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情報化推進指針 - 大阪市交通局|交通局
(案) 大阪市交通局 情報化推進指針 [平成24∼27年度] 平成24年5月 目 1 章 次 当局における情報化の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.1 これまでの情報化の成果 ··························· 1.2 現状の問題点と今後に向けた課題 ···················· 2 章 1 6 情報化を取り巻く環境の変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.1 行政情報化を取り巻く環境の変化 ····················· 2.2 最新技術動向 ·································· 1 7 7 8 3 章 これからの情報化推進に対するニーズ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 4 章 今後の情報化推進の基本方針 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 5 章 3つのICT施策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 5.1 ICTを活用したお客さま向けサービスの充実及び地域貢献 ···· 18 5.2 ICTによる職員のさらなる事務処理効率化 ··············· 20 5.3 ICTによるこれまでの情報化によって 蓄積された情報資産の高度利用 ···· 21 6 章 推進にあたり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 6.1 6.2 6.3 6.4 推進体制の整備 ································ 今後の組織変革への適応 ·························· セキュリティ対策の充実 ···························· 環境への配慮 ·································· 22 23 23 24 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 1 章 当局における情報化の現状 本章では、これまでの当局における情報化の取組みについて振り返ると共に、前回作成した情報化推 進計画の取り組みにおいて明らかになった主な課題について分析し、これからの情報化において求めら れる取り組み。 また、当局における事業運営が劇的に変化していく中、先進的な民間企業のICT※のあり方を参考にそ れら経営課題について記載していく。 1.1 これまでの情報化の成果 1.1.1 当局の情報化の歩み (1) 電子計算機の導入 機械計算係発足 交通局では、昭和40年9月に電子計算機の導入を計画、翌41年には庶務課機械計算係を設置、初代 汎用機※となるホストコンピュータ※を導入し、総務部電算部門の業務開発としては、昭和42年8月に給与関 係のシステム化を行って以降、関係各部門の協力を得て、人事、厚生、経理、調達、審査業務等の事務系 バッチシステムを順次開発し、引き続いて、土木、営繕工事積算、高建技術計算等の技術系バッチシステム を作成した。さらに、各種オンラインシステム※の構築を行い、昭和50年代には漢字化、図形化への取り組 みを進め、平成に入ってからは駅業務等のオンライン開発などを推進してきた。 また、自動車部電算部門では、運行管理システム完成後、サブシステムとしてバスロケーションシステム等 のオンラインデータベースシステムを完成させた。これらの各システムは、相互に連携しバス総合運行管理 システムとして24時間365日休まず稼動し、市バスが安全、快適、便利に運行するための重要なシステムと なっている。 (2) 本局新庁舎移転 「総合情報ネットワーク」の構築 平成16年5月の交通局新庁舎移転時に、総務部電算部門と自動車部電算部門が合併し、これに伴い、 11代目機となるホストコンピュータを導入した。 一方、情報通信技術の発展は、社会・経済活動全般に大きな変革をもたらしており、交通局においても高 度情報化社会に積極的に対応するため、新庁舎建設に併せて整備した、「交通局総合情報ネットワーク」は、 事業所も含めた交通局全体の情報通信網として機能し、より広範囲にわたるOA機器相互間又はホストコン ピュータ・サーバ※とOA機器間でのデータの利用・連携を図ることが可能になり、平成18年2月からは「大阪 市庁内情報ネットワーク」と接続され、大阪市の各局相互間の連携業務のシステム化が図れることとなった。 また、昭和56年度に初めてパソコンを導入して以降、逐次導入台数を拡大してきたが、平成18年2月策 定の交通局長改革マニフェストに掲げられた「マネジメント改革−業務プロセスの改善」により、ITを活用し た業務プロセスの改善等を一層推し進めるため、同年3月に業務上パソコンを必要とする職員すべてに一 人1台配備すると共に、電子メールアドレス・インターネット※Webサイト※の閲覧権限を付与し、情報の共有、 収集など業務の高度化を図ってきた。さらに、平成19年4月には「大阪市交通局情報化推進計画書」(以下、 「前回の情報化推進計画書」という。)を制定し、その施策の一つとして、さらなる業務の効率化及び局内情 1 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 報資産の共有活性化、伝達の迅速化を促進するために、平成20年2月、交通局ポータルを構築し、部門を 超えた横断的な情報の活用を図ることが可能となった。 (3) 情報セキュリティ対策の強化 情報セキュリティ対策関連においては、平成17年4月、大阪市個人情報保護条例の改正に伴い、情報セ キュリティの強化に着手し、「交通局情報セキュリティポリシー」及び関連規程類を制定し、情報の取扱いや パソコンの管理等に際してのルールを定めたところである。しかし、情報セキュリティに関する脅威は日々変 化していることから、平成20年12月に、情報化及び情報セキュリティの推進体制を再整備し、侵害事象対 策等を盛り込んだルールへと改正するとともに、平成22年11月にはWebフィルタリング※・メールセキュリティ の向上として添付ファイルの自動圧縮暗号化を実施している。 1.1.2 情報化推進計画における実施内容 前回の情報化推進計画書では、以下の5点を実施内容とし、業務プロセスの改善を最重要事項としつつ、 大阪市の施策との協調及び整合性確保を図るとともに、国及び総務省の施策への対応並びに交通事業に おける業務の円滑な遂行を目指すこととしていた。 (1) ITを活用した業務プロセスの改善 経営的な視点、あるいは、市民やお客さまのサービス及び利便性の視点に立ち、業務のIT化により、業務 効率化の促進及び各情報システムに蓄積されている情報の横断的な活用を図るなど、業務プロセスの改善 を行う。 (2) 局内のIT 環境の充実・強化 高度情報化社会に積極的に対応し、情報通信技術を有効に活用することにより、情報伝達及び意思決 定の迅速化、利便性の向上等、業務水準の向上を図る。その際には、蓄積された大量の業務情報等の既 存情報資産を有効に活用し、情報化を効率的・効果的に推進する。 (3) 情報システムの最適化 PDCA サイクル※に従って、各種手順の整備及び評価や監査を実施することにより、情報システム運用の効率 化及び情報システムの見直し等を行い、事業活動をより効果的に支える基盤として有効に機能するように情 報システムの最適化を行う。あわせて、情報システムのライフサイクル※全体を通した徹底したコスト管理及び 調達管理により、情報化投資額の圧縮を図る。 (4) 情報セキュリティの充実 社会インフラ※である交通事業の安全及び利便性を確保し、市民やお客さまの期待にこたえるため、情報 セキュリティを充実させるとともに、個々の職員の意識向上を図る。 (5) 職員のスキルアップ 情報通信基盤を積極的に利用して情報共有や情報伝達といった情報資産の有効利用をさらに推進する ために研修等の充実を図り、職員のスキルアップを行う。 2 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 1.1.3 情報化推進計画アクションプランの取り組みとその成果 前回の情報化推進計画書での基本方針に基づき、その具体的な取組みとして、平成21年6月に「大阪市 交通局情報化推進アクションプラン(以下、「アクションプラン」という。)」を策定した。 アクションプランでは、前回の情報化推進計画書の基本目標を具体化した13のテーマを設定し、活動状況 や成果、現状の課題・問題点や今後の見通しについて適切に管理し、円滑な進行に努めてきた。 中でも情報システム課は、IT関連予算を精査・評価するなど経費の抑制に貢献し、また、当局IT−PMO※ として、大規模なプロジェクトや技術的難易度の高いプロジェクトにおいて円滑な推進に寄与する等、平成21 年度からの3ヶ年は、当局のITガバナンス※を確立させる上で、非常に大きな成果を挙げてきたと考えている。 3 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 19 年度 (1)ITコストの適正化(低減化) 20 年度 21 年度 22 年度 IT 関連予算事前精査の試行 23 年度 24 年度 本格運用 見直し 局内IT資産の可視化(総合情報ワーキング) IT 関連予算ヒアリング等の実施により、IT 関連経費のよ り一層の適正化を図る。 コスト削減に関する改善ポイント分析 (2)局IT−PMO体制の確立 導入検討 順次対応 試行 ▼ 個別 IT プロジェクトの円滑な実施を支援する、局全体的 評価・見直し (体制強化) な視点による支援体制(局 IT-PMO)の確立を図る。 (3)局内IT資産の可視化、カルテ化 本格実施 局内IT資産の可視化(総合情報ワーキング) 順次対応 カルテ化に向けた台帳整備 局内 IT 資産に関する調査・ヒアリング等により、局内 IT 順次対応 課題・問題点の分析等 資産の可視化を図る。 年次更新 (4)情報化にかかる調達プロセス改革 交通局におけるIT調達ガイドライン改訂等 試行運用 本市ガイドライン等に準じた IT 調達関連ルールの整備・ 年次更新 本格運用 運用により、IT 調達プロセスの適正化を図る。 (5)IT活用による業務改革(BPR)の推進 年次更新 順次改訂 ▼ ▼ ▼ ▼ 評価・見直し 評価・見直し 評価・見直し 評価・ 見直し 局内集中募集 局内ワーキング設置、検討 局内公募等により新たな IT 活用の芽を探り、業務改革の 具体化(順次実施) 推進を図る。 (6)財務会計システムの再構築 調達準備(仕様書作成) 公示 ▼ ▼ 開発 開発業者決定 現行経理・調達システムの再構築により、経理・調達事 ▼ 務の効率化・高度化とともに業務プロセスの改善を図る。 本番稼動 (7)文書管理システムの導入 導入検討 ▼ 文書管理システムの導入により、文書に関する事務処理 導入 の円滑化及び効率化を図る。 (8)OA基盤の機能強化と局内情報の利活用促進 ▼ 局ポータル構築 局内 IT 基盤更新に伴う機能強化等により、局内情報の利 利用状況把握、 方針検討、調達準備 調達 課題・問題点及び ニーズの収集 活用を促進するなど、IT 環境のより一層の充実を図る。 ▼ ▼ OA基盤更新 利用者測定 (予定) 情報セキュリティのリテラシー向上 (9)情報セキュリティの充実 BCP作成に向けた検討 情報セキュリティに係る研修等の継続実施および規程、 マニュアル類の充実など、より一層職員の情報セキュリ ティに対する意識向上を図る。 (10)情報部門におけるIT人材育成 人材育成(研修実施) 人材育成方針及び 研修ロードマップ作成 研修ロードマップや研修等の継続実施等により、情報部 門として必要な IT 人材の育成・確保を図る。 (11)職員の情報リテラシーの向上 研修計画 研修計画 研修計画 実施 実施 研修計画 実施 研修計画 研修計画 実施 実施 研修の継続実施等により情報リテラシーの向上を図る。 ▼ 評価・見直し (12)駅務オンラインシステムの再構築 ▼ ▼ ▼ ▼ 評価・見直し 評価・見直し 評価・見直し 評価・見直し WG 結成準備 WG 結成 問題点の抽出 現行駅務オンラインシステムの再構築により、業務プロ セスの改善し、効率化・高度化を図る。 (13)交通局ホームページ再構築 効果・課題の 整理 システム構築 システムテストの実施 基本構想・計画 新旧システム並行運用 の作成 基本設計・詳細 25 年度 設計の実施 開発業者決定 本格運用開始 開発業者決定 システム導入・移行作業 ホームページの CMS の再構築によりページデザインを刷 ハードウェア調達 新し、お客さまサーヒス向上を図る。 システムテスト・研修、本格稼働 4 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 成果 IT関連予算の要求に際し、情報システム課による事前協議・精査を平成20年度に試行及び見直しを行い、平成21年度に本格 運用を開始した。その結果、IT関連予算を削減し、経費の適正化を図ることができた。 平成21年4月から平成23年3月までの間に、「財務会計システム再構築プロジェクト」に対するプロジェクト管理、「被服貸与管 理システム」の再構築に向けた調達支援、自動定期券発券機の設置に際して新たに導入する「クレジット決済システム」に関する 技術検討支援、調達支援を実施してきた。平成23年度は「ホームページ再構築」を主軸にプロジェクト管理を行った。 平成21年度は、局内IT資産の可視化に関する「仕組み」作りについて検討し、最終的に6カテゴリ(基本属性、システム構成、 運用状況、評価、予算、カルテ)と総計394の管理項目を選定し、局内にある51の情報システムを対象に、これまでの調査資料 やIT関連予算資料に基づき、上述の各項目に対してデータの初期整備を行った。平成22年度に「IT資産管理システム」を構築、 平成23年度に稼働開始し、H24年度のIT関連予算要求にかかる手続きの「システム協議依頼」の電子化を行った。 平成21年度から調達ガイドラインに基づき、新たな調達プロセスを実施した。平成22年11月にIT調達ライフサイクルの「開発、 運用保守、評価」の各フェーズにおける「運用・解釈の手引き」を追加策定し、局内ポータルに掲載した。平成23年度には、IT資 産管理システムによる協議を本格的に稼働させ、システム・金額の大小問わず全ての協議を実施した。 平成21年度に「ITツールを活用したアイデアの募集」を行った。担当業務での汎用的なツールや利活用方法の提供を中心に 具体策を検討した。平成22年度は日常業務で利用できるオフィスソフトを活用した業務処理の高度化を支えるツールとして3種類 のテンプレートを作成した。平成23年度には3つのツール(PDFサーバ・大容量ファイル交換・Office Communicator)を導入し、業 務効率化を図った。(BPR:Business Process Re-engineering) 平成21年度に一般競争入札総合評価方式により開発業者を選定し、開発に着手した。当初計画通り、平成23年4月に運用開 始し、順調に運用できている。設計中に生じた仕様変更・追加分については業務効率が著しく悪い部分も併せて、平成24年3月 末に対応した。 文書管理システムは、市長部局のシステムに参加することとした。平成22年6∼7月にかけて研修を行い、平成22年度上期中に 当局に導入を行った。システムが導入されたことで適正な管理を行うことが可能となり、事務文書の業務効率化に寄与した。 平成21年度に局内アンケート、外部ベンダー※への意見収集をした上で、調達仕様書を作成した。新OA基盤の主な変更点は 「大容量のファイル交換システムの導入」「在席管理システムの導入」「ファイルサーバの統合、大容量化」である。平成22年5月に 機器リース事業者決定し、平成22年3月メインフレーム入替作業が完了した。平成23年度は在席連絡可能状態表示等の機能を 有するOffice Communicatorを展開した。 情報セキュリティ研修を平成21年度にeラーニング型、平成22年度には集合型にて実施した。平成22年11月にWeb有害情報 フィルタリング機能の強化、添付ファイル付電子メールの自動圧縮暗号化を実施し、ポータルサイトにて、自治体を中心とした情 報セキュリティ事故や国からの注意喚起を配信している。BCPについては東日本大震災を受け検討中の計画を抜本的に見直す こととなった。平成23年度はセキュリティ事故に対する職員意識の再徹底を図り、今後の再発防止策に取組んできた。 平成21年度に教育・研修を実施してきた。しかしながら、当局の現状には適合していない事が明らかになった。平成22年度は 職員一人一人のレベルアップとして、総務局IT担当の研修に加えて、「地方自治情報センター」が主催する様々な情報化研修に も参加した。平成23年度も情報部門職員を中心に、総務局IT統括課の研修、情報化研修に参加した。平成22年から国家資格取 得に向けても取り組み、ITパスポート試験に2名合格した。 平成20年度より従来のOA講習会に加え、担当業務における「ITの利活用」を中心とした研修を実施している。研修の対象ソフ トとしてはワード、エクセル、アウトルック、アクセス、パワーポイント、オートキャドである。研修前後スキル点検シートにより、受講者 及び主催者側が研修の効果を実感できるよう取り組んだ。受講者のアンケートでは「良かった」「業務に活用できる」と答えており、 一定の成果はあった。 拾得物管理システムは、平成23年4月に運用を開始した。その後、仕様調整やシステムの使いやすさを考慮した修正を行い、 再度リリースした。出退勤管理システムは出勤管理システムへ組み入れることとし、現行システム、運用面の分析や見直しを含め た構築を行い、平成23年12月にテスト運用を開始している。収入金管理システムはハードウェア機器の更新を中心に実施し、機 能追加の検討を電気部・駅務課共同で行い、仕様を確定した。認証カードについては現行の認証カード(磁気タイプ)で更新を 行うことで決定した。 デザインが陳腐化及び旧式化しているなど課題のあったHPを平成24年3月のハードウェア更新に合わせて見直しを行い、デ ザイン、CMS(Contents Management System)及び「よくあるご質問」機能などのソフトウェアを再構築し、計画通り平成24年3月1日 にリニューアルした。 5 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 1.2 現状の問題点と今後に向けた課題 1.2.1 これまでの取り組みにおいて明確となった問題点や今後に向けた課題 前述のとおり、計画的に情報化推進の充実を図ってきており、現在は日常的な業務運用はもとよりお客さ まをはじめとした外部とのコミュニケーション手段において欠かすことの出来ない重要な基盤になっている。ま た、前回の情報化推進計画書に基づく平成19年4月からの取組みによって、情報化運営における局統一的 なルールの整備、新たな業務システムの構築及びインフラ※整備の拡充など大きな成果が得られている。 しかしながら、「ITを活用した業務プロセスの改善」や「職員のスキルアップ」に関しては、必ずしも十分な成 果が得られておらず、特に、情報システムの維持・運営に関わる職員のスキル低下は大きな問題となっており、 当局にとっても重大な事故に繋がる大きなリスクとなっている。 既に、これまでの情報化施策により、業務システムやその基盤であるさまざまなインフラについては十分に 整備されてきており、今後は、それらの利用価値をいかに高めていくかが課題となる。 