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平成13年度 内航船用エンジン排ガス浄化 システムの調査研究報告書

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平成13年度 内航船用エンジン排ガス浄化 システムの調査研究報告書
助成
平成13年度
内航船用エンジン排ガス浄化
システムの調査研究報告書
平成14年3月
財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団
はじめに
本報告書は、競艇公益資金による日本財団の助成事業として平成9年度から2年
間実施した「小型内航船エンジン排ガス浄化触媒の調査研究」事業の成果をもとに、平
成 12 年度および平成13 年度に実施した「内航船用エンジン排ガス浄化システムの調
査研究」事業の成果を取りまとめたものである。
地球の温暖化、フロンによるオゾン層の破壊、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物
(SOx)による大気汚染などの環境問題が地球規模で顕在化してきた。このような
状況のなかで国際海事機関(IMO)における海洋環境保護委員会(MEPC)は、
船舶からの排ガス規制を取り入れることに同意し、1997年のMEPCにおいて
「船舶からの大気汚染防止のための規則」が採択された。これにより、海洋汚染防止
のための規定に加えて、船舶からの大気汚染物質の排出抑制についても初めて国際的
な規定が設けられ、船舶からの大気汚染物質の低減は世界的に取り組まなければなら
ない問題になっている。
このような状況に鑑み、当財団では舶用ディーゼル機関のNOx 低減技術として、
多孔燃料噴射、燃料・水層状噴射及び選択接触還元(SCR)等のNOx 低減技術の
開発を実施してきた。特に小型内航船用排ガス脱硝技術については、触媒を用いたS
CR方式の有効性が示されているが、排ガス温度が低い出港時には触媒が有効に働か
ない等の問題がある。本事業では、従来型の脱硝触媒の問題点である出港時の問題を
解決する方法として「吸着剤−選択還元触媒」の複合化による新しい脱硝触媒システ
ムの調査研究を行い,小型舶用ディーゼル機関を用いた実証試験の結果から、本シス
テムにより実排ガスにおいても広い温度範囲でNOx の除去が可能であることが実証
できた。本事業の成果が今後の船舶の脱硝技術開発のための新しい道しるべとなれば
幸いである。
本事業は、八嶋建明東京工業大学名誉教授を委員長とする「内航船用エンジン排ガ
ス浄化システムの調査研究委員会」の各委員の熱心なご審議による他、多くの関係者
の方々にご協力をいただき実施されたものであり、これらの方々に対して心から感謝
の意を表する次第である。
平成14年3月
財団法人シップ・アンド・オーシャン財団
会長
秋山
昌廣
内航船用エンジン排ガス浄化システムの調査研究委員会委員名簿
(順不同、敬称略)
<委員>
委員長
八嶋
建明
東京工業大学
名誉教授
財団法人地球環境産業技術研究機構
委
員
新井
雅隆
群馬大学
塚本
達郎
東京商船大学
動力システム工学講座
中島
康晴
独立行政法人
海上技術安全研究所
主席研究員
工学部機械システム工学科
燃焼伝熱研究室
丹羽
幹
松田
敏志
鳥取大学
助教授
機関動力部
研究員
工学部物質工学科
株式会社新潟鐵工所
技術部
教授
教授
原動機カンパニー
開発グループ
次長
<関係者>
石川
正道
株式会社三菱総合研究所
科学技術研究本部
先端科学研究所長
余語
克則
株式会社三菱総合研究所
先端科学研究所
本多
克也
科学技術研究本部
主任研究員
株式会社三菱総合研究所
先端科学研究所
科学技術研究本部
主任研究員
<事務局>
柴崎
治生
財団法人
シップ・アンド・オーシャン財団
常務理事
福井
義人
財団法人
業務統括部
シップ・アンド・オーシャン財団
菅原
善則
財団法人
部長
業務統括部
シップ・アンド・オーシャン財団
部長代理
成果概要
IMO による国際的な船舶排ガス規制強化の流れの中で、近い将来には我が国におい
ても船舶への排ガス規制が強化されることは必至である。これまでに船舶の排ガス浄
化に関してはアンモニアあるいは尿素による選択接触還元法(Selective Catalytic
Reduction:SCR)の有効性が示されているが、従来型の脱硝触媒では、排ガス温度が低
い出港時には触媒が有効に働かない等の問題点がある。環境省の調査によれば、東京
湾において船舶から排出される大気汚染物質は SOx については約 55%が。NOx につい
ては約 62%が停泊中に発生していると推計されている。
そこで本調査研究では、従来型の脱硝触媒の問題点である出港時の問題を解決する
方法として,「吸着剤−選択還元触媒」の複合化による新しい脱硝触媒システムの調査
研究を行い,小型内航船用ディーゼルエンジンの脱硝システムの性能改善をることを
目的とした。ハニカム成型した吸着材と脱硝触媒を充填しうる小型のテストプラント
を製作し、舶用ディーゼルエンジン排ガスの一部を導入して、浄化試験を行った結果、
低温時に排出される NOx のおよそ 80%が吸着除去可能であることが示された。本年度
までの結果から「吸着剤−脱硝触媒システム」の有効性が明らかとなり、低硫黄重油を
用いた場合には十分に実用可能なシステムであることが実証できた。また、本調査研
究の成果をもとに「船舶からの排気ガスの浄化方法および浄化装置」として特許出願
(特願 2001-95372)も行った。このような選択還元法と吸着剤を複合化した新しい触
媒システムの実用化ができれば、近年特に問題となっているエンジンの始動時に排出
される有害物質の低減が可能になると考えられる。
本調査研究ではアンモニアあるいは尿素水を用いる選択還元触媒と併用すること
を前提に開発を行ってきた。しかし、アンモニア選択還元法は最も技術的にも確立さ
れたプロセスではあるが、還元剤によるコスト増加などの課題点も残されている。本
調査研究の成果は、船舶の排ガス浄化において、アンモニア脱硝法に限らず「触媒」を
利用するシステム全てに共通する基盤技術であり、本研究開発で得られた知識は、炭
化水素 SCR 等の新しい触媒技術を適用する際にも不可欠なノウハウとなる。今後、さ
らに研究開発が進み低温域での NOx の吸着機能と高温度域での分解機能の2つの機能
を有する触媒システムが開発されれば理想的な脱硝システムとなるであろう。
また、本研究で開発した新しいシステムは例えば東京湾内を航行する内航船など
の出港時の NOx の低減を可能とするシステムであり、港湾付近で排出される NOx の低
減に寄与するものである。以上のことから、今回の調査研究の成果は当初の目的を充
分に達成できたものと確信する。
以上
平成13年度「内航船用エンジン排ガス浄化システムの調査研究」事業
報告書目次
はじめに
委員名簿
成果概要
第1章
事業の概要 ................................................ 1
1.1 事業の目的 ..............................................
1.2 事業の実施内容 ..........................................
1.2.1 委員会の開催 ......................................
1.2.2 実施項目 ..........................................
1.3 事業の実施体制 ..........................................
1.4 事業の実施方法 ..........................................
1.5 事業の実施スケジュール ..................................
1.6 事業の開始および完了の時期 ..............................
第2章
1
2
2
3
3
4
6
6
2.1
2.2
2.3
2.4
システム運用に関する前提条件 ............................... 7
第3章
目的 .................................................... 7
船舶排ガス浄化における課題点 ..............................7
内航船の定義と航行条件 ................................ 10
小型内航船のモデル航行パターンとシステム作動イメージ ... 20
3.1
3.2
3.3
3.4
3.5
モデル排ガスによるシステムの機能評価 ..................... 24
目的 ...................................................
モデル排ガス試験用評価装置の作製 .......................
吸着剤および脱硝触媒の調製方法 .........................
評価方法 ...............................................
生成ガスの分析方法 ......................................
24
24
30
39
40
3.6 2層式反応によるシステムの有効性の検証 ...................... 42
3.7 試作ハニカム性能評価結果 ................................ 46
3.8 まとめ .................................................. 48
第4章
実排ガスによるシステムの機能評価 ......................... 49
4.1 目的 ................................................... 49
4.2 排ガス浄化試験用脱硝システムの設計・製作 ............... 49
4.3 吸着剤および脱硝触媒の作製方法 .......................... 60
4.4 評価方法 ............................................... 66
4.5 吸着性能評価 ............................................70
4.6 脱硝システムの有効性の検証 .................................. 79
4.6.1 試験概要 .......................................... 79
4.6.2 定常ガス導入時の性能評価 .......................... 79
4.6.3 負荷変動時の脱硝システム性能評価 .................. 81
4.6.4 耐久性の評価 ...................................... 86
4.7 まとめ .................................................. 87
第5章
まとめ ..................................................
参考文献
参考資料
(1)主な SCR 搭載船の事例
(2)ハニカム製造工程
(3)用語集
88
第1章
1.1
事業の概要
事業の目的
これまでのシップ・アンド・オーシャン財団の調査結果によると、我が国に
おける窒素酸化物(NOx)の全排出量は年間 2,523,000 トンと推定されるが、船
舶からの排出割合はこのうちの約 37.5%にも達すると考えられるため、船舶か
らの排ガス浄化システムの開発は急務である(平成 10 年度「船舶排ガスの地球
環境への影響と防止技術の調査」報告書、シップ・アンド・オーシャン財団.
[1])。このような背景のもと国際海事機関(IMO)における海洋環境保護
委員会(MEPC)は、船舶からの排ガス規制を取り入れることに同意し、1
997年のMEPCにおいて「船舶からの大気汚染防止のための規則」が採択
された。
燃焼機関からの排ガス浄化法としては触媒を用いた後処理が有効であり、こ
れまでに種々の排ガス浄化に接触還元除去法が実用化されている。船舶の排ガ
ス浄化においてもこれまでにアンモニアあるいは尿素による選択接触還元法
(Selective Catalytic Reduction:SCR)が検討され、その有効性が示されてい
るが、装置搭載によるコスト増加、還元剤の搭載場所や供給体制、負荷変動へ
の対応など、種々の問題があり、国内では実用化には至っていない。また、海
外ではフェリー等、一部の地域で脱硝装置を搭載した船舶が就航しているもの
の、発電所等の陸上で採用されている従来型の触媒では、排ガス温度が低い出
港時には触媒が有効に働かない等の問題点がある。
本調査研究では、従来型の脱硝触媒の問題点である出港時の問題を解決する
方法として,「吸着剤−選択還元触媒」の複合化による新しい脱硝触媒システ
ムの調査研究を行い,小型内航船用ディーゼルエンジンの脱硝システムの性能
改善を図り,我が国造船技術および造船関連技術の向上に資することを目的と
する。
1.2
事業の実施内容
1.2.1
委員会の開催(4回開催)
開催日および主な審議事項
○第1回 平成13年5月22日(火)
・平成13年度事業計画
・平成13年度事業実施計画(案)
○第2回 平成13年9月14日(金)
・進捗報告
排ガス試験浄化用装置の概要と機能
吸着剤および脱硝触媒ハニカムの作製状況
予備試験の実施状況
・今後の進め方
○第3回 平成13年12月5日(水)
・進捗報告
排ガス試験浄化用装置の概要と機能(実施場所にて説明)
吸着剤ハニカムの分析結果
排ガス浄化試験の実施状況
・今後の進め方
○第4回 平成14年3月1日(金)
・「内航船用エンジン排ガス浄化触媒の調査研究」
報告書(案)
1.2.2
実施項目
本調査研究では、出港時等の触媒入口温度が低い条件では従来型の脱硝触媒
が十分に作動しないという問題を解決する方法として、「吸着剤−選択還元触
媒」の複合化による新しい脱硝触媒の調査研究を実施した。
そこで本年度は、これまでの基礎研究成果を元に、船舶への搭載を考慮した
触媒システムのとしての小型のテストプラントの設計・および実証試験(地上
試験)を行った。具体的な開発内容は以下の通りである。
(1)装置設計/製作
・舶用ディーゼルエンジン排ガスの一部を導入し、浄化試験を行うための装
置の設計および製作。
(2)基礎特性試験
・模擬ガスを用いた吸着性能評価
・模擬ガスを用いたシステムの有効性の検証
(3)実証試験
・製作した装置を用いた小型ディーゼルエンジンの実排ガスによる機能特性
評価(東京商船大学内燃機関工学実験室にて実施)。
①ハニカム成形体(吸着剤、脱硝触媒)の作製
