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完全民営化と完全な民営化

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完全民営化と完全な民営化
PHP Policy Research Report
パラダイム
Vol.9 No101(2006.3)
「完全民営化」と「完全な民営化」
宮脇淳 (北海道大学公共政策大学院院長・教授)
論説Ⅰ
シリーズ論説 「地方交付税制度改革の選択肢」 (第3回)
財政再建制度と地方債 (2) −新制度への移行プロセスー
論説Ⅱ
シリーズ論説「地方交付税制度改革の選択肢」 (第4回)
財政再建制度と地方債(3) −再生型破綻法制の概要−
視点・論点Ⅰ
視点・論点Ⅱ
公営企業金融公庫改革とフランス地方設備銀行民営化
本家の公共性
PHP総 合 研 究 所
公共経営研究センター
『PHP政策研究レポート』 Vol.9 No.101(2006.3)
1
パラダイム
「完全民営化」と「完全な民営化」
北海道大学公共政策大学院院長・教授
宮脇 淳
政策金融改革を具体化する行政改革推進法案(「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革推進に関
する法律案」)の検討の際に、「日本政策投資銀行」と「商工組合中央金庫」の「民営化」の表現を巡り大
きな議論が生じたことはすでに新聞等の報道で周知のとおりである。2005年12月に閣議決定した「行
政改革の方針」では、日本政策投資銀行、商工組合中央金庫は、「完全民営化」することで整理されていた。
その整理を受け、政策金融等行政改革を具体化するための法律が行政改革推進法案である。この法案づくり
の議論の過程で、条文上の表現として「完全民営化」か「完全な民営化」かが争点となったのである。
「完全民営化」と「完全な民営化」では大きな違いが生じる。両者に共通する「民営化」の言葉は、日本
では広範な意味を含んでいる。つまり、特別な法律(「設置法」等)によって設置され政府の出資や暗黙の
政府保証等が前提となり、人的、資金的にも政府と密接に関係する「特殊会社」から、商法、民法等一般の
法律で設立し、政府からの出資、暗黙の政府保証がなく、人的、資金的に自律した「株式会社」に至るまで
広範多岐である。このため、「民営化」の意味を如何に理解するかで、民営化後の具体的な組織の姿が大き
く異なるものとなる。
「完全民営化」と「完全な民営化」の表現では何が異なるのか。「完全民営化」の表現は、「民営化」そ
れ自体の組織形態を限定する。具体的には、民営化後の組織形態を政府からの出資や暗黙の政府保証等の提
供がない商法等一般法に基づき設立された法人に限定する意味を持つ。金融機関であれば、株式会社形態等
で設立し、業界活動に関する一般法である銀行法等に基づき設立する法人となることを意味する。完全民営
化は、こうした限定された法人形態を実現しなければ、「民営化」とは評価されない言葉となっている。
これに対して「完全な民営化」の表現は、「民営化」それ自体の組織形態を限定せず広範な民営化の形態
の中から新組織の姿を選択することが可能となり、一般法に基づく株式会社等の領域から特別な法律に基づ
いて設立し活動する「特殊会社」まで含むことなる。
「完全民営化」と「完全な民営化」、このどちらの言葉を使うかによって、それ以降の詳細かつ具体的な
制度設計の内容が決定的に異なるものとなってしまうのである。こうした言葉の使い分け論争は、閣議決定
等政治的な方向性が確定した後の具体的な法文化の過程で発生した問題であり、国民の視点からは必ずしも
十分に認識できるとは言えない実態にある。
「官僚主導型」という言葉がある。日本の政策の形成と執行が政治によって十分にガバナンスされておら
ず、むしろ官僚と言われる集団により多くの部分がガバナンスされていることで、民主主義が十分に機能し
ていないのではないかという問題提示の言葉である。政策執行の細かな内容を政令、省令、通達等によって
決定するため、議会の議決を受けた法律が実質上空洞化していることが実態的問題として上げられる。加え
て、法律案を作る過程で法律の空洞化ではなく法律のそもそもの立法趣旨を変更してしまう。そうした危険
性が官僚主導型には内在している。法律を作成するプロセスの独占形態が生み出した問題でもある。もちろ
ん、閣議や議会の議論において十分なチェック体制が機能することが原則である。しかし、政治主導の政策
展開のためには、立法趣旨の貫徹に向け、内閣法制局による立法技術的チェックとは別に、閣議決定等を誠
実に反映した法律内容になっているかチェックする機能を内閣が持つことが有用である。それには、法案作
成過程の官僚独占の仕組みを改善し、政策の意図と効果の帰着を一致させるなどの取り組みが必要となる。
『PHP政策研究レポート』 Vol.9 No.101(2006.3)
1
論説Ⅰ
新しい地方財政のあり方について考えるシリーズ論説:「地方交付税制度改革の選択肢」。第3回は、「地方
財政の自由」の実現に向けた新制度への移行プロセスを考えます。
<シリーズ論説> 地方交付税制度改革の選択肢 (第3回)
財政再建制度と地方債 (2) −新制度への移行プロセス−
透明なルールに基づくものとすること、第5に、住
1.はじめに
地方分権を進め、地方自治体の自律性を確保する
民や市場に対してわかりやすい情報開示を行うこ
ためには、その前提として、①国と地方の税源配分
と、第6に、現制度下で発行された地方債と、新制
の見直し、地方の課税自主権の確立、②財政需要の
度下で発行する地方債の責任は明確に区別する必要
保障から脱却する地方交付税改革の実現、③地方債
があること、である。
発行の自由化、を進めることが不可欠である。こう
