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ストラテジックな)行動 と企業 間競争— ゲーム論入門
165 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業 間競争— ゲーム論入門 8 章において伝統的な独占理論と寡占理論における分析を解説しました.本章では企業間競争における戦 略的 (ストラテジック) な側面を重視し,非協力ゲーム論(Non-Cooperative Game Theory)からのアプ ローチを紹介することにしましょう.ゲーム論の簡単な解説から始めます. A 展開形(Extensive Form)のゲーム 競争状態に置かれた意思決定主体の段階的な意思決定過程を,具体的に描写するのが展開形のゲーム です.意思決定の主体をプレーヤーとよびます. 非協力ゲームの展開形による表現(an extensive form representation of a noncooperative game)は, 以下の (1) ∼ (7) の諸項目により定められます. (1) プレーヤーのリスト • {1, 2, . . ., I} • n (=nature) 「自然」 (2) ゲームの木(ツリー Tree) ゲームの木 game tree とは,各プレーヤーの意思決定の位置を示すノード(node, 結節点)を意思決 定の段階的順序に従って矢印で結合して形成された図です.段階的意思決定の出発点となるノード を初期ノード initial node あるいは頂点とよび,意思決定が終了する最終段階のノードを最終ノー ド terminal node とよびます.初期ノードは○で表わし,初期ノード・最終ノード以外の中間ノード を●で表わします.最終ノード以外のノードを意思決定ノードといい,意思決定ノードのうち初期 ノード以外を手番 move ともいいます.あるノードから最終ノードに至るまでのノード間が矢印で 結合された道筋をそのノードからの経路またはパス path といいます. (図 8.1) (3) 意思決定ノードにおける意思決定主体 (プレーヤーもしくは自然」)の指定 各意思決定ノードでは,指定された意思決定主体が自己の行動について決定します. (4) 各意思決定ノードに対しては, 意思決定主体が取り得る行動(選択肢 alternative)の範囲を有限集 合によって指定 (5) 情報集合(information sets) の指定 意思決定ノード全体をいくつかの部分集合に分割し,それぞれを情報集合 informatiion set とよびま す.同一の情報集合に属するノードについては,つぎの 3 つの性質を持つことを要請します. (a) 同一の経路上にないこと. (b) 同一意思決定主体であること. 166 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業間競争— ゲーム論入門 図 8.1: ゲームの木 (a game tree) : X x XX : XXX z x XX X : 3 XX XX zx XX XXX z X 初期ノード : h Q Q X X x XX * XX Q XX XX z X X Q Q : Q 6 sx Q - x X H XX H XXX z H t HH : HH jx X XX XXX z ノード t からの 1 つの経路 ( ) ( ) ( ) ( ( ) ) ( ) ( ) ( ( ) ) ( ) 最終ノード (c) プレーヤーの取り得る行動(選択肢)の範囲が同じであること. 同一の情報集合に属するノードは,図 8.2 のように破線で結ばれます. 「情報集合」という呼び名と は裏腹に,情報集合は「意思決定主体が知らないこと」,つまり,情報が欠如していることを表現 するものです.同じ情報集合に属するノードについては,そこでの意思決定主体であるプレーヤー が識別出来ないものと解釈します.どのノードに自分が置かれているかについての情報を,プレー ヤーは持ち合わせていないのです. 図 8.2: 情報集合 x x (6) 各最終ノードにおいて各プレーヤーの得る利得を指定 競争状態に置かれた複数のプレーヤーが段階的意思決定を積み重ねた結果,各プレーヤーがどのよ うな利得(ペイオフ)payoffs を手にすることになるかを示します. (7) ゲームの出発点となる初期ノードが複数ある場合には,複数の初期ノードの上での確率分布の指定, また「自然」が意思決定主体となっているノードでは,そこでの行動の選択肢の上での確率分布の 指定 ● 展開形による表現の例 図 8.3 では 2 種類のゲームが展開形によって表現されています.それぞれどのようなゲームが表され ているかを各自考えてください.特に,2番目のゲームは「真実ゲーム」Truth Game とよばれている ゲームを表現したものです.このゲームではプレーヤー 1 が最初に硬貨をトスしますが,いびつな硬貨 で確率 8 割で表が出,2 割の確率で裏が出る硬貨です.表が出たのか裏が出たのか,その結果をプレー B. 標準形(戦略形)のゲーム 167 ヤー 1 は 2 に対して口頭で伝えます.展開形の図の中の「表」, 「裏」の表示は,プレーヤー 1 が2に伝 える内容です.これに対してプレーヤー2は, 「おもて」か「うら」かを推察して,それをプレーヤー 1 に返答するというゲームです.