②吸着性能評価
③実排ガス浄化性能試験によるシステムの有効性の検証
④共存物質による被毒影響等評価
(4)とりまとめ
・成果とりまとめ
1.3
事業の実施体制
財団法人シップ・アンド・オーシャン財団に本事業を円滑に運営するため、
委員会を設置し、実施計画を策定のうえ、実施するとともに、実務的な開発研
究業務については㈱三菱総合研究所が実施した。委員会は前出の委員会名簿に
掲げる委員をもって構成され、委員会が計4回開催された。
1.4
事業の実施方法
調査は前項の調査内容を以下の手順によって実施した。なお、専門家によ
る委員会を設置し、進捗を評価した。
平成12年度:吸着システムの基礎特性研究/装置設計・製作
(1)粉体における基礎特性試験(SO2 の影響評価)
・吸着阻害の程度の影響
・排出される SO2 および SO3 の濃度計測
システム設計に反映
(2)装置設計・製作
・ハニカム試験用装置の作製
(3)ハニカム試験
・成形品の試作
・試作品の性能評価
試験用ハニカムの作製に反映
・ハニカム成型体の作成
・性能評価
平成13年度:地上実証試験
(4)装置設計・製作
・実排ガス導入機構を備えた装置の作製
(5)実証試験およびとりまとめ
・ハニカム成形体(吸着剤、脱硝触媒)の作製
・吸着性能評価
・吸着材−SCR 触媒シスの有効性の検証
・共存物質による被毒影響等評価
図 1.4-1 研究開発のフロー
平成12年度:基礎試験
①吸着剤のハニカム化・基礎試験による性能確認
②最適な浄化システムの設計
成型して目詰
を防止する
試験用ハニカム(左:担体写真、右:吸着剤塗布イメージ)
平成13年度:舶用小型エンジン排ガスによる実証試験
①装置製作(ハニカム・排ガス導入機構、計測系等)
②システムの性能試験
③調査研究成果の取りまとめと、実船搭載上の課題点の抽出
加熱制御系
流量制御系
SOx
NOx
HC
CO2
脱硝触媒
N2
H2O
還元剤供給機構
ガス導入
排ガス導入ライン
吸着材
ハニ
カム
計測系
試験用舶用ディーゼルエンジン
濃度計測
入口
出口
濃度
(ppm)
時間、位置
図 1.4-2 平成 13 年度試験の位置付け
温度
NOx濃度
1.5
事業の実施スケジュール
表 1.5-1
実施スケジュール
平成13年度
実証試験(地上)
年度・時期
1/4
2/4
3/4
4/4
実施項目
▽
委員会開催
(1)装置設計・製作
・詳細設計/設置場所の検討
・装置製作、セッティング
・燃料・標準ガス等手配
(2)実証試験
・排ガス基礎データ取得
・ハニカム作製
・吸着性能評価
・システム有効性の検証
・被毒影響・耐久性等評価
(3)とりまとめ
・課題抽出、報告書作成
1.6
開始
終了
事業の開始および完了の時期
平成13年
平成14年
4月 1日
3月31日
6
▽
▽
▽
事業内容承
進捗報告
進捗報告
報告書審議
認
(装置作製
(試験実施
とりまとめ
状況等)
状況)
第2章
2.1
システム運用に関する前提条件
目的
本調査研究では「吸着剤−選択還元触媒」の複合化による新しい船舶排ガス浄
化システムにより、広い温度範囲で高効率に排ガスを浄化することを目的とし
ている。本報告書でも後述するように、模擬排ガスを用いた浄化試験では本シ
ステムにより極めて高効率で NOx を除去可能であり、最適なシステムを設計で
きれば十分に実用可能でることが検証されている。
ここでは吸着剤のメリットを生かして本システムを最も有効に作動させるシ
ステムの設計に反映させることを目的として、適用しうる船舶排ガスの性状お
よび航行パターンについて調査を行い、最適システム構成について検討を行っ
た。
2.2
船舶排ガス浄化における課題点
図 2.2-1 排気ガス温度が NOx 除去率に及ぼす影響
(出典:野村宏次著、「舶用燃料の科学」、P177、成山堂書店、(1994))
7
図 2.2-1 に示すように、従来型のアンモニア脱硝用触媒では、触媒が有効に
作用する温度が 300℃以上であり、現状の技術開発の事例では触媒温度が 300℃
以上に達してから還元剤の噴射を開始している。300℃以下の温度では全く脱
硝を行っていない。したがって、触媒層の温度が低い始動時、停泊中、あるい
は離岸してすぐに港湾中を航行している時には、図 2.2-2 に示すように高濃度
の NOx が排出されることになる。これが、最近の港湾付近の大気中の NOx 濃度
の増加の一因と考えられる。
また、環境省の調査によれば、東京湾において船舶から発生する大気汚染物
質は SOx については約 55%が、NOx については約 62%が停泊中に発生してい
ると推計されている。(図 2.2-3)
そこで、本研究では従来型の脱硝触媒の課題点である出港時に有効に機能す
る新しい脱硝触媒システムを開発する。具体的には、従来システムでは出港時
のエンジン機関の低温時に多量に排出してしまう窒素酸化物について、その排
出濃度をシステムとして低減させることを目的とする。
排ガス(触媒層)温度/℃
出
港
定
常
航
行
入
400
脱硝触媒:有効
300
200
脱硝触媒:除去率が著しく
100
0
20
100
120
航行経過時間/分
図 2.2-2
船舶の航行状態と脱硝触媒の有効な範囲
8
航行中
停泊中
35,000
排出量︵t/年︶
30,000
11,600
25,000
20,000
15,000
8,800
18,800
10,000
5,000
0
10,900
SOx
NOx
図 2.2-3 東京湾における停泊中・航行中に排出される大気汚染物質の推計
(出典:「船舶から排出される大気汚染物質の削減方法について」中間報告、環
境省(1995).)
9
2.3
小型内航船の定義と航行条件
(1)はじめに
試験を行うにあたり、想定する内航船のサイズ、航行パターンを精緻化し、
実験条件の設定に反映することを目的として、日本内航海運組合総連合会(永
田町:船舶会館内)におけるヒアリングと資料入手、および船主協会他の統計
データの調査を行った。
(2)内航船の船型別船腹量
内航船腹量は平成 11 年 3 月 31日現在 7,925 隻、392 万 2,562 総トンにのぼ
っている。内航船腹量を船型別構成でみると 200 総トン数未満が隻数比で過半
数の 53.4%を占めている。しかし、船型の大型化が年々進み内航船舶全体の平
均総トン数は 10 年前に比べ 27.6%の増加となっている。
一般的に、小型内航船と定義されるのは総トン数 499 トン以下の船のことで
ある。その中でも特に 199 トン以下の小型船は全内航船船腹数の 50%以上を占
める。したがって、主に本研究では 199 トン以下クラスへの適用を前提として、
システムの運用条件を設定する。
表 2.3-1
船型別船腹量*
船型(G/T)
隻数(構成比%) 総トン数(G/T)
∼99
2,198 (27.7)
75,454 (1.9)
100∼199
2,032 (25.6) 358,404 (9.1)
小型内航
200∼299
355 (4.5)
92,988 (2.4)
300∼399
333 (4.2) 117,399 (3.0)
400∼499
1,560 (19.7) 756,033 (19.3)
500∼699
543 (6.9) 363,653 (9.3)
700∼999
294 (3.7) 254,126 (6.5)
1,000∼1,999
237 (3.0) 350,654 (8.9)
2,000∼2,999
141 (1.8) 384,927 (9.8)
3,000∼4,999
128 (1.6) 470,830 (12.0)
4,500∼6,499
69 (0.9) 363,458 (9.3)
6,500∼
35 (0.4) 334,636 (8.5)
合計
7,925(100.0) 392,2562(100.0)
平均
388
495
(「内航海運の現状」1999 日本内航海運組合総連合会)
*
フェリー等の旅客船は含まず
10
(3)内航船の船種別船腹量
船種別には土・砂利・石材専用船および自動車専用船を除いたその他の貨物
船が隻数比で 59.1%総トン数比で 41.3%を占めている。また油送船は隻数比で
19.1%総トン数費で 23.1%となっている。平均総トン数では自動車専用船が
3,826 総トンと最も大きく、これにセメント専用船の 2,251 総トンが続き油送船
は 599 総トンその他の貨物船は 346 総トンである。(表 2.3-2)
また、表 2.3-3 に示すように、旅客船は平成 10 年4月1日現在で 2,516 隻と
なっている。
表 2.3-2
船種
内航船の船種別船腹量
隻数
総トン数(G/T)
990
土・砂利・石材専船
467,550
62
自動車専用船
237,195 [3826]
4,684
その他の貨物船(コンテナ、
[472]
1,618,792
[346]
石炭、石灰石、RORO など)
198
セメント専用船
貨物船計
油送船
特殊タンク船
合計
445,736 [2251]
5,934
1,516
2,769,273
907,931
[467]
[599]
475
245,358
[517]
7,925
3,922,562
[495]
(「内航海運の現状」1999 日本内航海運組合総連合会)
[ ]内は平均総トン数(平成 11 年 3 月 31 日現在)
表 2.3-3
船種
国内旅客航路事業の概要
隻数
総トン数(G/T)
特定旅客定期航路
1,245
15
旅客不定期航路
1,256
52,671
2,516
449
1,392,982 [554]
1,232,361 [2,745]
一般旅客定期航路
計
うちフェリー
1,339,673
[1,076]
638 [43]
[42]
(「海運統計要覧」1999 社団法人日本船主協会)
[ ]内は平均総トン数(平成 10 年 4 月 1 日現在)
11
(4)内航船の航行距離
小型内航船の航行パターンは個々の事例によってかなり異なり、航行時間も
数十分∼1日と幅広い。そこで東京湾内の内航船の航行事例をもとに、港湾内
を航行する内航船のモデル航行パターンの検討を行うこととした。
表 2.3-4、5 に示すように、環境省が実施した「船舶排出大気汚染物質削減手
法検討調査」の中で東京湾エリアにおける港湾間の距離と航行時間の推定が行
われている。この調査では表示された航行距離間を航行する船舶の運転モード
を負荷率の異なる5ランクに分類し、それぞれのモードにおいて想定される航
行距離から港湾間の運転時間および平均負荷率を推定している。
これらのデータから港湾間の航行距離は 10km から 40km 程度の範囲内であ
り、
航行時間は 43 分から 125 分程度の航行時間と推定できる。
また、東京都環境保全局が実施したヒアリング調査によれば、東京湾内にお
いてタグ作業を行う曳船の1作業あたりの平均航行時間は 119 分となっている。
(船舶に係る大気汚染物質排出実態調査、東京都環境保全局 平成 3 年)
12
表 2.3-4
東京湾エリア港湾間航行距離
千葉
木更津
浜金谷
東京
川崎
横浜
横須賀
第二海堡
--
32
39
27
27
32
42
37
千葉
--
16
32
19
19
24
19
木更津
--
39
24
19
13
10
浜金谷
10
19
29
40
37
東京
--
10
21
23
川崎
--
19
16
横浜
--
10
横須賀
(単位:km)
表 2.3-5
東京湾エリア港湾間における推定航行時間
千葉
木更津
浜金谷
東京
川崎
横浜
横須賀
第二海堡
--
1.75
54.6
1.93
63.5
0.99
43.1
1.64
43.6
1.84
49.1
1.47
56.6
1.13
46.9
1.67
60.2
1.13
46.9
2.07
64.7
1.33
53.5
1.84
63.4
1.10
48.2
--
2.02
58.8
1.25
60.9
1.05
56.2
0.78
44.3
0.65
32.3
浜金谷
0.71
23.2
1.22
37.7
1.62
51.8
2.08
59.7
1.92
58.6
東京
--
0.65
32.3
1.11
58.0
1.18
59.6
川崎
--
1.05
56.2
0.91
51.4
横浜
--
0.65
32.3
横須賀
--
上段:航行時間(時間)
下段:推定平均負荷率(%)
千葉
木更津
(出典:「船舶排出大気汚染物質削減手法検討調査」報告書、環境庁 平成5年)
13
(5)小型内航船の使用燃料
表 2.3-6 に示すように、小型貨物船、油送船における使用燃料はA重油が
最も一般的である。また、内航船の船種類別燃料の調査事例を表 2.3-7∼9 に示
す。この調査は日本内航海運組合層連合会参加の5組合所属の 3,129 隻に対し
て行われたアンケート結果である。これらの表をみると、1,000 馬力以下の貨
物船では A 重油を使用する船舶が多く、90%程度であるのに対し、2,000 馬力以
上の船舶では逆にほとんどが C 重油を用いている。内航船舶の専用船に関して
は 1,000 馬力以下ではほとんどが A 重油を使用しており 2,000 馬力以上では A、
B、C 重油の割合がほぼ同程度となっている。C 重油の使用割合が高いものは
5,000 馬力以上である。油送船に関しても同様に大型船ほど C 重油の使用割合が
高い傾向にある。
これらの事例から、本調査研究で対象とする 499 トン以下クラス、特に 199
トンクラス程度の船舶はほとんどが A 重油を使用していることが推定できる。
表 2.3-6
日本国内における燃料種類別燃料消費量(推定値:1996 年)
単位:103t
産業・船種・船型
ガソリン
区分
内
航
貨物船
油送船
貨
物
大型
小型
小計
特大
大型
小型
小計
旅客
タグボート
その他
計
魚業
レジャー
合計
灯油
燃 料
軽油
種 別
A 重油
B 重油
C 重油
合計
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
398
72
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
5
5
125
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
‐
186
‐
13
199
894
‐
181
780
961
38
42
306
386
311
95
‐
1,752
2,407
‐
32
49
181
2
3
20
25
17
‐
‐
224
1
‐
879
279
1,159
179
195
105
479
1,460
‐
‐
3,098
18
‐
1,092
1,209
2,301
219
240
432
890
1,974
95
18
5,278
3,842
72
470
130
1,092
4,159
225
3,116
9,193
注:表中数値は小数点以下四捨五入のため、合計値が一致しない場合がある。
(出典:平成 10 年度「船舶排ガスの地球環境への影響と防止技術の調査」報告書、
シップ・アンド・オーシャン財団.)
