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スケッチマップによる子どもの空間認知に関する研究 −幕張

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スケッチマップによる子どもの空間認知に関する研究 −幕張
スケッチマップによる子どもの空間認知に関する研究
−幕張における環境変化と空間認知との相関−
Research on the space cognition of children on a sketch map -Correlation with the environmental change and space cognition in Makuhari-
藤岡瞳*・田上千晶*・根來宏典*・大内宏友**
Hitomi FUJIOKA and Chiaki TAGAMI and Hironori NEGORO and Hirotomo OHUCHI
要旨:本研究は、発達段階における子どもと生活環境の関係性考えるために、1999年と2003年
の両年に幕張新都心において、子どもに地図を記憶に基づいて自由にスケッチマップを描いて
もらう手法で調査し、人口や住棟、店舗数など物理的環境の変化とスケッチマップに描かれた
要素数の変化を比較・分析した。さらにスケッチマップの表現の変化を比較・分析し子どもを
取り巻く環境の変化と空間認知との関係性について考察する。
キーワード:子ども,スケッチマップ,幕張,空間認知,認知領域,環境変化
Abstract:This research conducted investigation on a sketch map in order to consider the
relation of the child and living environment in a developmental stage in Makuhari in 1999
and 2003.Change of the physical environment of both years, change of the number of
elements drawn on the sketch map, and change of expression of a sketch map are compared
and analyzed.And an environmental change and the relation of space cognition which
surround a child are considered.
Key Words:Child,Sketch map,Space cognition,A cognitive domain,Environmental change
はじめに
現在、子どもの空間認知に関する多くの研究により、
人は物理的環境の中を行動する際、常に“心的地図”を
頭の中で備えていることが確認されている。そしてこれ
らの“心的地図”は各人の過去経験と物的環境との相互
の関係性において、多くの異なった形をとることが示さ
れてきた。子どもを対象とした代表的な研究に
ピアジェ(1967)の「空間認知の発達研究」があり、空間配置
場面や地理学的空間を用いた一連の研究の成果から、空
間認知、空間概念の形成において位相的、経路的、構成
的空間の3段階があることが提唱されている。近年、多
様な生活から成り立つ街の中で、子どもが人間性豊かに
発達していく際における初期の環境経験の重要性が認め
られてきていることから、発達段階における子どもと生
活環境の変化と、空間認知の関係性を考えることは重要
な課題である。
* 日本大学大学院生産工学研究科 建築工学専攻
**日本大学生産工学部 建築工学科
1.本研究の位置付け 我が国における建築学よりアプローチした研究として、
木下勇(1984)の既成住宅地における子どもの遊び空間の
構造に関する研究がある。さらに和田幸信(1990)の研究
では、既成市街地と農村部における子供の生活空間の認
識方法や認知についての研究が行われている。鈴木成文
ら(1974)は住宅地における児童の空間把握と生活領域の
研究で、住宅地の空間計画の基礎的視点について述べて
いる。
本研究では、施設整備など落ち着きを見せつつある幕
張新都心を対象地域とし、子どもにスケッチマップを描