1.2.2 事業運営の変化に伴う新たな課題 当局の場合、今後、大きな組織変革も想定される事から、いわゆる地方自治体としての情報化からは脱却 し、より民間経営を意識した情報化に取り組んでいくことが重要である。 特に関西においては、スルッとKANSAIに参画の他交通事業体とのサービスの差別化が今後はより強く求 められることになる。地方自治体の情報化は、あくまでも職員を中心に据えた施策であったが、今後はより経 営に対応したICTのあり方が求められている。 さらに、社会インフラである交通事業体としては、より一層の安全・安心に向けた取り組みが求められるとこ ろであり、ICTを活用した新たなマネジメントシステムの導入や内部業務の統制を実現していくことが求めら れている。 6 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 2 章 情報化を取り巻く環境の変化 本章では、これからの情報化に求められる取り組みについて考える上で、国をはじめとした外部動 向や最新の技術動向を取り上げていく。 2.1 行政情報化を取り巻く環境の変化 2.1.1 国の情報化の動向 我が国の電子政府の取り組みは、1994年に閣議決定された『行政情報化推進基本計画』以降、着実に推 進されてきており、特に電子政府や行政の情報化に関しては、平成22年5月11日に、「新たな情報通信技術 戦略」が、その後、平成23年8月3日に、「電子行政推進に関する基本方針」がIT戦略本部にて決定されてい る。 「電子行政推進に関する基本方針」では、「高齢化が進む中、国民一人一人の事情に対応したきめ細かい 行政サービスの提供」や「民間企業等との連携」 「IT投資管理の充実」等が掲げられており、その前提と なる基本的な視点として「利用者視点」を取り上げている。 2.1.2 本市の情報化の動向 本市では、なにわルネッサンス2011に先立ち「市政改革マニフェスト」に沿う形で、平成20年度に「大阪市 IT改革実施基本計画」を策定し、業務・システムの最適化、IT調達改革、IT人材育成への取り組みを進めて きた。その後、同計画に基づき、「内部事務システムの業務・システム最適化計画」(平成21年度)、「区役所窓 口業務改善計画」(平成22年度)、「IT適正利用推進計画」(平成23年4月)が策定され、現在に至っている。 7 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 2.2 最新技術動向 2.2.1 クラウドコンピューティング 従来、オープンシステム※で用いられるサーバ機器については、個別の業務向けに専用のものを用意して いることが一般的であった。しかしながら、昨今のサーバ機器の性能向上と情報技術の進歩により、従来汎 用機で実現されていたような個別の独立(仮想)環境をサーバ機器の上でも提供できるようになってきており、 特にネットワークの技術と絡めて複数台のサーバ機器の上に、サーバ機器台数の数倍もの規模の業務シス テムを導入することが可能となってきている。また、単一の機器の障害時に際しては、別の機器に実行環境を 移動しサービスを提供し続けるようなことが可能となってきている。 このような技術的な背景の下、サービス提供者にて数百台(もしくは、それ以上)のサーバ機器を用意し、 ネットワークを介して顧客にあたかも個別の機器、環境、システムを提供するようなサービスが出てきている。 このような新たなサービスの利用形態を「クラウドコンピューティング」という。 クラウドコンピューティングの採用によって、システム導入時の開発期間の短縮やシステム運用などの削減 により、コスト削減等でのメリットが期待されている。 また、防災対策が十分に施された遠隔地のデータセンター※を拠点として提供されるクラウドコンピューティ ングを活用し、大規模災害時にも重要なデータや情報システムを維持することが可能となる。 クラウドコンピューティングを活用したサービスは、米国NIST(国立標準技術研究所)の定義によると、以下 の3つのサービスモデルと4つの配置モデルで分類することができる。 3つのサービスモデルの特徴は以下のとおり。 ア.IaaS 仮想サーバを提供するサービス形態。利用者からすると、活用の自由度が高い反面、他の2つのサ ービスモデルに比較して設計・製造・管理運用の手間が大幅に残る。 イ. PaaS 個別の業務システムのアプリケーションを実行する環境(プラットフォーム)を提供するサービス形態。 利用者からすると、システム基盤面の整備、運用等に係る負荷を軽減でき、業務システムの構築、運 用に注力出来る。 ウ.SaaS 既成のアプリケーションをサービスとして提供する形態。従来ASP※と呼ばれていた方式に近いものと 言える。利用者は提供されるサービスとのFit&Gap※を実施し業務システムを構築する。システム基盤、 業務システムの両方の管理、運用に関する負荷から解放されるが、ある程度、既成サービスとの適合 が高くなければ採用が難しい方式。 4つの配置モデルについては、一般的に大きく分けてパブリッククラウドとプライベートクラウドの2つで議論 がされている。パブリッククラウドはサービスを提供する事業者を選定し、その上に業務システムを構築してい く方式で、後者はユーザの拠点内にサーバ機器を導入し、自らの管理する業務システムをそのサーバに統 合集約していく方式である。プライベートクラウドについてはサーバ統合、という概念にも通じており、一定の 費用の効率化は望期待出来るものの、管理・運用の経費負担は従来と変わることころが少ない方式である。 8 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 【サービスモデル】 ●SaaS(Software as a Service) アプリケーションそのものをサービスと して提供するモデル ●PaaS(Platform as a Service) アプリケーションを実行するための環境 (基盤)をサービスとして提供するモデル アプリケーション アプリケーション アプリケーション OS・ミドルウェア OS・ミドルウェア OS・ミドルウェア ハードウェア・NW ハードウェア・NW ハードウェア・NW ※ ●IaaS(Infrastructure as a Service) サーバやネットワーク等のインフラそのも のをサービスとして提供するモデル 提供されるサービスの範囲 【配置モデル】 ●プライベートクラウド(Private cloud) 組織内にクラウドコンピューティングのシステムを構築し、組織内の 各部門にサービスを提供する配置モデル(※外部のデータセンターを 利用し、専用のシステムを構築している場合を含む) 組織内部 ●パブリッククラウド(Public cloud) 組織外部に構築されたクラウドコンピューティングのシステム(外部 サービス)を組織内で利用する配置モデル 組織内部 組織外部 ●コミュニティクラウド(Community cloud) 特定の複数の組織によって、外部に構築されたクラウドコンピュー ティングのシステム(外部サービス)を共用する配置モデル 他の組織 組織外部 ●ハイブリッドクラウド(Hybrid cloud) 用途に応じて、組織内に構築されたクラウドコンピューティングの システム及び組織外部のクラウドコンピューティングのシステム(外部 サービス)の両者を利用する配置モデル 他の組織 組織内部 組織内部 組織外部 組織外部 図表 クラウドサービスの3つのサービスモデルと4つの配置モデル 2.2.2 ビッグデータ 現在のICT分野でキーワードとなっているビッグデータとは、通常のデータ管理ツールでは集約しきれない 巨大なデータを収集、分析し、有効活用することを言う。 例えばWEB上で商品購入するためにどのような商品をチェックし、最終的に購入したか等、人がアクション を起こすことにより、相手側の機器やシステムがリアクションを行い、それらが反復された情報を扱う。このよう な情報を分析することにより今まで把握できなかった事を把握できる可能性が広がっていく。 従来のデータ分析は、基幹系システム※等から情報集めるためのツールを用いて抽出・変換し、データベ ース※に格納した上で、エンドユーザー自身が独自の視点で分析ツールを用いて意思決定に繋げ分析を行 っていた。ビッグデータを取り扱う場合、経理データ、購買データ並びに販売・在庫データなどだけではなく、 データベースとして管理できないデータ(非構造化データ)も対象とすることになる。 大規模なデータの並列分散処理※を支援する代表的なものとしては「Hadoop」がある。ファイル分割、配布、 結果集計機能を提供しており、大規模なデータの分析を可能とする。「Hadoop」を使ってデータを加工、蓄積 するには通常のデータベースでは対応しきれないため、専用のデータウェアハウス※(DWH)専用マシン等を 使用し、管理することになる。 9 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) ビッグデータの活用方法としては、概ね以下のとおり。 ・ ユーザの動向を購買履歴や属性で判断し即座にクーポン発行などの情報を個別に提供する。 ・ ユーザの情報を収集し、好みを分析する。興味のありそうな必要となる情報を個別に提供する。 ・ センサー等で得られるデータを大量に収集分析を行い、市民等全体に役立つ情報を即座に提供す る。 ・ 一旦データを蓄積してある程度の量になった段階で一括で集計分析を行い、ユーザビリティ、アプリケ ーションサービスの機能改善を行う。 2.2.3 仮想化技術 1台の物理的なハードウェア内に論理ハードウェアを同時に複数稼働させる技術が、仮想化技術である。 利用者側からみると、仮想化技術によって論理的に構成されているサーバであるということを意識せず、専用 の物理ハードウェアを利用していることと同じように利用することができるという点が仮想化技術の特徴である。 