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平成 26 年度インフラシステム輸出促進調査等事業

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平成 26 年度インフラシステム輸出促進調査等事業
平成 26 年度インフラシステム輸出促進調査等事業
(ベトナムにおける医療保険システム近代化実証事業)
報告書
平成 27 年 3 月 31 日
株式会社
エヌ・ティ・ティ・データ
平成 26 年度インフラシステム輸出促進調査等事業
(ベトナムにおける医療保険システム近代化実証事業)調査報告書目次
1.
2.
報告内容サマリ ................................................................................................................................ 1
事業の背景、概要 ............................................................................................................................ 2
(1)
調査の背景・目的 ..................................................................................................................... 2
(2)
調査概要 ..................................................................................................................................... 2
3. 実態調査の結果(課題)................................................................................................................. 4
(1)
制度面の状況・課題 ................................................................................................................. 4
(2)
業務面の状況・課題 ............................................................................................................... 10
(3)
日本の医療保険制度との比較 .............................................................................................. 16
(4)
情報通信サービスに際しての同国における関連法案、制度の実態把握 ................... 17
(5)
医療保険近代化のトピック .................................................................................................. 22
4. 実証事業の結果 .............................................................................................................................. 23
(1)
実証事業の概要 ....................................................................................................................... 23
(2)
適用ソリューションの概要 .................................................................................................. 23
(3)
実証実施条件 ........................................................................................................................... 24
(4)
実証結果 ................................................................................................................................... 26
5. 医療保険近代化の方向性 .............................................................................................................. 32
(1)
近代化による改善の方向性 .................................................................................................. 32
(2)
コスト予測 ............................................................................................................................... 35
(3)
ベネフィット予測 ................................................................................................................... 35
(4)
医療保険分野近代化の方向性 .............................................................................................. 36
6. 最終報告会の結果概要 .................................................................................................................. 37
(1)
報告会概要 ............................................................................................................................... 37
(2)
主なフィードバック ............................................................................................................... 37
7. 今後の活動 ....................................................................................................................................... 39
(1)
評価と課題 ............................................................................................................................... 39
(2)
本事業実施中の特筆すべき事項 .......................................................................................... 39
用語集 .................................................................................................................................................. 41
1. 報告内容サマリ
(1)
事業名:平成 26 年度インフラシステム輸出促進調査等事業(ベトナムにおける医療保険シス
テム近代化実証事業)
(2)
背景・目的
本事業は、日本政府のインフラ輸出戦略に基づき、経済産業省による平成 26 年度に実施した
「インフラ輸出普及促進事業(ベトナムにおける医療保険近代化の実証事業)」の一環で実施
したものである。本事業の目的は、特に医療保険、医療サービスの質の向上を念頭にベトナム
政府側の医療保険近代化システムへの取り組みについて我が国として参加できる具体的なニ
ーズを調査し、我が国の経験を生かした IT を活用したソリューションを企画し、同国政府を
念頭にセミナー等を開催することで同国に提案を行い、我が国技術の普及等促進を図るための
ものである。
(3)
調査概要
本事業ではベトナム国医療保険分野の「実態調査」
「実証事業」を行った。
(4)
調査結果サマリ
A. 2015 年 1 月に医療保険法が改正され、医療保険制度整備が徐々に進みつつある。一方で、医
療保険業務の基礎となる診療報酬制度は未整備である。
B. 医療保険業務の大部分は紙や手作業で行われている。
C. 日本のモデルを用いた請求・審査システムを、ベトナムの BachMai 病院の実データを使って
実証した。
D. 日本の製品・サービスをベトナムに導入する上での効果や課題が明らかとなった。
E. 本事業の成果を 2015 年 3 月 17 日に MOH に対して報告し、ロードマップとして提案した。
(5)
医療保険近代化プロジェクトの概要
A. 対象業務:医療保険の中核業務(適用、徴収、審査、支払)
B. 事業スケジュール:2016-17 年:パイロットシステムを導入、2018-2020 年:全国導入
事業規模:総額 1BillionUSD(約 1,200 億円)規模(Dam 副首相の試算)
C. 日本企業への裨益効果:日本の医療機器産業、医薬品産業、医療材提供事業者等
D. 競合の状況:韓国 KOICA による無償資金協力(12MUSD)が決定している
-
以上 -
1
2. 事業の背景、概要
(1) 調査の背景・目的
本事業は、日本政府のインフラ輸出戦略に基づき、経済産業省が平成 26 年度に実施した、
「インフラ輸出普及促進事業(ベトナムにおける医療保険近代化の実証事業)」である。日本
政府のインフラ輸出戦略は、これまで日本が様々な社会課題を解決してきた経験やノウハウを
世界各国の発展に活かしていくための取組みである。本事業は、特に医療保険、医療サービス
の質の向上を念頭にベトナム政府側の医療保険近代化システムへの取り組みについて我が国
として参加できる具体的なニーズを調査し、我が国の経験を生かした IT を活用したソリュー
ションを企画し、同国政府を念頭にセミナー等を開催することで同国に提案を行い、我が国技
術の普及等促進を図る。
(2) 調査概要
本事業では 2014 年 11 月から 2015 年 3 月にかけ、
「実態調査」
「実証事業」を実施した。実
施にあたっては、診療報酬制度面の観点から厚生労働省とも連携して事業を行った。
A.
実態調査の概要
調査名
医療保険制度、及び情報通信関連制度の実態調査
調査項目
1.
医療保険制度の現状把握
2.
医療保険制度の近代化に係る法制度の現状把握
3.
情報通信サービスに際しての同国における関連法案、制度の実態把握
4.
本プロジェクトのベトナム政府・企業等推進体制の把握と関係把握
5.
ベトナム政府関係部局からのニーズ調査
ヒアリン
2014 年 11 月 24 日 キックオフミーティング
グ、及び
2014 年 12 月 11 日 保健省(医療保険局)
、BachMai 病院
WG
2014 年 12 月 17 日 BachMai 病院
実施結果
2014 年 12 月 19 日 千葉大学法政経学部 広井良典教授
2015 年 1 月 7 日
保健省(医療保険局),ハノイ市保健局,ハノイ市 SocSon
郡医療所、ハノイ市 SocSon 郡コミューンヘルスセンター
2015 年 1 月 28 日
保健省(IT 部)
2015 年 1 月 29 日
情報通信省、BachMai 病院
2015 年 3 月 4 日
保健省(医療保険局)
2015 年 3 月 17 日
最終報告会
その他
『アジア地域 社会保障セクター基礎情報収集・確認調査報告書』(2012 年、
参考文献
JICA)
『ベトナム国社会保障分野情報収集・確認調査』
(2014 年、JICA)
学術セミナー「社会保障・日本の経験とベトナムへの示唆」講演資料(千葉大
学
広井教授)
2
『VSS 現地事務所視察結果報告書』
(2014 年、NTTDATA)
『現地医療機関視察結果報告書』(2014 年、NTTDATA)
『ベトナムにおける医療保険 課題と解決の方向性』
(2013 年、グエン・ヴァ
ン・ティエン国会社会問題委員会副委員長)
『ベトナムにおける医療保険政策とその実施』
(2013 年、グエン・ミン・タオ
VSS 副長官)
『ベトナムにおける社会保険の現状と課題』
(2013 年、グエン・ティ・ラン・
フォン労働科学・社会問題研究所所長)
ベトナム保健省ウェブサイト http://www.moh.gov.vn/
ベトナム社会保障ウェブサイト http://www.baohiemxahoi.gov.vn
B.
実証事業の概要
事業名
BachMai 病院における公的医療保険請求審査実証事業
目的
日本の技術を活用したソリューションを導入した際の効果や課題を確認する
対象業務
医療機関からの公的医療保険請求業務、及び保険者側の審査業務
実施結果
2014 年 11 月~2015 年 2 月
システムのチューニング
2015 年 11 月~2015 年 2 月
データの収集、整備、設置等
2015 年 3 月
実証システムによるデモ、及びフィードバックの収集
改善目標
1.
日本式の審査システム導入時の課題抽出
と効果
2.
審査業務の効率化
3.
審査業務の質の向上
3
3. 実態調査の結果(課題)
(1) 制度面の状況・課題
医療保険制度の概要 1
A.

1986 年にドイモイ経済政策が行われ、保健セクターにおいても医療保険の導入、利用
料支払い制度の導入、民間医療の認可、医薬品市場の開放などの改革が行われた。

1992 年には、医療保険の強制加入制度の拡大を目的とした医療保険に関する最初の首
相令(299/1992/HDBT)が公布された。

1998 年、新たに医療保険に関する首相令(58/1998/ND-CP)が公布され、各省の医療保
険基金は国民医療保険基金に統一され、医療保険加入の拡大が推進された。

2005 年に公布された首相令(63/2005/ND-CP)では、貧困層の保険料に政府助成金を充
てることで貧困層も強制医療保険に加入することが必要であると述べられ、この結果、
現在は 1,500 万人の貧困層及び少数民族は政府助成を受けて保険加入が可能となってい
る。また同年、教育・ヘルスケア・子どもの保護に対する法律が公布され、6 歳未満の
すべての子どもが無料で医療を受けられるようになった。

2008 年に医療保険法(2009 年 10 月 1 日施行)が成立し、これまで省令により実施さ
れていた医療保険制度が初めて法制化されることとなった。

2015 年に施行された医療保険法の改正では、加入者管理単位を個人単位から世帯単位
(配偶者を強制加入)に変更、これまで医療機関ごとに決定していた薬価の統一(省・
市レベル)、加入者分類の整理・統合、地方政府の予算管理権限の強化、保険適用サー
ビスパッケージの明確化、などが規定された。
B.
加入率の推移

