外進出」に着目し、特に中国への海
外進出を事例としたうえで、外部専門家が企業の中国進出を支援するプロセス
を 明 ら か に し て い る 。こ の よ う に 、GTA は 一 般 経 営 学 に お い て も 注 目・ 活 用 さ
れ る 方 法 論 で あ り( 桑 島 2005:39)、学 校 の よ う な 不 確 定 な 要 素 の 多 い 組 織 研
究 の 分 析 に 適 す る と の 評 価 も 得 て い る ( 武 井 2010)。
また、教育経営研究に限らず、この方法論は教育学全般で多用されている。
例えば酒井らは、中学校における保健室頻回来室者に着目し、頻回来室者にと
っ て の 保 健 室 の 意 味 の 深 ま り を 明 ら か に す る と と も に( 酒 井・岡 田・塚 越 2005)、
生徒が保健室頻回来室に至る行動変化プロセスを明らかにしている(酒井・岡
田 ・ 塚 越 2006)。徳 舛( 2007)は 若 手 小 学 校 教 師 が「 教 師 に な る 」過 程 に 着 目
し、若手小学校教師が教師の実践共同体へ参加する過程モデルを作成した。坂
本 ( 2011) は 、 小 学 校 教 師 の 「 授 業 を 見 る 視 点 」 に 着 目 し 、 授 業 研 究 へ の 参 画
を 通 じ て そ の 視 点 が 変 化 す る 過 程 を 提 示 し て い る 。松 戸 ( 2008)は 、特 別 な 教
育的ニーズを持つ児童生徒とかかわりの深いスクールカウンセラー・特別支援
教育コーディネーター・養護教諭が抱く学校図書館および学校司書に対する認
識の変化プロセスとその要因を明らかにし、その分析を通じて学校司書の特別
な教育的ニーズを持つ児童生徒に対する支援のあり方を考察している。識字教
育 お よ び 識 字 研 究 に 着 目 し た 添 田( 2008)は 、自 分 史 学 習 を 活 用 し た 識 字 教 育
の実践モデルを示した。また増井は、現職教員による実践研究の方法論として
適 合 的 な GTA の 改 良 を 模 索 し て い る ( 増 井 ・ 村 井 ・ 松 井 2006、 増 井 ・ 村 井 ・
松 井 2007、 増 井 2008、 増 井 ・ 中 田 2008、 増 井 2009)。
上 記 先 行 研 究 か ら も わ か る よ う に 、 GTA は 教 師 教 育 、 授 業 研 究 、 社 会 教 育 、
実践研究というように教育学の幅広い領域で用いられる研究方法である。ただ
し、かかる研究は、教師や生徒といった個人の成長や心境の変化を扱ったもの
であり、学校経営といった「現象のプロセス」を示すものではない。しかし前
述 し た よ う に 、GTA は 一 般 経 営 学 に お い て 知 識 創 造 プ ロ セ ス や 意 思 決 定 プ ロ セ
スといった組織現象に対する研究方法論として用いられていることを踏まえる
ならば、教師・子ども・保護者・地域住民など様々なアクターの相互作用でな
される複雑なプロセスである学校経営過程研究にも適すると考えられる。
第2節
M-GTA の 特 徴
第1項
GTA の 基 本 的 特 徴
上述のように、一般経営学や教育学において注目を集めており、かつ、学校
経 営 過 程 分 析 へ の 応 用 可 能 性 を 持 つ GTA と は い か な る 方 法 論 で あ る の だ ろ う
62
か。以下ではその特徴を把握する。
GTA は 、 1960 年 代 ア メ リ カ の 看 護 領 域 に お い て 、 量 的 研 究 を 用 い る グ レ イ
ザ ー ( Glaser, B. G.) と 、 質 的 研 究 を 用 い る ス ト ラ ウ ス ( Strauss, A. L.) に よ
り 発 案 さ れ た 方 法 論 で あ る 。GTA は 、仮 説 検 証 型 の 研 究 が 主 流 で あ っ た 当 時 の
アメリカ社会学に対し、
「 既 存 の「 誇 大 理 論( Grand Theory)」か ら 演 繹 し て 仮
説 を 立 て 、そ れ を 検 証 す る 」
( 山 本 2002:7)の で は な く 、分 析 対 象 と す る デ ー
タ に 根 ざ し た 「 た た き 上 げ 式 」( 佐 藤 2006: 91) の 理 論 ( Grounded theory )
生成を目指した。
GTA を 用 い て 分 析 し た 結 果 生 成 さ れ る グ ラ ウ ン デ ッ ド セ オ リ ー は 以 下 の よ
うな特徴を持つ。
(1)継続的比較分析による理論化
GTA が 対 象 と す る の は 、「 病 院 で 死 ぬ と き に 何 が 起 き る か に つ い て 、 病 院 ス
タッフと患者の相互作用に焦点を当てる」というような、特定の領域において
人 と 人 に よ っ て な さ れ る 社 会 的 相 互 作 用 で あ る ( Glaser & Strauss 1965 )。 こ
の社会的相互作用によってなされる変化を、データに密着し、かつ「類似と対
極 の 二 方 向 で 比 較 検 討 し 、そ の 有 無 を デ ー タ で 継 続 的 に 確 認 」
( 木 下 2003:27)
するという継続的比較分析によって分析し、対象とする人間行動を説明する。
この継続的比較分析によって分析の最小単位である概念と複数の概念間の関係
を解釈的にまとめたカテゴリーが生成され、カテゴリー間の関係からプロセス
が 明 ら か に さ れ て ゆ く ( 図 4 -1 )。
明らかにしつつあるプロセス
カテゴリー生成
カテゴリー1
概念生成
生データ
概念1
I1
I2
カテゴリー2
概念2
I3
概念3
I4
I5
.....
.....
概念4
I6
.....
I7
.....
)
図 4 -1 分 析 の ま と め 方 ( 1※木下2003:214をもとに作成
(2)領域密着理論
継続的比較分析によって生成されたグラウンデッドセオリーは、対象とする
領域における人間行動を説明し、かつ予測を可能とする理論である。これはつ
63
ま り 、グ ラ ウ ン デ ッ ド セ オ リ ー は 理 論 の 適 用 先 で あ る 現 実 へ の 適 合 性( fitness)
を持つことを意味する。そして、研究対象とする具体的領域のリアリティに対
応するデータに根拠づけられた理論は、そこで活動する人々によって意義のあ
る も の と な り 、ま た 理 解 し や す い( understanding)。こ の 対 象 領 域 へ の 適 合 と
理 解 し や す さ と い う 特 徴 ゆ え 、GTA の 分 析 結 果 は 領 域 密 着 型 理 論 と し て の 性 格
を持つ。
(3)実践的活用志向
GTA の 分 析 結 果 で あ る グ ラ ウ ン デ ッ ド セ オ リ ー は 、実 践 的 活 用 を 促 す こ と を
目的とする。そのため、日常的な状況変化の多様性に対応できる一般性
( generality) も 求 め ら れ る 。 こ れ は 、 分 析 に お い て な さ れ る 徹 底 的 な 継 続 的
比較分析に加え、分析結果活用者が自ら主体的に変化に対応し、ときには必要
な 変 化 を 引 き 起 こ し て い け る よ う に 、 理 論 そ の も の を コ ン ト ロ ー ル ( control)
す る こ と で 可 能 と な る 。 こ の よ う に GTA で 生 成 さ れ る 理 論 は 、「 発 見 後 で あ っ
てもそれが適用されるたびに再定式化されるというたえざるプロセスの中にあ
る 」( Glaser & Strauss 1967=1996 : 331) も の で あ る 。
第2項
GTA の 種 類
( 1 ) 四 つ の GTA
前 項 で 説 明 し た 基 本 的 特 徴 を 持 つ GTA は 、オ リ ジ ナ ル 版( Glaser & Strauss
1967)以 降 、Strauss & Corbin 版( Strauss & Corbin 1990)、Glaser 版( Glaser
1992)、 Charmaz 版 ( Charmaz 2006)、 修 正 版 ( M-GTA)( 木 下 2003 な ど )
の 四 つ に 分 け ら れ る ( 木 下 2011: 425)。
Glaser と Strauss に よ っ て 提 唱 さ れ た オ リ ジ ナ ル 版 は 、 GTA の 特 徴 を 提 示
する一方で、その具体的な分析方法は不明確なままであった。それゆえ、後に
続 く Strauss & Corbin 版 、Glaser 版 、Charmaz 版 、修 正 版( M-GTA)で は 、
オ リ ジ ナ ル 版 が 残 し た 課 題 で あ る「 分 析 過 程 の 体 系 化 」に 取 り 組 む こ と と な る 。
ただし、オリジナル版以後の四者は、分析方法の側面で性格が異なる。
Strauss & Corbin 版 、Glaser 版 で は 、GTA が 提 唱 さ れ た 理 由 の 一 つ で あ る 、
質的研究に内在する「主観性」批判を乗り越えるべく、実証主義的厳密さや客
観 主 義 的 性 格 を 継 承 し て い る 。こ れ に 対 し Charmaz 版 は 、
「データは以前から
こ の 世 界 に 依 存 し て お り 、 研 究 者 は そ れ を 見 出 し そ こ か ら 理 論 を 「 発 見 」」
( Charmaz 2006= 2008: 141) す る と い う 立 場 の 客 観 主 義 的 GTA を 批 判 し 、
「データと分析の双方ともが、その算出に伴うものを反映した社会的構成物で
ある」
( 同 上 書:141)と い う 立 場 か ら 、GTA に 対 し て 社 会 構 成 主 義( 構 築 主 義 )
64
的性格を求めている。このように上記三者のデータ分析スタンスは異なるが、
し か し 、オ リ ジ ナ ル 版 が 課 題 と し て 残 し た デ ー タ 分 析 の 過 程 に お い て「 切 片 化 」
を 用 い る 点 で は 共 通 す る 。デ ー タ の 切 片 化 は オ リ ジ ナ ル 版 に お い て 提 唱 さ れ た 、
分析における客観性を重視する分析方法であり、データを一文、一語、一分節
と い っ た 範 囲 で 細 分 化 し て 意 味 を 検 討 す る 方 法 で あ る 。 Strauss & Corbin 版 、
Glaser 版 、 Charmaz 版 は こ の 切 片 化 を 用 い た 分 析 を 行 う も の で あ る 。
一 方 、 日 本 の 社 会 学 者 で あ る 木 下 に よ っ て 提 唱 さ れ た 修 正 版 ( M-GTA) は 、
そ の 分 析 に お い て 切 片 化 を 用 い な い 。こ れ は 、
「人間と人間の複雑な相互作用が
プロセスとして進行するわけであるから、その全体の流れを読み取ることが重
要」
( 木 下 2003: 158)で あ り 、
「データの切片ではなくデータに表現されてい
る コ ン テ キ ス ト を 理 解 し な く て は な ら な い 」( 同 上 書 : 158) と の 認 識 に よ る 。
そして具体的な分析方法として後述の「分析ワークシート」を用い、分析ワー
ク シ ー ト を 用 い る こ と に よ っ て オ リ ジ ナ ル 版 GTA が 重 視 す る 客 観 性 担 保 の 仕
組みを盛り込みつつも、人間による感覚的な理解の重要性も同時に強調するの
で あ る ( 2 )。
(2)学校経営過程との適合性
以 上 の GTA が 持 つ 特 徴 を 踏 ま え 、 本 論 が 取 り 扱 う 学 校 経 営 過 程 、 及 び そ の
分析視座であるミドル・アップダウン・マネジメントとの適合性を考えてみた
い。
学 校 経 営 は 、GTA が 発 案 さ れ た 看 護 領 域 と 同 じ く 、ヒ ュ ー マ ン サ ー ビ ス に 位
置 す る 事 象 で あ る 。GTA は 人 間 と 人 間 が 直 接 的 に や り 取 り を す る 社 会 的 相 互 作
用に関わる研究に適した方法論であり、その研究対象とする現象のプロセス的
性格を明らかにすることが可能である。すなわち学校経営過程及びミドル・ア
ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト プ ロ セ ス は 、GTA を 用 い る 上 で は 好 ま し い 分 析 対 象
であると考えられる。
また、ミドル・アップダウン・マネジメント は、第 1 章で述べたように、組
織における「暗黙知」を「形式知」に変換する組織的知識創造に適したマネジ
メントスタイルである。そのため、ミドル・アップダウン・マネジメントを通
じたアイディア創造プロセスを分析するうえでは必然的に、言葉としては表出
されていない「暗黙知」の理解(解釈)が求められる。それゆえ、言語化され
た テ キ ス ト の 切 片 化 か ら 分 析 を 行 う Strauss & Corbin 版 、Glaser 版 、Charmaz
版 よ り も 、切 片 化 を 行 わ ず 文 脈 を 含 み こ ん だ 分 析 を 行 う 修 正 版( M-GTA)が 好
ましい。
さらに、ミドル・アップダウン・マネジメントの分析においては社会学のシ
65
ン ボ リ ッ ク 相 互 作 用 論 の 導 入 が 可 能 で あ る 。 ブ ル ー マ ー ( Blumer, H.) に よ っ
て確立されたシンボリック相互作用論では、①人間は、ものごとが自分に対し
て持つ意味にのっとって、そのものごとに対して行為する、②このようなもの
ごとの意味は、個人がその仲間と一緒に参加する社会的相互作用から導き出さ
れ、発生する、③このような意味は、個人が自分の出会ったものごとに対処す
るなかで、その個人が用いる解釈の過程によってあつかわれたり、修正された
り す る 、 と い う 3 点 を 前 提 と し て い る ( Blumer 1969=1991: 2)。
こ の 意 味 づ け の 行 為 そ の も の や 、そ の 対 象 と な っ た も の が シ ン ボ ル で あ る が 、
これを本論の文脈に置き換え考えるならば、ミドル教員が学校経営の課題に対
峙した時、その課題解決を図るためには他者との相互作用が求められ、そこで
は課題解決策としての「アイディア」というシンボルが生成される。そしてこ
のシンボルは他者との相互作用を通じて修正・再構成され意味づけられる。そ
れゆえ、
「シンボリック相互作用論に加えてプラグマティズムが導入されている」
( 山 崎 2006: 28) 修 正 版 ( M-GTA) は 、 ミ ド ル ・ ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン
トの分析に用いる上で好ましいと考えられる。
以上の理由より、学校経営過程分析の視座として設定したミドル・アップダ
ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト プ ロ セ ス の 分 析 に お い て は 、 複 数 に 分 か れ る GTA の う ち
特 に M-GTA が 適 す る と い え る 。
以 下 で は M-GTA の 具 体 的 な 分 析 手 順 に つ い て 説 明 す る 。
第3節
M-GTA を 用 い た 分 析 の 手 順
第1項
研究テーマおよび分析テーマ、分析焦点者
M-GTA は 前 節 で 述 べ た GTA の 特 徴 の 一 つ で あ る 領 域 密 着 型 理 論 生 成 を 目 的
とし、データに密着した分析を行う方法論である。そのため分析の際には、比
較的大きな研究目的・意義をもつ「研究テーマ」を具体的レベルである「分析
テーマ」に絞り込む必要がある。本論の場合、研究テーマには本研究の目的で
ある「学校経営過程分析」が該当する。また、学校経営過程分析の視座として
ミドル・アップダウン・マネジメントを設定している本論では、前章までの分
析 に お い て 、ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト の 要 素 と し て の「 巻 き 込 み 」
を抽出した。この「巻き込み」が行われるプロセスを示すことがミドル・アッ
プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト プ ロ セ ス の 理 解 に 繋 が る と 考 え ら れ る た め 、
「ミドル・
ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト に お け る 「 巻 き 込 み 」 プ ロ セ ス 」 を M-GTA を 用
いる上での分析テーマとして設定可能である。
さ ら に 、 相 互 作 用 プ ロ セ ス の 分 析 を 得 意 と す る M-GTA で は 、 そ の プ ロ セ ス
66
を 捉 え る 視 点 が 必 要 と な る 。 M-GTA で は こ れ を 「 分 析 焦 点 者 」 と し て 設 定 す
るが、本論ではミドル教員の視点からミドル・アップダウン・マネジメントに
おける「巻き込み」プロセスを捉えることから、分析焦点者はミドル教員とし
て設定する。
第2項
分析ワークシート
切 片 化 を 用 い な い M-GTA は 、 分 析 の 手 段 と し て 「 分 析 ワ ー ク シ ー ト 」 を 用
い る 。分 析 ワ ー ク シ ー ト に よ り 、GTA の 特 徴 で あ る デ ー タ に 密 着 し た 分 析 や 継
続的比較分析が可能になる。
分 析 ワ ー ク シ ー ト は 1 概 念 に 1 つ 作 成 す る た め 、概 念 の 個 数 分 の ワ ー ク シ ー
ト が で き る が 、以 下 で は 、次 章 の 分 析 で 導 出 し た 概 念 ‘肯 定 的 評 価 の 獲 得 ’を 例 に
分 析 手 順 の 実 際 を 提 示 す る ( 表 4 -1 )。
分 析 で は ま ず 、分 析 の 軸 と な る 分 析 テ ー マ に 即 し て デ ー タ の 一 部 分 に 着 目 し 、
そ の 意 味 を 解 釈 し 、定 義 と し て ま と め る 。
「 ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン
トにおける「巻き込み」プロセス」を分析テーマとする本研究では、当概念に
おいて、
先生たちの(学校評価の)取り組みを見える化して、自分は外に発信をし
た り と か し て い っ て 。で 、さ っ き の ほ ら 、
( 研 修 の 中 で み ん な で )決 め た の も
あ る で し ょ う 。 9 月 か ら 12 月 ま で の ( 行 動 計 画 )。 あ れ も 玄 関 に 貼 っ て 。 こ
ういうのも全部貼ったら、
( 学 校 外 か ら )来 た 人 た ち が「 あ ぁ 、こ う い う 取 り
組みをしてるんだ」とか。言ってる言葉を先生たちが聞いて「あ、頑張らな
い と い け な い 」 っ て な る ん で す よ 。( Kp 氏 )
という部分に着目した。
筆者はこの部分を、アイディア実現のためのミドルリーダーによる戦略的行
動であると解釈し、
「 定 義:周 囲 の 視 点 か ら ア イ デ ィ ア の 内 容 や 取 り 組 み を 評 価
し て も ら う こ と で 、 自 身 の 提 案 し た ア イ デ ィ ア の 正 当 性 を 確 保 す る 。」、「 概 念
名 : 肯 定 的 評 価 の 獲 得 」 と し た ( 3 )。 こ れ ら 概 念 名 、 定 義 、 具 体 例 は 分 析 ワ ー
クシートの所定欄に記載する。
分析では解釈が恣意的に進まないように、継続的比較分析を行う。その一つ
は、類似例が他のデータに豊富にあるかをみる類似比較である。本概念の類似
例としては、
67
表 4 -1 分 析 ワ ー ク シ ー ト ( 抜 粋 )
概念名
定義
肯定的評価の獲得
周囲の視点からアイディアの内容や取り組みを評価してもらうこ
とで、自身の提案したアイディアの正当性を確保する。
先生たちの(学校評価の)取り組みを見える化して、自分は外に
発 信 を し た り と か し て い っ て 。で 、さ っ き の ほ ら 、
(研修の中でみ
ん な で )決 め た の も あ る で し ょ う 。9 月 か ら 12 月 ま で の( 行 動 計
画 )。 あ れ も 玄 関 に 貼 っ て 。 こ う い う の も 全 部 貼 っ た ら 、( 学 校 外
から)来た人たちが「あぁ、こういう取り組みをしてるんだ」と
具体例
か。言ってる言葉を先生たちが聞いて「あ、頑張らないといけな
い 」 っ て な る ん で す よ 。( Kp 氏 )
 何 人 か の 先 生 が「 じ ゃ あ ち ょ っ と や っ て み よ う 」っ て や っ て み て 。
「 あ 、こ れ 使 え た よ 」っ て 。そ こ か ら で す ね 。少 し ず つ 、「 こ の 方
法 っ て( 中 略 )、子 ど も た ち に 還 元 で き る ん じ ゃ な い の 」っ て も っ
て い っ た 。( Lo 氏 )
①自分でアイディアの意義を述べるのではなく、他者からの意義
づけという戦略的な行動として解釈。自身でのアイディアへの
理論的
メモ
意義づけもあるのか。
② ア イ デ ィ ア 実 現 へ 向 け た 「 自 分 で の 行 動 」 ・「 他 者 の 行 動 」 と い
う区分けでカテゴリー化できるのではないか。
③アイディア実現へ向け、この概念はどのような役割を果たすの
か。
何 人 か の 先 生 が「 じ ゃ あ ち ょ っ と や っ て み よ う 」っ て や っ て み て 。
「 あ 、こ
れ 使 え た よ 」 っ て 。 そ こ か ら で す ね 。 少 し ず つ 、「 こ の 方 法 っ て ( 中 略 )、 子
ど も た ち に 還 元 で き る ん じ ゃ な い の 」 っ て も っ て い っ た 。( Lo 氏 )
などが見られた。この類似例は分析ワークシートの「具体例」欄に追加記入す
る。なお類似比較を行った結果、その概念で説明できるデータが極端に少ない
場合、その概念は有効ではないと判断し棄却する。
また上述の分析過程と並行して、継続的比較分析の一つである生成概念の対
極例を探る対極比較も行う。そして対極比較の結果や別の解釈の可能性、他概
念との関連などを考え付いた場合は「理論的メモ」欄に書きとめる。具体的に
は 表 4 -1 に 示 す よ う に 、「 ① 自 分 で ア イ デ ィ ア の 意 義 を 述 べ る の で は な く 、 他
者からの意義づけという戦略的な行動として解釈。自身でのアイディアへの意
68
義 づ け も あ る の か 」、
「 ② ア イ デ ィ ア 実 現 へ 向 け た「 自 分 で の 行 動 」・「 他 者 の 行
動 」 と い う 区 分 け で カ テ ゴ リ ー 化 で き る の で は な い か 」、「 ③ ア イ デ ィ ア 実 現 へ
向 け 、こ の 概 念 は ど の よ う な 役 割 を 果 た す の か 」等 で あ る 。こ の 理 論 的 メ モ は 、
新たな概念の生成や概念間の関連、プロセスの考察に役立てる。
第3項
理論的飽和化
分析ワークシートを用いた作業を通じて、分析の理論的飽和化を目指す。
理論的飽和化とは、分析テーマ・分析焦点者に基づき収集したデータを、理
論 的 サ ン プ リ ン グ ( 4 ) を 行 い な が ら 継 続 的 比 較 分 析 し 、デ ー タ か ら 新 た に 重 要
な 概 念 が 生 成 さ れ な く な っ た 状 態 を さ し 、 M-GTA で は 、 大 小 二 つ の 段 階 で 理
論的飽和化を行う。
まず、
「 小 さ な 」理 論 的 飽 和 化 の 判 断 は 、分 析 ワ ー ク シ ー ト を 用 い て 個 々 の 概
念の有効性をチェックするとともに、データから新たに重要な概念が生成され
な く な る か ど う か で 行 う 。次 に 、
「 大 き な 」理 論 的 飽 和 化 は 、分 析 ワ ー ク シ ー ト
を用いて生成した概念で構成する概念図とストーリーラインで行い、その際に
は、概念やカテゴリー間の関係、全体の統合性から判断する。
しかし、理論的飽和化の判断は分析者自身が行うものであり、そこに客観的
な 基 準 が あ る わ け で は な い 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 M-GTA を 用 い た 研 究 の 相 互
援 助 を 行 う M-GTA 研 究 会 ( 5 ) で の ス ー パ ー バ イ ズ を 受 け る と と も に 、 教 育 経
営学を専攻する大学教員・院生、現職教員との協議の機会を設け、解釈の妥当
性を確認した。
本 論 で は 上 記 手 順 を 経 た 後 、 次 章 表 5 -1 に 示 す 、 12 名 分 の デ ー タ 分 析 の 段
階で「理論的飽和化」に達したと判断し分析を終了した。そして、生成した概
念間の関係を整理し、カテゴリーにまとめる収束化を行った。
次 章 で は こ の M-GTA を 用 い 分 析 を 行 っ た 「 ミ ド ル ・ ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ
メントにおける「巻き込み」プロセス」を提示する。
【第4章注】
( 1 ) 木 下 ( 2003: 214) を も と に 作 成 。
( 2 ) 修 正 版 の 提 唱 者 で あ る 木 下 は こ れ を 、【 研 究 す る 人 間 】 と し て 表 現 し 、
その理念を重視している。
( 3 ) 概 念 名 は 、す で に 確 立 し た 専 門 用 語 で は な く 、デ ー タ に 密 着 し た こ と ば
が 望 ま し い と さ れ る ( 木 下 2003)。
69
( 4 ) デ ー タ 分 析 の 過 程 に お い て 、デ ー タ と の 比 較 か ら 研 究 対 象 を 計 画 的 に 選
定するデータ収集方法。
( 5 ) 詳 細 は 右 ホ ー ム ペ ー ジ 参 照 。 http://m-gta.jp/
70
第5章
M-GTA を 用 い た ミ ド ル ・ ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト プ ロ セ ス の 分 析
学校経営過程分析の方法論検討を目的とする本論では、その分析視座として
ミドル教員によってなされるミドル・アップダウン・マネジメントを設定して
い る 。第 2 章及 び第 3 章 で は こ の ミ ドル・ア ップダウン・マ ネジメ ントをエス
ノグラフィとスクールヒストリーの視点から描写し、ミドル・アップダウン・
マネジメント実現要因としての周囲の「巻き込み」の存在を明らかにした。た
だし、上記分析はミドル・アップダウン・マネジメントの要因分析に留まるも
のであり、ミドル・アップダウン・マネジメントがいかにして行われるかとい
うプロセスの把握、およびその説明と予測を可能とする研究知の生成には至っ
ていない。序章及び前章で指摘したように、これは学校経営過程研究の課題で
ある。
そこで本章では、学校経営過程の一つであるミドル・アップダウン・マネジ
メ ン ト を 対 象 と し 、 そ の プ ロ セ ス の 分 析 を 、 前 章 で 示 し た M-GTA を 用 い て 行
う。
第1節
調査協力者及びデータ収集方法
第 1 章で述べたように、近年ミドル教員に関する研究は増加傾向にあり、そ
の 研 究 対 象 は 主 に 、校 務 分 掌 に お け る リ ー ダ ー を 担 う 各 種 主 任 、2008 年 度 よ り
制 度 化 さ れ た 主 幹 教 諭 や 指 導 教 諭 と い っ た「 新 し い 職 」、そ し て 15 年 ~ 30 年 前
後 の 教 職 経 験 年 数 を 積 ん だ 、年 齢 に す る と 30 歳 前 後 か ら 40 歳 代 の 中 堅 教 員 が
あ げ ら れ て い る 。 M-GTA を 用 い た ミ ド ル ・ ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト の 分
析を行う本章においても、上記区分に当てはまる教員をミドル教員として捉え
る 。な お 調 査 協 力 者 の 確 保 は ス ノ ー ボ ー ル サ ン プ リ ン グ に よ っ て 行 い 、そ の 際 、
教 職 経 験 年 数 や 職 位 、継 続 的 比 較 分 析 の 観 点 か ら 理 論 的 サ ン プ リ ン グ を 行 っ た 。
次 に 、 デ ー タ 収 集 方 法 で あ る 。 M-GTA は デ ー タ 収 集 に お い て イ ン タ ビ ュ ー
調 査 を 前 提 と す る と い う 立 場 を と る た め( 木 下 2003)、本 章 も ミ ド ル 教 員 に 対
してミドル・アップダウン・マネジメントに関するインタビュー調査を行い、
デ ー タ を 収 集 し た 。イ ン タ ビ ュ ー 調 査 は 、
「ミドルリーダーによるアイディア実
現」の視点から以下の質問項目を設定し、半構造化形式で行った。
設問 1
学校の課題解決を目指した取り組みとして、新たなアイディアを提案
した経験があるか。
71
設問 2
新たなアイディアを提案した経験がある場合、そのプロセスの具体的
展開はどのようなものか。
そ し て 、イ ン タ ビ ュ ー に 対 す る 回 答 の 中 で 、
「 巻 き 込 み 」に よ り ア イ デ ィ ア 実
現 を 成 し 遂 げ た 経 験 を 持 つ 調 査 協 力 者 か ら 得 た デ ー タ を 用 い 、分 析 を 行 っ た( 1 )。
上 記 作 業 を 行 っ た 結 果 、 最 終 的 に 12 名 の 教 員 か ら 得 た デ ー タ を 本 章 の 分 析 対
象 と し た ( 表 5 -1 )。
そ れ ぞ れ の 教 師 に 対 す る イ ン タ ビ ュ ー 調 査 時 間 は 約 1 時 間 程 度 で あ り 、空 き
教 室 や 周 囲 に 人 の い な い 職 員 室 に て 筆 者 と 1 対 1 で 行 っ た 。調 査 内 容 は 調 査 協
力 者 の 了 解 が 得 ら れ た 場 合 は 録 音 し 、調 査 終 了 後 に 逐 語 録 を 作 成 し て い る( 2 )。
調 査 期 間 は 2010 年 7 月 か ら 2011 年 8 月 で あ る 。
表 5 -1 に 示 す 調 査 協 力 者 か ら 収 集 し た デ ー タ を 、前 章 で 示 し た 手 順 で 分 析 し
た 結 果 、15 個 の 概 念 と 4 個 の サ ブ カ テ ゴ リ ー 、6 個 の カ テ ゴ リ ー を 生 成 し た( 表
5 -2 )( 3 )。 生 成 し た カ テ ゴ リ ー 相 互 の 関 係 か ら 分 析 結 果 を ま と め 、 作 成 し た
分 析 結 果 図 が 図 5 -1 で あ る 。
次 節 で は 分 析 結 果 の 概 要 ( ス ト ー リ ー ラ イ ン ) を 示 し た 後 ( 4 )、 カ テ ゴ リ ー
別 に 概 念 の 詳 細 を 説 明 す る 。な お 、以 下 で 使 用 す る ‘
概 念 、 < > は サ ブ カ テ ゴ リ ー 、[
’は 分 析 の 最 小 単 位 で あ る
]はカテゴリーを示す。
72
表 5 -1 調 査 協 力 者 の 属 性 等
教職経験
年数
職位等
実践の概要
(調 査 当 時 )
Kp
22 年
教務主任
Lo
23 年
研究主任
Mn
27 年
研究主任、
学年主任(1 年)
Nm
22 年
研究主任
Ol
23 年
教務主任
(主幹教諭)
Pk
22 年
教務主任
Qj
32 年
教務主任
Ri
25 年
研究主任
Sh
30 年
特別支援教育
コーディネーター
Tg
30 年
学年主任
Uf
25 年
6 年担任
Ve
15 年
研究主任
・ 自 校 の 校 務 分 掌 組 織 (「 学 力 向 上 」、
「 学 習 規 律 」、「 生 徒 指 導 」、「 人 権 教
育 」) に 連 動 さ せ た 、 教 員 全 員 が 主
体的に行う学校評価プロジェクト
の実施。
・1 年間の研究指定を受け行った、特
別支援教育研究へ向けた研究実施
体制の構築と研究の実施。
・校 内 研 究 活 性 化 へ 向 け た 方 策 と し て
の研究テーマ共通理解の徹底。
・自学年(1 年)における保護者懇談
会 参 加 率 を 高 め る た め の 、子 ど も 預
かりシステム構築。
・校 内 研 究 へ の 参 画 意 識 向 上 を め ざ し
行 っ た 、校 内 研 究 テ ー マ の 決 定 手 続
きの緻密化とそれを通じた共通理
解の徹底。
・保 護 者 と の 信 頼 関 係 構 築 を 目 指 し 新
た に 実 施 し た 、オ ー プ ン ス ク ー ル の
計画及び運営。
・ベテラン教員と若手教員・講師 が増
加 し た 学 校 に お け る 、ミ ド ル 教 員 を
中 軸 と し た 各 学 年 運 営・学 校 経 営 の
実施。
・総合的な学習の時間導入期におけ
る、平和学習の推進。
・校 内 研 究( 算 数 科 )に お け る 課 題 の
提示及び実施方法の提案。
・校 内 研 究 が 停 滞 す る 学 校 に お い て 実
施 し た 、校 内 研 究 活 性 化 方 策 の 一 つ
と し て の「 全 教 員 の 授 業 公 開 」導 入 。
・ 学 校 行 事 や 授 業 を 活 用 し た 、特 別 支
援 学 級 児 童 の 学 び の 場・表 現 の 場 の
保証。
・総 合 的 な 学 習 の 時 間 の 内 容 増 加 に 伴
い 行 っ た 、授 業 内 で 実 施 し て い た 地
域行事の中止。
・ 運 動 会 演 技 に お い て 行 わ れ る 、選 手
選抜種目(紅白対抗種目)の増加。
・算数研究が盛んな勤務校における、
教師の参画を高める校内研究の運
営。
73
表5-2 カテゴリー・サブカテゴリー・概念の生成
カテゴリー
サブカテゴリー
概念
‘本音の認知’
[現実との対峙]
‘あいまいな立場の自覚’
該当者
Lo,Mn,Nm,Ol,Pk,
Qj,Ri,Sh,Tg,Uf,
Ve
Lo,Nm,Ol,Pk,Qj,
Ri,Sh,Tg,Uf,Ve
‘改善策の練り上げ’
課題解決につながる改善策を、自校の現状を
踏まえ、これまでに培ってきた自身の経験や
周囲の力を活かして発案する
Kp,Lo,Mn,Nm,Ol,
Pk,Qj,Ri,Sh,Tg
Uf,Ve
Kp,Lo,Mn,Nm,Ol,
Pk,Qj,Ri,Sh,Tg
Uf,Ve
‘ツールを用いた発信’
自身が発案した改善策を共有するべく、効果
的に伝わる身近な手段を用いて発信する
Kp,Mn,Nm,Ol,Qj,
Ri,Sh,Uf,Ve
子どもや教師、組織、自分自身の更なる成長
をめざした目標を行動指針とする
(5)
[成長の探求]
[改善策の可視化]
‘周囲の負担感への気づき’
[周囲の「思い」の察知]
‘異なる価値観との遭遇’
‘率先行動’
[巻き込み]
概念の定義
「ミドル」という立ち位置ゆえ、理想と現実
のギャップに直面し、子どもや教師が抱く課
題に気付く
「ミドル」という立ち位置ゆえ現状の課題に
気付く一方で、
「ミドル」という立ち位置にあ
るため、その課題解決へ向けた行動のとり方
に悩む
〈実現可能性の提示〉
‘ヒントの提供’
74
課題解決策として練り上げたアイディアを周
囲へ示すことによって生じる、周囲が抱く負
担感に気付く
課題解決策としてのアイディア発案を契機と
し、周囲が抱く、自身とは異なる価値観と遭
遇する
自身が提案したアイディアを率先して実施す
ることで、アイディアの実現可能性を示す
Kp,Mn,Nm,Ol,Qj,
Ri,Sh,Tg,Uf
自身が発案したアイディアに関して、より効
果的な実施方策を提案し、実現可能性を示す
Lo,Mn,Nm,Pk,Qj,
Ri,Tg,Ve
Kp,Lo,Ol,Qj,Ri,
Tg,Uf,Ve
Lo,Nm,Ol,Pk,Qj,