OS※やアプリケーションソフトを動作させる「サーバ仮想化」や、複数のディスクをあたかも1台のディスクであ るかのように扱い、大容量のデータを一括して保存したり耐障害性を高めたりする「ストレージ※仮想化」などの 技術がある。 仮想化技術を実現する主なホストOS製品としは、以下のとおり。 ベンダー VMware 製品名 概要 VMware vSphere Linuxライクな専用ホストOS VMware Server Windows上に仮想領域を構築するミドルウェア VMware Fusion Macintosh上に仮想領域を構築するミドルウェア Xen Server Xen方式を用いた専用ホストOS Xen Desktop Xen方式を用いた端末仮想化用ホストOS Hyper-V Windows Server 2008 に搭載されたホストOS機能 Virtual Server Windows Server上に仮想領域を構築するミドルウェア Hp Integrity Virtual Machines HP-UX上で仮想化を実現するホストOS機能 Redhat Xen Server Linux上に搭載されたホストOS機能 Citrix Microsoft <仮想化技術の適用事例> ア.サービス提供事業者による適用事例 近年では、仮想化技術を利用し、IaaS型のクラウドサービスを提供するという事業形態が多く見受け られる。「レンタルサーバ」や「ホスティングサービス」等の名称でサービスを実施していることが多い。 このような事例は、ユーザは、仮想化技術が採用されていることを意識する必要が無く、サービス提 供事業者が仮想化技術利用しているということが特徴として挙げられる。 イ.ユーザによる適用事例 ユーザが仮想化技術を意識して選択・適用する事例としては、サーバ統合が多く挙げられる。オープ ン化以降、各部門が個別に情報システムを構築・導入するといったケースが多くあり、サーバの管理負 担の増大やIT投資の重複等の問題を抱えていた。そこで、仮想化技術を活用し各部門に分散してい る情報システムをサーバごと情報部門の仮想化環境(いわゆるプライベートクラウド)に移管し、運用の 効率化を図るという取り組みが多く行われるようになってきている。 10 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 2.2.4 ソーシャルネットワークサービス ソーシャルネットワークサービス(以下、「SNS」という。)とは、参加するユーザが様々なテーマについて、幅 広いコミュニケーションを取り合うことを目的としたコミュニティ型のWebサイト※のことである。 SNSで提供されている主な機能としては、自分のプロフィールなどを公開して自己紹介するための機能、 SNS上で交流のある友人・知人を登録しておけるアドレス帳の機能、ブログのように簡単に更新できる日記帳 の機能、同一のテーマについて情報交換を行うためのコミュニティを作成する機能などがある。 代表的なSNSとして、日本最大の会員数を持つミクシィ(mixi)や海外では世界最大の会員数を持つフェイ スブック(Facebook)等が挙げられる。広い意味でツイッター(Twitter)がSNSの1つに含まれることもある。 ア. SNSのビジネス活用 近年、ツイッター(Twitter)やフェイスブック(Facebook)などのSNSが国内でも広まり、ビジネスで活用 する企業が増加している。 ファミリーマートは公式Twitterアカウントで、新着情報などを中心につぶやきを行っている。ファースト リテイリングのユニクロは、フェイスブックに公式ファンページを開設しており、店舗のオープン案内や 商品、キャンペーンなどの情報をアップしている。 このような企業の取り組みがある一方で、SNSを利用した宣伝方法や企業内個人の発言が企業を謝 罪にまで追い込むケースなどSNSを利用することによる問題も発生しており、ソーシャルメディア※に参 加しつつ、不規則発言をどう防ぐかについて、企業ではガイドラインを作成する等の対策が必要な状 況である。 イ. 企業内でのSNSの活用 SNSを社内向けに応用したシステムが企業内SNSである。利用者が率直な意見を書き込んだり、自発 的に特定の話題の掲示板を開設したりといったSNSの特性に着目し、組織や役職にとらわれないコミュ ニケーションの活性化や部門をまたいだ情報共有を目的として導入する企業が増加している。 地方自治体においても、福井県や栃木県足利市が導入し、運用を開始している。職員証の顔写真 などの個人データを利用して、職員情報を登録することや、公民館や保育所など管轄する出先機関を すべて庁内LAN※でSNSネットワークとしてつなげることが可能であり、また、庁内のPCからの利用のみ を可能とするといったアクセスの管理も行うことができる。 庁内SNSの導入により期待される効果としては 役職者を含めた全職員が直接繋がることによる意思伝達(トップダウン、ボトムアップ)の効率化 組織間のスピーディかつ正確な情報連携 部署を超えた職員間のコミュニケーションの活性化 会議資料や決定事項等の情報を掲載(共有)することによるペーパーレス化 等が挙げられる。 2.2.5 スマートフォン 携帯電話市場は、スマートフォンの発展が目覚ましく、これまでの通話機能を主体とし、カメラやワンセグ、 お財布携帯等を搭載した高機能端末のフィーチャーフォンからスマートフォンへ移行が進んでいる状況であ る。スマートフォンは通話機能以外にインターネットの利用を前提としており、スケジュール・住所録・メモなど の情報管理に加え、アプリケーションをダウンロードして多数の機能を活用できる携帯電話の事である。 ただし、日本では既にi-mode等を利用してフィーチャーフォンからもインターネット接続可能で、フルブラウ ザ対応なども可能であったため、ネット接続ができるという点に関してはフィーチャ-フォンと大差はない。ただ 11 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) し、スマートフォンの方がネット接続に特化しており、全面タッチパネルを使用し、パソコン型のキーボード (QWERTYキーボード)を利用するなど小型のパソコンを持ち歩いているのと同じ感覚となる。 今後のスマートフォン利用用途については大きく以下の2点が考えられる。 ア. SNSを利用した企業等からの情報提供 先述のとおり、SNSの利用は国内でも広がっており、利用者のほとんどはスマートフォンを利用してい る事が多い。地下鉄の輸送障害や遅延情報などツイッターを利用してツイートすることにより、利用者 はリアルタイムに情報を取得可能となり、より一層の顧客サービスが可能となる。 イ. スマートフォンの通常業務での活用 スマートフォンを業務で使用することにより、直接お客さまのもとに出向き、お客さま情報を即座に確 認できることや、お客さまに対してスマートフォンから必要な情報を見せることが可能となる。また、事故 など出先で起こった情報を現場から直接上長に報告する等の用途も考えられる。 2.2.6 デジタルサイネージ デジタルサイネージとは、ディスプレイやプロジェクタを利用して映像や情報を表示することにより、主に広 告媒体として用いられており、システム販売、構築市場が低価格化してきたこともあり、デジタルサイネージを 利用した広告市場は今後ますますの増加が見込まれている。表示する内容についてはデータ通信を利用し て内容を随時変更することが可能であり、多数の情報を保持して情報を切り替えながら表示することが可能と なる。 緊急時には必要な情報を多言語で即座に発信することも可能であるため、スマートフォンやタブレット端末※ を持たない方にもリアルタイムに情報を確認できる。 また、画面をタッチパネルにするなど、使い勝手の向上が図られており、表示されている情報には地域の 情報や各種宣伝等があり、地域の活性化にも貢献できる。ただし、デジタルサイネージの利用による電力使 用に対して節電モデルの導入等の節電対策については十分配慮する必要がある。 12 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 3 章 これからの情報化推進に対するニーズ 本章では、これからの情報化に求められる取り組みについて考える上で、今後の鉄道事業体に求 められるICT活用に関して、外部専門家の意見を整理する。 これからの情報化に向けた指針作成においては、幅広い角度から意見を求め、より的確な方向性を見定め ておく事が求められるため、外部専門家として、前回の情報化推進計画書の基となった「大阪市情報化基本 指針」のアドバイザリーボード会議の座長である中野秀男名誉教授、また同会議の構成員であり、近畿 V-Low 実証実験協議会顧問でもある芝勝徳教授に対して、以下の質問についてインタビューを実施した。 当局では、これから策定する ICT 戦略は、「お客さま=利用者」「職員」「経営」と言う3つの軸で考えていま すが、他にどのような切り口が良いと思われますか? 地域との関わり 3つの軸について、もし他にあるとしたら「地域」もしくは「地域貢献」が挙げられると思います。駅は街の顔 や玄関であり、生命を守るといった公共的な性格があります。また、大阪市では地下鉄は市内を縦横に走って いてその周りを私鉄、JR が回っている形になっています。そのような点からも大阪市が考えている区役所の出 店のような地域との関わりをもう少し行った方が良いのではないかと思います。 駅が地域に溶け込むという感じ、駅に行けば何かができるということ、駅を使うのではなく、駅が一つの場所 になっているということです。(中野氏) 社会的意義 地下鉄から改札まで、あるいは改札の向こうには地下街があり、その先には他路線があり、そこに人が集ま り増えていきます。東京都でも行っていますが、帰宅困難者等を考えた場合に、自分たちの運行の話だけで はなく、トータルの人の流れを最適化するためは、もう少し外側への情報の共有や発信があり得ると思います。 