このゲームの特徴を考えてください. 図 8.3: 展開形による表現の例 : (1,4) l x XXXX L 1 XX z (2,3) r XX 1 h 2 PP PP : (3,2) l PP PP q x R XXX XXX z (4,1) r XX 硬貨が表. (3,1) (1,0) P i 1 (2,1) 「おもて」 「おもて」 PP 「表」 1 「裏」 PP - x h P x PP PP P {0.8} ) P (0,0) 「うら」 「うら」 q 2 (2,0) (0,1) P i 「おもて」 PP 「表」 1 PP x P - h {0.2} ) 「うら」 2 「裏」 1 (3,0) 「おもて」 - x PP PP P q (1,1) 「うら」 P 硬貨が裏. B 標準形(戦略形)のゲーム 一定の競争的状況を表現するにしても,いくつかの異なった形の展開形で表現することが可能です.例 えば, 図 2 の展開形において,プレーヤー 2 を初期ノードに持ってきて,プレーヤー 1 をプレーヤー 2 の 意思決定に続く形で描くことも可能です.より本質的なゲームの側面を明らかにする目的で,プレーヤー の取り得る戦略と,それによって発生する利得のみに注目した形の表現形式を考えることができます. 非協力ゲームの標準形 normal form あるいは戦略形 strategic form による表現は,以下の (1) ∼ (3) に よって定められます. (1) プレーヤーのリスト — {1, 2, . . ., I} (2) 各プレーヤーの戦略集合 — Si , i = 1, . . . , I 168 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業間競争— ゲーム論入門 (3) すべてのプレーヤーの戦略の組み(プロファイル)に対する各プレーヤーの利得 (u1 (s1 , s2 , . . . , sI ), . . . , uI (s1 , . . . , sI )), si ∈ Si , i = 1, . . . , I 展開形と戦略形との関係 ● 下の図 8.4 は,パネル (a) の展開形ゲームをパネル (b) において戦略形で 表現したものです. 図 8.4: ゲームの展開形と戦略形 j 1 U - (2,2) D ? z2 A A A r l A A A AAU (3,1) (0,0) プレイヤー U D 1 戦略形ゲームの諸例 ● 2 l r 2, 2 3, 1 2, 2 0, 0 パネル (a) 展開形 パネル (b) 戦略形 表 8.1 から 8.3 の戦略形のゲームはいずれも教科書でよく見かける諸例です. 例を見てそれぞれのゲームの特徴を考えて下さい. Player 1 2 s1 t1 −2, −2 t2 3, −3 s2 −3, 3 2, 2 s1, t1 Testify against the other. s2, t2 Do not testify. 表 8.1: 囚人のディレンマ・ゲーム The Prisoner’s Dilemma Game C 非協力ゲームの解概念 ゲームの解 与えられたゲームにおいて各プレーヤーが取ると考えられる行動や戦略が明白なとき, そうした行動や 戦略をゲームの解 solution とよびます. C. 非協力ゲームの解概念 169 Player 1 2 s1 s2 t1 1, −1 −1, 1 t2 −1, 1 1, −1 s1, t1 表 s2, t2 裏 表 8.2: 硬貨の表・裏合わせゲーム Matching Pennies Player 1 s1 t1 3, 2 2 t2 1, 1 s1, t1 映画 s2 1, 1 2, 3 s2, t2 観劇 表 8.3: デート・ゲーム Battle of the Sexes ナッシュ均衡 すべてのプレーヤーは合理的に行動し,かつ自分以外の他のプレーヤーも合理的に行動するとすべて のプレーヤーが考えているとしましょう.ゲームの解が存在するとき,解において各プレーヤーが意図 している行動戦略は,彼以外の他のすべてのプレーヤーが意図している行動戦略に対する最適な反応で なければならないでしょう.これを表現するのがつぎの均衡概念です. ナッシュ均衡 戦略形のゲーム {1, . . . , I, S1 , . . . , SI , u1 , . . . , uI } が与えら れたとき,各プレーヤーの戦略プロ フィー ル ŝ = (ŝ1 , . . . , ŝI ) が すべ ての i = 1, . . . , I と す べて の si ∈ Si に 対 し ui (ŝ) Ui (ŝ1 , . . . , ŝi−1 , si , ŝi+1 , . . . , ŝI ) を満たすとき,ŝ をナッシュ均衡 Nash equilibrium とよびます. 展開形のゲームにおける各プレーヤーの行動戦略がナッシュ均衡であるとは,それと対応する戦略 形のゲームにおけるナッシュ均衡に対応していることを意味するものとします. ナッシュ均衡は解であるための必要条件として位置づけられるべきもので, 十分条件とは考えない方が よいでしょう. 先に列挙したゲームの例では,ナッシュ均衡はつぎのようになっています.図 8.4 ではナッシュ均衡が 2 つあり,(U, r) と (D, l) です.