Ri,Sh,Uf,Ve
(前ページの続き)
カテゴリー
サブカテゴリー
概念
‘肯定的評価の獲得’
[巻き込み]
〈後ろ盾獲得〉
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘経験を踏まえたサポート’
〈経験を活かした
コミュニケーション〉
概念の定義
該当者
周囲の視点からアイディアの内容や取り組み
を評価してもらうことで、自身の提案したア
イディアの正当性を確保する
アイディアの拠り所としてトップビジョンを
活用し、自身の提案したアイディアの正当性
を確保する
アイディア実施の成果として子どもの姿を示
すことで、自身の提案したアイディアの正当
性を確保する
日常的に接する相手の状況に応じ、自身の経
験を踏まえて職務内外におけるサポートを行
う
Kp,Lo,Mn,Nm,Ol,
Pk,Qj,Sh,Tg,Uf,
Ve
Kp,Lo,Mn,Nm,Ol,
Qj,Tg,Ve
Kp,Qj,Sh,Uf,Ve
Kp,Lo,Mn,Nm,Pk,
Qj,Ri,Sh,Tg,Uf,
Ve
Kp,Lo,Mn,Nm,Ol,
Pk, Qj,Sh,Tg,Uf,
Ve
‘間口を広げる
積極的に間口を広げることで「ミドル」とい
う垣根をなくし、会話しやすい雰囲気を作る
‘子ども情報での会話’
子どもと接する機会が多い「ミドル」という
立場を活かし、自身がもつ子どもに関する情
報を用いて周囲との会話を行う
Lo,Mn,Nm,Ol,Qj,
Ri,Sh,Tg,Uf,Ve
‘立場を使う’
「ミドル」という立場を活用し、周囲とコミ
ュニケーションをとる機会をもつ
Kp,Lo,Mn,Nm,Ol,
Pk,Qj,Ri,Sh,Tg,
Ve
[基盤の構築]
〈立場を活かした
コミュニケーション〉
75
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -1 分 析 結 果 図
ミドル・アップダウン・マネジメントにおける「巻き込み」プロセス
第2節
分析結果
第1項
分析結果の概要(ストーリーライン)
「ミドル・アップダウン・マネジメントにおける「巻き込み」プロセス」を
分 析 テ ー マ と し 、表 5 —1 に 示 し た 12 名 の 調 査 協 力 者 よ り 得 た デ ー タ の 分 析 結
果概要(ストーリーライン)は以下の通りである。
周囲の[巻き込み]が重要となるミドル・アップダウン・マネジメントを通
じたアイディア実現行動は、ミドル教員が置かれる「ミドル」という立場ゆえ
生じる[現実との対峙]が契機となり始まる。この[現実との対峙]とミドル
教員の[成長の探求]の往還から学校改善へ向けた取り組みであるアイディア
が発案され、アイディアは[改善策の可視化]によって周囲へと提示される。
ただし、ミドル教員によって発案されたアイディアは必ずしも周囲の賛同を
得られるとは限らず、ミドル教員は[周囲の「思い」の察知]に至ることにな
る。そして、この過程で知りえた周囲の様々な「思い」へ対処するべく、ミド
ル教員は自身の「ミドル」という立ち位置を活かし、日常的な[基盤の構築]
も用いながら、アイディア実現へ向けた周囲の[巻き込み]を行う。その際ミ
ドル教員が抱く[成長の探求]は自身を突き動かす原動力・手段になるととも
に、周囲を巻き込む目的として機能する。
この[巻き込み]によってなされるアイディア実現が、継続的・螺旋上昇的
76
に行われることにより、学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメン
トが駆動する。
以下では、上述したストーリーラインについて、各カテゴリーを構成する概
念の詳細とともに説明する。
第2項
ア イ デ ィ ア の 発 案 ([ 現 実 と の 対 峙 ] と [ 成 長 の 探 求 ])
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -2 [現 実 と の 対 峙 ]と [成 長 の 探 求 ]
「 ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト に お け る「 巻 き 込 み 」プ ロ セ ス 」は 、
ミドル教員が置かれる「ミドル」という立場ゆえ生じる[現実との対峙]と、
ミドル教員自身が抱く[成長の探求]の往還を契機として動き始める。
「トップ」と「ボトム」の中間である「ミドル」という位置にあるミドル教
員は、
「 ト ッ プ 」と と も に 学 校 経 営 の 中 核 を 担 う 一 方 、子 ど も や 保 護 者 と 直 に 接
し教育実践を行う「ボトム」にも近接するという特徴を持つ。この「ミドル」
と い う 「 ト ッ プ 」、「 ボ ト ム 」 両 者 に 近 い 立 ち 位 置 に あ る が ゆ え 、 ミ ド ル 教 員 は
理 想 と 現 実 の ギ ャ ッ プ に 対 面 す る こ と に な る 。例 え ば そ れ は 、
「日常的な子ども
の成長が周囲へ伝わらない」
( Sh 氏 )と い う 歯 が ゆ さ や 、
「校内研究での取り組
みが日常化していない」
( Ve 氏 )焦 り と い っ た 、自 身 や 周 囲 の ‘本 音 の 認 知 ’で あ
る。
Sh 氏 : で き な く て 、 で き な く て 、( 組 体 操 の ) 肩 車 が で き な く て 、 あ る 日 突
然できた日とか。もう、すごく涙が出るほど嬉しいんだけど…。運動
77
会 の 場 っ て 、( 運 動 会 へ 向 け て 行 っ た ) 練 習 っ て い う の は 見 せ ら れ な
いじゃないですか。走ってもやっぱり遅かったりとか、でもすごくバ
トンを渡すのが上手になったりとか。カーブを曲がりきれないでこけ
ていたのが、こけずに走れるようになったりとか。差が少しずつだけ
ど縮まってきたりとか…。確実に成果があるんですね。
だけど、その場では、地域の人にはわからないですよね。保護者、
子どもたちのお父さんとかお母さんはよくわかってますよね。ずっと
お 知 ら せ と か も し て き て る か ら 。「 自 分 の 子 ど も の 演 技 に 涙 し ま し た 」
とか言われたけど、全ての人にそれがわからないので。
Ve 氏 : 日 常 化 さ れ て な い ん で す よ ね 、や っ ぱ り 。毎 日 の 、研 究 授 業 の 。研 究
したことが日常の授業に生かされてないので。
上 述 の よ う に 、ミ ド ル 教 員 は「 ミ ド ル 」ゆ え 、‘本 音 の 認 知 ’に よ っ て 学 校 に 生
じた課題を認識する。しかし、この課題を解決する行動をとるためには、自身
の「 ミ ド ル 」と い う ‘あ い ま い な 立 場 の 自 覚 ’が 障 壁 と な る 。こ の 点 に 関 し て 研 究
主 任 Nm 氏 は 「 校 内 研 究 を 進 め る う え で の 自 身 の 立 場 」 の 曖 昧 さ に つ い て 、 ま
た 教 務 主 任 Ol 氏 は 「 新 た な 取 り 組 み と し て 進 め る オ ー プ ン ス ク ー ル 」 に お け
る自身の立場について以下のように発言している。
Nm 氏 :「 ミ ド ル 」 は 基 本 的 に 命 令 で き な い ん で す よ 。
Ol 氏 : 後 々 、人 間 関 係 が 大 き く 崩 れ ち ゃ う と 、な か な か 上 手 く い か な い 部 分
ってたくさんあるからですね。
こ の よ う に 、ミ ド ル 教 員 は「 ミ ド ル 」と い う 立 ち 位 置 に 置 か れ る が ゆ え 、‘本
音 の 認 知 ’や ‘あ い ま い な 立 場 の 自 覚 ’と い っ た [ 現 実 と の 対 峙 ] を 経 験 す る 。
そしてミドル教員によるアイディア実現プロセスは、上記[現実の対峙]を
乗り越えることによって動き出すのであるが、その原動力となるのが、ミドル
教員自身が抱く[成長の探求]である。これは前述した、特別支援学級の子ど
も の 成 長 を 願 う Sh 氏 や 、同 じ く 前 述 し た 研 究 内 容 の 日 常 化 を 志 す Ve 氏 、ミ ド
ル 教 員 を 中 軸 と し た 各 学 年 運 営 ・ 学 校 経 営 を 目 指 す 教 務 主 任 Pk 氏 の 発 言 か ら
も読み取れる。
Sh 氏 : 何 か や っ ぱ り 、N ( 特 別 支 援 学 級 名 )の 子 っ て 、 す ご い 頑 張 っ て る ん
78
だなっていうのを、伝えたいなっていう気持ちはずっとあったんです
ね。
Ve 氏 :「 ボ ト ム 」 を な ん と か し な い と い け な い じ ゃ な く て 、 自 分 と し て の 力
量 を 上 げ な い 限 り 、 絶 対 巻 き 込 め ん な っ て 。( 中 略 ) こ う い う 意 識 は
絶対必要かなって思いましたね。
Pk 氏:勉 強 す る 風 土 と か 雰 囲 気 を 、組 織 の 中 に 作 っ て い き た い な っ て い う の
(思い)があったから。
こ の 子 ど も や 教 師 、学 校 組 織 、そ し て 自 分 自 身 の[ 成 長 の 探 求 ]と 、
[現実と
の対峙]の往還を契機とし、ミドル教員による学校組織における課題解決策と
してのアイディアは発案され、ミドル・アップダウン・マネジメントを通じた
巻き込みプロセスが動き始める。
第3項
ア イ デ ィ ア の 発 信 ([ 改 善 策 の 可 視 化 ])
[周 囲 の「 思い」の 察知]
‘ ’:概念
<> : サ ブ カ テ ゴ リ ー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響
の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可 視 化 ]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
‘改善策の練り上げ’
<実現可能性の提示>
< 後 ろ 盾 獲得 >
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘ ト ッ プ ビ ジへ
ョン
の依拠
’
‘ 子 ど も姿
のの明示’
[現 実 と の 対 峙 ]
‘本音の認知’
‘あ い ま い 立
な場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -3 [ 改 善 策 の 可 視 化 ]
[現実との対峙]と[成長の探求]の往還を機に発案されたミドル教員のア
イディアは、その実現を図るための計画提示を迫られる。そこでミドル教員が
とる行動が[改善策の可視化]である。
まずミドル教員は、
「 ミ ド ル 」に 至 る ま で の 自 身 の 経 験 を 活 か し 、ま た 周 囲 の
教 師 と の や り と り を 通 し て ‘改 善 策 の 練 り 上 げ ’を 行 う 。例 え ば 研 究 主 任 Lo 氏 は 、
79
研究指定を受け新たに始まった特別支援教育研究の推進において、研究主任
Nm 氏 は 校 内 研 究 に お け る テ ー マ 決 定 の 過 程 に お い て 徹 底 的 な 話 し 合 い を 行 う
こ と で 、 ‘改 善 策 の 練 り 上 げ ’を 行 っ た 。
Lo 氏:じ ゃ あ 、そ う い う( 組 織 )の( 課 題 )を 見 た と き に 、
「困った困った」
だけじゃなく、ちょっと違う手立てもみていったら、少し (展望が)
開 け る ん じ ゃ な い か な っ て 。「 ま ず は や っ て み ま し ょ う よ 」 っ て 。 大
き な 手 立 て と か じ ゃ な く て 、「 こ ん な こ と や っ て ま す 」 っ て 。
Nm 氏 : た だ 、 そ の 代 わ り 言 っ た の が 、 一 つ に し た い と 。 み ん な の 気 持 ち を 一 つ
にしたいから、ここはとことん話し合いたいですという話をしたんです
ね。
そ し て そ の 改 善 策 は 、周 囲 の 教 師 に 馴 染 み 深 い 、‘ツ ー ル を 用 い た 発 信 ’に よ っ
て 可 視 化 さ れ 、 周 囲 へ 示 さ れ る 。 例 え ば 、 オ ー プ ン ス ク ー ル に 取 り 組 む Ol 氏
は「 職 員 会 議 」、特 別 支 援 教 育 コ ー デ ィ ネ ー タ ー の Sh 氏 は 障 害 理 解 を 目 的 と し
た 授 業 の「 学 習 指 導 案 」、学 校 評 価 の 充 実 に 取 り 組 む 教 務 主 任 Kp 氏 は 夏 季 休 業
中の「校内研修」を活用した。
Ol 氏:振 り 返 り の 職 員 会 議 を 、一 番 最 後 だ っ た か な 。3 月 ぐ ら い に 、
「来年度
の学校開放日について提案します」っていうことで。内容は親とのコ
ミュニケーションはより充実させる方向で。でも、形的には、負担を
減 ら す た め に 、 日 数 減 ら し ま し た よ っ て 言 っ た ら … ( 後 略 )。
Sh 氏 : 次 か ら は こ う い う 風 に( 特 別 支 援 に 関 す る 6 年 生 へ の )授 業 を し た い
っ て い っ て 、指 導 案 を ま ず 管 理 職 の 先 生 に 見 せ て 、OK を も ら っ て 、こ
ういう風にしたいんだけどって、6 年生とか打ち合わせをして。
Kp 氏:そ れ も 意 識 さ せ な が ら 、自 分 た ち で め あ て を 作 っ て ほ し い と 思 っ た ん
ですよ。で、実践したのが、1 学期が終わったところからスタートし
た ん で す け ど 。1 学 期 終 わ っ た 時 に 、7 月 の 、1 学 期 終 わ っ た 次 の 日 に
1 日かけて研修をやったんです。
このように、
[ 現 実 と の 対 峙 ]と[ 成 長 の 探 求 ]の 往 還 を 始 ま り と し た ミ ド ル
教員のアイディアは、
[ 改 善 策 の 可 視 化 ]を 経 る こ と に よ り 学 校 組 織 へ と 発 信 さ
80
れる。そしてこの発信により、ミドル・アップダウン・マネジメントにおける
「巻き込み」を果たしうるミドル教員は、次項で示す周囲の「思い」を知るこ
ととなる。
第4項
抵 抗 感 の 存 在 ([ 周 囲 の 「 思 い 」 の 察 知 ])
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -4 [ 周 囲 の 「 思 い 」 の 察 知 ]
[改善策の可視化]によって提示されたミドル教員のアイディアに対して、
周 囲 か ら は 肯 定・否 定 等 、様 々 な 反 応 が 示 さ れ る が 、
「 巻 き 込 み 」を 果 た す ミ ド
ル教員は次のステップとしてそれら[周囲の「思い」の察知]に至る。その一
つ が ‘周 囲 の 負 担 感 へ の 気 づ き ’で あ る 。
今までにない新たな実践を行う上では少なからず負担が生じるが「
、新奇なこ
とをして問題を生じさせるよりも、去年と同じほうが安全であると考えられや
す 」く 、
「 例 年 、前 年 踏 襲 や 慣 行 重 視 の 活 動 が 展 開 さ れ て い く 」
( 木 岡 2006:202)
風潮がある学校では、新たな実践に伴う負担への理解が周囲から得られるとは
限 ら な い 。 例 え ば 、 夏 休 み を 用 い て 校 内 研 修 を 企 画 し た Kp 氏 や 、 校 内 研 究 活
性 化 の 方 策 と し て 「 全 教 員 の 授 業 公 開 」 を 企 画 し た Ri 氏 は 、 周 囲 の 教 員 か ら
の否定的な反応について以下のように語っている。
Kp 氏 : こ の 時 は 、 夏 休 み 1 日 研 修 。「 え ー 、 な に す る ん だ よ 」 っ て 、 最 初 は
嫌な雰囲気で。
Ri 氏:乗 り 気 で な か っ た 方 も … 乗 り 気 っ て い う か 、あ ん ま り 前 向 き じ ゃ な く
て 。( 中 略 )「 え ー 、 授 業 研 、 大 変 ね 」 っ て 感 じ だ っ た 方 も い ま し た 。
81
ま た そ も そ も 、ミ ド ル 教 員 と 周 囲 の 価 値 観 の 違 い か ら 、ミ ド ル 教 員 は ‘異 な る
価 値 観 と の 遭 遇 ’に 対 面 す る 可 能 性 も 否 定 で き な い 。 上 記 Ri 氏 は 授 業 研 究 へ の
周囲の主体的な関りを期待するもののその共通理解の困難性に直面し、また算
数 研 究 が 伝 統 的 に 盛 ん な 学 校 で 研 究 主 任 を 務 め る Ve 氏 は 、 算 数 研 究 を 不 得 意
とする周囲の教員の意見と対立した。
Ri 氏 : み ん な は 、「 今 自 分 が し よ う と し て る 学 習 で は ど う す れ ば い い の 」 ま
で待つんですよね。本当は私は、そこは自分で考えるっていうのが研
究だと思うんだけど…。でも現実は、そこまでみんなは研究を自分の
中 心 に 置 い て な い ( 中 略 )。
Ve 氏:
「 私 専 門 じ ゃ な い し 、自 分 は そ ん な に 授 業 に 対 し て 評 価 と か で き な い 」
って思われてる先生も、いるんですよ、絶対に。
このようにミドル教員は、自身が発案したアイディアを実行に移す過程で、
‘周 囲 の 負 担 感 へ の 気 づ き ’や ‘異 な る 価 値 観 と の 遭 遇 ’と い っ た [ 周 囲 の 「 思 い 」
の察知]に至り、その対応が求められる。
第5項
ア イ デ ィ ア の 実 現 ([ 巻 き 込 み ])
[周 囲 の「 思い」の 察知]
‘ ’:概念
<> : サ ブ カ テ ゴ リ ー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響
の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可 視 化 ]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
‘改善策の練り上げ’
<実現可能性の提示>
< 後 ろ 盾 獲得 >
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘ ト ッ プ ビ ジへ
ョン
の依拠
’
‘ 子 ど も姿
のの明示’
[現 実 と の 対 峙 ]
‘本音の認知’
‘あ い ま い 立
な場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -5 [巻 き 込 み ]
アイディアの発信により[周囲の「思い」の察知]に至ったミドル教員は、
その周囲の「思い」へ対応するべく動き始める。ここでミドル教員がとる行動
82
が、ミドル・アップダウン・マネジメントの鍵となる[巻き込み]である。
ミドル教員は既述のように「ミドル」というあいまいな立場にあるが、その
立 場 は 同 時 に 「 ト ッ プ 」、「 ボ ト ム 」 両 者 に 近 接 す る と い う メ リ ッ ト と し て も 捉
えることができる。ミドル教員はアイディア実現へ向け、このメリットを活か
し た 行 動 を と る の で あ る が 、そ の 一 つ は 、ア イ デ ィ ア を 自 ら 実 践 し て 示 す ‘率 先
行 動 ’で あ る 。例 え ば 、運 動 会 に お け る 選 手 選 抜 種 目( 紅 白 対 抗 種 目 )増 加 と い
う ア イ デ ィ ア を 提 案 し た Uf 氏 は そ の 実 現 へ 向 け た 手 続 き を 自 ら 率 先 し て 行 い 、
その実現可能性を示した。
Uf 氏 : ま あ 、本 当 に 、自 分 が 言 っ た 手 前 、あ と 名 簿 作 成 っ て い う の が 大 変 な
んですよね。人数も合わせなくてはいけないし、その全部の調和は私
がしますよって。
また「ボトム」に近接し、第一線での教育実践に関わることが多いという強
み を 活 か し 、提 案 し た ア イ デ ィ ア を よ り 効 果 的 に 実 践 す る ‘ヒ ン ト の 提 供 ’を 行 う
こ と も で き る 。 研 究 主 任 で あ る Ri 氏 は 、 研 究 内 容 に 関 す る フ ィ ー ド バ ッ ク に
よ っ て ‘ヒ ン ト の 提 供 ’を 行 っ た 。
Ri 氏: ち ょ っ と 先 が 見 通 せ た ら 動 く の で 、人 は 。見 通 せ る ま で 一 緒 に 付 き 合
うというか。こっち側が逆に勉強してやっぱり、細かく細かく噛み砕
い て 。 や っ ぱ り 、「 あ 、 そ れ な ら 私 も で き る 」 っ て 思 っ た 時 は 、 も う
そ れ は あ と 、 先 生 が そ れ ぞ れ や ら れ て い く ん で す け ど 。「 わ か ら ん 、
この理論どういうこと」っていうときは動かないですね、人は。
こ れ ら ‘率 先 行 動 ’や ‘ヒ ン ト の 提 供 ’に よ る < 実 現 可 能 性 の 提 示 > に よ り 、 周 囲
の[巻き込み]を図るのである。
またアイディア実現を図るミドル教員は、
「 ミ ド ル 」と い う 立 場 を 活 か す 一 方
で、
「 ミ ド ル 」と い う あ い ま い な 立 場 を 補 う 行 動 も と る 。そ れ が ア イ デ ィ ア へ の
< 後 ろ 盾 獲 得 > で あ る 。例 え ば 研 究 主 任 で あ る Nm 氏 は 、自 身 の ア イ デ ィ ア の
正当性を保証するために、校内研究の指導助言者である指導主事へ事前に接触
し 、 ア イ デ ィ ア へ の 価 値 づ け を 得 る と い う ‘肯 定 的 評 価 の 獲 得 ’を 行 っ た 。
Nm 氏 : そ の 時 、指 導 主 事 は も う 、私 が 始 め か ら 相 談 し て る か ら 、知 っ て る ん
で す よ ね 、 中 身 も ね 。 で 、「 あ 、 こ の 研 究 は こ う い う 価 値 が あ り ま す
よ 」 っ て ( 言 っ て く れ る )。 そ し て 、 ボ ト ム は 、「 あ ぁ 、 そ う な ん だ 」
83
っ て ( 思 う )。 だ か ら 、 私 が し て る 、 私 が 主 張 し て る こ と は 変 な こ と
じゃないんだっていうのは、価値づけられてた。
ま た 、 学 校 評 価 の 充 実 を 目 指 す Kp 氏 の よ う に 、 自 身 の ア イ デ ィ ア が 校 長 の
考 え と 共 通 す る と い う ‘ト ッ プ ビ ジ ョ ン へ の 依 拠 ’に 基 づ く も の だ と 語 り 、権 限 の
不在を補う行動をとることも可能である。
Kp 氏 :「 全 員 力 」 み た い な 言 葉 を こ の 方 ( = 校 長 ) が 使 っ て て 。 全 員 力 。「 全
員でなんでもやっていきたい」っていうのを、言われてたかな。で、
それにちょっと(私のアイディアは)繋がってましたね。
さ ら に 、ア イ デ ィ ア 実 現 へ 向 け た ‘率 先 行 動 ’が 可 能 な ミ ド ル 教 員 に は 、自 ら の
実 践 を 通 じ て 周 囲 へ と ‘子 ど も の 姿 の 明 示 ’を 図 り 、権 限 の 不 在 を 補 う こ と も で き
る。
Uf 氏:色 ん な 子 に い ろ ん な 挑 戦 さ せ た り と か 、自 分 の 個 性 を 伸 ば せ る よ う な 。
っていうのは僕が行った学校は、結構それができている。
上 記 の よ う な 、‘肯 定 的 評 価 の 獲 得 ’や ‘ト ッ プ ビ ジ ョ ン へ の 依 拠 ’、‘子 ど も の 姿
の 明 示 ’を 通 じ て ア イ デ ィ ア へ の < 後 ろ 盾 獲 得 > を 行 う の で あ る 。
ミドル教員はこれら<実現可能性の提示>や<後ろ盾獲得>によって、ミド
ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト の 鍵 と な る 周 囲 の[ 巻 き 込 み ]を 成 し 遂 げ る 。
第6項
二 つ の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ([ 基 盤 の 構 築 ])
ミドル教員によるアイディア発案の出発点となる[現実との対峙]や[成長
の 探 求 ]、そ し て そ の 課 題 解 決 策 を 提 示 す る[ 改 善 策 の 可 視 化 ]で は 正 確 な 現 状
把 握 が 求 め ら れ る 。ま た 、ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト の 鍵 と な る[ 巻
き込み]を果たすためには、周囲との良好な関係も求められよう。そしてこれ
らは日常的な[基盤の構築]によって成立する。
[ 基 盤 の 構 築 ] は 、「 ミ ド ル 」 に 至 る ま で の 経 験 と 、「 ミ ド ル 」 と い う 立 場 を
活 か し た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に よ っ て 行 わ れ る 。ま ず 、
「 ミ ド ル 」と い う 経 験 を
活 か し た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 一 つ は ‘間 口 を 広 げ る ’行 動 で あ る 。ミ ド ル 教 員 は 、
「 ミ ド ル 」に 至 る ま で に 多 様 な 経 験 を し て い る 。そ し て そ の 経 験 を 通 じ 、
「ミド
ル 」が 周 囲 か ら 話 し か け づ ら い 対 象 と し て 捉 え ら れ て い る こ と を 自 覚 し て い る 。
84
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -6 [基 盤 の 構 築 ]
Uf 氏 : 僕 も 若 い こ ろ 、や っ ぱ り 聞 け な か っ た で す ね 。で 、先 輩 の 先 生 は 、も
っ と 若 い 子 は 聞 け ば い い の に 、 聞 け ば い い の に と か 言 う け ど 、「 聞 け
ないんだよ!」とか思いながら。何を聞いていいのかわからないし。
いつも忙しそうにしてるっていうのもあったので。
この「ミドル」に至るまでの自身の経験を踏まえミドル教員が取る行動が、
「 気 を 付 け る こ と は 「 笑 顔 」」( Mn 氏 ) と い っ た ‘間 口 を 広 げ る ’行 動 で あ り 、 こ
の行動を通じて周囲との距離を縮める努力を行うのである。
またミドル教員は、
「 ミ ド ル 」に 至 る ま で に 自 身 が 経 験 し て き た「 家 庭 と 仕 事
の 両 立 方 法 」 や 、「 保 護 者 対 応 方 法 」 等 の ‘経 験 を 踏 ま え た サ ポ ー ト ’を 通 し て 周
囲と接点を持つことも可能である。
Tg 氏 : 例 え ば ク ラ ス で 起 こ っ た 事 な ん か 。 で 、「 そ れ は ね 、 管 理 職 に 相 談 し
た ほ う が い い よ 」 っ て 、「 相 談 し よ っ か 」 っ て こ と は あ り ま す ね 。 そ
ういうことはやっぱり見極めて、相談するように。教頭にあげとった
ほうが、報告しとったほうがいいよっていうことはあります。
ミ ド ル 教 員 は 、 上 述 し た ‘間 口 を 広 げ る ’行 動 と ‘経 験 を 踏 ま え た サ ポ ー ト ’と い
っ た「 ミ ド ル 」に 至 る ま で の < 経 験 を 活 か し た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン > を 積 極 的 ・
日常的に行うことで周囲との関係構築を図るのである。
またミドル教員は「ミドル」という<立場を活かしたコミュニケーション>
85
も 行 う 。そ の 一 つ は 、
「 ボ ト ム 」に 近 接 し た 立 場 を 生 か し た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン
である。
「 ミ ド ル 」に 位 置 す る ゆ え 、子 ど も と の 接 触 機 会 が 比 較 的 多 い ミ ド ル 教
員 は 、 自 身 が 所 持 す る ‘子 ど も 情 報 で の 会 話 ’を 周 囲 と 行 う こ と が 可 能 で あ る 。
Mn 氏:昨 年 同 学 年 だ っ た 先 生 が 持 ち 上 が っ て い る の で 話 し や す く も あ る 。自
分の持っている子どもの情報を伝えることで、保護者に聞くことなし
に子どもの情報を得ることができている。
Tg 氏 : た ま た ま 、今 初 任 の 先 生 が 6 年 生 を 担 当 し て る ん で す け ど 。私 そ の 学
年を 3 年の時にもったことがあるから。
「 先 生 の 時 ど う で し た 、3 年 の
と き 」「 あ の 子 の と こ ろ は ね … 」 っ て そ ん な 立 ち 話 を す る ぐ ら い で 。
ま た ミ ド ル 教 員 は 、「 ト ッ プ 」 に 近 接 す る と い う ‘立 場 を 使 う ’こ と に よ る 意 図
的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン も 図 る 。 例 え ば Pk 氏 は 、 教 務 主 任 と い う 自 身 の 立 場
を積極的に活用し、ミドル教員が集まり、情報共有を行う時間を意図的に設定
したという。
Pk 氏:改 め て ミ ド ル だ け が 集 ま っ て 話 す る っ て い う 。し ょ っ ち ゅ う 定 期 的 に
やるっていう形ではないけれども。機会があれば、そういう働きかけ
を、意図的に、意識的にはやるようにしてましたね。
この<経験を生かしたコミュニケーション>と<立場を生かしたコミュニケ
ーション>に基づき、ミドル教員と周囲との[基盤の構築]がなされる。そし
て、ここで構築された周囲との安定した関係はミドル・アップダウン・マネジ
メントの鍵となる周囲の[巻き込み]を可能にするとともに、その安定した関
係の中から学校組織の現状を反映した情報収集が行われ、ミドル・アップダウ
ン・マネジメントの契機となる[現実との対峙]が生じるのである。
第7項
ア イ デ ィ ア 実 現 へ の 原 動 力 ・手 段 ・目 的 ([ 成 長 の 探 求 ])
こ こ ま で 示 し た よ う に 、ミ ド ル 教 員 は「 ミ ド ル 」と い う 経 験 や 立 場 を 活 か し 、
日常的な[基盤の構築]を行う一方で、その構築された周囲との関係を糧とし
た[ 改 善 策 の 可 視 化 ]と そ れ に 伴 う[ 周 囲 の「 思 い 」の 察 知 ]、そ し て 周 囲 の[ 巻
き込み]を図り、ミドル・アップダウン・マネジメントを成し遂げる。
86
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -7 [成 長 の 探 求 ]
しかし、上述したアイディア実現の過程でアイディアへの反対や価値観の相
違が生じることからもわかるように、ミドル・アップダウン・マネジメントは
容易に進行するものではなく、その実施には相当なエネルギーを必要とする。
ミドル教員にとってそのエネルギー源となるのが、本節第 2 項で述べた、子ど
もや教師・組織、そして自分自身の[成長の探求]である。すなわち[成長の
探 求 ]は ア イ デ ィ ア 実 現 の ス タ ー ト と な る だ け で な く 、日 常 的 な[ 基 盤 の 構 築 ]
や 、[ 周 囲 の 「 思 い 」 の 察 知 ] に 対 す る 原 動 力 と も な る の で あ る 。
また、アイディア実現へ向け、ミドル教員は周囲の[巻き込み]を図るが、
目的のない[巻き込み]は単に負担を強いる行動として受け取られかねず、反
感 を 買 う 恐 れ も あ る 。 そ の た め 、[ 巻 き 込 み ] に は そ の 正 当 性 が 必 要 に な る が 、
ここでも[成長の探求]が有効に作用する。
Lo 氏 : 最 終 的 に 子 ど も 達 に 還 元 で き る 、「 こ れ な ら や れ る よ 」 っ て 思 っ て 頂
けるような形での提案だったりとかはしていったつもりです。
Ve 氏:子 ど も を 育 て る っ て い う 部 分 で は 、目 標 は 共 有 で き る な っ て 思 っ て る
ので。
成果が見えづらい教育現場において、
「 子 ど も の 成 長 」と い う 言 葉 は 教 師 を 動
かす重要な意味を持つ。それゆえミドル教員は、自らの[巻き込み]行動を意
味 づ け 正 当 化 す る た め に 、[ 成 長 の 探 求 ] を 目 的 と し て 掲 げ る の で あ る 。
87
上 述 の よ う に 、ミ ド ル リ ー ダ ー は[ 成 長 の 探 求 ]を 自 身 の 行 動 の 原 動 力 と し 、
また時に周囲を動かす手段として用いながら、アイディア実現を図る。
第3節
考察
前 節 で は M-GTA を 用 い 、
「 ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト に お け る「 巻
き込み」プロセス」の分析結果を詳述した。本節では、第 2 章及び第 3 章で取
り上げた二つの事例、
「 運 動 会 の 運 営 」と「 校 内 授 業 研 究 の 継 続 」を 用 い 、本 章
で生成した分析結果であるグラウンデッドセオリーの妥当性を検討する。
第1項
分析結果を用いた各事例の描写
(1)運動会の運営
第 2 章 で 示 し た A 小 学 校 に お け る 運 動 会 の 運 営 に 関 す る 事 例 は 、校 舎 増 築 に
よって生じた「競技観覧スペース不足」と「休憩スペース不足」という課題に
対 し 、 教 務 主 任 で あ る Az 教 諭 が 課 題 解 決 策 を 提 示 し た 事 例 で あ っ た 。
Az 教 諭 は 前 任 校 で の 経 験 よ り「 保 護 者・地 域 と の 連 携 」の 追 求 が 教 育 活 動 に
は 重 要 で あ る と 認 識 し て い た([ 成 長 の 探 求 ])。こ の 認 識 の も と Az 教 諭 は 毎 年
運動会後、保護者に対するアンケートを実施している。そしてここで得た情報
か ら 、 上 記 運 動 会 に お け る 課 題 を 認 知 す る こ と に な る ( ‘本 音 の 認 知 ’)。 こ の 課
題 を 解 決 す る べ く 、 Az 教 諭 は 熟 考 の 末 、 二 つ の ア イ デ ィ ア を 発 案 す る 。
①「一時観覧席設置」
Az 教 諭 に よ る ア イ デ ィ ア の 一 つ は 、「 競 技 観 覧 ス ペ ー ス 不 足 」 に 対 す る 解 決
策 と し て の 「 一 時 観 覧 席 設 置 」 で あ っ た 。 Az 教 諭 は ま ず 、「 一 時 観 覧 席 設 置 」
案 に 関 す る 計 画 を 企 画 委 員 会 で 提 案 す る ( ‘改 善 策 の 練 り 上 げ ’ ‘ツ ー ル を 用 い た
発 信 ’)。 こ の 提 案 に 対 し 、 周 囲 か ら 反 対 は 受 け な い も の の 、 実 現 可 能 性 に 対 し
て 疑 問 を 呈 さ れ る ( ‘異 な る 価 値 観 と の 遭 遇 ’)。
当 該 状 況 を 打 開 し た の は By 教 諭 と 副 校 長 の 存 在 で あ っ た 。 中 学 校 籍 か つ 小
学 校 で 初 め て の 学 年 主 任 を 担 う By 教 諭 に 対 し 、Az 教 諭 は 日 常 的 な 支 援 を 行 っ
て い た ( ‘経 験 を 踏 ま え た サ ポ ー ト ’ ‘子 ど も 情 報 で の 会 話 ’)。 こ の By 教 諭 は Az
教 諭 か ら の 協 力 打 診 を 了 解 し 、「 一 時 観 覧 席 設 置 」 計 画 作 成 を 推 進 す る ( ‘肯 定
