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温室効果ガス大幅削減に向けた
中長期的な戦略の必要性
平成28年8月4日
環境省自然環境局総務課長
上田康治
COP21におけるパリ協定の採択
● COP21(11月30日~12月13日、於:フランス・パリ)において、
「パリ協定」(Paris Agreement)が採択。
 「京都議定書」に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出削減
等のための新たな国際枠組み。
 歴史上はじめて、すべての国が参加する公平な合意。
パリ協定に盛り込まれた主な要素




世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求することに言及。
主要排出国を含むすべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新。
すべての国が共通かつ柔軟な方法で実施状況を報告し、レビューを受けること。
5年ごとに世界全体の実施状況を確認する仕組み(グローバル・ストックテイク)。
パリ協定の特徴・意義
すべての国に適用(Applicable to all)
包括的(Comprehensive)
従来の二分論を超えて、「共通だが
差異ある責任」原則の適用を改善
緩和(排出削減)、適応、資金、技術、能力向上、
透明性の各要素をバランスよく扱う
長期にわたり永続的(Durable)
2025/2030年にとどまらず、より長期
を見据えた永続的な枠組み
前進・向上(Progressive)
各国の目標見直し、報告・レビュー、世界全体の
進捗点検のPDCAサイクルで向上
1
将来の気候変動リスクに関する科学者の認識
<緩和による気候変動リスク低減の必要性(IPCC AR5) >
 現行を上回る追加的な緩和努力がないと、たとえ適応があったとしても、21世紀末までの温暖化が、深刻で広
範にわたる不可逆的な影響を世界全体にもたらすリスクは、 高い~非常に高い水準に達するだろう
 緩和はコベネフィット及び負の副次効果によるリスクの両方をある程度まで伴う。しかし、緩和によるリスクは、
気候変動による深刻で広範にわたる不可逆的な影響と同程度のリスクの可能性を伴うものではなく、近い将来
の緩和努力による便益を増加させる
<気候変動による主要な8つのリスク(IPCC AR5) >
 確信度の高い複数の分野や地域に及ぶ主要なリスクとして、以下の8つが挙げられている。
i)海面上昇、沿岸での高潮被害などによるリスク
ii)大都市部への洪水による被害のリスク
iii)極端な気象現象によるインフラ等の機能停止のリスク
iv)熱波による、特に都市部の脆弱な層における死亡や疾病のリスク
v)気温上昇、干ばつ等による食料安全保障が脅かされるリスク
vi)水資源不足と農業生産減少による農村部の生計及び所得損失のリスク
vii)沿岸海域における生計に重要な海洋生態系の損失リスク
viii)陸域及び内水生態系がもたらすサービスの損失リスク
<気候変動による国家間の関係、安全保障上の脅威(IPCC AR5) >
 21世紀中の気候変動によって、人々の強制移転が増加すると予測されている
 気候変動は、貧困や経済的打撃といった十分に裏付けられている紛争の駆動要因を増幅させることによって、
内戦や民族紛争という形の暴力的紛争のリスクを間接的に増大させうる
 多くの国々の重要なインフラや領域保全に及ぼす気候変動の影響は、国家安全保障政策に影響を及ぼすと予
想される
2
気温変化と気候変動による追加リスクのレベル
•
•
IPCC AR5では、気候変動のリスクのレベルに関する判断の根拠として、5つの包括的な懸念の
理由(Reasons For Concern)が示された。
1986~2005年平均気温からの気温上昇と影響の関係は以下のように予測されている。