2005 年から 2014 年までの医療保険の加入者数及び加入率の推移を示す。ベトナム政府
は 2015 年までに 75%、2020 年までに 80%の加入率を達成する目標を立てており、2014
年の加入率は 71.6%に達した。2 加入者数は順調に伸びているように見えるが、内訳を
みると、政府や企業が一部あるいは全額保険料を負担する強制加入者の数は増えている
ものの、保険料を全額自分で支払う任意加入者の数は減少傾向にある。皆保険を達成す
るためには、任意加入者の取り込みという課題を克服する必要がある。
1 JICA「ベトナム国社会保障分野情報収集確認調査」(2014 年)
2 2015 年 3 月 17 日 ベトナム社会保障(VSS)ユニバーサルヘルスカバレッジ実現に向けた努力(VSS ウェブサイト)
http://www.baohiemxahoi.gov.vn/?u=nws&su=d&cid=384&id=10740
4
図 1:保険加入者数と加入率の推移
出典:Introduction of Vietnam Social Security,等
C.
その他の関連法制度

医療保険法の実施ガイドラインに関する保健省通達(62/2009/ND-CP)

保険適用医薬品に関する保健省通達(31/2011/TT-BYT)

診療費の上限に関する保健省及び財務省共通通達(04/2012TTLT-BYT-BTC 29/02/2012)

公立医療機関の自主財政制度に関する保健省通達(85/2012ND-CP October 15, 2012)
D.
関連組織

医療保険に関しては、保健省及びベトナム社会保障(VSS) が担当機関となっている。
このほか、財務省は保健省と共に診療報酬の設定を行うとともに、政府予算の申請・審
議・執行に携わっている。計画投資省は、医療や社会保障セクターにおける政策や ODA
を含む投資の検討に携わっている。
表 1:医療保険関連組織
NO.
1
2
政府機関名
所管範囲
医療保険分野における主な役割
ベトナム保健省(MOH)
Ministry of Health
保健医療全般
医療保険
・保健医療分野の制度策定、運用ルー
ルの策定等を担う
・医療機関、薬局の監督官庁
ベトナム社会保障(VSS)
Vietnam Social Security
医療保険
年金
労働保険
・MOHが決めたルールに従い、医療保
険等の運用【適用・徴収・審査・支払】
を担う、医療保険の運用機関(保険者
の役割)
・全国に700以上の地方機関を持つ
・大病院の院内に審査員が立ち入り、
診療報酬請求の審査業務を行う
出典:調査団作成
5
図 2:医療サービス提供体制
出典:VSS との検討 WG 資料(2013 年)
図 3:実態調査の模様
【ハノイ市保健局】
【ハノイ市 SocSon 郡医療所】
6
【ハノイ市 SocSon 郡コミューンヘルスセンター】
出典:調査団撮影
E.
医療保険加入者と保険料のしくみ

医療保険の加入者は、職業や属性によって、現在 20 以上のグループに細かく分類され
ている。加入者グループは保険料の拠出方法により、大きく 5 つに分けることができる
表 2:医療保険加入者の分類
大分類
保険料拠出・支払方法
給与から拠出する、公務
フォーマルセクターの労働者の保険料は、1992 年から 2009
員や民間企業の被用者等
年にかけて給料の 3% に設定されており、そのうち雇用者が
2%、被用者が 1% の負担率であった。2009 年の医療保険法
の施行から保険料が給料の 4.5% に増額となり、雇用者が給
与の 3%、被用者が 1.5% の負担となっている。
VSS が全額拠出する、社
VSS が支給する年金や社会保障手当の受給者は、支給される
会保障受給者
手当の 4.5%を負担することとなっている。
政府が全額拠出する、功
功労者や社会的に不利な状況にある貧困者、少数民族、およ
労者や貧困者、少数民族、 び 6 歳未満の子どもについては、最低月額給与の 4.5% を政
6 歳未満の子ども等
府が全額負担する。最低給与は、現在 115 万 VND である。
貧困者の定義は、ホーチミンでは月額収入 120 万 VND、地
方都市では 60 万 VND、農村部では 40 万 VDN などと地域
7
大分類
保険料拠出・支払方法
によって異なる。
政府が一部を拠出する、
準貧困者には最低月額給与の 4.5% について、政府が 50% 以
準貧困者や学生
上を助成する。学生には最低月額給与の 3% について、政府
が 30% 以上を助成する。
全額自己負担の農業者、
農業や自営業などインフォーマルセクターの労働者は、最低
自営業者、公務員や被用
月額給与の 4.5%を自己負担して任意加入する仕組みである。
者の被扶養者
公務員や被用者の被扶養者については、最低月額給与の 3%
の自己負担となっている。
出典:JICA「ベトナム国社会保障分野情報収集確認調査」
(2014 年)
F.
医療保険の標準給付パッケージ

3
医療保険は、VSS と契約した医療機関で利用できる。VSS と契約する病院は 2011 年時
点で 2,303 施設あり、そのうち公立病院が 1,922(83.5%)
、民間(Non-public)病院が 381
(16.5%)となっている

医療保険法の実施ガイドラインに関する通達(62/2009/ND-CP)は、医療保険法に基づき、
被保険者の権利、保険診療時の自己負担、被保険者の義務について述べている。被保険
者は、診察、治療、リハビリ、定期的な妊婦健診、出産、そのほか保健省の規定に基づ
いた医療サービスや薬の提供を受ける権利がある。また、より高度な治療が必要な場合
には、上級の病院へ搬送してもらう権利がある。

医療保険証には、居住地にある県病院やコミューンヘルスセンター(CHC)などの公共
医療保健機関(レベル 3 から 5)が登録されている。病気やけがの際には登録した機関
で最初に診療を受けるのが前提であり、その際、年金受給者、貧困者、社会保障受給者
は医療費の 5%、その他の加入者は 20%を自己負担で支払う。保険証に登録した医療機関
以外で、紹介状なく診療を受けた場合、県病院で 30%、省レベルの病院で 50%、中央
レベルの病院で 70%を自己負担で支払う必要がある。

保険の支払いには上限があり、1 回の医療費が最低月額給与の 40 カ月分以下(4,600 万
VND)と設定されている。この上限を超えた医療費は、患者の自己負担となる。高額医
療費の自己負担に対する救済措置はなく、例えば心臓外科手術及びそれに伴い入院した
場合などは、患者には高額な負担が発生する。

医療保険を扱わない病院で診療を受けた場合、被保険者は医療費の全額を病院に支払い、
後ほど還付請求の手続きを行う。還付される金額には上限が設定されている。通院の場
合、
県病院で 55,000VND、
省レベルの病院で 120,000VND、中央レベルの病院で 340,000VND
が医療保険基金から支払われる。入院の場合には、県病院で 450,000VND、省レベルの病
院で 1,200,000VND、
中央レベルの病院で 3,600,000VND が医療保険基金から支払われる。
3 JICA「ベトナム国社会保障分野情報収集確認調査」(2014 年)からの引用
8
保険適用診療・治療サービス 4
G.

保険適用サービスの範囲や診療費の水準は、保健省が定めている。保険適用のサービス
に関する保健省及び財務省共同通達(04/2012TTLT-BYT-BTC 29/02/2012)では、447 のサ
ービスが規定されている。この通達に基づき、各病院は、自ら提供するサービスを保健
省に申請して承認を得る必要がある。医療保険のカバーする診療・治療内容は広く、一
般診療、救急、リハビリのほか、MRI による先端的診断技術や臓器移植などの先端治療
もカバーしている。
図 4:医療機関のレベル
4 JICA「ベトナム国社会保障分野情報収集確認調査」(2014 年)からの引用
9
(2) 業務面の状況・課題
本調査では、文献調査などの机上調査、及び現地調査を踏まえ、次の通り医療保険業務の現状
と課題を整理した。
図 5:医療保険業務の概念図
B.徴収
保険者
(ベトナム社会保険)
保険料納付
C.審査
医療保険
カード交付
事業所
A.適用
診療報酬
支払
政策決定、制度整備
(保健省)
診療報酬
請求
D.支払
一部負担金
被保険者
医療機関
診療
出典:調査団作成
A.
適用業務(Registration)
現状(current situation)

個人や会社が行政区または地区でビジネスを実施したいときは計画投資省より許可証
を得なければならなく、許可を授与された場合、雇い主は従業員によって署名された
労働協約のコピーと従業員リストを MoLISA の地方事務所に提出しなければならない。
また雇い主は登録するために税務総局に行かなければならない。
(政府機関の間で調整
されていない)

雇用主は保険料を徴収するために従業員全員を VSS に登録しなければならないが、現
在はそうなっていない場合がある。

保険料算定、申請作業は基本的に紙で行われているが、一部地域では企業側にソフト
ウェアを配布し、電子申請が可能となっている(ホーチミン市、フエ市)
。保険料は毎
月の給与に基づいて算出されるが、企業の担当者は社会保険に習熟しておらず計算誤
り等が多い。電子申請により、雇用主が窓口に来る回数が 2-3 回から 1 回に減少した
地域もある。

2 つの企業で就業している労働者は、本来は政府の規定により高額な方の給与を保険料
算定基準に利用することとなっているが、実際には低い金額の給与が基準となってい
ることがある。

従業員の医療保険ブック(医療保険利用の履歴を記載)は雇用主が保管している。
10
課題(problem to be solved)

医療保険加入率の向上
① インフォーマルセクター(自営業者、農業、漁業従事者、学生、等)の把握が難
しいため、医療保険の加入率が低い
② 加入分類が複雑なため、適用業務におけるグループ分類の判断・処理が煩雑
③ 税務当局等との事業情報の連携がなされていない(申告制のため)
④ 記録管理が電子化されていない、または合理的な管理がされていない

医療保険カード発行
① カードが紙で発行されているため、偽造等が発生する
② カード更新のタイミングが短期のため、カード発行業務の負荷が増大しているう
え、煩雑なカード管理プロセスによる作業負荷が大きい
③ 一人の被保険者が複数のカードを保持し悪用されることがある
徴収業務(Contribution Collection)
B.
現状(current situation)

毎月、雇用主は従業員の保険料を給与から差し引き、承認された銀行から保険料を支
払う。この際、VSS は保険料を計算するためのテンプレートを提供している。

省は外資や合弁企業、政府機関の保険料徴収を担当し、それ以外の企業は郡が徴収す
る。郡が管理する保険加入リストは郡で保有し、3 か月に 1 度省が集約する。

VSS 会計部はこれらの送金データを銀行から入手し、雇用主から提出された保険料支払
報告リストと突合を行う。いくつかの事務所では保険料支払報告リストを電子的に送
信できるが、一般的にはなっていない。しかしながら、現時点ではあらゆる文書を紙
で保管する必要があり、電子的に送信された場合であっても紙の文書が原本とされる。