的 評 価 の 獲 得 ’)。 ま た Az 教 諭 は 、 今 年 度 A 小 学 校 へ 異 動 し て き た ば か り で あ
る 副 校 長 に 対 し て も 、学 校 経 営 に 関 す る サ ポ ー ト を 日 常 的 に 行 っ て い る( ‘経 験
を 踏 ま え た サ ポ ー ト ’ ‘立 場 を 使 う ’)。こ の 副 校 長 は 、最 終 的 に 生 じ た「 児 童 席 と
保 護 者 席 の 境 界 に 関 す る 課 題 」に 対 し 、
「 杭 と ロ ー プ 購 入 の 提 案 」と い う 後 押 し
88
を 行 っ た ( ‘肯 定 的 評 価 の 獲 得 ’)。 こ う し た プ ロ セ ス を 経 て 「 一 時 観 覧 席 設 置 」
は実現する。
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -8 「 一 時 観 覧 席 設 置 」 プ ロ セ ス
②「全校舎開放」
二つ目のアイディアは、
「 休 憩 ス ペ ー ス 不 足 」に 対 す る 解 決 策 と し て の「 全 校
舎 開 放 」 で あ る 。 Az 教 諭 は 「 一 時 観 覧 席 設 置 」 同 様 、「 全 校 舎 開 放 」 に 関 す る
計 画 を 企 画 委 員 会 で 提 案 す る ( ‘改 善 策 の 練 り 上 げ ’ ‘ツ ー ル を 用 い た 発 信 ’)。
こ の 提 案 に 対 し 、 By 教 諭 と 副 校 長 は 危 機 管 理 面 の 危 惧 か ら 反 対 を 示 し 、「 体
育 館 の 開 放 と 昼 食 時 に 限 っ た 北 校 舎 1 階 の 開 放 」を 提 案 す る( ‘異 な る 価 値 観 と
の 遭 遇 ’)。こ れ に 対 し Az 教 諭 は 、計 画 修 正 等 の 行 動 を と る が( ‘率 先 行 動 ’ ‘ヒ ン
ト の 提 供 ’)、 副 校 長 の 了 承 を 得 る こ と が で き な か っ た 。
こ の 課 題 を 解 決 し た の は 教 頭 の 存 在 で あ っ た 。 教 頭 は By 教 諭 と 同 じ く 中 学
校 籍 の 教 員 で あ り 、副 校 長 と と も に 今 年 度 A 小 学 校 に 異 動 し て き た ば か り で あ
っ た た め 、 Az 教 諭 は 教 頭 に 対 し 、 日 常 的 な サ ポ ー ト を 行 っ て い る ( ‘経 験 を 踏
ま え た サ ポ ー ト ’ ‘立 場 を 使 う ’)。教 頭 は 、Az 教 諭 の 意 図 を く み 取 り 、
「全校舎開
放 」 に 代 わ る 新 た な 案 を 提 示 し 、 副 校 長 の 説 得 を 行 う ( ‘肯 定 的 評 価 の 獲 得 ’)。
こうしたプロセスを経て、
「 全 校 舎 開 放 」は「 体 育 館 の 開 放 と 昼 食 時 に 限 っ た 北
校舎全階の開放」として実現した。
89
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
[巻き込み]
‘ツールを用いた発信’
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -9 「 全 校 舎 開 放 」 プ ロ セ ス
(2)校内授業研究の継続
第 3 章 で 示 し た 事 例 は 、校 内 授 業 研 究 の 停 滞 と い う 課 題 を 抱 え る E 小 学 校 に
おいて、その後 6 年間 に渡り継続することになった「交流タイム」実践 導入に
関する事例である。
①「交流タイム」の発案と実施
校内授業研究の停滞と算数学力の低下という課題を抱えていた E 小校長の
Jq 校 長 は 、Dw 教 諭 へ 200X 年 度 の 算 数 提 案 授 業 を 一 任 す る 。
「子どもの授業理
解 」 を 重 視 し 実 践 に 取 り 組 ん で き た Dw 教 諭 は ([ 成 長 の 探 求 ])、「 自 己 肯 定 感
の育成」という研究テーマに照らして従来の算数授業や自身の授業実践を捉え
た 時 、「 子 ど も た ち 全 員 が 答 え を も つ 」 と い う 授 業 ス タ イ ル へ 疑 問 を 抱 く ( ‘本
音 の 認 知 ’)。 こ の 「 わ か ら な い と い う こ と も 、 子 ど も の 答 え で な い か 」 と い う
思いを契機として生み出されたのが「交流タイム」であった。この交流タイム
は 、新 学 期 の 約 1 ヶ 月 後 に 実 施 さ れ た 提 案 授 業 を 通 じ て 周 囲 へ と 示 さ れ る こ と
と な る ( ‘改 善 策 の 練 り 上 げ ’ ‘ツ ー ル を 用 い た 発 信 ’)。
E 小学校教職員の間には、全国大会における発表での疲弊や家庭科研究の行
き 詰 ま り が あ っ た ( ‘周 囲 の 負 担 感 へ の 気 づ き ’)。 し か し 、 短 期 間 で 質 の 高 い 学
級 経 営 を 行 っ た Dw 教 諭 の 実 践 力 と 、 提 案 授 業 で 示 さ れ た 生 き 生 き と 学 ぶ 子 ど
も の 姿 は E 小 学 校 教 職 員 の 心 を と ら え た ( ‘率 先 行 動 ’ ‘子 ど も の 姿 の 明 示 ’ ‘肯 定
的 評 価 の 獲 得 ’)。 こ う し て 「 交 流 タ イ ム 」 は 、 そ の 後 の E 小 学 校 に お け る 校 内
授業研究の中核として位置づくことになる。
90
E 小 学 校 の 校 内 授 業 研 究 に 位 置 づ い た 後 も 、Dw 教 諭 は 研 究 主 任 Fu 教 諭 と の
実 践 を 通 じ た 共 通 理 解 を 図 る ( ‘率 先 行 動 ’ ‘ヒ ン ト の 提 供 ’)。 ま た 、 同 学 年 の Gt
教 諭 、Ev 教 諭 と の 度 重 な る 授 業 公 開 を 通 じ( ‘経 験 を 踏 ま え た サ ポ ー ト ’ ‘子 ど も
情 報 で の 会 話 ’)、「 交 流 タ イ ム 」 理 念 の 共 通 理 解 を 図 っ た 。
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -10
「交流タイム」プロセス
②「交流タイム」の修正
「 交 流 タ イ ム 」 研 究 の 2 年 目 に は 、 Ev 教 諭 に よ る 新 た な 発 案 が な さ れ る 。
こ れ は Ev 教 諭 に よ る 、子 ど も の 思 考 を「 わ か る 」「 わ か ら な い 」の 二 つ に 区 分
す る こ と の 限 界 へ の 気 づ き に よ る も の で あ っ た ( ‘本 音 の 認 知 ’)。 そ し て 「 わ か
る け れ ど 説 明 で き な い 」子 ど も の 考 え を 認 め る 改 善 策 を 発 案 す る 。し か し 、Ev
教 諭 は E 小 学 校 で 最 も 若 手 で あ る こ と も あ り 、自 身 の 実 践 を 発 信 す る こ と は 難
し い 。そ の た め 、ま ず は 自 身 の ク ラ ス で の 実 践 を 通 じ て 課 題 解 決 を 図 っ た( ‘あ
い ま い な 立 場 の 自 覚 ’)。
こ の 取 り 組 み が Jq 校 長 の 目 に 止 ま り 、 研 究 発 表 等 を 通 じ て 周 囲 へ と 発 信 さ
れ る ( ‘改 善 策 の 練 り 上 げ ’ ‘ツ ー ル を 用 い た 発 信 ’)。 そ の 後 、 Ev 教 諭 の 発 案 は 、
同 学 年 を 組 む こ と に な っ た 研 究 主 任 Fu 教 諭 、Gt 教 諭 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン
を も と に 共 通 理 解 が 図 ら れ ( ‘子 ど も 情 報 で の 会 話 ’)、 そ れ が 周 囲 へ と 発 信 さ れ
る こ と に よ り 、 E 小 学 校 全 体 で の 共 通 理 解 が 図 ら れ る 。 ま た 、 Fu 教 諭 、 Gt 教
諭 と の 積 極 的 な 実 践 を 通 じ 、 Ev 教 諭 の 提 案 は E 小 学 校 の 授 業 研 究 に 取 り 込 ま
れ て い っ た ( ‘率 先 行 動 ’ ‘ヒ ン ト の 提 供 ’)。
91
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
[巻き込み]
‘ツールを用いた発信’
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 5 -11
「交流タイム」修正プロセス
上 述 の よ う に 本 章 の 分 析 結 果 は 、「 運 動 会 の 運 営 」 と 「 校 内 授 業 研 究 の 継 続 」
プ ロ セ ス を 説 明 可 能 な も の と い え 、本 研 究 が 目 的 と す る 学 校 経 営 過 程 を 分 析 し 、
そ の 説 明 と 予 測 を 行 う 方 法 論 と し て の M-GTA の 可 能 性 が 示 さ れ た 。
第2項
分析結果の含意
本論で生成した分析結果と、この結果を用いたミドル・アップダウン・マネ
ジメントプロセスの把握からは、学校経営過程を捉え得る方法論の可能性だけ
でなく、ミドル研究に対する知見としての「ミドル」再定義の必要性も提示可
能である。
本論第 2 章では、
「 運 動 会 の 運 営 」に お け る Az 教 諭 を ミ ド ル 教 員 と し て 捉 え
分 析 を 行 っ た 。 し か し M-GTA 分 析 結 果 で あ る 「 ミ ド ル ・ ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ
ジ メ ン ト に お け る 「 巻 き 込 み 」 プ ロ セ ス 」 の 視 点 か ら 当 該 事 例 を 捉 え る と 、 Az
教 諭 が 巻 き 込 み を 図 っ た By 教 諭 、副 校 長 、教 頭 の 三 者 の 役 割 は 、
「一時観覧席
設置」と「全校舎開放」で異なることがわかる。
Az 教 諭 の 視 点 か ら 見 た By 教 諭 は 「 巻 き 込 み 」 の 対 象 で あ る 。 し か し By 教
諭 の 視 点 か ら 当 該 事 例 を 捉 え る な ら ば 、By 教 諭 は Az 教 諭 か ら の 協 力 打 診 を 承
認した「一時観覧席設置」では、体育部や管理職の「巻き込み」を自ら図ると
い う「 ミ ド ル 」の 役 割 を 担 う 一 方 で 、
「 全 校 舎 開 放 」に 対 し て は 危 機 管 理 面 へ の
危 惧 か ら ア イ デ ィ ア 自 体 へ の 承 認 を 行 っ て い な い 。 ま た 、 教 員 数 が 40 人 を 超
え る A 小 学 校 に お い て 、学 校 経 営 に 与 え る 管 理 職 の 影 響 は 大 き く 、最 終 的 な 意
思 形 成 に お い て は 副 校 長・教 頭 の 承 認 を 得 る 必 要 が あ る 。Az 教 諭 の ア イ デ ィ ア
92
に関して副校長は、
「 一 時 観 覧 席 設 置 」に お い て は「 杭 と ロ ー プ 購 入 」と い う 後
押 し を 行 う 一 方 で 、「 全 校 舎 開 放 」 で は By 教 諭 同 様 、 Az 教 諭 の ア イ デ ィ ア を
承 認 し て い な い 。こ れ に 対 し 教 頭 は 、Az 教 諭 の「 全 校 舎 開 放 」ア イ デ ィ ア に 対
し て 承 認 の 姿 勢 を み せ 、 Az 教 諭 ・ 副 校 長 ・ By 教 諭 の 間 で 生 じ た 葛 藤 を 解 消 す
る代替案の提示という「ミドル」の役割を担った。そしてその後、教頭による
代替案は副校長からの承認を得ている。
上記分析からは、学校組織における「ミドル」が課題に応じて流動的に変化
しており、その「ミドル」の存在は周囲の承認によって生み出されることが読
み取れる。
これは本論第 3 章の事例「校内授業研究の継続」でも同様である。当該事例
に お い て Dw 教 諭 は 、 学 年 主 任 と い う 立 場 か ら 「 交 流 タ イ ム 」 を 提 案 し 、 研 究
主 任 Fu 教 諭 や そ の 他 教 員 の 承 認 を 受 け た 後 、 全 教 員 の 「 巻 き 込 み 」 に よ っ て
ア イ デ ィ ア の 実 現 を 達 成 す る 。ま た こ こ で は 、Dw 教 諭 だ け で な く Fu 教 諭 も「 巻
き 込 み 」 主 体 と し て の 「 ミ ド ル 」 の 役 割 を 果 た し て い る 。 そ し て Dw 教 諭 異 動
後 に は 、E 小 学 校 で 最 も 若 手 で あ り 、従 来 の 学 校 経 営 研 究 の 認 識 で は「 ボ ト ム 」
に 位 置 づ く と 考 え ら れ る Ev 教 諭 が 「 交 流 タ イ ム 」 の 課 題 を 見 出 し 、 そ の 改 善
策 を 提 示 す る と い う「 ミ ド ル 」の 役 割 を 果 た し た 。そ の 改 善 策 は 校 長 、Fu 教 諭
の 承 認 を 受 け 、 同 学 年 教 員 ( Fu 教 諭 ・ Gt 教 諭 ) を 巻 き 込 む 形 で E 小 学 校 全 体
へと認識されていく。
このように、ミドル・アップダウン・マネジメントを通じたアイディア実現
過 程 を M-GTA 分 析 結 果 の 枠 組 み で 捉 え る と 、
「 ト ッ プ 」「 ミ ド ル 」「 ボ ト ム 」の
立場は流動的であり、課題に応じて「巻き込み」の主体である「ミドル」が変
化していること、その「ミドル」は周囲からの承認を経て生み出される存在で
あ る こ と が わ か る 。そ し て こ の 理 由 は 学 校 組 織 の 固 有 性 に 見 出 す こ と が で き る 。
一般経営学が分析対象とする一般企業は、利益や効率といった成果指標が明
らかであるため、組織目的が描きやすい。しかし学校組織は、教育対象の不確
定 さ や 成 果 の 不 明 確 さ ゆ え 組 織 目 的 も 曖 昧 に な り が ち で あ る ( 曽 余 田 2010)。
ま た 加 え て 、 組 織 規 模 が 大 き く な ら ざ る を え な い 一 般 企 業 で は 、「 ト ッ プ 」「 ミ
ドル」
「 ボ ト ム 」の 線 引 き が 比 較 的 容 易 で あ る が 、組 織 規 模 が 小 さ い 学 校 組 織 は 、
教師に一定の裁量を与えることで組織に内在する上述の課題に対応しており、
「 ト ッ プ 」「 ミ ド ル 」「 ボ ト ム 」 の 線 引 き は 困 難 に な る 。 そ れ ゆ え 、 学 校 組 織 に
おいてなされるミドル・アップダウン・マネジメントでは、組織が直面する課
題に応じ、また組織構成員からの承認を経ることで「ミドル」が流動的に変化
するのである。
上記考察は、現在想定されているミドル教員の再定義必要性を示唆するもの
93
である。既述のように、従来のミドル研究はその対象を、主任や「新しい職」
といった「職位を担う人物」として捉えてきた。しかし本分析結果が示す学校
組織における「ミドル」の流動性と、その規定要因としての組織構成員からの
承認の存在を考慮するならば、
「 ミ ド ル 」を 単 に 職 位 や 年 齢 に 置 き 換 え る こ と は
困難である。すなわち、学校組織におけるミドル教員は職位や年齢に規定され
るのではなく、学校組織がおかれる状況、直面する課題に応じて変化する存在
であるといえる。
【第5章注】
( 1 ) イ ン タ ビ ュ ー 調 査 で 得 た デ ー タ の う ち 、分 析 テ ー マ に 当 て は ま ら な い も
のに関しては分析から除外している。
( 2 ) Mn 氏 か ら は 録 音 許 可 が 得 ら れ な か っ た た め 、そ の 場 で 筆 記 記 録 を 作 成
し、分析に使用している。
( 3 ) 本 論 末 に 資 料 と し て 、概 念 生 成 時 に 作 成 し た 各 概 念 の 分 析 ワ ー ク シ ー ト
を掲載している。
( 4 ) M-GTA で は 分 析 結 果 の 概 要 を 「 ス ト ー リ ー ラ イ ン 」 と 呼 ぶ 。 ス ト ー リ
ー ラ イ ン は 簡 潔 に ま と め る こ と が 望 ま し い と さ れ て い る( 木 下 2003)。
( 5 ) [ 成 長 の 探 求 ]カ テ ゴ リ ー は 当 初 、分 析 の 最 小 単 位 で あ る 概 念 と し て 生
成したが、他概念やカテゴリーとの継続的比較分析を行った結果、単一
のカテゴリーとすることが妥当であると判断した。
94
終
章
本論の成果と課題
学校経営過程分析の方法論検討を目的とする本論では、その視座としてミド
ル ・ ア ッ プ ダ ウ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト を 設 定 し た う え で 、 M-GTA の 適 用 可 能 性 を 探
索した。終章では、各章の概要を改めて示したうえで、本論の成果と課題につ
いて述べる。
第1節
各章の要約
序章では本研究の目的である「学校経営過程分析の方法論検討」を掲げる理
由として、現在の学校経営過程研究の課題を提示した。自律的学校経営を志向
した学校経営改革が進展する現在、各学校は自律に至る道筋を模索している。
し か し 、学 校 経 営 研 究 、と り わ け 上 記 領 域 を 射 程 に 入 れ る 学 校 経 営 過 程 研 究 は 、
予め設定した枠組を用いて対象事例を分析し、当該現象の理解や要因の検討を
行うに留まり、様々なアクターの相互作用でなされる学校経営過程を把握し、
その説明と予測を可能とする研究知を生成するには至っていない。その理由と
しては、学校経営過程を把握可能な方法論の不在にあるといえ、自律的学校経
営を志向した改革が進む現在、その検討は喫緊の課題である。そこで上記課題
を解決する研究方法論の検討を本論の目的とし、その分析視座としては、ミド
ル教員によって主体的に行われるアイディア実現プロセスであるミドル・アッ
プダウン・マネジメントを設定した。
第 1 章 で は 、上 記 ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ ネ ジ メ ン ト 概 念 の 整 理 を 行 っ た 。
近年進行する自律的学校経営志向の学校経営改革や団塊世代の大量退職を背景
と し 、主 任 や「 新 し い 職 」、中 堅 教 員 と い っ た 学 校 組 織 に お け る ミ ド ル 教 員 へ の
期 待 が 高 ま っ て い る 。そ し て そ の 役 割 期 待 と し て 多 く の 先 行 研 究 が 挙 げ る の が 、
学校組織内外で生じる課題や葛藤を調整し解決するという、一般経営学におい
て提唱されたミドル・アップダウン・マネジメントである。この学校組織にお
けるミドル・アップダウン・マネジメントは、一般企業に比べはるかに組織規
模が小さく、かつ、企業のミドル(中間管理職)に比べ権限の所在が不明確な
学校組織のミドル教員によってなされるものであり、そのプロセスでは必然的
に 濃 密 な 相 互 作 用 が 求 め ら れ る と 考 え ら れ る 。よ っ て 、ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン ・
マネジメントは、本論が考察対象とする学校経営過程分析に最適の事例といえ
る。しかし上記の通り、ミドル・アップダウン・マネジメントは一般経営学で
提示されたマネジメントスタイルであるため学校経営への適用には検討が必要
95
であるが、先行研究ではその点が看過されており、いわば理論先行の状況にあ
る。それゆえ、まずは学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメント
の実際を捉える必要がある。
そ こ で 第 2 章 及 び 第 3 章 で は 、学 校 組 織 に お け る ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン・マ
ネジメントの実際を捉える作業を行った。第 2 章では、校舎増築により生じた
「競技観覧スペース不足」と「休憩スペース不足」への対応を中心とする「運
動会の運営」を事例に検討を行った。当該事例では、ミドル教員が課題解決策
としてのアイディア「一時観覧席設置」と「全校舎開放」を創造し、その実現
へ向け周囲を巻き込み、組織に生じた課題を解決するプロセスを示した。
第 3 章では、停滞する校内授業研究の活性化策「交流タイム」導入に関する
事例研究を行った。当該事例はアイディア創造者であるミドル教員と、そのア
イディア修正を図った教員によってなされたミドル・アップダウン・マネジメ
ントであり、その様相からは、第 2 章同様、ミドル教員が周囲を巻き込みアイ
ディアを実現するプロセスを示した。
以上、第 2 章及び第 3 章における分析を通じ、ミドル・アップダウン・マネ
ジメント実現要因としての「巻き込み」の存在が明らかになった。しかしこれ
はミドル・アップダウン・マネジメント実現要因の抽出に留まるものであり、
ミドル・アップダウン・マネジメントの鍵となる「巻き込み」がいかにしてな
されるかというプロセスは明らかになっていない。そこで第 4 章では、上述の
ミドル・アップダウン・マネジメントにおける「巻き込み」プロセスのような
学校経営過程を把握可能な方法論として修正版グラウンデッド・セオリー・ア
プ ロ ー チ ( Modified Grounded Theory Approach 、 M-GTA) を 取 り 上 げ 、 そ の
理由および方法論の特徴を述べた
そ し て 第 5 章 で は こ の M-GTA を 用 い 、
「 ミ ド ル・ア ッ プ ダ ウ ン ・マ ネ ジ メ ン
トにおける「巻き込み」プロセス」の分析を行った。その結果、以下のプロセ
ス が 明 ら か に な っ た ( 図 終 -1 )。
周囲の[巻き込み]が重要となるミドル・アップダウン・マネジメントを通
じたアイディア実現行動は、ミドル教員が置かれる「ミドル」という立場ゆえ
生じる[現実との対峙]が契機となり始まる。この[現実との対峙]とミドル
教員の[成長の探求]の往還から学校改善へ向けた取り組みであるアイディア
が発案され、アイディアは[改善策の可視化]によって周囲へと提示される。
ただし、ミドル教員によって発案されたアイディアは必ずしも周囲の賛同を得
ら れ る と は 限 ら ず 、ミ ド ル 教 員 は[ 周 囲 の「 思 い 」の 察 知 ]に 至 る こ と に な る 。
そして、この過程で知りえた周囲の様々な「思い」へ対処するべく、ミドル教
96
員は自身の「ミドル」という立ち位置を活かした[基盤の構築]を用い、アイ
ディア実現へ向けた周囲の[巻き込み]を行う。その際ミドル教員が抱く[成
長の探求]は自身を突き動かす原動力・手段になるとともに、周囲を巻き込む
目的として機能する。
この[巻き込み]によってなされるアイディア実現が、継続的・螺旋上昇的
に行われることにより、学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメン
トが駆動する。
[周囲の「思い」の察知]
‘ ’:概念
< >:サブカテゴリー
[ ]:カテゴリー
:プロセス
:影響の方向
‘周囲の負担感への気づき’
‘異なる価値観との遭遇’
[改善策の可視化]
‘ツールを用いた発信’
[巻き込み]
[成長の探求]
<実現可能性の提示>
<後ろ盾獲得>
‘率先行動’
‘ヒントの提供’
‘肯定的評価の獲得’
‘トップビジョンへの依拠’
‘子どもの姿の明示’
‘改善策の練り上げ’
[現実との対峙]
‘本音の認知’
‘あいまいな立場の自覚’
[基盤の構築]
<経験を活かしたコミュニケーション>
<立場を活かしたコミュニケーション>
‘間口を広げる’
‘経験を踏まえたサポート’
‘子ども情報での会話’
‘立場を使う’
図 終 -1 分 析 結 果 図
ミドル・アップダウン・マネジメントにおける「巻き込み」プロセス
以上が本論各章の概要である。
第2節
本論の成果
本論の成果は、学校経営過程研究に対するものと、学校経営組織研究、とり
わけミドル研究に対するものの 2 側面がある。
まず、学校経営過程研究に対する成果から述べる。それは、本論が研究目的
と し た 「 学 校 経 営 過 程 研 究 に お け る 方 法 論 」 と し て 、 M-GTA の 可 能 性 を 提 示
した点である。従来の学校経営過程研究は予め設定した枠組を用いて対象事例
を分析し、当該現象の理解や要因の検討を行うに留まり、様々なアクターの相
互作用でなされる学校経営過程を把握する方法論を持ち得ていなかった。
そ こ で 本 論 で は 、人 間 の 行 動 や 他 者 と の 社 会 的 相 互 作 用 に よ っ て な さ れ る “う
97
ご き( 変 化・プ ロ セ ス )”を 研 究 対 象 と す る M-GTA を 用 い て 分 析 を 行 っ た 結 果 、
学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメントという学校経営過程を
説明可能な理論(グラウンデッド・セオリー)を生成した。
学校経営過程研究は、戦後行われた第二の学校経営改革における導入以来、
相当数の研究蓄積がなされているが、教師の自律的な教育活動によってなされ
る複雑なプロセスを捉え、その説明と予測を可能とする研究知を産出した先行
研究は見当たらず、学校経営過程研究はその研究方法論を模索していた。その
点 本 研 究 で 用 い た M-GTA は 、 学 校 経 営 過 程 研 究 に 新 た な 研 究 方 法 の 可 能 性 を
提示するものといえる。
次に、学校経営組織研究、特にミドル研究に対する成果を二点述べる。一つ
目は、学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメントの実際を提示し
た点である。団塊世代の大量退職や自律的学校経営の進行を背景とし、ミドル
教員に対するミドル・アップダウン・マネジメント主体としての役割期待が高
ま っ て い る 。し か し 先 行 研 究 は 、
「 ミ ド ル 教 員 は こ う あ る べ き 」と い っ た 当 為 論
の展開に留まり、ミドル・アップダウン・マネジメントがいかにしてなされる
かという実際が示されてこなかった。これに対し本論は二つの事例研究を通じ
て、ミドル・アップダウン・マネジメント実現要因としての「巻き込み」を提
示 す る と と も に 、 M-GTA を 用 い た 分 析 に よ り 、「 成 長 」 の 理 念 を 根 底 に 据 え た
ミ ド ル 教 員 と 周 囲 の 相 互 作 用 で 果 た さ れ る 、学 校 組 織 特 有 の ミ ド ル ・ア ッ プ ダ ウ
ン ・マ ネ ジ メ ン ト プ ロ セ ス を 提 示 し た 。
ミドル研究に対する成果の二つ目は、学校組織におけるミドル教員の再定義
必要性を示した点である。本論におけるミドル・アップダウン・マネジメント
に 関 す る 事 例 研 究 と M-GTA 分 析 を 通 じ た プ ロ セ ス の 把 握 か ら は 、
「トップ」
「ミ
ドル」
「 ボ ト ム 」の 立 場 は 流 動 的 で あ り 、課 題 に 応 じ て「 巻 き 込 み 」の 主 体 で あ
る「ミドル」が変化していること、その「ミドル」は周囲からの承認を経て生
み出される存在であることが読み取れる。そしてこの理由は学校組織の固有性
に見出すことができる。
一般経営学が分析対象とする一般企業は、利益や効率といった成果指標が明
らかであるため、組織目的が描きやすい。しかし学校組織は、教育対象の不確
定 さ や 成 果 の 不 明 確 さ ゆ え 組 織 目 的 も 曖 昧 に な り が ち で あ る ( 曽 余 田 2010)。
ま た 加 え て 、 組 織 規 模 が 大 き く な ら ざ る を え な い 一 般 企 業 で は 、「 ト ッ プ 」「 ミ
ドル」
「 ボ ト ム 」の 線 引 き が 比 較 的 容 易 で あ る が 、組 織 規 模 が 小 さ い 学 校 組 織 は 、
教師に一定の裁量を与えることで組織に内在する上述の課題に対応しており、
「 ト ッ プ 」「 ミ ド ル 」「 ボ ト ム 」 の 線 引 き は 困 難 に な る 。 そ れ ゆ え 、 学 校 組 織 に
おいてなされるミドル・アップダウン・マネジメントでは、組織が直面する課
98
題に応じ、また組織構成員からの承認を経ることで「ミドル」が流動的に変化
するのである。
上記考察は、従来想定されていたミドル教員の再定義必要性を示唆するもの
である。第 1 章で述べたように、従来のミドル研究はその対象を、主任や「新
しい職」といった「職位を担う人物」として捉えてきた。しかし本分析結果が
示す学校組織における「ミドル」の流動性と、その規定要因としての組織構成
員からの承認の存在を考慮するならば、
「 ミ ド ル 」を 単 に 職 位 や 年 齢 に 置 き 換 え
ることは困難である。すなわち、学校組織におけるミドル教員は職位や年齢に
規定されるのではなく、学校組織がおかれる状況、直面する課題に応じて変化
する存在であるといえる。
以上が本論の成果である。この研究成果は、各学校が今後さらなる自律的経
営を行う上での契機となるとともに、近年の学校組織における喫緊の課題であ
る ミ ド ル リ ー ダ ー 育 成( 小 柳 2013、坂 野 2011)へ の 手 掛 か り に な り 得 る も の
といえる。
第3節
本論の課題
最後に本論の課題を述べる。
本 研 究 で は 、「 学 校 経 営 過 程 分 析 の 方 法 論 」 と し て 、 M-GTA の 可 能 性 を 提 示
した。しかし本論は分析視座として設定したミドル・アップダウン・マネジメ
ントプロセスの提示に留まるものであり、その他学校経営過程を提示するもの
ではない。
自律的学校経営の進展が志向される近年、その方策は多岐にわたっている。
例えば、学校評価の実施や文部科学省が拡大を企図する学校運営協議会(コミ
ュニティ・スクール)導入は、各学校が自律的学校経営を成し遂げるための有
効な手段といえるが、その効果的な実施プロセスは本論の分析視座として設定
したミドル・アップダウン・マネジメント同様明らかにされていない。また、
自律的学校経営について考察するうえでは、
「 ミ ド ル 」へ の 着 目 だ け で な く 、
「ト
ップ」層、すなわち校長等の管理職の視点から学校経営過程を捉える必要もあ
ろ う 。 よ っ て 今 後 は 、 上 記 事 象 ・ 対 象 の 分 析 を M-GTA に よ っ て 行 い 、 そ の 説
明と予測が可能な研究知(グラウンデッドセオリー)を生成する必要がある。
また、学校経営過程に影響を与える学校組織文化の関係考察に関しても課題
が 残 る 。M-GTA は 事 象 の 説 明 と 予 測 を 目 的 と す る た め 、組 織 文 化 と い っ た 個 々
の 学 校 の 固 有 性 は 捨 象 せ ざ る を え な い 。こ の 点 が 本 論 第 2 章 ・ 第 3 章 に お け る
エ ス ノ グ ラ フ ィ や ス ク ー ル ヒ ス ト リ ー 研 究 と の 差 異 で あ る と い え 、 M-GTA を
99
用いた分析を行う上では今後、この課題についても検討していく必要がある。
ただし、本論では為しえなかったが、上記課題解決の可能性をもつ方策も存
在 す る 。 そ れ は M-GTA 分 析 結 果 の 検 証 を 通 じ た 検 討 で あ る 。
M-GTA で 生 成 し た 理 論 は 、 デ ー タ 分 析 時 点 で は 「 分 析 に 用 い た デ ー タ に 関
す る 限 り 」( 木 下 2003: 26) 有 効 な 理 論 で あ り 、 そ の 理 論 は 「 デ ー タ が 収 集 さ
れ た 現 場 と 同 じ よ う な 社 会 的 な 場 に 戻 さ れ て( 中 略 )、応 用 者 が 必 要 な 修 正 を 行
う 」( 同 : 29) こ と で 検 証 さ れ る も の で あ る 。 つ ま り 、 M-GTA で 生 成 さ れ た 理
論は検証作業によって更新され、さらに説明力を増す理論が生成されるのであ
り、この検証作業を経ることで、よりリアルな学校経営過程を捉えうると考え
られる。これはかつて武井が指摘した「地に足の着いた学校経営研究のために
は、すべての学校を同一の射程でとらえるのではなく、たとえ適用範囲は狭く
と も 対 象 の 同 質 性 を 高 め 、分 析 の 過 程 を 緻 密 化 す る 」
( 武 井 1995: 96)こ と と
同 一 の 立 場 で あ る と 考 え ら れ る 。 こ の 作 業 を 通 じ 、 M-GTA 分 析 結 果 を 吟 味 す
ることにより、学校経営過程への学校組織文化の影響を考察することも可能で
あると考えられる。よって今後は、上記視点のもと分析結果の緻密化を図ると
ともに、その際必然的に求められる研究者と実践者をつなぐ分析結果の提示方
法 や 、実 践 ―研 究 の コ ラ ボ レ ー シ ョ ン の 在 り 方 も 含 め 検 討 し て い く 必 要 が あ る 。
100
引用・参考文献
秋元照夫・高桑康雄・勝野尚行・榊達雄・田中俊雄・間瀬良宏・野渕龍雄「学
校経営過程の実践的研究―その方法論的側面から―」
『名古屋大学教育学部紀
要 ( 教 育 科 学 )』 第 12 巻 、 1965 年 、 pp.71-83。
秋元照夫・高桑康雄・勝野尚行・山田敏・長谷川照恭・榊達雄・田中俊雄・野
渕 龍 雄 ・ 菅 本 了 士 「 学 校 経 営 過 程 の 実 践 的 研 究 ( 2) ― 『 管 理 ・ 経 営 過 程 』
と『 教 育 課 程 』の 交 錯 領 域 に お け る 関 連 態 様 の 追 跡 」
『名古屋大学教育学部紀
要 ( 教 育 科 学 )』 第 13 巻 、 1966 年 、 pp.37-84。
浅野良一「一般経営学と教育経営―一般経営学からみた教育経営・学校経営の
課 題 ― 」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 50 号 、 2008 年 、 pp.26-37。
阿部二郎・藤井壽夫・沢田紀之・佐々木善憲・高垣孝二「教員の研修に関する
一 考 察 (第 3 報 )― ミ ド ル リ ー ダ ー が 校 内 研 修 に 果 た す 役 割 ― 」 北 海 道 教 育 大
学 『 教 育 情 報 科 学 』 第 25 号 、 1997 年 、 pp.65-74。
天笠茂「指導組織の改善に関する史的考察―N小学校におけるケーススタディ
ー を 中 心 に ― 」 大 塚 学 校 経 営 研 究 会 『 学 校 経 営 研 究 』 第 20 巻 、 1995 年 、
pp.49-69。
天 城 勲 編 著 『 教 育 行 政 』 第 一 法 規 、 1970 年 。
安藤知子「教育制度改革を教師はどう受け止めるか―「個業」から「協業」へ
向 け て ― 」ベ ネ ッ セ コ ー ポ レ ー シ ョ ン Benesse 教 育 研 究 開 発 セ ン タ ー『 BERD』
第 14 号 、 2008 年 、 pp.8-12。
伊 藤 和 衛 『 学 校 経 営 の 近 代 化 入 門 』 明 治 図 書 出 版 、 1963 年 。
伊 藤 和 衛 『 教 育 経 営 の 基 礎 理 論 』 第 一 法 規 出 版 、 1974 年 。
市 川 昭 午 『 学 校 管 理 運 営 の 組 織 論 』 明 治 図 書 、 1966 年 。
印 南 一 路 『 す ぐ れ た 意 思 決 定 判 断 と 選 択 の 心 理 学 』 中 央 公 論 社 、 2002 年 。
海 口 浩 芳 「 定 例 会 か ら み る 教 育 委 員 会 の 機 能 の 分 析 ―「 ル ー テ ィ ン 」 概 念 を 手
