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2013年 秋号

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2013年 秋号
人 が 好 き・街 が 好 き
い き い き・は つらつ
訪 問 看 護 師 の み な さん を 応 援しま す。
秋
AUTUMN 2013
Vol.9 No.3 通巻35号
[ランナップ]
●Basic Eye ─座談会
在宅医療連携拠点事業
─訪問看護ステーションの取り組み─
<司会>
三浦 久幸 先生(独立行政法人国立長寿医療研究センター 在宅連携医療部長)
<出席>
秋山 正子 先生(株式会社ケアーズ白十字訪問看護ステーション 統括所長) 安藤 眞知子 先生(一般社団法人在宅ケアセンターひなたぼっこ 代表理事)
白木 裕子 先生(株式会社フジケア 取締役副社長)
●QOLの観点から栄養を考える─第19回 監修:川越正平 先生(あおぞら診療所 院長)
吉澤 明孝 先生(要町病院 副院長/要町ホームケアクリニック 院長)
在宅における脱水予防
●訪問看護ステーション 発─ 私たち、こうやっています!
File23
在宅における非常時対応と災害対策の工夫
訪問看護ステーションなかいず(静岡県伊豆市)
●行ってきました!─ケアマネジャー編
第10回 日本口腔ケア学会総会・学術大会 REPORTER : 本多美子さん(遠賀町役場福祉課地域包括支援センター ケアマネジャー)
●訪問看護Q&A─ 第11回
ケアマネジャーとの連携の取り方
●FORUM
回答者 : 乙坂
佳代 先生(一般社団法人横浜市港北区医師会 港北区医師会訪問看護ステーション 管理者)
当間 麻子 先生(一般社団法人在宅医療推進会 代表理事)
「Run & Up」特別講演会:名古屋会場 REPORTER : 角田 直枝 先生(茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター 看護局長)
座談会
在宅医療連携拠点事業
─訪問看護ステーションの取り組み─
医療と介護の連携により地域における包括的かつ継続的な在宅医療を提供す
ることを目標に、平成24年度に実施された在宅医療連携拠点事業では、全国
105カ所の拠点のうち8カ所で訪問看護ステーションが採択されました。この
拠点事業では、多職種連携における課題の抽出や解決策の探索、在宅医療の効
率化の推進、地域住民への啓発、人材育成等が課せられ、採択された訪問看護
ステーションには地域の医療・介護・福祉・保健資源や地域包括支援センター
等をつなぐ連携拠点として、また、地域に根ざして横のつながりを紡ぐ推進役と
しての役割が期待されました。本稿では、採択を受けた3カ所の訪問看護ステー
ションの方々にお集まりいただき、拠点事業における取り組みから見えてきた地
域課題やその対応、地域における訪問看護師の役割を考察するとともに、持続
可能なシステムを目指した事業終了後の展望について討議いただきました。
<司会>
三浦 久幸 先生
独立行政法人国立長寿医療研究センター 在宅連携医療部長
<出席>(五十音順)
秋山 正子 先生
株式会社ケアーズ白十字訪問看護ステーション 統括所長
安藤 眞知子 先生
一般社団法人在宅ケアセンターひなたぼっこ 代表理事
白木 裕子 先生
株式会社フジケア 取締役副社長
多職種による情報と認識の共有には
共通言語の構築が喫緊の課題
三浦 まず最初に、在宅医療連携拠点事業
(以下、
拠点事業)
を通して、医療と介護・福祉関係者の調整
役として苦心されたご経験をお聞かせください。
秋山 私は東京都の新宿区と東久留米市の2カ所で
訪問看護ステーションを運営しています。平成23年
度と24年度に拠点事業の採択を受け、人口約32万
人の新宿区のなかでも人口約10万人、高齢 化 率
19.6%、要介護認定者4,000人弱の牛込地区で取り組みを行
いの職種を認め合うことが大切であることを様々な勉強会の
いました。新宿区は医療資源が豊富な在宅先進地域ではあり
場で双方にお話をしてきました。
ますが、医療職へのアプローチは難しく、介護や福祉関係者
情報を共有するには互いの専門性を尊重し、言葉や態度で
との共通言語をなかなか育てられずにいました。互いの言語
示す必要があります。そして多職種のコミュニケーションには
を通訳しつつ仲介していく作業は、双方をよく理解している訪
共通言語が不可欠です。介護職から医療職、特に医師に伝
問看護師には適役だったのではないかと思います。拠点事業
えるには介護職にもコミュニケーションスキルが求められます
では、具体的な場面が想像できるようにグループワークによ
し、医療職から介護職に伝えるときにも、専門用語を使わず
る事例検討等を取り入れ、抽象論に終わらない連携の勉強
にわかりやすく伝えるなど、コミュニケーションを取るには双
の場を多く設けて、できる限り対等に話し合える関係を作るこ
方に工夫が求められます。
とに苦心しました。
白木 我々の訪問看護ステーションも平成24年度の拠点事
安藤 私は人口約52万人の愛媛県松山市で、
訪問看護ステー
業に採択されました。福岡県北九州市は政令指定都市のなか
ションと医療依存度の高い要介護者を対象にした療養通所
では高齢化率が約26%と高く、認知症高齢者も多いことが特
介護サービスを提供しており、平成24年度の拠点事業に採択
徴です。認知症患者は、服薬管理や口腔ケア、生活の問題
されました。
等の様々な課題を抱えています。早期発見・早期介入、日ごろ
医療職と介護職との間には上下関係が生まれやすいことか
の健康管理、入退院時の情報共有をしっかり行うことで、行
ら、拠点事業ではともに協働していく対等な関係であり、互
動・心理症状をある程度抑えることもできますが、各場面でな
2 Vol.9 No.3
かなかうまく医療と連携できていないのが現状です。
今後は訪問看護の体制
そこで拠点事業では、各職種が共通言語を使って円滑な
を厚くし、介護保険と医
情報共有ができるように
『認知症連携パス』を作成しました。
療保険という二つの仕組
具体的には、認知症になる前に、自分の大切なことやどのよ
みのなかで柔軟に訪問看
うな生活をしてきたのかを入退院時に患者や家族が医療側に
護サービスが提供できる
言語化して伝えることができる連携ツールを作成したほか、
ような、経済的基盤も含
介護職のサポートや一般市民への啓発に取り組みました。
めた制度的な裏付けが必
地域連携の要としての期待に応えるには
量と質の確保、制度的裏付けが不可欠
三浦 訪問看護師に求められている役割は各地域によって異
なると思いますが、どのような支援をどういった形で提供すれ
要になってくるのではない
でしょうか。
三浦 久幸 氏
依然として残る病院看護師との温度差
積極的な働きかけで在宅の多様性をPR
ばよいのかという点について、お考えをお聞かせください。
三浦 訪問看護を行うためには、病院や施設との連携は必
秋山 新宿区内には訪問看護ステーションが18カ所あります
要不可欠です。そこで、
連携を図る上で大切にしていることや、
が、小規模ステーションが多く、人員不足のためにできること
拠点事業を進める際に苦労された経験等についてお聞かせく
が限られています。しかし、住み慣れた地域で在宅生活を続
ださい。
けるためには、訪問看護師の増員と同時に質を高めていくこと
秋山 平成22年度および24年度の診療報酬改定で、退院時
は必要不可欠です。また、訪問看護ステーションへの経済的
の連携加算や外泊時の訪問看護基本療養費の新設等、訪問
支援についても様々な提案をしていきたいと思っています。
看護の背中を後押しする施策が講じられた結果、退院支援
地方だけではなく、都市部でも一人暮らしの高齢者や認知
に際して訪問看護師が病院の中に積極的に入るようになり、
症患者が増えてきていますので、医療ニーズを早期発見し、
病院でも連携部署に看護師を配置する動きが進みました。
重症化しないように支援していくシステムが必要であり、訪問