第1の地方財政における自由度を高めるとは、こ
した取り組みを進め地方財政の自律度が高まった結
れまでの国を中心とした画一的、中央集権型財政か
果として、国の管理により進められる現在の財政再
ら脱却することを意味している。
建手法ではなく、地方自治体の自律的な財政再建を
従来の国と地方の関係は税源の6割を国が確保
可能にする制度の導入が可能となる。そのひとつが、
し、地方交付税制度と補助金制度を活用することで、
「再生型破綻制度の構築」である。
均衡ある国土の発展を実現するため地方自治体の歳
今回は、以上の視点から地方財政自律に向けた移
出の量や質をコントロールしてきた。地方債につい
行プロセスの提示(論説Ⅰ)と再生型破綻法制の具
ても「発行」と「償還」の時点において、国が中心
体的考え方(論説Ⅱ)を提示する。
となりフローベースでの管理を展開してきた。具体
的には、「均衡ある国土の発展」を基本理念として、
地方財政法、地方財政計画を基礎に、地方自治体が
2.自由への移行プロセス
必要な財政需要を担保するため、税収などでは不足
(1)自由への基本的な考え方
する財源を地方交付税で担保し、さらに地方債の発
地方分権は、地方自治体の自由な意思とそれに基
行を許可することで財政需要にあった資金を確保す
づく政策展開を拡大させていく取り組みである。同
るしくみ、すなわち「出を見て入りを調達する仕組
時にそのことは、地方財政制度全体の変革を税源移
み」を展開してきたのである。
譲も踏まえ実現するパラダイム転換の取り組みでも
こうした財政資金の流れを活用した国のコントロ
ある。その変革は、明確な理念に基づく移行プロセ
ールから脱却し、地方自治体の歳出の量と質を自ら
スの提示があってはじめて現実のものとして議論
決定できる仕組みを構築することが、地方財政の自
し、実現することが可能となる。移行プロセスを考
由度を高めることになる。具体的には、税源の移譲、
えるに際して基本的に踏まえなければならない事項
補助金の限定・廃止、地方交付税制度の抜本的改革
として、以下の点が指摘できる。
を意味する。これにより、国と地方の財政関係を地
第1に、税源移譲等を進め地方自治体の財政運営
方主体に変革するのである。
における自由度を高めること、第2に、自由度を高
第2の破綻が生まれることも視野に入れた制度設
めた結果として、破綻が生じ得ることも視野に入れ
計とは、第1の地方財政の自由度を高めることによ
た制度設計を行うこと、第3に、破綻制度において
って必然的に生じてくる事項である。これまでの国
は、清算型ではなく、「再生」型を前提とし、予防
と地方の関係は、地方債を含めた資金調達を国が担
を重視すること、第4に、予防的機能については、
保する裏返しとして、地方交付税による地方債の実
国の暗黙の保証ではなく、外部からでも検証できる
質的元利償還保証と財政再建団体制度などにより
『PHP政策研究レポート』 Vol.9 No.101(2006.3)
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「暗黙の政府保証」を提供し、地方自治体の財政を
中間段階は、中央集権、暗黙の政府保証から地方
実質的にコントロールする仕組みを構築してきた。
分権、信用の自己形成へ移行するプロセスであり、
こうした仕組みは、一定の右肩上がりの経済成長
地方債、地方交付税、税制、さらには行政組織をは
が実現している中央集権型社会で、かつ金融市場が
じめとした統治システム等が複雑に絡み合った構造
未成熟な段階においては有効に機能すると言える。
をいかに解きほぐし、持続性をもって新たな制度に
しかし、地方財政の自由度を高め、金融市場の充実
移すか、極めて高度な移行ガバナンスが求められる。
が進む段階においては有効に機能せず、その見直し
図表1は、そうした移行プロセスに対するガバナ
が必要となってくる。地方財政の自由度を高めるこ
ンスを有効に機能させるための前提として、視野に
とは、一定の財源規模を担保した上で、使途を自由
入れるべき領域とその時間軸を通じた相互関係を明
にすることであり、それを前提に地方債発行を自由
確にすることを目的としている。個別事項と時間軸
にし、償還に対する自己責任を実現する。財源の「調
の相互関係を整理すると以下の通りとなる。
達の自由化」とともに「償還責任の明確化」を実現し、
「債務の所有(自己決定)」と「債務の負担(自己
①税源移譲
責任)」の主体を一致させることである。そのため
2005年度までの三位一体議論で国から地方へ
には、国に依存しない、住民 による財政規律と市場
3兆円の税源移譲が実現した。これをさらに進め、
による規律を充実させる新たな負債管理、財政再生
移行期に6兆円の税源移譲を実現、そして最終的に
制度が必要となる。
は法定5税の地方自治体への移譲を実現することが
第3の再生型破綻法を前提とすることは、地方自
柱となる。地方財政の自律のためには、税源移譲が
治体が公共サービスを継続的に提供する統治機関で
大前提となることは当然である。
あることから必然的に提起される帰着点である。米
2004年度ベースで国と地方の税源配分を整理
国の連邦破産法に基づく破綻も精算型ではなく、再
すると、国民の租税総額約82兆円のうち国税48
生型の破綻法制である。
兆円、地方34兆円(道府県15兆円、市町村19
そして、第2、第3の要件の前提として第4の「国
兆円)で税源配分比率は6:4である。この国税4
の暗黙の保証」から脱却することが必要となる。国
8兆円のうち、現行制度に基づき地方交付税等で約
の暗黙の保証を前提とする地方財政では自らの信用
14兆円が地方に移動し、その結果財源配分比率は
を形成する必然性はなく、国の信用を活用すること
4.2:5.8と地方自治体に厚くなる。さらに歳