このうち最初の (U, r) という均衡については多少違和感を感じるかも知 れませんが,その点については後ほど議論します.表 8.1 の囚人のジレンマ・ゲームでは,(s1 , t1 ) のみ がナッシュ均衡であり,プレーヤー達のジレンマが発生するゆえんです.表 8.2 における硬貨の表裏合わ せゲームでは,戦略の選択肢を純粋に表か裏かのいずれかを出すということに限定する限り,ナッシュ 均衡は存在しませんが,不思議なことではありません.表 8.3 のデート・ゲームではナッシュ均衡が 2 つ あり,(s1 , t1 ) と (s2 , t2 ) です.実際にこのようなゲームをプレイしたときに,どちらの均衡が実現するか は,男性(プレイヤー 1)と女性(プレイヤー 2)の「力関係」に依存すると考えられますが,そのよう な力関係や交渉力のようなことはこのゲームでは表現されていません. 170 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業間競争— ゲーム論入門 D ナッシュ均衡の精緻化(リファイメント) 精緻化(リファイメント refinement)の意図 ナッシュ均衡において各プレーヤーは他のプレーヤーの行動戦略を与えられたものと考え,したがっ て,他人の行動戦略に影響を及ぼす可能性を考えた行動にはなっていないのです.展開形のゲームにお けるように他人の行動を一部観察した上で自らの行動を選択する場合,自分の行動が他人の選択する行 動に影響を与えないとする推測は余りにもナイーブでしょう.その結果,実際に実現するとは考えられ ないナッシュ均衡が存在する可能性を否定できません.例えば図 8.4 のゲームを考えてみてみましょう. (U, r) はナッシュ均衡です.プレーヤー 1 が U を選択する場合,プレーヤー 2 の選択は自分自身の利得 に全く影響を与えません.その結果 (U, r) はナッシュ均衡になっているのです.ところが,プレーヤー 2 の r の選択は合理的な選択ではないでしょう.先ほど,この均衡に「違和感を感じるかも知れない」と 言ったのは,つぎの理由によるものです.何らかの理由でプレーヤー 2 の意思決定の段階に来たとした ら,彼にとっては r を選択するより l を選ぶ方が有利でしょう.そして,もしプレーヤー 2 が l を選択す るのであれば,プレーヤー 1 は U を選ばずに D を選択することになるのです.したがって,プレーヤー の合理的な行動を前提とすれば,ゲームの解の中からナッシュ均衡である (U, r) は排除されるべきだと 考えられます.均衡 (U, r) においては,プレーヤー 1 が U を選ぶとゲームは最終ノードに至るため,プ レーヤー 2 の r という行動は 1 のノードから始まる均衡経路 equilibrium path 上にないことになります. 均衡経路上にないプレーヤーの行動についても合理的な選択を要請することによってナッシュ均衡の中 からより説得力の高い均衡を選ぶことをナッシュ均衡の精緻化 (リファイメント)あるいは完全化 (パー フェクション)とよびます. 部分ゲーム完全均衡 展開形のゲームが与えられたとき,全体のゲームの一部から形成される展開形ゲームを部分ゲーム subgame とよび,部分ゲームの出発点となる情報集合に属するノードが 1 つのみであるとき,それをプロ パーな部分ゲーム a proper subgame といいます.展開形ゲームのナッシュ均衡が,その任意のプロパー な部分ゲームに制約してもナッシュ均衡になっているとき,これを部分ゲーム完全均衡 subgame perfect equilibrium とよびます. 例 図 8.4 のゲームでは • (U, r) は部分ゲーム完全均衡ではありません.プレーヤー 2 の意思決定ノードから始まる部分ゲー ムにおいて,プレーヤー 2 の選択は最適な選択になっていないからです. • これに対し (D, l) は部分ゲーム完全均衡になっていることを確認して下さい. 逐次均衡 sequential equilibrium 均衡経路上にないプレーヤーの行動についても合理性を要請したいという意図から部分ゲーム完全均 衡が導入されましたが,部分ゲームがプロパーな形では形成されない場合はどのように考えればよいで D. ナッシュ均衡の精緻化(リファイメント) 171 しょうか? 例えばつぎのようなゲームを考えてみましょう.このゲームにおいて (A, l) はナッシュ均衡 1 A j - (2,4) Q L QR Q 2 + sz Q z l (0,1) A A Ar A AU (3,2) l (-1,3) A A A r A AU (1,5) 図 8.5: プロパーな部分ゲームを含まない展開形ゲーム です.しかし,どう考えてもプレーヤー 2 の l の選択は合理的ではありません.1 が A を選んだため,2 の非合理的な選択にもかかわらず (A, l) はナッシュ均衡になったのですが,もし 2 の選択が直接に利得 に影響することになれば,2 は迷わうことなく r を選でしょう.そして 2 が合理的な選択である r を選 ぶべば (A, r) はナッシュ均衡にはならないのです.