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アルミニウム合金材の超精密鏡面加工技術の研究

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アルミニウム合金材の超精密鏡面加工技術の研究
アルミニウム合金材の超精密鏡面加工技術の研究
機械金属部
機械研究室
松隈博
磁気デスク基板に要求される表面粗さはR誠0肌以下という厳しいものである.この分
野の加工は従来,ポリッシング加工が主流として行われてきたが,最近では,単結晶ダイ
ヤモンドエ具による超精密加工技術が急速に進展してきた.そこでコンピータ用磁気ディ
スクに用いられているアルミニウム合金(JIS相当A5086幻を対象として,超精密旋盤に
よる端面加工を行い,ナノレベルの仕上げ面を実現するための実験を行った.その結果平
均仕上げ面粗さRal.3 1.4nm ,最大仕上げ面粗さ Rylo.2 13.6nmの範囲に収まる加工
条件を確立することが出来た.
1.はじめに
近年,光学部品,電子部品,電子・情報機器等を
中心として工業製品の急激な超高品化が進展してい
る.特に雛ンピュータ用磁気デスクやレーザ用反射
鏡,レンズ金型等の加工には,超精密加工技術が必
要とされ,しかもこれらはナノオーダの精度が要求
されており,仕上げ面精度の向上に対する二ーズが
増加してきている.超精密加工は21世紀産業の主
流を担うものであり,本県機械金属電機産業界の高
付加価値化に向けての先端加工技術として,先導的
技術支援の立場にある当センターにおいての加工技
術の構築を行う.本研究では,アノレミニウム合金を
対象として,超微小加工領域での超精密切削加工を
クで固定し,ワークの外周方向から中心部に向けた
端面切削加工を繰り返し2回行った.またダイヤモ
ンド刃先の冷却と切り屑捌けを良くするために,切
削中は常時灯油を使用したミスト仂口圧力0.2Mpa)
加工を行った.表1に切削条件を示す.また,各々
の切削条件における粗さの評価として,セイコーイ
ンスツノレメント社製SPA500, SP玲80ON型走査型プロ
ーブ顕微鏡及びオリンパス光学工業社製OLSHO0型
レーザ顕微鏡を用いて外周より10血の位置を測定し
た.なお図中に示す記号は断面曲線より求めた平均
仕上げ面粗さRa,最大仕上げ面粗さRy,十点平均仕
上げ面粗さRZを示す.
表1 切削条件
行い,主として平面形状面の鏡面加工に影響のある
仕上げ面粗さを追跡したので報告する.
ワーク回転数N (tpm)
送り量 f (mwtev)
切込み d (血)
ノーズ半径R (皿)
2.実験方法
ナノオーダ精度の超精密切削加工を行うには,バ
イト刃先をナノオーダ精度で制御し,その動きを工
作物に転写する必要がある.そこで実験には東芝機
械総製の超精密旋盤吼G-20OC (田を使用した.
、^
750
0.0033
0.0013
0.8
1800
0.0466
0.020
2.0
3.実験結果及び考察
3.1 仕上げ面粗さに及ぼす送りの影響
仕上げ面粗さは幾何学的にf'/(8R)で表され
の工作機械の各軸繰り返し位置決め精度はlnmであ
る.工具には旭ダイヤモンドエ業鵬製の超精密切削
用の単結晶ダイヤモンドバイトを用いた、なお工具
る.ここでfは送り量mwrev, Rはノーズ半径血を示
す.
の諸元は次の通りである.刃先角:50゜,前掬い角
図 1は工具刃先のノーズ半径RO.8血,1.0血及び
0゜,前逃げ角:フ゜,ノーズ半径: RO.8mm,
1.0血及び2.0皿である.また被削材はコンピータ用
磁気デスクに用いられているアルミニウム合金JIS
相当A5086Xで代表的化学成分は4.0%Mg,0.4596Mn,
0.15%ctとなっており被削材の寸法はφ10ommx
15血である.切削方法としてはワークを真空チャッ
2.ommの単結晶ダイヤモンドバイトを使用して,送
り量 f を0.0033皿/rev 0.0466血/r部変化させた時
の送り量と仕上げ面粗さの関係を示したものである.
送り量が小さくなるほど仕上げ面粗さは向上してい
る.刃先ノーズ半径Rが大きいほど仕上げ面粗さは
小さくなる傾向にある.特にノーズ半径R2mmにお
-61-
ヤモンドエ具で切削した面の加工面状態を比較した
もので右側(ノーズ半径R2.0血)が鏡面状態を示
す.図4は回転数N150or即,ノーズ半径R2.0血,
送り量 fo.0066血/rev,切り込みdo.0船血の切削
条件における加工面状態を走査型ブロー顕微鏡で測
定した結果である.図4より測定範囲40μm角で表
面粗さは外側でRal.30血, Ry13.6nm,となり,内側
いてはいずれの送り量領域に対して粗さの変動が少
なく,安定した良好な仕上げ面粗さが得られており,
加工条件の設定が容易であることを示している.し
かし図1に示すごとく,バイトの送り量に従って仕
上げ面粗さは小さくなるものの,ノーズ半径Rが
0.8m皿,1.omm及び2.ommのいずれの工具とも送り
0.007血/r剖以下で切削すると,仕上げ面粗さは逆
に大きくなる傾向を示した.すなわちこの領域に限
界仕上げ面粗さが存在することが推察される.