で地方債等による資金調達が可能になる。しかし、
出ベースの国庫支出金を繰り入れることで、国と地
自由度を高めた段階では、地方自治体が自らの信用
方の歳出総額150兆円中90兆円は地方自治体か
を形成し高めていく必要がある。そのためには、第
らの支出となっている。
5の地方財政に関する情報提供の質的改善と充実
例えば、2005年度までの三位一体改革で、税
(公会計の改革)を図ることが求められる。
源配分比率は5.5:4.5と地方自治体に厚くな
第6の現制度と従来制度の区別は、新制度化にお
っており、さらに移行期では6兆円の税源移譲を進
ける地方自治体の信用力形成を正しく評価するため
め総額9兆円の移譲を実現する。その結果、国と地
に当然の帰結となる。
方自治体の税源配分比率は5:5となる。そして、
将来段階では、地方交付税を形成する残りの法定5
(2)移行プロセスの時間軸
税(所得税、法人税、酒税、消費税、たばこ税の一
以上の考え方に基づき、新制度に移行するプロセ
定割合)を全て地方に移譲する。これにより、国と
スにおいて睨むべき事項は、図表1「新制度への工
地方の税源配分比率は、4:6程度の関係となる。
程表」で示したとおりである。「現行」とは、国中
将来像を先の2004年度ベースに当てはめると国
心、暗黙の政府保証を基礎とした地方財政の段階、
民の租税総額82兆円中、国が34兆円、地方が4
「移行後」とは、税源移譲等地方財政の自由度を高
8兆円となる。
移行の過程で、消費税率の引き上げに関連し、地
めたゴールの段階、「移行期間」は当然この両者の
方消費税分をどの程度にするか等地方自治体の税目
間に位置する中間段階である。
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をいかに構成するかの議論も必要となる。同時に、
を着実に弱めるため、地方財政計画の簡素化、起債
標準税率の弾力化等税制度に対に対する国の関与を
連動地方債の縮小、廃止に努力し、将来像では、地
緩和する措置が重要となる。
方財政計画の廃止等を実現する。
なお、地方財源として安定的な税目は、消費税で
ある。景気変動に対する感応度が低いため好不況に
③地方債制度
よる税収の変動が緩やかであり、高齢化社会におい
地方債制度については、現在の認可制度から将来
ても一定の税収が期待できる税目である。加えて、
においては原則自由とする。その過程において、移
地域間偏在が小さい。例えば、現行道府県税でみる
行期には、政府の暗黙の保証が十分機能しない「不
と、2004年度決算額で比較した場合、都道府県
同意債」の比率を上げることが必要である。不同意
税総額で一番大きい東京都と一番小さい沖縄県では
債は、地方自治体の議決に基づき発行し、国の元利
2.9倍、同じく個人住民税では3.1倍、法人二
償還措置を受けられない地方債である。このため、
税では東京都と青森県で7倍の格差があるのに対し
原則として、地方自治体自らの信用力で発行する。
て、消費税は1.7倍の格差に止まっている。
それと同時に、単独で地方債を発行できない小規
模自治体、市町村については、都道府県、道州単位
②地方交付税制度
で発行する共同地方債とそれを引き受ける地域単位
の「Bond Bank」の形成、レベニュー債の充実等、地
国と地方自治体の財源調整を行う地方交付税制度
方債の多様化を進めることが必要となる。
は、現行の「財政需要を担保する制度」から「明確
な基準(人口、面積等)によって一定の歳入を担保
する制度」に移行させる。
④新財政再建制度
現行の地方交付税制度は、法人税、所得税等の税
税源移譲、地方交付税制度の改革、地方債の自由
収を国が定めた地方自治体の需要を満たすために必
化を行った結果として、地方自治体が自ら再建を実
要な財源として配分する制度となっている。この制
現する再生型破綻制度が必要となる。
度と補助金等をセットにして、均衡ある国土の発展
すでに整理したように、現行の財政再建制度は、
政策を推進し、中央集権型の地方財政制度を構築し
国による強いコントロールの下で、暗黙の政府保証、
てきた。地方交付税制度が国の定めた地方自治体の
政府資金による地方債管理、地方交付税措置等を通
財政需要を満たすことを目的としていたことから、
じて、地方財政の破綻を早期に予防・是正する仕組
仮に地方交付税で満たすことができない時には、国
みとなっている。財政再建団体か自主再建かの選択
の信用の下で地方債を発行する制度等を形成してき
は地方自治体の議会に委ねられているものの、財政
た。こうした中央集権型から地方財政を自由な形に
状況や負債負担能力をはかる情報は明確化されてい
移行するためには、地方交付税制度を財政需要の担
ない。このため、住民や市場からのチェックが機能
保型から地方自治体の一定の歳入を担保する制度に
しない構造となっている。
転換し、使途については地方自治体の自由に委ねる
地方財政の自律に向けては、市民や市場のチェッ
制度とすることが必要となる。
クが機能し、地方自治体自ら負債負担能力を把握す
一定の歳入を担保する制度とは、都道府県で考え
ることで、地方財政の健全化を確保する仕組みが必
た場合、都道府県全体の平均税を計算し、平均税収
要となる。そこでは、財政データの整備、検証等を
を下回っている都道府県に対しては、平均税収を上
担う第三者機関、再生手続きの開始、手続きの監視、
待っている都道府県から財源移転する、いわゆる「地
破綻手続きの決定等を担う裁判所と連携しながら、
方共同税型」の財源調整制度である。平均値の実際
議会等の民主的手続きの下で再生等の取り組みを進
の計算に当たっては、一番税収が高い東京都と一番
める仕組みとなる。なお、移行期には、旧勘定、新
低い沖縄県の数値を除いて計算する方法(実際の配
勘定等に分けることで、政府の暗黙の保証が機能す