14
表 2.3-7
PS 別
500
隻数
貨物船における燃料消費量
油種
合計
A 重油(kl) B 重油(kl) C 重油(kl)
(kl)
未満
319
2,577
1
0
2,578
500∼1,000 未満
646
11,026
1,727
108
13,685
1,000∼1,500 未満
513
8,319
4,032
6,460
21,454
1,500∼2,000 未満
266
4,441
4,364
2,919
15,964
2,000∼2,500 未満
74
1,499
1,020
2,678
6,421
2,500∼3,000 未満
5
142
0
510
652
3,000∼5,000 未満
22
518
0
3,093
3,743
4
190
0
1,282
1,472
1,849
28,712
11,144
17,050
65,969
59.1
54.9
52.2
28.2
44.14
5,000
以上
小計
比率(%)
(内航船舶における燃料油種別需要調査報告書
表 2.3-8
PS 別
500
隻数
日本内航海運組合総連合会をもとに作成)
専用船における燃料消費量
油種
A 重油(kl) B 重油(kl) C 重油(kl)
合計
(kl)
未満
15
165
0
0
165
500∼1,000 未満
14
858
76
0
1,039
1,000∼1,500 未満
43
1,141
305
178
1,883
1,500∼2,000 未満
24
769
459
101
1,731
2,000∼2,500 未満
17
356
332
306
1,290
2,500∼3,000 未満
22
660
497
631
2,648
3,000∼5,000 未満
57
1,952
284
6,328
8,942
5,000
38
1,522
0
12,451
13,973
小計
260
7,423
1,953
1,995
31,671
比率(%)
8.3
14.2
9.1
33.0
21.19
以上
(内航船舶における燃料油種別需要調査報告書
15
日本内航海運組合総連合会をもとに作成)
表 2.3-9
PS 別
500
隻数
油送船における燃料消費量
油種
合計
A 重油(kl) B 重油(kl) C 重油(kl)
(kl)
未満
221
1,875
5
0
1,880
500∼1,000 未満
212
4,311
1,010
31
5,471
1,000∼1,500 未満
220
3,385
4,162
1,994
10,932
1,500∼2,000 未満
169
2,557
1,964
5,383
11,177
2,000∼2,500 未満
120
2,269
987
7,054
11,399
2,500∼3,000 未満
32
706
88
2,831
3,625
3,000∼5,000未満
46
1,066
58
6,208
7,332
0
0
0
0
0
1,020
16,169
8,274
23,501
51,816
32.6
30.9
38.7
38.8
34.67
5,000
以上
小計
比率(%)
(内航船舶における燃料油種別需要調査報告書
16
日本内航海運組合総連合会をもとに作成)
一方、燃料中に含まれる硫黄含有率は、国産 A 重油の硫黄含有率は最大 1.0wt%
程度であり、平均 0.5%程度と推定されている。(平成 10 年度「船舶排ガスの地球
環境への影響と防止技術の調査」報告書、シップ・アンド・オーシャン財団.)一
方、内航向け C 重油の硫黄含有率は日本内航海運組合総連合会の調査によると平均
2.3wt%程度とされている。
また、東京都環境保全局が東京港湾内に入出港する船舶の所有者に対して行った
ヒアリング調査結果によれば油種別の燃料性状は以下の表 2.3-10 に示す通りであ
り、平均値は 0.67wt%となっている。一般的に燃料中に含まれる硫黄分 1%は排ガ
ス中に含まれる SO2 濃度では 200ppm 程度に相当する。したがって、A 重油を燃料と
して用いた場合には、排ガス中におよそ 52∼230ppm の範囲(平均 134ppm)の SO2
が含まれることになる。実際に東京都環境保全局が実施した実測データを以下の表
2.3-11 に示す。標準的な A 重油を用いた場合には 120∼130ppm 程度の SO2 が排ガス
が含まれていることが判る。
表 2.3-10
東京港湾における船舶の燃料性状
項目
硫黄含有率(%)
比重
平均
MAX
MIN
0.8552
0.67
1.15
0.26
B 重油
0.9206
2.02
2.86
1.60
C 重油
0.9572
2.39
2.87
1.45
燃料種別
A 重油
(出典:船舶に係る大気汚染物質排出実態調査、東京都環境保全局 平成 3 年)
表 2.3-11
テスト機関概要
4サイクル
負荷率
舶用ディーゼル排ガス実測値
出力
回転数
NOx 濃度
SO2 濃度
残存酸素
定格出力:1600PS
25%
50%
400
800
573
723
1,480
1,220
-123
13.1
12.4
定格回転数:910rpm
75%
1,200
827
1,060
128
12.6
100%
1,600
910
960
120
13.0
25%
150
840
500
64
14.4
定格出力:600×2PS
50%
300
860
520
61
14.3
定格回転数:900rpm
75%
150
880
520
69
13.8
100%
600
900
600
72
13.1
90.12 建造
4サイクル
86.3 建造
(出典:船舶に係る大気汚染物質排出実態調査、東京都環境保全局 平成 3 年)
*各エンジンを 30 分以上稼動させ暖気を行った後に測定。
17
(6)199 総トン船用エンジンの出力・排気量および排ガス性状
内航船舶明細書に示されている小型内航船の事例を表 2.3-12 に示す。代表的
な 199 トンクラスの主機関馬力は 200∼2,000ps とかなり幅広くなっており、船
種によってエンジン出力、種類が異なるため一義的に決めるのは困難であるが、
新潟鐵工所のこれまでの納入実績によると、貨物船、タンカー等は 735kw
(1,000ps)前後の出力が一般的となっている。
表 2.3-12
船名
199 トンクラスの内航船の事例
船種
総トン数
主機関
冨貴丸
〈中村船舶)
化学〈リン酸液)
199.7
ヤンマー
D〈550ps〉
第五榮吉丸
(稚内海運)
貨物〈一般貨物〉
199.66
新潟鉄工所
6M26ZG〈650PS〉
菱真丸
(市川汽船)
第二泉州丸
(小川佳雄)
セメント
199.66
貨物(穀物)
199.61
新潟鉄工所
6MG20AX〈750PS〉
ヤンマー
D〈200ps〉
(内航船舶明細書(日本海運集会所)による)
18
NOx 濃度(ppm)
2000
排ガス量(m3N/h)
貨物船に適用される代表的な 1,000ps 低速エンジンの NOx 値、排ガス量を図
2.3-1 に示した。この値は IMO の NOx 規制をクリアーしていない値である。した
がって、IMO の規制を考慮すると、今後このクラスの船舶に想定される排出 NOx
濃度としては 1000ppm 程度と考えられる。また、排ガス量は 100%負荷相当時で
5,000m3N/h程度である。
0
5000
NOx
1000
排ガス量
0
図 2.3-1
25
50
負荷率 / %
75
100
新潟鐵工所製 1,000ps 低速エンジンの NOx 排出量および排ガス量
19
2.4
小型内航船のモデル航行パターンとシステム作動イメージ
前述の調査データをもとに 199 トンクラスの小型内航船のモデル航行パター
ンを以下のように設定した。(表 2.4-1、図 2.4-1)
表 2.4-1
機関概要
対象とする小型内航船の航行モデル
総トン数
199 トンクラス小型内航船
使用燃料
A重油(硫黄分含有量1wt%未満)
主 機 関
4サイクルディーゼルエンジン
(1,000ps)
出港初期の触媒層温度
100℃*
温度上昇までの時間
(300℃)
20 分*
航行時間
航行パラメータ
排ガス中有害物質濃度
2 時間(東京湾内エリア内航)
NOx:1000∼1500ppm
SO2:最大 200ppm
負荷率 100%:5,000m3[normal]/h
負荷率 50%:3,000m3[normal]/h
排出ガス量
*(平成 6 年度「内航船用小型排ガス脱硝装置の開発」報告書、シップ・アンド・オーシャン財団による)
排ガス(触媒層)温度/℃
出
港
定
常
航
行
入
港
400
脱硝触媒:有効
300
200
脱硝触媒:除去率が著しく低下
100
吸着除去
脱離分とあわせて触媒による除去
0
20
航行経過時間/分
100
図 2.4-1 小型内航船のモデル航行パターン
20
120
図 2.4-2 に吸着剤による出港時に排出されるNOxの除去イメージを示す。排
ガス温度が 300℃に達する 20 分間程度に排出されるNOxを一時的に吸着除去
し、高温域では脱離させて、触媒により選択還元除去を行う。本システムの作
動イメージを従来型の脱硝触媒システムと比較して図 2.4-3 に示した。また船舶
への搭載イメージを図 2.4-4 に示す。
出港時吸着
触媒により除
脱
吸
100
離
着
200
300
500
排ガス温度/℃
図 2.4-2 出港時に排出される NOx の吸着剤による除去イメージ
21
400
(従来型脱硝触媒システム)
脱硝触媒
NOx
出港時
NOx
(NOx 放出)
排ガス温度:低
NOx
NOx
(効果なし )
還元剤(アンモニア、尿素水)
脱硝触媒
航行時
NOx
NOx
排ガス温度:高
NH3
CO2
(無害化)
N2
(還元反応)
H2O
(「吸着剤―選択還元触媒」システム)
NOx
出港時
排ガス温度:低
脱硝触媒
NOx
(NOx 吸着除去)
吸着材
(吸着)NOx
還元剤(アンモニア、尿素水)
脱硝触媒
航行時
NOx
排ガス温度:高
吸着材
NH3
(脱離)
図 2.4-3
CO2
NOx
(還元反応)
「吸着剤―選択還元触媒」脱硝システムの作用イメージ
(上:従来型脱硝触媒、下:「吸着剤―選択還元触媒」システム)
22
N2
(無害化)
H2O
還元剤
排ガス導入
SOx
吸着材
NOx
クリーン
な排ガス
CO2
脱硝触媒
N2
H2O
HC
排ガス浄化装置
舶用ディーゼルエンジン
主機関
図 2.4-4
排ガス浄化触媒システムの概念図
23
第3章
3.1
モデル排ガスによるシステムの機能評価
目的
本調査研究では、従来型の脱硝触媒の問題点である出港時の問題を解決する
方法として、「吸着剤−選択還元触媒」の複合化による新しい脱硝触媒システム
の調査研究を行い、小型内航船用ディーゼルエンジンの脱硝システムの性能改
善を図ることを目的としている。
また、これまでの調査結果から、従来型のアンモニアあるいは尿素法 SCR シ
ステムは、いくつかの課題は残るものの、排気ガスの温度が充分に高くなった
ときには有効に作動し、90%近い NOx の除去が可能であることがわかっている。
したがって、当面問題となるのは、出港時の触媒温度が低い領域で排出される
NOx である。低温時に排出される NOx を一時的に吸着しうる吸着剤が開発されれ
ば、高温時には従来型の脱硝触媒で対応が可能である。本調査研究は従来型の
脱硝触媒と組み合わせての使用を前提として、表 3.1-1 に示す平成9、10 年度
の結果から吸着剤として優れる Mn2O3・2ZrO2 を用いて評価を行った。
表 3.1-1
吸着材の性能比較(100℃からの昇温吸着試験結果)
吸着量
H2O 存 在 下
NO
O2
H2O
(ppm)
(%)
(%)
1,000
10
0
4.63
?
1,000
10
10
2.67
58%
1,000
10
0
3.31
?
Mn2O3・2ZrO2(450℃焼成) 1,000
10
10
3.00
91%
吸着剤
Ba-Cu-O
マンガン・ジルコニア
3.2
3
(cm /
での吸着能
cm3-cat.) 力
ゼオライト
1,000
10
0
2.15
?