しかし,このゲームの場合 (A, l) は残念ながら部分 ゲーム完全均衡です.2 の情報集合から始まる部分ゲームがプロパーな部分ゲームではなく,2 つのノー ドを持つ情報集合から始まっているからなのです. そこでプロパーな部分ゲームではなかったとしても,部分ゲーム完全均衡の精神を生かせば,つぎの ような要請をする必要があると考えるのが自然でしょう.各プレーヤーはゲームの木のどの段階で自分 自身の行動の選択を始めようと,それから先の行動の選択が最適な利得をもたらすような選択を行なう のが合理的な行動であり,そうした合理的な行動を行なうという要請です. このアイデアを生かすために少々の工夫が必要になります.図 8.5 のゲームで,プレーヤー 2 の情報 集合から始まる部分ゲームを考える場合 2 つのノードがあるため,どのノードにどのような確率で到達 する可能性があるとプレーヤー自身が考えているかを知る必要があります.さらに,プレーヤー 2 のそ うした確率計算は,プレーヤー 1 のとる行動から生じる確率と矛盾のないことが必要でしょう.この 2 点を勘案して導入されたのが逐次均衡とよばれる概念です. 戦略のプロフィール π とは,各情報集合においてそこで意思決定を行なうプレーヤーの行動を実行可 能な行動の上の確率分布として表現するものとします.また,プレーヤーの予想またはプレーヤーの確 信 belief µ とは,各情報集合においてそこに属するノード上の確率分布を与えるものとします. 逐次均衡 戦略のプロフィール π とプレーヤーの予想 µ からなる組 (π, µ) が (1) どの情報集合からゲームを開始してもそれから後の部分ゲームにおいて π が各プレーヤーにとっ て最適の戦略となっている (2) プレーヤーの予想 µ は,戦略のプロフィール π と整合的(コンシステント)である という 2 条件を満たすとき (π, µ) を逐次均衡とよびます. 172 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業間競争— ゲーム論入門 ここで,プレーヤーの予想 µ が,戦略のプロフィール π と整合的(コンシステント)であるというの は,つぎの条件を満たすような戦略プロフィールと予想からなる組の列 (πn , µn ) が存在することをいい ます. • 戦略プロフィールと予想の列 (πn , µn ) は予想 µ と戦略プロフィールの組 (π, µ) に収束する • 予想 µn は選択可能なすべての行動に対して正の確率を付与している • 予想 µn は戦略プロフィール πn からベイズ Bayes の公式にしたがって求められた確率分布に等しい 注 ベイズの公式というのは,つぎのような条件付き確率の計算の仕方を指します.事象 A, B の確率 を P (A), P (B) とするとき,事象 A が起きた下での B の条件付き確率 P (B|A) を P (B|A) ≡ P (B ∩ A) P (A) と定めます.ここで P (B ∩ A) は事象 B ∩ A の確率です.例えば,図 8.5 のゲームにおいて,戦略プロ フィール π はプレーヤー 1 が A, L, R をそれぞれ確率 1/3, 1/6, 1/2 で行動するようなものであったとし ます.このとき 2 の情報集合におけるプレーヤー 2 の予想 µ が,ベイズの公式によって求められたもの と一致するには •L の確率 = 1 2 1 ÷ = 6 3 4 •R の確率 = 1 2 3 ÷ = 2 3 4 で与えられなければなりません. E 古典的寡占モデルと非協力ゲームの展開形 第 7 章ではクールノーが創始した古典的寡占モデルを解説しました.寡占モデルは典型的に経済モデ ルにおけるゲームの状況を表現しています.そこで,非協力ゲームの展開形によって寡占モデルを表し, 7 章で取り上げた寡占市場における均衡と展開形ゲームの解とを比較することによって,寡占市場におけ る企業行動の理解を深めたいと思います. クールノー・ゲーム 最初にクールノー Cournot による寡占モデルを非協力ゲームの展開形で表現してみましょう.展開形 は図 8.6 のようになります.クールノー・ゲームには一意的なナッシュ均衡が存在し,クールノー均衡と 一致することを確認してください.しかも,このナッシュ均衡は逐次均衡になっています. E. 古典的寡占モデルと非協力ゲームの展開形 173 : x XX XX XXX z X : x X * XXXX XXX z : j -x XX H XXX @HH XXX H z @ H H : @ HH @ H jx XXX @ X X @ XX z X @ : @ @ Rx XX 企業 1 による X -XX XX 生産・販売量の選択 z X 企業 2 による生産・販売量の選択 図 8.6: クールノー・ゲームの展開形 スタッケルベルグ・ゲーム つぎにスタッケルベルグ von Stackelberg による寡占モデルを非協力ゲームの展開形で表現しましょう. クルーノーゲームとはドラスチックに異なり,スタッケルベルグ・ゲームにおいては多数のナッシュ均 衡が存在します.具体例を用いて説明しましょう.市場の逆需要を p =a−x とし,2 企業とも M Ci (xi ) = k, i = 1, 2, つまり,一定の限界費用で生産を実行できるものとします.