が か り に ―」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 47 号 、 2005 年 、 pp.48-63。
大 浦 猛「 中 堅 教 師 は 何 を 求 め て い る か ― ア ン ケ ー ト か ら 実 態 を み る 『
」教育技術』
第 10 巻 13 号 、 1956 年 、 pp.25-27。
大串正樹「知識創造としてのカリキュラム開発―金沢市小学校英語活動の事例
研 究 ― 」 日 本 カ リ キ ュ ラ ム 学 会 『 カ リ キ ュ ラ ム 研 究 』 第 12 号 、 2003 年 、
pp.43-56。
大 嶋 三 男 「 学 校 の 教 育 計 画 と 教 育 課 程 編 成 」『 教 育 課 程 の 経 営 』( 現 代 学 校 経 営
講 座 第 3 巻 ) 第 一 法 規 出 版 、 1976 年 、 pp.66-113。
大 野 裕 巳「 改 正 学 校 教 育 法 で 変 わ る 学 校 現 場 ― 校 長 主 導 の 学 校 運 営 体 制 へ 」
『季
101
刊 教 育 法 』 第 154 巻 、 2007 年 、 pp.16-21。
大橋淳子・鈴木庸裕「学校における子どもの発達支援に関する実践的研究―教
師相互の指導観をつなぐ機能のあり方を中心として―『
」福島大学教育実践研
究 紀 要 』 第 44 号 、 2003 年 、 pp.65-72。
大脇康弘「ミドルアップダウン型の組織開発―活力ある学校組織を生み出すた
め に 」『 月 刊 高 校 教 育 』 第 36 巻 8 号 、 2003 年 、 pp.20-27。
大 脇 康 弘 「 ス ク ー ル リ ー ダ ー の 絶 対 的 不 足 時 代 」『 悠 + 』 第 24 巻 4 号 、 ぎ ょ う
せ い 、 2007 年 、 pp.76-77。
岡 東 寿 隆 「 主 任 と し て の 力 量 を ど う の ば す か 」『 季 刊 教 育 法 』 第 74 号 、 1988
年 、 pp.28-32。
小 川 正 人 編 著 『 地 方 分 権 改 革 と 学 校 ・ 教 育 委 員 会 』 東 洋 館 出 版 社 、 1998 年 。
小倉啓子「特別養護老人ホーム新入居者の生活適応の研究―「つながり」の形
成 プ ロ セ ス ― 」 日 本 老 年 社 会 科 学 会 『 老 年 社 会 科 学 』 第 24 巻 第 1 号 、 2002
年 、 pp.61-70。
小倉啓子「特別養護老人ホーム入居者のホーム生活に対する不安・不満の拡大
化プロセス―個人生活ルーチンの混乱―」日本質的心理学会『質的心理学研
究 』 第 4 巻 、 2005 年 、 pp.75-92。
小 島 弘 道「 教 育 経 営 概 念 の 検 討 そ の 2」
『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』25、1983 年 、
pp.33-36。
小 島 弘 道「 戦 後 教 育 と 教 育 経 営 」
『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』第 38 号 、1996 年 、
pp.2-20。
小 島 弘 道 「 21 世 紀 の 学 校 で 必 要 と さ れ る 主 任 は 「 調 整 型 」 か ら 「 戦 略 型 」 へ 」
『 総 合 教 育 技 術 』 第 58 巻 13 号 、 2004 年 、 pp.28-30。
小 島 弘 道 編 『 時 代 の 転 換 と 学 校 経 営 改 革 』 学 文 社 、 2007 年 。
小 島 弘 道 「 ス ク ー ル ミ ド ル の 役 割 ― 「 中 間 概 念 」 の 創 造 」『 月 刊 高 校 教 育 』 第
43 巻 3 号 、 2010 年 、 pp.82-85。
小 島 弘 道「 学 校 経 営 と ス ク ー ル ミ ド ル 」小 島 弘 道・熊 谷 槇 之 輔・末 松 裕 基 著『 学
校 づ く り と ス ク ー ル ミ ド ル 』( 講 座 現 代 学 校 教 育 の 高 度 化 第 11 巻 ) 学 文 社 、
2012 年 、 pp.10-82。
織田泰幸「学校経営におけるミドル・アップダウン・マネジメントに関する一
考 察 」中 国 四 国 教 育 学 会『 教 育 学 研 究 紀 要 』第 49 巻 1 号 、2003 年 、pp.313-318。
織 田 泰 幸 「 ア メ リ カ に お け る 教 員 リ ー ダ ー ( teacher leader ) に 関 す る 政 策 と
研究の動向」木岡一明・野村ゆかり・照屋翔大・織田泰幸・加藤崇英「教職
に お け る 「 新 し い 職 」 の 成 立 過 程 に 関 す る 実 証 的 研 究 ( 1) ― 問 題 の 所 在 と
分 析 フ レ ー ム ワ ー ク の 整 序 ― 」日 本 教 育 経 営 学 会 第 53 回 大 会 発 表 資 料 、2013
102
年 、 pp.23-30。
小柳和喜雄「学校の組織的教育力向上に向けた研修方法に関する研究報告―ミ
ドルリーダー研修を中心に―」
『 奈 良 教 育 大 学 教 職 大 学 院 研 究 紀 要「 学 校 教 育
実 践 研 究 」』 第 4 号 、 2012 年 、 pp.49-54。
小柳和喜雄「メンターを活用した若手支援の効果的な組織的取組の要素分析」
奈 良 教 育 大 学 『 教 育 実 践 開 発 研 究 セ ン タ ー 研 究 紀 要 』 第 22 号 、 2013 年 、
pp.157-161.
笠 井 尚「 学 校 経 営 と 教 育 法 」篠 原 清 昭 、笠 井 尚 、生 嶌 亜 樹 子『 現 代 の 教 育 法 制 』
( 講 座 現 代 学 校 教 育 の 高 度 化 第 4 巻 ) 学 文 社 、 2010 年 、 pp.81-97。
加 藤 崇 英「 ミ ド ル リ ー ダ ー の 役 割 と 力 量 形 成 」
『 教 職 研 修 』第 31 巻 2 号 、2002
年 、 pp.38-41。
川 本 一 男「 の ぞ ま し い 教 務 主 任 の あ り 方 」
『 教 育 技 術 』第 6 巻 10 号 、1951 年 、
pp.46-47。
金井壽宏「エスノグラフィーにもとづく比較ケース分析―定性的研究方法への
一 視 角 ― 」 組 織 学 会 『 組 織 科 学 』 第 24 巻 第 1 号 、 1990 年 、 pp.46-59。
金 井 壽 宏『 変 革 型 ミ ド ル の 探 求 ― 戦 略・革 新 指 向 の 管 理 者 行 動 』白 桃 書 房 、1991
年。
金 井 壽 宏 「 リ ー ダ ー と マ ネ ジ ャ ー ― リ ー ダ ー シ ッ プ の 持 論 (素 朴 理 論 )と 規 範 の
探 求 - 」 神 戸 大 学 経 済 経 営 学 会 『 國 民 經 濟 雜 誌 』 第 177 巻 4 号 、 1998 年 、
pp.65-78。
兼 子 仁 「「 主 任 」 制 度 の 教 育 法 的 位 置 づ け 」『 季 刊 教 育 法 』 第 19 号 、 1976 年 、
pp.39-46。
川 田 政 弘「 学 校 経 営 の 中 核 と な る た め に ― 中 堅 教 師 (10〜 20 年 )の 力 量 形 成 」
『季
刊 教 育 法 』 第 77 号 、 1989 年 、 pp.94-99。
木 岡 一 明「 学 校 の 潜 在 力 の 解 発 に 向 け た 組 織 マ ネ ジ メ ン ト の 普 及 と 展 開 」
『日本
教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 48 号 、 2006 年 、 pp.200-204。
木 下 康 仁『 グ ラ ウ ン デ ッ ド・セ オ リ ー・ア プ ロ ー チ 質 的 実 証 研 究 の 再 生 』弘 文
堂 、 1999 年 。
木 下 康 仁『 グ ラ ウ ン デ ッ ド ・セ オ リ ー ・ア プ ロ ー チ の 実 践 質 的 研 究 へ の 誘 い 』弘
文 堂 、 2003 年 。
木 下 康 仁『 質 的 研 究 と 記 述 の 厚 み M-GTA・事 例・エ ス ノ グ ラ フ ィ ー 』弘 文 堂 、
2009 年 。
木 下 康 仁「 質 的 研 究 は 研 究 す る 人 間 を エ ン パ ワ ー で き る か グ ラ ウ ン デ ッ ド・セ
オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ の 多 様 化 を 通 し て 」『 看 護 研 究 』 第 44 巻 第 4 号 、 医 学 書
院 、 2011 年 、 pp.418-437。
103
桑 嶋 健 一「 ケ ー ス 研 究 の プ ロ セ ス 」藤 本 隆 宏・新 宅 純 二 郎・粕 谷 誠・高 橋 伸 夫 ・
阿 部 誠 著 『 リ サ ー チ ・ マ イ ン ド 経 営 学 研 究 法 』 有 斐 閣 ア ル マ 、 2005 年 。
神山知子「研修における教師の多忙間受容を促す要因に関する考察―校内研修
の 「 日 常 性 」 と 「 非 日 常 性 」 を 手 が か り と し て ― 」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』
第 37 号 、 1995 年 、 pp.115-128。
河 野 和 清 編 著『 地 方 分 権 下 に お け る 自 律 的 学 校 経 営 の 構 築 に 関 す る 総 合 的 研 究 』
多 賀 出 版 、 2004 年 。
紺 野 登 『 知 識 デ ザ イ ン 企 業 』 日 本 経 済 新 聞 社 、 2008 年 。
酒井都仁子・岡田加奈子・塚越潤「中学校保健室頻回来室者にとっての保健室
の意味深まりプロセスおよびその影響要因―修正版グラウンデッド・セオリ
ー ・ ア プ ロ ー チ を 用 い た 分 析 ― 」 日 本 学 校 保 健 学 会 『 学 校 保 健 研 究 』 第 47
巻 4 号 、 2005 年 、 pp.321-333。
酒井都仁子・岡田加奈子・塚越潤「中学生の保健室頻回来室にいたる行動変化
のプロセスとその意味」
『 日 本 保 健 医 療 行 動 科 学 会 年 報 』第 21 巻 、2006 年 、
pp.149-166。
榊原禎宏「校長・教頭を支えるミドルリーダーのあり方を見直す」天笠茂編集
代 表 、 北 神 正 行 編 著 『「 つ な が り 」 で 創 る 学 校 経 営 』( 学 校 管 理 職 の 経 営 課 題
― こ れ か ら の リ ー ダ ー シ ッ プ と マ ネ ジ メ ン ト 4 ) 2011 年 、 ぎ ょ う せ い 、
pp.65-81。
坂 野 慎 二「 ミ ド ル リ ー ダ ー を い か に 育 成 す る か 」
『 教 育 展 望 』57( 1)、2011 年 、
pp.35-39。
坂本篤史「授業研究を通した小学校教師の授業を見る視点の変化―授業研究に
携 わ っ た 経 験 に 対 す る M-GTA を 用 い た 教 師 の 語 り の 分 析 ― 」 日 本 教 師 学 学
会 『 教 師 学 研 究 』 第 10 巻 、 2011 年 、 pp.25-36。
佐 久 間 茂 和 編 集 『 ミ ド ル リ ー ダ ー を 育 て る 』 教 育 開 発 研 究 所 、 2007 年 。
佐 久 間 茂 和 「 ミ ド ル リ ー ダ ー の 参 画 を ど う 工 夫 す る か 」『 教 職 研 修 』 第 38 巻 7
号 、 2010 年 、 pp.38-41。
佐 古 秀 一「 学 校 組 織 に 関 す る ル ー ス・カ ッ プ リ ン グ 論 に つ い て の 一 考 察 」
『大阪
大 学 人 間 科 学 部 紀 要 』 12、 1986 年 、 pp.137-153。
佐古秀一「コンピュータ導入と学校の対応に関する組織論的考察―外生的変革
に対する学校組織の対応とその規定要因に関する事例研究―」
『日本教育経営
学 会 紀 要 』 第 34 号 、 1992 年 、 pp.50-63。
佐古秀一「学校の組織特性とその問題」佐古秀一・武井敦史・曽余田浩史『学
校 づ く り の 組 織 論 』( 講 座 現 代 学 校 教 育 の 高 度 化 第 12 巻 ) 学 文 社 、 2011 年 、
pp.118-130。
104
佐 藤 郁 哉『 フ ィ ー ル ド ワ ー ク 増 訂 版 書 を 持 っ て 街 へ 出 よ う 』新 曜 社 、2006 年 。
佐 藤 学 『 学 校 改 革 の 哲 学 』 東 京 大 学 出 版 会 、 2012 年 。
柴田幸穂「学校におけるマネジメント―公立高校における実践的取り組み―」
日 本 マ ネ ジ メ ン ト 学 会 『 経 営 教 育 研 究 』 第 10 巻 、 2007 年 、 pp.99-119。
清水紀宏「外生的変革に対する学校体育経営組織の対応過程:2 つの公立小学
校 の 事 例 研 究 」 日 本 体 育 学 会 『 体 育 學 研 究 』 第 46 巻 第 2 号 、 2001 年 、
pp.163-178。
末松裕基「世界のスクールミドル」小島弘道・熊谷槇之輔・末松裕基『学校づ
くりとスクールミドル』
( 講 座 現 代 学 校 教 育 の 高 度 化 第 11 巻 )学 文 社 、2012
年 、 pp.134-153。
住 岡 敏 弘「 経 営 過 程 論 」日 本 教 育 経 営 学 会 編『 教 育 経 営 研 究 の 理 論 と 軌 跡 』
(シ
リ ー ズ 教 育 の 経 営 5) 玉 川 大 学 出 版 部 、 2000 年 、 pp.64-75。
諏訪晃一・渥美公秀「教育コミュニティづくりとハビタント:地域への外部参
入者としての校長」
『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』第 48 号 、2006 年 、pp.84-99。
諏訪英広「教員社会におけるソーシャルサポートに関する研究―ポジティブ及
びネガティブな側面の分析―」
『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』第 46 号 、2004 年 、
pp.78-92。
添田祥史「識字教育方法としての自分史学習に関する研究―ナラティヴ・アプ
ローチからのモデル構築の試み―」
『 日 本 社 会 教 育 学 会 紀 要 』第 44 巻 、2008
年 、 pp.41-50。
曽 余 田 浩 史「 円 環 的 思 考:教 育 経 営 研 究 の 新 た な 枠 組 み の 可 能 性 」
『日本教育経
営 学 会 紀 要 』 第 39 号 、 1997 年 、 pp.40-51。
曽 余 田 浩 史 「 我 が 国 の 学 校 組 織 文 化 研 究 の レ ビ ュ ー 」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』
第 42 号 、 2000 年 、 pp.146-156。
曽 余 田 浩 史「 学 校 の 組 織 力 と は 何 か ― 組 織 論・経 営 思 想 の 展 開 を 通 し て ― 」
『日
本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 52 号 、 2010 年 、 pp.2-14。
曽余田浩史「学校がうまく機能するとはどういうことか―「学校の有効性」に
関 す る 組 織 論 的 考 察 ―」 佐 古 秀 一 ・ 曽 余 田 浩 文 ・ 武 井 敦 史 著 『 学 校 づ く り の
組 織 論 』( 講 座 現 代 学 校 教 育 の 高 度 化 第 12 巻 ) 学 文 社 、 2011 年 、 pp.10-61。
田 尾 雅 夫 『 組 織 の 心 理 学 [ 新 版 ]』 有 斐 閣 ブ ッ ク ス 、 1999 年 。
田 尾 雅 夫 『 現 代 組 織 論 』 勁 草 書 房 、 2012 年 。
高木亮「教師のストレス過程メカニズムに関する比較研究―小・中学校教師の
ス ト レ ス 過 程 モ デ ル の 比 較 を 中 心 に ― 」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 45 号 、
2003 年 、 pp.50-62。
高木亮、田中宏二、渕上克義、北神正行「教師の職業ストレスを抑制する方法
105
の 探 索 」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 48 号 、 2006 年 、 pp.100-114。
高 階 玲 治 編 集『 学 校 組 織 活 性 化 の マ ニ ュ ア ル 主 任 の 仕 事 』明 治 図 書 、1995 年 。
高 野 桂 一 『 学 校 経 営 過 程 ― そ の 分 析 診 断 と 経 営 技 術 』 誠 信 書 房 、 1963 年 。
高 野 桂 一「 主 任( 職 )の 本 質 と 課 題 ― 省 令 主 任 制 度 を 考 え る 視 点 ― 」
『現代教育
科 学 』 第 19 巻 5 号 、 1976 年 、 pp.88-103。
高 野 桂 一 『 経 営 過 程 論 』( 高 野 桂 一 著 作 集 第 3 巻 ) 明 治 図 書 出 版 、 1980 年 a。
高 野 桂 一 『 経 営 組 織 論 』( 高 野 桂 一 著 作 集 第 2 巻 ) 明 治 図 書 出 版 、 1980 年 b。
高野桂一「経営過程論」日本教育経営学会編『教育経営ハンドブック(講座日
本 の 教 育 経 営 10)』 ぎ ょ う せ い 、 1986 年 a、 pp.281-282。
高野桂一「科学としての学校経営論の吟味」神田修・河野重男・高野桂一編著
『 研 究 ・ 実 践 ・ 資 料 を 生 か す 必 携 学 校 経 営 』 エ イ デ ル 研 究 所 、 1986 年 b。
武 井 敦 史「 学 校 経 営 研 究 に お け る 民 族 誌 的 方 法 の 意 義 ―J.F.フ ィ ン ケ ル に よ る 校
長 の リ ー ダ ー シ ッ プ 研 究 を 方 法 事 例 と し て ― 」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第
37 号 、 1995 年 、 pp.86-98。
武 井 敦 史 『 ク リ シ ュ ナ ム ル テ ィ ・ ス ク ー ル の 民 族 誌 的 研 究 』 多 賀 出 版 、 2003
年。
武 井 敦 史「 教 育 経 営 研 究 に お け る 事 例 調 査 研 究 の 動 向 と 課 題 」
『日本教育経営学
会 紀 要 』 第 50 号 、 2008 年 、 pp.234-244。
武 井 敦 史 「 調 査 研 究 の デ ザ イ ン 」 藤 原 文 雄 ・露 口 健 司 ・武 井 敦 史 編 著 『 学 校 組 織
調 査 法 デ ザ イ ン ・方 法 ・技 法 』 学 事 出 版 、 2010 年 、 pp.21-32。
武 井 敦 史「 学 校 組 織 と「 場 」」佐 古 秀 一 ・ 武 井 敦 史 ・ 曽 余 田 浩 史『 学 校 づ く り の
組織論』
( 講 座 現 代 学 校 教 育 の 高 度 化 第 12 巻 )学 文 社 、2011 年 、pp.64-116。
竹下浩「中国進出プロジェクトにおける外部専門家の支援プロセス」経営行動
科 学 学 会 『 経 営 行 動 科 学 』 第 22 巻 1 号 、 2009 年 、 pp.21-33。
棚橋浩一「学校組織の活性化に向けて―主幹職としての取組の在り方を考える
―」
『 奈 良 教 育 大 学 教 職 大 学 院 研 究 紀 要「 学 校 教 育 実 践 研 究 」』第 2 号 、2010
年 、 pp.63-72。
谷 富 夫 編 『 ラ イ フ ヒ ス ト リ ー を 学 ぶ 人 の た め に 』 世 界 思 想 社 、 2008 年 。
田上哲・大島崇・下地貴樹・藤井佑介・清水良彦・畑中大路「授業研究におけ
るデータの様相的処理に関する研究―事例に基づく試論的考察―『
」九州大学
大 学 院 教 育 学 研 究 紀 要 』 第 14 巻 、 2012 年 、 pp.41-58。
津 田 正 教 「 主 任 制 ・ 激 し い 三 つ ど も え の 攻 防 」『 季 刊 教 育 法 』 第 18 号 、 1975
年 、 pp.158-163。
露 口 健 司 『 学 校 組 織 の リ ー ダ ー シ ッ プ 』 大 学 教 育 出 版 、 2008 年 。
露口健司・藤原文雄「教育経営研究と学校組織調査法」藤原文雄・露口健司・
106
武 井 敦 史 編 著 『 学 校 組 織 調 査 法 デ ザ イ ン ・方 法 ・技 法 』 学 事 出 版 、 2010 年 、
pp.11-20。
露 口 健 司「「 新 た な 職 」の 導 入 背 景 と 役 割 」
『 月 刊 高 校 教 育 』第 44 巻 2 号 、2011
年 、 pp.22-25。
露 口 健 司 『 学 校 組 織 の 信 頼 』 大 学 教 育 出 版 、 2012 年 。
徳 舛 克 幸「 若 手 小 学 校 教 師 の 実 践 共 同 体 へ の 参 加 の 軌 跡 」日 本 教 育 心 理 学 会『 教
育 心 理 学 研 究 』 第 55 巻 1 号 、 2007 年 、 pp.34-47。
都 丸 洋 一 「 学 校 組 織 に お け る 「 組 織 的 知 識 創 造 」 の 経 営 ―教 育 改 革 を 具 体 化 す
る 教 師 の 自 律 性 に 着 目 し て ―」大 塚 学 校 経 営 研 究 会『 学 校 経 営 研 究 』第 29 巻 、
2004 年 、 pp.48-55。
長 瀬 荘 一 『 学 校 ミ ド ル リ ー ダ ー ―そ の 役 割 と 心 得 ―』 図 書 文 化 、 2001 年 。
仲 田 康 一 「 学 校 運 営 協 議 会 に お け る 「 無 言 委 員 」 の 所 在 ―学 校 参 加 と 学 校 を め
ぐ る ミ ク ロ 社 会 関 係 ―」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 52、 2010 年 、 pp.96-110。
中 留 武 昭「 わ が 国 に お け る 学 校 経 営 論 史( 2)― 戦 後 編( 1)― 」
『季刊教育法』
第 44 号 、 1982 年 、 pp.160-170。
中留武昭「シンポジウム 教育行政学と教育経営学の独自性と連関性 報告Ⅲ教
育 経 営 学 の 立 場 か ら( そ の 1)」関 西 教 育 行 政 学 会『 教 育 行 財 政 研 究 』14、1987
年 、 pp.234-238。
中留武昭「主任の制度化とその運用を見直す―主任はいかに機能したらよいの
か ― 」『 季 刊 教 育 法 』 第 74 号 、 1988 年 、 pp.12-23。
中 留 武 昭『 学 校 指 導 者 の 役 割 と 力 量 形 成 の 改 革 ― 日 米 学 校 管 理 職 の 養 成・選 考・
研 修 の 比 較 的 考 察 ― 』 東 洋 館 出 版 社 、 1995 年 。
中 留 武 昭 編 著『 カ リ キ ュ ラ ム マ ネ ジ メ ン ト の 定 着 過 程 教 育 課 程 行 政 の 裁 量 と か
か わ っ て 』 教 育 開 発 研 究 所 、 2005 年 。
中西純司・浪越一喜「小学校の体育経営における組織的知識創造理論の展開に
関 す る 事 例 研 究 」福 岡 教 育 大 学 教 育 実 践 総 合 セ ン タ ー『 教 育 実 践 研 究 』第 11
号 、 2003 年 、 pp.45-52。
中西喜信「知識移転の構成概念とプロセス―知識の使用とルーチン形成の相互
作 用 ― 」『 日 本 経 営 学 会 誌 』 第 31 号 、 pp.27-38。
中野和光「日本の授業の構造と研究の視座」日本教育方法学会編『日本の授業
研 究 ― Lesson Study in Japan ― 授 業 の 方 法 と 形 態 〈 下 巻 〉』 学 文 社 、 2009
年 、 pp.1-9。
南 部 初 世「「 教 育 経 営 」概 念 再 構 築 の 課 題 ―「 教 育 行 政 」概 念 と の 関 連 性 に 着 目
し て ―」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 50 号 、 2008 年 、 pp.14-25。
二宮賢治・露口健司「学校組織におけるミドルリーダーのリーダーシップ―学
107
年主任のリーダーシップに焦点を当てて―『
」愛媛大学教育実践総合センター
紀 要 』 第 28 号 、 2010 年 、 pp.169-183。
野入直美「ライフヒストリー分析とは何か」谷富夫・芦田徹郎編著『よくわか
る 質 的 社 会 調 査 技 法 編 』 ミ ネ ル ヴ ァ 書 房 、 2009 年 、 pp.90-91。
野 中 郁 次 郎 ・ 竹 内 弘 高 著 、 梅 本 勝 博 訳 『 知 識 創 造 企 業 』 東 洋 経 済 新 報 社 、 1996
年。
野中郁次郎・紺野登『知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代』
ち く ま 新 書 、 1999 年 。
野 中 郁 次 郎・紺 野 登『 知 識 創 造 の 方 法 論 ナ レ ッ ジ ワ ー カ ー の 作 法 』東 洋 経 済 新
報 社 、 2003 年 。
野 中 郁 次 郎 ・ 勝 美 明 『 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 知 恵 』 日 経 B P 社 、 2010 年 。
野 中 郁 次 郎 、遠 山 亮 子 、平 田 透『 流 れ を 経 営 す る 持 続 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン 企 業 の
動 態 理 論 』 東 洋 経 済 新 報 社 、 2010 年 。
野中郁次郎・紺野登『知識創造経営のプリンシプル―賢慮資本主義の実践論』
東 洋 経 済 新 報 社 、 2012 年 。
浜 田 博 文「 問 題 の 所 在 」小 野 由 美 子・淵 上 克 義・浜 田 博 文・曽 余 田 浩 史 編 著『 学
校 経 営 研 究 に お け る 臨 床 的 ア プ ロ ー チ の 構 築 研 究 ―実 践 の 新 た な 関 係 性 を
求 め て 』 北 大 路 書 房 、 2004 年 、 pp.1-10。
原実「教育課程の評価と学校の改善」日本教育経営学会編『教育経営と教育課
程 の 編 成 ・ 実 施 』( 講 座 日 本 の 教 育 経 営 第 4 巻 ) ぎ ょ う せ い 、 1987 年 、
pp.293-325。
日比光治「教職大学院によるミドルリーダー育成の実際と課題」岐阜大学教育
学 部 『 教 師 教 育 研 究 』 第 8 号 、 2012 年 、 pp.19-26。
平井貴美代「ミドル層教員の職能開発をめぐる今日的課題」大塚学校経営研究
会 『 学 校 経 営 研 究 』 第 28 号 、 2003 年 、 pp.2-10。
藤田英典・油布佐和子・酒井朗・秋葉昌樹「教師の仕事と教師文化に関するエ
スノグラフィ的研究―その研究枠組と若干の実証的考察―」
『東京大学大学院
教 育 学 研 究 科 紀 要 』 第 35 巻 、 1995 年 、 pp.29-66。
淵上克義「スクールリーダーの心理と行動」淵上克義・佐藤博志・北神正行・
熊谷愼之介『スクールリーダーの原点―学校組織を活かす教師の力』金子書
房 、 2009 年 、 pp.47-69。
堀 内 孜 「 中 教 審 答 申 『 今 後 の 地 方 教 育 行 政 の 在 り 方 に つ い て 』( 1998) と 分 権
改 革 の 展 開 」大 塚 学 校 経 営 研 究 会『 学 校 経 営 研 究 』第 30 巻 、2005 年 、pp.2-12。
堀 内 孜 「 学 校 経 営 の 自 律 性 確 立 課 題 と 公 教 育 経 営 学 」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』
第 51 号 、 2009 年 、 pp.2-12。
108
牧 昌 見「 主 任 職 問 題 の 本 質 と 課 題 」
『 季 刊 教 育 法 』第 19 号 、1976 年 、pp.20-29。
松戸宏予「特別な教育的ニーズをもつ児童生徒に関わる学校職員の図書館に対
す る 認 識 の 変 化 の プ ロ セ ス ―修 正 版 グ ラ ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ
に よ る 分 析 を 通 し て ―」『 日 本 図 書 館 情 報 学 会 誌 』 第 54 巻 2 号 、 2008 年 、
pp.97-116。
増 井 三 夫・村 井 嘉 子・松 井 千 鶴 子「 実 践 場 面 に お け る 質 的 研 究 法 」
『上越教育大
学 研 究 紀 要 』 第 25 巻 2 号 、 2006 年 、 pp.463-481。
増 井 三 夫・村 井 嘉 子・松 井 千 鶴 子「 GTA に お け る レ ベ ル 1 の 概 念 化 ― 実 践 場 面
に お け る 質 的 研 究 法 (2)― 」『 上 越 教 育 大 学 研 究 紀 要 』 第 26 巻 、 2007 年 、
pp.299-316。
増 井 三 夫 ・ 中 田 秀 樹 「 実 践 場 面 に お け る GTA(Grounded Theory Approach) の
可 能 性 ― ミ ク ロ 分 析 と オ ー プ ン・コ ー デ ィ ン グ の 再 検 討 ― 」
『上越教育大学研
究 紀 要 』 第 27 巻 、 2008 年 、 pp.11-23。
増 井 三 夫「 実 践 研 究 に お け る Grounded Theory Approach の 意 義 と 可 能 性 」日
本 教 育 実 践 学 会 『 教 育 実 践 学 研 究 』 第 9 巻 2 号 、 2008 年 、 pp.11-25。
増 井 三 夫「 GTA(Grounded Theory Approach) に お け る フ ォ ー マ ル 理 論 の 可 能 性 」
『 上 越 教 育 大 学 研 究 紀 要 』 第 28 巻 、 2009 年 、 pp.55-64。
三 上 昭 彦「 主 任 制 度 化 の 経 過 と 問 題 点 」
『 教 育 』第 26 巻 2 号 、1976 年 、pp.107-115。
水 本 徳 明 「 イ ギ リ ス の 学 校 経 営 に お け る 主 任 の 役 割 」『 季 刊 教 育 法 』 第 74 号 、
1988 年 、 pp.33-36。
水 本 徳 明 「 学 校 経 営 研 究 に お け る ル ー マ ン 組 織 論 の 可 能 性 ―組 織 の 作 動 的 基 礎
と し て の 意 思 決 定 を 中 心 に ―」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 40 号 、 1998 年 、
pp.82-94。
水 本 徳 明「 学 校 の 自 律 性 と 公 教 育 経 営 構 造 」
『 現 代 公 教 育 経 営 学 』学 術 図 書 出 版
社 、 2002 年 、 p.212-222。
水本徳明「教職員配置と自律的学校経営」河野和清編著『地方分権化における
自 律 的 学 校 経 営 の 構 築 に 関 す る 総 合 的 研 究 』多 賀 出 版 、2004 年 、pp.375-387。
水本徳明「学校の組織と経営における「複雑反応過程」に関する理論的検討」
『 筑 波 大 学 教 育 学 系 論 集 』 第 31 巻 、 2007 年 、 pp.15-25。
元 兼 正 浩 『 次 世 代 ス ク ー ル リ ー ダ ー の 条 件 』 ぎ ょ う せ い 、 2010 年 。
八尾坂修「教育センター等における主任層・中堅教員に対する学校経営関連研
修 の 実 態 と 課 題 」『 季 刊 教 育 法 』 第 115 号 、 1998 年 、 pp.43-51。
八 尾 坂 修 「 学 校 力 を 高 め る ミ ド ル リ ー ダ ー の 役 割 と そ の 育 成 」『 教 育 展 望 』 第
53 巻 7 号 、 2007 年 、 pp.42-43。
八 尾 坂 修 編 集『 主 幹 教 諭 そ の 機 能・役 割 と 学 校 の 組 織 運 営 体 制 の 改 善 』教 育 開
109
発 研 究 所 、 2008 年 。
山崎浩司『解釈主義的社会生態学モデルによる若者のセクシャルヘルス・プロ
モーション 性的に活発な高校生のコンドーム使用促進のための要因探索お
よ び 対 策・援 助 検 討 型 研 究 』
( 京 都 大 学 大 学 院 人 間・環 境 学 研 究 科 博 士 号 学
位 論 文 ) 2006 年 。
山崎保寿「教務主任に求められるミドルリーダーシップと仕事術」山崎保寿編
集 『 教 務 主 任 の 仕 事 術 ―ミ ド ル リ ー ダ ー 実 践 マ ニ ュ ア ル 』 教 育 開 発 研 究 所 、
2012 年 、 pp.10-13。
山下成明「教務主任時代に身に付けたい「三つの力」―集団を動かす力、行動
力 、 ネ ッ ト ワ ー ク 力 」『 総 合 教 育 技 術 』 第 64 巻 13 号 、 2010 年 、 pp.72-73。
大和真希子「教育組織における職位・職階制の課題と展望―学校主任職をめぐ
る 言 説 分 析 か ら の 提 案 ― 」『 日 本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 46 号 、 2004 年 、
pp.106-119。
八 並 光 俊 「 帰 国 子 女 の 生 徒 指 導 に お け る PDS 過 程 と 教 育 効 果 の 関 連 性 」『 高 知
女 子 大 学 紀 要 人 文 ・ 社 会 科 学 編 』 第 42 巻 、 1994 年 、 pp.49-62。
山 本 明「 校 内 情 報 ネ ッ ト ワ ー ク を 上 手 に 活 か す ― 教 務 主 任 の 役 割 『
」季刊教育法』
第 74 号 、 1988 年 、 pp.37-40。
山 本 則 子「 Grounded Theory Approach と は 。そ し て 看 護 学 に い か に 用 い る か 」
山本則子、萱間真美、太田喜久子、大川貴子『グラウンデッドセオリー法を
用 い た 看 護 研 究 の プ ロ セ ス 』 文 光 堂 、 2002 年 、 pp.6 -19。
横 山 英 一 「 主 任 手 当 制 度 化 の 現 状 と 問 題 点 」『 教 育 』 第 28 巻 5 号 、 1978 年 、
pp.112-115。
横山剛士、清水紀宏「教育イノベーションの継続的採用を促す組織的要因の検
討―学校と地域の連携による合同運動会の定着過程に関する事例研究―」
『日
本 教 育 経 営 学 会 紀 要 』 第 47 号 、 2005 年 、 pp.145-160。
吉 本 二 郎 『 学 校 経 営 学 』 国 土 社 、 1965 年 。
李春善「教師集団の「同僚性」に関する研究―研究主任に対するインタビュー
調 査 を 通 し て ― 」 上 越 教 育 経 営 研 究 会 『 教 育 経 営 研 究 』 第 15 号 、 2009 年 、
pp.97-107。
教 育 調 査 研 究 所 編 『 ミ ド ル リ ー ダ ー と し て の 主 幹 教 諭 の 職 務 と 育 成 』 2011 年 。
福 岡 県 校 内 研 修 研 究 会 編『 教 師 が 育 つ 校 内 研 修 PDS』第 一 法 規 出 版 、1987 年 。
Harvard Business Review 編『 ナ レ ッ ジ・マ ネ ジ メ ン ト 』ダ イ ヤ モ ン ド 社 、2000
年。
Barnard, C. I., The Function of the Executive , Harvard University Press,
1938.( 山 本 安 次 郎 ・ 田 杉 競 ・ 飯 野 春 樹 訳 『 新 訳 経 営 者 の 役 割 』 ダ イ ヤ モ ン
110
ド 社 、 1968 年 。)
Mishra, B., & Bhaskar, A. U., Knowledge management process in two
learning organisations, Journal of Knowledge Management , Vol.15, No.2,
2011, pp.344-359.