(Cu(224)-ZSM5(80))
1,000
10
10
0.413
19%
モデル排ガス試験用評価装置の作製
(1)装置概要
反応には常圧固定床流通式反応装置を用いた。コンパクトフロー(大倉理研
製)をベースとし、水蒸気供給ライン、SO2 供給ライン、還元剤(アンモニア)
24
供給ラインをそれぞれ追加して用いた。この反応装置の概要を図 3.2-1, 3.2-2
に示した。反応管には外径 10mm、内径 8mm の石英管または同サイズのステンレ
ス管(「吸着剤−触媒」2層反応)を用いた。吸着剤または触媒を反応管内にシリ
カウールを用いて固定し、反応時に触媒層内の温度差が±1℃以内になるように
装着した。反応温度の制御は触媒層の中心に挿入した熱電対により行った。吸
着剤および触媒は特に付記しないかぎり、N2 気流中 10℃/min で昇温し、500℃
で 60 分間前処理を行ったあとで反応に用いた。
反応ガスは、それぞれ流量をサーマルマスフローコントローラで制御し、N2 、
O2、NO の順で混合した。反応用混合ガスに含まれる NOx の NO2 濃度は 5%程度で
ある。また、本反応では、供給ガス中のそれぞれの反応基質濃度がいずれも極
めて低いことが特徴である。そこで、より正確な流量制御を行うため、ガスの
供給には O2 以外、N2 による希釈ボンベを使用した。(1%の NO または NO2、バ
ランスガス N2)
図 3.2-1
実験装置全体図
25
前処理ガス(N2)
水蒸気供給ガス(N2)
反応用混合ガス
・NO/N2
・O2
・SO2/N2
反応器
100cc/min
倍希釈︵大気︶
10
ミスト
トラップ
NO-NO2 コン
バーター
50cc/min
SO2 分析計
NOx分析計
加熱ライン
(データ取り込み)
図 3.2-2
反応装置図
26
(2)「吸着剤−脱硝触媒」2層式反応器
実排ガス試験に先立ち、本検討課題である「吸着剤−脱硝触媒」システムの有
効性を検証する目的で、粉体での「吸着剤−脱硝触媒」2層触媒反応器を作成し、
実際にアンモニアによる選択還元触媒と組み合わせた脱硝システムの有効性を
確認した。反応装置概要を以下に示す。
吸着剤層を上段(上流側)に、脱硝触媒を下段(下流側)にそれぞれ充填し、
それぞれをシリカウールで固定している、また還元剤であるアンモニアの導入
ラインを①吸着剤の前方、および②吸着剤と脱硝触媒の中間にそれぞれ設置し、
還元剤の導入位置による脱硝性能の違いも検討した。アンモニア導入ラインは
反応層の温度の低下を避けるため、リボンヒーターにて加熱保持を行ってい
る。
反応用混合ガス(NO、O2、H2O、N2)
NH3 導入ライン①
Mn2O3 ・ 2ZrO2
(吸着剤層)
NH3 導入ラ
イン②
シリカウール
V2O5/TiO 2 触媒
(脱硝触媒)
熱電対
図 3.2-3 2層反応用装置
27
NH3 導 入
ライン
図 3.2-4 2層式反応器外観
試験方法は前述の昇温吸着脱離試験と同様の手順で行い、NO の脱離量に相
当する還元剤を供給して行った。その他の実験条件を以下の表 3.2-1 にまとめ
て示した。
表 3.2-1
「吸着剤-脱硝触媒」2層反応の実験条件
条件
全ガス流量
100cc/min
吸着剤重量
0.5g(SV=6,000h-1)
脱硝触媒重量
還元剤
0.43g(SV=10,000h-1)
0.7g(SV=6,000h-1)
アンモニア(N2 希釈ガス)
H2O 濃度
10%
バランスガス
N2
(3)ハニカム反応器
ハニカム成型した吸着剤の性能評価を行うことを目的として、装置作製を行っ
た。ハニカム成型品を充填するための反応管を作製し(図 3.2-5)、ハニカム中
心部分と下端部分の温度計測を行っている。
28
吸着剤ハニカム
熱電対
22mmφ
40mm
280mm
図 3.2-5
ハニカム試験用反応器
図 3.2-6 ハニカム反応器外観(吸着剤セッティング時)
試験方法は粉体の昇温吸着脱離試験と同様の手順で行った。その他の実験条
件を以下の表 3.2-2 にまとめて示した。
表 3.2-2
全ガス流量
ハニカムサイズ
ハニカム担体
SV 値
H2O 濃度
バランスガス
吸着剤ハニカム試験の実験条件
条件
690cc/min
2.2cmφ×長さ 4cm
コージェライト押し出し成型体
3,000h-1
5%
N2
29
3.3
吸着剤および脱硝触媒の調製方法
3.3.1
使用試薬・サンプル
本調査研究で用いた試薬のリストを以下の表 3.3-1 に示す。
表 3.3-1
試薬名
使用試薬一覧
製造元・グレード
Lot. No
Mn(NO3)2・6H2O
和光
特級
ELL5857
ZrO(NO3)2・2H2O
和光
一級
CKJ2562
NH4VO3
和光
特級
CKK2285
TiO2
日本アエロジル
コロイダルシリカ
P25
日産化学工業
スノーテックス N
30
P-001-N
120728
3.3.2
調製手順
本年度用いた吸着剤は Mn2O3・2ZrO2 は荒井・江口ら(九州大学)の方法にもと
づいて調製を行ったものである。また、脱硝触媒としては V2O5/TiO2 を使用した。
それぞれの具体的な調製手順は以下に示す。
(1)吸着剤(Mn2O3・2ZrO2)の調製方法
以下の手順で調製した。(H.Arai et al., Journal of Catalysis 158, 420-426
(1996).)
Mn(NO3)2・6H2O 14.98g、ZrO(NO3)2・2H2O 13.93g をビーカーにはかりとり、そこへ
H2O 100ml を加えて撹拌した。両試薬が溶けたことを確認した後、NH4OHaq 63ml
を加え、溶液の pH が 10.5になるように調製し沈殿を生成させた。次に、得られ
た沈殿を蒸発乾固させ乳鉢で粉砕後、マッフル炉にて 550℃にて 6 時間焼成し
Mn2O3・2ZrO2 を得た。BELSORP 28SA を用いて求めたサンプルの比表面積は 129.0
(m2/g)である。
Mn(NO3)2・6H2O
ZrO(NO3)2・2H2O
14.98g
13.93g(*)
H2O
500ml
NH4OHaq(25wt%) 63cc
pH=10.5 に調製
蒸発乾固
550℃焼成、6hr
(昇温速度
5℃/min)
Mn2O3・2ZrO2
(*)Mn:Zr=1:1(mol 比)
図 3.3-1
Mn2O3・2ZrO2 の調製方法
31
(2)V2O5/TiO2 脱硝触媒調製方法
実排ガス試験用ハニカムの調製を考慮して、調製方法が簡便なことからも
Morikawa らの調製方法( S.Morikawa et al., Proc. 8th ICC III-661, Chem.Lett
251 (1981). )により V2O5(1%)/TiO2 触媒を調製した。図 3.3-2 にしめすよ
うにバナジン酸アンモニウム水溶液に日本アエロジル製二酸化チタン P−25 を
浸漬し、蒸発乾固したのちに、550℃で 3 時間焼成して V2O5(1%)/TiO2 触媒
を得た。
また、通常は SO2 の影響を低減させるためにタングステン等の第三成分の担持
を行うが、今回は、第三成分の担持は行わず、V2O5(1%)/TiO2 触媒を使用し
た。また、担体として使用した TiO2 は P-25(SA=40m2/g、日本アエロジル)であ
る。
NH4VO3 水溶液
TiO2(アナターゼ型 SA=40m2/g)
含浸担持
乾燥後、焼成(550℃
3 時間)
V2O5(1wt%)/TiO2 触媒
図 3.3-2
脱硝触媒調製方法
32
図 3.3-3
調製した Mn2O3・2ZrO2(吸着剤:右)
および V2O5/TiO2 触媒(脱硝触媒:左)
33
(3)吸着剤ハニカム作製方法
船舶からの実排ガスの処理に吸着剤を用いる場合には、吸着剤を成型し反応層に
充填する必要がある。そこで吸着材ハニカムを試作し、その性能評価を行い、平成
13 年度の実排ガス試験用ハニカム作製のための仕様決定を行うことを目的とし、同
時に今後の課題点についても検討を行った。
①各種ハニカム担体
Mn2O3・2ZrO2 を担持するためのハニカム担体として、最適な製品を検討するため
に、入手可能なハニカム担体の開口率の異なるものをそれぞれ2種類について3製品
入手し、最適な担体を検討した。それぞれを図 3.3-4∼3.3-6 に示す。
(a)コージェライト担体
図 3.3-4 セラミックハニカム担体(1)
(コージェライト押し出し成型品(SiO2-Al2O3-MgO):神鋼アクテック製)
左:1.6mm 角(セル厚 0.3mm)
右:2.27mm 角(セル厚 0.3mm)
34
(b)セラミックファイバー担体−1
図 3.3-5 セラミックハニカム担体(2)
(セラミックファイバー巻き成型品(SiO2):西部技研製)
左:AS-63(6.35mm(P)×3.5mm(H)) 右:AS−85(8.5mm(P)×5.2mm(H))
(*P:底辺長さ、H:高さ)
(c)セラミックファイバー担体−2
図 3.3-6
セラミックハニカム担体(2)
(セラミックハニカムフィルター担体(ニチアス製))
セル数=205(セル/in2)
35
②吸着剤担持方法
ハニカム触媒の成型方法の特許事例をもとに以下の手順にて試作調製を行っ
た。
ここで使用したハニカム担体は、耐熱性と強度に優れるため、試作に際して取り
扱いが容易であることから、神鋼アクテック製の目開き 22.7mm のコージェライト
ハニカムを使用した。また、バインダーとしてはスノーテックス N(日産化学製コロ
イダルシリカ:固形分 20.3%)を用いた。
触媒ハニカムの作製方法に関する特許事例では触媒:バインダー:水=20∼70:
70∼20:10∼30 程度の事例が多い。そこで吸着剤とバインダーおよび水の混合比は
種々の特許事例(例えば、特開平 10-128118「窒素酸化物除去触媒およびその製造方
法」日野自動車工業㈱)等の配分比率を参考にして今回は、吸着剤:バインダー:水
=5:5:1(重量比)にて行った。調製工程を以下の図 3.3-7 および図 3.3-8 に示
した。
550℃焼成済み Mn2O3・2ZrO2(30g)
ペースト状
(シリカバインダー):30g
スノーテックス N
H2O:6g
ハニカム担体をディッピング
繰り返し
余剰担持分をブロワーにて除去
乾燥(オーブン中 110℃、2時間)
500℃焼成(3 時間)
図 3.3-7 吸着剤ハニカムの調製方法
36
①マンガンジルコニア粉体
②無機バインダー(コロイダルシリカ)
③吸着剤スラリーとハニカム担体
④ディッピング
⑤引き上げ
⑥担持後ハニカム(焼成前)
図 3.3-8 吸着剤の担持工程(ラボにおける試作)
37
このようにして調製した担体への Mn2O3・2ZrO2 の担持量は 2.87 グラム程度であ
る。
表 3.3-2 コージェライトハニカムへの Mn2O3・2ZrO2 の担持量
セラミック担体重量
(22mmφ×4cm)
4.56g
Mn2O3・2ZrO2 担持後重量
8.09g
重量増分
Mn2O3・2ZrO2 正味担持量
3.53g
2.87g*
*バインダー分を差し引いた重量
また、上記以外にセラミックファイバーハニカム担体に関しても外部委託により、
Mn2O3・2ZrO2 の担持を行った。試作品の外観を以下の図 3.3-9 に示す。
それぞれへの吸着剤担持量は以下の通りである。
表 3.3-3 ファイバーハニカムへの Mn2O3・2ZrO2 の担持量
セラミック担体寸法
Mn2O3・2ZrO2 担持量
(205 セル)
30×30×50mm
6.5g
Mn2O3・2ZrO2 担持量
(30 セル)
5.0g
図 3.3-9 Mn2O3・2ZrO2 担持ハニカムフィルター
左:205(セル/in2)、右:30(セル/in2)
38
3.4
評価方法
下記の図 3.4-1 に示すように、N2 気流中にて所定の温度で前処理を行った後
に 100℃まで降温し、NO を含む反応ガスの供給開始と同時に一定の速度(10℃
/min)にて昇温し、供給濃度との差から吸着量および脱離量を求めた。
前処理:
室温
500℃(昇温速度 10℃/min)、1hr、N2 前処理
100℃まで降温
吸着・脱離: 反応ガス導入
100℃∼昇温(昇温速度 10℃/min)
100℃∼550℃(反応ガスを供給し NO 吸着・脱離)
550℃∼1000℃(N2 ガス供給・SO2 脱離測定)
図 3.4-1
昇温吸着試験手順
39
3.5
生成ガスの分析方法
(1)NO および NO2 の分析方法
NO および NO2 濃度を分析する場合には、化学発光式 NOx 分析計(ECL-88A:ヤ
ナコ)を用いた。サンプリングは、反応管の出口を分析計のサンプリングライン
に直接導入して行い、分析値を連続的にレコーダーで記録した。
(2)SO2 および SO3 の分析方法
①SO2 の分析方法
共存 SO2 による被毒影響試験を行う場合には、SO2 分析計(ヤナコ ECL-55SS)
により分析を行った。サンプリングは排ガスを NOx分析計と 2 系統に分岐して導
入した。
表 3.5−1
測定方式
SO2 分析計の主な仕様
測定範囲
単光源二光束非分散形赤外線吸収法
(フローチョッピング方式によるゼロ点補正式)
0∼20、200、500、1000ppm までの4レンジ
必要資料採取量
約 1.0L/min(100cc を 10 倍希釈して 20ppm レンジで計測)
図 3.5-1
SO2 分析装置概観
40
③使用試験ガス等
今回用いた試験用ガス(高圧ボンベ充填)を以下の表 3.5-2 に示した。
表 3.5-2
種類
試験に用いたガスの一覧
容量
3
純度(%)
不純物(ppm)
O2
10,000cm ,
150 ㎏/? 充填
>99.5
N2<0.5
N2
10,000cm3,
150 ㎏/? 充填
>99.9995
(純窒素 B)
O2<0.05、CH4<0.1
CO2<0.1、CO<0.1
NO/N2
10,000cm3,
120 ㎏/? 充填
NO=1.00%、9.23%
N2 balance
N2 と同様
NO2/ N2
10,000cm3,
N2 と同様
20 ㎏/? 充填
NO2=0.965%
N2 balance
10,000cm3,
150 ㎏/? 充填
SO2=0.2%
N2 balance
N2 と同様
SO2/ N2
41
3.6
2層式反応によるシステムの有効性の検証
(1)目的
実排ガス試験に先立ち、本システムの有効性を検証する目的で、粉体
での Mn 2O 3・2ZrO 2(吸着剤)と V2O 5/TiO2 触媒(脱硝触媒)とを2層
にし、脱硝性能の試験を行った。なお、ここで用いた反応装置は先に
示した「吸着剤−脱硝触媒」2層触媒反応器を用いて試験を行っている。
(2)「吸着剤−脱硝触媒」2層反応システムの有効性の検証
図 3.6-1 に 「 吸 着 剤 − 脱 硝 触 媒 」 2 層 反 応 シ ス テ ム に よ る NO 除去反 応
の結果を吸着剤のみの場合と合わせて示す。また図中に点線で示した ア
ンモニアの導入量は今回の実験ではあらかじめ吸着剤のみで求めた脱
離 量 に あ わ せ て 導 入 量 が NO 対 NH 3 が ほ ぼ 1 対 1 と な る よ う に 導 入 量
を 変 化 さ せ て い る 。 実 際 の シ ス テ ム 操 作 で は 、 触 媒 層 を 400℃ 以 上 の 高
温 域 で 作 動 さ せ る こ と は 想 定 し て い な い の で 、 400℃ 以 上 で は ア ン モ ニ
ア 濃 度 を 3,500ppm 一定で変動制御は行っていない。( 400℃以上では過
剰に供給している。)図 3.6-1 はアンモニアを吸着剤層の後段から導入し
た場合であるが、本条件下では、反応用模擬ガスとして 100℃から 500℃
ま で に 供給した NO の 88%が除去できた。また、後段の触媒量を増大さ
せ る こ とで供給量の 98%程度の NO が除去できた 。
ま た 、図 3.6-2 に本実験系に SO 2 を 200ppm 共存させた場合 と、ア ン
モニアを吸着剤層の前段から供給した場合の結果を合わせて示した。
SO 2 が 共存しても NO の 除 去 率 に は 変 化 は 見 ら れ ず 、 88%の NO が除去
さ れ た 。
一方、吸着剤の前段からアンモニア導入した場合には、かえって排出
さ れ る NO 量 は 増 大 し て い る 。 こ れ は 吸 着 剤 の Mn 2 O 3 ・2ZrO 2 上 で の
NH 3 酸 化 に よ り NOx 排 出 量 増 大 し た も の と お も わ れ る 。 吸 着 剤 自 体 に
選 択 還 元 能 力 が あ れ ば 脱 離 時 に N2 と し て 除 去 で き る 可 能 性 が あ る が 、
Mn 2 O 3 ・2ZrO 2 の 場 合 に は マ ン ガ ン の 酸 化 力 が 高 い た め に 酸 化 反 応 が 進
行 す る ものと思 わ れ る 。 し た が っ て 、 ア ン モ ニ ア の 導 入 位 置 は 吸 着 剤 の
後 段 で あ る 必 要 が あ る。
42
3500
3000
NOx 濃度/ppm
2500
2000
NH3 導 入
1500
1000
供給 NOx
除 去 さ れ た
NOx
500
0
100
200
300
温度/
図 3.6-1
400
500
℃
吸着剤−脱硝触媒システムによる NO 除去反応
●:NO(1000ppm)-O2(10%)-H2O(10%)
■:2層反応(V2O5/TiO2=0.43g(SV=10,000h-1))
◆:2層反応(V2O5/TiO2=0.72g(SV=6,000h-1))
Mn2O3・2ZrO2=1.3g(SV=6,000h-1)、
Total flow rate = 100cm3/min.