 1℃の上昇:熱波、極端な降水、及び沿岸洪水のような極端現象によるリスクが高くなる。
また、生態系や文化など、独特で脅威に曝されているシステムで、リスクに直面するものが
増加する
 2℃の上昇:北極海氷やサンゴ礁のシステムは非常に高いリスクにさらされる
 3℃の上昇:大規模かつ不可逆的な氷床の消失により海面が上昇するリスクが高くなる
3
CO2の累積総排出量と世界平均地上気温の関係
CO2の累積総排出量と世界平均
地上気温にはほぼ線形の関係
がある。
より低い昇温目標のため、また
はある特定の昇温目標でそれ
以下に止まる可能性を高める
ためには、累積排出量をより少
なくすることが求められる。
1861-1880年に対する気温の平年差(℃)
1870年からの人為起源CO2の総累積排出量(10億CO2換算トン)
累積の排出量と
昇温はほぼ線
形関係にある。
1870年からの人為起源CO2の総累積排出量(10億炭素換算トン)
● CO2排出による温暖化を、産業革命以前と比べ、平均2℃未満に抑えるためには、CO2累積排
出量を約800GtCに制限する必要がある。
● 現時点でのCO2累積排出量は約500GtC。毎年世界で約10GtCが排出されている。
● このままの排出が続けば約30年で、 CO2累積排出量が約800GtCに達する見込み。
4
気候変動リスクの経済的意味~座礁資産~
 いわゆる「2℃目標」は、国際的な合意事項。
 この目標の達成のためには、今後、世界の化石燃料の推定埋蔵量の1/3しか、利用でき
ない(推定埋蔵量の2/3が使えない=座礁資産化)。現在の資源会社の企業価値は、
過大に見積もられている可能性。
●COP16「カンクン合意」(2010年)
各国政府が、産業革命以前から
の平均気温上昇を2℃未満に抑
制することに合意(2℃目標)
●気候変動に関する米中共同声明
(2015年9月)
2℃目標を念頭に、今世紀半ば
までの戦略策定の重要性を強調
●パリ協定(2015年12月)
世界共通の長期目標として2℃
目標のみならず1.5℃への言及
世界の化石燃料の
推定埋蔵量に含まれる
CO2 2860ギガトン
565~886
ギガトンCO2
利用できる
2℃目標達成
化石燃料
のためには、
1974~2295
ギガトンCO2分の
化石燃料が利用できない!
座
礁
資
産
出典:Carbon Tracker「燃やせない炭素2013」より作成
5
気候変動リスクの経済的意味
 世界経済フォーラムが発表するグローバルリスクの上位に、「気候変動による災害」
「温室効果ガスの排出量の増大」といった、気候変動関係のリスクが2011年以降
継続して選定されている。
【世界経済フォーラム】
ビジネス界、政界、学界、社会におけるリーダーが参加し、世界・地域・産業のアジェンダを形成する国際機関。
●発生の可能性が高いグローバルリスクの上位5位(世界経済フォーラム)
※赤字は気候変動と関連があると思われるリスク
2011年
2012年
2013年
2014年
1 気象災害
極端な所得格差
極端な所得格差
所得格差
重要な地域に
関する国家間
の対立
大規模な強制
移住
2 水害
長期間にわたる
財政不均衡
長期間にわたる
財政不均衡
極端な気象現象
極端な気象現象
極端な気象現象
3 不正行為
温室効果ガス
排出量の増大
温室効果ガス
排出量の増大
失業及び不完全
雇用
国家統治の失敗
気候変動の緩和
と適応の失敗
4 生物多様性の
サイバー攻撃
水供給危機
気候変動
国家の崩壊又は
その危機
重要な地域に
関する国家間
の対立
水供給危機
高齢化への対応
の失敗
サイバー攻撃
構造的な失業
及び不完全雇用
重要な自然環境
の大規模破壊
喪失
5 気候変動による
災害
2015年
2016年
出典:World Economic Forum「第8回グローバルリスク報告書」
6
将来のリスク低減に向けた取組例
 大幅削減が前提となれば、化石燃料への投資は座礁資産となるリスクがある。
海外では既に、大手の金融機関、機関投資家等が、石炭等の化石燃料を「座礁資