Blumer, H., Symbolic Interactionism: perspective and method . Englewood
Cliffs, 1969.( 後 藤 将 之 訳 『 シ ン ボ リ ッ ク 相 互 作 用 論 : パ ー ス ペ ク テ ィ ヴ と
方 法 』 勁 草 書 房 、 1991 年 。)
Charmaz, K., Constructing Grounded Theory: A Practical Guide through
Qualitative Analysis, Sage Publications, 2006. ( 抱 井 尚 子 ・ 末 田 清 子 『 グ
ラウンデッド・セオリーの構築―社会構成主義からの挑戦―』ナカニシヤ出
版 、 2008 年 。)
Glaser, B. G., & Strauss, A. L., Awareness of Dying, Aldine, 1965.( 木 下 康 仁
訳 『 死 の ア ウ ェ ア ネ ス 理 論 と 看 護 死 の 認 識 と 終 末 期 ケ ア 』 医 学 書 院 、 1988
年 。)
Glaser, B. G., & Strauss, A. L., The Discovery of Grounded Theory:
Strategies for Qualitative Research, Aldine, 1967.( 後 藤 隆 ・ 大 出 春 江 ・ 水
野 節 夫 訳『 デ ー タ 対 話 型 理 論 の 発 見 調 査 か ら い か に 理 論 を う み だ す か 』新 曜
社 、 1996 年 。)
Glaser, B. G., Theoretical Sensitivity: Advances in the Methodology of
Grounded Theory, The Sociology Press, 1978.
Glaser, B. G., Basics of Grounded Theory Analysis: Emergence vs. Forcing,
The Sociology Press, 1992.
Heng, M. A., & Marsh, C. J., Understanding Middle Leaders: A Closer Look
at Middle Leadership in Primary Schools in Singapore, Educational
Studies , 2009, Vol.35, No.5, pp.525 -536.
Kets de Vries, M. F. R., Life and Death in the Executive Fast Lane: Essays
on Irrational Organizations and Their Leaders , Jossey-Bass, 1995.( 金
井 壽 宏・岩 坂 彰 訳『 会 社 の 中 の「 困 っ た 人 た ち 」― 上 司 と 部 下 の 精 神 分 析 ― 』
創 元 社 、 1998 年 。)
Locke,
Karen.,
Grounded
Theory
in
Management
Research ,
Sage
Publication, 2001.
Lipsky, M., Street-level bureaucracy: dilemmas of the individual in public
services , Russell Sage Foundation, 1980. ( 田 尾 雅 夫 ・ 北 大 路 信 郷 訳 『 行 政
サ ー ビ ス の デ ィ レ ン マ :ス ト リ ー ト ・ レ ベ ル の 官 僚 制 』 木 鐸 社 、 1986 年 。)
Richard, L. D., Essentials of Organization Theory & Design, 2nd Edition ,
111
South-Western College Publishing, 2001.( 高 木 春 夫 訳 『 組 織 の 経 営 学 』 ダ
イ ヤ モ ン ド 社 、 2002 年 。)
Senge, M. P., The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning
Organization, Crown Business , 2006.( 枝 廣 淳 子 ・ 小 田 理 一 郎 ・ 中 小 路 佳 代
子 訳『 学 習 す る 組 織 ― シ ス テ ム 思 考 で 未 来 を 創 造 す る ― 』英 治 出 版 、2011 年 。)
Smith, L. M., ‘Ethnography’, Encyclopedia of Educational R esearch (Sixth
Edition), The American Educational Research Association, Macmillan
Publishing Company, 1992.
Strauss, A. L., & Corbin, J., Basics of Qualitative Research: Grounded
Theory Procedures and Techniques, Sage Publications, 1990. ( 南 裕 子 ・ 操
華子訳『質的研究の基礎―グラウンデッド・セオリーの技法と手順』医学書
院 、 1999 年 。)
Weick, K. E., Educational Organization as Loosely Coupled System,
Administrative Science Quarterly , Vol.21,No.1 1976, pp.1 -19.
Weick, K. E., Administrating Education in Loosely Coupled Schools, The Phi
Delta Kappan , Phi Delta Kappa International, Vol.63, No.10, 1982,
pp.673-676.
Yamazaki, Y., A Grounded Theory Approach to Decision Making Processes of
Japanese
Multinational
Corporations
in
the
US,
Economics
&
management series , International University of Japan, 2005, pp. 2-45.
Zaleznik, A. (1977) “Managers and Leaders: Are They Different?”, Harvard
Business Review , 55, pp.67-78.
OECD, Improving School Leadership Volume 1: Policy and Practice , OECD,
2008. ( 有 本 昌 弘 監 訳 『 ス ク ー ル リ ー ダ ー シ ッ プ ― 教 職 改 革 の た め の 政 策 と
実 践 ― 』 明 石 書 店 、 2009 年 。)
Teaching Training Agency (TTA) , National Standards for Subject Leaders ,
1998.
Teacher Leadership Exploratory Consortium (TLEC), Teacher Leader Model
Standards , 2011.
112
資料
分析ワークシート(生成順)
113
概念名
定義
具体例
肯定的評価の獲得
周囲の視点からアイディアの内容や取り組みを評価してもらうことで、自身の提案したアイディア
の正当性を確保する
Kp 氏
 先生たちの(学校評価の)取組を見える化して、自分は外に発信をしたりとかしていって。で、さ
っきのほら、
(研修の中でみんなで)決めたのもあるでしょう。9 月から 12 月までの(行動計画)。
あれも玄関に貼って、こういうのも全部貼ったら、(学校外から)来た人たちが「あぁ、こういう
取組をしてるんだ」とか。言ってる言葉を先生たちが聞いて「あ、頑張らないといけない」って
なるんですよ。
 もちろん評価も校長先生に、
「こんなこと工夫してますよ」って自分が言って。
「何々がこういう
ことを、こっそり頑張ってました」と。そしたら校長先生が、「頑張ってるらしいね」って。そ
ういうつなぎ役です。
 チームプロジェクトで動きたいと。で、こういう風にしたんですよ。なら、こんな風にするしか。
これはですね、ご存じかもしれないですけど、P 大学の、Tx 先生っていらっしゃるですよね。そ
の人に来てもらったんですよ。(中略)自分が言うよりも、進め方に関してはT先生が言ったほう
が説得力があるから。
 自分が研究主任とか学年主任とか苦しい学年で、学年主任とかしてきて、その学年をうまくやっ
てたのを、他の皆さんが見てたので。だから、
「あぁ、Kp 君が教務主任になったから手伝おう」
かみたいなのもあったです。
 だからみんなも「あー、頑張ってるね」って思ってくれたんでしょうね。で、やっぱ、若くして
教務主任になったから、それも認めてもらって。たくさん先輩たちが「いや、Kp 君やったらい
いよ」って。っていうところもあったかな。
Lo 氏
 何人かの先生が、「じゃあちょっとやってみよう」ってやってみて。「あ、これ使えたよ」って。
そこからですね。少しずつ、「この方法って、自分たちの新しい学びで、子どもたちに還元でき
るんじゃないの」ってもっていった。
Mn 氏
 今までは仮説を紐解く時間がなさすぎた。仮説について考える時間がなさすぎる。その説明は好
評だったので、「あの時間(=準備の時間)」は無駄じゃなかったと感じた。
Nm 氏
 その時、指導主事はもう、私が始めから相談してるから、知ってるんですよね、中身もね。で、
「あ、この研究はこういう価値がありますよ」って(言ってくれる)。そして、ボトムは、
「あぁ、
そうなんだ」って(思う)。だから、私がしてる、私が主張してることは変なことじゃないんだ
っていうのは、価値づけられてた。
Ol 氏
 (オープンスクールは)親から見たら、やっぱり、いっぱい見たいとか。いつでも来ていいとか、
当然メリットはたくさんあるけど
 校長は何をしたかって言うと、上は一切黙らせるっていうことを。きちっと水面下の中でしてく
れてるんですよね。で、上が言い出したら出てくるんですよ。
Pk 氏
 それこそ、教頭先生のほうが、そのときは外部から、Y 以外のところからやってこられた教頭先
生だったので。教頭とああいうふうに席が並んで話することが多いから。で、まあ、校長先生が
そういうところまで、びしっと明確にされないから。そこを「ちょっとどうしましょうか」って
二人でそれこそ結託して。それこそ結託して、上をちょっとこうして(持ち上げるジェスチャー)。
教頭は「立場的に言いにくいから」って。まあ、「Pk さん、言い」って。「フォローはする」っ
て言われて。こんなんしましょうって、こうしながらですね。話を持っていって、こんなんでき
たらいいですねとか。こんなこと出来るんじゃないですかとかいう話の中で、少し、それこそ校
長、僕みたいないち教務が言っても、あれだし。だから校長から、そこはストンと言ってもらい
ながらとか。
Qj 氏
 その時に、やっぱりね、校長も教頭も非常に平和(学習)への理解があったし。まあ、やらない
といけないって、X 小学校に来た以上、何かしないといかんって。ダメとかなかったですね。
 あとは先生たちもその気になってくれた。
 今までの校長は、「ぜひ。やっぱり必要ですよ」って。そう言ってくれたけどね。
Sh 氏
 もう、(6 年学年主任の)Ns 先生は「もう任せるから」っていう形でおっしゃってくれて。
 今年も、音楽、いつもしてくださるのは、Tu 先生が音楽がすごく堪能なので、Tu 先生、一昨
年と今年はNの担任だから一緒に考えてたけど、去年とかも一人で考えて行き詰った時に、ずっ
とTu 先生と、「これはどうやったら、どんなふうにしたらいい動きができる」みたいな感じで、
作ってもらって、曲を作曲してもらってって感じで。
114
 で、絵を描くのは、美術担当のKa 先生とか。去年までいたIk 先生とか。なんか小道具作るの
は誰それ先生とかやっぱ、特技が、得意な人がいるじゃないですか。私何もできないので。なん
かこうやって、出来る人にしてって感じで。
 一生懸命にしてるなっていうのも、他の人も認めて下さってるのかなって。だから、手伝うよっ
て。大変やろうって声をかけてくださって。
Tg 氏
 日曜日に私と、もう一人の同学年の先生と、校長先生もきてもらって、お願いしますって頭を下
げに行ったんですね。
 次年度はもう時数を減らさないといけないから、浮流はそろそろやめたいって、その発表会の時
に校長先生に言っていただいて。
Uf 氏
 それは結構好評だったですね
 みなさん賛同してくれるので。
 まあ、この年は、管理職も、あぁ、じゃあやってみようかっていうことで、そしたら先生達すご
く動いて下さって、あの、管理職の先生もすごく喜ばれた、よかったっていうことはあったので。
Ve 氏
 ミドル」にとっては、トップの後押しって言うのは、すごく。ミドルが、ボトムのことを考えて
巻き込もうとしても、トップの後押しがないと、難しいっていうのは。
理論的メモ
 自分でアイディアの意義を言うのではなく、他者からの意義づけという戦略的な行動として解
釈。自身でのアイディアへの意味づけもあるのか。
 アイディア実現へ向けた「自分での行動」
・
「他者の行動」という区分けでカテゴリー化できるの
ではないか。
 アイディア実現へ向け、この概念はどのような役割を果たすのか。→[巻き込み]に繋がる
 他者の協力があってこそできる。なぜ協力を得ることができるのか。前提となるものがあるのか
→[基盤の構築]との関係
 肯定的評価を受けるのは、「内容」か、「取り組み」(行動)か。どちらも?
 アイディア「内容」への他者からの評価。実施者としてのミドル「自身」への評価がアイディア
実現につながることもあるのか。→<実現可能性の提示>との関係
 日常的な自身の行動(頑張り)が評価につながる。(例) Kp教諭「他の皆さんが見てたので」→「あ
の人がやってるから、賛同しよう」という感覚か。→[基盤の構築]との関係
 学校組織におけるミドル行動を考えた時、この概念は意味を持つ。一般企業のミドル(中間管理職)
との違いはやはり「権限」の有無か。
→対極例は、価値づけを必要とする‘あいまいな立場の自覚’?
 ネガティブな評価もあるはず。その対応はどうするのか。→ネガティブな反応としての[周囲の「思
い」の察知]
115
概念名
定義
具体例
トップビジョンへの依拠
アイディアの拠り所としてトップビジョンを活用し、自身の提案したアイディアの正当性を確保す
る
Kp 氏
 「全員力」みたいな言葉をこの方(=校長)が使ってて。全員力。「全員でなんでもやっていき
たい」っていうのを、言われてたかな。で、それにちょっと(私のアイディアは)繋がってまし
たね。
 この時は、どんな課題が出たかというと、これなんですけど。学力向上、学習規律、友達との関
わり方、家庭地域との連携っていうのがうっすら見えたんですよね。それって、学校長の経営方
針の重点の中に入ってたんですよ。
 もちろん校長先生に意見をいただきながら、こう、一緒にやっていったかなっていうような感じ。
Lo 氏
 トップのビジョンがある程度、見えていないと、動けないなぁと思いました。
Mn 氏
 ただ、責任が伴うときは、何かあったときに一枚岩になってもらうためにも、管理職に話を持っ
ていく。
Nm 氏
 あの、トップに直接言ってました。本当は教務にいったり、教頭にいったりせないけんのだろう
けど、そのときの学校が、結構トップが、校長が力のあると言うか。退職されたんですけど、結
構全体を見渡せる人だったから、その人に言っとけばだいたい外れはないというか。
Ol 氏
 トップの狙いは、学校を開くというよりは、学級懇(談会)にいかに人を集めて、きちっとした
ミーティングをするのかっていうところがどうも主眼だった。
Qj 氏
 それともう一つね、X 小学校にいるじゃないですか。「X 小学校だったら平和教育だろう」と。
Tg 氏
 次年度はもう時数を減らさんといかんから、浮流はそろそろやめたいって、その発表会の時に校
長先生に言っていただいて。
Ve 氏
 ミドルにとっては、トップの後押しっていうのは、すごく。ミドルが、ボトムのことを考えて巻
き込もうとしても、トップの後押しがないと、難しいっていうのは。
 この目標に繋がってるっていう風に、どう、トップの人が意識をして出してくれるか、経営方針
を。そしたらそれに乗ったミドルが、例えば研究というそういった部分において、子どもの姿が
出てきたときに、「この姿っていうのは、こういうビジョンの、こういう部分につながってるん
ですよね」って。「じゃあ、そういう姿にするためにどういう風にしたらいいですか」ってなっ
てくると、アイディアも、本当に組織的なアイディア創造になるだろう。
理論的メモ
 アイディアに繋がるミドル自身による課題認識だけでなく、トップのビジョンもアイディア実施
への動機づけとなりうるのではないか。
 ただしそれはトップの視点で見た場合。ミドル教員を分析焦点者とする以上、ビジョン=スター
トとなるのか。
 アイディア創造の主体としてのミドルの視点から見た場合、ビジョンはどのようなものとして捉
えることができるのか?
 ミドル教員によって「使われる」ものか。→[巻き込み]の手段、‘肯定的評価の獲得’との関係
 先行研究でも「校長のビジョンが具体性に欠ける」
「ビジョンがモットーになっている」
「ビジョ
ンが現実を踏まえたものになっていない」ことは明らかにされている。しかし、校長はそれでも
自分は「ビジョンを示している」と思っている。そのビジョンをミドルが具体化することで校長
の権威を借りる=ミドル行動として考えることができないか?
 依拠のレベルが強すぎる場合、ボトムからすると「トップダウン」としてとられかねないのでは
ないか。バランスが求められるのではないか。
 トップは自校だけとは限らない?(例)Qj 教諭「X 小だから平和学習」「Z 市だから平和学習」
も同様の発想か。
 ビジョンへの依拠は単に理解や協力を得るものではなく、正当性を確保するため。
116
概念名
定義
具体例
子どもの姿の明示
アイディア実施の成果として子どもの姿を示すことで、自身の提案したアイディアの正当性を確保
する
Kp 氏
 そんな乗り気じゃない人もいたかもしれないですけど、これ、成果が表れたんですよ。もう、1
ヶ月もしないうちに、強化週間の時には名札忘れゼロになったりとかしていって。
Qj 氏
 で、やっぱり子どもなりに感動したとやろうね。「帰るよー」って。私担任じゃなかったんです
よ。まあ、教務だから、ぶらぶら行ったとけど。担任が「帰るよー」って。そしたらね、V 公園
の前に行って、並んで、「歌を歌え」って担任が言ってるとさ。そしたら、X 小学校でよく歌っ
ている、
「○○」っていう歌をさ、歌うと、全員でさ。それがまた上手やったとさ。
(拍手)で、帰
ったと。そいで、意外とやり方次第で、子どもたちは子どもたちなりに充実感を味わいながら。
そういうのがあるから伝わるのかもしれないね。
Sh 氏
 みんなで一つのものを作り上げてるっていうのがあって感動してくださるんですね。
Uf 氏
 色んな子にいろんな挑戦させたりとか、自分の個性を伸ばせるような。っていうのは僕が行った
学校は、結構それができている。
Ve 氏
 やっぱり子どもが育ってたら、授業力量が高いんだろうなって。しかも自分のクラスだけじゃな
くて、学年として子どもも育ってるなとか。
理論的メモ












アイディア実施後の概念であり、実施前の周囲への働きかけとは区別できる。
子どもの変化、子どもの成長は、結果として起こるもの。この概念の意味は?
子どもの変化はアイディア実施の結果。プロセスのゴールとして設定するべきか。
ゴールの反対、始まりは何か。課題の認識?
アイディア実施の明確なアウトプットになり得るか。それよりも、子どもの姿を示して周囲の理
解を得る手段の一つなのではないか。
子どもの成長→成果(成長、ゴール)として語ることはできないのではないか(時にはあるとし
ても)。むしろ、周囲の理解を得るための一つの方策。→[巻き込み]の手段の一つ
アイディアの「実現」というゴールはあるのか。
アイディアの成果の一つとして「子どもの変化」が考えられるが、それ以外の成果は考えられな
いか。
学校における「子ども」(対象)の対極例はないか。教師?→‘肯定的評価の獲得’に繋がるか。
子どもの「変化」は成果として捉えることは難しい。プラスの変化にならないと周囲の理解・協
力は得られないのではないか。
「子どもの姿」はアイディア実施の結果であって、ミドル自身の行動が引き起こすものとは限ら
ない。→ミドル自身の「行動」が周囲を巻き込むこともあるのではないか。
子どもの姿を示すことは、アイディアへの理解と協力を得る前の段階ではないか→アイディアへ
の「正当性の確保」→<後ろ盾獲得>としての関係
117
概念名
定義
具体例
率先行動
自身が提案したアイディアを率先して実施することで、アイディアの実現可能性を示す
Kp 氏
 自分がやったことは、必ず、毎月一回、これについての振り返りをおこなってもらう時間を設定
してもらって、毎回これに関しての振り返りを行ってもらって、で、振り返りとかすべてしても
らったものを、こうやって見える化していったんですよ。みんながやってることを。
 とにかく、研究主任は、みんなですけど、自分の公開授業から始めるというか、みんなに見ても
らって、とにかく自分がやったものを広めるみたいな感じでやりましたね。
Mn 氏
 今のテーマは「自信の種をまこう」。自尊感情とは何か?どうすれば高まるのか?を本を読んで
まとめ、配布した。
「こんなときに子どもはほめてほしい」
「そうすれば能力をあげることになる」
ということを分かりやすく説明した。今までは仮説を紐解く時間がなさすぎた。仮説について考
える時間がなさすぎる。その説明は好評だったので、
「あの時間(=準備の時間)」は無駄じゃな
かったと感じた。
Nm 氏
 はい、そうです。研究主任はだいたい、1 学期に、理論を作ったら、実践授業をして、この理論
がいいか悪いか話し合いが 1 学期だいたいこの時期なんですよ。だいたい 6 月ぐらいまでに理論
を作って、ここで実証授業をして、色んな先生方からいやこの理論、ここした方がいいんじゃな
いとか変えた方がいいんじゃないとか言われて、作りなおしていく。
Ol 氏
 やっぱり自分の場合は、アイディアによって、結果を出していく
Qj 氏
 それで 6 年の担任と話しあったですね。そこに顔出しよったしね
 もちろんみんなの声よ。それもまた煙草部屋で。やっぱりみんなの前でも言うとよ。影だけじゃ
なくてね。
Ri 氏
 自分が最初に提案授業を最初にして、その後していただくとか
 人を、大勢の人を巻き込もうとするなら、そこにみんなが入れるような、入口にしておかないと
いけない。入らない人たちばかりで終わるわけじゃなくて、やっぱりこちらが、訳のわからない
ような提案をしてたら、やっぱりモチベーションが低くなるかなという気はしますね。
Sh 氏
 なんか、リアルタイムかなって。Nの子どもに見せるには、やっぱり、記憶が新しいうちに、次
の日には絵を描いたり、作文を作ったりとか。やっぱり記憶が新しいうちにしたいんですね。だ
から、なんか、できたら早くっていうのはありますね。
Tg 氏
 そうそう。12 月ごろに電話して、お世話役、町の方にですね、会長さんに。お伺いしたいんで
すけども、お願いしたいんですけども、いつがいいですかみたいな感じで、いろんな人たちが集
まる日はいつですかって、そしたら日曜日の夜とかになるから。じゃあ私たちも参加させてくだ
さいって言って。
 (浮流を教えてくれる住民に)ずっと電話してましたね。
Uf 氏
 まあ、本当に、自分が言った手前、あと名簿作成っていうのが大変なんですよね。人数も合わせ
なくてはいけないし、その全部の調和は私がしますよって。
 きつい分も結構もらっちゃう。私が提案しますから。名簿もらいますから。で、問題はやっぱり
時間なんだって。時間を減らしましょうねって。
理論的メモ
 自身が率先して行動することでアイディア実現の可能性を示す。
 アイディアを用いた結果として「子どもの姿」の類似概念。行動によって周囲を説得する。→[巻
き込み]との関係
 アイディア実施の成果として、子どもだけでなく教師も変容する。どのように変化しているの
か?
 変化・成長は子ども・教師だけ?「組織」の変化は起こらない?→アイディア実現のゴール(目
的)か?
118
 アイディア実施の成果だけでなく、アイディアへの抵抗を示す周囲への対応手段の一つとして考
えられないか。→[周囲の「思い」の察知]との関係
 行動で示すことで周囲の主体性を引き出す=アイディア実現へ向けたミドル行動という分析テ
ーマに沿った場合、「行動で示す」ことが概念として適切なのではないか
 ミドル教員の行動自体への評価として。アイディア内容への評価との差異→<後ろ盾獲得>との
類似・差異へ
 ミドル自身による行動が引き金となり、周囲の教員の意識にプラスの変容が見られる。周囲の教
師に「主体性」が芽生えるということ?