43
5000
■:NO-O2-H2O-NH3(前段)
4000
◆:NO-O2-H2O
●:NO-O2-H2O-NH3(後段)
NOx 濃度/ppm
▲:NO-O2-H2O-NH3(後段)-SO2
3000
2000
1000
供給 NOx
0
100
200
300
400
500
温度/ ℃
図 3.6-2 吸着剤−脱硝触媒システムによる NO 除去反応
■:NO(1000ppm)-O2(10%)-H2O(10%)-NH3(前段:0∼3500ppm)
◆:NO(1000ppm)-O2(10%)-H2O(10%)
●:NO(1000ppm)-O2(10%)-H2O(10%)-NH3(後段:0∼3500ppm)
▲:NO(1000ppm)-O2(10%)-H2O(10%)-NH3(後段:0∼3500ppm)
-SO2(200ppm)
Mn2O3・2ZrO2=1.3g(SV=6,000h-1)、V2O5/TiO2=
0.43g(SV=10,000h-1)、
Total flow rate = 100cm3/min.
44
一 方 、 今 回 用 い た 「 吸 着 剤 ― 脱 硝 触 媒 」 2 層 反 応 器 で は 以 下 の 図 3.6-3
に 示 す ように、吸着剤層と脱硝触媒層では 20℃程度の温度差が生じて お
り、後段の脱硝触媒の方が吸着剤層よりも温度が低くなってしまって い
る。したがって、実排ガスによる浄化では、システム設計や運用方法 を
検討する必要がある。
600
吸着剤中心温度
脱硝触媒中心温度
500
温度/℃
400
300
200
100
0
0
10
20
30
時間/min
図 3.6-3 2層反応器の昇温特性
45
40
50
3.7
試作ハニカム性能評価結果
先に示した調製方法にて作製したハニカムの性能評価試験を行った。評価試
験条件を以下に示す。
表 3.7-1
吸着剤ハニカム試験の実験条件
条件
全ガス流量
ハニカムサイズ
690cc/min
2.2cmφ×長さ 4cm
ハニカム担体
コージェライト押し出し成型体
セラミックファイバー巻き成型体
SV 値
3,000h-1
H2O 濃度
5%
バランスガス
N2
吸着剤の体積を 1m3 に設定した場合、前述の航行モデルに基づけば負荷率
100%で SV=5,000h-1 となるが、吸着剤作動時すなわち出港時の平均負荷率を
50%と仮定すると排ガス量は SV=3,000h-1 に相当する。したがってここでの吸
着剤ハニカム成型体のデータ取得条件を SV=3,000h-1 に設定した。
100℃から 10℃/min で昇温吸着を行ったときの、ハニカム性能試験結果を
以下に示す。前述のコージェライト担体を用いた場合の吸着量および脱離量は
7.9cc(s.t.p.)となった。300℃までの総 NOx 供給量は 13.8cc であるため、
SV=3,000h−1 程度で低温域で排出される全 NOx の57%程度が吸着除去できた
ことになる。
一方、セラミックファイバー(担体厚み0.1mm)を担体に用いた場合には吸
着量が 0.5cc と低くなった。そこで吸着性能を向上させることを目的として、セ
ラミックファイバーの厚みを 0.1mm から 0.3mm に変更し、同様の手順でハニ
カム作製を行ったところ、改良後の吸着量は 11.3 cc(供給量の約 82%程度)へ
と増大した。
したがって、実ガス試験においては、セラミックファイバーへ担持したもの
を用いることとした。(実際の試験ではさらにファイバーへの担持量を 1.2 倍に
したものを用いた。)
46
3000
2500
NOx 濃度/ppm
2000
1500
供給 NOx
1000
500
0
100
150
200
250
300
350
温度(中心)/
400
℃
450
500
図 3.7-1 Mn2O3・2ZrO2 ハニカムによる NO 昇温吸着試験
NO(1000ppm)-O2(10%)-H2O(5%)-SO2(200ppm)
Mn2O3・2ZrO2 ハニカム (SV=3,000h-1)、Total flow rate =
690cm3/min.
○:コージェライト試作品、吸着量 7.9cc
▲:セラミックファイバー試作品1(厚み 0.1mm)、吸着量 5.0cc
◆:セラミックファイバー試作品2(厚み 0.3mm)、吸着量 11.3cc
47
3.8
まとめ
(1)「吸着剤−脱硝触媒」2層反応システム
V2O5(1%)/TiO 2 触媒を調製し、「吸着剤−脱硝触媒」2層反応システムの有
効性を検証した結果、吸着剤前段からのアンモニア導入では NH3 酸化により
NOx 排出量が増大してしまうが、吸着剤後段からのアンモニア導入により NOx
排出量大幅に低減でき、最大で 98%の NOx の除去が達成できた。これらの試
験データをまとめて表 3.8-1 に示す。
表 3.8-1 吸着剤−脱硝触媒システム試験データまとめ
NOx 吸着量
NOx 脱離量
NOx 除去量
NO 除去率
(CC)
(CC)
100∼500℃(CC)
(%)
NO-O2-H2O-NH3(前段)
2.58
3.20
▲0.6
NO-O2-H2O
2.58
2.50
0
NO-O2-H2O-NH3(後段)
▲15
0
−−−
0.47
3.53
88.3
−−−
0.48
3.52
88.0
−−−
0.08
3.92
98.0
SV=10,000h-1
NO-O2-H2O-NH3(後段)-SO2
NO-O2-H2O-NH3(後段)
SV=6,000h-1
(2)ハニカム性能試験評価
吸着材を成形し、成形体の基本吸着特性の試験を行うことを目的として、吸
着材の成形方法を検討した。成形のための担体としてコージェライト押し出し
成型品(SiO2-Al2O3-MgO 製)およびセラミックファイバーを用いて、吸着剤ハニ
カムを作製した。
作製した吸着剤ハニカムを用いて NO 吸着性能試験を行った。吸着性能を向上
させることを目的として、セラミックファイバーの厚みを 0.1mm から 0.3mm
に変更してハニカム作製を行ったところ、改良後の吸着量は 0.5cc から 1.3 cc
(約 82%程度)へと増大した。SV=3,000h−1 程度の実用領域で、低温時に排出
される全排出ガスの 82%程度を吸着しうる性能を示すことが明らかとなった。
48
第4章
4.1
実排ガスによるシステムの機能評価
目的
ここでは、前章までに実施してきた、模擬排ガス試験結果をもとに、実際の
舶用エンジン排ガスを用いて本システムの機能評価を行うことを目的とした。
実排ガス試験に関しては、東京商船大学内燃機関工学実験室において 100PS4
サイクルディーゼル(3L13AHS:新潟鐵工所製)の実排ガスを用いて、排ガス
浄化試験を行った。「吸着剤−脱硝触媒」2層触媒反応器の設計、製作を行った。
本章における実施項目は以下の通りでる。
(1)排ガス浄化試験用脱硝システムの設計・製作
(2)吸着剤および脱硝触媒ハニカムの作製
(3)吸着剤・脱硝触媒の機能評価
(4)システムの機能評価
4.2
排ガス浄化試験用脱硝システムの設計・製作
4.2.1 システム構成概要
吸着―脱離―脱硝除去が可能なシステムとして別紙に示すシステムを設計し、
製作を行った。なお、詳細図面設計および製作は、新潟鐵工所およびエヌ・エ
ス・エンジニアリングに依頼して作製した。各部の機能は以下のとおりである。
(1)排ガス分岐導入部
・主排気ライン(80A)から反応装置へ排ガスを 50L/min 程度の流量
で分岐するライン(32A)を設置
・主排気ラインには流量調整用ボールバルブを設置
→反応ラインの流量制御
(2)吸着試験用反応ライン
①吸着反応器
・Mn2O3-2ZrO2 ハニカムを設置(4∼6枚まで可変)
・ジャケットヒータ(㈱ヤガミ特注品)加熱
②吸着反応器のバイパスライン
・脱硝触媒加熱後にガスを導入するライン
49
③脱硝反応器
・W-V-TiO2 脱硝触媒ハニカムを設置(4枚分の一体型)
・ジャケットヒータ加熱
④切替バルブ1,2
・吸着反応時:バルブ1を閉、バルブ2を開
・脱着―脱硝反応時:同上
・定常脱硝時:バルブ1を開、バルブ2を閉
⑤還元剤導入部
・脱硝反応器の前方にノズル先端をフレア加工したものを設置
・マスフローコントローラーにより流量制御
⑥ガス冷却水槽
・冷却用水を下部から導入し、上部出口からオーバーフロー
・ドレーン抜き設置(排ガス中の水分の結露分をポット捕集)
⑦ガス流量計測部
・ガスメータにより流量計測可能(∼80L/min 程度まで)
・計測可能ガス温度 < 50℃
⑧マノメータ
・吸着反応器入り口(A)、中間(B)、脱硝反応器出口(C)の
各部位間における圧力損失をコック切替により計測可能
⑨排ガスサンプリング部
・主排気ライン、吸着反応器出口、脱硝反応器出口の3ヶ所
・1/4 インチスエジロック配管、耐熱ストップコック付き
(サンプリング箇所のコックを開いてアナライザーに導入)
・アナライザー入り口にミストキャッチャー(テフロン粉封入
品)を設置して分析部劣化を防止
⑩温度計測部
・CA 熱電対5箇所設置、デジタルメータ計測
(主排気ライン、吸着反応器入口・中央、脱硝反応器入口・中央)
50
(3)その他
⑪ラギング
・30mm グラスウールアルミ被覆を巻きつけ保温
⑫伸縮継手
・2ヶ所設置
⑬フレーム
・これらのライン重量をささえるために、フレーム中にライ
ンを組み込み、床面のレール溝にボルト固定
51
⑩
⑩
③
⑫
⑫
④
⑨
②
⑩
⑨
⑨
⑩
④
⑤
①
⑩
⑧
⑦
⑪
⑥
図 4.2-1 システム構成概要
52
4.2.2 反応装置の設置状況
実際に東京商船大学内燃機関工学実験室に設置した、装置の状況を以下に示
す。
(1)反応ライン全体像
図 4.2-2 舶用ディーゼルと反応装置全体図
図 4.2-3 反応装置とガス分析装置
53
(2)分岐ライン
図 4.2-4 分岐ラインに取り付けた反応装置
図 4.2-5 ラギングを施した分岐ライン
54
図 4.2-6 反応器入り口流量調整用切替バルブ
(3)反応器(吸着剤)
図 4.2-7 反応器構成部品とハニカム装着イメージ
55
140mm
図 4.2-8 吸着剤ハニカムの反応器への装着状況
左:断熱剤でシールした吸着剤ハニカム
右:反応器への装着時
図 4.2-9 反応器外観とジャケットヒータ
56
(4)アンモニア噴射機構
図 4.2-10 アンモニア噴射ノズル
.