産」と捉え、投融資を引き揚げる動き(ダイベストメント)や、保有株式等に付
随する権利を行使する等により投融資先企業の取組に影響を及ぼす動き(エン
ゲージメント)を開始。
ダイベストメント
エンゲージメント
“Aiming for A”
・108の機関(英国地方自治体・英国教会・基金・
保険会社・運用機関・アセットオーナー等)によ
るエンゲージメント活動。
・BP、ロイヤルダッチシェルに対して、「企業活
動に伴う温室効果ガス排出量の管理」「2035
年以降を念頭においた現存資産構成の有効
性分析」等に関する情報開示を要請。
●2015年6月5日、ノル
ウェー公的年金基金
(GPFG)※が保有する石炭
関連株式をすべて売却する
方針を、ノルウェー議会が
正式に承認。
※約104兆円(平成27年3月末時
点)の資産規模を有する世界有数
の年金基金。我が国の年金積立
金管理運用独立行政法人(GPIF)
の資産規模は、約138兆円。
出典:平成27年12月3日
・2015年の株主総会
で株主提案。BP
98.3%、ロイヤルダッ
チシェル98.9%の賛
成で可決。
日本経済新聞
8
7
気候変動の影響への適応計画
○IPCC第5次評価報告書によれば、温室効果ガスの削減を進めても世界の平均気温が上昇すると予測
○気候変動の影響に対処するためには、「適応」を進めることが必要
○平成27年3月に中央環境審議会は気候変動影響評価報告書を取りまとめ(意見具申)
○我が国の気候変動
【現状】
年平均気温は100年あたり1.14℃上昇、日降水量100mm以上の日数が増加傾向
【将来予測】 厳しい温暖化対策をとった場合
:平均1.1℃(0.5~1.7℃)上昇
温室効果ガスの排出量が非常に多い場合 :平均4.4℃(3.4~5.4℃)上昇
※20世紀末と21世紀末を比較
<基本的考え方(第1部)>
■目指すべき社会の姿
○気候変動の影響への適応策の推進により、当該影響による国民の生命、財産及び生活、経済、
自然環境等への被害を最小化あるいは回避し、迅速に回復できる、安全・安心で持続可能な
社会の構築
■対象期間
■基本戦略
(1)政府施策への適応の組み込み
(2)科学的知見の充実
(3)気候リスク情報等の共有と提
供を通じた理解と協力の促進
(4)地域での適応の推進
(5)国際協力・貢献の推進
○21世紀末までの長期的な展望を意識しつつ、
今後おおむね10年間における基本的方向を示す
■基本的な進め方
○観測・監視や予測を行い、気候変動影響評価を実施し、その結
果を踏まえ適応策の検討・実施を行い、進捗状況を把握し、
必要に応じ見直す。このサイクルを繰り返し行う。
○おおむね5年程度を目途に気候変動影響評価を実施し、
必要に応じて計画の見直しを行う。
<分野別施策(第2部)>
■農業、森林・林業、水産業
■水環境・水資源
■自然生態系
■自然災害・沿岸域
■健康
■産業・経済活動
■国民生活・都市生活
<基盤的・国際的施策(第3部)>
■観測・監視、調査・研究
■気候リスク情報等の共有と提供
■地域での適応の推進
■国際的施策
8
気候変動影響評価結果の概要
【重大性】
【確信度】
分野
農業・
:特に大きい
:高い
大項目
農業
水稲
:「特に大きい」とは言えない -:現状では評価できない 【緊急性】
:高い
:中程度
:低い
-:現状では評価できない
:中程度
:低い
-:現状では評価できない
重大性 緊急性 確信度
重大性 緊急性 確信度
分野
大項目
小項目
小項目
自然生態 生物季節
系
*「在来」の「生態系」に
分布・個体群の変動
-
林業・
野菜
水産業
果樹
自然災
麦、大豆、飼料作物等
害・沿岸
畜産
域
林業
水産業
対する評価のみ記載
水環境
水資源
海岸侵食
山地
土石流・地すべり等
特用林産物(きのこ類等)
その他
強風等
冬季の温暖化
冬季死亡率
暑熱
死亡リスク
回遊性魚介類(魚類等の生態)
健康
湖沼・ダム湖
熱中症
感染症
水系・食品媒介性感染症
沿岸域及び閉鎖性海域