いてもらい、1999年と2003年に行った調査をもとに人口
や住棟など物理的環境の変化とスケッチマップに描かれ
た要素数の変化、さらにスケッチマップの表現の変化を
比較・分析し、子どもを取り巻く環境の変化と空間認知
について考察する。
2.対象地域と調査対象者
対象地域である幕張ベイタウンはタウンセンター地区、
住宅地区、文京地区、業務研究地区、公園・緑地地区の
5つのエリアから成り立つ幕張新都心に位置し、都市計
画道路を地区の骨格として、開かれた都心型の市街地構
造を考慮したグリットパターンの配置計画の新興住宅街
である。
子どもを取り巻く環境の変化と空間認知との関係性に
ついて考察するため、短期間で急速な変化を遂げ、現在
も整備が進む幕張ベイタウンにおいて、幕張ベイタウン
に住み、「幕張ベイタウン子どもルーム(学童保育施設)」
に通う1年生から6年生の小学生各々32名を対象に1999年
と2003年に調査を行った。
子どもルーム(調査場所)住所:千葉県美浜区打瀬2-13
3.調査方法と分析手法
3.1 スケッチマップのとり方
子ども一人に対しA3の白紙1枚と鉛筆、消しゴムを用意
する。「45分以内に自分の知っている範囲の地図 を描い
てください。その中に自分の家、通っている学校、よく遊
ぶ場所を描き入れてください。また、その他に知っている
もの(建物や木など目印となるもの)をすべて描きいれて
ください。」と例図を見せながら説明し、地図を記憶に基
づいて自由に描いてもらう。
また、子ども1人に対して調査員1人の対面方式により、
各子どものスケッチマップをもとにアンケートを行う。
3.2 分析方法
1)対象地域の1999年と2003年の人口、世帯数、住棟数、
店舗数など物理的環境の変化を統計資料から調べ、スケ
ッチマップに描かれた要素数との相関について考察する。
2)スケッチマップに描かれた構造を把握する際、収集し
た情報の内容から必要なものを取り出し、互いに
関連
のあるものをつなぎ合わせ、整理・統合するKJ法により、
類似しているもの同士を寄せ集め、類型分けをし、さらに
描かれている要素・範囲について分析・考察する。
4.物理的環境の変化
4.1 対象地域 (図1参照)
1999年では、ベイタウンの中央17街区に住棟が並んで
おり、打瀬小学校、打瀬中学校が街の中心施設としてベ
イタウンの角地に配置されている。整備されている公園
は3つあり、また空き地や工事中の区画が多い。
2003年は、1999年で空き地が多かった街区にほぼ住棟
が並んでいる。また海浜打瀬小学校、ベイタウン・コア
と新たな公共施設が配置された。公園も6つに増え、
1999年では雑然としていたベイタウンの街並みが完成さ
1999年
幕張メッセ 海浜幕張駅
幕張海浜
公園 打瀬小学校
15番街
美浜
プロムナード
16番街
★
富士見通り
17番街
学童保育施設
18番街
打瀬中学校
花見川
海
2003年
セントラルパーク
1番街
東の街
3番街
西の街
5番街
2番街
8番街
4番街
7番街
6番街
9番街
海浜打瀬小
10番街
★
マリン
フォート
学童保育施設
12番街
20番街
ミラマール
13番街
海
21番街
ミラリオ
11番街
2003年までに新設
児童公園 図1.対象地域
表1.住戸数と店舗数
住棟名
1999年
戸数 (戸)
2003年
店舗 戸数 (戸)
店舗 マリンフォート
0
0
390
2
ミラマール
0
0
113
2
西の街
0
0
385
5
東の街
0
0
385
8
0
0
509
12
セントラルパークウエスト
0
0
496
0
ミラリオ
445
0
445
0
1番街
117
4
117
4
2番街
132
4
132
5
3番街
114
4
114
4
4番街
110
4
110
4
5番街
113
6
113
7
6番街
118
5
118
6
7番街
120
0
120
0
8番街
130
0
130
0
9番街
115
2
115
2
10番街
120
0
120
0
11番街
190
5
190
6
12番街
136
0
136
0
13番街
115
1
115
2
15番街
0
0
126
3
16番街
112
2
112
4
17番街
125
4
125
5
18番街
115
2
115
3
20番街
21番街
0
0
0
0
189
200
3
6
2,427
43
5,220
93
