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第 6 章 気象
第 6 章 気象 6.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-1 6.2 基本事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-2 6.3 雲の分類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-4 6.4 高気圧と低気圧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-5 6.5 前線 6-7 6.6 大気の構造と運動 6.7 風の原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-11 6.8 大気の安定・不安定 6-14 6.9 雲について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-17 6.10 天気図 6-18 6.11 季節と気団の関係 6.12 その他の情報源 6.13 気象急変と気球の事故 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6-9 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-23 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-24 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-27 第6章 気象 6.1 はじめに 本章では、気象について記述している。気象とは、「気温・気圧の変化、大気の状態や雨・風 など大気中の諸現象(大辞林 第二版)」のことを言う。気象について予測を行うことは、昔から 行われてきたことであるが、現代では気象衛星、アメダス、レーダー、スーパーコンピュータな どにより、気象に関して得られる情報量は格段に多くなり、気象予測は飛躍的に向上している。 本章では、気圧や高気圧・低気圧などの基本的な気象の知識、天気図の見方、アメダス・レー ダーの知識などについて記述している。後半は、熱気球活動を行う上で補助的な知識となる事柄 について記述している。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6-1 6.2 基本事項 熱気球活動を行う人々は、風が弱い穏やかな天気を、願ってやまないものである。そのために、 自分で気象状況を把握すること、および、予想することは、楽しくフライトを行うためには重要 である。その主な手段としては、(1)天気図を読むこと、(2)周辺の気象状況を把握すること、の 二つがある。 (1) 天気図を読む 天気図とは、各地点における気圧や気温、風速などを図に表したものである。天気図には 主に等圧線(同じ気圧の地点を線で結んだもの)や、高気圧、低気圧などが記されている。一般 には、高気圧が近づいてくると好天となり、低気圧が近づいてくると悪天となることが知ら れている。 しかし、天気図から得られる情報はこれだけではない。下図は、平成 16 年 6 月 7 日 12 時 における天気図(速報天気図)である。この天気図から得られる情報について、以下に列挙して みよう。 ・ 日本付近には停滞前線と低気圧が接近し、天気が悪いと予想される。 ・ 太平洋上にある高気圧の勢力がかなり強く、太平洋は好天。 ・ 北にある低気圧から伸びた寒冷前線によって、北海道はこれから気温が下がる 恐れがある ・ フィリピン付近にある台風 4 号が北東方向へ移動している などである。これだけでも、現在の日本付近ではどのような気象状況なのか、また今後、 天気がどのように変化していくかについて予想することもできる。 また、天気図には多くの種類が存在し、様々な天気図を組み合わせることによって、さら に深くまで予想することが可能である。他の天気図については、後述する。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6-2 (2) 周辺の気象状況を把握する 空を眺め、雲の状態や風向、風速などを観察し、今後の天気を予想することを観天望気と 言う。当然ながら、観天望気の歴史は古く、多くの人々に利用されてきた気象予測の手段で ある。それが言い伝えやことわざとなったりして、人々に語り継がれてきたのである(「カエ ルが鳴くと雨」 、 「夕焼けは晴れ」など)。 観天望気の最も有効な手段として、雲がある。雲の発達状況、移動距離などを観察するこ とによって、天気の移り変わりを知るのである。 夏によく発生する積乱雲。この雲が発生しているときは、強い 上昇気流が発生しており、雷を伴った強い雨が降ることがある。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6-3 6.3 雲の分類 雲の分類は、気象庁によって下表 10 種類に分類されている。これらの雲の形状と性質を覚え ることによって、観天望気を行う。とは言っても、空に浮かぶ雲の形状は千差万別であり、この 形状がこの雲であると、はっきりと言い切ることは難しい。そのため、雲を使った観天望気には、 訓練が必要となる。 