節足動物媒介感染症
水供給(地表水)
その他の感染症
その他
産業・
自然生態 陸域生態系 高山帯・亜高山帯
経済活動 エネルギー
商業
里地・里山生態系
金融・保険
人工林
観光業
野生鳥獣による影響
のみ記載
物質収支
-
淡水生態系 湖沼
*「複合影響」に対する評価のみ記載
-
-
-
-
-
-
建設業
-
-
-
医療
-
-
-
-
-
その他
レジャー
その他(海外影響等)
国民生
都市インフラ、ライフライン 水道、交通等
湿原
活・都市
文化・歴史を感じる
生物季節
生活
暮らし
伝統行事・地場産業等
その他
暑熱による生活への影響等
温帯・亜寒帯
-
エネルギー需給
河川
沿岸生態系 亜熱帯
-
製造業
自然林・二次林
対する評価
海洋生態系
海面上昇
木材生産(人工林等)
水需要
*「生態系」に
沿岸
高潮・高波
水供給(地下水)
系
内水
農業生産基盤
河川
水資源
洪水
病害虫・雑草
増養殖等
水環境・
河川
-
10
*「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について(意見具申)」から作成
http://www.env.go.jp/press/upload/upfile/100480/27461.pdf
気候変動長期戦略懇談会
Ⅰ. 懇談会の設置
〇 長期における温室効果ガスの <委員>(敬称略、五十音順)(◎座長 )
大幅削減と、我が国が直面する
浅野 直人 福岡大学名誉教授、
構造的な経済的・社会的課題
伊藤 元重 東京大学院経済研究科教授
の同時解決を目指し、我が国の ◎大西 隆 豊橋技術科学大学学長
新たな「気候変動・経済社会
川口 順子 明治大学国際総合研究所特任教授
戦略」の考え方を議論するため、
住 明正 国立研究開発法人国立環境研究所理事長
平成27年10月に設置。
安井 至 一般財団法人持続性推進機構理事長
Ⅱ. 懇談会の提言
〇 平成28年2月26日に提言を公表。
(https://www.env.go.jp/press/102179.html)
〇 提言は以下で構成。
気候変動問題
1.気候変動の科学的知見と国際社会のコンセンサス
2.温室効果ガスの長期大幅削減の絵姿とその道筋
経済・社会的問題 3.我が国の経済・社会的課題と解決の方向性
4.「温室効果ガスの長期大幅削減」と「経済・社会的課題」の同時解決に向けて 10
環境と経済の統合に向けた動向調査検討会の設置について
1.趣
旨
環境と経済の関係に関し、国内外の機関、政府等においてどのような議論がなされているのか等につき、経済学的
な視点から調査・検討を行うため、「環境と経済の統合に向けた動向調査検討会」を設置し、環境と経済を巡る最新の
動向を整理する。
具体的には、国際エネルギー機関(IEA)や欧州委員会(EC)等の機関、政府等やスターンレビューをはじめとした国
際的に著名な文献をもとに、気候変動対策を行うことにより得られるメリットや、既存の経済影響評価手法の限界・課
題等について、経済的な視点から評価を行い、気候変動対策を環境と経済の統合の観点からどう位置付けているの
か整理を行うもの。
2.委
員
有村俊秀
早稲田大学政治経済学術院教授
※五十音順、敬称略。
大沼あゆみ 慶應義塾大学経済学部教授
倉阪秀史
千葉大学法政経学部教授
栗山浩一
京都大学農学研究科教授
堀井亮
大阪大学社会経済研究所教授
馬奈木俊介 九州大学大学院工学研究院主幹教授
諸富徹
京都大学大学院経済学研究科教授
柳川範之
東京大学大学院経済学研究科教授
<協力>
・ 国立研究開発法人国立環境研究所 (藤田壮 社会環境システム研究センター センター長、
亀山康子 社会環境システム研究センター持続可能社会システム研究室 室長)
・ 公益財団法人地球環境戦略研究機関 (松尾雄介 グリーン経済領域 副エリア・リーダー)
<事務局>
・ みずほ情報総研株式会社
11
気候変動対策実施のメリット・デメリットの総合比較
対策を講じなかった場合に生ずる気候変動被害の大きさが、個人・企業・社会全体の