分には両者とも加わる)、単純平均ではなく人口や
るこれまでの地方債管理と新たな制度によって地方
面積を加味する方法等が考えられる。
自治体が自ら管理する地方債を区分けし処理する仕
移行期においては、国の地方自治体に対する関与
組みの設定が不可欠である。
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(図表1) 新制度への工程表
地方分権 21 世紀ビジョン懇談会 宮脇淳提出資料(2006.3.1)
破綻法制度
早期是正・予防措置
①国 による強 い監督 と
暗黙の政府保証
Ⅰ
現行
②政府資金等による資
制
地方債制度
住民・議会・市場
の監視機能
度
①地方債許可(協議)制度
②地方交付税制度による
地方債元利償還金確保
金調達に関する規制
③起債制限制度
管理の存在
④準用財政再建団体制度
①財政再建団体選択に
地方交付税制度
地方税制度
①地方債許可制から協議制
①財政需要担保型
①3兆円の税源移譲
①地方債の段階的自由化、多
①地方規制等の大幅な緩和
①6 兆円の税源移譲
対する議会議決
②監視の前提となる情報
の未整備
③住民、市場(債権者)に
よる監視の未整備
Ⅱ
①現行制度により発行した地方債への暗黙の保証等の
5
明確化
①公会計整備
②地方債利回り格差など
様化
措置
②政府関与縮小
移行 ②現行制度により発行した地方債管理の旧勘定と新制
の市場情報による自治 ②公募地方債等の不同意債 ②地財折衝と地財対策の簡素 ③標準税率の弾力化等
期間
度により発行した地方債管理の新勘定に分けて制度
体格付け
比率の拡大(50%程度)
化
最長
的に管理
③監査制度改革
③地方共同債等の整備・拡充 ③起債連動の補助金の廃止
10 年 ③災害等非常時の国の是正措置の明確化
④三者機関による財政情
報の整備
①負債負担能力の明確
Ⅲ
移行
後
化による予防
②第三者機関等による
是正措置
③再生申し立て要件の
明確化
①早期是正措置
①公会計整備による完全
②明確な指標 等のル−ル
化を図る
①地方債自由化
財務諸表の開示
②市場シグナルと第三者
③再生措置等に対する事前
ルールの明確化と司法関
与の構築
機関による監視機能
③違法、不当に対する責
任の明確化
『PHP政策研究レポート』 Vol.9 No.101(2006.3)
5
①透明性が高い機械的ルール
に基づく歳入担保型
②財政需要に対する財源保証
を原則廃止
③地財折衝と地財対策の廃止
①法定5税相当額の税源移
譲
②政府関与原則なし
論説Ⅱ
新しい地方財政のあり方について考えるシリーズ論説:「地方交付税制度改革の選択肢」。第4回は、再生型
破綻法制の概要を概観します。
<シリーズ論説> 地方交付税制度改革の選択肢 (第4回)
財政再建制度と地方債 (3)―再生型破綻法制の概要―
質収支赤字/標準財政規模」(前年度決算赤字比率)
1.はじめに
本政策研究レポート100号シリーズ論説 「地方
が財政状況を明確化する指標になっているかの問題
交付税制度改革の選択肢」 (第2回)でも見たよう
である。確かに、地方自治体が「財政再建団体か自
に、日本のこれまでの財政再建制度は、一定の財政
主再建か」を選択するきっかけとなる一定の指標は
定められている。問題は、この指標が住民、議会に
指標が悪化した地方自治体に対して、「起債制限」
とって、当該地方自治体の負債負担能力を判断でき
の実施や「公債費負担適正化計画」などの作成を通
る指標か否かにある。実質収支赤字などの指標自体
じて、財政を早期に是正する内容であった。
が地方交付税による措置や地方債による資金供給、
一定の財政指標とは、「実質収支赤字/標準財政
政府資金の提供など、国の財政措置によって大きく
規模」
(前年度決算赤字比率)が都道府県の場合5%
変動する側面を持っている。このため、現在の指標
以上、市町村の場合20%以上となることである。
は外部から見て明確な指標とはなっていない。
この指標を上回った地方自治体は「財政再建団体」
具体的には、普通交付税による補填のほか、特別
になるか、あるいは「地方債発行の制限を受けなが
交付税や減収補填債などによる補填に加え、民間資
ら自主的な再建(新規起債抑制による公債費削減)」
金引受け債の政府資金引受け債への借り換え支援の
を目指すか、議会議決に基づき選択することになる。
実施、一時借入金への政府資金の供給などいろいろ
前者の「財政再建団体」を選択した場合、財政再
な手段によって補填が行われるため、上記指標が外
建の期間、基本方針、税徴収率の向上、使用料の引
部者に対して明確な基準として機能していない。
き上げ、人件費や投資事業の削減など、財政再建に
第3は「資金調達の規制」である。日本の地方財
必要な具体的措置を明確化にした「財政再建計画」
政は地方債の約40%を公営企業金融公庫等政府資
を作成した上で、議会の議決と総務大臣の同意を受
金に依存しており、地方債の許可制と一体化して国
け、毎年度の予算編成を実施することになる。
による統制を強く受けている。これらも地方自治体
こうした仕組みを、前節の5つの視点から評価、
の負債負担能力を不明確にする要因となっている。
検証してみると、以下の視点が指摘できる。
第4は「市場からのシグナル」である。地方債許
第1は「中央集権、地方分権」の視点である。外
可、地方交付税などによる元利償還、国による地方
見上、議会の議決などを選択の根拠としている点で
財政へのコントロールなど、いわゆる「暗黙の政府
地方分権、地方尊重の仕組みとも言えるものの、そ
保証」が存在するなか、市場による評価をベースと
の本質は、地方交付税、地方債、補助金制度など、
した格付けや金利格差などのシグナルは極めて緩慢
国中心の財政コントロールを前提とした制度であ