セントラルパークイースト
合計
…1999年以降に竣工後居住
表3.スケッチマップに描かれた要素順位
表2.人口と世帯数
町名
人口
1999年
世帯
2003年
1999年
2003年
面積(ha)
打瀬1丁目
1,294
3,989
468
1404
32.46
打瀬2丁目
5,440
7,662
1915
2694
33.24
打瀬3丁目
0
1,372
0
505
35.03
6,734
13,023
2383
4603
100.73
合計
4.2 住戸数と店舗数
1999年から2003年までの間に建設された住棟の多くは、
20階以上の超高層や高層の住棟であり、住戸数は約2倍
に増加している。店舗は、美浜プロムナードと富士見通
り沿いを中心に、パティオス内の1階通りに面して並び、
店舗数に関しては4年間で50店舗増えている。
4.3 人口と世帯
1999年では空き地であった打瀬3丁目に住棟が建設され
たこと、また1999年から2003年までの期間に高層街区と
超高層街区に住棟が建設されたことなどにより人口、世
帯数共に、2003年は1999年の約2倍に増加している。
5.スケッチマップに描かれた要素
表3にスケッチマップに描かれた要素順位表を示す。要
素は、スケッチマップの中に説明書きのあるもの、判断
できるものだけを数え、林など数多く描いてあるものは
まとめてひとつにする。また木や花や家、横断歩道など
位置が特定できないものも、一つ一つ描いてあるものは
一つ一つ数え、道路は描いてあれば一つとして数えると
いう数え方で要素を読み取った結果を以下に整理する。
1999年はグッリトで構成されている街で、交差点が多
いため横断歩道が161に上り、道路を描く子どもが半数い
る。次いで打瀬小学校、11番街が多く、打瀬小学校にい
たってはほぼ100%の子どもが挙げている。また自宅を中
心にベイタウン内の住棟が多く描かれ、パティオス内に
入っている店舗を描く子どもが多く、店舗名まで詳細に
描かれている。
2003年では1999年と同様に、横断歩道を描く子どもが
多いが、142と若干減り、道路を描く子どもが少ない。次
いで遊具を描く子どもが多く、公園や公園内にある要素
が上位に上がっている。また、空き地や公園、高層住棟
など目立つものの要素を描く子どもが増えているが、そ
れとは逆に1999年に、多く描かれていた店舗名などの詳
細な要素を2003年では地図に描く子どもは少ない。
順
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
78
79
1999年
要素
要素数
横断歩道
161
自分の通う小学校
29
11番街
25
5番街
24
6番街
23
8番街
22
10番街
21
15番街(工事中)
21
2番街
20
1番街
19
3番街
19
12番街
18
13番街
18
16番街
18
18番街
18
4番街
18
17番街
17
7番街
17
9番街
16
駐車場
16
ミラリオ
16
道路
15
赤玉青玉公園(第2公園)
14
新しい公園(2丁目公園)
13
▲かるがも館
13
信号機
13
空き地
11
校庭
11
打瀬第一公園
9
子供ルーム
9
デイリーヤマザキ
9
薬屋
8
花屋
8
ヤックス
8
クリーニング屋
7
▲フライパン
7
興行銀行
6
パスタ屋
6
ファミリ−マート
6
▲ヤンマー
6
遊具
6
洋服屋
6
裏庭
5
カメラ屋
5
工事中
5
交通公園
5
畑(打瀬小)
5
美容院
5
本屋
5
木
4
喫茶店(コロラド)
4
草村
4
公文
4
自転車屋
4
歯医者
4
ベイタウンクリニック
4
打瀬中学校
3
▲八百屋
その他
合計
2
29
892
2003年
順位
要素
要素数
1
横断歩道
142
2
遊具
59
3
空き地
44
4
信号機
38
5
自分の通う小学校
25
6
△20番街
23
7
△西の街
23
8
ミラリオ
22
9
△東の街
22
10
海浜打瀬子供館
21
11
△21番街
21
12
2丁目公園
21
13
赤玉青玉公園
20
14
11番街
19
15
2番街
18
16
4番街
18
17
6番街
18
18
13番街
18
19
15番街
18
20
16番街
18
21
17番街
18
22
1丁目公園
17
23
3番街
16
24
7番街
16
25
18番街
16
26
トイレ
16
27
木
15