デメリットに比べて極めて大きく、総合すれば、「気候変動対策のメリットはデメリットを
上回る」という結論になるものと考えられる。
気候変動対策
企業
個人
所得の向上
生産活動の高付加価値化
エネルギー支出の削減
メリットの拡大
エネルギー支出の削減
企業価値向上と事業機会の獲得
生産性向上
企業価値の向上
競争力の強化
事業機会の獲得
短期的なコスト増
カーボンリーケージ
所得以外の効用の拡大
所得の拡大
生産・投資拡大
健康被害の削減
就労機会の拡大
幸福度の維持
所得格差の是正
政府の対応次第で縮小できる
エネルギー価格高騰
短期的なコスト増
デメリット縮小・メリット拡大
貨幣価値
換算が可能
貨幣価値
換算が困難
効用低下
デメリット縮小・メリット拡大
気候変動リスク(被害)の回避
気候変動による甚大なリスクや被害の回避
エネルギーセキュリティの強化
地域の豊かさの向上
経済活性化
低炭素分野の国際競争力の向上
炭素税等による税収の経済への活用
社会福祉の向上
メリットがコストを大幅に上回る
短期的なコスト増
エネルギー税収の縮小
資源・景観への悪影響
社会全体
(備考)
気候変動対策のメリット
気候変動対策のデメリット
気候変動対策の直接の影響
気候変動対策の波及効果
12
戦略的な気候変動対策と経済社会システムとの関係
(環境と経済の統合に向けた動向調査検討会報告書より)
国際的な議論では、経済・社会政策との融合を図りながら、「炭素価格付け」「気候変動リス
クの開示」「低炭素技術のイノベーション」「自然資本の維持・拡大」などの対策を長期的な政
策の方向性を示すなど、明確なシグナルを与えながら実施することを提案している。
ダイベストメント
(1)炭素価格付け
CO2排出に伴う社会的費用の反映
フ
ロ
ー
運用コスト
削減
価格シグナルを通じた
低炭素技術に対する
需要・投資の拡大
価格シグナル向上
相互作用
経済活動に資するリスクの適切な理解
社会的費用
削減
(3)低炭素技術のイノベーション
情報開示を通じた
低炭素技術に対する
需要・投資の拡大
低炭素技術の開発・大規模普及
自然資本の価値向上、資源節減
ス
ト
ッ
ク
持続可能な
成長
金融・財政
教育
持続可能な経済発展
(4)自然資本の維持・拡大
自然資本(ストック)の価値の反映
安全保障
《
経
済
・
《
気
候
変
動
政
策
》
(2)気候変動リスクの開示
社
会
政
策
》
等
気候変動政策は、金融・財政、安全保障など政府が取り組むべき
主要な政策課題の一つ
(5)経済・社会政策と気候変動政策の融合
経済・社会政策との融合を図り戦略的に実施
13
気候変動長期戦略懇談会からの提言(概要)①
1.気候変動の科学的知見と国際社会のコンセンサス
◯ 科学的知見:
■気候に対する人為的影響は明らか。長期大幅削減が必要。
◯ 長期大幅削減についての国際コンセンサス:
 G7/8では、安倍総理の「クールアース50」(2007)が先鞭。
 世界全体の排出量を現状に比して2050年までに半減することを提案
 COP21の「パリ協定」は歴史的集大成。長期大幅削減を実現すべき
気
候
変
動
問
題
 世界共通の目標として2℃目標に合意。1.5℃への努力も言及。今世紀後半に人
為的な排出量と吸収量のバランスの達成を目指す(脱化石燃料文明への転換)。
 各国は5年毎に約束草案を更新し前進。2020年までに長期戦略を策定。
 我が国としては、2030年26%削減目標は必ず達成。2050年80%削減を目指す
ことも閣議決定。温対法に基づく地球温暖化対策計画にも長期大幅削減を示すべ
き。
2.温室効果ガスの長期大幅削減の絵姿とその道筋
 2050年80%削減が実現した社会の絵姿(一例)
①可能な限りのエネルギー需要を削減(高効率機器の利用や都市構造の変革等)
②エネルギーの低炭素化(電力は再エネ等の低炭素電源を9割以上とし排出ほぼゼロ)
③電化の促進
 絵姿実現への道筋(時間軸)