このとき,第 2 企業の反応関数はつぎのよ うになります. AR2 (x2 : x1 ) = (a − x1 ) − x2 M R2 (x2 : x1 ) = a − x1 − 2x2 = M C2 (x2 ) = k x2 = a − k − x1 2 (♣) 174 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業間競争— ゲーム論入門 : x XX XX XXX z : x X XX 3 XXX X z : x : X XX XXX X z j X X Q XXX : @ XXX Q XXX @Q x zXX @QQ XX XXX @ Q z Q @ : Q Q @ QQ x @ s X XX XX @ X 企業 1 による X z @ : 生産・販売量の選択 @ R @ x X XX X -XX X z 企業 2 による生産・販売量の選択 図 8.7: スタッケルベルグ・ゲームの展開形 ここで,企業 1 の生産・販売量が x1 = 0, 企業 2 の生産・販売量が a − k − x1 (x1 = 0 のとき) x2 = a−k (x1 = 0 のとき) 2 という戦略を考えてみましょう.これもナッシュ均衡になっています.しかし,この均衡は部分ゲーム完 全均衡ではありません.(♣) の式が示すように x1 = 0 で始まる部分ゲームにおいては,企業 2 の利潤を 最大にするような x2 は (a − k − x1 )/2 だからです.このゲームにおいては部分ゲーム完全均衡は 1 つだ けあり,それはスタッケルベルグ均衡で与えられます.企業 1 の生産販売量いかんによらず,企業 1 の 定めた生産販売量の下で利潤を最大にするように企業 2 は生産販売量を決定しますが,これはすべての 部分ゲームにおいて最適な選択をしていることを意味するからです. F. 独占企業と参入阻止行動 175 F 独占企業と参入阻止行動 標準的独占理論の帰結 独占企業は市場全体の需要が製品の価格販売量にどのように依存するかを考慮し,利潤が最大になる ような生産販売活動を行なう.その結果として,限界収入 M R と限界費用 M C とが等しくなるような生 産販売を行なう. 数値例 下記のような簡単なケースを考えてみましょう. • 市場の需要 — p = 9 − x x : 市場における販売量 • 生産技術 — 限界費用一定 で M C = 1, 固定費用 F C = 2.25 このとき,独占企業の利潤最大化行動によりつぎにのような生産・販売量と利潤が実現することになりま す.つまり,平均収入 AR(x) = 9 − x より,限界収入 M R(x) = 9 − 2x となり,利潤最大化を実現する のは,M R(x) = M C(x) を満たす x であることより 9 − 2x = 1 を得ます.したがって,生産・販売量は x = 4 であり,販売価格は p = 5 となります.このとき,独占企業の利潤は, 20-(2.25+4)=13.75 です. 参入阻止 Entry Deterrence 行動 上の数値例において,標準的独占論理は独占企業が p = 5 で x = 4 を販売し,13.75 の利潤を得ると予 測します.これに対し独占企業は新たな企業の参入 entry を阻止するような行動を取るというのが,参 入阻止行動 entry deterrence の議論です.このような議論によれば,数値例における独占企業は,実際 には参入を狙う企業への対策を考え,販売価格を p = 5 より低く設定し,p = 4 でより多くの販売 x = 5 を実施し,その結果利潤は 12.75 となるというものです. こうした議論の背景にある考え方によると,独占企業の持つ生産技術が特許などによって保護された 特殊な技術ではないとすると,潜在的に独占企業と同一技術を使用できる企業が参入の可能性を検討し ているものと考えられます.そこで,参入を検討している企業を第 2 企業,独占企業を第 1 企業とし,そ の生産販売量を添字の 1 と 2 で区別し,上記の数値例を用いて分析しましょう. • 独占企業が x1 = 4 の生産を行なうとすると,潜在的参入企業は p = (9 − 4) − x2 の市場価格に直 面すると考えられます.したがって,潜在的参入企業の限界収入曲線は M R2 (x2 ) = 5 − 2x2 です.利潤最大化の条件 M R2 (x2 ) = M C2 (x2 ) から,もし第 2 企業が市場に参入すれば x2 = 2 で す.その結果,市場価格は p = 9 − 4 − 2 = 3 となり,2 企業間の利潤は 3 × 2 − 1 × 2 − 2.25 = 1.75 です.その結果,潜在的参入企業は事実参入することになるでしょう. • これに対し独占企業が x1 = 5 の生産を行ない,潜在的参入企業が独占企業はこのような生産水準を維 持し続けると考えるならば,参入企業の予想する市場価格は p = (9−5)−x2 です.したがって,潜在 176 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業間競争— ゲーム論入門 的参入企業の限界収入曲線は M R2 (x2 ) = 4 − 2(x2 ) となり,利潤最大化条件 M R2 (x2 ) = M C2 (x2 ) により,第 2 企業の予想する販売量は x2 = 1.5 となります.