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IPCC 第 2 作業部会第 4次報告~地球温暖化の影響の現状と予測

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IPCC 第 2 作業部会第 4次報告~地球温暖化の影響の現状と予測
社会領域セミナー
IPCC 第 2 作業部会第4次報告~地球温暖化の影響の現状と予測~
社会環境システム研究領域
要約:
原沢英夫
地球温暖化の影響・適応・脆弱性に関する最新の科学的知見をとりまとめた IPCC 第 2
作業部会第4次評価報告書(AR4)が公表された。温暖化の影響が世界各地で現れていること、今後
気温上昇や海面上昇、異常気象によって種々の分野や地域に深刻な影響がでると予測されている。
報告書の概要および IPCC 総会での議論を報告する。
1.
IPCC 第2作業部会第 4 次評価報告書(気候変動 2007、影響・適応・脆弱性)の概要
IPCC 第2作業部会の総会がブリュッセルで開催され、温暖化の影響、適応、脆弱性をあつかう
第4次評価報告書が承認された。総会は 4 月 2 日から 5 日の4日間を予定していたが、4 日目深
夜になっても審議が終了せず、結局翌日 6 日の 13 時半ごろに承認され、閉会となった。その日の
朝 10 時に記者発表が予定されていたが、閉会前に記者発表するという異例の事態となった。総会
には、各国代表約 310 名と報告書作成に携わった各章の責任執筆者など約 50 名が出席した。総会
では 20 章からなる報告書(1500 頁)の重要事項をまとめた 21 頁の政策決定者用の要約(SPM:
Summary for Policymakers)を1行づつ審議して、承認していく IPCC 独特の手順に従って進めら
れた。SPM は5つのセクションからなり、セクションA:緒言、セクションB:温暖化影響の現
状、セクションC:予測される影響、セクションD:適応策と緩和策、持続可能な発展、影響の
閾値、セクションE:今後の課題を扱っている。
2.第4次評価報告書 SPM のポイントは以下のとおりである(表-1参照)。
○世界中で温暖化の影響が現れている:
膨大な観測データが解析され、全ての大陸とほとんど
の海洋で温暖化の影響が有意に現れていることがわかった。主な影響としては、以下のものが挙
げられる。
-
氷河湖の増加と拡大、永久凍土地域における地盤の不安定化、山岳における岩なだれの増加
-
春季現象(発芽、鳥の渡り、産卵行動など)の早期化、動植物の生息域の高緯度、高地方向
への移動、北極及び南極の生態系(海氷生物群系を含む)及び食物連鎖の変化
-
多くの地域の湖沼や河川における水温上昇
-
熱波による死亡、媒介生物による感染症リスク増加
○淡水資源への影響:
今世紀半ばまでに年間平均河川流量と水の利用可能性は、高緯度及び幾
つかの湿潤熱帯地域において10~40%増加し、多くの中緯度および乾燥熱帯地域において10~
30%減少すると予測される。
○生態系への影響:
多くの生態系の復元力が気候変化やその他の要因により低下する可能性が
高い。
-植物及び動物種の約20~30%は、全球平均気温の上昇が1.5~2.5℃を超えた場合、絶滅のリスク
が増加する可能性が高い。
-今世紀半ばまでに陸上生態系による正味の炭素吸収はピークに達し、その後、弱まる、あるい
は、排出に転じる可能性が高く、気候変化を増幅する(フィードバック効果)。
○農業・食料への影響: 世界的には、潜在的な食料生産量は、地域の平均気温の1~3℃までの
上昇幅では増加すると予測されているが、それを超えて上昇すれば、減少に転じると予測される。
○沿岸域への影響:
2080年代までに、海面上昇により、毎年の洪水被害人口が追加的に数百万
人増えると予測されている。とくにアジア・アフリカのメガデルタ、小島嶼が脆弱である。
○適応策が重要:
すでに適応が始まっているが、将来の気候変化に対応するためには、現在実
施されている適応は不十分であり、一層の強化が必要である。適応策と緩和策を組み合わせるこ
とにより、気候変化に伴うリスクをさらに低減することができる。
○気候変化がもたらす便益と被害: 気候変化の影響は地域的に異なるが、その影響は、合算し、
現在に割引いた場合、毎年の正味のコストは、全球平均気温が上昇するにつれて増加する可能性
が非常に高い。気温の上昇が約2~3℃以上である場合には、すべての地域において正味の便益
の減少か正味のコストの増加のいずれかが生じる可能性が非常に高い。
3.第4次評価報告書の意義と今後の課題
報告書は影響や適応が中心であるが、緩和策との関係、便益・コスト、持続可能な発展や条約
第2条に関わる気温上昇レベルとの関係など重要な項目を含んでいる。今後の温暖化政策のよっ
てたつ科学的知見として活用されよう。
温暖化の現状影響の検出や世界規模の影響の将来予測では欧州の研究事例が多く、日本を含む
アジア地域では依然として少ない現状である。第5次報告書はまだ先であるが、日本を含むアジ
ア地域において影響の監視を進めるとともに、アジア地域の総合的な影響評価、影響+適応策の
コストを含む多面的評価が研究課題であろう。
表1
世界平均気温の上昇による主要な影響(黒い線は影響間の関連を表し、破線の矢印は気温
上昇に伴って影響が継続することを示す。記述の左端は影響が出始めるおおよその位置を示して
いる)
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