雲の名称 発生しやすい高さ 巻雲 Cirrus Ci 巻層雲 Cirrostratus 上層 (5~13km) Cs ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 巻積雲 Cirrocumulus Cc ・ ・ ・ ・ 高積雲 Altocumulus Ac 高層雲 Altostratus 中層 ・ ・ As 乱層雲 Nimbostratus Ns 層積雲 Stratocumulus Sc 層雲 下層 (地表~2km) Stratus St 積雲 Cumulus Cu 積乱雲 下層から中・上層 Cumulonimbus Cb ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 形状と性質 刷毛でなぞったような形状。 雲の中で最も高高度に発生する。 輪郭が霞んでいるような場合は、天気の快方を意味する。 霧状、網状などの場合は、悪天となることが多い。 薄い雲で、時には太陽が暈(かさ)をかぶったように見える場合 がある。 時と共に別の雲に変化し、天気が悪くなることが多い。 白い小石を敷き詰めたような雲。俗に「いわし雲」などと言わ れる。 巻雲や巻層雲などと同時に発生する場合が多い。 小さな塊で、まだら状、帯状になっている雲。 俗に「ひつじ雲」などと呼ばれている。 塊が比較的大きい場合は好天となり、小さい場合は悪天となる 場合が多い。 灰色または薄い墨色を帯びた、むらのない一様な雲。 この雲の下に層積雲などの低い雲が現れはじめたら、雨は近い と考えてよい。 俗に雨雲と言われる、黒色の雲。 シトシトと弱い雨を長時間降らせる。 温暖前線に伴っている場合が多い。 低空に塊の大きい雲が集合しているもの。 白色または灰色のものが多い。 雲塊と雲塊の間から青空が見える時は、穏やかと見てよい。 灰色で一様な層状の雲。霧に似ている。 層雲が発生している時は、大気の状態は穏やか。 層雲よりも上層が青空ならば、好天となる場合が多い。 上層に高層雲などの雲が広がっている場合は、層雲が発達し て、あめとなることがある。 身近な雲のひとつで、綿のように浮かんでいる。 この雲が発生しているときは、上昇気流が発生している。 上昇気流が強い場合は、発達して積乱雲になることがある。 夏季によく出現する雲。入道雲。 内部では強い上昇気流が発生している。 成長すると、短時間に強い雨を降らせる。雷を伴うこともある。 天頂部がかなとこ状になると、要注意。 ※発生しやすい高さは、温帯での高さを基準としている。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6-4 6.4 高気圧と低気圧 毎日、天気図上をにぎわす、高気圧と低気圧。高気圧が日本列島上を広く覆うと、全国各地は 概ね晴天となり、絶好のフライト日和となる。一方、前線を伴った低気圧が近づいてくると天気 は一変し、あちこちで雨を降らせる。さらに、秋頃になると、台風までもが日本に近づいて、嵐 を起こすことがある。 このように、日本付近では常に高気圧と低気圧によって天気が移り変わっている。本節では、 気圧の説明を行うと共に、高気圧と低気圧の性質などについて述べる。 (1) 気圧について 地球は大気に覆われており、我々は常に、大気の重さによる圧力を受けている。これを「気 圧」と言う。気圧は地表面で最大となり、高度が上がるにつれて低くなってゆく。 気圧を表す単位には、[hPa](ヘクトパスカル)を使用する。また、地表面における標準気圧を、 1013.25hPa として定めている。 気圧の単位: [hPa] (ヘクトパスカル) 標準気圧(地表面): 1013.25[hPa] (2) 高気圧 周辺の気圧よりも気圧が高い地点を、高気圧と言う(標準気圧よりも高いという意味ではな いことに注意)。高気圧の中心部では、下降気流が発生している。つまり、下降気流によって、 上空の空気がどんどん降りてきているのである。そのため、気圧が高くなる。一般に高気圧 の中心部では、好天となる。この理由は、空気の飽和水蒸気量(一定量の空気が水蒸気を含む ことができる量)に関係している。飽和水蒸気量については、後ほど詳しく述べる。 下降気流が地上付近まで達すると、空気は水平方向に広がる。このため、高気圧は風を吹 き出すのである。コリオリの力により北半球では時計回りに吹き出し、南半球では反時計回 りに吹き出す。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6-5 (3) 低気圧 周辺の気圧よりも気圧が低い地点のことを言う。低気圧の中心部では、高気圧とは逆に上昇 気流が発生している。地上から周辺の空気が低気圧の中心部に吹き込み、上昇気流で上空へ と持ち上げられる。高度が上がると気温も下がるため、飽和水蒸気量はどんどん減少する。 そのうち、空気に含まれている水蒸気量が飽和水蒸気量を越え、水蒸気は水滴となって雲を 形成する。低気圧の種類は、以下の二種類がある。 (イ) 温帯低気圧 温帯低気圧は、主に中緯度(20 度~40 度)の温帯で発生する低気圧である。北からの 寒気と南からの暖気がぶつかり合い、渦を形成することによって発生する。寒気が暖 気を西から東へ追いかけるような形になり、寒気の前面である寒冷前線と、暖気の前 面である温暖前線を持つ。 (ロ) 熱帯低気圧 熱帯地方の湿った空気塊が太陽によって暖められて上昇すると、上昇気流が形成さ れる。上昇した空気塊はやがて露点に達し、雲を形成する。これを、熱帯低気圧と言 う。熱帯低気圧の周辺では、中心部に向かって風が吹き込む。この風速が 17.2m/s 以上になったものを一般に「台風」と呼び、秋頃になるとたびたび日本へ接近して 災害を起こすことがある。 