28
打瀬中学校
15
29
1番街
15
30
5番街 15
31
バス停
14
32
打瀬小学校
14
33
8番街
14
34
9番街
14
35
10 番街
14
36
12番街
14
37 △セントラルパークウエスト
13
38 △セントラルパークイースト
13
39
△ミラマール
13
40
△マリンフォート
13
41
草村
12
42
△カジュアル公園
12
43
△打瀬保育園
11
44
海
10
45
駐車場
9
46
誘導ブロック
9
47
△コア
9
48
人
9
49
工事現場
9
50
芝生
8
51
花
8
52
14番街
8
53
車
7
54
浜辺
6
55
歯医者
6
56
ファミリーマート
4
57
デイリーヤマザキ
4
78
79
花見川
その他
合計
1
28
1128
▲・・・1999年以降なくなったもの
△・・・1999年以降にできたもの
表4 スケッチマップに描かれた要素の変化
1999年のスケッチマップに描かれ
ているが、2003年には描かれてい
ない要素
薬屋 花屋 ヤックス 興業銀行 パスタ屋 洋服屋
美容院 本屋 コロラド 公文 自転車屋 雑貨屋 塾 パームツリー リンコス 英会話教室 家具屋 パン屋 プレナ 裏庭 畑 林 花壇 2003年のスケッチマップに描かれ
ているが、1999年には描かれてい
ない要素
1丁目公園 トイレ ベンチ 丘 広場 階段 公園池 バス停 誘導ブロック 浜辺 友達の家 中央分離帯 6.子どもの類型別認知特性
それぞれのスケッチマップマップをKJ法に基づき分析
した結果、4つの類型(1999年・2003年共通) に分類するこ
とができた。図2よりそれぞれの類型の関係性を見ると、
表現がルート的なものと構成的なものに大別できる。ル
ート的なものは線を伸ばすことで範囲を広げている。構
成的なものは点や面的要素により範囲を広げているとい
うことがわかる。地域を認識する際に、表現がルート的な
ものは道が優先され、構成的な表現のものは建物や目印
などのランドマークやディストリクトが優先されると考
えられる。
Ⅰ類.線をのばすことで範囲をひろげ、また建物や目印とな
る要素から線がでていることや要素同士が線で繋がれているな
ど道路と建物の位置関係の理解が不十分であるもの。
表5.学年別類型度
1999年
学年
1
2
3
4
5
6
合計
Ⅰ
学年
全体
Ⅱ
2003年
Ⅲ
6
3
2
0
0
0
11
1
3
1
1
0
0
6
Ⅰ
Ⅱ
Ⅳ
1
1
1
2
1
0
6
Ⅲ
0
0
1
2
4
2
9
合計 学年
8
1
7
2
5
3
5
4
5
5
2
6
32 合計
Ⅳ
学年
全体
6
6
5
5
4
4
3
3
2
2
1
Ⅰ
Ⅱ
3
4
1
0
0
0
8
Ⅰ
Ⅲ
0
3
1
0
0
0
4
Ⅳ
3
2
1
2
0
0
8
Ⅱ
Ⅲ
1
2
5
3
1
0
12
合計
7
11
8
5
1
0
32
Ⅳ
1
0%
20 % 40%
60%
80%
100%
0%
20 % 40%
60%
Ⅰ
80%
Ⅱ
100%
Ⅲ
Ⅳ
図3.学年別類型割合
7.分析結果
7.1 類型ごとにみた学年別人数の内訳 類型ごとにみた学年別人数の内訳を1999年、2003年と
に分けて表5、図3のように整理する。
Ⅱ類.線をのばすことで範囲をひろげ、かつ道路と建物の位
置関係が理解できている。すなわち空間内における対象物の位
置が相互に関係付けられた表現がなされているといえる。
Ⅲ類.建物などの要素をつなげることで範囲が広げられて
いる。道路の表現はあいまいで、要素を一つ一つたどっている
様子が表れており、ルート的であるといえる。
1999年は、ルート的な地図を描くⅠ類の子どもが、全
体の34%を占め一番多い。学年が上がるにつれ、段階的
にⅠ類から構成的な地図を描くⅣ類への移行がみられる。
2003年では、構成的な地図を描くⅣ類の子どもが全体
の37%を占めている。1999年と同様、学年が上がるにつ
れⅠ類からⅣ類への移行がみられるが、特徴として低学
年からⅣ類の子どもがいることがあげられる。また、ラ
ンドマークやディストリクトを手がかりとして地図を描
く子どもが多い。 7.2 要素のカテゴリー別分析
スケッチマップに描かれた要素の内容とその分類を表
6に示す。カテゴリー分けを行なった結果を、表7の類型
別要素カテゴリー度数表に示す。また、表8に要素カテ
ゴリー割合を示す。