 アイディアに関する率先行動の場合、‘本音の認知’との関係は?‘本音の認知’が事前概念、その後
‘率先行動’が起こるという順序。
119
概念名
定義
具体例
ツールを用いた発信
自身が発案した改善策を共有するべく、効果的に伝わる身近な手段を用いて発信する
Kp 氏
 それも意識させながら、自分たちでめあてを作ってほしいと思ったんですよ。で、実践したのが、
1 学期が終わったところからスタートしたんですけど。1 学期終わった時に、7 月の、1 学期終わ
った次の日に 1 日かけて研修をやったんです。
Mn 氏
 時代が変わっても変わらない子育ての真理を伝えるチャンスは学級通信よりも何よりも懇談会で
直接話すこと。
 主題研の研究仮説を「お題目」にすると方向性が定まらない。そのため、仮説をわかりやすくし
た。
Nm 氏
 先生たちに、まず、研修会の時に、学年でですね、子どもの実態からして、何の研究がいいのか。
まず始めの条件は、一本にしますと。一つの教科とか一つのテーマでしますというのが条件で。
で、子どもの実態からどんなテーマに、どんな教科にしたほうがいいかっていうのを話し合いま
した。学年で話して下さいと。このボトムの中で話してもらうんですよね。協議して、持ち寄り
ましょうということにしました。
Ol 氏
 ようは、4 月の最初から、まず、うちの場合、P の場合は、4 月にPTA総会の前に、全保護者集
会っていうことで、保護者を全部集めるんですよ。で、大事な 1 年間の話を色々していこう。
 振り返りの職員会議を、一番最後だったかな。3 月ぐらいに、
「来年度の学校開放日について提案
します」っていうことで。内容は親とのコミュニケーションはより充実させる方向で。でも、形
的には、負担を減らすために、日数減らしましたよって言ったら…
Qj 氏
 総合のカリキュラムに関係するんですけど。教務主任部会があるじゃないですか、ブロックで話
し合いをするんですけど。西部ブロックっていうとけど。カリキュラムはだいたい教務が作って
たんですよ、総合は。必ず平和と人権を入れましょうって
Ri 氏
 研究、研究推進委員会っていう、小さな、小委員会の中で、いるんだけど、推進委員会と言えど
も、たしかに、じゃあみんなでこういう方向性でしていこうって提案しようかって、相談だけど、
やっぱその案は、自分が出さなきゃ、推進委員の先生たちが持ってくるわけではないし
Sh 氏
 子どもの発達段階によっても違うし、そのクラスの雰囲気によっても、聞いてる子どもの感性に
よっても言い方は違うけど、こんな風に伝えてもらえませんかっていうのを文章にして出したり
 6 年生には必ず、私は 4 月か 5 月の道徳を 1 時間ずつもらって、障害理解教育みたいなのをする
んですよね。
 ガイジ発言の語源と、これはすごい差別語なんだから、こういう言葉を、語源を知っててこうい
う言葉を使うって言うのは先生は憤りを感じるって、みんなはどう思うっていうような感じで投
げかける。そういう授業を必ずさせてもらうんですね。
 次からはこういう風に(特別支援に関する 6 年生への)授業をしたいっていって、指導案をまず
管理職の先生に見せて、OK をもらって、こういう風にしたいんだけどって、6 年生とか打ち合わ
せをして。
 それにはやっぱり音楽会かなって。
Uf 氏
 体育部会というのがあってね。体育部会で私はこう思ってるんだけどこういう風に提案できない
やろうかって。あとそれを受けて、職員会で、こういう風な提案をしたいんだけどって。今度は
体育主任じゃなかったから、体育主任の方にそれは説明してもらって。それを説明して、こうし
たらいいって。で、職員会で決定されますね。校長も含めて。その時に初めて管理職と話をする
んですよ。こういう風にして考えてると。で、できそうだったら Go、今年は無理そうだったら、
来年につなげてっていうことで
Ve 氏
 学年チームで、こう、一本の授業に対して、所属している学年で、提案してもらったり、授業す
る人は一人ですけど、あえて、その、学年集団で提案をしてもらって、質問に対しても学年で答
えたり。なんていうんですかね、一人の責任、当事者意識にさせるために、一人にすると、結構、
力量とか経験でぐっと差があるじゃないですか。でも、チームにすると、小グループにするとち
120
ょっと言いやすくなったりとか。責任が分担されるので、っていう、あまりマイナス的なんです
けど。で、協議会とかも、学年別に座ってもらったりして、学年で、だからこう、提案して、そ
れをどうですかって引き出さんで。ちょっと学年で、小グループの学年で話し合わせて質問して
もらったり。それに対して学年、授業をした所属する学年で答えたりとか、そういう組織を、小
さな組織でなんか、組織が機能するように具体的な取り組みとしてはしたことと。
 提案、普通の構想提案をして授業をして、っていうのですね。
 研究に向けてやったことの価値を必ず見いだして、通信っていう形で、常に、先生たちに発信し
てましたね。
 よく、学年会とかして話し合いをしてたりとか、やっぱり子どもが育ってたら、授業力量が高い
んだろうなって。しかも自分のクラスだけじゃなくて、学年として子どもも育ってるなとか。
理論的メモ
 アイディアの提案はどのような場所で、誰に対して行われるのか?
 提案の規模(スケール、重要性)に応じて選択されているのではないか。
 提案が行われずにアイディア実施が行われることもあるのか。→Sh 氏の行事紹介。ただしこれは
個人(一人)で実行可能な実践であり、「巻き込み」とは異なる。→組織的実施では無理?
 何を契機として提案が起こるのか。提案の創造段階があるのでは?→‘改善策の練り上げ’
 何かの「課題」の解決策としての実践。校内における課題認識の次のステップ。
 具体的な方策を示す行動として解釈可能。その時に使うものは何か?
 小学校では広く認識されたもの。指導案・職員会議・研修…。これを用いることで効果的に自身
のアイディアを広げることができる。アイディアの提案→発信という順序。
 発信は何の気兼ねもすることなく行うことができるのか。自校現状を知るからこそ、発信をため
らう・躊躇する・気を使うことはないのだろうか。発信することはミドルにとってはストレスな
のではないか→‘本音の認知’‘あいまいな立場の自覚’との関係
 発信した後も「本当にこれでいいのだろうか」と悩むような感覚もある?→周囲の反応を知るこ
とで生じるストレスではないか。→[周囲の「思い」の察知]との関係
 必ずしも「ツール」という可視的なものを用いているわけではないかもしれない
 ツールは指導案などの「もの」だけでなく、部会や職員会議といった「場」も含まれる(例)Qj
教諭は、教務部会(市内)の場で発信することで、自校実践をやりやすくした。
 アイディアは必ずしも「教師」だけへ向けたものではない?子ども、保護者、地域。
121
概念名
定義
具体例
改善策の練り上げ
課題解決につながる改善策を、自校の現状を踏まえ、これまでに培ってきた自身の経験や周囲の力
を活かして発案する
Kp 氏
 「じゃあもう、自分たちで何かをして、決めていけたらいいですね」って、もうこれを用意して
たんですよ。9 月、10 月、11 月、12 月で何をしていくか。
 想定してました。結局そこに行くんだろうなと思ったんですよ。
 いやもう、要するに校長先生もそう思われているし、そうなると思ったからですね。そのための
部もあって。大事なことはこの四つなんですけど。ただなんとなく校務分掌って動いているもの
があって、その、ね、ミッションとビジョンじゃないけど、そういうのがそこでわかるかなって
Lo 氏
 それがたまたま今回は特別支援の視点から見ていったら、通常の子どもたちにも、それがとても
いい方向じゃないんですかっていうことを、まず最初の 1 学期の段階で提案をしていただきまし
た。
 じゃあ、そういう(組織)の(課題)を見たときに、「困った困った」だけじゃなく、ちょっと
違う手立てもみていったら、少し(展望が)開けるんじゃないかなって。「まずはやってみまし
ょうよ」って。大きな手立てとかじゃなくて、「こんなことやってます」って。特別支援のこん
なことやってる、こんな手立てだったら、先生たちやってみませんかっていうのを、小出しにし
ていただきました。そしたら、これちょっとやってみた。そしたら、これよかったよって。これ
もやってみたらよかったよって。大きな理論じゃなくて、小さな実践を提供してもらう。
Mn 氏
 そのため、授業参観後の懇談会の時間、教務主任や少人数加配の先生みたいな手の空いてる先生
に、残る親の子どもを預かってもらうようにした。
 時代が変わっても変わらない子育ての真理を伝えるチャンスは学級通信よりも何よりも懇談会
で直接話すこと。今の保護者は核家族が多く、孤立しやすい。自分の失敗経験を伝えることもし
ている。そのためには参加してもらわないといけない。
Nm 氏
 全然総合の研修の深まりがないんですよね。広がりはあるんですけど深まりがないというのに気
付いて、じゃあこれを一本化しましょうかという話しになったんですよ。
 ただ、その代わり言ったのが、一つにしたいと。みんなの気持ちを一つにしたいから、ここはと
ことん話し合いたいですという話をしたんですね。
 S 地区のサークルで、研究主任のサークルなんです。研究主任ばっかりが集まって、結構ダメだ
しするサークルなんですけど、そこで悩みを言い合う。
Ol 氏
 親からは好評である。だけど現場の現実はこういうところがあるで、その、親からのデータとか、
先生達からの振り返りとかをちょっと整理してから、(校長に)もって行きながら、
「先生、こん
なの出てますけど」っていったら、
「うーん、減らすかね、どう思う」って言うけん。
「いや、こ
こはひいても別にかまわんと思う」って。
 でも、やってみると、そういう声もあるし、客観的に考えて、メリット・デメリットで、縮小す
るのもどうかねって感じで、校長が話すから、いやそれはあの、いいんやないですかって言って。
ようは、大きく開いて、開放しているんだって。で、その中でいつでもきてくれ。で、俺達は学
級懇を来てもらって、親ときちっと話がしたいんだって。
 学力を上げるっていうのは僕達の使命で。それも It 校長一緒だったんですよ。で、そのためには、
生徒指導で振り回されないようにしなければいけないし、保護者対応で振り回されなければ、振
り回されたら学力どころじゃなくなる。そこが最初から守って守ってじゃなくして、攻めて封じ
るって。
Pk 氏
 結局ミドルを学年 1 人ずつぐらい振り分けて、それは校長先生にもお願いしたんですよ。学級編
成上、3 クラス、一学年 3 クラスだから。そしたら組み合わせ上、講師 2 人とか、年配 2 人とか、
なかなかやりにくいから、そうなったときに、ベテラン・ミドル・講師、3 人で組むような形。
その代わり、ミドルが核になるようにっていうことで。
 だから、担任の力量がない先生方を、担任外とか、そういうところに当てて。そうじゃなくて、
機動力のある先生、実際に動ける、いわゆるミドルの核になるような先生を、担任外に据えてく
れって。これも校長先生にお願いしたことなんだけど。その代わり、早め早めに学校に、こいつ
厳しくなりそうだなっていうのがわかるじゃないですか。講師の先生でもベテランの先生でも、
ちょっと、こうなるかなっていうクラスに意図的に。自分もそうやったけど、そっちの先生にも、
もうミドルをそこに付けてもらって、担任外という形で付けてもらったんですよ。だからどんど
んそういうクラスに意図的に入るようにしてもらった。仕向けたというか。ここ(ミドル)での
会話は密にしながら。とにかく情報をくれとか。
122
Qj 氏
 先生たち、私もこうしたいとか、いきなり提案して、「ばん」っていくものじゃないですよ。何
べんも何べんも話をしたり
 材料はいくらでもある。それをこっちが活かしてないわけだ。それを活かさない方法はないぞっ
て、思ったわけですね。それなら、こっち側からお客さんに、説明すればいいじゃないかって。
 だから全部仕組みみたいにしてやってたんですよ。国語でごまかしてとかね、社会でごまかして
とか、道徳でごまかしてとか、図工でごまかしてとか。だから、なんかね、やりづらかったわけ
ですね。だから、私は、総合が導入された時は、まあ、いろんな意見はありましたけど、「平和
を取って下さい」と。
「平和教育で確保しましょう」と。何時間か、10 時間なら 10 時間ね。そ
れやったら、10 時間おもいっきりできるっちゃないかっていうことで。
 特に総合だからね。調べだけじゃ。調べばっかりやってたら、子どもも飽き飽きするし、担任も
ね、飽き飽きするとさ。
 小学校は。で、それぞれのところには、多分入ってるはずです。位置づける。位置づけないとダ
メなんですよ。例えば、まあ、105 時間ありますよね、総合がね。その中で、10 時間でもいいで
す、20 時間でもいいです、5 時間でもいい
 例えばね、算数の時、特に掛け算になったら、単位についてが非常に大事なんです。1 当たり量
かけるいくつ分やろう。ところが教科書で言えば、単位何も書いてないわけね。だから数字の羅
列なんですよ。ノートに書いた時。教科書見てもね。だから、僕は単位がいると思う。必要だと。
自分で思ってるわけね。だから、書かなければならないっていうことはないけれども、書いた方
がよりわかりやすいんじゃないですかって。
 まあ、子どもがぽっと言ったわけですよ。なんか書いとったとね、忘れんごとね。で、あ、これ
いいよなぁって。総合にね。総合にただ、なんか調べて発表するのよりね。
Ri 氏
 指導案についてはなるべく、形式を簡潔に、簡単にしました。だらだらだらだら書かないような。
これは参観者にとっても、いきなりその場でもらうので、ぱっと見てその場でわかるような、あ
の、結局見開き 2 頁ですね。こちら側に指導観とか児童観とか。少ない中で、本当に簡潔に書け
るような形式をしたことと
Sh 氏
 で、それは一人でするんじゃなくて、例えば、人権部っていうのが各学年から出てきたり、管理
職とか養護教諭の先生が集まって人権部っていうのがあるので、かならずそこで提案するし、校
内支援委員会っていうのは、管理職の先生も一緒に、各学年からまた集まっているので、そこで
必ず、提案をして、そこで OK をもらったら、全体で提案して、そして実施してもらうみたいな
感じですかね。
 指導案をまず管理職の先生に見せて、OK をもらって、こういう風にしたいんだけどって、6 年
生とか打ち合わせをして。クラスの状況とか、先生方がやっぱり、もう少し障害に対して言いた
いなって思ってることはないかっていう、そういう打ち合わせをして、2 年目からやりましたね。
で、
 で、それを、私たちは O 区、障害児学級の、学校、障害児学級のある学校の担任が集る場がある
んですね。Q 市全体で集まったり O 区で集まったり。で、O 区で集まった時は特に少人数になる
から、こういう算数はこういう風にして、ここでつまずいてる子にはこういう指導をしたらよか
ったとか、こういう教材を作ったから使ってみるとか、いうような交換をするんだけど、他の学
校の先生が、6 年生にこんな授業をしたら、よかったよって。
 6 年生の先生には指導案を見せて、こんな形でしていいですかみたいな形で。
 だからそれは他の学校の先生が、こんな風にしてよかったよって、聞いたからそれをいただいて。
 音楽会では、必ず英語を入れたりとか、全体の場ではね、人数が少ないから、一人一人が頑張ら
ないと、できないでしょう。
Tg 氏
 それで、これはこのままにしてたら、5 年生は大変なことになるということで、基本的に浮流を
なんとかやめるしかないんじゃないか。
Uf 氏
 そしたら増やせばいいんじゃないかということで、ある一部の子だけが出るんじゃなくて、みん
なが何かの種目を、選手として出ればいいんじゃないかということで。よく紅白リレーだけなん
だけど、綱引き入れて、もう一つ入れて、全部で 3 種類の選手制にすると。そうするとどれかが
自分は力があるから綱引きに出たい、俺は足が速いからリレーに、もう少しちょこまかした素早
さがあるからこっちにいくよって、選べるような種目を増やしましょうやって。そうしたら出れ
る。ただ、種目を増やすと時間的に厳しいので、そこのところを減らす方向、いらない部分を減
らしましょうとか。たまたまその時は学年を、学年で表現運動をしてたんだけど、近接学年にし
たらだいぶん減りますから。まあ、人数が減ってきて。増やす努力と減らす努力を考えていきま
しょうっていうことで
Ve 氏
 学年チームで、こう、一本の授業に対して、所属している学年で、提案してもらったり、授業す
る人は一人ですけど、あえて、その、学年集団で提案をしてもらって、質問に対しても学年で答
えたり。なんていうんですかね、一人の責任、当事者意識にさせるために、一人にすると、結構、
123
力量とか経験でぐっと差があるじゃないですか。でも、チームにすると、小グループにするとち
ょっと言いやすくなったりとか。責任が分担されるので、っていう、あまりマイナス的なんです
けど。で、協議会とかも、学年別に座ってもらったりして、学年で、だからこう、提案して、そ
れをどうですかって引き出さんで。ちょっと学年で、小グループの学年で話し合わせて質問して
もらったり。それに対して学年、授業をした所属する学年で答えたりとか、そういう組織を、小
さな組織でなんか、組織が機能するように具体的な取り組みとしてはしたことと。
 リードっていうよりも、よく今言われているファシリテーターっていうか、ともにしていくとか、
まあ、そういう部分の、こう、指導する、ミドルだから、指導する、指導しなければならない、
指導するじゃなくて、こう、「研究同人という意識で、一緒に深めていきませんか」っていうス
タイルを自分は取ったかなぁと思いますね。
理論的メモ
 「こうすればいいのではないか」という漠然とした思いから、課題改善策が見出される。課題が
あるからミドルによる実践が行われる。
 周囲との課題の共通認識があるから実践を行うのか。それともミドルによる実践は周囲の潜在的
な課題認識を掘り起こすのか。→両方の意味を持つのではないか?
 なぜ(どのようにして)ミドルは課題への認識を抱くのか。課題認識の前提となるものはなにか。
→[現実との対峙]との関係
 課題認識がアイディア実施へと繋がる。課題認識以外にアイディア実施へと繋がるプロセスはな
いのか?→組織的な[巻き込み]によるプロセスはデータからは確認できない。
 アイディアは画期的なもの(斬新なもの)だけとは限らない?→課題解決のために現在あるもの
を利用する、など。課題改善策として実施されなければ前例踏襲になる?
 誰が校内における課題を知るのか?→ミドル自身。
 課題を察知するプロセスは?→コミュニケーションを基にした現状把握が前提となる?→[基盤
の構築]との関係
 現状把握が単発的な契機となるわけでなく、自身の経験を含む積み重ねの結果として課題の改善
策が生成されるのではないか。→[成長の探求]との関係
 アイディア創造には「自校の現状」は外せないのではないか。ただし、自校の現状認知(‘本音の
認知’)と‘改善策の練り上げ’は差別化が難しい。類似の概念か?それともプロセスとして順序づ
けられるのか。→Kp 教諭「想定してました」
「そうなると思った」
124
概念名
定義
具体例
周囲の負担感への気づき
課題解決策として練り上げたアイディアを周囲へ示すことによって生じる、周囲が抱く負担感に気付
く
Kp 氏
 そんな乗り気じゃない人もいたかもしれないですけど、
 この時は、夏休み 1 日研修。「えー、なにするんだよ」って、最初は嫌な雰囲気で。
Lo 氏
 負担って思われてしまったら、いくら反対はその場でされなくても、結局は協力してもらえないん
ですよね。
 とりあえずは一年間、本当にものすごい日程だったし、理論もなにも作ってない中で初めたような
研究でしたから。そこをもしかしたらみんなが、言わないだけで、困ってたって言うのも、事実で
す
Ol 氏
 学校を開くことのメリットとか、そういう視点で考える人がいないから、親が来たら純粋に大変は
大変なんですよ。で、その論理だけで、なんていうかな。自分達が今まで構築してきた既得権益を、
いかにして守り続けていくか。すごく、強いんですよね。
 要は、自分の既得権益が、誰であろうと崩されると、人間もちろん嫌なんだけど、特にずーっと学
校できてると、その、民主的とは、みんなの意見が通ることが民主的だとか、いわゆる専門家のず
ーっと流れになってる。
Qj 氏
 やっぱり、本当に、本当に理解してないっていったらあれだけど、面倒くさいじゃないですか。一
個一個。担任が書くのは。慣れてるじゃないですか、3×4 って。3 センチ×3 人分っていうのには
慣れてない。あ、4 人分ね。だから、本当に必要性を感じてない人は、やっぱり書いてないわけよ。
Ri 氏
 乗り気でなかった方も…乗り気っていうか、あんまり前向きじゃなくて。推進委員にもなってない
し、「えー、授業研、大変ね」って感じだった方もいました。
Tg 氏
 だから、どんどんいくらでも協力しますよっていう方と、こんなことをね、背負ってたら自分たち
の仕事が成り立たんって。だから、もういい加減にしてほしかって言われる方と二つあったわけね。
 でまあ、教えてくださる人たちのご意見もあったわけじゃないですか。教えに行くのは大変かとっ
て。仕事はね、結局、学校に教えに来るってことは、午前中っていうか、勤務時間にこんばっさ。
それに来るには休まんといかん。大変かとって。一人の大工さんが、もうそがんとに行くとやった
らあんたのところに頼まんでよそに頼むけんって言われて、生活のかかっとるけんなって言われた
って言われたんですよ
Uf 氏
 やっぱ、変えることにすごく臆病な方もいらっしゃるし。変えることって結構きついからですね。
あの、また新たに作っていかなくてはいけない作業ていうのは、しんどいんですよね。だからそれ
が、例年通りでいいんじゃないかって
Ve 氏
 先生方っていうのは、本当に忙しいので、そこで、多忙、多忙感にしないためにも、
 前の学校の時は、やっぱり、大規模、中規模校だったので。今は小規模校ですけど。大規模、中規
模校ぐらいだったので、その時は、やっぱり何人かいらっしゃいますよね。
理論的メモ
 新たなアイディアが示されたとき、負担感も示される。学校組織に残る、前例踏襲の風潮。→[改
善策の可視化]との関係
 提案に対し、負担感が出ない場合もあるのか。→表出していないだけで、内在的には存在するのか
もしれない。→[周囲の「思い」の察知]カテゴリー
 負担感が示されたとき、ミドル教員はどのように対処するのか
 負担を表出する教員への気づきではないか。周囲の負担感へ気づくことで、改善策や手だてが生じ、
「巻き込み」へと繋がるのではないか。→[巻き込み]との関係
 ミドル教員の提案に対する周囲からの異なる反応。ミドル教員の認識との不一致として、負担感が
表出しない概念もあるのではないか。→‘異なる価値観との遭遇’との関係
 主な相互作用相手は教師だが、アイディアの種類によっては Tg 氏のように地域住民、保護者へと
広がる可能性もある。
 「負担感表出」はミドルの外の世界での出来事であるが、ミドル教員自身はそれをどうとらえてい
るのか
125
概念名
定義
具体例
経験を踏まえたサポート
日常的に接する相手の状況に応じ、自身の経験を踏まえて職務内外におけるサポートを行う
Kp 氏
 出来る支援はいっぱいしましたね。自分の仕事は 5 時以降って決めて。支援をとにかくしていって、
皆さんの支援を。授業案にしても、アドバイスにしても。研究主任がわからんことがあったら、研
究主任と考えたりとか。っていう姿を見ていてくれているから、自分のやることに対して、やろう
っていうのはあったと思いますね。
 アイディアを自分が持ったら、その先生と話し合って、それをその先生が思い付いたような話し合
いに持って行きます。
Lo 氏
 強制はしないけど、いいと思うものは伝えるようにしています。
Mn 氏
 特に少人数加配の先生は配属学年がないため孤独なので・・・自分が少人数加配の立場になったとき
もそうしてほしいなぁ。
 他学年は自分が研究主任ということで相談を受けることもある。この前も 6 年生の指導案を 9 時ぐ
らいまで残って一緒に作った。
 生徒指導では経験で得た物を若い人に伝えている。筋道を立てて、理由を言うように心がけている。
 今の親は子育てについてよくわかっていない。時代が変わっても変わらない子育ての真理を伝える
チャンスは学級通信よりも何よりも懇談会で直接話すこと。今の保護者は核家族が多く、孤立しや
すい。自分の失敗経験を伝えることもしている。
 相談を受けると、親身になって相談に乗る。
Nm 氏
 あの、よくあるのが、授業でも、絶対あの、まず大事にしているのは向こうから言わせるというこ
と。
 例えば、今年でいうと、研究テーマは前の年作ってたのがあるんですけど、どう進めていったらい
いかわからないっていうのがあったんですね。じゃあ、まずはアンケート取って、ボトムの意見聞
いたらとか、学年会で話しあって下さいとか出したり、そういうのは、ボトムの聞かないと、先生
だけが考えてこうしてくださいって言ってもみんな付いてこないと思うよって話をしたら。本人は
今までの学級王国やったのがあるから、引け目になってるからですね、そこらへんは良く聞いてく
れて。ぼんぼんぼんぼん出してくれたりとかしてくれて、本人はちょっとやる気が上がってるなっ
て気はしてます。
 あとはアイディア。あの、要領悪い先生っているんですね。昔ながらの方法でするとか。今、その
貸しを、うちの研究主任、やない教務主任にしてるんですけど。
 そういうのを知ってるアイディアがあれば、率先して教えて行く。効率的なアイディアとか、肉体
的なことも率先してするし。
Pk 氏
 早め早めに学校に、こいつ厳しくなりそうだなっていうのがわかるじゃないですか。講師の先生で
もベテランの先生でも、ちょっと、こうなるかなっていうクラスに意図的に。自分もそうやったけ
ど、そっちの先生にも、もうミドルをそこに付けてもらって、担任外という形で付けてもらったん
ですよ。
Qj 氏
 「先生辞めたいです」って。「やめんね」って。「職あるとね」って。「絶対ないよ」って。「生活し
ぃきるならよかたい」って。
「でもね、生活しぃきらんやろ」って。
「辞めれんね」って。
「思いを持
つとはあるかもしれんけど、そういうのは、病院できちんとすれば。
」って。出るとよ、子どもにね。
あぁ、やる気ないな、この先生とかね。そしたら又いろいろともめる。難しいとさ。引っ張ってい
かんといけん。気合いをいれろ!って言いづらい
Ri 氏
 それから「先生教えて下さい」って言って聞いてくる子もすごく多いんですよ、この学校、若い子
が。すごくみんな頑張りたいっていう気持ちがあるので。その子たちが聞いてきたときに一緒にな
って話すぐらいでしたね
 ただ、研究会の、自分がちょっと見たいなっていう研究、授業研があったときに、ちょっと若い子
を誘ったりとかはしました。「先生、ちょっと見とったらいいよ」とか
 いろんなクレーム来た時に、そこで終わらせないで、ちゃんと返事を返す、後日。そういう風に気
をつけんといけんねって、そういう話をして
 結局、若い人たちは、サンプルがないので。経験が少ないから。出来ないと思ってしまったら、手
立てが、しようとしなくなるんですよね。可能性が。だから、
「いや、できたよあの子。するように
なったよ」って。
「えー」っていう感じ。だったらって思ってくれたらなって。結構自分の中の、良
かったことも、いろんなクレームとかいうことも、話したりします
126
Sh 氏
 自分の体験談をやっぱり良く話すかな。特に失敗談とか、こんなやったよとか、このときこんなだ
ったよとか話すし。特にね、子育て、今真っ最中の先生がいるんですよね。他にもいるんだけど。
その先生たちには、私が子育てをしてたときに、先輩の先生から、色々アドバイスしてもらったこ
ととか、元気づけられたこととか、ものすごく嬉しかったこととか、ものすごく残ってるんですよ
ね。だから、その話をよくしたりですね。仕事とは全然関係ないけど、私いろいろ、料理を作った
りお菓子を作ったりするのが好きだから、なんか、私も子育て真っ最中の時に先輩の先生が、帰っ
たら大変やろうって、これを子どもさんに食べさせりぃとか言って、なんか 1 品料理をもらったり
とかしてたのがものすごくなんか、助かってたんですよね。だから、今自分が気持的にゆとりがあ
るからそういうのをちょっとしてあげたいなって思って。作ってきたりとか。それとか、お子さん
が病気で、本当は休みがとりにくいんだけど、でも子どもが病気でってすごく悩んでる先生が何人
もいらっしゃるんだけど、学校はどうにでもなるんだから、子どもさんが大事よっていうお話をし
て。年休をとって帰ることにすごく気使ってるから、そこはやっぱり子どもを優先せんといかんよ
って話をしたり。
 それから私は、Nの担任なので、若い先生たちに、Nの、子どもたちのことを知ってもらいたいと
思ったり、必ず一年に一回は公開学習をしたり、授業研をしたりとかして、授業を見てもらったり
とか。それからいつでもクラスをオープンにしてるから、いつでも授業の様子とか子どもたちの様
子とか、個別の支援っていうのは、私はこういう風にしてるよっていうのを、見に来てねっていう
ような。オープンにしてる。
 Nっていうのは教科書がないから、ずっと教材とかも自分たちで作っていくんですけど、やっぱり
ここでつまずいている子にはこんな風にしたらとってもできたよとか、教材としてはたくさんこち
らで持っているので、そんなのを使ってねって。データはここにあるからねっていうのはいつも言
ってるっていうのは、私にできることかなって思ってしてるでしょうかね。
 それとか先生方から、掛け算の導入でどんなの使ってる、なんかいいのない?って言われたら、こ
れがあるよみたいな風にしたりとかしてるかな。
 特別支援の関係ので、ある子どもがいて、先生が、その子の支援とか、親の対応とかで困っている
っていう情報を自分で掴んだら、それはいつも教頭先生のほうにまず報告して、教頭先生とどうし
たらいいかなって、教頭先生だけでも、そこで判断ができないときには、校長先生とか副校長先生
にも相談してもらってどうしようかなって言ってもらったり。それから、親とトラブルを起こして
るとか、なんかこんなことで先生が悩んでるって言うのを私は聞いたら、まあ、女性だから言いや
すいのもあるし、教頭先生すべてのことを受け入れてくださって。ので、教頭先生に相談すること
が多いですね。それと、自分のクラスのこととか特別支援学級の事は、普通の先生たちと違って、
独自でしていかないといけないから、他の学校との交流とかいろいろあるんですよね。そういうと
きの相談は必ず、どんな細かいことも教頭先生に相談して、そして教頭先生から OK もらったら、
校長先生に、一応教頭先生や副校長先生には相談してるんですけど、校長先生こういう風にしたい
んですけどって、最終的に校長先生のほうに言うようにしてます。
 で、教頭先生とか校長先生にも伝えているけど、うまく自分の気持ちが伝わってないって、もう夜
も眠れないっていうのがあったので、夜も眠れないみたいなんですよねって、こうこうこういうこ
とが気になってるみたいなので、もう一度お話を聞いてくださいみたいなことを言いに行ったりと
か。
 それとやっぱり、若い世代の先生って、やっぱりギャップがあることがあるので、すごくなんか行
動が気になったりとか、え、これはちょっと直したほうがいいよなって思うときがあるから、そこ
はこうしたほうがいいと思うよみたいなことは言うようにしてます。
 彼(新任教員)は言葉遣いとかがなんかね、やっぱり、なんか、え、ちょっと間違ってるかなって。
例えば、教頭先生に一生懸命指導案を見て指導していただいてあったんですよ。それなのに、
「教頭
先生、ご協力ありがとうございました」とかなんか言ってて。その言い方おかしいよって。協力じ
ゃなくてご指導ありがとうございましたじゃないっていうことを言ったりとか。
(採用 3 年目)性格
だと思うんだけど、すごく態度とか言葉づかいを、先輩の先生を立てるとか、先輩の先生がしてる
から私もしなくっちゃっていうところがあんまり感じられないときがあるから、
「今は動くんだよ」
とか。
「このまえのそんな言い方、私傷ついたんだけど」みたいな、言い方で言ったりとか。でも、
言ったらね、あっさりしてらっしゃるから、直してくださって、それ以来気を使ってくださったり
とかしてるから、あ、やっぱり言ってよかったなって思ったりとか。
 たとえばこの間は、用務員の先生がおっしゃってたんですけど、
(聞き取り不可能)道具とかをどけ
るのにね、手伝ってって言ったら、
「いや、今日僕年休を取って来てるんですよね」って言われたっ
て用務員の先生が言われたから、それ絶対言わんといかんよって言って。
 なんかね、なんていうんですか、若い方って、自分で何でも出来られるじゃないですか。出来られ
るんですよ。いや、あのね、私達の頃ってね、先輩の先生に「今日私は何をしたらいいですか」、
「こ
こどうすればいいですか」、授業中でもなんか、「ここそれからどうしたらいいんですか」、「親に話
したいんですけど、これはこんな言い方で言ったらいいんですか」とか、細かく聞いて、自分がわ
からないのは聞いて聞いて、自分で「あ、そうか」って自信をつけて言ったりしてたんですよ。だ
から、自分に自信がないからかもしれないけど、でも今の方ってね、とても色んな事に自信がある。
だけども、本当はずれてるところを気づかずしてるようなところもあるんですよね。だから「そこ
は、こうじゃない」
、「気づいた方がいいんじゃない」っていうことはある。難しいね、でも。
 子どもから「なんでN学級とかあると」とか、
「○○ちゃんは、2 年何組の○○ちゃんはどうして 3 年
生からN(特別支援学級名)に行ったと」とか、子どもだから絶対言うじゃないですか。じゃあ、
そういうときには、こういう風に応えて下さいみたいな。子どもの発達段階によっても違うし、そ
のクラスの雰囲気によっても、聞いてる子どもの感性によっても言い方は違うけど、こんな風に伝
えてもらえませんかっていうのを文章にして出したり