台風は日本に近づくにつれ徐々に弱まっていくが、それでも中心気圧は 900hPa 後 半の場合が多く、また、時として強い温帯低気圧となるものもあり、動向には十分注 意しなければならない。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6-6 6.5 前線 密度や気温差がある二つの気団の境界面を前線面と言う。また、この前線面が地上と交わる部 分を前線と言う。温帯低気圧に伴っており、前線面では雨が降っていたり、雲っていたりする。 前線には次の 4 種類が存在する。 (1) 温暖前線 温暖な大気と寒冷な大気が接していて、温暖な大気の勢力が強い場合を温暖前線と言う。 暖かい大気は冷たい大気よりも軽いため、暖かい大気は冷たい大気に覆いかぶさるようにし て冷たい大気を押す。そのため前線面が約 200km~300km ほどの範囲に及び、弱い雨が長 く降り続く。通過後は一時的に気温が上昇する。 巻雲 高層雲 暖気 温暖前線 乱層雲 冷気 0 200 400 600 800 進行方向 300km 温暖前線の前線面 (2) 寒冷前線 温暖前線とは逆に、寒冷な大気の勢力が強い場合を寒冷前線と言う。寒冷な大気の方が 重いため、前線面では寒冷な大気が温暖な大気の下側に、くさびのように入り込む。 そのため、前線面では強い上昇気流が発生し、短時間で局地的(10km~70km 程度)に強い 雨を降らせる。また、時として雷を伴うこともある。通過後は気温が低下し、風が強くなる ことが多い。 寒冷前線 高積雲 積乱雲 暖気 冷気 400 200 進行方向 0 70km 寒冷前線の前線面 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6-7 200 400 (3) 停滞前線 温暖な大気と寒冷な大気との勢力が互角で、移動しなくなった状態を停滞前線と言う。一 般に梅雨前線などがこの例であり、前線面では長期間、雨が降り続けることが多い。停滞前 線の北側では、温暖前線と同じく 200km~300km 程度、南側では 10km~70km 程度の範囲 で雨が降る。 (4) 閉塞前線 寒冷前線が温暖前線に追いついてしまった状態。一般に、寒冷型と温暖型がある。この前 線が発生した温帯低気圧は、寒気と暖気の温度差が小さくなり、次第に勢力が衰えてくる。 暖気団 暖気 乱層雲 冷気 冷気 最寒気団 400 上空の温暖前線 200 0 寒気団 200 400 進行方向 寒冷型閉塞前線 暖気団 暖気 冷気 寒気団 400 冷気 200 0 進行方向 温暖型閉塞前線 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 上空の温暖前線 乱層雲 6-8 最寒気団 200 400 6.6 大気の構造と運動 (1) 大気の構造 地球を取り巻く大気の構造は、対流圏、成層圏、中間圏、熱圏、外気圏の 5 層に分けられ る。天気の変化は対流圏でのみ発生しており、それより上で雲が発生したりすることはない。 これは、対流圏では上空へ上がるほど気温が低下していくため、上層の冷たい大気と下層の 暖かい大気との交換が行われるためである。この現象を「対流」と言う。 対流圏と成層圏の境界を特に対流圏界面と言い、対流が起きる最上層である。 60 中間圏 成層圏界面 高度 [km] 40 成層圏 20 対流圏界面 対流圏 0 -60 -40 -20 気温 [℃] 0 気温の鉛直分布から見た大気の構造 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6-9 20 (2) 大気の運動 大気が運動する様は、主に「風」として感じることができる。一般に、風とは地表面におけ る水平方向の大気運動を言い、鉛直方向における大気運動は、 「気流」と言う。風速を表す 単位は、m/sec(秒速)と kt(ノット)が使用される。気象庁では地上での風速に[m/sec]が使用さ れ、高層では[kt]を使用している。[m/sec]と[kt]との関係は、1kt ≒ 0.5m/sec である。 また、風が吹いてくる方向を「風向」と言う。例えば、北から吹いてくる風を「北風」と 言う。気象庁による地上天気予報では、地上から約 10m の高さで吹いている風向と風速を、 16 方位に分割して発表している。一方、高層における予報については、北を 0 度(360 度)と した度数法で表されていることが多い(例えば、北東風=45 度など) 北北西 北(0 度) 北北東 北東 北西 西北西 東北東 西(270 度) 東(90 度) 東南東 西南西 南西 南東 南南西 南(180 度) 南南東 16 方位と角度法で表した方角 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 10 6.7 風の原理 (1) 気圧傾度 水が高い場所から低い場所へ流れるように、空気も気圧の高い場所から気圧のより低い場所 へ流れる。このような気圧の傾きを、気圧傾度と言う。また、このような、空気を押し動か す力を、気圧傾度力と言う。気圧傾度力は、2 点間の気圧差に比例し、距離に反比例する。 (2) コリオリの力(転向力) 地球が自転しているため、北半球では運動する物体に対して垂直右向きの方向に力が働く。 これを、コリオリの力と言う。コリオリの力は「見せかけの力」とも言われ、物体に対して 実際に働いている力ではない。すなわち、地球の外から見たときに直線的に動いている物体 を、自転している地球上で見ると、右方向にカーブしていくように見える。