なものとならざるを得ない。
る。この点は、次の「実質収支赤字/標準財政規模」
第5は「債務再構築のルール化」である。財政再
(前年度決算赤字比率)の指標の不明確性とともに
建計画において歳入・歳出の見直しなどは明確化さ
理解すべき事項と言える。
れているものの、債務繰延べ、債務の圧縮、利率の
第2は「負債負担能力」の不明確化である。「実
見直し、債務処理の方法などについての明確なルー
『PHP政策研究レポート』 Vol.9 No.101(2006.3)
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ル化がなされていない。
以上のように、現在の財政再建団体制度は、国か
(1)早期是正・予防措置
ら提供される「暗黙の政府保証」を背景に、5つの
問題点ともに中央集権型であり、金融市場の未成熟
①再生手続き申請に至るまでの一定の段階で、早
な状況を前提とする制度と評価することが可能とな
期是正措置の勧告等を可能とし、予防措置が機
っている。こうした制度は、地方分権の推進、金融
能するよう客観的なルールを整備する。
市場の成熟化を目指すなかで、負債負担能力の明確
②「負債総額/一般財源総額」等客観的指標を使
化、資金調達規制の徹底した見直し、市場シグナル
用し、明確な基準の下で国、第三者機関等が地
の提供、債務再構築ルールの明確化などの視点から、
方債発行制限等を早期是正措置として勧告す
抜本的に見直す必要がある。そして、暗黙の政府保
る。
証を解消し、投資と効果(費用対効果)は可能な限
③早期是正から再生に至る手続きは、当該地方自
り、最終需要者に近い地域、住民のレベルで決定す
治体が第三者機関、裁判所等との連携の中で進
る仕組みの構築が必要となっている。
める。
再生型破綻法制において重要な点は、再生が必要
2.再生型破綻法制の考え方
中央集権、国家管理型から脱却し、自由度の高い
な状況に至る前に、早期是正、予防の措置が取れる
地方財政を目指す結果、破綻も視野に入れた制度設
ことである。地方自治体の通常の経営活動を通じて
計が必要となる。自由度の高い地方財政の実現には、
常に健全な財政状況を維持することは当然であり、
税源の地方移譲、地方交付税制度の改革、地方債の
そのためにも公会計の改革等が前提となる。
現行の財政再建団体制度でも予防、早期是正のた
自由化等一体として実現すべき課題があることは、
すでに本政策研究レポート論説Ⅰの「移行プロセス」
め「実質収支赤字/標準財政規模」(前年度決算赤
で整理したところである。このことを前提に、以下
字比率)が都道府県の場合5%以上、市町村の場合
再生型破綻法制の枠組みを整理する。
20%以上等の指標を活用する。しかし、こうした
指標は、交付税措置や政府資金の活用等により調整
できること等により、議会、住民、市場等外部者に
(図表2) 基本的流れ
とって明確な指標とは言えないことはすでに指摘し
ている。外部者にとっても共有できる情報の形成が
①早期是正・予防措置
必要となる。
国、第三者機関等による早期是正措置
客観的ルールとその前提となる情報・指標の形成
と共有に関しては、次に見る第三者機関等が担い、
②再生手続きの裁判所に対する申請
その指標等を活用し、国や第三者機関が地方自治体
③裁判所による再生手続き決定
に対する是正措置を勧告できる制度とする。従来の
④再生地方自治体として財政再生計画を
制度では、こうした勧告的行為が国と地方自治体間
作成
で行われ、住民等の外部者が認識することが難しく、
その結果として財政危機に対する認識が住民、市場
⑤財政再生計画に基づく再生取り組みの実施
側でも希薄化する結果となっている。国や第三者機
関が外部者にも認識できる形で勧告することで、よ
再生遂行
再生困難
り早く是正する意識を地方自治体だけでなく、住民、
⑥裁判所へ再生報告
⑥再生手続き廃止
議会等の地域でも共有することが可能となる。
⑦再生手続き終了
⑦債務整理等
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(2)第三者機関
再生手続きは、地方自治体の長や議会などの再
生手続き申請によって開始する。住民、行政職員、
①第三者機関は、都道府県(道州政府)等を単位
債権者等の申請をどういう要件で認めるかも検討
として設置(議会の機関として設置も検討)す
課題となる。申請は具体的に次の各形態となる。
る等の形態が選択肢となる。早期是正措置のほ
①当該地方自治体の議会及び長による申請。
か、シグナルとなる財政情報や予算ルールの検
②当該地方自治体の議会及び長の選挙権を有す
討と改善、住民や市場への情報共有の推進、ベ
る者の一定割合の連署による申請。
ストプラクティスの検証等の機能を第三者機
③地方自治体が償還又は弁済の義務を負う地方
関は担う。
債、一時借入金、債務負担行為に係る債務等
の債権者による申請。
早期是正措置等の前提となる予算ルールやデー
④地方自治体の職員及び住民の申請権について
タの整備等、再生型破綻制度において第三者機関
は別途検討する。
が果たす役割は大きい。第三者機関は、単独ある
いは複数の都道府県(将来的には「道州政府」も
なお、再生手続きの申請があった場合、裁判所
含め)単位で設置し、行政機関、議会から独立し
は必要に応じて調査委員会を設置し、当該地方自
た機関、あるいは議会の付属機関として設置する
治体の財政状況等について調査を命ずることがで
等の形態を検討する。第三者機関の構成は、財務・
きる。また、申請権の乱用に対する措置について
会計、金融、財政、法律等の専門家で構成するこ
は別途検討する必要がある。
また、再生手続きの開始を裁判所に申請するこ
とを検討する。
とが出来る主な場合とは、以下の通りである。
①地方債の元利償還金の支払いが一定期間遅延