収集された保険料は、雇用主⇒VSS 郡事務所、VSS 郡事務所⇒VSS 省事務所、VSS 省事
務所⇒VSS 中央へと集約される。

業務については、紙で行うか、省ごとに独自のソフトウェアを利用している。

任意保険の徴収業務は、エージェント(人民委員会配下の組織)に業務委託している
課題(problem to be solved)

徴収率の向上
① 未納者、滞納者への罰則がないため、徴収率が低い
② 保険料の事業者負担割合が大きいため事業主が保険料を支払わないケースがある

適正な徴収
① 税務当局等と所得情報の連携がなされていないため、個人の所得に応じた適正な
保険料徴収ができない
② 保険料率の決定基準が、最低賃金に基づいて算出されるなど、所得に応じた体系
となっていない

資金管理
11
① 徴収された資金のコントロール、管理が透明化されていない
② 資金移動が現物(現金)移動であり、電子的な決済する仕組みがない
③ 郡-省-中央への徴収情報が連携されていない
審査業務(Medical fee claim examination)
C.
現状(current situation)

VSS の中央が定めた審査ルールに沿って医療費請求の審査が行われている。審査の観点
は、処方せんに記載された薬が薬剤一覧や技術サービス一覧と比較し、行われた医療
行為や投薬行為が基準に沿っているかをチェックしている。また、VSS 審査員は、DRG
(診断科目別標準定額料金決定システム)に基づいたシステムにより、実際に行われ
たサービスによる支払申請とデータベースに入力されたコードの整合性をチェックし
ている。

審査の際に使用する傷病コードは国際標準(ICD10)を利用している。薬剤リスト及び
値段は病院ごとに決めているが、上限は MOH や MOF が決めている。薬価は市場価格
によって決まるため、入札時の価格が反映される。

審査は病院における一次審査と、VSS 事務所における二次審査とに分けられる。一次審
査ではカルテに記載された傷病名、治療内容、診療費用、処方箋などの情報と診療報
酬請求書を比べてチェックを行う。また高額な治療費が請求されているケースを重点
的にチェックしている事務所もある。審査委員は医師が担うことが多く医学的な専門
知識を持っている。二次審査では保険資格の確認、統計業務を行っている。

規模の大きな病院では扱う請求情報の量が多いため、VSS 職員が常駐し審査している。
2,000 の医療機関のうち約半数の医療機関に VSS 職員が常駐している。

VSS 審査員が常駐している病院からの請求には、①審査済み(支払 OK)
、②審査済み
(要変更)
、③未審査のステータスをつけた状態で VSS 郡事務所に送信され、DSS では
②と③についてチェックを行う

審査率は、全診療報酬請求書の概ね 10-20%程度となっている。事務所によっては、こ
のサンプリング審査で検出された返戻率(請求却下とした額の比率)を全請求に対し
て適用している。

各病院で審査された情報(集計結果)は VSS 中央が定めたフォーマット(Excel)を使
い、四半期ごとに(地域によっては毎月)メールにて DSS にデータ送信される
課題(problem to be solved)

審査率の向上
① 全診療報酬請求情報(レセプト)のうち、審査されるのは 10-20%程度にとどまる
(サンプル的な審査しか行われていない)
② 診療報酬請求情報は紙で管理されているため、作業ミスが発生

適正な審査
① 医学的観点での審査があまり行われていない(主に計算チェック、形式チェック
12
が行われている)
② 審査は審査員によってのみ行われ、機械化されていない
③ 診療報酬請求情報、カルテの情報が電子化されていない
④ 審査に必要な一覧(診療費用、薬剤費用、医療機関情報、等)が未整備
D.
請求・支払業務(Payment)
現状(current situation)

医療機関への診療報酬支払は前期間の支払額の 8-9 割程度が前払いされる。給付額は
前期間の給付金額の平均(患者一人当たり額)と今年のカード発行枚数で見積もられ、
四半期ごとに実績と精算される。

事前支払額よりも実際の請求額が少ない場合は翌期に繰り越され、事前支払額よりも
請求額が多い場合は追加で支払われる。予算ありき運用され、実際の請求額が多い場
合でも追加の費用が支払われない場合もある。
課題(problem to be solved)

適正な支払
① 診療を行ってから支払いまで数か月、半年以上かかることがある(これにより、
医療機関の収入が低下し経営体力が低下することがある)
② 予算に基づいて支払が執行されるため、予算を超えることが想定される場合に医
療費請求が却下されるなど支払執行の基準があいまいな場合がある
③ 省をまたがる診療行為(初診登録病院以外での受診等)の支払額の計算等手続き
が煩雑
図 6:ベトナム社会保障(VSS)の組織
出典:VSS との検討 WG 資料(2013 年)
13
E.
その他の特筆すべき事項

地域による差
① 医療機関は製薬会社から入札で薬を調達しているため、同じ薬であっても地域に
よって価格が異なり、また頻繁に薬価が変わる。これにより VSS の審査員は毎回
最新の薬価一覧をもって審査を行わなければならない。
② VSS の業務は、VSS 本部が配布しているマニュアルに沿って、北部・中部・南部で
概ね同じプロセスや基準で行われている。ただ、中央から提示されるマニュアル
には細かい業務内容は書かれていないため、地域によっては裁量の範囲内で独自
のマニュアルを作成し、運用されている。
③ 保険請求の審査率は概ね全国同レベル(10-20%程度)であるが、審査対象とする
請求書については業務量と審査員の人数等の理由により、地域差が生じている。
ハノイでは入院のみ、ホーチミンやフエでは入院・外来両方を審査の対象として
いる。なお、カルテが作られる単位も、地域により入院のみ、入院・外来(慢性
疾患)の場合がある。
④ 審査基準は概ね全国で同様であるが、ルール化されていないため、地域によって
ばらばらである。例えば、フエでは、外科手術など金額が大きいものや、同様の
検査を短期間に実施していないか、健康診断を短期間に複数回実施していないか、
などの独自観点で審査を行っている
⑤ 医療保険財政は、どの地域でも給付が徴収を上回る傾向がみられる(赤字)
。都市
部では高度技術や最新の薬剤が使用される頻度が高いため給付額が多い(赤字)。
一方、山岳部や地方部では医療保険を使用する比率が低く、給付額が少ないため
医療保険財政は都市部に比べると健全。

IT 導入の状況
① VSS は医療機関で実施された技術サービス、投薬の履歴を記録するソフトウェアを
構築し、主に小規模な医療機関で利用されている。ほとんどの大規模医療機関で
は独自のソフトウェア(HIS:Hospital information system、請求情報作成システム)
を有しており、請求情報を独自に出力している。
② しかしながらこれらのソフトウェアは以下の理由によりあまり利用されていない。

ユーザインタフェースが使いにくい

医療機関で使われている患者管理システムとの互換性がない
③ 医療機関においては、中央病院の 100%、省レベル病院の 68%、郡レベル病院の 61%
で既に HIS のソフトウェアが導入されている。なお、HIS のソフトウェアの標準的
なモジュールについて、規則第 5573/QĐ-BYT 号により公布された。
④ 全国 6 か所の病院で、電子カルテや HIS に関する実証事業が展開されている。こ
の中では、HL7 に準拠したソフトウェアを通じて、電子カルテの情報を送信し遠
隔医療を実現する。
⑤ 各部局(省庁、各局)にはそれぞれの目的に応じた DB が構築されてきたが、医療
14
分野で共通化して利用できるよう統合された DB はまだ整備されていない。
⑥ VSS は、雇用主が VSS に申請する医療保険・社会保険・失業保険の手続きや社会保
険の帳票発行、及び医療保険カード発行等において、オンラインで申請するため
の実証実験を実施中である。近年、医療保険・社会保険の電子取引に対応するソ
フトウェアや IT インフラに投資を集中している。
15
(3) 日本の医療保険制度との比較
A. 前提条件
ベトナムの社会保障制度・医療保険制度は、同国が社会主義の思想の下で統治されている点や、経
済発展の段階が日本と異なること等の理由で日本とは大きく異なる。一方で、社会経済的な発展段
階をみると、日本が 1960 年代に経験した高度経済成長やそれに伴う社会保障制度の整備と同じよ
うな段階を踏んでおり、参考となる点があると考えられる。具体的には次のような点が参考となる。
一次産業の人口比率が高い中で工業化を目指し、「追い上げ catch-up」型経済を推進するなか

で、社会保障を整備するという点(ベトナムでは、2020 年までに近代工業国家となることが
国家目標として掲げられている)