医療連携に関する相談事業を2年間にわたり行ってきた拠
看護師にはその役割が期待されています。
点事業を通して、次第に院内の各部署間の連携事情が見え
安藤 訪問看護師には、地域の福祉職や介護職と医師との
てきました。地域に直接かかわる部署とそれ以外の部署とが
コミュニケーションのサポート役が期待されていると思います。
スムーズに連携できる仕組みを育てることも、病院外に位置
ですから拠点事業では、地域の会合や研修会に参加して、
する訪問看護師の役割ではないかと考え、地域での取り組み
訪問看護師が地域にいることをアピールしつつ、顔が見える
結果を繰り返し病院にフィードバックすることで、病院との信
関係作りを図り、タイムリーに情報交換できる地域のネットワー
頼関係を築いてきました。
ク作りを行いました。
安藤 松山市では、急性期を過ぎてもなかなか在宅に結びつ
介護職には、医療に関する知識を深めたいという気持ちが
かないケースが多いのが現状です。拠点事業では、半年間に
強くあります。そこで拠点事業を機に、新しい医療的ケアを
わたり特定機能病院で、重度者へのケアやターミナル患者の退
提供したり医療機器を導入するときには、介護職や福祉職に
院支援について在宅療養のイメージを持ってもらえるよう事例を
も声をかけ、事業所で学習会を開いたり、医療機器の業者を
挙げて具体的に説明をしたり、診療報酬の算定等も含めて訪問
招いて共に学ぶ機会を作りました。こうして看護職を理解して
看護の実際について毎月お話をさせていただきました。病院や
いただくことも含めて、介護・福祉との連携強化を図りました。
施設の看護師にも
「こういうときは訪問看護師に連絡をしよう」
と
白木 介護保険の受け皿となる施設が多様化し、医療ニーズ
思ってもらえるきっかけを作れたのではないかと思っています。
の高い方々が在宅復帰をしていくなかで、訪問看護師に求め
また、
「連携」
という言葉がよく使われていますが、病院と在
られていることが多様化してきています。最近はグループホー
宅と施設の間には、情報を共有するための共通のツールがあ
ムでの看取りも増えており、他の訪問看護ステーションとの連
りません。そこで、言葉だけではなく実際に活用できる共通
携も必要になってきていますが、やはりマンパワーが足りませ
言語やツールを作っていく必要を感じています。
ん。今後、地域包括ケアシステムを推進していくには、訪問
白木 介護保険が始まって12年が経過しましたが、病院内
看護師の量と質を確保していくことが重要になると思います。
の医師・看護師と在宅との間にはまだ温度差があります。本人
2013 年 秋号
3
座談会
在宅医療連携拠点事業
地域包括支援センターの職員にケア会議に参加いただ
─訪問看護ステーションの取り組み─
き、連携を深めていきました。
また、障害者福祉や介護保険にかかわる市や県の職
や家族が在宅復帰を希望されてい
員とも、以前から地域の課題を話し合いながら顔の見
ても、病院看護師の意向で後方支
える関係を築いてきたことも大きかったと思います。拠
援病院に送られてしまうなど、本人
点事業終了後も看護協会や医師会が引き続き支援して
の希望とは異なる支援が始まってし
くださっているので、心強く感じています。
まうケースもあります。地域包括ケ
白木 北九州市では、行政が医師会との仲介役として
アシステムを円滑に機能させていく
には、病院看護師にも訪問看護や
秋山 正子 氏
バックアップしてくださいました。また、認知症患者の家
族が行政に働き掛けてくださったこともあり、行政との間
在宅の多様性を理解いただく必要があると感じています。
で事業の進め方について困ることはほとんどありませんでした。
今回の拠点事業では、様々な勉強会の場に急性期病院や
認知症の場合、口腔ケアは不可欠なので、歯科医師会の
リハビリテーション病院のソーシャルワーカーが参加してくれ
先生方にもご協力いただきました。また、北九州市の医師会
ました。訪問看護師がパイプ役になって在宅移行がスムーズ
については、今回の拠点事業においては具体的なご支援とい
に成功した事例等について一緒に勉強したことで、訪問看護
う形にはなりませんでしたが、この事業の重要性をご理解い
のことを知っていただくことができ、ある程度の成果があった
ただいた医師会の先生方には、在宅チーム医療を担う人材育
と思っています。
成事業であるリーダー研修に参加いただきました。今回の事
医師会や行政との調整・連携
地域課題の共有が協働の鍵に
三浦 地域全体に在宅医療の波を起こすためには医師会や
行政の協力が不可欠です。そこで、地域の医師会や行政担
業では、行政の支援、特に介護保険課からの全面的支援を
得られたことが大きな助けとなりました。
地域の連携拠点、住民の窓口として
在宅生活を支え、医療的ケアを後方支援
当者との調整・連携において重要なことや、拠点事業におい
三浦 これまで取り組まれてきた事業をさらに発展させるため
て気を付けた点についてお聞かせください。
に、今後はどのような形での展開を考えておられるのか、新
秋山 拠点事業は、新宿区医師会の地区医師会の一つであ
たな事業企画案等がありましたらお聞かせください。
る牛込地区医師会と組んで行いました。医療依存度の高い患
秋山 平成23年度の拠点事業に採択されてから、特に高齢
者を開業医が一人で受け持つのは困難ですので、訪問看護ス
化が進んでいる新宿区内の団地の空き店舗を利用して「暮ら
テーションが中継点となって、外来中心の開業医と在宅療養
しの保健室」
を作り、地域住民の相談事業を行っています。
支援診療所との診診連携の仲介をしながら地域の仕組みを
2年目は年間1,600件を超える来所があり、約半数が医療相
変えていくことを提案しました。地区医師会と協力して、こう
談で、うち3割はがん相談でした。医療や介護という区分で
した主治医を支える24時間バックアップ体制を敷いたところ、
は分けることができない相談を受けることも多く、
「暮らしの保
看取りまでできたケースもあります。
健室」
を窓口に様々な機関とサービスとを結び、地域や在宅で
一方、新宿区では以前から在宅医療の整備を区全体の重
の生活を支えることの重要性を感じました。訪問看護が地域
点課題の一つに挙げ、平成21年度から熱心に取り組んでい
で培ってきた経験が生きる場所だと思うので、事業助成がな
ますが、同じ新宿区のなかでも医療政策担当者と介護保険
くても今後も続けていきたいと思っています。
担当者との考え方には違いがあることが見えてきました。訪
また、近隣に大きな病院が多数存在するため医療依存度
問看護師としては、その担当者間の調整に難しさを感じるこ
の高い人が地域に帰ってくるのですが、短期入所療養介護が
ともあります。
少ない地域なので、訪問看護ステーションとしては、訪問看
安藤 松山における拠点事業では、愛媛県医師会からの支
護と小規模多機能型居宅介護(通所・宿泊・訪問介護)
を一
援、協力がありました。療養通所介護サービスは、
「安全・サー
体的に提供する複合型サービスにチャレンジしていきたいと
ビス提供委員会」を半年に1回開催することになっていますが、
計画しています。住み続けられる町を作っていく一助になれ
その委員として協力していただいている医師会の先生や行政、
ばと願っています。
4 Vol.9 No.3
安藤 拠点事業では、介護職のスキルアップ活動の一環とし
ただけますでしょうか。
て事前アンケートで訪問介護員が不安に感じている内容で回
秋山 日々多くの苦労は
答の多かった食事・栄養に関する研修を行ったところ、介護
あっても、訪問看護という
職の間にも予防の段階から訪問看護師がかかわるべきという
仕事自体には、皆さん喜
意識が高まりました。栄養については、現在、高齢者におい
びを感じて働いていらっ
て低栄養者が高頻度に認められていることもあり、今後も継
しゃると思います。その訪
続して取り組んでいきたいと考えています。
問看護にかける想いを内
また、拠点事業では在宅連携システムを開発して試験的運
輪で語るだけではなく、も
用を行いましたが、事業終了後も県医師会や訪問看護ステー
う少し外向きに情報発信