このように、地 球上で見たときに、物体の移動方向を右方向に変えようとする力がコリオリの力である。 (3) 地衡風 高層天気図を見ると、風は等圧線に平行して吹いている。気圧傾度力の影響を受けるならば、 風は高気圧から低気圧に向かって吹くため、等圧線に対して垂直となるはずである。これは 一体なぜか?この理由として、コリオリの力が重要な役割を果たしている。 高気圧と低気圧の間にある空気塊に対して、気圧傾度力が働く。空気塊は高気圧から低気圧 の方向へ力を受けるが、北半球ではコリオリの力によって進行方向右向きに力を受ける。空 気塊は引き続きコリオリの力を受け続け、ついには気圧傾度力とコリオリの力が等しくなり、 等圧線に対して平行に吹くのである。これを地衝風と呼ぶ。 低圧側 等圧線 気圧傾度力 コリオリの力 (転向力) 高圧側 地衝風のメカニズム NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 11 地衡風 (4) 傾度風 高気圧および低気圧の周辺では、等圧線が曲線状に存在している。曲線となった等圧線の間 を一定速度で吹く風を、傾度風と言う。傾度風では、気圧傾度力、コリオリの力に加え、円 運動による遠心力を考慮しなければならない。 高気圧の場合では、気圧傾度力と遠心力が中心から外側へ働き、それとは逆方向にコリオリ の力が働く。そのため、傾度風は時計回りに吹くことになる。一方、低気圧では、コリオリ の力と遠心力が中心から外側へ働き、気圧傾度力が中心にむかって働く。そのため、傾度風 は反時計回りに吹くことになる。 また、高気圧に伴う傾度風は、地衝風よりも速く、低気圧に伴う傾度風は、地衝風よりも遅 くなる。 気圧傾度力 等 圧 転向力 風 傾度 気圧傾度力 気圧傾度力+遠心力 等 圧 線 低気圧 線 高気圧 傾度 転向力 転向力+遠心力 風 傾度風の原理 (5) 地上付近の風 地上や海上で吹く風は、気圧傾度力、コリオリの力に加えて、摩擦力が影響する。摩擦力は 風向と正反対に働くため、気圧傾度力とコリオリの力との均衡が崩れ、風向は気圧傾度力寄 りになる。これは、コリオリの力と摩擦力との合力が、気圧傾度力とつりあうとも言える。 そのため、風は等圧線に対して陸上で約 30 度、海上で約 20 度の大きさで傾く(一般的に、緯 度、地表面の状態などにより、この値より大きくなったり小さくなったりする)。この影響で、 高気圧周辺では風が吹き出し、低気圧周辺では風が吹き込むことになる。 圧 線 高気圧 等 気圧傾度力 コリオリの力 摩擦力 地上風 低圧側 地上 摩擦力 コリオリの力 気圧傾度力+遠心力 低気圧 気圧傾度力 摩擦力 等 圧 線 高圧側 風 地上 風 コリオリの力+遠心力 地上風の原理 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 12 (6) 偏西風 北緯 30 度~60 度付近における対流圏の上層では、常に西よりの風が吹いている。これを、 偏西風と呼ぶ。この偏西風によって高気圧や低気圧は移動するため、日本付近の天気は西か ら東へと変化する。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 13 6.8 大気の安定・不安定 大気の状態を最も左右する要因は、水である。水は大気中で三態(気体、液体、固体)存在する。 その時の大気中で、水がどのくらい存在するか、水はどのような状態であるかによって、気象に 大きな影響を与えている。 (1) 飽和水蒸気量 大気中には主に、水蒸気の形で水が存在している。一定量の大気中に存在できる水蒸気量は 限られており、これを飽和水蒸気量と言う。また、ある大気中の飽和水蒸気量に対する、水 蒸気量の割合を湿度(相対湿度)と言う。湿度は一般に、百分率(%)で表される。 また、大気の温度が下がり、大気中に含まれている水蒸気の量が飽和水蒸気量以下になる(湿 度が 100%)時の温度を露点と言う。例えば、1m3 の大気が 25℃で、17.3g の水蒸気を含んで いる場合の露点は、下表から 20℃である。 湿度 = 大気中の水蒸気量 / 飽和水蒸気量× 100 【例】 気温:20℃、大気中の水蒸気量:15g/m3 の場合 湿度:10 / 17.3 × 100 = 57.8[%] 表1 1m3 当りの飽和水蒸気量 気温[℃] 飽和水蒸気量[g/m3] 5 6.8 10 9.4 15 12.8 20 17.3 25 23.1 30 30.4 (2) 雲の発生の仕組み 水蒸気を含んだ空気塊が上昇すると、空気塊の温度は次第に下がっていく。やがて空気塊は 露点に達し、水蒸気は水滴となって浮遊する。これが雲である。上層で水滴が多くなり、や がて浮遊できないほどの大きさになると、これが雨となって降ってくるようになる。尚、雲 についての詳細は、後述する。 (3) 断熱変化 気体は一般的に周囲からの熱の出入りがなくても体積が膨張すると温度が下がり(断熱膨 張)、体積が圧縮すると温度が上がる(断熱膨張)。これを断熱変化という。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 14 (4) 断熱減率 ある空気塊が大気中を上昇しているとする。周囲の気圧は空気塊が上昇するほど低下するの で、空気塊は膨張する。この時の膨張は、断熱変化と考えられる (理由は※1)。そのため、 空気塊の上昇下降は、温度変化との関係として考えることができる。 露点に達していない空気塊が、このように断熱的に上昇する場合、100m 毎に 1℃の割合で 温度が下がる。