社会保障を整備する段階において、農業共同体をベースとしたコミュニティ(社会資本)が全
国的に形成されている点

発展の途中段階からの急速な高齢化が進展する点

両国とも「福祉国家」を目指している点
B. 医療保険制度比較
上記の前提を踏まえ、ベトナム国と日本の医療保険制度を次の通り整理する。ただし、上記前提条
件でも述べた通り、両国の制度を単純に比較するというよりも、個別の課題やテーマごとに日本か
ら必要な経験やノウハウを都度情報提供することが有効である。
表 3:医療保険制度の比較(参考)
調査項目
観点(例)
ベトナム
比較検討の観点例
①医療保険制度の骨格
②負担
③サービ
ス給付
• 最低限の保障
• 皆保険・フリーアクセス等による手厚い
保障
骨格
1. 積立方式:被保険者自らが積立てた金 所得再配分方式
額から医療費を支払う
2. 所得再分配方式:(賦課方式) 個人に
紐付けを行わず、保険料をプールし給付
に充てる
主要な財政
維持手段
1. 保険料の引上げ
2. 公費(税)負担率引上げ
3. 技術サービスの医療保険対象の制限
現在は保険料の引上げ 保険料の引上げが中心
が中心、今後は税負担
を増やす意向
• 保険料/公費負担の方針
• 医療費の抑制方法
保険料算定
• 定率:給与額の一定比率
• 定額:給与に関わらず一定金額
• 定率
• 定率
• 定額にした場合、定率にした場
合の保険財政の変化
保険料率
• 被用者負担/雇用者負担
• 公費(税)負担率
• 最低賃金を基に算定
• 所得額に応じて算定
• 所得額に応じた算定は可能か
保険適用範
囲
• 対象者(被用者、家族)
• 技術サービスリスト
• 薬剤リスト
• 被用者/家族
• 被用者/家族
• 基本的な薬剤が対象 • ほぼ全ての薬剤
• 保険適用範囲はどこまでとす
るか(対象者、技術・サービス、
薬剤)
給付制限
•
•
•
•
• フリーアクセス
• 高額療養費制度
• 給付下限/上限金額を設定し、
給付を制限するか
• 自己負担率をどう設定するか
診療可能医療機関の設定
給付下限金額の設定
給付上限金額の設定
自己負担額(率)の設定
• 皆保険を目指してい
る(2020年に公的医
療保険加入率80%)
日本
基本思想
• 皆保険を実現
• フリーアクセスを目指すか
• フリーアクセスを実現
• 公的医療保険対象とする給付
• 手厚い保障(公的医療
をどこまで拡大するか
保険対象が広い)
所得再配分方式
• 今後の人口動態の予測などを
踏まえ、どのような医療保険制
度の骨格を目指すか
出典:調査団作成
16
(4) 情報通信サービスに際しての同国における関連法案、制度の実態把握
本項では、ベトナムの医療保険近代化において、今後日本企業が参入する際に考慮すべき条件、
制約や規制等について整理する。
A.
医療保険近代化に関するベトナム政府の方針

2013 年 3 月 29 日付、首相決定第 538/QD-TTg 号 5により、2012-2015 年及び 2020 年ま
での期間における医療皆保険に向けたロードマップと目標が次の通り、出された。
① 国民の公的医療保険加入率の向上
2015 年までに 70%以上、2020 年までに 80%以上にまで高めること。
② 公的医療保険を使った診療の品質向上、及び医療保険加入者の権利確保
③ 医療保険徴収、給付のバランスを確保し医療保険財政を健全化
結果として 2020 年までに家庭の医療費における自己負担率を 40%削減する

上記目標を達成する手段として、以下事項に重点的に取り組むとされている。
① 2014 年の国会にて医療保険法改正に関する提案、議論を行うこと
② 医療保険に関する法的文書を改訂し、医療保険政策実施に統一性を持たせる
③ 実現のために強い政治的な体制を構築(共産党、人民委員会の積極関与)
④ 公的医療保険を使った診療品質向上のため、診療管理に ICT を導入 する
⑤ 公的医療保険の支払方法改善(出来高払から人頭払、DRG)及び、財政健全化
⑥ これら業務の ICT 化を支えるためのインフラ拡張、整備
⑦ プライマリヘルスケアの充実、予防医療の促進
⑧ 公的医療保険に関する周知、啓蒙(VSS が担う)
⑨ 公的医療保険の検査・審査業務の強化
⑩ 公的医療保険にかかる業務における ICT 導入
⑪ 国際協力の推進

実施体制は次のように定義された
① 中央における指導委員会の体制
 指導委員会委員長
:保健省大臣
 指導委員会常設副委員長:保健省副大臣、及びベトナム社会保障長官
 指導委員会 委員
:ベトナム社会保障、財務省、労働傷病兵社会省
(MOLISA),計画投資省(MPI),教育訓練省(EDU)
総務省(MIC)他
② 地方における指導体制

 指導委員会委員長
:人民委員会のトップ
 指導委員会副委員長
:省・市レベルの医療所長、VSS 事務所長、他
2013 年 11 月 29 日付、国会は決議第 68/2013/QH13 号により、2018 年までに医療保険
業務における行政手続き改善、診療費審査支払業務効率化や医療保険基金効率的利用
5首相決定第 538/QD-TTg 号
http://congbao.chinhphu.vn/noi-dung-van-ban-so-538_Q%C4%90-TTg-(11172)
17
等を実現するために、VSS と医療機関にソフトウェアを導入しシステム的に連携すべき
との決定を出した。

2014 年 08 月 5 日付け、首相の指示第 24/CT-TTg 号により、税関分野や社会保障分野等
において行政改革、管理強化を行い、VSS と各事業者との社会保険業務・医療保険業務
の業務時間の半分に削減すること、並びに業務実施頻度を 3/2 にまで低減する決定を
出した。