 2℃目標を踏まえた累積排出量低減のため早期削減が基本。
 都市インフラなど長期間更新できない対策には早期に着手(「ロックイン」回避)。
 過渡的な対策か、長期的に有効な対策かを見極め、過渡的な対策については、終期を常
に念頭に置く必要。(例:2050年には火力発電への依存度を極力減らす必要があり、今
後、特に初期投資額が大きい石炭火力の新設(投資)には大きなリスクが伴うことに留
意が必要。)
 絵姿実現のためには社会構造のイノベーションが必要。
 技術に加え、社会システム、ライフスタイルを含めた社会構造全体を新しく作り直すよ
うな破壊的なイノベーション(≒シュンペーターが唱えた創造的破壊等が参考)。自然体では起き
ないため施策による後押しが不可欠。
3.我が国の経済・社会的課
題と解決の方向性
 現在我が国は様々な課題に直面
 かつて経験したことのない人口減少・
高齢化社会
→供給制約による経済成長への影響
医療・社会保障関係費の増大
財政赤字など
 長引く経済の低成長
→一人当たりGDPが世界3位から27位
 地方の課題
→人口減少・高齢化の更なる進行
産業の衰退
市街地の拡散、コミュニティの衰退
自然資本の劣化など
 国際的な課題
→国際的なガバナンスの低下
安全保障上のリスクが多様化
国際社会での日本の量的存在感の低下
↓
 安倍総理の施政方針演説:
新しい成長軌道に向け「イノベーション
を次々と生み出す社会へと変革する」
経
済
・
社
会
的
課
題
 経済・社会的課題解決のためには
社会構造のイノベーションが必
要。
(次頁に続く)
14
気候変動長期戦略懇談会からの提言(概要)②
4.「温室効果ガスの長期大幅削減」と「経済・社会的課題」の同時解決に向けて
○「温室効果ガスの長期大幅削減」のための社会構造のイノベーションは、「経済・社会的課題」の解決のための
「きっかけ」に。「温室効果ガスの長期大幅削減」と「経済・社会的課題解決」の方向性は同じ。
安倍総理の施政方針演説:「地球温暖化対策は、新しいイノベーションを生み出すチャンス」
(1)【経済成長】「グリーン新市場の創造」と「環境価値をテコとした経済の高付加価値化」を通じて、経済成長を実現
 化石燃料とその利用技術に代わる「グリーン新市場」は巨大であり、その帰趨は各国経済に大きな影響。また、高所得国は
「高付加価値化」により経済成長と温室効果ガス削減を同時達成(我が国の炭素生産性は世界最高水準→「中の下」※に下落)
 安倍総理の施政方針演説:「新しい付加価値を生み出し、持続的な成長を確保する。「より安く」ではなく、「より良い」に
挑戦する、イノベーション型の経済成長へと転換しなければなりません。」
<施策例>カーボンプライシング(例:法人税減税、社会保障改革と一体となった大型炭素税。環境価値を顕在化させ炭素生産性
の向上と経済全体の高付加価値化を誘発)、イノベーション・ターゲットを定めた規制的手法の活用、「ライフスタイ
ルイノベーション」実現のための情報的手法・国民運動、環境金融の推進
※OECD高所得国
(2)【地方創生】再エネなど地域の「自然資本の活用」を通じて、「エネルギー収支の黒字化」等を図り地方創生を後押し
 多くの自治体のエネルギー収支は、地域内総生産の約1割にのぼる赤字→自立分散型の再エネの導入は地域経済の基礎体力
を向上。
 イノベーションを生み出す社会とするためにも、その源として、多様性に富み、魅力的な地域の活性化が不可欠。
<施策例>地域エネルギープロジェクトへの支援、生産性向上等のための低炭素都市計画の推進、
自然資本を活用した地域経済の高付加価値化
(3)【安全保障】世界の気候変動対策への貢献を通じて、エネルギー安全保障を含めた「気候安全保障」の強化と国益の確保
→「新たな環境ブランドでの国際的尊敬獲得」「エネルギー安全保障の強化」「世界のグリーン新市場へのアクセス」
 世界の平和・安定の確保は、国際社会にとって極めて重要であり、我が国の国益。気候変動は安全保障を含む世界のリスク要因。