このとき,市場価格は p = 9 − (5 + 1.5) = 2.5 ですから,第 2 企業の利潤は 2.5 × 1.5 − (2.25 + 1.5) = 0 となって,参入はしないということに落ち着くと考えられます.その結果,独占企業は 12.75 の利 潤を維持できることになります.独占企業にとっては x1 = 4 の生産を維持するよりも,x1 = 5 の 生産を維持した方が,より大きな利潤を確保できるのです. 参入阻止行動の説明に対する疑問 上の参入阻止行動の説明は,一見,説得力があるように思えます. 「参入阻止」というのは,すでに市 場を獲得している企業による潜在的参入企業に対するある意味での「脅し」行為です.合理的に判断す る潜在的参入企業がこのような脅しを信じる根拠はあるのでしょうか?言い換えると,つぎのような疑 問が,既存の独占企業の行動について生じます.つまり,潜在的参入企業が実際に市場に参入したとき, 既存の独占企業がそれまでの生産販売量を維持し続けるというのは,合理的な行動と考えられるのでしょ うか?参入後の既存企業と参入企業間の競争は,部分ゲームになっているのですから,参入前の独占企 業の生産量は参入後の参入企業の生産量に影響を与えないのでしょうか?また,逆に,参入後の参入企 業の生産量は既存企業の生産量に影響を及ぼさないのでしょうか? 独占企業・潜在的参入企業間競争の展開形による表現 このような疑問に答えるために,既存の独占企業と潜在的参入企業間の競争を展開形ゲームによって 表現した上で,考察を進めることにしましょう. 参入後のクールノー部分ゲーム 図 8.8 の展開形ゲームでは,第 1 期に独占企業が生産販売量について自由に決定し,それを潜在的参 入企業が観察した後に,参入するかしないかの決定を行ないます.第 2 期には独占が維持される場合も ありますが,複占になる可能性もあります.そして,潜在的参入企業が参入を決意すると,そこから始 まるゲームがプロパーな部分ゲームになる点が重要なポイントとなります. この部分ゲームにおけるクールノー均衡を求めてみましょう.AR1 (x1 : x2 ) = 9 − x2 − x1 より M R1 (x1 : x2 ) = 9 − x2 − 2x1 .したがって,M R1 (x1 : x2 ) = M C1 (x1 ) は 9 − x2 − 2x1 = 1 となります. よって,企業 1(既存の独占企業) と企業 2(潜在的参入企業) の反応関数は, x1 = 8 − x2 8 − x1 , x2 = 2 2 F. 独占企業と参入阻止行動 177 参入企業による生産・販売量の選択 : x - 既存の独占企業による生産・販売量の選択 X XX XX XX z X 参入 1 j @ @ @ 6 @ @ 2 -x Q Q @ R @ Q Q : x X 1 XXX XX 2 X z X x 1 PP : @ PPP @ PP qX P x @ XX XX @ XX z X @ @ : @ R @ x X XX XXX X z X Q 参入しない QQ Q Q Q 独占企業による 生産・販売量の選択 - 既存の独占企業による生産・販売量の選択 Q Q Q 1 sx Q PP PP P 1 PP q P 図 8.8: 既存企業 vs. 潜在的参入企業のゲーム で与えられます.その結果,均衡では x1 = x2 = 8 11 , p= 3 3 が成立することになります. この展開形ゲームの全体を眺めると多くのナッシュ均衡があることに気が付きます.例えば,独占企 業が潜在的参入企業への脅し (威嚇) として,参入企業が参入する場合,独占企業が 5.01 単位の生産販売 を行なうという戦略を取れば,潜在的参入企業は参入しないという選択をするでしょう.しかし,この ような脅しは均衡経路上にはありませんから,ナッシュ均衡としての要件は満たされてしまいます.(も ちろん,部分ゲーム完全均衡ではありません.) このゲームにおける部分ゲーム完全均衡は一つだけあります.それは独占企業が第 1 期に独占的利潤 を得るべく 4 単位の生産を行ない,第 2 期に参入企業共々8/3 単位の生産を行なうという戦略です. 178 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業間競争— ゲーム論入門 参入阻止行動の説明の可能性 このように図 8.8 の形の展開形のゲームでは,独占企業の合理的行動を前提として参入阻止価格の設 定を説明することは出来ないことが分かりました. 独占企業による参入阻止価格の設定が意味を持つためには,第 1 期における独占企業の行動から,潜在 的参入企業が独占企業について何らかの情報を学びうるような枠組みになっていなければならないのでは ないかと考えられます.そこでつぎのような数値例を用いてこの問題を直感的にとらえててみましょう. 数値例 潜在的参入企業は,独占企業がどのような生産技術を所有しているかについて正確な情報を持ってい ないとします.