ベトナム社会保障(VSS)では、2012-2015 年にかけての社会保険分野への IT 導入計画
(決定 No: 1136/QĐ-BHXH)を策定し、実行してきた。これによると、総額約 76 億円の
投資を行うとされている。
B.
情報通信サービスにかかる関連法制度の状況 6
MOH(医療保険局、IT 局、ハノイ市 DOH、CHC)
、VSS(中央、省事務所、郡事務所)及
び MIC(情報通信省)へヒアリングを行い、情報通信にかかる関連法制度の状況を調査
した。同国で情報通信サービスを提供するにあたり、以下の法制度に配慮する必要があ
る。
(Law on Electronic Transactions No. 51/2005/QH11、2006 年 3 月施行)
a 2006 年に電子取引法
が成立し、電子文書の法的有効性、電子署名・電子認証の法的有効性、電子取引にお
ける機密性や安全性を保持する必要性、等が定められた。
b 2006 年に知的財産権法(Law on Intellectual Property No. 50/2005/ QH 11、2006 年 7 月施
行)が成立し、商標や特許、意匠、著作権に関する規定が定められた。
(商標:10 年間
確保、更に 10 年間まで更新可能、原産地名称は無期限、特許は発明後 20 年間、実用
新案 10 年間、工業意匠は 5 年間・2 回まで更新可能、著作権は 50 年間、植物品種権は
20~25 年間、等)。2010 年 1 月には、知的財産権法が改正され(Amending and
supplementing the Law on Intellectual Property No. 36/2009/QH12)初出版から 50 年間と
なっていた著作権の権利保護期間が、75 年間に延長され、工業所有権の出願処理に係
る運用が変更された。
c 2007 年、情報技術法(Law on Information Technology No. 67/2006/QH11、2007 年 1 月施
行)が成立し、次の 4 つの内容が明記された。
(1)政府機関、民間組織、教育、健康、セキュリティ分野に係る IT アプリケーシ
ョンの整備、構築
(2)R&D、人材、産業サービスに関する IT 開発
(3)IT 開発を促進する手段
(4)紛争解決と法制度の強化
d 2010 年、電気通信法(Law on Telecommunications No. 41/2009/QH12、2010 年 7 月施行)
が成立した。この法律では投資、電気通信事業、ユニバーサル・サービス、設備と構
築、個人と組織の電気通信に関する権利と義務が規定された。また、通信分野への外
資系企業参入の機会が拡大された。
6 2015 年 1 月 29 日 情報通信省インタビュー時発言、及び入手資料
18
e 2010 年、無線周波数法(Law on Radio Frequency No. 42/2009/QH12、2010 年 7 月施行)
が成立し、周波数計画、免許割当て手続の透明性・公開性確保、電磁的環境の管理、
周波数試験及び干渉管理、周波数及び衛星軌道の国際登録及び国際調整、国防及び安
全保障上の周波数管理、などの規定が出された。
f
2011 年、データ保存法(Law on Storage No. 01/2011/QH13、2011 年 11 年)が成立し、
電子データの保管に関連する個人、組織の権利や義務、保存訓練、ホスト保存事業及
び保存管理に関するルールが規定された。
C.
その他、情報通信サービスに関する法政令(参考) 7
a 2007 年 2 月公布(Decree No. 26/2007/ND-CP)、公的電子認証サービス提供者の免許の
発行を含む電子署名や電子署名サービス提供に関する細則
b 2007 年 4 月公布(Decree No. 64/2007/ND-CP)、行政電算化(電子政府)計画。同決定
には国家機関への IT 導入に関する規定が盛り込まれている。
c 2007 年 5 月公布(Decree No. 71/2007/ND-CP)、情報技術法の中の情報技術産業に関連
する細則及びガイドラインが規定された。
d 2009 年 11 月公布(Decree No. 102/2009/ND-CP)
、組織や機関による IT 導入の投資・管
理資金の使用が規定された。ODA の資金を使用するプロジェクトについては、所有者
は与信契約及びベトナムが加入している国際条約の規定に従わなければならない。
e 2010 年 7 月公布、
電子商取引推進政策
(Master Plan on E-commerce Development 、
Decision
No. 1073/QD-TTg)では、2011 年~2015 年までの企業規模毎の電子商取引実施目標が定
められた。
f
2010 年 8 月公布
(Decision No. 1605/QD-TTg)
、
2007 年 4 月公布の Decree No. 64/2007/ND-CP
で定められた行政電算化(電子政府)実現に向け、2015 年までの目標及び 2020 年にお
ける方向性が規定された。
g 2011 年 4 月公布、人材開発マスタープラン(Decision No. 1216/QD-TTg)
、2011 年~2020
年の開発視点と目的として、工業、農業、林業、漁業で職業訓練(IT 含む)を受けた
人材比率を、2010 年 40%から 2020 年まで 70%に引き上げる。特に情報技術分野にお
ける労働人口を 2015 年までに 55.6 万人、2020 年までに 75.8 万人にまで増やすことが
規定されている。
h 2012 年 7 月公布、通信開発計画(Plan for Developing National Telecommunications Until 2020、
Decision No. 32/2012/QD-TTg)
、2010 年~2020 年の北部の重要経済発展地域における情
報通信技術に関する計画・方向性が規定された。
i
2012 年 10 月公布(Decision No. 45/2012/QD-TTg)
、国家情報セキュリティに関する重要
な通信プロジェクト計画が規定された。
j
2013 年 3 月公布
(Circular No. 08/2013/TT-BTTTT)
、
情報通信省
(MIC – Ministry of Information
and Communications)における通信サービス品質管理が規定された。
7 2015 年 1 月 29 日 情報通信省インタビュー時発言、及び入手資料
19
D.
システム構築後に日本企業がサービス事業として参画できる事項、及び不可能な事項 8
a 2013 年、入札法(Law on Bidding No. 43/2013/QH13、2014 年 7 月施行) 9が成立した。
この中では、国家の入札管理、関係者の責任、及び入札活動を規定している。主な規
定内容は次の通り。
 外国企業がベトナム国で国際競争入札に参加する場合、国内ベンダと協業もし
くは国内ベンダをサブコントラクタとして使用しなければならない。ただし、
国内のベンダが入札パッケージを完全に実施できる能力を持たない場合はそ
の限りではない。(入札法第 5 条、第 h 項)
 ODA やその他譲許性融資を使ったプロジェクトにおいて入札者を決定する際
には、ベトナム国とドナーとの間で締結されている国際条約や国際協定が適用
される。
(入札法第 3 条、第 3 項)
 2013 年の入札法によって、公的システムに対するプロジェクトは国内入札を優
先し、実施できる能力を持つ企業がない場合は、国際入札を行う。更に、外国
投資(世銀、ODA など)がない場合、国内入札を行うことが決められている。
(ベトナム情報通信省(MIC)の IT 局副 Tuyen 局長のヒアリングによる)
(入札法
第 15 条、国際入札について)
b 2014 年、政府機関における情報技術導入の予算等に関する首相決定(No. 80/2014 /
QD-TTg)が発行された。この中では、政府機関が情報サービスを調達、使用する際の
予算執行ルール等が規定されている。主な規定内容は次の通り。
 国家予算からの投資を減らし、有効な情報技術を活用するために、可能な限り
情報技術のハードウェア、ソフトウェア、データベース等のインフラは、リー
ス・サービスを利用すること。また、中央政府の当該省庁の指導のもと、各省
や都市で同じ機能のものを使うことを推奨する。
 情報技術サービスの提供者は、国家機関が継続的にサービスを利用できるよう、
情報サービス提供者が変わったとしてもデータやソフトウェアソースコード、
ツール等を完全に提出する責任を持ち、かつその旨を契約締結する必要がある。
E.
日本企業がベトナム国で入札を行う際に、特に留意すべき点(再掲)
a 外国企業がベトナム国で国際競争入札に参加する場合、国内ベンダと協業もしくは国
内ベンダをサブコントラクタとして使用しなければならない。ただし、国内のベンダ
が入札パッケージを完全に実施できる能力を持たない場合はその限りではない。
(入札
法第 5 条、第 h 項)
b ODA やその他譲許性融資を使ったプロジェクトにおいて入札者を決定する際には、ベ
トナム国とドナーとの間で締結されている国際条約や国際協定が適用される。
(入札法
第 3 条、第 3 項)
8 2015 年 1 月 29 日 情報通信省インタビュー時発言、及び入手資料
9 入札法(Law on Bidding No. 43/2013/QH13)http://moj.gov.vn/vbpq/Lists/Vn%20bn%20php%20lut/View_Detail.aspx?ItemID=28825
20
c 外国企業がベトナム国内企業とパートナーを組んで入札し、かつその金額の 25%以上
の仕事(金額)を国内入札者が実施する場合、入札者を選定する際に優遇される。
(入
札法第 14 条、第 2b 項)
d コンプライアンス遵守、腐敗防止については 2005 年に汚職防止法(Anti-Corruption Law
No. 55/2005/QH11、2015 年 11 月施行) 10が成立し、腐敗行為を予防、検出、腐敗行為
を起こした者の取扱い、組織・団体・個人の腐敗予防について規定されている。
e 政府機関が情報システムを導入する際、民間企業等による投資により構築した情報シ
ステムをリース・サービスとして利用することが推奨されている。
(政府機関における
情報技術導入の予算等にかかる首相決定 No. 80/2014 / QD-TTg)
F.
考察
a ベトナム国内の調達・投資には国内企業を優先、優遇する規制が複数存在することが
確認できた。しかしながら、情報通信分野の調達・投資において、現実的にはベトナ
ム国内の IT ベンダが十分なプロジェクト実施能力を持ち合わせていない可能性が高く、
多くの経験やノウハウ、ソリューションをもつ日本企業が参加することは十分に可能
であると考える。
b 政府機関が情報システムを導入する際に、民間投資による構築が推奨されていること
が確認された。
c コンプライアンス遵守、腐敗防止については、上述したように 2005 年に汚職防止法が
成立したものの、現在においても改善していない。世界銀行の調査によるとベトナム
は政府開発援助(ODA)に関連した汚職の累積通報件数がワースト 2 位であり、日本
企業が関連した事案が 2014 年に発生したことも記憶に新しい。今後、ベトナム国でビ
ジネスを行う外国企業にとって腐敗は未だ大きな障壁となっていると考えられる。
d 個人情報保護法については、現時点では中央政府機関が保有する情報について、個人
情報を保護することを規定することが求められているが、今後は、民間企業が管理す
る情報にもその適用範囲が拡大することが予想されるため、ベトナム国でビジネスを
行う外国企業はこの点にも配慮する必要がある。
10 汚職防止法 http://www.oecd.org/site/adboecdanti-corruptioninitiative/46817414.pdf
21
(5) 医療保険近代化のトピック
A.
2015 年 1 月から施行された改正・医療保険法では、2009 年に施行されたこれまでの法律
に比べて主に 5 点が改善された。 11
a
ベトナムに住む者(ベトナム人、外国人を含む)の全てが公的医療保険に加入するこ
とが義務化された
b
公的医療保険の国民皆保険化に向けて、これまで個人単位であった加入者管理を、世
帯単位に変更した。世帯情報の管理は群レベル、コミューンレベルの人民委員会で管
理される。
c
被保険者の対象拡大、及び被保険者の権利が拡大された。
d
医療保険基金管理方法が集約化された。これまでは省単位で医療保険基金を管理して
きたが、中央にて一律管理するように変更された。また、基金に関しては、貧困地域
の省のインフラ整備や貧困者支援を行うために、医療保険基金に黒字が出た省は予算
の 20%を上限にインフラ整備や貧困者支援に予算を使えるようになった。
e
医療保険の制度、業務実施における各省庁の責任範囲が明確化された。医療保険分野
の IT 導入については、MOH が担当することが奨励された。
加えて、2016 年 1 月からは、患者が初診登録されていない医療機関で初診を受けること
も可能となるよう法律改正が行われる予定である。 12
B.
2014 年 12 月末に通知された首相決定(80/2014/QĐ-TTg)では、政府・公共分野の IT 投資に
ついては、企業が先行投資して構築することが規定された。これにより、企業は初期構築
コストを投じて IT インフラを構築し、毎年その利用料を回収するというモデルで事業を
行うことになると考えられる。ただし、ODA 等外国投資による事業の場合はこの限りでは
ない。
11 2015 年 1 月 7 日 保健省(医療保険局)インタビュー時発言(副局長 THUY 氏)
12 2015 年 3 月 17 日 保健省との最終報告会時発言(TUAN 副大臣)
22
4. 実証事業の結果
(1) 実証事業の概要
対象システム
公的医療保険の請求・審査システム
1.
日本式の医療費請求審査システム導入の際の課題、効果を確認する
(1) 医療情報の標準化・電子化、システム化対象範囲の確認
(2) 審査業務における運用上の課題の確認
実証の目的
2.
審査業務の効率性の向上効果を測定する
(1) 医療費請求情報の審査率向上
・期待効果
(2) 審査職員 1 人あたりの、審査業務にかかる時間を削減する
3.
審査業務の質の向上効果を測定する
(1) 審査の質を安定させる
(2) 審査による査定率(疑義データとして抽出される比率)を高める
2014 年 11 月末~2015 年 2 月末 デモシステムのチューニング
2014 年 11 月 13 日~2015 年 2 月 10 日 実証データの収集、整備
実施期間
実施場所
2015 年 2 月 5 日
PC、スキャナの設置
2015 年 2 月 6 日~2 月 10 日
カルテのスキャン作業
2015 年 2 月 13 日~2 月 27 日
デモシステムのベトナム語化
2015 年 3 月 3 日
デモンストレーション、及びフィードバック
国立 Bach Mai 病院(ハノイ市) 78 Giải Phóng, Đống Đa, Hà Nội
(2) 適用ソリューションの概要
今回選定したソリューションは、日本の医療保険制度の下で利用されている診療報酬請求・審
査に係るシステムの技術・モデルを活用したものである。日本とベトナムは医療保険制度が異
なり、また扱うデータや請求・審査プロセスも異なるが、本実証では現地で利用されている業
務マニュアル、データ、フォーマット等を入手し、極力現地の実情に沿った形にチューニング
して実証を行った。
A. 審査観点、及び、各審査で参照する情報
本実証事業では、日本の医療保険制度において審査支払機関や医療機関が実施している
審査観点を参考に、ベトナムに適用できると考えられる基礎的なレベルにチューニングし
て審査を実施した。実施した審査の観点は次の通りである。なお、日本で実施している突
合・縦覧チェックについては、3 か月間を超える蓄積されたレセプトデータが必要となるが、
今回の実証では必要な数のサンプルデータが提供されなかったため、検証していない。
23
B. デモシステム機能
デモシステムは、日本の技術・モデルを適用しながらも、ベトナムの現状業務を踏まえ、必
要な機能に絞りこみ、また可能な限り現地の業務に合うようチューニングを実施した。また、
現地で使われているデータや帳票についても極力利用できるようチューニングした。
(3) 実証実施条件
A. 前提条件

日本の医療保険システムで利用されている審査機能、及び、審査観点の一部を、ベト
ナムに適用できると考えられる基礎的なレベルにチューニングして実証した。

今回、BachMai 病院で使われている実データに基づいて審査を行ったが、効果的・効
率的に実証を行うため、一部の情報についてはテストデータを作成した。

現状業務との比較を適切に行うため、過去(3 月前)に BachMai 病院で審査・支払の
一連の業務が完了したデータを使用している。

現在、BachMai 病院では一部の診療情報を電子的に管理しているが、医師が記入する
コメント等は紙ベースのカルテに記載されており、また、紙ベースのカルテを原本と
することが法律で定められている。このため、今回の実証では、審査に先んじて紙フ
ァイルを画像ファイル化し電子的に利用できるよう整備した。