 我が国が、世界の気候変動対策に積極的に貢献することは、ソフトパワーによる国際社会での尊敬獲得に繋がるもの。
さらに、我が国自身のエネルギー安全保障の強化や、世界の低炭素市場へのアクセスを通じた経済成長にも繋がるもの。
<施策例>気候安全保障に関する国民の理解の増進、我が国の貢献による海外削減の推進と国際的リーダーシップの発揮
○このような社会構造のイノベーションの見通しを明確化するためにも、2050年に向けた長期戦略を策定
○同時に、社会構造のイノベーションを後押しするため、上記のような適切な施策を実施
15
地球温暖化対策計画の全体構成
<はじめに>
○地球温暖化の科学的知見
○京都議定書第一約束期間の取組、2020年までの取組
<第1章 地球温暖化対策推進の基本的方向>
■目指すべき方向
①中期目標(2030年度26%減)の達成に向けた取組
②長期的な目標(2050年80%減を目指す)を見据えた
戦略的取組
③世界の温室効果ガスの削減に向けた取組
■基本的考え方
①環境・経済・社会の統合的向上
②「日本の約束草案」に掲げられた対策の着実な実行
③パリ協定への対応
④研究開発の強化、優れた技術による世界の削減への貢献
⑤全ての主体の意識の改革、行動の喚起、連携の強化
⑥PDCAの重視
<第2章 温室効果ガス削減目標>
■我が国の温室効果ガス削減目標
・2030年度に2013年度比で26%減(2005年度比25.4%減)
・2020年度においては2005年度比3.8%減以上
■計画期間
・閣議決定の日から2030年度まで
<第4章 進捗管理方法等>
■地球温暖化対策計画の進捗管理
・毎年進捗点検、少なくとも3年ごとに計画見直しを検討
○2020年以降の国際枠組みの構築、自国が決定する
貢献案の提出
<第3章 目標達成のための対策・施策>
■国、地方公共団体、事業者及び国民の基本的役割
■地球温暖化対策・施策
○エネルギー起源CO2対策
・部門別(産業・民生・運輸・エネ転)の対策
○非エネルギー起源CO2、メタン、一酸化二窒素対策
○代替フロン等4ガス対策
○温室効果ガス吸収源対策
○横断的施策
○基盤的施策
■公的機関における取組
■地方公共団体が講ずべき措置等に関する基本的事項
■特に排出量の多い事業者に期待される事項
■国民運動の展開
■海外での削減の推進と国際連携の確保、国際協力の推進
・パリ協定に関する対応
・我が国の貢献による海外における削減
-二国間クレジット制度(JCM)
-産業界による取組
-森林減少・劣化に由来する排出の削減への支援
・世界各国及び国際機関との協調的施策
<別表(個々の対策に係る目標)>
■エネルギー起源CO2
■非エネルギー起源CO2
■メタン・一酸化二窒素
■代替フロン等4ガス
■温室効果ガス吸収源
■横断的施策
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我が国の地球温暖化対策の目指す方向
○我が国の地球温暖化対策の目指す方向
地球温暖化対策は、科学的知見に基づき、国際的な協調の下で、我が国として率先的に取り組む。
中期目標(2030年度削減目標)の達成に向けた取組
国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度において、2013年度比26.0%減(2005年度比25.4%減)の
水準にするとの中期目標の達成に向けて着実に取り組む。
長期的な目標を見据えた戦略的取組
パリ協定を踏まえ、全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際枠組みのもと、主要排出国がその能力に応じた排
出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、長期的目標として2050年ま
でに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す。 このような大幅な排出削減は、従来の取組の延長では実現が困難で