これを、乾燥断熱減率と言う。一方、露点に達した空気塊が上昇する場合、 空気塊中に含まれる水蒸気が水滴へと変化(凝結)して、温度が下がる。これは、水が気体から 液体に凝結する際に、熱が放出されるためである。この熱を、潜熱と言う。そのため、この 湿潤空気の温度変化は、乾燥空気と比較して温度変化が小さい。割合にして、100m 毎に 0.5℃ の割合で低下する。これを湿潤断熱減率と言う。 ※1:空気塊と周囲の大気との間における放射や伝導による熱の授受は、空気塊の圧縮・膨張による温度変化と比較して 無視できるほど小さいため。 乾燥断熱減率:0.01[℃/m] 湿潤断熱減率:0.005[℃/m] 2000m 上昇 下降 断熱膨張 上昇 下降 断熱圧縮 断熱膨張 水滴蒸発 水蒸気凝結 潜熱吸収 潜熱放出 0.5℃/100m 断熱圧縮 1℃/100m 1000m 5℃ 下降 上昇 1℃/100m 15℃ 乾燥断熱減率での温度変化 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 10℃ 相対湿度 100% 上昇 下降 断熱膨張 断熱圧縮 水蒸気凝結 水滴蒸発 潜熱放出 潜熱吸収 0.5℃/100m 断熱圧縮 断熱膨張 5℃ 0m 露点温度 15℃ 15℃ 相対湿度 100% 湿潤断熱減率での温度変化 6 - 15 高さ (m) -5℃ 2000 湿潤断熱減率 0.5℃/100m 1000 乾燥断熱減率 1℃/100m 0 -5 0 5 10 気温 (℃) 15 (5) 状態曲線と大気の安定 状態曲線とは、大気の状態を高度と気温の関係で表した曲線である。下層の大気温と上層の 大気温との温度差がわかりやすいと言う利点がある。状態曲線に湿潤断熱減率および乾燥断 熱減率を表す曲線を併記することによって、容易に大気の安定度を判断することができる。 ここで、大気が安定しているとは、上層と下層の大気交換がない状態のことを言う。 高さ (m) (イ) 安定状態 大気の断熱減率χが、湿潤断熱減率よりも小さい状態(χ<0.005℃/m)。つまり、上 層と下層との気温の差が小さい状態のこと。状態曲線では、湿潤断熱減率よりも傾き が大きい(状態曲線が立っている状態とも言う)。 尚、逆転層とは、地上よりも高い場所での気温が、地上気温よりも高い状態のことを 言う。そのため、逆転層が発生している時は、必然的に大気は安定している。 下図の例では、気温 15℃における状態を示している。 2000 湿潤断熱減率 乾燥断熱減率 5℃ 状態曲線 1000 空気塊が持ち上げ られても、外気温 より温度が低いの で、下向きの力が 働き、元に戻ろう とする。 1000m 外気温12.5℃ 10℃ 空気塊が持ち上げ られても、外気温 より温度が低いの で、下向きの力が 0.5℃/100m 働き、元に戻ろう とする。 1℃/100m →安定 0 高さ (m) (ロ) -5 0 5 10 気温 (℃) →安定 0m 外気温15℃ 15℃ 15 乾燥空気の場合 15℃ 湿潤空気の場合 条件付不安定状態 大気の断熱減率が、湿潤断熱減率よりも大きく、乾燥断熱減率よりも小さい状態 (0.005℃/m≦χ≦0.01℃/m)。この状態では、湿潤した空気塊が上昇した場合、この空 気塊の気温減率は常に外気温より高い状態となり、どこまでも上昇しようとする。つ まり、不安定な状態となる。逆に、乾燥した空気塊が上昇した場合、空気塊の気温減 率は乾燥断熱減率よりも低いため、大気は安定した状態となる。 状態曲線は、乾燥断熱減率と湿潤断熱減率の間に引かれる。 2000 湿潤断熱減率 5℃ 状態曲線 1000 空気塊が持ち上げ られても、外気温 より温度が低いの で、下向きの力が 働き、元に戻ろう とする。 乾燥断熱減率 1000m 外気温7.5℃ 10℃ 空気塊が持ち上げ られると、外気温 より温度が高いの で、上向きの力が 0.5℃/100m 働き、さらに上に 上がろうとする。 1℃/100m →安定 0 -5 0 5 10 気温 (℃) NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 →不安定 15℃ 15 乾燥空気の場合 6 - 16 0m 外気温15℃ 15℃ 湿潤空気の場合 高さ (m) (ハ) 不安定状態 大気の断熱減率が、乾燥断熱減率よりも大きい状態(0.01℃/m<χ)。空気塊はどこま で上昇しても外気温以下になることがないため、絶えず上昇気流が起き、大気は不安 定な状態となる。 2000 湿潤断熱減率 1000m 外気温0℃ 5℃ 乾燥断熱減率 1000 空気塊が持ち上げ られると、外気温 より温度が高いの で、上向きの力が 働き、さらに上に 上がろうとする。 状態曲線 10℃ 空気塊が持ち上げ られると、外気温 より温度が高いの で、上向きの力が 0.5℃/100m 働き、さらに上に 上がろうとする。 1℃/100m →不安定 0 -5 0 5 10 気温 (℃) →不安定 15℃ 15 0m 外気温15℃ 乾燥空気の場合 15℃ 湿潤空気の場合 6.9 雲について 先に述べたように、水蒸気を含んだ空気塊が上昇すると、やがて空気塊内の水蒸気は飽和し水 蒸気は水滴となる。これが雲である。本節では、雲がどのような時に発生し、どのように発達す るかについて述べる。 (1) 雲の発生メカニズム 雲が発生するメカニズムをさらに詳しく述べる。ある一定の水蒸気を含んだ空気塊が、下図 A-B の状態曲線で示される大気中で上昇すると仮定する。空気塊は飽和するまで、乾燥断熱 減率で上昇する(A-D 間)。