ション連絡協議会からの助成を受けて発展させていこうとい
していって欲しいと思いま
う構想が進んでいます。
すし、そのお手伝いができればと思っています。
やはり、新たな企画を立てるよりも、拠点事業で培った成
また、地域包括ケアについては、高齢者を対象にしたケア
果やそこで浮き彫りになった課題をもとに、拠点事業でまい
という狭義の概念が広まってしまっていますが、本来は、日
た種を育て、発展できるように継続的に地域にかかわっていく
常生活圏域ですべての人が最期まで生活できる町作りを意味
ことが重要ではないかと思っています。
します。
「暮らしの保健室」の事業を通して、障害者や子育て
白木 我々は今回、
『認知症資源マップ』
を作成し、介護保険
世代も含めたすべての人に地域包括ケアが行き渡る仕組み作
における認知症の社会資源に関する情報の一元化を図り、認
りが必要だと痛感しています。連携拠点には、横の関係をつ
知症の家族会や地域包括支援センター等に配付しました。認
なぐという機能があります。訪問看護師には、そうした場面
知症で医療ニーズが高まってくると入所を断られる施設もある
で制度の枠を超えた活躍が期待されていると思います。
ので、できるだけ速やかに在宅サービスにつなげられる取り組
安藤 地域で働く上で、看護職は医療職と介護職、福祉職
白木 裕子 氏
みを今後も続けていく必
をつなぐという重要な役割を担っていることを実感しています。
要があると感じています。
制度を駆使して患者や家族の療養生活を支え、様々な新しい
グループホームや小規模
ことに挑戦できる立場にいるということが魅力の一つでもある
多機能型 居宅 介護の場
と思います。
合、医療対応が課題とな
自分たちにはどのような看護ができるのかを発信することに
ります。そこで拠点事業で
よって、いろいろな人が手と手を結び合うことができます。そ
は、例えば熱が出たときの
れが広がれば、大きな輪になります。訪問看護はしんどいこ
電話口でのチェック事項を
ともありますが、職種を超えて多くの人とつながることのでき
マニュアルにまとめた成果
る仕事だと思っています。
物等を作成しました。こう
白木 在宅では実生活での経験や病院での看護経験で培っ
した成果物を普及させて
た技術や知識をすべて活用することができますので、地域で
いくことで、施設における医療対応を訪問看護が後方支援し
働くということは、看護師にとって面白みがたくさんあるフィー
ていく取り組みを今後も継続していきたいと思っています。
ルドだと思います。われわれはその面白さをもっと発信し、若
それから、医療依存度が高い人でも住み慣れたグループ
い世代に伝えていく必要があると感じています。今の若い方
ホームで当たり前に看取りを行える支援をこれからも継続して
には、地域の多様性が面白いと思えるような看護師になって
いきたいと考えています。
いただきたいですね。
安藤 眞知子 氏
職種や制度の枠を超えて
地域で働く訪問看護師の魅力とは
三浦 医療職と介護職、福祉職が対等な関係性のなかで患者
や家族の地域での生活を支える仕組みを作っていくには、訪問
看護師が地域を紡ぐような形で広げていかないとうまく連携でき
三浦 様々な取り組みの成果についてお話しいただきました
ないということを確信しました。その意味でも、訪問看護師にとっ
が、どの地域でも最初からうまくいったわけではないと思いま
て勇気付けられるお話を伺うことができました。本日はお忙しい
す。最後に読者に向けて、地域で働くことの魅力を語ってい
ところ、非常に貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
2013 年 秋号
5
から
QOLの観点から
栄養を考える 第
19回
2013年1月、日本緩和医療学会から、生命予後が約1カ月以内の終末期がん患者に対する
「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」が発行されました。
在宅医療では終末期がん患者だけでなく、高齢者に対する脱水治療の一つの方法としても皮下輸液が再評価されています。
そこで本稿では、長年にわたり在宅医療に取り組んでおられる吉澤明孝先生に、
在宅における脱水予防や皮下輸液についてお伺いしました。
監修:川越正平 先生(あおぞら診療所 院長)
在宅における脱水予防
要町病院 副院長
要町ホームケアクリニック 院長
吉澤 明孝 先生
■在宅での脱水の考え方
終末期の脱水との違いを知る
脱水の問題を考えるにあたって、まずは
「脱水はすべて、患者にとって悪い状態で
ある」
という誤解を解いておく必要がありま
す。元気で食事もできる高齢者が熱中症
等で脱水になってしまった場合は、脱水を
補正する必要があります。しかし、例えば
改めて説明した上で、
「口か
ら含ませる程度でも良いんで
すよ」
と話すようにしています。
このように、脱水治療や輸液
の使い方一つとっても、在宅医療と病院
も、1日に1回でも良いので、家族には交
医療とは考え方が異なるのです。
換したおむつはすぐに捨てずに、患者の
尿や便を観察してもらうように指導してい
■在宅での脱水予防
ます。普段から家族がおむつの確認をす
おむつ等の日常観察が重要
ることで、普段と様子が違うときには、す
がんや老衰、認知症、脳梗塞等の終末期
在宅では、脱水の初期症状を見逃さな
ぐに気づくことができるからです。
患者が脱水になったからといって、大量の
いことが大切です。具体的には、表1に挙
家族への指導という点では、家族は患
輸液で対応することは、むしろ患者に苦痛
げた兆候を見逃さないようにしてください。
者が経口摂取している液体だけを
「水分」
を与えることになりかねません。これらの終
なかでも尿の観察については、他人に任
と把握している場合が少なくありません。
末期患者は、ある程度脱水の状態である
せず、家族がしっかりと観察することが
しかし実際には、おやつのゼリー等の食
方が苦痛が少ないことを知っていただきた
重要です。おむつに染み込んだ尿の色、
べ物にも水分は含まれています。この点
いと思います。もし、その状態のときに輸液
においの濃さ、おむつを替える回数が、
を家族によく説明し、患者の水分摂取量
等で余分な水分を入れてしまうと、痰が増
脱水を知る重要な手掛かりとなります。ま
を正確に把握することが大切です。
えたり、むくみが出たり、胸水や腹水がた
た、毎日おむつを交換していると、交換
まってしまうなどの問題が発生します。です
時のおむつの重さで尿量の変化を感じる
から、在宅において脱水を考える場合は、
ことができるようになります。
一律に問題を捉えずに、患者の状況に応
しかし、最近では介護保険サービスが
私は在宅医療に携わってきた1994年当
じて脱水を考える必要があります。
充実してきたことで、地域によっては夜間
時から、脱水予防のために皮下輸液を
在宅で患者を介護している家族は、た
にもヘルパーが巡回訪問してくれ
とえ事前に患者の病態や経過を十分に説
るようになり、家族があまりおむ
明されていたとしても、終末期患者が食事
つ交換をしなくて済むケースも出
を取れず、水も飲めなくなると、脱水を補正
てきています。しかし、私は患者
するために輸液をして欲しいと望むことが
の健康管理の上で、家族が患者
少なくありません。家族がどうしても輸液
の変化に気付けることが必要と考
をして欲しいと訴えてくる場合、私は、輸液
えていますので、もし家族がおむ
によって患者本人の苦痛が増えることを
つ交換をする必要がない場合で
6 Vol.9 No.3
■在宅で再注目される皮下輸液
在宅での管理のしやすさ
表1 脱水を見逃がさないためのポイント
・唇が乾燥している
・血管がつぶれて浮き出ていない
・皮膚がカサカサしている
・尿が出にくい
・普段よりも尿の色が濃く、においがきつい
・脈が早い
・血圧が低い
行ってきました。皮下輸液を選択するの
し、そこを強めにつまみながら水平に穿
患者を十分に観察してほしいということで
は、静脈路確保が難しい場合です。こ
刺すれば留置が可能です。