(3)再生手続き
した場合。
①一定の要件に基づき地方自治体の長等が裁判
②一時借入金の弁済金支払いが一定期間遅延し
所に再生開始申請を行う。
た場合。
②裁判所が再生開始決定をした場合、当該地方自
③債務負担行為にかかる債務弁済金の支払いが
治体は「再生地方自治体」として再生手続きに
遅延した場合。
入る。
④地方自治体が行政執行や事務の継続性に著し
③再生地方自治体は、議会の議決を経て「財政再
い障害をきたすことなく償還又は弁済期にあ
生計画」を作成する。
る地方債、一時借入金又は債務負担行為にか
④財政再生計画が作成、または遂行できない場合
かる債務の償還又は弁済ができないと見込ま
は、再生手続きを廃止し、債務免除等を行い債
れる場合。
務整理することを裁判所が決定する。
再生手続きの申請要件は明確な基準が必要であ
⑤再生手続きの監督・調査については、裁判所に
り、申請の濫用にも留意した制度設計が必要とな
監督委員会、調査委員会を設置して行う。
る。また、キャッシュフロー管理としての債務不
⑥再生地方自治体の財政運営に関して故意、不
履行を要件の柱とするものの、ストックベースや
当等があった場合、裁判所の監督、調査委員
偶発債務等についてどのように配慮するかも課題
会を通じて事実を疎明し責任を明確化する。
である。
⑦元利償還等において再生地方自治体の税収に
なお、地方自治体再生手続き開始の申請手続き
対して優先権を持つ地方債の検討等を行い、自
は、当該地方自治体の所在地を所管する地方裁判
治体全体の責任の明確化を図る。
所が管轄する。
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裁判所は、要件を満たした申請が提出された場合、
(4)再生手続きの開始
必要に応じて調査委員会を設置し調査を行ったうえ
で、再生手続きを開始するか否かについて決定する。
①裁判所は、再生手続きの申請要件が満たされて
裁判所の再生手続き決定があった場合、当該地方自
いる場合、当該地方自治体の再生手続き開始を
治体は「再生地方自治体」とする。
決定する。再生手続き開始の決定があった場
再生地方自治体は、統治機関として引き続き事務
合、当該地方自治体を「再生地方自治体」とす
や行政執行を行うほか、故意や過失等の違法行為が
る。再生手続き開始決定があっても再生地方自
あった場合を除いて、地方自治体の長や議会等は引
治体の長や議員等は引き続き職務を行う。
き続き職務を遂行する。なお、統治機関として引き
②再生手続きの開始決定があった場合、再生手続
続き事務や行政執行等を行う場合でも、議会の議決
き開始前の原因に基づき生じた、地方債、一時
等により不要・不急な業務に関しては停止すること
借入金、債務負担行為等は再生債務を構成す
ができる仕組みを検討することも必要となる。なお、
る。以上のほか、再生手続き開始決定後の利息、
事務や行政執行を継続するための資金を調達するた
損害賠償及び違約金の請求権等も再生債務を
め債務返済等に関して優先権を持つ債券の発行を認
構成する。
める等の措置(DIP)が必要となる。
③地方自治体の再生手続き開始決定は、当該再生
再生手続きの開始が決まった場合、次節で見る「財
地方自治体の行政執行、事務処理財産管理(処
政再生計画」を議会の議決を経て裁判所に提出する
分等は除く)の機能を損なわせない。また、必
ことになる。また、再生手続き開始決定と同時に、
要な資金等の調達についてはDIPファイナ
当該再生地方自治体が抱える債務を棚卸しし、確定
ンス等の導入を検討する。
する必要がある。一方で、再生地方自治体が保有す
④再生手続きの開始決定があった場合、当該再生
る資産を棚卸しし、法律上、処分が禁じられている
地方自治体の財産に対する強制執行、差押さ
行政財産や業務の性格上売却等の処分が不適当と判
え、競売等は行うことが出来ず、すでに進行し
断される財産を明確にする。
ている強制執行等の手続きは中止する。なお、
再生手続き開始以降、再生地方自治体の再生取り
再生手続き開始決定があった場合、法律あるい
組みは財政再生計画に基づき自主的に展開されるも
は財産の性格等により強制執行等が禁じられ
のの、着実に再生手続きが進行しているか等につい
ている、あるいは禁じることが必要と判断され
ては、裁判所の監視を受けることになる。このため
る財産を裁判所は明確にする。
に、裁判所は再生監視委員会を設置する。裁判所の
⑤再生手続きの開始決定があった場合、当該再生
設置した再生監視委員会は、再生地方自治体の自主
地方自治体は再生委員会を設置しなければな
的な再生手続きと取り組みが進んでいるか否かを監
らない。また、裁判所は再生手続きを監督する
視する機関であり、再生監視委員会自体が再生の取
ための再生監視委員会を設置する。
り組みを担う仕組みとはしていない。このため、再
⑥再生手続き開始決定があった場合、裁判所は当
生地方自治体の再生の取り組みに関する内部のガバ
該再生地方自治体の長又は議会、再生委員会の
ナンスを機能させる機関として、再生地方自治体に
申し立て等によって、違法もしくは不当に公金
再生委員会を設置することにしている。
の支出、財産の管理等が行われていなかったか
いずれにせよ、新たな制度では司法たる裁判所が
事実を疎明し、損害賠償請求権の査定等に関す
手続きの公平性、透明性を担保しつつ、地方自治体
る裁判を行う。
が自主的に再建に取り組める制度設計を前提として
いる。
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(6)再生手続きの廃止
(5)財政再生計画の策定
①再生手続き開始の決定があった場合、当該再
①財政再生計画の作成及び決定が困難となった
生地方自治体は議会の議決を経て、一定期間
場合、財政再生計画の執行が著しく困難になっ