そしてこの事実を独占企業の限界費用についての情報の不確実性として表現することと します. • 参入企業の技術(費用関数によって表現) — 限界費用: M C2 (x2 ) = 3 固定費用: F C = 3 • 独占企業の技術(費用関数によって表現) — 限界費用: M C1 (x1 ) = 3 または 1 • 独占企業の限界費用が 3 であることを知ると,参入企業は参入後のクールノー均衡において 1 の利 潤を得るので参入を決定します. • これに対し独占企業の限界費用が 1 であることを知ると,参入企業は参入後のクールノー均衡にお いて −11/9 の利潤つまり赤字となり,参入を断念します. • 仮に,独占企業が第 1 期の利潤を最大にするような価格付けを第 1 期に行なうとすると, – M C1 = 3 ならば p = 6 – M C1 = 1 ならば p = 5 となるでしょう. • もし,参入企業がこの種の独占企業の行動を予想すれば,参入企業は独占企業の第 1 期の価格付け から独占企業の技術(限界費用)についての情報を得ることになります. • とすれば,独占企業は限界費用が 3 であったとしても,参入企業の判断をミスリードする(誤らせ る)ために,価格を 5 に設定することを選択する可能性があると考えられます.つまり,第 1 期に おける参入阻止価格の設定という訳です. • しかし,こうした行動を独占企業が取りうると予想されれば,参入企業は第 1 期の独占企業の価格 付けを無視する可能性も出てくるのではないでしょうか? 独占企業・潜在的参入企業間競争と不完全情報下のゲーム 独占企業の技術(限界費用)に関する情報の有無が,潜在的参入企業の意思決定に影響を及ぼす状況 を考察します.展開形ゲームによる表現としては,ゲームの木のスタートにおいて自然がランダムに初 期条件としての独占企業の限界費用を 3 または 1 に決定し,独占企業のみが初期条件を知った上でゲー G. 参入阻止ゲームの分析 179 ムが展開するという設定を考えます.したがって,初期ノードは 2 つあり,いずれの初期ノードからも 図 8.8 タイプのゲームが展開しますが,参入企業の情報集合はどちらの初期ノードから出発した経路か を区別することが出来ません. (図 8.9 参照) : X x XX XXX z : x XX XX XX z : x XX XX XX z 1 x PP PP 3 PP 1 参入 PP 限界費用 3 q P 1 1 j -x PP PP PP PP 6 PP P {ρ} q P 参入せず PPP PP PP : PP 1 P x qX P 独占企業による XXX XX z 生産・販売量の選択 2 - 参入後の独占企業の 生産・販売量の決定 6 参入企業による生産・販売量の決定 2 参入企業の意思決定 : x XX XX XX z : x XX XX XX z : x XX XX XX z 1 x P 3 PP P PP 1 参入 限界費用 1 PP q P 1 1 -x j PP PP PP PP PP P {1 − ρ} q P PP 参入せず PP PP 独占企業による : PP 1 PP 生産・販売量の選択 x qX P XX XXX z ? 参入がない場合の独占企業 の生産・販売量の決定 - 図 8.9: 参入阻止ゲーム G 参入阻止ゲームの分析 以下では図 8.9 の展開形ゲームに基づいた参入阻止ゲームの分析を進めましょう. ステップ 1:参入の予想の下でのクールノー部分ゲーム まず,つぎのように記号を定めましょう. • µ(p) — 独占企業が第 1 期の価格を p とするとき,参入企業が独占企業の限界費用を 3 と予想する 確率 180 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業間競争— ゲーム論入門 • x2 (p) — クールノー部分ゲームにおける参入企業の生産販売量 • x1 (p, c) — 独占企業の限界費用が c であり,第 1 期の価格を p としたとき,クールノー部分ゲーム における独占企業の生産販売量 均衡における独占企業の生産販売量 ● AR1 (x1 : x2 ) = (9 − x2 (p)) − x1 (p, c) より,M R1 (x1 : x2 ) = (9 − x2 (p)) − 2x1 (p, c) となります.し たがって,独占企業の利潤最大化条件 M R1 (x1 : x2 ) = M C1 (x1 より, (♣) 9 − c − x2 (p) 2 c = 1 または 3 x1 (p, c) = となります. 均衡における参入企業の生産販売量 ● x2 を参入企業の生産販売量とすれば,その期待利潤は以下のように求められます. 期待利潤 =µ(p)(9 − 3 − x1 (p, 3) − x2 )x2 + (1 − µ(p))(9 − 3 − x1 (p, 1) − x2 )x2 − 3 = 6 − µ(p)x1 (p, 3) + (1 − µ(p))x1 (p, 1) − x2 x2 − 3 したがって,期待利潤を最大にするような x2 は 6 − µ(p)x1 (p, 3) + (1 − µ(p))x1 (p, 1) (♠) x2 (p) = 2 です.その結果,(♣) と (♠) とを同時に満たす x1 (p, c), c = 1, 3, と x2 (p) は, 6 + 3µ(p) + 4(1 − µ(p)) 10 − µ(p) = 3 3 3 + 3µ(p) + 4(1 − µ(p)) 7 − µ(p) x1 (p, 3) = = 3 3 2 6 − 3µ(p) − 4(1 − µ(p) 2(2 + µ(p)) x2 (p) = = 3 3 x1 (p, 1) = で与えられます. 