す。血圧や検査データだけではなく、皮
の場合、中心静脈栄養という選択もあり
私が診察した事例として、静脈から輸液
膚の様子、尿の量やにおい、食事の状
ますが、侵襲が大きく、感染のリスクも
をしている終末期患者のケースを紹介し
態等を十分に観察した上で、脱水の有無
無視できないことから、水分補給だけが
ます。その患者は血管が確認しづらく、
を見極めてください。また、そういった観
目的なのであれば皮下輸液で十分だと考
何度も針を刺し変えることであざだらけに
察方法を、家族にもしっかりと指導して欲
えています。また鎮痛剤のルートとしても
なっており、患者本人も針を差し替えるたび
しいと思います。
皮下投与は便利だと思いますし、管理の
に痛みや苦痛を訴えていました。その患者
「脱水」
といっても、それが回復できる
しやすさも皮下輸液のメリットです。
の診察を担当することになった私は、早速
脱水なのか、あるいは終末期の過程での
しかし現状では、皮下投与が可能な薬
皮下輸液に変更することにしました。終末
脱水なのかを区別して考えなければなり
剤は、生理食塩液等の一部の薬剤に限ら
期ですから、それほど水分補給の必要は
ません。熱中症等の脱水であれば、すぐ
れています。今後、もし適応が広がれば、
認めませんでしたが、家族が点滴を強く
に対応すべきですが、この場合も末梢血
在宅療養患者の益になると考えています。
希望したため、そうであれば生理食塩液
管からの輸液にこだわる必要はなく、生
その他、穿刺によって硬結ができてし
の皮下輸液にしましょうと説明しました。
理食塩液による皮下輸液で対応する場
まうなどのデメリットもあるので、皮下輸
生理食塩液の皮下輸液に変更したこと
合もあります。
液に関する主なメリット・デメリットを表2
で、本人の苦痛は減少しました。また、
また、終末期患者の場合には、その人
に紹介します。
抜去や漏れの心配がないため、家族は
にとって本当に輸液が必要なのか、それ
皮下輸液の方法としては、持続皮下注
以前のように長時間にわたって点滴の様
が患者のためになるのかを、今一度考え
射および輸液では翼状針なら27Gが皮下
子を見守っている必要がなくなり、介護
ていただきたいと思います。
そのためには、
注射の適応があります。また、当院では
が楽になったと喜んでもらえました。そし
終末期患者はどのような過程を経て亡く
長期留置にはインスリン持続皮下注射用
て静脈への点滴との大きな違いは、患者
なるのかということを、訪問看護師は理
のエラスター針
(25Gのピュアラインコン
本人にとっても介護をする家族にとって
解しておく必要があります。
フォート)
を使っています。留置針の挿入
も、拘束感がなくなることです。手足が
患者は亡くなる1週間くらい前になると
場所は、腹部や胸の上部等が一般的で
自由になるだけで在宅で楽しく過ごせるよ
飲食をしなくなり、眠っている時間が長く
す。ただし、肥満者の場合はカテーテル
うになったことには、大きな意味があると
なります。これを私は、
“身を引く”
と表現
がずれてしまうことがあるので、腹部より
いえるでしょう。
しています。この状態のときに無理に点
も胸の方がより確実です。高齢で痩せて
■終末期の脱水を理解する
おり、皮下脂肪がない患者の場合は、穿
滴をしてしまうと、患者に痰やむくみによ
る苦痛を与えることになってしまいます。
刺できる部位を見つけられずに戸惑うこ
在宅ならではの脱水予防・治療をしよう
とがあるかもしれません。そのような場合
在宅での脱水予防において、訪問看
や看護師の役割です。
は、腹部や胸等の指でつまめる場所を探
護師の皆さんにお願いしたいのは、まず
患者は、身を引いた後、いよいよ旅立
こうした見極めと家族への説明は、医師
つ準備に入ります。この段階で、
表2 皮下輸液のメリットとデメリット
メリット
人によっては生命が最後の燃焼
デメリット
をすることがあります。例えば、
急に元気になって家族と最後の
・血管の確保が難しい状態でも輸液が行える
・注入できる薬剤が制限される
食事をしたなどの事例もありま
・出血や感染のリスクが少ない
・皮膚に硬結が生じる
すので、こうした終末期患者の
・在宅での管理が容易にできる
・抗凝固薬や抗血小板薬等を使用し
・抜去後の再挿入も苦痛が少ない
ている場合、
穿刺部があざになりやすい
姿をしっかりと理 解した上で、
在宅医療ならではの脱 水の予
防・治療を行うことが重要です。
2013 年 秋号
7
在宅医療は
“多職種協働”時代への転換期を迎えています。
本コーナーでは連携の重要性に注目し、様々な施設・団体を取り上げ、その活動を随時紹介していきます。
訪問看護
ステーション発
............. File
23
在宅における非常時対応と
災害対策の工夫
訪問看護ステーションなかいず(静岡県伊豆市)
ステーション管理者の石井由美さん(左)
と、
訪問看護師の後藤惠子さん(右)
命を守るために欠かせない
停電対策
方等、機会をみつけては訪問先で実際に
人工呼吸器等の医療機器使用者
また、実際に使用している本人や家族が困
にとって、電力の供給が途絶えるこ
ることのないよう、折に触れて停電対策の説
とは生命の危険を意味します。東日
本大震災では長引く停電や計画停
電が医療機器の使用を困難にし、
行ったり、業者を交えて勉強会を開きました。
ステ ーションに用 意 され たヘ ル
メットと防災用具。スタッフの身の
安全を守ることも大切です。
医療現場を混乱させたことから、震災以降、
防災・減災への関心が高まっています。そ
利用者宅が一目で 分かる災害マップ。
崖崩れが起きやすい場所も把握できる
ため、救助ルートの確認にも役立ちます。
機器の使用状況を把握し、
きめ細かに対応
明をするように心掛けました」
利用者の災害対策への
意識を喚起する
災害への備えは、最終的には、本人や家
族の判断で行うことになります。後藤さんは、
こで今回は、医療依存度の高い在宅療養
今まで以上に細かいところまで停電対策
より有効な対策が行えるよう、わかりやすい
者への災害対策に力を入れている訪問看
の必要性を感じるきっかけとなったのは、東
情報提供を心掛けています。
護ステーションなかいず(静岡県伊豆市)の
日本大震災後の計画停電でした。決められ
「例えば人工呼吸器は、機種によっては外
取り組みを紹介します。
た時間内の停電とはいえ、電動の医療・福
部バッテリーが標準にパックされているものも
同ステーションは、伊豆半島の中山間地域
祉機器を用いて生活している療養者に支障
ありますが、長時間の停電が起きた場合を考
に位置しています。人口約3万3,800人、高齢
が出るケースは少なくなかったと話すのは、
えると、予備の外部バッテリーや発電機等の
化率33.3%の伊豆市を主要エリアに、訪問
訪問看護師の後藤惠子さんです。
備えがあると安全です。外部バッテリー購入
看護サービスを提供しています。
「例えば、エアマットは機種によっては停電
は、障害者等日常生活用具給付事業を利用す
同ステーションの災害対策は、人工呼吸
によって設定がリセットされてしまうものも
れば補助が受けられます
(行政によって対応が
器を使っている難病患者とのかかわりがきっ
あり、操作に不慣れな高齢者に電話で再設
違うため確認が必要)
。停電時でも余裕を持っ
かけでした。伊豆半島は地震や台風のほか、
定の説明をすることは容易ではありませんで
て次の行動へ移せるように、停電後の機器の
内陸部は土砂崩れ、海岸部は津波と、様々
した。これがもし急な停電だったら、さらに
使用可能時間等を把握しておくことが大切で
な災害の危険性がある地域です。停電対策
混乱することは間違いありません。普段から
あることを伝えて注意を喚起しています」
として、人工呼吸器を使用している利用者
医療・福祉機器の扱い方をよく理解しておく
さらに普段の訪問時には、ベッド近くにた
や痰吸引の頻繁な利用者は電力会社や消防
必要があると感じました」
んす等の倒れてきそうな物はないかを確認
署に情報提供し、優先的に対応していただ
そこで行ったのが、訪問先での医療・福祉