個人情報保護の観点から、使用した情報(カルテや請求情報)に記載されている氏名
等の個人情報は、事前に BachMai 病院側で削除したのちデータを受領、使用した。
B. 実証における着眼点
本実証においては以下の 2 つの着眼点で検証を行った。
着眼点①:全請求情報のうち、審査対象の比率(審査率)を高める。
着眼点②:入力誤りなどのチェックをコンピュータで実施することで、審査員の医学的観点
でのチェック時間をより多く確保する。
図 7:実証における着眼点
医療費請求データ数
請求
入力誤りなどの
チェック
医学的観点
でのチェック
支払額の確定
審査対象
請求データ
問題なしデータ
審査合格
データ
問題なしデータ
請求が認め
られないデータ
審査合格
疑義(査定)
データ
審査対象外
請求データ
着眼点①
着眼点②
入力間違い等
によるエラー
医療機関
に返戻
これまで
の審査
審査員
本実証
での審査
事前審査システム
審査員
24
C. 使用データの種類、件数
カルテ(診療録)
ベトナムにおける主要疾患(主に件数の上位 10 位から抜粋)を治療するために BachMai
病院で診療行為を受けた入院患者のカルテの情報を利用した。
表 4:対象とした疾患名および ICD-10 コード一覧
NO.
疾患名
ICD-10 コード
1
肺炎
J12-J18
2
高血圧
I10、I27
3
心不全
I50
4
急性心筋梗塞
I210
5
脳内出血
I610
6
その他(狭心症、発熱等)
I200、R50、
・・・
医療費請求情報(レセプト)
前述したカルテ情報と同一患者、同一タイミングの診療の医療費請求情報、及び、医
療費請求情報明細を利用した。
表 5:審査に使用した医療費請求情報の種類と件数
NO.
審査対象データ
データ数
(レコード)
1
医療費請求情報
103 件
2
医療費請求情報明細
2991 件
その他、審査に必要な一覧情報

審査に必要な一覧については、BachMai 病院で使用されている情報のうち、審査に
必要な部分のみを抜粋して利用した。

また、実証を効果的かつ効率的に行うために、一部の一覧については医療費請求情
報等からテストデータを作成して実証を行った(*マーク記載部分)。
25
表 6:審査に使用した一覧情報と件数
NO.
一覧情報
データ数(レコード)
1
診療行為費用一覧
251 件
2
薬剤費用一覧
223 件
3
被保険者一覧*
50 件
4
傷病名一覧*
25 件
5
医療機関一覧*
1件
6
傷病名・診療行為禁則一覧*
1件
7
診療行為禁則一覧*
1件
8
傷病名・薬剤禁則一覧*
1件
9
薬剤禁則一覧*
1件
D. 紙資料の画像ファイル化

紙のカルテをスキャナでスキャンし、画像ファイル化した。

1 冊あたりのスキャン時間は 15~30 分程度(ページ数による)。
【紙カルテのスキャン作業】
【画像化ファイル化されたカルテ】
(4) 実証結果
A. 実施スケジュール
実証事業の実施にあたっては、ベトナムにおける業務繁忙期や休暇等を踏まえたスケジュー
ルを作成し、BachMai 病院や MOH 関係者と調整した。一部、データの入手に時間を要したが、
概ね予定通り実証事業を完了した。
[考慮した事項]
12 月末~1 月初旬
:年度末始による業務繁忙、及び休暇
26
2 月 18 日~24 日
:テト休暇(旧正月)
表 7:実証事業の実施スケジュール(詳細)
実施タスク
11 月
12 月
1月
2月
3月
デモシステムのチューニング
実証データの収集、整備
PC、スキャナの設置
カルテのスキャン作業
デモシステムのベトナム語化
デモンストレーション、及びフ
ィードバック
B. 実証審査結果
103 件(審査率 100%)

審査対象データ

事前審査チェックによる疑義データ数 13

事前審査チェックによる返戻データ数
14

コンピュータによる審査時間
35 件(全データの 34%)(※1)
9 件(全データの 8.7%)
15 分 (※2)
(※1)一部テストデータに基づいてチェックを行ったため、実運用での疑義件数とは異なる。
(※2)コンピュータによる審査の後に、審査員による審査が行われるため、審査時間の合計時間はこの時
間ではない。
C. 実証に対する評価
a 定量的評価

請求情報の審査率はこれまで 10-20%にとどまっていたが、今回の実証では算定系審
査について全請求情報の 100%実施することが可能であることが検証された。

疾患系審査については、BachMai 病院で 1 か月間に審査される疾患系審査対象の請
求情報(最大 4,200 件)を、現在の体制(7 名)以下で 100%実施できることが試算
された。
13 疑義データ数:医療費請求において、審査員(人)による医学的な判断が必要であると判断されたデータの件数
14 返戻数:医療費請求において、何らかの不備や間違いがあったため、請求が医療機関に差し戻されたデータの件数
27
表 8:定量的評価結果
評価観点
審査率
現状審査
10~20%
(審査件数)
15
デモシステム導入時
算定系審査:100%
疾患系審査(試算値):100%
ベトナムにおける査定率(審査により NG となる比率)は明らかにされ
ていないため、日本の査定率をベースに試算した。
■疾患系審査可能件数の試算
1,050 時間
(審査員稼働時間)
※前提
15 分
/
= 4,200 件
(1 件当たりの想定審査時間)
(疾患系審査想定可能件数)
1 人月=150 時間
■疾患系審査率の試算
4,200 件
210,000 件
/
(疾患系審査想定可能件数)
※前提
(診察件数)
1 日あたりの請求情報発生数
= 2.0%
(疾患系審査率)
7,000 件/日
■査定率の前提
1.2%(2,520 件)
(日本における査定率)
<
2.0%(4,200 件)
(BachMai 病院における査定率)
※日本の査定率を基準に試算すると、2,520 件の疾患系審査を実施する
ことで審査率 100%を実現可能となる。
b 定性的評価
本実証により、審査品質、審査効率性ともに高まることが確認できた。また、審査観点
を充実させること等の効果があった。
表 9:定性的評価結果
評価観点
評価結果
1. 現状、審査員の目検のため、審査漏れ、審査ミス、バラつき等が発生
審査品質
の向上
⇒システムによる自動的な審査(算定系チェック)により エラーを事前に除
外できるため、審査品質が向上した。また、システムにより疑義データが
自動抽出されることで、医学的判断を行うべき請求情報を漏れなく抽出可
能 となった(疾患系チェック)
。
審査効率性
の向上
2. 現状、審査対象のカルテの捜索に時間を要する
⇒カルテ情報の自動抽出により、カルテの捜索が不要 となった。
15 現状審査に対する評価は、BachMai 病院での実証期間中、及び、2015 年 3 月 3 日の実証デモ実施時のインタビュー情報を元に評価
28
3. 現状の審査では、金額チェック、重複チェック等の審査が中心であり、医
学的知見による審査に十分な時間を確保できない
⇒算定系チェックに関する目検審査が不要となり、審査員は、医学的知見に
よる審査のみに注力可能となった
審査観点
の充実
統計分析
の情報整備
4. 現状、金額チェック、重複チェックに限られている
⇒算定系チェックだけでなく、疾患系チェック、突合・縦覧チェックの追加
による 多面的な審査が可能となった
5. 現状、医療費請求審査に関する統計情報は整備されていない。
⇒医療費請求情報の明細を取り込むことにより、各種統計分析が可能となる
D. 実証デモ参加者(VSS 審査員、BachMai 病院総務部、IT 部)からのフィードバック
BachMai 病院の関係者からは、本システムがベトナムにおいて十分に効果を発揮できるとの
コメントが多数聞かれた。一方で、本事業で実証した業務を超えた部分にまで使えるように
してほしい、という意見や、過去データではなく現在まさに実施しようとしている審査にお
いて利用できるようにするためのカスタマイズの要望があった。
参加者からのコメントを次に示す。
現状の VSS 審査業務に関するコメント

現状、医療費の入力間違いが多い。例えば、診療科によって医療行為の費用(ベッド代等)
が異なっているため、同じ患者が複数の診療科で診療を受けた際、本来はそれぞれの費用
で計算しないといけないが最初に診療を受けた診療科の金額を記載している、等。また、
その審査及び修正作業は、全て手作業で行っているため、非常に手間がかかる。

BachMai 病院においては、患者の受け入れ許容範囲を上回っている(ベッド占有率 130%)
ため、患者は、1 日だけ入院後、一時帰宅し、数日後に、再度 1 日入院した場合でも、入
院日数が 2 日ではなく、一時帰宅した期間も含まれていることがよくある。