ある。したがって、抜本的排出削減を可能とする革新的技術の開発・普及などイノベーションによる解決を最大限に追求する
とともに、国内投資を促し、国際競争力を高め、国民に広く知恵を求めつつ、長期的、戦略的な取組の中で大幅な排出削
減を目指し、また、世界全体での削減にも貢献していくこととする。
世界の温室効果ガスの削減に向けた取組
地球温暖化対策と経済成長を両立させる鍵は、革新的技術の開発である。また、我が国が有する優れた技術を活かし、
世界全体の温室効果ガスの排出削減に最大限貢献する。
○地球温暖化対策の基本的考え方
環境・経済・社会
の
統合的向上
研究開発の強化と
世界への貢献
 長期の温室効果ガス低排
出発展戦略の2020年まで
約束草案の対策の
パリ協定への対応
(長期的戦略的取組の検討) の提出を招請
着実な実施
 革新的技術の研究開発は
もとより、技術の社会実装、
社会構造やライフスタイル
計画の
全ての主体の参加
の変革などの長期的、戦
不断の見直し
透明性の確保
略的取組について引き続
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き検討
パリ協定から始めるアクション50-80 ~地球の未来のための11の取組~
 パリ協定の採択(平成27年12月)を受け、その実施に向けて、世界が新たなスタートを切る年。
 自分たちの子供や孫たちの世代が健やかで豊かな生活を営むことができるよう、我が国としても
2050年80%削減を目指し、今から具体的なアクションを起こすことが必要。環境省のイニシアティブ
で国内外をリードし、社会構造のイノベーションを実現。
◎まずはみんなで始めよう!! ~地球温暖化対策推進法の一部改正を出発点として~
一人ひとりの
取組【1】
2030年
26%削減
2050年
80%削減
パリ協定の
署名・締結
に向けて【7】
まち・ふるさと
での取組【2】
海外・世界
での取組【3】
◎低炭素な技術と投資で未来を創り出そう!!
暮らしを支える
未来の技術を創る【4】
低炭素な投資を進める【5】
◎2050年の社会を共有しよう!!
長期低炭素ビジョンの策定【6】
緩和
計画
適応
計画
地球温暖化対策計画・政府実行計画【8】
電気事業分野の地球温暖化対策【9】
高温で
ふつうの米
気候変動の影響への適応計画【10】
気候変動の
実態把握
【11】
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長期低炭素ビジョンの策定
背景・意義
 G7伊勢志摩サミットにおいて、 2020年の期限に十分先立って今世紀半ばの温室効果ガス低排出型発展
のための長期戦略を策定し、通報することにコミット。長期戦略は、パリ協定の長期的目標及び今世紀後半
の温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランスを達成のために不可欠な手段。
 我が国においても、長期の低炭素戦略を率先して策定することが必要。
社会構造の低炭素化は、「高度成長」以来の大変革であり、国としてのビジョンが必要
目指すべき社会像を提示し、国民・企業の行動を喚起するとともに、内外の投資を呼び込む。
長期低炭素ビジョンの策定
技術のみならず、ライフスタイルや経済社会システムの変革をも視野に入れ、社会構造のイノベーションの
絵姿として、長期低炭素ビジョンを策定。
絵姿の実現に向けて必要な対策・施策について、早期に着手すべきものは何かといった時間軸も意識しな
がら検討。
中央環境審議会地球環境部会に小委員会を設置し、検討に着手。(年度内に取りまとめ)
政府全体での議論の土台とし、長期の低炭素戦略のできるだけ早期の提出につなげる。
・カーボンプライシング
・環境金融の推進
・地域主導のエネルギープロジェクトへの支援
・環境・経済・社会を一体的に考えた土地利用制度 など
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