し、賞状の額等の頭部に落ちてきそうな物
けるように依頼しています。一方、利用者や
機器の使用状況を把握することでした。例え
は移動させてもらったり、押し入れの戸は地
家族には、いざというときでも電源確保が可
ば、エアマットの機種名を調べた上で非常時
震の際に開かなくなる可能性があるため、酸
能なように、発電機、呼吸器の外部バッテ
の対応が一目でわかるように一覧表にまとめ
素ボンベは玄関等の取り出しやすい場所に
リー、車から電気を引くためのインバーター
るなど、様々な機器の停電時の対策について
置くように指導をするなど、利用者の療養環
の装備を勧めるなどして、災害時の安全確
整理し、スタッフ皆で情報共有をしました。
境にも目を配り、常に非常時の対応を本人や
保を行い、同時に非電源での対応も指導し
「電動リフトが途中で止まったらどうすれ
家族に意識してもらうように努めています。
ています。
ばいいのか、在宅酸素のボンベの切り替え
「災害対策は自分の身を自分で守ることが
8 Vol.9 No.3
石井俊一さんのベッドサイド
❷
❶
❸
❶ 壁に掛けられた緊 急 時 の 連 絡マ
ニュアル。
❷ベッド近くに置いているアンビュー
バッグ。
❸停電時のリフター操作方法を示し
た説明書。ベッド近くに置くことで、
非常時には家族以外の人でも対応
できるように備えています。
❹物を置かず、コード類は邪魔になら
ないようにまとめるなど、整理整頓
された床。
その他、訪問看護師は各家庭の訪問
時には、ベッド周りに落下しやすい物
(壁に掛かっている賞状等)や家具が
ないかを確認し、安全確保の指導を
します。
❹
❺
❺ 伝の心
石井さんには、わずかに動く指先を使って
文字を入力する“伝の心”
という機器を使っ
て取材に応じていただきました。
基本であり、私たち訪問看
護師にできるのは、そのた
めにはどうしたら良いのか
医療・福祉機器を駆使しながら生活をしている石井俊
一さんは、停電対策として、まずは命を守るために
呼吸器のバッテリーの充電時間を必ず調べておくこ
とを、同じく在宅で療養されている方に伝えたいとい
う思いがあります。また、自家発電を取り入れること
で、非常時でも電力に困らないように工夫をしてい
るなど、石井さんから見習うべき点は多くあります。
ラー発電のシステムを導入しており、水や食料、
経腸栄養剤、ガソリンの備蓄も行っています。
そんな石井
(俊)
さんが、自身の経験から得
た災害対策のポイントは2点あります。まずは、
自宅周辺の環境を把握しておくことの必要性
です。住宅が密集しているか、河川に対して
土地の高さはどうか、土砂崩れの危険性は
あるかなど、環境に合わせて対策を考える
あります。自分が生きて
必要があると、石井
(俊)
さんは指摘します。
いれば少しでも多くの人
そしてもう一つは、電気の問題です。東日
を助けられるかもしれ
本大震災を外出先の建物の3階で被災した
ず、そこは冷静にならな
石井
(俊)
さんは、停電でエレベーターが停止
ければなりません。正し
するという経験をしました。車に充電器を置
い情報があってこそ、
いてきてしまった石井
(俊)
さんは、1階の駐車
必要な支援を届けるこ
場まで降りることができず、充電が切れる時
とができるのです」
間が迫ってくるなかで、とても怖い思いをしま
さらに、それは地域
した。この経験を通して、人工呼吸器の使
全体にもいえることだ
用可能時間を把握しておくことがいかに大切
と、石井
(由)
さんは考え
かということや、停電に備えた対策を常に取
ています。
れるように普段から準備をしておくことの大
「一人の利用者のと
切さを痛感したそうです。
を一緒に考えることです。災害対策の情報
ころへ複数の職種が集中してしまうのではな
この震災の経験を踏まえて、今では毎年
をわかりやすく提供し、その方の環境に沿っ
く、多くの人を守れるように人手を分散させ
1回、石井
(俊)
さんの自宅で防災会議を開い
たアドバイスをすることで、災害対策を行っ
る体制が必要です。さらにいえば、災害時
ています。ケアマネジャー、訪問看護師、ヘル
ていただくきっかけを作るサポートが求めら
に最も大切なのは自助、共助です。専門職
パー、保健師、医療機器メーカー、行政職員
れているのではないでしょうか」
だけではなく、近所の助け合いも含めた地
等、石井
(俊)
さんにかかわるすべての人が集ま
域全体のネットワーク作りが必要と考え、
り、非常時の対応について話し合っています。
2012年に伊豆市地域ケア会議で問題提起
「石井さんご夫婦からは、
『自分たちの身は
当ステーションには、スタッフ間で統一して
し、2013年から地域に根ざしたネットワーク
できる限り自分たちで守るから』
といわれて
いる緊急時の約束事が 2 つあります。1つ目
構築を視野に入れた検討が始まりました」
います。非常時に、誰がどのようなサポート
正確な情報を基に
冷静な判断と適切な行動を
は、スタッフ自身の安否の連絡を即座に行う
ことです。SNSを活用した連絡体制を作り、
協力し合える人のつながりが
安心をもたらす災害対策
を提供できるのか、家族にできることは何か
ということを擦り合わせる機会があること
は、非常に有意義だと感じています」
と、石井
地震がきたらすぐに自分の安否と所在を報告
在宅での災害対策で何よりも大切なのは、
することに決め、小さな揺れのときはメールや
そこで暮らす人が主体となって、できる備え
LINEで訓練をしています。2つ目は、大災害
を自ら行うことです。石井俊一さんは、その
本人や家族も含めて防災・減災への意識
時や警報時にはどこにいても必ずいったんは
ことを実践している利用者の一人です。
を共有し、協力し合える関係を普段から築
事務所に戻ることを取り決め、利用者にも伝え
石井
(俊)
さんは筋萎縮性側索硬化症
(ALS)
いておくことは、何よりの安心をもたらしてく
ています。それは、正しい情報を基に適切な
のために気管切開し、人工呼吸器等の様々な
れる最大の災害対策なのかもしれません。
行動を取るために必要なことだと、ステーショ
医療機器を用いて生活しています。介護者も
ン管理者の石井由美さんは考えています。
自分もできるだけ楽に生活できるようにと多
「看護師は正義感が強く、目の前のことに必
くの福祉用具を活用し、住宅改修等の対応
死になりがちです。しかし、災害の状況をよく把
を行ってきました。災害対策については発電
握しなければ、二次災害に巻き込まれることも
機やバッテリーの備えはもちろん、自宅にソー
(由)
さんは話します。
施
設
D
A
T
A
● 住 所:静岡県伊豆市柏久保620-1
● 管 理 者:石井由美
● スタッフ概要:看護師4人、理学療法士3人、
作業療法士1人(すべて常勤)
● 利 用 者 概 要:約110人
(介護保険80%、医療保険20%)
2013 年 秋号
9
編
ジャー
ネ
マ
ケア
第10回 日本口腔ケア学会総会・学術大会
口腔ケアへの注目の高さを実感
正しい知識を身に付ける必要性を再認識しました
2013年6月22~23日、口
本多美子さん
遠賀町役場福祉課
地域包括支援センター
ケアマネジャー
ラインについて、治療前から治療後までの継続的な口腔状
腔ケアの普及、啓発に努める
態の管理が重要であるとの前提の下、口腔有害事象の処置
日本口腔ケア学会の第10回総
と経過観察、予防のためのアプローチといったガイドライン
会・学術大会が、九州大学医
の概要が紹介されました。ポイントは、一度発症した口腔
学部百年講堂・同窓会館にて
障害は治療が難しく、計画的かつ継続的な予防戦略が肝要
開催されました。2011年には
であること、また、長期経過後に二次がんへ移行する恐れ
「歯科口腔保健の推進に関す
があることなどから、生涯にわたる評価が求められることで
る法律」が制定されるなど、口
す。今後は、このガイドラインが臨床効果のみならず経済
腔ケアの重要性は広く認知さ
的な効果にもつながることが、大いに期待されています。
れ、社会的ニーズは高まってい
目の高さを象徴するように、今
様々な疾患と口腔状態との
関連性が明らかに
大 会の一般 演 題 応募数は過