手作業(目検)での審査のため、審査が非効率で、間違いも発生している。

審査業務に関わる人材が限られており、経験・能力ともに未熟な部分もある。

医療保険に関する制度が頻繁に改正され、複雑化しているため、医療費の審査についても
複雑化してきている。
デモシステムに対するコメント

今回のデモシステムを導入することにより、審査業務が自動化され、VSS 審査職員からも
非常に高い評価を得ている。

今回のようにカルテをスキャンして電子化した場合、紙カルテを直接修正(編集)するこ
とができなくなるため、どのように今後運用していくかを決める必要がある。

現状、請求誤りがあった場合は審査員が直接データを修正できる運用となっている。今回
の日本のデモシステムでは、請求誤りの情報を医療機関へ返戻し、医療機関がデータを修
正の上再請求をするというきめ細かなサイクルとなっているが非常に時間がかかるため、
29
ベトナムの現状に合わせてカスタマイズしてほしい。
E. 実証により判明した課題・考察
今回の実証で明らかになった課題、及び考察を次の通り整理する。
表 10:実証により判明した課題・考察
カテゴリ
課題・考察
1. 審査に必要な一覧(診療行為一覧、価格表、等)が電子的に整備されていない。
また、病院内の診療科毎に、診療行為の価格が設定されており複雑化している
制度
・ルール
ため、システム化等による管理が必要。
2. 審査に必要な医療費請求情報(レセプト)フォーマットが、病院ごとに統一さ
れていない。
3. 統一した審査基準が整備されていない。
1. 統一した審査基準がないため、属人的に審査が行われている。
2. カルテなどが紙を原本とすることが法律で制定されているため、電子カルテを
導入したとしても、紙の保管、及び、保管スペースも必要となる(法的保存期
間:20 年間)
。
3. 今回は日本の審査システムを試行するため便宜的に「紙カルテのスキャン」を
業務
行ったが、紙カルテのスキャン作業に想定以上に時間がかかった。今後、審査
・運用
時にカルテを参照するというよりも、日本のように、レセプト情報の中に審査
に必要な情報を項目追加していく方向が望ましい。
4. 医療機関における請求業務は、現状 3 か月に 1 回実施されているが、医療機関
への支払いスピードを向上させるためにも、1 か月に 1 回程度の支払とするこ
とが推奨される。
1. 審査員の審査能力にばらつきがあり、審査誤りの訂正対応に時間を要してい
る。本システムを導入することでこれらの負荷が軽減される。
2. BachMai 病院はベトナム国内でトップレベルの IT 導入が進んだ病院であるが、
人
審査に携わる職員の IT リテラシーは必ずしも高いとは言えない。導入前には十
分な研修が必要である。
3. 実証の際、既存の業務プロセスがどのように変更されるのかという質問があっ
た。日本の医療保険システムを導入する際には、少なからず業務プロセスの変
更が必要であるため、一部から反発が出る可能性がある。
その他
1. 薬価等、診療報酬ルールが頻繁に変更されるため、これらの変更に柔軟に対応
できるシステムが 1 求められている。
30
図 8:BachMai 病院でのデモンストレーションの模様
出典:調査団撮影
31
5. 医療保険近代化の方向性
(1) 近代化による改善の方向性
A. 保健医療分野の課題
今回の実態調査、及び実証事業の結果から、ベトナムの保健医療分野の課題は個々に表出す
る課題だけではなく、その根底では密接に関わっており、単一的な対策では効果がないことが
わかる。いくつか例を示す。
図 9:保健医療分野の課題関連図
保健医療政策 Policy
保健医療財源 Finance
医療保険基金
の赤字、偏向
保険者内
業務運用
ルールが
未整備
診療報酬請求・支
払業務が非効率的
患者を多く受け
入れれば病院
が儲かる構造
医療現場で
のモラルハ
ザード、不正
定員以上の
患者受け入れ
や過剰診療
公的医療保険
加入率が66%
にとどまる
保険料率、
徴収率が
低水準
薬剤中心の医療
費支出(50%以上)
病院経
営を圧迫
公的医療保険
が使える民間
医療機関が少
ない
公的医療保険の
信頼感が低い
医療機関のレ
ベル(1-5)ごと
のサービス
基準が不定
公的医療サービスへの信頼感が低い
公的医療保険が使
える大規模病院の
混雑
保健医療人
材の技術レ
ベル低い
保健医療人
材の絶対数
が不足
公的医療サービ
スを提供する施
設数が少ない
公的保険対象サー
ビスや費用、施設
基準の非統一
感染症から慢性疾
患(予防医療)への
制度変更が未対応
加入者分類が
複雑かつ曖昧
診療報酬の
支払が遅延
医療機器のメン
テナンスがされ
ず使用できない
加入者が把
握できない,
又は重複
公的医療保険を使え
る病院が登録病院の
みに限られている
医療機関内
業務運用ルー
ルが未整備
保健医療サービス提供 Delivery
出典:Global Conference on Universal Health Coverage for Inclusive and Sustainable Growth December 5–6, Tokyo, Japan を参考に調査団作成

保健医療サービス提供(Delivery)の課題として「病院経営が圧迫」されることにより、
新たな医療機器購入ができないことや優秀な医師を雇えないことで、「公的医療サービス
への信頼感が低い」事態が発生している。これを解決するためには、病院(公的医療機関)
の経営を改善することが必要だが、背景として「診療報酬の支払いが遅延」することがあ
り、保険医療サービス提供(Delivery)面の対策だけでは根本的な解決とはならない。

また、保険医療サービス提供(Delivery)の課題として「公的医療保険が使える大規模病
院の混雑」が発生していることの対策として、新たな病院を次々に建設すれば良いかと言
えばそうではなく、「患者を多く受け入れれば病院が儲かる構造」という診療報酬制度に
係る対策も必要となってくる。
32
B. 保健医療分野の課題解決のロジック
これらの課題を解決するための施策のうち、特に重要である「解決のドライバー」となる施
策は以下であると考える。
図 10:保健医療分野の課題解決のロジック
保健医療政策 Policy
保健医療財源 Finance
医療保険基金
の赤字が解消
保険者内
業務運用
ルールが
整備される
診療報酬請求・支払業
務が効率的に運用され
る
患者に良いサービ
スを提供した病院
が儲かる構造
安心して公的
医療を受けら
れる
公的医療保険
加入率が高まる
保険料率、
徴収率が
高まる
診療報酬が適正
に支払われる
医療機器設置
後のメンテナン
スがなされる
予防領域中心の
医療費支出
公的医療保険の
信頼感が高まる
どの民間医療機
関でも公的医療
保険が使える
医療機関のレベ
ル(1-5)ごとの
サービス基準が
明確になる
公的医療サービスへの信頼感が高まる
地方の公的医療機関に
患者が安心して来院
患者への医療
サービス提供
の質が向上
保健医療人
材の技術レ
ベル向上
十分な保健
医療人材の
数を確保
公的保険対象
サービスや費用、
施設基準の統一
感染症から慢性疾
患(予防医療)への
制度変更がなされる
加入者分類がシンプ
ルかつ明確になる
病院経営
に余力が
生まれる
全加入者が
把握・管理
できる
十分な公的医
療サービスを提
供する施設数
公的医療保険
を使える病院が
増える
医療機関内
業務運用ルールが
整備される
保健医療サービス提供 Delivery
出典:Global Conference on Universal Health Coverage for Inclusive and Sustainable Growth December 5–6, Tokyo, Japan を参考に調査団作成

「診療報酬請求・支払業務が効率的に運用される」
、及び「診療報酬が適正に支払われ
る」
今回の調査では、診療報酬を請求してから支払いまでに半年以上かかる事例や、支払
自体がなされないという事例も散見された。これは、診療報酬請求・審査業務が紙運
用で行われている、審査率が低い(10-20%程度)
、審査業務のルールはあるものの実際
の審査は審査員の裁量に任されていること、予算ありきで支払がされていること、な
どが理由としてあげられる。本業務の電子化(可視化)を推進したうえで、審査率を
高めることでこれらの課題が解決されると考えられる。また、ベトナム国の医療機関
全体への波及が見込まれる。

「公的保険対象サービスや費用、施設基準の統一」
日本で診療報酬が電子化され、遅滞なく支払がなされているのは、請求情報(レセプ
ト)が電子化され、コンピュータを活用した審査、支払がなされているためである。
33
しかしながら、これを実現するためには、統一的な診療報酬制度とそれを実運用レベ
ルにまで標準化された業務ルールが必要である。診療報酬制度、及び関連する業務ル
ールの策定により、ベトナムの保健医療分野の課題解決に大きく寄与する。
これらの分析を踏まえ、日本としてベトナム保健医療分野の課題解決に貢献できる範囲を
以下に示す。
保健医療政策(Policy)

日本の保健医療制度、診療報酬制度に関する成り立ちや仕組みに関する情報提供。

制度のみならず、業務レベルにまで落とし込んだルール策定や運営の支援
保健医療財源(Finance)

加入者管理、支払データ管理などの IT 化支援

診療報酬請求、審査、支払業務の効率化(IT 化支援を含む)
保健医療サービス提供(Delivery)

人材育成、施設整備、母子保健、感染症対策、医療機器導入などの支援を継続

施設整備においては、設置・導入後の業務運用、保守運用までを見据えた支援

無償資金協力(技術協力を含む)に加え、有償資金協力を活用した支援
図 11:日本による支援の可能性範囲
出典:調査団作成
34
(2) コスト予測
医療保険近代化プロジェクトで IT 化される業務や適用される地域が未確定であるため、
厳密な要件定義に基づくコスト予測は困難であるが、Dam 副首相の医療保険近代化費用に
関する言及として「データセンタ建設、ネットワーク構築、トレーニング、アプリケーシ
ョン開発費用等を含み、本プロジェクトの予算を 1BillionUSD(約 1,200 億円)と試算して
いる。
」との発言があった。 16
(3) ベネフィット予測
医療保険近代化プロジェクトを行うことで、保健省(MOH)、ベトナム社会保障(VSS)
、
医療機関、国民にとってそれぞれ以下のベネフィットがある。
図 12:各ステークホルダへのベネフィット
MOH
1. 医療保険請求、支払状況のタイムリー
な把握
2. 医療政策への反映
3. 医療財政の健全化
VSS
1.審査率の向上(20%⇒100%)
2.審査の質の向上
3.医療保険財政の計画が立てやすくなり、ま
た予測可能性が高まる
4.病院への支払スピードのアップ
5.医療人材の計画的な育成
医療機関
国民
1.医療機関の経営状態が改善
2.医療機器、医療人材の量、質の向上
3.国民への医療サービスの質の向上
1.疾病改善までにかかる時間が短くなる
2.疾病改善までにかかる費用が安くなる
3.医療保険制度、医療機関への信頼がさら
に向上
出典:調査団作成
一方、これらのプロジェクトを実施するにあたり、既得権益を持つ組織等から次のような意見、
反発が出る可能性がある。

現在、医療保険請求の審査はサンプル的に 10-20%しか行っていないため、不正請求も相
当数あると思われる。今後、医療保険請求の審査率を 100%に高めた場合、これらの不正
請求が返戻されるため、関連する医師等からの反発が起きる可能性がある。
⇒これらの反発が起きることを防ぐために、提案時には「不正請求」という言葉は用いな
いなどの工夫を行うほか、運用開始時には既存運用と並行して行う期間を設ける。