0.3
ではRal.44血, Rylo.2血の仕上げ面粗さを得ること
が確認された.
do.003mm
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N150orpm
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図3 超精密切削加工による加工面
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図1 送り量と仕上げ面粗さ
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送り量(mm/rev)
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図2 レ・,、顕微鏡による切削加工状態
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一方仕上げ面粗さは理論値とは必ずしも一致した
粗さにはならない.そのことは図2に示すように被
削材に含まれる介在物の粒子による甸削中の引っ掻
き傷や,あるいは使用されるバイト刃先の鋭角さ等
ノ.
X
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夕
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が粗さに影響するものと考えられる.
図3はノーズ半径RO.8皿m及びR2.0血で切削回転
外側(10血)
数N150orpm,送り fo.0466mm/rev,切込みdo.003皿
の切削条件で,アルミニウム合金を精密単結晶ダイ
-62-
図4
走査型プローブ顕微鏡による仕上げ面状態
3,2 仕上げ面粗さに及ぼす回転数の影響
図5は切込み及び送りを一定として,ワークの回
転数を750rpm,120orpm,150orpm,1800ゆmと変化
させて切削した時の仕上げ面粗さの推移を求めたも
のである.図5からも判るように回転数の増力Πに伴
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仕上げ面粗さは向上している.また図6及び図7は
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切削速度(回転数)を変化させた場合に得られた加
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工面の性状をレ司"顕微鏡にて撮影したものである.
観察されるように1800ゆm切削面には,小さな切削
状痕D が観察されるが,回転数が低い750rpmでの切
削面では,送り状痕が大きく存在しているのが確認
、、、、
'、叡
される.
図7 如削による仕上げ面状況(回転数750tpm)
ROBmm do.003mm
10.0333mm/rev
^Ra
^Ry
^RZ
2 1
0 0
(E三扣駅楓、-Hギ
80
76
0
05
04
03
0
0.9
0
750
1200 1500
相Φ
回転数(rpm)
図5 切削速度と仕上げ面粗さ
また図7にもあるように切込み深さ方向を観察す
ると,750t即では切込み深さ方向に対してかなりの
凹凸が観察され,仕上げ面粗さもRao.135μm,
Ryo.フ74μ m, RZO.427μ mと極めて粗い.一方,1800
rpmの切削面には微少の凹凸が見られるだけである.
すなわち仕上げ面粗さの向上を行うには回転数の影
響も無視できない要因のーつと考えられる.その他
に工具自体の影響も見逃せない要因であり超精密釖
削用単結晶ダイヤモンドバイトを用いることで,図
3に示す様に鏡面加工が容易に求めることが出来る.
このことは,単結晶ダイヤモンドの持つ物理的特性
すなわち,超硬度による耐摩耗性と刃先の鋭利さに
よるものであり,そのため工具形状の転写精度が良
好となり形状創成機能に優れるた良好な加工面を得
ることが出来るものと推察がされる.
3.3 仕上げ面粗さに及ぼす切り込みの影響
図8及び図9は切り込みを変化させた時の仕上
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げ面粗さの関係を求めたものである.ノーズ半径R
0.8血及びR2.0血のいずれも切り込み量が増すに従
つて,仕上げ面粗さは良くなる傾向にある.また切
り込みdの変化に対しては,0.015皿近傍において
仕上げ面粗さが最も小さくなる領域が存在する.ま
た切削加工面はノーズ半径R2,ommにおいて,図H
の切込みdo.003叫,図12の切込みdo.020血に示すよ
うにいずれの切込みにおいても切削状痕が鮮明に現
れている.また理論粗さよりRO.8血では0.0017μm,
R2.0血では0.00068μ皿よりも大きな値を示している
図6 甸削による仕上げ面状況(回転数180otpm)
のは,仕上げ面擾乱因子によるものと考えられる.
-63-
0.16
0.12
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0.04
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0.14
0.02
0
0.001
0.003 0.01 0.015
0.02
切込み量(mm)
図8 切込み量と仕上げ面粗さ
0.25
(E三扣駆県一川卓
02
図10 切削による仕上げ面状況(切込み0.003mm)
R2.omm
fo.0033mm/rev
N150o m
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0003
0.005 0.010 0.015
0.020
切込み量(mm)
図9
図H 切削による仕上げ面状況(切込み0.020mm)
切込み量と仕上げ面粗さ
(3)回転数(切削速度)を増すことにより,仕上げ
4.おわりに
アルミニウム合金の超精密鏡面加工における加工
面粗さの向上効果が得られる.
条件と仕上げ面粗さについて実験した結果以下のこ
とが判った.
(4)切り込みの変化における仕上げ面粗さに対して
は,0.0巧血近傍において仕上げ面粗さが最も小さ
(D/ーズ半径Rを大きく設定することにより,送
くなる領域が存在した.
り量0.0033血/rev 0.0466mm/minの範囲おいて比較
的に安定した仕上げ面粗さが得られる.またノーズ
半径R2.ommと RO.8mmと比較すると,送り量
参考文献
D2001年度精密工学会春季大会講演会論文集F71
0.0466mw'minでは,仕上げ面粗さに約2倍の差があ
ることが判った.
超精密釖削における切削油剤の供給効果(熊本大
学,安井平司,坂本重彦,川田昌樹,近藤純久)
(2)回転数N150ot即,ノーズ半径R2.0圃,送り量
0.0066mm/rev,如り込みdo.003血の切削条件で行
うことにより表面粗さRal.30血 1.44nm, Rylo.2加
13.6n皿が可能となる.
-64-
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