やがて空気塊が露点となる高度(凝結高度と言う)に到達したとき (D)、初めて雲が発生し始める。空気塊は水蒸気から発せられる潜熱によって、それ以降は湿 潤断熱減率で上昇していく(D-F 間)。やがて空気塊の気温は、外気温と同じになり、上昇を止 める。雲は、この間(D-F 間)において、形成される。 E 高 さ B F 大気の 温度分布 C D A NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 凝結高度 空気塊の 温度変化 H 気温 6 - 17 6.10 天気図 日本では気象庁から天気図が発表され、テレビやインターネット等で公表されるようになって いる。気象庁から発表される天気図は多種多様であり、複数の天気図を組み合わせて検討するこ とによって、天気の状況判断や予想を行うことができる。 但し、天気図から理解、予想できるレベルはあくまでマクロ的な事象であり、局地的な天気や 風向、風速を具体的に予想することは困難であることに注意しておかなければならない。特に地 上では、地形や摩擦などによって思わぬ風が吹くことがある。局地的な予報を行うには、観天望 気を行い、どのような気象状況となるかを判断しなければならない。 また、各天気図で使用されている時刻は、世界標準時(UTC)を使用しているため、天気図を見 る際には日本標準時(JST)に直して考えなければならない。UTC と JST の関係は以下のように なる。JST = UST + 9 時間 【例】240000UTC→日本時間で 24 日午前 9 時 (1) 地上天気図 我々が一般に、テレビやインターネット等の天気予報でよく目にするのが、この地上天気図 である。地上天気図では、各観測地の気象情報を基本として記している。気圧については、 海抜 0m での気圧に補正されている。地上天気図については、以下の二種類がある。 (イ) 速報天気図(SPAS) アジアの各観測地から送られてくる風向、風速、気圧、気温などのデータを基にして 作成された天気図。詳細に解析される前に作成されるため、高気圧、低気圧、等圧線、 前線のみが記述されている。最も直近の気圧配置が把握できるため、天気の変化や風 速についてある程度の予想をたてることが可能である。 (ロ) アジア地上解析図(ASAS) 速報天気図を気象庁で詳細に解析し、作成した天気図。速報天気図の情報に加えて、 各観測地の気象状況、霧域、強風域、が記述されている。また、発達中の低気圧につ いての情報が記述されていることもある。速報天気図では記述されなかった情報が記 述されていることもあり、本図から得られる情報量は多い。 速報天気図 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 地上解析図 6 - 18 (2) 地上予想天気図(FSAS) 実況天気図と高層天気図(実況)を基に解析し、予想される将来の天気図のこと。地上と高層 の予想天気図がある。テレビ等で放送されている予想天気図は、地上の予想天気図である。 予想時刻は、日本時間の 9 時から 24 時間後と 48 時間後、21 時から 24 時間後と 48 時間後 である。気圧配置と流氷域、海氷域、霧域が表示される。実況天気図と組み合わせて見るこ とにより、高気圧や低気圧、前線がどのくらいの割合で動くかの予想を立てることができる。 ただし、地上との摩擦などによって、予想通りとならないこともある。 予想天気図(24 時間後) NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 19 (3) 高層天気図 高層天気図とは、その名の通り高層の気象状況を地図に書き表したものである。毎日、日本 時間の 9 時と 21 時の二回、観測用機材を積んだ気球を飛ばし、気球から報告された値を基に して作成される。高層天気図は地上天気図とは違い、ある一定の気圧がどの高さに存在する かを基準にして作成される。そのため、等圧線ではなく等高線を使用して、一定の気圧がど の高度に存在しているかが記されている。また、風速についても、地上のように m/s ではな く、kt(ノット)が使用されている。 作成される高層天気図は、850hPa、700 hPa、500 hPa、300 hPa の 4 種類である。高層 の気象状況は地上に大きな影響を与えるため、高層天気図を読む能力があれば、比較的、天 気の予測を行いやすくなる。 (イ) 850,700 hPa 解析図(AUPQ78) 上段に 700hPa、下段に 850hPa の実況天気図が記された天気図。高気圧、低気圧、 等高線、観測地の風向風速、等温線、雨域、暖気の中心、寒気の中心などが記されて いる。大まかな高度としては、700hPa が約 3000m、850hPa が約 1500m である。 特に、850hPa の天気図は、高層天気図の中でも最も下層の部類に入り、地上の摩擦 などの影響がなくなる高さにあたる。前線の解析や暖気、寒気の動きについて知るこ とができる。例えば、地上で記述されている寒冷前線の西側付近に、どのくらいの寒 気が存在しているかによって、寒冷前線の強さを知ることができる。 850,700hPa 解析図 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 20 (ロ) 500,300hPa 解析図(AUPQ35) 上段に 300hPa、下段に 500hPa の実況天気図が記された天気図。高気圧、低気圧、 等高線、観測地の風向風速、等温線、暖気の中心、寒気の中心などが記されている。 