注 各企業の生産販売量が,µ(p) にどのような形で依存しているかに注意して,結果の解釈を試みて ください. ステップ 2:参入者の予想と参入に関する決定 潜在的参入者の期待利潤が正となれば参入しますから, 4(2 + µ)2 >3 9 となります.したがって, µ> と言うことです. ならば,参入 √ 3 3 . − 2 = 0.598 2 ならば,参入 G. 参入阻止ゲームの分析 181 ステップ 3:均衡とはなり得ない価格付け ρ の値によらず,独占企業の限界費用が 1 ならば価格を p = 5 に設定し,限界費用が 3 ならば価格 を p = 6 に設定する戦略は均衡とはなり得ません. 理由 こうした価格付けの下では,独占企業の戦略から独占企業の限界費用に関する的確な情報を潜 在的参入企業は得ることができ, (ベイズの公式により)µ(6) = 1, µ(5) = 0 とならなねばなりません.参 入者の予想 µ がこの条件を満たす場合,限界費用が 1 ならば参入を断念し,3 ならば参入することにな ります. ところが参入者のこの戦略に対し,独占企業は実際の限界費用によらず第 1 期は p = 5 の価格を設定 し,2 期に p = 6 の価格設定を行なう方が利潤が大きくなりますから,ナッシュ均衡にはなり得ません. ステップ 4:プーリング(一括)均衡 ρ < 0.598 とします.このとき,つぎの戦略プロフィールと予想が逐次均衡となります. (a) 独占企業は第 1 期の価格を p = 5 に設定する. (b) 独占企業が p > 5 の価格を設定すれば µ(p) = 1 という予想の下に参入者は参入し,p 5 の 理由 価格を設定すれば µ(p) = ρ という予想の下に参入を断念. ステップ 2 の議論により,参入者の予想 µ(p) の下で参入者の戦略は最適です.独占企業は限界 費用によらず価格を p = 5 に設定するため,価格が p = 5 のとき戦略と整合的な限界費用に関する予想 µ(p) は,事前の確率分布 ρ に等しくなければなりません.p = 5 以外の価格は均衡経路上にはありませ んから,戦略による予想に関する制約はありません. 参入者のこのような戦略に対し,独占企業が第 1 期に価格を p = 5 に設定し,第 2 期に独占価格を設定 するという戦略は最適になります.限界費用が 3 となる確率 ρ が十分小さい値になっている関係上,独 占企業の価格設定から限界費用についての情報を全く入手できなければ,参入企業は参入を断念するか らです. この種の均衡はプーリング均衡 pooling equilibrium とか一括均衡とよばれますが,異なる 2 つの “タ イプ” の独占企業が共通の戦略を実行するからです.自分の取る戦略によって相手に自分のタイプに関す る情報が伝わるのを避けるような均衡です. 182 第8章 産業組織 — パート II 戦略的 (ストラテジックな)行動 と企業間競争— ゲーム論入門 ステップ 5:スクリーニング (分離) 均衡 ρ > 0.598 とします.このとき,つぎの戦略プロフィールと予想が逐次均衡となります. (a) 独占企業が第 1 期に設定する価格は,限界費用が 3 ならば p = 6 で,限界費用が 1 ならば p = 3.76. (b) 独占企業による価格設定が p > 3.76 ならば,µ(p) = 1 の予想の下に参入企業は参入を決定 し,p 3.76 ならば,µ(p) = 0 の予想の下に参入企業は参入を断念. 理由 ステップ 2 の議論により,確信 µ(p) の下で参入者の戦略は最適である.独占企業の戦略により, p = 6 ならば M C1 = 3 であり,p − 3.76 ならば M C1 = 1 だから,p = 6 および p = 3.76 に対する µ(p) は均衡経路の外にあるため任意である.次に独占企業の戦略の最適性を確認する. (1) M C1 = 1 のとき (a) p > 3.76 に設定すると,ステップ 1 の議論により, x1 (p, 1) = x2 (p) = 10 − µ(p) 10 − 1 = =3 3 3 2(2 + µ(p)) =2 3 第 2 期の価格 P = 9 − (3 + 2) = 4 ∴ 粗利潤 = 4 × 3 − 3 = 9 (b) p 3.76 に設定すると, P = 9 − X1 から M R1 = 9 − 2X1 よって,X1 = 4 で P = 5 となり粗利潤 = 5 × 4 − 4 = 16 上記により 1 期と 2 期を合わせた粗利潤の総計は p = 3.76 に設定するのが最適となる. (2) M C1 = 3 のとき (a) p > 3.76 に設定すれば,?と同様な計算により粗利潤は第 1 期に 9 で第 2 期に 4 となる. (b) p = 3.76 に設定すれば,第 1 期の粗利潤は,3.98 となる.これは 4 より小さくなるため,この場合 参入阻止をねらうのは最適ではない. 上記の均衡において, 限界費用が 1 の独占者は,第 1 期に非常に低い価格を設定することによって, 限界費用が 1 であることを誇示する.限界費用が 3 であるような独占者はそのような低価格に甘ん じるよりも,むしろ参入阻止を断念する方がベターだと考える.以上のように異なるタイプの独占者 が取る異なる行動によって区別することが出来るので,この種の均衡をスクリーニング (screening) 均衡とよぶ.