図 4.2-11 アンモニア注入口(フランジ装着部)と排ガスサンプリング部(右)
57
(5)反応器(脱硝触媒)
100 m
図 4.2-12 脱硝触媒ハニカム装着ユニット(TiO2 担体)
図 4.2-13 脱硝触媒反応器
58
(6)冷却機構、その他
図 4.2-14 冷却水槽中のガス冷却ライン
図 4.2-15 ガスメータ
図 4.2-16 ミストキャッチャー
59
4.3
吸着剤および脱硝触媒の作製方法
4.3.1
吸着剤ハニカム
実排ガス試験で用いた吸着剤および脱硝触媒ハニカムはニチアス株式会社製
のセラミックファイバー担体にそれぞれ吸着剤および触媒成分を含浸担持した
後に乾燥処理したものを用いた。詳細な製造工程は別添資料として本報告書の
巻末に掲載した。
(1)セラミックファイバー担体
本実験で用いたセラミックファイバー製のハニカムは非常に軽量で取り扱い
やすいが、強度が低くなるという欠点がある。そこで実際に使用する場合には
強度を上げ、外端面のけずれを防止するために外周巻きのある担体を使用して
端面補強を行っている(下図)。
図 4.3-1
セラミックファイバーハニカムフィルター担体(ニチアス製))
セル数=205(セル/in2)
この担体では、ファイバーの厚みを調整することで練りこみと同じように大
量に担持が可能となるため、吸着剤のように量が必要なものに対しては有効で
ある。今回の実排ガス試験では、ファイバーシートの厚みが 0.3mm のものを使
用した。また、強度上の問題から1ユニットの厚みは 2.5cm(大きさ 12.8cm 角)
であるため、4∼6 枚重ねて使用した。このような形状のメリットとして以下の
ことが挙げられる。
・装置の軽量化が可能
・一枚のシートごとの交換が容易
・反応器形状・サイズの設計に柔軟性が持たせられる
・試験に際して、被毒物質の付着状況などの分析が容易
60
(2)吸着剤の担持状態
実際に、吸着剤を担持作製したハニカム(図 4.3-2)への吸着剤の担持状態
を SEM−EDX 分析により観察したところ、繊維内に絡み合って担持されているた
め、練りこみと同じような大量担持が期待できることがわかる(図 4.3-3)。ま
た図 4.3-4 に示すように、通常のコージェライト担体に担持した場合には表面
のみにしか担持することが出来ず、ハニカム化したときに吸着剤の絶対量が確
保できないが、本セラミックファイバーの場合には、繊維内部にまで吸着剤が
担持されているため、高い吸着性能を示すことが期待できる。
128 m
図 4.3-2 試作した吸着剤ハニカム
(a)表面
(b)断面
図 4.3-3
Mn2O3・2ZrO2 を担持したセラミックハニカムの SEM 写真
61
コ−ジェライト担体
セラミックファイバー
図 4.3-4
通常品とセラミックファイバーフィルターの成分
担持状態のイメージ図
左:セラミックファイバー:繊維内部まで担持可能
右:コージェライト:表面のみに担持される
○:Mn2O3
○
□:MnO2
△:Mn3O4
■:ZrO2
○
○
○
□○
■
○
■
△
θ
図 4.3-5
吸着剤ハニカムの X 線回折結果
62
○
□
■
図 4.3-6
EDX によるハニカム表面成分マッピング
図 4.3-7
EDX によるハニカム断面成分マッピング
63
元素
図 4.3-8
図 4.3-9
mol%
Al
3.34
Si
23.58
Mn
36.92
Zr
36.16
EDX 組成分析(表面)
元素
mol%
Al
18.15
Si
52.41
Mn
14.69
Zr
14.75
EDX 組成分析(断面)
図 4.3-5 に示すようにXRD分析の結果からみると、ハニカムに担持した場
合(a)には 20∼30 度付近に、担体成分に起因すると思われるブロードなピーク
が現れる以外は Mn2O3 と ZrO2 の存在が確認でき、あわせて示した粉体(b)とほぼ
同等のピークを示すことがわかる。
また、図 4.3-6∼4.3-9 に示すように、SEM−EDX 分析の結果から、Mn と Zrが
ほぼ1対1の組成比均一に分布しており、また、表面だけでなく担体内部まで
担持されていることがわかる。
64
4.3.2
脱硝触媒ハニカム
実排ガス試験で用いた脱硝触媒ハニカムは、吸着剤と同様に 12.8cm 角のハ
ニカムを作製した。低温用、中温用、高温用の3種類を入手したが、本実験で
は中温用を使用した。
①低温用(250℃以上で使用)
組成:バナジウム、チタン含有
②中温用(350℃以上で使用)
組成:バナジウム、タングステン、チタン含有
③高温用(400℃以上で使用)
組成タングステン、チタン含有
128 m
m
図 4.3-10 試作した脱硝触媒ハニカム(低温用)
図 4.3-11 試作した3種類の脱硝触媒ハニカム
(左から低温用、中温用、高温用)
65
4.4
評価方法
4.4.1 試験用舶用ディーゼル機関概要
本実験で実排ガスによる評価に用いた舶用ディーゼルは、東京商船大学内燃
機関工学実験室の 100PS4サイクルディーゼルエンジンである。機関詳細を以
下の表 4.4-1 に示す。また、本エンジンの各物質の排出物濃度の負荷率の影響
を図 4.4-1 に示した。シリンダー出口の排ガス温度は 450℃(50%負荷相当時)
∼550℃程度(100%負荷相当時)である。また、燃料噴射タイミングと運転
状態を変えた時のデータを表 4.4-2 および 4.4-3 に示した。また各負荷時の排ガ
スの圧力は以下の通りであり、分岐ラインにバルブを設置し、流量コントロー
ルが可能である。
排ガス圧力:
100%負荷相当時: 376mmH2O
75%負荷相当時: 222mmH2O
50%負荷相当時: 122mmH2O
これらのデータを参考に、定常運転試験では、発電機特性の 60%で試験を行う
こととした。
表 4.4-1 機関主要目
呼称
形式
シリンダ数
シリンダ径
行程
行程容積
出力
回転数
平均有効圧
平均ピストン速度
コンロッド長さ
圧縮比
冷却方式
潤滑方式
調速方式
3L13AHS
立形直列単動4サイクル直接噴射式
ディーゼル機関
―
3
mm
130
mm
160
3
cm
6370
PS(kw)
100(74)
rpm
1200
kPa
1154
m/s
6.4
mm
280
―
15.3
清水2次強制循環式
歯車ポンプ圧送式
機関全速調速機
66
図 4.4-1 各物質の排出物濃度の負荷率の影響
使用機関:3L13AHS、燃料 A 重油.Te:シリンダー出口排ガス温度、
Pmax:筒内最高圧力、NOx:13%換算濃度、SFC:燃料消費率.
表 4.4-2 エンジンの運転状態による排ガス性状の変化(噴射タイミング:上死点前 27 度)
BTDC27度
噴射タイミング
負荷率
発 電 機 特 性 発 電 機 特 性 舶用特性 50%
50%
50%
チャージャー出口
排ガス温度(℃)
NOx濃度(ppm)
O2 濃度(%)
スモーク濃度
舶用特性 50%
355
425
430
470
1560
12.9
9
1720
10.6
8
1960
10.5
10
1860
10.8
---
表 4.4-3 エンジンの運転状態による排ガス性状の変化(噴射タイミング:上死点前 22 度)
噴射タイミング
BTDC22度
負荷率
発電機特性 50% 発電機特性 50% 舶用特性 50%
舶用特性 50%
チャージャー出口
排ガス温度(℃)
360
435
460
475
NOx濃度(ppm)
1010
13.7
6
1130
12
14
1290
11.3
16
1250
10.9
22
O2 濃度(%)
スモーク濃度
67
4.4.2 使用燃料および調達方法
東京都内での陸上試験用としては、現在は低硫黄重油が義務づけられており、
通常の A 重油が入手困難であったため、本実験では、低硫黄 A 重油(標準的な
性状は別表の通り、通常硫黄分は. 0.1%以下) を用いて評価を行った。
表 4.4-4 使用燃料性状
項
目
件
g/cm3
密度(15℃)
0.8668
反応
中性
引火点(PM)
℃
動粘度(50℃)
93.0
mm2/s(cSt)
流動点
2.917
℃
―10.0
低温ろ過目詰り点(CFPP) ℃
―12
硫黄分
0.07
質量%
質量%
残留炭素分
(10%残油)質量%
0.50
灰分
質量%
0.005以下
水分
質量%
0.05以下
セディメント
質量%
0.01以下
窒素分
質量%
0.026
セタン指数(JIS 新・参考値)
46.7
セタン指数(JIS 旧)
48
総発熱量
真発熱量
kJ/g
45.3
(cal/g)
10,820
kJ/g
42.5
(cal/g)
10,160
68
状
4.4.3
生成ガスの分析方法
装置に設置した各サンプリングポートより、第3章の模擬排ガス試験と同じ
以下の分析装置を用いて分析を行った。ただし、実排ガスであるため、分析装
置の入り口部に、装置概要で述べたミストキャッチャーを使用している。
(1)分析装置
① NOx:化学発光式 NOx アナライザー(ヤナコ)
② SO2:赤外線 SO2 分析計(ヤナコ)
③ O2:上記に O2 計を追加して計測
(2)分析方法
各サンプリングポートより分析装置によりポンプ吸引し、分析を行ってい
る。
69
4.5 吸着性能評価
(1)評価方法
実排ガスでの吸着剤の性能を評価するために、ここではハニカムの昇温速度
を外部から制御して性能評価を行った。具体的な操作は以下の図 4.5-1 に示す
通りである。また、それに対応する温度制御パターンを図 4.5-2 に示す。
①
配管リボンヒータ、吸着反応器、補助用シーズヒータ電源を入れ
て予備加熱、吸着剤層中心を100℃程度に保持
↓
②
エンジン始動:60%負荷で安定待ち、NOx初期値計測
↓
③
反応器ヒーター昇温開始(26℃/min)
↓
④
吸着反応器中心が100℃程度(80分後)でガス導入
↓
⑤
水分除去後のガスメータで流量40L/minになるように流量
調節、各部温度記録、ガス濃度計測
↓
⑥
NOx濃度が初期値になるまで(450∼500℃程度)各部の温度計測
図 4.5-1
吸着−脱離試験実施スキーム
時間(分): 0 10 30 60 80 90 120 150
エンジン
500℃ hold
エンジンスタート→負荷60%
400℃ hold 35min
リボンヒータ
943℃ hold
10℃/min
150℃ hold 50min
吸着剤反応器
ジャケットヒータ
26℃/min
514℃ hold
150℃ hold 50min
26℃/min
補助用
シーズヒータ
(実験操作)
排ガス導入
①
②
図 4.5-2
③
④⑤
各部の温度制御プログラム
70
⑥
1000
No.1
No.2
No.3
No.4
No.13
No.5
No.6
900
800
温度 / ℃
700
600
温度
/℃
500
排ガス導入→
400
300
200
100
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90 100 110 120 130 140 150 160
時間 時間
// 分分
図 4.5-3
吸着剤ハニカム昇温時の各部の温度プロファイル
T1:リボンヒーター(1,2)制御用熱電対温度:吸着剤層蒸留
T2:リボンヒーター(3)制御用熱電対温度:吸着剤層下流
T3:ジャケットヒーター制御用熱電対温度(ジャケットヒータ中心で制御に変更)
T4:反応器表面に設置した補助用シーズヒータ制御用熱電対温度
T13:反応器入り口部のリボンヒーター直下温度
T5:反応器入り口部の熱電対温度(ガス温度)
T6:反応器中心に差し込んだ熱電対温度(ハニカムの中心温度)
このような操作を行ったときの、各部の温度プロファイルを図 4.5-3 に示す。
各温度計測部の対応する番号を図 4.5-4 に示す。ガス導入時に急激な温度上昇
があり、その後は緩やかに 5℃/min 程度での昇温速度で温度上昇が可能であっ
た。ガス流れ方向の温度分布は 20℃程度であったが、垂直方向の温度分布は、
上図の 150 分後で中心温度 461℃に対して 2.5cm 壁面よりでは 480℃、5.0cm で
は 512℃となっており、50℃程度の温度分布が生じていた。
71
図 4.5-4 反応装置の温度計測部
72
(2)実排ガスの吸着−脱離に及ぼす影響
図 4.5-5 に示すように今回作製した試験装置を用いて実排ガスによる試験を
行った結果、吸着量に比べて脱離量が著しく小さいことがわかる。装置の大型
化による温度分布などの影響や、測定上のエラーの可能性を検討するために、
昨年度まで使用していた小型のコンパクトフローにハニカムを切り出しセッテ
ィングして計測を行った。結果を以下の図 4.5-6 に示す。実ガスを用いる場合
には、脱離量が著しく低下していることがわかる。
また、図 4.5-7 に示すように、昇温速度を 1/2 の5℃/min 程度の実排ガス
試験装置とほぼ同等の昇温スピードにて試験を行ったところ、さらに脱離量は
減少した。また、いずれの場合にも、昇温後定常に達した後には初期の NOx 供
給量よりも排出される NOx 量が減少していることがわかる。
反応ラインを切りかえ、排ガス中の NOx 濃度を再度確認した後に、吸着剤の
温度を 300℃まで低下させるとそれに伴い、排出 NOx 濃度は低下した。約
400℃(中心温度 411℃)にて一定に保つと、NOx 濃度は 807ppm 程度の値で定
常値を示した。そこで、反応ガスを N2 に切りかえ、550℃まで昇温を行ったが、
その間 NOx の脱離は全く見られなかった。
したがって、これらのことから、吸着した NOx は実排ガス中の未燃の炭化水
素と選択還元反応により N2(あるいは低温度域では一部 N2O)として除去され
ているものと考えられる。これらの実験結果から、実排ガス試験装置において
脱離ピークが小さいことは、装置あるいは測定上のエラーではないことが、小
型の実験装置により確認できた。
73
濃度 /ppm および
温度 / ℃
1400
脱離
1200
初期値
1120ppm
1000
Temp/℃
SOx(1127)
NOx(1127)
800
吸着
600
←10℃/min
400
200
0
0
図 4.5-5
20
40
Time/min
60
80
-1
実排ガスによる吸着−脱離試験結果(1) SV=3,000h
ハニカムセッティング:断熱剤を巻いて充填
ガスサンプリング場所:吸着剤出口
74
0219S(NOx)
濃度/ppm
4000
800
3500
700
3000
600
2500
500
2000
400
脱離
1500
300
1000
200
500
100
吸着
0
0
0
10
20
30
40
Time(min)
図 4.5-6 実排ガスによる吸着−脱離試験
反応装置:コンパクトフロー使用
NOx 初期値:1,240ppm
昇温速度:10℃/min、ガス流量 300cc/min
SV=2,400h-1
75
温度/℃
Tepm(C)
0219S(SO2)
Tepm(C)
0214S(NOx)
2500
500
再供給
300
温度/℃
濃度/ppm
300℃で
1000
200
NOx 供
給
500
100
2000
400
N2 へ
切替
N2 切替
初期値
ガス導入
1500
昇温
0
0
0
40
80
120
160
Time(min)
図 4.5-7 実排ガスによる吸着−脱離試験
反応装置:コンパクトフロー使用
NOx 初期値:1,228ppm
昇温速度:10℃/min、ガス流量 300cc/min
SV=2,400h-1
76
(3)脱硝触媒性能の評価
図 4.5-8 に示すように、粉体試験の結果から、300℃における V2O5/TiO2
(V2O5=1.0%)触媒によるアンモニア選択還元反応を行ったときの供給アンモ
ニア濃度による NOx 除去率の変化を示した。導入するアンモニア量を変化させ
ると速やかに NO 除去率が変化し、良い応答性能を示すことがわかる。また、
このときの供給アンモニア濃度と除去された NO 濃度は1対1のよい対応を示
すことから以下のような反応式で反応が進行していることがわかる。
4NO + 4NH3 +O2 → 4N2 + 6H2O
(1)
脱硝触媒ハニカム性能の評価を行うために、吸着−脱離試験の後にアンモニ
アを導入し NOx 濃度の計測を行った。その結果、図 4.5-9、10 に示すように、
ハニカムの場合にも、粉体と同様に 300℃前後で高い浄化率を示すことが確認
できた。また、同時に以下のことも確認できた。
・除去された排ガス中の NOx:噴霧 NH3 = 1:1
-1
・高 SV 条件下(6,450h )でも除去率の低下は見られない。
NO:1000ppm
O2:10%
H2O:5%
供給 NH 3 濃度:
1000ppm
730ppm 460ppm 170ppm 0ppm
1400
NOx 濃度/ppm
1200
1000
800
600
400
200
0
0
20
40
60
80
100
120
時間/min
図 4.5-8 V2O5/TiO2(V2O5=1.0%)触媒によるアンモニア選択還元反応
反応温度:300℃、触媒:V2O5/TiO2 粉体(V2O5=1.0%)
SV=6,000h-1、Total flow rate = 100cm3/min.