大まかな高度としては、300hPa が約 9000m、500hPa が約 5500m である。 うち、500hPa の天気図は、高層天気図の代表格とも言えるもので、様々な情報が記さ れている。この層に存在するトラフ(等高線が V 字型になっている箇所。気圧の谷)、リ ッジ(等高線が山型になっている箇所。気圧の尾根)は、地上の気象状況に大きな影響を 与える。また、テレビなどでよく言われる「寒気」も、500hPa の天気図から解析して いる。一般に、-30 度の寒気が日本にかかると雪となることが多く、-36 度以下であれ ば、大雪になる恐れがある。 500hPa の天気図によって、低気圧が発達するかどうかも予想することができる。例 えば冬季、大陸で発生した低気圧が日本海および三陸沖で猛烈に発達し、日本海側の 地方で大雪を降らせることがある。これは、大陸から日本海上空にかけて、5500m 付 近に強い寒気が入ってきたために大気が不安定となり、低気圧の発達する要因となる 場合が多いためである。 500,300hPa 解析図 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 21 (ハ) 極東 500hPa 予想図(FXFE) 上段に 500hPa の等高線、渦度、湿域、下段に地上気圧、降水量、海上風の予想を記 したもの。500hPa における具体的な予想図は、上段の図である。この図から予想でき ることは、トラフとリッジの動きである。先に述べたように、地上の低気圧は、500hPa に存在するトラフの前面において発達しやすい。また、トラフの谷あいが深くなれば なるほど発達する傾向にあるので、今後、500hPa のトラフがどのように変化しながら 動いていくかを注目する。 (ニ) 日本 850hPa 風・相当温位予想図(FXJP) 850hPa における、12,24,36,48 時間後の予想が記されている。記述内容は、風向、風 速、等温線(相当温位)である。相当温位は、高いほど暖かく湿った空気、低いほど冷た く乾いた空気と考えてよい。そのため、この天気図から読み取ることができるのは、 暖かい空気と冷たい空気の動きである。等温線が混みあっているところが、前線の位 置とほぼ一致する。 また、低気圧の中心部では、南からの暖かい空気と、北からの冷たい空気とがぶつか り合い、渦を巻いている様子がわかる。地上天気図では低気圧が発生していなくとも、 この天気図を解析することにより、低気圧の発生を予想することができる。また、風 向、風速の予想も記されていることから、熱気球活動において、この高層天気図が最 も活用しやすいものであるかもしれない。 (4) 天気図作成の薦め 天気図は、個人でも作成することができる。個人で天気図を作成するには、観測地からの気 象状況や、高気圧、低気圧の位置を知らなければならないが、これらの情報は、AM ラジオ の NHK 第 二 放 送 、 ラ ジ オ た ん ぱ に て 放 送 さ れ る 気 象 通 報 や 、 気 象 庁 の ペ ー ジ (http://www.data.kishou.go.jp/yohou/tenkizu/)にて知ることができる。 近年はインターネットや携帯電話でも容易に地上天気図が参照できるようになってしまっ たため、自ら天気図を作成する人はかなり少なくなってしまった。しかし、気象通報からは、 観測地の天気や風向を知ることができるため、雨域や前線の位置などがわかりやすい。この 天気図と、高層天気図とを組み合わせて、今後どのように天気が変化していくか予想するよ うになるであろう。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 22 6.11 季節と気団の関係 日本は中緯度地方に位置しており、春夏秋冬がはっきりとしている。これは、地球の公転に伴 い、それぞれの季節で勢力が活発化する気団が存在するのが理由である。日本において、季節ご とに活発化する気団の種類としては、下表のようなものがある。 名称 シベリア気団 小笠原気団 オホーツク海気団 揚子江気団 活動期 冬 夏 春・秋 春・秋 性質 寒冷乾燥 温暖多湿 寒冷多湿 温暖乾燥 (1) シベリア気団 アジア大陸の北側で、主に冬季に発達する気団である。 この高気圧の勢力が強まることに よって、 「西高東低」と言う日本列島の西側に強い高気圧、東側に強い低気圧の気圧配置とな る。たびたび日本、特に日本海側で大雪を降らせることがある。 もともとの性質は寒冷で乾燥しているにも関わらず大雪を降らせる原因は、この気団から吹 き出してくる風が日本海にさしかかった時に、大量の水蒸気が供給されるためである。 (2) 小笠原気団 太平洋の中心部辺りで、夏に発達する気団である。太平洋で大量に水蒸気が供給されるため、 性質は高温多湿であり、日本に蒸し暑い夏をもたらす原因となる。 (3) オホーツク海気団 北海道の東側、ちょうどオホーツク海付近で発達する気団。梅雨の時期に発達し、同じ頃、 活発化しはじめる小笠原気団との間で梅雨前線を形成する。この気団に伴う高気圧がオホー ツク海付近に発生すると、日本に冷たい北東風をもたらし、たびたび寒い春となる日がある。 特に三陸付近などでは、 「やませ」と呼ばれる、冷たい北東風の原因となる。 (4) 揚子江気団 中国の南、揚子江(長江)付近で発達することから、揚子江気団と呼ばれる。春または秋に、 たびたび移動性高気圧として日本に近づき、晴天をもたらす。