現在、医療保険請求の審査においては審査員の裁量により「審査 OK/NG」を判断している
部分が大きいが、医療保険請求・審査の電子化、効率化によりこれら審査員が現在実施し
ている作業が不要となり、雇用削減と受け止められ、反発が起きる可能性がある。
⇒これらの反発が起きることを防ぐために、現在医療保険請求の審査に携わっている審
査員の雇用は削減されず、より高度な観点での業務に移管することができることを訴
求していく。
16 2015 年 3 月 4 日 保健省(医療保険局)インタビュー時発言(副局長 THUY 氏)
35
(4) 医療保険分野近代化の方向性

パイロットプロジェクトでは、中核となる業務(適用、徴収、請求、審査、支払、等)を
省・郡・コミューンのレベルで網羅的に実施しモデルを作成する。このモデルを 2018 年
以降の全国展開に適用する。

2016 年~2017 年にかけて医療保険システムのパイロットシステムを開発・導入するため
に、MOH は 2015 年に要件定義、調達に向けた準備を開始するべきである。

医療保険システムの全国導入達成に向けて、診療報酬制度(診療報酬制度、ルールブック)
の整備を進めることが必要である。診療報酬制度を整備するための前提となる、医療デー
タ(診療行為、医療費、医療機関、医療人材、投薬、等)に関するデータ整備、データ分
析の検証事業を今後実施する必要がある。
36
6. 最終報告会の結果概要
(1) 報告会概要
A. 日時
:2015 年 3 月 17 日(火)14:00~16:30
B. 場所
:ベトナム保健省(MOH)会議室
C. 主な出席者:
MOH
副大臣
Pham Le Tuan 様
Bach Mai 病院
IT 局
Long 様、Trang 様
経済産業省
商務情報政策局 情報通信機器課
三浦様、遠藤様
厚生労働省
医政局 総務課 医療国際展開推進室
谷村様
(2) 主なフィードバック
A. ベトナム保健省(TUAN 副大臣)

今回の調査事業について、ベトナム政府が訪日した際、及びキックオフの際に約束し
たことを、とても短い期間の中で、全て期限通りに完了してくれたことに感謝してい
る。本事業は、ベトナムの将来にとって、非常に重要な価値のある事業であり、多大
なる協力に感謝している。

MOH と VSS の関係を更に密接にすることにより、双方で情報のやりとりを行う必要
があるということについては、ベトナム国会でも取りあげられている

2016 年 1 月からは、患者が医療機関に対して、自由にアクセスできるようになるが、
その実現においては大きな課題があるため、どのように進めていけば良いかを含め、
ロードマップを一緒に協力し合い、確定していきたいと思う
B. BachMai 病院(LONG IT 部長)

本プロジェクトは審査請求部や VSS の方々から非常に高い評価をしている

BachMai 病院、或いはベトナムの医療機関においては 4 つの課題がある。
① 手作業での審査
② 審査作業にかかわる人材が弱い
③ 医療保険に関する制度が頻繁に改正され、複雑である
④ 医療費の精算方法が複雑

手作業で業務が行われているため、審査の間違いが多く生じ、また患者が適正な価格
で医療サービスを受けられる権利を守れないことがある。患者の権利を守るためにも、
患者が病院に入ったときから会計をして帰る最後まで、間違いが発生しないようなシ
ステムにしていく必要がある
C. ベトナム社会保障(VSS)

短い期間の中で、ベトナムの実情を良く把握していると思う。今回、抽出された様々
な課題は、ベトナム側としても改めて強く認識した。
37

ベトナムで一番必要としていることは、診療報酬審査において、IT を活用することで
あり、是非ともこのプロジェクトに参加していきたい。

医療保険請求の審査は、今後 100%に行うべきだと思っている。そのうえでの課題と
しては、電子化されたデータを管理する基盤となるシステムを構築すること、また
全国的に ID を統一することが必要である。すべての医療行為、診察、診療、薬剤に
対する価格などを統一した上ではじめて、電子化、管理ができるようになると思う。

ロードマップについては、重要な 2 つの組織である MOH、VSS との密接な体制ととも
に、日本との密な関係も築いていきたいと思う。
図 13:保健省への最終報告会の模様
出典:調査団撮影
38
7. 今後の活動
(1) 評価と課題
本事業は、MOH の TUAN 副大臣や BachMai 病院副院長によるトップ層の協力の下、円滑に事
業を推進、完了することができた。事業の成果として、日本のインフラシステム、とりわけ社
会保障(医療保険)分野のノウハウやソリューションをベトナム国に導入した際、十分に効果
を出せることが実証された。また、実態調査によりベトナム国の保健医療分野全体の課題解決
に、医療保険分野の近代化が大きく寄与することが確認できた。ベトナム政府内では、首相や
副首相レベルからも本案件の推進指示が出されており、同国にとって非常に重要な案件である。
一方で、今後、医療保険近代化プロジェクトを推進し、日本企業が受注、事業展開していく
うえでは以下の課題に取り組んでいく必要がある。

診療報酬制度の整備と全国統一的な運用
保健省は現在、DPC(Diagnosis Procedure Combination:診断群分類)の評価方法を研究するな
ど、診療報酬制度の整備に向けた動きがあり、日本の厚生労働省もこれらの活動を支援して
いる。今後、これら制度整備に加え、全国統一的な運用を行うための意思決定が必要である。

医療保険システムの調達、契約に向けた詳細要件の調査
現時点では、医療保険近代化プロジェクトの IT 化対象業務や適用地域は未確定であるため、
厳密な要件定義に基づくコスト予測は困難である。医療保険パイロットシステムの開発に向
け早期に詳細な要件調査を行う必要がある。

活用するファイナンススキームや実施体制の決定
保健省は、医療保険近代化プロジェクトの予算として、国内企業(VIETTEL、FPT、VNPT、等)
による投資で行う意向を示している。一方で、ODA 等の利用も示唆されており、どのような
ファイナンススキームで本プロジェクトを実施するかが未決定である。また、現時点ではベ
トナム国内の IT ベンダに、医療保険システムを構築、運用する十分な能力がないため、日本
を始め他国の支援者とどのように体制を作っていくか決定する必要がある。
(2) 本事業実施中の特筆すべき事項
本事業実施中に発生した課題や、今後の活動に参考となる特筆すべき事項を次に記載する。
A. 実証事業実施場所の選定

今回、保健省副大臣の許可を得て、ベトナムの三大国立病院であり日本から多くの支援が
なされている BachMai 病院で行なったことにより、本事業への積極的な協力を得ることが
できた。
(窓口となる担当部署・担当のアサイン(IT 部 Long 部長)
、実証実施場所の確保、
VSS 審査員の協力、必要なデータの提供、等。
)

特に、BachMai 病院はベトナムにおいて規模、技術、人材、資金の面で最も先進的な国立
39
病院であるため、他の病院に比べて IT インフラ(設備、ソフトウェア等)が整備されて
おり、また IT 専門部署メンバの IT リテラシーが高かった。
B. 実証事業に必要なデータ提供の遅延、管理状態の悪さ

本事業では、実際に業務で使われているデータをできる限り使用することを試みた。しか
しながら、保健省や BachMai 病院は、一部の実データを開示することに抵抗感があり難色
を示された。結果、当初予定されていたよりも少ない、必要最小限のデータのみが提供さ
れ、提供時期も予定より 1 か月以上遅れた。遅延の対処策として、実態調査の際に収集し
た他病院のフォーマットを利用し先行してチューニング行い、BachMai 病院で使用されて
いる実フォーマットの反映を短時間で完了させた。結果、事業期間内に完了させることが
できた。

実証で使用するための紙カルテの提供を依頼した際、保管場所からの取り出しに想定以上
に時間がかかった。これは、紙カルテの保管量が膨大であり、BachMai 病院内での保管場
所(保管されている倉庫、倉庫内の保管棚、等)が分かりやすく管理されていなかったこ
とに起因する。

また、紙カルテ自体も様々なサイズの用紙が挿入され、保管状態が悪いため、スキャン作
業に当初想定以上に手間と時間がかかった。
図 14:BachMai 病院の業務の状況
【カルテ保管庫】
【会計部門の帳票】
【VSS 審査室】
出典:調査団撮影
C. 経産省、厚労省が一体となった取組み

本事業は、経産省、厚労省が協力して取組を行った。業務・IT などのインフラにおける技
術的な視点を経産省が、診療報酬制度や法整備など制度的な視点での支援を厚労省が実施
した。
40
用語集
NO.
用語
説明
1
MOH
保健省(Ministry Of Health)
2
DOH
保健局(Department of Health)
3
VSS
ベトナム社会保障(Vietnam Social Security)
4
MOLISA
ベトナム労働傷病兵・社会省
(Ministry Of Labour Invalids And Social Affairs)
5
MOF
財務省(Ministry Of Finance)
6
DSS
VSS の郡事務所(District Social Security)
7
CHC
コミューンヘルスセンター(Commune Health Center / Commune
Health Station と呼称する場合もある)
8
WG
9
医療保険
適用業務
医療保険の加入者を認定し、加入者として登録すること
10
業務
徴収業務
加入者から、医療保険の保険料を集めること
11
請求業務
医療保険費用を医療機関が保険者に請求すること
12
審査業務
病院から請求された診療報酬請求が、適正な請求かどうかを、
特定の目的とテーマで議論するワーキンググループ
数字的・医学的・その他の観点でチェックすること
13
14
支払業務
返戻(へんれい)
医療保険の給付(医療サービス、現金)を行うこと
医療費請求において、何らかの不備や間違いがあったため、請
求が医療機関に差し戻されること
15
医療費請求において、審査員(人)による医学的な判断が必要
疑義データ
であると判断されたデータ
16
資格確認チェック
加入者が適正な資格を保有しているかを確認する
17
算定系チェック
医療サービス費・薬剤費、等の入力・計算誤り等を確認する
18
疾患系チェック
疾病と診療行為の関係を、医学的な専門知識により確認する
19
突合・縦覧チェッ
突合チェック:医療機関での診療行為と、処方された薬剤の関
ク
係性を確認する
審査観点
縦覧チェック:特定の患者の診療情報を 1 月単位で集約し、適
正化を確認する
― 以上 ―
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