 個別の支援に関することとか、教材とかをずっと、先生がたは教科書を使ってるけど、私は手作り
の教材をつかってきてるから、なんかそういうところは
127
Tg 氏
 例えばクラスで起こった事なんか。で、「それはね、管理職に相談したほうがいいよ」って、「相談
しよっか」ってことはありますね。そういうことはやっぱり見極めて、相談するように。教頭にあ
げとったほうが、報告しとったほうがいいよっていうことはあります。
 言っとこうかって私から言うときもあるんですね、こんなことがあってるんですけどもって。後に
なってじゃなくてね。やっぱり学年で、いろんな事が起こるので。ただ、すべてそれを上に上げる
のもなかなか難しいですね。これだけいると。そこはやっぱり見極めていかないととは思ってます。
 言うときもあるし、先生、それ言っとかんねっていうこともある。言うとったほうがいいよって言
うこともある。
 私たちもまったく関わってもらわないわけにはいかないんだよっていうことで、指導案を書いた後
にね、研究授業が毎学期に一つあって、その指導案を作り上げるだけ作り上げた後に、どうでしょ
うかって見てもらう、ってことはしてもらった。そして授業に参加していただく、研究授業に。そ
れぐらいだったですね。それで、自分でもそのことはとても反省されてる。主幹がやるのはなかな
か難しいと、いうことは言われてました。
 だから私は一回言ったんですよ、校長先生に。だって校長先生帰るの早いですもんって。私も、最
後の指導案とか作ってるときとか、研修が終わってないときとかね、続きをしたいんだけど、まず
みんなね、終わったら、授業が終わったら学年で話し合いをするって。明日の授業とか。終わった
らね、5 時半とか 6 時になるって。私はそれまで待って、それからすることは私だってあるのにね、
校長先生みたいに帰ったってね、話しにならないですもんねって言って。
Uf 氏
 あ、ここは絶対しないぞとか、これは指導してやらないといけないかなということもありますので
ね。年齢で、ただ、若い、なりたての方にはこちらから教えてあげなくてはいけないな、子どもへ
の声のかけ方とかは。その、教えてあげなくてはいけないな、こうしたほうがいいよっていうのは
常々考えている、やらなくてはいけない。僕達も先輩からそうしてもらいましたので。
 するんやったらこういう風に声かけてみんなで共に育ちましょうってしたほうがいいですよってこ
とを言ってたし
 そのときにはその取り組みというのはどうなんですかとか、いうことは敢えて問うていこうかなと
思うし。自分は日教組、組合に入ってるので、私達のワークライフバランスもしっかり考えていた
だきたいと。で、教育の条件についても、私達が言う必要があるだろうということで、そんなこと
で進言はしているですね。
 で、それのおかしな、自分でおかしいなと思ったら、聞くけど、それについての意見は言うってい
うのは考えてはいますね。
 そんな部分での自分の気付きっていうのは、管理職が言われても、いやそれはこうじゃないですか
っていう、新たに質問して、こうしたらどうでしょうかっていう質問はしてるつもりですし。
 自分を振り返った時に、あ、僕たちはそれを色んな先生から教えてもらっとったと。あ、そうなる
と、今自分の立場を考えると、あ、僕達も教える立場なんだって。これを考えた。4 年ぐらい前か
な。ちょうどその時期いろいろあって。あ、そっかそれまで自分のことを、自分の仕事をしっかり
していけばいいって考えだったのが、あぁ、そういうだけじゃないんだと。あの、子どもの見方と
か声かけとか、やっぱり学んできたもの、教えてきたものをやっぱり上手にその場で伝える必要も
あるんだっていうことはすごく感じたですね。
 自分が後輩の先生に大事なところは教えるっていうことは必要なんだなっていうことは。まだ自分
も教えてもらわなくてはいけないことはたくさんあったし、失敗することもたくさんあるんだけど、
せっかくね、先輩の先生に教えていただいたことを、次につなげていかなくちゃいけないっていう
のは思いましたね。
 大丈夫っていう声かけはしてますし。きつそうな時に話を、どうしたんっていうことは常々考えて
るし、まあ、それを管理職と相談しながら、体調悪いみたいなんですけどみたいなことは相談に行
ったことはありますね。すごく難しいというか。僕も若いころたくさん、若い頃に、やっぱり聞け
なかったですね。で、先輩の先生はもっと若い子は聞けんね、聞かんねとか言うけど、聞けんのじ
ゃとか思いながら。何を聞いていいのかわからんし、いつも忙しそうにしてるっていうのもあった
んで、でも、つらそうにしてるときとか悩んでる時もあるから、まあ、それはわかったらどうした
んって話はするようにしてます。
Ve 氏
 授業に向けて模擬授業とか教材研究とかするんですけど、そういう環境は整えましたよね。算数だ
から、算数の教科書とかを全部用意してたりとかですね。使うなら使って下さい、どうぞとか。
理論的メモ
 提案したアイディアに対して、なぜ周囲からの後押しを獲得できるのか。周囲の後押しを可能とす
るのは何か、という疑問から概念生成
 アイディア実現に直接関係している概念ではない。しかし、間接的に繋がると解釈できる。直接ア
イディア実現に繋がる概念と区分けできるということか。
 サポートを行うことで、自身のアイディア実現への賛同者を獲得している?→(例)Kp 教諭「自分
のやることに対して、やろうっていうのはあった」→[巻き込み]との影響関係
 周囲からの後押し獲得を可能とする行動は、仕事外での関係構築のような、仕事以外にもあるので
はないか。
 どのような点に「「ミドル」らしさ」があるか。→サブカテゴリー<経験を活かしたコミュニケーシ
ョン>
 厳しく接する行動是正も、その人に応じた対応であり、サポートと見て取れる。→Tg 教諭:主幹、
校長への指摘
128
 「将来困るであろうことを事前に教える」という点で見るとサポートになるが、アイディア実現へ
のヒントの提示という視点から見ると、別の概念が生成できる?→‘ヒントの提供’生成へ
 保護者とのやり取りの中にも経験を踏まえたサポートの視点は含まれるのか?→Mn 教諭の子育て
の心理に関する発言
 アイディアのタイプによるが、相互作用の対象は教員だけに限らない
 なぜ積極的にサポートを行うのか。その目的、目指すものは何か?→[成長の探求]との関係
 直接的なサポートだけでなく、間接的なサポートもありうるのか。
129
概念名
定義
具体例
間口を広げる
積極的に間口を広げることで「ミドル」という垣根をなくし、会話しやすい雰囲気を作る
Kp 氏
 出来る支援はいっぱいしましたね。自分の仕事は 5 時以降って決めて。支援をとにかくしていっ
て、皆さんの支援を。授業案にしても、アドバイスにしても。研究主任がわからんことがあったら、
研究主任と考えたりとか。っていう姿を見ていてくれているから、自分のやることに対して、やろ
うっていうのはあったと思いますね。
Lo 氏
 お茶のみ場とかですかね。あと飲み会があったときにその話をすることはありますけど。
Mn 氏
 気をつけることは「笑顔」
。
 同学年、2 年生、少人数加配の先生とは普段、他愛もない話をしている。例えば、子どもの間では
やっているもの、アニメ、昨日のドラマの話など。大きな声で話し、他学年に結束の強さをアピー
ルしている。
「なんとか先生はどうですか?」と話をふる。食事はみんなで行く。ちょうど 5 人な
ので 1 台の車に乗れるし
 他愛もない話、固くない話をすることで疲れも取れる。
Nm 氏
 例えば、修学旅行のしおりを、6 年の先生が一生懸命作ろうとしている。それを見たら、手伝いま
すねとか言わないで、手をぱっと動いて、中に入ってばーっと合わせたりとか。どんどんどんどん、
それはしゃべりながら出来るんですけど、「6 年生研究どうですか」とかしながらとか。
 ミドルは結構動かないけんのですね。ミドルの質が問われる。私全然足りないと思うんですけど、
一杯いっぱい動いたりとか、いつも気配を、空気、空気を読むというか、そういうのを見るのは結
構大事かなぁと思います。
 いや、してましたよ。私はほとんど(飲み会の)幹事してましたね。
Ol 氏
 若者と昨日飲んだんやけど。だから、若者とはある意味、巻き込みながら、情報収集しながら、一
緒に飲みながら、きゃっきゃきゃっきゃ言って
Pk 氏
 やっぱ、仕事も一つだけど、仕事以外の部分?だけん、さっき言ったように、呑みの席だとか、趣
味の世界だとか、そういった部分でも、ざっくりした人間関係っていう部分、そこが基盤にないと、
何かお願いした時も、出来ない部分ってあるだろうから。そういった色んなところで、意識してで
すね。飲み会で。まあ、学年とかでも必ずやっぱり、飲み会は自分は大切にしてきた部分があるん
ですよ。その中で本音でざっくり色々な話をするっていうことを大切にしてきたので。
Qj 氏
 僕はね、うちの煙草部屋があるとさ。死ぬまで研修って。死ぬまで研修って。もう、常に言いよる
とさね。
Sh 氏
 それからいつでもクラスをオープンにしてるから、いつでも授業の様子とか子どもたちの様子と
か、個別の支援っていうのは、私はこういう風にしてるよっていうのを、見に来てねっていうよう
な。オープンにしてる。
 Nっていうのは教科書がないから、ずっと教材とかも自分たちで作っていくんですけど、やっぱり
ここでつまずいている子にはこんな風にしたらとってもできたよとか、教材としてはたくさんこち
らで持っているので、そんなのを使ってねって。データはここにあるからねっていうのはいつも言
ってるっていうのは、私にできることかなって思ってしてるでしょうかね。
 教材はね、ここらへんで作ってるので、
「こんなの作ったよ、見て見て」とか。
「こんなのよかった
よ」とか
 作ったり、パソコンで作って、「見て見て」みたいな感じでするかな
 そうですね。Ns 先生はそういう風にしてくださるけど、他の先生は私に遠慮をしていて、一緒に
鏡文字してくれたり、後ろで見て下さったりって感じでしたね。
 それと、仕事とは全然関係ないけど、例えばね、お菓子を作るのとかは好きだから。食べることっ
て、食べながら先生たちと話すとか。なんかあるじゃないですか。食べることによって、話せるっ
て。だから、ここに、ケーキ持ってきたよとか、クッキー作ったよとか、ご飯あるよとか。なんか
そんなんで。でも、それって、自分の趣味でしてるから、押し付けで、食べてみたいな感じでして
るんだけど、そんなのもあるかもしれません。
 バレーボールとかで試合とかあるときには炊き込みごはんをつくったりとか。差し入れをすると
か、そんなのはありますかね。
130
 それからもう一つ余談なんだけど、この若い先生達を時々うちに呼んで、時々お料理教室をしなが
ら、作ったり、食べたりしながら。そういうことで、え、そんなことがあったとみたいなことを。
 1 学期ぐらいですかね。そこには Rs 先生の御嬢さんとか奥さんとかも呼んで。なんか、S家の様
子とかを聞いてみんなで笑いあったりとか。なんかそんな感じ。
Tg 氏
 ずっと(町内会長に)電話してましたね
 で、私も、ずーっと保護者に、毎週金曜日の夜電話するって言うのが私の日課なんですね。
 「いいよ、私が出すから」って同学年の先生に言って、とにかく 5 年生の先生でお世話になりま
したってこれで伝えようって。物で伝えるのはよくないけど、これだけお世話になってるんだから
ねっていうことは言って、最後に。頭下げに行ったんです。そしたら、校長もお酒を 2 本ばっか
し買ってきてくださってて、
Uf 氏
 僕も若いころ、やっぱり聞けなかったですね。で、先輩の先生は、もっと若い子は聞けばいいのに、
聞けばいいのにとか言うけど、「聞けないんだよ!」とか思いながら。何を聞いていいのかわから
ないし。いつも忙しそうにしてるっていうのもあったので。
 人間関係作らなくちゃだから。あの、人間関係を作るために、日ごろどう関係を、どういう遊びを
するかとか、一緒に食事に行こうかとかいうこともすることは。
 月 1 回、一人ずつおいしいレストランを紹介して、月 1 回行こうやみたいな話をして。前もそれ
しよったんですよ。そしたら、今日はなになにさんのお勧めのお店やからっていってみんなで行っ
て、おいしかったとか、まずかったなとか言いながら。そんなつっこみを入れながら。すると、忙
しい方はのってこられない。けど、余裕のある方はじゃあしましょうって。結構僕も楽しかったん
ですよね。すると、毎月 1 回ぐらいやから。まあ、月 2 回ぐらいあるときもあるけど。僕酒飲め
ないんですよ。だから、そのことで、おいしいものにという話で
Ve 氏
 教材研究をしてる時に、僕も、自分の仕事をしながら待ってるっていう、そんな感じです。
理論的メモ
 ミドル教員は「ミドル」であるがゆえ、周囲からすると話しかけづらいと思われるのではないか。
これを解消するための行動ではないか。
 その思いを自身の教職経験をもととして気付いている?→‘経験を踏まえたサポート’との関係
 アイディア実現が自身の立ち位置を理由に遂行できない場合もある。こうならないために、本概念
とるような行動必要性が生まれる?
 アイディア実現にどのような影響を与えるのか。→Nm 氏の人間関係作り、そして貸しをつくる。
→[巻き込み]との関係
 ただ間口を広げるだけではダメ。この行動だけでなく、周囲との関係構築に関係する概念があるの
ではないか
 この概念は「経験」を活かしたもの。
「ミドル」としての立場をいかしたものはない?→‘立場を使
う’生成へ
 飲み会などの「場」の設定が重要なのか。それとも「コミュニケーション」に重点が置かれている
のか
 重点が置かれるのは「コミュニケーション」
。どのようなコミュニケーションであるかが問われる。
本概念の場合、自身の「経験」で培ったもの。そのほかにも考えられるか?
 Tg 教諭:地域行事廃止に当たり、町内会長・保護者への度重なる電話。そして、浮流のお礼は‘率
先行動’と重複。概念同士の関係がある?→間口を広げることが‘率先行動’を強化している。→[巻き
込み]との関係
131
概念名
定義
具体例
立場を使う
「ミドル」という立場を活用し、周囲とコミュニケーションをとる機会をもつ
Kp 氏
 1 学期終わった時に、みんな、いつも 7 月の、1 学期終わった次の日に 1 日かけて(研修を)やる
んですけど。
 自分がやったことは、必ず、毎月一回、これについての振り返りをおこなってもらう時間を設定し
てもらって、毎回これに関しての振り返りを行ってもらって、
 この時はあれやったですよ、夏休み 1 日研修。
「えー、なにするんだよ」って、最初は嫌な雰囲気
で。
 その設定はしょうがないですね。しなきゃいけないから。
Lo 氏
 だから、Bi 先生、また一緒に研究を進めている先生、研究推進の先生方とはとにかく密に連絡を
して、小さなことでも、理論的なことであっても、対外的なことであっても、とにかく共通した認
識でいれるように、っていうことをまずは一番根っこに
Mn 氏
 ケース会議を開いている。みんなで相談する、一人で悩まない、苦しまない、そういったアドバイ
スの場を敢えて作る。公式に作る。
 人間関係を良くするための中核となる。いつもニコニコ笑いあえるような学校にしたい。相談を受
けると、親身になって相談に乗る。一緒に考える。そういう立場にある。
Nm 氏
 (研究)最後の年。で、そういう中で、
(研究主任を)していったんですよね。だから、ある意味、
S 市の先生優しかったから、私はよそから来たから、協力してやろうという気持ちはあったんです
ね、最初から。
 たら、これはすごく良かったのはですね、この手続きすごい大変だったんですよ。実は 2 ヶ月かか
ったんですよね。2 カ月かかりました。2 カ月かかったんですが、この後良かったのが、次の年が
すごい良くてですね。
Ol 氏
 そうですね、職員のアンケートとか、えぇと、その、教育デイとかがあるたびに、簡単に一枚分で、
成果と人数、今日の人数は何人だったとか、この取組の成果は何かとか、課題は何かとか、協議し
てほしいことは何かとか、そのときそのときの大きな行事だけは、P のときのは、そのときそのと
きに、常にその、振り返りをしないと、
 で、個人名を当然書いてもらうから、
「こういうことですかね」っていくと、
「Ol さんこれ長いよ」
って。そしたらそのとき会話を聞いた何人かが、そこで、「そうそう、やっぱりきついやろう」っ
て言ってから。
 うん、僕がそれを見てから、で、
「これ余裕があれですかねぇ」って話に行く。特に年配の先生で
すよね。話し言ったら、
「いやー、Ol さん、気持ちはわかるけど、これ言ってよ校長に」とか。や
っぱ当然、僕に言うのは、反対っていう言い方をするときもあるし、愚痴としていうときもあるし、
やっぱそこは、学校長とちょっと違うスタンスで歩み寄ってるから。で、「そうですね」って言っ
て。じゃあ、その話を少ししよったら、横で聞いてた先生達がまた、集まって。
 それなんか、二人だけの世界で話しながら。ただし、ここは違うよね、とか、甘えとるよねとか、
なんかそんな、真っ向勝負を校長とは二人で話しできたから。
 困ってたら、ヘルプが出ればそこにはいくし。
Pk 氏
 自分が教務、担任を外れて教務をすることになったときに、まず、ミドルがミドルで、なんていう
のかな。意見交流できる場面、場を作って、
 ミドルを集めて。ミドルの中で、こう、あんたたちが、両方を引き上げていくような動きをこれか
ら作っていかなくちゃいけないよっていうような話をした。そういう機会を持つように、意識しな
がら話をしたことはありますね。
 改めてミドルだけが集まって話するっていう。しょっちゅう定期的にやるっていう形ではないけれ
ども。機会があれば、そういう働きかけを、意図的に、意識的にはやるようにしてましたね。
Qj 氏
 まだ同僚やけん言いやすいとね。もし僕が校長だったら言えない。突っ張っていけとかさ。同僚だ
から言いやすいね。
Ri 氏
 ただ、研究会の、自分がちょっと見たいなっていう研究、授業研があったときに、ちょっと若い子
を誘ったりとかはしました。「先生、ちょっと見とったらいいよ」とか
132
 もう、やるべきことを与えておくしかないですね。授業発表者とか。そうでなければ動かない
Sh 氏
 Nっていうのは教科書がないから、ずっと教材とかも自分たちで作っていくんですけど、やっぱり
ここでつまずいている子にはこんな風にしたらとってもできたよとか、教材としてはたくさんこち
らで持っているので、そんなのを使ってねって。データはここにあるからねっていうのはいつも言
ってるっていうのは、私にできることかなって思ってしてるでしょうかね。
 とか。教材はね、ここらへんで作ってるので、こんなの作ったよ、見て見てとか。
 個別の支援に関することとか、教材とかをずっと、先生がたは教科書を使ってるけど、私は手作り
の教材をつかってきてるから、なんかそういうところは。
Tg 氏
 勝手にやられたら困るみたいなことがあるので、極力、放課後の時間、少しでもいいから、今の学
級の現状を話し合うとか、授業について共通理解をとりながら進めていくとか、そういうのを極力
気をつけていますよ。朝がなかなか無理なので、せめて放課後ぐらいと思って、ちょっとでもね、
時間をとってですね。
 よかさ、私が出すけんって同学年の先生に言って、とにかく 5 年生の先生でお世話になりましたっ
てこれで伝えようって、物で伝えるとはよくなかけど、これだけお世話になっとるとやっけんねっ
ていうことは言って、最後に。
Ve 氏
 模擬授業するって言われたら、もう、自分は、一応研究主任としてだけど、もう、参加しますって
いう感じのこととか
 やっぱり、授業に向けて模擬授業とか教材研究とかするんですけど、そういう環境は整えましたよ
ね。
 とにかく目標をまずみんなで共有できるような場をとりますよね。
理論的メモ
 多忙化の中で強攻的にアイディアの提案・実現を行うと、反発も予想される。その他のコミュニケ
ーション、または前提となる基盤があるからこそできる行動か?→[基盤の構築]との関係
 フォーマルな場は設定するだけでなく、現存の物を「利用する」という解釈もできる。
 「場の設定」に意味があるのか?それとも、
「コミュニケーション」に重点が置かれるのか?→必
ずしも特定の場が必要なわけではない(職員会議など)
。つまり、重点が置かれているのは「コミ
ュニケーション」
 「ミドル」としての立場を活かしたコミュニケーション内容に特化したものもあるのでは?→‘子
ども情報での会話’生成へ
 研修などを用いた発信=‘ツールを用いた発信’と重複することが多い。立場を使うことが影響を与
えている?→[改善策の可視化]との関係
 振り返りの場を設定することで、周囲の[巻き込み]を可能にする?→[巻き込み]との関係
 一方で、周囲の負担感を一層強める危険性もある。立場を使って場を作ることはもろ刃の剣?
 「場」作りというよりも、
「ミドル」という立場を使った「機会」作りでは?
133
概念名
定義
具体例
成長の探求
子どもや教師、組織、自分自身の更なる成長をめざした目標を行動指針とする
Kp 氏
 やっぱ、参画意識を育てたいと思ったので、
 目指す子どもの姿を 3 月の子どもの姿をして。
Lo 氏
 最終的に子ども達に還元できる、
「これならやれるよ」って思って頂けるような形での提案だったり
とかはしていったつもりです。
 まずは何が今、子どもたちに力が足りなくて、自分たちはそういう風に困ってる、ここから手を付
けて、みんなで手をつけていけばどうにかなるんじゃないかなっていう。問題意識を共有してもら
う
 それって、自分たちが叱りつけるだけじゃなくて、困った困ったって言うだけじゃなくて、ちょっ
と違う角度から勉強していけば、その「困り感」がもしかしたら解消できるかもしれない。子ども
たちを助けることができるかもしれない。そして、それがたまたま今回は特別支援の視点から見て
いったら、通常の子どもたちにも、それがとてもいい方向じゃないんですかっていうことを、まず
最初の 1 学期の段階で提案をしていただきました。そこのところからですね。
Mn 氏
 時代が変わっても変わらない子育ての真理を伝えるチャンスは学級通信よりも何よりも懇談会で直
接話すこと。
 「こんなときに子どもはほめてほしい」
「そうすれば能力をあげることになる」ということを分かり
やすく説明した。
Nm 氏
 本当にそれは子どもの言葉として出てこないんですね。
「子どもはこうだからこうしたいんだ」とか
いうのが出てこないんですね。
 もう、すごい単純で、
「いい英語活動は何か」って。それだけなんですよ。指導要領も何もないから。
いい英語活動とはなにかっていうのを、いい英語活動とはなにかっていうのを追求しただけで。
 ただ、その代わり言ったのが、一つにしたいと。みんなの気持ちを一つにしたいから、ここはとこ
とん話し合いたいですという話をしたんですね。
Ol 氏
 そうせな学校、公立学校は、なんていうか、ダメですよ。もう、ぬるま湯につかって。って、自分
は思って、おもしろく、おもしろくないっていったら語弊があるけど。あんまり魅力が、何を一生
懸命やっても少し手を抜いて。ベテランになったら当然、手はなんぼでも抜ける。でも給料はきち
っと確保されてる。なんかその矛盾の中で、学校の形がどんどん、社会が変わってるから、変わっ
てきてるはずだけど。
Pk 氏
 出来ることからでいいから、少しずつでも動いていければいいなぁというような、動き方を今意図
的にはしてるんですよ。上に、ちょっと突くと、そこはやっぱし、こういう世代、教務、自分も教
務してたし、そういう教務の横のつながりと、で、そこのメンバーから下を育ててもらうような動
きと。そういうような組織になっていければいいのかなと常々思ってるけど、
 6 校のうち 3 校が主幹教諭がいるから、その先生方の力を借りながら、そこもやっぱり、意図的に
協力してっていうことで、結局、そこも下と、若い 2 年目、3 年目の先生たちとも繋がって、勉強
する風土とか雰囲気を、組織の中に作っていきたいなっていうの(思い)があったから。
Qj 氏
 平和教育と総合、どう取り組むか。実践的な活動。実践的活動にこだわりましたね。ただの調べじ
ゃなくてね。
Ri 氏
 誰も良い授業をしたいっていう思いはあると思うんですよ。特に、中堅層は子どもとの世代のギャ
ップというか。今までの貯金が使えなくなるような、やっぱ新しいことが必要なので。中堅のあま
りやる気のない先生たちも、やっぱりよくなりたいっていうのはあると思うんですよ、子どもたち
と一緒で。
Sh 氏
 そういう学習をするところがN学級なのよねっていう話をしたときにですね。6 年生に、もっと突
っ込んで、Nのことだけじゃなくて、そこから、もっと広げて、障害理解をできそうだなってなん
か思ったんですよ。
134
 Nだからいじめられてるとか、Nだからできないとか、そういう風に思われてるのがすごく、私は
くやしいし。これは啓発していかないといけないと思ってるんですよね。
 何かやっぱり、Nの子って、すごい頑張ってるんだなっていうのを、伝えたいなっていう気持ちは
ずっとあったんですね。
Tg 氏
 やっぱりね、子どもの姿を見たらすごいなぁって思うし、絶対にマイナスではないなって思うんだ
けど。やっぱり、今の中で、それに割ける、時間的な余裕がなくなってしまった。で、毎年変わる
担任が、担任が教えろって言われても、それも不可能といえば不可能。浮流をやめるかどうかって
いうのは悩んだとね。農業センターの体験さえやめればなんとかなるなって思ったけど、農業セン
ターもやめられない、平和もやめられないってなったら、どうしようもなかったんですね。
 もっとね、適切な方法がもっとあるんじゃないかって私も悩むんですね。悩むんだけど、できない。
Uf 氏
 子どもの意識をこう付けましょう。子どもが自主的にやるっていう意識をもってやるために
 これは子どものためにならんなって思ったりとか、そこはこだわっていかないといけないなと思っ
たところは必ず言うようにしていますし
Ve 氏
 「ボトム」をなんとかしないといけないじゃなくて、自分としての力量を上げない限り、絶対巻き
込めんなって。下も経験してたからですね。みんなこう、下も経験してどんどん上に上がって行く
んですけど、この立場になったからこうしようじゃなくて、こういう意識は絶対必要かなって思い
ましたね。
 子どもを育てるっていう部分では、目標は共有できるなって思ってるので。
理論的メモ
 アイディア実現の成果として、
「子どもの姿」を示すことと似ているが違う。子どもの姿を示すこと
は具体的な手段。
 [巻き込み]の一つか?
 Tg 氏の相互作用対象は子ども(5 年生)だけでなく学年教員も含む。その場合、「子どもの成長」
を自分たちの負担軽減のための方便として使っているにすぎないのでは?地域行事の廃止は翌年で
あり、自分たちは楽になるわけではない。
 子どもの成長だけか。自身の成長、教師集団の成長のはない?結果としては子どもに現れるのかも
しれないが、教師の成長、組織の成長の探求も含まれる
 成長の探求があるからこそ、他教師とのコミュニケーションをとる。プロセスの一つとして表せる
のではないか。
 何のためにアイディア実現行動をおこなうのか、という目的に関する概念。原動力でもある。→ア
イディア実現に関する全行動と関わる→[成長の探求]カテゴリー化
135
概念名
定義
具体例
異なる価値観との遭遇
課題解決策としてのアイディア発案を契機とし、周囲が抱く、自身とは異なる価値観と遭遇する
Lo 氏
 多分、他の先生方にはご理解いただけないところもあったかなと反省してます。
 難しかったと思います。自分の反省は、そこのところで、一応伝えたつもりではあるんですけど。
必要性はわかった。でも、実際にその、先生方の、担任をしている先生方の問題意識とかを色んな
ところを掴んでいたかっていったら、足りなかったかなぁと思います。
Nm 氏
 そういう話をしてても、研究難しいから、任せますっていう学年が三つあったんですよ。6 個ある
うちの。結局なんか、なんていうんですかね、結局、研究自体が「させられている」なんですよ。
「自分たちがしなくちゃ」とか、
「子どもをこういう風にしたいな」っていうのが薄い。チームって
いうか、6 分の 3 だから半分なんですよね。もう、研究主任が言った教科にするし。もう任せます
っていう、ちょっと、自分が巻き込んでいない状態。
Ol 氏
 学校の先生の論理は、子どもが不安定になるからダメだとか
 そんなの現実ないんだけど、それぐらいのトップはトップで、下に求めるトップダウンをするなら、
責任を取る、そんなつもりでやっぱりやらないと、当然真剣勝負にならないし、こっちも真剣勝負
じゃその意味ではない。結果が出なければ責任をとるなんてそんなことないし。こっちはこっちで
ただ、既得権益を守ってるだけだし
Pk 氏
 その捉え方ができない先生の中には、
「なんで自分が、下に揃えないけんのか」と。自分はまだ若い、
まあ、若いっていっても、教職経験 5 年 6 年 7 年になるぐらいの年だったんだけど。自分が年配、
あるいは若い講師、自分がなんで下に揃えなきゃいけないんだって。
 正直その先生は難しかったんですよ。難しかったというか、そこは最終的には、姿見たらワンマン
で走ってるっていうことはないんだけれども、そこは十分に理解を。ことあるごとにそういう話を、
してたんだけれども。まあ、納得、こっちの意図が上手く伝わって納得してもらえたかっていうと、
そこまではなかったかなって。そういう気がしますね。
 こちらの中で本当にそっちに納得させられて、
「よしやろう」って、そういう空気が高まったかって
いうと、そこまでは正直なれていなかったですね。そこはちょっと、自分の持って行きかたもあっ
たのかもしれないし、その辺は難しいところではありましたね。
Qj 氏
 まあ、色んな声が、色んな意見があるにしても、私はそういうつもりだった。そういう思いだった。
利用せんばいかんって
 やっぱり、本当に、本当に理解してないっていったらあれだけど、面倒くさいじゃないですか。一
個一個。担任が書くのは。慣れてるじゃないですか、3×4 って。3 センチ×3 人分っていうのには慣
れてない。あ、4 人分ね。だから、本当に必要性を感じてない人は、やっぱり書いてないわけよ。
Ri 氏
 みんなは、
「今自分がしようとしてる学習ではどうすればいいの」まで待つんですよね。本当は私は、
そこは自分で考えるっていうのが研究だと思うんだけど…。でも現実は、そこまでみんなは研究を
自分の中心に置いてない
 いつも、例えば授業研だとか、実践報告だとか、きついことばっかりなので、
「あぁ、また」って感
じだし。上もそういうことある。結構やっぱり孤独面はありますね。
Sh 氏
 日曜日に私と、もう一人の同学年の先生と、校長先生もきてもらって、お願いしますって頭を下げ
に行ったんですね。地域の浮流の世話役の人が集まっていただいて。その中でね、やっぱり、出た
わけですよ。もう、余裕がある方は子どもに教えたいわけですねだから、どんどんいくらでも協力
しますよっていう方と、こんなことをね、背負ってたら自分たちの仕事が成り立たんって。だから、
もういい加減にしてほしかって言われる方と二つあったわけね。
 でまあ、教えてくださる人たちのご意見もあったわけじゃないですか。教えに行くのは大変かとっ
て。仕事はね、結局、学校に教えに来るってことは、午前中っていうか、勤務時間にこんばっさ。
それに来るには休まんといかん。大変かとって。一人の大工さんが、もうそがんとに行くとやった
らあんたのところに頼まんでよそに頼むけんって言われて、生活のかかっとるけんなって言われた
って言われたんですよ。
 地域の人の気持ちもわかるんですよ。子どもにずっと伝承していかないと、消えていくでしょう。
だから、させたいっていうのもあって、総合が始まった時に結局お願いしてずっと入れてたんです
よ。ところが、どんどんどんどん総合の時間は減っていく。授業は増えていく、ということで、学
校だけではやれなくなってるんです。その中で、学校がするっていうのはきついわけですね。
136
 多分、5 年生の思い(=浮流を残したいという思い)はちょっとあったと思いますし、
 ここまでなってるのはね、ある意味病気かもしれないって。そして、専門機関の話を聞くとね、変
わらないかもしれないけど、いろんな事例を聞いてね、適切な指導ができるかもしれないというこ
とで、もっていきましょうということを 4 人で話し合って、お母さんに来てもらって。お母さん泣
かれたんだけど、でも、持っていくことになって
Uf 氏
 あ、当然いると思います。今までと違うことをするっていうのは、かなり、保守的な人にとっては
厳しいんだろうと思うので。まあ、色んな不安な方がいらっしゃるので
 その抵抗というよりも不安。その不安をどう解消するかっていうことで。
Ve 氏
 「私専門じゃないし、自分はそんなに授業に対して評価とかできない」って思われてる先生も、い
るんですよ、絶対に。
理論的メモ
 ‘周囲の負担感への気づき’生成を受け、「周囲が示す抵抗にも種類があるのではないか」との疑問か
ら生成した概念。「乗り気ではない(負担がある)」と「考えが違う」は似ているが違う。
 「そもそもそれは問題ではない」と感じられることを表すデータ
 すべてのアイディアが受け入れられるとは限らない。抵抗を示す人がいたとき、権威の所在が不明
確なミドル教員にはどのような対応が求められるのか?その後の対応はどのように行うのか。→[巻
き込み]との関係
 アイディア実現を阻害するものは抵抗以外にもあるのではないか。例えば制約→時間的切迫や不安
→データから読み取れるのは、「ミドル」という曖昧さ→‘あいまいな立場の自覚’生成へ
 一杯いっぱいな状況では、余計なお世話と感じられることもあるはず。しかし、具体例が少ないの
はなぜ?→抵抗が起こらないような事前の根回しが行われているため、具体例が出てこない?
 周囲との価値観の齟齬が起こるということはとはすなわち、巻き込むべき対象を発見するというこ
とか→[改善策の可視化][巻き込み]との関係
 ミドルに至るまでの経験で、異なる価値観に直面することは感覚的にわかっているのではないか?