大阪市交通局の外からみた位置づけとして、各路線が南から北から集まっており、ハブ的な地下街の機能等 を含めて中心的な役割となっています。ICT の情報を発信していく先がいわゆる本業としての経営という狭い 意味であればもう一つの軸として、社会的意義が必要ではないかというのが一つ気付いた点です。(芝氏) 当局は、地下鉄やバスを運行する組織ですが、その中で、「お客さま=利用者」向けの ICT とはどのような サービスが考えられますか? 区役所との連携 区役所と連携する形は必然となってきます。最初の質問と同じになりますが、キタとかミナミ、天王寺などいく つかの駅については街作りの拠点となることができると考えています。(中野氏) 利用者に応じた情報発信 情報発信の方法としては、一般の人向けにはサイネージ、若者や IT を使える人にはスマホを利用したツイ ッターやフェイスブック等のソーシャルメディアの活用、また、お年寄りにとってはテレビが情報を取得する手 段となっているため、デジタルテレビの中での情報の流し方を工夫することが良いと思います。 また、デジタルテレビでは郵便番号で地域を特定したり、交通カードから住んでいる地域やお年寄り、女性 等の個人情報とはならない利用者の属性を使用したりすることで、利用者に有益な情報を提供することができ ます。(中野氏) ニーズをとらえた情報発信 今では私たちは携帯端末、スマートフォンと一緒に移動しています。その点を利用して、単純な乗換案内だ 13 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) けではない、もっと多様なサービス、それは個別にニーズをとらえ、積極的に外に向けて発信することが考えら れます。情報発信の手段としては、サイネージを充実させることも必要となってきます。 また、電車に乗っていると、例えば運行情報などは車内のアナウンスよりツイッターを見るほうが早い場合が ありますが、そうしたソーシャルメディアと今までのサービスの中間にあたるような情報発信の領域が ICT を使 ったサービスであるのではないかと思います。(芝氏) 利用者による情報のマッチング 社会的な役割からすると、例えば災害時等の帰宅困難者を駅に滞留させないためには、ホームタウンの情 報を正確に発信することが必要です。そのためには沿線の他電鉄だけではなく、周辺の市町村とも連携し情 報を集めることが必要となりますが、そうした情報を欲しい人に欲しいように出してあげるということはとても意味 があると思います。その中から利用者が自分にマッチングした情報を取得できるということです。(芝氏) 既に職員が利用する業務システムは導入済みですが、今後、職員の事務処理向上に寄与する ICT とは 何だと思われますか? ワークフローの「見える化」 業務システムはワークフローを作成し、それを基に構築されていますが、その中のワークフローをもう少し 「見える化」する仕組みが必要であると考えます。今どこに書類があるか、どこで業務がとまっているか、それは どのような理由であるかなどを「見える化」することが大切です。全般的にコンピューターそのものが進化し、ビ ジュアル的に見せることができるようになってきました。業務について職員からも見える、逆に管理側からも見 える、そのようなシステム作りを目指すことが良いと思います。(中野氏) 職員による内製化 もうひとつ、「内製化」と表現しますが、職員がコントロールできるシステムがあっても良いと思います。ベンダ ーに任せるだけではなく、帳票や数値なもの、小さなサービスであれば、職員により内製することができる仕組 みです。その際には職員の配置について考える必要があり、ICT に精通した人材を外部から 5 年毎、10 年毎 にキャリアパスとして各部署に登用できるような制度や若い人たちをどのように教育していくかといった考慮が 必要になると思います。(中野氏) トップレス会議 私たちの周りではトップレス会議、つまり携帯や端末を持って来ない会議を行っています。トップというのは デスクトップやスマートフォンのことで、会議や仕事のときにはこれを持っていると逆に効率が落ちるといったこ とがあります。今までのルールを変え、会議の中にパソコンを持って来ないほうが、事務処理向上につながる のであれば、ICT 環境についても考える必要があると思います。(芝氏) 現在、当局では何も活用していませんが、経営判断のための ICT と言うとどのような仕組みだと思われま すか? 人の流れの「見える化」 電車を走らせることだけを考えるのではなく、電車の外には街があり、なぜその人が電車に乗っているかと いうこと、それが動態調査になります。 そういった街中の動きを経営陣が俯瞰的に見える仕組みを提供することが必要です。それは見える化にも 繋がります。どのようにして売上が出ているかについて人の動き、例えば梅田の街の流れを朝から夜まで見る ことができたら面白いと思います。 そのためには他と協力して、動態調査を行うための ICT ツールを導入することが必要となります。交通量の 調査などはポイントでの数でしかありませんが、その流れを見えるような仕組みを作ることや、現在は顔認識技 術が発達していますので、地下鉄やバスのカメラを利用して、人の動きをチェックすることは可能であると考え ます。(中野氏) 経営へのフィードバック IT サービスガバナンスを何のために行うかについては、経営へフィードバックするためということが挙げられ ます。その場合に何事も起こさないように努めてきた危機管理から、何も起こっていないこと、あるいは自分た 14 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) ちは完全に順法であるということを外に向けて証明しなければいけない、また、その証明は経営層に対しても 必要であるし、そのためのシステムになっていることが必要であると考えます。(芝氏) 今後一層の IT ガバナンス強化に向けては、どのような取り組みが求められると思われますか?また、IT ガバナンスの理想的な取り組み事例があればご紹介下さい。 情報公開と説明責任 世の中で一般的に言われていることとして、情報公開と説明責任が挙げられます。ガバナンスやセキュリテ ィとなると公開できるも部分が限られるので、必ずしも情報公開はキーワードにはなりませんが、説明責任はか なり重要となります。例えば USB※の使用を制限する場合に、どのような制限をしているかについて、上手く説 明できるようにする必要があります。(中野氏) 法令順守の「見える化」 大きな話としては「見える化」、つまり法令順守していることを見せることです。交通局の中でも結構ですから、 このような法令順守をしているということを文書化し、庁内のポータル等に記載することで、このようなルールを 守っているという事をみんなが知るようになります。そうすることにより、職員同士でこの規定はそろそろ危ない、 問題があるのではないかということに気付く、そういったことにつながると思います。(中野氏) 無謬性の証明 薬物を例に挙げると、薬物を使用しないように研修するのではなくて、薬物を使用していないということ証明 するための仕掛けを作ることです。無謬性の証明といいますが、何も起こしていないということを積極的に外部 に説明し、証明することは、特に公的な機関であれば非常に重要だと思います。そういったシステムとするた めにコストをかけることが IT ガバナンスの強化に取り組んでいるということになります。ガバナンスというものを、 証明作成のガバナンスと、一歩引いて自分の後ろから見たときのガバナンスとして意識するということはとても 大事なことです。(芝氏) 資産管理 資産管理を行う場合には、トータルのサイクルとして、調達管理をし、情報資産に登録するところから、構成 管理やリリース管理など、そして廃棄するまでの管理が必要であり、それは精緻なマネジメントとなります。その マネジメントシステム自体を外部に公開することによって、これでやっているから大丈夫と言わせることができま す。(芝氏) 多くの情報部門は外部活用を拡大するあまり弱体化・空洞化が進んでいることもあり、当局では資格取 得を目指した人材育成を行っていますが情報部門のスキルアップはどのように行っていけば良いでしょう か。また、エンドユーザーとなる職員の ICT 活用も個々によって幅が広がっています。職員の IT スキル底 上げにはどのような方法があるか取組事例があればご紹介いただけますでしょうか。 若い人に向けた教育 これからは若い人が中心となってきますから、若い人に対して、オタクのような人にならないために世の中ど うなっているかという話をするような機会を作ること、それも教育のひとつであると思います。 また、人材教育として、外部のいろいろなシンポジウムや情報交換に参加させることは良いと思います。そう することで、外が見えないということがなくなります。そして、専門家を育成するのではなく、全体の底上げが重 要です。(中野氏) ガバナンス体制の確立 無謬性の話にもなりますが、外から見て証明できるシステムというのは、別の言い方とすると担当者が変わっ ても運用できるシステムということができます。ですが、その体制に持っていくための集中度は半端ではありま せんから、今までよりも、もっときつい負担が情報部門にかかることになります。 アドバイスとしては、経営層の理解を得たうえで、思い切ってお金をかけて、理想的なガバナンス体制を一 極集中、それも電子計算機部門という従来の話ではなくて、人事や監査などといった部門に分散させてでも 確立することです。(芝氏) 15 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 最後に、当局としては民営化、市全体としては都構想がありますが、それについて情報化施策、既存の 情報システムに対して、何かアドバイスがあればお願いしたいと思います。 ワークフローの見直し 大事なことは、システムが作り直しになった場合においても、データベースが変わるぐらいで、ワークフロー はそれほど変わらないということです。