特別報告のほかにも、疾患と口腔との関連性をひもとく
去最多の計140題となりました。その大会の様子を、今回は福
興味深い講演が、数多く用意されていました。糖尿病をテー
岡県の遠賀町役場福祉課に勤務しているケアマネジャーの本
マとした特別講演
「糖尿病と歯周病の関連性から考える口腔
看護師と保健師の経験を生かして、現在は
ケアマネジャーとして地域で活躍する立場か
ら、本多さんに学会の様子をリポートしてい
ただきました。
ます。こうした口腔ケアへの注
多美子さんにリポートしていただきました。
ケアの 意 味と 意 義」
では、歯周病が進行
継続的な口腔管理で
造血幹細胞移植患者の予後を改善
した2型糖尿病 患者
第10回という節目を迎えた日本口腔
用した歯周治療を施
ケア学会総会・学術大会は、
「口腔から全
すことでHbA1cが改
に対して抗菌薬を併
身の健康に貢献する」というメインテー
善したという疫学研
マの下に、全身状態と口腔との関連性や
究 が 紹 介 さ れ まし
ケアの在り方について学ぶことのできる
た。この 研 究 で は、
有意義な大会となりました。様々な領域
で注目されている口腔ケアですが、現在、
議論が進められているガイドラインに焦
第10回目となる記念すべき学術大会が九州大学で開催され、全国から約1,000名の参加
者が集まりました。一般演題の応募は、過去最多となる計140題
(口演82題、ポスター
58題)
となりました。
重症の歯周病を長期
間放置することでイ
ンスリン作用が障害
点をあてた企画として、特別報告
「造血細胞移植患者の口
される可能性があることと、歯周治療によって糖尿病の進
腔ケアガイドラインを完成するにあたって」が今大会の目玉
行を予防できる可能性があるとの見解が示されました。
の1つとなっていました。
また、関節リウマチや全身性エリテマトーデス等の膠原
造血幹細胞移植患者は、大量化学療法や全身放射線照
病と口腔との関連性を取り上げた教育講演
「膠原病と口腔ケ
射により口腔粘膜が障害を受けやすく、それによって重篤な
ア」では、膠原病のなかでも特に関節リウマチにおいて歯周
感染症を引き起こすことがあります。そのようななかで、適切
病がリスク因子になりうること、膠原病自体が口腔粘膜障
な口腔ケアを行うことで予後が良くなることは知られていま
害を引き起こす要因になることが指摘されました。また、
したが、明確な指標はありませんでした。今大会では、日本
治療で用いられる免疫抑制剤の副作用として口内炎が生じ
口腔ケア学会と日本造血細胞移植学会が合同で討議を重ね
ることなどから、膠原病の治療において口腔ケアは切って
ながら完成しつつある造血幹細胞移植患者の口腔ケアガイド
も切れない関係にあることが示されました。
10 Vol.9 No.3
2日目:小津美智子さん
医科歯科連携で取り組むことの重要性を実感
よる舌浮腫等、生活習慣が口腔乾燥を引き起こす可能性も
あることから、口腔乾燥への対応については、まず対症療
実際に適切な口腔ケアを提供していくためにはどのよう
法として保湿を行い、次に薬の見直しなどの原因療法を行
な体制が必要なのかという観点から、多職種連携をテーマ
う必要があることがよくわかりました。
にした講演も用意されていました。その一つが、シンポジウ
平成24年度の診療報酬改定では、病院における外科的
口腔ケアのニーズの高まりを受け、
課題となる教育の必要性
手術後の合併症を軽減・予防する目的で、周術期口腔機能
私は今大会を通して、全身状態を良好に保つために口腔
管理料が新設されています。医科歯科連携による口腔ケア
ケアがいかに必要不可欠であるかということを強く感じまし
が推奨されるなか、シンポジウムでは様々な形で連携体制を
た。私の勤務する福岡県遠賀町でも、介護予防事業として
構築し、周術期の口腔機能管理を実践している取り組みが
歯科衛生士による健康教室が行われていますが、今大会で
ム
「周術期の口腔機能管理の実施体制」
です。
紹介されました。例えば、院内に口腔ケアセンターを設置し
は、急性期から末期に至るまで、専門的な口腔ケアが広が
て周術期の口腔内管理を行っている病院では、適切な口腔
りつつあることを知ることができました。学会に参加したこ
ケアが術後の発熱件数の減少、在院日数の削減につながっ
とで口腔ケアへの注目の高さを改めて実感すると同時に、
ていることに加え、投薬量が減るという医療経営上におい
それが医科歯科連携によって推進されようとしていること
ても有用であったことが報
に、時代の変化を感じています。
告されています。また、地
一方、口腔ケアの重要性が広く理解されるよ
域の歯科医師会が設立した
うになってきているにもかかわらず、教育が追
口腔ケアセンターが地域全
い付いていないとの指摘が印象的でした。ニー
体における口腔管理の連携
ズが高まっているからこそ、これからは専門職
拠 点となることで、歯 科を
に対して、口腔ケアに関する正しい知識がます
標榜していない病院でも周
ます求められるようになってくるでしょう。
術期の口腔管理が実施され
ている例も紹介されました。
一般演題でも、医科歯科
病院の血液内科と神経内科に勤務していた経験から、造血幹細胞移
植患者への口腔ケアがどのように行われているか、関心があったと
いう本多さん。ガイドラインによって、より適切なケアが提供される
ようになるのではないかと期待を寄せています。
ケアマネジャーの立場として私が痛感したこ
とは、経口摂取ができない人に対して、まずは
食べられない理由はどこにあるのか、原因を
連携による実践として、言語聴覚士をはじめとする口腔ケア
正しく理解することがいかに重要であるかということでした。
チームが活躍している急性期病院の取り組みや、終末期の
一般演題では、暑さで食欲が低下したと思われていた独居
口腔がん患者に対して歯科衛生士が専門的口腔ケアを実践
の認知症高齢者が、実は義歯の不適合が理由で食べられな
している緩和ケア病棟での取り組みなどが報告されました。
くなっていたという事例が紹介されていました。このような
日常のケアの注意点まで、口腔ケアの基本を確認
例は、在宅では決して珍しいことではありません。この事例
から、食事量が減ったからといってすぐに点滴をするのでは
今回、私が非常に勉強になったと感じているのは、ラン
なく、食べられなくなった原因にしっかりとアプローチする
チョンセミナー「口腔の機能と環境を改善する口腔ケア」で
ことで、地域で療養する人々のQOLが大きく向上する可能性
す。このセミナーでは、口腔ケアに関する用語解説、口腔ケ
があることに気づくことができました。そのためにも、まず
アの意義と目的、日常のケアの注意点について、基本的な
は地域で働く私たち自身が、口腔ケアの知識と技術をしっ
知識を学ぶことができました。
かりと身に付けていかなければなりませんし、そのことに気
演者の柿木保明先生
(九州歯科大学)
は、口腔ケアは口腔
づくことができた学会参加となりました。
環境と口腔機能を正常化させるためのケアであること、そ
れには唾液の分布状況が関連していることを解説されまし
た。また、口腔ケアにおけるポイントは保湿であるとし、保
湿剤には口腔粘膜に湿度を与えるものと、水分が蒸散しな
いように保つためのものの2種類があり、必要に応じて使い
分ける必要があることを紹介されました。また、唾液量が
多くても口呼吸や口腔機能の低下によって口腔乾燥が引き
起こされる場合もあることなど、対応する上での注意点を
詳しく整理されました。口腔乾燥は必ずしも加齢が主な原
因ではなく、約8割は薬が原因であること、水の飲み過ぎに
第10回 日本口腔ケア学会総会・学術大会
会 場:九州大学医学部百年講堂・同窓会館
開催日:2013年6月22日
(土)
~23日
(日)
会 長:中村誠司
(九州大学病院顎顔面口腔外科)
2013 年 秋号
11
訪問
看護
Q A
・・・・
&
回答者……● 乙坂
佳代 先生
一般社団法人横浜市港北区医師会
港北区医師会訪問看護ステーション 管理者
第11回 ...........................