内に「財政再生計画」を作成し裁判所に提出
た場合等においては、再生地方自治体の長及び
し公表しなければならない。
議会、裁判所の職権等で再生手続きの廃止を決
定しなければならない。
②財政再生計画は、債権者集会の決議に付し、
②再生手続きの廃止が決定された場合、裁判所は
同意を得なければならない。
行政機能の執行等を損ねない範囲で処分財産
③財政再生計画には、歳入歳出均衡回復の目標
年次と再生の基本方針、事業の休廃止・縮小、
を決定し、再生地方自治体の債務の配当を行
事務の効率化等経費削減、租税等の徴収に関
い、その上で債務の免除等を決定する。
する具体策、再生債権に関する全部又は一部
再生手続きに入っても再生計画を作成することが
の変更、優先債権への償還又は弁済に関する
できず裁判所の認可を得られなかった場合、あるい
事項等を盛り込まなければならない。
は再生計画は認可を受け実施したものの、予定通り
④再生地方自治体から提出された財政再生計画
進まなかった場合等においては、最後のステップと
は補正できない不備がある場合、計画の遂行
して財政再生手続きの廃止を裁判所が決定すること
が著しく困難等の理由がある場合を除き、裁
になる。
判所は認可しなければならない。
財政再生手続きを廃止した場合、裁判所の下で行
前述したように、裁判所の再生手続き開始決定を
政執行等の継続性等を確保するために必要な財産や
受けた再生地方自治体は、自ら「財政再生計画」を
法律上処分が禁じられている財産や権利等を除き、
策定し裁判所の認定を受ける。この策定に関しては、
売却等可能な資産は処分し財政破綻の処理を行う
議会の議決を経ることのほか、再生地方自治体の債
ことになる。その上で、改めて再生等の取り組みを
権者集会の同意を得なければならない。
行うことになる。
財政再生計画の認可後は、本計画を軸に裁判所の
以上、再生型破綻制度について概括した。さらに
監視の下で、再生地方自治体は歳出削減、事業の見
検討し詰めなければならない事項も多く、また都道
直し、債務の繰り延べ等の取り組みを進めることに
府県、道州政府をベースとした整理であることから、
なる。
市町村等についてはいかなる点で異なる取り扱いが
すなわち、財政再生計画の認可決定があった場合、
必要か、などの検討が求められる。こうした課題は
再生地方自治体は速やかに再生計画を執行しなけれ
本政策レポートでもさらに検討していくが、現行の
ばならない。財政再生計画の執行は、再生地方自治
財政再建団体制度等をいかに見直し、地方財政の自
体の長及び議会、再生委員会、裁判所の監督の下で
律に向けた新たな制度設計を行うかの議論を進める
遂行することになる。
ための下地の材料となければ幸いである。
なお、財政再生計画の執行が再生目標を達成した
場合、当該再生地方自治体の議会の議決を経て、
「財
政再建計画達成報告書」を作成し裁判所に
提出しなければならない。裁判所は、再生監督委員
会の意見を聴取した上で財政再建達成の決定等を行
う。
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視点・論点Ⅰ
公営企業金融公庫改革とフランス地方設備銀行民営化
政策金融改革における公営企業金融公庫廃止に関
債 券 発 行 に 対 す る 信 用 補 完 を 提 供 す る Financial
し、参考となる先行事例としてフランスの「地方設
Security Assurance から構成される持ち株会社形態
備銀行」がある。
をとっている。
フランスでは1979年と86年の2度にわたっ
Dexia は、地方自治体向け融資や債券発行に関す
て、地方分権の推進と政策金融改革が行われた。7
る世界最大の機関として、具体的には以下の業務を
9年の改革では、公的金融機関による個別事業を単
行っている。
位とした地方自治体への融資から、当該年度の事業
第1は、地方自治体等公的部門への融資等である。
全てを一括して融資する制度に移行している。地方
公的部門の業務は、ユーロ地域が半分以上を占めて
自治体は一括して融資された資金を議会が採択した
いるものの、2割程度は米国、アジア諸国等への業
事業に対して配分する仕組みとなった。
務となっており、プロジェクトファイナンス、長短
さらに、86年以降は、低利貸付制度を原則廃止
期融資は当然のこと、出資、保険・証券化、負債管
し、地方銀行やボンドバンクとの融資交渉による自
理、信用補完、仕組み金融等多面にわたっている。
由起債体制に移行している。自由起債制度に移行し、
公的部門に対する融資等の業務は、Dexia の収益構
民間金融機関のほか保険会社などが地方債引受け主
造の半分を占めている。
体として参画している。地方設備銀行の改革もこう
第2は、リテール部門であり、個人及び中小企業
した改革の一環として進められた。
に対する融資、保険業務を提供している。リテール
地方設備銀行は、66年に地方自治体向け金融を
部門の収益に占める比率は20%である。
行う公的金融機関として設立された。87年には、
新たに設立された民間金融機関であるCLF(Credit
その他、投資・保険、債券等の関係業務を展開し
Local de France)に業務・資産を移転し、株式は民営
ており、収益構造の30%を占めている。公営企業
化法に基づき相対取引で譲渡されている。当初は、
金融公庫は、これまで地方自治体の資金調達を低コ
国が50.5%を保有する特殊会社としての形態を
ストで効率よく行う機関として機能してきた。しか
取ったものの、91年、93年と順次国有株式の民
し、地方分権、金融市場の充実が進むなかで、従来
間譲渡が進み、93年には10%を切るレベルにま
の国の政策金融機関としての位置づけは見直すこと
で低下している。
が求められている。