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 23 6.12 その他の情報源 (1) アメダス(Automated Meteorological Data Acquisition System) アメダスとは、日本語で言うと「地域気象観測システム」のことであり、観測機の設置され た地点(観測所と呼ばれる)の気象状況をリアルタイムに知ることができるものである。主な観 測項目は、降水量、風向、風速、気温、日照時間であり、冬季には積雪量を観測する地点も あ る 。 観 測 所 は 全 国 で 約 1300 箇 所 存 在 す る 。 名 前 の 由 来 は 、 英 名 の "Automated Meteorological Data Acquisition System"の頭文字"AMeDAS"を取ったものである。 アメダスの降水量(左)と風向・風速情報(右) (2) 雨雲レーダー レーダー(Radar:Radio Detection And Ranging)の原理は、大気中に電波を発射し、物体か ら反射された電波を観測することによって、物体までの距離や方角を知る、というものであ る。気象で使用するレーダーは、雨雲の位置や強さを測定する。最近ではインターネットで 容易に見ることができ、サイトによっては 10 分単位など、ほぼリアルタイムで更新されるた め、かなり雨雲の動きを捕らえやすくなっている。 雨雲レーダー NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 24 (3) 気象衛星 地球の静止衛星軌道上から、可視光線と赤外線を使用して気象観測を行うための人工衛星。 よく「ひまわり」と言う名前を耳にした方も多いであろう(2004 年にひまわりは廃止となっ た)。気象衛星から観測される雲の動きは、非常に重要な情報源である。気象庁から配信され る主な画像は、以下の 3 つがある。 (イ) 赤外線画像 赤外線画像は、温度が低い部分ほど白く表示されるようになっている。そのため、雲 が高いほど白く映りやすい特徴がある。低い高度に存在する雲は、温度が高いために、 画像では薄白色に映ったり、全く映らない場合がある。そのため、必ずしも白く映っ ている部分で雨が降っているとは言えない。 赤外線画像 (ロ) 可視画像 可視光線によって観測された画像。そのため、夜の観測は行うことができない。また、 光の反射が強い部分ほど白く表示される。雲の濃淡によって雨雲の様子を観測しやす い。雨雲を伴わない上層雲は、下層の雲が透過して見えることもある。下層雲の場合 は、一様で滑らかに見える。下層から上層に発達する積乱雲は、赤外線、可視共に非 常に白く見える。また、可視画像の方が赤外線画像より解像度が高い。 可視画像 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 25 (ハ) 水蒸気画像 水蒸気に反射する特殊な赤外線を使用して観測した画像。水蒸気を多く含む部分が特 に白く映り、雨雲の集団を捉えやすい。修正液のように白く輝く部分が存在する地点 では、強い雨が降っていると考えることができる。 水蒸気画像 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 26 6.13 気象急変と気球の事故 気球のフライトでは、時として気象の急変による事故が発生している。以下にあげるものは、 気象の急変の典型的なものであるが、事前に気象情報を入手していれば十分予想することが可能 である。したがって、必ず気象情報を入手してフライトに臨むことが事故を防ぐ一番の方法であ る。 (1) 寒冷前線の通過後 特に秋口から初夏の頃まで、我々がよく経験するのが、寒冷前線の通過による気象の急変で ある。ひどい時には、雷、突風、ひょう、あられなどが突然やって来る。寒冷前線が通過し てもすぐには突風とならないので、油断して飛行を続けると大変危険である。 また、早朝晴れた空に虹が出ている時などは、寒冷前線が通過して雨が降ったことが考えら れるので、風が弱いと感じてもその後の突風に十分注意が必要である。実際に過去の気球大 会で、快晴の中、虹が出た後に突風が吹き事故が起きている。 (2) 雷雲の接近 夏季の午後のフライトで、雷雲の接近を知らず飛行を続けていると大変危険である。雷と共 に突風、大雨になるので飛行には十分な注意が必要である。事前に気象情報を入手し雷雲が 予想されるような大気の不安定さが無いことを確認しておくこと。特に、寒気が来ている時 は十分注意が必要である。 (3) 木枯らし一号 その年初めての西高東低の気圧配置により吹く北~西北西の強風である。早い年は、10 月 下旬から 11 月上旬に吹くことがある。ちょっと風が強いな程度の感覚で離陸してしまうと、 着陸時に、かなりのハードランディングが待っているので十分注意が必要である。 (4) 春一番 2 月頃、日本海に低気圧が進み、その低気圧に向って南よりの強風が吹くことがある。立春 を過ぎて春分の日までの間に初めて吹く南よりの強風(風向:東南東から西南西、風速:8m/s 以上)を「春一番」と呼ぶ。離陸後、強風になりハードランディングとなる恐れがあるので 注意が必要である。 (5) 温暖前線の接近 温暖前線の接近により曇り空から徐々に雨が降り出す。まだ降って来ないと考え離陸してし まい、市街地や集落などの上空で風が落ち雨が降り出すことがある。この場合、雨に気がつ いても風がないため、すぐには着陸できなくなってしまうので十分な注意が必要である。 NKR-PHB-Ver.3.0 第 3 部 6 章 Rev.1.01 6 - 27