要するにワークフローを図で書く等、しっかり持つことによって、自分の ところはこのように仕事していますが他ではどうですかと聞くことができ、連携の仕方が若干違っていても目で 見て把握することができます。そういった点から、もし実施するなら、ワークフローの見直しだと思います。また、 ワークフローを作成しておくことで、担当者しか分からないという事がなくなり、誰でもができる仕組みとなります。 その中で、ワークフローが無い場合をどうするか、また例外についてどうするかについては検討が必要となりま す。(中野氏) 市に閉じないサービス これについては最初に言った3つの軸に対しての社会的貢献、社会的存在意義からすれば、市に閉じてい たところ以外にもサービスを向けるということ、それが都であれ、関西広域であれ、その中で交通局の位置づけ を考えるということです。(芝氏) その他にご意見はありますでしょうか? 安全と安心 交通局単体で考えた場合の他社との差別化として、安全であるということは守られているということになると 思いますが、必ずしも、安全が安心ではないということ、その辺りは民間企業でない大阪市の交通局だから、 安全だけでなく安心してもらえるということが大きな方向性としてはあるのではないでしょうか。安全安心とひと くくりにしないで、特に安心側をクローズアップすることによっていわゆる民業とは違うものがでてくる気がしま す。(芝氏) 中野 秀男氏 (大阪市立大学 名誉教授) 経 歴: ・ ・ ・ ・ 1975年 大阪大学大学院工学研究科通信工学専攻博士課程修了。工学博士。 大阪大学工学部通信工学教室助手および助教授として20年間貢献した後、 大阪市立大学教授 創造都市研究科 兼 学術情報総合センター、学術情報 総合センター所長を歴任。 2011年4月より、大阪市立大学名誉教授・大学院創造都市研究科特任教授 大阪市ITアドバイザー。 芝 勝徳氏 (神戸市外国語大学 総合文化教授) 経 歴: ・ ・ ・ ・ 16 同志社大学文学部社会学科で新聞学を専攻。 神戸市図書館司書職を経て、平成6年より神戸市外国語大学に勤務、平成9年より現職。 平成14年4月より 神戸市企画調整局情報企画部高度情報化担当主幹。 平成15年10月より 神戸コミュニティ・エクスチェンジ 取締役。 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 4 章 今後の情報化推進の基本方針 本章では、前章までの結果を踏まえ、当局が目指すこれからの情報化推進の基本理念について 整理する。 これまでの情報化は、事務をいかに効率化出来るかに軸足を置いてきたが、今後は、ICT活用の主軸を当 局全体の組織変革及びお客さまサービスの向上に置くとともに、当局の経営に寄与するICTを推進していく必 要がある。 特に、経営に資するICT活用としては、個別業務システムで蓄積した膨大なデータ資産を活用し、地域やお 客さまへのサービス向上に寄与する施策を積極的に打ち出していく。ICTの最大の特徴はそのスピードの速さ である。今後は、このICTの特徴を最大限活かし、柔軟なサービス展開を目指していく。そのために、ソーシャ ルネットワークに代表されるような、ツールも積極的に活用し、お客さまとダイレクトにコミュニケーションを図っ ていくことが重要である。 また、当局では、これまで数多くの情報システムを導入してきているが、今後は、それらの最適化に向けた各 種の見直しに取り組むとともに、無駄なITコストを詳細に調査した上で縮減し、それらの経費を他の重点分野 に投資する等、情報化投資の適正配置にも取り組んでいく。 今やあらゆる業務において、ICTは欠かすことの出来ないものとなっていることから、事業継続におけるICT 対策については積極的に推進していく。 以上をまとめた基本方針は次のとおりである。 17 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 5 章 3つのICT施策 本章では、前述の基本理念に則り、平成27年度末までの4ヵ年で取り組んでいく具体的な施策に ついて整理していく。 施策としては、大きく3つの着眼点から整理していく。 5.1 ICTを活用したお客さま向けサービスの充実及び地域貢献 5.1.1 背景 今後のICT活用においては、「お客さま第一主義」のもと、地下鉄・バスは地域に深く密着していることから お客さまだけでなく、地域においてどのように貢献できるかについて検討し、具体的な施策に取り組んでいく 必要がある。 5.1.2 ICT施策の方向性 「ICTを活用したお客さま向けサービスの充実及び地域貢献」としては、以下に示す5つの施策を実施して いく。 (1) お客さまだけでなく地域に役立つ多様な情報発信 当局の地下鉄・バスという交通事業には、お客さまだけではなく、地域や社会に対していかに貢献出来る かという視点での取組みが求められている。平成23年3月11日の東日本大震災では、首都圏において多く の帰宅困難者を生み、情報の重要性が改めて認識されたところである。当局の各駅は、地域住民における 生活の重要な拠点になっていることから、各駅を情報発信基地とすることは、地域住民にとっても、また社会 全体に対しても有意義なものとなる。 発信する情報としては、単に当局の交通事業に関する情報に留まらず、乗り換え情報をはじめ、事故・復 旧情報、さらには、駅周辺の商業施設の案内など様々な情報がある。 これらについては、いわゆる大型ディスプレイを用いた案内はもとより、PiTaPaとの連携による個人に適し た情報を、スマートフォン等の携帯端末を通じて発信するなど、多様な提供方法により実施していく。 (2) 高齢化社会に対応したICT 高齢者にとってICTの利活用は、有益な情報やサービスを得るために優れた可能性を持っていると考えら れる。 総務省が平成23年に発表した「平成22年通信利用動向調査報告書」では65歳以上のパソコンの利用率 は27.3%、携帯電話等の利用率は43.7%であり、そのうち月1回以上、インターネットを利用する人は50∼ 60%と増加傾向にあり、今後、これまでICTを利活用していた世代が高齢者となっていくことから、さらなる増 18 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 加が見込まれる。 しかしながら、現在でも多くの高齢者にとってICTは使い方が解らないなど、ICTを通じた情報を自由に利 活用できる状態ではない。そのため、当局がICTを利用した各種のサービスを提供するにあたっては、高齢 者に対して適切な配慮を行っていく必要がある。 また、高齢者向けのサービスとして、安全・安心に地下鉄・バスに乗車いただけるように、高齢者の見守り の一環として乗降情報をご家族に連絡する仕組みや、緊急時には即座に連絡を取る事ができるなどの仕組 みについて検討していく必要がある。 (3) 積極的なPUSH型サービスの展開 PUSH型サービスは、お客さまが必要とする情報をお客さまからのアクションなしに提供することができるサ ービス形態の一つである。 代表的なサービスとして、お客さまに向けたメールの発信や大型ディスプレイを利用した画像による情報 の提供が挙げられる。しかしながら、一方的に情報を発信するのではなく、お客さまが本当に求めている情 報を適切なタイミングで発信することが重要となる。 当局が発信できる情報としては、地下鉄・バスの運行状況や、ICカード※の利用時に乗降情報を希望者へ お知らせしたり、沿線のイベントや催し物の告知などを発信したりするなどが考えられる。このようなPUSH型 のサービスを積極的に展開することでお客さまがスムーズかつ安全に地下鉄・バスを利用することができ、ひ いては利用促進につながることが期待できる。 (4) 市民・お客さまからの声を短期間で効果的に経営に活かすためのICT 市民・お客さまからの声を活かすにはデータの収集と分析が必要となる。ホームページ等を利用した様々 なアンケートやその他、当局が主体的に収集した情報、さらに地下鉄・バスの利用履歴、定期券の購入履歴、 購入時期など随時収集されるあらゆるデータが対象となる。これらの中に潜む項目間の相関関係やパター ンを分析して探しだすことでお客さまのニーズを把握することが可能となる。 ICTを活用して分析するには、データマイニングツールを用いて行う。データマイニングツールは大量のデ ータを取り扱い、様々な解析手法を用いて機械的に判断し、結果を表示する。GUIで解析手順を自由に設 計し、視覚的に結果を表示する機能や、形式化されていないテキストデータなどを単語に分割し、単語の出 現頻度や相関関係などを解析することで、経営に効果的な意思決定を支援する。 (5) 海外からのお客さまに向けたICTによる魅力的な広報活動 観光等の目的で来訪する海外からのお客さまは、新型インフルエンザが流行した平成21年を除き、増加 傾向にある。平成23年度については東日本大震災の影響で大幅に減少したが、各国の渡航自粛勧告の緩 和等があった後は、大阪・関西圏の旅行者の数は回復傾向にある。こうした旅行者等に対しては大阪の情 報をニーズに応じてタイミングよく発信することが必要となる。また、大阪を訪れた際には、必要な情報が容 易に入手できるようにすることも、大阪のホスピタリティ※向上の重要な要素で、こうした情報の提供媒体の一 つとして、ICTの利活用は有効となる。 海外からのお客さまが観光地の情報を知る手段としては、パンフレットやチラシ、書籍、観光案内所で尋 ねるなどが挙げられるが、近年はインターネットなどのICTの活用も増加している。当局では、ホームページ については、英語、韓国・朝鮮語、中国語(繁体・簡体)に対応しているが、今後はICT端末の設置や持参し 19 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) たスマートフォンやタブレット端末などでインターネットが利用できるような環境の整備が必要である。 