さらに、96年には残りの国有株式を相対取引で
その新たな姿は、単に全国単位での政府保証付き
全量売却すると同時に、ベルギー市町村信用金庫(C
地方共同機関ではない。道州制等が議論される中で
CB:地方自治体向け金融業務等を行う地域金融機
地域ごとのボンドバンク的な存在への転換ととも
関)と合併し、地方自治体向け金融を担う世界最大
に、日本政策投資銀行の民営化等政策投資の業務見
直しが進むなかで、積極的な開放と多様化を進める
の国際金融グループ Dexia に成長している。
ことが必要となる。そのことが、地方自治体の資金
Dexia は、地方自治体や公的企業等の設備投資地
調達を多様化するとともに財政規律を機能させる要
域開発プロジェクトに融資する Credit Local、リテー
素ともなる。
ル業務を行う Bank Belgium、投資管理運営業務等を
行う Banque Internationale a Luxembourg、地方自治体
『PHP政策研究レポート』 Vol.9 No.101(2006.3)
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視点・論点Ⅱ
本家の公共性
本家の公共性(縦型、中央集権型)
分家の自律(横型、地方分権型)
地方
本家(国)
地方
分家
分家
(地方)
(地方)
地方
地方分権はこうした本家の公共性を脱却する子に
地方分権の本質は何か。それは、「本家の公共性」
概念から脱却することである。本家の公共性とは、
あたる。そのことは何を意味するか。地域ごとに異
本家が一族の共通の利益を決定し、分家は本家が決
なる公共性を認めることである。全国共通して実現
定した共通の利益に従う構図である。そこでは、本
すべき公共性もある。例えば、憲法による生存権の
家が決定した共通の利益と異なる分家の利益は認め
保障を実現するための生活保護制度の維持等であ
られない。したがって、一族全体として共通の価値
る。しかし、必要とする社会インフラとその作り方、
観を持って行動することのみが許される。そうした
地域政策のあり方や規制の仕方等各地域の自然環
共通の利益を本家が決定する反面、本家が決定した
境、社会環境などによって大きく異なる。こうした
価値観に従う限り(もちろん、本家の体力が維持さ
異なる価値観を認め合い、相互に尊重し合う横型の
れていることが前提)、分家の生活は本家によって
公共性の概念が求められる。そこでは、地域による
保障されることになる。
違いを認め合い、地域が相互に尊重し合うことが公
以上の構図は、戦後、これまでの日本の中央集権
共性である。しかし、同時に「本家の公共性」と異
型社会システムにも共通する。国という本家が公共
なり、自らの活動や生活の基盤を本家たる国に求め
性という抽象的概念の中身を決定し、分家たる地方
ることはできない。地域がそれぞれ自律し相互に支
自治体は国が決定した中身を実現するために行動す
え合う意識の中ではじめて成り立つ制度である。
これまでの国と地方の財源配分の関係は本家の公
る。その反面、活動し生活するための必要な資金等
は国が保障する構図である。こうした縦型の公共性、
共性、縦型の構図である。地方分権で税源移譲が進
画一的公共性の構図によって、中央集権型社会と均
んだ後の構図は地域と地域で財源配分を決定する横
衡ある国土の発展は着実に進んできた。
型の構図を形成し機能させることが必要となる。
『PHP政策研究レポート』 Vol.9 No.101(2006.3)
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PHP政策研究レポートは、民間レベルの政策コミュニティの拡充に貢献すべく 1998 年 1 月に創刊しました。以来、
分権・協働型社会の舵取りを担う地方自治体を対象の中心に据え、地域の企業や住民をも視野に入れて、政策議
論に資する情報とその情報を活用し新たな政策を形成する思考の枠組の提供を第一の目的として発刊しています。
○◎○ 既刊テーマ一覧 ○◎○
87 号 11 月
88 号 05 年 1 月
郵政民営化の論点
出資団体見直しの論理と知見
89 号 2 月
組織間ネットワークの類型
90 号 3 月
事務事業評価と人事能力評価
91 号 4 月
公共政策とは何か
92 号 5 月
リーダーシップとは何か
93 号 6 月
政策決定モデルの基礎、リーダーシップとシステム思考
94 号 7 月
政策決定モデルの基礎、リーダーシップとしての創造思考、市場化テストとは何か
95 号 8 月
政策決定に関する合理性の問題、ビジョンによるリーダーシップとメタノイック組織
96 号 9 月
リーダーシップの核心、市場化テストの有効性確保、シェアードサービスの成果と課題
97 号 11 月
国の資産・債務管理の重要性、資産管理・負債管理政策、公務員であることの必要性
98 号 12 月
政府金融改革の本質、資産管理・負債管理政策、税徴収等公権力行使の民間委託
99 号 06 年 1 月
100 号 2 月
地方交付税制度改革の選択肢、市場化テストと行財政の持続的維持、地方自治体の破産・倒産法制
地方分権議論の真の課題、財政再建制度と地方債、民間化の責任とコンパクト契約
PHP政策研究レポート
Vol9. No.101
2006年3月発行
編 集 ・発 行
PHP総合研究所 公共経営研究センター
監
宮脇 淳(北海道大学公共政策大学院 院長・教授)
修
〒102-8331
東京都千代田区三番町 3-10
T E L:03-3239-6222
E - M a i l:[email protected]
http://research.php.co.jp/
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