(例)Ol 教諭「学校の先生の論理は」
137
概念名
定義
具体例
本音の認知
「ミドル」という立ち位置ゆえ、理想と現実のギャップに直面し、子どもや教師が抱く課題に気付く
Lo 氏
 こういう小さな「困り感」が日々の授業の中であるんじゃないかって。それぞれ大きかったり小さ
かったりするけど、それぞれ担任が毎日授業で接して、毎日授業をする中で、ちょっとしたことに
困っている。
 その何年か前から、教師の間、教師の中で、いろんな子ども達の困った、
「こういうことが困ったん
だよね」って。
「こういうことでなかなか今までの手立てがうまくいかないよね」とかいう話が出て
きて。
 でもたぶん、もしかしたら先生だけじゃなくて、いろんな先生方が大なり小なり同じような悩みを
抱えてらっしゃるんじゃないかなって
Mn 氏
 1 年生の親は参観後、子どもと一緒に帰りたい。そのため懇談会に残る親が少ない。
(中略)今の親
は子育てについてよくわかっていない。
Nm 氏
 広がりはあるんですけど深まりがないというのに気付いて、
Ol 氏
 親からは好評である。だけど現場の現実はこういうところがあるで、その、親からのデータとか、
先生達からの振り返りとかをちょっと整理してから
Pk 氏
 自分が教務をするときも、それまでの前、5 年間ぐらい、病休の先生がずーっと毎年出てたんです
よ。
Qj 氏
 その時はですね、平和うんぬんって言う前に、その前があるんですよ。Z の場合、何にするにして
も、平和するにしても人権にしても、なんにしても。する時間ないんですよ。時間割的に
 特に総合の係って、まだ曖昧やけんね、そのころはですね。手探りじゃないですか、どうしようか
って。手探り状態の時期だったから、
 Z 市内で、どれくらい平和教育、人権がね。カリキュラムの中に位置付いてるか。それは問題です
よ。
 ところが教科書で言えば、単位何も書いてないわけね。だから数字の羅列なんですよ。ノートに書
いた時。教科書見てもね。
Ri 氏
 そこで何を抵抗示してるのかなって見た時に、やっぱり指導案を書いたり、する部分っていうのが
すごくわずらわしい。
Sh 氏
 で、ここにはF学園っていう、作業所とかもあるんですけど、そこの方たちを軽蔑したような言動
をしたような子どもたちがいるので、
 それからガイジ発言がやっぱり U 小学校でもあるので。
 やっぱり、子どもたちはいつもNの子どもたちとも接するからそんなんじゃないんだけど、大人の
方がすごい偏見を持ってるなっていうのはすごく感じるんですね。
 できなくて、できなくて、
(組体操の)肩車ができなくて、ある日突然できた日とか。もう、すごく
涙が出るほど嬉しいんだけど…。運動会の場って、
(運動会へ向けて行った)練習っていうのは見せ
られないじゃないですか。走ってもやっぱり遅かったりとか、でもすごくバトンを渡すのが上手に
なったりとか。カーブを曲がりきれないでこけていたのが、こけずに走れるようになったりとか。
差が少しずつだけど縮まってきたりとか…。確実に成果があるんですね。だけど、その場では、地
域の人にはわからないですよね。保護者、子どもたちのお父さんとかお母さんはよくわかってます
よね。ずっとお知らせとかもしてきてるから。
「自分の子どもの演技に涙しました」とか言われたけ
ど、全ての人にそれがわからないので。
Tg 氏
 私が 2 年前 5 年生を持ったとさね。総合の中身が、5 年生がとても大変で。
 これはこのままにしてたら、5 年生は大変なことになるということで、基本的に浮流をなんとかや
めるしかないんじゃないか。
138
Uf 氏
 で、それが子どもに対して、それはちょっと間違ってるよっていうところがあるので
 紅白リレーは一部の子しか出ないじゃないかという指摘があって。で、私もそうは思うんです。あ
の、同レベル、均等でなくてはいけないと。しかし出たい子を減らす、これはまた子どもの意識と
は逆だろうと
 先生達もなんかこう、やっぱり紅白リレーっていうのはすごく盛り上がるし、だけど一部の子。出
す方は結構厳しいんですよね。見ている方は楽しいけど、出す方、選ぶ方は「あ、この子たちだけ」
っていう感じになるから。
 ただ、みなさん思ってるのは、この、ね、何人か選ぶのはつらいよなっていうのは。
Ve 氏
 日常化されてないんですよね、やっぱり。毎日の、研究授業の。研究したことが日常の授業に生か
されてないので。
 提案をして、僕はずっと悩んでたのは、先生方は、自分の提案に対して、やっていただいてるんで
すけど、「いや、そんなんせん」とかそういう風なことはなくて、ちゃんと、「こういう風なことし
ましょう」ってことに対して、やってもらえるんですけど、
「ミドル」の立場から言って、なんか、
本当に巻き込んで、みんなで取り組んでるんだろうかっていうのが、ずっとこう、心の中で葛藤が
ありながら研究主任をしてたなぁって。
 本当に僕が言ったことに対してやってくれるけど、本当にそれをこう、創造的に、主体的に研究を
進めてくれてるかなぁって。
「Ve 先生が言うからやってる」っていう部分があるんじゃないかって、
正直なところで
 組織としてはすごく、状況としては先生たちすごく頑張ってくれるし、いい組織なんですけど。本
当に、主体的に関わってくれてるかなぁっていうのはすごくずっとあったので。
 素晴らしい先生たちがいるので、やっぱり協議会の時も、質問とか意見とか出にくかったのもその
辺に要因があると思うんですよね。ずっと算数の伝統校で。協議会でも算数の専門家が何人もいて。
言いにくいじゃないですか、専門外で。だから、僕とかはずっと算数をしてたから、そういうとこ
ろには意見も質問も言えるんですけど。僕はずっとそういう思いがあったんです。だから、何人か
で引っ張ってて。やってくれるけど、本当にそういうのがあって。
 自分が提案してるんですけど、それをちゃんとこう、本当に主体的に、こう、下の先生方が関わっ
てもらってるかなぁっていうのは、いつもこう、自分自身の反省を含めながら考えてましたよね。
 ボトムの先生たちにとっては、色んな教科を特徴としている先生たちがいて。算数を専門としてる
先生も、V 地区を引っ張って行くような先生たちがいるので。結局、なんていうんですかね。その
先生たちが言われることを、そのままやることが、いいんじゃないかっていう。
理論的メモ
 アイディアは即時的に生まれるものではない。日々の生活の中で目に飛び込む光景や他教員との何
気ない会話、子どもとの会話の中によってムクムクと「何か変えなければならない」という思いが
沸き上がる。これが契機となってアイディア実現への行動が動き出す
 単発的な経験(刺激)ではなく、積み重ねが現状把握を生み出す。これにはそれまでの「ミドル」
の経験も影響する?→[基盤の構築]との関係
 意図的・戦略的に現状を理解することはないのか?
 本概念の骨子である「現状を把握する」の「現状」とは何かを分析テーマに照らして考える必要あ
る→勤務校の「課題」
 アイディアが生まれる契機となった現状。それゆえ、アイディアの「目的」と関連した内容となる
はず→[成長の探求]との関係
 相互作用相手はどの範囲か?→自校の教師、子ども、保護者、地域住民
 「自校」だけに限るか?→平和学習のカリキュラム(Qj 教諭)は学校を超えた実践。
 相互作用相手は「自校に関る」人物が多い。つまり、自校の現状把握という意識が強い。「ミドル」
らしい現状把握とは?→きれいごとでない日常、本音の理解。→‘あいまいな立場の自覚’[基盤の構
築]との関係
139
概念名
定義
具体例
子ども情報での会話
子どもと接する機会が多い「ミドル」という立場を活かし、自身がもつ子どもに関する情報を用いて
周囲との会話を行う
Lo 氏
 この子に対して、この彼女に対しては、私がこうすればって言えば彼女はすると思うんです。それ
で彼女が育つかな、って思うんです。話を聞くようにしてるっていうのは、クラスの子どものこと
で、先生こういうことがあってってちょこちょこ小さなこと、困ったことを話してくれる中で、
「あ
なたはその時にどう判断した?」
、
「どう声かけた?」って。あなたはどうしたかっていうことを全
部言ってもらいます。「こうこうしてこういう風にやってんです」って、全部聞き取って、その後
に自分の考えを。「あなたのこの判断は、もしかしたらこういう風に言ったほうが子どもはよい反
応をしたかもしれないね」とか。
Mn 氏
 昨年同学年だった先生が持ち上がっているので話しやすくもある。自分の持っている子どもの情報
を伝えることで、保護者に聞くことなしに子どもの情報を得ることができている。
Nm 氏
 で、周りの先生たちも、みんなが苦労していることを知ってるんですよね。結局その、年休とか先
生方が取れない状態。年休とっても誰もクラス入れませんよ、補助つきませんよって。ブランコ少
年がおったからですね。っていう状態だっていうことを知ってるから。
Ol 氏
 例えば生徒指導が最近問題行動が増えよるよねとかなったら、やっぱ、そこの部分の担当、例えば
生徒指導担当と一緒に話しながら進めていくとか。
Qj 氏
 俺たちはこれだけ動いたやっかって。そしたらね、言えない。言えない。私には。そいけん、それ
は他の職員に話してたとさ。今年も泣かしたって。次の担任がさ。
Ri 氏
 自分の、とても地域的に厳しい学校なので、自分のクラスも厳しい子はいるし。例えばそこで親が
色んなことが来たときのことを、話しますね。「うちのクラスでこんなことがあってるよ」ってこ
とを話すと、
「うちも…」っていう風に口を開く若い方は多いし
 いろんなクレーム来た時に、そこで終わらせないで、ちゃんと返事を返す、後日。そういう風に気
をつけんといけんねって、そういう話をして
 いや、なかなかしてこん子がおったけど、こんな風にしてさせたよとかいう話をすれば、「あぁ、
出来るもんなんですね」とか
Sh 氏
 Ne 先生ともよく話すな。でも、Mc さんを通してが多いですね。Ne 先生を通して、Ne 先生とも
最近話す。こんな感じでしょうか。
 私は子ども達のデータが欲しくて写真を撮ってるんですけど、運動会も、子ども達のアルバム、生
活単元学習でアルバムづくりっていうのでほしくって写真を撮ってるんだけど、でも、撮ってるう
ちに他の子どもも写すわけじゃないですか。そうなったときに、一度校長室の前にかざったら、子
どもたちがすごく見てるんですね。そこにすごく子どもたちが集まってるんですね。で、Sx 校長
先生は、校長室をオープンにするみたいに考えてられたので、子ども達が寄ってくる。でまあ、保
護者にも、修学旅行の様子とかわかるしと思って。持ってるデータで作れるものは、遠足だったら、
歓迎遠足だったら一番関係あるのは 6 年生と 1 年生に向けて作るとか。好きでやってるんですけ
ど。
 6 年生で作ることがあるので、できたらすぐ掲示板にはるよって言って貼って下さったり。最近は、
作りましょうかじゃなくて、もうこれ作ったからっていう感じで渡してます。で、例えばキャッチ
フレーズとか、子ども達の吹き出しいれるとしたらどんな言葉がいい?っていうのを相談するのは
Mc さん。
Tg 氏
 で、あとは問題が色々起こったときに、妹さんいるよね、1 年生に。どう?保護者とどう?って、
ちょっと 1 年生のところに行って話してみたりとか。そういうことがたまにあるくらいですね
 たまたま、今初任の先生が 3 年生を担当してるんですけど。私その学年を 3 年の時にもったこと
があるから。
「先生の時どうでした、3 年のとき」
「あの子のところはね…」ってそんな立ち話をす
るぐらいで。
 私たちが学年ではなくて全体でつながるのは、児童理解研修会っていうのがだいたい月に一回ある
んですよ。これは意外と今どこの学校でもやってるもので。このときに、一応学年で気になる子と
かを上げるんですね。挙げて、共通理解して、もしよかったら会った時に頑張ってって声をかける
だけでも違うよって言ってやってるんですが。意味はあるんです。意味はあるんですが、うちみた
140
いに大きいところ。例えば、1 年から 6 年生までのいろんな問題を抱えた子どもたちを知るのに 1
年かかってしまうんですね。職員会議のうちの 15 分ぐらいで、あぁ、3 人しか今日も挙げられん
やった。っていうような感じで。なかなかできないんですけど。ただ、必要ではあるんですね。
(中
略)例えば、うちにはお兄ちゃんがいるんですけど、お兄ちゃんはこうでしたみたいな感じで、ち
ょっと共通理解をして、そうなんだ、そんなことがあるんですね、ここのおうちの方はって、そう
いうことも分かるじゃないですか。そして、この子は、先生たちから頑張れって言われたら、すご
くやる気を出す子なので声かけてくださいって言われたら、会った時に、よ、頑張らんねねって言
えるよね。そういうの、やっぱり効果があるんですよね。
 例えばちょっと気になる子。ひょっとしたらこの子パニックになるかなっていう、そういう情報と
かは、伝えますね。確かな情報じゃないけどね。
Uf 氏
 あ、ここは絶対しないぞとか、これは指導してやらないといけないかなということもありますので
ね。年齢で、ただ、若い、なりたての方にはこちらから教えてあげなくてはいけないな、子どもへ
の声のかけ方とかは
 前もってた、私のクラスを持ってたんですよね。だから情報もいろいろ聞きたいんですけど、一緒
に行動しながら、指導じゃないけど子どもたちにこんな声かけしたほうがいいよって
 するんやったらこういう風に声かけてみんなで共に育ちましょうってしたほうがいいですよって
ことを言ってたし
Ve 氏
 やっぱり廊下を通る子どもの姿とかから、
「あ、この先生は」っていうところが見えるんですよね。
 よく、学年会とかして話し合いをしてたりとか、やっぱり子どもが育ってたら、授業力量が高いん
だろうなって。しかも自分のクラスだけじゃなくて、学年として子どもも育ってるなとか。
理論的メモ
 ミドルとトップを比較した場合、トップに比べ、ミドルは子どもと接する機会が多い(学級担任、
授業を担うなど)。ミドルらしさを考えたとき、ボトムに近い立場であるがゆえ得ることのできる
た子どもに関する情報でのコミュニケーション。
 ミドルという立場を活かしたコミュニケーション「内容」への着目をもとに概念生成→‘立場を使
う’との関係、<立場を活かしたコミュニケーション>サブカテゴリー
 子どもを介した会話はアイディア実現にどのような意味を持つのか?全く関係ない気はしないが
…。
 間接的ではあるが、この行動によって基盤ともなる関係構築へと繋がる。→[基盤の構築]との関係
 フォーマル・インフォーマルといった場の区別は必要ない?→「場」と「コミュニケーション」の
どちらを重要視するか?→コミュニケーションを重視。
141
概念名
定義
具体例
あいまいな立場の自覚
「ミドル」という立ち位置ゆえ現状の課題に気付く一方で、「ミドル」という立ち位置にあるため、
その課題解決へ向けた行動のとり方に悩む
Lo 氏
 実際に授業をしていく立場の、子どもの、最前線の先生たちになかなかこう、なぜそれが必要なの
かとか言うことを理解していただくことが、非常に難しかったです。
 いくら立派な研究テーマを出して、やりましょうってここら辺が言ったとしても、やっぱり、そち
らに付いてきてもらわないと、気持ちを向けてもらわないと、どうしようもないところがあって。
それが、とても難しいところではありましたけど。
 うまくいったかどうかは正直言って、1 年きりのものだったので何とも言えないところはあるんで
すけど。
Nm 氏
 そういう話をしてても、研究難しいから、任せますっていう学年が三つあったんですよ。6 個ある
うちの。結局なんか、なんていうんですかね、結局、研究自体が「させられている」なんですよ。
「自分たちがしなくちゃ」とか、
「子どもをこういう風にしたいな」っていうのが薄い。チームっ
ていうか、6 分の 3 だから半分なんですよね。もう、研究主任が言った教科にするし。もう任せま
すっていう、ちょっと、自分が巻き込んでいない状態。
 私はどっちでもいいんですと言ったら、「ここでどっちでもいいって言ったら、自分が言うのはず
るい」って言われたんですけど。
 「ミドル」は基本的に命令できないんですよ。
Ol 氏
 後々、人間関係が大きく崩れちゃうと、なかなか上手くいかない部分ってたくさんあるからですね。
 ちょうど板挟みの僕は、真面目な先生はそれで板挟みになって、苦しむんだけど、
Pk 氏
 それこそ校長、僕みたいな一教務が言っても、あれだし。だから校長から、そこはストンと言って
もらいながらとか。
Qj 氏
 (自分の考えと)逆なとがね、まとまれば、また困る。その時はその時で頑張るとさ。
 あとは管理職を押さえていればね。管理職にダメと言わせなければ
Ri 氏
 で、そのときに一番動きづらいのは、若手よりも中堅の先生たちに理解してもらうことが難しいけ
ども
Sh 氏
 6 年生の先生には指導案を見せて、こんな形でしていいですかみたいな形で
 Ns 先生はそういう風にしてくださるけど、他の先生は私に遠慮をして下さって、一緒に鏡文字し
てくれたり、後ろで見て下さったりって感じでしたね。
 なんかまたおばちゃんがなんか言いよるって思われたり、嫌われてると思う。なんか、口うるさい
って思われてると思う。思います、自分で。
 1 年目は、1 年目は、私は菜の花だけでの発表会をしたかったんだけど、まあ、1 年目やけん様子
見ときって言われて、2 年目もしたいなって思ってたんだけど、自分で基盤ができてなかったんで
すね。
Tg 氏
 むこう、地域の人の気持ちもわかるんですよ。子どもにずっと伝承していかないと、消えていくで
しょう。だから、させたいっていうのもあって、総合が始まった時に結局お願いしてずっと入れて
たんですよ。
 日曜日に私と、もう一人の同学年の先生と、校長先生もきてもらって、お願いしますって頭を下げ
に行ったんですね。
 大切な伝承が、伝統がなくなっていく、途絶えていくんじゃないかっていう思いもあるんだけど。
 いろんな指導をしてて思うのは、本当にこれでいいとかなっていうことは私たちの年齢でもあるん
ですよ。もっと違う方法があるんじゃない?この子を上げていくためにって思うんだけど、やっぱ
りいつも一人でやってる。
Uf 氏
 言いにくいのは、親との関わりを、自分の思いはこうだよって。こういう風に作っていったらいい
よっていうのはあるけど、これは子どもと、直接は、あるんだけど、直接今すぐっていう関係はな
いので、そこはちょっと言いにくいなっていうところはありますよね。こんな風にして親との関係
142
作ったらどうっていうのは遠まわしに言ってみたりとか、ちょっと考えてみたりとか。ああいう返
事はせんほうがいいよとか、例えば電話でしとって、あの言い方はいかんよとかいうことは時々あ
るけど、やっぱその部分は言いにくい部分かもしれませんね。
 僕が言ったらみんなは、若い方は、そうしなくてはいけないっていう意識になってくるだろうと思
うので、その怖さはすごくあるので。それは先生方も考えなくてはいけない。まあ、影響力が強い
ところも結構あるだろうと思うんですよね。で、そういった部分は自分も気をつけなくてはいけな
いとは思ってるので。
 あんまりでしゃばっても、僕の、やっぱり影響力の、経験が多いっていうのもあるからって思いな
がら
Ve 氏
 自分自身の課題として、そこまで専門性を持ててなかった、自分に自信がなかったっていう、ミド
ルの問題もあったと思うんですけど
 僕も弱い人間なんですけど、ミドルが一人で立つじゃないですか。で、僕結構一人で悩むんですよ、
やっぱり。どうこの人たちを巻き込むかってなったときに。
 やっぱ僕も自分がやってることを価値づけてほしかったですもんね。ここでもね。やっぱり、それ
がないと、自分がやってることは果たして・・・。下の人はありがとうとか言われますけど。やっぱり
そういう評価は欲しいですよね。
理論的メモ
 アイディア実現を阻害する制約としての「ミドル」という立ち位置。アイディア実現へ向けた発信
を行う。しかし、すんなりと発信できるのか。アイディアを出す段階でも難しさ、行き詰まりを感
じることがある。「ミドル」ゆえ生じる葛藤が起こるのではないか?
 「ミドル」という立場を使うことで周囲との関係構築を行うが、一方では「ミドル」というあいま
いな立場がアイディアの実施の障害ともなり得る。→‘本音の認知’との関係
 Ve 教諭:構築できていない「基盤」とは?→アイディアを実施に移すという決意?基自身の経験
量、権威のなさが理由か?
 「ミドル」という経験ゆえアイディアが見出されるが、一方で「ミドル」でしかないという自身の
経験量が不安へとつながっている
 「立場」のあいまいさ以外はないのか?時間的切迫、資金の欠乏など。→現時点でのデータには見
られない。ツールを用いた発信の段階で考慮されている?
 発信後も行き詰まりを感じることがある?本当にこれでいいのかという不安。→プロセスが動き出
した後は見当たらない。[巻き込み]で対処している?
 あいまいな立場を攻略するための対処法は?→代替となる権威を借りる→管理職からの後押し
(Ve 教諭)
 ミドルという立ち位置はいつ障害になる?アイディア発信前?アイディア実施において?プロセ
スのどこに位置づくのか
 「自分はこう思う、こうしたいけど出来ない」という葛藤を表す概念では?「葛藤」が前面にでる
のではないか?もがく、解決しようとする必死さがあるのではないか?
 「あいまいな立場」
、その理由はミドルとして裏付けを得ることが難しいから。判断の困難性。
143
概念名
定義
具体例
ヒントの提供
自身が発案したアイディアに関して、より効果的な実施方策を提案し、実現可能性を示す
Mn 氏
 「こんなときに子どもは褒めてほしい」「そうすれば能力を上げることになる」ということを分か
りやすく説明する。
Lo 氏
 ちっちゃなことですよね。ちっちゃな技術、スキルであったり、自分がやってみて、あ、これとっ
ても良かったなって。子どもたちの反応がよかったときは、こういうことしたよって言う風に伝え
ています。
Nm 氏
 後は専門性というか、そこ(サークル)で学んだことを先生たちに返していったり
Pk 氏
 自分が教務、担任を外れて教務をすることになったときに、まず、ミドルがミドルで、なんていう
のかな。意見交流できる場面、場を作って、これからやっぱし、ミドルのあなた達が、学年、学年
主任とかなると年功序列で年配の先生が学年主任という立場になるんだけれども、結局実際に動
く、動かせるメンバーは、やっぱりミドルの、自分達の世代だからということで(話をしていまし
た)
 ミドルを集めて。ミドルの中で、こう、あんたたちが、両方を引き上げていくような動きをこれか
ら作っていかなくちゃいけないよっていうような話をした。そういう機会を持つように、意識しな
がら話をしたことはありますね。
 改めてミドルだけが集まって話するっていう、しょっちゅう定期的にやるっていう形ではないけれ
ども。機会があれば、そういう働きかけを、意図的に、意識的にはやるようにしてましたね。
Qj 氏
 うちば調べさせればよかたいて。うちの学校を調べさせるには 5 時間ぐらいいるよって。そした
ら総合の時間なんてすぐ済む。足りないぐらい。本当にやればね。きつくないように。きつかった
ら繋がらない。長続きしないんですよ。その時はやってもね、人が代われば。
Ri 氏
 もちろん自分は提案授業するけどそれだけでわかるって難しいので、もちろん研究主題の、研修時
間に、理論の説明をしますよね。こんな風にやっていきましょうとかこういう意味ですとか
 ちょっと先が見通せたら動くので、人は。見通せるまで一緒に付き合うというか。こっち側が逆に
勉強してやっぱり、細かく細かく噛み砕いて。やっぱり、「あ、それなら私もできる」って思った
時は、もうそれはあと、先生がそれぞれやられていくんですけど。
「わからん、この理論どういう
こと」っていうときは動かないですね、人は。
 あと、それに先生たちが書いた時に、結構手を入れましたね。もうそこであんまり時間をとらせる
よりも、授業の話を相談して、授業づくりの方に意識を向けてもらえるように、ある程度自分で書
いてきたら、話をしてるのでどんな授業をしたいのかわかるから、こっちのほうで、先生、少して
にをはとか修正しますねって言ったら、いいよって言ってました。清書の原稿を出すとき。
Tg 氏
 そして、専門機関の話を聞くとね、変わらないかもしれないけど、いろんな事例を聞いてね、適切
な指導ができるかもしれないということで、もっていきましょうということを 4 人で話し合って、
お母さんに来てもらって。お母さん泣かれたんだけど、でも、持っていくことになって。
Ve 氏
 先生たちのやってる、研究に向けてやったことの価値を必ず見いだして、通信っていう形で、常に、
先生たちに発信してましたね
 上から言うよりか、こう、なんていうんですか。気付いてもらったほうがいいなって、本人に。で、
だから、通信で、文章として残して、良さと、全体に広めたいという思いでこう書いた、書いてい
たんですね。
 結局先生方は、やられてることに専門的なところで価値を見出してあげることが、大切
 整理してあげてたと言うかですね。その部分で、その先生がやりたいことをやって、その価値を見
出してあげて
 とにかく目標をまずみんなで共有できるような場をとりますよね。
 でも「先生がやってる、このことは、ここに繋がってる」っていうようなことを価値づけてあげる。
理論的メモ
 アイディア実現へのヒントを提示し、周囲を巻き込み
 何を目的しての行動か?アイディアへの周囲からの価値づけ‘肯定的評価’類似概念として考えるの
であれば、周囲からの理解を得ること?
144
 他者からの価値付けとは何が違うか?ミドル教員自身の行動でアイディアへの価値付けを行う
→‘率先行動’との関係
 周囲からの理解を得られない場合はないのか?→[周囲の「思い」の察知]との関係
 この行動はどの段階で行われるのか?アイディア発信段階?それともアイディア実施段階?→自
らのアイディアの妥当性・意義を自ら示すという、実施段階の行動。
 率先行動だけでなく、「やる気にさせる」働きかけもあるのではないか?褒める。(例)Ve 教諭の
研究通信、Mn 教諭のお礼→[基盤の構築]として行われている。巻き込みを強化する要素。
145
あとがき
学校教育に関する研究は、現在に至るまで膨大な蓄積がなされており、そのそれぞれが
意義深く、示唆に富むものばかりである。しかしそれら多くの論稿は、「科学性」あるいは
「実践性」の追求に偏る傾向がある。この両者を統合することはできないか、という思い
が本研究のスタートであり、本論ではその方法として M-GTA の提案を試みた。もちろん、
終章でも述べたように、本研究には多くの課題があることは否めず、今後も引き続き検討
を続ける必要がある。しかし、
「科学性」と「実践性」の統合、ひいては「教育研究」と「教
育実践」の統合可能性を僅かではあるが示すことはできたのではないだろうか。
また、本論は筆者自身へ大きな研究課題を残すものでもある。その具体を述べる前に、
本博士論文のもととなった初出論文を以下に記載したい。
「ミドルリーダー研究の現状と課題―研究対象と期待される役割の視点から―」九州大学大学院
人間環境学研究院(教育学部門)教育経営学研究室/教育法制論研究室『教育経営学研究紀
要』第 13 号、2010 年、pp.67-73。
「学校経営研究における方法論の検討―グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)の特徴に
着目して―」九州大学大学院人間環境学研究院(教育学部門)教育経営学研究室/教育法制
論研究室『教育経営学研究紀要』第 14 号、2011 年、pp.39-47。
「M-GTA を用いた学校経営分析の可能性―ミドル・アップダウン・マネジメントを分析事例と
して―」日本教育経営学会『日本教育経営学会紀要』第 54 号、2012 年、pp.76-91。
「教師はミドルリーダーをいかに捉えているか―自由記述データを用いた探索的考察―」九州大
学大学院人間環境学研究院(教育学部門)教育経営学研究室/教育法制論研究室『教育経営
学研究紀要』第 15 号、2012 年、pp.65-71。
「学校経営におけるミドル論の変遷―「期待される役割」に着目して―」九州大学大学院人間環
境学府教育システム専攻教育学コース『飛梅論集』第 13 号、2013 年、pp.87-101。
「学校組織におけるナレッジマネジメント―校内授業研究を通じた知識創造プロセスに着目し
て―」九州教育学会『九州教育経営学会研究紀要』第 19 号、2013 年、pp.83-91。
「学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメントの実際―運動会の運営をめぐる意思形
成過程の検討―」九州教育経営学会『九州教育学会研究紀要』第 40 巻、2012 年、pp.65-72。
「教師がミドルリーダーになる契機―概念整理を踏まえた試論的考察―」九州大学大学院人間環
境学研究院(教育学部門)教育経営学研究室/教育法制論研究室『教育経営学研究紀要』第
16 号、2013 年、pp.35-41。
上記論稿題目をご覧いただくと、本博士論文とは異なるキーワードがあることにお気づ
きいただけるであろう。それは、
「ミドルリーダー」である。
筆者はこれまで、ミドルリーダー研究を継続して行ってきた。その背景には、筆者自身
が受けた教育経験がある。筆者は、小学校、中学校、高等学校の各段階で素晴らしい教師
との出会いに恵まれた。その教師たちはみな、児童・生徒や教員、保護者、地域住民とい
った多くの人々から慕われる存在であった。当時の私は、「彼らはなぜこれほどまでに、周
囲の人を引き付けるのだろうか」と疑問を抱いていた。
今振り返ると、筆者が出会った上記教師たちはみな「ミドルリーダー」であったのだろ
う。そして当時の私が抱いた疑問は、「
「ミドルリーダー」を規定する要因は何なのか」、そ
してそもそも、「「ミドルリーダー」とは誰なのか」という研究上の問いへと繋がったので
ある。しかしこの問いの壁は高く、本博士論文ではその一端をつかむにとどまり、回答を
だすことはできなかった。
上述のように、本博士論文は未だ課題が山積した状況にある。今後の研究生活で上記課
題と向き合いながら、答えを導き出していきたい。
さて、本博士論文は、多くの方々に支えられ書きおえることができた。
まず指導教員である八尾坂修先生には、学部 3 年時から現在に至るまで、長きにわたり
ご指導いただいた。八尾坂先生の方針とは常に異なる研究スタイルをとる私であったが、
八尾坂先生はそのような私を見捨てることなく、温かく見守ってくださった。
副指導教員の元兼正浩先生には、研究の奥深さをご教示いただいた。元兼先生の存在が
なければ、本研究は成立しなかったと言っても過言ではない。研究者として、教育者とし
て活躍される元兼先生の姿は、私にとって目標である。
同じく副指導教員の田上哲先生は、
「社会科の初志を貫く会」や富山市立堀川小学校をは
じめとする多くの学校へ誘っていただいた。授業研究、子ども理解という視点から教育を
捉える田上先生のまなざしからは、
「教育(研究)の在り様」を再考させられた。
窪田直樹先生、楠本正信先生、池田一幸先生をはじめ、研究調査に応じていただいた多
くの先生方、そして 6 年に渡るフィールドワークの中でともに学んだ子どもたちにも感謝
申し上げたい。皆様が私に与えてくださった経験は、何ものにも代えがたい貴重な財産で
ある。
本論文の研究方法論として用いた M-GTA には、その方法論を考究する場としての研究会
がある。私が所属する M-GTA 研究会、九州 M-GTA 研究会では研究発表の場を与えていた
だくとともに、スーパーバイズをお引き受けいただいた小倉啓子先生をはじめ会員の皆様
には、的確なご指摘をいただいた。
九州大学大学院人間環境学府教育システム専攻社会人修士課程の先生方に学んだことも
多い。特に平嶋一臣先生、新川由美子先生、清田雄二先生には、論文執筆にあたり多くの
ご助言をいただくとともに、
「学校の実際」をご教示いただいた。
本研究室の先輩・後輩である倉本哲男先生、露口健司先生、大竹晋吾先生、日髙和美先
生、雪丸武彦先生、楊川先生、梶原健二先生、波多江俊介さん、田中綾佳さんには、研究
指導、大学院生活、日常生活と多方面で支えていただいた。これからもこの繋がりを絶や
すことなく、後に続く後輩たちへ引き継いでいければと思う。
今年度から、寺床幸雄さん(地理学)、吉武由彩さん(社会学)、金子研太さん(高等教
育)と「箱崎探求会」なる研究会を立ち上げ、本論文執筆においても多くのご指摘をいた
だいた。彼らとの学際的な研究交流は、自身の幅の狭さを痛感する刺激的な時間であった。
彼らと近い将来行う共同研究へ向け、まずは自身の研究力量を高めていきたい。
そして、九州大学での 9 年間を振り返るうえで、金子研太さん、清水良彦さんの存在を
欠かすことはできない。同世代の研究者として、そして友人として、ともに笑い学んだ日々
は一生忘れることはないだろう。二人に出会うことができ、私は幸せだった。
そして最後に、家族へ感謝を伝えたい。
「中学校教師になる」と宣言し、故郷長崎をでた
9 年前。突然の方針転換にもかかわらず、今こうして博士論文を書きおえることができたの
は、私のわがままを許し、後押しをしてくれた父、母、姉、甥の存在が何よりも大きい。
私を育ててくれた長崎の教育へ、いつの日か貢献できる研究者になることが家族への恩返
しになると信じ、より一層研究に励む所存である。
「教育は何のためにあるのか。そして教育に関わる私たちにはなにができるのか?」
卒業論文の「あとがき」に記された問い。中学校教師を目指していた5年前の私から、
現在の私への問いである。その答えは博士論文を書きおえた今もまだ、出すことはできな
かった。
いつか、その答えにたどり着けるよう、一歩ずつしっかりと自分の路を歩んでいきたい。
2013 年 12 月
九州大学箱崎キャンパス教育経営学研究室にて
畑中 大路
Fly UP