海外からのお客さま拡大の施策としては、大阪・関西圏に関する時節に合わせた観光地情報や地下鉄・ バスの乗車料金や企画乗車券の案内などを積極的に配信する必要があると考えられる。 5.2 ICTによる職員のさらなる事務処理効率化 5.2.1 背景 今後のICT活用においては、前回の情報化推進計画書と同様、事務処理の効率化に取り組んでいくが、 いかに高品質な業務をより効果的に行っていくかといった課題にも取り組んでいく。 5.2.2 ICT施策の方向性 「ICTによる職員のさらなる事務処理効率化」として、以下の2つの施策に取り組んでいく。 (1) 既存情報システムのより効果的な利活用に向けた見直し(いわゆる最適化) 最近の情報化においては、地方自治体だけでなく民間企業も含めて、「全体最適化」が一つのキーワード になっている。情報システムについては、全体最適化の一つの契機として、まず現状の可視化を行い、その 内容を把握し分析した後、あるべき姿の検討など次のステップに移る事になる。 当局では、既に51の情報システムが稼働しており、平成22年度にこれらの全ての情報システムの可視化 (見える化)を目的として「IT資産管理システム」を構築し、IT資産のカルテ化に取り組んできた。 今後は、これらの取り組みを踏まえ、2章で述べたような最新の技術によるサーバ統合をはじめ、より効果 的な利活用に向けた見直しを行っていく。 (2) コミュニケーション改革、 共有 の実現 従来型の情報共有ではなく、局内ソーシャルネットワークの構築を行い、役職、部門間を超えた 共有 を 実現し、現場発のコミュニケーション改革を図っていく。 現場からは、情報共有をはじめとしたナレッジマネジメント※システムの導入に対する意見要望が非常に多 いことから、それらの実現に向けても取り組んでいく。 20 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 5.3 ICTによるこれまでの情報化によって蓄積された情報資産の高度利用 5.3.1 背景 様々な情報化に既に取り組んできたことは前述の通りであるが、今後はそれらの情報資産を活用し、いか に高度利用出来るかが大きなポイントとなる。 ICTを活用することで非常に付加価値の高い情報とすることが可能になってきていることから、当局としても 積極的にICTの活用を推進していくこととする。 5.3.2 ICT施策の方向性 「ICTによるこれまでの情報化によって蓄積された情報資産の高度利用」として、以下の2つの施策に取り 組んでいく。 (1) 安全運行に関する情報の蓄積と故障・事故の未然防止に向けた高度利用 これまで蓄積されている「事故・事故の芽」情報(データ)等から、日常業務に潜むトラブル・アクシデントの 『兆候』をICT を活用して発見・分析することにより、輸送の安全の水準の維持・向上を図り、重大事故の未 然防止に活用していく。 (2) 経営判断を支援するための情報の高度利用 局内の情報資産から得られる ヒト ・ モノ ・ カネ に関するあらゆる情報を、最新のICTを活用して分析し、 前項のお客さまからの声で得られた分析情報と併せて、組織運営・経営判断に活かせるよう支援していく。 21 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 6 章 推進にあたり 本章では、前章の3つのICT施策を確実に実施していく上で必要な体制整備やセキュリティ対策な どについて整理する。 6.1 推進体制の整備 6.1.1 ITガバナンス強化に向けた継続的な取組み (1) CIO機能の確立と統一的な当局のICT施策に向けて 企業におけるICT活用の目的は業務の効率化から、経営・事業戦略及び対外ビジネス分野へと大きくシフ トしており、経営や業務改革と一体化したIT関連予算の充実が企業の生産性の向上や競争力の強化につ ながることになる。 換言すれば、経営戦略とICT戦略の融合が重要な課題となっており、その課題の解決に向けて、CIO ※ (Chief Information Officer)には次に挙げるような機能が求められている。 経営戦略を理解した上で、ICT戦略を計画・立案すること、また、経営戦略実現の手段としてICT戦略 及びICTの重要性を経営層に認識させること 現状の業務プロセスを可視化することにより、業務間・部門間に存在する重複・非効率等の問題点を 指摘し、組織や業務プロセスの最適化を実現すること 複雑化・肥大化したシステムを再整備し、環境変化に柔軟に対応できるICT構造(アーキテクチャ)を 構築すること 確立された局IT-PMO体制をさらに充実させること ICT投資により期待される効果と経営課題を考慮したICT投資判断を行うこと、またその効果を定量化 すること IT人材を育成・活用すること 情報セキュリティ対策及び情報管理を強化すること これらのCIO機能を充実させるためには、CIOのもとに必要な情報とCIOをサポートできる人材を集めて、 CIOを中心としたマネジメント組織を形成させる、と同時に、CIOおよびCIO機能体をサポートする人材を育 成することが重要である。 (2) コスト適正化の進化とさらなる適正化の実現 IT関連の予算に関しては、その内容が曖昧でわかりにくく、積算根拠が不透明であること等から、経理部 門だけでの確認及び査定が困難であったことが、本市をはじめとした地方自治体全般において指摘されて いる。 22 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) これらを受けて当局においては、平成21年度より情報システム課がIT関連予算の審査を行い、経費の適 正化に努めてきた。 今後は、各システムの担当者等の教育を充実させ、IT関連予算の予算要求段階から適正な予算要求が 可能となるよう、一層の意識の向上を図っていくこととする。 6.1.2 当局のICT化を支える人材の計画的な育成 現在、情報部門において、情報システムの知識や経験のある人材が減少するとともに、外部事業者依存が 広がり、情報システムの不透明化を招く一因となっていることから、各情報システムに対する理解度の低下を はじめ、組織全体の今後の情報化に対する方向付けが曖昧になる等空洞化が進んでいる。 情報化に関しては、この数十年間にわたって様々なシステムが導入されおり、最近では、それらに対して 改めて費用対効果が問われる等、全体最適化が大きなテーマになっているにもかかわらず、その取組みも十 分に実施出来ていないのが実情である。 こういった状況から、様々な組織・企業において、数年前からITガバナンスへの取組みが活発化してきて いるが、ITガバナンスを確立させ、さらに定着させていくためには、情報部門自体の能力を高める、すなわち、 情報部門に所属する職員個々のスキルアップが前提となる。 このため、情報部門が局全体の情報化を強力に推進し、各担当所管の情報化案件も適切にリードしてい けるよう、IT人材の育成を図る。 6.2 今後の組織変革への適応 大幅な組織変革に対応していくため、現在保有している情報資産について可視化をいっそう推進してい く。 なお、今後、新規構築または再構築する情報システムに関しては、制度や業務の変更に応じてアプリケー ションを修正(改修)する際には、より柔軟に耐えうる仕組みとしていく。 6.3 セキィリティ対策の充実 6.3.1 ICT業務継続計画の整備 災害や事故などの緊急事態が発生した際、市民生活や経済活動に大きな支障が生じることが予想される。 よって特定の重要な業務を中断させない、または万一活動が中断した場合でも早期に再開し、業務の中断に よるロスを最小化することが求められる。特に公共性の高い当局の業務においてはリスクマネジメントが重要で ある。 業務継続のためにICTは不可欠であるが、ICTには災害等の事態だけではなくハードウェア障害、ネットワ ーク障害、ソフトウェアのバグ、電源断、各種誤作動、人為的操作ミス、サイバー攻撃による誤作動等も業務継 続を妨げる要因となりうることから、これらに対する取り組みもICT業務継続計画には必要となる。 業務継続のために策定する計画としてリスクと影響の洗い出し、継続すべき業務等の絞り込みを行い、資 源制限下における復旧計画、システム障害への対応体制や復旧訓練等の詳細について整備を行う。 23 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 6.3.2 外部機関による規格認証取得の検討 情報セキュリティの確保は、市民・お客さまの財産、プライバシーを守り、サービスを安全かつ確実に提供し ていくために必要不可欠なものであり、さらには市民・お客さまの信頼の維持・向上に寄与するものである。 外部機関による規格認証の取得は、PDCAサイクルを継続するために、適切な管理体制の構築、リスク分析 からリスク評価まですべてのプロセス構造の確立、定期的な見直しを実施して、その対策及び実施の体制等 を柔軟に改善することを目的とするものであり、そのメリットとして、機密性、完全性、可用性をバランスよく維持 することにより情報セキュリティレベルの向上が期待できることや、情報資産の重要度に応じて必要な対策をと り、維持・監視することで、重要な情報資産をリスクから守り機密情報の漏洩を未然に防止することが可能とな る。 また、市民・お客さま等が安心して取引のできるような情報セキュリティの構築と対策を行っていることにより、 当局に対する社会的・倫理的信頼感が高まることとなることから、取得に向けて検討していく。 6.4 環境への配慮 6.4.1 グリーンICTの積極的な推進 地球温暖化が大きな問題となっている中、ICT機器が環境に与える影響は無視できなくなっている。当局 においても、環境に配慮したICT機器調達ルールの整備を策定し、ICT機器の省エネ化やICTを活用した CO2排出量の削減を図るなど、グリーンICT※による環境負荷低減を積極的に推進していく。 