ケアマネジャーとの連携の取り方
介護保険ではケアマネジャーが利用者のニーズを把握し、ケアプランを基
はじめに……………………
にサービスの調整を行う役割を担っています。ケアマネジャーと訪問看護師
との情報交換がスムーズであれば、利用者の様々な課題を早期に解決でき
ることになります。
しかし、現実にはケアマネジャーとの情報交換がスムーズにいかず、結果
として、利用者にとってタイムリーにサービスを提供できないことがありま
す。そこで今回は、看護師としてケアマネジャーとどのように連携していけ
ば良いのか、考えてみましょう。
n
o
i
t
s
e
Qu 1
ケアマネジャーから、
「医療のことはわからないので……」といわれ、
医師の方針や病状の把握、病状の変化後の対応等をお任せ状態に
されてしまいました。訪問看護師として、このような場合、ケアマ
ネジャーとどのように連携していけば良いのでしょうか。
近年、基礎職種が介護分野のケアマネ
してプランニングすることはケアマネジャーの役割で
ジャーが多くなってきています。ある調査
す。こうした場合は、心に少し余裕を持って、ケアマネ
では、ケアマネジャーの経 験年数が増え
ジャーの臨床能力を観察しましょう。そして、ある程
ると訪問看護を利用する率が年々増えるという結果
度の役割分担ができそうなら、
「この先生には、このよ
が出ています。訪問看護をどのような人に導入したら
うな場面でこういう工夫をすると良いと思います」
と助
良いのか、初任者の場合にはわからないのかもしれ
言をしてみましょう。方法がわかり、成功体験を積む
ません。
ことができれば、本当の役割分担ができるようになる
とはいえ、介護保険では、サービスの必要性を判断
と思います。
A
12 nswer
1
Vol.9 No.3
n
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i
t
s
e
Qu 2
ケアマネジャーから、
「訪問看護指示書の写しが欲しい」
「看護サマ
リーのコピーが欲しい」といわれます。どのように対応したら良い
でしょうか。
訪問看護指示書も看護サマリーも、訪
ただし、介護保険においては、医師の指示内容や指
問看護ステーションで書いた書類ではな
示期間等についての確認がケアマネジャーに求められ
く、医療機関が発行したものです。コピー
ているため、写しをそのまま渡せないとしても、内容
を取ってケアマネジャーに渡して良いのかどうかについ
を 伝える必 要はあります。訪問看 護側ではケアマネ
ては、書類を書いた人と利用者のそれぞれに了解を得
ジャーがなぜ指示を確認するのかわからない看護師も
ることが必要です。訪問看護ステーションが勝手にコ
いると思いますので、協力することをきっかけとして、
ピーを取って渡すことはできません。
大切な連携の糸口を作りましょう。
r
Answe 2
n
o
i
t
s
e
Qu 3
r
Answe 3
ケアマネジャーと訪問看護師との間で、ケア方針の意見が対立し
ています。訪問看護師は利用者の状態の改善を求めていますが、
ケアマネジャーは介護者の意見を優先したいと考えています。この
ような場合、どうしたら良いでしょうか。
利用者と家族には、それぞれに暮らしへ
す。内容を吟味し、第三者が同席をした方が良い場合
の意向があり、意向が違う場合には支援
には、誰が適任かをケアチームで検討する必要があり
者が意識しないうちにどちらかの意見に
ます。
引っ張られてしまうことがよくあります。どちらも大切
いずれにしても、目指す方向は同じでも、ケア方針
な意見ですので、互いの意見を擦り合わせて、家族と
の違いによってさらに混乱を引き起こすことがないよ
しての意見をまとめる必要がありますね。
うに、関係者間において意思疎通を綿密に行うことが
本来、家族のなかで問題を解決できれば良いのです
必要ですね。
が、家族だけではかえってこじれてしまうこともありま
n
o
i
t
es
u
Q
集 募
「訪問看護Q&A」のコーナーでは、
取り上げる質問(Question)を募集します。
応募URL
http://www.eiyonomori.jp/m/
訪問看護の現場で困っていること、日常業務で今さ 「Run&Up」編集部
ら誰にも聞けない疑問、仕事や人間関係の悩みな
ど、質問内容は問いません。皆様からのご応募をお
待ちしております。
FAX : 03-3835-3040
※ FAXの場合はご質問のほか、お名前、
ご住所、お電話番号、職種もご記入下さい。
2013 年 秋号
13
フ ォ ー ラ ム
「Run&Up」
では日ごろご愛読をいただいている読者の皆さんへの感謝の気持ちを込めて、2013年春に東京、名古屋、大阪の3会場で
特別講演会を開催しました。本誌では、その様子を「Run&Up」編集委員のリポートによって3号にわたってご紹介していきます。
「Run &Up」特別講演会──名古屋会場
在宅高齢者における栄養に関する課題と今後の展望
●開催:2013年4月6日
(土) ●会場:名古屋国際センター(愛知)
【プログラム】
<シンポジウム>
「最新の褥瘡ケアに関する話題と栄養」
座長:真田弘美 先生(東京大学大学院医学系研究科老年看護学/創傷看護学分野 教授)
シンポジスト(発表順):
北川智美 先生(彦根市立病院 皮膚・排泄ケア認定看護師)
塚田邦夫 先生(高岡駅南クリニック 院長)
二村昭彦 先生(藤田保健衛生大学七栗サナトリウム医療技術部薬剤課 係長)
山中英治 先生(若草第一病院 院長)
<特別講演>
「終末期における栄養の考え方と最新の話題」
●●●●
座長:川越正平 先生(あおぞら診療所 院長/「Run&Up」編集顧問)
演者:東口髙志 先生(藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座 教授)
2013年4月6日、
「在宅高齢者における栄養に関す
る課題と今後の展望」と題して「Run & Up」特別講演
会が名古屋で開催され、在宅ケアにかかわる読者の皆
様にお集まりいただきました。特別講演では、東口髙志
先生に「終末期における栄養の考え方と最新の話題」と
題して、栄養と経口摂取の重
要性について解説いただき
ました。今回は、本誌編集委
員の当間麻子先生と角田直
枝先生に、盛況の講演会を
リポートしていただきます。
シンポジウム「最新の褥瘡ケアに関する話題と栄養」
嵐の中、名古屋で開催された講演会には、
292人の参加者が集まった。
皮膚・排泄ケア認定看護師の北川智美先生(彦根市立病院)からは、
高齢のパーキンソン病患者の在宅ケアにおける褥瘡と栄養サポートに
あたりの食事量が少ない場
関する実例が紹介されました。このケースを通して、患者が生活する環
合が 多いことから、栄養 士
境で治療・ケア計画を立てること、理想・現実をしっかり見据えること、
が患者の好みを聞いて間食を設定したことで退院時の栄養充足率が
その人の強みと弱みを理解すること、工夫は必要であるがエビデンスが
向上したことや、胃瘻患者に半固形化栄養を行うことで短時間で注入
大切であること、倫理性を守ることが重要であることなど、ポイントを
可能となり、誤嚥予防や同一体位時間の短縮が図れることなどを解
整理して紹介されました。また、共通言語を用いて意思統一をすること
説されました。また、嚥下食に関する患者満足度アンケート結果から、
がチーム医療において必要であることを指摘されました。
ペースト状よりも形のある見た目や盛り付けが大事な要素であることを
医師の塚田邦夫先生(高岡駅南クリニック)は、在宅褥瘡の往診経験
指摘されました。
具体的には摂取エネルギー、蛋白質、水分等の摂取量を把握しながら
●●●●
から、在宅ケアを行う上で摂食調査が重要であることを紹介されました。
適切に栄養を摂取することで、患者の一般状態の改善だけでなく褥瘡の
東口髙志先生(藤田保健衛生大学)は、これまで一定の効果を上げ
治癒にも良い影響を及ぼすことを示しました。また、褥瘡の安定期には摂
てきたNSTのさらなる推進のためには、食べて治す、食べて癒すこと
食調査とアルブミン値は一致するが、急性期の感染褥瘡の場合には摂食