77
100
NOx除去率(%)
80
60
40
20
0
0
200
400
600
800
1000
NH3濃度(ppm)
図 4.5-9
NOx 除去率のアンモニア濃度による変化
使用触媒:中温型用ハニカム
-1
SV:2,580h ガス流量:43L/min(H2O=7%)
反応温度:284℃
100
NOx除去率(%)
80
60
40
20
0
0
2000
4000
6000
8000
1 104
SV(h-1)
図 4.5-10
NOx 除去率の SV 値による変化
使用触媒:中温型用ハニカム
-1
-1
SV:2,580h 、6,450h
ガス流量:43、108L/min(H2O=7%)
反応温度:284℃、325℃
78
4.6
脱硝システムの有効性の検証
4.6.1
試験概要
前項までに吸着剤の吸着−脱離性能および脱硝触媒の性能評価をそれぞれ個
別に行い、その有効性が検証できた。そこで次に実際に吸着剤と脱硝触媒を組
み合わせて、本脱硝酸システムの有効性の検証を行った。
4.6.2
定常排ガス導入時の性能評価
試験方法は、前項と同様に舶用エンジンを発電機特性の 60%負荷で定常運転
することで、1,100∼1,200ppm 程度の一定濃度の NOx を吸着剤層前のバルブ
の開閉を調節することで、一定量のガスを導入して模擬的な試験を行った。本
試験では、外部からの加熱により、あらかじめ後段の触媒層を 300℃まで加熱
昇温しておいた後に、吸着剤層に実ガスを供給し、試験を行った。
試験結果を図 4.6-1 に示す。吸着剤層の温度が 300℃に達した時点でアンモニ
アを導入し、脱硝を開始した。その結果、吸着−脱離試験時と同様に、低温時
に排出される NOx のおよそ 60%が除去され、吸着剤の温度が 400℃に達する
50 分後までの合計では、全排出 NOx のうちおよそ 86%が除去可能であること
が明らかとなった。
なお、今回の実験時にいて、ガス導入時に SO2 濃度が一次的に上昇している
が、詳細な理由は不明である。ガスの導入と同時に触媒層の温度も 20℃程度急
激に上昇したため、表面に弱く付着していた硫黄分が脱離したためかもしれな
い。
79
0221(O2)
0221(NOx)
0221(SO2)
Temp
56
1200
48
1000
40
800
32
600
24
400
16
200
8
および
1400
SO2 濃度/ppm
/%
吸着剤層温度
NOx 濃度/ppm
/℃
および
NH3 導入
O2 濃 度
64
1600
0
0
0
10
20
30
40
50
Time(min)
図 4.6-1
実排ガスによる吸着−脱離−アンモニア脱硝酸試験
反応装置:実排ガス浄化試験装置
NOx 初期値:1180ppm
ハニカム有効体積=1.5L、ガス流量 55L/min(水分8%)
SV=2,200h-1
脱硝触媒:中温用(あらかじめ 300℃に加熱保温)
80
4.6.3
負荷変動時の脱硝システム性能評価
(1)試験内容
次に、起動時の負荷変動を模擬して、ガスによる加熱昇温に近い条件で試験
を行った。試験方法は、舶用エンジンを舶用特性で、起動時を模擬した負荷変
動パターンとそのときのガス流量に基づいてガスの導入量をコントロールして
試験を行った。また、本試験では、吸着剤層および後段の触媒層を 100℃程度
に保持したままで、加熱昇温せずに、吸着剤層に実ガスを供給し、試験を行っ
た。
このときの負荷変動パターンおよび排ガス温度、NOx、SOx 濃度の変化を図
4.6-2∼4.6-5 および表 4.6-1 に示した。
また、100%負荷相当時の排ガス量を 400Nm 3/h 程度と見積もり、そのとき
の SV 値が 5,000h-1 を想定しているため、表 4.6-1 に示したそれぞれの負荷時の
ガス吸気量から相当する SV 値を算出し、各負荷での流量を調整した。
100
70%
50%
負荷(%)
80
30%
60
15%
40
クラッチ
20
ガス導入
0
0
10
20
30
40
50
時間(分)
図 4.6-2
実排ガス試験時の負荷変動パターン
81
60
70%
500
50%
30%
温度 / ℃
400
15%
300
クラッチ
200
100
0
0
10
20
30
40
50
60
時間 / min
図 4.6-3
モデル出港パターンにおける負荷変動時の排ガス温度変化
表 4.6-1 負荷変動試験時の排ガスデータ
負荷(%)
時間
(分)
吸気量
(N・m3/h)
NOx 濃
度
(ppm)
SO2 濃
度
(ppm)*
O2 濃度
(%)*
排ガス温
度(℃)
*
0(アイド
リング)
5
55
333
3.3
17.9
119
7(クラッ
チ入)
15
55
928
6.6
15.3
170
15
30
5
5
78
125
1,133
1465
9.2
12.5
13.3
10.8
50
10
試験終了
まで
190
1462
14.5
10.3
246
339
388∼395
250
1351
17.6
9.7
436∼448
70
*負荷 0 から 50%は切り替え直前の値、70%はほぼ定常時(60 分経過後)の値
82
20
1500
15
1000
10
NOx(ppm)
500
O2 濃度 / %
NOx 濃度 / ppm
2000
5
O2(%)
0
0
0
10
20
30
40
50
60
Time(min)
20
20
15
15
10
10
SO2(ppm)
5
5
O2(%)
0
0
0
10
20
30
40
50
60
Time(min)
図 4.6-5 負荷変動運転時の SO2 濃度変化
83
O2 濃度 / %
SO2 濃度 / ppm
図 4.6-4 負荷変動運転時の NOx 濃度変化
(2)負荷変動試験による評価結果
図 4.6-6 に負荷変動パターン時の評価結果を示す。負荷変動を伴う舶用特性
の運転条件下では、これまでの定常試験よりも排ガス中の NOx 濃度が高くなり、
昇温時間も2倍近く必要とするにも関わらず、高い脱硝性能が見られた。
この場合にはアンモニア脱硝開始までに排出される NOx のおよそ 80%が除
去可能であった。ただし、本システムの場合には、後段の吸着剤層との温度差
が 30℃程度あるため、脱硝は吸着剤層が 310℃、触媒層が 280℃に達したとき
に開始している。また、触媒層の温度が若干低いため、アンモニアを導入して
から、定常に達するまでに 10 分以上を要したが、ガス導入から吸着剤層が
400℃に達する 100 分間の合計では、全排出 NOx のうち、実に 89%が除去可能
であることが示された。
84
0226k-D(NOx)
ハニカム-Temp(C)
0226K-D(SO2)
1600
16
NH3 導入開始
1400
14
1200
30%
10
70%
負荷
800
NOx 濃度 / ppm
/℃
50%
8
600
6
400
4
200
2
0
SO2 濃度 / ppm
12
1000
および
ハニカム中心温度
供給NOx
0
0
20
40
60
80
100
Time(min)
(ガス導入:15%負荷)
図 4.6-6 エンジン起動からの負荷変動を模擬したときの排ガス浄化試験
反応装置:実排ガス浄化試験装置
NOx 初期値:1,133∼1,165ppm
ハニカム有効体積=1.5L、ガス流量 24∼78L/min(水分8%)
SV=975∼3125 h-1
脱硝触媒:中温用
85
4.6.4
耐久性の評価
実用化に際しては、繰り返し使用による硫黄分の影響評価等、耐久性がもっ
とも問題となる。今回の試験では、充分な耐久性の評価は行うことが出来なか
ったが、低硫黄重油を使用した場合には、実排ガスを用いても今回の実験の範
囲内では吸着性能にほとんど影響を与えなかった。繰り返し使用の吸着性能に
及ぼす影響を図 4.6-7 に示した。数回程度の繰り返しでは、吸着性能に全く影
響がないことがわかる。
1400
NOx 濃度 / ppm
1200
1000
800
600
400
200
0
100
150
200
250
300
350
400
450
500
吸着剤中心温度 / ℃
図 4.6-7 低温時における NOx 吸着量の耐久性
○:新品、
△:繰り返し6回使用品(300℃以上で脱硝開始)
86
4.7
まとめ
本章では舶用ディーゼルエンジンの実排ガスによる吸着剤の性能評価および、
脱硝触媒と組み合わせた浄化システムの有効性の検証を行った。結果をまとめ
ると以下の通りである。
(1)実排ガスでの吸着−脱離性能
実ガスにおいても 300℃までの低温域で排出される NOx の 60%程度と高い吸
着性能を示すことが明らかとなった。一方実ガスにおいては、脱離量が吸着量
に比較して少なくなる。これは吸着した NOx が実ガス中に含まれる未燃の炭化
水素と反応して N2 または N 2O として除去されるためであると推測される。し
たがって、低 SV 条件で運用する限りは、当初想定していた NOx の脱離に伴う
流路切替などの複雑なシステムを必要としない。
(2)定常排ガス導入時の性能評価
舶用エンジンを発電機特性の 60%負荷で定常運転し、一定量のガスを導入し
て模擬的な試験を行った結果、低温時に排出される NOx のおよそ 60%が除去
され、吸着剤の温度が 400℃に達する 50 分後までの合計では、全排出 NOx の
うちおよそ 86%が除去可能であることが明らかとなった。
(3)負荷変動試験
負荷変動を伴う舶用特性の出港時の運転を模擬した試験を行った結果、アン
モニア脱硝開始までに排出される NOx のおよそ 80%が除去可能であった。た
だし、触媒層の温度が若干低いため、アンモニアを導入してから、定常に達す
るまでに 10 分以上を要したため、実システムでは低温用の脱硝触媒を使用する
のが望ましい。
(4)耐久性
低硫黄重油を使用した場合には、実排ガスを用いても今回の実験の範囲内で
は吸着性能にほとんど影響を与えなかった。6回程度の繰り返しでは、吸着性
能に全く影響がないことがわかる。
87
第5章
まとめ
本調査研究では、出港時等の触媒入口温度が低い条件では従来型の脱硝触媒が十
分に作動しないという問題を解決する方法として、「吸着剤−選択還元触媒」の複合
化による新しい脱硝システムの調査研究を実施した。
本年度は昨年度までの調査検討結果をもとに、舶用ディーゼル機関の実排ガスを用
いた実証研究を行い、システムの有効性を評価した。主な成果は以下の通りである。
(1)装置設計/製作
舶用ディーゼルエンジン排ガスの一部を導入し、船舶搭載可能な触媒システムと
しての浄化試験を行うことを目的として、ハニカム成型した吸着材と脱硝触媒を充
填しうる小型のテストプラントの設計・および製作を行った。装置設置フレームと
排ガス導入機構、排ガスの温度・流量計測機構、反応器、および排気ラインからな
る装置を東京商船大学の舶用ディーゼル脇に設置し、新しいシステムの実排ガスに
よる評価が可能となった。
(2)実排ガスでの吸着−脱離性能
実ガスにおいても 300℃までの低温域で排出される NOx の 60%程度と高い吸着性
能を示すことが明らかとなった。一方実ガスにおいては、脱離量が吸着量に比較し
て少なくなる。これは吸着した NOx が脱離時に実ガスに含まれる未燃の炭化水素お
よび気相の NOx と反応して N2 または N2O として除去されるためであると推測され
る。したがって、低 SV 条件で運用する限りは、当初想定していた NOx の脱離に伴
う流路切替などの複雑なシステムを必要としないことが明らかとなった。
(3)定常排ガス導入時の性能評価
舶用エンジンを発電機特性の 60%負荷で定常運転し、一定量のガスを導入して模
擬的な試験を行った結果、低温時に排出される NOx のおよそ 60%が除去され、吸着
剤の温度が 400℃に達する 50 分後までの合計では、全排出 NOx のうちおよそ 86%
が除去可能であることが明らかとなった。
(4)負荷変動試験
負荷変動を伴う舶用特性の運転条件下では、これまでの定常試験よりも排ガス中
の NOx 濃度が高くなり、昇温時間も2倍近く必要とするにも関わらず、高い脱硝性
能が見られた。
この場合にはアンモニア脱硝開始までに排出される NOx のおよそ 80%が除去可能
であった。本実験条件下ではアンモニアを導入してから、定常に達するまでに 10 分
88
以上を要したが、ガス導入から吸着剤層が 400℃に達する 100 分間の合計では、全排
出 NOx のうち、実に 89%が除去可能であることが示された。
(5)硫黄分の影響・耐久性
低硫黄重油を使用した場合には、実排ガスを用いても今回の実験の範囲内では吸着
性能にほとんど影響を与えなかった。6回程度の繰り返しでは、吸着性能に全く影
響がなく、ほとんどの SO2 は吸着されて大気中には排出されないことも明らかとな
った。今後より詳細な耐久性の評価が必要ではあるが、低硫黄重油を使用すること
が可能になれば、充分に実用化が可能な性能を有することが実証された。
以上
89
参考文献
[1]平成 10 年度「船舶排ガスの地球環境への影響と防止技術の調査」
報告書、シップ・アンド・オーシャン財団.