表6.スケッチマップに描かれた要素の内容とその分類
分類の基準
要素の内容
a.自然・土地利用に関する事象 海・川・山・森・林・田・畑・空地・原っぱ・花・木・その他
Ⅳ類.建物や目印となるものの位置的認識が優先し、要素間
b.店舗
菓子屋・スーパー・八百屋・肉屋・洋服店・家具店・電気店
レストラン・薬屋・自転車屋・パーマ屋・パチンコ店・文具店
ガソリンスタンド・スポーツ用具店・自動販売機・その他
c.交通関係
横断歩道・通学路・信号・標識・バス停・カーブミラー・近道・駅
抜け道・橋・国道・線路・踏み切り・駐車場・ガードレール・その他
d.公共建築物
自分の学校・他の学校・公民館・役場・農協・警察署
がパスとしての線的要素によるつながりを持たない。また、上
から見下ろしているような表現がなされている。
消防車庫・運動場・町民グランド・郵便局・ポスト・その他
図2.各類型のスケッチマップ
e.建築物
自宅・友達の家・先生の家・その他の家・団地・アパート・ホテル
旅館・病院・銀行・塔・工場・その他
e.乗り物
車・船・電車・その他
f.人物
人・動物・その他
g.その他
塀・石垣・ごみ捨て場・階段・その他
表7.類型別要素カテゴリー度数
1999年
f
2003年
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ 合計 Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ 合計
a.自然・土地利用に関する事象
6
9
3
27
10
32
b.店舗
17
3
8
88 116
8
2
2
57 109
7 19
c.交通関係
47
26
121
16 210
17
24
83
d.公共建築物
19
7
10
20
56
19
11
23
e.家・目立つ物
84
66
84
161 395
42
64
f.乗り物
1
1
0
1
3
6
0
118 251 475
3
0 9
g.人物
0
0
0
0
0
7
0
3
0
h.その他
19
7
5
31
62
24
18
52
89 183
合計
45
10
1999年 a
0%
10
1)1999年のaでは、子どもルームの遊び場(11番街裏)であ
る裏庭と、授業でも利用されている打瀬小学校の裏にあ
る「畑」が上位である。cでは、グリットパターンで構成
された街のため印象に残りやすいためか横断歩道を複数
描く子どもが多い。dでは、32人中31人が打瀬小学校を描
いている。また「校庭」も描かれ、調査を行った「子ど
もルーム」も多く描かれている。eでは、子供ルームのあ
る11番街、また店舗の並ぶ美浜プロムナードと富士見通
りの交差点に配置されている5番街と6番街、学校の近
く8番街が多く認知されている。hでは、「赤玉・青玉公
園」「新しい公園(2丁目公園)」等この地域の公園が多
く描かれている。
2)2003年のaでは、建物同士に囲まれている区画の空き地、
またこの地域の各公園の中に「木・草」が多く描かれて
いる。しかしbでは、店舗の詳細を描いた子どもは少ない。
dは、多くの子ども達が「打瀬小学校」、「打瀬中学校」、
「子どもルーム」を描いている。また「海浜打瀬小学校
」や「打瀬保育園」等新しい公共建築物も多く描かれて
いる。eの子どもルームの近くの「11番街」や高層住棟の
「20・21番街」「西の街」「東の街」「ミラリオ」が多
く地図に描かれている。hでは、この地域の公園が多く描
かれているだけでなく、公園内の遊具をほとんどの子ど
も達が描いている。
c
d
e
g
h
2003年
94 218
51 104
193 119 231 344 887 133 129 316 549 1127
b
20%
40%
60%
80%
100%
a.自然・土地利用など
b.店舗
c.交通関係
d.公共建築物
e.家・目立つ物
f.乗り物
g.人物
h.その他
図4. 要素カテゴリー割合
2003年
1999年
全体
Ⅰ類
Ⅱ類
Ⅲ類
7.3 類型別要素カテゴリー割合
1999年、2003年共に「e.家・目立つもの」の割合が多く、
地図を描く際に家や建物を大きな手がかりとしているこ
とがわかる。これはグリットで構成されている街であり、
似通った風景が多いため、建物などを目印にして街を認
知するからであると思われる。1999年は横断歩道など「
c.交通関係」が多く占めているのに対して、2003年は「d.