が大切であり、そのためには個々の持つ食欲、歯牙・口腔内環境、摂
調査の方がより実用的で適切な対応が可能であることも紹介されました。
食・嚥下機能等の“食力”の維持・改善が必須であることを強調されま
特別講演「終末期における栄養の考え方と最新の話題」
薬剤師の二村昭彦先生(藤田保健衛生大学七栗サナトリウム)は、創
した。また、術後絶食になったがん患者の消化管機能を維持する方
傷治癒におけるn-3系必須脂肪酸の役割と意義に関する基礎的研究結
法として、グルタミン酸、水溶性ファイバー、オリゴ糖を少量投与する
果を報告されました。背中に直径15mmの全層組織欠損を作製したラッ
GFO療法を行うことにより、小腸の絨毛上皮の機能が維持され、絶
トにおいて、n-3系必須脂肪酸を多く含んだ試験食を与えるA群、n-3
食解除された際にスムーズに経口摂取の再開が可能になることを示さ
系必須脂肪酸とn-6系必須脂肪酸を1:3の割合にした試験食を与えるB
れました。
群、n-6系必須脂肪酸を多く含んだ試験食を与えるC群に分けて観察し
そのほか、患者・家族ともに経口摂取を大事なこととして捉えている
たところ、治癒日数についてはB群が最も短いことがわかり、創傷治癒
ことを示すアンケート結果を紹介し、それを裏付けるように、終末期
にはn-3系必須脂肪酸とn-6系必須脂肪酸のバランスが重要であること
がん患者であっても経口摂取量が多いほどQOLが高いというデータ
を示されました。
を示されました。一方で、終末期がん患者においては次第に悪液質
医師の山中英治先生(若草第一病院)は、褥瘡患者においては基礎
が進むことから、状態に合わせて栄養管理方法を変更することで、
エネルギー消費量の1.5倍以上の補給を推奨する日本褥瘡学会のガイ
最期まで生き生きと過ごすことができるというメッセージを会場の参
ドラインに基づき、栄養管理のポイントを解説されました。高齢者は1回
加者に伝えました。
14 Vol.9 No.3
R EPORTER
R EPORTER
当間 麻子 先生
角田 直枝 先生
一般社団法人在宅医療推進会 代表理事
「Run & Up」編集委員
茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター 看護局長
「Run & Up」編集委員
●シンポジウムと特別講演について
●シンポジウムと特別講演について
病院看護師である北川先生に「在宅では患者の暮らしぶりや意向を
北川先生が示された在宅のパーキンソン病患者の事例には、会場
尊重することが大事です」と話していただけたことは、注目すべきポイ
の訪問看護師も共感できたと思います。最初は食べることへの関心が
ントです。病院の皮膚・排泄ケア認定看護師が在宅ケアに参画可能に
低かった患者から「肉が食べたい」という欲求を引き出した話は、訪問
なったことは、病院の看護管理者が在宅ケアに目を向けるきっかけの
看護師にとって身近に感じられるエピソードでした。
一つになっていると思います。
塚田先生が 1日摂取量として提示された900kcal、水分1,000mLと
塚田先生の講演は非常に実践的で、在宅で栄養摂取量を把握する
いう目安は、日常の在宅ケアでも大いに役立つ情報です。栄養士ほど
ことの重要性について共感を持ってお聞きしました。今後は、栄養士
厳密ではないとしても、訪問看護の際には、その数値を参考にして、
とも在宅の場で連携していくことが必要だと思っています。
経腸栄養剤や水分の補給を促していただきたいと思います。
脂質のバランスが大事だという二村先生の講演は、大変勉強になりま
難しくなりがちな栄養素の話を、基礎的な動物実験のデータを交え
した。患者や家族に経腸栄養剤の話をするときにも、理
てお話しいただいた二村先生による講演
由を説明できることで納得していただけると思います。
は、大変わかりやすかったです。
低栄養状態では褥瘡になりやすく、また治りにくくな
山中先生が、救急搬送された高齢者が
りますので、訪問看護師が日々のケアのなかで、食べ
入院時にすでに低栄養状態にあることが
られなくなった原因や終末期の過ごし方について主治
多いと仰っておられたことには、とても共
医と相談しながら、本人と家族の意向も踏まえて適切
感できました。もう少し早い段階で対処す
な対処をしていくことが大事だということを、山中先生
るためには、普段から訪問看護を利用し
の講演を拝聴して改めて強く感じました。
て栄養評価や環境整備を行い、できる限
最期まで口から食べるということは、患者だけではなく家族にとっ
り救急車を呼ばなくてもよい生活をすることが大事で、そのためには
ても大事なことであり、それが幸せにつながると思います。ですから、
訪問看護師の役割がとても大事だと思いました。
東口先生が話されていたように、
「よく頑張ったね、おめでとう」と声を
病院では褥瘡を治すこと、動けるようにすることがエンドポイントに
掛けることができるような看取りを在宅で行うには訪問看護師の力が
なってしまいがちですが、それで患者や家族は本当に幸せなのかとい
必要ですので、今後も在宅ケアに力を注いでいきたいと思いました。
う問題提起をされた東口先生の講演では、
「エンドポイントはハピネス」
●全体の印象と感想
という言葉が印象的でした。食べられるということは生きるエネルギー
講演会というと難しい勉強をしなければと身構えてしまいがちです
になりますし、本当に幸せなことなのだと感じました。
が、共感できる話題が多く、多忙な日常業務から離れて楽しく勉強で
●全体の印象と感想
きる機会になりました。
難しい話題やテーマについて、根拠のあるデータを示していただき
栄養や環境の評価に基づいたケアを提供して褥瘡を予防すると同
ながら笑いも交えてわかりやすく示していただいたことで、楽しく参加
時に、早期発見と早期治療に結び付けていくことが最期まで幸せで
することができました。訪問看護師の役割は、患者の生活環境を整
いられることにつながると思います。そのために、看護師も栄養に関
えて当たり前のように食事を取り、快適な睡眠を取るためのサポートを
する知識を身に付けて生活のなかで栄養を評価できる視点を養うこと
することです。本日の講演を拝聴し、在宅は看護の役割を最大限発
の必要性を感じました。
揮できる領域だということを改めて思いました。
Run&Up̶ランナップ̶
地域に暮らす人たちの健やかな暮らしを守るために、日々颯爽と街をゆく──。そんな訪問看護師のみなさんのさわやかなイメージを言葉にしました。
表紙のことば
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表紙「コスモス」
赤、白、ピンクのコスモスが
秋の陽射しを浴びて風にゆらゆら揺れる姿は、
まるでステージで歌う合唱団みたい。
そっと耳を澄ましてみれば、
可愛らしい歌声が聞こえてくるかもしれませんね。
◎Run&Upの表紙には、
知的障害者施設を運営する社会福祉法人共生社の
「あじさいアート」
を使用しています。
〈あじさいアートのお問い合わせ先〉
社会福祉法人共生社 あじさい学園 TEL.0280-48-0431
E-mail : [email protected]
社会福祉法人共生社ホームページ http: //www.kyoseisha.or.jp/
(敬称略/五十音順)
●編集顧問
太田 秀樹 医療法人アスムス 理事長/おやま城北クリニック 院長
川越 正平 あおぞら診療所 院長
●編集アドバイザー
佐々木静枝 社会福祉法人世田谷区社会福祉事業団 看護師特別参与
●編集委員
乙坂 佳代 一般社団法人横浜市港北区医師会 港北区医師会訪問看護ステーション 管理者
角田 直枝 茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター 看護局長
白井由里子 八幡医師会訪問看護ステーション 管理者
当間 麻子 一般社団法人在宅医療推進会 代表理事
2013 年 秋号 15
中山 康子 NPO法人在宅緩和ケア支援センター虹 代表理事
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