6.4.2 ICTを利用したペーパーレス化の推進 ICTを活用することで紙の使用量を削減し、資源やスペースの節約を推進していく。 6.4.3 CO2排出量の削減 サーバ機器等を効果的に統合することで、エネルギー効率の向上や消費電力量を削減し、CO2排出量の 削減を図っていく。 24 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 参考 資料 用語解説 本編に記載される各用語についての解説をアルファベット順、50音順にて記載 アルファベット順 【Application Service Provider】 ASP ビジネス用のアプリケーションソフトをインターネットを通じて顧客にレンタルする事業者のこと。ユーザは Webブラウザ※などを通じて、ASPの保有するサーバにインストールされたアプリケーションを利用する。 【Chief Information Officer】 CIO 企業において自社の経営理念に合わせて情報化戦略を立案、実行する責任者のこと。企業内の情報 システムや情報の流通を統括する担当役員が多い。 情報システムを導入する際に、導入企業のビジネスプランやニーズと、システムの機能性がどれだけ適 Fit&Gap 合(フィット)し、乖離(ギャップ)が生じるかを分析すること。パッケージソフトウェアを導入する際の意思決 定や、業務プロセスの変更、情報システムのカスタマイズの必要性などを検討するために用いられる。 ICT 【Information and Communication Technology】 情報(information)や通信(communication)に関する技術の総称のことである。 【Integrated Circuit Card】 ICカード キャッシュカード大のプラスチック製カードに極めて薄い半導体集積回路(ICチップ)を埋め込み、情報を 記録できるようにしたカードのこと。電子マネーなどに応用されている。ICカードは磁気カードに比べて 100倍近いデータを記録でき、データの暗号化も可能なため偽造にも強い。 ITガバナンス 【IT governance】 企業などが自社の情報システムの導入や運用を組織的に管理する仕組みのこと。 【Local Area Network】 LAN ケーブルや無線などを使って、同じ建物の中にあるコンピュータや通信機器、プリンタなどを接続し、デ ータをやり取りするネットワークのこと。 【Operating System】 OS キーボード入力や画面出力等の入出力機能やディスクやメモリの管理など、多くのアプリケーションソフ トから共通して利用される基本的な機能を提供し、コンピュータシステム全体を管理するソフトウェア。 PDCAサイクル 業務プロセスの管理手法の一つで、計画(plan)→実行(do)→評価(check)→改善(act)という4段階の活動 を繰り返し行なうことで、継続的にプロセスを改善していく手法のこと。 【Project Management Office】 PMO いくつものプロジェクトが実施されるような大企業などに置かれ、社内のプロジェクトマネジメント方式の 標準化や研修などを通じての普及、プロジェクトの管理業務の支援、プロジェクト間の調整などを行う。 【Transmission Control Protocol/Internet Protocol】 TCP/IP インターネットやイントラネット※で標準的に使われ、ネットワークを介してコンピュータ同士が通信を行う 上で、相互に決められた約束事の集合のこと(通信手順、通信規約など)。 USB 【Universal Serial Bus】 キーボードやマウス、ジョイスティックなどの周辺機器とパソコンを結ぶデータ伝送路の規格のこと。 インターネット上で公開されているWebページ(Webブラウザに一度に表示されるデータのまとまりで、テ Webサイト キストデータやHTMLによるレイアウト情報、文書中に埋め込まれた画像や音声、動画などから構成され る。)がひとまとまりに公開されているWebページ群のこと。 Webフィルタリング Webブラウザ アプリケーションソフトを用いてWebページの内容をチェックし、有害と思われるページへのアクセスを防 止すること。 Webページを閲覧するためのアプリケーションソフトのこと。インターネットからHTMLファイルや画像ファ イル、音楽ファイルなどをダウンロードし、レイアウトを解析して表示・再生する。 25 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) あ行 インターネット ネットワークを介してコンピュータ同士が通信を行う上で、相互に決められた約束事の集合(TCP/IP※)を 用いて全世界のネットワークを相互に接続した巨大なコンピュータネットワークのこと。 イントラネット インターネット標準の技術を用いて構築された企業内ネットワークのこと。 インフラ システムや事業を有効に機能させるために基盤として必要となる設備や制度などのこと。 オープンシステム 様々なメーカーのソフトウェアやハードウェアを組み合わせて構築されたコンピュータシステムのこと。 通信回線などを使ってネットワークやメインフレームに接続されている状態のこと。対義語は「オフライン」 オンラインシステム (offline)。稀に、通信やネットワークとは関係なく、「即座に対応できる」「状況に即して提供される」「コン ピュータ上でできる」などの意味で用いられる場合もある。 か行 基幹系システム グリーンICT 企業の情報システムのうち、業務内容と直接に関わる販売や在庫管理、財務などを扱うもの。あるいは、 単に、業務やサービスの中核となる重要なシステムのこと。 省電力化など、地球環境への負荷を低減できるIT関連機器やITシステムなどの総称のことである。ま た、ITを活用することで地球環境への負荷を低減する取り組みを指す場合もある。 コミュニティ型Webサイ 関心や興味を共有する人々があつまる、情報交換などのコミュニケーションを中心としたWebサイトのこ ト と。 さ行 サーバ コンピュータネットワークにおいて、クライアントコンピュータに対し、自身の持っている機能やデータを提 供するコンピュータのこと。 情報システムのライフ ソフトウェアの構想・設計から開発、導入、運用、保守、破棄に到るまでの工程全体のこと。また、それら サイクル の工程について個々の作業内容、用語の意味などを標準化した枠組みのこと。 ストレージ コンピュータ内でデータやプログラムを記憶する装置のこと。ハードディスクやフロッピーディスク、MO、 CD-R、磁気テープなどがこれにあたる。 インターネット上で展開される個人による情報発信や個人間のコミュニケーション、人の結びつきを利用 ソーシャルメディア した情報流通などといった社会的な要素を含んだメディアのこと。電子掲示板(BBS)やブログから、Wiki やSNS、動画共有サイト、動画配信サービス、ショッピングサイトの購入者評価欄などが含まれる。 た行 コンピュータ製品の分類の一つで、板状の筐体の片面全体が指で触れて操作できる液晶画面(タッチパ タブレット端末 ネル)になっているタイプのもの。OSや機能などがスマートフォンと共通している製品がほとんどで、画面 の広いスマートフォンとみなすこともできる。 データウェアハウス 時系列に蓄積された大量の業務データの中から、各項目間の関連性を分析するシステムのこと。従来 の単純な集計では明らかにならなかった各要素間の関連を洗い出す。 顧客のサーバを預かり、インターネットへの接続回線や保守・運用サービスなどを提供する施設。データ データセンター センターは耐震性に優れたビルに高速な通信回線を引き込んだ施設で、自家発電設備や高度な空調 設備を備え、IDカードによる入退室管理やカメラによる24時間監視などでセキュリティを確保している。 データベース 複数のアプリケーションソフトまたはユーザによって共有されるデータの集合のこと。また、その管理シス テムを含める場合もある。 な行 ナレッジマネジメント ネットワーク 個人の持つ知識や情報を組織全体で共有し、有効に活用することで業績を上げようという経営手法のこ と。 通信するために複数の要素が互いに接続された網状の構造体のこと。ネットワークを構成する各要素の ことをノード、ノード間をつなぐ線のことをリンクと言う。 は行 企業の基幹業務システムなどに用いられる大型のコンピュータシステムのこと。電源やCPU、記憶装置 汎用機 26 を始めとするほとんどのパーツが多重化されており、並列処理による処理性能の向上と耐障害性の向上 が図られている。「汎用コンピュータ」「大型機」「大型コンピュータ」などとも呼ばれる。 情報化推進指針(平成 24∼平成 27 年度) 複数のコンピュータやプロセッサを利用して、分散して計算処理を行うこと。1台のコンピュータに多数の 並列分散処理 プロセッサを搭載して処理する方法と、ネットワークを通じて複数のコンピュータを結びつけて処理する 方法の2種類に大別できる。 製品を販売する会社。製品のメーカーや販売代理店のこと。ある特定の企業の製品だけでシステムを ベンダー 構築することを「シングルベンダ」、複数の企業の製品を組み合わせてシステムを構築することを「マルチ ベンダ」という。 ネットワークを介して別の機器やコンピュータにサービスや処理能力などを提供するコンピュータのこと。 ホストコンピュータ 提供を受ける側の機器やコンピュータのことは「端末」「ターミナル」あるいは「クライアント」などと呼ばれ る。 ホスピタリティ 心のこもったもてなし、手厚いもてなしのこと。また歓待の精神のことも言う。 各用語説明は次のWebサイトを参考に記載 IT用語辞典e-Words(http://e-words.jp/) atmarkIT(http://www.atmarkit.co.jp/) デジタル大辞泉 (http://kotobank.jp/dictionary/daijisen/) 27