公共建築物」や「h.その他」の割合が増えている。全体
をみると、1999年では各カテゴリーに偏りがみられたが
、2003年では各カテゴリーの偏りがなくなり、均一化され
つつある。
Ⅳ類
(%)
認知強度
0
図5.スケッチマップから読み取ったまちの範囲
50
100
7.4 スケッチマップに描写された範囲領域
スケッチマップに描かれた範囲を類型ごとに重ね合わ
せ、子どもの認知領域を図3に示し、分析・考察する。
1999年はⅠ類からⅣ類になるにしたがい、認知領域が広
がり全体的に小学校の周辺の認知が高い。またホテルな
どを含むタウンセンター地区までの広い範囲を認知して
いるが、海側の空地に関しては自分たちの住むまちとして
認知していないと思われる。
2003年は1999年と同様に自分の通う小学校周辺を認知し
ている子どもが多く、また2丁目公園や打瀬第2公園など日
頃遊んでいる公園の周辺の認知が高い。しかし類型ごと
の認知領域の範囲に差がなく、1999年よりも一層ベイタウ
ン内の認知が集中している。
8.考察
8.1 物理的環境の変化とスケッチマップに描かれた要素
の変化と空間認知との相関
1)1999年、2003年両年共に自分たちの通う小学校とその
近くにある住棟を地図に描く子どもが多い。また、ベイ
タウン内の公園の数が増えたことで公園と遊具やベンチ
など公園内にある要素の数が増えた。このことから自分
たちの通う小学校とその近くにある住棟の認知が高いこ
と、公園や公園内の要素数が多いことから、子どもの生
活行動が学校と遊びに密接に関係していることがわかる。
2)2003年は1999年に比べて実際の空き地の数は減少して
いるが、空地を要素として地図に描く子どもが増えた。
1999年には空き地であった街区に住棟が建ち、ベイタウ
ンの街並みが完成されつつあることにより、住棟の間に
できた空間を空き地と認識しやすくなったことがわかる。
3)道路の構造や横断歩道の数は変化していないにも関わ
らず、2003年は1999年に比べて、地図に描く子どもが減
少している。空き地と同様に街並みが完成されつつある
ことで、街がグリットで構成されていることが明確にな
り、地図を描く際にベイタウンを一つの面とし、その上
に街区や住棟がのっていると捉えるようになっていると
いえる。
8.2 環境変化と空間認知との相関
1)KJ法に基づき分類したⅠ∼Ⅳ類の分類には表現がルー
ト的なものと構成的なものがあり、ルート的なものは自
分がその空間に立っている状況を想像しながら地図を描
く様子がうかがえる。これに対し構成的なものは、上空
から見た様な地図であり客観的な視点で空間を認知して
いることがうかがえる。学年が上がるにつれ、自己中心
的視点から客観的視点によって空間を把握するようにな
る。しかし、6章の図3より、Ⅳ類の割合が低学年におい
対象とした空間の外側からの視点
対象とする空間の内側からの視点
view point
view point
パス
ディストリクト
ランドマーク
自己中心的視点
Ⅰ
Ⅲ
客観的視点
Ⅱ
Ⅳ
図6.類型別による視点
ても増加していることや、7章の図5から、スケッチマッ
プに描かれるまちの範囲領域や認知強度が、各類型に関
わらず、類似した結果が得られた。街並みの完成によっ
て、幕張の空間構成が子どもたちにとってよりわかりや
すい空間構成に変化し、空間の客観的理解も早い段階で
促進されることがわかった。
2)道路や横断歩道など線を延ばすことで範囲を広げる地
図を描く子どもが多い1999年に比べて、2003年は建物な
ど目印となるものを手がかりに地図を描く子どもの多い。
1999年、2003年共に「e.家・目立つもの」の割合が高い
ことから、幕張の子ども達は住棟などを手がかりに地図
を描いていることがわかる。
3)1999年に比べて2003年は、パティオスの住棟を中心に
範囲領域が集中していることから、行動範囲がベイタウ
ン外に及ぶことが少なくなったと考えられる。また1999
年、2003年共に通っている小学校周辺の認知が高く、子ど
もの生活行動が小学校と密接に関わっていることがわか
る。
以上のことから、人口、住棟、店舗数など物理的環境
の変化に伴い、要素数・要素内容の変化や、学年別類型
割合より、より早い段階から客観的理解の促進が見られ
るといった変化などから、子どもを取り巻く生活環境の
変化は、子どもの空間認知に影響を与えていることが考
えられる。一方で、環境の変化においても変わらず、小
学校や遊び場所などでの経験や日常生活が、子どもと密
接な関係を持っていることが考察された。
このことより得られた成果は、発達段階における子ども
が、環境変化に対して、どのように意識し、対応してい
くかを考える上で、応用できると考えれる。
引用文献
廣瀬栄司 井尻智 大内宏友 (2000)スケッチマップによる子供の空間認知 に関する研究 日本建築学会大会学術講演梗概集
J.ピアジェ(1967) 遊びの心理学 黎明書房 K.リンチ(1968) 都市のイメージ 岩波書店
木下勇(1984) 既成住宅地における子どもの遊び空間の構造に関する研究
東京工業大学学位論文
小林秀樹(1992) 集住のなわばり学 彰国社
鈴木成文(1974)「集合住宅『住区』」 建築計画学5
寺本潔(1988) 子ども世界の地図 黎明書房
和田幸信(1990) 子どもの生活空間の認識と認知対象について 
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