[2]野村宏次著、「舶用燃料の科学」、P177、成山堂書店、(1994).
[3]「内航海運の現状」1999
[4]「海運統計要覧」1999
日本内航海運組合総連合会.
社団法人日本船主協会.
[5]船舶に係る大気汚染物質排出実態調査、東京都環境保全局
平成 3 年.
[6]「船舶排出大気汚染物質削減手法検討調査」報告書、環境庁
平成5年.
[7]内航船舶における燃料油種別需要調査報告書
日本内航海運組合総連合会.
[8]内航船舶明細書 2000 年版、日本海運集会所.
[9]P.Miller, Chem. Ing. Tech., 31, 345 (1984).
[10]大塚、下田、矢田部、杉野、電力中央研究所・技術研究所報告
(化学 61001) (1986).
[11]H.Arai et al., J.Catal., 158 420 (1996).
[12]S.Morikawa et al., Proc. 8th Int. Conf. Catal., Ⅲ-661.
[13]S.Morikawa et al., Chem. Lett., 251 (1981).
[14]塩出敬二郎、日本造船学会誌、763, 14, (1993).
[15]久保、園田、日本舶用機関学会誌、29(9), 50, (1991).
[16]日本舶用機関学会、「船舶大気汚染抑制検討委員会の成果報告」
特別講演予稿集, 1995.
[17]平成 6 年度「内航船用小型排ガス脱硝装置の開発」報告書、
シップ・アンド・オーシャン財団.
[18]日本舶用機関学会、「船舶排出大気汚染物削減手法検討調査報告書」平
成8年度.
[19]「船舶排ガスの地球環境への影響と防止技術の調査研究報告書」、
シップ・アンド・オーシャン財団(1999).
90
[20]矢口、石井、佐藤、小林、吉田、漁船、321, 5, (1996).
[21]園田、日本舶用機関学会誌、29(6), 412, (1994).
[22]江口、緒形、渡部、荒井、触媒、36(2)、108 (1994).
[23]町田、村上、橘林、木島、触媒、37(6) 396 (1995).
[24]町田、安岡、江口、荒井、触媒、36(2) 108 (1991).
[25]江口浩一、平成9年度 科学研究費補助金研究成果報告書「高速かつ可
逆的に窒素酸化物を吸着除去する金属酸化物材料の開発」.
91
参考資料
(1)主な SCR 搭載船の事例
(2)ハニカム製造工程
(3)用語集
93
参考資料‐1
主な SCR システム搭載船の事例
これまでに知られている主な SCR システムを搭載した船舶の事例を表‐1 に
示す。これらはいずれも触媒による浄化システムである。これ以外に、船舶の
排ガス浄化用システムとして煙突内に吸着剤層を設置するシステムが提案され
ている。これらの事例を以下に示した。
表‐1 主な脱硝触媒搭載船
SCR 装置メーカー
名称
国名
Siemens
ドイツ
船舶搭載実績
船舶名称
就航航路
"Gotland"
"Nils Dacke"
"Brika Princess"
その他7隻
スウェーデン本土−ゴットランド島
デ ン マ "Stena
ーク
Jultlandica"
"Pacific Success"
その他
ABB Flalt ス ウ ェ "Aurora”
ーデン
Marine
ヨーテボリ―フレデリクスハウフン
韓国―米国(撒積船)
バルチック海フェリー
Haldor
Topsoe A/S
TT Line
ストックホルム―マリエハムン
バルチック海フェリー
デンマーク―スウェーデン
*スウェーデンでは政府と船主協会の間で 2000 年までに排ガス中の NOx を
75%削減することで合意。1998 年より、環境負荷に応じた港湾料金課金制度
が実施されている。
94
(1)"Stena Jultlandica"の SCR システム
"Stena Jultlandica"は総トン数 29619 トン、旅客定員 1249 人のフェリーで、
主機と補助機関の全てに世界ではじめて SCR 装置を搭載した船舶である。脱硝
装置の設置場所は上甲板上の煙突のすぐそばにあり、消音装置を兼ねている。
還元剤としては尿素水を用いた SCR であり、タンク容量は 50m3 である。また、
下流域の NOx センサー測定値に基づいて還元剤噴射量を変動させている。触媒
寿命は 20,000 時間程度で2∼3年で交換の必要があるとしている。また、排ガ
スによる付着物の除去は、定期的に 400∼450℃に加熱して除去を行っている。
図 1 "Stena Jultlandica"に搭載された SCR システム
96
(2)"Aurora"の SCR システム
"Aurora"はスウェーデン船籍の ro-ro 多目的フェリーでスウェーデンとデン
マークの間を就航している。1992 年 4 月に 2.5MW の中速 4 サイクルディーゼル
機関(Wartsila 製)に尿素水を使用した SCR を過給機の後に設置している。
システムはバイパスラインをもった脱硝反応器とアフターバーナーより構成さ
れており、反応器は NOx 低減触媒、酸化触媒、熱分解質、スタティックミキサ、
バイパスバルブ等から構成されている。また、噴射ノズルは停止時に還元剤噴
射ノズル中に空気が流入する機構を備える。
本 SCR 装置は 1996 年までに 8,000 時間以上稼動しており、平均 NOx 浄化率は
97%の実績がある。
図 2 "Aurora"搭載の脱硝システム構成
図 3 "Aurora"搭載の脱硝装置
97
(3)新潟鐵工所の SCR システム
秋田県練習船(1800ps4サイクルディーゼル、A 重油使用)に搭載した実績
があり、国内実船搭載した数少ない事例である。本試験は日本財団補助事業と
して平成 5,6 年度にシップ・アンド・オーシャン財団が実施したものである。
装置構成は脱硝触媒反応器、噴霧ユニット、制御・計測ユニットからなり、
還元剤は尿素水を用いており、還元剤タンクの容量は 2000 リットルで約 5 日分
とされている。また、還元剤の噴射ノズルは還元剤噴射を定期的に水洗可能な
置換水系統を備える。また、触媒への付着物除去用のブロアーを備えている。
図 4 SCR システム配置
図 5 SCR システム構成
(平成 6 年度「内航船用小型排ガス脱硝装置の開発」報告書、シップ・アンド・オーシャン財団.)
98
(4)三菱重工の排ガス浄化システム
実船搭載した事例ではないが、吸着剤を用いた特許出願(特開平 5-337326
排ガスの処理方法)の事例がある。吸着剤単独使用で、除去効率は NOx、SOx
に関してそれぞれ以下の通りである。
NOx:1000ppm→650ppm
SOx:800ppm→150ppm
吸着剤には Fe2O3―SiO 2−Ca(OH)2 を使用しており、帰港ごとに吸着剤を交
換できるような交換ステージを設計している。
図 6 吸着剤を利用した排ガス浄化システム特許出願事例
99
参考資料−2
セラミックファイバーハニカム製造工程(ニチアス資料より)
100
101
参考資料−3
用語の説明
本文中に、専門的用語が使われているので、主なものを下記に記す。
用
語
意
味
ハニカム触媒
蜂の巣状をした触媒で、ダストの堆積が起こらず、圧力損
失も低いなどの特徴を持つ。
HC
炭化水素(Hydro Carbon の略)。炭素と水素だけからなる
多数の化合物の総称
IMO
国際海事機関(International Maritime Organization)
LHSV
液空間速度(Liquid Hourly Space Velocity の略)。連続
反応装置への原料液供給速度( 20℃の液体容積流量)の反応
器容積又は触媒充填容積に対する比。原料液供給速度を時
間当りで示し、単位は h-1 となる。
MEPC
海 洋 環 境 保 護 委 員 会 (Marine Environment Protection
Committee)。海洋環境を対象とする IMO 機構を構成する委
員会のひとつ。
NOx
窒素酸化物(Nitrogn Oxides の略)の総称。
SA
表面積(Surface Area の略)。固体単位質量当りの全表面
積を比表面積という。ここで全表面積とは、たとえば多孔
質体の表面積は外部表面と内部表面(細孔表面)からなり、
担持触媒では活性成分表面と不活性成分表面からなるが、
これらの面積の総和である。種々の測定法があるが、標準
的には N2 等の不活性気体の物理吸着量から BET 式を適用し
て求める(BET 表面積)。
SCR 法
選択接触還元法(Selective Catalytic Reduction の略)を
言う。還元剤として NH3 を用い、酸素の存在下において
も、触媒上で NOx 還元が優先的に進み、還元除去する。
102
SOF
揮発性有機物質(Soluble Organic Fraction の略)。ディ
ーゼルパティキュレート中の有機溶媒に溶解する成分。
SO2
二酸化硫黄。亜硫酸ガスとも呼ばれる。SOx 中の 98%程度
を占めているとされる。
SOx
硫黄酸化物(Sulphur Oxides の略)。硫黄酸化物の総称。
SPM
浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter の略)。
粒径 10 ミクロン以下の大気中の浮遊物をいう。
SV 値
触媒単位体積当たりの処理ガス流量
SV=G/V(h-1)
G:標準状態に換算した処理ガス流量(m3N/h)
V:触媒量(m3)
W/F
Weight/Flow 比率。V/F における V の代わりに触媒の重量 W
で表示したもの。反応器が小さい場合には触媒の容器誤差
が大きいもので、変りに重量 W がよく用いられる。
WHSV
重量空間速度(Weight Hourly Space Velocity の略)。連
続反応装置において、原料供給速度(重量/時間)の触媒重
量に対する比。速度を時間当たりで示すと、単位は h-1。原
料供給速度を容積単位で示し、触媒容積に対する比で表し
た 空 間 速 度 を 、 そ れ ぞ れ LHSV ( Liquid Hourly Space
Velocity )、GHSV(Gas Hourly Space Velocity)という。
103
平成13年度
内航船用エンジン排ガス浄化システムの調査研究報告書
平成14年3月発行
発行
財団法人シップ・アンド・オーシャン財団 業務統括部
〒105-0001
東京都港区虎ノ門1−15−16 海洋船舶ビル
TEL 03-3502-1828 FAX 03-3502-2033
本書の無断転載、複写、複製を禁じます。
104
ISBN4-88404-053-8
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